本部

フランケンシュタインは甘いのがお好き

昇竜

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/11/01 21:57

掲示板

オープニング

●依頼内容はスイーツ食べ歩き

「最近でかい愚神騒ぎで疲れてるだろ? たまには甘いもん食ってゆっくり羽根を伸ばしてくれ」

 と説明係は言っているが、本当に羽根を伸ばして欲しかったら招集などかけないはずである。何が狙いだ……? と訝しむエージェントたち。

「まあ実は、警視庁から依頼があってな。ここんとこハロウィーンで賑わっている街のお菓子屋さんに脅迫電話が相次いでいるそうだ。食べ歩きのついでに犯人を見つけて、いたずらを止めさせて欲しいんだよ」

 犯人は町中のパティスリーに『ハロウィン限定お菓子を作るな。さもなくば末代まで呪ってやる』という脅迫電話を繰り返しているという。このままではみんなが楽しみにしているハロウィン仕様のお菓子が店頭から消えてしまうかもしれない。動機を鑑みるに、犯人は他店の売り上げを妨害したい同業者だと思われた。そこでスイーツを食べ歩く客を装い、怪しいお菓子屋さんを見つけて犯人を見つけようというのが今回の作戦である。説明係はエージェントたちにスイーツ食べ歩きマップを渡し、それにしても……と呟いた。

「警察も変わったな……。『脅迫内容が能力犯罪を伺わせる』とか言って、完全に便利屋扱いしやがる……」

●パティスリー『ラボ』

 この店のオーナー・パティシエ、フランケンシュタインは悩み、そして憤っていた。
 丹精込めて作り上げた今年の新作たちが全く売れないのだ。特に最高傑作の『フランケンシュタインの3Dフェイスケーキ』などは、頭にネジの刺さった継ぎ接ぎ顔といい、カットしたときのミントアイスの脳味噌といい、素晴らしい出来栄えだというのに。どういうわけか全く売れない。
 街を歩けばショーウインドウを埋め尽くすカボチャやコウモリのオーナメント。電車に乗ればお菓子のCMに吸血鬼。テレビを付ければお天気お姉さんが魔女のコスプレ……

「なぜだ……なぜフランケンシュタインは流行らないんだ?!」

 彼は気付いた。フランケンシュタインがハロウィンの主役になれない理由……それは競合菓子店のせいであると。フランケンシュタインは公衆電話に駆け寄ると、町中のライバル店に脅迫の電話をかけ始めた……。

解説

達成条件
ハロウィンの街といろんなスイーツを楽しむ。

フランケンシュタイン(PL情報)
被害妄想のひどいただの人間です。菓子作りの腕は悪くないのですが、見た目の悪さの評判の方が有名です。的確な聞き込みをすればすぐに彼の名前が浮上してくることでしょう。味を褒めて見た目をどうにかするよう説得すれば、お客さんも増えて脅迫電話をやめます。
※なお、●パティスリー『ラボ』章はPL情報です。

スイーツ食べ歩きマップ目次
・絶品トリプルアイス☆ かわいいゴースト型で選べるフレーバー25種類!
・ハロウィン限定コスプレに萌え~♪ メイド喫茶におかえりなさいませ♪
・猫もコスプレ中?! アニマルドーナツやラテアートが楽しめる話題の猫カフェ☆
・高さ30センチ! 行列のできるパンケーキ店で生クリームメガ盛りが無料!
・かぼちゃ餡などを使用したハロウィン和菓子、店内でお召し上がりの方に抹茶サービス!
・これは恐い……フランケンシュタインの顔面ケーキ
……などなど

状況
・秋晴れの昼間です。日曜ということもあり、街は賑わっています。
・依頼ということで、飲食代は経費で落ちます。
・まとまって行動する必要はございません。思い思いにお過ごしください。

リプレイ

●ハロウィンの街角に

 天を指すキリル ブラックモア(aa1048hero001)の姿があった。長い髪を白銀に照らし、キリリと宣誓する。だが、その瞳は隠し切れない期待のためにキラキラと輝いていた。

