本部

海底鉱山を開拓せよ!

昇竜

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
5人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/11/24 00:56

掲示板

オープニング

●前人未到の海底洞窟

 海賊とは武装した船舶を用いて海域を支配し、他の船から力ずくで収奪を行う集団である。この近代では廃れ切ったと思われていた職業は、クリエイティブイヤーに入ってから再び猛威を振るうようになった。
 しかし彼らも歴史から反省点を見出している。ただ武力を行使するのではなく、政治などを利用するようになったのだ。

「本当にこの洞窟が宝の山だってのか?」
「団長が言ってんだからそうなんだろう。あの人が間違ってたことがあったか?」

 男たちはモーターボートでとある海域にやってきた。その海底にはこれまで未発見だった洞窟がある。ここは太平洋に浮かぶ諸島の沖合。島々は男らを含むヴィランズによって支配されている。この組織がH.O.P.E.に黙認されている理由の一つは、諸島で産する地下資源の流通に協力していることだった。ウェットスーツを着た男たちは、海底洞窟を見てぼやく。

「どうせ従魔の巣窟なんだろう?」
「だろうな」

 彼らが英雄との共鳴を意識すると、その身体を覆うライヴスが高まった。男たちは穏やかな波を湛える海へ飛び込み、海底洞窟を目指して潜っていく。……そして、二度と船に戻ることはなかった。

●金と権力の石

「今日の依頼はヴィランズからだ……と言ったら驚くか? ライヴスストーンの重要な産地でデカイ鉱山が見つかったんだが、その場所にちと問題があってな。なんと海底洞窟だそうだ」

 ライヴスストーンとは、ライヴスの触媒として極めて優れた鉱石である。火山が多い場所によく産するとされ、今回発見された鉱山も周辺の火山帯に連なる海底死火山とみられている。場所は太平洋に浮かぶ諸島近海だ。

「この諸島をH.O.P.E.より早く押えてたヴィランズから洞窟探索の依頼が来た。奴ら『ハンドフルオブメン』は、採掘の邪魔になる従魔討伐や、他海賊から運搬船の護衛をしたりしてくれるので、我々としても黙認してきた連中だ。今までこちらを頼ってくることは無かったんだが、今回は相当行き詰ってるらしいな」

 この鉱山の開発は、内部に潜む従魔によって妨害されていた。ヴィランズは度々殲滅を試みたが、結果はどれも返り討ち。能力者数に限りのある中小組織は、これ以上戦うことができないのだろう。

「今回がうまくいけば、奴らは今後も洞窟探索にエージェントの力を借りたいと言っている。ライヴスストーンは重要な資源だし、H.O.P.E.が絡んだとなれば我々の諸島での利権にも良い効果をもたらすだろう。どうか、この依頼に協力して欲しい」

解説

達成目標
安全に採掘ができるよう、できる限り広範囲を踏破し地図を作成してください。

ダンジョン『海底洞窟』
太平洋の海底死火山内に広がる巨大洞窟です。かなり入り組んでおり、従魔が徘徊しています。
大量のライヴストーンのためか明るく、海水が入ってこないことがわかっています。
海水がないので水圧はなく、空気があります。酸素には十分な余裕があります。

敵構成
・ミーレス級従魔『ヘルローチ』
小型犬くらいのフナムシです。
攻撃力はさほどでもないですが、虫嫌いの人が見たらどうなるかわかりません。
・ミーレス級従魔『アビサル』
洞窟で暮らすゴブリンです。2、3匹で徘徊しており、何匹か倒すたびにリーダーが出てきます。
視力は光の方向が分かる程度しかなく、聴覚がいいです。武器は短剣です。
・デクリオ級従魔『アビサルリーダー』
魔法使いアビサルです。ライヴスを感知してPLを追尾できます。
炎と氷の魔法を使います。魔法攻撃には減退の追加効果があります。

