本部
君の健康をチェックしたい!
掲示板
-
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2018/05/04 22:50:36
オープニング
●波乱の健康診断結果
健康診断の知らせが、それぞれに届く。
大抵のものは健康であるという知らせが届くが、今回の健康診断は勝手が違った。
「血液検査で引っかかった」
「尿検査で引っかかった」
「心臓が……」
H.O.P.Eに集まった面々は健康診断の結果を持ってきて、暗い顔をしていた。H.O.P.Eに属するリンカーならば健康なのは当たり前なのに、今回は健康診断に引っかかった人間が大勢出たのである。
「健康と言うのは十分な運動をしていても食生活や睡眠時間といった生活習慣で簡単に失われてしまいます。今回、健康診断で引っかかった皆さんは普段どのような生活をしているか医者のチェックを受けてもらいます」
H.O.P.Eの事務員はそういって、健康診断に引っかかったリンカーたちにプリントを配る。
「普段どのような料理を作っているのかのチェック。睡眠前に、どのようなリラックス方法をとっているのかのチェック。適度な運動をしているかどうかのチェック。そして、医師に個別の健康への不安を相談していただきまきます!」
こうして、健康講習会が始まろうとしていた。
●事務の裏方
「おかしいなー」
H.O.P.Eの事務員は、首を傾げる。
「どうも、パソコンの調子がおかしいんだよな」
「あら、パソコンの機種を変えたばかりじゃない」
パソコンに詳しい女性職員が、事務員が手こずっていたパソコンを見やる。そして、大いに眉をしかめた。
「これって、ウィルスに感染してるじゃない!!」
「えー!!」
「すぐにウィルスを駆除しないと!! というか、このパソコンで何を制作したの!!」
「まだ、健康診断の結果ぐらいしか作ってないです」
H.O.P.Eの事務室は大騒ぎとなり、健康診断の結果がウィルスによってめちゃくちゃに書き換えられているかもしれないという懸念は後回しにされた。
解説
健康診断の結果が悪かったので、普段の生活の様子を再現して医者にチェックを受けてください。
場所(12:00)――H.O.P.E支部の会議室および調理室。会議室は睡眠チェック用に、ベットなどが置かれて寝室風に改造されている。
・調理チェック(調理室)――あなたが毎日作っている料理の塩分濃度やカロリーを職員と医師がチェックします。普段作っている料理を作ってください。
・睡眠前のリラックス方法チェック――就寝前に普段していることを再現してもらって、快適な睡眠をとることができているかどうかをチェックします。
・運動――日々のトレーニングを実施し、その様子を職員がチェックします。
・医者による相談――上記のテストを受けた上で、自分の健康についての不安を医者に個別に相談できます。健康面だけではなく、メンタル的な相談でも大丈夫です。
リプレイ
●
「この僕が糖尿病だと……」
御剣 正宗(aa5043)は震えていた。思い当たる節は、山のようにあった。なにせCODENAME-S(aa5043hero001)がお嫁に行ってから、金銭的な都合で毎日がジャンクフードなのだ。この生活に慣れ始めていた正宗にとって、この結果は因果応報という日本の四文字熟語を思い出させた。自分でも健康に悪いと思っていた食生活だった。だが、改められない。だって、色々と面倒くさいから!!