「同志諸君! 戦場へと赴こうか、正義の名の下に!」
「はいはい、存分に味おうてきておくれやす……ほな、うちらは情報集めに行きまひょか」

 弥刀 一二三(aa1048)は苦笑しつつ、背広の襟を正した。情報収集のため、青年実業家に扮し髪型もオールバックにして黒く染めたのだ。誓約に則って毎日消費されるケーキ代を節約する……こんな口実で英雄も連れてきたが、実際にはいつも頑張っているキリルへのご褒美のつもりだ。クールを気取りたいキリルは表情に出すことこそないが、もう如何に素早く全ての菓子を堪能するか、それしか頭にないといった様子である。また、弥刀にはもう一つ大きな目的があった。彼は食べ歩きマップの『猫カフェ』の文字に心躍らせる……そう、彼は無類の動物好きなのである。
 それぞれうずうずする二人の傍で、会津 灯影(aa0273)は依頼概要に目通しして思わず声をあげた。楓(aa0273hero001)もそれを斜め読みし愉快そうに灼眼を瞬かせる。

「食べ歩きって……あ! 経費で落ちる!?」
「すいーつ? ふむ、偶には洋菓子も良いか。さて楽しむとしよう!」
「連絡先も交換したし、早速はじめる? 行先は楓に任せるよ。……それにしても、」
「なんだ灯影? はろうぃんとは仮装する催しなのだろう? では、我も流れに乗らねばな」

 英雄の装いに会津は怪訝な表情だ。楓は普段と違う艶やかな緑青の着物に袖を通していた。焔を焦がしたような豊かな茶髪は結い上げられ、花の簪が挿してある。元来の中性的な容姿も相まって、茶化すにはあまりに完成度が高い。道行く者がみな彼を振り返るので、楓は満足げにふっふんと鼻を鳴らした。

「どうだ、美女にしか見えまい。国が傾くのも仕方がないというものよ」
「というか女装は仮装になるの……?」

 ひとりごちる会津の傍では、今宮 真琴(aa0573)がすでに暴走の片鱗を垣間見せている。奈良 ハル(aa0573hero001)が懸命にツッコミを入れるが、とても間に合っていない。

「たべほうだーい!」
「仕事もしろよ?」
「一二三さん達いるからだいじょぶ!」
「ホントに甘いものが絡むと性格変わるのぅ」

 本来引っ込み思案な今宮もお菓子のこととなれば目の色が変わる。その狙いはH.O.P.E.が用意したスイーツ誌の範疇になど収まりはしない。某有名菓子店が当月限定で販売しているパンプキンモンブラン――その"買い占め"も大きな目的の一つである。奈良は意気込む召喚者に恐るおそる聞き直した。

「……買い占め?」
「デミも美味しいけどこの時期ならパンプキン! あ、でもデミも買おうっと」
「何の話をしておるんじゃ?」
「だからアンジ」「やめい」
「あとは限定なお菓子は全部食べたいね!」
「……全部?」
「全部!」

 奈良の頬が着々とこけていく中、黒塚 柴(aa0903)は身に覚えのない招集に首を傾げていた。フェルトシア リトゥス(aa0903hero001)は、その様子に目が泳ぎまくっている。

「甘いもん嫌いってワケじゃねーけど、大量に食いてェってほど好きでもねーんだよね……。つーか、なんだよこの依頼。オレ受けた覚えねェけど」
「ふ、ふふふ不思議なこともあるものですね!」
「……あーハイハイ。オマエの仕業かよ。ったく、仕方ねぇ……テキトーに羽伸ばしつつ、マジメにオシゴトしますかね、っと。あー、いっそ愚神かヴィランでも出てくれりゃおもしれェのに」

 黒塚は息を吐きながらも、フェルをスイーツ暴食部隊に送り出した。草薙 義人(aa1588)も、鈴音(aa1588hero001)に彼女たちに合流するよう勧める。

「今日は食べ放題ですから、遠慮は無用ですね。義人さんの分まで食べてきます!」
「うん、鈴音は自由に食べておいで。調査は僕がやっておくから」
「そんなの興味ありません! 鈴音はスイーツとの聖戦に来たのです。目指すはスイーツ全制覇です!」

 甘いものが得意ではない草薙はフ、と笑ってツインテールの後ろ姿を見送った。さて、彼女たちは売り切れを気にしていたし、人気のある菓子店から順に回るだろう。人知れず調査するためには彼女らとは逆に、人気のない菓子店から周回した方が良さそうだ。

●スイーツを食い尽くせ!

