本部

情熱していってね!

電気石八生

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 6~8人
英雄
6人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/11/05 11:07

掲示板

オープニング

●「スペイン」に行こう!
 某県のすみっこにある小さな某市。
 山に囲まれたこの地は年々急激な過疎化が進んでて、おとなりの強豪市(有名武将と名産品あり)から合併を迫られてたりする。
 このままじゃあ市を名乗る資格は剥奪され、いけすかないあの市に吸い込まれるぅ!
 だから。
 起死回生の策が必要だった。
「――町興ししようぜ!」
 話は簡単。特定の国の名前を借り(パクっ)た「○○村」で町興しってのを、今さらながらやっちまおうってわけだ。
 特に知られてもないけれど、この市には闘牛文化の名残で、でっかくてごつい黒牛のみなさんがのんびり暮らしてる。
 それに地元の農家がトマトの栽培を推奨されてることで、売り物にならないトマトも大量に余ってた。
 で。黒牛とトマトで再現できそうな国をチョイスしてみた結果。
「ほがらかスペイン村」計画がスタートしたんである。

●牛追い血祭りスタート!
 地元の大工さん方が、インターネットの画像を頼りにスペイン風の町を造ってる。
 もちろん「風」なので、再現度も「風」どまりだけども。
「あー、ここの広場はパンプラ広場って言いましてねぇ。ここからぐるーっとまわって村の外まで続いてるサンヘルミン通りを使って、「ほがらか牛追い祭り」をやっちゃう予定なんですわぁ」
 村の中央に造られた広場のど真ん中で、市役所の担当者さんが太短い腕をいっぱいに広げてみせた。
 地元産にこだわった石畳はグリップ最高。どんな人でも生涯最速をマークできるはず……とはいえ、スペインのパンプローナで開催される牛追い祭り(サン・フェルミン)を模してるんなら、まあ「ほがらか」じゃ終わらないだろうけど。
「みなさんにお願いしたいのはですね、その牛追い祭りのプレ体験っちゅうやつでして」
 ライヴスリンカーたちは、とまどいながらうなずいた。

 ――数年前、この市で大量の従魔発生騒動が起きたことがある。
 そのとき開設されたHOPEとのホットラインは今も健在で、この太ましい担当者はそれを使って連絡してきたわけだ。
『どーもどーも、おいそがしいとこ失礼します! いや、あのときはほんとにお世話様でした! それでですねぇ、ラーブスリンカのみなさんに、ちょっおっとお願いしたいことがありまして! いやいや、バトルじゃなくってバイトなんですわぁ』
 確かに、牛につつかれてもケガしないライヴスリンカーにぴったりのバイトだけど……。
 そしてその依頼は不思議なほどあっさり受理されて、ライヴスリンカーたちは送迎用マイクロバスでここまでやってきた――

 まあ、広場の端っこにビニール紐で作られた柵の内、のんびり反芻など嗜んでいらっしゃる黒牛のみなさんを見るに、それほどの危険はなさげ。
「おーい、おまえらぁ、もうすぐ練習始めんぞぉ」
 べ~。
 ……追われるこっちがなんだか不安になるくらい、覇気のないお返事だし。
「本場は12頭っちうことなんですが、数がそろいませんで、半分の6頭になっとります。代わりにコースの長さは3倍の2400メートル! いやぁ、2倍じゃしょぼいですんでねぇ。がんばりましたよぉ」
 長ぇよ! つつかれる前に疲れて死ぬわ!
 思わずツッコみかけた、そのとき。
「ンベェエエエエエエエエエ!!」
 地を震わせる、野太いいななき!
 柵の中で、黒牛のみなさんが荒ぶっていた。
 明らかに先ほどまでとは様子がちがう。なによりも気配が! これは、まさか――!
「おお! 本番が近いからって、牛もやる気出してきましたなぁ。こりゃ動物プロダクションと契約できるかもしれんですわぁ」
 思わぬ金儲けなんか企んでる場合かっ。
 この市を襲った従魔がなにかの形で這い出してきたか、それとも市のどこかに従魔を呼び寄せるスポットでもあるのか、それはわからない。
 わかるのは、黒牛のみなさんが、どこからか現われた従魔の依り代となってしまったことだけだ!
 とにかく、このままにはしておけない。
 6頭を村から引き離し、その上で、従魔を退治する。依り代となっている黒牛さんを救えるかはわからないが……。
「あ、牛がこっち向かってきましたんで、今からスタートっちうことでひとつ」
 ほがらかじゃ終わらない牛追い祭りが今、スタートする。

