本部

密着! あなたの街の能力者

山川山名

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
4人 / 0~6人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2015/12/02 03:32

掲示板

オープニング

●テレビの世界も大変だね
「……取材させてほしい?」
 部下からの報告を受けた中年の男性HOPE職員は、部下の報告にそう訊き返した。
「はい。先ほどテレビ局のディレクターを名乗る方からそのようなお問い合わせがございまして。こちらでは対処ができないのでご連絡したほうが良いと判断させていただきました」
 男は新しい広報案がまとめられている書類をデスクに置き、体を部下のほうに向けた。
「話は分かった。すぐにそのディレクターとやらと面会できる時間を作ろう」
「ああいえ、その心配はございません」
「?」
 怪訝な顔をした課長に、部下はよどみない口調で答える。
「すでにエントランスにいらっしゃるとのことです」
「……お前さっき『問い合わせがあった』とか言ってなかったっけ? なんで下にいるんだよ」
「返事が待ち切れずに来た、と申されていましたが」
 昨今では珍しい、現場で稼ぐタイプの人間か。その心意気は大変結構だが、こちらにも都合というものがあるのに。そう課長は心の中で愚痴をつこうとして、ふと思った。
 そこまでするほどの理由が、そのディレクターにはあるのかもしれない。相当に緊急な案件だとしたら、『市民の生活を守る』HOPEとして放っておくわけにはいかない。
「ディレクターさんを応接室に案内しろ。俺もすぐに行く」
「分かりました」
 それでも面倒なことには変わらないが、と課長は愚痴の代わりにため息をついた。

●必死さの裏に
「お待たせしました」
 応接室の扉を開いた彼の目に入ったのは、やわらかいソファーに体を沈める一人の女性の姿だった。肩口で切りそろえた黒髪に、スーツを着こなす姿はまさしく清潔感溢れる企業戦士そのものである。
思いつめた表情で背筋を丸めていた女性は、こちらの姿を認めるとすぐに立ち上がった。
「ああ! 申し訳ございません、お忙しいところにお呼びだてしてしまいまして!」
「いえ、大丈夫ですよ」
 爽やかな笑顔を繕い、テーブルをはさんで女性と正対した瞬間、目にもとまらぬ速さで目の前に名刺が差し出された。
「ご挨拶が遅れました、私CEテレビジョンディレクターを務めさせていただいております山科と申します。よろしくお願い致します」
「HOPE東京海上支部広報担当の善道です。よろしくお願いします」
 彼――善道も自らの名刺を取り出して交換する。そこに記されている女性の肩書を、善道はほんの少しだけ長く見て思案した。
 CEテレビジョン。アメリカに本社を置くカルチャー・エレクトロニクスの子会社だったか。二十年ほど前からテレビ業界に参入したが、リンカー人気を独占したWNLに視聴者をすべて持っていかれ、今は何をしているとも知れない企業になっていたはずだ。とうに潰れていたと思っていた。
「それで、お話とは?」
 山科に腰かけるよう勧めた後、善道は単刀直入に切り出した。山科は定規を当てたようにまっすぐに背筋を伸ばして口を開く。
「はい。今回は皆様にビジネスの依頼をさせていただきたいと思ってまいりました」
「依頼、ですか」
「わが社では新たな事業として、リンカーの皆様の日常生活に密着したバラエティー番組を制作したいと考えております。リンカーが普段どのような生活をして、どのような行動をするのか。それを一般の視聴者の皆様にお届けすることをコンセプトにしております」
「具体的には」
「リンカーの皆様を一か所に集め、好きなように行動してもらい、それを私共が撮影するという方針です。長年続いている散歩番組をイメージしていただけるとよろしいかと」
「はあ」
 途中下車してぶらぶら歩く、あの番組が頭に浮かんだ。要はそれのリンカー版ということか。
 リンカーに負荷がかかるような依頼ならば断わろうと臨んでいたのだが、意外にもほのぼのした内容に拍子抜けした。リンカーは物理的ダメージを無効化できるため、それを利用した過激な番組も一部では存在しているのが実情だったからだ。
「いかがでしょうか。お引き受けしてもらえないでしょうか」
 そう語る山科の瞳は、ぎらぎらと輝いていた。これが自分の命を懸けた一大プロジェクトになる、絶対に逃がすわけにはいかない、と。
 CEテレビジョンは今も潰れる瀬戸際にあるのだろう。もし彼女に協力することで、一人の、いや、一つの企業を救えるとしたら。
(……駄目だな。仕事に情をはさむなんざ、やっちゃいけねえ)
 心の中でそう自分を戒めた善道は、目の前の女性にそれを気取られないよう表情筋を固定させていった。
「現段階でお受けすることはできませんが、こちらでしっかりと検討させていただきます。今日のところはお引き取りいただけますか」
「分かりました。良いお返事を期待しております」
 すっと立ち上がり、腰を折ってすたすたと応接室から出ていく山科。その後姿の残像を、善道はしばしの間眺めていた。

