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グロリア社主催、楽しいお花見3

鳴海

形態
イベント
難易度
普通
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
38人 / 1~50人
英雄
32人 / 0~50人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/05/08 12:06

掲示板

オープニング

● 今年も桜の季節ですね
「まいったわ……」
 遙華は自室から西大寺邸の庭を眺めていた。
 久々に実家に戻ってみれば庭には人の群。桜は満開。
 おじい様にドレスに着替えてきなさいと諭され春に合うドレスはどれか眺めている最中だったのだが。
 まさかこういうことだとは、2日徹夜した頭では思い至るのが遅すぎた。
「まさか、私のお花見イベントが乗っ取られるなんて」
 そう、西大寺邸で毎年行われていたお花見イベント。今年から正式に西大寺グループが取り仕切ることになったのだ。
 たしかそんな話をロクトがしていたのだが。あまりに忙しくて忘れていた。
「ああ、日の光が目に刺さっていたいわ」
 何やら久々に本家に呼ばれたかと思えば、この仕打ち。嵐のような業務で荒みきった遙華は胸中穏やかではない。
「今年も私がやろうと思って招待状も書き換えたのに」
 そうため息をつくと遙華は鏡の前に突っ伏す。
「うう、ジンギスカンがたべたい」
 何より、焼き物が無いのが遙華にとって納得できない点だった。
「もう! おじい様、センスがないわ!」
 珍しくおてんば娘の様なセリフを吐いて、遙華はドレスを翻す。おじい様の威光にはまだ逆らえない遙華であった。
 

● 油性ペンで会場が書き換えられた招待状
 
 皆さんいかがお過ごしかしら、西大寺遙華です。
 今年も西大寺邸の庭は桜で満開よ。そこで皆さんを招待して今年もお花見をしたいと思ってるわ。
 普段の疲れをねぎらうグロリア社からのサービスだと思って気軽に参加してね。
 お友達も誘ってぜひともみんなでいらしてね。
 場所は!”#%&’&%$
    お迎えのバスに乗ればわかるから! よろしくね。


● 今年もお花見

《会場》
 今回はとある山奥のお花見会場を抑えています。
 遙華は今回以前リンカーたちに掘ってもらった(広告塔の少女~大発掘霊力温泉~)温泉地にて、一泊二日の花見温泉旅行です。
 桜は遙華の私財で植えました。きちんと咲いてよかったです。
 満開の桜の木を下から、上から様々な角度でライトアップしております。
 朝から晩まで続く宴会、途中退出、途中入場どちらもありです。
 また、どこかにロクトが趣味でこしらえたバーがあります。利用してみてください。

《たべもの》
 例年のごとく持ち込みスペースと、グロリア社スペースがあります。
 持ち込みスペースは温泉地帯の真ん中で皆が持ち寄って食べられるようになっています。
 ここにドリンクスペースもあり、お酒、ソフトドリンクはたいていの種類があります。
 難しいお酒が欲しいのであればロクトのところに行きましょう。
 食べ物はジンギスカンをメインに、お寿司やから揚げや卵焼きと言った、お花見にふさわしいものがそろっております。

《温泉施設》
 前回リンカーたちが施設を充実させていってくれたのでかなりの施設があります。
 ミストサウナ。バンガロー、竹林の中の秘湯。山奥の絶景スポット。
 温泉には全裸で入れないので、最低でも水着で入ってください。服を着て入る分には今日はOKです。
 水着が無ければ貸出しますので。
 また宿泊施設も、二十人以上泊まれる大部屋から、二人きりになれる小部屋までそろえています。お好きな部屋をチョイスしてください。


《ルネだよ!》
 今回、前回の戦いで救出したルネという英雄が参加しています。
 彼女は歌を謳うことが大好きで、自分で曲を作ったりしているのですが。
 皆さんに曲の題材を提供してほしいそうです。
 なので談笑したい人はルネのところまで行ってみてください。
 ルネが聞きたいのはこんなこと。
・ 今年一番の忘れられない思い出。
・ 英雄との楽しいエピソード。
・ 大切な人っている? いた? どんな人だった?


《BARカンタレタ》
 温泉施設の一角にロクトが経営するBARがあります。
 カンタレラに入店すると脱水症状を防ぐためにまず水のペットボトルがもらえます。
 花見で振る舞われている酒に飽き。度の強い、バーボン、ラム。リキュール。テキーラ等、お酒!! って感じのお酒が飲みたくなった場合はお越しくださいませ。
 ここではロクト、もしくは誰かとゲームができます。勝つと好きなカクテルをおごってもらえるのですが。負けるとお酒を一気飲みしないといけないのです。
 ゲームは簡単なハイ&ローです。
(ロクトが引いたカードは自分が引いたカードより数字が大きいか、低いか当てるゲーム)

《催し物》
 今回遙華側で何か企画があるようです。
 それについての詳細は下記。

● お手伝い募集
 例年のごとく、一緒にお花見を運営していただくスタッフを募集します。
 これは、カンタレラの運営や、お花見会場での食事、ドリンクの提供などもそうですが。
 お花見に来た来場者を楽しませる催し物をしていただける方も募集します。
 その場合、あらかじめ掲示板などで、自分は何々をやると明言していただけると、その催し物についての反応もあるかもしれません。

● お花見会場でのハプニング
 お花見会場では下記のハプニングが起こる可能性があります。
 ハプニングは希望者にしか発生しないのでプレイイングに組み込んでみてください。

1 服がすり替えられている。
 温泉から出ようとすると服がすり替えられています。しぶしぶあなたはその服を着て会場を練り歩かなければならない状況に陥ります。
 すり替えられる衣装はお好みで。


2 劇薬混入
 誰が入れたのでしょうか。料理の中に自白剤が混ざっています。
 これを食べてしまった人は任意の対象に普段から思っていることを口にしないといけません。
 効果は十五分程度で切れるようです。

3 遙華の実験
 気軽に遙華はあなたに、とあるAGWの実験体にならないかと聞いてきます。
 それに頷いた場合。謎の鋏の様なAGWを装備させられますが。
 これを装備するとステータスが半分になったうえで理性を失い、当たりの人間に鋏で切りかかるようになります。
 その様子を見るたびに鋏を調整して別の人間に装備させようとするのですが。毎かい調節がうまく言ってないので、毎回暴走事件が発生します。


4 アルスマギカの化身
 皆さんはアルスマギカという装備品を知っていますか?
 もともとアルスマギカはグロリア社製のAIですが、今回はそのアルスマギカのロボットが紛れ込んでいるようです。
 そのロボットは二メートル程度のメカメカしいデザインをした二足歩行の人ですが。
 アルスマギカ系の装備、もしくはグロリアス・ザ・バルムンクを持っていると大変喜んであなたを抱きしめることでしょう。


5 温泉変異
 温泉はもともと霊力がふんだんに溶け込んでおり、リンカーに対して疲労回復が見込めるのですが、そのせいで水の質感が変化している温泉があるようです。
 さらには低級従魔も紛れ込んでいるようで、水が触手状になって絡まってきます。
 見つけたら直ちに駆除してください。


解説

目標 お花見を楽しむ。

 年度がかわるということで心機一転、新しく始めるための整理回、もしくは談笑会です。
 皆さんは中のいいお友達と参加されてもいいですし、シングルさん同士で絡んでいただいたりしても構いません。
 そこらへんに遙華がいるので話し相手になっていただいても構いません。
 遙華とロクトの会話フックはこちら。

● 会話フック

《遙華会話フック》
・最近宇宙が熱いのだけど、宇宙で仕事してみる気はない?(宇宙開拓依頼関連)
・グロリア社で新しい事業を展開するとしたら何がいいと思う?
・今度休日に遊びに行かない?(休日の過ごし方やおすすめのお店)


《ロクト会話フック》
・ 私と飲み比べする? 好きなお酒で付き合うけど(好きなお酒、飲みたいお酒の話題)
・ 最近の遙華の仕事ぶりはどう思う?
・ もし私がいなくなっても遙華の事お願いね。


● 夜には流星群
 ライトアップされた花見会場ですが、場所自体は山奥にあるので星は綺麗に見えます。
 そして今日はちょうど流星群のようです。
 流れ星が無数に見えますが皆さんは何を願うのでしょうか。

リプレイ

プロローグ
 『水瀬 雨月( aa0801 )』は遅れて会場を目指していた。揺れる座席、流れる景色、電車を乗り継いて温泉地まで向かうその少女の手には招待状が握られている。
「…………会場が変更になったのかしら? 遙華が書き間違えたという線もあるのだけど」
 向かう先はかつてリンカーたちが開拓した温泉村。
 そこではすでに花見と称されたどんちゃん騒ぎが催されている。
(お花見会場についたはいいけど……。どうしようかな……)
 そう立ち尽くすのは『黄昏ひりょ( aa0118 )』。
 誰かと示し合わせての参加でない為、行動に迷っているのだ。 
 そんなひりょの手を引くのが『フローラ メルクリィ(aa0118hero001 )』。
 遙華の姿を見つけると一緒に受付業務を手伝うことにした。
「助かるわ」
 そう告げる遙華の袖を引く小さな影。
「こんにちは」
 『Alice(aa1651hero001 )』と『アリス( aa1651 )』は同じ動作でぺこりと頭を下げる。
「招待ありがとう」
「「よろしくどうぞ」」
 そろえた声のトーンは全く変わらずエコーがかかっているようだった。それに対して遙華は笑顔で「来てくれてありがとう」と言った。
「まぁ会場は書き換えられていたようだけど」
「そ、それはいろいろあってね」
 むしゃくしゃしてやった、後悔はしてない。
「というわけでお花見旅行のお時間よ! 全員集合!」 
 そう遙華の背後で告げたのは『雪室 チルル( aa5177 )』。
 何事かと集合してしまう遙華。
「時期的にはもう葉桜だと思ってたけど、まだまだ満開なんだね」
 『スネグラチカ(aa5177hero001 )』がそう告げた。
「メタい話は結構よ! さ、目一杯楽しもう!」
「おっけー! 温泉もあるみたいだし楽しみだね!」
「ええ、ぜひ楽しんでね」
 そんな風に告げる遙華はチルルにパンフレットを手渡した。そんな会場入り口を多くのリンカーが通過していく。
 『迫間 央( aa1445 ) 』や『マイヤ サーア(aa1445hero001 )』、『斉加 理夢琉( aa0783 )』と『アリュー(aa0783hero001 )』は理夢琉のアイドルライブがあるため控室に直行し。
 桜を見あげながら歩いていた『餅 望月( aa0843 )』は石に躓いて転びそうになっていた。
 その体を『百薬(aa0843hero001 )』が支える。
「今年もお花見会だよ」
 百薬が告げると望月は手の中の花びらを近くで湧きだしていた温泉の湯だまりにはらりと投げ入れる。
「お花は、ちょっと山に行けば満開だったりするよね」
 眺める山並みは桜色。それだけ見ていても風情があるというものだ。
「温泉もちゃんとできて良かったよね。記念に衣装準備して餅つきでもしようか。
たまにはパンダかな」
 なぜパンダなのか。突っ込みどころではあるがその程度では動じない百薬は。
「着ぐるみって汗かかないの?」
 そう人だかりの中に知り合いがいないか眺め告げた。
「汗かいたらまた温泉行くし、だいじょうぶ」
 先ずは腹ごしらえ。そう飲食エリアに向かう二人。
 そこには肉を頬張る『ユフォアリーヤ(aa0452hero001 )』の姿もあり 『麻生 遊夜( aa0452 )』が隣でその体を支えるように寄り添っていた。
「今年も無事参加出来たな……うむ、桜も満開で良い感じだ」
「……ん、頑張った甲斐……あったねぇ」
 参加者もそろいつつある、開会式の時間が迫り遙華は中央のステージに上った。
 初の一拍二日のお花見である。ぜひとも楽しんでほしい。
 そう告げる遙華は晴れやかな笑顔を浮かべていた。


