本部

メリーニクヤキマス・再々

ガンマ

形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
25人 / 1~25人
英雄
25人 / 0~25人
報酬
無し
相談期間
4日
完成日
2019/01/04 08:54

掲示板

オープニング

●焼肉が食べたい

 師走某日。

 世間ではジングルベルが鳴り響き、どこもかしこも赤と緑のクリスマスカラーで、サンタとツリーとケーキとクリスマスソングが町を明るく染めていた。
 今年もこの季節が――そう、クリスマスがやってきたのだ。

 愚神の『王』の出現、【界逼】事件、世界が終わるだの、人類が滅ぶだの……そんな風な暗いニュースばかりだけれど。
 それでも、だからこそ、この泡沫の時を謳歌したい。町中のイルミネーションは、そんな人々の願いを示すかのように、聖夜をキラキラ照らしていた。

 さて。
 ここに、一店の焼肉店がある。
 この焼肉店はかつて、小さな小さな焼肉店だった。そこには、愚神事件によってあわや大惨事――というところを間一髪H.O.P.E.エージェントに救われたという過去があった。
 その時、オーナーは思った。いつか必ず恩返しを、と。
 そして、焼肉店は日本各地にチェーン店を展開するほどの大手へと成長した。
 機は熟した。
 恩返しの時だ、と。
 そんな思いで一昨年、エージェント達を店に招いて大好評だった。
 去年も同じく、大好評だった。
 なので、今年もやろう。そう決めたのだ。
 来年もやろう。その次の年も、次も次も、ずっとずっと……。
 だってエージェントは、ずっとずっと世界と人々の為に頑張ってくれているのだから。
 エージェントは、絶対に、来年という未来を護り抜いてくれるって信じているから。

「一日焼肉食べ放題です」

 オペレーター綾羽 瑠歌が、エージェント一同を見渡した。
「去年もご招待頂いたのですが、今年もまた招待状が届きました。
 ええ、文字通り、こちらの焼肉店で、食べ放題です。費用は一切不要です。調理や片付けなどもあちらのスタッフさん方が完全にサービスして下さるので、皆様の任務は『焼肉を食べること』のみとなります」
 焼肉店のウェブサイトを印刷したもの――その中にはメニューもある――がエージェントに配布される。店の説明やメニューの内容としては「THE・焼肉の店」、それがおそらく最も分かりやすい説明だ。
「焼肉店のオーナー様から、皆様へのクリスマスプレゼントですね。焼肉と過ごすクリスマス、というのも良いのではないでしょうか」
 大規模作戦やらなんやらで大忙し、彼女の目の下には化粧で隠しきれないクマがあった。終末の気配を前にして、不安で眠れぬ日々を送っているのだろう。それでも彼女は、去年と同じように微笑むのだ。

 世界が終わるかもしれなくて。
 こんなの不謹慎だとか、馬鹿みたいだとか、そんな場合じゃないとか。
 大規模作戦の真っ只中で、あまりに多忙で、張り詰めていて……。

 でも……
 誰にだって、クリスマスを楽しむ権利はある筈で。

 そのクリスマスの楽しみ方の一つに、「お腹いっぱい焼き肉を食べる」というモノがある。
 今は不安も心配もかなぐり捨てよう。おいしいお肉に失礼だ!
 いっぱい食べて、英気を養って、そして戦いに臨むのだ! 腹が減ってはナントヤラ!
 食え! それこそが今という聖なる夜!

 合言葉は――メリーニクヤキマス!!!
 

解説

●目標
 焼肉でクリスマス。

●食事について
 焼肉店のメニューにあるものならば大抵あります。
 超弩級大食いも視野に入れていっぱいお肉あるので大丈夫。一昨年からの実績あり!
 なんと生レバーも食べられるのです! 生センマイなどちょっとツウなものもあります。
 サイドメニューも充実。ビビンバとかサラダとか冷麺とか。
 デザートバイキングもあります。チョコレートフォンデュタワーもあります。たくさんのアイスにミニケーキ、果物、エトセトラ。充実スイーツ。
 ドリンクも充実。お酒もあるよ!
 アルコールについては外見年齢20歳以上以外はNGです。外見年齢20歳以上でも設定欄に「未成年」とある場合もNGです。

●状況
 日本某所のとある大型焼肉店。広々、貸切。
 テーブル、お座敷、お好きな席をどうぞ。
 時間帯は夜。
 厨房での調理や片付けなどはスタッフが完全に行うので、そういったお手伝いは不要。
 当然ながらお店に迷惑をかける行為は厳禁です。
 NPCについては絡みはご自由に!

▽綾羽 瑠歌
 ちょっとストレスの胃痛で、あんまり食べられてないようだ。
 皆には心配をかけまいと気丈に振舞う。

▽ジャスティン・バートレットと英雄達
 ヴィルヘルムにひっぱられて参戦。
 最近寝てない会長、寝落ちの危険性。

※注意※
 「他の人と絡む」という一文のみ、名前だけを記載して「この人と絡む」という一文のみのプレイングは採用困難です。
『具体的』に『誰とどう絡むか』を『お互いに』描写して下さいますようお願い申し上げます。
 相互の描写に矛盾などがあった場合はマスタリング対象となります。(事前打ち合わせしておくことをオススメします)
 リプレイの文字数の都合上、やることや絡む人を増やして登場シーンを増やしても描写文字数は増えません。
 一つのシーン・特定の相手に行動を絞ったプレイングですと、描写の濃度が上がります。ショットガンよりもスナイパーライフル。

リプレイ

●焼肉 01
 師走某日。
 泉 杏樹(aa0045)は、桜小路 國光(aa4046)とメテオバイザー(aa4046hero001)へメールを書いていた。「二人と焼肉食べたいの(*´∇`*)」と画面を榊 守(aa0045hero001)が覗き込む。
「サクラコ達ロンドンだろ。……いつの間に顔文字覚えたんだ? え?」
「メテオさんと國光さん。メル友ですよ」
 顔文字も教わったと笑顔の杏樹に、守は呆然。娘にハブられた父の気持ちを知る。

「クリスマスケーキ食べて終わりになるところでした。ありがとうなのです」
 一方、メテオバイザーはスマホを握り締めて感涙を流していた。「悪かったね」と、國光は肩を竦めた。

 さて、当日。
 知人友人への挨拶もそこそこに席に着き。
「杏樹さん、食べたいお肉ありますか? 飲み物いりますか? 野菜も食べなきゃダメですよ?」
 焼肉は初めてだという杏樹に、國光は笑顔でつきっきりだ。肉を焼き世話を焼く。傍から見れば守ではなく國光が杏樹の執事のようだ。が、守には「榊さん、お酒は自分でお願いします」と一言バサリ。まあこれは嫌味ではなく、守の好きな銘柄を知らないがゆえなのだが……。
「國光さん、優しいですね」
 さておき杏樹はご機嫌だ。
 まもなくビールも運ばれて来れば、守は上機嫌でそれをあおる。そういえば國光とは長い付き合いだが、酒を一緒に飲むのは初めてだ。
「今日は飲め飲め~」
 上機嫌に國光の分のビールを注ぐ守。管を巻く友人に國光は苦笑しつつも「はいはい乾杯」と盃を交わす。
 その一方で……杏樹は何やらトング片手に熱心に網を覗き込んでいた。ハッ、と守は弾かれたように顔を上げた。そう、このお嬢様、超絶不器用なのだが、時すでに遅し。網の上にはダークマターもとい炭化肉。悪ふざけではなく大真面目に作っているのでタチが悪い。
「國光さん、はい、お肉焼けました」
 直後である。やりきった顔で杏樹が顔を上げ、國光の皿に焼けた肉を置く。ビクッ、と國光の肩が跳ねた。「ありがとう」の笑顔を引きつらせ、彼は皿の上のそれにおそるおそると目をやった。見た目はちょっと焼きすぎた程度の焼肉だ。杏樹は料理下手だが“見た目と味が一致してる”タイプだ、これセーフなんじゃ……と思いつつも緊張はする。覚悟を決めて一口。
「おいしいですか?」
「……おいしい」
 杏樹に対し、無意識に國光はそう返した。ハラハラしている守に「普通に食べられました」と小声で報告すれば、執事英雄は杏樹からハブられた心地に拗ねた顔をする。と、
「榊さんの分、焼けた、です」
 山盛りに杏樹が守の皿に積むのは暗黒魔大陸。かつては肉だったモノ。今は完全な炭。
「あ、ありがとな……お嬢」
 炭の錬金術師の御業に守は笑顔がフリーズする。泉のワクワクした無垢な笑顔に見守られつつ一口齧れば、どうあがいても炭です本当にありがとうございました。
「サクラコ……お前を心友と信じてたのに、裏切ったな……」
「だって、杏樹さんが全部自分でするって言うから」
 視線を逸らす國光。「榊さん、見てなかったでしょうけど凄い火柱が上がったのです……」とメテオバイザーが青い顔で天井をチラと見る。杏樹が原因かは不明だが、そこには黒く焼けた跡が……。
「……」
 守はそれを遠い目をしながら見て。それから、消毒だと言わんばかりに生センマイをツマミに酒をガブ飲みし始めて。最終的にこう呟いた。
「サクラコ。胃薬くれ」

