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小さなお茶(菓子)会
最終発言2019/01/09 10:29:19 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2019/01/08 20:16:19
オープニング
この【初夢】シナリオは「IFシナリオ」です。
IF世界を舞台としており、リンクブレイブの世界観とは関係ありません。
シナリオの内容は世界観に一切影響を与えませんのでご注意ください。
●大きい、大きい
目の前に、大きなケーキがある。自分の背丈よりも大きなケーキだ。
その隣を見るとティーカップ。紅茶は入っていないから、中に潜り込めてしまいそう。
近くには角砂糖の入った壺がある。角砂糖も両腕で抱えるほどの大きさで、齧れば想像通りの甘さ。
そろそろお気づきであろう。周りが大きくなったのではない。
──皆が小さくなったのだ。
●何する?
慣れない視界に戸惑い、或いはあたりの菓子に目を輝かせるエージェントたち。
その前を黒髪の少女が走っていく。
「シエー!! すごいわ、おかしがおっきいの!」
きゃー! とはしゃいだ様子で助走をつけ、皿の縁を踏み台代わりにケーキは飛びかかったシェラザード(az0102hero001)。当然、服も顔もクリームでベタベタだ。
「シェル、その服を誰が洗濯すると思って……」
「え? きっとそのうち元通りなの! だってこんなの、夢でもないとありえないわ!」
四月一日 志恵(az0102)の言葉にそう返したシェラザードは、エージェントたちに気づいて「ね♪」と楽しげに笑う。
志恵もエージェントたちの姿に気づいたようで軽く会釈。その雰囲気がいつもより柔らかい気がするのは『夢』だからなのか──その姿が2頭身だからなのか。
「皆さんも……どうやら、可愛らしいお姿に。大変良いと思います。いえ、良いかどうかは言い切れないのですが」
複雑そうな表情を浮かべる志恵。
これがシェラザードの言うように夢ならば良いが、ドロップゾーンに入り込んだりしていたら一大事である。この姿で共鳴してもきっと2頭身だろうし、勝ち目があるとは思えない。
だが、彼女の英雄はといえばお気楽で。
「あっ! マシュマロが見えたの! 皆、シェルとマシュマロがっせんしましょ!」
ケーキの上で立ち上がると、ぴょんと軽やかに着地。「あっちよ!」と指差して何処かへ行ってしまう。
深く長い溜息をついた志恵は、諦めの表情でエージェントを見た。
「……従魔などを見かけたら、討伐をお願いします。その他はご自由にどうぞ」
夢ならばいつか醒めるだろうし、ドロップゾーンならば敵が出てくるはずだ。
お茶会の始まりそうなテーブルに、小さなエージェントたち。
さあ、何する?
解説
※戦闘は起きません。
●出来ること
全員2頭身です。遊べます。
舞台は大きなテーブルの上。アフタヌーンティーの開かれているような雰囲気ですが、周りに人はいません。
紅茶がカップに入っていないのは安全のため(?)です。夢なので気にせずいきましょう。
ケーキを食べてみたり、食器で隠れんぼしてみたり。のんびり過ごすのも良いでしょう。
戦闘行為はNGです。敵は出てこないので仲良くお願いします。
テーブルから落ちたら夢はおしまいです。
●NPC
四月一日 志恵:色んなケーキを摘んでは食べ、摘んでは食べています。
シェラザード:全身クリームベタベタです。マシュマロ合戦(枕投げ的な遊び)をやりたそうにしています。近くに行くともれなく巻き込まれます。
リプレイ
●ちっちゃくなりました
突然2頭身になったとしたら、人は何を思うだろうか。
「ふむ、これまた面妖な……」
「……ん、随分と……可愛くなった、ね」
自らの体を調べるようにぺちぺちと手を当てる麻生 遊夜(aa0452)と、遊夜にぴっとりとくっついたユフォアリーヤ(aa0452hero001)。いつもと異なる姿に惑わされ、敵に襲われればたまったものではない──と、2人は一刻も早くこの姿に慣れることを方針とした。