● 花びらと湯煙

「ああ、見事な桜だ」
 『レイオン(aa4200hero001 )』はグラスに落ちた花びらをそのままにグラスを傾けた。隣ではしゃぐ『春月( aa4200 )』を笑いながら眺めてその言葉一つ一つに返していく。
「うわー、豪華なお花見だねぇ。どこ行く? 何する? 温泉かな、でもまずはご飯だよね!」
 会場に多々酔うのは硫黄の香りだけではなく、肉が焼ける香りと音。それに持ち込み料理もあるらしい。ブースに歩み寄れば皿を差し出される。
「そういやさ、レイオンってお酒飲めるのかい? 飲んでるとこ、見たことないんだけど」
 春月がそう問いかけた。その言葉にレイオンはひりょを呼び止めてアルコールをいっぱいいただく。
「春月が二十歳になったら、一緒に飲もうか」
 そう意味深な言葉を残して、それで済ませるレイオン。
「お、いいねえ、そんでさ、なんか気になる人の話とかしてさ。そうだよ、レイオンなんか気になる人とかいないのかい、どんなタイプが好き?
 あそこにいるクールビューティーとか、あの人なんてすごいお洒落だし」
 ニヤニヤしながら周りの女性を挙げていく春月、それに対して意見を述べていくレイオンだが、なかなかメガネにかなう人はいないらしい。結果ただの人間観察になってしまう。
「どうしたの春月……。もしかしてお酒飲んだ?」
「飲んでないよ!」
 そんな二人の楽しげな姿を尻目にひりょはアルコールを追加したトレイを持ち上げる。
 それに対してフローラが告げる。
「ひりょってやっぱりなんていうか……うん」
 苦労を背負いたがる傾向あるよね~というフローラのまなざしを受けつつも、ひりょはそれに苦笑いを返すことしかできない。
「これも性分だから」
 告げると『煤原 燃衣( aa2271 )』にグラスを手渡すひりょ。
「御苦労様です」
「いえいえ、これも楽しいから」
 そしてひりょはフローラを振り返って告げた。
「誰かの為に動いている時は他の事とか悩んでる事とかそういうのを考えないで済むしね」
「ああ、そうさ、そうだな」
 そんな言葉に頷く声が聞えひりょが振り返るとそこには『ナラカ(aa0098hero001 )』が立っていた。
「この場に試練は不要、乗り越えた者達には相応の祝福が齎されるべきだろう、君もそう言うことが言いたいのだろう?」
「いや、そこまで大それたことは……」
 そうひりょは苦笑いを浮かべる。
 そんな不敵に笑う少女に対して歩み寄る少女が一人。『卸 蘿蔔( aa0405 )』である。
「ナラカちゃんはお酒はだめですよ、まだ二十歳じゃないんですから」
 そうナラカを持ち上げる蘿蔔。
「いや、私はうんざりするほどの時を生きた神鳥で……」
「それよりほら、コーラフロートもありますよ、あっちの方が美味しそう」
「それには同意するがね」
 そんな姿を遠巻きに眺めている『八朔 カゲリ( aa0098 )』と『レオンハルト(aa0405hero001 )』である。
「カゲリが花見に来るとは思わなかったよ」
 告げるレオンハルトにカゲリはそっけなく告げる。
「桜自体は嫌いじゃない。思うところもある。だがレオンハルトの言うとおり、乗り気ではなかったな」
 単純にナラカに引っ張られてのことだ。蘿蔔が……というのもないわけではないかもしれない。
 ただもともと人の輪に入るのは得意ではない。このまま人と桜を眺めているのがいいと思った。
 咲き誇る笑顔もあるわけだし。
「じゃあ、二人は任せたから」
 告げるとレオンハルトは鞄を背負い直して背を向ける。
「子供二人の相手を押し付けていくつもりか?」
 そのカゲリの冗談? に笑いながら手を振るレオンハルト。
「たまには遊興の時間もいい」
 ナラカが蘿蔔に抱きかかえられたまま告げる。
「はい?」
「でなくば誰も前に進みたいなどと思わぬし思える筈もない」
「あ、はい、そうですね!」
 その視線の先にはルネという少女がいた。
 その少女にしきりに話しかける燃衣の姿も、子供の表情のように輝いている。
「よし、あそこに突撃しようか」
 告げると蘿蔔が悲鳴をあげた。
「え! わたし若干の苦手感が」
「それもまた試練!」
「え~」 
 カゲリは思う。
 一時の平穏を享受して、それを糧に更に進まんと意志を固める
 穏やかな世界を求めればこそ、戦場を駆け抜けた果てにはそれが得られる筈と、そう信じて。

――そうして彼の道が死山血河に染まるのは皮肉と言う他にないのだが。


● 見ることのできなかった桜

 桜の雨にて染られた会場は温泉施設が点在する一角のど真ん中ということもあり、足元にもお湯が流れている。そのお湯が桜を運ぶものだから視界は一面桜色だった。
 その中を『辺是 落児( aa0281 )』と『構築の魔女(aa0281hero001 )』は闊歩していた。桜を楽しみつつ散策をし、食べ物飲み物は軽くつまむ程度で会場を一蹴する。すると目の前に鮮やかな水色のシルエットが見えた。
 ルネである。
 ルネは誰かを待っているのか『無明 威月( aa3532 )』と視線を遠くに向けていた。
 そんな二人に珍しく悪戯心が働いた構築の魔女。
 彼女は幻想蝶からとあるものを取り出すとルネ達の前に並べた。
「うわ、びっくりした」
 眼前におかれていたのはルネの着ぐるみで『まるごとるね』という。
 そのるねが突如喋った。
「会うのは初めましてですね、ルネさん」
「え? あの、だれか分からないので、はじめてかどうかも分からないよ」
 その戸惑う姿を見て、威月の驚きの表情もみて、満足したのか構築の魔女はキグルミの影から姿を現す。
「構築の魔女と言います、ルネさん、グロリア社でこんなものが作られていたのって知っていますか?」
「知らなかったよ、遙華ってば教えてくれたらよかったのに」
 そんなルネを冷静に眺めて構築の魔女は告げた。
「ん~、ガデンツァの身体がベースになったせいかちょっと似てませんね?」
 ピクリとルネの眉が動く。
「そうかな? そっくりだと思うけど」
「これだと消費者からクレームがくるかもしれませんよ?」
 その後構築の魔女が、いりますか? と尋ねている間に燃衣が戻ってきた。
「実は二十歳になりました」
 ほんのり赤い顔の燃衣その燃衣の背後に威月は桜の花びらをまいた。
 集めてきたのだろうか、けなげなことである。
「たいちょ……おめでとうございます」
「ええ、まさか僕が二十歳を迎えられるとは思いませんでしたよ」
 そうしんみりと、祝われる燃衣だが、場の空気がおかしいことを察してルネと構築の魔女の顔色をうかがう。
「どうしたんですか? ルネさん、何か心配事でも?」
「ううん、ちょと心配事を思い出しただけだよ」
 告げるルネ。
「春香さんの事ですか?」
「うん、どこに行ったのかな、危ないことしてないといいんだけど」
 そう告げるルネの表情は暗い。
「きっと急な変化を受け入れられないだけですよ。僕もそうですから」
 燃衣はそれを皮切りにずっと秘めていたルネへの想いや暁の話を話して聞かせる。そして彼方の事。
「暁名物壁丼をお持ちしたんですよ」
「こんなの食べきれないよ!」
 そんなルネを見かけると遊夜も会話の輪に入ってくる。
「麻生さんと麻生夫人さんだね、こんにちわ」
 夫人という言葉に、ユフォアリーヤはやーんと嬉しそうな反応を見せる。
「ふふふ、じゃあ私、今みんなにしてるお話があるんだけど、二人にもきこうかな、大切な人はだれ?」
「「ん」」
 すると麻生夫妻はお互いを指さした。
「どんな人なの?」
 すると二人は首をかしげる。
 普段はこうと思ってても改めて言われると何も浮かばないのだ。不思議である。
「私がいない間にいろいろあったんだね」
「そうだなぁ、三年くらい前だったか?」
「あれから、印象に残った出来事は?」
 それには遊夜がふむと一瞬考え答える。
「あー、一番となると……ドロップゾーン突入直前に妊娠が伝えられたことかね、やっぱ」
「……あれでサプライズの、予定が狂った……ある意味、びっくりさせれたけど」
 依頼は絶好調だったとのこと。
「それはよかったよ、私も少しだけ頑張ったかいがあった」
 告げるルネに燃衣は言葉を返す。
「少しだなんてことはないですよ! ルネさんの歌でいろんなことが変わってます」
 しかし、と燃衣は表情を暗くする。
「ルネさんは『この世界は救う価値がある』と言いました、けれど未だ世は深い闇に覆われていると感じます」
 燃衣のグラスに威月が日本酒を継ぐと、燃衣はそれを一気にあおる。
「その中で救われず世界を呪って死んでいく人が多いです」
 それは救えなかった子供たちもそう。
「そして、そんな人を助けてねと約束をしたんです」
「でもそれは貴方の響きだよ」
「いえ、つながりです。色んな意志を受け継いで色んな今があります」
「その中に私も入れてもらえるなら嬉しい。ねぇ、燃衣さん私も歌を作ってきたんだよ、今日謳うけど、楽譜見てみる?」
 その声に顔をあげた燃衣だったが、隣から現れた『S.O.D.(aa1456hero002 )』がその楽譜を手に取っていた。
 『魅霊( aa1456 )』の体をかりS.O.D.はここにいた。
「るね なる詩人が居るとのことでな。
 懐かしきものと覚えつつ、主の半身を借り会うてみたものよ」
 そして歌詞に目を通すS.O.D.。
「これのなんと軽きこと。『我、生を謳った例無し』と言わんばかりよ。これでは譜が泣こう」
 その言葉に場の空気が一気に剣呑とした。
「嘗て、古き東洋の地に生きた者共も詩を吟じたものであるが。
 それは雄大且つ聡明でありながら、心豊かなものであった。
 彼奴等は身体一つの我を張り、天と地に向かい合うことを是とした。
 その原点にして過程 且つ集大成であったのが、今日までも尚語られ続けている『詩』である」
 告げるとS.O.D.はそれをルネに返す。
「先人共とは些か趣や志こそ異なろうが。
 真に歌を愛するのならば、先ずは謳え。
 そうさな……手始めに、《はるかなる友》の遊興に付き合ってみるのはどうか。
 詞を紡ぐ片手間であっても、そう難しくはなかろうさ― 」
「友達? それは、今ここにいる人たちの事でいいの?」
 その時である。ばりんっとグラスが割れる音が響く。
「あなたが誰だか僕は存じ上げません、けれど」
 燃衣だった。燃衣は威月の静止もきかずにズイッと前に出る。そしてS.O.D.にがんをつける。
「ルネさんの歌をバカにすることは許しません」
「ほう」
 S.O.D.はその視線を真っ向から受けた、一触即発の状況に見えた。
「隊長……騒ぎは……だめ」
 威月がか細く鳴いた、その時である、燃衣が動く、両腕を大きく振りかぶる。そして。
「ルネさんの曲は素晴らし、それを僕があなたに伝える」
 告げると燃衣は一瞬のうちに着替えを澄ましていた。ルネを背負ったはっぴに、光る棒、ルネLOVEの鉢巻。
 燃衣、よっぱっぱモードである。
「希望の音から全部聞いてください、それまで逃げることは許しません」
「希望の音以外私が作ったわけじゃないんだけど」
 そんなルネの声はかき消されてしまう。
 そんなルネに構築の魔女が小さく耳打ちする。
「まだ色々仕込んでいるようですがこれもその一つですか?」
 その言葉にルネは鋭い視線を向けた。
 構築の魔女には予感と算段があった。
 準備が整いきるまで早くて2か月から3か月というところ。
「善性愚神がこのまま敵対してくれればいいのですけど状況は予断を許しませんね」
 そうガデンツァに侵されたと思しきライヴス結晶を手の中に隠しつつ弄ぶ構築の魔女。
「もしそうならもう少し大人しくしていてください……時期は合わせえた方がいいでしょう?」
「なんのこと?」
 そう告げたルネの瞳は透き通っていて、構築の魔女の心を見透かそうとしていた。
 その様子を落児はひたすらにあきれながら眺めている。
 表面上はいつもと変わらず変化はないようにみえるが、魔女の茶目っ気に若干引きぎみなのである。
 そんな騒ぎが大きくなる会場中央にアナウンスが流れる。
「えー。アイドルライブを待ちきれない人が多いみたいなので、ありがたく早めに開催させてもらいます。ステージ前にどうぞ」
 澄香がそう告げると、ライブ目的の人間はすべてステージ前に流れていく、それは燃衣も同じだった。
 そして澄香の活躍の機会とあれば魅霊も戻ってくる。
 もともと魅霊は澄香の料理や歌が目的だが。彼女としても気になることはあった。
(会場の霊力値がやけに高いのは気になります。一応、術本は持ち込みで……
―そういえば、エリザなる方は今頃どうしているのでしょう……?)
 その疑問を解決する前にライブがはじまる。

