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春告げの歌
掲示板
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相談所
最終発言2018/05/14 18:01:14 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2018/05/11 23:43:58
オープニング
● アイドルライブをやりたい
「前のルネの戦場で謳う企画好評だったわ、それでよりルネの歌が聞きたいって要望が殺到しているの」
そう上機嫌で遙華は皆に告げた。
「だからみんなの力でライブ開催してほしいのよ」
ゲストにECCOや赤原光夜など呼んでH.O.P.E.の音楽イベントという形にするらしい。
大きな会場を抑えて四時間にわたるメドレー形式である。
それにルネは少し照れながらも熱に浮かされたような表情で告げる。
「大きい場所で歌ってみたかったんだ、ありがとう遙華!」
それが数週間前の話。
そして今回ライブ当日。なんと遙華はライブ会場前の駐車場でルネごと足止めを食らっていた。
「なんでルネの移動スケジュールがばれたの?」
なんとか一般人を押しのけて会場まで行こうとするが、一般人たちはルネ、ルネとうわ言のようにつぶやいて遙華たちの言葉に耳を一向に貸さない。
「ライブに遅れちゃう。そこを退いて、みんなルネの歌を聴きたいんでしょう?」
車の中でルネはつまらなさそうに空を見上げている。
「さて。どうしようかな」
そう言葉を漏らしながら。
● ルネを待ちわびる声
ルネが到着できない。そんな報告を君たちは控室で受けた。一応全員が準備をすませ、演目が始まるまで30分というところ。
ルネには化粧などの必要が無いので衣装を合わせるだけでは有るのだが。
このまま到着できないのはまずい、そうリンカーたちの出動も考えたのだが、それにストップをかける少女がいた。
それが春香である。
「まってみんな、このライブ中止してほしいの」
春香のたわごと、それに耳を傾けるものはいるのだろうか、という状況だった。
なぜなら会場は超満員。ルネを求めるコールで一色であり。熱気は今にもはちきれんばかりだったからだ。
「ねぇ、思わなかった? なんでルネなのって」
ただこれはおかしくないだろうか。無粋にも突然現れた春香は君たちに問いかける。
「ねぇ、おかしくない? アイドルとして努力してきた期間はみんなの方が長いんだよ」
その口から紡ぎだされるのは否定の言葉。ルネを否定する言葉が、春香の口から何度も何度も繰り返し打ち出される。
「今は、ルネに謳わせるの危険だよ、だって、ルネが敵じゃないって確信はあるの?」
春香の脇を通り抜けようとする者もいるだろう。
そんなリンカーには春香は小刀を向ける。遙華にもらった護身用のAGWだ。
つまり春香は共鳴済み。
「もし愚神だったら大変なことになるよ。わざわざ被害を生み出す場をみんなが作ることになるんだよ」
春香はやる気だ、聞き入れてくれないなら、この場にいる全員を倒すつもりなのだろう。
そのためにライブス結晶は持ってきた。首にぶら下げている。
「だって、英雄が、死んだ人が生き返るなんておかしいよ。そうでしょうみんな? だからみんなは同じ過ちを繰り返さないようにやってきたんでしょう? だったら私たちはルネが生き返ったってことをちゃんと考えないとダメなんだよ。生き返るって何だろうって考えないと」
春香は語る。
今まで旅に出ていたのだと。それはルネが英雄であると証明する旅であると同時に、それは死者を蘇らせる旅だった。
その旅はまるで死んだ者のない家からケシの実をもらうような、そんな巡礼だったと春香は告げた。
「消えた人は返らない、死んだ人も帰らない。それなのに、私達はルネが生き返ったって喜びでそれを無視して……」
その春香の発言に怒りを燃やす人間もいるかもしれない。何せルネを蘇生させるために努力した人間全員への否定だからだ。
「でも、でも、私は、私は」
涙を流しながら髪を振り乱し、春香は全員に告げる。
「あのルネは本当にルネなの?」
ライブまであと20分程度、彼女を説得して、あるいは彼女に同調して、この場を切り抜けなければならない。そんな選択肢を示された皆さんはいったいどう行動するのだろうか。
