本部
掲示板
-
青き海底の園へ
最終発言2018/10/03 01:16:25 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2018/10/02 22:00:59
オープニング
地中海の海は、美しいブルーを称えていた。
「仕事で来るところではあらへんな」
正義はそんな感想を漏らす。眼下では、H.O.P.E.の職員が原子力潜水艦に必要な物資を詰め込んでいる。それと平行して潜水艦の整備も行なっていた。
「……あれで、海にもぐることができるのですね」
恐竜を宥める笛を所持していた女性――ヨイは心配そうに潜水艦を見つめていた。
彼女の思い出した記憶の一部に、海底に眠る都市のものがあったのだ。普通だったら夢物語だと思うだろうが、彼女には妙な確信があった。自分が守るべきであったガリアナ帝国は、そこにあるのだと。
ヨイの話を聞いたH.O.P.E.は、無人の潜水艦で地中海の海底を捜索した。そして、数時間に及ぶ捜索の末にようやくソレを発見した。
海底に沈んだ、ガリアナ帝国。
潜水艦はガリアナ帝国の内部も捜索しようとしたが、それは断念しなければならなかった。なぜならば、ガリアナ帝国の周囲はバリアーのようなもので守られていたからである。無尽の潜水艦では近づくことができず、H.O.P.E.はリンカーの派遣を決定した。
そこについていくと自ら手を上げたのは、ヨイであった。
彼女は美貌を曇らせながらも、準備が進められる潜水艦を見つめる。たおやかな手は、取り戻した笛をぎゅっと握っていた。
「道中の心配はなんにもあらへんで。リンカーも乗り込む予定やし、潜水艦の整備も万全や」
不安げであったヨイを正義は励ました。
●海底のマガツヒ
H.O.P.E.の面々は誰も知らなかった。
海中でマガツヒの潜水艦が進んでいたのである。彼らはH.O.P.E.が、海底でなにかを見つけたと聞きつけていた。それがなんであるかを確かめるために、水中に潜ったのである。そして、H.O.P.E.のリンカーたちよりも早く、ドームの全貌を見た。
「……スノードームみたいだな」
マガツヒの一人が、潜水艦からそんな感想を漏らす。
ドームに閉じ込められているのはガリアナ帝国の一部であろう。だが、ガラス状のバリアーに阻まれている街の様子は、安っぽいスノードームによく似ているように思われた。
「かなり大きいものだが、都市の規模で考えるならば小さすぎる。このバリアーに守られているのは、帝国の極ごく一部だろう」
「あのバリアーの強度は?」
マガツヒの一人は考える。
「水圧に耐えるだけのものだから、相当なものだ。だが、一箇所でも傷が入れば、そこから壊れるだろう」
魚雷の発射のボタンが押される。
爆音と共に、魚雷はバリアーに命中したのだが……残念ながらバリアーに罅の一つも入っていなかった。
「くそっ! 固すぎる!!」
マガツヒの一人は、操縦桿を叩いた。
「地上の仲間から、もっと強力なものを持ってきてもらうしかないな。連絡を取ろう」
「それが……H.O.P.E.がそろそろ潜水艦の準備を終えるらしい」
マガツヒに緊張が走る。
「……我々が囮になろう」
そんな話しが持ち上がった。
「我々が囮となってH.O.P.E.をひき付ける。そして、地上からやってくる仲間にはもっと強力な魚雷を持ってきてもらってバリアーを攻撃してもらう。幸いにして、ここには酸素ボンベもある。リンカーとの戦いにも備えられるだろう」
マガツヒたちは、そんな決意を固めた。
●海底のH.O.P.E.
