本部

ハロウィン☆コスプレライブに届いた脅迫状

せあら

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
0人 / 0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/11/01 23:06

掲示板

オープニング

 薄暗い室内に一人の青年がいた。
 床には乱雑したゴミが幾つも散らばり、壁にはアイドルのポスターが幾つもの張られていた。そんな中青年……草柳陸は机の上に置かれたパソコンの前へと座っていた。パソコンの画面には二人組のアイドルの格好をした少女達が映っていた。少女達の名は「star・dust」それは今をときめくアイドル声優ユニットだった。
 star・dustはオタク達の間で爆発的な人気を誇り、今月に行われるstar・dustの初ライブ「ハッピーハロウィン☆star・dust」は普通のライブとは違い、観客達も仮装してライブを盛り上げアンコール曲に「トリックオアトリート」と叫ぶとstar・dustがサプライズで何かを投げてくれるとネットで話題になっており、その為チケットも即完売した。
 陸は画面……動画に映り、歌っている二人の姿をニヤリとした嫌らしい笑みを浮かべ見ていた。
 ああ、なんて愛らしいのだろう。彼女達を自分のものに出来たらどんなに幸せなのだろうか……
 だけどそれは一生叶わない。
 何故ならば自分は一般人であり、彼女達は声優アイドル。これは一生越えられない壁に過ぎないのだ。
 それに彼女達の人気は今や留まる事を知らない。その為もあってファンの数も昔に比べて格段に多くなった。彼にとってそれは不愉快であり、解せなかった。自分の方が彼女達の事を理解しているつもりだし、分かっているつもりだった。これ以上彼女達が自分以外の人間に笑いかけるのが許せなかった。
 陸はパソコンの画面を切り替え、キーボードを叩いた。
「俺が君たちを守ってあげるよ」
 彼の想いは歪んでいた。酷く、酷く歪んでいたのだ。それすらも彼は気づいてはいない。
 それが彼の中にある絶対的な正義であり、彼女達を想っての事だと信じていたのだ。
 画面に映る文面を作成し終わると、彼は携帯端末を操作しある人物へと掛ける。三回目のコールで相手へと繋がった。
「俺だ。悪いが小麦粉を大量に譲って欲しいんだ。えっ? 何に使うかって、それはもうすぐハロウィンだから妹が菓子を作って配るんだとよ。その為に使うんだ」
 陸は電話の相手に誤魔化しながらそう告げた。
 