『正宗さんはなにしているんですか! 恥ずかしいと思わないのですか! まぁ人のこといえませんが』
CODENAME-Sは、不眠症と診断された診断書に向ってため息をついた。規則正しい生活を送ってきたつもりだが、やはり結婚して生活環境が変わったことがストレスになったのだろうか。
「やだ……お兄さんの身体……弱すぎ……?」
色々なところが真っ赤な診断書を持って、木霊・C・リュカ(aa0068)は顔を引きつらせていた。診断書をもらったときは「いつもの診断結果だった」と笑ってやり過ごすことが出来たが、呼び出されてしまうと不安は募る。なにせ、三十代。もう若さという魔法が途切れたお年頃なのである。
『酒のせいだな……』
普段のリュカの生活を知っているオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)は、ぼそりと呟いた。
「木霊さんも引っかかったか。俺は……心臓だ。もう歳と言う事なんだな」
麻生 遊夜(aa0452)も深いため息をつく。心臓が悪いと診断書に書かれてしまうとなんだか前の依頼でもちょっと息切れや動機がしていたような――……と思ってしまう。その隣で、ユフォアリーヤ(aa0452hero001)がおろおろしていた。
『……ま、まだ若いから……大丈夫、大丈夫。……んー、でもおかしい……前は健康だった、最近は特に、徹底してた』
料理だって、運動だって、気を付けていたはずだ。
未来の家族のために。
「今は大事な時期だからな、理想に近い生活習慣を維持してた筈なんだが……やはり、歳か」
遊夜は、いまだに健康診断に引っかかったショックから立ち直れないでいた。なにせ、もうすぐ三十代も折り返し地点。色々と健康面が不安になってくるのだ。
「うち、ちゃんと運動もしてるし、めっちゃ健康だよっ」
ほらみて、とばかりに両手を広げていたのは春月(aa4200)である。若いのに健康診断に引っかかってと相棒に小言を言われるのを恐れて一人でやってきた彼女は、診断結果がまだ信じられないようで医者に必死に健康をアピールしていた。
「……ん~………何で……引っかかったん……だろう…」
藤岡 桜(aa4608)は、首を傾げる。
自分は年齢も若いし、引っかかるようなほど体調が悪化した覚えもなかった。
『きっと、辛いものの食べすぎなところですよ』
ミルノ(aa4608hero001)は、ため息をついた。
香辛料を取りすぎて血中の数値がおかしくなってしまったに違いない、と思ったのだ。
『もしかしたら、血液からカプサイシンが検出されたとか……それはさすがにないですよね』
「……それは……もう入院になるのかな?」
ミルノの言葉は冗談だとしても、桜にもそれぐらいしか心当たりはなかった。
「まっ、まさか体重で引っかかるだなんて」
零月 蕾菜(aa0058)は震えていた。
うら若い乙女として、体重で引っかかるなんて恥ずかしくてたまらない。一方で、引っかからなかった十三月 風架(aa0058hero001)は非常に気楽そうに欠伸を噛み殺していた。
『獣基準だからしょうがないな。獣と人間のなんか違うもんな。蕾菜は腹に脂肪がついたのか?』
風架の悪気のない一言に、蕾菜はショックを受けつつもお腹を隠した。プニプニはしていないと思うけど、見られたら恥ずかしい。
「母様、悪いところがあるのでもう一度、と言われてしまいました。僕、どこが悪かったのでしょうか?」
アトルラーゼ・ウェンジェンス(aa5611)は、顔を曇らせていた。もしかしたら、重い病気で自分の母の手を煩わせて仕舞うかもしれないと思うと暗い気持ちになってしまう。一方で、エリズバーク・ウェンジェンス(aa5611hero001)は怒りに燃えていた。
『アトルが健康診断で引っかかるはずがないでしょう? 先生に確認してみましょうね』
笑顔で我が子の頭をなでつつ、声は決して笑っていない。モンスター・ペアレントここに極まれりである。
