本部
女型愚神、忌琉魅現る
掲示板
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作戦相談卓
最終発言2015/11/29 10:53:47 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2015/11/28 18:42:04
オープニング
●草木も眠る丑三つ時、山中にて
新月の、光も射し込まない夜半。争うは二つの影。
鋭き刃は、闇の中でも解るような妖艶な色を覗かせ、幾度も獲物の喉笛に噛み付こうとする。それを紙一重で回避する者は、目でも解る膨大な闇のエネルギーを右腕に込め、握り締めた拳を力一杯振り抜く。見事に、横っ面を捉えたその重い一撃に、ギィーンという人を打つものとは違う音を響かせ、それは殴り飛ばされた。殴り飛ばされ、地面を転がるその正体は、鉄には似つかわしくない紅色をした刀であった。
動かなくなった刀を拾い上げ、勝者は口許を緩ませ言葉を紡ぐ。
「……これで、直接手懐けた従魔は三体か。だが、これ以上増えても御しきれんな」
肉体は赤黒く、額には角のようなモノ、吊り上がる目尻と双眸の鋭き金の眼はまるで猫を彷彿させる。そのような出で立ちの女型愚神は呟く。左には拾い上げた刀を、右には既に手懐けし銃を手に。
「……素晴らしい。従魔刀、血時雨。この血を吸いすぎた妖刀の底知れぬ魅力。それに従魔銃、魔弾砲。火縄銃に取り憑き、小さき口径ながらも送り込むライヴスの量で大砲並みの力となる破壊力」
うっとりと見るその様子は、愚神ながらに艶かしくもある。
「更には、従魔鎧の霊幻無。……まぁ、合戦の鎧だけあって不恰好じゃったから、妾の好きに改造させてもろたが」
言いながら、着けた鎧は、鎖かたびらに胴は覆われているものの、ビキニアーマーより面積が幾分か広いくらいの、鎧武者が着ていたという面影はあまりに見えなくなっていた。
「……ふふ、今の妾に、この忌琉魅(きるみ)様に勝てる者等、最早居るまい」
意を決し、炎を灯した瞳を輝かせ、忌琉魅は、吊り上がる口から言葉を漏らす。
「これで、憎きHOPEの連中に仕返しが出来るというものよ! 見ておれ、妾の真なる力を!」
デクリオ級愚神、忌琉魅の高笑いは深夜に響いた。
●都心駅前にて
陽気に鼻歌を歌いながら走るトラック運転手。
「ふんふふ~ん……ん、うわあぁ! 危ない!」
速度こそ制限内で走っていたものの、突如、道路に現れた忌琉魅に急ブレーキを踏む。しかし、間に合う事もなく突撃するトラックを、忌琉魅は手にしていた血時雨で縦に真っ二つにしてみせる。
「ぐ、愚神か?! た、助けてくれ!」
辛うじてトラックから降り、逃げる運転手を追う事もしない忌琉魅。しかし、近寄る車両の尽くを血時雨と魔弾砲で破壊して回る。
「さぁ、早く来ぬと街が大惨事になるぞ。妾を追い回したHOPEのエージェントどもに、目に物を見せてやるわ!」
●HOPE本部にて
「指令です。現在、愚神が街中の道路に現れ、車輌や道行く人達を襲っているそうです。襲われた人々は避難しているそうですが、愚神周辺には破壊され残骸となった車輛等が散らかっている状態になります。至急、現場へ急行し、これを撃退せよ」
●追記として敵の情報を記載
デクリオ級女型愚神、忌琉魅。
以前、HOPEにて確認された愚神。エージェントが追跡するも、視界に捉えている最中に忽然と消えたかのように撒かれてしまう。発見後、直ぐに消えずに少しの間逃げ回っていたところを見ると、彼女の特殊能力が使用制限のある瞬間移動のようなものと判断される。