 草薙は最初に、周辺でもある意味有名なパティスリー『ラボ』を訪ねた。ペストリーがよく見える席に腰かけ、店員に飲み物を注文する。それから本を取り出し、しばらく店内の雰囲気を観察した。するとキャッシャーから目の下に濃い隈を作ったオーナーらしき人物がこちらを覗いていることに気付く。草薙はこうして客を装って店の様子を調べ、脅迫事件について直接尋ねることで怪しい反応がないかも見ていくつもりだ。店員が飲み物を運んで来たので、草薙は彼に声をかけた。

「……ありがとうございます。あの、実は僕、学校で新聞部に所属していて。取材させて頂いてもよろしいですか?」
「え……あ、ああ、構わないよ」
「では最近、多数の菓子店に脅迫の電話が相次いでいる事件について。こちらのお店にも被害が?」

 狼狽えるように視線を彷徨わせる店員に、草薙はますます疑いを深めた。
 ……一足先に行列に並び、30センチも生クリームが盛られたパンケーキに舌鼓を打っていた稲葉 らいと(aa0846)は、呆れ顔で綱(aa0846hero001)の食べる様子を眺めていた。

「拙者……モグモグ、砂糖菓子など……モグモグ、別に好きでは……モグモグ、ないのでござるが……モグモグ、依頼ゆえ……モグモグ、今回ばかりは……モグモグモグ」
「口元クリームだらけでそんなこと言っても全く説得力無いからね? でも食いっぷりがカワイイから許す!」

 網の兎耳に飛んでいった生クリームを指の腹でとってやりながら、稲葉は窓の外を見た。行列は絶え間なく続き、この店は見るからに脅迫電話など必要なさそうな盛況ぶりだ。が、調査費という名目で飲食がタダと言われれば食べない手はない。しかし、それにしてもH.O.P.E.は本当にこの作戦で事件を解決できると思っているのだろうか?

「無料でスイーツ食べ放題って事で思わず飛び付いた依頼だけど、こうやって普通にお店巡りしてるだけで犯人捕まえられるのかな?」

 それ以前に、稲葉としては『この依頼自体が私ら向けなのか?』という根本的な疑問があったのだが、そこは空気を読んで口にしなかった。何かに操られるように、いつの間にか依頼を受けてしまったのだ。一方、網はこの作戦に不安な点などないと言うように3枚目の皿を引き寄せた。

「らいと殿……モグモグ、心配無用。この手の事は……モグモグ、意外と単純に……モグモグ、繋がってるものでござる……モグモグ」
「へぇー、そんなもん? あと、喋るか食べるかどっちかにしなさい。御行儀悪い」
「モグモグモグモグモグモグモグモグ……」
「あ、迷わず食べる方を選んだ」

 窓の向こうでは、ちょうどそこを暴食部隊が通り過ぎるところであった。街中どこを見てもハロウィンスイーツだらけなので、フェルは興奮して踊り出しそうな勢いだ。

「わぁ……どの店で何を食べてもいいんですか!? アイスも和菓子もパンケーキもねこかふぇもめいどもふらんけんも食べ放題なのですね……!!」
「さて何処から参ろうかー」
「俺は猫カフェ行きたい! もふり倒したい!」
「うん? 猫カフェ? もふもふなら我が尾の方が良いだろうが!」
「そりゃ楓ももふもふだけど、違うんだよ……違うんだよ……!」
「まぁ、猫は我も嫌いではない。どれ、ひとつ戯れてやろう」