『食べて運動して、十分寝ているはずなのに、何故か眠りが浅いらしくてなぁ』
桜宮 飛鳥(aa2427hero001)は首を傾げる。
睡眠は英雄の活動に支障きたさないはずだが、心理的なものなのか疲れが残るような気もしている。
「最近寝不足っぽいですよね。無呼吸症候群という病気がありますから、それでしょうか?」
雪峰 楓(aa2427)は、テレビで聞きかじった程度の知識だがと念を押す。
「なんでも、無呼吸症候群になると寝ているのに疲れがとれないそうです。症状は、ぴったりあっていますね。本当に寝ているところを見ていないと診断が難しいそうなので、録画映像を先生に提出しておきました」
楓は、うっとりと飛鳥の秀麗な面を見つめる。
寝不足で気だるげな飛鳥も素敵だが、やはり愛しい人には健康でいて欲しい。
「うーん、腰痛とかかれておるのじゃ。だが、わらわは歳の割には健康なほうだと思うがのう」
ヴァイオレット メタボリック(aa0584)は、無意識に自分の腰を「とんとん」と叩いていた。その仕草を見ていたノエル メタボリック(aa0584hero001)は納得したように、深く頷いた。
『おぬしの体では、どこで引っかかっても不思議はないべ』
なにせ、二人とも見た目だけなら高齢者である。
「健康診断で引っかかるとは情けない……」
紫 征四郎(aa0076)は、とても深く落ち込んでいた。だが、ユエリャン・李(aa0076hero002)は余裕の笑みを浮かべていた。
『我輩、分かったぞ。なぜ、今回の健康診断に引っかかったのか』
ユエリャンは、胸を張って答えた。
自分が不健康である、と烙印が推されたとは思えないほどであった。
『バリウムの一気飲みが原因に違いない。木霊と競ったのだが、飲み方は我輩の方が格好良かった』
自信を持ったユエリャンの一言に、征四郎は思わず床に崩れ落ちてしまった。自分の知らないところで、英雄が子供じみた競争をしていたのだと思うと恥ずかしくてたまらない。
「はい、では皆さん。生活指導を始めますよ!! まずは、普段作っているものを再現して塩分やカロリーを調べます」
H.O.P.Eの職員の言葉に、一同はぞろぞろと調理室へと向うのであった。
●料理で健康
調理室にチーズハンバーグ、チキンサラダ、野菜スープ、パン、といった洋食が並ぶ。綺麗に盛り付けられたそれらに、エリズバークは大満足していた。
『この年齢に必要な栄養素に運動量も考えた完璧なバランス。彩りも考えた食卓。何の問題もないでしょう?』
子供はタンパク質やカルシウムが大事ですものね、とエリズバークは続ける。
「母様のご飯はいつもとても美味しいです」
ハンバーグの臭いを嗅いだせいか、アトルラーゼのお腹が食事時でもないのに「ぐぅ」となった。関係がないのにヴァイオレットの腹もなる。ちなみに彼女の食事は営んでいる孤児院のものなので、そちらを提出してもらっている。
「親が子供を思って作る手料理とは良いものじゃのう」
『子供にとっての一番のご馳走だべ』
ヴァイオレットとノエルの言葉に、エリズバークは鼻高々であった。
「提出でもいいなら、昨日作った物でいいですか?」
『まあ、妙な物は食べていないと思うが』
楓はタッパにいれて持ってきたおかずを並べる。
牡蠣とひじきの炊き込みご飯、レバニラ炒め、あさりの味噌汁、アボカドサラダと言ったおかず類が並べられる。極普通の献立に見えるが、新婚であるユフォアリーヤとCODENAME-Sは気がついてしまった。このメニューは旦那さんを元気にするためのメニューである、と。
「昨日のお夕飯です。ちょっと奮発しちゃいました!!」
『おかげで素振りが捗ったな』
二人は朗らかに答えるが、果たしてそれだけだったのだろうか、とユフォアリーヤとCODENAME-Sは考えてしまう。気がつかない遊夜は、何をつくろうかなと思い悩んでいた。
