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最終発言2019/01/03 00:25:17 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2019/01/01 22:21:27
オープニング
この【初夢】シナリオは「IFシナリオ」です。
IF世界を舞台としており、リンクブレイブの世界観とは関係ありません。
シナリオの内容は世界観に一切影響を与えませんのでご注意ください。
●乙女ゲームの世界に転生したら
王国の大広間で不思議な宝石を掲げた少女は叫んだ。
「あたしたちは転生してしまったの!」
宝石が輝き割れると、その場に居た人々に転生前の記憶が蘇った。
叫んだ少女は灰墨こころである。
「最後の手段だったけど、うまくいって良かったわ」
ヒロインっぽいシンプル&可愛いワンピースを着て、でも、いつもの眼鏡をかけたこころはバン! と壁を叩いた。そこにはゲームのマップのようなものが貼ってある。
「転生って……あたしたちは何故かAGW製のトラックにひかれてしまった。それはいいんだが(良くない)、転生って死んだってことですか? ここは?」
騎士の姿をしたミュシャが眉をしかめた。
「ここは異世界、もっと言うと恋愛シミュレーションゲームの中よ」
ここは『リング・ブレイク ラブリーワールド』というオンラインゲームそっくりの世界らしい。
豊かな資源と豊富な財源を持ち公正な王が治める平和な国。
そこでは国の幸福度を上げる為、『linker』と呼ばれる男女と国の要人たちが自ら市井の人々の生活に目を配り働いていた。
ゲームではプレイヤーが『linker』という主人公的存在になる。不思議な力で様々なアイテムを作ったり一般人より強い戦闘力を持つ男女で、世界平和の使命を持ち力を公共の為に使う代わりに様々な特権を与えられる。
ちなみに、こころもlinkerであり、さっき使った宝石はレアアイテムを使って半年かけて作成したものらしい。
恋愛ゲームらしからぬ説明でこころが概要を話すと、灰墨信義が妹(この世界でも兄妹である)の言葉に異を唱えた。
「いきなりこんな人数で転生して記憶が戻るなど」
「忙しいの、兄貴は黙ってて!」
一喝。
どうやら一足早く記憶が戻ったこころは、色々と状況を調べていたようだ。
「とにかく、至急、linker会議をするから主人公チームは集まって! あ、登場人物の兄貴たちは好きに生活してていいわ」
●破壊神が復活してしまって
「世界は終わろうとしているわ」
linker専用の寮のお洒落なティールームで、こころは声をひそめて語り出した。
「もうすぐ世界を壊す破壊神が復活する──そして、それはNPCの中に居るの」
「誰を倒せば、このゲームから抜け出せるんだ」
こころと同じlinkerとして転生して意気消沈していたクレイが顔を上げる。彼は転生前はこころに片想いしていた。
「転生しちゃったからもう抜け出すのはできないけど、破壊神を阻止したらあとは生活を保障されたこの国で悠々自適に自由に暮らせるわ!」
「そ、そうか……」
希望が見えてきたクレイ。
そしてこころは説明した。
このゲームのNPCは皆、心に『破壊神の種』を持っている。その種が育つと破壊神が生まれるという。
それを封じ込めるチカラ、それが『愛』なのだ。
主人公たちはNPC、登場人物から『愛』を引き出さなければいけない。
そして、世界の状況から察するに破壊神復活まで猶予はあと二日──。
「幸いなことにこのゲームは愛の定義が広くてね。恋愛的なときめきでもいいし、親子や友情的な愛でもいいし、いっそのこと憐れみの目でもいいの。でも、これを正直にNPCチームに話したら素直な感情は抱きにくいでしょ? だからわたしたちだけで会議をしたわけ。
とにかく、交流して多くハートポイントゲットすればいいのよッ!」
憐れみ……と誰かがポツリと呟いた。
「憐れみでもなんでもいいわ! なんとなくやったゲームだったから破壊神復活させたことまでなくてどんなボスキャラかは知らないけど、わたしは死にたくないの! 次にまた転生できるとは限らないもの」
こうして、主人公チームの『とにかく二日で相手をなんとなくほだすぜ』作戦は開始された。
●恋愛フラグを叩き折らなくてはいけなくなった件について
主人公チームが去った後、額を軽く抑えて信義は言った。
「こんなバカな状況に陥って混乱しているだろうが、一つ、話さなくてはいけないことがある」
信義は転生する前はこのゲームを開発していた紫峰翁センターと縁があった。それゆえに知っている情報があるのだという。
「『リング・ブレイク』は英雄世界を研究する為に創られたシミュレーションゲームだ」
この乙女ゲームの世界は開発者の一人が悪ノリで作ったスピンオフらしい。だが、彼は乙女ゲームには詳しく無かった。だから開発途中で恋愛ゲームとしての制作は頓挫したはずなのだという。
「いいか、主人公たちが仕掛けてくる恋愛フラグは折らなくてはいけない。じゃないと、世界がバグを起こす」
恋愛ゲームであるのに恋愛フラグを立てた後の展開が思いつかず、フラグ管理を失敗したまま長く放置されているゲーム。それがこれだという。
「こころは体験版しか知らないから、これについては知らない筈だ」
そう言う信義は制作の裏事情は知っているが、体験版もやっていないのでストーリーやシステムは知らないという。だが、この世界での今の立場で国のイベントは把握していた。それと聞いた話を突き合わせてこう結論づけた。
