本部

滅ぼされるべきは過去の

落花生

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
7人 / 4~10人
英雄
6人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/06/02 16:41

掲示板

オープニング

「懐かしいな」
 男は、窓の外から雨を見つめる。初恋の少女と出会った日も、雨の日であった。兄のお下がりだという黒い大きな傘を握り締めて、町を歩いていた少女ミナモ。そんな彼女に、男は恋をした。もう十年以上も前の話である。
 そのころの男は、荒れていた。
 他人はおろか自分の親でさえ信じられずに、夜の街を一人の悪党としてさまよっていた。そんな男を――サトルを変えたのは、黒い傘を持っていた少女ミナモであった。
「本当に懐かしい」
 ヴィランとしてH.O.P.Eに追いかけられ、怪我をしていたサトル。ミナモは、偶然街で出会っただけの彼の手当てをした。最初こそミナモを疑ったサトルであったが、すぐに彼女が愚かしいほどに優しいだけだと気がついた。
 そして、いつのまにか彼女に恋をしていた。
 サトルはヴィランとしての生活から、足を洗った。ミナモのために更生し、職にもついた。やっと人並みの生活を送れるようになったサトルは、ミナモを探し回った。彼女に思いを伝え、自分と一緒になってほしかった。
 だが、ミナモはすでに家庭を持っていた。彼女は、町でボロボロになった悪党――つまりはサトルのことを覚えていた。覚えていて、それでもサトルを旧友のように扱った。サトルは、それで十分だと思った。
 優しい夫、可愛い娘。
 ミナモは、すでに幸せを手にしている。
 ならば、自分は身を引こう。
 
 なのに――。

 サトルは、タバコを握りつぶす。
 ヴィランとして活動していた頃の知り合いに声をかけられた。もう一度組まないかという内容であったが、サトルは断った。そのとき、かつての知り合いがミナモそっくりの少女を連れまわしていることに気がついたのだ。
 少女はいやいや連れまわされているようではなく、知り合いの仲間として振舞っていた。きっと多感な年頃にはヴィランは、恰好がいい悪に映っているのだろう。だが、実際は違うことをサトルは知っている。
 悪であるということは、他人を傷つけ、自分を傷つけるということだ。そして、周囲の信頼を失い、更生までは長い時間がかかる。初恋を失うぐらいに長い時間が。
「ミナモ。僕は君に助けられた。君の娘を救うのは、恩返しだ」
 サトルは、かつてのツテをつかってミナモの娘ナナの情報を得ていた。ナナは学校では優等生の仮面を被っているが、放課後は鬱憤を晴らすかのように悪い仲間とつるんでいる。そしてリンカーでもあったナナは、かつてサトルが属していた組織に目を付けられたのだ。そして、サトルはその組織が近々H.O.P.Eの摘発を受ける情報も得ていた。
「ナナ。悪なんて、お母さんを困らせるだけの組織なんだ」
 H.O.P.Eがナナを逮捕し、彼女の経歴に傷が付く前に……自分と同じ苦労を初恋の少女の娘にさせないために。
「組織を潰してしまおう」

●かつて悪の組織があった場所
「なんだこりゃ」
 リンカーたちは、破壊されたビルに目を見開く。ここでは若者を使い捨ての悪党に仕立てあげていた組織があったはずだが、今はもう見る影もない。リンカーたちは警察と共に建物に入るが、見つかるのは激しい戦闘の痕ばかり。
「ビルのなかを確認しましたが、無傷なのは未青年ばかりです。おそらくは、この組織に利用されていた不良少年少女たちだと思われます。彼らの証言によると、鍵爪の男が突然やってきて組織の大人たちを倒していったと……病院に運ばれた組織の人間たちは、しばらくは入院でしょう」
 その話を聞いた古株の職員が、もしやと口を開く。
「レックスなのか……死んだと思っていたが」
「レックスって、恐竜のですか?」
 リンカーの言葉に、職員は首を振った。
「レックスっていうのは、この街に昔いたヴィラン御用達のフリーの用心棒だ。ヴィラン同士の抗争なんかにも雇われていたらしくて、あいつが暴れた跡には鍵爪で引っかいたような痕が残っていたからレックスって呼ばれるようになったんだ。正体不明だが、もう何年も現れていなくて――てっきり死んだもんだと思っていたが……生きてたなんて」
「大変だ!」
 警官の一人が口を開く。
「倉庫街に、レックスらしき男が目撃されたらしい。女の子を人質に連れているようだ!!」

