本部

君が居た夏の記憶

絢月滴

形態
イベントショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
6人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/07/16 20:36

掲示板

オープニング

●人手が足りない!
 たくさんの汗をかきながら、武史と実は倉庫で作業をしていた。祭りのクライマックスで使用する大太鼓をゆっくりと、怪我をしないようにリヤカーに載せる。
「ふぅ……あと、バチと……ええと」
「櫓の飾り。……しかし、何で俺達だけで祭りの準備をしなければならないんだ?」
 武史のぼやきに、実は仕方ないよ、と返す。
「皆具合悪いんだから」
「ただの夏バテじゃねえの」
 こんなに暑いんだしよ、と武史は汗を拭う。彼のTシャツはすでに色が変わっていた。そうかもね、と実は言った。その返事が気に入らなかったのか、ああ? と武史がすごんだ声を出す。
「夏バテ以外に何があるんだっていうんだよ」
「いや……もしかしたら、愚神の仕業かもって」
「はあ?」
「だってほら、確かに昔から祭りの時期に体調を崩して寝込む人は居たけど……最近、多いから」
 実の言葉に武史の表情が変わる。そうだ、とにやりと笑った。
「H.O.P.E.に依頼しようぜ」
「え?」
「愚神が居るかもしれないってことで……ついでに祭りを手伝ってもらう! どうだ!」
 豪快に笑う武史に、実は溜息をついた。
「そんなんで来てくれるのかなぁ……?」



 その夜。
 就寝中だった実は息苦しさに目を覚ました。飼い猫が何かが乗っかっているのかと思い、胸元に視線を向ける。
「ひっ」
 そこに居たの猫ではなかった。
 輪郭がぼやけ、体が半透明の、浴衣を着た、少女。その髪に光るのは青と白で石で彩られた、髪飾り。
「ゆ、ゆうれ」
『まだかな』
「え」
『まだかな。早く、帰ってきてよ。約束したでしょ?』
 ね? と。 
 少女が実に笑いかける。綺麗だけれど、何処か怖いその表情にひ、と実は息を呑んだ。
 ドアがぎぃと音を立てる。その隙間から実の飼い猫が入ってきた。
「ニャア!」
 猫の威嚇に少女が慌てたように消える。
「な……なんだったんだ……?」


●夏祭りと幽霊?退治
「……と言うわけで、実が見たって言う愚神の退治を頼むぜ」
 翌日。
 やってきたエージェント達に武史はそう言った。
「実がそいつを見たのは真夜中って話でして……泊まるところは用意してあるので、存分に祭りを……準備から楽しんで、そして退治してくれればこっちは問題ないからよ!」


※以下PL情報


●君が居た記憶
 夏の月は高く、それでいて色も何処か濃く、夜空はまるで墨の上に鮮やかな花びらを落としたよう。
 私は君に呼ばれて、神社に向かった。
 夏祭りの屋台の間を駆け抜け。綿あめをねだる子供の声を潜り抜け。
 君が帝国大学に行く、ということは聞いていた。
 仕方ない、君の未来のため。
 だって君は、いずれこの町で一番偉い人になるんだから。
 何度も自分に言い聞かせた。
『急に呼び出して、ごめん』
『ううん、大丈夫』
『明日の汽車で、行くから。会いたい、と思って。向こうに行ったらなかなか帰ってこれないと思うから』
 ああ、君は優しいな。
 昔からそうだった。
 年下のくせに。
『その髪飾り、良く似合ってる』
 君の言葉に私は何も言えなかった。多分少しだけ顔が赤くなっている気がする。
 だって君に会うんだもの。君が買ってきてくれたこの髪飾りをつけて来るのは、当たり前じゃない。
『……あのさ』
 君が急に真面目な顔になった。なんだろうと、私は君の目を見る。何時からこうやって見上げるようになったんだっけ。
『五年……いや、三年。三年後に、迎えに行ってもいい?』
 その意味が分からないほど、私も君ももう、子供じゃない。
『何その言い方。男らしくない』
『えーとじゃあ。……三年後に娶ってやるから、花嫁修業でもして待ってろよ』
 私は思わず噴き出した。
『やっぱ似合わない』
『――が言ってって』
『ごめんごめん』
 謝った直後。私も真剣な顔をした。君の手を取って、しっかり頷いた。
 そう、返事をしたんだ。
『待ってます。貴方が、ここに帰ってくるのを』
『うん、待ってて。――を迎えに行くよ』