● それぞれの花見

 『あい( aa5422 )』と『想詞 結( aa1461 )』はそろって桜を見ていた。
「デスデェース♪ おねーちゃん達とお花見デェース♪ たーのしいデェース♪」
 そうルンルン気分のアイを横目に結も釣られて笑顔になった。
 『サラ・テュール(aa1461hero002 )』が三人分の飲物を持ってくるとあいは空いたサラの胸に飛び込んだ。
「ちょうどいい機会だし紹介しましょう。私の妹みたいな子よ」
 告げると結は笑みをあいに向けた。
「そうだったんですね、よろしくお願いします」
「はい! よろしくデェース」
 そう、じゃれている少女たちを尻目にサラは荷をほどいていく。
「結に教えてもらいながらお弁当を作ってみたわ」
 そう照れ臭そうにあいへと箸を差し出すサラ。
(6,7割くらい結産だけど私もやってるから大丈夫)
 そう思いつつ、おいしそうでーすと箸を迷わせている愛を眺める。
「私も頑張ったから食べてくれると嬉しいわ、お勧めは卵焼きよ」
 理由は頑張ったからである。
「おいしーーデス!」
 好評だったらしい。
「あとは煮物も冷えてても食べられるように工夫して」
「おおお、おいしいいデス」
「あとはブロッコリーをゆでたのは私で」
「ブロッコリーはえんりょしたいです」
 悲しみの涙を流すサラと、好き嫌いはだめですよーとあいの皿によそう結である。
「ちゃんと食べないと大きくなれないですよ」
 はしゃぎながらワイワイとお弁当を平らげた三人は桜並木を散歩することにする。
「うおおおおお、おはな綺麗デェースね?」
 そう興奮して木に登ろうとする少女を結が止めつつ。
「こら! あい!」
 しょんぼりしたあいの機嫌を直すためにとってきた料理に劇薬が入っていたり。
「でーす、デス? でーす」
 デスしかいわなくなったり。
 従魔の入った温泉に飛び込んで結とサラをまきこんだりして遊んだり。
 疲れてくればサラがあいの膝枕をしてデザートでも食べながらお話をする。
「綺麗ね、こっちの日本人がこの木を好きになるのわかる気がするわ」
 告げると沙羅はあいの額にかかった髪の毛をはらう。
「こうゆう時間が長く続くと嬉しいんだけどね」
「でぇーす」
「そうですね」
 そう綿あめを少し千切ってあいの口に運ぶ沙羅。
 結もしてほしそうだったので結と代わりばんこに食べさせる結である。
「ゆいは、なにをしてるです?」
 あいがそう問いかけると、ちらりと手元のスケッチブックをみせてくれた。
「二人をモチーフに絵本を」
 違う種類の動物の二人が姉妹のように仲良くするお話が書かれている。
「こっちが、サラで。こっちがあいちゃん」
 可愛らしい小動物があいで、可愛らしい大きな動物がサラらしい。
「却下、私はもっと凛々しく描いてちょうだい」
「注文がきた!」
 驚く結である。そんな二人のやり取りを見て口を押えて笑うあい。
 そんな二人のやり取りを見ている間に眠ってしまったのだろうか。
 そんなあいを背負ってサラは宿泊先にいったん戻ることを提案する。
 桜の雨が降る中、サラと結は小声でお話ししながら帰り道を歩いていく。

   *    *


「私達がこうやってまったりと会話するのも久しぶりですよね」
 『CODENAME-S(aa5043hero001 )』が告げると『御剣 正宗( aa5043 )』が頷く。
「ああ、そうだな」
 並んで歩く桜の絨毯。二人は並んで仲良くお花見をしていた。
 やがて空いているテーブルを見つけるとCODENAME-Sが鞄を下ろす。
 お弁当を作ってきたのだ、CODENAME-Sのお手製である。
 そのお弁当は量も多く和洋中の料理がバランスよく入っており、なにより高級食材である三大珍味もあるという超高級弁当である。
「ほう……」
 思わず感嘆の声をあげてしまう正宗に得意げなCODENAME-S。
 実はCODENAME-Sは正宗以外の人と結婚したのでその人およびその人の家族をSの家に住まわせてすごしているのだ。
「家庭はどうなんだ?」
 告げるとCODENAME-Sは照れ臭そうに答える。
「旦那様はとても優しくて、家族もとても明るく楽しくて、毎日がとても幸せですよ」
 それが料理からもあふれてくる、今日はお弁当ということで特に力を入れたのだろうが、それを差し引いても料理の腕がぐんっと伸びているのは。
 まぁそう言う事だろう、家族で食べるご飯がおいしい家庭に、暗い家庭は存在しない。
「実はずっと誤りたかったんです」
 そうCODENAME-Sは言葉を切りだした。
 かつて居候させていた正宗を追い出してしまったこと。
 師弟関係も解消してしまったこと
 それをずっと謝罪したかったのだと。
「ごめんなさい」
 そう頭を下げるCODENAME-S。
「幸せな姿を見せてくれたから、いいよ」
 そう正宗は笑顔で許す、その思いが胸に痛い。
「私は、いつでも味方です。困ったことがあれば幻想蝶を通して、絶対に助けてみせますから」
 告げると正宗はありがとうと言った。
「何か勘違いしているみたいだから言うけど、好きな人が幸せになることに対して暗い感情は抱いてないよ」
 正宗はCODENAME-Sのことをかつては好きだったといいつつも、自分自身はそれなりに楽しく過ごしているといった。
「なにより、今はとある人と同居することが決まったんだ」
 正宗は他人に役立てたことがあまりなく、学歴や職歴もあんまりなのでその人に迷惑がかかりそうで怖いと語る。
「大丈夫ですよ、きっと」
 そうCODENAME-Sは正宗に声をかけつつお弁当箱をズイッと前に出した。
 CODENAME-Sなりの励ましと、正宗にこれを食べて元気を出してほしいというアピールだろう。
「これからのことはゆっくり考えていきましょう、私もいつでも相談に乗りますから」
 そう告げると二人は談笑しながらお弁当を全て平らげるのだった。



