本部

その正体とは

真名木風由

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~8人
英雄
6人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/11/24 00:17

掲示板

オープニング

●不思議な事件の調査任務
 空を見上げれば、都会とは異なる星空が広がっている。
 が、今はそれを綺麗だと思う余裕はない。
 何故なら、ただいま任務中だから。

 その一報が入ってきたのは、つい先日のこと。
 大規模作戦展開で何かと慌しい東京海上支部で、東京郊外にある公園で何やら人の悲鳴などが聞こえたらしいのだ。
 窓を見ると、何か異形の格好をした何かが公園を歩いていたそうで、付近の住民はもしかして従魔かもしれないと通報してきたらしい。
 通報は他の住民からもあった為、東京海上支部はまだ人的な被害が出ていない点に眉を顰めながらも、エージェント達に調査、必要に応じて討伐する任務を下下したのだ。

「通報は数日連続だそうですが、まだ被害らしい被害が出ていないなんて、変ですよね」
 剣崎高音(az0014)が、『あなた』も疑問に思っているその内容に触れて呟く。
 資料には、通報は付近住民数世帯から行われているそうだが、被害らしい被害が出ていないとあった。
 深夜の時間帯である為に人通りがなく被害が出ていないのではという見方も出来なくはないが、悲鳴は聞こえている。
 しかし、付近で被害らしい被害が出ていない。
 イマーゴ級の所業も考えられたが、通報内容を考えると、イマーゴ級とは考え難い。
 従魔や愚神ではない可能性もあるが、彼らの所業を完全に特定出来る訳ないのだから、そうではないと断定することは出来ない。万が一、単に被害が表面化していないだけで、後に被害が出た場合、過失でしたで済まされる話ではない。
「……もうちょっと、で……悲鳴の、時間……」
 夜神十架(az0014hero001)が、ぽそりと呟く。

 さて、夜の公園に出る異形の正体は何だろうか。

●その頃
「準備、出来た?」
「出来たよ」
 青年は、声をかけた青年に応じた。
「待ち合わせに遅れるよ、急がないと」
「分かってる。付き合って貰ってるんだから、遅刻なんてしないよ」
 青年は、そう言って道を急ぐ。
「何とか克服しないと……」
 『あの時』、今までにない恐怖を味わった。
 ゲームとは違うリアル……危険度が低いとは聞いていた中のことだった。
 強くない? 強い相手もいるのだろう?
 そうした相手だったら、死んでしまうかもしれないのだろう?
 重い筈のない武器は重く感じたし、攻撃が当たれば痛い。それがあっという間に癒される。
 ゲームとは違う、リアルが怖い。
 皆、何てことないように振舞っていたけれど、自分はそうではなくて、迷惑を掛けて。
 けれど、これからも続くことなら、早く克服しなければならないと思う。
 毎晩付き合って貰っているのだし、もっと頑張らないと。
「それにしても、先輩達は上手いよね。個人的なのによく出来るなって」
「高校の頃、演劇部だったらしいよ。だから、そっちの伝もあるから、ああいうのも準備出来たって言ってた」
「その準備に応えないとね。その為に毎晩頑張ってるんだし」
「分かってる。君も僕がそうだと、やり難いだろうし。あ、いた」
 会話を交わした彼らは待ち合わせ場所に到着、先輩達と話しながら公園へ歩いていく。
 そこに、自分達の同業者がいることを知らずに。

解説

●目的
・夜の公園に出没しているらしい異形の何かの正体を突き止める

●舞台
・東京郊外にある公園

やや大きめの児童公園で、木々もある為、住民が家から眺めても全て見通せません。
時間帯は、夜23時頃。
季節柄、ちょっと寒いです。

●敵?情報
・異形の何か

歩いていたという目撃情報があり、従魔・愚神だとしてもイマーゴ級ではないだろうと言われています。
悲鳴が何度も聞こえていることより、目的あってこの場所に絞って活動しているなら、デクリオ級以上は確実でしょう。
真偽確かめ、本物であった場合、速やかに討伐する必要があります。