共鳴して動きを確認してみたり。ケーキスタンドによじ登り、広がった視界で周囲を警戒したり。さらには他の者の様子から、ドロップゾーンに取り込まれていないかと真面目に観察もしてみるが──。
「──ふむ、まぁこんなもんか」
「……ん、特に問題はない……かな?」
首を傾げながらも頷くユフォアリーヤ。危険がなさそうな事を四月一日 志恵(az0102)に告げれば、彼女は「そうですか」と小さく安堵の息を洩らした。
菓子の間に消えていく志恵を見送り、遊夜とユフォアリーヤは共鳴を解く。
「……ん、プチシュークリーム……気持ちよさそう」
ユフォアリーヤが示したのは山のようにプチシューの積まれた皿。完全に警戒を解くのは早いだろうが、いつまでもそうしているのも勿体ない。
「寝転がってのんびりするか」
「……ん。もし、敵が来ても……ボクたちなら、大丈夫」
それだけの実力と自負がある。2人は小さく頷き合い、プチシューの皿へ向かって行った。
さて、この状況に動じずいち早く適応したのはエージェントであり──パティシエでもある男、ヘンリー・クラウン(aa0636)だった。
「さてと、何から楽しむか……」
「目が光ってんぞ。たく、手伝うから変なことしないでくれよ」
片薙 蓮司(aa0636hero002)は肩を小さく竦める。
菓子が沢山あるこの状況。パティシエであるヘンリーとしては新作を考えるためにこれ以上ない場所だろう。1つずつ順に2人で味見をして行くと、途中でチョコレートの集められた皿に行きついた。
「チョコモンブランか……」
頭の中に構想が浮かび上がり、小さく笑みを浮かべるヘンリー。その顔面へ突如、クリームパイが直撃する。ずるり、とパイの落ちた顔にはべったりとクリームが。
「ははっ、ヘンリーの頭にちょくげーき! ははっ!」
実に楽し気な蓮司の声。ぴくりとヘンリーの眉が上がり──傍にあった身の半分ほどもある飴玉を思いきり蓮司へ転がす。
「お前、やったな……? 百倍返しだ!」
パイを投げつけあい、ケーキの活け造りで勝負し。やったやられたから始まった勝負は大した怨恨があるわけでもなく、途中からは一緒になって楽しみ始める。
それらの影響が及ぶことのない、離れた場所で。
「ケーキ、おっきい……」
「ケーキだけでなく、いろいろなものが大きいですの!」
興味津々でケーキを見上げる木陰 黎夜(aa0061)の言葉に真昼・O・ノッテ(aa0061hero002)の声が重なる。
「ケーキ、美味しそう……」
「いただいてみますか? つきさま」
「うん……食べよう……」
近くにあったフォークを両手で握り、ケーキの一部を切り取って食べる。甘い甘いケーキに黎夜は思わず顔を綻ばせた。
「つきさま、あちらにクッキーやマカロンもありますの!」
「行ってみよう……」
手を握り、そちらへ向かう2人。嬉しそうな黎夜の表情に、真昼も思わず笑みを零す。
クッキー、マカロン、プチシュークリームにスコーン。お菓子のなくなる様子はまだまだ見えない。
藤咲 仁菜(aa3237)と九重 依(aa3237hero002)は自分達の体を見て『これは夢だ』と理解した。明晰夢、というやつである。だが。
「この夢はフィクションだ。実際の人物とは関係ない」
ドラマで流れそうな文言を口にする依。その手元には──。
「……なに、その大きなお皿とフォーク……?」
「1つずつ食べていたら人気ケーキはなくなってしまう。自分の分は先に確保する──ケーキバイキングの鉄則だろう」
どうやら依にとって、この場はケーキバイキング会場らしい。しかし、バイキングに制限時間は付き物。さらに腹の容量というものもある。
「夢だから限界なく、食べたいだけ食べれるのだろうか。いや、まだわからないから慎重に行くべきだ。少しずつとって食べれそうなら更に、という戦法がいい」
「……依、いつもの『甘いものなんか好きじゃない』はどうしたの?」
仁菜の問いに依は素早い切り返しで「この夢はフィクションだ」と繰り返す。つまり。
(夢であることを理由にはしゃぎたいんだね……!)