● どんちゃん騒ぎ
 騒がしくなりつつあるお花見会場、その喧騒はなんのそので、『月鏡 由利菜( aa0873 )』は『リーヴスラシル(aa0873hero001 )』と自前の料理を並べていた。
「今年もお花見の季節がやってきましたね」
「花の命は短い。されど、樹は毎年花を咲かせ続ける」
 並べられる色とりどりの惣菜と甘味に周りの人間が感嘆のため息を漏らす。
「ラシル、このずんだ団子やお弁当、全部あなたが作ったのですね。美味ですよ」
「たまには私がユリナに弁当を作ってもいいだろう?」
「あ、遙華さん、良かったら一緒にラシルが作ったお団子、食べますか?」
「え? いいの?」
 すでに大量に餌付けされている遙華だったが、甘いものは別腹である。
 団子もありがたく受け取る遙華。
 そんな遙華の袖を引いてアリスも何やら差し出した。
「……ああ、これ。ダックワーズだけど、良かったらどうぞ」
 更なる甘味を与えられてホクホクの遙華。
「ありがとうアリス」
「時間が時間だしあまり長くはいられないんだけどね、折角だから一息つかせてもらおうかな」
 アリスは仕事帰りらしく、これからも仕事があるらしい。
 最初は給仕をてつだってくれていたのだが、案外みんなじぶんでやってくれていたので、まぁいいかとなって、遙華に連れられご飯を食べに来たのだ。
 代わりに今は『リリア・クラウン( aa3674 )』と『五十嵐 渚(aa3674hero002 )』が来場者案内などしてくれている。
「僕たちは運営さんのお手伝いしようと思いまーす!」
「日頃の努力を見せるときっすね!」
 しかし持ち込んでもらった料理もなかなかなものなのに、働かせてしまってだいじょうぶなのか、遙華よ。
「お料理は得意だよ~!」
「あいつらにいろいろ教わったっすからね」
 ただ二人にもメリットが無いわけでもない。
 二人は色んな人達になんとしてでも認められたいと思っているのだ。
 そのために会場案内の仕事はうってつけである。
 訪れたリンカーたちを会場に案内する。 
 並べられた料理も多くはリリア達のものだ。
「あ~でもおいしそうだな」
「あとでっすよ」
 そう渚に静止されて誘惑を断ち切るリリアである。
 二人は結婚しており、その結婚相手からご飯やスイーツの作り方のノウハウを教わっている為、主に食事関係の事であれば自身があった。
 リリアはスイーツなどのデザート、渚は前菜主菜を担当。
 それをつまみながらであれば会話にも花が咲くというものだ。
 由利菜は告げる。
「私、再来年には学園を卒業します。進路を決めないと…………」
「確かに、重要よね」
 遙華が頷いた。
「私もユリナやリディスが卒業した後、学園教師を続けるか、他の仕事を探すか決めねばならぬ。英雄は能力者から大きくは離れられないからな……」
「現在の候補としては、H.O.P.E.専属エージェントになる、私も学園の教師を目指す、バイトのファミレスの正社員を目指す……この辺り。それらのお仕事をしながら、異界の学者としての研究もしていきたいと思っています」
「なんなら。グロリア社に来てみる? 二人なら歓迎するけど」
 その言葉に由利菜は難しい表情を見せた。
「実はそこまでは頭が回っていなくて……選択肢のひとつには入ると思いますが」
「私の技術力を取り入れたいと来たか……。もう少し考えさせてくれないか」
 その言葉に頷く遙華は人ごみの中に見知った姿を見つける。途中で合流したのだろうか、その組み合わせは見慣れなかった。
「杏奈、ルナに、由香里じゃない、来てくれてありがとう」
 『世良 杏奈( aa3447 )』と『ルナ(aa3447hero001 )』はその言葉に手をふって答え遙華に歩み寄った。
「これで3回目だっけ?しかも今回は一泊の旅行よ♪」
「遥華、いつも楽しい事やってくれてありがとー!」
 そんな二人の影から『橘 由香里( aa1855 )』が遙華に声をかける。
「はぁい。遥華、久しぶり。今度遊びにいくとこ探してるの? なら一緒に服買いにいかない?」
 その言葉に一瞬嬉しそうな顔を見せた遙華だが、その後しゅんっと元気を失って、由香里から少し距離をとる。
「あの、由香里私、謝らないといけないことが、あ……でも謝ると私が原因っていうか、おこがましいというか。でも私が無関係なわけはないのよね、その……あの……」
 そんな遙華の肩を由香里は叩く。
「そうね、お互い複雑よね、けど」
 お互いに友達をなくしたくはないが、どう歩み寄ればいいのか分からなくなっている。それはよくわかった。
 それも含めて今後どうするかは考えないといけない。そう互いに思っているだろう。
「何かあったみたいだけど、とりあえず嫌なことは飲んで忘れるに限るわ」
 そう杏奈が取り出したのは梅酒とシャンパン。
「杏奈、二人は未成年だよ」
 とりあえずひりょにそれを預けた杏奈はルナを抱える。ルナが差し出したのはクッキーである。
「私にもいただけますか?」
 そうルナのクッキーに反応したのはアルスマギカ。
 すると杏奈は片手で魔本を開いて饅頭を出して対面させる。
「ドーモ、アルスマギカ=サン。ゆっくり杏奈です」
「おおう、ファンタスティック」
「美味しいクッキーね、せっかくだからひりょも少し休んで食べて言ったら?」
「え? いいんですか?」
 戸惑うひりょにドリンクを押し付ける遙華。
「……そういえば、宇宙開拓といえば今どれ位進んでいるの?」
 そう問いかけたのはアリスである。
「それは俺もききたいな」
 そう言って杵を担いだ赤城 龍哉(aa0090)が通りかかった。
「宇宙関連はソーサラーの一件以来受けてなくってね、現状について詳しく知らないんだ」
 アリスが告げると遙華は宇宙ステーションの完成が間近であること。
 一度敵の軍勢を退けているため調査がてら追撃を仕掛けることを検討していると告げた。
「エネルギーウィングも使えるようになったしね。ひりょも良かったらどう?」
 その言葉に考え込むひりょである。
(ん~……、昼間の空とか夜空とか、そういうのは好きだけど……。宇宙(そら)は……って言われると今まで考えた事がなかったな)
「任務で行くから戦闘系になっちゃうけど」
「宇宙って、高低差の感覚ないんですよね? 俺高所恐怖症の気があるんだけど、それでも出来るかなぁ?」
「高いって感じはないぞ?」
 龍哉が告げる。
 その言葉にひりょはもう一度考え込んだ。
 新しい事に挑戦してみるのもいいかもしれないと。
「その過程で苦手も克服とか出来たらちょっと嬉しいかもだけど」
 しかしと異を唱えたのはフローラである。
「ひりょは戦闘中とか、本当に集中してる時は高さとかに意識行ってないから。
そういう意味では見込みある……のかなぁ?」
「それって集中力切れた途端にパニック起こすかもって事だね……」
「ギャップ萌?」
「違うと思います」
 そう小さく微笑みあう二人である。
 そんな二人をよそに龍哉が何気なく告げた。
「そういえば、この間の件もそうだが、今後何を宇宙で開発したい?」
「うーん、実は私って宇宙に詳しくなくて、スタッフの、宇宙だとこんなことができますよって話を丸呑みにしているだけなのよね」
「エネルギーウイングはどんな状況だ?」
「実装段階までこぎつけてるのだけど。リリースするタイミングを逃した感じね」
「早いとこ開発環境まで整えたいトコなんだが、もうちょい掛かるな」
「そうねぇ、みんなは頑張ってると思うのだけど、抵抗が激しいし」
 そう、頭を悩ませる遙華に龍哉は耳打ちする。
「ガデンツァの体を使って復活させたと聞いたが、体に何か置き土産を仕込まれたりしてないか?」
「え? それはないと思うけど、一応パニッシュメントはかけて見たし、あらゆるセンサーにも反応は……」
「あの手の敵がただで倒されたとはどうにも考え難くてな。取り越し苦労なら良いんだが……そう言えばエリザはどうしてる?」
「まだ眠っているわ。もういつ起きても問題ないんだけど」
「…………それと、まだルネと接触させない方が良いかもな」
「そう?」
「ガデンツァ絡みは、下手打つと連鎖的にマズイ方向に転がりかねない印象なんでな」
「あなた、ルネのこと疑ってるの?」
 怪訝そうな表情を見せる遙華。その表情に龍哉は違和感を覚えた。
「いや、そう言うわけじゃない、それにしても直近で何とかしないといけないのは宇宙開発か」
 その言葉にアリスが頷いた。
「…………そう。何にせよ、また機会があれば手伝うよ」
 告げるとアリスは身支度を整えるのだった。
「それじゃあ行こうかAlice」
「そうだねアリス」

● ひととき
「ふーん……この前掘ったのがねぇ」
 そう『フィー( aa4205 )』は温泉街につくなり、湯煙に紛れてあたりを見て回っていた。
 肩の上には『楪 アルト( aa4349 )』。
 彼女が指をさす方向へ舵をきり、アルトの思うままの方向へ進むのがフィーの役目である。
「あ! 桜」
 夜に差し掛かり気温が低くなれば煙は分厚さを増す。その中で浮かび上がるように見えた桜にアルトは喜んだ。
「っん、また……今年も一緒に見えるね……」
 そう身をかがめてフィーの耳元でささやくアルト。
 その少女ぜんとした様子にフィーは少しだけ微笑むとぐいんっと歩幅を広げた。
「頭ぶつけねえ様に注意してくだせーなー?」
 小さく笑い声をあげてフィーの頭にしがみつくアルト。
 今日はアイドル業はお休みである。
 なので。アルトだけ変装しているが。まぁリンカーしかいないイベントなので、茶々を入れる無粋な人間はいないだろう。
「あ、あのドリンク美味しそう」
 そうアルトはフィーの上で身をひねらせ、ウエイトレスをしていたリリアを追う。
「どうぞ」
 そう差し出されたドリンクを一気飲みするアルトだったが。
 だれが混ぜたのだろうか。中に自白剤が入っていて。
「はぁ? 世界中の誰よりもフィーの事が大好きに決まってるだろ。ったりめーだろ」
 大声で叫んでしまう始末。
 そんな中二人は逃げるように会場から一番外れた温泉の更衣室に入る。持参した、貸し切りのついたてをかけている間にアルトはあっという間に着替えて温泉に入って行ってしまった。
 フィーは持参の水着を纏って石造りの湯船に近づく。
「みえそうでみえない」
 アルトが悪戯っぽく告げると、フィーは屈んでアルトの頭をぐりぐり撫でた。
「ふぁ~」
「あとでたっぷりみれるでしょーよ」
 赤面するアルト。
「たまにはこういうのもいいもんですなー」
 そんなアルトを膝の上に乗せ、後ろから抱きしめながら湯船につかるフィー。
「なんなら体でも洗いましょーかいね?」
 その言葉の照れくささから逃れるようにあたりに視線を巡らせるアルト。その視線の先、夜空には瞬く流れ星、それが無数に映し出されていた。
「きれいだなぁ」
 そうつぶやくアルトをフィーはグイッと引き寄せた。
「こんなんではしゃぐ歳はもう過ぎましたけどなぁ……」
 そう言いつつもフィーは星々に願う。隣にいる恋人の姿を見ながら。
 たった一つの願いを。
”この人が幸せでいます様に”
 その時アルトがフィーにしなだれかかってきた。
「のぼせたみたいだ、フィー、連れてって」
「はいはい」
 そうアルトをお姫様抱っこするとフィーは風呂から上がった。 
 他の人間のバカ騒ぎはよそに一足早く自室へ。
 部屋は2人用。布団は1つ。
 一緒の布団に入り、お互いを抱きしめながら眠る。
「……愛してますな、アルト」
「ん、あたしも、愛してる」
 そうフィーが額にキスするとお姫様は幸せな眠りの中へ落ちて行った。