ミーレス級刀型従魔、血時雨。
斬られて刀に付着した血からライヴスを吸収する。刀が血を浴びた瞬間に自動で発動する。吸収したライヴスは刀本人と使用者に行き渡る。血を吸収するのに5秒程時間を要する。
ミーレス級銃型従魔、魔弾砲
直線上に飛ぶ口径状のライヴスのビーム、或いは、直径1メートル程の巨大なビームを放つ。
更に、ビームでなく、撃ち出された単体のライヴスの弾丸が敵に当たるまで自動追尾する事が出来る。追尾中はビームも次弾も撃てない。
ミーレス級鎧型従魔、霊幻夢
鎧から噴き出す霧で、敵に自身の分身の幻を見せる事が出来る。しかし、当然質量もないまやかしで自身以外の詳細な幻を作る事は難しく、使用出来る範囲もあくまで現段階では霧の噴き出る半径5メートル程のエリアに限られる。
忌琉魅単体としての力はデクリオ級となるが、以上の三体の従魔を操る事で、ドロップゾーンを操れないケントゥリオ級の力を有すると思われる。
解説
●目標
女型愚神、忌琉魅の撃退。
●登場
デクリオ級女型愚神、忌琉魅
過去に、愚神商人が道具に取り憑いた従魔を操っているのを見た事があり、それを利用しようと武具に取り憑いた従魔を集める。
本人のライヴス量的に、現在は三体まで同時に操る事が出来る。各従魔の特殊能力を使用する際は、他の従魔の能力は使用出来ない。
ミーレス級刀型従魔、血時雨
血が染み込んだかのような紅色の刀身の刀。
ミーレス級銃型従魔、魔弾砲
幾多の敵を撃ち抜いた呪われし火縄銃。
ミーレス級鎧型従魔、霊幻夢
過去、合戦時に着られ、数多の剣林弾雨を凌いだと言われる鎧。だが、そのままではダサいと、忌琉魅に改造されて、防御力の落ちた今の軽装となる。
●状況
駅前の道路に現れ人々(車輌)を襲うものの、執拗に追ったりしない。が、何かしらの思惑があるのか、そこから動こうともしない。
地面自体は平坦なものの、横転した車輌や忌琉魅の攻撃で地面に多少の欠損は見受けられるくらい。
時間は日中、日の高い午後。天候は晴れ。
襲われた人も含め、そこ周辺に居た人々避難しており、現場に一般人は居ない。
リプレイ
駅前ロータリー近くまでやってきた一行は、周囲の凄惨さに言葉を失う。
「ひどい、街がめちゃくちゃじゃない」
「破壊された車両を見る限り、愚神はかなりの攻撃力を持っているようだな」
大宮 朝霞(aa0476)と彼女の英雄、ニクノイーサ(aa0476hero001)は街の現状に心を痛めていた。
「うむ。だが、市民に大きな被害が無いのは不幸中の幸いだな」
近付く現場に、決して歩みを緩める事なく突き進む火乃元 篝(aa0437)に呆れながらディオ=カマル(aa0437hero001)が続く。
「あるじどのぉ、もう直ぐ敵目前でぇすよぉ? 少しはぁ、警戒して進むべきではぁ?」
「目前に捉えさえすれば、後は視界から外さん。突っ込むのみだ! 後ろは安心して任せられるしな」
「篝がどう動こうと構わないが、俺は俺で動く。邪魔にはなるなよ」
不適に笑うダグラス=R=ハワード(aa0757)に、リィェン・ユー(aa0208)も続ける。
「自分も近接戦闘派だから、前へ出る。互いに決定打を見逃さず打ち合おう」
「勿論だ。にしても、この前衛集団、経歴がグレーで染まりきっているな」
彼女なりの場を和ます冗談のつもりなのだろう。しかし、リィェンの英雄、イン・シェン(aa0208hero001)は猛反発する。
「過去なんて関係ないじゃろう? 現在のリィェンを見るがよい」