ただ、忘れてはいけない、この春香もまた偽物である可能性があるのだ。
●ルネ****************PL情報
今回はルネの今後の処遇を決める舌戦になる事でしょう。
ただ、それ以外の行動としてルネがライブの時間になれば確定で行う行動について。
それは壇上に立つことです、彼女はバンドメンバーも他のリンカーもいない状態で謳う事でしょう。
その歌がどう転ぶかはまだわかりません。
***********************ここまでPL情報
● 選択肢は二つ
アイドルとしてライブを行う、もしくはライブを中止してルネを捕える。
になります。
今回は春香が皆さんの行く手を遮り、ルネの排除を訴えます。
この言葉に頷くか突っぱねるかを選択していただきたいのです。
ルネを信用しアイドルライブを行うならば春香の排除が必要となる、ということです。
春香は共鳴してでも抵抗してくるでしょう、彼女は範囲攻撃に特化したクラスです。控室やステージに被害が出ると中止せざるをえなくなるので注意してください。
もしくは春香を説得する必要があります。
あれは本物のルネで、心配などする必要はないのだと。
ただ、ルネが偽物であると思うならそれを示さなくてはいけません。
ルネが何者かを突き止める策があるならば、その策を用いることでルネの正体を暴くことができるでしょう。
ルネを排除する場合、遙華の抵抗も考えないといけません。
ルネはソフィスビショップっでサンダーランス程度ならば使えるようです。
遙華個人のレベルは高くありません。
もしくは遙華を説得する必要があります。
このルネは偽物で、排除する必要があると。
その場合、前述したルネの正体をさらす必要があるでしょう。
ただどの行動をとってもライブが荒れることは確実です。
もしライブが荒れることもなくうまく収められるのであればこの依頼は大成功となるでしょう。
解説
目標 アイドルとしてライブを行う
もしくは ライブを中止してルネを捕える。
どちらに転んだとしても成功扱いですが、リプレイの内容はとても胸に来るものがあるかもしれません。
● 相談の焦点
ライブを行うのであれば、ルネはどうするのか。
いない状態でライブを続行するのであれば、どう観客に説明するのか。
ライブを中止するのであれば対応はどうするのか。
もしライブを中止した場合、観客たちが想定外の行動をとる可能性はないか。
など幅広い視野を持って話をする必要があります。
どうするのが正解、というものはなく。
その行動をとったとして、想定される事態がこれなので、それに対策をうつ、と言った話し合いの方針が適切ではないかと思います。
また今回は皆さんの議論の様子をリプレイにしたいとも思っています。
もし相談卓で巻き起こった議論をリプレイに採用してほしい場合、それをプレイイングとして書いていただければ採用可能です。
リプレイ
プロローグ
異様に盛り上がる会場、ライブハウス。この程度の会場を何度も経験しているが『アル(aa1730)』はこの程度の会場にはありえない熱気をその身に感じていた。
『白江(aa1730hero002)』の肩に思わず手を置く。
「お客様の荷物に不審なものはなかった……」
そう舞台袖で会場を眺めるアルはヘッドセットタイプのマイクをかける。
「調べる必要があるよね」
告げるとアルはライブが始まる前の演出として歌を謳う。
一人で『アルのルネ歌声』『現ルネ歌声』を使い、客の反応の差異確認する。
ただ、歌には反応しない。アルの歌にはなにもだ。
アルの不安は加速していく。
そんなアルのいない楽屋に、春香が突入していた。
「あのルネは本当にルネなの?」
訴えかける春香の目は血走っていて明らかに正常ではない。
「ぼくは」
その言葉に真っ先に答えたのは一番小柄な少女『イリス・レイバルド(aa0124)』。
「どうせならルネさんが本物の可能性を信じたい」
その言葉に『小詩 いのり(aa1420)』が頷く。背後に『セバス=チャン(aa1420hero001)』が静かに控えた。
「だけど信じるだけでは足りない」
イリスの言葉をいのりが継ぐ。
「ボクもルネさんを信じたい。でも、盲信じゃダメだよね」
「ただでさえガデンツァの体と記憶という不穏要素をかかえてるんだ」