解説

●目的
1.イマーゴ級従魔に憑かれた6頭の黒牛さんを、一般人に被害を出さないよう村の外まで誘導してください。
2.黒牛のみなさんに憑いた従魔を退治してください。

●状況と地形
・村にはサンヘルミン通り以外の路も多数ありますが、あちこちに作業中の人がいるので、安全に黒牛さんを誘導できるのはサンヘルミン通りのみとなります。
・黒牛さんは足が遅いので、みなさんが本気で走ると簡単にぶっちぎれてしまいます。目標を見失う、もしくは村内で攻撃や走行の妨害を受けると、黒牛さんはサンヘルミン通りを外れて一般人に襲いかかります。
・最低3名が目標として存在すれば、あとの方は自由行動できます。
・村の外は未整備の山の中腹です。道路と空き地があり、空き地にはレンガや切り出した石、セメント袋等の資材が置きっ放しになっています。
・黒牛さんの生死は勝利条件に含まれません。ただし、一般人に被害が出た時点でこの依頼は失敗となります。

●黒牛さん(イマーゴ級従魔)×6
・取り憑かれて視界の狭まった黒牛さんですが、激しく派手な動きにつられてついてきます。
・攻撃は「突進」による頭突き(近接単体物理攻撃)のみ。その動きは直線的で、障害物があっても避けられません。
・黒牛さんたちはAGWで攻撃するとショック死します(取り憑いた従魔も滅びますが)。
・黒牛さんは、ちょっとした凹凸に引っかかって転びます。
・黒牛さんが転ぶと、従魔は体外へ転がり出ます。
・転がり出た従魔はAGWの一撃で滅びます。