●ハロウィンライブ
「えっ! 脅迫状!」
 控室でstar・dustの星空セリカ達の女性の若いマネージャーは驚きのあまりに声を大にして目の前の男性のスタッフへと言った。
「はい、先程会場宛に届いたのです。ライブそのものを中止しないとstar・dustのお二人に危害を加える……と」
 そう言いながらスタッフはマネージャーへと一枚の紙を差し出した。マネージャーはそれを受け取り、見る。
『「ハッピーハロウィン☆star・dust」を中止しろ。さもないと当日star・dustの二人に危害を加えると同時に会場に仕掛けた爆弾を爆発させる。PS兎の縫いぐるみとは可愛いものだな、あの二人にぴったりだ』
 文面を見たマネージャーは青ざめながら不安そうに小さく呟いた。
「こんなのが届いたら中止にしないといけないかもしれないわね。安全面とかも考えて……」
「中止とか、そんなの絶対に嫌よ!」
 マネージャー達の会話に星空セリカは椅子からガタッと音を立てて立ち上がり、マネージャーに向かい声を荒げ強く叫んだ。
「だって、だって……せっかくここまで来たんだもん。一週間後には憧れのステージで歌える! 夢が叶う瞬間なのに……それなのに諦めるなんって出来ないよ……」
 star・dustは今や大人気アイドル声優ユニットだが、最初の頃は人気など全くなくファンの数は数える程度なものだった。だけど彼女達は声優としてどんな小さな役でもこなし、それと一緒に歌を歌い続けた。理由は演技が好きだから。歌が好きだから。そして見てくれる人達に楽しんでもらいたいから。そんな理由で今までやってきた。
 アイドル声優とは聞こえは良いが、けして平坦な道ではなく険しい道のりそのものだ。だが、それでも二人は人気アイドル声優への階段を上って来た。今まで応援してくれたファンの為にも今回初のライブとなる「ハッピーハロウィン☆star・dust」はどうしても成功させたいと言う想いがあった。
 応援してくれているファン達、歌を聞きに来てくれる観客達に少しでも楽しんで欲しい。喜んで欲しい。こんな事で中止になる事は、どうしても納得が出来なかった。
 マネージャーはセリカの方を振り向き。
「でも、そんな事言っても脅迫状が届いた以上危険があるかもしれないの」
「そんな……だったら中止しなければならないの?」
 悲しげに掻き消えそうな声で言うセリカにマネージャーは彼女を宥めるかのように優しく言う。
「あなた達の安全が最優先なのよ。私だって本当は諦めたくはないわ。一緒にここまでやって来たんだから……でもね、ライブはまた出来る。だから……」
「ちょっとそれ見せて」
 雨音雪乃はマネージャーの声を遮った。マネージャーは彼女に脅迫状を差し出し雪乃はそれを見る。そして瞳を大きく見開き、ある物を見つけた。
「私この人知っているかも……しれない……」
「どういうこと?」
 雪乃の呟いた声に疑問を感じながら訪ねるセリカに雪乃は脅迫状をセリカとマネージャーに見せながら「ほらここ」と言い右端を指さす。そこには小さく『貴方達を想っている』と書かれていた。
「これってあの人だ……昔からいつも応援してくれている古いファンの人」
 セリカはそう小さく呟く。そして同時にどうしてこんな事をするのだろうか……と思い気持ちが沈み掛ける。
 そんなセリカを見て、雪乃は意を決し真っ直ぐな瞳を向けながら凛とした声でマネージャーへと言った。
「私はやっぱり諦めたくない。応援してくれているファンの人達の為にも。だからホープに正式に依頼をして捕まえて貰おう。彼に罪を償ってもらう為に」

●10月30日
 広く巨大なホールにスタッフ全員が集められていた。彼ら全員は自分達の目の前に立つ一人の男へと視線を注いでいた。
「えー、集まってもらったのは他でもない明日のライブにリンカー達が来てくれる事となった。観客達への対応だが、リンカー達と犯人の戦闘になった場合リンカー達の指示に従い連携、立ち入り規制を中心に行う」
「それにstar・dustの二人は心からライブを成功させたい。諦めたくないと言っていた。何の為に言っていたか分かるか? それはファンの為に歌いたいと言ったんだ」
 脅迫状が届いたあの日彼女達は「私達は諦めたくない。迷惑だと我儘だと分かっています。だけどお願いです私達に力を貸して下さい」そう頭を下げて言って来た。
 その姿を見て思ったのだ。この子達の思いを遂げさせてやろうと。協力してあげようと。だから彼らは今この場所に立っている。
 男は目を閉じ、そして開くと同時に高らかに声を張り、叫んだ。
「明日のライブ必ず成功させるぞ!」

解説

●ハロウィンライブに脅迫状を出したヴィランを捕縛、爆弾の撤去(爆弾が起爆したら失敗となります)の依頼

●登場人物「star・dust」星空セリカ&雨音雪乃
二人とも17歳の女子高生、声優ユニットアイドル。三年前は全く売れていなかったが今までの積み重ねた努力が実り、今年になって爆発的なヒットに結びつく。
セリカは茶髪の長いポニーテールのツンデレの少女。 雪乃は長い黒髪のロングヘアーのクールな少女。
またアイドル、声優などに詳しいPCは彼女達の事を知っていても構いません。