颯爽とケーキへ駆けていく依を見送る仁菜。彼女自身もここで立ち止まっているわけにはいかない。いや、立ち止まっていてもいいけどそれはつまらない。仁菜は何処へ向かうわけでもなく、1歩を踏み出した。
ケーキの皿の真ん中では狐杜(aa4909)と朱華(aa4909hero002)がきょろきょろと辺りを見回している。ぱたぱたと体を触ってみるが、一体どのようにしてこうなったのか。
「摩訶不思議な事が、起きたのだよ」
「まかふしぎ、ですわ。それから──」
甘い香りがそこらに満ちている。それらを吸い込み、朱華は一層興味を惹かれた様子で周りを観察した。
「コト、これはさわっても、いいかしら」
「ベタベタするかもしれないけれど、大丈夫だよ」
狐杜がそう告げれば朱華はおずおずとケーキに手をつき、そっと離す。ケーキには手形がつき、手にはぺとりとクリームが。朱華自身は気にしないが、見守っていた狐杜が手拭いを出す。
「ハネズ、手がべたべたなのだよ。少し、拭っておこうね」
狐杜に手を拭われ、綺麗になった朱華はケーキの代わりにマシュマロへ触れた。
「まあ」
柔らかく、それでいて弾力のある感触。さらりとした表面は心地よい。
「それはマシュマロなのだよ」
ましゅまろ、と狐杜の言葉を復唱して小さく齧りついた朱華。もぐもぐと咀嚼しながら、食べたことのない食感に目をぱちぱちと瞬かせた。
「うわぁっ!?」
2頭身にはしゃいで駆けまわっていた春月(aa4200)、テーブルから落ちかけるもレイオン(aa4200hero001)に確保されて事なきを得る。
「危なかった……」
姿が消えかけてひやりとしたレイオン、そっと息を吐く。けれども春月はそれを気にした風もなく、ケーキを摘まみ食いする志恵を見て「私も!」と髪を素早くお団子にし、ケーキの間へ飛び込んだ。
「美味しいねえ!」
「これも美味しいですよ。あとあれと、あっちも、」
「いいねぇいいねぇ、夢のような世界じゃないかっ!」
志恵が次々と指差すそばでキラキラと目を輝かせる春月。レイオンの夢じゃないかな、という言葉はスルーされるものの、視線が常にこちらへあることは春月も感じているようで。
(ケーキに身体を埋めてみたいけど、視線が痛い……!)
今のところはやらないでおこう。今のところは。
「ケーキにクッキーに……シュークリームっ!」
「……どれもすごく大きいね」
マオ・キムリック(aa3951)とレイルース(aa3951hero001)の表情には隠しようのない高揚感がにじみ出ていた。甘いもの好きにとってこの光景はまさに夢のよう。勿論2頭身の姿に驚きはあるが、この状況を楽しまないで何とするか。
2人はできる限り制覇しよう、と全部のお菓子を少しずつ食べて回り始めた。フォークでクッキーを割っていたレイオンからその欠片をもらい、マオはぱくりとひと口。
「このクッキー、サクサクしてる♪」
「シュークリームは優しい甘さ」
もぐ、とシュークリームを齧ったレイルースも頷きつつ、そばのマカロンへ手を伸ばす。
巨大なケーキに対してキラキラと目を輝かせているのはピピ・ストレッロ(aa0778hero002)とレミア・フォン・W(aa1049hero002)。
「おっきなケーキ!!」
「これは壮観だね」
ピピの言葉に皆月 若葉(aa0778)も頷く。現状の視点からだとわかりづらいが、大きいという事はよくわかる。一体どれほどの大きさなのだろう。
「ケーキ……ケーキ……ピピも……」
「ワカバー! 行ってみよ!!」
何処かうきうきとしたレミアに手を引かれたピピが若葉を呼び、若葉も「わかった!」と返事をして荒木 拓海(aa1049)を振り返る。
「拓海さんも!」
「ああ! これは楽しそうだ!」
にっと笑う拓海。甘い物が得意なわけではない──むしろ苦手の部類に入るが──楽しい雰囲気ならどんとこい。
(大丈夫そうだけど、一応注意はしておかないとね)
若葉は志恵が気にしていたことを心に留め置きつつ。ピピとレミアの後を追う。
ピピは側面のクリームを手ですくって食べ、にっこりと笑顔に。レミアも同じようにすくって食べる。
「ふふー……美味しい♪」
「ん……美味しい」
クリームはふわっと甘く口の中で溶けていく。ピピはそうだ! とレミアや若葉たちを向いた。
