本部

【異界逼迫】連動シナリオ

【界逼】疑惑の指輪

落花生

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
9人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/07/10 10:03

掲示板

オープニング

●イタリアの遺跡
 イタリアの人里はなれた場所に、遺跡があった。長い年月のあいだにすっかり風化した遺跡はもはや元が何であったのかも分からない有様であったが、最近近くの洞窟で風化を免れた遺跡の一部が発見された。貴重な遺跡に発見に、考古学者たちは沸き立ち、それを志す若者たちも同時に沸き立った。
「もしかしたら、ここは宝物庫のような役割をになっていたのかもしれない……」
 発掘チームの一人が呟く。
 洞窟の内部には動物や人間の彫刻が置かれ、風化により劣化はしていたが壁画まで描かれていた。すでに発見されている遺跡のすぐ近くにあることから、この洞窟も遺跡と何らかの接点があることは間違いない。
「大昔の指輪って、ぜんぜん綺麗じゃないですぅ」
 発掘されたアクセサリーを見た小鳥は、唇を尖らせた。金銀財宝を期待した小鳥が見たものは、さびた金属や現代のものと比べれば濁った色合いの翡翠や瑪瑙で作られたビーズである。
「金以外の金属は錆び付いてしまうもんやからな。ビーズだって、繋いでいた糸が腐ってなくなってしまうし」
 正義は、小鳥とは違い少しばかり楽しそうに発掘品を見ていた。
『正義の癖に詳しいですぅ』
「僕は、奈良の出身やで。地元でもぎょうさん発掘品が出てくるんや」
「あはは、確かに奈良ではいっぱいでるよな」
 正義の言葉を笑うのは発掘チームの青年――クロダである。日本から留学生であるクロダは、正義の同級生であった。古馴染みのクロダが参加している、そんな理由で正義は発掘チームおよび発掘品の護衛を引き受けていた。物好きなヤツ、と小鳥は小さく呟いた。
「ここらへんから出てくる宝飾品は状態がいいんや」
『なんか、色合いが濁っているですぅ』
「研磨の技術が未熟やったんだから、仕方ないんや。それに、ここの遺跡にはオーパーツの可能性があるって話しやし」
 正義と小鳥が言い合うなかで、クロダが異変に気がついた。
「あなた、発掘現場になんて恰好できているんですか!」
 クロダが発見したのは、女性であった。牧歌的な模様が刺繍されたチュニック姿だが、足元だけは都会的なハイヒールを履いている。
「発掘現場にハイヒールなんて、言語道断です。遺跡に傷が付くかもしれないんですよ!」
 クロダが女性を注意しようとする。
 だが、正義は女性の違和感に気がついた。遺跡までの道のりは結構な悪路であり、ハイヒールでは歩くことができないはずである。
「ちょいと待ち。なんか、様子が変やで」
 正義が、クロダを止めた。
 瞬間、ハイヒールの女の真っ赤な爪がクロダの胸を引っかいた。その拍子に、クロダの首元にかかっていた首飾りのチェーンが切れた。ちゃりーん、と首飾りが地面に落ちる。
「止めるんや!!」
 正義が、二人を引き離す。
 女性のほうは、愚神のようであった。正義は油断ならないと唇を噛み、クロダは呆然としていた。
『正義、ここは危ないですぅ』
「分かっているで。とりあえず、人命優先や」
 この場にリンカーは、正義しかいない。
 正義と小鳥、二人は人命を優先する判断を下す。
「待って。ここには貴重な発掘品がまだあるんだ!!」
 クロダが、悲鳴のような声を上げた。遺跡に関るものとして、この場所は荒されることは許さないと。
「……すまへん。僕と小鳥では、片方でしか守れへん」
 