●注意・補足事項
・「●その頃」はPL情報です。情報の取り扱いには十分お気をつけください。
・公園に向かう前に付近住民から更なる聞き込みを行うことも出来ます。聞き込みをすると、この付近にエージェントが住んでいると判明します。穏やかな男子大学生と年が近く見える英雄だそうで、最近、ファミレスで他の見慣れない数人と楽しそうに食事をしている姿が見られています。
・23時前時点で公園待機となりますが、資料読み込み、情報整理等事件解決を目的とした行動なら、3名まで公園から離れた場所での待機もOKとします。
・真偽はっきりさせてから、事を起こすことをお勧めします。従魔・愚神は出現しません(PL情報)
・付近には24時間営業のファミレスがあるようです。無事に終わったら、こちらで疲れた身体を癒してもいいかもしれません。これに関するお財布の心配はしなくていいです。

●ヒント
・世の中色々な人がいます。人によっては凄いと思うことも、人によってはどうしようと感じてしまうこともあります。皆さんの姿そのものが、何よりもの事件解決になるかもしれませんね。

リプレイ

●夜間張り込む前に
「公園で通報、ねぇ……。被害もないって話なら、コートの前をバッと開ける変態とか?」
「もしかしたら、従魔かもーとか住民の人が不安がってるならちゃんと解決した方がいいのさーって、ハイジ、コートがどうとかって何のこと?」
 柏崎 灰司(aa0255)がそう漏らすと、隣にいたティア・ドロップ(aa0255hero001)が首を傾げた。
「……何でもねぇから気にすんな」
「な、何でもねぇって……?」
「従魔も、コート……着るの、かしら……?」
 ティア同様夜神十架(az0014hero001)が首を傾げている。
「それはそれで退治する必要がありますが、今回は違うかと」
「お、おぅ。そうだな。それに、寒い季節に出張しないか……」
「防寒対策する方もいるでしょうし」
「ありえる」
 剣崎高音(az0014)が灰司に耳打ちすると、灰司も声を潜めてこそこそ話す。
「余計気になるのさ、何なのさっ」
 ティアがそう聞こうが十架が上目遣いしようが、2人はそのことについては黙秘した。

「紫さん、今回はよろしくね。私の名探偵ぶりを披露してあげるから」
「ふふ、征四郎も負けないのですよ」
「朝霞さん、よろしくお願いしますね」
 大宮 朝霞(aa0476)は、友人の紫 征四郎(aa0076)とガルー・A・A(aa0076hero001)に挨拶を済ませる。
 高音が灰司と会話を終えるのを待ってから、「はじめまして、剣崎さん。よろしくお願いします。夜神さんもよろしくね」と彼女達に声を掛け、挨拶を済ませた。
「こちらこそよろしくお願いします」
「……よろしく、ね……」
 朝霞とは初対面だけあり、高音の背中から挨拶する十架。
 と、聞き込み調査の担当確認で他のエージェント達に呼ばれ、高音と十架は歩いていった。
 朝霞の隣には、いつの間にかニクノイーサ(aa0476hero001)が来ている。
「剣崎さんは私と同じ年なのに、剣の達人らしいよ。すごいよねぇ」
「あの英雄も中々の腕のようだな」
 人見知りの彼女も戦闘になれば違うのだろうと2人は言葉を交わし、彼女達へ視線をやった。

「では、周辺の聞き込みをお願いします」
「可能性は可能性ですから、些細なことからでも確認します」
 高音に頷くのは、石井 菊次郎(aa0866)。
「夜の公園の怪異……何やら妖怪じみていますが、愚神の可能性があるならば」
「本物の妖怪なら我らはお役御免だからな。愚神か従魔かヴィランどもか? その線で捜査を進めて違うようならそこで打ち止めということだな」
 高音と話し終わった菊次郎にそう言うのは彼の英雄、テミス(aa0866hero001)。
「是非とも愚神であることを願いますが……」
 それは、彼が抱える事情の為。
 少しでも可能性があるならば、行くしかないのだ。