 会津は猫について熱く語り、楓も満更でもない様子で尻尾を振ってそのあとについていく。他の面子はというと、今宮は目に付いた菓子店そこいらじゅうでお菓子を買い漁っていた。そう、食べきれないのなら持ち帰ればいいのである。さすが歴戦のお菓子スナイパーはやることが違う。奈良はまだツッコミを入れているが、そろそろ限界だろうか、息が上がっている。

「買うだけかい!」
「経費でおちる! あ、領収書はH.O.P.E.で! 調査費でお願いします!」
「聞き込みすらしてないのになにが調査費?!」
「ハルちゃん食べたいモノあるの?」
「……あ、ワタシ和菓子とお茶がいいな……」
「あ、このパンケーキ屋さんの隣ねー。アイス食べたら皆と一緒にいこう」
「ちょ、ちょっと待って」

 今宮は奈良を懐柔し、食い下がる英雄を腰にぶら下げたままアイスクリーム・ショップへ入って行った。店内に入った一行はとんでもない注文をして店員に二度聞きされる。

「……もう一度伺ってもよろしいですか?」
「美味しいです! 絶品ですね! 追加注文お願いします、このテーブルいっぱいにトリプルアイスを!」

 と、言ったのは鈴音だった。初回注文分をものの30秒で平らげられ、店員たちはどよめく。普通はいかに甘いもの好きでも、これだけ冷たいものを食べればお腹を壊すもの……しかし、手練れの鈴音はそんな事態を見越してマイボトルを持ち込んでいた。中身は砂糖がたっぷり入った温かい紅茶である。またキリルも自前のホットドリンクを持ち込んでいた。これらを支給された彼女らの食いっぷりは留まるところを知らない。

「ん? どうしたフェル」
「キリルさん……甘いものが苦手と仰っていましたが」

 フェルに指摘され、キリルはハッとして3個目に伸ばそうとしていた手を引っ込めた。フェルは自分が防衛線になってキリルさんの口に入らないようにしなくてはと決意を固めていたのだが、始まってみればキリルの食べるスピードはフェルにも引けをとらない。

「キリルさんの手を煩わせるわけにはいきません、ご無理をなさらず、全て私が……」
「そ、それには及ばない! 恩に着るぞフェル、だが私は大丈夫だ。正義のためだからな!」

 キリルは何とかフェルを誤魔化し、無事に3個目も食べることができた。25種類をあっさり完食し、一行は満足そうにお店を後にする。彼女たちは周囲の畏怖の視線には気付いていないようだ。しかも、意気揚々と隣のパンケーキ店に入っていくではないか。店長がふらりと床に崩れ落ちたので、店員が慰めに入る。

「ううっ恐ろしい……なんて胃袋だ、底なしか?!」
「店長しっかり! 喜ばしいことではありませんか!」
「よォ、パンプキンプリン味一つ……あー、シングルでいい」

 そこへ現れたのは黒塚であった。数少ない依頼解決にマトモなエージェントの一人である。彼も最初はそれなりに食べる気もあったのだが、暴食部隊の戦場跡を見て食欲が減退したらしい。店員はスラリとした色男の登場に色めき、店長を放り出してカウンターに戻った。

「なぁ、なんかハロウィンメニュー少ねェ気がするけど、いっつもこんなカンジ?」
「去年まではもっとあったんですが、今年は怖い電話があって……ねえ店長」
「フーン。その手の電話ってさぁ、お仲間の嫌がらせっつーのが常じゃねぇの? 心当たりがあんならカマかけてみたら?」
「ム……そう言われてみれば」

 黒塚はさりげなく聞き込みをし、スマホを使って仲間と情報共有をする。情報提供してくれた女の子には、お店のタピオカミルクティーをご馳走してあげた。どうせH.O.P.E持ちである。
 この情報を受け取ったものの一人、会津は猫カフェで魔女帽子や吸血鬼マントを着た猫と戯れていた。こちらでは特に収穫はない……しかし、新たな特技の習得には一定の成果を挙げそうだ。