状況
・地図は大雑把な地理が把握できれば大丈夫です。記録者が必要です。
・特殊なダイビングスーツで服を濡らさず洞窟に入れます。内部では普段着で活動します。
・敵は無限に沸きますので、引き際が肝心です。(深入り禁物です)
・皆さんはまず溺れませんが、酸素ボンベは支給します。

リプレイ

●それそれの思惑

 ジジジ。ユフォアリーヤ(aa0452hero001)がダイビング・スーツのファスナを引き下げると、黒いジャージに包まれた肌が露わになった。麻生 遊夜(aa0452)はハッとして周囲を見たが、この場所で男性は彼だけだ。素晴らしい潜水服の性能のため、彼女たちは海水の影響を全く受けていない。濡れてたら気まずいなんてもんじゃなかったなと安心しつつ、バックパックを手に立ち上がる。

「前人未踏の洞窟か……ダンジョンでお宝探しじゃないのが残念だが、ロマンだな」
「……ん、男の子だねぇ」

 興奮を隠し切れない麻生に、リーヤはクスクスと笑った。何せ、彼は昨晩から楽しげに探検の準備をしていたのだから。その傍でリーヴスラシル(aa0873hero001)も潜水服を脱ぐ。彼女はヴィランズからの依頼に不信感を示したが、月鏡 由利菜(aa0873)の説得でH.O.P.E.の要請に応じ、護衛官の任に就いていた。いまだ渋々といった様子のラシルに、月鏡は苦笑交じりに言う。

「ヴィランズの中には、義賊のような集団もあるのでしょう」
「……利用できる連中を敵に回すのは得策ではないということか」

 彼女の言うように、件のヴィランズはH.O.P.E.の技術・資源・AGW等開発を大きく援助している。ずさんな統治など犯罪者故の部分もあるが、ひとまずはこの鉱脈の安寧を目指すという同じ目的を持った集団であろう。麻生とリーヤもそう思う。

「必要悪であるなら協力するのも吝かじゃないな」
「……ん、潰す悪にも、種類がある」
「私はライヴス技術とか、そういった研究とお近づきになれる切っ掛けになったらいいなぁなんて! 内部調査がんばりましょうか!」

 元気に言うのは唐沢 九繰(aa1379)だ。彼女の両腿下は義足であり、趣味はそれを換装すること。現代の機械工学には霊石研究が欠かせないものだから、これに詳しくなれば技術向上は間違いないだろう。その横でエミナ・トライアルフォー(aa1379hero001)が無表情のまま、ディスプレイが備えられた機械の右手を唇に当てた。画面に映し出されたのは"笑顔"を意味するマークだ。しかし、言峰 estrela(aa0526)の表情は微妙である。

「憎みあって殺しあうだけの関係じゃないって分かっただけ、少しはマシに感じたけれど……」
「ククク……正義を掲げるH.O.P.E.が聞いて呆れるな。私達もあえてエージェントに拘る必要も無くなったのではないか?」
「うーん……それは、ヴィランズの待遇と報酬と福利厚生がH.O.P.E.を上回るのなら、ね?」

 さらりと言うキュベレー(aa0526hero001)の言葉に、言峰はパチリとうぃんくしてみせた。それに対し英雄は軽く笑みを浮かべ、内部へと歩を進める。まあ、ヴィランズの待遇などたかが知れているだろう。何しろこんな危険な鉱山でマッパーをやらされるのだから……と思ったが、その挑戦が冒険者誰もの憧れだと考える者もいた。そも、こんな依頼を耳にしてカグヤ・アトラクア(aa0535)が黙っているわけがない。

「海底洞窟探検とは浪漫じゃな! あとは奥に原生生物がいて、入り口が落盤で崩壊したら完璧じゃ」
「それが楽しいのはカグヤだけだから、変なフラグ立てないで」

 クー・ナンナ(aa0535hero001)のツッコミはご尤もである。しかし、その浪漫譚は柳子・サマンサ・テイパー(aa1760)の愛娘をも惹きつけたようだ。

「うちの子が探検に行きたいと言うので、今日は皆さんと一緒に楽しませて頂きますわ……ねえ雪麗? ええ、そうね……うふふ」

 柳子は狂気じみた翠眼を細め、薄ら笑いながら細くくびれた腹部を撫でさする。カグヤはふむ……と顎に黒々とした義手を当てたのち、その手にライヴスを集中させた。現れたのは透明な盾である。