 そんな守を傍らに、メテオバイザーは杏樹へと微笑みかける。
「杏樹さん、チョコの噴水があるのです♪」
 指差す方向にはデザートバイキング。甘いチョコを溢れさせるチョコレートフォンデュタワーに、杏樹の目が煌いた。行ってみようと席を立つ女子二人。やはり女の子はスイーツが好きなのか、と見送る男子二人。
「チョコいっぱい、幸せなの」
 メテオバイザーと一緒に、マシュマロをチョコフォンデュしてご満悦の杏樹。「あっちにケーキがありますよ!」とメテオバイザーもきゃっきゃとはしゃいでいる。
 そんな乙女達の幸せそうな声を聴きながら――席にいる守と國光も、肉をそぞろに焼きながらとりとめのない砕けた会話を取り交わす。任務のこととか、日々のこととか……追加注文用の電子パッドを操作しながら、國光は主に聞き手であった。うんうん、と相槌を打ちながら、「ライス頼む? 大?」と他愛もなく言葉を続ける。
 程なくして、お皿にデザートを山盛りにしてきた杏樹とメテオバイザーが戻って来て……四人のクリスマスは、まだまだ続く。



●焼肉 02
「さぁ、今年も焼肉食べるよ!」
 アンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)は拳を握り、張り切って席に着いた。が、一緒に来たはずの八十島 文菜(aa0121hero002)が見えず、「あれ?」と見渡せば、文菜がジャスティンらへと丁寧に挨拶している姿が見えた。
「今年も色々お世話になりまして。来年もよろしゅう頼みます」
「こちらこそ。大変な時期だけど、よろしく頼むよ」
 そう会長と言葉を交わす英雄の姿に、アンジェリカは「流石文菜さん、大人の女性だね」と胸の内で感心しては、英雄を見習って同じように会長へ挨拶を。
 さてそれも済めば改めて席に着いて、お肉をたくさん注文して……。
「ん~! おいし~~!」
 噛み締める塩タン。ジューシーなカルビ。本能が「うまい」と叫ぶ味。大盛ライスと一緒に掻き込めば、全身の細胞が歓喜する。網の上にはまだまだお肉。アンジェリカは嬉々としてトングを伸ばし――その時だ。
「これ、アンジェリカはん。女の子なんやからもっと慎み深く食べなはれ」
 正面に座っている文菜から、突然のダメ出し。「こういう時だから」と肉を数枚一度に口に含んだままのアンジェリカは片眉を上げた。
「えー、こんなの遠慮して食べてたらおかしいよ」
「何言うてはりますのや」
 言下である。ドン! とグラスを机に置いた文菜が淀みなく続けた。
「アンジェリカはんはこれから立派なレディーにならんといかんのやから。そんな大口開けて先の肉食べきらんうちから次の肉口に入れるやなんて。うちの目の黒い内はそんなん許しませんえ」
「ええ……黒い目というか目が座ってるんだけど……!?」
 というか良く見たら文菜のグラスの横に一升瓶が。
「日本酒!? お肉に夢中で気付かなかったっ……」
 衝撃の事実、文菜は酒癖が悪いらしい。「なによそ見してはるの!」と、その間も文菜のお説教がネチネチ続く。すっごい続く。
「わ、分かったよぉごめんよぉ……」
 すっかり小さくなってモソモソと肉をかじるアンジェリカ。まるで食べた気がしない。
(これはいつも通りおっさんと来た方がよかったかも……?)
 あと今後は文菜の飲酒に気を付けねば、と思うアンジェリカであった。


 その日、バルタサール・デル・レイ(aa4199)と共に居たのはLady-X(aa4199hero002)であった。珍しくエックスが在宅していたので、第一英雄が「今年はそっちの二人で行ってきなよ」と譲ったのだ。
「ふぅん、色んなメニューがあるんだね」
 エックスは豪華な睫毛で縁取られた目でメニューを眺めていた。
「どれがオススメなの?」
「さあな……好みによるんじゃないか?」
「つまんない男。ま、いいや、焼いて」
「はいはい」
 エックスからメニューを受け取り、バルタサールは手際よくそして適当に注文していく。第一英雄にこき使われ過ぎて、なんというかこういうのに慣れてきた。つまりは「言っても無駄」であり、ここは言うことを聞いておく方が楽なのだ。
 さて、網の上に肉が並ぶ。肉をひっくり返したり、レモンやタレやらの準備をするのはバルタサールの役目。その合間に、良い具合に焼けたトントロをしゃくしゃくと頬張りつつ、ビールジョッキ片手にバルタサールは英雄を見やった。
「この前はどこに行ってたんだ?」
「あら意外、他人のことに興味なんかないと思ってた」
 答えたエックスは、サンチュにジューシーなハラミを巻いて頬張りつつ、相棒に視線を返す。
「とは言え、色んなとこに行かせてもらってるのは感謝してるわ」
「……契約の目的を履き違えていないか……?」
 言っても無駄なのは分かっているが、言葉がついバルタサールの口から飛び出した。するとレディはころころ笑い、それを無視して、自分が話したい話題を続ける。
「今回は香港に行ってきたんだ。夜景がきれいだったよ。バルちゃんもたまには旅してきたら?」
「……旅のためにエージェントになったわけじゃねえしな……」
「あっ、この前はパリに行ったんだってね、ズル~い!」
(旅行じゃねえし……)
 あれは任務だ、と心の中で付け加えつつ、バルタサールは「香港に行ってたんだろ」とエックスに返す。が、エックスの耳には聴きたい話題しか届かないようで。
「そっか、依頼でも色んな国に行けるんだね~」
(まあそうかもしれんが……)
 溜息を飲み込む。あまりにマイペースな英雄の姿に、王とか世界の破滅とかはまるで遠くの出来事のように感じて、考えることもアホらしくなったバルタサールであった。


「食べる、日……」
「まひるもお供しますのっ」
 ――と。
 そんなやりとりを交わして、木陰 黎夜(aa0061)と真昼・O・ノッテ(aa0061hero002)は座席にて、ジュウジュウ焼けゆく肉の海によだれを飲み込んでいた。
「焼き肉、食べるぞ……っ」
「ええ、つきさまっ……!」
 手を合わせて、頂きます。
 厚切りのタン、柔らかいハラミ、コリコリのホルモン……何杯でも食べられそうな炊き立てライスに、香ばしく焼き目を付けた野菜……。
「つきさま、そこのお肉が焼けておりますのっ」
「あ……ありがと、真昼……」
 ちょうど焼けたピーマンをかじっていたところで、真昼からお肉をお皿に乗せられる。二人とも、肉と野菜のバランスよくいっぱい食べる。
 おいしいものでお腹が満たされていくのは、幸せな気持ちを運んで来る。
 ……でも。
 ふっとした瞬間に黎夜が思い出すのは、世界が終末の瀬戸際に立っている緊迫感や、つい先日の依頼の失敗。気付けば黎夜の箸は止まり、密やかに溜息を吐く。気配に気付いた真昼が顔を上げた。黎夜はほんのりと苦笑を浮かべ、言葉を紡ぎ始める。
「アーテルと一緒に行った依頼の後、すごく、落ち込んでた、でしょ……?」
「ええ」
「全部を助けるのは、言うだけならすごく簡単だけど……すごく、難しいことだって……思い知ったんだ……。ただ、それが最大級の結果だって、割り切りたくは、なくて……もっと何かできたんじゃないかって……それで、落ち込んでた……」
 手持無沙汰に、焼けた肉を自分と真昼のお皿に置いて。真昼はその間、ずっと静かに黎夜の言葉を聴いていた。瞬きを一つ、真っ直ぐに真昼は相棒を見詰めたまま。
「わりきらなくていいと思いますの。わりきってしまったら、きっとつきさまやお兄さまの行きたい道から逸れてしまいますの。でも、恐れてしまったら動けなくなってしまうと、つきさまは知っているはず」
「……うん」
「過去は変えられず、次があると思えないなら、後悔のないように動きましょう」
 それは責める物言いではない。寄り添い支える、優しい言葉。ようやっと、黎夜は表情を柔らかくした。
「……うん。ありがと、真昼……」
「どういたしまして。……さ、今日はいっぱい食べる日、ですの!」
「うん……!」
 デザートバイキングもあるのだ。二人の聖夜は、穏やかに。