「いつもは煮物や鍋物が多いだろうか? 大量に作るのが楽だからな」
『……ん、あの子達……良く食べるものね』
遊夜は、いつも作ってもらっているものを指折り数えながら思い出す。
「28人分、あとは出来る限り年齢に合わせて栄養を考えて作らねばならない! カレー、シチュー、グラタン……焼き魚、煮魚、ホイル焼き……」
『……ん、から揚げ……照り焼き、エビフライ……あとは、コロッケと……ハンバーグ? 丼物以外では基本ご飯とみそ汁付きだから……』
「そうだな、ご飯とみそ汁……今回は肉じゃがだろうかね」
人数が多いので、おかずの少なさは量でカバーする。
普段どおりに肉じゃが作っていたユフォアリーヤの手を遊夜が突然に止めた。
手には、砂糖。
いつもどおりの目分量だが、健康診断で引っかかったあとだと多めのように思えてならない。
「……もしかして、これが原因か?」
『……んー、問題ないと思うけど』
白米には甘めの味があうのだ、コレぐらいは普通だと思うユフォアリーヤであった。
非常においしそうな臭いが漂う中で、異質な臭いが混ざりつつあった。
『料理すれば良いのかね? 変わった健診であるな。作るのはサイコロステーキにしよう』
普段はキッチンに入らないはずのユエリャンは、楽しそうに肉に香辛料を振りかけて焼いていく。レアが良いな、と呟きながらイグニスで燃やしていた。そう、焼いていたのではなくて燃やしていた。
出来上がったものは――炭であった。
絶対に体に悪い。
『油も落ちてヘルシーである』
えっへん、とユエリャンは胸を張る。
炭なのに、出来栄えには大変満足しているようである。出来上がった食事をチェックしていた医師は震えていた。こんなものを毎日食べたら、死んでしまうだろう。
「な、何故ユエに料理をやらせたのですか……!! 普段料理してるのはユエじゃ無いですから!! ね!!」
お願い信じて、とばかりに征四郎は医師に願った。自分たちの食卓は、こんなにもワイルドではない。
「見た目も、そんなに悪くはないと思うんですけど……」
ユエリャンが作ったと言われたら信じてしまいそうな料理を提出したのは、蕾菜である。少しばかり照れながら差し出したのはご飯、卵焼き、きんぴらごぼう、肉巻き野菜、温野菜、お味噌汁と一般的なお弁当風のメニューのはずだった。
材料的には。
だが、できあがったのは泥みたいな何か。
医師が「これを毎日食べているのか?」という顔で蕾菜たちを見る。
『まぁ、見た目さえ無視すれば味は良いから安心してください』
風架はフォローを入れるが、見た目が最悪すぎたために医師の顔も白くなっている。どうやら、直視しているだけでダメージを受けているらしい。
「一応今日は作りましたが、いつもはきんぴらごぼうなんかは作りおきしてる常備菜ですね」
これが、冷蔵庫にいつもあるのか!
医師は、唾を飲みこんだ。風架の家の冷蔵庫には、悪魔が眠っているに違いないと思われたのであった。
『さすがに、今回はそれを引っ込めたほうがいいですよ』
ミルノの心配をよそに桜がテーブルに並べたのは、トリニダート・モルガ・スコーピオンを主軸にした激辛珍味料理である。隣には一般的な和食が並んでいるだけあって、真っ赤な皿の違和感がすごい。
「お医者さん……食べてくれないかな」
『今回は、塩分濃度とか機械で測るだけのようですね』
桜は残念そうだが、下手をすると死人が出ていたかもしれない。トリニダート・モルガ・スコーピオンは世界一辛い唐辛子なのである。
一般的ではない料理ばかりを見てきた医師が、真っ赤な皿を見つめる。そして、首を振った。なんだか、全てをあきらめた顔だった。
『こっ、これはいつもの料理じゃないんですよ。いえ、いつものはこっちなんです』
ミルノは、日本食のほうを前面に押し出す。
「研鑽で……いつも作ってるよ」
悪戯の研鑽で、という意味合いなのだが桜は言葉が足りない。