「ラテアートかぁ」
「ふむ、この丸い菓子は中々良いぞ」

 猫の顔を象ったドーナツを食み、楓は満足げだ。会津はフォームミルクに浮かぶ猫の絵を興味深そうに見て、俺も練習しようかな、などと思案してみる。
 まったりとした時間が流れる店内には、弥刀の姿も見えた。和菓子屋を開業するもりだと言う弥刀に、店主が愛想よく対応する。京都の菓子店を名乗り地価などにも詳しく、人当たりの良い笑顔の弥刀の素性が怪しまれることはなかった。

「この街も益々激戦区ですな。しかし、なぜ猫カフェに……?」
「やあ、和菓子猫茶屋にすんのもええかとちょい覗かしてもろて……」
「ははあ、なるほど。それにしては準備がいいことですな、マイ猫じゃらしとは!」

 しかし、事件は間もなく起こった。弥刀が戯れていたこの猫を自分に譲ってくれと言い出したのだ。

「このコ、うちといたいて言うとるん分からしまへんの?! 猫カフェやっとって何で猫語が分からへんのや?!」
「そうは言っても弥刀さん、無理ですよ~! うちの子たち、月いくら稼いでると思ってるんですか!」

 粘る弥刀。只管粘る弥刀。だが、無理なものは無理なのだ……。弥刀はしぶしぶこの場を引きさがり、粘着テープでスラックスに付着した毛をぺたぺた取って周辺の聞き込みに乗り出した。しばし後、会津と楓も店を後にする。

「灯影に付き合ってやったのだ、次は我だな。この和菓子が食べたい」
「和菓子? あーいいかも。俺あんまり作んないし、参考に出来れば作ってやれるよ」
「ほう、では我好みの味を習得せよ。期待しているぞ?」

 二人は近くの和菓子店へ入り、席に着くと人気の品を3品ほど注文した。程なくして、品物と共にサービスだという抹茶が運ばれてくる。着物にも負けないくらい鮮やかな色の抹茶を厳しく批評する楓に、店員が笑顔で応対する。

「茶は自分で点てられる故味には五月蝿いぞ」
「大丈夫ですよ。ちゃんとプロが点ててますから」
「わっ、南瓜餡うまー。秋は南瓜だよなー。練り切りは形も可愛いのが良いよ。ところで店員さん、このへんでオススメの店と微妙な店を教えてくれませんか?」

 食べ歩きを堪能しつつも、会津は任務を忘れたわけではない。彼らのおかげで情報は無事に収集されつつあった。しかし、開始一秒で依頼のことが頭から消えた者も少なくない。そう、暴食部隊である。彼らはパンケーキ店でもその猛威を揮っていた。

「だって私の居た世界にはこんな美味しい食べ物なかったのですよー! みんなで食べれば、もっとおいしいのです!」
「甘い物は別腹と言うではないか。いくら食べても腹一杯になどならん」
「このボリューム、生クリームはこうでなくては」

 フェルとキリル、そして鈴音は品物を端から注文し、持ち得る全ての力を使い猛スピードで平らげつつ、味わうことも抜かりない。その速さたるや、まさに光速……いやそれ以上か。今宮は他店の買い物を終え、大量の紙袋を手に遅れて席に着いた。すでにテーブルに並んでいるパンケーキのメガ盛生クリームを見やり、それでも物足りなそうな顔だ。

「30センチか……小さいね?」
「いや普通は無理じゃぞ?」
「……5枚でいいかとりあえず」
「何が5枚!?」
「すいませーん、苺ミックスビターチョコフルーツミックス杏子抹茶ください」
「何の呪文だ……って抹茶?」

 さしもの奈良も疲れたのだろう……自身の好物の名前を出され、狐耳がぴくりと動いた。

「抹茶味も美味しいんだよ……食べる?」
「……食べる」
「抹茶2枚追加でー!」
「1枚で良いわ!」
「……1枚は持ち帰る」
「結局それか……」

 奈良はそれ以上言うことを諦め、お茶で唇を湿らせた。ふと鈴音を見ると、彼女は持参した瓶入りのマイ角砂糖をお茶に投入していた。その量たるや、凄まじいものだ。すごい集まりもあったものだと、奈良は人知れず息を吐いた。