●避難後
「どうして、発掘現場を守らなかったんだ!」
 クロダは、正義に向って怒鳴り声を上げた。発掘チームの全員は無事であったが、発掘現場は愚神に占拠されてしまった。クロダは、正義に「なぜ人命を優先した」と彼を責める。
「人命を優先するのは当然や!」
「馬鹿野郎!! あそこには貴重な遺跡があったんだぞ!」
「……とりあえず、愚神が現れたんやからH.O.P.E.からリンカーが派遣されるはずや。ここは、田舎やからすぐにという訳にはいかへんだと思けど」
 正義の言葉に、クロダは首を振った。
「いいや、すぐにくることになる。発掘したもののなかで、一つだけ普通じゃない遺物があった。詳しく調べたわけじゃないけど、たぶんあれはオーパーツだ。俺はそれを他の遺物と分けるために、首からさげてもっていたんだ」
「なんやて……」
「どうするH.O.P.E.? 今すぐ遺跡から愚神を取り除かないと、オーパーツが愚神に取られるかもしれないぞ」
 クロダは、愚神に破かれた胸元を握り締める。
 その顔には、悔しさが見て取れた。
「外国人の俺達は、滞在できる時間が限られている……。こうしている間にも発掘できる時間は減っていくんだ」

●遺跡の内部
「これじゃない……」
 遺跡を壊しながら、愚神は何かを探していた。脆く壊れやすい遺跡の内部を無遠慮にハイヒールで歩き、爪で壁を砕く。そして彼女たちは、何かを探していた。
「指輪……指輪があるはずなのに」
 愚神は、探していた。
 古代のオーパーツを。
 だが、愚神たちもそれが本物であるかどうかを知らずに探していたのであった。

解説

愚神の撃破およびオーパーツだと思われるもの(指輪)の確保

遺跡(11:00)……古代の住居を思わせる大きな遺跡。元々は二階建てだったと思われているが、現在残っているのは一階部分のみである。石作りだが風化しているために、簡単なことで壊れてしまう。すでに愚神によって一部が破損。天井が壊れているために自然光が入り、光源は十分にある。

洞窟……遺跡の隣にある洞窟。広いが暗く、遺物がたくさん残っている。遺跡よりも丈夫であるが、それでも破損の可能性がある。

オーパーツだと思われるもの(指輪)……赤い石がはめ込まれた指輪。他の発掘品とまぎれてしまっており洞窟のなかに落ちているが、発見するのはなかなか難しい。

愚神……ハイヒールに赤い爪を持ったマガツヒに協力している女性愚神。遺跡と洞窟に三人ずつ出現する。鋭い爪を武器としている。オーパーツを探しており、持っている人間を優先的に狙う。基本的に出現場所から動くことはない。起動能力が優れており、素早くトリッキーな動きを得意とする。
赤い爪――爪を長く伸ばし、同時に硬度も増す業。攻撃力も上がる。
女の嘆き――甲高い声を出し、それを衝撃派にして遠距離攻撃を可能にする。相手の攻撃力も同時に下げる。
赤い靴――ハイヒールを使った蹴り技。ヒール部分に毒物が仕込まれており、当たると少しずつ体力が奪われる毒状態になる。