「こちらは聞き込みの他、現場の調査も担当しよう」
 天原 一真(aa0188)はそれ以外にも情報共有が必要だと話す。
 調査効率を上げるには、聞き込み調査最中も何か分かった時点で共有した方がいいだろうと全員同意する。
「話が通じる相手だといいんだけどねぇ」
「今の所真偽はっきりしませんし、いきなり攻撃はしない方がいい気しますけどね」
 レヴィ・クロフォード(aa0442)が軽く肩を竦めると、リオ・メイフィールド(aa0442hero001)が情報収集の結果にもよることを前提としてそう話す。
「一応俺達が情報に該当する人物や不審な点に気づいたらメールするけど、着信音でバレたーっは困るから、皆公園に入ったらマナーモードよろしく」
「静かな公園なら間違いなく響くな」
 ガルーは、周辺住宅街の大きめな児童公園なら夜は静かだろうと判断し、公園から少し離れた場所で待機することになる灰司の提案に同意する。
「ホントに何なんだろうね~」
 ミアキス エヴォルツィオン(aa0188hero001)が、何も被害がない状況に首を傾げる。
 手分けして情報を集め、正体を突き止めねば。

●浮かび上がる?
「征四郎は公園に行きますので、ガルーは住宅地を頼むのです」
「了解だ。お前さんも気をつけてな」
 ガルーは征四郎に手を振り、彼女とは別行動で聞き込み調査を開始した。
 公園での調査と並行する形の聞き込み調査は、地道なものである。
「従魔や愚神相手なら、こんなに被害がねぇってのもおかしいよな……」
「事件の予兆すらありませんね」
 ガルーの呟きに応じたのは、付近のアパートを調査していた高音だ。
 このご時世なら近所付き合いをしていない者もいる可能性がある為、新聞が溜まっている家はないか高音と十架が見て回り、その間、ガルーは悲鳴以外で変わったことはないか、暫く見ていない人はいないか聞き込みをしたが、公園周辺のアパートでは事件の影も形もない。

 と、隣のマンションから、灰司が出てきた。
「どうでした?」
「んー、何か気になるのがひとつあった」
 高音が尋ねると、灰司は噂好きのママ達から気になる話を聞いたそうだ。
「この近くにエージェント住んでるらしいんだけど、毎日大学に通っていたとしても、皆騒いでるのに、何でH.O.P.E.に通報しなかったんだろうって」
「それは変だな」
 ガルーも不審に眉を顰めると、高音がすぐさまH.O.P.E.へ照会してみる。
 すると、大学に通っている男性能力者が該当し、念の為エージェント達へその情報を流す。
「よく聞き出せたな」
「ティアが子供に声掛けたからな、便乗して軽く挨拶から聞き出した」
 ガルーがそう言うと、灰司が焼き芋を抱えた子供にティアが声を掛けたのが起点と話す。
 コート関連を教えて貰えないのは気になっても、聞き込みは頑張ったらしい。

「悲鳴は聞こえているのに、やっぱり被害らしい被害はない。不思議だね。愚神か従魔の仕業に思えないなぁ」
「レヴィは人の仕業だと?」
 同じように聞き込みをするレヴィは、時間帯が時間帯でも何も被害がない為愚神や従魔の線は疑わしいと思案する。
 異形の何かが歩いていたという目撃情報はあり、不審なものはいるのは確実だが……。
「ですが、目的が分かりません。誰かに悲鳴を上げさせているということになりますよね? ……人騒がせな話です」
「ハロウィン……は、もうとっくに終わったから、仮装っていうことはないと思うけどねぇ」
「万が一ということもありますから、張り込みは……レヴィ?」
 リオは話の途中でレヴィが自分を見ていることに気づいた。
「リオ、起きていられる?」
「なっ!」
「張り込む時間にリオが起きているってことはそんなにないから」
 どうやら、彼なりに心配してくれているらしい。
「大丈夫ですよ。任務ですからね」
「無事に解決したら、目も冴えちゃってるだろうし、ファミレスにでも寄って軽く食事出来たらいいね」
 レヴィはそう言うリオに微笑むと、公園によく出入りしている人の情報がないか確認すべく、ゴミ袋を交換しているコンビニの店員に声を掛ける。
「夜勤の人が、この所頻繁に学生さんが深夜食パンを買って帰るって言ってましたね。スーパーはもう閉まってるから、行ける時間帯に帰れるようにならないとみたいな話を連れの人としてたらしくて、大学生だと毎日コンビニで買い物はきつそうって」
「それはそうだね」
 レヴィが店員にそう応じ、ありがとうと礼を言って去る。
「公園に出入りしてる人は分かりませんでしたよ?」
「いや、学生さんの情報は大きいね。毎日夜遅くの買い物だけならバイトかなってだけなるけど、連れの人との会話の内容が如何にもここ最近の話だ、何か知ってるかもしれない」
 レヴィがリオに答えた直後、高音からメールが届く。
 付近に大学に通うエージェント在住。
「ほらね」
 レヴィは、リオへ微笑んだ。