「めりー、にくやきます! これが焼肉ですか……リア充の遊びという」
 卸 蘿蔔(aa0405)は焼肉は初めてで、感動した様子でテーブルや網の上に並んだ肉達を眺めていた。のんびりと隅の席、向いにはレオンハルト(aa0405hero001)がトング片手に肉を焼いている。
「食べ物だから、遊ばないようにな」
「わー。お肉いっぱいある!」
 焼き上がってはお皿に盛られる肉に、蘿蔔は目を輝かせてはお箸を手に取った。焼いたのはレオンハルトだが、注文したのは蘿蔔だ。初焼肉というテンションのままにアレコレ頼んでしまったために、必然的に量が多い。
「ぱくちーおいしい! ぱくちーおいしい! ……これでお酒があれば完璧なんですけどねー。レオ君一口くれませんかね?」
 ほっぺをハムスターのようにパンパンにして、蘿蔔はレオンハルトを見やる。ビール片手に、おそらく蘿蔔が食べきれないだろう分を――彼女は食が細く、胃も丈夫な訳ではない――モグモグしている英雄は、溜息のようにこう言った。
「未成年だからだめ。というか酒は喉に悪いから、二十歳になっても控えるようにな」
 そうもバッサリ言われてしまえば、蘿蔔は渋い顔でサンチュ巻きの肉を貪ることしかできず。
 さて、メインの肉がひと段落すれば、蘿蔔の興味はスイーツバイキングへ移ろっていた。「チョコの噴水がありました!」とあれやこれやをチョコフォンデュした蘿蔔が嬉々として戻って来る。
「そういえばもうクリスマスなんですよね……忘れてました」
「毎年忙しかったからね。こうやってゆっくりするの久しぶりかもしれない」
 思えば、グロリア社やアイドル事務所の企画で多忙な時期だ。蘿蔔が持ってきたマシュマロのチョコフォンデュを一口、レオンハルトが呟く。
「こんな状況だからこそできることもあるんだろうけどな……まぁ、たまには良いか」
「私たち……どうなるんでしょうね」
 英雄の言う“こんな状況”。チョコフォンデュしたクッキーをかじり、蘿蔔は目を伏せた。これからのこと、今までのこと――展望は混沌としていて。
「ダメですね。何もしてないと……暗いことばっか考えちゃう」
 顔を上げて、蘿蔔は苦笑した。
「よし、スイーツ追加しますか! 全種類食べちゃおー」
「食べきれない量は頼まないように」
「レオが全部食べてくれるから大丈夫」
「あのなぁ……」


 九十九 サヤ(aa0057)と一花 美鶴(aa0057hero001)は、まず焼肉店の面々とジャスティンへ挨拶をして、それから席に着いて。
「せっかくの店主様のご厚意、しっかり受け止めさせてもらいます」
 美鶴は意気込み、お肉をいっぱい注文し、いっぱい食べて……
「……うう、お腹がいっぱい。ペース配分失敗したかしら?」
 今に至る。
「美鶴ちゃん、デザート食べられそう?」
 一方のサヤはマイペースにちまちま食べていたので、まだ余裕があった。前半こそ「野菜で巻いてるからヘルシー。いつもより多めに食べても大丈夫なはずです!」と美鶴は嬉々としていたが……そしてサヤはそんな美鶴の幸せそうな食べっぷりを楽しく眺めていたのだが……。
「デザートが……デザートが……」
 美鶴はつっぷしたまま怨霊のように呟き繰り返すマシンと成り果ててしまった。あちゃー、とサヤは苦笑した。それから少し考えると、「ちょっと待ってて」と席を立ち――しばらくすれば、お皿を手にして戻ってきた。
「はい、美鶴ちゃんメリークリスマス」
 そう言って、お皿を美鶴の前に置く。そこには緑と赤のフルーツソースでクリスマスツリーが描かれており、フルーツで鮮やかに彩られ、プレゼントボックスの代わりにミニケーキが飾られていた。
「これなら少量でも楽しいでしょ?」
「……! サーヤ……!」
 少しだけ機嫌が直った美鶴である。食べるのがもったいなくて、嬉しそうにしながらスマホで写真を撮っている。色んなアングルからだ。
「――……、」
 サヤはそんな英雄を、じっと優しく見守っていた。すると視線に気付いた美鶴が「どうしましたの?」と顔を上げ、瞬きを一つ。
「サーヤ、なんだか楽しそうですね」
「ん……、世界が終わるかもしれないなんて、昔の私なら今頃怖くてきっとたまらなかった。でも今は笑って焼肉を楽しんでる。美鶴ちゃん達と出会って、色んなことが怖くなくなった」
 来年もこうやって一緒に焼肉行こうね。そう言って表情を綻ばせるサヤに、美鶴も花のような笑顔を返した。
「……ええ、私もサーヤがいれば怖くないですわ。来年もまた焼肉行きましょう。今度は同じ失敗はしませんから!」
「約束ね、美鶴ちゃん。ゆびきりげんまん」


「焼肉食べ放題だなんてっ! 腹が鳴るね!」
「腕が鳴るって言いたかった? まあお腹は鳴っているようだけど……」
 意気込む春月(aa4200)の国語力を、レイオン(aa4200hero001)が心配そうにする。テーブルにはまさに注文品が満漢全席もかくやと運ばれてきたところだ。
「さー食べるよ! 食べるよ!! いただきまぁーーす!!!」
 春月は目を輝かせながら手を合わせた。この時の為に朝から食事を抜いてきたのだ。レイオンはそのガッツに引きつつも、まあおいしい食事は楽しみな訳で、春月にならって手を合わせた。
「焼肉のタレも色んなのつけたいよねっ、お醤油にニンニクと七味入れるだけのでもおいしいし!」
 肉、ビビンバ、肉、デザート、肉、サラダ、肉、果物、肉、冷麺……薬味もふんだんに使い、ドリンクメニューの飲み物も網羅する勢いで、春月の蹂躙劇は続く。「品を変えてちょっとずつ食べれば理論上は無限に食べられる」と豪語しては、「ちょっと何言ってるか分からない」とレイオンに首を横に振らせた。
「レイオンももっと食べなよ! ほら、センマイだって! 初めて聞いたよっ」
「牛の三番目の胃だよ。牛っていっぱい胃があるって知ってた?」
「全部食べよう!」
「そっかぁ……。……ねえ春月、食べ過ぎじゃない?」
 マッコリをちまちま飲みつつ、レイオンは流石にとそう言った。ニンニクを容赦なく入れて食べるのはもういいとして、ずっと食べ続けている春月の姿に、心配というより引いていた。
 前半こそ「余裕余裕!」と笑っていた春月だったが……。
 最終的に、彼女は圧倒的満腹感にテーブルに突っ伏して無になっていた。
「うう……食べ放題だから……つい……」
 さもありなん。





●焼肉 03
「肉が食べれる肉が食べれる肉が食べれるぞー!」
『貸し切りだなんてすごい豪勢ですね』
 テーブルに並んだ肉、肉、肉。グラナータ(aa1371hero001)は目を輝かせ、時鳥 蛍(aa1371)も嬉しそうにタブレットPCの合成音声で気持ちを表した。
「焼き肉なのです! さあリュカ、何を食べますか。征四郎はお肉いっぱい育てますよ!」
 むふー、と紫 征四郎(aa0076)は力一杯トングをカチカチ。
「わーい! お肉の育て屋せーちゃんだ!!」
 お世話になります! と木霊・C・リュカ(aa0068)は早速お箸を手に取った。

 さあ、仲良し三組で楽しい焼肉の始まりだ。

 征四郎は自分やリュカ達のお皿にカルビやロースをどんどん置いて世話を焼いて、すっかりお姉さん気分だ。
「ホタルもいっぱい食べないとダメですよ」
 大きくなれないんですから! と当然のように蛍のお皿にも肉を盛り肉をよそい肉を乗せる。コクコクと頷いた蛍にムフンと得意気な征四郎――だが、ふと自分の胸にそっと目をやり。
「……、何を食べたら、征四郎ももっと大きくなれるでしょうか……」
 呟いた声は肉の焼ける音に掻き消えた……。