クロダ……発掘チームの一人で、人命よりも発掘品を優先させようとする。戦闘が長引くと、遺跡内部に忍びこんでくる。

正義……発掘チームの護衛を担当しており、声をかけてもらえば共に行動することも可能。

リプレイ

 クロダは遺跡を見つめる。
「俺達には……時間がないんだ」
 その目は、焦りが表れていた。

●遺跡の戦い
 古い遺跡は、風化の影響で脆くなっている。それは、外から見ても読み取れるほどであった。だが、その削れた風情に何百年――何千年まえのロマンを感じるのも確かなのである。
「……アルスマギカを活用できれば楽なんですけどね」
 晴海 嘉久也(aa0780)は、少しばかり悔しそうに呟く。威力の高い攻撃が当たれば、遺跡は簡単に砕けるであろう。それは遺跡の価値を損なわせることに他ならない。
 エスティア ヘレスティス(aa0780hero001)も難しい顔をする。
『遺跡を傷つけると大変ですからね』
 遺跡を発掘していたチームは、その思いも一入なのであろう。特にクロダという男は、遺跡の様子を気にしていた。そんな彼に黛 香月(aa0790)は、睨みを利かせていた。「ここから先はリンカーの仕事だ、勝手なマネをすればお前は死ぬ。長生きしたけりゃ素人は引っ込んでいろ」と言って。
「でも……色々と荒らされる前に、早々に決着をつけないとまずいかな」
 九字原 昂(aa0919)は、クロダを思い出しながら呟いた。きっと彼は、何かしらの行動を起こすような気がしたのだ。
『お偉い学者先生方曰く、価値のある遺跡だそうだが……俺達はオーパーツの確保が優先だ』
 ベルフ(aa0919hero001)の言葉は、そっけない。ベルフ自身が、きっとこの遺跡に価値を見出していないからなのだろう。昂も残念ながら、遺跡の価値については分からない。それでも、この場所が大切なものであることはなんとなく分かる。
「まぁ余裕があれば、なるべく傷つけない様にした方が無難だと思うよ。学問をする人にとっての譲れないものは、他人とちょっとズレていたりするし」
 昂の言葉に、アリス(aa1651)は自分の母親を思い出す。アリスの母も考古学者であった。
「遺跡を守りたいって気持ちも……まぁ、理解らなくもないんだけどさ」
 現場で戦う人間から言わせてもらえば、面倒の一言である。
『外で大人しくしてくれると助かるね』
 自分とそっくりな顔のAlice(aa1651hero001)の言葉に、アリスは頷いた。
「一般人がいないのであれば、こちらも遺跡保護に集中できる。……まぁそれでも来る気なら、方針通りで任せるよ」
「うちらは、オーパーツの確保を優先していいんどすえ? しっかし、オーパーツてどないなっとるんか分解したなりますな」
 弥刀 一二三(aa1048)の言葉に、キリル ブラックモア(aa1048hero001)は首を傾げる。分解するまでもない、という顔であった。
『愚神絡みなら、その関係だろう』
 未知のものへのロマンが消えたような気がして、一二三は若干がっかりする。
『オーパーツが狙いなら、愚神を誘導することもできるかもしれませんね』
 構築の魔女(aa0281hero001)は、ぼそりと呟いた。
「では、行くぞ!」
 獅堂 一刀斎(aa5698)は剣を抜き、ハイヒールを履いた愚神に切りかかる。愚神は長く伸びた爪で、一刀斎の剣を防いだ。
「……お前もマガツヒに協力しているのか?」
 一刀斎は、切りあいながらも愚神に尋ねる。
 愚神のハイヒールが、一刀斎の頬をかすった。
「マガツヒは欧州各地で遺跡やオーパーツを狙って動いているようだが……何が目的だ。比良坂清十郎の『過去機知』やらと関わりがあるのだろうが……比良坂はその能力で、過去の何を見た?」
 一刀斎はディバイドゼロで、ジェミニストライクを使用する。攻撃をしながらでも、一刀斎は自分の口を休ませない。
「目的の一つは、レイラインの破壊であると……俺は見ているが。貴様ら愚神が協力するということは、比良坂の目的は、貴様らの……愚神の王の意向にも、副うものなのだろう?」
『一刀斎様、無駄なようです』
 比佐理(aa5698hero001)の言葉に、一刀斎は眉をひそめる。
「指輪はどこ……」
 愚神は、一刀斎の言葉を聞いていなかった。
 ただ指輪を探しているだけである。
『この者たちは、指輪を探すためだけの存在のようです。もしかしたら、あまり多くを知らないのかもしれません』
「ふぅん、なるほどね」
 アリスも愚神の様子を見ながら、何かを思ったようである。ウィザードセンスで火力上げたアリスは、オヴィンニクを使用する。
「今日は、相手の攻撃は防御するよ」
『避けて遺跡に当たるなんて、ごめんだもんね』
 遺跡を傷つけたくない気持ちは、分かるのだ。
 だから、二人のアリスはその戦い方を選択する。
「外に誘導できれば一番良いんだけど……まぁ、手は打つだけ打ってみようか」
 ぼそり、とアリスは呟く。
 そして、ポケットから異世界の宝石がはめ込まれた指輪――ライヴスソウルを取り出す。指輪と分かる程度にちらつかせ、アリスは愚神の反応をうかがった。
――オーパーツを持ってたクロダさん……と、相対したにも関わらずこの遺跡を探している。つまりオーパーツについて詳細な情報を持っていないはず……。
 騙せるだろうか、とアリスは内心息を呑む。
「……そう。君たち、オーパーツを探してたの」
 アリスは、それを持ったまま外へとでようとする。だが、愚神はアリスを追ってはこなかった。アリスは舌打ちしたくなる。どうやら、愚神たちはオーパーツが本物か偽者かぐらいは分かるらしい。
『偽者は分かるみたいだね』
 Aliceの言葉に、アリスは頷く。
「それなら、火力で圧倒するよ」
 攻撃をしながら、アリスは考える。
 愚神は、本物と偽者の区別が付いている。なのに、未だに本物のオーパーツを発見できないでいる。
「本物のオーパーツなんて、ここにあるの?」
 そんな考えが、不意にアリスの脳裏に過ぎった。
『随分と脆い建物だな、これだったら野宿のほうが俺はいいな』
 ベルフは、簡単に崩れる床や壁に顔をしかめていた。その声を聞いた昂は、苦笑いする。
「たしかに、今は脆いけど大昔は……違う姿だったんだと思うよ」
 物陰に隠れながら昂は、愚神の動きを伺う。随分と素早く、予測の出来ない動きをする敵であった。
『タイミングを見て、後ろに回りこむぞ』
 ベルフの言葉に、昂は頷く。
『狙いは……できれば武器であるヒールや爪』
 折りたい、と昂は願う。
 願いながら昂は、愚神の後ろからザ・キラーを発動させる。
 愚神の爪が折れる手ごたえを感じ、昂は内心喜んだ。
「我が、敵を釣竿で引っ張る」
 エスティアと共鳴した嘉久也の言葉にいち早く反応したのも、昂であった。魚のように釣竿に引っかかった愚神に、昂は攻撃を加える。
『指輪がないのでおびき寄せる事などできませんから、多少……力づくになりますね』
 エスティアの困ったような言葉に、嘉久也は「問題ない」と答えた。
「ここなら、まだ剣を振るうことができる」
『そうですね……洞窟だとつっかえてしまいますもんね』
 剣か頭が、とエスティアは呟いた。
 嘉久也は反論しなかった。きっと自分の剣や頭が、洞窟にぶつかる様子を想像したのであろう。
 愚神の爪が、嘉久也の腕をかすめる。
 嘉久也は、愚神に向って一撃粉砕を使用した。
「無駄な話は、後にする」
『そうですね。今は、目の前の敵に集中です』
 エスティアの言葉に、嘉久也は頷いた。
 愚神と自分たちとの戦いで多少なりともキズが付く遺跡を見て、エスティアは目を伏せる。
『あくまで、わたしたちの仕事は愚神退治。遺跡の保全は出来る限り……というのはとても残念です』