●太ましい担当者(メタボリック級ヒューマン)
「ほがらか牛追い祭り」を成功させた次は「なごやかトマト祭り」を開催しようと企んでいます。

リプレイ

●牛に追われろ!
「ベェエエエエエエエエエ!!」
 とりあえず駆け出すライヴスリンカーたち。
「このタイミングで憑かれるとかマジか!?」
 殺気みなぎる顔とは裏腹に、どっこどっことの~んびり走ってくる黒牛さんたちを振り返り、赤城 龍哉(aa0090)が口の端を歪めた。
 それに鋭く言葉を返すのは、龍哉の契約英雄ヴァルトラウテ(aa0090hero001)だ。
「気持ちはわかりますけど、呆けてる時間はありませんわ!」
「……ちっとくらい呆けてても大丈夫だろ」
 緊迫感がなさすぎて、ツッコミにもキレが出ないご様子。
「とはいえ、このまま皆で追われても意味がなかろう。役割を決めようぞ。言い出しっぺのわらわは「その他」じゃ」
 カグヤ・アトラクア(aa0535)が機械化された右目で一同を見やる。
 その他? 話を聞いてない者を除く全員が疑問符を飛ばし合う。
「はい」
 カグヤの契約英雄クー・ナンナ(aa0535hero001)がだるそうに手をあげた。
「見学役希ぼ」
「わらわの下僕役か機械惑星を繋ぐネジ役の二択ぢゃあ!!」
 なにその理不尽。どこぞの宇宙列車ロマン作品の女王か。
「機械の体になると寝られないし。でも、だらだらできるよね」
 そしてクーの意志は、タダでもらえる機械の体(ネジ)を選ぶ方向で固まったらしい。
 カグヤは無言でクーの後頭部を機械の右腕でラリアット。なにも言わなくなったクーを引きずりながら話を戻す。
「では、牛に追われる者~?」
「俺俺! 俺がウシヅノでモォおおおおおお!」
 食いついたのは鈴原 絵音(aa0874)の契約英雄、信長(aa0874hero001)だ。
 ちなみに絵音の姿は見当たらない。このコンビ、それぞれ相棒ほったらかしてなにをしてるのか。
「このやる気……私たちも負けていられませんわね!」
 信長の気圧を受け、闘志を燃やすヴァルトラウテ。それを龍哉がげんなりとたしなめた。
「アレはやられる気だ。不戦敗しとけ。知らねぇ世界に連れてかれんぞ」
 含みのある相棒のセリフを理解できず、ヴァルトラウテが小首を傾げた。
 そこへ、華麗なステップを踏み踏み信長が割り込んだ。
「俺、絶対負けないからねえ!」
「望むところですわ! たとえどのような敵が襲い来ようとも、この私が喜びの園へ送ってさしあげます!」
「悦びの園……? すばら、じゃなくて恐ろしい子っ!」
 致命的に噛み合ってねぇよ。龍哉は残りのメンバーの方へと目を反らしたが。
「……ん、肉!!」
「ええい待たんか!! 倒したからって俺らに所有権があるわけじゃねぇんだぞ!? っていうか倒しちゃダメなんだよ!」
 逆走して黒牛さんたちに突貫しかけた契約英雄のユフォアリーヤ(aa0452hero001)を羽交い締め、麻生 遊夜(aa0452)は無理矢理にリンクして主導権を奪う。
『……あぅ、お肉……』
「肉はあいつら救って、全部終わってからだ!」
『救って終わったら、お肉……?』
「ああ。救って終わったら――牛は牛のままか。まぁ、未熟な俺に救えるかわからんしな。いや救えねぇ。むしろ救わねぇ……クッ、落ち着け俺! 負けるな俺!」
 こっちもか。絶望する龍哉の肩に、浪風悠姫(aa1121)がそっと触れた。
「赤城さん、大丈夫ですよ。牛、絶対助けましょう」
 ちょっとがんばってる感はあるが、相棒と変態と肉食に痛めつけられた龍哉の心に染み入る、まっすぐな言葉だった。
「僕、農家の出なんで」
 なるほど。牛を大事にする気持ちは、農家だからこそか。納得しかけた龍哉だったが。
「いざってときは、獲物の仕末とその調理は任せといてください」
 悠姫の契約英雄、須佐之男(aa1121hero001)が、にっこり笑顔で言ってのけると。
「あ、料理は僕も得意なんですよ! そしたら腕の見せどころですね」
 悠姫もまた、さわやかな笑顔で言ってくれた。
 これこそが、消費者の心を冷たく打ちのめす狩人&農民リアリズムなんだった。

 ……さておき。一同はそれぞれの役割を決めた。
「わらわは先に行くので、そなたらは存分に牛追われを楽しむのじゃぞ」
 言い残し、クーとリンクしたカグヤが急加速して消えた。
「僕も行きます。なにかあったら連絡しますから!」
 その後を悠姫が須佐之男とともに追いかける。
「お任せえ!」
 信長が満面の笑顔で手を振って見送って、そして。
「しんがりは俺が務めるよお! だって危ないからねえ!」
「危ねぇのはほんとにしんがりか……? 俺とヴァルは誘導役のサポートにまわる」
 龍哉とヴァルトラウテがうなずき合い、リンクした。
『……お肉、連れてく』
「リーヤ、お肉じゃねぇ。黒牛肉(くろうしにく)だ」
 牛肉に熱い執念たぎらせるユフォアリーヤと、それをたしなめる遊夜に、力なく龍哉がツッコんだ。
「せめて最後の2文字はカットしろよ」
 しかし。
『……肉を、カット?』
「リーヤ。後で分厚くカットしてやるから、今は仕事に集中しろ」
『ポンド? 何ポンド?』
「焦るな、ますは1ポンドだ。よし、Tボーンは俺たちで確保する!」
 肉に目がくらんだ遊夜&ユフォアリーヤコンビが、目的を見失った会話を展開する。
『今はなにを言っても無駄だと思いますわ』
「安心しろ。なんも思いつかねぇから」
 サンヘルミン通りを抜けて村外へ出るまで、残り2000メートル。