火乃元に迫るイン。更に、ダグラスの傍にいる女性がこちらを見たような気がする。いや、意識すればうっすらと感じ取れるその女性はダグラスの英雄の紅焔寺 静希(aa0757hero001)だ。ざわめく場に八朔 カゲリ(aa0098)が割り込む。
「すまない、こいつに悪気があるワケじゃないんだ。篝もだ。共に頑張る仲間なのだから、このようないざこざは控えろよ」
「ほう、あれが覚者の幼馴染みか。全く、中々如何して私の好みに合っている。己を微塵に疑わず邁進する在り方等、覚者と同じだな?」
場の空気を読まず、更に掻き乱そうとするナラカ(aa0098hero001)に、八朔は更に頭を抱えた。
「……相方が道化を演じているのに、貴女の方がピエロみたいね、火乃元さん」
涼やかに話す水瀬 雨月(aa0801)は、見透かしたような瞳で続ける。
「無遠慮に話せる仲なら、気兼ねなく普段通りの力を発揮出来る。初対面で普段通り接す事が出来ず、これ以上の被害を広げないようにと判断したから、そんな振る舞いをしたのでしょう?」
「ん? そうなのか、灰堂?」
きょとんとした表情で火乃元は、後ろの灰堂 焦一郎(aa0212)へ視線を向ける。
「それすら無意識にやってのけているんですよ、篝様は。それが、貴女様の良き所です」
瞳を閉じ、顔を伏せる灰堂に迫間 央(aa1445)は一歩後ずさる。
「……彼女は、本当に灰堂がこうまで慕う仲間……なのでしょうか?」
《人は見掛けによらぬ。灰堂のそれは大袈裟だが》
ストレイド(aa0212hero001)の言葉に頷く灰堂を他所に、突き進んでいた火乃元はようやく歩みを止めた。
「……あいつが忌琉魅か?」
火乃元の言葉に、一行は身を低く構え、物陰から様子を伺う。
「……あいつか。愚神にしておくには惜しい美貌だな」
「ちょっと、央!?」
迫間の台詞にマイヤ サーア(aa1445hero001)が声を荒げると、宥めるように返した。
「少々やりづらいが……美しいというのならお前の方が上等だ。心配するな、マイヤ」
二人の世界を展開する迫間とマイヤ。周囲の皆が反応に困っていると、火乃元は物陰から姿を現した。
「お前が忌琉魅か?」
「ばっ、バカ篝! 奇襲とか考えろよ!」
八朔の叫び虚しく、忌琉魅は現れた火乃元を見つめていた。
「……解っておったわ。大きな気配が近寄ってきよったのはな」
周囲に人の気配はなく、自身が転がした車輛に腰を掛けて待ちくたびれていた忌琉魅は立ち上がる。
「如何にも、妾が忌琉魅じゃ。して、他にも居ろう。姿を眩ましても無駄よ。妾には見えておる」
自信満々に胸を張りながら言う忌琉魅に、エージェント達も姿を現す。が、ぞろぞろと出てきた事に、忌琉魅は目に見えて慌て出した。
「な、またこんな大人数できよったか?! 妾が愚神として覚醒した時も汝らは大人数で追い掛け回して……ま、まぁ、愚神である妾が汝らより強いというのは理解しておるから致し方ないかもしれぬが、それでもあの時、妾は恐怖したのだぞ!」
呆気に取られる一行から次の言葉が出てこない。すると、何やら思い付いたかのようにリィェンが声を上げる。
「どうやら本人に違いないみたいだ。しかし、忌琉魅、きるみ、【Kill me】……って、すごい自虐的だな」
リィェンの素朴な感想に、忌琉魅は首を傾げて返す。
「何がじゃ? 妾の名は華麗にして美しいじゃろ?」
「【Kill me】は英語で、日本語に直訳すると私を殺せ、という意味よ。理解して使用しているのなら、私達がお望み通りにして差し上げるわ」
水瀬の回答に、忌琉魅は赤黒い肌の頬部分を更に紅に染めて首を振り、返す。