「肉の脂をビールとハイボールで流し込んだ後のこの清涼感、堪らないよね!」
 リュカは「プッハー」とジョッキ片手に泡の髭を付けご満悦。肉、ご飯、酒と完璧の布陣。
「美味しいお肉とお米は人をこんなにも幸せにするんです……」
 その隣では凛道(aa0068hero002)が、「おいしいおいしい」と語彙を溶かしながら、几帳面に焼いた肉を一枚一枚大事に大事に食べていく。メニューの端から端、焼肉から生系からサイドメニューまで制覇する勢いだ。
 最中、凛道はユエリャン・李(aa0076hero002)のお皿へ、丁寧に焼いたホルモンをそっと乗せた。
「ユエさん、どうぞ。肌に良いらしいです」
「……なあ竜胆、我輩その骨付きカルビも食べたいのであるが」
「この骨付きカルビは僕が丹念に育てたものなので駄目です。はいこっちのホルモンもどうぞ」
 などとやりとりをしつつも、ユエリャンはよそわれた肉は全部食べるのだ。仕方なく赤身系を自分で焼く。
「おいしいですよ生レバー、生センマイもいかがですか。最高です」
 と、更に凛道から内臓系を勧められる。寄せられる皿には生の内臓が。ええ、とユエリャンは片眉を上げた。
「生レバー……内臓を生でとか本当にいけるのかね? マジ?」
「僕から言うと……その真っ赤な、なんですかそれ? 赤いブツの方が、食べて良いものなのか不思議ですが……」
「ユッケジャンクッパである。香辛料は殺菌効果あるから全然いけるであるぞ」
 平然と微笑むユエリャン――強めの酒を合間に飲んでいるが、酔ったがゆえの発言ではなく平常運転――は、追い一味をしたクッパをモグモグ食べながらも、良い具合に焼けた肉を子供達のお皿に盛った。
『ありがとうございます』
 蛍はお肉をお皿に乗せてくれたユエリャンにお礼を述べると、ちまちまとだがジューシーなハラミを頬張っていく。その隣ではグラナータが注文用の電子パッドで肉の追加注文をしつつ、
「……今年一年は、本当に色々あったッスねぇ」
 しみじみと、塩タンを追加注文したグラナータが目を伏せる。思い出の中には、蛍の心情の変化や、征四郎との関係性の変化も含まれていた。それから、劇的でこそないが英雄たちの変化も。
『エージェントとして最も忙しかった気がします』
「一口に海外といっても、色んな所に行ったッスね」
 どれもこれも大変だった――蛍は塩だれキャベツをかじりつつ、しみじみと思いだしていた。たいそうなこと、ヒロイックなことはなかなか考えつかないが、来年も皆で頑張っていこうとは、思う。
「あっ……そういえば」
 と、グラナータが手を打つ代わりにトングをカチリ。
「蛍、誕生日ッスね」
 今月の二十五日。蛍は口数が少なく友達を作らないので、クラスメイトから誕生日を祝われることがなく、家族以外から祝われないことが普通だった。ので、蛍がチラと英雄に向けた目線は、まるで天気を聞かれた時のような“なんてことなさ”で。
「よっし」
 そんな蛍を見て、グラナータは立ち上がる。
「蛍! 誕生日だからもっと羽目を外してケーキとか肉とか食べるッス! 我慢しなくていいッスよ! 誕生日が近いだーなんて言ってもぜーんぜん構わないッス」
 彼の大きな声に、蛍の耳がかあっと赤くなる。彼女が何かする前に、「たんじょうび!」と征四郎が身を乗り出す。
「ホタル! ケーキ、ケーキとりに行きましょう! それと、征四郎はアイスの三段盛りがしたいのです……!」
 友達にそう誘われては、恥ずかしいものの、蛍は頷く他になく。征四郎に手を引かれ、デザートバイキングコーナーへ。
「蛍はもっとズルく周りに甘えて然るべきなんスよ」
 そんな二人について行きつつ、グラナータは優しく微笑む。少女二人が天真爛漫にスイーツにはしゃぐその姿に目を細めた。
(ストイックなところも妹に似てるのが困りものッス……)

 さて、少女らがケーキやアイスを持って戻って来れば。
「メリー肉焼きますで忘れがちだけれど、今回はクリスマスでもあります」
 ゴホン、とリュカが改まって二人を出迎え、後ろ手に隠していたモノを差し出した。
「はいこれ、二人にプレゼント。メリークリスマス!」
 開けてごらん。リュカが目を丸くする少女二人にそう言えば、彼女らは言葉に甘えてクリスマス風にラッピングされた包みを開けた。中に入っていたのは……シャープペンシルを始めとした筆記用具一式に、色違いでお揃いの筆箱だ。どれも少女が喜ぶような可愛さと、実用性を備えた質の良いものである。
「王が居なくなったら、また学校行ってたくさん勉強しなきゃだし。ふふーふ、リュカサンタさんから細やかな贈り物だよ」
「……! だっ、大事にするのです! ありがとうございます!」
『ありがとうございます、嬉しいです』
 思わぬプレゼントに、征四郎と蛍は包みを抱きしめはにかみ笑う。無垢な表情――リュカは視力の弱いけれど、その笑顔は鮮やかに“見えて”いた。凛道もバッチリとガン見した。記念撮影を口実にスマホで撮影もした。

 良かったな、良かったッスね、とそれぞれの英雄らに祝福されつつ、少女達は席に着く。火照った頬を冷ますように、冷たいアイスを口に運んだ。すーっととろける、レモン風味のシャーベット。
「とてもおいしい、です。焼肉屋さんのアイスってなんでこんなにおいしいのでしょう」
 征四郎は向かいの蛍に顔を上げる。スプーンを手にアイスを頬張る蛍は、コクコクと同意の頷きを返した。ふふー、と征四郎は表情をほころばせる。
 ……帰りは、リュカと手を繋ごう。征四郎はリュカを盗み見る。それから、皆に笑顔でこう言った。
「来年もまたみんなで、来たいですね」



●焼肉 04
「とうとう三年目か。あっという間だったな」
「メリーニクヤキマス、サードだね!」
 乾杯――と音頭を響かせ、日暮仙寿(aa4519)と不知火あけび(aa4519hero001)は座敷席を見渡した。
「今年もお疲れ様でした!」
「あけび、お肉を堪能した後はデザートに突撃よぉ」
 GーYA(aa2289)とまほらま(aa2289hero001)が、笑顔を友人に返す。それからジャスティンとその英雄達も同じ席にいた。「約束通り、おいしいもの食べようね!」とあけびの言葉に、ヴィルヘルムが「おうさ!」とジョッキ片手に息巻いた。

 さて、肉がどんどん運ばれてくる。それをどんどん網の上で焼いてゆく。
 一口食べれば、疲れを労う肉の味が、体いっぱいに染み渡る。

「うんっまあぁぁ~い♪ 柔らかジューシー……ほら、ジーヤも!」
 まほらまは目を輝かせる。お徳用じゃない良い肉の味だ。この感激を共有せんと、まほらまはサラダを食べていたジーヤの口に肉を放り込む。
「自分で食べるから! 大丈夫だかングッ!」
「ふふ。おいしいでしょぉ?」
 ほっぺがハムスター状態のジーヤに、まほらまはニッコリと微笑んだ。しかしふと、過去を思い出しては英雄は目を細める。
「……誓約してしばらくの間、ジーヤは力の加減ができなくなっててね、こうやって食べさせてたのよぉ」
 懐かしい――そう思うと同時に、心を過ぎるのはこれからのことで。それはジーヤも同じらしく、口の中のものを飲み込み、ウーロン茶を飲んだ後、彼は徐に語り始めた。
「俺、H.O.P.E.に籍を置けたことを誇りに思う。会長やアマデウスさん達、最初のリンカーが築いてくれたからこその今なんだ。それをずっと支えていきたい」
 だからこれからもH.O.P.E.に所属していたい、とジーヤは会長とその英雄達を見やる。
「異世界の研究が進んだら、調査員としていろんな世界へ行ってみたいと思うよ。もちろんまほらまも一緒に」
「とても頼もしいよ、ジーヤ君、まほらま君。これからもよろしく!」
「はい、こちらこそ!」
 ジーヤとジャスティンが握手を交わす。
「私は高認試験に合格したんですよ!」
 先の話ということで、あけびも近況を報告する。「あとは二人で大学合格を目指すのみ!」と仙寿の隣で意気込んでいる。
「その前に倒すべき敵はいるが……恐れはない」
 仙寿は一つ頷いた。それから「そういえばまだ言ってなかったな」と、会長へ言葉を続ける――それはあけびと恋仲になったという、驚きの内容であった。
「おめでとう!
「ねぇ指輪見せて」
 ジーヤは祝福し、まほらまは言及する。仙寿達が胸元から取り出したのは、チェーンを通したペアリング。鮮やかな暁色の宝石がキラリと煌いた。「綺麗ねぇ」とまほらまが感嘆の息をこぼす。
「あけびに、着物も贈ったんだ」
 白い頬をほんのり朱に染め、仙寿が言う。あけびがその意味を理解した上で、目の前で羽織ってみせてくれたことも。
「これも相談に乗ってくれたジャスティン達のおかげだ。本当にありがとう」
「君達の想いが成し得た結果さ。おめでとう!」
 ジャスティンが微笑んだ。アマデウスは「めでたいことだ」と頷き、ヴィルヘルムは「俺も彼女欲しい」とボヤいた。
「ああ、それから……日頃の感謝というか、クリスマスプレゼントというか」
 そんな会長らへ、仙寿はあけびと共にプレゼントを差し出した。
「ジャスティンにヒーリングコロン。ラベンダーの香りだ。安眠効果は勿論、目の疲れや肩こりにも効くそうだ」
「アマデウスさんにはこれ! プリザーブドフラワーだよ。白い薔薇なんだ! 尊敬を込めて」
「これからもよろしく頼む」
 思わぬ贈り物に、会長達は目を丸く、それから「ありがとう」と笑みを浮かべた。
「俺のは!?」
 ヴィルヘルムが身を乗り出す。「もちろんあるよ!」とあけびは彼に祈りの御守りを差し出した。
「ヴィルは絶対無茶するタイプだからね! どうか無事でいてね」
「俺、無敵だし大丈夫! ありがとな!」