「トンネル作ろっ!」
「お、楽しそうだね。レミアちゃんも一緒にどう?」
「……やりたい」
こくり、と頷いたレミア。ピピとレミアのペア、若葉の2手に分かれて対角線上からトンネルを掘りつつ中身を食べていく。
「レミア、ピピちゃん、そのまま真っすぐで大丈夫だ!」
拓海は彼らの掘り進める様子を見つつ、後ろから進路のアドバイスを。けれども巨大なだけあって、なかなか道は繋がらない。
「拓海さん、向こうどんな感じ?」
「あともう少しだと思うんだが……」
「まだ見えないねー?」
「ねー……」
不意にぼろり、と壁が崩れる。3人の「あ、」と言う声が重なった。
「……とおれる!」
「やったー! つながったよー♪」
「ふふ、ピピもレミアちゃんもクリームがすご……うわっ」
笑みを浮かべた若葉へピピが抱きつき、クリームがべったりとつく。ピピが「付いちゃった!」という顔をするものの、視線が合えば何だか笑えてきて。
「うわっ、3人ともクリームだらけじゃないか!」
拓海はクリームだらけの惨状に目を丸くし、苦笑しながらナプキンを差し出した。若葉が顔を拭く間も、レミアとピピは開通したケーキトンネルを行ったり来たりと楽しそうにしている。
空のティーカップとスプーンを見た拓海は何かをひらめいたのか、スプーンをカップの中に立て掛けると「皆ー!」と声をかけた。
「ケーキの上、乗ってみたくないか?」
「乗るー!」
「楽しそう……」
ピピとレミアはやる気満々。先にレミアがカップの中に立て掛けたさじ側へ乗る。
「行くぞ……っ!」
拓海は助走をつけるとジャンプし、思いきりスプーンの取っ手部分へ飛び降りた! 反動でレミアはポーンと飛んでいく。
「……たか~い……」
笑みを浮かべたレミアはくるくると回転しながらケーキの上へ。手を振ると若葉が大きく降り返し、ピピが「ボクもやりたーい!」とさじのほうへ乗り込む。
「ほーらっ! ケーキの上に飛んでいけー!」
ぽーん。空を飛んだピピは、プチシューの上から手を振る遊夜とユフォアリーヤに手を振り返す。
「良く飛ぶね……」
2人が飛んだ軌跡を眺めていた若葉。ピピも無事ケーキの上へ落下する。
「えへへ、いい景色だね♪」
「うん……よく、皆がみえる……」
ピピはレミアと笑い合い、若葉へ大きく手を振った。
「ワカバもおいでよー」
「え、俺も?」
「よし、任せろ!」
こうして自らも空を舞うとは思っていなかった若葉、スプーンに乗せられる。これまた綺麗に孤を描いて飛んでいった若葉もケーキへ着地を果たした。
そんな3人を見て仁菜や春月、レイオンが荒木の元へやってくる。
「わぁ、お父さん楽しそうなことしてるね! うちもいいかな?」
「ああ、勿論!」
いい笑顔でスプーンシーソーを動かす拓海。春月は楽しそうな声をあげて飛んでいき、見事にケーキへ埋まる。着地に失敗したら仕方ない、これは不可抗力なんだ!
──という言い訳、もとい理由を得た春月はそのままケーキの上をむしゃむしゃと食べる。もう全身クリームべったりだ。
「きゃー!」
続いて仁菜も楽し気に飛ばされ、ケーキの上にぼすん、と。その隣で春月は拓海へ大きく手を振る。
「お父さんも飛ぶといいよっ」
「俺?」
きょとん、とした拓海に代わろうかと申し出たのはレイオンだ。シーソーで向かう先は苦手な甘いケーキの上。けれども折角の好意だし──。
(本当に夢の中なら、苦手なものも気にならない……か?)
元々甘いものが得意でないだけで、楽しいことは大歓迎だ。空を飛んでいったレミアやピピ、若葉たちの楽しそうな表情が拓海をうずうずとさせて。
「……よし!」
結局、楽しいことには抗えないのである。
●十人十色の過ごし方
「わぁ、どれも美味しそうだねぇ!」
「金銭的なお菓子はあるんすかねぇ?」
両手を合わせてキラキラと周囲を見るリリア・クラウン(aa3674)とお菓子をお金に換えたい片薙 渚(aa3674hero002)。2人はしたいことのために、それぞれ動き出す。
「美味し~」
マカロンに齧りつき、満面の笑みを浮かべるリリア。あっという間に食べきって次へと手を伸ばす。
リリアが通ったその後ろに、菓子は残らない。残す必要は、ない。
(だってこれは夢! それならお腹は膨れないし、現実のボクの体重だって増えないはず!)