「ち、違うぞ! そのような意味合いではないわ!」
「調子の狂う相手じゃ。喋りもわらわに似通って少々不愉快だしのう。早々に仕留めるぞ」
インは苛立ちながらリィェンに寄り添うと、共鳴が完了し、高まるライヴスエネルギーに忌琉魅も真剣な表情で返す。
「ほう、大人数かと思うたが、汝らはまだ共鳴していなかったのだな? ならば、数は八体というところか。愚神の妾に三体の従魔の力を鑑みれば、それだけでは心許ないところじゃがな」
数の有利は自分達の倍程度に抑えられたと、安堵したのか、忌琉魅の表情からゆとりが生まれる。
「……いや、っていうか篝の所為とはいえ、共鳴していない俺達を何でこいつは今の内に攻撃しないんだ?」
「正義の味方の変身シーンは怪人も攻撃しないからですよ。それじゃ、私達もいくよ、ニック!」
迫間の問いに、意気揚々と答える大宮はニクノイーサを引き連れポーズをとる。
「変身! ミラクル☆トランスフォーム! 説明しよう、朝霞とニックは共鳴状態になると、『聖霊紫帝闘士ウラワンダー』に変身するのだ!」
『この恥ずかしい掛け声にポーズは何とかならないのか?』
皆には届かない悲痛なニクノイーサの言葉に、大宮は笑顔で返す。
「ニックもだいぶ様になってきたわよ。正義の心を理解してきたのね」
華やかな変身に、呆れる者も居れば、篝やナラカ、更には敵の忌琉魅でさえ目を輝かせて見入っていた。
「覚者よ、今度は私達も……」
「やらないからな」
内輪揉めする八朔とナラカを他所に、紅焔寺はダグラスに寄り添うように半身に構える。
「御身の求むるままに力を」
各自がリンクを進める中、水瀬は溜息を零していた。
「にしても、私の相方は味方も敵も含めてこうも口を挟まず、よく無関心を貫き通せるわね」
それは、尊敬なのか侮蔑なのかも解らない水瀬の言葉に、アムブロシア(aa0801hero001)は一度頷き応える。
「おまえの好きにするがいい」
「やれやれ、私達もいきますか」
迫間の言葉を皮切りに残りの者も共鳴を始めた。にしても、それをただ眺めるだけの忌琉魅に皆、違和感は拭えない。その不穏な空気の中、火乃元は共鳴しながら話し掛ける。
「いざ尋常に……所で、忌琉魅、お前その鎧は恥ずかしくないのか?」
「そこ聞……く所か!?』
ディオの突っ込みも途切れる中、その問いに忌琉魅は真面目な表情で応える。
「最早汝らの誹謗中傷は受けぬぞ? ここからは妾の狩りの時間よ!」
右手の魔弾砲の巨大なビームを合図に合戦は始まる。
八人は八方へ散らばるが、火乃元は宣言通り、視界から忌琉魅を外さず、ビームを回避しつつも前へ突き進む。
「愚か者め、この血時雨の錆にしてくれるわ!」
振り下ろされる紅い刃は、素人のような手付きの忌琉魅とは思えない程、鋭く火乃元の喉元を狙いに伸びる。
「っと、そこまで甘くはないか」
武器が従魔である事を考慮していた火乃元は、刀の軌道を見切り、自身の武器で打ち払う。しかし、空いた間合いの広さに苦そうな表情で笑っていた。
「この距離は右手の銃の間合いだな」
「喰らいたいのか? ならば、望み通り……」
「……いかせません」
車輌を遮蔽物に、灰堂は忌琉魅へ斬り込む。しかし、血時雨がそれを捌き、その流れのまま灰堂は刀を持つ左側へ回り込んだ。
「残念だったな。妾の刀、血時雨は防御も完璧じゃ」
「……なら、俺の時雨村正も見せてやりましょう」
「手数が多ければ当たるだろう」
「私も、負けないんだから!」