解説

・夏祭りの準備を手伝うこと。
・夏祭りを楽しむこと。
・幽霊(愚神?)を退治すること。
以上が、今回のシナリオの目的です。
以下の事柄に注意しながら、目的を達成して下さい。


・エージェント達が向かったのは日本・青森県のとある小さな町です。

【祭りについて】
・祭りの会場は町の中心にある神社です。
・祭りの準備は色々あります。屋台の組み立て、飾りつけ、放送器具のセッティング。
・祭りは夕方5時から夜の9時までです。
 純粋に楽しむことも可能ですし、屋台で焼きそばやたこ焼きを作って販売することもできます。
 屋台については一般的な日本の夏祭りにあるものについてはあると思って頂いて大丈夫です。
・飲み食いした場合は一品につき20G戴きます。


【幽霊(愚神?)退治について】
・実は少し熱があるくらいなので、話を聞くことは可能です。


【その他】
・武史が用意してくれたの宿泊所は、町長の屋敷です。結構大きく、立派な蔵もあります。

リプレイ

●まさに、日本の夏
「暑い暑い暑いー!!」
 最寄り駅のホームに降り立った瞬間、木霊・C・リュカ(aa0068)は叫んだ。白杖の先からの感触からして、下はアスファルトで舗装されている地面なのだろう。かつかつ、という全然全く涼しくない音だ。
『煩い。余計暑くなる』
 そんなリュカの側で額の汗を拭っているのは彼のパートナーであるオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)だった。じりじりと肌を焼くような太陽に思わず空を見上げた。何処までも青い。こういった空を抜けるような、と形容するのだろう。二人はとりあえず、駅の待合室へと移動した。何もしなくても、汗が垂れる。
「あー!!」
 不意に駅舎の方から響いてきた声に、リュカとオリヴィエは同時に反応した。その方向からまいだ(aa0122)とツラナミ(aa1426)が歩いてくる。
「あー……あっつ……くっそだる……」
「リュカさんとオリヴィエさんだー! こんにちはー!」
「いやあ、まいだちゃんは元気だねー」
『少しは見習ったらどうだ』
「お兄さんには無理!」
 そうして四人暫く他愛のない話をしていると、ホームに電車が止まる音がした。ぷしゅーと音がして、開いた扉から降りてきたのは御童 紗希(aa0339)とスワロウ・テイル(aa0339hero002)だった。その後ろに、紫 征四郎(aa0076)とガルー・A・A(aa0076hero001)の姿もある。
『姐さん! 青森っスよ! 自分来たことないっスけどネットで調べたらりんごやお米は勿論! 野菜とか! 肉とか! 魚とか! 山菜とか! グルメ情報盛り沢山っス』
「うん。テンション上がるのは分かるけど……今回はグルメツアーじゃないから……」
『あーそういえばそうっスね! だって今回は幽霊』
 テイルの言葉に、紗希が言うなー! と騒ぎ立てる。それを聞いていた征四郎もまた表情を変え、リュカを見つけて、彼に詰め寄った。
「せ、征四郎は愚神退治だと聞きました! リュカの馬鹿!」
「愚神じゃない方が浪漫があるよ……嘘、うそだって。せーちゃん帰ってきて!」
 征四郎が踵を返す気配を感じ取り、リュカは慌ててそう言った。その様子を見ていたガルーが深く溜息をつく。
『幽霊は浪漫というには非科学的すぎるだろ……』