●フランケンシュタインは菓子作りが好き

「え~と、次のお店はこの商店街の奥だね」

 ラボへ向かうのは稲葉と網である。彼女はふと顔を上げ、日の傾いてきた商店街が豪華なイルミネーションや煌びやかなオーナメントで溢れかえっていることに感嘆の声をあげた。

「すごい! 街全体がハロウィン一色になってる! これは……次のお店は色々期待できそう?」
「顔つきの南瓜だらけでござるな。これは正に、トリックorトリートメントでござろう♪」
「言葉の意味は良くわかんないけど、とにかく凄い期待感は持ってるんだね……っと、確かに地図だとこの店なんだけど?」

 辿り着いたお店は、なんだか暗い雰囲気だ。ショーウインドウを覗くと、稲葉と網が『!?』という顔をする。無理もない……そこに並んでいたのは、まるでヤバい実験の成果物のようなお菓子の数々だったのだから。

「拙者、明らかに何かが間違ってる気がするのでござるが?」
「うん。この店だけハロウィンの雰囲気と何かが違うね」
「……他の店に行きたいでござる」
「ダメ。お仕事だから」

 嫌がる網を引きずるように、稲葉がお店に入っていく。席にかけ、やってきた店員にケーキを二つ注文した。運ばれてきたのはメニューでもひときわ異彩を放っていたフランケンシュタイン・ケーキとハート・ケーキである。片方は青白い顔と継ぎ接ぎの縫い糸の凹凸まで細やかに再現され、もう片方は血管が浮き出ていて今にもドクンと脈打ちそうだ。

「ぐへぷっ、この顔型砂糖菓子は!?」
「私のリアルな心臓が乗ってるハートのケーキよりましでしょ? でも。絶対に食べること。良い?」

 意を決した二人が、それぞれのケーキをぱくんと口に入れた瞬間。『!!!』見た目以上の驚きが彼女たちを襲った。そこへ、気の弱そうな店長……フランケンシュタインがやってきて、その出来栄えについて尋ねた。

「あの、実はそれ、初めて売れたんです……それで、お味の方は、」
「チョー美味しい!!」
「ほ、本当ですか!」
「うん、見た目の地獄っぷりと味の天国。新感覚スイーツ発見だよ!?」

 稲葉たちがケーキを残さず食べたので、フランケンシュタインは喜びのあまり涙ぐむ。次にラボにやってきたのは会津と楓であった。彼らは聞き込みの結果、この店が一番怪しいと思っていた。注文し、運ばれてきたフランケンシュタイン・ケーキの想像以上のインパクトに楓は眉を顰め、会津は冷や汗をたらす。

「さて……色々巡ったが、これがふら何とかとやらか?」
「見た目がアレって聞いてたけどこれは……うん、子供向けじゃないよな」
「なんと雅の欠片もない。売れぬも道理で――」
「あっあー楓! 取り敢えず食ってみようぜ」
「む、まぁそうだな……」

 楓はつまらなそうにケーキを口に運んだが、そのほろりと解けるスポンジに染み込んだ洋酒の風味と、甘さを控えチョコチップを利かせたミントアイスの素晴らしいハーモニーに意外そうにする。彼らの食べ終わる頃、やはり自信なさそうにやってきたフランケンシュタインに、楓は彼にしては最上とも言える賛辞を贈った。

「ふむ、味は悪く無いな。しかし料理は見た目も楽しんでこそだ。貴様の好みは女子供には受けぬだろう。もっと愛らしくするが良い、我のようにな! 」
「んー、美味しいだけに勿体無いよな。もっとこう、こわーい感じじゃなくてデフォルメするとか? 俺達も考えるからさ、もっと怖可愛いデザインも考えてみよーぜ!」

 会津にいくつかデザインの提案をしてもらい、フランケンシュタインはまたも嬉しくて涙を滲ませた。そこへ今宮、奈良、黒塚、フェル、弥刀、キリル、草薙、鈴音が合流する。彼らは草薙からの連絡を受けて集まったのだ。ラボは一転大忙しとなった。今宮は見たことのないお菓子の数々に興味深々だ。奈良は例の顔面ケーキに目を留めている。