●犯人、草柳陸 ヴィラン。セリカ達からは犯人の名前と写真(外見情報)が提示されている。

●PL情報です……黒い騎士めいたコスプレ。
掌に炎は野球ボール大のライヴスの炎を生み出し操る。短剣を所持しており、それに炎を纏わせる事も可能になります。

物販、ライブ中は観客席などにいます。
また、曲での観客達の盛り上がりに紛れてステージのどこかに(小道具も含む)仕掛けた合計三つの爆弾のスイッチを押そうとします。

爆弾の他に小麦粉を用意した粉塵爆発も起こそうと企んでいる。小麦粉の袋は会場の柱三か所にセットされている。

●場所、時間……広いアリーナ。
ライブ開演時間は19時。
戦闘を行う場合、会場の外(ライブ中は人の出入りが途絶える為)が望ましいです。

●状況 
観客三万人。
小道具は風船100、兎の縫いぐるみ20。スタッフは事情を知っているので連携可能。戦闘時などの立ち入り規制も行ってくれます。

●現場ではコスプレをしての潜入になります。
プレイングにコスプレの指定をして下さい。尚、版権に触れるものは描写出来ません。

リプレイ

「すげぇ、本物だ……! 雑誌よりも可愛い。あっ、握手して下さい!」
 star・dustの控え室で瞳を輝かせながら九重 陸(aa0422)は目の前にいるセリカ達にそう言った。予定では明日会場に来る予定だったが、リンカー達は送られてきた脅迫状に引っ掛かりを覚え、予定を早めて来たのだ。
「雑誌、アニメ見てくれて有り難う」
 セリカは嬉しそうに微笑みながら九重の手を握り、握手した。
「リンカーさん明日は宜しくお願いします。どうしてもライブを成功させたいんです。ここまで支えてくれたファン達の為にも……」
「雪乃さん、俺にも世界一のヴァイオリニストになるって言う夢があった。『あった』んすよ。……安心して下さい、お二人の夢は俺らが繋いでみせるっすから」
 九重は雪乃達に安心させるかのように柔らかい口調で言った。
「そうですよ。それに努力して夢を叶えるって素敵ですね。だから必ず犯人を捕まえます」
(このアイドルさん達の事は知らなかったけどファンになっちゃったかも。彼女達の覚悟とスタッフの心意気を無駄にしない為にも頑張るよ!)
 スラヴェナ・カフカ(aa0332)は心を新たにそう意気込んだ。

「う~ん、やっぱりこっちには無いか……ねぇそっちはどう?」
 広い室内にテーブルの上に置かれた大量のプレゼント、ファンレターを見ながら橘 雪之丞(aa0809)は数メートル先にスタッフと共に小道具の確認をしている染井 桜花(aa0386)へと話し掛けた。
「風船には……爆弾はなかった……」
 桜花は風船にメンバーしか知らない秘密のシールを貼りながら、無表情に答えると兎の縫いぐるみを手に取った。それを金属探知機に充て、手早く調べていく。すると3つ目の縫いぐるみからビーッとけたたましい音を出し反応を示した。
「あった……」
 桜花は小さくと呟くと、用意していた液体窒素が入った大きめのクラーボックスに縫いぐるみを入れた。すると縫いぐるみに白い靄が覆い、一瞬で固まった。雪之丞は桜花の側に来て視線をクラーボックスへと向ける。固まった縫いぐるみ入りの爆弾を見て安堵し、そして真面目な表情をしながらポツリと溢した。

「この縫いぐるみから出てきたって事は内通者がいるかもしれないよ」

●happyハロウィン☆
 桜花と雪之丞は会場を歩いていた。
 桜花は死神姿、雪之丞はセリカそっくりのコスプレ姿に兎マスクをしていた。昨日あの後、雪之丞が裏ファンサイトで情報収集していると変な書き込みがあった。それはこの会場がライブ中に粉塵爆発をするとほのめかした内容だった。旧 式(aa0545)は雪之丞の話を聞き、スタッフ、バックダンサー達を集め調べた。するとスタッフ達の中に不審な動きをする男性スタッフがいた。式が凶暴な顔をしながら問い詰めると式の顔に恐れ、あっさりと自白した。
 この男は犯人から金で雇われたとのだと言った。仕掛けた爆弾も兎の縫いぐるみ一つだけ。それ以外の爆弾、情報を聞き出しても男は知らなかった。
 おそらく犯人は依頼した爆弾の他にも別に爆弾を数ヶ所仕掛けているだろう……。そう考えながら不意に突然雪之丞は足を止め、一本の白い柱へと目をやった。
 柱の周りには飾り付けをされた花のブーケが2、3個置いてあった。雪之丞はそれに違和感を感じ、手に取ると花の隙間から白い物が見えた。良く見てみると、それは土の変わりに白い小麦粉が花の下に敷かれてあった。
 それを見て隣にいた桜花は突然ハッとし、ある考えに至った。そして二メートル先の柱に駆け寄ると側に置かれた小麦粉が入った大きなカボチャの置物とその隣の柱の上にハート型の風船があり、その両方に粉が入っているのが見えた。
「……見つけた」
 人知れずにそう呟くと桜花はグリット線見取り図を出し座標に目印をつけ、スマホを取りだし、操作する。そして彼女は耳に充て言葉を発した。
「……発見した」