●こちらサンヘルミン通り
 ここはスタート地点。
「――かれいにういじんきめるぜ!!」
 零崎 凶夜(aa1648)が叫ぶ。
「キョウちゃん、顔にヨダレの跡ついてるんだけど」
 ため息まじりで凶夜の頬をつついたのは、彼の契約英雄であるイリア・オデット(aa1648hero001)だ。
「あの太ましいヤツの話が長くてよー」
 居眠りしたあげく、取り残されたわけだ。
「マジやべぇ。追っかけるぜ!」
「最初にリンクするって言ってたでしょ!?」
 イリアに言われてリンクを完了し、今度こそ凶夜が走り出そうとしたそのとき。
「僕の相棒も張り切ってたし、急ぐ必要もないでしょ。まったり行きましょ~」
 ぶっきらぼうなのにどこかゆるい口調で凶夜に話しかけるのは、あの信長の契約者、絵音だった。
「うぇい!? てめぇ、なんでこんなとこにいんだよ!?」
「僕? ベジタリアンだから牛に興味とかないですし。後で倒れ伏した牛なんかスケッチできたらそれでいいかなって思いますし。なにより――」
『怖いよキョウちゃん、この人静かに微笑んじゃってるよ!』
「気ぃ抜くなよ。こういうのがすげえ強かったりすんだぜ!」
「――働きたくないでござる!!」
『すごい迫力だよ! 働かない気まんまんだよ!』
「ベジタリアン超やべぇ!」
 おののいた凶夜は全力で逃走を開始するんだった。

 一方、誘導チーム。
「ベェエエエエエ」
 Wの陣形でサンヘルミン通りいっぱいに詰まった黒牛さんたちが追いかけてくる。
「さぁさ、こっちだ! よそ見してるヒマはないぜ!」
 マフラーとともに、赤い旗――町を飾る色とりどりの旗の1枚を拝借してきたのだ――をくくりつけたシッポをバッサバッサとはためかせ、遊夜が黒牛さんを挑発した。
「ははははは」
 その後ろを走る信長が、旗に叩かれるたびになぜか高笑いをあげる。
 今。彼は別の赤い旗をかぶっただけの、裸であった。
 いや、最初は服を着ていたのだ。それが走るにつれ、1枚1枚旗の下からパージ(切り離し)されて……。
「このままだとぽろりとイくよお! 新生するよお! 生まれたての俺がおはようございまあす!」
 狂おしいほどに本物だった。
 はやく社会からパージ(追放)されたらいいのに。
「ベェ!」
 黒牛さんたちもそう思ったのかはわからないが、信長よりも遊夜を追ってくる。
『お肉、赤色好き……?』
「実際は色を判別できないそうだが。ま、ハデに動けば追ってくるだろ……っと」
 遊夜は道の横に落ちていた空のペンキ缶に手を伸ばし、横の小路に投げ捨てた。
 そちらに目を奪われかける黒牛さんを、今度は龍哉が「おまえが行くのはこっちだ!」と誘導する。
「しかしなんだよあいつら。横並びしやがって、女子か」
『見たところ男子ですけれど。それよりもまずいですわ』
 ヴァルトラウテに言われて見てみれば、最初から遅い黒牛さんたちの速度がさらに落ちていた。
 取り憑いた従魔の能力が低いため、強化が半端で疲れてしまったのか。
 このままやる気を失くされ、横路に逸れられたらまずい。
「――おらおらこっちだぜノロマ牛肉野郎!」
 牛の後ろから、凶夜の威勢のいい声が飛んできた。
「俺到着! 寝過ごして遅れたなんて言えねぇけどな!」
『大きな声で町中のみなさんにお伝えしちゃってるよ!?』
 イリアの声は無視。凶夜は右の手にくず鉄を握り、左の手にもくず鉄を握ってぺっくんぺっくん打ち鳴らした。
「やる気だせ牛肉! 応援するぜ牛肉! ウェイウェイウェイ」
『キョウちゃんいつもよりもっとバカそうに見えるからやめて!』
 凶夜の華麗なウェイウェイに煽られる黒牛さんたち。そして。
『……ボクも、ウェイウェイする!』
 なぜか黒牛さんといっしょに煽られるユフォアリーヤ。リンクしていなければ拳をぎゅっと握っていただろう。
『お肉がおいしくなるように……ウェイウェイする……!』
「リーヤ待て! いろいろ待て!」
 かくして勃発する、遊夜とユフォアリーヤの主導権争い。
「わかった、俺がやるから!」
 荒ぶるユフォアリーヤをなんとか抑えこんだ遊夜は泣き笑い。
「赤城さん、あとは頼む」
「あー、うん。まあ、がんばってな」