リンカーたちは、潜水艦で海にもぐった。
広がる美しい光景に、一同は息を呑む。どこまでも青い海、自由に泳ぐ魚たち。青い楽園が目の前に広がっていた。
『綺麗ですぅ……』
小鳥も思わず呟く。
だが、ヨイの表情は晴れなかった。自分の目で、自分の帝国を見なければ不安で仕方がないのであろう。
「あ……」
ヨイは思わず、声を漏らす。
「ガリアナ帝国……」
リンカーたちの前に、海底には似つかわしくない光景がひろがった。それは街であった。透明なバリアーに覆われた巨大な都市が、海底にひっそりと息づいていた。
「ようやく……ここに」
ヨイは、震えていた。
恐らくは、様々な感情が彼女のなかで渦巻いているのであろう。
「皆、気をつけるんや! マガツヒの構成員らしいのが、外にいるで!!」
正義が叫ぶ。
海のなかには、武器を構えたマガツヒの酸素ボンベを担いで泳いでいた。
H.O.P.E.とマガツヒが接触した――その反対の方向。
そこではマガツヒの別働隊が、より強力な魚雷を運んできていた。
解説
・マガツヒの確保
・魚雷攻撃の妨害
場所(日中)――地中海の深い水域。海の透明度は高いが、日光が届きにくいために視界は悪い。さらに深くもぐると、大きな岩が大量にある海底に行き着く。サメが多くすむエリアであり、血の匂いを嗅ぎつけてやってくる。サメのなかにはオーパーツを呑みこんだ固体もおり、弱った固体から攻撃してくる。
マガツヒ(囮)……巨大な潜水艦を中心とした戦闘部隊。全員が水中で使用できる銃を持ち、するどいナイフを携帯している。泳ぎが堪能なものが多いが、酸素ボンベを背負っているためにさほど早くは動けない。最初に姿を現しているのは10人だけだが、岩場などに爆弾を仕掛けている者が5名いる。リンカーたちをそこにおびき寄せて、爆発の餌食にする作戦をたてている。
マガツヒ(別働隊)……潜水艦のみ出現。囮とは反対方向に出現し、破壊力のある魚雷を2発保持している。囮と同じ装備の戦闘員が5人で潜水艦を護衛している。劣勢になると仲間を巻き込むことになっても、魚雷で攻撃を行なう。
スキューバダイビングセット……水着と酸素ボンベ。H.O.P.E.より、貸し出している。ボンベは一人一本であり、活動時間は三十分が限界。かなり重量があるため、身に着けると素早く動くことができなくなる。身に着けない場合は、海中での戦闘はできない。なお、H.O.P.E.の潜水艦は魚雷を積んでいない。(リンク中一時的ならば無酸素状態で活動可能だが今回は深海での戦闘であり、緊急時にすぐに海上に浮上できないため酸素ボンベの着用が事務付けられている)
正義……ヨイの警護役および潜水艦の操縦役。
ヨイ……取り戻した笛を持って潜水艦に同乗。ガリアナ帝国の様子に不安を感じている。
リプレイ
青い海に沈んでいたガリアナ帝国。
その帝国を守るように張られたのは透明なバリアーであった。そのバリアーを破るためのマガツヒの作戦が、秘密裏に始まろうとしていた。
●囮の敵たち
リンカーたちはダイビングセットを身につけて、海底へと飛び込んだ。本来ならば透明度の高い海だが、海底はさすがに日光が届かず視界が悪い。
『深海のマーメイドの名をほしいままにするよ』
海の中で百薬(aa0843hero001)は、そう宣言した。浅瀬の青い海ならばマーメイドを名乗ることもできるだろうが、残念ながらここは深海。わずかな光も届かない海底にいるのは、人魚ではなくて腹をすかせた深海のサメであろう。
「まあ、やれるだけやってみよう」
ダイビングセットに身に纏った餅 望月(aa0843)は、水を蹴りながら前方を見た。見えるのは、マガツヒの潜水艦とその潜水艦を守ろうとしているかのように水中を泳いでいる構成員たちである。
「相手潜水艦にこっそり忍び寄って、直接壊すのはどうだろう? さすがに命は惜しいだろうし、みんな退散してくれるかも」
物騒なことを考え付いた、望月。
もしかしたら、水圧と重いボンベが邪魔になってイラだっているのかもしれない。
『それはマガツヒでも全滅しちゃうし、逆にやられたら大変だからお約束でやらないんじゃない?』
「百薬は時々慎重だね」
だが、百薬の言葉の一理あった。
潜水艦を破壊されたマガツヒが自棄になって、こちらの潜水艦まで壊してしまったら目も当てられない事態になる。だが、望月と似たような考えの人間がもう一人いた。
「外に出ている人数を遠距離戦で蹴散らしたのち、潜水艦を制圧すればいいのよね」