● BARカンタレラ

 BARカンタレラ、そこは花見の喧騒につかれた大人たちが集う憩いの場所。
「乾杯」
 そんな薄暗い室内でグラスをぶつけ合う大人が二人。
 『榊原・沙耶( aa1188 )』とアリューが隣り合って座っていた。
(カンタレラ……毒物、だったかしらぁ? Barの名前としては不吉ねぇ)
 そう沙耶はグラスの中の氷を揺らす。ロクトから普段のお礼と振る舞われたバーボン。
「俺は少々きつかったけど、どうかな」
 バーテンの恰好をさせられたレオンハルトがそう問いかける。
 彼は今日はロクトの配下……ではなくお手伝いだった。
 そんなレオンハルトがグラスを磨き終えると扉のベルがチリリンっと鳴った。
 顔をあげて見ればそこには『飯綱比売命(aa1855hero001 )』が立っている。
「繁盛しているようではないか」
 見ればテーブルの奥でも『ネイ=カースド(aa2271hero001 )』と『青槻 火伏静(aa3532hero001 )』が飲み比べをしている。
 度数の高い酒をまるで水のように飲むネイに火伏静はうんざりした表情を向けていたが、付き合って飲んでいる。
 飯綱比売命は外の温泉街の空気とは相反して、黒いドレスに身を包み、大人な雰囲気を醸し出している。スリットから覗く足がなまめかしい。
「人がそろってきたわね。カードでもする?」
 簡単なハイ&ローだが酔っ払いにはこれくらいがちょうどいい。
「おう、俺ものるぜ」
 そう身を乗り出したのは『夜城 黒塚( aa4625 )』である。預かったぬいぐるみは膝の上で、そのままカードを引く。
 そしてマティーニをいっぱい注文した。
 全員がカードを引くと自分はロクトより数字が上か下かをコールしていく。
 最初に負けたのは飯綱比売命で、ショットグラスのブランデーを飲み干していた。
「いい飲みっぷりね」
 そう新たな酒を注ぐロクト。勝った黒塚へはマティーニをもう一杯プレゼント。
「安酒でも、気に入った奴らやイイ雰囲気に酔えりゃそれでいいさ……こんな祭みてぇな陽気の中で飲む酒も、悪くねェ」
「そう言っていただけると嬉しいわ。ふふふ、どんどん飲んでね、飯綱比売命も負けても恨まないでよ?」
「うむ、飲みに来ておるからのう」
 そんなゲームの合間に大人たちは情報交換に興じる。
 たとえば、相棒がどうだとか依頼がどうだとか。
 アリューが言った。
「ガデンツァが消えた今危険な依頼は避けようと思う」
 アリューはハイを宣言、ロクトのスペードの3に対してアリューはハートの2だった。
 ブランデーを一気飲みである。
「だが【共宴】といい愚神との戦いは加熱していく。縁と絆を結んだ人達の為にならあの子は戦場に立つ。
だから……もしも俺が先に消えた時はロクト、君と遙華に理夢琉を託してもいいか?」
 その言葉にロクトは視線を伏せた。
(大切な人への思い……君も、なんだろうか、ロクト……?)
「ガデンツァが、消えた……ねぇ」
 そう先ほどから一度も負けていない沙耶は余裕の表情でマティーニを頼む。
 レオンハルトがシェイカーを振る姿を眺めながら何気なく告げた。
「それより私が気になるのは、カデンツァが消えた後……というより、ルネさんを英雄にした後のグロリア社の反応と、春香さんの近況かしらね」
「ええ、そうね」
 ロクトは曖昧にこと会を返す。
「ワイスキャンセラーの件もあるし……」
「ねぇ、みんなにお願いがあるんだけど……私がいなくなったら、あの子を」
 その時、黄色く鋭く耳につく声が扉を開けると共に流れ込んできた。鈴の音をかき消し、困り顔の『柳生 鉄治( aa5176 ) 』が入室する。『ブリタニア(aa5176hero001 )』が言い争いながら鉄治の後に続いた。
 事の顛末を語るには時を十秒ほど巻き戻す必要がある。
 花見会場で見た看板、カンタレラ。それを見あげてブリタニアは思う。
「グロリア社主催って、どうせまた…………。」
「おいおい、違えって。そもそも、こんなクソ広い所であいつらに会うなんて、まず無…………」
 そして現在。
「…………ロクトがいるじゃないですか」
「…………おう」
 バシッと背中を叩かれる鉄治、それがなんだかおかしくてロクトは笑いながら二人を席に案内した。
「ほらやっぱり、ロクト目当てで来てるんじゃないですか」
「いや、たまたまだっての」
「はいどうぞワインと日本酒のおすすめのやつよ」
 そうロクトが二人の前にコースターを並べる。
「毎度毎度たまたまだって言ってる気がしますけど」
 そうじっとり鉄治を一瞥した後ブリタニアはロクトと軽い挨拶をかわす。
「よく来てくれたわね、会えてうれしいわ」
「私もですよ、ところでロクトもどうなんですか。コレにお尻を追っかけられるのは」
「おいィ!?」
「そうね、ブリタニアさんを連れてきてくれるから感謝してるわ」
 その言葉に若干のショックを受ける鉄治。
 ロクトは曲がりなりにも初デート相手である、女性経験皆無の鉄治にとって意識するなと言う方が無理である。
 ただブリタニアにとっては鉄治がロクトに鼻を伸ばしているようにしか見えなくておもしろくない。
「ふふふ、冗談よ、あなたにもあえてうれしいわ柳生さん」
 その言葉に少し戸惑う鉄治、その反応を感じ取って面白くないブリタニア。
 ただ、恋愛感情があるわけではない自分こそ世界で最も優雅で美しい女性。
なのに、自分にアタックして玉砕する前に他の女に現を抜かすとは何事かと思っているだけなのである。
「おう、客か、飲み比べをしようか」
 そうふいにネイが訪れる。
 彼女は一升瓶を片手に口からは火がつきそうなほどの酒気を吐きだしている。
「やめろ! ニゲロ! そいつは化物だ」
 火伏静が叫ぶ。彼女をおして化け物と言わしめるそのざる具合。確かに普通の人間が相手をすれば死んでしまう。
 威月にメディックを頼もうとしたのだが、彼女は彼女で燃衣の世話に手一杯。
 なにせ、上へ下へマーライオンらしい。何があったのかは全く分からない。
「ふふふ、民からの挑戦も余裕で受けるのがノブレスオブリージュというもの、受けて立ちましょう鉄治が」
「おれが!」
 その後バーは一時騒がしさに満ちた。
 その後ふらふらになって勘弁してもらった鉄治を足でけって外にだしブリタニアは優雅に微笑む。
「じゃあ、これでお願いします」
 支払いは当然ブリタニア。貴族は常に臣民に金を出させるわけにはいかないのだ。
「ええ。ありがとう、今日は来てくれて嬉しかったわ」
 その幻のクレジットカードを何気なくリーダーに通すと、ロクトはブリタニアにつげた。
「こんどどこか遊びに行きましょう、もちろん三人で」
 そう振り返ると死屍累々となった
 酒場を眺める。そこには一人だけ、つまらなさそうにグラスの中の氷を転がす少女が一人。
「由香里ではないか! なぜこんなところへ」
「あの子の気遣いが痛々しくて戻ってきちゃったのよ」
 ため息をつく由香里。
 そんな彼女にため息をついて、遙華の件で何事かを話しだそうとしたロクトを遮った。
「そういえば、お主、わらわらに何か言いかけておらんかったかのう?」
 その言葉を受けてロクトは苦笑いを見せた。まるで壊れかけの少女の様な。
「あの子のことの頼めないかしら」
 沙耶はその言葉にため息をつく。ネイは居住まいを正した。
 黒塚が告げる。
「大事なものは自分で守ってやれや。人を当てにされても困るぜ」
「そうなのだけどね」
「お主がいなくなったら? ……英雄たるもの、相棒を誰かに頼まねばならぬような状況で消えるものではあるまい」
 飯綱比売命の言葉にロクトは視線を伏せた。
「いなくなる時は相棒がちゃんと一人立ちできるようになってからじゃろ?」
「その通りだとおもう、私も人に頼みごとをするなんて初めてで、たぶん理にかなっていないことを言っているし、言ってしまうと思うの。でもあなた達にしか他のめなくて」
「遙華も私も、一人でも大丈夫よ」
 由香里が強がっていうが、飯綱比売命はそれを鼻で笑う。
「ま、たしかに? お主の所もうちのも結構精神的に成長したがのう」
 いろいろ思い出したのだろうか、グラスの最後の一滴を飲み干してレオンハルトにおかわりを求める。
「しかしそれでもまだ……」
 口げんかで自分に負けているようではまだまだ。そう、飯綱比売命は微笑んだ。
(しかし……)
 飯綱比売命は思う。ロクトに限らず、自分だっていつか別れは来るのだ。特に保護者として存在している英雄ならば。
 それはここにいる全員がそうなのかもしれない、そう思った。
「強力すぎる庇護は邪魔になるものじゃからな」
「え? 飯綱何かいった?」 
 その言葉に飯綱比売命は首を振る。そしてそのキーワードを胸に反芻させた。
(……一人立ち、のう)
 その後、カンタレラの休憩時間。ロクトが外で涼んでいると隣にレオンハルトが腰を下ろした。
「…………いなくなる、予感でも?」
 レオンハルトはシンプルにそう切り出した。
「どう思う?」
「茶化さないでほしい。大事な人を任せるならそれなりの誠意を見せるべきだ」
「そうね、私が悪かったわ」
 レオンハルトはかなり前から疑問を抱いていた。アルスマギカの言語が元の世界の言葉ではない事。
 こちらが知らない情報は勿論これから何が起こるか知っているのではと気になることは多々ある……のだが。
「今は無理に聞くつもりはないけど、あまり一人で抱え込まないで下さい」
 そう肩を叩いて飲んだくれの元に戻る。
 ただこの後レオンハルトは、威月お手製のクッキーを食しぶっ倒れることになるのだが、それはまた別の機会に語ろう。


● 出たかぬるぬる、あとそれ以外


「花見といったら!」
「悪ふざけ!」
 『天城 初春( aa5268 )』と『辰宮 稲荷姫(aa5268hero002 )』は茂みの奥で息を合わせてそう唱えた。
「悪ふざけといったら!」
「我ら狐のお家芸!」
 狐らしい、そして悪戯をするらしい、これはたいへんだ。しかし誰も動こうとしないのは、今日は祝い事、酒の席だからだろうか。
 そんな二人がまず着手したのが、飲物に自白剤を混入させること。
「さて、初っ端から動いては警戒されますの」
「じゃな、しばらくはおとなしくしておこう」
 その後会場を怪しく練り歩く二人が目撃されたとかされてないとか。