車輌から飛び出す迫間。更に、別々の車輌の上から書を開く八朔に弓矢を構える大宮。背後から斬り込む迫間に別方向から放たれる八朔の投剣に大宮の矢も、忌琉魅は血時雨を操りぬるりと弾く。
「無駄だと言うておろう。して、他の者はまだ様子を窺っておるのか。おそるるに足らぬわ!」
各従魔へ戦闘意識を持たせているのか、忌琉魅は銃口を距離の空く火乃元と八朔、大宮へ、刃を近くの灰堂と迫間へ向けて振り回す。
「出鱈目な太刀筋に見えて的確な急所を狙う一閃一閃……」
「更に、細くしたとはいえ、ビームの軌道も悪くない。身体の中心部、頭等、回避しきれず軽傷でも負わせるように着実に削りにくるな」
褒める敵の台詞に気を良くしたのか、口角を吊り上げる忌琉魅の動きは、踊るように更に激しさを増す。
「だが、攻め手は緩めぬぞ! 先ずは、汝から血で染めてやろう!」
ブンと、振り下ろされる刃。それは軌道修正を行い、確実に灰堂の防御に回した左手首を狩りに疾る。
「見誤りましたね」
ガキッと、腕の半分程食い込んだ辺りで止まる刃。装甲を貫き、届くハズの肉の感触も血の匂いもしない事に忌琉魅の焦りは加速する。
『《腕部損傷……まだ動く》』
「な、汝はまさか、絡繰り人間か?!」
「御明察です。腕と体内の数ヶ所になりますが」
更に、灰堂は右手で血時雨を掴み、忌琉魅から剥ぎ取った。
「なっ、よくも!」
右手の魔弾砲の狙いを灰堂へ切り替えビームを撃とうとするも、迫間のフォローに灰堂は忌琉魅との距離を空けた。
「よくやった、灰堂!」
「すみません、篝様。この刀、忌琉魅から離れても尚腕を断とうと暴れております」
「うむ、お前は刀を頼む! 忌琉魅には皆で集中攻撃だ!」
今か今かと様子を窺っていたダグラスとリィェンも参戦に馳せる。焦る忌琉魅は、鎧から霧を噴出させた。
「目眩ましか?! そんなもの無駄だ!」
一番に駆け付けたリィェンの攻撃に、忌琉魅は胴体を真っ二つにされた……かのように見えたが、手応えの無さは当人が一番理解していた。
「ヤったのか?」
「……違う! これは幻を生み出す霧だ!」
仲間同士背を向け合う形で周囲を見張ると、うっすらと複数の忌琉魅の影が見て取れた。
「数打てば当たるだろ! 怒濤乱舞!」
リィェンが突進しつつ放った連続攻撃に、忌琉魅は霧散する。しかし、先程の灰堂同じく、手応えの無さに舌打ちをした。
「ゴーストウィンドで霧を晴らします。皆さん、備えてください」
水瀬の放った沸き上がる生暖かい風に、空へと霧は吹き飛ばされていく。
「なっ、鎧が風化する?!」
歪む忌琉魅以外の、輪郭もはっきりしている姿目掛けて駆けるダグラス。手に持つ鎌を大きく振り被り、胴体を真っ二つにするように斬り込む。
「そんな大振りの攻撃、喰らわ……ぬぉっ?!」
鎌の柄を掴み、刃が身体に触れる直前に攻撃を止めた忌琉魅。しかし、ダグラスが鎌を幻想蝶にしまい、忌琉魅の体勢を崩させる。膝を着きそうになる忌琉魅のその隙に、ダグラスは拳にて数打叩き込む事に成功する。
「しゃ、癪な真似を!」
「ふむ、無手でのダメージはやはり限られるか。ならば、……」
銃の扱いにくい間合いをキープしつつ、ダグラスの乱打は続く。銃に頼ろうとする忌琉魅の動きではダグラスに攻撃を仕掛ける事も出来ない。互いに決定打の繋がらない攻撃に、痺れを切らしたのは忌琉魅だった。
「えぇい、煩わしい! 武器等無くとも妾は強いわ!」
右手の銃で攻撃を仕掛けるのを諦め、左腕を振り翳す忌琉魅。しかし、怯む事なくダグラスは踏み出す。
「くたば……ぅわっぷ?!」
ダグラスの至近距離からの霧吹きに、忌琉魅は拳を振り下ろす事も出来ず、視界を奪われる。