●絶滅の場所
 赤いレンガの倉庫がならぶ、どこか薄暗い一角。まるで観光地のような概観だが、住民ならここがただ「それっぽく」作られた安っぽい町並みだと知っている。バブル期に観光の目玉として作られた建物たちなのだが、今では倉庫など利用する企業も人もおらず、周囲はしんと静まり返っていた。一つの倉庫のなかで、少女の声が響き渡る。
「放してよ!」
「騒いでも人はこないよ。僕が若いときは、もうちょっと人もいたんだけどね」
 サトルは、ぼそりと呟く。
「ちょっと、放してよ!なんで、皆はほうっておいたのに私だけ連れてきたのよ!!」
 倉庫のなかで縛られている少女は、ナナである。
「君を母親のもとに連れて行くまでは、絶対に放さない」
「まさか、ママに頼まれたの!?」
 ナナの顔が、驚愕に染まる。
 親には悪事がばれたくないらしい。サトルは人知れず「そうであったらいいのに」と思った。
「違うよ。僕は、そんなに君のママと親しくはない。僕は、レックス。ただの肉食恐竜さ」
 周囲が、突然明るくなる。
 ナナは、悲鳴を上げた。
 そこにいたのは、武器を構えた組織の男たちだったからである。
「レックス……てめぇ、突然復活したと思ったら、なに組織を壊滅させちゃってるの? 昔は一緒に戦っただろうが」
 男の言葉に、サトルはにやりと笑った。
 とても冷たい、爬虫類のような笑みであった。
「もう、恐竜の時代は終りだ。だから、絶滅させにきたんだよ」
 これから戦いになる。
 そうなれば、H.O.P.Eや警察は騒ぎを聞きつけるだろう。
 ナナは、レックスという殺人鬼に人質にされた可愛そうな女の子として保護されて――母親の腕に抱かれることになる。彼女の経歴は傷つかないし、ミナモの涙も見なくてすむ。
「さぁ、過去の遺物たち。かかってこいよ」
 食い殺してやる、とサトルは鍵爪を構えた。

解説

・人質の少女(ナナ)の保護
・レックスおよび組織の残党の確保

倉庫(22:00)――使われてはおらず、雑然とした倉庫。物はあまりないが、広々としている。身を隠すには、あまり向いていない。電気がついているため中は、光源が十分にある。

サトル(レックス)――四十代後半の男性。両手に鍵爪を装着し、接近戦での戦いを得意とする。狂った殺人鬼を演じるため、リンカーにも組織の残党にも本気でかかってくる。素早さと攻撃力が高いが、ブランクが長いため体力低い。ナナを人質にとっているヴィランと断定されている。
・王の顎――両手を合わせて、敵の肉体の一部分を挟むワザ。強力な破壊力を持つ。
・王の爪――鋭い鍵爪で引っかく攻撃。
・隠し爪――鍵爪を飛び業具として使用する。滅多に使うことがない。
・王の皮膚――自身の皮膚を強化して、防御力をあげる。持続がなく、そのつど発動させなければならない。
・恐竜王の宴(PL情報)――自動的に発動。自分あるいは他人の血を浴びるたびに、攻撃力がぐんと跳ね上がるが自我を失う。使いすぎるとナナに襲い掛かる。

組織の残党――サトルが壊滅させた組織の残党。ナナがサトルに情報を流していると思っているため、ナナとサトルの双方を狙う。武器は銃器。十人出現。攻撃力は低いが、体力が高い。
・人間の英知――複数の同時射撃によって、攻撃力を上げる。
・人間の文明――タバコを吸って体力を少しだけ回復させる。
・人間のともらい――仲間が倒されると使用していた武器を利用できる。攻撃力が上がる。