 ――宴は賑やかな声と共に進む。

 あけびはピーチフィズを片手に、なにやらまほらまと甘酸っぱい話で盛り上がっているようだ。
「ジーヤからの初めての誕生日プレゼントなの。あたしを守るって言ってくれた、それが嬉しくて」
 と、まほらまが見せるのは一心同体の指輪だ。
「本当は薬指のはずだったんだ、でもサイズわからなくてさ」
 横で話を聴いていたジーヤが苦笑する。でも告白が成功したのは確かだ。
(去年は、俺達がジャスティンの恋の話を聴いたんだっけ……)
 デザートバイキングから取ってきたイチゴを頬張りつつ、仙寿は英雄達を眺めている。そういえば、当時はなぜそこまで気にするのか不思議だったが……、
(恋人にどう接するべきか……か)
 今の仙寿は、それを聴きたくて仕方がない。甘酸っぱいイチゴを飲み込み――言葉も一緒に飲み込もう。
(……戦いが終わったら、だな)
 珍しくほろ酔いのあけびの頭をそっと撫でた。
 すぐ傍では、まほらまがデザートバイキングで自作したパフェを「はい、あーん」とジーヤに食べさせていた。



●焼肉 05
「義政、明日死ぬかもしれないってなったら、お前どうするよ」
 肉が焼けるのを待ちながら、木佐川 結(aa4452)は水蓮寺 義政(aa4452hero001)に問うてみた。
「死なない努力をしますが、そうですね、想い人なり伴侶なりと、最後の時間を過ごすでしょう」
「へー、普通なのな。お前この綾羽さんの仕事に生きるストイックさを見習えよ」
 と、肉を頬張りモゴモゴした物言いになっている結の視線の先、というか向かいにはオペレーター綾羽瑠歌。結らは清々しいまでの遠慮なしでいきなり向かいの席に座ったのだ。
「それにしても、貴女は本当に太りませんね……」
 義政は世話を焼きつつ肉も焼く。結はベルトコンベアのごとく渡されていく肉を、奈落の大穴がごとくライスと一緒に掻き込んでいく。そんな結の体型は細身だ。キュッと締めたスカートが魅惑のくびれを作っている。
「まー若いからなー。ちょっと動けば落ちるし、今のうちに楽しんどくわ」
「動かないでしょう、動くのは私でしょう」
 肩を竦めつつも、義政は瑠歌の皿にもどんどん肉を追加する。「食え、そして明日の体重計に怯えよ」と、結の思惑を示すかのように。当の結は相変わらずのローテンションで、肉をガツガツ食べながら溜息を吐いた。
「この焼肉ももう三回目でしたっけ? いや本当にさすがっすわ、頭下がりますわー。今年の知り合い達は何を言い出すかと思えば、“もしかしたら世界はダメかも。せめて大切な人と”とか“後悔したくないから、想いを伝えてくる”とか、いやぁみんな甘い青春っすわー。砂糖はきそう。その点、今年もさすがっす。超ストイックの仕事人間にして、危機的状況に焼き肉を食う図太さ。いやー、男が寄ってきそうっすわー」
 そう言って、チラと向かいの瑠歌を見れば、彼女は俯いたまま黙っていた。箸も止まっている。
 ……が、次の瞬間、ボロッと涙が瑠歌の目から零れたではないか。
「ちょ……クリスマスに泣くとか~~~まるでこっちがイジめたみたいじゃないっすかー」
 流石に結は片眉をもたげる。からかうつもりだったのは確かだが、悪意で心を傷付ける“誹謗中傷”をするつもりでは決してなかった。
「いえ、」
 涙をそのままに、瑠歌は顔を上げた。くしゃりと笑った。
「嬉しいんです。こんな時でも……いつも通りに接して下さるのが」
 追い込むような励ましも、鬱陶しがるような敬遠もなく。自然体な日常が、今は何よりも眩しくて。「ドマゾかよ」と言いかけた、でもこれ以上何か言ってマジで泣かせると流石に会長から怒られそうなので、結はただ肩を竦めた。

「ハンカチ、使いますか?」
 ナイチンゲール(aa4840)は瑠歌の隣にいた。ただ静かに、ちまちま肉と酒を口に運びながら、彼女の様子を見守っていたのだ。「ありがとうございます」とオペレーターは差し出されたハンカチを受け取り、涙を拭う。ナイチンゲールはその隣、そっと背中をさすりながら――それから網の上のお肉がコゲないように気を配りながら、瑠歌が落ち着くのを待つことにした。
 ややもすれば、その涙も落ち着いてくる。「あの……」と、ナイチンゲールは徐に口を開いた。
「私達は何度も危機に晒されて、でも、何度だってなんとかしてきました。瑠歌さんはたぶん、その度に大変な想いをしてきたんだと思います。現場のエージェントと同じように……」
 彼女は一般人だ。見送ることしかできない彼女の苦しさと無力感は想像することしかできない。「だけどね」とナイチンゲールは続けた。
「こんなときまで無理して欲しくないの。せっかく勝ったのに。帰りを待ってくれてる人が倒れたら心折れちゃうもの」
 ちょっとおどけたように苦笑を浮かべて肩を竦め、真っ直ぐに瞳を見詰めて。
「瑠歌さんには確実に笑顔で迎えて欲しいんです。だから……今はちゃんと休んで。気晴らしが必要なら付き合いますから。お酒でもおしゃべりでも」
「ありがとうございます。それから、ごめんなさい、心配ばかり……」
「んーん! 心配かけてるのはお互い様ですから」
 今日だけでもおいしく食べて飲んで忘れちゃおう。明日がより良くなるように。ナイチンゲールは祈りを込めて、微笑みを浮かべた。


「……ん。会長さん、お疲れ様……です。隣……いい、ですか?」
 アルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)と共に、氷鏡 六花(aa4969)はジャスティンの座敷席に足を運んで。快諾されたので上がることにするが、遠慮の気持ちから六花は給仕役を務めていた。肉の好みを聴き、注文を行い、ビールを注いで――今は「君もゆっくり食べていいんだよ」と会長から直々に言われたので、ちょこんと座って生レバーを頬張っているところだ。
「……、」
 挨拶に来た善知鳥(aa4840hero002)と言葉を交わすジャスティンの、その横顔を六花はじっと見つめている。
(……この人は、この二十年、ずっと……戦い続けてる)
 能力者が異端だった時代を乗り越え、H.O.P.E.を設立して、能力者と英雄の人権を勝ち取って。そして今も尚、人類皆の“希望”になろうとしている。エージェントの考えは様々で、そのトップであり続けるのは――きっと、物凄く大変なのだろう。あちらを立てればこちらが立たず、多数も少数も尊重せねばならず。上の人間というだけで三六〇度から嫌味と敵意が飛んで来る。最古参能力者であることを加味すれば、彼はおそらく、“世界で一番嫌われてきた男”とも、呼べてしまうのだろう……。
「【狂宴】の――」
 言いかけて、六花は言葉を噤んだ。
(今は……止めよう。きっと誰より皆の幸せを願ってるこの人にとっても……あの事件は……望まぬことだったと、思う……から)
 まずは、王を殺す。
 他のことは――それから。
 だから、六花はうっすらとだけ笑みを浮かべ、会長の第二英雄を見やった。
「……ん。ヴィルヘルム、さん。北極での、戦い……カッコ良かった……です」
「おう! お前のリンクバーストも凄かったぜ! ソフィスビショップの制圧力ハンパねーな」
「……ん、お役に立てて、よかった……です。ヴィルヘルムさん達こそ、防御適性と、ドレッドノートって……きっと、相性、いい……んだなって。改めて、思い……ました」
「俺とジャスティンは最強だからな! なんてったってお前らのボスだからな!」
 酒を片手にヴィルヘルムはガハハと笑う。「安心して俺様についてこい!」と彼は六花の背中をボスボスと叩いた。

 善知鳥は、ヴィルヘルムの背中ポンの勢いに上体がグラグラしている六花を穏やかに見守っていた。込み上げる想いはひとつふたつ――なれど、今は平穏に、邪魔にならぬように、笑みを湛えて傍らに。それからどうにも遠慮がちな六花のために肉を焼いて、そのお皿に盛ってあげよう。一方で、彼女自身は何も口にはしないけれど。
 それから一間を見つければ、仙寿の方を見やった。「いつもうちの子がお世話になっております」と、ありふれた挨拶を。暗闇にこそ必要な灯と、迎える暁――この時代に、かくも明るく真っ直ぐな光。好ましい煌きに、善知鳥は瞳を細めた。
「どうぞ今後とも、よしなに」