●洞窟の戦い
「愚神が遺跡を狙う……それだけでも何か秘密があることは間違いなかったな」
 香月の言葉に、アウグストゥス(aa0790hero001)は頷く。
『秘密に関しては、検討がついているのですか?』
 アウグストゥスの言葉に、香月は首を振った。
「残念ながら、検討は付いていない。だが、何故愚神が遺跡を狙うのか、突き止める必要がある」
 香月の言葉に、アウグストゥスを聞く。
 彼女が言うことに、間違いはない
 そして、そのために戦わなければならない。
「今回の作戦は愚神が狙う指輪を奪取し、その秘密を暴くことにある。また……力を貸してもらうぞ、アウグストゥス」
『香月様の望みの通りに』
 二人の女性は共鳴し、一つとなる。同時に、アウグストゥスの意識はなくなる。全てが香月にゆだねられた。
「重火器の使用はできないが、一気にたたみかけるぞ!」
 香月は、一気呵成で敵の足を狙う。
「私は遺跡探索の専門家ではありませんが……先人の生きた証を冒涜するやり方、許してはなりません。異世界の探求に繋がるのであれば、尚更です。私たちも短期決戦で行きましょう、リディス」
 月鏡 由利菜(aa0873)の言葉に、ウィリディス(aa0873hero002)は難しい顔をする。
『短期決戦かぁ……そりゃ火力はあるパーティーだと思うけどさ、今回回復役ってあたしとユリナだけじゃん。皆の生命も守らなきゃだよ』
 ただでさえ、火力が空回りしそうな場所である。
 ウィリディスは、脆そうな作りの洞窟に内心冷や冷やしていた。
『敵の動きは素早そうだし、長い槍だと遺跡の壁に傷をつけやすそうで心配だなぁ』
「リディス、今回は彼女から預かったフロッティを使います。ヴァドステーナをセットすれば、マスタリースキルが発動しない分も補えるでしょう」
 来ますよ、と由利菜は言った。
「コード・エクサクノシ、起動します」
 由利菜の剣と愚神の爪が交差する。
『あたしだって、先生から剣の扱いは習ってるんだから!』
 ウィリディスは、愚神に向って叫ぶ。
 だが、その間にも目は仲間の姿を追っていた。
「デスッ! おたからさがし、どうくつだいたんけんデェース♪」
 あい(aa5422)は、ご機嫌であった。どうやら、宝探しがとても気に入ったらしい。
『いいかしら、あい? お姉ちゃん達を守ってくれるのは嬉しいけど自分の安全もしっかりね?』
 サラ・テュール(aa1461hero002)の言葉に、あいは「はいデス!」と元気いっぱいに答える。
『遺跡より多少は頑丈な洞窟とはいえ、あまり衝撃を与えすぎないように』
 ノクトビジョンをつけた構築の魔女の魔女は、再度仲間に忠告する。勢いあまって崩れた洞窟に生き埋めにされては、目もあてられないからだ。
「――□□」
 辺是 落児(aa0281)の反応に、構築の魔女は足元を見る。指輪だと思ったものは、壊れた金属の欠片であった。だが、もしこれが指輪であったら構築の魔女はオーパーツを踏み潰していたかもしれない。
『そうですね。足元も注意しましょう』
「……□□――」
 落児の言葉に、構築の魔女は頷いた。
「お互いにお互いを排除しないと探し物もできない状況ですし、誘導には乗ってくれないでしょうね」
 小さく呟きながら、構築の魔女はトリオを使用する。
「サラに言われてついてきたですけど遺跡や洞窟、発掘品は絵本の資料になるでしょうか? ……資料のためとはいえ、かなり危ない場所に来てしまったような」
 不安げな想詞 結(aa1461)の言葉に、サラは微笑んだ。
『なるわよきっと。大丈夫大丈夫』
 疾風怒濤を使用し、結は愚神の一体吹き飛ばす。
「発掘品の破損には気を付けますが……やはり人命を最優先します。あなた達を倒してさっさと安全確保です! あいちゃん、爪やヒールを狙ってください!」
 結の言葉に、あいは目を輝かせた。結の言葉で、愚神の長い爪に気がついたからである。
「おー、爪が長いデスッ! あいとお揃いデス?」
 益々嬉しそうなあいの姿に、結は不安になる。
「あいちゃん、無理はしないで」
「大丈夫。あいが、おねーちゃんを守るDeeeeath!」
 英雄と共鳴したあいが、ジェミニストライクを使用する。
「あいちゃんの攻撃にあわせます」
『できそうなの?』
 サラの言葉に、結は頷く。あいの攻撃をよく見て自由奔放に動く彼女の後を習って、愚神に一撃を入れる。だが、ハイヒールの一部が結に当たった。
「よくも、おねーちゃんを。許さないDeeeeath!」
 あいが愚神にさらに踏み込んで攻撃を仕掛けていく。仲間の一人が毒に倒れたことを知ったウィリディスは、はっとする。
『毒攻撃ね……やっぱり搦め手は使ってくると思ってたよ! レフェクティオ!』
 クリアレイにて毒を浄化し、ウィリディスは息を吐いた。
「油断は出来ません。それに、あまり使いすぎると遺跡のほうに向った方の回復が……」
 由利菜の言葉に、そうだったとウィリディスは呟く。
「やっぱり回復役が一人はきついな。せめて、二人いたらバランスがいいんだけど」
『泣き言を言っても仕方ありません。結さんの回復を』
 由利菜は、エマージェンシーケアを発動させる。
『あたしが目指してるのは、ユリナの火力とあたし自身の機動力を活かせる超攻撃型メディックだよ……! だから、このエマージェンシーケアは相性バッチリなんだよね!』
 えっへんと胸をはる、ウィリディス。
 そんな激しい戦闘に隠れるように、一二三はオーパーツを探していた。
「この愚神等はヴィランと関係あるんどすやろか?」
 一二三は呟く。
 彼の疑問に答えたのはキリルであった。彼女は『恐らくは、愚神も協力者だろう』と答える。