「身重の方もおるようじゃし、わらわは守りに徹するとするかの」
「全員纏まって行動しないか? ちと時間はかかるが安定した踏破を目指すべきだろう。その方が結果的に広範囲を地図に納められそうだ」

 麻生に反対する者はいない。麻生は洞窟の入り口を振り返り、不思議な力で海水を跳ねのける霊石に思いを馳せた。彼らの身に付けていた潜水服も、この霊石の性質を応用した技術だ。ヴィランズもこの有用な資源……ひいては巨万の富を求めているに違いない。鉱山はそうした私欲に目の眩んだ者を飲み込む魔窟にも思えた。

「……まるで欲望の洞窟みたいだな」

 やれやれといった様子で、麻生は機械の瞳を押える。埋め込まれた幻想蝶はその意思に応え、彼とリーヤを光で包み込んだ。赤く光る義眼の残像を残して進み出る麻生は10歳も若返ったように見え、頭にはピンと立った狼耳が備わっている。

●新たな発見

『……ん、情報通り明るい』
「とはいえざっと見たところ、全面が霊石というわけじゃない。なら、光の届かない部分もあるだろう。そういった場所の生態系は大体視覚が退化、聴覚やらが発達するものだ……音を立てずに慎重に進むのが妥当かね」

 心中のリーヤの言葉に、麻生がそう答えた。彼の予想通り、霊石はこの辺りには豊富だが全域ではそうでない。洞窟内は海水が染み出してタイドプールを形成する場所も見られた。歩く月鏡が水たまりのひとつに躓きそうになったので、ラシルが彼女の身体を支える。唐沢はこれを見て心配そうにした。

「月鏡さん、大丈夫ですか?!」
「は、はいっ。異界の探索は好きですから、それと同じようなものと思えば苦ではありません」
「静かにとなると歩きにくいですね! 私は脚部パーツに静音歩行用ラバーソールがあるので楽ですが……柳子さんも、足元にお気を付けて!」
「ええ。大きな虫も出るそうですし、うちの子は虫が苦手ですから、私がしゃんとせねば」

 唐沢が柳子を振り返って気遣うと、彼女は帽子のメッシュから微笑みを覗かせた。柳子は喪服のロングドレスの裾を持ち、空いている手で塗料のスプレー缶を握っている。一行が角を曲がると、柳子はこのスプレーを壁に吹きかけて印を残した。スマホ片手に先頭を歩くのはカグヤだ。

「うーむ、やはりGPSも効かんか」
「……すごい格好だね」

 英雄が溜息を吐くほどに彼女ノリノリである。地道な事前準備を怠らぬさまはまさに女蜘蛛。迷宮地図作製用スマホアプリの導入に始まり、バックアップ用ノートパソコン、万一の電子障害・長期探索に備え方眼紙、筆記用具、予備バッテリー。折角の黒髪美女なのに頭にはH.O.P.E.から借りてきた小型ビデオカメラ付きヘルメットを被り、腰から距離観測のため万歩計をぶら下げ、機材は全て最新式という気合いの入りようだ。

「利便性を重視したわかりやすい地図を本格的に作るのじゃ。技術者として半端な物は世に出せんわ」
「さすが、呆れたよ」

 クーの銀髪のクセ毛は獣耳のようにへたった。色々な情報を集めることは誰もが目的としたが、ここまでしたのは彼女ぐらいだろう。月鏡や柳子もそれを手伝い、記入の難しそうな箇所を写真に収めていく。