ミルノは普通の和食を押すが、医師は信じてくれなかった。こうして、ミルノたちはいつも激カラ料理を食べている人たちというレッテルを貼られることになったのだった。
「毎日作ってる料理とかは無いかな。和食が多めではあるかも」
リュカも料理を提出する。作った料理は、味噌汁、野菜炒めといった簡単なもの。女性陣が作ったものと比べると華やかさに欠けるが、男所帯だと思えばそれなりに栄養バランスが整った食事ではある。
『……依頼の時は外食が多いが、その時は栄養バランス云々は考慮してないな』
「たまにはいいの。たまには」
オリヴィエは、ぎろりとリュカを睨んだ。
忘れているのか、とでも言いたげな表情であった。
『夕食はこれだがリュカはこの後に、必ず1瓶は酒を空ける』
今回の健康診断で引っかかったのは、絶対にそのせいだと言わんばかりの表情であった。だが、リュカは(本人だけは可愛らしいと思っている角度で)首を傾げて、女性アイドルのように顔のラインに拳を沿わせる。
「肝臓の数値は悪くないもん!」
お酒は大人の楽しみである、とリュカは言う。まったく生活というか飲酒状況を改めるつもりはなりようだった。
「正宗さん、男性だけの家庭でもあれほどちゃんとしたご飯を作っているんですよ。ちゃんと自炊していください。健康のためです!」
CODENAME-Sは、正宗が提出したご飯に怒っていた。正宗が出したのは、某ファーストフード店の新商品。昨日の夜ご飯だという。
「……えすちゃんがいなくなってから……出前が多くなって……手持ちが少なくなったからハンバーガーに。……結構、美味しい」
いいわけじみた正宗の言葉に、CODENAME-Sはあきれてしまった。正宗は普段の食事をないがしろにしてしまうタイプらしい。ちなみに、新妻らしくCODENAME-Sの料理は非常に手の込んだ美しいものだった。ヘルシーな日本食で、塩分も控えめである。旦那への愛がこもっている品々だ。
「えすちゃんが……作ってくれれば」
『ダメです。私にはすでに家庭があるんですから。リュカさんたちだって、自炊しているって言うのに』
正宗は、ぐうの音も出なかった。
『正宗さんだって、作ろうと思えば野菜炒めぐらいはできるはずです!』
CODENAME-Sの言葉は正しい。だが、どうしても普段はダラけてしまって作れないのだ。それにハンバーガーも美味しい。
「んっん~~、うちも、いつもは英雄が作ってくれるんだけど、一人の時はこんな感じかな」
春月は、茹でたパスタにオリーブオイルと塩を振り返る。あまりのシンプルさに、医師は目をむいた。
「他はね、ご飯を炊いて、納豆で食べる! 納豆食べとけばOKだよね! 包丁は面倒くさいから使いたくないよね!」
仲間仲間、と言いながら春月は正宗の肩を抱く。正宗は、非常に複雑な顔をしていた。
医師は、そんな二人にため息をつく。
「正宗さんは、ハンバーガー生活を改めてください。春月さんは、ちゃんとパスタに具をいれること」
えー、と春月は不満を表す。
自分の食生活が乱れていることを自覚している正宗は、何もいえなかった。
●運動で健康
普段の運動は何を行なっているのか。
そう医者に尋ねられたとき、蕾菜たちはいきなり組み手をはじめた。開始してから五分もたたないうちに蕾菜は地面に転がり、医者は唖然とする。
『いつになったらまともに受けられるようになるのか』
転がる蕾菜に、風架はため息をつく。
「風架、さん、の……ケホォ……本気の、出し方に……よります……ハァ」
『自分の本気が受けられるようにならないと意味がない』
風架の言葉を聞きながら、蕾菜は立ち上がり再び拳を握る。
『もう一度か?』
「いいえ、私が動けなくなるまでです!」
風架に稽古をつけてもらう光景に、征四郎は目を輝かせていた。基本的にいつも一人で基礎トレーニングをしている彼女にとって、一緒に修行している蕾菜の姿は羨ましかったのだ。