   *    *

「さて、早速絶景スポットがある温泉に入るよ!」
「温泉に入るには水着がないとダメみたいだね。幸い借りる事が出来るみたいだし、適当に借りて温泉に入ろう」
そんな嵐の前の静けさもなんのその、二人は胃袋を満たすと温泉の度に繰り出した。
「そう言えばあたいの分まで借りてくるって言ってたけど、何の水着を借りてきたの?」
「ああ、それはダイスロールで決めてきたよ。何が出るかはお楽しみってことで」
 そうスネグラチカが持ち上げてバックの中から不吉なオーラを感じ取るチルル。逃げ出そうとしたその首根っこをグイッとスネグラチカが捕まえるのだった。
 そんな元気な子供たちに注意しつつ、遊夜がユフォアリーヤを気遣い背中に手をかける。
「ごめんなさい」
 スネグラチカが頭をさげるも気にするなと言って妻を連れていく遊夜である。
 先ほどはミストサウナを楽しんだので次は竹林に作られた秘湯にでも、そう足を延ばすふたり。
「拘り所が光る……絶景なり、ってな」
「……ん、苦労した分……格別」
 あの温泉堀は、正気を疑うような企画であったがこうして入る機会に恵まれたなら苦労が報われる思いというものである。
 まぁ、長くは入れないのだが。
「次はゆっくり入りに来ような」
「……ん、もう少し……今度は皆で」
 そうお腹を撫でるユフォアリーヤであった。
「お、入ってたのか」
 そう麻生夫妻を見つけたのは『彩咲 姫乃( aa0941 ) 』とその友達のひかりである。
「ありがとう姫乃ちゃん」
 ひかりは姫乃にお姫様抱っこしてもらうと、遊夜の空けたスペースにすっぽり収まった。
「オナカスイター」
 空腹の『メルト(aa0941hero001 )』に水着を食べられてしまわないように注意しながら姫乃はメルトに水着を着させていた。
 首から下げられた板には『飢えてます。食べ物を与えてください』の文字。
「いいお湯だなぁ」
 そんなメルトをよそに、麻生夫妻、ひかり姫乃は羽を伸ばす。
「あー……疲れが取れるなー」
「……だねぇ……? ……んぅ? やん……なにか、ぷにぷに? する」
 しかしそんな油断の最中、突如ザパーンっと水を割って温泉の底から何かが立ち上った。
 それこそ。温泉スライム、どこかの誰かが感知していた、従魔である。
 絶句するユフォアリーヤに守ろうとユフォアリーヤを引き寄せる遊夜。
「あん? なんだ、悪戯か何かか?」
 遊夜はすぐさまユフォアリーヤと共鳴すると7人の小人を取り出して格闘戦を行う。
「あれ? なんか向こうで温泉が触手みたいになってない?」
 それに気が付いたスネグラチカ。
「しかもなんか巻き込まれている人もいるわね! つまりこれは敵ってことね!」
――よし、早速迎撃しよう! …………あれ? 装備は?
 すでにきわどい感じの水着に着替えているチルル。そんなきわどさも忘れてファイティングポーズをとるも武器がない。
「しまった、脱衣場に置いてきてたわ! とりあえず脱衣所に向かうよ…………うわー!」
 その足をからめ捕って温泉の中に引きずり込むスライム
「あ、チルルが捕まった! よしその間にあたしは脱衣sy…………うわー!」
 共鳴を解いたがために同じくスライムに絡め捕られるスネグラチカである。
「ちょっと! あんたまで捕まってんじゃないわよ!」
「元はと言えばチルルが忘れてきたのがいけないんじゃん!」
「「なんだとー!このー!」」
 温泉場はてんやわんやの大騒ぎである。
 しまいには遊夜も二人をなだめに行く始末。
 その時上空から何かが飛来した。
 それは高速で温泉の中心に激突すると、全てのお湯を空中に巻き上げて従魔の核を貫いていた。その男の名は龍哉。
「従魔は許さない!」
 しかし外見はキグルミパンダなので何が起こったのか、周りの人間はさっぱりわからない。
 これには深い事情がある。
「あれ?」
 それは別の浴室での話。
 望月が風呂上りに着替えようと思っていたパンダの着ぐるみが無い。
「杵もないよ」
 百薬があたりを探しても見つからない。
 それがなぜかときかれると初春たちが衣服をシャッフルし始めたからである。
「まぁ、仕方ないか、比較的着やすい服もおいて言ってくれてるし」
「でもこれ、暑そうだね」
 百薬が広げたのは中世ヨーロッパ貴族風の男装。まるで○○ヅカである。
「最終的に美味しい物がいただければ問題ないよね」
「百薬はそうだよね、とはいえあたしもそれでいいよ」
 わりと普通に着て行ってしまった二人。
「でも犯人は見つけないとね」
 その発言を受けて茂みに隠れた初春は身を震わせた。
 しかしそこはさすがのシャドウルーカー誰にもばれずに悪戯を完遂していく。
 のちに天罰がくだるとも知らないで。





● お前もか

「風情ですの」
「ああ、綺麗じゃな。こんな日が続くようにせねばの」
 一仕事終えた初春と稲荷姫はのんびり湯につかっていた。結局二人の悪行はばれなかった。しかし。
「とはいえそろそろ行きますかの?」
「ああ、行くとしようかの」
「あ! 服が無い!」
 ミイラ取りがミイラに、初春たちの服も見事に奪われ、代わりに幕末風の袴を置かれていた。着方がわからない。
 その服を入れ替えている犯人はこの中にいる。
 他の被害者の様子も見ながら推理してみよう。
 先ず第二の被害者は世良夫人。杏奈である。
 せっかく温泉もあるんだしとルナと一緒に入浴しかし、あがった時に杏奈の服がすりかえられているハプニングが発生。
 代わりにあるのはセーラー服……だが。
「ふふふ、昔に戻ったみたいね。霧人」
 そう本人は結構ノリノリである、それを見ている『世良 霧人( aa3803 )』。むしろ霧人の方が恥ずかしそうである。
 対して霧人はというとまるでホストの様な、夜の蝶と言うべき服に様変わり。
 大爆笑の杏奈である。
「ちょっと霧人、何よその服ー!」
 笑い事ではないと肩を落とす霧人だがその隣に『エリック(aa3803hero002 )』の姿はなかった。
 そう犯人はエリック、彼も脱衣所を回ってせっせと衣服を面白衣装にすり替えていたのだ。
 遙華? らしき人に頼まれて。
「流石に女湯には入らないぜ!?」
 そう告げたエリックだが、今回は女も男も関係ないから、下着もないしと言われてしぶしぶ了承したが、やっぱり男性の方がいいに決まっている、女性ターゲットは杏奈だけにしておこう。そう思い次のターゲットに選んだのは。
 『東江 刀護( aa3503 )』と『大和 那智(aa3503hero002 )』である。
「桜を見ながらの温泉も良いものだ。那智、俺が掘った温泉を楽しめ」
 告げる刀護に答える那智。
「俺は食い物のほうがいいんだけどなー。しゃあねえ。今日は、おまえに付き合ってやるぜ」
 そう竹林の中の秘湯へ。揃いのハーフパンツに履き替え、温泉に浸かる。
「温泉つったら、裸のお付き合いだろ? なんで水着着用じゃねぇとダメなんだよー!」
 ごねる那智に答える刀護。
「水着着用という決まりがあるんだ、ここは」
 そう刀護はリリアに熱燗を依頼するとすぐさま届けられたそれを盆に載せて、花見酒としゃれこむ。
 肝心の那智はちぇー、といいつつ、肩まで浸かり温泉を堪能していた。結局温泉が好きなようだ。
 だがそんな二人の幸せもエリックの手で終りを迎える。
 温泉から出て着替えようとするが、服がすり替えられていたのだ。
「……これを着るしかないようだな」
「なんで俺のはこんなんなんだよ! 恥ずかしくて着れるかっ!」
 だが裸で出るワケにはいかないのだ、仕方ないとその服に袖を通す那智である。
「まぁ、いいじゃないか、似合ってるぞ」
「お前はいいよな! 俺はな! これだぞ」
 刀護は芋ジャージである。むしろこれから飲むならこっちの方がいい。しかし那智は黒のチャイナドレスである。
 胸の部分がパツンパツンのそれをみて思わず笑いをこらえる刀護。
「笑うんじゃねえ!」
「すまん。お前の気が済むまで、美味いもの食わせてやる」
 そのままの衣装で会場に繰り出せば、コスプレ大会となっているその場にうまく溶け込む二人。
 すり替えられた衣装で、ジンギスカンを腹いっぱい食べ。刀護は日本酒を飲み、飲酒禁止な那智はウーロン茶を飲んでいた。
 そんな会場の中心で餅つきをする龍哉。『ヴァルトラウテ(aa0090hero001 )』がそれを離れたところから眺めている。
 最初は……。
「せっかくの機会だ。楽しむついでに改善点も洗い出しとくか」
 そう温泉に立ち寄るだけだったのだが。
 いつの間にか衣装がすり替えられており、このざまである。
 ちなみに着ぐるみをついての餅つきは想像以上にハードワークだったという。


● 来年も一緒に

 『豊浜 捺美( aa1098 )』は『エクトル(aa4625hero001 )』の手を取ると黒塚に告げた。
「はい。責任を持って預からせていただきますなの」
 エクトルは捺美にとって愛でる対象。エクトルと一緒に行動することに問題はない。
 しかし。
「クロ、僕と別れて寂しいだろーから、ねこさん貸してあげるー」
「……は? 何で俺が寂しいんだよ……無ぇわ」
 そうしっかりと猫を受け取った黒塚はさみしいのかもしれないと捺美は思った。
「ガキの世話任せちまって悪ぃな。何かあったら連絡入れてくれ」
 それが数時間前の話。
 二人は鼻より団子で持ち込まれた食事にいろいろと手を付けていた。
「捺美おねーちゃん、僕が美味しいもの取ってきてあげるね!」
「うん。エクトルくんお願いするなの」
 しかしまだ食べたりないらしい、エクトルはそう言うと、びゅーんっと駆けて行ってしまい、すぐに戻ってきた。
「わわわ。エクトルくん大丈夫なの?」
 そのあふれんばかりの料理を見て慌てふためく少女だが、エクトルはお構いなしに料理を勧める。
「苺のフルーツサンド美味しいよ! はい、あーん♪」
「あーん。うん。とてもおいしいなの」
 そうお互いに食べさせあう姿は微笑ましい。
「エクトルくんもはい。あーん♪」
 その後二人は温泉施設を目指した。
「足元少し滑るから気をつけて」
「うふふ。ありがとうなのエクトル君」
 そうエクトルが捺美の手を取ると捺美は、背伸びしているエクトル君かわいいなと思い、頬を染める。
 二人で湯船につかると二人ともため息をつく。
「おっきいお風呂きもちいーね」
「大きいお風呂は開放感もあって気持ち良いなの〜」
「あ……お姉ちゃん! 流れ星だよお! すごいすごい!」
「流れ星…………きれいなの…………」
「エクトル君は何を願ったの?」
「お願い事?……クロや皆と、ずっと一緒にいれますように、って♪」

   *   *

*征四郎

 『ユエリャン・李(aa0076hero002 )』は手に持ったグラスの一つを『木霊・C・リュカ( aa0068 )』に手渡した。するとリュカは照れたように悪戯っぽく笑う。
「ふふーふ、ユエちゃんが優しい。珍しいね」
 手に冷りと触れるコップに少し驚きつつ、リュカは受け渡されたグラスの意味を知っている。
 ユエリャンはリュカの隣に腰を下ろすと場を静寂が支配した。
 実際花見会場はうるさい、しかし二人が纏う空気だけが静かなのだ。
 いつもより少しだけ寡黙、無表情。それは、居なくなった凛道を思っての感情。
「静かだな」
 告げたユエリャン。それにリュカは同じトーンで答える。
「アイドルの話ししてない時のあの子は結構静かじゃない?」
 硬さを纏ったユエの質問に、引きこもったまま戻らない第2英雄を思う。
「我輩達は英雄だ。どんな思いであれ、足元は浮ついた、曖昧な存在だ」
 ユエリャンの言葉にリュカは黙って頷いた。
「だから問うよ。君にとって「彼」は何だ?」
 その言葉にリュカは迷いなく答える。
「家族、友達、仕事のパートナー、……何とでも言えるけど」
 だから、だからこそ。リュカは思うのだ。
 今は、ぽっかり空いた穴みたいだと。
 酷く風が通って寒いと隠すことなく言える。
「ならば、その穴がアレの帰る場所なのだろうな」
 そうユエリャンは小さく微笑んだ。
 少し安心した様な笑み。
「少し安心した。幻想蝶へ直接乗り込むのも手かと思っていたが、我輩も待とう」
 その言葉にリュカは視線を空に移した。ほとんど光しか認識できない空。その流れ星に。
 願う願いはないけれど、ただ。
「待つのも諦めるのも得意なんだけどなぁ。どうすればいいかなぁ……」
 そんな苦悩とため息だけが、言葉に乗って外気に冷やされ、夜の闇にまぎれて消える。