それは果たして本当にそうだろうか──答えは現実を認識するまでわからない。
不意に見えた人影に、リリアは思わず呼び止める。
「なっちゃん」
ギク、と不自然な止まり方をしたのは気のせいだろうか。振り返った渚にリリアは首を傾げた。
「なっちゃん、お菓子持ってない?」
「ハハハ、持ってたら食べてるっすよ~。あ、あそこに美味しそうなシュークリームがあるっすよ」
「え? ……本当だ!」
指差された方に向かって行くリリアの背を見て、渚は小さく息をついた。彼女にばれたら確実に食べられる。だから──懐に隠し持った菓子は、誤魔化すなりなんなりして隠しきらなければならない。
(お金になりそうっすからね。食べるのは勿体ないっす)
「さて、次は……っと、」
渚の視界に見慣れた人影が映る。とは言っても先ほど遠くへ誘導したリリアではなく、旦那とその能力者だ。勝負でもしたのか体中をベッタベタにしているが、仲は良さそうである。その近くにあるスイーツの活け造りに、渚はすっと目を細めた。
「……おい、活け造りのケーキ消えてんぞ」
蓮司の指摘にそんなわけはと笑って振り返るヘンリー。しかし本当に1つ消えていることにその顔が引きつる。そこへ現れたのはシュークリームを食べきったリリア。
もらっていいかと問う瞳に、ましてや大切な者の願いに否を唱えられる訳もない。首を傾げながらも頷くヘンリー、嬉しそうに顔を綻ばせるリリア。
──その後リリアに追いかけられる渚の姿があったのは、彼らの与り知らぬところ。
再びクリームパイ合戦を繰り広げる2人の元を仁菜はこっそり訪れたが、
(難しい顔はしてなさそう。でも、下手にちょっかい出すとクリームパイが飛んでくるかな?)
でも──ちょっかい出したい。
突如顔面へ飛んできたマシュマロにヘンリーと蓮司は慌てて周囲を見回した。けれども仁菜はさっそうと逃げた後。
マシュマロの犯人は分からないが、仕方ない。チョコの塊を削って自分達の彫刻を作ったヘンリーと蓮司はテーブルに寝っ転がり、上を見上げる。自然に出てくるのは互いの話。過去、現在、未来。既婚者同士、結婚式の時のことや心境をぽつりぽつりと話し交わして。
そうして再認識させられるのは──幸せで、緊張もして。けれども祝ってもらえることに幸せを感じたこと。それは彼らだけではなく、リリアや渚といったパートナーがいるからこそ感じられたことで。
2人はおもむろに顔を見合わせ、幸せそうに笑い合った。
「ふおおお! お菓子だっキース君……あれ?」
目の前の菓子に目を輝かせる匂坂 紙姫(aa3593hero001)。しかし隣を見てもキース=ロロッカ(aa3593)の姿はない。
「……まあいっか!」
紙姫の興味は今いない能力者ではなく、目の前の大きな菓子たちへ。スプーンを手に持ち探検すること暫し、紙姫はメテオバイザー(aa4046hero001)と遭遇する。
「紙姫ちゃん、サクラコが見当たらないのです」
サクラコ、とは桜小路 國光(aa4046)のことだ。メテオバイザーの言葉にキースがいないことを思いだした紙姫、互いに能力者を探し始めるが──。
「まあ……!」
「すごーい! 大きなホールケーキ!」
興味はすぐに菓子へ。メテオバイザーはパタパタとケーキ皿の周りを1周するが、相当の大きさだ。高さも2人よりあり、上に乗った苺の先端が少し見えるかと言った程度。
「そうだ! お菓子のお家にするのです。メテオ、実はお菓子のお家に憧れてたのです」
「お菓子のお家! いいね、やろうっ!」
メテオバイザー用にスプーンをもう1本調達し、いざ。
「ケーキを掘り進めていくんだよっ!」
1カ所入口を決め、横からクリームとスポンジを掬いとる。食べてみればクリームは甘すぎず、スポンジはふわふわだ。
「~~~~っ! 美味し~いっ」
「ふふ、いくらでも食べられてしまいそうですね」
メテオバイザーもニコニコと掘り進めて──もとい、食べ進めてケーキの中に空間を作っていく。お腹がいっぱいにならないのは夢だからだろうか。
「メテオ、お家の周りを綺麗にするのです」
「じゃああたしは家の中だねっ!」
ここからは分担作業。メテオバイザーはテーブルの上に飾られていた花を集め、家の周りを飾って行く。さらにアイシングのついた角砂糖を集め始め、菓子を抱えた紙姫は首を傾げた。