「なんだか観光客のようですこと。他の方も撮って差し上げましょうか……はい、チーズ」
「イエイなのよー!」

 柳子が仲間に向けてシャッターを切ると、レーラは能天気そうにピースした。無用な戦闘を避けるため、カメラのフラッシュは塞がれている。洞窟調査の一環として戦闘は必要だが、できる限り体力は温存すべきだと考えたからだ。これは優れた判断だった。

「だが、前ばかり気にして後ろから、なんざ笑えんしな」
『……ん、退路の確保は重要』
「私も殿は大事だと思いますわ。では、私はこの子と左手を重点的に見ますので」

 後方警戒を買って出る麻生とリーヤに、柳子が同意した。入り組んだ場所では知らずのうちに複数の接近を許す可能性もある。口には出さないが、レーラが後方を歩くのも彼らと同じ理由からだったろう。

「……あら?」
「どうしたユリナ」
「ラシル。この壁の隙間から、風が吹いてくるの」

 月鏡に言われ、ラシルが岩間を覗き込む。菖蒲色の瞳に映り込んだのは、その先に続く新たな道だった。月鏡は地形や霊石の観察に重きを置いていたので、これを発見することができたのだろう。

「由利菜ってばお手柄じゃないのー!」
「……レーラ」
「エストレーラ、上は見ない方がよさそうじゃぞ」

 色めく言峰を諫めたのはキュベレーとカグヤだった。そう言われても、人間つい見てしまうもの。言峰が上の方を見やると、月鏡の見つけた岩間から小型犬ほどの大きさの3体のフナムシが無数の脚をカサカサさせて現れたところだった。言峰は悲鳴をあげかけたが、柳子に口を塞がれてそれは声にならずに済む。

「◇※○□×△?!」
「言峰さん。大丈夫、私達が付いておりますわ」
「む、虫はちょっと、苦手だからここはお願いね?」

 柳子は微笑み、笑顔を引き攣らせる言峰の手を優しく握った。月鏡と唐沢もとても嫌そうな顔をしたので、それぞれの英雄が声をかける。

「あ、あまり間近で見たくはないですね……」
「……異形の従魔や愚神と散々戦っているのに、今更驚くか?」
「わ、私……虫は結構平気な方です。方なんですよ? でも、これはちょっと…」
「では私が代わりに潰しましょうか。主導権を頂ければ踏み潰……」
「い、いやいや、いいです、大丈夫です! AGWで自分でやります!」

 抑揚のないエミナの言葉にそう切り返し、唐沢は共鳴状態に入った。英雄は煌々と光に消え、唐沢は瞳の色を黄金に、両腕を英雄同様の医療機器を思わせる姿へと変貌させる。月鏡とラシルもそれに続き、英雄を憑依させた月鏡は輝く光の鎧を纏って顕現する。しかし、彼女らの虫嫌いは変わらない。苦手なメンバーが多いと知り、麻生は一歩前に出た。

「こいつは俺が相手した方が良さそうだ」
『……ん、手早く潰して移動、戦闘音は敵を呼ぶ』

 リーヤの言葉に、麻生は先駆けで応える。召喚した弓にライヴスの矢をつがえると、握りに刻まれた魔術刻印が淡く光った。放たれた一射は巨大フナムシを捉え、その甲殻を貫く。従魔はキリキリと昆虫の喚き声をあげた。

「由利菜、九繰。前衛は頼むぞ」

 カグヤが両手を広げると、振りの長い袖の柄が巨大な蜘蛛の巣を成す。発現した強化魔法は月鏡と唐沢のライヴスを高まらせた。幻想蝶より、月鏡は細身の槍を。唐沢は長柄の斧を引き出す。月鏡は接近戦用の槍も持ち込んでいたが、この場で使うには大振りすぎた。

「はぁっ!」
「やー!」

 二人はそれぞれ従魔に襲い掛かる。唐沢の斧の形状は従魔の甲殻の隙間を貫くのに適しており、分が悪いとみたフナムシはカサカサと後衛に迫った。言峰がヒィと柳子の背後に隠れ、二人の前には盾を構えたカグヤが従魔に立ちはだかる。柳子はこの状況にも冷静だ。