「確か二日後に建国祭がある。そこがポイントだったはずだ。二日間だけでも恋愛フラグを回避すれば最大のバグイベントは回避される。
だが、このことを主人公側に教えてはいけない。もし、これを伝えると『主人公』の存在自体に重大なバグが起きてしまう。かといって、主人公を避けまくるとNPCと設定された自身の存在意義がバグを起こす」
だが、何が恋愛フラグと判定されるかわからない為、二日間は主人公チームにはできるだけ冷たく接するように彼は言った。
最後に信義は大きくため息をつく。
「まあ、たかが二日だ。普段通り過ごしていれば何事も起こらないだろう」
三日目からは普通の『リング・ブレイク』の世界線と合流する。そこまで経ったらすべてを話して笑いあえるはずだ。
●破壊神バグ
地表奥深く、数値の繭に包まれて名も知られぬ神は蠢いた。
愛を知らない哀しい神の名が表記されたウィンドウが胎動と共に動いた。
──『破ヵい神◆※〒ゐヲ』。それは、キュートな黄色いヒヨコの姿と、六百メートルを超える巨体を持っていた。
「……ピヨ?」
言動はヒヨコだが、マシュマロとマカロンとミルクセーキが大好きなれっきとした神である。ただし、人語はわからぬ。
なお、顕現したら地表をバシバシつついて破壊しまくる所存。
解説
●目的
・主人公チーム(男女)
相手をときめかす
能力:スマホでデートの約束で呼び出せる(断れない)
・登場人物チーム
好意&厚意イベントのフラグを躱す努力をする
クイズを出して主人公が外したらデートから帰れる(不条理でも可)
記憶が戻ってない・作戦会議に参加していない設定も可
●展開
英雄・能力者を主人公・登場人物チームに振り分けて宣言(同じチームも可)
・イベント 午前‐昼‐夜の順 ※参加しなくても良い
1日目:迷子発生(町)/薬草摘み(高原)‐庭園のお茶会‐夜の舞踏会
2日目:山火事/海で巨大鯨漂着‐お昼のピクニック‐夜の流星群
三日目:破壊神出現(チームの貢献度によって復活の仕方が多少違う)両チーム協力のもと破壊神バグ戦※
※共鳴はできない
主人公チームは共鳴時の能力、登場人物は直接戦闘・魔法等使用
・他デート場所
街、王宮、神殿、秘密の泉、神秘の巨木、海、森、教会(墓場有)、剣の稽古場、魔法学校、自室
●NPC
※☆印は前世の記憶持ち、記憶のないNPCは作戦会議に参加していないので状況を知らない
全員に働きかけなくてOK
・主人公チーム
☆こころ(az0086)
☆クレイ(az0089hero001)
・登場人物チーム
☆女騎士:ミュシャ(az0004)
女神官:ゼルマ
勇者:エルナー
☆悪の大臣:信義(az0055)
女魔法使い:ライラ
騎士見習い:アーサー(az0089)
(PL情報)
・破ヵい神◆※〒ゐヲ
巨大ひよこ
倒したら1m程に縮み人語をなんとなく理解する
巨大化時は好物を少量持ってきてもわからない
好物は周知の伝説だが誰も本気にしていない
・王
温和で優しくて危機感がない白いおひげの王様(八百歳)
同じチーム同士・NPCへのプレイングOK
商品名等は使えません
アドリブ・マスタリングが入ります
NG行為の記載お願い致します
PC同士の恋愛イベントは互いのプレイングにその旨一言書いてください
無い場合はマスタリング入ります
リプレイ
●彼らの現世と前世
「linkerの催しがあるそうなので是非」
悪の大臣信義は王女を使って隣国の王と縁を結ぼうと画策していた。
「マイヤ様も是非」
王たちに続いて、この国の文官である迫間 央(aa1445)がマイヤ サーア(aa1445hero001)をエスコートする。
彼らの姿を目にして、先に広間で佇んでいた令嬢が、一瞬、眉を顰めた。
「この場に呼ばれたのはわたくしだけではなかったの?」
「後で確認を取りましょう」
傍に控えた執事のダイ・ゾン(aa3137hero002)は主人である令嬢ファリン(aa3137)に囁くように答えた。
「ええ、しっかりと」
冷たく言い放つと、笑顔を作ってファリンは王女たちの下へと歩き出す。
──こころが飛び込んで来たのは、その時だった。
彼女が掲げた宝石から突然放たれた怪しげな光──護衛のミュシャより早く、王女を庇うように動いたのは意外にも大人しそうな王女付きのメイド時鳥 蛍(aa1371)であった。
そして、その場に居た人々の『中』で世界は一変した。
きょとんとした蛍が、ゆっくりと王女を振り返る。王女も驚いたように彼女を見た。アークトゥルス王は眩しそうに目を細めて広間を見渡した。さっきまで傲慢な自信に満ちていた令嬢ファリンが蒼白になってふらふらと後退りすると、それを執事ダイ・ゾンが「お嬢、大丈夫ですか」と支えた。
全員の脳裏に、『前世』の記憶がくっきりはっきりと蘇っていた。
麻生 遊夜(aa0452)は馴染みの酒場の看板娘、ユフォアリーヤ(aa0452hero001)と顔を見合わせた。元々、顔馴染みの二人であったが、それ以上の関係であった『前世』の記憶は二人の関係を一瞬で上書きした。
「転生か、まさか体験することになるとはなぁ」
遊夜の腕に躊躇いなく絡みつくユフォアリーヤを、彼は自然と受け入れた。
「……ん、異世界もの……ロマンではあるけど、子供達が心配」
はふぅ、とため息をつくユフォアリーヤ。
君島 耿太郎(aa4682)は、前世の相棒であり家族であったアークトゥルス(aa4682hero001)を見た。
大広間に集められた『前世持ち』の人々は多種多様だ。中でも、linkerの力を使いながら新聞を作り配る少年、耿太郎と、視察で訪れた隣国の王であるアークトゥルスなどその最たる例だろう。