「ケーキがいっぱいだ!」
 焼肉屋、なれどシキ(aa0890hero001)の興味を強く刺激したのはスイーツバイキングだった。
「いっぱいだよ。あ、アイスあれおいしかったやつ」
 隣の十影夕(aa0890)がアイス用冷蔵庫を指させば、シキは目を丸くして彼へ振り返った。
「わ、わたしにナイショできたことがあるのかね!?」
「内緒じゃなかったはずだけど……?」
「ケーキのうえにアイスとイチゴをのせればイチゴパフェができるな」
 小さな子の興味の移り変わりはとても早い。そして発想も凄まじい。
「そして、これをフォンデュするとイチゴチョコレートパフェに」
「ダメ。皿ごとはダメ」
 手がベタベタになるからとシキを引き留め、「チョコフォンデュしたイチゴを乗せたパフェ」で妥協させることになんとか成功した。
 さて、ルンルン気分のシキと共に席へ戻り――ながら、夕がふと思い出すのは去年のこと。前は、知人に誘われて来たんだっけ。お礼を言われて、人の心に寄り添うことが、自分にもできるんだと初めて知って……そうじゃないことを、知ったんだっけ。
 そんな時だった。通り過ぎる席の一つに、瑠歌を見かけて。
「綾羽さん、こんばんは。一緒に食べていい?」
 別に、英雄と二人で過ごしてもよかった。でも、何となく声をかけたくて。「どうぞ」と快諾された。彼女の目が赤い理由をなんとなく察しながら、夕は声音はいつも通りに問いかける。
「アイス食べる? あったかいのがよかったら取ってこようか?」
「……アイス三段重ねで」
 思い切った発言だ。「いいね」と夕が頷けば、シキが彼の袖をくいくいと引く。
「わたしはココアがいい。マシュマロいれてくれ」
「はいはい」

 ――オペレーターの仕事って大変なのかな。
 頼まれたものを取りに行きながら、夕は心の中で独り言つ。トレイに肉と野菜も追加で乗せて、席に戻ろう。

「シイタケだ。やいてくれ」
「焼く焼く。いっぱい食べよ、綾羽さんも」
 席に着きながら、シキにねだられるまま夕は網の上に肉と野菜を広げていく。彼の言葉に、オペレーターは頷きを返した。
「今夜は……食べます!」
「うん。じゃあ、頑張って焼くね」
 夕はカチカチとトングを鳴らした。人と関わることは難しい。嬉しかったり怖かったり、一年でたくさん経験して――でも、変わらずに笑おうとする人を、やっぱり少しでも励ましたい。そう、思った。



●焼肉 06
「今年もこの季節? がやってきましたか……」
 構築の魔女(aa0281hero001)は食欲をそそるにおいと共に焼けていく肉を眺めつつ、呟いた。店主も奇特な人間だ。だが、その好意には感謝の念を抱く。
(日常を顧みれなくなったら、おしまいでしょうからね)
 人は弱いからこそ人であれる――なんて。強さのみを残してしまった英雄は心の中で嗤った。とはいえ今は、こんな時分となっては貴重な部類に入る安らぎの時間だ。闘争の未来は忘れ、過去と今に浸るべきなのだ。
「ふむ、なかなかに美味しいですね」
 良い具合に焼けたアカセンを口に運び、構築の魔女はウンウンと頷く。向かいの席には辺是 落児(aa0281)が、塩タンにレモンを絞っていた。
「ロロー」
「確かに、ゆっくりと味わうためだけに食べるのは久しぶりな気がしますね」
 サンチュをカルビに巻きながら、視線は手元のまま構築の魔女が言う。落児は瞬きを一つした。ふ、と英雄は微笑む。
「どうも、食事に手間をかけるのが苦手なのですよね。何と言うのか得意な人がいた気がするのですよ」
 それは大切だが思い起こせない欠片の記憶――夢幻のような残滓に浸り、構築の魔女は笑んだまま、どこか遠くを見るような目をした。
 そういえば――。
 王がいなくなれば、英雄はどうするべきなのだろうか? どうなるのだろうか?
(……なんて、無粋ですね)
 湧き上がりかけた疑問は、おいしいお肉と一緒に飲み込もう。魔女が食事をする正面では、人間が黙々と肉を焼いている。構築の魔女はウーロン茶を一口、他愛もなく言葉を続けた。
「しかし、私がこちらに呼ばれ三年ですか。随分と長い時間が経ったものですよね」
「……」
「たしかに、貴方が失ってから三年とも言えますね」
「ロロロ」
「まぁ、結論を急ぐ必要はないかもしれませんが、覚悟はいるかもしれません……」
「……ロ」
「っと、今日は未来のことは忘れるべきでしたね?」
 苦笑を一つ。お肉を追加で注文しよう。


「世界が終わる? 何いってんの、お腹はすくし、食べなきゃ何事も始まらないじゃん!」
 と、プリンセス☆エデン(aa4913)は豪語した。あまり心配事で頭を悩ませないタイプなのだ。一晩寝れば元気になるし、おいしいものでも元気になるのだ。物事を割り切る力が強い、とも言う。
「肉を食べるのはもちろんだけど、サラダも食べなきゃだし、デザートも!」
 テーブルの上は満漢全席。なお注文や肉焼き係はEzra(aa4913hero001)である。エデンは焼いて貰った肉を頬張り、「んー!」と表情を幸せに満ちさせる。
「おいしい~! し・あ・わ・せ♪」
「お嬢様、腹八分目にしておかないと……」
「うるさいなー、あたしはアイドル(仮)だから、どんだけ食べても太らないも~ん!」
 塩タンを贅沢にも一気に三枚食べしつつ、エデンはブレない。エズラは苦笑を浮かべることしかできない。
「それよりエズラも食べてる? もっとお肉食べて、肉食系の色気もつけよ?」
「肉食系の色気……? ああ、ええ、では頂きます」
 今夜はもてなされる側なのだ。エズラはエデンの世話もそこそこに、お箸を手に取った。


「オいしイ……おいシい!」
 シルミルテ(aa0340hero001)のウサギ耳はいつもよりイキイキとしていた。待ちに待った焼肉。去年は姉に参加席を奪われた焼肉。噛み締める肉のおいしさはひとしおだ。嗚呼和牛、国産和牛、嗚呼和牛。
「おイしい!!」
 語彙を溶かしながらシルミルテは肉を食べて肉を食べる。その隣には佐倉 樹(aa0340)が座っていて、彼女のお皿の上にはシルミルテが乗せたもの――肉もあるが、野菜の比率の方が高い――がある。いずれも箸で掴みやすい小ぶりなものばかりだ。というのも、
「……食べられるか?」
 樹の隣のアマデウスがついそう声をかけたように、樹の両目は包帯風の眼帯(第二英雄お手製だ)で覆われていたからだ。
「……お邪魔してます。まぁなんとかなりますので」
「そうか。手伝いぐらいはするので、何かあれば言うといい」
「どうも」
 アマデウスは硬い男だが、根は世話焼きのようだ。そんなことを感じつつ、樹はあらかじめ片手で触れていた取り皿から、器用に箸で肉を掴んでゆっくりと食べる。タレをこぼすと悲惨なので、味付けは塩のみだ。
「……無茶をしたらしいな」
 隣のアマデウスはじっと樹を見守っている。言及したのは先日の任務のことだ。彼女は愚神商人の左目を刺した――自らの眼球が損傷することを厭わずに。
「今は療養中みたいな感じですね、ひとまず今は痛みはないので」
 あっけらかんと、焼き目の付いたタマネギを食べつつ樹は言う。
「愚神商人の“再生力”が如何程のものかは分かりませんが。再生していなければラッキーということで……それにあの時は英雄主体でしたから、“生きる”為には右目が必要でした」
 そこまでもドライな合理主義、ともとれる言葉だった。
 本当のところは――『魔女の子』にとって両目など痛手でもない。強敵の片目損失という利益の為なら、樹の“光”を代価にできる。それは英雄の提案で、樹も同意した選択で。

 ――これは未来の話だが。
 実際、目の傷が愚神商人にどれだけ影響があるのかは謎のままだった。
 商人がそもそも“見る”行為を物理的な眼球に依存していたとは断言できない。過去の報告書では、喉に刃が刺さっても生きていたことから、人体とは異なる構造をしていた可能性があり――その報告書から時が経って現れた時、傷は修復されていたことから、自然治癒機能はあったのだろう。
 そしてきっと、本人――本愚神に尋ねたところで、あれはこう答えただろう。
「さあ、どうでしょうね。もう一度試してみますか?」
 ……と、紳士的に笑いながら。