「うちの子に近付かないで下さいまし」

 その手には分厚い魔法書が具現化され、彼女のライヴスを光の剣に変えて従魔を襲う。フナムシは串刺しにされて動かなくなり、麻生と月鏡の相対する従魔も間もなく後を追った。麻生は倒した従魔を携帯でパシャリと撮影する。柳子はその様子を見ていたが、ふとお腹に向かって喋りだした。

「こいつらの行動パターンや特徴、出現率も調べときたいところだな」
「なあに雪麗? まあ! 優しい子ね」

 再び探索に戻った一行はすぐに新たな敵を発見した。いち早くそれに気付いたのは麻生だ。従魔は瞼と眼球が溶け合わさるように退化し、湿っぽい皮膚は両生類じみている。耳がいいとの情報だったが、早期に察知したおかげでこちらには気付いていないようだ。焚火を囲み、魚を焼いている。

「火を扱う知能はあるのか。こいつらは目が見えてねぇんだったな」
『……ん、音に注意』
「どうせ入り組んでるんだ、違う道なんざいくらでもある。向こうから行こう」

 麻生の提案で戦闘は回避され、調査は順調に進むかと思われた。しかし、来た道を戻る途中で彼は反対側からやってくる別の亜人たちに気が付く。

「足音からして3体いるな。今度のは避けられないか……騒がれる前に一斉攻撃で排除するとしよう。足を撃ち抜いてアラーム代わりにするのもいいが、後ろの奴らまではおそらく聞こえんから勘弁しといてやろう」

 麻生はにやりと笑い、再び弓を取り出した。言峰も今度はやる気だ。前に出て、禍々しい形状の真っ赤な斧を取り出す。亜人たちは角を曲がった瞬間、投擲斧の洗礼を受けた。

「とまふぉーーーく、ぶーーーめらんっ!!」

 ぶぉん! 言峰は3本の斧を次々に投げる。攻撃は見事命中し、豚のような亜人の悲鳴が聞こえた。初撃を終えた言峰は英雄との共鳴に入り、キュベレーは完全な肉体を得る。長い銀髪はオーラに踊り、黒羽のクイーン・カラーに映える白磁の肌の上、外膜の黒い灼眼が従魔を射貫く。華美なブラックドレスと不釣り合いに無骨に光るのは聖獣の爪だ。

「目暗の亜人か……いたぶるようで気が引けるな」

 口ぶりとは裏腹に、薄い唇は笑みを形づくる。月鏡は幻想蝶から引き出した弓で手負いの亜人を狙い射た。柳子も用意しておいた爆竹とライターを使って従魔を陽動する。

「素早く撃破しなくてはなりませんものね」

 矢の攻撃とバチバチ鳴る爆竹は亜人を狼狽えさせた。そんな敵から背後を取るなどキュベレーには造作もない。従魔は見る間に八つ裂きにされ、勝負は一瞬で決まった。しかし、キュベレーは崩れ落ちる亜人の向こうに新たな敵の一団を見る。唐沢が戦斧を手に声をあげた。

「出た! アビサルリーダーだ!」
「ッチ、魔法使いやがる奴か……奴が最優先目標だ、早期撃破を狙おう!」

 仲間を殺された亜人のリーダーが怒りの雄叫びをあげる。打ち出された火炎魔法がキュベレーを狙ったが、麻生が素早く威嚇射撃を行い彼女の回避を手助けした。リーダーはその後も麻生や柳子を狙って火炎魔法を続けて発動したが、これもカグヤと月鏡に阻まれる。

「くっ……!」

 麻生は迫る火炎に防御姿勢を取ったが、灼熱は彼を襲わなかった。額を覆った腕をのけると、目の前には麻生を庇った月鏡が立っている。彼女が自らに施した結界は魔法攻撃の威力を弱めた。月鏡が炎を受け止めた手のひらを握り潰すようにすると、火炎はその金髪を紅緋に彩り掻き消える。