クロスボウ「イカヤキ」を持った、橘 由香里(aa1855)である。
色気のない持参の水着を身に纏った彼女に、飯綱比売命(aa1855hero001)はため息をついた。
『……幾ら水中で使い易そうじゃといって、この色物持っていくのはどうなんじゃ?』
イカヤキのせいもあって、由香里の姿は海女のようであった。
もしも、これがテレビ番組ならば仮装大賞をとってしまいそうである。
「相手に愚神がいないなら武装は威力より、使い勝手で選ぶべきでしょ」
由香里はきっぱりとそう告げるが、飯綱比売命は「匂いで見たこともない魚がよってきたらどうするのじゃ」と若干困っていた。なにせ、ここは深海である。何が出てくるのか、分からない。
「マガツヒとていたずらに命を奪う事はわたくしの矜持に反しますの。退いてはいただけませんこと?」
ファリン(aa3137)は、弓を構える。
そして、マガツヒの装備を確認した。相手は銃を持っているが、こちらと同じように思い酸素ボンベも着用している。水中戦に秀でていても、素早くは動くことができないであろうとファリンは想定した。
「なら、狙いは酸素ボンベですわ」
相手の命を奪わずに倒すのならば、水中ほど分かりやすい手が打てる場所はない。なにせ、相手の急所も自分たちの急所も同じだ。
――酸素ボンベ。
これがなくなってしまったら、相手も、ファリンたちも活動できる時間がぐっと短くなる。ここが海底であることを考えるのならば、相手は酸素ボンベを失った時点で潜水艦への撤退を余儀なくされるであろう。
しかし、深追いは禁物だ。
ちらり、とファリンは自分の背後にあるH.O.P.E.の潜水艦を見た。あの潜水艦にはヨイが未だに乗っている。彼女を守ることを、第一に考えなければならない。ヨイの護衛として、氷鏡 六花(aa4969)とオールギン・マルケス(aa4969hero002)が潜水艦に残ってはいるが、ヨイの分のダイビングセットはないのである。もしも、潜水艦を攻撃されてしまったら終りであるとファリンは考えていたのだ。
「海底――思ったよりずっと体が重たいような気が……これが水圧なの?」
いつもより重たい体に戸惑いながら、藤咲 仁菜(aa3237)はマガツヒの酸素ボンベを狙う。仁菜もまたマガツヒを潜水艦に撤退させようとしていたのである。
『気を付けるんだ。サメが見えるだろう』
九重 依(aa3237hero002)の言葉に、仁菜は当たりを見回す。その言葉通り、サメの姿があった。普段見るようなサメではなくて、目がぎょろりとして口ばかりが大きなモンスターのような姿のサメであった。おそらくは深海にすんでいて、普段は仁菜が目にしない種類なのだろう。
「でも、共鳴中ならダメージはないはず……きゃ!」
マガツヒの銃が、仁菜の腕をかすった。大した傷ではないが、仁菜の赤い血が海水に混ざる。その途端に、さっきまで仁菜に見も向きもしなかったサメたちが彼女の側によってきていた。サメは大口を開けて、仁菜を餌にしようとする。
『まずいな。サメが血の匂いを察知して、寄ってきているな。しかも、何匹かはオーパーツを飲み込んでいるようだ』
冷静な依の言葉を聞きながら、仁菜はどうすればいいのか迷っていた。
自分が逃げれば、サメたちは仲間の元へと移動するかもしれない。しかし、このままサメと戦っているだけでは仲間の助けにはなれない。
「……どうすれば、いいの?」
途方にくれる仁菜は救ったのは、ファリンの機転であった。ファリンはマグロを傷つけて、遠くに放り投げたのだ。魚の血のにおいを嗅ぎつけたサメは、仁菜ではなくてマグロのほうへと向っていった。
龍寓(近衛師団長)の塚井さん(aa3862hero002)は、遠くへいったサメを見てほっとしていた。なにせ、塚井さんはとても美味しいのである。サメに見つかった日には、サメのご馳走になってしまう未来が目に見えていたほどに美味しいのである。
『ふははは、今回は私が主体となって戦う。貴様は指を咥えて大人しく見ている事だ! いいな、勝手に動こうとするんじゃないぞ!!』
サメがいなくなった途端に、塚井さんはとても元気になった。さっきまでサメ相手にびくびくしてたくせに――とはピピ・浦島・インベイド(aa3862)は言わなかった、ただ不満で「うにゅー……」と可笑しな泣き声をあげている。
これには理由がある。
酸素ボンベが重すぎたせいなのか不明なのだが、体が浮上しなかったのである。おかげで、現在インベイドのみ海底を歩いている状態である。