『アイリス(aa0124hero001)』がいつもの余裕を湛えて告げる。
「『記憶』それはガデンツァという存在がバックアップとして体にまだ残っている可能性は捨てきれないよ。それこそ体を奪い取ったあの時の、意趣返しの可能性はあるんだ」
「確認すべきは確認して、打てる対策は全て打つよ、だからそれで納得してくれないかな?」
そのいのりの言葉に春香は歯を食いしばった。
「そうだね、それが落としどころなのかな、でも……」
崩れ落ちる春香。
「もともと、ルネさんが完全に安全だと保障するのは難しいと思うよ。それはある意味不治の病のようなものだ」
アイリスがそう遙華の肩を叩く。
「病であるならば対策を講じてしっかりと付き合っていけばいい。無理解、放置、そんなものが病を悪化させるのだから」
そして春香の隣に座りその手を握ったのは『斉加 理夢琉(aa0783)』。
「ルネを信じる。皆と歌っていく未来を信じる。私の我儘だから違っていても壊れない」
『アリュー(aa0783hero001)』は思った、理夢琉は変わったと。
「歌う喜びをルネと一緒に感じたい、希望をここにいる皆と一緒に届けたい。私はその為だったらできる限りのことをするよ、みんなで一緒に今度こそ幸せになるんだ」
「私も正直にいうと、何が正しいのかは正直分からない……」
『世良 杏奈(aa3447)』がそう春香に告げる。
「けど、遥華ちゃんと春香ちゃん、そしてルネさんの気持ちがすれ違ったままなのはダメだと思うの」
『ルナ(aa3447hero001)』が春香の涙をすくう。
「杏奈、遥華とルネを迎えに行こう! ちょっとでも多く3人には話して欲しいもん!」
そんな喧騒を背に『クラリス・ミカ(aa0010hero001)』と『蔵李 澄香(aa0010)』は廊下に出ていた。
「どうしたの? クラリス、早く遙華のところにいこうよ」
「ちょっとまって、澄香ちゃん、なにか様子がおかしい」
そうクラリスはロクトの非常通信用番号にかけている。
だが誰かが電話に出る様子rはない。
「ガデンツァの歌、その解析データを送ってもらいました。これを見てください」
そうクラリスが差し出したPCに映し出された波形。それは。
「これは?」
「このあたりにさっきから響いてる音の波形だよね?」
アルが立っている。その表情は珍しく暗い。
「ここはもう鳥かごだよ」
告げるとクラリスは弾かれたように走り出した。まずはスタッフに連絡、控室への接近禁止。状況をへたに動かせない。時間切れの時のために機材調整で開始延長の連絡と以前撮ったディスペアの映画で観客対応を依頼。
「暴動の気配があれば即連絡してください」
「私はどうする?」
澄香が追い付いてきて問いかけた。
「あなたはあなたの思うままに行動しなさい」
告げるクラリスに澄香は力強く頷いた。
「わかった。私は信じたいものを信じるよ」
「それでいいんです、あなたと私ではできることが違う。ただそれだけ」
告げると二人は背を向けて歩きだす。
事態は一刻の猶予もない。
第一章 傷つける少女、傷つく少女
異様な空気に包まれるライブ会場。
その慌ただしさをライブ会場の天辺屋上で『Arcard Flawless(aa1024)』は眺めていた。
「早く向かった方がいいのでは?」
そう『木目 隼(aa1024hero002)』はArcardに告げるが、等の本人は風に上着をなびかせたまま包囲される車輌を眺めている。
「なにやってんだ、ロクト」
失望の入り混じった焦らされた表情。それは一瞬だけ表情に浮かびいつもの冷静な顔に戻る。
「見極める……って言うほど大仰なことをやるつもりはないけど」
Arcardは隼に告げる。
「それでも僕は全員黒の可能性があると思ってる」
この戦いどうなってもおかしくはない、そうArcardは予感していた。
そうこうしている間に、騒ぎの中心の控室では話が進んでいた。
「でも、ライブは中止してくれるんだよね」
そう全員を見あげる春香。言いよどむリンカーたち。それに護衛のために雇われていたリンカーたちも合流する。
「それはできません」
告げたのは『卸 蘿蔔(aa0405)』である。
「私は、安全を確保した上で、ルネさんと謳いたい」
「なんで!」
春香は蘿蔔に詰め寄った。柔らかな髪の毛が激しく揺れて髪を止めるゴムがばちんっとはじけて肩まで髪が下りる。