 ※ここからしばらく、セリフのみの中継となります。
遊夜「ウェーイ牛ウェーイ」
凶夜「ダメだな。ウェイにキレがねぇ」
イリア『麻生さんがんばってるよ! いいお歳なのに』
ユフォアリーヤ『むぅ。ユーヤはもっと……ウェイウェイできる!』
凶夜「マジ無理やべぇって! ギックリしちまうぜ?」
遊夜「言わせておけば! かくなる上はリミッター解除! おまえら見てろ。この俺の、若さの限界突破を!」
龍哉「若さ超えちまったら、若くなくなんじゃね……?」
ヴァルトラウテ『気高いですわねあの覚悟! さあ、私たちも続きましょう!』
龍哉「えぇ!?」
信長「盛り上がってきた今! 俺もファイナルパージ!!」
絵音「はいはい、踊り子さんこっち向いてー。克明にスケッチするよー。ネットにあげて腐った方々に公開しちゃうよー」
信長「そんな――ありがとうございます! 生まれたての俺を描いてえ」
イリア『さっきの働かない人!? ってゆうか輝く笑顔の変態さんが――』

 サンヘルミン通りを抜けて村外へ出るまで、残り1000メートル。

●その他チーム(主にカグヤ)の陰謀!
 村外へ向かったカグヤと悠姫たちは、建設予定地にまとめて置かれていた資材で工作中だった。
「そっちはどうじゃ?」
 機械の右腕を駆使し、セメント粉をこねまくるカグヤが顔を上げた。
「だいたい終わりました」
 カグヤのこさえたセメントでレンガを積み、集めてきた資材で補強しつつ一方通行の路を作っていた悠姫が額の汗をぬぐう。
「セメント使い放題はいいのう。水でかさ増しせんでよいから強度が落ちぬ」
 カグヤは片手間に、あちらこちらへ落とし穴を掘り掘り。
「須佐之男といったか? 穴の偽装は任せたのじゃ。狩りが趣味なら、こういうのはお手のものじゃろ?」
「わかりました……って、この穴、深くないですか?」
 人ひとり直立状態ですっぽり収まる深さの穴を見て、須佐之男はとまどうが。
「追う牛と追われる輩、全員参加で障害物競走をやってもらおうと思うてな。よもやのぽろりもあるやもしれんのう」
 1400メートル地点ですでにモロりしてるヤツがいようとは、さすがのカグヤもまだ知らないわけだが。
「演出の爆発も欲しいところじゃが……悠姫、須佐之男、ドカンとリンカーを吹っ飛ばせるAGWを持っておらぬか?」
「も、持ってないです」
 声をそろえる悠姫と須佐之男。
「無念じゃのう。で、クーよ。次の穴じゃが、どこに掘るかの?」
『1メートル間隔で掘るといいかも。ネタ的に鉄板だし?』
 眠そうな声で、実にえげつないアドバイスをクーがかます。できればカグヤを止めてほしかった。
「おお、油断したところに追い打ち連打か。彼奴らのリアクションに期待じゃの」
 いけない。このままでは、牛よりも仲間たちが危険だ。
「あ、あの、カグヤさん?」
 意を決し、悠姫がカグヤに声をかけた。
「みんなに罠のことは教えときませんか? リ、リアクションはお願いするってことで」
『素人がネタを知ってるとまずスベるよね』
「ああ! それはいいな! 俺もそれがいいと思います!」
 須佐之男がクーのセリフをかき消しながら、カグヤにずいずい近づいた。
「なんじゃ暑苦しい。まあ、好きにせよ」
「はい! すぐ連絡します!」
「……その代わり、ひと仕事頼もうかの?」