『お前たち、なにをやっているんだ!』
塚井さんが、爆弾を仕掛けているマガツヒを発見する。
「あれは、爆弾? もしかして、あれで海洋生物を根こそぎ捕まえる作戦を立てているんですね!」
インベイドの言葉に、塚井さんは叫んだ。
『私は龍寓近衛師団長の塚井。厄災を招きし物だ!』
捕まえられて食べられてたまるものか、と塚井さんは叫ぶ。
『水中での戦いにおいて私に敵う者など、――……あんまりいない』
だが、案外謙虚だった。
鰻鞭を装備し絡ませて、雷書による感電を考慮――いわゆる電気鰻作戦なんてことをやっているわりには謙虚であった。
『私のドリルで……貫けれぬ物などないに等しい! いくぞ、我がドリル……海をかき混ぜろ!!』
爆弾を設置していたマガツヒを相手にしていた塚井さんだが、このままでは爆弾が爆発してしまう。そうなれば、海底に足をつけている塚井さんごと吹き飛んで――たぶんサメの美味しい晩御飯になってしまうだろう。
「こっちは任せて!」
仁菜は、仕掛けられた爆弾に近寄る。
そして、ボンベの酸素を大きく吸った。
「罠師で、解除できればいいけど……」
仁菜は少し弱気になった。絶対に解除できるという自身がなかったからだ。解除できなければ、塚井さんも爆発に巻き込まれてしまう。そのときは――。
「……私が守るの!」
勇気を振り絞って、仁菜は罠師を発動させる。
「仁菜、背後だ。狙われている」
依の声が聞こえた。
だが、仁菜は振り向かない。
彼女の変わりに、マガツヒと戦ったのは望月であった。爆発物の近くだからか、ナイフで攻撃してくるマガツヒの攻撃を望月は槍で受け止める。
『のんびりしてたら、サメのおやつだよ』
ここのサメは口がおおきくておっかないよ、と百薬は言う。
「また、サメがきたら……あそこにいる美味しそうな人が囮になってくれないかな?」
望月の呟きに、塚井さんが悲鳴を上げた。
「冗談だよ。冗談、冗談……でも、ちょっとお腹は空いているかな?」
望月の言葉に、百薬は「私もー」と答えた。
『そういえば……ここって、海の幸が食べ放題だよね。見た目さえ、気にしなければ』
じょるり、と百薬が涎をすする音が聞こえた。
「でも、深海魚ってグロいね。うん、丸焼きはちょっと嫌かな」
そんな話をしていたせいなのか望月は、イカの匂いを嗅いだような気がした。しかも、生のイカではなく縁日で売られているようなイカヤキの匂いを。
「私も、本当に相手の潜水艦を静める気はないのよ」
イカヤキを片手に由香里は、そう語る。
彼女はウレタン噴霧器から発射されるウレタンを目くらましに使いながら、イカヤキ(クロスボウ)で敵のボンベを攻撃していた。
「私が考えた作戦は、こうよ。RPG7を打ち込んで装甲に突入口を穿ち、内部に侵入して制圧。侵入した後は、もう一個の噴霧器で穴を塞げば沈ませずに制圧できるかな?」
由香里のめちゃくちゃな作戦に、飯綱比売命は頭を抱えていた。
『おぬし、アメリカの映画をみたんじゃろう?』
由香里の作戦は、テレビでも放映されているようなアメリカ産の超大作映画と何処か似ていた。しいていえば、主人公の身体能力に頼りすぎているような作戦がとてもよく似ている。
「あそこまで荒唐無稽な作戦は立ててないわよ。ちゃんと進入した後のことも考えているでしょう」
映画のような無理はない、と由香里は言う。
飯綱比売命は、もう一度だけ冷静に作戦を考えてみた。
『やはり無茶過ぎぬか、この作戦……』
答えは全く代わらなかったが。
ファリンは、周囲の状況を見つめていた。
「そろそろ、頃合ですわね」
ファリンは、潜水艦のスクリューを見つめていた。
あそこを破壊すれば恐らくは人がいる箇所にはダメージを与えずに、潜水艦の動きを止めることができるはずである。彼女は、そう考えていたのだ。
ファリンは、弓矢で狙いを定める。この一撃が外れればマガツヒもスクリューを守り、もうファリンに弓矢を打たせないかもしれない。
この一撃が、勝負であった。
ファリンは、呼吸を整える。
ついで、何時もとは違う状況を考える。ここは水中で深海。水の抵抗も水圧も、全てを考慮しなければ精確な攻撃など不可能だ。
自分の弓矢は当たる。
絶対に外れやしない。
ファリンは、自分自身を信じた。
そして、弓矢を放つ。
「当たりましたわ」
彼女の弓矢は、潜水艦のスクリューを破壊していた。
●魚雷を防げ
『あの娘の過去に関わる場所……出来るなら……』
マイヤ サーア(aa1445hero001)は、透明なバリアーに守られたガリアナ帝国を見つめながら呟く。そのささやきは、どこか哀しげにも聞こえた。
