本部

雌雄の果ての戦い

落花生

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~10人
英雄
7人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/04/30 10:00

掲示板

オープニング

 とある地方都市の夜に、リンカーたちの声が響く。
 この町の夜は、しばらく前から愚神に怯えていた。
 マサカリを持った女、首のない男。
 そんな怪談じみた愚神が、この町の人々やリンカーを襲っていた。

●夜の町
『A班、マサカリを持った女性愚神に遭遇! 交戦を開始しているが、苦戦中だ!! 応援を頼む』
 通信機から響くのは、アルメイヤの言葉。
「こちらはC班。首のない男と交戦中。こっちも応援を頼みます」
 同じく通信機から響く、男性の声。
「二箇所で敵と遭遇するなんて、今夜は大忙しやな!」
 正義は通信機に向って、叫んだ。
「僕たちB班は、近いC班と合流するんや!! A班悪いけど、もうちょっと踏ん張ってくれや」
 正義たちは、夜の街を走る。
 そして、そこで仲間と戦う首のない男を見た。
 恐らくは、若い男の肉体なのだろう。背の高い屈強な肉体だが、首から上はない。夜の町と相まって、それは不気味な幽霊の姿のようにも思えた。
 だが、幽霊は武器など持たないであろう。
 首のない男は、両手に日本刀を携えていた。
「なんや、けったいな敵やな……」
 正義は、そう呟いた。
 そして、戦うために小鳥と共鳴しようとしていた。
 だが、いつの間にか首のない男は消えていたのである。
「なっ、なんでや!!」
『おい、B班! こちらのマサカリ女が消えたぞ』
 通信機から、アルメイヤの声がした。
 正義は何が起きたのか分からず、呆然とするのみであった。

●予想できる敵の性質
 H.O.P.Eの会議室で、アルメイヤは地図を広げる。
『状況を整理するぞ。私とエステルを含めた女性班通称A班は、マサカリを持った女の愚神と遭遇した』
 アルメイヤは、地図に赤いピンを刺す。
「そんでもって、男性だけの通称C班は首のない男の愚神と遭遇したんやな」
 正義は、地図に青いピンを刺す。
 そして、同じ場所に黒いピンも刺す。
「僕と小鳥は男女混合の通称B班で、C班と合流した途端に首のない男が消えたんや」
『ほぼ同じタイミングで、マサカリを持った女も消えた』
 アルメイヤが、付け足した。
「あの、どうして今回は男女に分かれた班と男女混合の班を三つも作ったんですか?」
 同席していたH.O.P.Eの職員が、アルメイヤたちに尋ねる。アルメイヤたちは、たしかに夜の街に出没する愚神を追っていた。しかし、班分けは当日のリンカーたちが勝手に決めたことであった。
『今回は参加した人数が多くて、英雄とリンカーが男女のペアと同性のペアで分けるとちょうどよかったんだ。だから、三組に分かれて愚神を探していた』
「そうだったんですね……ちょっと待ってください!」
 職員が、愚神の目撃証言を再び検証した。
「改めてみてみると、マサカリ女と首なし男には一定の出現条件がありました。……今まで気が付きませんでしたが」
「出現条件、なんやそれ?」
 正義の言葉に、職員は答えた。
「マサカリ女は、目撃者が全員女。首なし男は、目撃者が全員男なんです。この愚神たちは、異性がいる場所には現れないのかもしれません」
「なんで、そんな性質を持ってるんや」
「あくまで可能性なんですけど……恐れているのかもしれません」」
 正義の疑問に、職員は答える。
「自分と違う性別のライブスを吸収するのを恐れて、異性を襲わないようにしているのかもしれません」
『もしも、この愚神が異性のライブスを吸収したらどうなるんだ?』
 アルメイヤは、首を傾げる。
「もしかしたら、弱体化してしまうのかもしれません。あくまで、予想ですが」
 職員の言葉は、全てが予想である。
 だが、現状を見てみるとその予想は外れていないように思われた。
「他の要因もあるかもしれへんし、今回作戦に参加した面子は次の作戦には参加せんことにするで」
『ああ、そうだな。仮説はあくまで仮説だ。我々が、愚神たちを追いはらう何かを持っているとも限らないからな。……ん?』
 アルメイヤが、印刷された目撃情報に目を留める。
『マサカリ女だが、一軒だけだが男にも目撃された例があるぞ。このときは女性だけのところで攻撃を受けて、男性が助けに入った。しばらくは、交戦している』
「なら、最初の仮説が間違いかもしれへんな」
『だが、今回の場合は我々はライブスを吸収されていない。ある程度のライブスを吸収すれば、異性が現れても消えないのかもしれない。今回、私達は失敗した。次のチームには、この失敗を生かしてもらわないと』
 アルメイヤは、悔しそうに唇を嚙んだ。 