「大事ないか」
「平気ですわ、カグヤ様」

 背中に柳子を庇ったのはカグヤだ。彼女の強みは無限とも思える生命力にある。直後、狙い澄ました柳子の魔法の弾丸がリーダーの腹部を貫いた。続いて麻生の凄烈な一射が、その頭部を覆う装具を貫き壊す。月鏡の放った矢には絆の力が込められた。リーダーは回避を試みたが、カグヤの放ったライヴスの白刃がその足首をすぱっと切り裂き、それを阻む。アビサルリーダーは月鏡の強攻撃を食らい、後方へ転がった。そこへ歩み寄るのはキュベレーだ。

「フ……縫止の必要も無くなったな。こちらは任せて、九操を手伝うといい」

 彼女の言葉に面々は頷き、一人取り巻きと戦う唐沢の加勢に向かった。リーダーは唸り、魔法の構えを取る。だがキュベレーは構わず正面から突っ込んで行った。リーダーの放った氷結魔法は間違いなくキュベレーを捉えた、はずだった。しかし従魔が見ていたのは彼女の幻だ。

「馬鹿め……遅い」

 攻撃を受けた分身は消え去り、本物の彼女の声は背後から聞こえる。従魔は狼狽しつつも防御を試みたが間に合わず、戦爪は容易にその顔面を捉えた。泣き喚く従魔にキュベレーがにじり寄り、戦爪を換装し光り輝く戦鎚を手にする。振り上げた鈍器は美しい火の粉を纏った。そして、それは容赦なく振り下ろされる。

「……撤退だな、任務は情報を持ち帰ることだ」

 麻生はメンバーを振り返った。その後の探索の結果、一行は現状通行可能な全ての道を明らかにしていたのだ。さらに、彼らの目前には下層へ至る道が続いている。

「私はまだいけますけどね!」
「戻る際にも敵は出ますわ。このあたりが潮時かと」

 元気そうな唐沢に柳子が艶やかに微笑んだ。彼女の言うことにも一理ある。一行は来た道を逆に辿り、鉱山からの脱出を目指した。やはり、道中ではフナムシや亜人が襲い掛かってくる。

「さっさと逃げよう。先に行け!」

 麻生は連続射撃で追い縋る従魔たちを撃ち抜いた。しかし多足相手となると足止めも一苦労だ。柳子も加勢し、火炎魔法を放つ。

「ええ、そうね雪麗、焼き尽くしてしまいましょう」

 全身をライヴスの炎に包まれた従魔はしばし暴れていたが、そのうち消し炭と化す。わずかに蠢く従魔に、柳子は哀れみをかけた。

「さあ、楽にして差し上げましょう」

 柳子の放った魔法の弾丸が異形の息の根を止める。しかしさらに、別方向から亜人の追っ手がやってきた。

「柳子さん、爆竹を」

 麻生は柳子から受け取った爆竹を岩間に押し込み着火する。仮に攻撃を加えられても、ここなら壊されにくいだろう。素早くその場を離れると、バチバチという音につられて盲目の従魔は岩間に引き付けられた。

「目印があると、思った以上に帰り易かったですわね」

 地図がある以上迷うことはないとはいえ、柳子がスプレーで付けた壁の矢印はこういった一時的な離別を気軽にし、撤退をスムーズに運んだ。二人が出口で仲間と合流すると、カグヤと唐沢による治療が行われていた。唐沢は先に行動を終え、カグヤが麻生の傷を癒すのを待つ間、壁面に注目して過ごす。

『粘性の高い溶岩が無数の空洞を形成し、迷宮と化したのでしょう』
「あっ、エミナちゃんもそう思います? 霊石の分布にはばらつきがあるし、敵の出没傾向の偏りとも関係あるのかな?」
『……水を弾く石と光る石は別の霊石で、従魔ごとに好む霊石がある、という可能性は? ならば、この洞窟の生態系は想像以上に多様かもしれませんね』