「……お・に・く……だ!」
「今年も来たな、この時期が……いつまでも変わらんのだろうなぁ」
 はしゃぐユフォアリーヤ(aa0452hero001)をなだめつつ、麻生 遊夜(aa0452)は柔らかく笑った。ともあれ、毎年お世話になっているこの焼肉店には感謝である。
「食費が浮くのは助かるからなぁ……」
「……ん、その分……子供達の、生活が豪華に……。お肉がいっぱい……幸せだねぇ」
 今日は夫婦でのんびりと。あまり普段は食べられない肉刺しやユッケ、生レバーに生センマイ、それからタンを始め希少な部位を少しずつ。
「肉、いっぱい食えなくなってきたなぁ……」
 遊夜は迫る年波に溜息を吐きつつ、「まあ量が食えないなら質を楽しめばいいのだ」とウーロン茶を飲む。手元にはレモンや塩、ワサビやタレと、味わいを変えて楽しむ為のものが広げられていた。それから、口直し用の果物――オレンジやライチも。
「……ん、おいしいね……」
 ユフォアリーヤはいつも通り、生肉系を次から次へと食べてゆく。「そうさなぁ」と答える遊夜は、愛妻がおいしい食べ物に舌鼓を打つ姿に心を和ませていた。いつだって妻の笑顔が幸せだ。そして彼女はもちろん、他の仲間達が楽しく賑やかにしている様子も穏やかな気持ちになる。「締めのアイスは何にするかな……」と考えつつ、遊夜は聖夜の賑やかさに心を委ねていた。


「え? これ去年も一昨年もやってたの……?」
「他人のお金で食べる焼肉は美味しいわよね」
「全面的に同意」
 迫間 央(aa1445)とマイヤ サーア(aa1445hero001)はそんなやり取りを交わした。今日も央は役所仕事でヘトヘトの空腹、同伴するマイヤも戦闘態勢。
 なので、
「何はなくともライス大! それからタン塩、カルビ、ロース、サンチュとサラダと卵スープ!」
「それを二人分、お肉は四人前」
 席に着くなりこうだった。自重なんてしてません。
 注文品はすぐさまやって来る。それを二人は無言になるレベルの集中力で焼いてゆく。まずは薄くてすぐ焼ける塩タンからが礼儀というもの。薬味のネギ、それからレモンと一緒に食べれば、無限に食べられるサッパリさが幸福物質をドバドバにひねり出してくれる。
 そうして塩タンに舌鼓を打っていれば、ほどなくしてカルビやロースも焼けてゆく。ジュウジュウと焼けゆく音は福音だ。あつあつのそれにタレを付け、瑞々しいサンチュに巻いて食べれば、野菜と肉という完全食がもたらす幸せがぐうっと込み上げた。そこに山盛りのライスをかきこんだ日には、「生きてて良かった」と本気で思える。焼肉屋のライスのおいしさは異常だ。人類史の誇るべき発明だ。そして合間合間に喉を潤し、サッパリと口をリセットしてくれるのがウーロン茶。これがあれば無限に食べられる。
「脂を食わずして生きているとは言えない」
「……キンキンに冷えたウーロン茶を忘れずにね」
 ウン、と央とマイヤは心を通じ合わせて同時に頷いた。食。それは生きる実感である。
 ちなみにマイヤの服は白いドレス。焼肉のタレや脂が飛ぶと洗濯が大変になる代物だが、そこは流石の英雄、実はカレー南蛮を食べてもドレスを全く汚さない超絶技巧の持ち主なのだ。当然、焼肉もお茶の子さいさいである。


「どの肉を食べても、あたりまえにうまい。これって、すごいことだよね」
 と、ミツルギ サヤ(aa4381hero001)は目を輝かせた。焼肉にサイドメニューにドリンクに。色んなものを少しずつ満喫して、ミツルギはご満悦であった。
「ところで……」
 空になったウーロン茶のグラスを置き、ミツルギは向かいの席のニノマエ(aa4381)を見やる。
「今日って聖夜なんだけど」
「何」
「……プレゼントは……あるのかなって……」
「誰が誰に……」
 ワカメスープを飲み終えたニノマエはそう言いかけたところで、突然スックと席を立った。
「チョコレートフォンデュタワーが面白そうだな」
「は? あ? えぇ!?」
 つられて立ち上がるミツルギ。ズンズンとデザートバイキングへ歩いて行くニノマエを追う……と、視界に飛び込んできたのはチョコが湧き出る不思議なブツだった。
「な……何だこれは」
「好きな果物やマシュマロをとって、こういう風にチョコを付けるやつ」
 ほら、とお手本を見せるニノマエ。ミツルギはギョッと目を丸くする。
「やってみ」
「わ……わかった!」
 促されては、ミツルギはおっかなびっくりマシュマロをチョコフォンデュする。「おお……!」と感嘆の声が上がる。
 ニノマエはそんな英雄を見守りつつ。
(プレゼント……考えてなかった。期待に満ちた眼で見られるってこともだ)
 やべえ。どうしよう。必死に脳を働かせている隣では、ミツルギがチョコフォンデュに夢中になっている。少しは時間稼ぎになったな、と思いつつ、ニノマエは英雄に語りかけた。
「ミツルギは欲しいものがあるのか?」
「今聞くな! 今ァ!」
 フォンデュで忙しい! とミツルギは目もくれずに一喝した。シングルタスクの申し子。
 と、見せかけて。
(いいよ、別に。用意してなかったろ。……いいんだ。ヤケ喰いするんだ。……困らせてもな。ニノマエだものな)
 ミツルギは少しだけ俯いた。ニノマエには、彼女の想いはお見通しだったようで。
「……ヤケはダメだ、美味しく食べなきゃお店に失礼だし。……後で、買いに行こう。一緒に来い」
 そう言った……その時だった。ミツルギが俯いて=よそ見しながらチョコフォンデュしたせいで、マシュマロを刺した串にチョコが伝って、その手がチョコまみれになっていることに、二人は同時に気付く。
「ぎゃあああ! 手がッ! 床がッ!」
「迷惑行為は禁止だー!」
 この後メチャクチャ手を洗った。雰囲気もチョコもありゃしねぇな!



●焼肉 07
「焼肉~~おにっく♪ いっぱい食べれる~」
「わーいわーい! お肉にゃー!」
 並んだ焼肉、ジューシーな肉の香り。エクトル(aa4625hero001)と白雪 沙羅(aa3525hero001)はほっぺをいっぱいに焼肉を頬張っていた。
「わー! このお肉おいしー! はい黒塚さん肉焼けましたよ!」
 沙羅の隣では猫井 透真(aa3525)が、皆の分の焼肉の面倒をせっせと見ていた。透真の向かいには夜城 黒塚(aa4625)がいる。彼はハイボールをオトモに、塩やレモンで焼肉に舌鼓を打っていた。
(前回もすごく楽しかったけど……酒飲み過ぎて途中から記憶ないんだよなあ……。今日は自重しよう……)
 そんなことを思いつつ、透真は皆の分の肉を焼く。すると黒塚が「何か考え事か?」と顔を上げたので、「あっ。いえ、何でもないですよ!」と透真は早口で答えた。
「それよりも、ご一緒するのは久々ですね。黒塚さんちゃんと食べてます?」
「おう、見たら分かるだろ。折角の食い放題だ、人の世話ばっかしてねェでお前もちゃんと食っとけよ猫井」
 そう言って、黒塚はトングでドカドカッと透真のお皿の上に肉を置く。更に注文していた生レバーの皿を寄せる。黒塚に勧められたのならばと透真はトングから箸に持ち替えた。塩とゴマ油とレモン、ネギとシソとゴマのかかった生レバーをひと切れ口に運ぶ。とろりとしていて風味があって、でもシャキシャキとした歯触りで、血の臭みなんて一つもない。
「生レバーなんて俺、初めて食べるんですけど、これおいしいですねえ」
「生のホルモン食える機会ってのも滅多にねェからな。店の粋な計らいに感謝ってやつだ。……ああ、酒の追加もあるからな」
「いやいや。今日は控えめにします。控えめに!」

「化け猫は肉食なのにゃ。いわば本領発揮にゃ! ここからここまで全部食べてやるのにゃ!!」
「沙羅ちゃんもお肉好き? 僕があっためたお肉、食べ頃だからあげるね! 特上ロースだよっ」
 大人達の一方で、沙羅とエクトルは楽し気だ。上機嫌に沙羅が追加で注文をしていけば、どんどん肉が運ばれてくる。それを透真が献身的に手際よく焼いてゆく。
「ちゃんとお野菜も食べようね~」
 優しい口調で、英雄達のお皿に焼き野菜を。一応、沙羅のお皿にタマネギは盛らない。いや英雄だからタマネギで中毒は起こさないだろうけど、なんというか、猫なので一応。一方でエクトルは「野菜もちゃんと食べるよ! 僕はいい子なので!」と得意気に胸を張る。