解説

夜の地方都市(21:00)――市民には外出を控えるようにしてもらっているため人通りはほぼない繁華街。単純な賽の目上の作りの町並みのため、道には迷いにくい。街灯などで、光源は十分にある。

公園――繁華街の中心部にある、小さな公園。

マサカリ女――斧を担いだ女性の愚神。女性のみがいる場所に現れ、女性のライブスを吸収しようとする。攻撃力と防御力に優れており、素早くはない。左手の腕輪を付けている。ライブスを一回でも吸収すると逃走し、男と公園で合流する。一回でも女性からライブスを奪えば、男性が現れても消えることはない。
・吸収の刃――武器を通して相手のライブスを吸収する。
・出会いを待つ――自分の分身を複数制作し、目くらましとして使用する。なお、分身には実態がない。
・悲恋――異性のライブスを取り込むことによって、攻撃と防御のステータスが下がる。しかし、スピードが大きく上昇する。
・恋が実る――武器より雷電を発生させ、周囲のものを感電させる。与えられるダメージは少ない。

首なし男――二本の日本刀を持った男。防御力が高く素早い攻撃が得意だが、攻撃力が低い。男性のライブスを吸収しようとし、一回でもライブスを吸収すれば女性が現れても消えることはない。右手に腕輪を付けている。ライブスを吸収すると女と公園で合流する。使用できるワザは、マサカリ女と同じ。

PL情報
腕輪の子供――公園に出現しており、マサカリ女と首なし男が腕輪を渡すとステータスが大きく上昇し、マサカリ女に似た美女へと変身する。
・継承(女)――巨大なマサカリを空中に出現させ、敵に向って落下させる。
・継承(男)――日本刀を何本も召還し、その全てを敵に向って掃射させる。
・遺伝――美女変形時のみ使用。雷電を落とし、大ダメージを与える。命中率は高くない。
・幸福の象徴――追い詰められると使用。マサカリ女と首なし男を吸収し、体力の半分を回復させる。