 ――その後、広報部では新たに『テレビ局との協力による広報活動』が採用されることとなった。

解説

●目標
 テレビ局の撮影に協力する(街をブラブラする)。

●状況
 東京の下町エリアが行動可能。その中であれば自由に移動ができる。基本的に行動の制約はないが、撮影クルーを排除したり、行動可能域を逸脱することはHOPEから禁止されている。
 撮影時間は日曜日の午後、正午から午後五時までの五時間。なお、この時間に使用された金銭はすべてCEテレビジョンが負担する。
 できる限り自然体でいるリンカーを撮影したいというテレビ局側の要望もあり、撮影クルーはリンカー一人につき一人のマンツーマン制となっている。なお、英雄が同行する場合は英雄がカメラを持って撮影する。なお、クルーはリンカーと同姓になる。
 ショッピングを楽しむもよし、公園でひたすらのんびりするもよし、図書館で本を読むのもよし、遊園地で遊び倒すもよし、友達を呼んで一緒に過ごすもよし。リンカーが普段と変わらない一日を過ごすことが、テレビ局側の最大の要望である。
 ただ、リンカーはあくまでもリンカーである。常識礼節をわきまえた行動を心がけると同時に、市民が困っていたらできるだけ助けるように。それもまた、リンカーに必要なことであるのだから。

リプレイ

●撮影開始
「本日は私共の撮影にご協力いただき、ありがとうございます」
 多くの人でにぎわうファミレスの中で山科はそう言って深々と頭を下げた。彼女の前にいたクラリス・ミカ(aa0010hero001)が声をかける。
「貴社のことはかねてより伺っております。お互いに頑張りましょうね」
 山科と名刺交換を済ませたクラリスは、後ろを振り返って彼女を安心させるように言った。
「彼女たちはリンカーですが同時にアイドルです。小面倒な部分も込めて日常と思っていただければ幸いです」

「やっほー! 待った―?」
 小詩 いのり(aa1420)が右手を上げて机の一つに駆け寄ると、そこで座っていた蔵李・澄香(aa0010)が顔を上げた。
「いのりちゃん、おはよう。セバス=チャン(aa1420hero001)さんも、おはようございます」
「おはようございます、蔵李様」
「澄香、お昼まだ? だったら一緒に食べようよ!」
「うん、そうしよう!」
 と、座りかけた小詩は遠くにいた山科を見つけてそちらへ向かって行った。
「小詩いのりです。今日はよろしくお願いします!」
 彼女たちスタッフに頭を下げると、戻ってきて蔵李の隣に腰を下ろした。
「へへ、忘れるとこだった」
「いのりちゃん、何食べる? 私はサンドイッチと野菜ジュースにするけど」
「じゃあボクはこれにしようかなー」
 メニュー表を二人でもってあれこれと言っていると、入り口のドアが開いて数人の客が入ってきた。その中の一人が蔵李たちを見て声を上げた。
「あれ、澄香さんだ。いのりさんも」
「アンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)さん、それにみなさんも! おはようございます」
 蔵李が立ち上がって頭を下げた先には、アンジェリカをはじめとした撮影に参加する面々がいた。彼らも三人の近くのテーブルに腰を下ろす。小詩が彼らを見渡した。
「あれ、みんなも来てたんだー?」
「ここに来る前に会ったんだ。行先は同じだったようだから一緒にな」
 マルコ・マカーリオ(aa0121hero001)が説明すると、ファレギニア・カレル(aa0115)が頷いた。
「みんな昼食をとっていなかったようだからね。どうせなら、自己紹介も兼ねて全員でと思って」
「そーなんだ! じゃあほら、みんな注文してよ! ボクはパンケーキセットだよ!」
 メニュー表を咲魔 慧(aa1932)が受け取る。
「大人の男としちゃあ奢るって言いたいところだが、費用は番組が持ってくれるんだってな。ま、ご馳走になるとしようかね」
 新作パスタと秋鮭のクリームソースを手早く注文すると、隣の鳥居 翼(aa0186)にメニューを渡した。
「テレビ……き、緊張するなあ。上京してすぐ、こんな機会が……! でも、能力者でも普段通り暮らせるって、知ってもらうチャンスだもんね。いつも通り、楽しくいこ!」
 やや緊張した様子の鳥居は、それを吹き飛ばすかのように元気な声でハンバーグセットとドリンクバーを頼んだ。
 アンジェリカはしばしメニューを眺めた後口を開いた。
「じゃあボクは、ナポリタンをいただこうかな」
「おや、イタリア人がナポリタン食うのか?」
「あはは、まあボクはナポリの出身じゃないからね。最初食べた時は面食らったけど、今は結構気に入ってるよ」
 咲魔の突っ込みを笑って流すと、隣を向いた。しかし、その笑顔は途端にむっとした表情に変わる。
「……マルコさん」
「そうか、こうやって使うのか。ありがとうな。ところで急で何なんだが、今夜俺と食事でもどうだ? 君とならどんなものも美味く感じられそうだ」
 どこから捕まえてきたのか、女性スタッフにカメラの説明を受けがてら口説きにかかるマルコの脛をアンジェリカは軽く蹴っ飛ばした。