「守ってやらないとな。彼女が自分自身を取り戻す大事な手掛かりだ」
迫間 央(aa1445)は、呼吸を整える。
全てを忘れた状態で発見されたヨイは、マイヤと境遇が似ている。だからこそ、彼女のことを何とかしてやりたいという気持ちがマイヤと央のなかには生まれていた。
荒木 拓海(aa1049)も同じような気持ちであった。
そして、少しだけほっとしていた。
なぜならば、ヨイが大切なものを思い出すことができたからであった。何も覚えていなかった彼女を、拓海は覚えていた。だからこそ、ヨイが守るべきものを思い出したことは喜ばしい。
『思い出しすことができて良かったわ』
メリッサ インガルズ(aa1049hero001)も、拓海と同じ気持ちのようだった。拓海に口には出さず、共鳴した自身の相棒に告げる。
――大切なモノを守りに行こう。
『ええ』という返事が、聞こえてきたような気がした。
『そして、やっぱり色物キグルミを持ってきていたのね?』
メリッサの言葉に、拓海は言葉を詰まらせた。本物のサメがいるかもしれない現場には不謹慎かもしれないと色々と考えたが、やっぱり性能がよくて持ってきてしまったのだ――ジョーズきぐるみ。
気を取り直して拓海は、モスケールでバリアー周囲を確認する。マガツヒがガリアナ帝国のすぐ近くで発見された時点で、彼らが何かをたくらんでいると考えたほうが自然なのである。そうたとえば――力任せにバリアーを壊そうとしているとか。
「何かされる前に阻止しよう」
マガツヒたちは岩場にも集まっていたようだが、仲間たちの活躍によってあそこには爆弾が仕掛けられていたことが分かった。つまりが、罠である。
マガツヒたちは爆弾をガリアナ帝国のバリアーを破るためにではなくて、H.O.P.E.を攻撃するために使用した。それは、不自然なような気がした。
『そうね。このバリアーに爆弾をしかけたほうが、色々と早いような気がするわ』
メリッサの言葉に、「もしかして……」と拓海は呟く。
「このバリアーが爆弾ぐらいじゃ敗れないことを知っていたのかな? たとえば、魚雷とかで先に攻撃してたとか」
だとしたら、自分たちの撃退に爆弾を使おうとしていたことも理解できる。魚雷で破壊できなかったバリアーには、爆弾なんて効かないだろう。だから、マガツヒは撃退に爆弾を回したのだ。
『魚雷で敗れないバリアーなんて、どうするの?』
メリッサの疑問に対して、拓海は極単純な答えが浮かんだ。
「もっと……破壊力が大きな魚雷を用意するとか。皆、周囲を警戒して!!」
拓海の言葉に、一番最初に反応したのは雨宮 葵(aa4783)であった。
「あれって。マガツヒの潜水艦なのかな?」
葵は目を細める。
自分たちがいる場所から離れたところに、今まで相手にしていた潜水艦とは違う潜水艦を見つけたからである。
『大きな繭みたいなものを積んでいるよね。あれって、なんなの? お姉さんは見たことがないな』
彩(aa4783hero002)は、不思議そうな顔をしていた。
「たぶん、魚雷だよ」
葵の言葉に、彩は悲鳴を上げた。
『あんなに大きな魚雷なんて、なにに使うつもりなの?』
「それは……バリアーの破壊しかないよね。たぶん」
あの魚雷でバリアーが破壊できるかどうかなんて葵には分からない。ただ、マガツヒの魚雷はとても大きくて、全てのものを破壊しつくせるような気がした。
「バリアーを守るよ!」
葵の決断は早かった。
「水の中じゃ動きづらいけど『お姉さん達にそんなの関係ないのだわ!』」
水の中でも声は通る。
自分たちは武器を失ったわけではない。
泳ぎ出した葵の姿を見ながら、木陰 黎夜(aa0061)は呟いた。
「戦闘、よろしく……」
黎夜はカナヅチなのだ。プールでも泳げないのに、深海などもっての他である。それを知っていたアーテル・V・ノクス(aa0061hero001)は『任せろ』と呟いた。潜水艦を護衛するかのような構成員のボンベを狙って、アーテルは攻撃を放つ。
『狙うなら、やはり酸素ボンベだな』
アーテルの言葉に、「どうして?」と黎夜は尋ねた。
『酸素ボンベは登山でいうところの命綱だ。命綱がいきなり切られたら、嫌だろう』
アーテルの言葉に、黎夜は顔をしかめた。
「ひねくれた性格の人間が考えそうな作戦だな」
黎夜の言葉に、アーテルはほとんどの味方が同じような作戦を立てていることを黙っていることにした。自分たちとて深海の戦闘になれているわけではないのだ。だから、勝てるための作戦は十分に使っていかなければならない。