「征四郎のタンレンは、まずは体操! 続いて素振り100回! 兎跳び100回! そして走り込み、階段駆け上がり往復50本! 剣の道は1日にして成らず、タンレンは日々弛まずやること!」
そのとおり、と飛鳥は頷く。
『私も風呂に入る前に素振りしている』
「それを観戦するのが日課です!!」
楓の言葉に、ユエリャンは「分かる」と深く頷いた。
『大体、汗かくと化粧が落ちる。絶対やらぬし』
楓とユエリャンの間には、深くて暗い言葉の溝があったのだが本人たちはそれに気がついていなかった。
「ユエちゃんも一緒に夜のウォーキングに行こうよ。いいお店を見つけたんだよ」
健康診断の場で友人を飲みに誘うな、とオリヴィエはリュカをたしなめる。
『俺だけだが、依頼の無い、日は、走り込みと、基礎的な筋トレは、行ってる。たまに、征四郎と被る時はある、な。……英雄だし、身体に変化があるかは、わからないが。気分的なもの、だな』
オリヴィエの言葉に、ヴァイオレットとノエルは頷きあう。
『続けることが大事だす。おらたちは休んだら、何十年分も歳を取っちまうような気がするべ』
「この歳になると毎日の肉体的なトレーニングは欠かせぬのう。生身の部分を鍛えるイメージトレーニングや左腕だけの腕立て伏せ、体幹を鍛える体幹トレーニング。子供たちとの知恵比べも面白い脳トレになるのじゃ」
『子供は発想が自由だべ。たまに負けてしまっているべした』
孤児院にいる子供たちを思ってか、ヴァイオレットとノエルは穏やかに笑いあった。
桜は普段の自分の生活を振り返る。
「私も普段やっているのは……ストレッチと基礎運動ぐらいかな?」
『平均的な運動量ですよね』
ミルノはうんうんと頷いた。
『子供は遊んでいるだけで、かなり運動しますものね。アトルも普段から、元気に遊んでいます。子供は風の子。男の子はちょっとぐらいやんちゃなほうがいいって言いますけど、アトルは本当にいい子で。もちろん、運動神経も抜群ですよ』
エリズバークは我が子を褒め称えながら、にこにこしていた。
アトルラーゼも母の顔を見ながら、元気よく頷く。
「うん。僕も運動大好きです! 母様と一緒だともっと楽しい!」
「うちも運動は大好き! 毎日ダンスしてる。なにやる? ムーンウォーク? ロボットダンス!? このさい盆踊りでもいいよっ!」
見てみて、と春月は得意のダンスを披露し始める。
その様子に、子供はどこでも元気だなと遊夜は笑っていた。
「俺はトレーニングは孤児院の日曜大工で作ったアスレチックを利用してるんだが、ガキ共も遊べるような作りにしたから結構好評でな。今度、遊びにくるか?」
『……ん、友達が増えるのは大歓迎』
ユフォアリーヤの言葉に、アトルラーゼや春月は目を輝かせた。
そんな元気な子供の声を聞いて、罪悪感を抱くのは正宗である。最近、ちょっとばかり仕事量が減ってニートのようにダラダラすごしていた。これがCODENAME-Sに知れたら、また小言の嵐である。
『予想できていましたが、運動のほうは皆さんも問題なさそうですね』
CODENAME-Sは正宗の生活を知ってかしらずか、にっこりと彼に微笑みかけた。
●問診と睡眠
寝室風に改造された個室に通され、医者に「健康について不安はありませんか?」と尋ねられる。ユエリャンは、微笑みながら目を細めた。
『強いて上げるなら我輩の美しさが罪すぎるところ……か』
「脳のCTをとりましょうか。場合によっては精神科のほうの受診をお願いします」
冗談の通じない医者にCTの予約をとられてしまったユエリャンは唖然とする。
『我輩は美しすぎるだけで、別に病気は……』
「無いも無いならそうといえば良いのに」
征四郎も医者に、ちゃんと眠れているかどうか尋ねられる。
「お布団に入ればすぐ寝れます。パジャマに着替えてベッドに……人に見られているのは少し恥ずかしいですね。えーっと、寝る前には本を読んだり、ですね。ぬいぐるみと一緒にベッドに入ったり、します。ぬいぐるみはイルカで、オルカという名前……ふおお、そういうの書く必要は無いと思います!」