「小麦粉は回収出来たのですね。わかりました」
 カフカは見取図で確認し、桜花との会話を終えた。
 カフカと九重は物販付近を歩いていた。周囲は開演1時間前なのだがライブ用のグッズを買い求める客で酷く賑わっている。
 二人の姿も普段の姿とは異なり、九重は白色の騎士姿で顔は仮面で隠しており、カフカは既に共鳴した状態の為銀髪の髪に黒い短めのワンピースを身に纏い、背には黒い翼を付けていた。
「日本の吸血鬼のイメージって……」
 カフカは自分の格好を見ながら、かき消えそうな声で恥ずかしげに呟く。
 入場開始前に、カフカ達はスタッフに草柳陸の顔写真を渡し、入場時チケット確認と共に顔を確認をして貰うように頼んだ。会場内でのコスプレに関しては基本長物禁止、それに含めて被り物をしている人には一度脱いでスタッフが確認をするようになっている。
 九重達は行き通う人々の中で黒騎士姿をした人物とすれ違った。九重は慌てて黒騎士へと視線を向けると、それは写真で見た犯人の草柳陸だった。
「いた! しかも何だってあんな野朗が俺と同じ名前を名乗ってやがる……。追うぞカフカ」
 隣にいるカフカに九重は短くそう告げ、二人は後を追った。

●タイムリミット
 守矢 智生(aa0249)はオペラの名で有名な怪人の姿で会場のステージを隅々まで見ていた。彼は現在爆弾を見つける為に共鳴を済ませていた。
「この程度でフウの眼を誤魔化せるかよ」
 言葉と共に罠師を発動させる。するとステージのスクリーンの裏側に小型爆弾が設置されていた。智生はスクリーンの裏側に急いで向かい、設置されていた小型爆弾を取り外した。幸いな事にまだ起動はしていないみたいだった。
 智生は再度周囲を見渡す。先程、雪之丞がセリ、小道具の再チェックした物の中には爆弾は無かったと連絡が来た。スタッフを纏め共に捜索している式からも見つかったと連絡はまだ受けてはいない。同様にセリカ達の達のステージでの位置からも発見されなかった。
(残りは一体何処にあるんだ……)
 そう思考を巡らせていると、慌てて一人のスタッフが駆け寄って来た。
「すみませんリンカーさん、もうステージが始まります!!」
 スタッフの言葉が言い終わると同時にステージ開始15分前のブザーがステージ全体に響き渡った。

 ステージの袖でステージ周辺を監視しながら雪之丞は音楽PIaierに入っているライブ進行順の曲を聞いていた。雪之丞は先程の姿と違い今はスタッフ用のTシャツ姿にインカムをしていた。
『雪之丞聞こえるか?』
 智生の声がインカムから突然流れてきた。
「守矢さんどうしたの? 爆発見つかった?」
『ああ。今罠師を発動させて見てみたら観客席近くの柱に仕掛けてあった。今スタッフにstar・dustを一旦休憩と言う名目で下げて貰うよう頼んだ。後は打ち合わせどおりに行く。二人を頼んだ」
「了解」
 雪之丞は力強く言葉を智生に返した後、通信は切れた。

 智生はステージの上でスポットライトを浴びながら階段を降り、左側の観客席の柱へと向かう。
「ここの歌姫はこんな物で満足するのか」
 高らかに謳うように言葉を紡ぐ。
 その声は透き通るような声だ。だが実際に彼が台詞を言っている訳ではなく、スタッフが彼にアテレコをしているだけだった。
 足を止め、智生は演技をしながら柱の裏側に手を掛ける。すぐに小型爆弾の固い感触が伝わた。
「こんな下らないステージは破壊して私の歌姫に相応しいステージに作り変える」
 そう台詞が終えたと同時に会場全体の証明が落とされ真っ暗になる。その隙に彼は爆弾を急いで解除し、すぐに雪之丞が用意した中に緩衝材とアルミ版が入っている小道具に似せた箱の中へと入れた。
 そして彼は無線に向かい仲間達へと連絡をした。