そうして蘿蔔を見つめる春香はまるで別人のように映った。
「今のルネさんが本当のルネさんだったらどうするんですか? 彼女を傷つけることになるんですよ」
「それはないって言ってるでしょ!」
観客の洗脳はルネ以外の可能性もある。
「なんでそんなにルネを信じられるの?」
「それはね、私達がルネさんにあいたかったからだよ」
告げたのは澄香、澄香はアルと共に扉を開いて春香に歩み寄る。
「消滅する英雄の一部が残り、大規模でイリスちゃんが声を聴いた時、可能性を考えたら耐えられなかった」
そう澄香は自分の気持ちを偽りなく口にする。
「ルネさんの体もグロリア社で再現技術が確立したから、ガデンツァのものを使うのは想定外だった」
その姿を『ナラカ(aa0098hero001)』はじっと眺めていた。
「春香に何も言わず飛びついた。君の気持を後回しにしてしまった」
振り返る春香。その瞳には涙。
「ディスペアの時もそうだ。私は本当に役立たずだ」
消え入りそうな声でごめん、そうつぶやいた澄香。その手をアルが握っている。
「だからこそ、ここで君に傷を残したままは嫌だ。皆で納得したい」
告げる澄香の頬を涙が伝う。
「恨んでいい。当然だ。だから、許せないなら私だけを刺して」
「そんなこと、できるわけないよ」
春香は拳を震わせた。
「春香さん」
その様子を隣で見守っていたイリスが口を開いた。
「春香さんは何にそんなに怯えてるんですか?」
アイリスが言葉を継いだ。
「会話が成立するというのは落ち着くものだよ、まずは深呼吸だ」
「俺達に春香がなにを知ってるか教えてくれないか?」
そう問いかけたのは『レオンハルト(aa0405hero001)』。
彼は気になっていた。春香がガデンツァやルネの情報に詳しいこと。何処で調べ誰から聞いたか。信頼できる情報なのか聞きたいのだ。
「私も見つけたいんです。今の本当のルネさんを」
蘿蔔は訴える。
「だからルネさんや遙華さんと向き合ってほしいんです。私達に隠し事はしないでください」
それに蘿蔔は遙華の努力も見ているのだ。彼女はルネのために沢山の努力をしてきた。それを無碍にもできない。
(警戒心は必要だが、視野狭窄だと折角集めた情報も裏目になる可能性もあるしね)
そう分析するアイリス代わってイリスは積極的に言葉をかける。
「離れて分かる事もありますが、近づかなければ分からない事もあります。まずはみんなで話し合ってみませんか?」
その言葉に春香は一瞬俯き、重たい声で告げる。
「死んだ人が蘇るわけないから」
その言葉に場は静まり返った。
「道理だな」
カゲリがつぶやく。
カゲリは前々から言っていた。
是生滅法――生あるものは何れ必ず滅び去る。
諸行無常が生滅の法であればこそ、その果てで後悔しないよう『死』から眼を逸らさず『生』に真摯で在れ。
生が有限だからこそ人はあがき、努力するのだと。
やり直しが効くなら統べてが茶番である。
「蘇る死者は醜いものだよ。黄泉路から戻るのは死霊かそれの類でしかないのだから」
ナラカが告げる。
「死んだ人が蘇るなら。私たちは何のために戦ってきたのかな、何で強くなろうと思ったのかな」
ナラカが表情をしかめた。
「だったら何でみんな蘇らないの? ルネが蘇るなら、何で私が殺したみんなは」
「話をそらすな」
そう冷たく告げたのは『八朔 カゲリ(aa0098)』。
ただ彼はそう告げたきりまた黙り込んでしまった。
彼自身ナラカ、そして彼女がかかわった者達が判断を下すべきことだと思っているからだが。
妄言を聴いている時間はない。だから口をはさんだ。
今は一刻を争うのだ。
「それはルネさんが蘇ってはいけなかったってこと?」
澄香が問いかける。
「違う、ルネは蘇らないんだよ」
澄香に詰め寄る春香。その行く手をいのりが遮った。
「ねぇ、春香。キミの疑念はもっともだけど、根拠はなにかな?」
いのりは複雑な色を瞳に滲ませる。
「ルネさんが愚神だって疑っているみたいだけど、証明が必要なのはむしろ春香の方なんだよ?
悪魔の証明は知ってるよね?」
澄香は傷ついている。春香もそうだ。けれど、春香は今理由はわからないけれど自棄になっている、そんな人間はたやすく他人を傷つける。
「ボクらがルネさんは愚神じゃないって証明するよりも、春香が彼女は愚神だって証明するべきだよ」
きつい言い方かもしれないが、はっきり言わなければダメなんだ。