◆征四郎
「あまり口をへの字にしてると、不細工に見える、ぞ」
「ブサイクとか、レディに対して失礼だと思います…………」
 花見会場の真ん中でうろうろしているのは『紫 征四郎( aa0076 )』と『オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001 )』。
 ほっぺたをつままれている方が征四郎で、つまんでいるほうがオリヴィエである。
「リュカはあれから大丈夫ですか?」
 征四郎はリュカが数週間前の依頼から沈み気味な事を気にしている。
 変わっていく周囲と、変わらない人。
 漠然とした心配は、本人へ聞くことは出来ず。
「あの戦場において、征四郎は、リュカが大事でした。仲間が大事でした。そして自分が、大事でした。救助を求める人達よりも」
 征四郎は告げた。
 はっきりと、命に順番を付けてしまったこと。
 思っていたよりずっと、自分はヒーローでは無かったこと。
「次に剣を取った時、征四郎は正しい判断が出来るのでしょうか」
 征四郎は傷ついた、今も自分の言葉で自分を傷つける、迷い戸惑い泥にまみれても、自分の中のはっきりした何か、それがあれば戦えていた。
 けど今はその、はっきりした何かが自分たちを、何よりリュカを傷つけている気がして、征四郎は完全に弱り切ってしまった。
「正しいかがわからなくても、オリヴィエは引鉄を引きますか?」
 そんな少女の背を叩きオリヴィエは告げる。
「引ける」
 顔をあげた少女の目を見て、じっと見て。問いかける。
「正しい、はとても難しい」
 オリヴィエは思う、家族のようにそばにいた人。
 あいつの荒んだ背中、折れてしまった背中、それを思い出してもなお告げる。
「……飛行機で酸欠になった時、親子はまず親がマスクを自分につける。子供は後だ。それは、命に順番を付けてることになるのか?」
 征四郎の瞳に戸惑いと希望が同時に宿る。少女の瞳は潤んでいた。
「お前のその考えを、きっと誰も否定できない。
 その考えが正しいとも、正しくないと断じれる者もいない。
 その悩みは、そういう類の物だ」
 また顔を伏せようとする征四郎のほっぺをオリヴィエはまた引っ張る。
「よくきけ。俺が正しく戦ったことは1度もない、だから俺が癒えることは一つだ。俺達がここにいるなら、まだできることは有る、間違ってるからって諦められる何かのために、戦っているわけじゃないだろう?」
 オリヴィエ自身その思いをうまく伝えることはできない、だが思いを、征四郎への想いを、伝えようとただひたすらに言葉を紡ぐ。
 それが征四郎には届いたらしい。 
 頬を一粒の涙が流れる。
「はい…………っ、みんな生きていて、よかったです!」
 まだ迷うことも躓くこともあるだろう。そしてそれは今後なくなることはないかもしれない、だが、自分が諦めることはないんだと知った、何より一緒に走ってくれる人がいることを思い出した。
 征四郎は涙を流す。それはこらえきれなくなったというのもある。しかし。きっと、オリヴィエは許してくれる、そう思うからでもあった。

● レッツライブ
夜灯りが灯るころ、照らされる夜桜と共に色とりどりの花が咲き乱れる。
 その壇上に真っ先に上がったのが『小詩 いのり( aa1420 ) 』と『蔵李 澄香( aa0010 )』。
 そのステージはコスト削減の為、温泉開発で持ち込んだバンガローの予備資材で組み上げられている。
 音源はPCとエンジェルスビット。
 照明代わりにレーダーユニットの光エフェクトを展開。
 ステージは小さいながら豪華な演出ができるのはそのためである。
 会場は温泉地帯の中央、飲食エリアの近く。立食しながら気楽に楽しんでもらえるようにした。
 その中には澄香が作った温泉卵やミカンキャノン料理もある、まぁ魅霊がだいたい食べてしまったみたいだが。
 そして会場の視線は二人に注がれている。
 このライブ、実は企画がこの二人だ、遙華は手伝ったのに過ぎない。
 そしてこのライブに招いた企業やスポンサー関係者に一度例をしてから二人は話し始める。
「私たちはこれまで沢山の物を失ってきました」
 そう語りだす澄香の声に場がしんっと静まり返る。
「けれどそれだけじゃありません、願えば、行動しつづければ、叶う夢もあるんです」
 そしていのりに背を押され舞台に上がるルネ。
「今日はどうしても紹介したい友達がいるんだけどいいかな」
 そう澄香が壇上に招きあげたルネに拍手が殺到する。
「みんな、呼んでくれてありがとう。これから卓さんの歌。みんなを幸せにしたいって思いの結晶、聞いて行ってください」
「まずはトップバッター、私達の仲間に新しく加わってくれた新人アイドルだよ」
「理夢琉ちゃんどうぞ」
 告げると『クラリス・ミカ(aa0010hero001 )』がライトエフェクトを操作する。
 次いで軽快な音楽と共に理夢琉が壇上に上がる。
 ルネと手を繋いで、全員に聞こえるように理夢琉はルネに言った。
「歌いきれた事で少し自信がつきました。ありがとう」
「ううん、私こそ、ありがとう」
 ルネのお披露目も兼ねて二人が、蔵李プロデュースで二人で歌う。
 曲はルネの歌をアレンジテンポある曲「kizuna☆Friends」。
 振付を合わせて衣装を翻すようなダンス。
 新しい出逢いは不安でも勇気出してみようよ と背中押す歌。
 その背後で歌っているのはいつぞや理夢琉が仲良くなったAGWグロリアス・ザ・バルムンク達。
 そんな二人を背後から見守っているのはドラムを担当するアリュー。
 その目はすでに潤んでいる。
 この時が長く続けばいいそう思いつつも、先ほどのロクトの姿がちらつく。そうならない事を感じながらアリューはドラムを叩く。
 二人の曲が終わると流れるように『イリス・レイバルド( aa0124 )』と『アイリス(aa0124hero001 )』の曲に繋がれた。
 二人はステージ上空から滑走するように降りてきてシンクロダンスを披露する。
 自前のバルムンクともともといたバルムンクでコーラス隊を結成。『サクラグラーツィエ』を謳う。
「ありがとう」という言葉の意味通り今日の日に感謝をというノリの歌である。
 それを眺めているのは最前列に陣取った姫乃とひかり。
 ひかりは生のアイドルの輝きに目をキラキラさせていた。
 その歌の背後で春月はバックダンサーとして参加している。
 二人が謳い終わればいのりが、ルネと理夢琉も上げてマイクを向ける。
「そう言えばルネさんからみんなに質問があるんだよね」
 そう言い切った後に、澄香が遙華も壇上に引っ張ってきた。
「わ! わたしは」
「功労者なんだから! それに挨拶もしないと」
「もう私は済ませたわよ」
 そんな遙華にイリスが気になっていたことを尋ねる。
「ここ前につくった温泉の場所ですか?」
「え? あそうね、うん、そうよ」
 そう頷く遙華は大人しく壇上にとどまることにしたらしい。
「改造したね。桜的な意味で」
「そうよ、大変だったの、私の年収が吹き飛んだの」
「まぁ、銀行に幽閉されているよりはよかったんじゃないかな?」
「うん? まぁそうね」
 アイリスの言葉に頷く遙華。
「お金と言えば、宇宙の依頼もすごいですよね」
 イリスが告げる。
「ええ、グロリア社あげての大事業よ」
「宇宙は時間があればですね」
「時期が時期だからねぇ、重要な依頼が出ないか身構えている関係もある」
 アイリスがうんうんと頷くと、イリスがうっとりした表情を空に向けた。
「空はいいです。宇宙(ソラ)もいいです」
「頑張って宇宙も開拓するから待っててね」
「休日…………? あるんですか? だいじょうぶですか?」
 そうイリスが若干引いたように尋ねた。
「最近激務と聞いているからねぇ」
「まぁ、今日が休みみたいなものだからみんな、楽しんでいってね!」
 そんな遙華の挨拶を尻目にいのりからマイクを受け取ったルネは声を会場に響かせる。
 エンジェルスビットを介して。
「みんなの大切な人は誰ですか?」
 そう問いかけられると、いのりは目を瞑って幸せそうな顔で悶えはじめた。
「それは……それは。ふふふ」
「それはここに集まってくれたみんなだよ!」
 そう澄香がいのりの隣でアイドルの模範解答を返す。
「当然、仲間たちもそう、でもやっぱり」
 澄香は告げるといのりの肩に腕をかけた。
「一番の特別というなら、やっぱり相棒かな」
 いのりの顔がポッと赤くなるのが遠くからでもわかった。
「ふふふ、御馳走様」
 そう嬉しそうにするルネにイリスは告げる。
「ルネさんありがとう」
 その言葉にルネは首をひねった。
「救出した側が感謝するのはおかしいと思うかい?」
 アイリスが言葉を継ぐ。
「助かりたい意思が無ければどうにも上手くいかないものだよ」
 生きたいと思った事。伸ばした手を掴んでくれた事それに対するありがとうだとルネは言った。
「私も助けてくれて、受け入れてくれて、ありがとう」
 会場の隅からすすり泣く声(主に燃衣)も聞こえるが、会場がしんみりなりすぎないうちにと澄香は壇上を入れ替える。
「さぁさぁ、時間は短い、次のアイドルが待ってるよ」
「次は、沙羅さんと、すずちゃんだよね」
 いのりが問いかけると澄香は頷く。
「うん、まだまだ続くから楽しんでいってね」
 そう壇上から消える二人の司会、代わりに上がってきたのは『小鳥遊・沙羅(aa1188hero001 )』。だが様子がおかしい、というより、シルエットがおかしい。
「やられたのよ」
 そのときバンッとライトアップされるも、壇上にいるのは奇妙に飛び跳ねるゆるきゃら?
 そう、以前物議を醸して、パクリでは? とさんざんネットで叩かれたタカナッシーがそこにいた。
 彼女もすり替え被害にあったらしい。
 ちなみにそのキグルミ以外の選択肢はなかった、下着も服もないため、キグルミの下は全裸だからだ。
(すり替えた人は、絶対に許さない)
 珍しく殺意を振りまきつつも、キレキレの動きで踊りながら歌い上げる沙羅。
 それに額を抑える澄香であったが、本当の試練はここからである。
 舞台袖から上がってきた蘿蔔、その足は着物の裾を引きずり。あでやかに着飾った少女はかんざしをきらりとライトに光らせた。
 着物である。
「もう届かなくなってしまった、友達のために謳います。
 仕事以前にかなちゃんの為に歌いたいそう、書いてきた曲それは。
「楽しい思い出だけでなく、悲しい気持ちも全部覚えていたいから」
 まさかの演歌だった。