「――罠はできてますから牛を引っぱってきてください」
『わかった! こっちも『ありがとうございますっ!』もうちょいで着『ありがとうございますっ!』く!』
「? あの、赤城さん? 妙な声が聞こえるんですけど?」
『牛につつかれて『ありがとうございまあす!』るヤツがいるだけだ。切るぞ『あり――』
「スマホの向こうでなにが起きてるんだろう?」
 悠姫は首を傾げたが、切れた電話はなにも語らない。
「俺に根拠を語る記憶はないが、きっとそれは知らないほうがいい」
 敵の存在と自分の成すべきこと以外はほぼ記憶のない須佐之男だが、なぜか確信に満ち満ちた表情で悠姫を諭した。
「それより、俺たちの出番だぞ」
 沈痛な顔の須佐之男が悠姫の肩をつかむ。
「え? 僕、ちょっと離れた場所で、牛が罠にかかるの待とうかなって」
「牛を救い、仲間を守り、正義を成すため、暴力に身をさらすことを怖れるな!」
 須佐之男の目がギラリと光った。
「俺たちはいつだっていっしょだろ?」
 ひぃぃ。悠姫のノドを、高い悲鳴が吹き抜けた。

●騒動の終わり
『村を出ましたわ!』
 ヴァルトラウテが一同に告げた。
 黒牛さんたちもちょっと飽きた感じながら、なんとかついてきてくれている。
『でも、浪風君が言っていた罠の入口はどちらでしょう?』
 と。迷うまでもなかった。
 あばばばば。
 なにやら超高速で点滅してるものがいた。人だ。言ってしまえば、悠姫と須佐之男だ。
 横には工事現場を照らす灯の電源用なんだろう小型発電機が置かれていて、そこから伸びる黒いコードがふたりの体に巻きついていた。
「わらわの超技術により、死なぬ上になぜか光るというマンガ的アレをたまたま実現した人間&英雄ビリビリゲート! 汝らも触れたら即刻「あばばば」ぞ!?」
 高く笑うカグヤと、あばばばする悠姫と須佐之男。
 なんと言うか、まじめな人ほど割を食うのが世の中なのだ。
「あんたらの犠牲、忘れねぇぜ!」
 遊夜が先陣を切り、幅2メートルの間隔で立つ「あばばば」の先、レンガ壁で仕切られた巨大迷路へ突っ込んだ。
「ベエエエエ」
 I字並びに陣形を変更した黒牛さんたちが迷路になだれ込む。その、最後の1頭がゲートに差しかかった瞬間!
「あばばばば(今だ悠姫)!」
「あばばばば(わかった)!」
 ふたりが、それぞれを震わせる黒いコードを握り、かがみこむと同時に強く引いた。
 低く張られた2本のコードが牛の前足と後足を引っかけてこかす。
「ベェ!」
 転がる牛の体。そこからさらに小さな黒い毛玉が転がり出て、「キー」と弱々しい声をあげた。それこそが、黒牛さんを暴走させた従魔だ。
 牛を引っかけた勢いでコードから開放された悠姫が、相棒に拳を伸べる。
「須佐之男!」
 それに応えた須佐之男もまた拳をつくり、ふたつの拳が強く打ち合わされた。
「リンクッ!」
 果たして現われるライヴスリンカーの勇姿。
「今、僕たちが正義を執行する」
 ――そこからはもう、阿鼻叫喚だった。
 先頭を走る黒牛さんといっしょに、遊夜が落とし穴に落ちた。
「俺たちごと……だとごはぁっ!」
 その上を残りの黒牛さんたちと仲間たちが踏みつけ、踏み越えていく。
「俺が決めるぜええええ!?」
 すぐ次の穴に凶夜がハマった。
 これは責められまい。携帯なし、持ちものはくず鉄のみで、しかも牛の後ろにいたから悠姫の連絡も聞いていない。そして頭もすさまじく悪い彼に、トラップを意識できるわけがなかったのだ。