リプレイ

『今回の敵は少々厄介だ。マサカリ女のほうは男が出ると消え、首なし男は女が現れると消えてしまう』
 アルメイヤが、愚神討伐のために集まったメンバーに事前に説明する。
「……ん。エステル……元気……だった? 任務……一緒にがんばろう……ね」
 氷鏡 六花(aa4969)が、アルメイヤの後ろにいたエステルに声をかける。
「……ごめんなさい。前回参加したメンバーは、愚神に逃げられる要因を持っている可能性があるからって……作戦に参加できないんです」
 申し訳なさそうにエステルは答えた。
 六花は、少しばかり残念そうな顔をした。
『もう愚神を逃がすようなことがあってはならないからな』
「ふふふ。ドレス姿も素敵だったけど……やっぱり普段の凛々しい姿の方が、貴女らしい……かしら」
 アルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)は、どこか子供っぽい笑顔を浮かべる。だが、その笑顔の裏には今回の作戦では自分たちだけの力が頼りであると理解している大人の賢さがあった。
「マサカリ女とは、出会ったらすぐに攻撃するべきですね」
 ナイチンゲール(aa4840)はめがねの位置を直しつつ、作戦内容を確認する。今回は男女に分かれての探敵と先頭になる。戦力は今よりも少なくなる。
「六花もいるんだから、頑張らないとね」
 顔なじみの六花に手を振りつつ、ナイチンゲールは気合を入れる。幼い彼女の力になりたくてこの仕事を選んだのだ。しっかりとやらねば、という気持ちがいつも異常に湧きたっていた。
『できるかぎり、通信機で互いの状況を知らせあうぞ。愚神は一度でもライブスを吸収すれば、異性にあっても消えないようだ。もしものときは無理をせずに、救援を呼んで欲しい』
 我々が駆けつける、と墓場鳥(aa4840hero001)は言う。
『人通りは少ないようだが、場所が場所だけに一般人にも注意しなければならないな。特に女性人は、一般人の変質者と愚神を間違わないように注意しなければならない。今回集まったのは、歳の若いエージェントばかりだ』
 墓場鳥の言葉に、アリス(aa1651)はため息をつく。夜の街を未青年が歩く危険は十分に分かっているが、ここにいるのはリンカーばかりだ。危険もなにもないであろう。
「もし、変質者と出会ったら……燃やしてしまうかもね」
『わたしたちの炎に耐え切れる変質者がいるかな?』
 そっくりな顔を見合わせて、アリスとAlice(aa1651hero001)はひそひそと呟く。
「おー、夜のパトロールデェース! きっとピカピカでいっぱいで、きれ――デェース」
『いい? 迷子のならないようにちゃんと手を繋いでよね? それと変な人に声掛けられても反応しちゃダメだよ……って聞いてる?』
 あい(aa5422)とリリー(aa5422hero001)の会話が耳に入ったAliceは、ため息をついた。エージェントなのに誘拐被害者になりそうな人物がいたことを思い出したからであった。
『事前のミーティングは、ココまでだ。最後に、この中に一人だけ作戦内容を理解していないものがいる。……御神 恭也(aa0127)!! 女装では意味がないと言っただろうが!!』
 アルメイヤの怒号が響き渡る。
 伊邪那美(aa0127hero001)によって、女装させられ恭也ちゃん(夜の街バージョン)になった恭也は「俺達は首なし男のほうに行く予定だ」と必死に弁解する羽目になったのだった。

●首なし男
『上手くマサカリ女に恭也のライブスを吸わせる方法は無いかな……って、考えた末の作戦だったのに』
 序盤から怒られた伊邪那美はご機嫌斜めであった。だが、女装させられ夜の街をあるくことになった恭也のほうがもっとご機嫌斜めである。
「……この姿になんの意味があるんだ? 奴らは見た目で性別を判断していない可能性が高い筈だが」
 ハイヒールだけは勘弁してもらったが「女装姿で街を歩く」という恭也にしてみたらとんでもない状態は未だ継続中である。
『通常時ならね。追い詰められて切羽詰まった状態なら襲って来る可能性があるでしょ』
「解せぬ……」
 麻生 遊夜(aa0452)は、友人の肩を叩いた。武士の情けで作戦前にユフォアリーヤ(aa0452hero001)がとっていた写真は、そっと削除しておいてやることにした。
「まぁ、何にせよやることは一つか」
『……ん、どう動く……かな?』
 行動が特殊な愚神である。
 十分注意しなければ、と遊夜たちが話していたときであった。
「ギャハハハ! さっそく、現れたじゃんか!!」
 夜の闇に、氷斬 雹(aa0842)の笑い声が響く。
 その先にいたのは、首なし男である。情報のとおりに二本携えた日本刀に、雹は腹を抱えて笑い出す。
「マサカリ女だかキンタロウ女だか知らねェが、どんなゴリラだヨとか思ってたけど。男のほうもゴリラじゃんか。ゴリラには、こいつぐらいの火力でも足りないじゃねーの?」
 雹はフリーガーファウストを担いで、首なし男に向って砲撃する。
 だが、思った通りのダメージを与えられている気配はなかった。
「ちっ。やっぱ、ゴリラだぜ。脳みそがねぇから、痛みもわからねーじゃんか」
 雹の一撃を見ていた畳 木枯丸(aa5545)は、目をキラキラとさせていた。幼いながらも剣客同士の戦いに彼は目がなく、今回の仕事も首なし男と戦えるから参加したほどの刀好きであったからである。
「いいねぇ~~剣客だねぇ~~。しかも二刀流だねぇ~~みやもとむさしみたいだね~~二天一流なら楽しみだねぇ」
 浮かべる笑みを隠すこともせずに、木枯丸は自分の刀を抜いた。
『どんな状況でも、おんしは変わらないようじゃの』
 菜葱(aa5545hero001)の言葉に、木枯丸は頷く。
「久々に剣客相手だからわくわくだよぉ~~。あとあの刀も見たい~~。妖刀だったら欲しいな~~」
 幼い物言いとは裏腹に木枯丸の気配は、段々と鋭利になっていった。久々の剣客同士の戦いに、血が滾っているのは本当なのだろう。
「大体、太刀筋を把握したらカオティックソウル使ってから闘うよぉ~~。準備しておいてね」
『わかったのじゃ。わしのほうは気にかけず、おんしの好きなように戦うのじゃ』
 菜葱の許しを得た、木枯丸の刀が鞘から抜き放たれる。
 まずは、様子見の一太刀。それから、自分の全力を相手に叩きつける。木枯丸は、そう考えていた。
「あ……れ?」
 さぁ、刀を打ち合うぞ。
 そう身構えた木枯丸が見たのは、首なし男が走っていく背中であった。
「えっえっ、なんでなの!!」
 目を丸くする木枯丸。
 遊夜は走り出しながらも、すかさず携帯で女性陣に連絡をとった。
「敵、北方向に逃走中……さて、どこに行くのやら」
 追いながら攻撃する予定だ、と伝えるとアリスの声で予想外の言葉が返ってきた。
「こっちのマサカリ女も、南に闘争中。追いながら攻撃はしているけど……」
 二匹の似た性質を持つ、愚神がそろって逃走している。
 これはどういうことなのだろうか、と遊夜は首を傾げた。
『……男は、ここから北……女は、ここから南……交差するのは、公園?』
 ユフォアリーヤの言葉に「公園で落ち合う気なのだろうか」と遊夜は小さく呟く。だが、なんのために。
「考えたってしかたねーじゃんか。行くぜ!」
 雹は走りだし、遊夜も煮え切らない思いを抱えながら夜の街を走り出した。