「メテオちゃん、それはどうするの?」
「こうして、外壁にするのです」
丁寧に積み重ねていく角砂糖がキラキラと煌めき、紙姫はわぁ、と声を洩らす。
「紙姫ちゃんのほうはどうですか?」
「ふふん、良い感じだよ!」
得意気な紙姫に中へ誘われ、今度はメテオバイザーが感嘆の声を上げる番。
綿菓子やマシュマロ、チョコレートなどの菓子が持ち込まれ、それぞれソファや椅子、テーブルといったような家具代わりになっている。
「素敵なのです」
そう言って笑みを浮かべるメテオバイザー。彼女の思い描くお菓子のお家になっただろうか。
「あとはこのチョコレート板を立てて……で~きたっ!」
扉代わりのチョコレートを立て、紙姫もにっこり。周りの茶器を使ってケーキの上に旗を立て、完成祝いにお菓子パーティをしよう、とテーブルの上や周りに菓子を並べ立てる。
「美味しいのです!」
「ね~! 綿菓子もふわふわ!」
お菓子があっという間に2人のお腹の中へ。やっぱりお腹は満たされないけれど、家作りの疲れは良い具合に2人を眠りへ誘っていく。
「おやすみなさ~い……」
「ふわぁ……はい、おやすみなさい」
マシュマロを枕に、綿菓子を布団に。彼女らは幸せで包まれながら微睡んでいった。
ふぅ、と角砂糖に座った黎夜と真昼。お菓子は美味しいが疲れはどうしようもない。
そういえばと黎夜は過去の依頼に思いを馳せた。
「真昼と初めて依頼に行った時も、お菓子が関係してた、な……」
「ええ。お菓子が出てくるドロップゾーンでしたの。もう2年以上前になりますの」
つい先日のことが数年前になる。時間の流れはあっという間だ。
「確か、よもぎ大福、頭に乗っけてたっけ……」
その時のことを思いだすと、真昼が口元に手を当てくすりと笑みを漏らす。
「懐かしいですの」
「うん。ここまで、すごくあっという間、だったけど……」
「はい」
真昼は黎夜の言葉を引き継ぐように、頷いて。
「つきさま、つきさまやお兄さまたちと幸せを分かち合えることは、まひるにとって一番の幸せですの」
だから──これからも、幸せを分かち合えるように。
その少し離れた場所でマオとレイルースは顔を見合わせていた。
「どうしよう」
「んー……」
目の前にあるのはプリン──の器。美味しそうなプリンが鎮座しているというのに、このちんまり2頭身のおかげで届かないのである。
でも食べたい。
「……あ、そうだ!」
マオは黎夜たちのほうを見て何かピンときたのか。角砂糖を幾つか譲ってもらい、階段のようにして積み上げていく。
「届きそう?」
「あと1段……かな」
器のふちまで届けばあとは楽勝だ。スプーンを持ち、ふちに腰かけてプリンを食べる。
「ん、美味しい♪」
「……頑張った甲斐があった」
仲良くプリンを分け合って、ふちに座ったままテーブルを眺める。休憩する者、食べ続ける者……。
「あ、マシュマロの山がある! レイくん、行ってみよ♪」
マオの指差した先にはこんもりと盛られた白いふわふわ──マシュマロが。きっとダイブして転がれば幸せいっぱい、と2人は角砂糖の階段を降り始める。
そんなマシュマロ山の一角に、シェラザード(az0102hero001)は陣取っていた。ベタベタのクリームを纏い、マシュマロを両手に装備して。
「さあ、たくさん遊ぶのー!」
ぽーんと投げられたマシュマロが拓海へ一直線に向かって行き──ぽふ。
「痛くない、むしろ気持ち良いくらいだな」
当たったマシュマロをキャッチし、拓海はおもむろにニヤリと笑った。
「若葉ー! ひゃっほー!」
「ん? ──わ、ぷっ」
顔面キャッチした若葉、しかめっ面をしながら落ちるマシュマロを受け止める。
「拓海さん、ひどいなぁ」
「無防備だったからな。……ん? レミア、どこに──」
「隙ありっ!」
「かっせんだー!」
視線が逸れた瞬間、若葉とピピの手から勢いよくマシュマロが投げられる。シェラザードより強く飛来したマシュマロに拓海は倒れ込み、しかしその感触に幸せそうな笑みを浮かべた。
「フカフカだ~~……このまま寝たい……」
ふわふわと睡魔に包まれていく意識。遊びたいけどこのまま寝ても良い。
(ああ、そういえば結局レミアはどこに……)