医者とユエリャンは、征四郎の可愛らしい日常に思いをはせていた。
「だいたい本来レディの寝室は立ち入り禁止でありますので!」
『ヌイグルミの名前をつけてしまうのは、お子様であるとおもうぞ?』
ユエリャンの言葉に、征四郎は顔を真っ赤にした。
「では、次のかたどうぞ」
医者は、こんな感じで診断は進むのだろうと思っていた。
甘かった。
「ええ……んっん~~……特に心配事…ないけど……。あ、英雄に色々雑だって心配されてんだけど、別に雑じゃないと思うんだよ……。なんかちょっと、女性に夢見てんじゃないかい? って思わないかい?」
春月に、ココにはいない英雄の相談を受ける。
医者が答えられる分野ではなかった。
「私は睡眠の三十分前は……携帯や読書で悪戯に使える知識の検索をしているよ。ところで……ミルノの人見知り……直せるかな?」
『なぜ、私の話題を振るのです! 今は、関係ないですよね』
ミルノの言うとおり、桜の質問も医者が答えられる分野ではなかった。
「えっと……ダイエットってどうすればいいんでしょう……。今回の診断結果は、その体重が……体重が……」
恥ずかしくていえない、と蕾菜は耳まで真っ赤にした。
「せめて……夏までには戻したいんです。その、海とかにも行くかもいれないですし」
乙女らしい悩みであったが、医者は「急激なダイエットはいけませんよ。食事を抜いたりとか」とアドバイスをするしかなかった。
「最近ちょっとお腹がふにふにし始めて……下腹ぽっこりはお兄さんとして駄目かなって……」
リュカは今日一番真剣な顔で、医者に尋ねる。
「あなたは、運動とお酒を止めることですね。消費カロリーのわりには、飲みすぎです」
そして、一刀両断された。
「そんな……寝る前にくいっとやるのが楽しみなんだけど」
「でしたら、運動してください」
「僕は寝るときは抱き枕を抱いて、寝るんです。小さいときに母様が作ってくれたのです。子守唄も歌ってくれます」
可愛らしいアトルラーゼに反して、殺意がにじみ出ているエリズバーク。
『……私が仕上げたアトルにケチをつけようなんて…。ポンコツの目は抉って差し上げようかしら?』
小さな声で、内心がにじみ出ていた。
命の危機を感じた医者は、診断を切り上げた。
「リラックス方法はお風呂入ってから音楽鑑賞かな?」
やっとまともそうな人たちがきた、と医者は内心ガッツポーズをする。
遊夜はそんな医者の内心などしらずにソファーにゆったりと座ると、ユフォアリーヤを手招きした。そして、慣れた様子で抱きかかえる。流れる音楽は自然から発せられる雨や川のせせらぎ。
「こうしてると幸せ噛み締めれるんだよな」
『……ん、抱き抱えられてると……安心する』
眠くなっちゃう、とユフォアリーヤは欠伸をかみ締めた。
『いつか……三人で過ごせたらいいね』
「そうだな」
つい何時もの通りにユフォアリーヤをなでていた遊夜であったが、医者がいることを思い出して我にかえった。
「俺達の、リラックス方はこんな感じかな」
『……ん、ちょっと耳が赤い?』
「気のせいだ」
何時もの営みを見られてしまって、遊夜はガラでもなく少し照れていた。
『最近、睡眠が浅くてな。疲れがとれずらいような気がするんだ』
「無呼吸症候群じゃないといいんですけど」
飛鳥と楓の相談に、医者は困っていた。無呼吸症候群疑いであったこの二人には寝ている風景をビデオにとって提出してもらったのだが、その内容は――寝ている飛鳥に楓が寝ぼけて絡みついていたというとんでもないものであった。そのうえ、楓は「……んぅ。飛鳥さん……。ハァハァハァ……」と飛鳥の耳元で、涎をたらしそうなほど興奮していた。粘着質のストーカーもびっくりするほどの変態的な映像だった。
「あらやだ……。飛鳥さん……××だなんて……」
ものすごーく幸せそうな楓と悪夢にうなされているようにしか見えない飛鳥。