 一方その頃。
 皆月 若葉(aa0778)とピピ・ストレッロ(aa0778hero002)、獅堂 一刀斎(aa5698)と比佐理(aa5698hero001)は電車に揺られていた。ついさっきまで麻生 遊夜(aa0452)とユフォアリーヤ(aa0452hero001)も近くに座っていたのだけれど、遊夜が乗り物酔いを起こたせいで二人は席を立っている。
「うーん、これ愚神関わってる……かな?」
 改めて依頼内容がまとめられたレポートに目を通しつつ、若葉は首を傾げた。
「俺もそう思う。愚神ではないような気がする」
 邪悪なものだとは思いたくない、と一刀斎は続けた。と、そこに足元をふらつかせ、ユフォアリーヤに支えられた遊夜が戻ってくる。
「うー……」
「……ユーヤ、大丈、夫?」
「あ、ああ……」
 若葉の対面に遊夜は腰を降ろす。
「何にせよ、折角のお祭りだし楽しめるように頑張ろっか」
『うん! 準備も楽しそうなんだよ♪』
 楽しみ♪ とはしゃぐピピを見て、比佐理が口を開いた。
『一刀斎様。祭り……とはどういったものなのですか?』
『キミお祭り初めてなの? あのね、とっても楽しいよ! 例えばね!』
 ピピが話す祭りの話に比佐理が耳を傾ける。その様子を見て、遊夜は口角を上げた。
「それなら俺が作るたこ焼きを是非食べてくれ!」
『……ユーヤのたこ焼き、絶品、だよ』
 ふふ、とユフォアリーヤが笑う。
 六人を乗せた列車は駅のホームに滑り込んだ。



●祭りの準備だ!
「いやあ助かるねえ。H.O.P.E.のエージェントさんは、こんなこともやってくれるんだねえ」
『当然っスよ! か弱き乙女が! 力仕事とか! 無理っスから! このくらい!』
 町の公民館で、紗希とテイルは櫓に使う飾りつけの準備をしていた。町のお年寄りたちに教えてもらいながら、この町に古くから伝わる紙細工を作る。まいだとツラナミはその近くで屋台の屋根に使う布の準備を手伝うことになった。もう何年も使っているのだろう、【たいやき】の文字は掠れていた。
「まいだちゃん、このバケツをあそこに居るおじちゃんに渡してきてくれるかい?」
「はーい!!」
「まいだ、転ぶなよ」
「はーい、ママ!」
「……ママ?」
 予想通りの視線にツラナミは溜息を一つつき、遠くを見た。そんなツラナミを見て、老年女性――葛原が口を開く。
「……あんたも色々あるんだねえ」
「あー……まあ」
「今日は存分に楽しんで行っておくれ。祭りに参加する人間が増えるっていうのはいいことだ。なにせ、臥せっている男が多くてねえ……」
 ツラナミは葛原に目を向けた。
「毎年そうなのか?」
「ああ、そうだねえ。昔からそうだったけど、ここ最近は多いねえ」
『それって幽霊が出た、とかっスか?』
「ちょ、テイルちゃん!」
 紗希の体が若干揺れ、動揺し手元にあった紙をぐしゃりと潰す。
「女の子の幽霊を見たっていう男が多いねえ」
「おー? ゆーれい? おばけさんもあそびたいのかなー? おまつりたのしいもん!」
 ねーママ! とまいだはツラナミの服の端を掴んだ。
「あ、あの……男、だけ、なんですか? あ、あと……時間帯とか、は?」
 紗希が何とか質問を投げかける。
「ああ、男だけだねえ。時間帯は……深夜って」
『これは皆に連携する必要があるっスね!』
 通信機をいじるテイルの横で紗希は必至に自分を奮い立たせていた。ツラナミは今の葛原の話を聞いて、あることに思い当たる。
「女の幽霊ってことは……この辺りには何か悲劇的な昔話でもあんのか」
「ひげき? ひげきってなーにー? ママ!」
「そう言えば、二代……いや、三代前の町長さんの時、だったかねえ。その時の町長さんには結婚を約束した子が居たけれど、帰ってくる前にその子は」
「死んだ、とかか?」
 こくり、と葛原は頷く。
「今日私達が泊まるのは町長の屋敷……。関係ありそうね」
『真夜中にご対面とか、あるかもしれないっスね!』
「だからテイルちゃん! そういうこと言うのやめてってばー!」