「……蒸留酒とはいえ、ライヴスを介さない攻撃では目潰しとはいかないか。だが、その一瞬の隙だけでも充分だ」
背後に回り込み、膝を後ろから撃ち込み、更に足払いを放ち、ダグラスは再度、忌琉魅の体勢を崩し膝を着かせる。
「今よ! 正義の鉄槌を!」
遠距離からの武器やスキルの総攻撃に、血時雨を失った忌琉魅は魔弾砲で応戦するも、手数の多さに、被弾は増すばかり。
「……嘗めるなぁっ!」
堪らず、忌琉魅は左拳を地面へ叩き付ける。すると、コンクリートにヒビが入り、そこから巻き上がる土煙で忌琉魅は再び姿を隠す。
「またスキルで晴らすまで……っ?!」
水瀬がゴーストウィンドを放とうとするも、その砂煙の中から横薙ぎに巨大ビームが現れ、一行は回避を優先せざるを得なかった。
「このビームはもう撃てないのかと思ったが、中々愉しませてくれる」
鎌を再び幻想蝶から出し、移動した先の車輌の上から土煙の中を睨むダグラスだが、そこから更に一発の弾丸が空へと飛び出す。
「何処に撃って……って、軌道を変えた?」
目指すは灰堂。しかし、血時雨を両手で抑える彼にはその攻撃を目で見えても回避行動は起こせない。
「刀を手離せ! 避けろ、灰堂!」
「任せろ、篝」
火乃元の叫びに、駆け付けるのは彼女の友、八朔。書から盾へ持ち変えた八朔は、ライヴスの弾丸を盾で防ぐ。しかし、皆の視線がそちらへ移る中、忌琉魅は土煙から抜け出し、近くにいた火乃元へ左拳を振るった。
「ガハッ!」
「篝様っ!」
瓦礫に吸い込まれるように殴り飛ばされる火乃元だが、その瞳は燃えたままでいた。そのまま周囲を威圧するようにビームを撃ちつつ、忌琉魅は八朔と灰堂の傍へとやってきた。
「邪魔じゃ! 退けい!」
「ぐっ!」
八朔を盾ごと左拳で殴り飛ばすと、忌琉魅は灰堂の抑えたままの血時雨を手にした。
「返してもらうぞ、フンッ!」
刀から血が溢れたかのように血時雨は灰堂の手から滑り抜ける。そのまま灰堂を斬り付けるが機械の腕で防御するも、その力に後退させられた。再び武具を揃えた忌琉魅は、エージェント達を見据えて立ち尽くす。
『攻撃は防いだ。直ぐ様反撃だ、覚者よ』
「勿論だ、愚神は殺す」
『ダメージは知れてますが諦めますかぁ、あるじどのぅ?』
「否! この程度では諦めん!」
各々が痛む身体を奮い立たせて忌琉魅へ向き合う。その視線を受け止め、忌琉魅は叫ぶ。
「妾のライヴスもかなり消耗したしのぉ。最終らうんどの開始じゃ!」
先ずは牽制に離れているエージェントにビームを撃ちつつも、忌琉魅は再び灰堂へ斬り掛かる。
「先のような轍は踏まぬ! 着実に胴体から斬り裂いてやるわ!」
『《照準補正・予測射撃開始》』
狙い定めた射撃は、刀、銃、鎧の三点見事に命中し、忌琉魅は一歩後ずさる。
「流石の腕ですね。こちらもやり易い」
「こんなもの、大したダメージではないわ!」
「ならば、追撃あるのみ!」
忌琉魅本人には届いていない為、ほぼ無傷ではあった灰堂の攻撃。しかし、鬼気迫る勢いの火乃元の怒濤の攻めに忌琉魅も怯む。周囲の援護射撃に気を割かせない為か、自ら突っ込み猛攻を繰り返す彼女の身体には至るところに生傷が増えていく。
「な、汝は妾が恐くないのか?!」
「知らん! だが、仲間が傷付くのを私は良しとしないんでな!」
流石の血の量に、灰堂がフォローに入り、火乃元を忌琉魅から引き離すと、そこへ駆け付けた迫間が、忌琉魅の目の前で二人に分かれた。
「なっ?!」
度肝を抜かれるも、重なり直進する迫間を忌琉魅は空かさず血時雨を構え、手前の迫間へ斬り掛かる。
「どうせ偽物は手前じゃろ!」