(確かに王さんのこと王さんって呼んでたっすけど……アークトゥルス様は隣国の本物の王様っすよ!? いや、王さんをアークトゥルス様って)
混乱しながら、耿太郎は叫んだ。
「ときめき……? 乙女ゲー……? そ、そんなの知らないっすよー!」
だが、混乱が収まるのを見届ける猶予もなく、こころは耿太郎をはじめとしたlinkerたちを別室へと引っ張っていく。
前世のままの強引さに遊夜が苦笑した。
「恋愛ゲームねぇ……まぁらしからぬ設定が付いたもんもあるにはあるしこんなもんかね? ──っと、それじゃ後でな」
「……ん」
軽く手を振る遊夜へユフォアリーヤもひらひらと手を振り返した。
●破壊神を封印せよ
お洒落なティールームにて、linkerたちは唐突な破壊神の話を知らされた。
「わたくしのような者が愛だなんて……いえ、悪役でもツンデレなら好意の裏返しと思っていただけるかも」
蒼白で呟くのは悪役令嬢として今生を生きて来たファリンだ。今生の自分の悪行にオーバーヒートを起こしてしまっている。
「フォローはおいおいするとして、まずは確認ね!」
こころは混乱さめやらぬ仲間たちの前で腰に手を当てた。
前世を持ち、linkerの力を持つ『主人公』は七名。
新米linkerの灰墨こころとクレイ・グレイブ。
『ベテランlinker』麻生 遊夜。
『王女(?)』グラナータ(aa1371hero001)。
『悪役令嬢』ファリン。
『新聞配達の少年』君島 耿太郎。
『勇者見習い』GーYA(aa2289)。
「ジーヤさんは国外に出ていて呼び出せなかったわ。だから、記憶は戻っていないのよね。どうしよう」
「まずは、ここに居る面子でなんとかするしかないと思うッス」
そう言ったのは王女の姿をしたグラナータだ。グラナータの王女然とした今までとはうって変わった言動に目を丸くした耿太郎が尋ねる。
「そういえば、グラナータさんだけ前世と今の名前が違うっすね」
王女の名は彼のそれではないし、そもそも前世の彼は女性ではない。
その指摘に、グラナータは軽く頭を抱えた。
「それなんッスけど……」
グラナータ曰く、前世で彼は理由あって女装をしていたが、今生では王女を演じる『影武者』だったのだという。
「そして、転生して性別変わったとかそんなことはなかったッス!!!!」
咆哮するグラナータ。こころは醒めた眼差しを広間の方へ向けた。
「馬鹿兄貴……いくら必死になったって、女装した影武者と隣国の王じゃうまくいくはずないわ」
王族からの信義に対する信頼も推して知るべしである。
「それで」
遊夜は話を戻した。
「愛、愛ねぇ……憐れみ、同情も愛ってことか?」
ある意味、哲学的に思えないこともない。
(なるべくならそんな目で見たくないし見られたくないんだが……)
複雑な表情で遊夜もまたこころと同じ方角を見た。当然、広間の中に残された人々の姿は見えないが。
「まぁやるだけやってみるかね、リーヤもいるしな」
現世で初めて呼ぶはずのその愛称はやけに唇に馴染んだ。
●バグを回避せよ
一方、広間は沈黙に鎖されていた。
「さて、確認しよう。
『勇者見習い』ジーヤもlinkerでもあったから主人公側だろう。linker登録者の中にジーヤ君の英雄はいない。故にその英雄をこちら側と仮定すると十三名か」
まほらま(aa2289hero001)の現世に信義は思い当たることができなかった。
彼女を除く『登場人物(NPC)』とされた人々の名が挙がる。
『悪の大臣』灰墨 信義、『女騎士』ミュシャ・ラインハルト、『女神官』ゼルマ、『勇者』エルナー・ノヴァ、『女魔法使い』ライラ、『騎士皆習い』アーサー・エイドリアン。そして……。
『酒場の看板娘』ユフォアリーヤ。
『メイド』時鳥 蛍。
『文官』迫間 央。
『人質の姫』マイヤ サーア。
『悪役令嬢の執事』ダイ・ゾン。
『隣国の王』アークトゥルス。
「この中で記憶があるのはここにいる八名だけだ。さて、どうしたものか」
「時間も無いようですし、私たちでなんとかする方が良いのでは。記憶が無いのであれば説明しても理解に時間がかかるでしょうし、無駄な混乱を招く恐れもあります」
央の発言に、皆が頷く。
アークトゥルスは軽く考える素振りをした。
「冷たくか……なかなか心が痛いな。知り合いに会わないことを祈るとしようか」。
「……あ、あの」
たどたどしく声を出した蛍が文字を綴ったノートを見せる。文字を読み終えた信義とユフォアリーヤ、それから、央とマイヤはそこに書かれた内容に沈黙した。
「……有事であるからそういったことも許可するし、問題になった時は責任を持つが」
歯切れの悪い信義をよそに大臣の許可を得たメイドはゆっくりと頷いた。
「──そうね。確かに事が事だし、手段を選んではいられないわね」
何かを決意したかのようにマイヤは央の腕にそっと手を添えた。
マイヤはこの国に従属する国から差し出された人質であった。貴族の娘でもある彼女の世話役に命じられたのが、王からの信頼篤い優秀な文官である央だ。やがて、二人の間に恋が芽生え愛と変わった。今ではいずれ結婚をと願う関係でもあるが、まだ幾年か残っている人質としての期間を全うするため、彼らは婚姻を結ばずに、多くの目から関係を隠して過ごしていた。
ユフォアリーヤは混乱する心を治めることができないでいた。
「……ん、バグ……フラグを折る、フラグ……!?」
──後でな。
約束した。きっと、いつも通り遊夜は接してくるだろう。それどころか、蘇った記憶のせいでユフォアリーヤはいつも以上に彼と離れ難い。
なのに。
教えてはいけない、避けてもいけない、冷たくしなくてはならない。
(それが三日!?)