「もちろんボクらも協力するよ。まさか、ルネさんを否定する理由は自分の主義思想だけじゃないよね?」
「違う、私は見たの。私は」
「ただ、キミにもちょっと違和感がある。春香のことも調べさせて? パニッシュメントをかけさせてくれるかな?」
「いや! いやだ!」
春香は身を躍らせた。
「なんで、春香は春香だよね? だったら私達」
「やってもいい、けどそれはルネにまず使って」
「なんで? 春香……君は今すごく無理のあることを言ってる。ねぇ潔白を証明して笑い合おうよ。僕ら仲間でしょ?」
「ちょっといいかな、いのりちゃん」
アルが手をあげる。
「僕はルネさんのライブ参戦はまずいと思ってる」
「なんで?」
いのりが鋭い視線を向けた。
「ずっと違和感がね……」
「みんなして曖昧なことを言わないでほしいな。もっと根拠のあることを言ってほしい」
「ガデンツァの歌が検出されたよ」
告げたのは澄香だ。
「でもだからと言ってルネさんがってわけじゃない、ガデンツァの輪なの可能性もあるよ」
「観客席の反応も異常だった、それに僕が懸念してるのは愚神の身体を持っていること。意識と別で体が勝手に動くことがあるのは体が記憶してるからなんだってさ」
アルと話しているうちにいのりも落ち着いてきたのだろう、冷静に話を聴いている。
その言葉に示唆。ガデンツァがその肉体に何か仕掛けをしてる恐れがあることに思い至った。
「でも中止したところで意味がない……ただの後手な気がする」
そしてアルは皆を見渡して告げる。
「皆、少しずつ知恵を貸してほしいな。どうやったら皆安心して前に進めるか」
「そのためには、じゃあ」
不意打ちだ。いのりがその時腕を無造作にのばして、春香に向けそして。放たれたのはパニッシュメント。
吹き飛ぶ春香。
その反応に。いのりは絶句することになる。
「なんで通じるの?」
いのりの予想していない展開。
パニッシュメントは確かに春香に通じた。しかしそれは愚神が乗り移っている打とか、従魔に取りつかれていると言った手ごたえではない。
「うそだ……」
だがそれだけではない。その手ごたえは確かに。
「ああああああ!」
春香が従魔だということを示していたから。
心臓をかきむしる春香。その目は真っ赤に染まっている、従魔化だ。
「ワイスキャンセラー……」
蘿蔔が茫然とつぶやく。
ナラカが春香の目の前に立った。
「春香……正直に話してもらえるかな?」
口調は優しい、しかしナラカのひとみは罪人を見極めるような冷酷な目をしていた。
「わたしは、ルネが蘇った時に会いに行った。その時に、ルネに負けて、体に薬を」
「それだけではないね……ルネと合った時誰かがそばにいたはずだ。遙華かな?」
春香は呻きながら言葉を絞り出す、もう話すしかないそんな意志を固めて。
「ロクトさんが……。ロクトさんが一緒にいた」
「なぜ、だまっていた?」
それは、ロクトの事も、ルネの事も、体の事もだ。
「こわ……かった、ごめんなさい、ごめんなさい」
その言葉にナラカは短く告げる。
「そうか、わかった、君はそうしていろ」
春香は目を見開いた。
「仲間を信じず、仲間を頼れず、今仲間を危険に陥れる選択をしたことを聞いた。残念だよ、春香……。君は確固たる覚悟を持った、試練を越えられる者だと思ったのだが」
「それだけじゃ、ルネさんがガデンツァってことには」
議論に混ざれず右往左往するだけの少女だった理夢琉がナラカに反論する。
「ねぇ春香さん、ルネさんに直接薬をうたれたんですか? 本当に? ロクトさんはその時どうして」
「薬はロクトさんにうたれたよ、けど、ルネは見ていただけだった。私は吹き飛ばされて、気が付いたら地面を転がってて」
「もちろん、そうだ………………。それにルネがガデンツァの禍根を孕んでいても、それならそれで焼き祓えば良い。そして彼女は裁きを担うが故に躊躇しない」
一瞬言いよどんだナラカは踵を返す。
「澄香……どうみる?」
「ルネさんをさがそう」
「いかせない!!」
立ち上がる春香。その春香をナラカは見つめる。
「ほう? それは、殺気かな」
「やめてくださいナラカさん! カゲリさんも止めてください」
蘿蔔が声をあげる。
「私は私が愛する者達に力を貸すよ、頼ってくれるのであれば、春香を……」
「やめてください!!」
状況は混乱を増すばかりだ。
第二章 だれが敵だ?