「ファミレスの料理ってのも案外バカにならないもんだな。ほら、お前もカメラ止めて食おうぜ」
「かしこまりました、ご主人様」
 咲魔は口に運んだパスタに感心したような声を上げ、後ろで撮影の練習をしていたファンブル・ダイスロール(aa1932hero001)を呼んだ。その隣で鳥居はハンバーグをほお張っていた。
「本当だ、おいしい! スタッフの皆さんもご一緒にどうですか?」
「残念ですけど、今は少し手が離せないようですね」
 蔵李の言葉通り、別のところで集まっていたスタッフたちはクラリスとともに何やら慌ただしく動いていた。鳥居が小さく肩を落とした。
「まあ、しょうがないですよね」
「……ところで鳥居さん」
「はい?」
 すすっ、と顔を近づけ、絶妙な距離を保って咲魔が口を開いた。
「そのお美しい姿をタダで拝見するのは申し訳ない。後日改めて、コーヒーでも奢らせていただけませんか。つきましてはメアドなどをっていってえ!?」
 全員の目の前で堂々と鳥居を口説きにかかった咲魔を、ファンブルがどこからか取り出したハリセンで頭をはたいた。
「お見苦しい所をお見せいたしました。お気になさらず、自由な時間をお楽しみくださいませ」
「あはは、ずいぶんリラックスしてるんだね、慧さんって」
 その姿に楽しげに笑う小詩。ほんのわずかに、自分の内側に意識を傾ける。
(自然体……かあ。でもボク、アイドルの卵だし……お仕事も自然体のうち?)
「いのり? どうかした?」
 急に黙り込んだ小詩を蔵李が覗き込んだ。視線に気づき、慌てて手を振った。
「ああうん、大丈夫だよ。へーきへーき!」
「そう? ならよかった」
 と、そこでファレギニアが壁にかかった時計を見やった。
「もうここにきて一時間が経ちますね。そろそろ移動しますか?」
「そうだね。そうだね。ちょうどボクもべ終わった所だし」
 マルコが空いた皿に手を合わせて立ち上がる。小詩も触発されたように立ち上がった。
「じゃあボクたちも。じゃあまたね! 行こう、澄香!」
「うん!」
 小詩が蔵李の手を引き、二人は勢いよく外の世界へと繰り出す。それは何も変わらない、日常の始まりでもあった。
(ま、あんまり難しく考えずに澄香といつも通り過ごそう! それが一番だよね!)