「……バグ、ユーヤが……冷たく、フラグ回避……存在意義、ユーヤが……」
頭から白煙を出しそうな様子で、ユフォアリーヤはぐるぐる目で呟いた。
フラグ云々の前に自分自身がバグりそうな予感をヒシヒシと感じている。
「バグ、ねぇ……」
思案顔でダイ・ゾンもまたぽつりと呟いた。
●一方、その頃
久しぶりの祖国の土を踏んでGーYAは両腕を伸ばした。
勇者見習いとして魔獣討伐の遠征に出ていた彼だが、三日後の建国記念日に参加したくて馬を走らせて帰って来たのだ。
「ジーヤ君が帰って来たって聞いて」
それは、GーYAが憧れる『勇者』エルナーだった。そうは見えない彼だが、腰より下げた光の剣は神より下賜された唯一無二の勇者の証である。
立ち止まったGーYAの背に何かがポンと触れた。
「気をつけて欲しいわぁ」
目深にかぶったフードがずれて青い髪が散る。
「あらぁ? 光の剣の」
「魔王の娘……」
エルナーの発した不穏な言葉に驚いたGーYAと女性の目が合った。にんまりと笑った緑の瞳が妖しく煌めく。
「まほらま、よぉ。ちょうどよかったわぁ、困ってたのよねぇ」
「何を──」
「ねぇ、建国記念の限定スイーツってまだ売ってないのかしらぁ」
……幸い、魔族とこの国は良い関係を築いており、国交も概ねうまくいっていた。
「まだ店頭には並んでいないようだ。当日まで楽しみにするしかないね」
「ふぅん、せっかく人間国のスイーツの食べ歩きに来たのに。仕方ないわねえ。じゃあ、オススメを教えて貰おうかしらぁ」
「僕が奢るから店はジーヤ君に任せるよ」
「えっ!?」
●1:朝
うららかな空の下、迷子の連絡を受けた騎士見習いのアーサーは街を巡回していた。本来、市井に降りてこのようなことをするのはlinkerたちの仕事だが、今日は朝からlinkerたちが妙に慌ただしく、誰も捕まえることができなかった。
「こういう時に限って……ん?」
城へと続く跳ね橋の前で日傘を差して佇むのは令嬢ファリンだ。
(彼女も確かlinkerだったはず)
だが、仮にも令嬢に迷子探しを頼んで良いものだろうか。
逡巡しているアーサーに、あろうことか令嬢から声をかけてきた。
「アーサー様。丁度良かったですわ。わたくし、あなたとお友達になって差し上げてもよろしくてよ?」
「は?」
尊大な態度で白魚のような指を伸ばしたファリンの表情が曇る。
「……あら、わたくし……また何か間違ってしまったのでしょうか……」
唖然とするアーサーにしゅんと萎れるファリン。意外な反応にアーサーは思わず顔を赤らめて否定する。
「いや、喜んで、俺、いえ、私は!」
喜色満面の笑みで顔を上げたファリンだったが。
「あら?」
そこにアーサーの姿は無かった。
「なぜですのー!? これで三回目ですわ。こ、このままでは破滅フラグが……!」
「そろそろ諦めて屋敷に戻りましょう」
執事の提案をファリンはきっぱりと断る。
「わたくし、負けませんわ!」
ダイ・ゾンは主人に気付かれないように歩きながらそっとため息をつく。
そんな二人の後ろ、吊り橋の向こうでびしょぬれのアーサーが堀から這い上がったのだが、ファリンがそれに気付くことはなかった。
「どうした?」
濡れた衣服を絞っていたアーサーに声をかけたのは遊夜だ。
「迷子は見つかったか。手伝うぞ」
ほっとした表情を浮かべたアーサーは、何故かもう一度堀へと落ちた。
「おいおい」
「げほっ、今、何かが足を!?」
「……手を貸すぞ」
腕を捲ってアーサーを引き上げると、遊夜はユフォアリーヤに向き直った。
「そんなワケで仕事だ、リーヤ。舞踏会までには終わらせる」
ぷいっと顔を背けるユフォアリーヤ。だが、その耳と尻尾がその行動を裏切っている。
「……わかった」
睨むように遊夜を一瞥して去って行くユフォアリーヤ。
「……どうしたもんかね」
怪訝な顔をするアーサーに軽く手に振って、彼らは迷子探しに向かう。
一方、去ったはずのユフォアリーヤは物陰に隠れて遊夜を見守っていた。彼女は遊夜との関に恋愛フラグが立たないように冷たく振る舞わなくてはならず、またその隙に彼が他の誰かと恋愛フラグを立てないよう(公私込みで)監視し妨害する役目があるのだ。
──苦しい。
ストレスでフサフサとした黒髪が禿げそう。
(でも、ユーヤと……この世界を守るために、がんばらないと……!)
ふんぬ、と小さく拳を握って気合いを入れるが、すぐにそれも萎えてしまう。
(やりたくないけど……ボクが、頑張るしかない……!)
前世の記憶、遊夜の(非常に広義に解釈した彼女にとっての)浮気現場を何度も思い出し己を奮い立たせる。それは、嫉妬と怒りを沸き立たせるが、同時に心身共にダメージが大き過ぎる諸刃の剣。
涙目のユフォアリーヤは、迷子探しに協力するために現れた女性陣へ意識を集中した。
「こんにちはっす」
戻ろうとしたマイヤと央の前に現れたのは耿太郎だ。彼にとって二人は前世での顔見知りであり声もかけやすかったし、何より二人の事をマイヤの国を絡めてまとめた記事も読んだことがあったのだ。確かふたりは文官と姫という立場でもあるのと同時に手練れでもあった筈。
(もしもの戦力に欲しいっすが、前世の記憶ってどれくらい覚えてるもんなんすかね?)
僅かに悩みながらも、耿太郎は現時点では現世の立場で関わる方が良いだろうと判断した。
「凄腕の文官さんって聞いたっす! どうやったらそんなに賢くなれるっすか!?」
くりくりと目を輝かせた仔犬のように人懐っこい笑みで央に駆け寄る。憧れのヒーローを前にした子供のような、この瞳を無下にするのはさすがに罪悪感が湧く。
だが、央が悩む前にマイヤが二人の間に身を滑らせた。そして、眉一つ動かさずに問いかける。
「私の誕生日、わかるかしら?」
驚く耿太郎。すぐにそれがこの国特有の駆け引きだと気付く。問いに正解すれば一緒にいることを許されるが、外せばこの談笑を終わりにしなくてはならない。
「すみません、わからないっす……」
素直に耿太郎は答えた。
「不正解ね。ヒサシ、正解を教えてあげて」
すると、傍に控えていた央が答える。
「十一月五日かな?」
「そう、私がヒサシと出会った日! あの日から私は始まったの!」
理不尽極まりない問いである。むしろ、それはふたりの記念日では。
(だとするとこの世界でこの二人は……。いや、世界の為っす。塩対応でもめげ……めげない……!)