立ちはだかる春香。その身からは明らかに霊力がにじみ出ていた。erisuはどこにいるのだろう。
この場で戦えるものは大勢いるが、春香が先に動いたなら共鳴する前にことに対処できるだろうか。
そんな時『リオン クロフォード(aa3237hero001)』が口を開いた。
「何で春香さんはこっちに来たの?」
「え?」
「どう考えたってここにいるメンバーに春香さんが勝てるはずないじゃん。
止めるなら遥華さんとルネさんの方が簡単で確実だろ」
「違う!」
「怖いんだろ2人に会うのが。だから俺達の方に来た。これがガデンツァの罠だったら。春香さんは大切な人をまた失う。信じるより疑う方がずっと楽だよ。それは俺も知ってる」
そんなリオンを『藤咲 仁菜(aa3237)』は見つめた。
「違う!!」
そう振り上げた春香の手の刃。それを背後から忍び寄って握ったのはArcardだった。
「いつものように音を出せばよかったのに」
告げるArcardはいつもの荒々しさが嘘のように穏やかな表情をしていた。
「今のところ、武力行使は本気じゃないんだね」
「そんな……Arcardさん、血が」
「ただルネのライブを阻止したいだけなら、テロを起こせばよかった」
しかしそれを春香はしなかった。
「断片的とはいえ、ほぼ独力でガデンツァのその後を割り出した君が、態々姿を曝し口を開いたのは……納得してないからじゃない? 自分の論理的思考にさ」
崩れ落ちる春香。
「それにボクは君たちにも言いたいことがあるんだ」
そうArcardはあたりを見渡す。
「絆に飢えてきた君達が、親友を蔑ろにする言動を取るのはいかがなものかね。
欲もあり、信条もある。誰であれ何であれ、大変結構」
しかし、それまで築いた人との繋がりを、纏めてぶち壊す価値がそこにあるのかい?」
その言葉に頷いたのは蘿蔔と理夢琉。Arcardは二人に頷きを返す。
「個人的には、遙華が真の標的だと思うんだよね……」
Arcardはいけと扉を視線で示す。
「善性愚神の掌返しにアルター社とH.O.P.E.会議室の一件……この規模に対して、ガデンツァにしては温すぎる便乗だ」
その言葉には全員が頷けるところだった。
「例えばアルター社が負けてH.O.P.E.ともども弱体化するところを見越して、グロリア社を内部から統制して、愚神+グロリア社二強体制にしてしまえば、人類は平伏せざるを得なくなるよね?」
その言葉を背に駆けだす蘿蔔と理夢琉。
仁菜がArcardに駆け寄って傷口を見ている、その間にアルは春香に告げた。
「ま、聞く耳全く持たず有無を言わさずルネを排除しようって言うならそれでもいいよ?ボクはね。
他人の考えを推し量らずにさっさとやればいい。
止めないよ~ホラホラどうぞ」
そう苦笑いを浮かべるアルは嘘が下手だと春香を笑った。
「でも君がどんなことをしても。あのこはきっと歌うことをやめない、ずっとそばにいたキミが一番よくわかってるよねぇ。
ボクは互いに理解しろなんて言う気は毛頭ない……ただ、落としどころをキチンと見つけてほしい」
信じたいんだろう? そうアルは問いかけた。
「そもそも英雄なんて普通の人の枠に収まらないだろ。証明なんて出来っこない」
リオンが春香の手から刃を取り上げる。
「春香さんがルネさんに会うのを怖がっている限り、ずっと疑念は消えない。
だからまず春香さんがやるのはライブを中止する事じゃなく、遥華さんとルネさんときちんと会って話し合う事だよ」
「そも、この手の話はルネとすべきこと」
そうArcardも告げる。
「君は今いるルネに死んでほしいのかな?」
「違う」
「ルネの歌は今、止めねばならないと」
「うん」
「じゃあ、歌は一生封じさせる?」
「それは……」
「―ボクらに訴えたことをそのまま親友に伝えてみな」
「春香さんならきっと会えば分かるよ」
仁菜が言った。
「ルネさんがルネさんかどうかって。一緒に生きてきたんだから」
能力者と英雄、命を預けて互いに生きてきたのだから。
「大切な物が手が届くところにあるかもしれないのに、手を伸ばさないなんて
もったいないでしょ?」
そう仁菜は春香の手を取る。
一緒に手を伸ばそう。届くまで何度も。
「春香さんも諦め悪い方でしょ?」
「うん、でもわたし」
「こわいなら、一緒に行こう」
澄香が春香の手を取った。
そして立ち上がり歩きだす。
その背中にアルは告げる。
「遙華ちゃんやアイドル達、ルネに関わった人……もちろんキミも。
昔と比べて変わったよね、心の持ちようや在り方がさ。
そして今も変化を続ける。良いことだね。それが怖いことでもあるよね」
そうアルは背中を押した。
「だからボクは変わらずにいる。光の音を作った時にそう誓った。
不安になった時に戻って来られる場所になろう、灯台であろう……そう決めてる」
だから安心して変わりなよ! そうエールを送る。
「まだこわい、けど、行ってくる」
その背中を見つめ白江は告げる。
「……あるも、変わるのはこわいですか」
「……さぁ。どうなんだろうねぇ……」
ただ他のメンバーの表情は暗い。
少なくともこの事件に関わっている人間の中に。
春香を従魔にしようとしている人物がいるのだ。
* *