●報告の準備

 無事拠点へ戻った一行は報告書の作成に追われていた。今回の成果は後に"初層"と呼ばれる区域の地図完成をはじめ多岐にわたる。

「アビサル族のキャンプはここ、アビサルリーダーとの遭遇地点はこのあたりですね」
「……リーダーはすぐには出て来ないタイプだったな。リュウコ、それも書き加えておいてくれ」
「ええ」

 柳子は作成した地図と写真を見比べてカグヤの最終修正を手伝いながら、月鏡とラシルに聞いて従魔の詳細情報を併記する。ふとペンを走らせる手が止まると、柳子は優しくお腹を撫でた。

「暗いモノが渦巻くような場所でしたわ……雪麗もそう思う? そう、ふふ……」

 カグヤは大荷物を広げている。彼女が手がけた情報は内部道筋、通路距離、外壁の目視強度、ライヴスストーン、敵のリポップ方向やドロップゾーンの有無、今回は進まなかった部分や別階層等々だ。

「水を寄せ付けぬ霊石のため海水の侵食を受けんことは確認した。霊石は2種存在するという仮説も提唱しよう……ドロップゾーンがあってもおかしくない従魔の量じゃが、まだはっきりとは言えぬか。下層のほかに由利菜が見つけた横道もある。まとめることがたくさんあって楽しいのぅ!」

 頑張るカグヤを意にも介さず、クーはふかふかのソファでまどろんでいる。向かいのソファではリーヤが寝息をたてていたので、麻生は彼女にタオルケットを掛けてやる。作業するカグヤを見ていた言峰は思い出したように声をあげた。

「そういえば、名前はどうするのよー!」
「ふむ、わらわはルルイエを提案するぞ。奥にくとぅるー的な者がいそうじゃからのぅ」
「し、深淵の命石洞……はいかがでしょうか」
「ワタシは穴ゴブとフナムシ地獄アイランドという単純な思いつきの名前を提案しちゃうわー!」

 どの案も全く方向性が違うので、彼女たちは自分らで纏めることを諦めた。言峰が末尾に『みんなの案を混ぜあわせたいい感じにカオスな命名をおたのみもうす』と書き加え、これにて依頼完遂だ。言峰は息を吐き、ひどい仕事だったと思い返す。彼女の言葉に、窓辺に佇んでいたキュベレーが応えた。

「うー、もうあんなフナムシだらけの洞窟には行きたくないわね……」
「たかが虫如きで大げさだな」
「あそこまで大きい虫は想定外なのよっ!? ……ううっ、思い出しただけでもまた鳥肌がっ」
「……星からしてみればお前達人間も蛆のように張り付く気味の悪い虫と同義だろうがな」
「もーきゅうべーったら、それはちょっとーひねくれすぎよー?」

 他人から見れば仲が良いのかよくわからない会話もこの2人とっては十分、仲の良い会話なのだ。H.O.P.E.はこの報告書を受けて鉱山の名称を『ル・リエ命石洞』に決定、ヴィランズはH.O.P.E.に対し諸島での利権を認めた。大金を吐き出す鉱山を擁したことで、諸島はリゾート・観光・ライヴス研究の分野で急激な成長を遂げていく。言峰の出した案はあまりにも的を得ていると話題になり、以降ライヴスリンカー界でこの諸島は『ウェットマン&ヘルローチ諸島』と呼ばれることになる。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • エージェント
    言峰 estrelaaa0526
    人間|14才|女性|回避
  • 契約者
    キュベレーaa0526hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • おうちかえる
    クー・ナンナaa0535hero001
    英雄|12才|男性|バト
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • Twinkle-twinkle-littlegear
    唐沢 九繰aa1379
    機械|18才|女性|生命
  • かにコレクター
    エミナ・トライアルフォーaa1379hero001
    英雄|14才|女性|バト
  • 悠久を探究する会栄誉会員
    柳子・サマンサ・テイパーaa1760
    人間|29才|女性|攻撃



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