『こうなってくると、誤魔化してまでクロダ殿に見張りをつけたのは正解だったな』
 キリルの言葉に、一二三は苦笑いする。なにせ、一二三とキリルは出発前に正義を誤魔化して、クロダの見張りを頼んでいたのだ。
『セラエノはオーパーツ類を集めていたな……正義殿にはすまんが、クロダ殿が操られていないか調査せねばならんだろう』
「万が一っちゅう事で……事が終わるまで、堪忍どすが動けんよう見張っといておくれやす」
 人が良い正義はすぐに了承したが、友人を見張っていてくれと頼んだことに一二三の良心が痛む。
『忍び込まれたほうが、よっぽど危険だ』
 キリルの言葉に、確かにと一二三は思う。
 愚神とリンカーたちの攻撃が入り混じるこの空間は、素人には危険すぎる。
『罠とその装置は細工の後が、内部も僅かな空間が出来、注意すれば判るだろう』
「……言われんでも判っとるわい! でも、落としたもんがそんな複雑なところにあるとは思えないどえす」
 愚神の攻撃を避けながら、一二三は指輪を探す。
「どこどす? 似たようなものばっかりで、検討もつきまへんな」
『やはり、無骨な男には指輪探しは荷が重そうか』
 キリルの言葉に『ちょっと手こずっているだけどす』と一二三は反論する。なにせ、この洞窟には似たような発掘品が多いのだ。それっぽいと思っても、実際は違うということが何度もあった。
「一気に逝くDeeeeeeeeath!!」
 あいは、超過駆動モードで一気に敵を叩き伏せようとする。
「あいちゃん、あんまり前にでないで!」
『私たちの援護が、間に合わない!』
 結とサラは、悲鳴を上げる。
 彼女たちは、自分たちが食らった愚神の毒の効果を恐れていた。毒素のものはたいしたことはないが、毒を回復することが出来るのは由利菜だけである。彼女が技を使いすぎれば、自分たちは回復ができなくなる。だからこそ、慎重に責めるべきだと考えたのだ。
 あいの攻撃が、外れる。
 愚神の毒をもったハイヒールが、あいを襲おうとしていた。
「案ずるな」
 低い男の声が響く。
 あいと愚神の間に立ち愚神のヒールを受けたのは、獣人化した一刀斎であった。
「俺はすでに、毒を受けている。一度は回復させなければらない身だからな、その一度目の回復がまだなら今のうちに二度目をくらっても問題はないだろう」
『受けるダメージはあります。……全く問題がないとは言いがたいです』
 比佐理の言葉に、一刀斎はわずかに笑う。
「知っていることがあれば残らず話せ。どのみち貴様は殺すが……な」
 愚神に向って、剣が振り下ろされる。
 そして、アリスのオヴィンニクがほぼ同時に愚神に攻撃を加えた。
「此処の価値も分からないなら、もう寝てなよ」
 冷たいアリスの言葉が響く。
『間に合ってよかったな』
 ベルフの言葉に、昂は頷いた。
「遺跡を傷つけないようにって戦っていたから、遺跡の愚神に討伐には手間取ったよね。洞窟は遺跡よりは丈夫みたいだけど……やっぱりここも壊れる危険性があるんだよね」
 昂の言葉に、ベルフは『面倒くさい』と呟く。
「このタイミングで、援軍はありがたい。ところで、嘉久也の姿が見えないが?」
 香月の言葉に、昂はくすりと笑った。
「彼は、その……身長の関係で遠慮していました」
 昂の言葉に、香月は納得した。
 嘉久也とエスティアが共鳴すると、かなり大柄になる。遺跡とは違い天井が残っている洞窟では足手まといになると考えたのだろう。
「大男も考え物だな……。さて、愚神ども」
 香月は、鋭い目つきで愚神を睨む。
「遺跡と指輪の秘密が知られては、貴様らの計画はそう永くは持たんだろうな。せいぜい覚悟しておけ、無様な失態を晒すその日が来るのをな」
 香月は疾風怒濤を使用し、敵の足に狙いを定める。毒の効果を持っているヒールは、回復役の少ないメンバーには厄介な代物だと分かっていたからである。
「獅堂さん、あまり無理はしないでください」
『そうだよ。今回は回復役が少ないんだから』
 由利菜とウィリディスは一刀斎に、クリアレイを使用する。
 毒の回復を待ちながら、一刀斎は呟く。
「何れ時機が来れば全て明らかになるだろう。今はできることを……先人達が遺した美である遺跡を、美を理解せぬ愚か者どもの手から守り抜くだけだ」
 その言葉を聞いてしまったアリスは、腑に落ちるものを感じた。
 ――そうだ、とは信じたくない。しかし、そうだと考えると納得ができるのだ。
『どうしたの、アリス?』
 自分とそっくりな顔に尋ねられる。
「なんでもないよ」とアリスは答えて、一刀斎のほうを見た。
「……愚神どものハイヒールを見ていたら……お前に踏んで貰いたくなった……」
『……わかりました。愚神ではなくて、私に踏んで貰いたくなったと言ってくださる、その健気さに免じて……帰還したら、ご満足いただけるまで……存分に踏み躙って差し上げます。それにしても、一刀斎様……相変わらず、欲望に忠実なケダモノですね……気持ち悪い』
 比佐理とのそんな遣り取りが聞こえてきて、アリスはため息をつく。
「――□□……」
『ええ、分かっています。愚神は全く同じ姿をしていますから、なにかの末端の可能性もあります。相互に連絡が取れる可能性もありますよね……?』
 私たちからは分かりませんが、と構築の魔女は付け加える。
「構築の魔女、一気に叩くんだな?」
 香月の荒々しい言葉に、構築の魔女は頷いた。
『私と落児とで、援護します』
「……□□――」
 香月は、息を吸い込み己の技に神経を集中させる。
「では、行くぞ。最後の一撃だ!」
 体重が乗った一撃を食らい、愚神の体は散り散りに砕けた。