央が耿太郎を見た。
「どんな噂が広まってるのか知らないけど、俺は只の文官ですよ。まぁ……マイヤが望むなら神でも殺して見せますが」
言外の絆を感じさせる迫力に、耿太郎が息を飲むと、話は終わりとばかりに二人は去って行った。
耿太郎は感慨を抱いて呟いた。
「乙女ゲーム……奥が深いっす……!」
私室に戻ったマイヤたちに来客の知らせがあった。
「ああ、今度はジーヤさんですか」
対応に出た央は怪訝に思う。こんなに忙しく来客があったことはない。
「お届けものです」
GーYAの討伐隊が訪れた地はマイヤの母国との国境にあった。ゆえに、彼はマイヤの友人知人からの手紙を大量に預かって来たのだという。
「これは?」
「お土産です」
「……あぁ、故郷。そうね、懐かしくはある。けれど、今、私が帰るべき場所はヒサシの隣だから」
礼を述べて彼女は再び手紙を一通一通確認する作業に戻った。
その姿を見ていたGーYAがぽつりと呟いた。
「いつもながら、マイヤさんの立ち振る舞いは美しいですね」
軽い緊張を覚えながらGーYAは淑女の美しい横顔を見た。あの中に紛れ込ませた一通は彼が書いた、マイヤを舞踏会へ誘うものだ。
(できれば、一緒に行けたら──でも)
GーYAは徐々に暗澹たる気分になる。
(なんだか妙に距離が近いような)
ライティングビューローの椅子に座ったマイヤ。寄り添って立つ央。その姿は絵になるのと同時に甘い雰囲気が漂っていた。
(! ああああああ……)
何かを察して頭を抱えるGーYA。隣に座るまほらまのスイーツをつつくフォークがさっきから止まっているが、単に食べ終わっただけかもしれない。
「あら」
小さな花を添えたそれに気付いたマイヤが動きを止める。
「舞踏会? そうね、出席するならヒサシも一緒に来ないと。人質を監視する目は必要でしょう?」
既にマイヤによって建前を崩さずに参加できるよう手を回してある。本気になった女は怖い。
「え、ああ、」
央の答えを聞くまでもなくGーYAはサッと席を立った。
「では、俺はこれでっ」
後に続くまほらまが静かにドアを閉めた。
「そういうこともあるわよぉ」
「うん、大丈夫──お似合いだし」
多少気落ちしながら、GーYAは僅かに滲んだ涙を拭った。
●1:昼
優雅な庭園のお茶会。
美しい女王が優雅に扇子で口元を隠しながら、こころやクレイをもてなしている。
「大臣は意外に堅物なんで仕事に真面目な人に弱いッスね。ミュシャさんは今変に周りを意識してるみたいで話しかけたらすぐ赤面してるような。アーサーさんは美人に弱いッス!」
「改めて聞くとドン引くわね」
「頑張りましょう、こころさん」
NPCたちの攻略情報を漏らしているのは王女の影武者のグラナータだ。
「乙女ゲーって女の子が主人公だから俺こっち側で動いた方がいい気がして……」
なんとか友情方向でもいいからポイントを稼ぐ手伝いをしたい。
礼を述べるこころたちを見送ると、彼は改めて庭園を見渡した。
グラナータは蛍を探していたのだが自分付きのメイドであるはずの彼女が捕まらないのだ。ようやく見つけても彼女はなぜかすぐに視界から消える。
「……うん、今は世界の方が大事ッス」
それは半分本当で半分は建前だ。蛍との記憶を取り戻したグラナータは彼女と言葉を交わしたいという思いを抱えていた。意を決して、彼はお茶会を抜け出すと扮装を解いた。
「ふぅ、これで探しやすく……」
──ゴン!
「ぐえー! いったいなんで……」
突然の後頭部への衝撃。目を回して崩れ落ちるグラナータの背後で植木鉢を振り上げた蛍が立っていた。
「すみ、ま……せん……。これも……世界の……」
グラナータに気付く蛍。
(また……追って来たんですね……)」
「あと頼まれた品は……」
GーYAとまほらまは連れだって街を歩いていた。
「大変ねぇ。まあいいわ、奢ってもらったスイーツぶん、お付き合いするわよぉ」
「俺がおごったわけじゃないけど」
その時、彼の姿を見つけたミュシャが駆けて来た。
「お久しぶりです、ミュシャさん。どうしたんですか?」
「ひゃっ、いえっ! 今は近付かないでください、ではまた後でっ」
反射的に頬を赤らめて逃げていくミュシャと、わけも解らず傷つくGーYA。
「……誠実って罪作りよねぇ」
マカロンを齧ってまほらまが呟いた。
自室に戻ったファリンは酷く疲れていた。
それもそのはず、計十五名にアタックし、何故か、その全員が途中で姿を消した。流石にメンタルにもだいぶくるものがある。
そこへ、来客の知らせである。断ることも出来たが、客人の名を聞いたファリンは何か言いたげな執事を制して立ち上がった。
「お手数をおかけしました」
自室の前のテラスでファリンはGーYAとまほらまへ礼を述べる。
久しぶりに会う令嬢の様子に首を捻るGーYA。彼は無理難題ばかりを押し付けるこの令嬢が苦手だった。今回だって遠征先で手に入る希少な宝石の購入を強引に頼まれたのだ。
だが、目の前の彼女には傲慢さはなく恐縮し更に憔悴しきっている。
出された茶菓子を幸せそうに食べるまほらまへ、ファリンは別人のような柔らかな物腰で手ずからお茶を淹れてくれた。
(どうしたんだろう……俺が知らなかっただけで元々こういう所があったのかな)
「はっ、そうですわ! ジーヤさん、今からわたくしの部屋にあがっていきません?」
「え、部屋ですか?」
なんとなくまほらまの面白がるような視線を感じる気がするが、彼女の申し出を断るのも心苦しかった。
「今、支度をして参りますわね」