 祭会場となる神社では、オリヴィエとガルー、一刀斎と比佐理が力仕事に従事していた。征四郎は彼らの側で、提灯の準備をしている。リュカは休憩所で静かに雰囲気を楽しんでいた。
 そこへ事務所から放送機器を持った若葉が戻ってくる。その放送機器をオリヴィエが受け取った。
『これ、どうしたら』
「ああ、それはね。この線をこっちに……」
 町の人に聞きながら、オリヴィエは放送機器のセッティングを進める。
『ワカバ。あのおばちゃんにお茶貰ったよ!』
「あ、ありがとうございます」
 差し出された紙コップを素直に受け取り、若葉はお茶を飲みほした。動いて暑くなった体が冷やされる。
「獅堂さん。手伝うことありますか?」
「いや。もうそろそろ組みあがる。比佐理。釘を」
『はい、一刀斎様』
 金槌をもって、一刀斎は屋台を組み立てていく。人形を作るのとは全く違う工程。それでも何かを作り出すということは変わらない。やがて組みあがった屋台を見て、ピピがおーと声を出した。
『ワカバ。これにあの布を飾るんだよね』
 ピピは、【お好み焼き】と書かれた布を持っていた。
「そうだよ。留めるから押さえてもらってていいかな?」
 若葉に言われるまま、ピピは布を広げる。その布を若葉は屋台の前面に留めた。
「ありがとう」
『ここに後で飾りつけ♪ 楽しみだな♪』
 ピピの背中の小さな蝙蝠の羽が揺れた。
『ガルー、そっち持ってくれ』
『ん、リーヴィ。手離すなよ』
 放送機器の設置を終えたオリヴィエはガルーと共に本部のテントの設営を開始する。そこに、今回の依頼者である武史が現れた。
「いやあ助かる助かる。ほんと、H.O.P.E.は頼りになるな!」
 豪快に笑い、武史は休憩所の椅子に腰を降ろした。その気配を感じ取り、リュカは彼に飲み物を進める。幽霊、と言ったところでわざと咳き込んだ。征四郎が手を止めたのが分かる。少しだけ楽しくなりながら、リュカは改めて武史に尋ねた。
「愚神のことなんだけど」
「ああ。実が見たってやつな。何でも女で、浴衣を着てたとか」
「それは昔からあったことなのですか」
「少なくとも、俺が生まれる前からあるみたいだな」
「そうですか……あ、テイルから連絡なのです」
 テイルからの情報を征四郎は皆に伝える。幽霊は毎年、この時期になると出没する。幽霊を見るのは男性だけ。幽霊が出るのは深夜。そして町に伝わる悲恋話。
「じゃあ町長さんに話を聞きにいかないと、ですね。町長さんの家には立派な蔵もあるといいますし……そこの捜索も……」
 ちらりと、征四郎がガルーに視線を送る。何も反応がないことに焦れて、その袖を引っ張った。
『待って待って引っ張らないで、わかったってついて行くから……!』
 その返事に征四郎は満足そうに笑う。
「じゃあ手分けした方がいいですよね。俺は実さんに話を聞きに行きます」
『もちろんボクも行くよ!』



●実への事情聴取
 本当にH.O.P.E.が来たんだ。
 座椅子に座った実は開口一番、そう呟いた。彼の飼い猫は先程からユフォアリーヤをじっと見ている。ユフォアリーヤの尻尾をねこじゃらしだと思っているのだろうか。そしてその猫をピピが目を輝かせて見つめていた。
「幽霊を見た時のことを聞かせてくれないか」
 遊夜の問いに、実は一つ頷いて話をし始める。
「夜普通に寝ていたら、息苦しくなって……目を開けたら、その、幽霊が居て。浴衣姿に、青と白の髪飾り……そして」

 まだかな。
 まだかな。早く、帰ってきてよ。約束したでしょ?

『だれと約束したのかな?』
「今までの話を総合すると――幽霊の正体は、三代前の町長さんの許嫁? 許嫁を探して、だから男のところばかりに現れる。ということでしょうか?」
「その線が濃いな」
 若葉は立ち上がった。つられて、ピピも。
「他の体調不良者にも話を聞いてきます。ピピ、行こう」
『うん! あ、ワカバ! みんなに今聞いたこと!』
「もちろん伝えるよ」
 出ていく二人を見送りを遊夜は見送る。
「調査も大事だが……たこ焼き屋の準備も大事だな!」
『……ん、当然』