それは異様な光景だった。ライブ開始まであと十分程度しかないはずなのに、駐車場にライブ参加者がごちゃっと集まっている。
その中でいつの間に抜け出したのだろう。杏奈は、遙華の盾になるように人垣をこじ開けていた。
「春香が……そんな」
事はすでに杏奈から遙華の口に伝わっている。
そんな遙華を見つけようと理夢琉がアリューに肩車されながらあたりを見渡した。
「遥華、今何処だ」
そう先ほどからしつこく鳴らしたコールに応答した遙華の電話は、その向こうの浮ついた声の連鎖を捕えるにとどまった。
その中で遙華の声が鋭く聞こえる。
「これ! 洗脳されてるわ」
「ルネさんはどこに?」
「あれ? いない」
その電話を受け取った蘿蔔は冷静に告げる。
「聞いてください、春香さんに従魔化の兆候がみられます」
「……なんで、春香が?」
「ライブを止めてほしいと訴えてきたんです。そして私達もその方がいいのではと。思い始めています」
その場の空気、総意をくみ取って蘿蔔は重たくそう告げた。
「そんなことできるわけ!」
「遙華……おちついて」
蘿蔔は悔しさを押し殺しながら言葉を紡ぐ。
「ルネさんが愚神かどうか、まだ完全に確証をとれたわけではありません。ルネさん本人は大丈夫でも、利用されている可能性も」
その感情が遙華には伝わったのだろう、電話口で遙華が冷静になっていくのがわかった。
「可能性の話です、まだ決まったわけではありません、けど、いろんな状況を考えて動かないと、そのために遙華の力が必要です、ルネさんも春香さんも遙華を待っています。だから」
その隣で歌が響いた。
理夢琉が共鳴、そして歌を謳い始めた。旋律はそう。希望の音。
それで一般人たちは落ち着きをとりもどしていく。
「行きましょう、遙華」
人ごみの向こうから伸ばされる手を蘿蔔はとった。
急がねばならない。
ルネとリンカーたちはすでに壇上で接触している。
第三章
降りた幕のその向こうでリンカーたちはルネを見つけた。
今にも謳いそうな少女、その少女の背にArcardが声をかける。
「君にお客さんだ。大事な話だそうだから、付き合ってほしい」
「歌を止めに来たの?」
そうルネは首をかしげる。
それにイリスは言葉を返した。
「ルネさんは信じようと思います。ここで曲げるくらいなら復活作戦に協力はしてなかったと思うし」
イリスは命のあり方とか、個人の証明とか。
そう言うものを度外視して、目の前の人物がその人なのだと思えるのだ。
AIや動物、イリスにとっては全て家族であり。友達。
だから、ルネの人格のインストールについては疑問を持たなかった。
「でも本音を言うと、僕は謳ってほしい、ルネさんに」
その言葉に仁菜も同意した。
「これがガデンツァの罠ならきっともっとうまくやると思う……、謳ったら、あからさまに怪しい状況は作り出さないと思う」
「けど、事態はそんなこと言ってられないくらいに……なんていうんだろう。難しくなってるんだ」
アルが一歩歩み寄ると白江がさらに前に出た。
「ルネさん。貴方を知りたいです
今日の曲にどんな想いが込められていて、どんな結末を望むか
教えてください、貴方の願いを」
「私の願いは……私は」
言いよどむルネの手を仁菜がとる。その手に握らせたのは。
「ルネさん、これ持ってて貰えますか?」
奇蹟のメダルだった。
「きっとルネさんを守ってくれますから」
彼女が歌って消えるつもりだったとしても、また自分を犠牲にするつもりだったとしても、このメダルが奇跡をおこしてくれると信じて。
「ありがとう、受け取るね」
そこに滑り込むように到着したのは遙華。
「何をやってるの、ステージがもう始まる」
その前に立ったのはArcard。その表情を見あげてArcardを睨む遙華。
「急いでるとこすまないが、5分程待ってほしい。―友人として頼むよ」
そうArcardhはルネの前に立つ少女たちの見やった。
蘿蔔と理夢琉、そして杏奈がルネの前に立つ。
「私が行くよ」
「杏奈……」
「行ってらっしゃい、ルナ」
そう仁菜とルナが迂回して観客席へ。
二人は魔法少女姿になってパフォーマンスを開始した。
これでArcardの言う五分程度の時間は稼げるだろう。
「ライブの中止を」
春香がいのりに支えられながら登場した。
それに対して遙華は吠えるように告げる。
「無理よ! 絶対無理」
「それはルネじゃない! もうルネは死んじゃったんだよ!!」
「違う! ルネはここにいる! だから謳う、謳わせてあげるの」
その時理夢琉が二人の間に立って言った。
「〔最初に会ったルネさん〕はあの時壊れて……死んでしまったの。
流した涙や後悔は彼女へ捧げる鎮魂歌、時間と共に偲ぶべき人になっている。
亡き彼女の記憶を受け継いでいるけれど別の人格を持っているのが〔ルネ〕そうでしょう?」
それはアリューの胸に刺さる言葉でもある。
「でも心は同じルネさんだと感じてしまう、どうしてかな。
私が知っている彼女がしないだろう行動に違和感も感じることはあるよ。
それでね絆を結んでいた春香さんならその違いにが大きな不安になるのわかるよ。
器がガデンツァだもんね、ルネが一般人や友達を襲い出したらって想像するだけでも恐いよね」
だから今の春香さんは恐い、そう理夢琉は告げる。
「此処には一般人もいるんだよ?