「ダメだぁ。もう俺、やる気でねぇ」
『キョウちゃん! がんばったら焼肉とか食べられるかもよ! それにほら、牛さんが好きそうな草もあるから使えるかも!』
「うおおおおやるぜ俺は! 草うめぇええ!?」
 イリアの言葉を曲解し、凶夜は穴の中に落ちていた雑草を食べて即復活! 直後に3つめの穴へ落ちた……。
『――あっちの牛から従魔が出たよ』
 クーの指示で従魔をフェイルノートで居抜いたカグヤが、つまらない顔でうそぶいた。
「ん~、やはり落とし穴ばかりではおいしさが足りんのう。ビリビリゲートも不発じゃったし」
 当然、黒牛さんといっしょに罠にかかりまくっているリンカーたちには、おいしさもなにもないわけだが。
「うわ!」
 迷路内を迷走する牛へ後ろから飛びかかった悠姫が、続く牛の角に引っかけられて宙を舞った。
『キーっ! あれは俺の役なのにい!』
「今リンク中なんで、跳びたかったら解除してからにしてくれます?」
 信長と絵音がなにやら言い合っている間に、悠姫は迷路を飛び越え、どぷりと落ちた。
「やわらかくて助かった――って、粘っこい! 灰色の泥!?」
『これ、カグヤさんがこねてたセメントじゃないか?』
 灰色のドロドロが立ち上がろうとする悠姫にまとわりつき、転ばせる。
「僕たちリンクしてるのに!」
 と。
「ああっ! わらわの玉の肌にドロドロとしたものが!」
 悠姫の横にいつの間にか、楽しげにもがくカグヤがいた。
「ちょ! なにしてるんですか!?」
 顔だけは綺麗なまま保つカグヤが、ふんと鼻息をひとつ吹いて。
「このままでは見せ場が足りぬじゃろ? 美女が泥んこという王道を加えてみたのじゃが、イマイチおいしくならんのう」
『スクール水着になるのは止めたけど、むしろそっちのほうがよかったかもね』
 淡々と述べるクーだったが、いろいろちがうと思うぞー。
「――そぉいっ!」
 ようやく迷路を抜けた龍哉が、追ってきた黒牛さんを首投げでぶん投げた。
 地響きをたてて倒れる黒牛さんから従魔がこぼれ落ちる。
『従魔よ。汝の悪行もここまでですわ』
「ぶった斬るぜ!」
 そしてプレほがらか牛追い祭りは幕を下ろしたのだった。

●そしてトマトへ
 悠姫に引かれ、黒牛さんたちが村へと無事帰りついた。
「あー、みなさんお世話様でした! じゃあ、あとでレポート出してもらうってことで」
 颯爽と踵を返す担当者。その三段首をつかんで止めたのは、凶夜とのリンクを強制解除して跳びだしたイリアの右手だ。
「あたしたちバイトだけじゃなくて従魔退治もしたのよ!」
「そりゃおつかれさんです。じゃ」
 イリアの手を首肉のぷるるんだけで外し、担当者は去ろうとしたが。
「そうじゃなくてぇ……誠意? そういうのあんだろゴラ? ミノとかタンとかハラミとか?」
 さらにイリアは「あ?」というヤンキー顔で担当者へ迫ろうとするが。
「イリアさん、待て」
 遊夜が真剣な顔で立ちはだかり。
「Tボーンは渡さねぇぜ?」
 ヴァルトラウテが息を呑み、龍哉がツッコむ。
「執念、ですわね」
「アメリカ人かよ」
「まあまあ。このままでは収まりも悪いですし」
 須佐之男が間へ入り、担当者に提案した。
「焼肉でお疲れ様会というのはどうです? 黒牛、俺と悠姫ならさばけますしね」
「あ、あんたら、ウチの牛を――!?」
 おののく担当者。その太ましい体へ、イリアと遊夜、ユフォアリーヤ、ついでに悠姫と須佐之男が詰め寄っていく。
「くっ。わかりましたよ。じゃあ、すぐ用意しますんで……」