『カナタ~花明かり~』

――遠い日の出会いと別れ 
  伝えられなかった言葉や後悔を
  穏やかで優しい曲調に合わせ暗くならないよう

 そう指先からつま先まで、視線の巡らせかたまで切なげに完璧に歌い上げる蘿蔔。
 その胸の内は至って真面目で、不安定である。
(私は…………ちゃんと進めているのかな)
 こんな時彼はなんといってくれるだろうか。
 そう会場に視線を走らせながら蘿蔔は最後まで謳いきった。
 その後も、アイドルたちが繰り返し出たり、互いの曲を交換して歌ったり、街中でないことをいいことに、催し物は夜遅くまで続いた。

●舞台裏

 最後に澄香といのりはありがとうを込めた『春風の音』を謳うと、舞台の上に全員を集めて、挨拶をした。
 その後壇上を折り、控室まで戻ると、あせだくになったいのりが真っ先に椅子へとしなだれかかる。
「つかれたよー。それに会場があついよ」
「温泉の湯気がすごかったね」
 そう苦笑いを浮かべる澄香といのりに蘿蔔がドリンクを投げ渡した。
 ノーコンなので澄香のジュースだけ地面に落していたが。
「時期を見て希望の歌をルネさんに返還するセレモニーとかもしたいけど、それはまた別の機会だね」
 告げると疲れ切ったルネが身を震わせた。
「はい! なんでしょう」
「なんだかまだガデンツァの悪さの気配がしてるし、気をつけてね!」
 いのりが告げるとルネは苦笑いを浮かべる。
「たぶん大丈夫、今のところ何の気配もないし」
 ともあれ希望の音はガデンツァの歌でもあるから、まだ油断できないのもたしか。この歌の秘密も完全には解明されていないのだから。
 そんな舞台裏でも元気なのが理夢琉である。
 理夢琉はバルムンク達との再会を喜んでいた。
「久しぶり〜バルちゃん達♪ 遙華、連れて帰っちゃダメ?」
「…………それをすると私が会社に起こられるのよね」
 そう視線をそらす遙華の視線を理夢琉は追ってみる。
「おねがい」
「…………」
「おねがい」
「…………ごめんね」
「おねがーい」
 結果、バルムンクを手に入れたらAIを移植してくれることにはなった。
 そんな控室に姫乃が訪れる。
「なぁ、遙華聞きたいことがあるんだけど」
「なにかしら?」
「唐突だが、踊れない子でもアイドルになる方法ってあるかね?」
「踊れるようにすればいいんじゃない?」
 姫乃はひかりを応援している。
 なのでリンカーアイドルデビューさせまくりの立場の遙華から話を聴きたかったのだ。
「詳しい話はまた今度、準備しておくわ」
 告げると澄香が立ち上がる。
「よし、私達で作ったバンガローにみんなを招待だ!」
 打ち上げも全力で、それが澄香のスタイルらしい。
 ただその輪の中に沙羅はいなかった。
 沙羅はキグルミの頭を抱えて噴水の前で立ち尽くす。
 そして一人レクイエムを口ずさんだ。
「誰に向けてって訳でもないけどね。気分よ、気分。文句ある……?」
 そう振り返るとそこにいたであろう誰かに行った。
「そういえば、ねぇ。一人のパートを自由に歌うのを、独奏協奏曲って言うのだったかしら」
 その闇から返事が返ってくることはない。
 無言の闇が沙羅の周囲に広がっていた。


●エピローグ。

 夜中、仕事が終わったリリアは空いたステージに乗ってマイクをとった。
 渚がそれにギターを合わせて二人のライブが始まる。
 それに寝れない人たちが乗ってきてすぐに人だかりができた。
 そんな喧騒を遠目に杏奈は梅酒を片手にルネと話している。
「大切な人っている?」
 お決まりのルネのセリフ。それに膝の上で眠る霧人を一瞥して、こう答えた。
「私の大事な家族、H.O.P.E.の皆も大切な人よ」 
 宴会も夜となれば寂しくなると思いきや、こんな風にポツラポツラと人はいるようで。
 特に異彩を放つのはいまだに餅をついているパンダ龍哉である。
「ねぇ、返してパンダ」
 そう袖を引く望月に龍哉は餅を差し出すと、全員でそれを食べた。
「人に作ってもらったお餅って美味しいよね」
 ご機嫌な百薬である。
「つきたてなのが尚いいね」
「そりゃよかったな」
 一仕事終えた感を漂わせる龍哉。ちなみに頭を外すと二人には驚かれた。
「気付いてなかったのか、長い付き合いなのに、可愛そうである」
「お疲れ様、餅つきやってくれてありがとう」
 そう代わりにジンギスカンをアーンしてあげる望月だった。
 これを明日にはいろんな餅に加工する予定である。
 雑煮とか。
 そんな日の燃え尽きかけた会場に雨月が到着した。
 一応明日半日残っているとはいえ、寂しさ満載である。
 ただ夜桜は綺麗だ。遠目に見ても綺麗。
「さすがに寝ているかしらね」
 そう雨月が会場入り口に目を向けるとそこには眠りこけている遙華がいた。
 待っていてくれたんだろうか。
 まぁ、実際遙華的には待っていたのだが。
 口にしないとそれは伝わらないもので。
 雨月も今は遙華を起こすつもりはないようで。
「いろいろあったわね」
 そう遙華を眺めながらこれまでの事を思い返す。
 沢山の任務、遙華と初めて出会った時の事、いろいろ。
 するとあの時の事が頭によぎって雨月は遙華を抱きしめた。
 すると遙華はふにゃふにゃと何事かを呟いて、そして。
 がぶりと。雨月の首に噛みついた。
「いた!」
「え………………、雨月! ごめんなさい!!」
 その後、お風呂でいろいろ罰を受けたのだが。
 それはまた別のお話。


結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
    人間|17才|女性|生命
  • 希望の音~ルネ~
    クラリス・ミカaa0010hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 全てを最期まで見つめる銀
    ユエリャン・李aa0076hero002
    英雄|28才|?|シャド
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • ほつれた愛と絆の結び手
    黄昏ひりょaa0118
    人間|18才|男性|回避
  • 闇に光の道標を
    フローラ メルクリィaa0118hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • 苦労人
    レオンハルトaa0405hero001
    英雄|22才|男性|ジャ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 希望を歌うアイドル
    斉加 理夢琉aa0783
    人間|14才|女性|生命
  • 分かち合う幸せ
    アリューテュスaa0783hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • 語り得ぬ闇の使い手
    水瀬 雨月aa0801
    人間|18才|女性|生命



  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • 朝日の少女
    彩咲 姫乃aa0941
    人間|12才|女性|回避
  • 胃袋は宇宙
    メルトaa0941hero001
    英雄|8才|?|ドレ
  • つむじ風
    豊浜 捺美aa1098
    人間|16才|女性|回避



  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188
    機械|27才|?|生命
  • 今、流行のアイドル
    小鳥遊・沙羅aa1188hero001
    英雄|15才|女性|バト
  • トップアイドル!
    小詩 いのりaa1420
    機械|20才|女性|攻撃



  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 託された楽譜
    魅霊aa1456
    人間|16才|女性|攻撃
  • エージェント
    S.O.D.aa1456hero002
    英雄|14才|?|シャド
  • ひとひらの想い
    想詞 結aa1461
    人間|15才|女性|攻撃
  • 払暁に希望を掴む
    サラ・テュールaa1461hero002
    英雄|16才|女性|ドレ
  • 紅の炎
    アリスaa1651
    人間|14才|女性|攻撃
  • 双極『黒紅』
    Aliceaa1651hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • 終極に挑む
    橘 由香里aa1855
    人間|18才|女性|攻撃
  • 狐は見守る、その行く先を
    飯綱比売命aa1855hero001
    英雄|27才|女性|バト
  • 紅蓮の兵長
    煤原 燃衣aa2271
    人間|20才|男性|命中
  • エクス・マキナ
    ネイ=カースドaa2271hero001
    英雄|22才|女性|ドレ
  • 世を超える絆
    世良 杏奈aa3447
    人間|27才|女性|生命
  • 魔法少女L・ローズ
    ルナaa3447hero001
    英雄|7才|女性|ソフィ
  • その背に【暁】を刻みて
    東江 刀護aa3503
    機械|29才|男性|攻撃
  • 最強新成人・特攻服仕様
    大和 那智aa3503hero002
    英雄|21才|男性|カオ
  • 暁に染まる墓標へ、誓う
    無明 威月aa3532
    人間|18才|女性|防御
  • 暗黒に挑む"暁"
    青槻 火伏静aa3532hero001
    英雄|22才|女性|バト
  • 家族とのひと時
    リリア・クラウンaa3674
    人間|18才|女性|攻撃
  • 友とのひと時
    片薙 渚aa3674hero002
    英雄|20才|女性|ソフィ
  • 心優しき教師
    世良 霧人aa3803
    人間|30才|男性|防御
  • フリーフォール
    エリックaa3803hero002
    英雄|17才|男性|シャド
  • そうだよ、楽しくやるよ!
    春月aa4200
    人間|19才|女性|生命
  • 変わらない保護者
    レイオンaa4200hero001
    英雄|28才|男性|バト
  • Dirty
    フィーaa4205
    人間|20才|女性|攻撃



  • 残照と安らぎの鎮魂歌
    楪 アルトaa4349
    機械|18才|女性|命中



  • LinkBrave
    夜城 黒塚aa4625
    人間|26才|男性|攻撃
  • 感謝と笑顔を
    エクトルaa4625hero001
    英雄|10才|男性|ドレ
  • 愛するべき人の為の灯火
    御剣 正宗aa5043
    人間|22才|?|攻撃
  • 共に進む永久の契り
    CODENAME-Saa5043hero001
    英雄|15才|女性|バト
  • 惚れた弱み
    柳生 鉄治aa5176
    機械|20才|男性|命中
  • 英国人も真っ青
    ブリタニアaa5176hero001
    英雄|25才|女性|バト
  • さいきょーガール
    雪室 チルルaa5177
    人間|12才|女性|攻撃
  • 冬になれ!
    スネグラチカaa5177hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 鎮魂の巫女
    天城 初春aa5268
    獣人|6才|女性|回避
  • 天より降り立つ龍狐
    辰宮 稲荷姫aa5268hero002
    英雄|9才|女性|シャド
  • 歪んだ狂気を砕きし刃
    あいaa5422
    獣人|14才|女性|回避



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