●疑惑の指輪
「んー……昔の王さまとかこうゆう感じだったでしょうか。古代って冠があったりしたんでしょうか? 改めてスケッチしてみると分からないことだらけですね」
 結はノートを広げて、洞窟のスケッチをしていた。といっても正確なものではなくて、あくまで結が着想を得て描いたイメージ図である。
「デェース♪ あい頑張ったデスッ! 悪いやつ、やっつけたデェース!」
 楽しげなあいに、サラは拾った髪飾りを彼女の頭に付けてみる。さびついてはいたが、古代人の素朴さを感じる髪飾りはあいに似合っていた。
「これとか似合うんじゃないかしら? これもいいわね……』
「ふ……二人とも、壊しちゃだめですよ」
 二人の様子に気がついた結は震えていた。万が一、貴重なものを壊してしまったらと考えたら気が気ではなくなってしまったのだ。
「これ、どすか?」
 一二三は、洞窟に落ちていた指輪を拾い上げる。
 鈍い輝きの赤い石がついており、外見はオーパーツだと思われる指輪によく似ていた。
『みたところ、古いだけで普通の指輪だぞ』
 キリルも首を傾げている。
 何千年も前のものだから保存状態は良いのだろうが、それを覗けば驚くほど普通の指輪である。
「……何に使う気いやったんどすやろか?」
 かつては男性が指にはめていたものらしく、一二三が指にはめてみるとぴったりであった。キリルがひっそりと『呪われないか?』と言うと、大慌てで外していたが。
「もしかしたら、この指輪……本当にただ貴重なだけの指輪なのかもよ」
 アリスが口を開いた。