●マサカリ女
 アリスは、遊夜の言葉を思い出す。首なし男は北に向っている。そして、自分たちが追っているマサカリ女は南へ。彼らは、何を目指しているのだろうか。
 終焉之書絶零断章を片手に、六花は冷気でマサカリ女の足止めを狙う。足元を凍らせて、この場にマサカリ女を縫いとめる作戦に出たのであった。
「ナイチンゲールさん、やったよ!」
 マサカリ女の足元が凍りつき、六花は思わず喜びの声を上げる。まだ、勝負は決まっていない。それでも、ナイチンゲールの助けになれることがうれしかったのだ。
「六花、危ないから下がっていて!」
 ナイチンゲールは、ソルディアをマサカリ女に構える。他ではあまりみないト音記号の形をした剣は、まるで前衛芸術のオブジェのような外見であった。
『行動が怪しい。できれば、一撃で仕留めえるぞ』
「分かっているよ」
 墓場鳥の言葉を胸に、ナイチンゲールは懇親の力を音符の剣にかける。
 だが、そのときマサカリ女の周囲に雷電が発生した。
「これは、なに!?」
 ナイチンゲールは警戒し、その雷電から遠ざかる。
「うわぁ。夜の街に、電気がパチパチしていてきれ――DeaTh!!」
 あいは、嬉しそうにはしゃいでいた。
 そんな彼女に、リリーが釘を刺す。
『はいはい、楽しむのはお仕事が終わってからだからね』
「DeaTh!」
 あいは斧を握り締めて、マサカリ女へと向っていこうとする。すでに雷撃は何発か当たっているが、見た目の割りにダメージ量は多くはない。きっと派手なだけで、威力はない技なのであろう。リリーは、そのことに関してほっとしていた。おそらく、この愚神はワザは多彩であるが、そこまで強い敵というわけではない。出現の仕方が、特殊なだけだ。
『種さえ分かれば、怖くはない敵だよ!』
「そうDeaTh!」
 だが、あいの攻撃は空振りに終わった。
 確かに攻撃は愚神に当たったはずなのに、愚神の姿が消えてしまったのだ。
 その光景を見ていたアリスは、唇を噛んだ。
「別の攻撃を使われたんだね。たぶん、幻影を見せるような」
『逃げられたね』
 自分そっくりな少女の声に、アリスは頷く。
「そうだね、Alice」
 追いかけないと、とアリスは呟いた。
 男女の愚神が、邂逅するとき。
 何かが生まれそうな予感が、アリスにはしていた。