彼の気を逸らした本人は、ケーキの方へ──その影に隠れる志恵へ近づいた。マシュマロ合戦に意識を持っていかれている志恵は、レミアに名を呼ばれて目を丸くする。
「わ、っと……な、何でしょう?」
「……いこう……」
一緒に、と志恵の手を掴んで微笑むレミア。志恵は虚をつかれた表情を見せながらも、レミアに抵抗する様子はない。
「シエ……は、かくれんぼ……してたの?」
「隠れん坊……まあ、そんなところです。シェルが皆さんに迷惑をかけないか、心配で」
様子見をしていた、ということらしい。
「……あそばない?」
もしかして遊ぶつもりはないのだろうか。かくり、とレミアは小首を傾げる。それを見た志恵は目を瞬かせ、ほんの微か微笑んだ。
「遊びますよ。折角誘ってもらったんですから」
「ん……いっぱい、あそぼうね……」
小さく微笑むレミア。志恵は口を開きかけ──その頭に突如、マシュマロが直撃した。
「シエ、きたのね! マシュマロがっせんならまけないわ!」
ドヤ顔のシェラザードがマシュマロ山の上からそう宣言し、更にマシュマロを投げつける。ばらまかれたマシュマロに志恵とレミアが思わず顔を引きつらせたのも束の間──。
「ふっふっふ! マシュマロでも盾役を甘くみてはいけませんよ!」
「2人とも、大丈夫?」
マシュマロを盾に間へ立ちはだかった仁菜と若葉。むむ、とシェラザードが口を尖らせる。
「そっちばっかりたくさんいて、ずるいわ!」
「じゃあ、俺はこっちに行こうかな」
「ボクも一緒にいくんだよ! かっせんかっせん♪」
シェラザード側には拓海とピピ。2手に分かれてのマシュマロ合戦は、狙いを外してあらぬ方向へ飛ぶマシュマロも。
そのマシュマロの進路にいる──あえて飛び込んでいるのかもしれないが──春月は、飛んできたマシュマロをキャッチしてむしゃむしゃ。
「まだまだ! ばっちこーい!」
「食べ過ぎに気をつけてね、春月。他の人の分は残しておくんだよ」
食べきられる前にとレイオンが釘を差す。そうでないと食べつくしかねない、いざとなったら引きずってでも菓子から引きはがさねば。
シェラザードのいるマシュマロ山の裏手では、マオとレイルースがマシュマロに埋もれてのんびりと。
「ふかふかっ!」
「……うまい」
寝転がりつつマシュマロをつまみ食いするレイルース。彼らにも当然、マシュマロ合戦の様子は聞こえていて。
「なんか……楽しそうだね」
「俺たちも行ってみる?」
「うんっ!」
マシュマロの山を登り、シェラザードの傍へ。視界に2人を認めた彼女は「ふえたわ!」と楽し気に瞳を輝かせる。
「私たちも混ざっていいかな?」
「もちろん! さあ、マシュマロをなげあいましょ!」
どんどん大所帯になるマシュマロ合戦。相手からのマシュマロをギリギリで避けたマオは、足元に転がるマシュマロをぐっと掴んだ。
「わたしだって……えいっ!」
孤を描いて飛んでいくマシュマロ。自分の横をすり抜けていったマシュマロを視線で追いかけると──。
「……もぐ」
「レイくんも投げてっ!」
キャッチしたマシュマロを投げずに食べるレイルース。そこへどこからか「どちらも頑張れ!」と応援する声がかかる。プチシューの皿の上で寝転がっている遊夜たちだ。
遊夜とユフォアリーヤはマシュマロ合戦の様子を眺めつつ、何やら既視感を感じていた。
「2頭身で動き回ってると、ゲーム画面見てるみたいだな」
「……ん、確か……こういうゲームが、あった気がする」
子供たちが持っていたような、と小首を傾げるユフォアリーヤ。そこへ流れ弾……流れマシュマロが飛んで来てぽふり、と。
「柔らか……ん、気持ちいい」
ユフォアリーヤはそのマシュマロをキャッチして、終いにはころんと転がる。ゆるりとふさふさな尻尾が揺れた。
そんな彼女を見て、遊夜は小さく笑みを洩らす。皆の遊ぶ光景も、こんな愛らしい姿も、恐らく夢であるここでは残せるものがない。カメラで撮影しても動画をとっても、無かったことになってしまうだろう。だから、できるだけこの瞳に焼き付けて。
──いつしか遊夜も、ユフォアリーヤと寄り添うように眠りに落ちていた。
一方、朱華はマシュマロがお気に召したらしい。朱華にしては長い時間、そのふにふにとした感触で楽しんでいる。
「ねぇ、コト。こんど、おでかけしたとき、ふわふわのましゅまろを、かってくださいな」