●蔵の中の捜索
 一刀斎と比佐理、征四郎とガルーは町長の屋敷の蔵の前に居た。古い錆だらけの鍵をガチャガチャと言わせながら、現町長がやってくる。
「蔵の捜索が愚神退治に必要なことなんですかい?」
「その可能性も含め、お願いしたい」
 頭を下げた一刀斎に町長もそれ以上は強く言えないようだった。中は掃除してませんから、かなり埃っぽいと思いますよ。そう言って鍵を外してくれた。ぎぃ、と鈍く耳障りな音がして、観音開きの扉が開く。中からむあっと黴臭く、妙に湿った空気が流れた。懐中電灯を手に一刀斎は中に足を踏み入れた。埃が舞い上がる。着物箪笥や壺、鎧飾り。二階に上がるための階段の側面には引き出しがつけられていた。
「日記か手紙……そうしたものが見つかればいいのだが。」
「あと写真とか、ですね」
 恐る恐る中に入った征四郎が言う。本棚にぎっしりと入っている和綴じの本を一冊取り出した。くずし文字で書かれた題名。当然読めない。パラパラと中身を見ても同じ。ガルーは征四郎の手元を覗き込んだ。
『歴史の教科書だな。……もしかして、これ全部そういう系統の本か? だとしたら、すごい勉強家がこの家に居たってことだ』
 感心したようにガルーは顎を撫でる。その一方で一刀斎は古い文箱を見つけていた。長い年月を経ているのか、蓋には罅(ひび)が入っており、華美な装飾はあちこちが剥げている。慎重に一刀斎は蓋を開けた。中に入っていたのは、数冊のノート。写真が一枚。真面目そうな青年。
『一刀斎様に似ています』
「そうか? ……ああ、これは日記だな」

 某月某日。帝国大学への入学が決まる。
 かおるに、結婚の約束をした。三年後、絶対に迎えにいく。待ってて、かおる。

「……これが三代前の町長のものなら」
「幽霊の正体はほぼ確定、ですね」
『あ』
「どうした比佐理」
 階段の引き出しを調べていた比佐理が見つけたものを一刀斎に示す。
 それは青と白の石が使われた髪飾りだった。
「これ、ミノルが言っていたもの、でしょうか?」
『写真を撮って確認してもらうか』
 ガルーが通信機を操作する。一刀斎は比佐理に髪飾りを持っているように頼んだ。と、遠くから間延びしたチャイム音が聞こえてくる。
【えーテスト、テスト……ただ今この町の昔話に詳しい人を募集しております。祭り本部までどうぞお越しくださいませー!】
 リュカの声が町中に響き渡った。



●祭り本番!
 リュカ達は今までの情報をまとめ、一つの結論にたどり着いた。
 幽霊の正体は三代前の町長の許嫁。
 町長の家で見つけた髪飾りは彼女のもの。
 彼女が出現するのは真夜中の午前二時頃。
『じゃあその時間までは、存分に祭りを楽しめるってことっスね! 姐さん、行きましょう!』
「まいだもー! まいだもお姉ちゃんと行くー! ねーママ、いいでしょー?」
「あー……好きにしろ」
「やったー!」
『ワカバ、これが浴衣? ボク、初めてだよ!』
「やっぱり祭りと言えば、浴衣だからな!」
 六人は連れ立って、神社へと向かった。薄い紫色に染まった空には、星が瞬いている。風に乗って色々な匂いが漂ってくる。焼きそばやフランクフルトの油のにおい。少し甘い匂いは杏子飴だろうか。行きかう人々の足元からはからんころんと、軽快な音が聞こえてくる。道を照らすのは昼間征四郎が準備していた提灯。紗希とテイルが作った飾りも彩りを添えていた。
『うわー!』
「ふふ、にぎやかだね。……あ」
 自分が組み立てた屋台を見つけ、若葉は足を止めた。
「おう兄ちゃん、準備ありがとよ! これで今年も無事に屋台を出せたぜ!」
 これはお礼だと、店主がお好み焼きを若葉に差し出す。それを見たまいだや紗希、テイルもお好み焼きを購入する。
「ん、これは……!」
『イカ入りお好み焼き! 素晴らしいっス!』
「おいしー! ほら、ママもー!」
「あー……俺はいい。いっぱい食べろ」
「うん、ママー! ……あ、あれ! チョコバナナ―!」
 ツラナミの手をまいだは引っ張る。その先の屋台に並んでいるのは、ピンク、ミントグリーン、イエローなど、様々な色のチョコレートでコーティングされたバナナだった。
『綺麗だね、ワカバ♪』
「そうだね」
「おじちゃん、まいだにその、きいろいの!」
「毎度ありっ。そっちのお姉ちゃんたちは要るかい?」
「もちろんよ。ピンクとミントグリーンと……」
『自分はそのオレンジ色を戴くっス!』
 焼きそば。串焼き。ソースせんべい。ヨーヨー釣りを挟んで、クレープ、綿あめ。
 食べ歩きを楽しみながら六人が歩いていくと、一際人が集まっている屋台を見つけた。そこから聞こえてくるのは威勢のいい声。
「さあ、たこ焼きマスターの錐捌き! 見るが良い!」
 遊夜はたこ焼き機に生地を流しいれた。そしてくぼみの中央にくるよう、たこをぽいぽいとリズミカルに入れていく。きらりと眼鏡を光らせて、これまた手際よくたこ焼きをひっくり返してく。焼きあがったたこ焼きはユフォアリーヤがささっと、パックに詰めていく。その際に彼女は一つ二つ、たこ焼きをつまむ。そしてんー、と柔らかな、心からの声を出して。
『……食べないと、損、だよー』
 ユフォアリーヤの声と仕草に誘われ、客たちは次々とたこ焼きを購入していく。
「あれは……」
『麻生サンのたこ焼きっスね!』
 紗希はよし、と自分に気合を入れる。
「普段毎日の献立を考えてる私が……関西出身の私が旨いと言えるたこ焼きなのかどうかを見極めに……」
「まいだも食べるー!」
『ボクも♪ ワカバは?』
「もちろん俺も貰うよ」
 食べる気満々の五人に遊夜は気づいた。
「よし、いくらでも来い! ……来てくれないと困る」
『……材料費、奮発しちゃったから……ねえ』
 遊夜は華麗な手さばきでジャンボたこ焼きを作り上げた。それを割りばしと共に紗希に差し出す。湯気が立ち、鰹節が踊るそのたこ焼きを、紗希は一口食べた。
『どうすか姐さん』
「……う」
『う?』
「……美味い! 美味すぎる! 麻生さん、お代わり!」
「そう来なくっちゃな!」
『……ほらほら、皆。食べて食べてー』
 ユフォアリーヤの声を合図にツラナミを除く全員がたこ焼きに集中し始めた。