元気を取り戻し、屋内へ戻って行くファリン。
GーYAがその後姿を何気なく見送っていると。
──ドン。
壁に腕を突いてぬっと現れたのは堅気に見えない強面の男だった。それが、先程まで静かに控えていた執事のダイ・ゾンだと理解するのに数分要した。
「うちの嬢に何手ェつけようとしてんの? ちょっと事務所来てくんねぇかなァ」
「じ、事務所??」
「勇者様がこんなことして、いいのかねェ?」
「ええ……?」
デザートを平らげたまほらまがクスクスと笑いだした。
……テラスに戻ったファリンは、GーYAとまほらまが既に帰ったことを知って崩れ落ちた。
「どうして皆様、いなくなってしまいますの?」
「今日は部屋で休んだらどうでしょう」
「いいえ! わたくしはまだ頑張れます!」
大義を前にしたお嬢様は諦めを知らない。
(ウチのお嬢様にゃ酷だが、仕方ねぇな)
お嬢様がフラグを立てないよう、穏便に人払いを続けるダイ・ゾンは小さく肩を竦めた。
●1:舞踏会
その夜、王城では舞踏会が開かれた。
ファリンと談笑していたアーサーが激しく咳込んだ。手に取ったグラスワインが塩味になっていたのだ。一体どこのメイドの仕業だろう。
しかし、それを知らぬファリンは走り去るアーサーを哀しい目で見送った。
「どうして、うまくいかないのでしょう……」
遊夜と踊り終わったユフォアリーヤはツンとそっぽを向いた。
「……無理するなよ」
嘆息する遊夜。
ユフォアリーヤの塩対応は、実のところ必死さしか伝わってない。だからこそ、遊夜もユフォアリーヤの意思を尊重すべくそれを受け入れていた。
(相談してほしいが……だが、こっちも相談できない案件を抱えてるしな)
「……三日だ。三日我慢してくれ」
室内から漏れ聞こえる音楽。テラスの片隅でマイヤは央の腕に自分のそれを絡めた。
「そういう作戦でしょう?」
人目を気にする央を制して、見せつけても構わないと少し甘えるように彼女は恋人の胸に顔を埋めた。
「……だから、いいの」
「マイヤさん……いや、マイヤ」
苦労して直したさん付けが出てしまって、言い直す央。そして、恋人の髪を優しくすくう。そのぬくもりに幸せを感じながらマイヤは目を閉じる。
今日は色々と強引だったかもしれない。けれど……と思う。
思い出した過去の記憶。大切でかけがえない関係ではあったけど、どこか微妙な距離があった昔のふたり。
(今の私、貴方(わたし)が夢に見ていた幸せの中にいるのね)
人質という立場を恨んだこともあったけれど、それでも央を独占できるこの幸せを噛みしめる。
(だから、この世界を壊させたりはしないわ)
華やかな音楽が静かな夜に吸い込まれて行く。
●2:朝
今日は扮装を解いてlinkerとして駆け付けたグラナータが、浜辺で叫んだ。
「うわー! 鯨ッス!! 見て見て鯨!!! どこから来たッスか???」
浜に打ち上げられた巨大鯨はぐったりとしている。
「元気いいのねえ? 私が回復魔法をかけるわ」
「それから、ワタシが魔法で海に還すわ。その間、鯨の警備をお願いね」
「まあ、従魔が襲ってくるわけでもないだろう」
同じく警備に当たっていた遊夜が零して、それから幾ばくも無く、それは起こった。
「ん?」
やけに空気が乾燥し始めた気がした。
「え? 山火事?」
気付いたグラナータが慌ててそれを指した。
「サラマンダーだわ!」
顔を歪めるライラが遊夜の腕を掴む。
「今、アナタの銃に魔力を──きゃっ、な、何?」
どこからか飛んで来た水鉄砲の水にずぶぬれになるライラ。
「……仕事だ、仕事」
遊夜の呟きに「うう……」と辛そうな唸り声が聞こえた気がした。
山へ向かう遊夜たち。
鯨を見守る役目を買って出たグラナータは愕然とした。
「大変ッス! 鯨が乾いてしまう!!」
熱のせいなのだろうか、引き潮のように水が消えていた。
苦しそうな鯨は諦めたように目を閉じた。
「諦めちゃ駄目ッスよ!」
駆け出したグラナータは、手桶一杯の水を何度も何度も乾燥する巨体にかける。
「……ん、協力、する……!」
ピシャと水が跳ねる。
波打ち際でユフォアリーヤがバズーカのような水鉄砲を利用して放水していた。
GーYAが剣を一閃すると、それは魔力の風となってエルナーに襲い掛かった。顔を歪めた勇者は盾を突き出してそれを弾く。
「戦場を巡っているだけあるね」
構えていた盾を下ろし、エルナーは四阿を指す。
「一旦休もう」
遠征の報告を兼ねた茶会は和やかな雑談混じりに進んでいく。
時々、GーYAの隣でパフェを崩していたまほらまがスプーンの手を止めずに口を挟んだ。
「北で異常行動を起こしたのは地底に棲む魔獣ばかりです。もしかすると、地底で何かが起きているのかも」
そこで一度言葉を切ると、GーYAは真剣な眼差しを勇者へ向けた。
「今回の件は明らかにおかしいです。なのに、まだ場当たり的な対策だけですよね? このままでは」
それにエルナーが答えるより早く、園庭に朗らかな笑い声が響いた。
「ほほう、心配をかけてすまぬな」
「っ、王様!」
慌てて礼を取ろうとするGーYAを、好々爺は孫にするような優しい抱擁で見習い勇者を迎えた。
●2:昼
(よしよし……)
ピクニックにやって来た草原で某外交策の出来を密かに確認していた蛍は静かに頷いた。
そんな、徹底的にlinkerを避けていたはずの彼女に耿太郎が近付く。
「可愛いメイドさんを見かけたら声かけないとだめっすよね!?」
ふいと踵を返す蛍に慌てて追いかけて耿太郎は笑顔で誘った。