 一方、そのメールは菊次郎とテミスにも届いていた。
「エージェント……。何か知っている可能性は高いでしょう。当事者かもしれません」
「足取りを追ってみるか?」
 菊次郎はメールに記載された名前と住所に目を落とすと、テミスが確認を取る。
 それを考えていた菊次郎は言うまでもなく、テミスに頷きを返した。

●公園調査
「結構広いけど、想定範囲内かな」
 公園をぐるりと巡った朝霞が小さく呟く。
 郊外の住宅地にある児童公園である為、都会にあるものよりも広い。
 が、遊具に遊べる広場、トイレに公園周辺を囲むような木々はこの公園だけが特別という広さではなく、朝霞の想定範囲内だ。
「どう? ニック、何か感じる?」
「どうと言われてもな」
 朝霞に話を振られたニクノイーサは、特に変わった所はないように見えると返す。
 従魔の仕業であれば、昼間どこかに潜伏している筈。……断定は禁物だが、公園に潜んでいることはなさそうだ。
「こちらも異常は特に感じなかった」
 朝霞とは反対方向から公園を一周した一真も同じ見解のようだ。
 現場の状態を見ても、従魔の痕跡も感じられない。
「平和そのものだよね~?」
「まあ……何でもアリな奴が色々いるから、何事もなくとも安心は出来んがな」
 ミアキスが首を傾げると、一真は軽く肩を竦める。
 児童公園にはこの騒ぎで子供の数は少ない。
「学校の先生には内緒にしておくのです」
「おー、助かる!」
 征四郎がブランコで遊ぶ小学生達と話している。
 どうやら、小学校の方では公園で遊ばないよう先生から言われているようだ。
 その間、一真とミアキス、朝霞とニクノイーサは手分けして遊具を調べてみているのだが。
「見て見て! ほら、逆上がり!」
 ニクノイーサが何をやってると口を開く前に征四郎が小学生達と一緒にやってきた。
「学校以外だと鉄棒あんのこの公園位なんだよなぁ」
「そーそー、だから、ここで逆上がりとか特訓したりしてるー」
「公園で何か変わったこととかある? 遊具が壊れたとか、そういうのないかな」
「ないなー。あ、でも、うちの親がさー、悲鳴がって言ってるけど、あれ、おかしくね?」
 朝霞の問いに近くに住むという男の子がするっと言った。
「いっつも同じ奴の声じゃん! 俺覚えちゃった」
「同じ人が悲鳴を上げてるのも変ですね」
「だろー?」
 征四郎が相槌を打つと、男の子がドヤ顔で頷く。
(聞き込み調査、念入りにした方が良さそう)
(同じ対象を狙っている可能性もなくはないがな)
 朝霞の小声にニクノイーサが応じる。
 ちょうど一真が聞き込み班から定期連絡を受けたばかり。
「付近にエージェントが住んでいるみたいだな。協力を要請してみよう」
 先に行く、と一真が身を翻して公園を出て行く。
 征四郎がそろそろ夕方だから帰ろうと小学生達を促し、3人も公園を出た。
「そういえば、何か拾い物ありました?」
「あ、そうそう、そういや、こんなの落ちてた」
 何気なさを装い征四郎が尋ねると、小学生達はそれを渡してくれた。
 見ると、食紅の空き容器。
「……」
 朝霞は、何となく先が見えてきた。
 が、誰が何の目的かは分からない。
 ……聞き込み調査にも加わって、調べよう。