「これは! 黒牛肉じゃねぇ!」
 パンプラ広場のど真ん中、バーベキューグリルに乗せられた赤身の牛肉を見て、遊夜が絶叫した。
「買い置きの……オージー味」
 薄切り肉をむぐむぐ、ユフォアリーヤが分析する。
「すみません。厚めにカットするほどの大きさが……」
「ビーフシチューにでもするべきだったなぁ」
 なぜかあやまる悠姫と、苦笑する須佐之男。
「でも、喜んでいる方もいらっしゃいますわよ?」
 ヴァルトラウテが指した先には、口いっぱい状態の凶夜がいた。
「こ、こいつぁ町興せるレベルだぜ! イリアも腹いっぱい食ってうしちちになろうぜ?」
 と、サイロで熟成させた牧草を差し出す凶夜の右耳へ、イリアは左フックをお返しした。
「地獄で牛鬼の胸でももんできて?」
 一方、肉チームとは少し離れた場所で、絵音は服を着た信長と野菜生活を送っていた。
「信長先輩、そこの野菜とってもらえます?」
「はいトマト」
「あっちのも」
「はいトマト」
 つけあわせの野菜は大量の、赤く熟した生トマトのみ。
 そのトマトで作ったジュースをあおり、カグヤは担当者にからんでいた。
「担当者よ! この祭は参加型なのに利点が少ない! 牛にゼッケンをつけて観客に順位を賭けさせるのはどうじゃ!? クーよ、早う代わりをもて! それと小耳に挟んだのじゃがトマト祭りとやらを企んどるらしいの? 食べものを粗末にするなど言語道断! クーがよりよい祭を考えてやるわ!」
「おかわりだよ」
 クーから渡されたトマトジュースを一気にがぶ飲み、カグヤはさらに勢いを増す。
「あー、はいー、前向きに善処しますんでねー」
 熱い語りのことごとくを役人式回避術でぬるぬるかわす担当者。
 しかし、その唇が密かに紡いだセリフを、ユフォアリーヤは見逃さなかった。
『トマト祭りはもう止められませんでねー』
「……ユーヤ」
「ああ。こいつはイヤな予感がするぜ」
 ででんでんででん。ででんでんででん。
 終わ――らない。
「あ、トマト祭りするなら僕もぜひ呼んでください。栽培方法なんかも教えてもらえたりしませんか?」
「はいはい。浪風さんねー。かわいらしい顔してますなぁ。ほんとにオトコの人?」
「わらわの提言を聞けぇーっ! ……トマト祭の3日前にはわらわも呼べ。今度こそ技術の粋を尽くして参加者どもを恐怖のずんどこへ叩き落としてやるわぁ!」
 そんなカグヤを見て、龍哉はごく短くまとめたのだった。
「古!」

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • おうちかえる
    クー・ナンナaa0535hero001
    英雄|12才|男性|バト
  • 豆芝の主人
    鈴原 絵音aa0874
    人間|24才|男性|生命
  • エージェント
    信長aa0874hero001
    英雄|28才|男性|ドレ
  • ヒーロー見参
    浪風悠姫aa1121
    人間|20才|男性|攻撃
  • エージェント
    須佐之男aa1121hero001
    英雄|25才|男性|ジャ
  • エージェント
    零崎 凶夜aa1648
    人間|22才|男性|攻撃
  • エージェント
    イリア・オデットaa1648hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
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