「ああ、勿論。ハネズが気に入ったものを、買おうね」
ふにふにと触り続けながら「やくそく、ですわよ、コト」と念押しする朱華。干し柿も饅頭も美味しいけれど、ここでは洋菓子やマシュマロも甘いことを知った。しかもマシュマロは柔らかくて、軽くて、甘いのだ。
ほっぺが落ちそうなくらい幸せな甘さに囲まれて、いつしか朱華はうとうとと。しかしマシュマロから離れない手に、狐杜は小さく笑みを浮かべた。
「マシュマロが、気に入ったのかな? ずうっと触って、抱き枕にして眠ってしまったくらいだ」
次にマシュマロへ触れるのは、今度のお出かけの後で。
一旦休憩となったマシュマロ合戦。レミアは両腕にプチシューの皮を纏い、仁菜に可愛くしてほしいとお願いする。
「任せて! とびきり可愛くしようね」
テーブルにあったスミレの砂糖漬けやマーブルチョコ、アラザンで飾りつけ。接着剤の代わりは甘い生クリームだ。
丸いスコーンはくり抜くように食べて、スミレを飾り付けて帽子代わりに。余った材料は靴などにも貼り付けて──完成だ。
「……♪」
プチシューのもこもこドレスにレミアはご満悦。嬉しそうに小さく鼻歌を歌い、カップのふちを器用に渡ってくるくるりと踊る。そんな彼女を見て、拓海はふにゃりと相貌を崩した。
「女の子って……可愛いな」
拓海の視線に気づいたレミアは小さく微笑んで、彼の元へ駆け寄る。
楽しい、楽しい夢の中。その夢の終わりは足音なく近づいて。
一同は密やかに近づくソレに気付かぬまま、最後の最後までこの夢を楽しんだのだった──。
●夢覚めて
「紙姫、起きてください」
キースに起こされ、けれど紙姫の意識はまだ半分夢の中。
「んん~。あれ? お菓子がないよぅ……?」
「……夢でも見ていたんですか? とにかく起きて、朝食食べて下さい」
(そっか、あれは夢だったんだ)
知っている人が出て来たりして、やけにリアルだったけれど。しかし紙姫は今まで眠っていたし、体から菓子の匂いが漂うわけでもない。
「朝ごはんな~に~?」
「卵サンドイッチです」
「食べるっ!」
がばり、と勢いよく身を起こした紙姫。キースの後をついていき、朝食を共に取って。
夢の内容を聞かせるそのひと時は、何だかとてもありふれた──けれども貴重な、麻の景色。
同時刻、別の場所で。
「ん……」
「……あ、起きた」
ぼんやりとメテオバイザーが目を開けば、見慣れた天井があった。ゆっくりと見渡す。左右に見えるこのフカフカは──クッションか。
起き上がって視線を周りへ向けると、こちらを見つめる國光と視線が合った。何故か驚いた表情の國光は、彼女へ小さく首を傾げる。
「夢でも見てた?」
「……夢?」
未だはっきりしない頭で考える。何だか、大きかったような。何だか、小さかったような。
「はっきり寝言言ってたよ。『旗を頭に差すのです』って……どんな夢見てたの?」
「──っ!?」
思い出したのかくすりと笑う國光。彼の言葉にメテオバイザーは目を丸くする。
言った。確かに言った。そうだ、私は紙姫ちゃんと──。
「あとね、手がパタパタ動いてた」
「……!?!?」
國光は笑いを必死に噛み殺そうとしているが、押さえている手元から見える口はどう見ても笑っている。メテオバイザーはそれを認めた瞬間、りんごのように顔を真っ赤に染めた。
そして。
「ゆ、夢かーい!」
ふるふると肩を震わせる春月はレイオンを叩き起こした。
「春月、朝からどうしたんだい?」
「スイーツブッフェ! 行くよ!」
「え、」
まだ朝だよ、なんて言葉が出る前に腕を掴まれ──レイオンは春月と共に、スイーツブッフェへ走らされる。
こうして年が明け、夢が明け。エージェントたちを日常という現実が迎えたのだった。
小さなエージェントたちと大きな菓子。甘い夢の中、エージェントたちは楽しく、或いはのんびりと各々の過ごしたい時を過ごしたのだった。
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結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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