●見えない足取り
 菊次郎とテミスは、途中で有事の可能性もあるならば自分も向かうという一真とミアキスと合流し、そのエージェントが住むアパートへ向かった。
(こういうのは苦手なんだが、四の五の言えんしな)
 他のエージェントの聞き込みのお陰で聞き込む必要はだいぶ減っているが、それでも、時間まで可能な限り集める必要がある。
「携帯にも出ないし、家にもいないな。エージェントであるならば、正式な依頼となっている件を把握すれば、協力してくれるものだと思ったんだが」
 一真が何度目かのコールで諦めて電話を切る間も、ミアキスはチャイムを鳴らしてみている。
 しかし、ドアの向こうに誰かがいる気配はない。
 と、隣の部屋のドアが開いた。
「堺くんのお客さん? あの子夜遅くにならないと帰ってこないわよ。最近帰りが遅いのよね」
「失礼ですが、どちら様でしょうか」
「あぁ、あたしはただの隣人。在宅で仕事してんだけどさ、結構夜おそーくに英雄の子と帰ってきてるみたいよ? あぁ、でも、この前友達が泊まりに来てたわね。ファミレスの話してた」
 噂の公園の近くにあるのよ、と隣人の女性は言うと、部屋の中へ引っ込んでいった。
 そこで、また、他のエージェントからの連絡メール。
 通報してきた住民の家を訪ね歩いた朝霞からのもので、異形は人の大きさ程度で二足歩行という情報の他、通行人への聞き込みで日付が変わると、いつもの静けさに戻るという不可解な情報が加わったという内容だ。
「ファミレスへ行ってみましょうか」
 まだ23時には余裕がある。
 その点を気にする征四郎とガルーも同行をメールで申し出てきたので、更にエージェントの足取りを聞き込みする一真とミアキスと別れ、菊次郎とテミスはファミレスへ足を運んだ。

「色んな人に聞き込みしましたが、公園の外では不審者はいないようなのです」
「となると、公園限定ですか。こちらも変わったことは何もありませんでした」
 菊次郎はファミレスへ向かう道で征四郎と最新の情報交換を行う。
 連絡が取れないエージェント(堺 智治とヨハンという能力者と英雄らしい)が確実に絡んでいると思うが、その目的がまだ見えない。ファミレスに行けば分かるかもしれない。
 ファミレスへ行くと、フロアマネージャーが対応してくれた。
 征四郎がまずは悲鳴について聞くと、悲鳴騒ぎで助けを求めて飛び込んで来た者は誰もいないとのこと。
「最近、夜によく来るお客さんはいますか」
「近所のエージェントさんがこの辺じゃなさそうな人達と食事に来るかなぁ」
「人数、どの位でしょう?」
 菊次郎が重要な情報になりうると判断、会話に加わった。
「全員で4人? で、メイク落とすのが大変とか、着替え慣れてきたとか」
「メイク? 着替え?」
「迫真の演技とか、克服まで付き合うとか」
 何なんだろうね、とフロアマネージャーは言ってから、レジに呼ばれて、小走りにフロアへ戻っていく。
「偶数ってのが嫌な予感するな」
 ガルーが一緒に来ている者もエージェントではないかと現実的な結論を出す。
「だが、克服? 演劇? 何かの符丁であろうか?」
「素直に聞けば何かのトラウマを克服する為にシミュレーション訓練を行っているようにも思えますが……悲鳴とは?」
「いずれにせよ、問題なさそうだが? ヴィランであるなら、容赦なく出来たのだがな」
「そうも行かないでしょう。公園に向かいます」
 ヴィランなら消し炭でも問題ないと考えていそうなテミスへ、問題あると応じる菊次郎も征四郎とガルーを促し、公園へ向かうことにした。