「ねえねえエクトル。あれ何にゃ? チョコレートがだばーーーって……」
「あ! あれは……チョコフォンデュだあ!」
「チョコレートフォンデュ? え。このチョコ全部食べていいのにゃ?」
 沙羅が目を輝かせる。「猫業界はチョコはご法度にゃ。化け猫になってもなかなか食べる機会がなかったから嬉しいにゃー!」と尻尾をピンと立たせては浮足立っていた。
 じゃあ、とエクトルは相棒を見やり。
「クロ、あれ食べに行ってもいい?」
「……猫井、少しの間エクトルを頼む」
 了承の言葉は、エクトルの頭をくしゃりと撫でる掌と共に。そうするや否や、二人はわぁいと席を立って行った。黒塚も席を立つが、
「俺はちょっと会長ンとこ挨拶いってくる」
 スイーツ目的ではないようで、透真にそう言うと別の方へと歩いて行った。先日は愚神商人との戦いを共にした、その健闘を労わんと思ったのだ。

 さて、スイーツバイキング。ケーキ、果物、アイス、チョコフォンデュ、実に様々なスイーツが並ぶ。「わぁ……!」と英雄二人は感嘆の声を上げた。
「エクトル食べ方教えてにゃ!」
「沙羅ちゃん、この串にマシュマロとか果物刺してね、チョコに浸して食べるんだよ。アイス一緒にトッピングして、オリジナルパフェ作ると楽しいよ♪」
「おりじなる……ぱふぇ……!」
「猫井のお兄ちゃんにもデザート持って行ってあげよ!」
「にゃ! 世界一のパフェを作るのにゃ!」
 というわけで、沙羅とエクトルはチョコをふんだんに使ったパフェを四つ作り上げて……
 ……戻ってみたら、「あははうふふ」と透真がグルグル回っていた。物理的な意味で。
「黒塚ー。またとーまがヘラヘラしてるにゃ!」
「あァ?」
 ちょうど戻ってきた黒塚に沙羅がそう言えば、彼は片眉を上げて友人を見る。グルグル透真の顔は首まで真っ赤で、上機嫌で、机の上の酒が入っていたグラスは空で、とどのつまり泥酔していた。
「……こりゃ連れて帰るのも一苦労だな」
 黒塚は溜息を吐いた。



●焼肉 08
「……おや、寝ておられますか。まぁ、お疲れでしょうしこのまま少し休んでいただきましょうか」
 そう呟いた構築の魔女の言葉の通り、ジャスティンは寝落ちてしまっていた。激務続きの睡魔に遂に負けてしまったようで――そうなるほどに戦い続け、決着まで歩こうとするこの世界の人々に、魔女は素直に敬意を感じた。
「……ん、あの、毛布借りれるか、聞いてきます……!」
 アルヴィナとアイスをたくさん食べていた六花だが、この事態に急いで店員の元へと駆けていく。
 と、ジャスティンに忍び寄る影あり。エデンだ。
「焼肉中に寝落ちるとは、なかなかやるな、ジャスティン! 隙あり!」
 取り出したるはサインペン。こんなとこで居眠りしちゃうのが悪いんだよ★ と瞼に目を描こうとする――が。ムンズ。首根っこを掴まれて宙吊りに。振り返れば会長の第一英雄アマデウスがいる。般若の顔をしている。
「……えへへ」
 必殺、エデンのお茶を濁す笑み。「スイマセン……」とエズラと共に謝罪しておいた。何とか許して貰えた。
「よかったなぁゲンコツされなくて」
 やっと地上に解放されたエデンに、ヴィルヘルムが片眉を上げる。ハッ、ライバル……! とエデンは彼を見やりつつ。
「あなた、お兄さんとか弟さんっているの?」
「ドウカナー? 元の世界のことそんなにハッキリ覚えてないや。でも、ま、ジャスティンとアマデウスが俺の兄弟分ってとこかな」

 そんなやり取りの一方では、“おかーさんレーダー”で事態を察知したユフォアリーヤが、いつの間にか――かつさりげなく、ジャスティンに膝枕をしていた。
「……ん、良い子良い子」
 六花が借りて来てくれたブランケットを会長にかけて、老紳士の額をゆったりと撫でる。その姿は慈母のごとく、伏目に見守るユフォアリーヤの眼差しはどこまでも優しい。
「会長ともなると重荷も凄かろう、ゆっくり眠らせるが吉かね」
 その隣では遊夜が、そう小声で呟いた。そして、迫る激戦の未来に静かに決意を固める。今のような時間を守らねばなるまい。平和に食事を楽しむ、そんな当たり前の幸せを、これからも勝ち取っていく為に。


 勢いに任せてたくさん食べて。央とマイヤはその後、抹茶アイスを手に知り合いへと丁寧にあいさつ回りをしていた。会話とデザートを楽しみ終えれば、そろそろ宴もお開きのようで。
 店を出るエージェント達を、店員達とオーナーがお見送りしてくれる。央とマイヤは彼らへと声をかけた。
「次は金払って食べに来ます!」
「……おいしかったわ」
 表情は笑顔、なれど心に一抹の罪悪感。「歩いて帰ろっか」「……そうね」と、二人は踵を返す。

 エデンも店員らへ、ペコリとお辞儀をしていた。
「ごちそうさま! 美味しかったよ! ありがとうござきました! 来年もまた、エズラと一緒に食べに来るから、よろしくね☆」
「ありがとうございました、おいしかったです。……食べ過ぎるほどに」
 言葉を続けたのはレイオンだ。肩を貸して支えている春月はグッタリしている。あれだけ食べたので、まあ、当然ではある……。
「うっ、食べ過ぎた……一年分のお肉食べた気がするよぉ……」
「帰りに薬局寄って、胃薬買って帰ろうか……」

 さて、さて。
 こうして今年も、聖なる夜は更けてゆく。

 願わくば――
 来年もまたここで、「メリーニクヤキマス」と交わせますように。



『了』

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 藤の華
    泉 杏樹aa0045
    人間|18才|女性|生命
  • Black coat
    榊 守aa0045hero001
    英雄|38才|男性|バト
  • いつも笑って
    九十九 サヤaa0057
    人間|17才|女性|防御
  • 『悪夢』の先へ共に
    一花 美鶴aa0057hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 生満ちる朝日を臨む
    真昼・O・ノッテaa0061hero002
    英雄|10才|女性|カオ
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 断罪者
    凛道aa0068hero002
    英雄|23才|男性|カオ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 全てを最期まで見つめる銀
    ユエリャン・李aa0076hero002
    英雄|28才|?|シャド
  • 希望を胸に
    アンジェリカ・カノーヴァaa0121
    人間|11才|女性|命中
  • ぼくの猟犬へ
    八十島 文菜aa0121hero002
    英雄|29才|女性|ジャ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • 深淵を識る者
    シルミルテaa0340hero001
    英雄|9才|?|ソフィ
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • 苦労人
    レオンハルトaa0405hero001
    英雄|22才|男性|ジャ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • エージェント
    十影夕aa0890
    機械|19才|男性|命中
  • エージェント
    シキaa0890hero001
    英雄|7才|?|ジャ
  • 暗夜の蛍火
    時鳥 蛍aa1371
    人間|13才|女性|生命
  • 希望を胸に
    グラナータaa1371hero001
    英雄|19才|?|ドレ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
  • ハートを貴方に
    まほらまaa2289hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • エージェント
    猫井 透真aa3525
    人間|20才|男性|命中
  • エージェント
    白雪 沙羅aa3525hero001
    英雄|12才|女性|ソフィ
  • きっと同じものを見て
    桜小路 國光aa4046
    人間|25才|男性|防御
  • サクラコの剣
    メテオバイザーaa4046hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
  • Trifolium
    バルタサール・デル・レイaa4199
    人間|48才|男性|攻撃
  • エターナル・ニクヤキマス
    Lady-Xaa4199hero002
    英雄|24才|女性|カオ
  • そうだよ、楽しくやるよ!
    春月aa4200
    人間|19才|女性|生命
  • 変わらない保護者
    レイオンaa4200hero001
    英雄|28才|男性|バト
  • 不撓不屈
    ニノマエaa4381
    機械|20才|男性|攻撃
  • 砂の明星
    ミツルギ サヤaa4381hero001
    英雄|20才|女性|カオ
  • エージェント
    木佐川 結aa4452
    人間|16才|女性|回避
  • エージェント
    水蓮寺 義政aa4452hero001
    英雄|23才|男性|シャド
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • LinkBrave
    夜城 黒塚aa4625
    人間|26才|男性|攻撃
  • 感謝と笑顔を
    エクトルaa4625hero001
    英雄|10才|男性|ドレ
  • 明日に希望を
    ナイチンゲールaa4840
    機械|20才|女性|攻撃
  • 明日に希望を
    善知鳥aa4840hero002
    英雄|20才|女性|ブラ
  • Peachblossom
    プリンセス☆エデンaa4913
    人間|16才|女性|攻撃
  • Silver lace
    Ezraaa4913hero001
    英雄|27才|男性|ソフィ
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • シベリアの女神
    アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
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