●その少女、アイドルにしてリンカー!
「こんにちは、澄香です。本日はお休みなので親友のいのりと遊びに行きます」
「いえい!」
 二人が向かった先は近所の遊園地だ。すでにゲームセンターとデパートに向かい遊んだあとであるが、二人の元気はまだまだ有り余っている。
「ここで行われるヒーローショーで人手が不足しているそうです。出演依頼が事務所経由で入って来ました」
 クラリスが手帳を開いて二人に告げると、二人は微笑んで頷いた。
「わかりました。お役に立てるのであれば。ね、いのり?」
「うん! それに、なんか楽しそう!」
すぐさまステージ裏に移動し、関係者と打ち合わせをする。役柄はヒーローの援軍。脇役ではあるものの重要なポジションだ。
ステージの端で出番を待つ。その間も、二人の目に迷いはない。星が楽しげに踊っていた。
『たいへん、このままじゃリンカーズがやられちゃう! みんなで応援しよう!』
 出番が近づく。
『がんばれー!』
 子供たちの声が、彼女たちの引き金だった。端から一気に飛び出して真ん中近くまで移動する。
「そこまでだよ、悪党さん! リンク♪」
 小詩がそう叫ぶと同時に、二人は裏で待機していた英雄と子供たちの目の前で共鳴を果たす。光とともに現れた本物の『アイドル』に、子供たちは大きな盛り上がりを見せた。
 蔵李はかわいらしい衣装に身を包み、全力で決めポーズを作った。
「魔法少女クラリスミカ! 私が来たからにはもう大丈夫だよ!」
「同じく、アイドル少女コウタイノリ! さあリンカーズ、立ち上がって!」
 これまでの訓練で培った歌唱力を生かし、歌いながらケアレイをかけるという演出で場をさらに盛り上げる。
 それはまさしく、人に夢を与える『幻想』の象徴。
 魔法少女とアイドルという組み合わせは、意外なほどあっさりと人々に受け入れられた。

●大学生リンカー、その実態とは!?
「今日は何をなさるおつもりでございますか」
「今日は大学はないけど、夕方から俺のアパートにサークルの仲間が集まるから、その買い出しだな」
 咲魔がファミレスから移動した先は、自宅近くのスーパーマーケットだった。買い物かご片手に食料の調達を始める咲魔に、カメラを持つファンブルが苦言を呈した。
「であれば私に任せればよろしいのに……」
「まあまあ、急に決まったことなんだから仕方ないだろ? それにお前、アイツらの好み知らないしさ」
 けらけらと笑いながら野菜コーナーを抜ける咲魔。そのかごにはすでにぎっしりと野菜が詰め込まれ、豆腐や白滝もあった。
「鍋ですか」
「みんなでつつくにはちょうどいいだろ? 今日はパーッと豪勢にやろうや」
 と、そこで表情を変えて隣にいた三十台ほどの女性の横顔をじっと見つめ始めた。ファンブルが嫌なものを感じかけたその時、女性が咲魔に『気づいてしまった』。
「あの……何か?」
「……ああいえ、すみません。俺の隣になぜ女神が現れたのか、不思議でしょうがなかったので。もしよろしければその理由を詳しく教えてもらいたくいってえ!?」
「申し訳ありません、私の主人がご迷惑をおかけしました」
 ハリセンで思い切り咲魔の頭をひっぱたいて話を中断させたファンブル。不審者を見る目で二人を一瞥して去って行った女性に、執事である彼は深々とお辞儀をした。

「別に叩くことねえだろ、ほんのコミュニケーションだっての」
「左様でございますか」
 スーパーマーケットを出た二人は、ぶらぶらとアーケードを進んでいた。ぶつぶつと愚痴を言っていた咲魔は、唐突に何かを思い出した顔で酒屋に入った。
 店番をしている人のよさそうなおっちゃんのそばを抜け、酒瓶を見比べる。その口元は楽しげに緩み、ともすれば鼻歌さえ歌いだしそうだった。
「へへっ。今日こそはアイツを酔い潰す!」
 しばらくして店から出てきた咲魔の手にはアルコールの福袋があった。ほくほく顔でファンブルの前をのんびり歩く。
「よーし、じゃあ買い出しも済んだことだし、ぼちぼち帰るか」
「かしこまりました、ご主人様」
 そうファンブルが答えたその時、佐久間が突如として表情を変え、真剣なまなざしでアーケードの奥を見つめた。
「ご主人様?」
 ファンブルがカメラを彼の視線の先に向けようとすると、咲魔はレンズを手で覆った。
「ちょっとカメラ止めろ。行くぞ」
「……かしこまりました」
 そこでしばし、映像は途切れ。
 ほどなくして、また何事もなかったかのように咲魔は元の位置に戻っていた。
「さっきのことを説明すると、ちょっと人を襲ってる従魔がいたもんだから共鳴したんだ。で、撮影できなくなっちまった。カッコいい所をお見せできなくて悪かったな」
 軽く笑い飛ばすと、咲魔は酒が詰まった袋を肩にかけてアーケードを通り抜けた。
「行こうか、ファンブル」
「かしこまりました、ご主人様」