 時刻は、23時15分前。
 少し離れた場所に待機する灰司とティアは別として、全員が公園に待機。
 そして、話は冒頭へと戻る。

●人騒がせ
「ソウゴウテキに、従魔や愚神である可能性は低そうですが……慎重にいきましょう」
 征四郎は小さく溜息を吐いた。
 菊次郎の『何かのトラウマを克服する為の訓練』という推察は、公園調査の結果(食紅の空容器付)を合わせれば、限りなく真実に近い。
 同時に、一真がやっぱりエージェントと連絡が取れないこと、レストランの聞き込みやレヴィのコンビニ店員の話を踏まえれば、訓練をしているのはそのエージェントの可能性が高い。
 エージェントの情報を掴んだのは灰司の尽力が大きいものであるし、朝霞の公園の見立てや早期に人ではない可能性の排除といったことがこれらの調査を可能にしたもので、特に朝霞は情報収集している間にこれらに行き着いていた。その意味では、朝霞の着眼の調査への貢献は大きい。
「特訓で間違いないみたいですが、姿を現したら、声掛けていいかと。隠れてる必要はなさそうです」
 決め手は朝霞の意見で、共鳴は特にせず、灰司の連絡があればそれを基に。そうでなくとも公園内の灯で確認して声を掛ければ、特に物騒な形で踏み込む必要はないという結論に達した。
「メールが来ました」
 高音がメールを確認し、エージェント達が見守っていると、4人組の男性が現れた。
 大きな旅行カバンとカートを持ってきていて、何か怪しい。
「アレは英雄のようだな。件のエージェント達で間違いないだろうな」
 ニクノイーサが大学生の傍にいる青年の身なりから英雄と判断し、呟く。
「人騒がせな……」
 テミスが呟く中、菊次郎が彼らへ近づいていく。
「失礼ですが、皆さんエージェントですね?」
 そこで、菊次郎が住民から通報があり、自分達がこの件の調査任務に携わっていることを説明した。
「本当ですか? 一応、共鳴しているという設定だけで共鳴しないで訓練していたのですが」
「不安に思っているそうですよ」
 大学生に付き合っているらしいサラリーマン風のエージェントの問いに菊次郎が頷く。
 菊次郎が「能力者と英雄は関わりがない一般の方にとって馴染みがありませんし、従魔や愚神も蔓延る昨今、誤解してしまい易いのですよ」と彼らへ言って聞かせる。
「どうして、ここで訓練したのです? 支部で訓練すれば問題も起きなかったと思いますが」
「その……」
 近隣に住んでいる堺 智治は少し言い難そうに切り出した。

 智治は、最近エージェントになったのだそうだ。
 元々ゲームが好きなだけの大人しく温和な気質であったが、英雄のクラスはドレッドノートと前衛系。
 それでも頑張ろうと思い、大規模作戦の為、陣地への物資輸送護衛任務に携わった。
 危険度が低いと言われていたが、ミーレス級の従魔の群れに遭遇、戦闘となり、共鳴もしたが、ゲームとは違うそれに智治は恐怖したのだそうだ。
 たまたま、高校の先輩の友人であった最上 明が同じ任務であり、彼のフォローもあって事なきを得たそうだが、流石にこのままではいけないと明の会社の仕事が終わり次第、この公園に来て貰って毎日特訓してたらしい。
 支部に毎日通うのが難しい以上に、克服の段階的に異形の格好とメイクをした明と共鳴をしない状態でのシュミレーション訓練という段階で、恥ずかしくて申し出ることが出来なかったそうだ。