ナナ――サトルに縛られている少女。リンカーではあるが戦いは苦手。自分が不良であったことを隠そうとする。

リプレイ

 明るく照らし出された倉庫のなか。
 その中で、レックスは禍々しい爪を組織の残党に見せ付けていた。
「この状況、仲間割れかな?」
 倉庫のなかの様子を伺っていた九字原 昂(aa0919)がぼそりと呟く。レックスは人質を取っているということだが、どうにも情報と現状がそぐわない。違和感を感じる。
『雇われと雇い主とのトラブルなんざ良くあることだが、だからこそ人質取っていることに違和感があるな』
 ベルフ(aa0919hero001)も、昴と同感のようであった。
「……もうちょっと、事情が複雑かもしれないね」
 組織の残党と過去の悪党。
 それだけでは、説明しきれない何かがあるのかもしれない。
「……本当なら人質を巻き込んで面倒な事になるのが普通ですが、「団体様」が押し掛けていますからね。全ての確保を目指して頑張りましょうか」
 晴海 嘉久也(aa0780)の言葉に、エスティア ヘレスティス(aa0780hero001)は頷いた。
『はい。私たちはレックスの相手を。そして、最短で人質を保護しましょう』
 簡単な役割分担を話し合いリンカーたちは、倉庫のなかへと飛び込んだ。
 彼らの姿が光に照らされたとき、レックスが「遅いよH.O.P.E」と呟いたのを紫音(aa5673)は強化された視力で見たような気がした。