●遺跡の価値
 嘉久也とエスティアは、避難している発掘チームと合流していた。そこで、仲間たちから愚神の討伐成功の知らせを聞く。愚神が討伐されたことや発掘が再会されることに、発掘チームの全員が喜んでいた。
『よかったですね。ところで、何故クロダさんは指輪がオーパーツだと分かったのでしょうか? やはり、特別な鑑定方法が?』
 好奇心で目を輝かせながらエスティアは、クロダに尋ねる。
 クロダは、ばつの悪そうな顔をした。
「あの指輪は……あくまでオーパーツの可能性がある指輪だ」
 言い切るクロダに、嘉久也ははっとする。
「なるほど、あなたを『指輪を普通ではないとは言いましたが』『オーパーツではある』とは確定はしていなかった。ただ保存状態のよい貴重な指輪をわたしたちに『オーパーツの可能性がある』と報告しただけ……クロダさん、指輪はただの遺物でしかなないんですね」
 嘉久也の言葉に、クロダは頷く。
「俺達は外国人で、ピザには限りがある。オーパーツがあるって言えば、H.O.P.E.はいち早くリンカーをよこすだろ。俺達には、自分たちの命より大切なものがあるんだ」
 クロダは、遠くにある遺跡を見つめる。
「俺たちの祖先がどうやって生きてきて、どうやって今の俺達の暮らしに繋がっているのか。それを調べて、多くの人に知ってもらうことが――俺達の命より重たい使命だ」