●ワールドワイド・リンカーズ!
 さて、ファレギニアが向かったのはファミレスの近くにある商店街だ。この辺りでしばし散策する予定らしい。
 ――これからどちらへ?
「そうですね、ここでしばらくお店を見て回って、その後公園の方に行きたいと思ってます」
 数分後、彼の足はたい焼き専門店の前で止まった。川が焼ける匂いとあんこの香りが混ざり合い、我々の鼻腔をくすぐった。
「すみません、これ三つください!」
 ――どうして三つ?
「一つは僕の、もう一つは留守番してる僕の英雄の分、もう一つはみなさんの分です。熱いので気を付けてください」
 そう言って、ファレギニアはカメラを回すスタッフの口元にたい焼きを運んだ。会釈してスタッフが受け取ると、ファレギニアもたい焼きをほお張った。
「ん、おいしい」
 商店街を抜け、河川敷を下流に沿って進む。休日の昼間ということもあり、家族連れや子供たちが多くいた。
「この先に大きな公園があるらしいので、そこに行こうかと思ってます。腹ごなしの散歩も兼ねて」
 しばらく進むと、小さな女の子が遠くからファレギニアに向かって手を振ってきた。彼もにこやかに手を振り返す。
 ――今の女の子は?
「過去に依頼で会った女の子です。いい子ですよ」
 一時間ほど歩いて到着した公園は、日曜日ということを差し引いても多くの人でにぎわっているように見えた。スタッフが不思議に思っていると、ファレギニアがその理由に気づいた。
「どうやら、子供たちを対象にしたイベントがあるみたいですね。『みんなで走って、寒さを吹き飛ばそう!』……いいですねこれ。ちょっと行ってきます!」
 スタッフが追い付けないようなスピードで会場に向かうファレギニア。そこには陸上選手というより、一人の走ることに夢中の青年がいた。

「ふふん、ボクの雄姿、ばっちり撮影しておいてよね!」
「雄姿って、別に戦うわけじゃないだろう?」
 そのころアンジェリカとマルコはまた別の商店街を散策していた。ひときわ高い位置から見下ろすように向けられるレンズにアンジェリカがむくれた。
「言葉の綾だよ、もう。……あっ、あそこのお店入ってみようよ」
 こじんまりとした店の中では、おばあちゃんがまるで人形のように奥で正座していた。品揃えを見る限り、どうやら玩具屋らしい。
 体を丸めて眠る猫の人形の前に立ったアンジェリカは、その中の一つを取って会計を済ませた。
「猫が好きなのか?」
「好きだけど、これはプレゼント用。孤児院の『妹』がもうすぐ誕生日なんだ」
 そのときだけ、女王の如き尊大さを放つ彼女の表情にかすかに穏やかさが見えた。それを見逃さなかったマルコが笑みをこぼす。
「優しいな」
「なっ……何言ってるのさ、バカ!」
 ふん! とそっぽを向くアンジェリカ。しかしその視線の先に、一組の親子連れを見つけてしまった。自分と同じ年恰好の女の子が父親に肩車されている。女の子は嬉しそうにはしゃぎ、下の父親も楽しげで――
 何かが彼女の心に芽生えかけた直後、視点が大きく上に引き上げられた。驚いて下を見ると、そこにはやはり予想通りの影が。
「ちょ、何してるの。恥ずかしいじゃない! それに撮影できないでしょ!」
「あん? 何言ってんだ、ずいぶんと羨ましそうな顔してたくせによ。気ぃ利かせてやってんだ、少しは嬉しく思え」
 顔を真っ赤にして抗議の声を上げる歌姫を、豪快に笑い飛ばしながら破戒僧が担いで進む。ほどなくして、二人は川辺の公園にたどり着いた。何かのイベントが催されているのか、中は人があちらこちらにいた。
「あそこらへんがいいかな」
 向かった先は人気のない木陰。少し発声練習をした後、アンジェリカはゆっくりとその小さな口を開けた。
『木枯らしの中 立ち尽くす 舞い散る白が 切なくて だから 走る貴方が 見えた時 思わず駆け出し抱き着くの』
 少女は歌う。いつか世界の歌姫になるために。
 育ててくれた人々、『兄弟』たちに報いるために。