しかし、寸前で回避し、右肩から胸辺りに掛けて薄皮一枚分斬られ、血を出す迫間に忌琉魅は困惑する。偽物から血が出るのか、このスキルはどこまで巧妙なのかと考えている間に分身がライヴスで出来た針を忌琉魅に刺す事に成功する。
「逃がさん! 最後まで付き合って貰うぞ!」
ふらつく忌琉魅に追撃へと数人で飛び掛かるも、いの一番に駆け付けたダグラスが、動き出した魔弾砲のビームの反撃を喰らう。
「くっ、従魔単体なら動けるのか。そうでなくては、やり甲斐がないというものだ」
鎌を手に攻撃を仕掛けるダグラス。その攻撃の隙間を縫うように駆ける影が一つ。
「いい加減そのビームも見慣れてきた! 決めてやるぜ!」
ビームを掻い潜ったリィェンはヘヴィアタックで血時雨を打つ。手から離す事は叶わなかったものの、ギィンと激しい音を立てて刀に傷が入る。
「げっ、刀から血が流れてる?」
その異様な光景に、顔を引き攣らせるリィェン。
「まとめて燃え尽きなさい。ブルームフレア」
更に、水瀬が杖を振り翳し、放つライヴスは炎となり、忌琉魅を従魔ごと包み込む。忌琉魅に三体の従魔は、強力な攻撃に劣化しかけた鎧にもダメージが蓄積されて、更に軽量化された。
「なっ、妾の大切な仲間達を……許さん、許さんぞ!」
「悪者は退治される運命なんだから! みんないくよ、ウラワンダーショット!」
『って、そんな技はない!』
ニクノイーサの突っ込みと共に、八朔は書へ持ち替え魔法の投剣を放つ。降り注ぐ矢と投剣に傷付いた魔弾砲や血時雨も対処しきれず、忌琉魅本体のダメージも高まる。
「……くっ、おのれ、おのれえぇーーっ!!!」
吠える。
吠える吠える吠える。
忌琉魅と、口なき従魔の咆哮は街全体に響く。
「断末魔の叫びか? にしても、この異様に高まる邪悪な気配、こいつはまだ力を隠し持っていたのか?」
あまりの五月蝿さに、八朔は片耳を塞ぎ、忌琉魅を見つめる。音響からか、街の建物が、大気の雲が震え出す。しばらくすると、その咆哮も収まり、場は静寂に包まれる。皆が忌琉魅の攻撃に備えて構えていた正にその瞬間、忌琉魅の足元に魔法陣が浮き出し、忌琉魅の姿が一瞬にして消え去った。
「忌琉魅が消えた? これは瞬間移動か?」
リィェンの言葉に周囲を警戒する一行だが、近くに忌琉魅らしき気配も察知出来ず、場に緊張感が漂う。すると、ビルの何れかの屋上から声が響いてきた。
「……もう止めじゃ止めじゃ!」
忌琉魅はまだ近くに居る。が、音も反響し、詳細な位置は掴めない。
「汝らを侮りすぎたわ! 次があれば容赦はせぬからな!」
こちらの都合お構いなしに勝手な事を語る忌琉魅。しかし、追い詰めるチャンスと言わんばかりに水瀬が挑発を仕掛ける。
「みっともないわね。折角の瞬間移動も逃避にしか使わないなんて」
「ぅ、五月蝿いわ! 妾の瞬間移動にも制限があるのじゃ! 跳べるのは事前にまぁきんぐした三ヶ所、更に使うとまぁきんぐは消えるのじゃ! ……ぁ」
流石に自分でも気付いたのだろう。何を口走っているのかと。
「こ、此度はこれくらいにしておいてやるわ! だが、忘れるでないぞ! 妾は常に汝らHOPEの連中を狙っている事を!」
逃がさない為というワケではない。ただ、単純に疑問を抱いた大宮も空へ向けて話し掛ける。
「どうして、貴女は私達を狙うの?」
「愚問を! 妾と汝らは敵同士であろう! 更に言うなれば、愚神として目覚めたばかりの妾を追い掛け回したのが汝らHOPEの仲間だからだ!」
本人はかなり本気なのだろう。その証拠に、訴えの合間合間に咽び泣くような呻きも聞こえた。