●不可解な行動
「たしかに、『レックス』の行動が不可解ね。彼は何故、人質を取る? 一体、”誰に対する人質”なのかしらね」
 少し考えながら、鬼灯 佐千子(aa2526)は残党と向き合う。だが、頭を過ぎるのはレックスという男のことである。彼の行動には謎が多すぎる。
「抗争相手と見られる連中には、人質を狙っている節がある。口封じかしら? なら、彼らに対しては人質として成り立たないわ」
 考えれば考えるほど分からなくなっていく、そんな佐千子の考えを読んだかのようにノーニ・ノエル・ノース・ノース(aa2526hero002)が声をかける。
『私たちに考えている暇なんてないですよ』
「でも、気になるのよね」
 まとまらない頭で、佐千子は幻影蝶を放つ。いつくものきらめく蝶の幻は、なぜか目標には届かずに白い煙を上げて消えてしまった。その光景を見た佐千子は、呆然とする。
『余計なことを考えるからです』
 元から愛想のよくないノーニの声が、いつも以上に不機嫌に聞こえた。
「たしかに、考えるのは後にしたほうが良さそうね。今は、ヴィランの無力化を行いましょう」
『それがよいです。あまり余計なことを考えると……流れ弾にあたって吹き飛ばされます』
 ノーニの言葉に、「まさか」と佐千子は笑う。
 だが、次の瞬間彼女の後ろでフリーガーファウストG3が火を噴いた。
「ふふん、猛獣狩りだな。中尉」
『過去の記録から推測しても相当の手練れであります。手負いの獣はより危険度を増すというもの。注意が必要であります』
 ララストシルバーバタリオン(aa4829hero002)と共鳴したソーニャ・デグチャレフ(aa4829)は、さてどうすべきかと思い悩む。できればレックスを人質から引き離したいが、残党連中たちにやったようにフリーガーファウストG3を打ち込むのは若干乱暴すぎる気がした。
「事前報告を聞く限りにおいて、レックスはどうやらナナにご執心の模様。人質でもあるようだし……。いっそのこと、レックスが庇うのを見越して狙うのは――」
『やりすぎです』
 ラストシルバーバタリオンの言葉に「冗談だ」とソーニャは低く笑う。
「いくら小官でも人質相手に、そんな乱暴な手段はとらん。それに、小官以外の人間が動いてくれているのだしな」
『彼らを信用するのですね』
「勿論だとも」
 悠々とソーニャは、答える。
 その視線の先には、レックスと戦う秋津 隼人(aa0034)の姿があった。
「ヴィラン同士の抗争、という見方もあるけど……どう思う?」
 レックスと戦いながら、椋(aa0034hero001)に尋ねる。子供の姿の相棒は、今日も古臭い口調で自分の意見を述べた。
『恐らくお主と同じじゃの。抗争ならば未成年だろうと容赦などあるまい。組織とやらのやり方に不満を持った輩の仕業、じゃとな』
 なかなか立派なやつじゃ、と椋は腕を組み何度も頷く。
 隼人も椋と同意見であった。
「やはり、か……とは言え、やり口が過激なのは確かだね。人質も連れているというし、まあ確保してからじっくり話を聴くとしようか」
『んむ! 久々のエージェント活動、存分にゆくのじゃ!』
 隼人はレックスの隙を見て、人質のほうへと走る。レックスは隼人を追おうとするが、それを阻んだのはアリス(aa1651)であった。
「……燃えろ」
 指を鳴らし、ブルームフレアを発動させる。
 出入り口にいたアリスのブルームフレアは、わずかにレックスに届かなかった。だが、レックスは届かないはずのブレームフレアを恐れて後退するような動きを見せた。
『おかしいよね』
 アリスと瓜二つのAlice(aa1651hero001)もやはり疑問に思ったようだった。
「そうだね、おかしい。彼は何をやっているのかな?」
 アリスは疑問に思う。
 普通ならば、物事を有利に進めるために人質は確保していたいはずだ。なのに、彼は自分には届かないはずの炎を恐れて、わざと人質を隼人に保護させたように見えた。
「組織の壊滅にしてもえらくタイミングが良いなとは思っていたけど……まぁ、なんでもいいか」
『あの人も敵なんだもんね』
 Aliceの言うとおりである。
 レックスも組織の残党たちも、変わりない。自分たちにとって敵で、平穏な世界を乱す悪の異分子である。
「そう……戦うべきただの敵。どんな事情があっても、それは変わらない」
 アリスの言葉に、Aliceは頷く。
「弾道正常。命中です」
 人質の少女と共に走る隼人を、紫音は援護する。人質の少女を狙おうとした組織の残党の足を紫音は撃ちぬいたのだ。
 だが、紫音はおかしいと感じていた。レックスの動きが、奇妙に遅いように思われたのだ。彼女の予測ならば、レックスは隼人に追いつけたはずだ。なのに、彼は隼人にわざと逃がしたように見えた。
「やはり……あのとき彼は」
 紫音は呟く。
 レックスが呟いた言葉。あの口の動きは、紫音の見間違いなどではなかった。
「おっと、貴公はこっちだ」
『逃がさんぞ』
 ソーニャはアイシクルチェインで、レックスを自身の側に近づける。
「汝は、我の相手をしてもらうぞ」
 エスティアと共鳴した嘉久也は、大剣でレックスの背中を切り裂く。倉庫のなかに、レックスの悲鳴が響き渡る。
「うわぁぁぁ!」
 絶叫と共に、レックスは両手を合わせて恐竜の顎のような形を作る。そして、左右の爪で嘉久也の腕に噛み付いた。思いもよらない力強さに、嘉久也は目を見開く。
『このままでは、腕が破壊されてしまいます!』
 エスティアの言葉に嘉久也はレックスを振りほどこうとするが、がっちりと重なり合った爪は食い込んで離れない。
「あなたの敵は、こっちですよ!」
 ヴァローナNQ-38を使用して、隼人は弾丸をレックスに撃ち込む。弾丸を打ち込まれたレックスは、さらに大きな悲鳴をあげた。
『これはまずいのではないじゃろか……?』
 椋の言葉に「言われなくても分かってます!」と隼人は、叫ぶ。レックスが自分に狙いをつけたと感じた隼人は、咄嗟に防御の姿勢をとる。だが、レックスはそんな彼を飛び越えた。
「あれ……」
『あやつ、残党のほうに向ったのじゃ』
 レックスは、吼えながら組織の残党を蹴散らす。不可解なレックスの行動に疑問を感じながらも隼人は、人質だった少女の保護のために動いた。
 一方で、レックスの戦い方を見たベルフは呟いた。
『なんだ、あれは。まるで野獣そのものだな』
 知性も理性も感じられない。ただ食い殺すということのみに特化した、野生の獣。その戦い方を見ていた昂はいぶかしむ。
「おかしいような気がしない? レックスは何らかの理由で人質をとっていたんだよ。そんな人が、突然狂ったように戦い始めるものかな?」
 何はともあれ、レックスが残党を蹴散らしてくれているのは昂たちにとっては都合がよかった。
「出来れば漁夫の利を狙いたいけど、レックスが豹変したから余裕は無いかな」
『それならそれで、斬り崩していけば良いだけだ』
 ベルフの言葉に、昂は「分かった」と頷く。
「私は、残党中心に攻めるわ。捨て身に見えるレックスには、生半可な攻撃は火に油を注ぎそうだから」
 佐千子は、残党の手足に狙いをつける。一方で、ノーニは考えていた。
『なぜ、レックスは突然凶暴化したのでしょうか?』
「後にしないとさっきみたいなことになるわよ」
 佐千子の言葉なんて聞こえないふりをして、ノーニは考える。自分たちには突然の凶暴化に見えたが、何かしらのトリガーがあったはずだ。
 玻璃「ニーエ・シュトゥルナ」に持ち替えた佐千子は、広範囲攻撃をしかける。レックスに攻撃は当たっていない。しかし、残党の血がレックスにわずかに触れた。
 それだけで、レックスはまるで動物のような雄叫びを上げる。
「苦しんでいるんでしょうか……いいえ、違うようですね」
 紫音は、首を振る。
 彼女の目には、レックスに苦しみはなかった。理性のない動物的な目で、ただ戦いを楽しんでいるように見えた。
「狂戦士タイプだったのか……厄介だぞ」
 嘉久也は、唇を噛んだ。
 理性のないレックスに、なにを言っても無駄である。しかも、彼の攻撃力は段々と増していっている。
『せめて、なにが原因でああなっているかが分かればいいんですけど』
 エスティアは、困ったように呟いた。
「両手両足を攻撃する。いくら狂化されようとも手足を奪われれば、戦えないだろう」
 嘉久也は、一歩踏み出す。
 それをサポートしたのは、アリスであった。
「うるさい鳴き声だよ」
 ブルームフレアの炎を燃え上がる。
 炎のなかで、嘉久也と剣とレックスの爪が重なり合った。