 鳥居の姿は図書館の一角で見る事が出来た。カウンターで司書と何やら話し込んだ後、スタッフの下に戻ってきた。
 ――ここで何を?
「金曜提出の数学の課題に必要な専門書を取り寄せてもらって、あとで受け取ろうと思ってます。あと……私の英雄の参考書も。私、彼の家庭教師してますから、次の授業に向けた準備を整えておきたくて」
 そう言って本棚に目を向けた瞬間、彼女の顔が一気に華やいだ。スタッフがそちらにカメラを向けると、そこには小さく『画集コーナー』と銘打たれたエリアが存在していた。
「せっかくだし、ゆっくりしてこ♪」
 そこでしばしの休息を堪能した鳥居は、文具店を経由して公園に到着した。スケッチブックを片手に方々を見て回る。
「あ、あの辺りのベンチがいいかな?」
 ――絵が好きなんですね。
「はい。自分でも趣味で描くんです。今日は時間がないから速描で……あっ、皆さんだ!」
 鳥居が手を振ると、遠くで歌を歌っていたアンジェリカは気づいて手を振り返した。ファレギニアは残念ながら子供たちと走ることに夢中で気づいていなかったが、鳥居は二人が見えるベンチに座って画材を広げた。
「今日のご縁の記念に、皆さんのいる風景も! 後できっちり完成させます!」

●撮影終了
「ふう……こんなところかな」
 アンジェリカがひとしきり歌い終え、息を吐いたとき下から手を叩く音が聞こえた。見るとそこには、幼稚園児ほどの子供たちが数人座り込み、一生懸命に拍手をしていた。
 その姿にアンジェリカはにこやかにほほ笑む。
「ありがとう。……って、マルコさんは?」
 視線をさまよわせると、遠くにその金髪が見えた。傍らの女性には見覚えがある。確か最初にファミレスにいた時に彼がナンパしていた女性スタッフではなかろうか。
「全くもう!」
 せっかく見直していたのに。
 少女は小さく膨れて遠くにいる男を睨んだ。

「ご主人様、なぜあの時カメラをお止めになったのですか」
 撮影が終わり、カメラをしまったファンブルは咲魔にそう訊いた。
「襲われてる人、怯えてたろ? 従魔に襲われる姿がテレビで放送されたとなれば、根掘り葉掘り聞かれかねねえ。それより、平和な暮らしをさせてやりてえじゃん」
「……成る程。失礼いたしました」
 私の主人は、高潔なお方だ。
 軟派なところもあるが、それを超えるほどに正義感に満ちている。
「さ、最中でも買って帰ろうか、ファンブル」
「かしこまりました、ご主人様」
 ファンブルは丁寧に腰を折り、咲魔の後ろを歩いた。

「はい、じいや。これみんなから!」
 ショーが終わり、ステージ裏で着替えを終えた小詩は自らの執事に細長い箱を手渡した。開いてみると、そこには彼に似合うシックな色をしたネクタイが折り入れられていた。
「これは……ありがとうございます。大切に使わせていただきます」
「へへ。今日もありがとう!」
 小詩はそういって、顔いっぱいに笑顔を浮かべた。

「……こういう、なんでもない風景を切り取って描くのが好きなんです。私の目から見た日常……普通の人と変わらない、いつもの、素敵な日常を」
 撮影終了間際、鳥居はどこか遠くを眺めるような声でつぶやいた。鉛筆で描かれるのは、彼女が見る変わらない世界。
「……よしっ! あ、取材も終わりの時間ですね。完成したら、見てくれると嬉しいですっ!」
 番組の最後で公開された鳥居の絵。
 それは小さな反響となり、話題となったのはまた別のお話。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
    人間|17才|女性|生命
  • 希望の音~ルネ~
    クラリス・ミカaa0010hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • アステレオンレスキュー
    ファレギニア・カレルaa0115
    人間|28才|男性|攻撃



  • 希望を胸に
    アンジェリカ・カノーヴァaa0121
    人間|11才|女性|命中
  • コンメディア・デラルテ
    マルコ・マカーリオaa0121hero001
    英雄|38才|男性|ドレ
  • CEテレビジョン出演者
    鳥居 翼aa0186
    人間|19才|女性|攻撃



  • トップアイドル!
    小詩 いのりaa1420
    機械|20才|女性|攻撃
  • モノプロ代表取締役
    セバス=チャンaa1420hero001
    英雄|55才|男性|バト
  • 全方位レディガーディアン
    咲魔 慧aa1932
    人間|26才|男性|攻撃
  • エージェント
    ファンブル・ダイスロールaa1932hero001
    英雄|70才|男性|ドレ
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