●偽者のオーパーツ
 アリスの口から、指輪が恐らくは本物のオーパーツではないと語られる。愚神が必至に本物を探したところで、そんなもの見つかるはずがない。なにせ、最初からなかったのだから。
「この指輪が本物であったとしても、この指輪を使って何をするつもりだったのだろうな? ただのコレクションには見えないがな」
『私には、分かりかねます』
 香月に、共鳴を解いたアウグストゥスは首を振る。
『クロダさんは遺跡にやけに拘ってたから、セラエノと繋がっているかと思ってたけど……』
「リディス……初対面の人を疑うのは良くないと思いますが……」
 由利菜とウィリディスは、言葉を濁す。
 騙されたという思いよりも、クロダの人命よりも遺跡を守りたいという考えを二人は理解できなかったのだ。
『発掘現場で死者が出た場合は、かなりのリスクがあります。事故調査による遺跡の封鎖や原因の追究及び対策の制定等が考えられ、今回のクロダさんの行動は褒められたことではないでしょう。ですが……』
「□□?」
 構築の魔女は、洞窟の壁に視線を移す。
 そこには、古代の人々が書いた壁画や彫刻があった。シカや猪と思しき動物を描いた絵に、大昔の人々が作った彫刻。それらは、本なので見るよりもずっと力強く鮮やかに洞窟を彩っている。きっと、古代の人々が丹精を込めて作ったのだろう。
『私たちが戦わなければ、この遺跡は壊されていたのかもしれません。そして、ここに眠るものは誰の記憶にも残ることはなかった』
 構築の魔女の魔女には、残念ながらこの遺跡の正確な価値は分からない。それでも、目の前にあるものが今の自分たちの生活に繋がっているのだと思うと――何故か守れたことが少しだけ誇らしく思われた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • リベレーター
    晴海 嘉久也aa0780
    機械|25才|男性|命中
  • リベレーター
    エスティア ヘレスティスaa0780hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 絶望へ運ぶ一撃
    黛 香月aa0790
    機械|25才|女性|攻撃
  • 偽りの救済を阻む者
    アウグストゥスaa0790hero001
    英雄|25才|女性|ドレ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 花の守護者
    ウィリディスaa0873hero002
    英雄|18才|女性|バト

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃
  • この称号は旅に出ました
    キリル ブラックモアaa1048hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • ひとひらの想い
    想詞 結aa1461
    人間|15才|女性|攻撃
  • 払暁に希望を掴む
    サラ・テュールaa1461hero002
    英雄|16才|女性|ドレ
  • 紅の炎
    アリスaa1651
    人間|14才|女性|攻撃
  • 双極『黒紅』
    Aliceaa1651hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • 歪んだ狂気を砕きし刃
    あいaa5422
    獣人|14才|女性|回避



  • 黒ネコ
    獅堂 一刀斎aa5698
    獣人|38才|男性|攻撃
  • おねえちゃん
    比佐理aa5698hero001
    英雄|12才|女性|シャド
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