「し、しかも、妾の大切な仲間の、さ、三体の従魔もこんなに……うっ」
居た堪れない空気に反応に困る一行だが、そんな空気を打破するような笑い声が響く。
「……ふふ、あーっはっはっ! こんな人間味帯びた愚神がいるとはな!」
「だからとはいえ、愚神は愚神だ。それだけで例外なく殺す」
笑いながらも痛む傷によろめく火乃元を支える灰堂。の傍に居る迫間。そこで忌琉魅は気付く。敵の数が足りない事に。
「……まさか!」
屋上の周囲を見る忌琉魅は、接近する死神の影に咄嗟に刃を合わせる。
「フッ、懲りん奴だな」
嘲笑と侮蔑を含んだ表情で見下すダグラス。その鎌は、血時雨の傷口に刺さり、刀型従魔を真っ二つに叩き折った。
「鎧を狙ったつもりだが、オートガードの刀も考え物だな」
「なあぁっ?! ち、血時雨ぇ! よくもぉ!」
忌琉魅は、泪を零しつつも、刀を握ったままの左拳でダグラスを殴打する。しかし、数メートル飛ばされるも防御が間に合ったダグラスの傷は浅い。
「まだです!」
そのダグラスの背後から再び二人に分かれた迫間が忌琉魅へと襲い掛かる。
「もうよいと言うとろうが!」
魔弾砲から放たれた弾丸は分身を掻き消す。更に、忌琉魅は残る本体に鋭い睨みを効かせ、迫間の歩みを止めさせた。
「此度の汝らの顔は覚えた。よいか、次こそは汝らの最期よ! 覚えておれ!」
忌琉魅の足元に魔法陣のような紋様が描かれたかと思うと、それは黒い光となり忌琉魅を覆い、そこから姿を消すのだった。
「……逃げたか。奴程度では、俺を満たす事は無理だったか」
「ごめん、マイヤ。愚神を倒せなかった」
『気にしないで央。貴方が無事だったのだし、任務は達成なのよね?』
マイヤの言葉に頷き、迫間はダグラスへ向き直す。
「そうだ、撃退が目標ですから、これで任務成功ですよね……ん?」
迫間は忌琉魅の居た辺りに歩み寄ると、そこで小さな輝く石を見付けた。
「……もしかして、これってさっきの忌琉魅の泪? 愚神ってこんな事も出来るのでしょうか?」
数粒落ちていたその石を拾い、迫間達は下へ戻る。
「奴は逃げ去った。次があれば、もう少し愉しませてもらわないとな」
嘲笑するダグラス。一行はその報告に任務成功の安堵と逃げられた悔しさからの溜息を漏らす。
「正義は必ず勝つ! しかし、逃げ去った敵との戦いはまだ始まったばかり! 聖霊紫帝闘士ウラワンダーの戦いはまだまだこれからです!」
「そう。それじゃ、報酬を受け取りに行きましょうか」
ビシッとポーズを決める大宮だが、そんな様子を気にも止めず、水瀬は流した。
「あっ! そう言えば、こんな宝石のような物を拾いました。おそらく忌琉魅の落とした物と思われますが、記念……というワケでもないですけど、皆さんにも渡します」
「あら、あんな子だったけど、割りといいセンスしていたのね」
「へぇ、結構綺麗な宝石だな。イン・シェンに似合うかな? 売れば多少の金にもなるんだろうか?」
手渡された輝く石をまじまじと見つめる一行は、口々に感想を述べていった。
「あいつとはまたまみえる事もあるかも知れないな。それはそうとカゲリ、今日こそ私の組合員になれ!」
「何で命令形なんだ。というより、俺とお前の関係はそんな主従のモノとは違うんだ。今の関係が一番マシだ」
呆気なくフラれる火乃元は、少し膨れっ面になり唸る。
「むー……まぁよい。気が向けばいつでも迎え入れるぞ! よし、帰るか、灰堂!」
「はい、篝様。肩を貸しましょう」
血を失いすぎたか、足元がふらつく火乃元を支える灰堂。
八人は、日の傾き掛けてきた朱の空に目を細めながら帰路に就くのだった。