「お茶もお菓子も美味しいし、あとは可愛いメイドさんがいてくれれば完璧っす! どうっすか?」
言葉が終わる前に蛍は走って逃げ出した。驚いた耿太郎が反射的に追いかける。
すると、ミントの花壇の前で蛍が徐に足を止めた。
「どうかしたんっすか」
耿太郎へ、蛍は声の代わりに返答を綴ったノートを見せる。
『いえ、ここ畑に向いてるなと思って』
ノートを覗き込む耿太郎。突然、その足元の重ねられた敷き藁の感触が無くなった。
「わああああああああああ!?」
深い落とし穴の中に転がり落ちる耿太郎を沈痛な顔で見送った蛍はノートを閉じた。
『ミッションコンプリート』
閉じた頁の端には小さくそう書かれていたという。
●2:流星群
例年に無い大量の流星群を見るために、多くの人々が丘に集まっていた。
「わたくしに魅力がないことはわかっていましたけどこれ程とは……! このままでは破壊神が……おじさま、なんとかしてくださいまし。あなたはわたくしが子供の頃に憧れた、ヒーローなのですよ」
星見を約束した男性にまた消えられてしまい、ついに耐え切れなくなってぼろぼろと泣くファリン。
(女の涙は反則だろ……そうだ)
その姿に、思わず『憐れみ』を抱きかけたダイ・ゾンは慌てて自制する。
「おじさんが賢い女の子ってのは何か教えてやる。
物理学の「力の統一」において、「標準理論」に不可欠な存在で、二〇十二年七月四日CERNによって発表されたものは?」
それは、前世の知識に基づいた問いである。不思議に思いながらファリンは答えた。
「ひ、ヒッグス粒子ですわ」
「不正解だ」
驚くファリンへダイ・ゾンは首を横に振って見せた。
「そこは小首をかしげて『存じ上げませんわ。教えてくださいませ』って言うべきだぜ。お前さんは完璧すぎるんだ……隙のない女にゃ、男はつけ込めねぇモンさ」
そのまま、執事の役目を捨ててダイ・ゾンはファリンに背を向けた。そして、彼はただ背中で泣きながら帰路につく。
身分を隠してそっと人々の間に紛れ込んだ央とマイヤ。
身を寄せ合ったふたりは光の雨のような流星群をその目に焼き付けた。
「……流れてはすぐに消えてしまうってのは、美しいけれど儚くて、寂しいもんだな」
「ヒサシは私の隣に居てくれればいいのよ。それだけで私が必ず幸せにしてあげるわ」
それは、例のバグについて忘れることができるひと時だった。
アークトゥルスへ駆け寄った耿太郎は侍従によって阻まれた。
「っ、ご依頼頂いた手紙は届けたって伝えたくて」
「その報告は直接でなくて良いと伝えたはずだ」
「せっかくだし、直接話したいと」
記憶にある相棒の面影を追って話そうとする耿太郎をアークトゥルスは冷たく突き放した。
「すまないが私は忙しい。謁見の際は事前に申請を。では」
去ろうとするアークトゥルスへ、耿太郎は無意識に一歩踏み出した。
「……そういえば、この国では確かこうすれば良いんだったな。
近年の気候変動、度重なる地震被害の対策として我が国が独自に行う予定の規制及び計画を挙げよ」
「え!?」
「我が国が行う財政支援とその目的について答えよ」
基本的に国外どころか国の一部でしか共有されない情報である。しかも、選択式ですらない。
それは──拒絶。
「王との会話に必要な最低限の教養だろう? さぁ、答えたまえ」
言葉に詰まる耿太郎を視界から消して、アークトゥルスは侍従を伴ってその場を後にした。
「……王さん」
完全に耿太郎の姿が見えなくなってから、アークトゥルスは目を伏せた。
●三日目、破壊神ピヨ
破壊神復活──それは規定通りに起こった。
厚意と好意のフラグは基準値に達して、地表を大きく揺らした。
「ひよこじゃないですか」
意外な破壊神の姿に唖然とするグラナータ。そんな彼に蛍は剣を突き出した。そこにはいつか助けた鯨の印が刻まれている。
「……ここまで来た責任は取ってください。女王……いえ、グラさん」
女王の姿をしたグラナータは、メイド姿の相棒を見た。その眼差しが驚きから蛍の見慣れた表情へと変わる。
「くそ、やっぱり無理だったか!」
悔しさの滲んだ声をこころが張り上げる。
「なんで!? 頑張ったのに!」
「頑張った?」
そうして、転生者たちはそれぞれが課せられた試練について知る。
「色々と事情がありましたのね」
釈然としないながらも、なんとなく状況を理解したファリンがちらりとダイ・ゾンを見る。
「仕方ない事情ってやつですよ」
「……」
「ユーヤ!」
制約から解き放たれたユフォアリーヤが転がるように遊夜の腕の中に飛び込んだ。それを受け止める遊夜。
(例え死んだとしても、世界が変わったとしても……)
恋人へべったりとくっついた彼女はいつものクスクス笑いを漏らす。
「……ん、前に宣言した通り……ボク達は、何度でも巡り合うの」
「……仕方なかったとはいえ、マジできつかった……本当に」
げっそりと疲れた顔で遊夜は彼女の頭を何度も撫でる。
「結局、どうあってもこの事態は回避できなかったということだな」
冷静なアークトゥルスの指摘に灰墨兄妹は悔しそうに口を結ぶ。
「だが、それも互いに世界を思いやった結果だろう、気に病むことはない。それに、知っていたからこそ対策も出来た」
アークトゥルスは道の果てを指した。そこには陽光弾く鋼の輝きが見えた。
「他国の軍を国内に入れるとは」
苦虫をかみつぶしたような信義へ隣国の王は涼やかに笑った。
「さすが、王さん!」
笑顔を浮かべる耿太郎。内容を知らぬまま、彼が販路を使って隣国へ素早く手紙を届けたのだ。