「鬼が出るか蛇が出るかはたまた……と思っていたが、これが真相だったとは。何事もなくて良かったが、こういうことは人それぞれ、頑張ってくれとしか言いようがない」
「被害が出ない訳だよね~」
 一真とミアキスはなるほど、と納得。
「まぁ、スポ魂みたいな理由だが、紛らわしいから、灯がある所で理解得てやれ」
「でも、ティアは悪い人達が悪いようにしてないから、お仕置きはいいと思うのさー」
「俺もです。凄く人騒がせではあるので、近所の方には説明いただきたいですが」
「それな。説明すれば納得するだろ」
 灰司にティアが続くと、リオがひとつ提案し、灰司もそれには賛成する。
「征四郎も特訓は応援したいです。修行は人を強くするのです」
 毎朝剣の素振りを行うという征四郎は、智治の特訓に理解を示した。
「征四郎は、あの日に1度死んでしまったようなものですから、死ぬことは怖くないのです。でも、だから。……怖いのにそうやって頑張って戦えるの、すごいことだと思います」
「……虫と幽霊が怖ぇのもついでに特訓して貰ったらいいのによ」
 励ますように微笑む征四郎の隣でガルーがぽそりと呟いた。
「ぴゃ! それはえっと、ぜんしょするのです……」
「誤解は説明で解いていただくとして、今後は支部の施設で行うべきでしょう。段階的に共鳴した上でということにもなるでしょうし、そうなると、誤解を受け易い。住民の方のことも考えれば、安全策を採った方がいいです」
 単純に励ますだけではない菊次郎の言葉は、事実である。
「恥ずかしいと言っている場合でもないだろう。任務にしてしまった時点で十分恥ずかしい」
「それは言えてるな。その位なら自主訓練の形で場所だけ借りろと言われるだろうな」
 テミスにニクノイーサが同意する。
 それも、結局、人騒がせで終わってしまうのだが。
「子供達の方が意外に冷静でしたね。悲鳴が同じ人であると気づいていた子がいました。従魔や愚神のことは大人達の方が詳しく知る分、その可能性と思ったら、後はロック掛かったのかもしれませんが」
「安全と思い込むのも問題だけど、きちんと確かめないのも問題ってことだね」
 朝霞の見解に、レヴィがやれやれと溜息を吐く。
 事件は無事解決、全員でファミレスで食事をすることとなった。

「ケンザキの太刀筋はとても美しいのです。練習のタマモノと思うのです。是非見習いたいのですよ」
「ありがとうございます」
 そう話しかけてくる征四郎へ高音が微笑みを向ける。
 先程まで朝霞へ「流石探偵ですよ」と話していた征四郎は、初の深夜ファミレスに大はしゃぎのようだ。
「取りあえずミックスグリルひとつ! あとドリンクバーも!」
「ティアはこのページ全部なのさー♪」
「この時間まで起きてたら何だかお腹が空いちゃいましたので、俺もこのページのものを全て」
 ミアキスに続くティアとリオの注文の仕方が何かおかしい。
 が、灰司もレヴィも彼らが食べることをよっく知っているので最早何も言わない。
「あー、疲れた。やっと一息。私もお腹空いちゃったよ。何食べよう」
 朝霞もメニューを広げ、食べるもの吟味。
 征四郎が真剣に悩むのをガルーが茶化すが、征四郎には重要な問題の模様。
 十架にも重要な問題らしく、「高音……半分こ……」とおねだりしていたり。
「半分こ、いいなー。ニックだとちょっと厳しい」
「当たり前だ」
 朝霞がニクノイーサをちらっと見ると、ニクノイーサは誰に物を言っているとばかりに髪をかき上げた。
 それらを、本日の財布(ティアとリオで死亡確定)の智治と明は微笑ましくも財布の中身を気にしており、彼ら的には何事もある展開であるのは分かる。
「しかし、戦闘の恐怖……義の剣を振るう喜びで満たされれば、そのような暇感じる暇もなかろうに」
「それは特殊なありようかと」
 理解出来ない様子のテミスへ菊次郎が呟く。
「痛みを感じることが出来ない子供が長生き出来ないように、恐怖を感じること自体は悪いことではありません。行動そのものを訓練で矯正するのは正しい訳ですから、後は場所さえ考えれば……」
 菊次郎が言い掛けた所で、最初の料理がやってくる。
 噂の異形の正体は物理的に倒されることはないだろうが、多分財布的に倒される。
 それだけは、確かな未来だろう。合掌。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866

重体一覧

参加者

  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • うーまーいーぞー!!
    天原 一真aa0188
    人間|17才|男性|生命
  • エージェント
    ミアキス エヴォルツィオンaa0188hero001
    英雄|15才|女性|ブレ
  • 薔薇崩し
    柏崎 灰司aa0255
    人間|25才|男性|攻撃
  • うーまーいーぞー!!
    ティア・ドロップaa0255hero001
    英雄|17才|女性|バト
  • エージェント
    レヴィ・クロフォードaa0442
    人間|24才|男性|命中
  • うーまーいーぞー!!
    リオ・メイフィールドaa0442hero001
    英雄|14才|?|ジャ
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 聖霊紫帝闘士
    ニクノイーサaa0476hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
    人間|25才|男性|命中
  • パスファインダー
    テミスaa0866hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
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