●ナナの秘密
「貴女を攫った男、接点はありますか?」
 隼人は、人質なっていた少女――ナナに尋ねた。ナナは怯えたように体を震わせ、何も答えようとはしなかった。
「先に保護された不良少年たちによると、あなたも彼らの仲間だったんですよね?」
 昴の言葉に、ナナは泣きそうになっていた。知られたくない秘密が、どんどんと暴かれていくことに恐怖心すら生まれていた。
『おねがい……このことは家族にはいわないで。悪い仲間と付き合っていたなんて、絶対に言わないで!!』
 初めて、少女は言葉を口にした。
 それは、戦いに巻き込まれた恐怖からの言葉ではなかった。自分の過ちを家族に知られること。それを恐れての言葉であった。
「道を外れる事は、人間ままありますよ」
 隼人は屈んで、泣いている少女と視線を合わせる。
 そして、その頭を優しくなでた。
「ただ……道を外れたことを隠して何食わぬ顔で元の生活に戻る方が、よっぽど問題です。あなたがこれからするべきことは、自分が『なにをやったのか』を考えることです」
『何故こんな事態になったか、じっくり考えて答えを出すのじゃな。そして改めて、母親や父親と話をするがよい』
 椋は、『まだ若いのじゃから時間はいくらでもあるであろう』と続けた。
 幼い少年の姿には似合わない言葉に、ナナはきょとんとしていた。そして、彼女は「あっ」と呟く。
「あの人……私をママのところに連れて行くっていってた。パパとか両親じゃなくて、ママのところにって――それで私は、あの人がママの知り合いだと思ったんだ」
 