友達にも武器を向けて……春香さんじゃないみたいだ。
erisuも納得しているの?」
その言葉に春香は涙を流す。
「わたしはルネさんを信じます」
蘿蔔はルネを見つめて告げた。
「きっとルネさんはガデンツァの記憶も持っていると思います」
告げると蘿蔔は優しく微笑んだ。
「辛かった?」
ルネは大きく目を見開いた。
「それでもこの世界は救うに値する。そう思ってもらえるよう頑張るから」
「皆を正気に戻そうとしてくれてるのかな。
有難う。
でも混乱する事態は避けたいんです。
私達が先に歌い少しずつ正気に戻せるか試させてくれませんか?」
その言葉に遙華も冷静になったのだろう。静かに視線を伏せる。
「無実だと証明する為協力して。私もルネさんとライブを成功させたいから信じて欲しい」
その言葉にルネは冷たく告げた。
「ねぇ、蘿蔔さん。だれが。だれが私の事疑ってるっていうの?」
「え?」
「観客も、ここにいない人たちも、そしてみんなも私の事疑ってないんでしょ? だったら私が歌を止める理由ある?」
「いえ、それは」
「もう十分な信頼はあるよ、それとも本心では私を信用してないの?」
そう蘿蔔に指を伸ばそうとするルネ。
その目の前に澄香が立った。
いのりが止める間もなく。
「前に教えてくれたよね。完全にルネではないって。口に出すの怖かっただろうに」
そう代わりに澄香はルネの頭に手を伸ばしてなでた。
「何時だって信じてる。だから一緒に立ち向かおう。君がルネでいる為には、君がやらなきゃだめだ」
澄香の視線を受けていのりは目を見開く。
いのりにはわかってしまった。
澄香はこれから無茶をするつもりだ。そして自分が本当にやるべきは。
「だから、ごめん。調べる」
直上からクラリスが堕ちてきた、瞬時に共鳴、いのりはルネの背後に、
パニッシュメント、そして不意打ちでの、支配者の言葉。
――ルネ、貴女は私たちの敵ですか。はいかいいえで答えなさい。
「ごめんね、ルネさん」
いのりは拳を打ち込むようにさらに深くパニッシュメントを放つ。
「キミにかかってる疑惑を晴らすために必要なんだ。仲間にこんなことしたくないしキミを信じてるけど、今は盲信はいけないから」
しかし反応はない、祈りが安心しかけたその時。
「いのり!」
「私にきくわけないでしょ!」
振り返るルネ、拳を振りかぶるがそれを妨害する蝶の群。
いつの間にか壇上に戻っていた杏奈が幻影蝶を放った。
打った本人には分かる、愚神であるという反応。
澄香は静かに目を瞑った。
――おバカ! 澄香ちゃん目を開けなさい! 何をしているんですか。
「そういえば、そんなものもあったわね。支配者の言葉、あとは幻影蝶? だっけ? 時間があればそれも対策したかったのに、残念だな」
途端に澄香の肌に針を刺すような痛みが走る。その痛みは全身に伝わって。まるで溶かされるように全身に激痛が走った。
シンクロニティ・デス。
血の華が咲いた。
同時になぜか上がる幕。
――中継をカットします。
いのりが叫んだ。
セバスの仕込んだポケットの中のボタン。それを推してカメラの電源を切る。
茫然と立ついのりのかわりに。
「すみか?」
壇上には血の華が割いていた。
まるで空気の抜けた風船のように崩れ落ちている澄香。
その瞳から、みみから、口から血が。だらだらと溢れ出している。
もともと澄香は無理をしていた。自分を罰するように。
それも重なり。
澄香は。その鼓動は、嘘のように静まり返っていた。
「澄香!!」
その澄香の命を奪おうとさらにルネが前に出て拳を振り上げた。それを遮るように杏奈が前に出るとルネは攻撃をためらった。
「私が怖い?」
――だったらあなたは間違いなく……。
Arcardがルネの背後に回る。ルネを組み伏せるとあっさりとその体が砕け。頭部だけが水となり床の隙間に吸い込まれていった。
「いのりさん、落ちついて」
イリスがいのりに声をかける。
「治療を! まだ間に合います」
次いで狂乱に陥ったのは観客。
血にまみれた少女の姿を見て。周囲はパニックに陥った。
それを鎮静化させたのは仁菜。
「ガデンツァ」
仁菜は歯噛みする。全ての好意も。祈りも。期待も打ち砕かれた。