敵の攻撃を避けて泳ぐのをアーテルに任せた黎夜は、マガツヒの潜水艦を見つめる。テレビでしかないような巨大な機械を目の前にするのは、なんだか可笑しな気分であった。
「あの潜水艦は、魚雷をまだ撃たないんだ」
黎夜は、少しばかり不思議そうであった。
味方がやられているというのに、潜水艦は一番大きな武器を使ってこようとはしない。だが、言い換えればそれはバリアー用の武器であるという証明でもあった。
『一番効果的な位置を狙っているんだろうな』
アーテルは、呟く。
敵対するH.O.P.E.相手ではなくて、バリアーを破壊するために。
ブルームフレアを発動させながら、アーテルは考える。相手の潜水艦が倒すのに、効果的な場所はどこかと。
『動物は、口の中が一番無防備だと聞いたことがあるな』
アーテルの言葉に、黎夜は眉を寄せる。
「こんな深海に動物なんていない……」
黎夜の言葉にアーテルは「ものの例えだ」と答えた。
アーテルが口と言っているのは、魚雷の発射口のことであるらしい。
『だが、いざ口を開いてもこの状態では攻撃は難しいな』
潜水艦の周辺には、まだマガツヒの構成員がいる。アーテルも必至に戦っているが、彼らを無視して潜水艦に攻撃を与えることは不可能であった。
「ん……六花たちに任せて」
達者な泳ぎで現れたのは、オールギンと共鳴した六花であった。
断章と氷鏡の力で、無数の氷槍を放ちながら六花は進む。ヨイの護衛をしていた彼女であったが、潜水艦から海へと飛び出してきたのは理由があった。
敵が増えてきたからである。それと同時に、この場で自分以上に泳ぎが達者な者はいないと思ったからであった。この状況で自分は戦力になる、と六花は判断したのだ。
「……ん。これ……重くて、邪魔……なの」
ペンギンの六花は、酸素ボンベが重くてたまらない。今すぐにも脱ぎたいが、案全対策の一環であることも理解はしている。
『このような重石に苦戦しているようでは、まだまだだぞ』
オールギンの力強い声。
「……誰かが危なくなったら……ん……脱がないと」
このままでは、早く泳ぐことは出来ない。
それでも、すぐに脱がないのは今脱いだら心配をかけてしまうからだ。オールギンではない。彼は、六花の泳ぎの達者さを知っている。
六花が心配をかけたくなかったのは、潜水艦に残したヨイだ。
彼女は、幼い六花が戦いに行くことを心配していた。六花は、ヨイが真に心配しているのは自分ではないような気がしていた。ヨイは六花を通して、ガリアナ帝国にいるかもしれない多くの住民を見ているような気がしたのだ。
ガリアナ帝国のなかには、六花のような幼い女の子もいるかもしれない。その子を危険にさらしたくない、ヨイはそう考えているように六花には見えた。
『ガリアナ帝国……あの帝国を守るバリアーが狙いか。割れれば、ただではすまないぞ』
オールギンの言葉に、六花は頷く。
「ん……壊させない。絶対に、六花たちが守るの」
六花は、再び氷槍を出現させる。
「目立つワザを使ってもらえるとありがたいものだな」
央は、小さく呟く。
敵の視線は、目立つ六花を追っていた。だれも、央のことを見ていなかった。
『だから、足元をすくわれてしまうのよね。……こんなふうに』
マイヤの言葉と共に放たれたのは、女郎蜘蛛であった。動きを止めたマガツヒを央は確実に仕留める。
「この水圧とボンベの重さだ。無理に間合いを詰めることはできないな」
央の言葉に、マイヤは頷いた。
『確実に守らないとね……』
彼女の視線は、静かなガリアナ帝国に注がれていた。
『だいぶ、マガツヒの構成員たちは減ったようね』
状況を見ていたメリッサは呟く。
「ああ、でも油断はできないよ」
拓海は呟いた。
なにせ、こちらが一番警戒しなければならない敵が残っている。
「敵が魚雷を撃つとしたら、確実にバリアーに当てられるタイミングか……追い詰められて撃つしかなくなった時か」
葵は、少しばかり考える。
『あおいちゃん?』
彩は、そんな葵を首を傾げながら見つめていた。
「だから、当てられると思わせる!!」
先ほどから、葵は本気で行動していない。本気で行動すれば、葵の行動力はもっと広がる。だが、マガツヒは本気を出していない葵しかしらない。
自分は弱い、と思われているかもしれない。
それでも、その隙をついて攻撃してくるとしたら――……
「さぁ、来い!」
葵の言葉と共に、魚雷が発射される。