 その頃、一刀斎と比佐理は休憩所に居た。二人が座るテーブルの上には、ビールや酒肴、フランクフルト、遊夜のところで買ったたこ焼きがある。比佐理は割りばしを持つと、たこ焼きを二つに割った。その一つをゆっくりと口へ運ぶ。
『美味しいです』
「そうか。これも食べてみたらどうだ?」
 一刀斎はフランクフルトを串から外し、割りばしを使って一口大に切った。あふれる肉汁を比佐理はこれまた珍しそうに見る。おずおずと食べた。
『……さっきのとはまた違った味です。ここには色々あるのですね』
 もう一口、と比佐理が割りばしを動かす。その様子を見て、一刀斎は静かな喜びを感じる。同時に切なさも。
(もし比佐理と離れ離れになり、二度と会えない状況になったら――)
 きっと、とてつもない苦しみと哀しみが残る。
 果たして自分はそれを乗り越えていけるだろうか。
(あの幽霊は、乗り越えられなかったのか……)
『一刀斎様』
 比佐理の声に一刀斎は我に返った。ああそうだなと、立ち上がる。
「辛いものばかり、飽きただろう。甘いものを買いに行くか」
『はい』
 歩き出した一刀斎に比佐理は従う。二人並んで、りんご飴を買った。それを比佐理に渡し、一刀斎は、ほ、と息を吐きだす。かき氷を売っている屋台を見つけて、苺味のものを一つ、購入した。
「比佐理。一緒に食べよう」
『はい。一刀斎様』