「へー、面白い形のもあるんだね」
「見てみぃ真琴、珍妙な形のケーキもあるぞ?」
「あれは……フランケンかな」
「リアルで不気味じゃのう……」
「すみませんーここで食べられますか?」
「早っ、てかあれ食べるんか」

 運ばれてきた顔面ホールケーキに、フェルが早速フォークを入れる。切り分けたときの見た目もグロテスクだが、口に入れてしまえばただただおいしい。キリルは側面に刺さった飴細工のネジを感心したように見ている。

「わあ……これがふらんけん、というものなのですね。とっても美味しいです!」
「見た目も凝っているな! 見事な腕前だ!」

 今宮と奈良もそのおいしさに驚きを隠せない。

「……美味しい。甘さが絶妙」
「不可思議じゃの。確かに美味いわ。流行ってなさそうな店だのにな」
「お土産にもらおう。みんなにも……」
「もっと小さいと食べやすいと思うんじゃがな?」
「このサイズだからこそのインパクトかも……」
「なにを評論家ぶりおって」
「……ハルちゃんの顔でも作ってもらえるかな」
「やめれ、お願い」

 今宮が奈良をからかっていると、店長が挨拶にやってきた。味を尋ねられた鈴音の返答に、彼はまたも隈の濃い目を潤ませる。

「見た目はともかく味は良いですね、このフランケンのお菓子には愛情を感じます。鈴音がアドバイスをするなら、見た目もお菓子の重要なステータス、と言う事ですね。このフランケンと店内は可愛く改良してみるべきでしょう」

 フェルは店内のお菓子を食い尽くさんばかりの勢いで、キリルも美味い、美味いとお菓子を平らげていく。鈴音のぽつりとした呟きが耳に届いたフランケンシュタインは、自分が食べる人の喜びの為に菓子を作っていたことを思い出した。

「お菓子好き同士で集まって食べるのも、なかなか良いものですね」

 黒塚、草薙、弥刀は調査結果から彼が脅迫電話の犯人であることに勘づいていたため、必要があれば説得をしようと考えていたが、それは杞憂に終わったようだ。フランケンシュタインの表情には笑顔が戻っている。弥刀は一言だけ念を押すため、一行の帰り際に彼にこう言った。

「何の為に菓子を作っているか、思い出しはったんやな。初心に立ち返って考えてみておくれやす」

 フランケンシュタインは自分の犯行がバレていること、その上で自分を改心させるために頑張ってくれた人がいることに心を打たれ、何度も頷いていた。彼はもう二度と脅迫電話をしようなどとは思わないだろう。弥刀はその後も飽きることなく菓子店へ行こうとするキリルを置いて、再び猫カフェに向かった。なんとしても、あの猫を譲り受けてもらうまでは帰れない……!
 一方奈良は、さすがに荷物が増えすぎて帰宅を余儀なくされた今宮に連れ添いながら悔恨至極で声を絞り出したのだった。

「和菓子……結局食べれんかった……」

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 美食を捧げし主夫
    会津 灯影aa0273
    人間|24才|男性|回避
  • 極上もふもふ
    aa0273hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
  • 撃ち貫くは二槍
    今宮 真琴aa0573
    人間|15才|女性|回避
  • あなたを守る一矢に
    奈良 ハルaa0573hero001
    英雄|23才|女性|ジャ
  • 戦慄のセクシーバニー
    稲葉 らいとaa0846
    人間|17才|女性|回避
  • 甘いのがお好き
    aa0846hero001
    英雄|10才|?|シャド
  • エージェント
    黒塚 柴aa0903
    人間|18才|男性|命中
  • 守護の決意
    フェルトシア リトゥスaa0903hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃
  • この称号は旅に出ました
    キリル ブラックモアaa1048hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • エージェント
    草薙 義人aa1588
    人間|18才|男性|防御
  • 甘いのがお好き
    鈴音aa1588hero001
    英雄|15才|女性|シャド
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