見えざる手を使用した葵は、バリアーから魚雷を遠ざけようとした。
「ん……手伝う」
六花も加わり、魚雷そのものを凍結させようとしていた。
だが、あと一息足りない。
このままでは、魚雷がバリアーに当たってしまう。
「これで、いけるか!」
剣状に固定した銀腕で、央はビームを放つ。
「これなら!」
拓海も烈風波を放った。
このまま魚雷が爆発すれば、バリアーは砕けるかもしれない。そうなれば、ヨイが心配していたガリアナ帝国がどうなってしまうのか拓海には分からない。
だから、守りたかった。
守らなければならなかった。
『……ギリギリで、それたわね』
マイヤの顔には、いまだ緊張が走っていた。
『次が来る前に、片をつけるぞ』
アーテルが、サンダーランスを構えた。
「なにをする気?」と質問した黎夜の声に答える前に、アーテルは魚雷の発射口にサンダーランスを突き立てる。
「ん……これなら」
六花が、魚雷が発射されるはずの入り口を凍らせる。もしかしたら、この攻撃は必要なかったかもしれない。それでも六花は、魚雷は氷のなかに封じ込めたかった。
誰かを心配する優しい人が思いをはせる場所――その場所を守るために、その場所を壊す魚雷を封じ込めたかったのである。
「ん……絶対に撃たせないの」
六花は、小さく呟いた。
『これで終わったのよね?』
マイヤは、央に尋ねる。
彼女は、安堵していた。自分と同じような境遇の女性を、少しだけ救えたような気がしたのだ。だが、央から帰ってきた返事は「ああ……」という生返事であった。
『一体、どこをみているの?』と問いただそうとしたマイヤの呼吸が止まる。そして、出てきた言葉は『どっ……どういうことなの?』という驚きに満ち溢れていたものであった。
笛の音が聞こえていた。
その不可解な現象に、仁菜は首を傾げる。
「どうして、笛の音が聞こえるの?」
『水のほうが、空気よりも音が響く……そのせいだけとも言い切れないかもしれないが』
歯切れ悪く、依が答える。
おそらくは、依にも理解しがたい現象が起きているのであろう。
『あれを見るんだ、あれを!』
塚井さんが指差す方向にあるのは、ガリアナ帝国。
「はっ。あそこを泳いでいるのは、高級魚ですね」
インベイドの言葉に、塚井さんは「違う、もっと左だ!」と叫んだ。
「あれは……バリアーが開いているんですの?」
ファリンの言葉は、全員の心境の代弁であった。
彼女が言ったとおり、ガリアナ帝国のバリアーは開いていた。
『せっかく、マガツヒを撃退したというのにのう。一体、何が起こっておるんじゃ』
飯綱比売命の言葉を聞きながら、由香里は酸素ボンベの残量を確認する。中身の酸素量は少ない。ここで迷っているよりは、一度潜水艦に戻るほうが得策であろう。
「とりあえず、潜水艦へと帰るわよ。みんなと話し合って、行動するのはそれから」
リンカーたちは、ガリアナ帝国に一度背を向けた。
●帝国の秘密
潜水艦でリンカーたちを出迎えたのは、笛を握り締めたヨイであった。
彼女は、ガリアナ帝国のバリアーを消したのは自分であると言った。
「あのバリアーが笛によって一部だけが消えることは分かっていました……ですが……。もうすでに、ガリアナ帝国の周辺にはマガツヒがいました」
だから、ヨイは笛を吹くことが出来なかった。
吹けば、マガツヒまでガリアナ帝国に入れてしまうことが分かっていたからである。
「ガリアナ帝国も海底と同じで、酸素ボンベが必要だな」
カナヅチの黎夜は、若干嫌そうな顔をした。
戦闘を完全にアーテルに任せていても、泳ぐことは嫌だったらしい。
「もし、酸素がないんだったら……今の装備ではちょっと心もとないかもね」
拓海は、マガツヒたちが逃げていった方向を見やる。
彼らに違う生き方があることを知ってほしかったが、今回は対話することすらできなかった。そのことを、拓海は少し残念に思っていた。
『一度、海上に出て装備を整えるのが一番安全よね』
メリッサも、そう呟いた。
「ん……帝国のなかにも、人がいるんですか?」
六花の質問に、ヨイは少しばかり言葉に詰まった。
『正直に話してみろ。六花を初め、ここにいる者は全員が覚悟しているぞ』
最悪の結果でも受け止める覚悟がある、とオールギンは告げた。
ヨイは、うつむいたまま答える。
「私は……国民が生き残っていると信じています。私が、こうして生き残っているのですから……」