●歌姫の願いを紡ぐ
 陸は観客席でステージを眺めていた。ステージの上には怪人が立ち回っており、セリカ達はまだ出ていない。
 彼はセリカ達のデビュー曲の時に爆弾を起爆する予定だった。もし起爆したら自分も死んでしまうだろう。
 彼はそれでも良かった。彼女達が手に入らないのならばいっそこの手で……
 そう思っていた時、三人のスタッフが来た。その内の一人コスプレをしていない男性スタッフが陸へと話し掛ける。
「実はお客様で入場者3万人目になりまして、そこで特別イベントに出て頂きたく、今から打ち合わせの方を外で軽く行いたいと思いますが宜しいでしょうか?」
 陸は内心舌打ちをした。そんなイベントどうでも良いが、変に断ると怪しまれる。陸は「わかった」と短く答えるとスタッフ達に着いて行き会場を後にした。

「セリカちゃん達出番だよ」
 雪之丞はそう言いながらセリカ達を促す。
「雪之丞さん……」
 何か言いたげなセリカに雪之丞は優しく微笑んだ。
「お礼を言うのは後だよ。まだライブは終わってないんだから」
 MCの言葉に従って観客席から二人を呼ぶ声が聞こえる。
 今まで応援し、支えてくれたファン達の声だ。
 そうだ、まだ終わってない。
 彼女は瞳に溜めた涙を指で拭い、ヒールをコツを鳴らし、駆け出しながら。
「有り難う! じゃぁ、行ってきます」
 笑顔でそう言った。

「犯人は会場の外に出た。犯人に気づかれないように会場の入場口に警備員を配置しろ」
 軍服姿の式はそう無線で指示を飛ばした。
 そしてステージへと目を向ける。そこにはセリカ達の姿と智生が眩しそうに顔を覆いながら退場する姿が見えた。
「しかしファン心理ってーのは難しいな。ただまぁ俺は可愛嬢ちゃん達の味方だぜ」
 そう静かに呟くと彼はその場を後した。

●歪んだ想い
 アリーナから少し離れた場所でスタッフは足を止めた。
「お客様少々お待ちください」
 そう言葉を残し、走りながら会場の中へと戻って行く。
「おい、すぐに終わるんだろうな」
 苛立った声で陸は九重へと強く問う。
「ああ、あれ嘘。俺らエージェントなんだ。爆弾魔の対応に召集されたんだ。他にも仲間がいるんだけど大人しく投降する気ねーかな?」
「エージェント……だと」
 陸は驚愕し、次第に顔を歪めていく。これでは計画が全て丸潰れだ。一体何の為にここまでしたのか、わからない……
「クソッ! お前らの為で俺の計画が全て台無しだ! お前ら全員殺してやるッッ」
 激情する陸に対して九重は幻想蝶で英雄と共鳴をし、静かに低く言い放った。
「ウチの英雄はお怒りだぜ、芸術の破壊は大罪だとよ」
「クソがッ」
 陸は掌に野球ボール大のライヴスの炎を生み出し九重達に向かい3、4発連続で撃ち込む。九重、カフカはそれを左右に避けて交わし、九重は銀の魔弾を陸に向けて発動し、同時にカフカはゴーストウィンドを放つ。カフカのゴーストウィンドで陸は防御弱体化に陥り魔弾が命中する。二人は陸を挟み撃ちのような体制へと移行し、カフカはトリアイナで犯人を切り裂き、九重は再度魔弾を陸へと撃ち込む。陸は毒づき、隙を見て走り出そうしたがそれは失敗に終わった。
「お前には何もさせねぇ!!」
 言葉と共に智生は素早くジェミニストライクを発動させ、ライヴスで自分の分身と共に攻撃を陸に仕掛ける。それに対して陸は短剣を取り出すと炎を纏わせ智生とその分身を短剣から炎を放つように攻撃を仕掛けた。智生の分身は攻撃を受け消え去り、智生は素早くテルプシコラで受け流した。
 その時こちらに向かう人影があった。
 桜花だ。
 桜花は駆けながら相棒の英雄へと呼び掛ける。
「……行くよ……ファル」
 言葉と共に共鳴をし、さらに加速させ、陸の背後から接近した。そして素早くグリムリーパーの刃に絶対零度の殺気を込め、それを陸の首に充てながら、耳元で囁くように言った。
「……死んでみる?」
 その台詞に陸はゾクッとし足が震えた。それを見て、桜花はグリムリーパーの刃を引っ込める。陸は逃げる事も、リンカー達に反撃する事、全てを諦めその場で膝を折った。そんな陸を見て駆けつけた式は陸の近くに来ると、その場にしゃがんだ。
「やっぱ人の夢を邪魔しちゃいけねーよ。だがまぁ俺もこんな身長で女には相手にされねータイプだからよ、歪んでしまう気持ちも分からなくはねーぜ? でもよぉ別にファンを超えて恋しちまっても良いけどよ、男なら好きな女の幸せを願うくらいの器の大きさは見せようぜ?」
 式は紫煙を吐きつつ陸の肩をぽんぽんと叩いた。
 そう言えば彼女達の歌を自分はどうして好きになったんだろうか?
 今思い返せば、彼女達が紡ぐ歌声に今まで何度も勇気をもらった。
「ああ……そうか俺は間違っていたんだ……」
 酷く消えそうな声で彼はポツリと言う。それを見て式は静かに陸へと告げた。
「間違ったんなら、もう一度やり直せば良いんじゃねーか。何度だってやり直しは出来るんだしよ」