●初恋を守る狂戦士
「貴様ら受動喫煙を知らんのか?」
 ソーニャは、タバコを吸おうとした組織の残党を吹き飛ばす。今ので、立っている残党はいなくなったはずである。
『派手でありますね』
「もう一人相手は、理性を持たない野獣だ。コレぐらい派手ではないと舐められる」
 ラストシルバーバタリオンの言葉に答えながらソーニャは、レックスのほうを見た。恐竜王は残念ながら、理性を取り戻す暇もないぐらいに暴れまわっている。
「本当は優しい人なんだと思います」
 紫音は小さく呟いた。
 おそらくレックスは最初から、ナナをH.O.P.E.に保護させる気だったのだ。そうでなければ「遅いよH.O.P.E.」などとは言わないであろう。
「いくら本性が優しくとも相手は犯罪者。小官たちは、依頼を受けたH.O.P.E.のリンカーだ。行き着く先など、最初から見えている」
 ソーニャは、組織の残党たちの手から零れ落ちたタバコを忌々しそうに踏み潰した。
「結末の決まっている戦争などやりたくないものだ……」
 ラストシルバーバタリオンは『中尉……』と呼びかけようとした。だが、その前にアリスのブルームフレアが吹き荒れる。
「本当に、しつこい」
『理性を失った獣なんて大嫌い』
「本当――大嫌い」
 アリスとAliceは、声を合わせた。
 だが、レックスはまだ倒れない。
「あとは頼みます!」
 昂が猫騙をかけたことによって、レックスの動きが止まる。
 嘉久也は、その隙を見逃さなかった。
「これで、終りだ!!」
 大剣がレックスを切った瞬間、悲鳴が聞こえた。その悲鳴は滅んだ恐竜王のものではなく、か弱い人間の悲鳴であった。

●彼が見たものは
「……死者を出さなかったのは僥倖ね」
 佐千子はあたりを見渡す。敵は全て倒れているが、死んでいる者は一人もいない。これから彼らを拘束して警察に受け渡さなければならない。
『理性を失った敵が一体いたにしては、奇跡的と言っていいですね』
 ノーニの言葉に、佐千子は少し考えた。
 だが、結局言うべきことは決まっていた。
「レックスが暴れていた件については、なにか事情があるような気がするけど……私は客観的に警察に見たことを証言しないとね。それが、仕事だから」
 昂は、倒れていたレックスの側へと向った。
「あなたは、人質にした女の子を保護してもらいたかったんじゃないんですか? あの子がよくない仲間と付き合っていたのを誤魔化すために」
 人質に取られてしまえば、世間はナナにどのような事情があっても被害者として見なすだろう。レックスの戦いでの前半の動きは、それを証明するようなものだった。
「僕は絶滅すべき、ただの悪党で殺人鬼だ。H.O.P.E.も質が落ちたね。こんな過去の遺物、跡形もなく消し去ってしまえばよかったのに……そうすれば」
 レックスの言葉に、隼人が割ってはいる。
「ヴィランだからって、死んでいいはずがないですから! 狂った殺人鬼? 笑わせますね、未成年を無傷で見逃し、わざわざ人質を取るような殺人鬼がいるはずないでしょう!!」
 レックスは、驚いたように目を見開く。やがて彼は――サトルは、観念したように瞳を閉じた。その顔に凶暴な狂戦士の面影はなく、初恋を守ろうとした穏やかな男の顔であった。
「人質の子と知り合いだったの?」
 アリスの疑問に、レックスは答えない。答えずとも、彼らはサトルとナナの関係を暴くだろうと思ったのだ。
 それに、自分が我策した作戦はH.O.P.E.のリンカーたちにバレてしまっているらしい。目を開いたサトルの視界の端に、初恋の少女と似た姿が映る。ソーニャに付き添われながら歩く、ナナであった。サトルは声を出さずに、呟いた。
 ――……君の母親、僕の初恋の子を泣かせないでくれよ。
 その唇の動きを見た紫音は、どこか切ない表情を浮かべて顔をそらした。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 挑む者
    秋津 隼人aa0034
    人間|20才|男性|防御
  • ブラッドアルティメイタム
    aa0034hero001
    英雄|11才|男性|バト
  • リベレーター
    晴海 嘉久也aa0780
    機械|25才|男性|命中
  • リベレーター
    エスティア ヘレスティスaa0780hero001
    英雄|18才|女性|ドレ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • 紅の炎
    アリスaa1651
    人間|14才|女性|攻撃
  • 双極『黒紅』
    Aliceaa1651hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526
    機械|21才|女性|防御
  • 魔女っ娘
    ノーニ・ノエル・ノース・ノースaa2526hero002
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • 我らが守るべき誓い
    ソーニャ・デグチャレフaa4829
    獣人|13才|女性|攻撃
  • 我らが守るべき誓い
    ラストシルバーバタリオンaa4829hero002
    英雄|27才|?|ブレ
  • エージェント
    紫音aa5673
    機械|20才|女性|命中



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