ヨイの自身のない言葉に「つまり……確証がないわけだな」と央は呟いた。ヨイが生きていると信じているのならば、何かしらの手段は講じられているのかもしれない。だが、それが正常に作動しているかどうかまでは分からないのだ。
マイヤは、不安げにガリアナ帝国を見た。
もしかしたら、あの帝国は無人か――あるいは死者しかいない場所になっているのかもしれない。それを見に行こうといえる勇気が、マイヤにはなかった。
『大丈夫じゃないかな』
いとも簡単に、そう宣言したのは百薬だった。
『あの中は、空気はありそうだよ。酸素ボンベがなくとも、生きていけるよ』
気楽な百薬の言葉に、望月はため息をついた。
「酸素があっても、食べるものがないと生きていられないよ。酸素も本当にあるかどうかわからないし」
望月の言葉に、ヨイは答える。
「今はガリアナ帝国のなかは海水に満たされていますが……この潜水艦が、専用の船着場から内部に入れば海水は排出されるはずです。今、開いた場所がそれです。……酸素ボンベはいらないはず」
ヨイの話が終わることに、申し訳なさそうに正義は切り出した。
「この潜水艦の酸素量にも問題があるで。帰りの道のりを考えるなら、酸素の量がギリギリなんや。ガリアナ帝国に行っても、そこに滞在できる時間は……数分が限界や」
それ以上帝国にいれば地上に戻れなくなる、と正義は言う。
その言葉に、全員が押し黙った。
「なら、行ってみるべきだよね」
葵は、元気よく言った。
「こんなところで悩むより、実物を見たほうが絶対にいいよ」
葵の言葉に、彩は「もう、あおいちゃんたら」とクスクスと笑っていた。
『でも、たしかに実物を見たほうがよいちゃんの心も整理がつくはずよ」
彩の言葉に、全員がヨイのほうを見つめていた。
彼女の一言で、この先を進むか進まないかが決まる。全員が、それを感じていた。
「私は……私の民の安否が知りたいのです。皆さん、ご迷惑おかけします」
ヨイは、深々と頭を下げる。
それで、この潜水艦の命運は決まった。
リンカーたちを乗せた潜水艦はガリアナ帝国の内部へと入る。ヨイの言ったとおり、バリアーが開いた箇所から入り込むと海水が排出されはじめた。海水がなくなったガリアナ帝国は、とても静かであった。
あまりに静かな光景であった。
――無人の街であったのだ。
「も……もしかしたら、建物のなかに人がいる可能性も……あるかもしれないですよね」
仁菜の言葉に、依は首を振る。
『だが、俺たちには調べる時間が残されていないだろう』
仁菜はその言葉に、沈んだ表情を隠すことが出来なかった。
「ん……ここで……生き残っている人を探したいけど……」
六花の言葉に、オールギンは首を振る。
『それは、いかんぞ。仲間たちの命を危うくさせてしまう判断だ』
オールギンの言うとおりであった。
このまま留まって住民を探そうとすれば、自分たちが海上へと戻れなくなってしまう。それは、一番避けなければならないことであった。
「大丈夫だって、また来れるよ!」
暗い表情のヨイに、葵は笑いかけた。
「だって、バリアーがこんなに丈夫だったんだから私たち以外は入って来れない。マガツヒたちだって、退散したしね」
彼女は、大丈夫とヨイを励ます。
彩は、その様子を見ながら「あおいちゃんたら」と言いながら微笑んだ。
「もう、これ以上は……ここに留まることも危険ですね。ヨイさん、申し訳ありませんが」
央は、ヨイにその言葉を告げる。
「もう、帰りましょう」
ヨイは無言で頷いた。
彼女の心境を思うと、マイヤは何も言えなくなってしまった。
潜水艦は、再び深海へと戻る。
ヨイはそのなかで、再び笛を吹いた。
「あれは……笛に反応しているんだな?」
黎夜は潜水艦のなかから、とても不思議な光景をみた。彼女の笛に反応して、バリアーが再び閉じられていく光景である。その光景は何よりも不思議で、神秘的であった。なんとなくだが、黎夜はアトランティスの伝説を思い出した。
海に沈んだとされる太古の文明がもしも生き残っていたとしたら――こんな形をしているような気がしたのだ。
『オレたちは、またここに来ることになるのかな?』
拓海は、バリアーに守られたガリアナ帝国の姿を見ながら呟く。
メリッサは『分からないわ』と答えた。
『でも――わたしたちは、まだこのガリアナ帝国の全てを見たわけではないのよね』
海に沈んだ、ガリアナ帝国。
その未知の帝国は、未だにマガツヒにもH.O.P.E.にも全貌を明らかにはさせていなかった。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
---|