●star・dust
 リンカー達は警察に草柳陸と共に箱を引き渡した。中身は先程回収した爆弾をアルミホイルでぐるぐるに巻きにし、さらにその上から油粘土が乗っている。
 これで事件は無事に解決した。

 盛り上がる会場の中でカフカはペンライトを振りながらライブを楽しんでいた。曲が終わり、次はこのライブのメインとも言われているアンコール曲でのサプライズイベント。会場のステージの真ん中の通路へとセリカ達は小さな籠を抱えながら歩く。
「「じゃぁ、皆いくよー。せーの」」
 セリカと雪乃の二人の掛け声に応じ、観客達と共にカフカは大声で叫んだ。
「トリックオアトリート」
「皆受け取ってね!!」
 その時セリカとカフカは一瞬だけ目が合い、カフカに向かってリボンが付いた箱が投げられた。カフカはすかさずキャッチし、そっと箱を開く。すると中からは小さな白とピンクの花束が入っており中にはメッセージカードが入っていた。

『助けてくれて有り難う』

 それはセリカ達の心からの感謝の表れだった。それを見たカフカは心からの嬉しく思い瞳を閉じ、そっと花束を抱き締めた。

 ライブ終了後リンカー達はスタッフの手伝いをしていた。
 バタバタと慌ただしく動くスタッフを見て自分達から申し出たのだ。そんな中、物販コーナーの売り子を手伝う桜花は一撃確殺の微笑を浮かべながら。
「……いらっしゃいませ」
 と客に向かって言った。その微笑はあまりにも綺麗で、品物を買い求めた客達は予定より多く買い求めたのだった。

「本当に有り難うございました。皆さんのお掛けで無事にライブが成功しました」
 控え室でセリカ達はリンカー達にそう礼を述べた。
「それにしても穣ちゃん達が無事で良かったぜ」
 式の台詞にセリカ達は柔らかく微笑を浮かべた。桜花はセリカ達に向かってスッと一枚の色紙を差し出した。
「……友人が……ファンだから……お願いする」
 セリカは桜花から色紙を受け取り、「わかりました」と嬉しそうな笑顔を浮かべながらサインをした。そんな光景を眺めながら式は口元を軽く緩め、ポケットから煙草を取り出した。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 信じる者の剣
    守矢 智生aa0249
    人間|20才|男性|攻撃
  • エージェント
    スラヴェナ・カフカaa0332
    人間|12才|女性|攻撃
  • ー桜乃戦姫ー
    染井 桜花aa0386
    人間|15才|女性|攻撃
  • 無名の脚本家
    九重 陸aa0422
    機械|15才|男性|回避
  • 堕落せし者
    旧 式aa0545
    人間|24才|男性|防御
  • 愛犬家
    橘 雪之丞aa0809
    人間|18才|?|攻撃
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