「これは、世界存続の戦い。そこに国の境は必要無い。そうだろう、王よ」
国王が頷くのを認めて、アークトゥルスは朗々と自軍の兵士たちに指示を出した。
「さあ、力を合わせて破壊の神を押し止めるんだ!」
力強く地面を突く破壊神の嘴の前で影が閃いた。それはジェミニストライクによく似ていた。ふたつの影の姿かたちこそ全く違っていたが、その動きはまるで鏡に映したかのようにぴったりと合っていた。
「……へぇ、結構俺達もやれるもんだ」
「ヒサシは私の運命の人だもの、当然だわ」
誇らしげに答えるマイヤ。
戦地ではlinkerを含めた転生者たちが破壊神の行進を押し止めていた。
銃を手に駆ける遊夜の後ろで、ユフォアリーヤの力強い歌声が兵士たちに力を授ける。
蛍から受け取った剣を掴んだグラナータのオーガドライブが破壊神の巨体に叩き込まれる。
「この剣には鯨くんの分の力がなんか込められてるッス!」
手ごたえを感じるグラナータ。
だが、何かが足りない。
「ジーヤ君!」
エルナーの放ったそれを反射的に受け取ったGーYAは言葉を失った。それは、光の剣だった。
笑みを浮かべるまほらま。
「協力を、報酬は建国記念限定スイーツで!」
「ふふふっ、プラス食べ放題で手を打ってあげるわぁ。時間稼いでねぇ」
鞘から抜いた光の剣で仲間達に並ぶGーYA。彼らに守られながら、まほらまは魔王城に伝わる一冊の魔法書を出した。
「ヒヨコのくせに中々だったわぁ。さあ、全てを記した魔法書よ、その叡智をここに!」
本から光が溢れる──魔法書メンサセクンダ。世界のすべての『スイーツの』知識が記された魔法書。
「わかったわぁ、あのコの好みに近いのはマシュマロとマカロンとミルクセーキねぇ」
「は!?」
素っ頓狂な声を出す信義を他所に、GーYAは光の剣を掲げた。
「皆さん、この剣はlinkerの力を増幅します! どうか想像の力をここに……!」
「そおねぇ、ミルクセーキはシェイカーを使ってもできるかしらぁ」
「オヤツなら作れないことはないから手伝うぞ」
本をめくりながらまほらまがそれぞれのスイーツについて説明すると、遊夜が腕をまくり、その隣でユフォアリーヤが任せてとばかりに両の拳を握った。
「俺たちは引き続き、破壊神を抑えよう。耿太郎は料理を頼む」
「あー……手伝い程度になるっすけど。王さんも、気をつけて」
自信に満ちた顔で耿太郎に軽く手を振るアークトゥルス。
「今だ!」
その瞬間、ヒヨコの目の前に巨大なマカロンとマシュマロが現れ、湖には洪水のようなミルクセーキが注ぎ込まれた。
──暴飲暴食の限りを尽くし、でっぷりとお腹を膨らませたヒヨコは、やがてすやすやと眠った。
GーYAは手に握った光の剣をエルナーへと返そうとした。しかし、彼は微笑んで首を横に振る。
「それはもう君のものだ。新しい勇者ジーヤ、君に祝福を」
「ジーヤも勇者になったのね? じゃあ、次のスイーツはジーヤに頼もうかしらぁ。もちろんタダなんて言わないわぁ、一緒ならきっと楽しいわよ」
GーYAは小さく笑ってまほらまの手をグッと掴んだ。
「記憶が無くても、なんとかなるもんなんだな」
「別世界だって、絆は切れない──むぅ」
しみじみと呟く遊夜にユフォアリーヤが自分たちも! と言わんばかりにかじりつく。
●結局
四日目が訪れても当然ながら世界にエンドロールが流れなかった。
城壁の上で巨大ヒヨコによって大きく穿たれた大地を見ながら、ダイ・ゾンが嘯く。
「英雄離れできねぇ、甘えたお嬢様にゃ遠い話だけどさ。俺ぁいつかファリンちゃんとバージンロードを歩くのが夢なんだぜ」
記憶の戻ったこの執事は以前よりずっと頼もしく感じるとファリンは思った。
「生涯独身の覚悟もしておりますけれど、未来を限定する愚も犯したくありませんわね。その夢が叶えばいいのですが──あ」
そよ風がファリンの髪を巻き上げていく。
悪役令嬢の汚名返上を果たしたファリンは社交界の華となった。ただし、その隣に付き従う有能な執事が厳しく害虫駆除を行うためか、ファリン自身にその自覚は薄そうだ。
遊夜とユフォアリーヤは、王国でそう遠くないうちに結婚するかもしれない。二人はなんらかの形でまた困っている子供たちの手助けをしたいと考えてもいるようだ。
グラナータは未だ女王の影武者を務めながらその日常で蛍との絆を深めているようだ。彼は女王よりも深く魂を捧げる相手を見つけたようでもあった。
マイヤはこの一件の功績を讃えられて人質の任を解かれた。二人は両国を人質とはまた違った形で結ぶ立場となる。央との結婚式は盛大に執り行われ、幸せそうな美しい花嫁の姿は永く語り継がれた。
耿太郎はアークトゥルスの国と契約を結び、新聞の販路を拡大した。依然として自身も取材にあちこちを飛び回っているが、時折、その冒険にポニーテールの美青年が同行するという。
世界崩壊を食い止めたまほらまは、王位を継いで新たな魔王となり、若き勇者GーYAと共に、目覚めた破壊神の『守り人』となった。具体的には──。
「お代わりはあるのかしらぁ?」
「後で! ほら、ピヨもご飯……いたっ、いたたっ!」
まだ力加減の解らぬピヨの、兜の上からのハイテンションアタックを受けながら、新しい勇者は具現化能力を駆使してスイーツを作る。
「……ん、甘いなあ」
鼻腔をくすぐるのは新観光名所のミルクセーキ湖の香りだ。
結果
シナリオ成功度 | 大成功 |
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