これが毎日続いているのだったら、寝不足にもなるだろう。
だが、これはあくまでもプライベート映像である。健康を著しく害しているわけでなければ、医者はあまり深くは突っ込めない。
「……他人の寝息などが気になるとうでしたら、お部屋をわけたらどうでしょうか」
医者には、コレが精一杯の助言だった。
『うーん、部屋数に問題があってな。あまり好きではないが、たまに幻想蝶に引っ込んでみようか』
とりあえず、これで飛鳥の不眠問題は解決できた。
『忙しいんですよね。夫や夫の英雄のお世話やアイドルの仕事や練習もありますから。最近、自分でもちょっと寝不足かなと思っていまして』
CODENAME-Sの言葉に、正宗は罪悪感を抱いていた。何時も忙しく、睡眠時間まで削っているらしいCODENAME-S。それに比べて自分は、グータラ生活である。
「共働きでしたら、ご主人と家事を分担したり、ご家族に手伝ってもらうことも考えてみてください。忙しすぎれば体を壊しますから、何事もほどほどにが大事ですよ」
医者の言葉に、CODENAME-Sは若干不満げであった。家庭も仕事もきちんと両立したいと考えているのだろう。
「できれば……僕の世話も……やってほしい」
正宗の意見は、医者とCODENAME-Sの双方に却下された。
――大人なんだから、自立しなさい!
それは、とても美しいユニゾンであった。
「わらわは老婆になったのはごく最近の事ですぢゃ。ぢゃからのぉ、たまに何者ぢゃったの分からなくなるのですぢゃ」
ヴァイオレットはとても真剣な表情で、医者に相談していた。英雄のノエルは本人の希望もあって、診断室には入っていない。
「今更戻るなどできませぬ。あと、最近記憶力が下がってきた気がするのぢゃ。たまに物の名前を思い出せぬ時もありますのでのぉ。頭の機能に何も問題がないか心配でのう」
ヴァイオレットは自分の体を愛しそうに抱きしめる。
「わらわは、この姿の方がふさわしい姿なのぢゃと思うぞよ。子供の頃から知識欲があり年寄りみたいだと言われておったし。しかし、やり過ぎた気持ちもありますのぢゃ……」
後悔というわけではない、と最後にヴァイオレットは口にする。穏やかだが気丈な雰囲気を身にまとうヴァイオレットが見せた弱さに、医者は少しばかり考えた。
「あなたも脳のCTを取ってみましょう。もしかしたら、アルツハイマーの可能性があります。心理的な負担は私ではどうにもならないので、一応精神科への紹介状だけ書いておきますね」
受信するかどうかはお任せします、と医者は言う。
アルツハイマーという病名に、ヴァイオレットは少しばかりショックを受ける。しかし、自分の症状と病名はぴたりと一致していた。
「これも主の試練かのう。わらわが乗り越えるべき、ミッションなのじゃ」
ヴァイオレットは、一礼をして病室を去っていった。
そして、最後にドアを開けたのはオリヴィエであった。
『英雄は眠らなくても良い……が、その、最近は、……疲れたら、か? 横になったら、すぐ、意識が飛ぶ……油断とか、慢心とか、かも、しれないが』
オリヴィエは睡眠をとる、と言うこと事態を後ろ向きに捉えているようであった。
医者は「もう少しリラックスすることを前向きに捕らえてみてください」とアドバイスする。休息は誰にだって必要である。
『あと……その…友人の、話なんだが』
ものすごく言いにくそうに、オリヴィエは視線をそらす。
友人の話と前置きされるものは、十中八九自分自身のものであろう。
『……その……好きな奴の、顔が、見れない、と』
「――」
医者は思った。
それも医療の分野ちゃうねん、と。
数十分後、パソコンがウィルスに感染しており健康診断の報告が誤報であったと報告がくる。それまで医者は、オリヴィエの恋愛相談を受け続ける羽目になったのであった。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
---|