 オリヴィエは鏡の前で何度も自分の姿をチェックしていた。着ているのは、この前ガルーに勧められた少々大人っぽい浴衣。以前ガルーが買ってくれたペンダントも香水もつける。何度か息を吸って、吐いて、吸って、吐いて。気持ち悪いくらいに聞こえる自分の心臓の音に鎮まれ鎮まれと言い聞かせ。下駄をはいて、ゆっくりと表に出る。
『リーヴィ。……ああ、その浴衣買ったんだな』
『……なあ、暇、か? ……あ、んたが暇なら、一緒に回ってやっても……。……一緒に回りたい 』
 視線を泳がせながら懸命に言うオリヴィエをガルーは愛しく思う。
『勿論。その為に浴衣を勧めたんだ。一緒に来てくれないと困る』
 ガルーはオリヴィエに対して右手を差し出した。ほら、行くぞと促され、オリヴィエはその手に自分の左手を重ねようとして――その小指に光る指輪を見て――何だかこそばゆくなる。
 ああ、これはなんだろうな。
 とても甘くて、でも苦い。
 視界が、いや、世界がいつもより美しくて静かなのは、どうしてだろう。
 こころの奥、そこにある、二文字。
 今は、とオリヴィエは呑み込んだ。
『リーヴィ』
『な、んだ』
『やっぱり似合ってるな。とても綺麗だ』
 ガルーの言葉にオリヴィエは彼から視線を外して。
『……あり、がと』
 その手を、取った。


「リュカ、すごいですよ! キラキラしてて、夢、みたいです!」
 征四郎の隣をリュカは杖を頼りに歩いていた。
 その姿を見ることは出来ない。けれど分かる。今の征四郎は心から楽しんで、はしゃいでる。まるで、昔のように。
(幽霊を怖がるところも、変わらないね)
 小さくリュカは笑う。その表情を征四郎はしっかりと見ていた。胸の奥、こころが跳ねる。
 今、この時間はとてもとても幸せで、とてもあったかくて、手放したくないものだ。
(……ずっと、一緒に)
 征四郎の中にある確かな願い。
(でもこうした時間は何時までも続かない……かもしれないのです)
 それなら、と征四郎は深呼吸をする。子供っぽい、と思われるかもしれない。でも、今、この時に。
「……リュカ」
「なーに、せーちゃん」
「……少しだけ、手、繋いでも良いでしょうか?」
 征四郎の問いかけに、リュカは驚いたように一度足を止めて。けれどすぐにいつものように、軽く、明るく。
「喜んで!」



●君が居た夏の記憶
「……イルちゃん、ね、起きて」
 寝ている皆を起こさぬよう、紗希は横で眠るテイルを揺り動かした。
『んあー……なんすか、ここは駅前じゃなくて……喫茶店、っスよぉ……』
「トイレついてきて」
『んー……姐さん、たこ焼きをぉ……一万個も……』
「そんなに食べてないわよ! ほら、来て!」
 テイルを無理やり立たせ、紗希はトイレへと向かう。音を立てないように縁側に面した障子を開けた。何でトイレが少し離れた場所にあるのだろう。
 先程の祭りのものとは全く違う、真夜中の空気。
(……は、早く、いこう!)
 そう思って一歩を踏み出した紗希の前を半透明の少女が通り過ぎる。紗希が叫ぶ前に、テイルがその口を封じた。もちろん紗希はテイルの口を。
(み、皆に連絡!)
 紗希はスマホを操作した。
 少女が口を開く。
『まだかな』
『まだかな。早く、帰ってきてよ。約束したでしょ?』
 ばたばた、と皆が集まってくる。その姿に怖がるもの、興味深そうに見るもの。反応は様々だ。
『一刀斎様。髪飾りが』
 比佐理は髪飾りを取り出した。見つけた時と違い、髪飾りは弱く輝いていた。きらきらとした光の帯が少女へと伸びている。それを見て、もしかしてと若葉は仮説を立てた。
「この髪飾り、オーパーツなのかもしれません」
 その言葉にリュカはなるほどと同意する。
「身に着けた人の強い想いを記録して再生してる、とかかな。じゃあこの髪飾りを持って帰れば、幽霊騒動は解決だね」
 一刀斎は少女に近づいた。
 日記で知った彼女の名を呼ぶ。
「かおる」
 は、と彼女は一刀斎を見て、笑っているようにも泣いているようにも見える表情を浮かべ。

 瞬間。

 まるで大勢の蛍が飛び立つように、彼女の姿は夜空に溶けていった。



結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 止水の申し子
    まいだaa0122
    機械|6才|女性|防御



  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • 赤い日の中で
    スワロウ・テイルaa0339hero002
    英雄|16才|女性|シャド
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 大切がいっぱい
    ピピ・ストレッロaa0778hero002
    英雄|10才|?|バト
  • エージェント
    ツラナミaa1426
    機械|47才|男性|攻撃



  • 黒ネコ
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