●邂逅の公園
「思ったよりも相手の攻撃は軽いな……」
 首なし男の追いかけながら、恭也は呟く。先程一戦を交えたが、ダメージは思ったより軽かった。
『威力よりも手数で勝負って感じみたいだね』
「なら、ある程度のダメージは覚悟してでも腕の一本は貰い受ける」
 ミニスカート姿でも、勇ましく恭也は前方を走る敵を睨んだ。首なし男は公園に逃げ込む。だが、そこには幼い子供が一人立っていた。
『……あの子、普通じゃないみたいだね』
「標的が揃って同じ所に訪れて、その場所には怪しい子供」
『どう考えても関係者だね』
 伊邪那美と恭也は、互いに頷きあう。
 首なし男は、公園にいた子供に自身が付けていた腕を手渡した。その光景は、まるで鳥の親子のようであった。親が餌を取りに外へと赴き、巣穴に戻って雛に餌を与える。首なし男と子供は、そんな愛情すら感じられるように腕輪のやり取りをする。あまりにも暖かな光景に、遊夜は一瞬だけ攻撃を躊躇した。
「……男女の類似点に腕輪があったな?」
『……ん、共にライヴス吸収……腕輪に貯めて、譲渡はあり得る』
 愚神が、親子関係など結んでいるわけがない。
 だから、あの光景は遊夜の脳が見せた錯覚。あれはただのライブスの受け渡しに過ぎないと自分に言い聞かせて、腕を狙って攻撃をする。
『ボクたちもだよ!』
「わかっている」
 恭也は子供と首なし男の間に入るように、烈風波を使用する。
「家族ごっこならアノ世でヤッてナ。Byebye」
 雹は子供に向って、攻撃を放つ。
 その瞬間、子供が口を開いた。
「これは――父から受け継いだ力」
 空中に何本も現れる、日本刀。その日本刀が、雹に向って降り注ぐ。
「親の力を受け継ぐなんて、面倒なだけじゃんかっ。死ね!」
 威嚇射撃で敵の狙いをそらした雹は、地面に唾を吐き棄てる。
「親の力なんざ、クソくらえだぜ」
「私は、強くなれる」
 子供の愚神が言う。
「親の力を食らい、愛情を食み、継承し、さらなる高みにいける。あなたたち、人間のように親からもらったものを無碍には棄てない。全てを有効に利用する」
「あ~~、面倒クセェ~~。さっさとクタバレ!! 聞いてないんだよ!!」
 子供に向う雹の攻撃を、首なし男が庇おうとした。
 だが、首なし男の前に立ちふさがったのは木枯丸であった。
「首無し君は速攻たいぷなんだねぇ~~ボクと似てるねぇ~~」
 木枯丸はにこにこと楽しそうに、首なし男と切り結ぶ。
『同じタイプでは、いささか勝敗がつきにくいじゃろうか』
「なら、ふぇいんとをかけるよ」
 木枯丸が攻撃をしかけようとしたとき、首なし男の数が増えた。
「うわぁ! 刀がいっぱいだけど、そういう美味しい話じゃないよね」
 全部が本物だったらいいのに、といいつつ自分に向かってくる敵を木枯丸は切る。思った通り、幻影であった。そして、間をおかぬ雷撃。遊夜は、頬をかする雷撃にひやりとしながら呟いた。
「いくら攻撃力が低くとも、幻影の目くらましと雷撃はやっかいだな」
『……ん、子供のほうにも注意』
 ユフォアリーヤの言葉通り、空から刀は降ってくる。
 先程も見せられた子供のワザを遊夜は転がりながら避けた。
「追い詰めたDeeeath!」
 夜の公園に、あいの声が響く。
 男性人が入り口のほうを見れば、マサカリ女が公園に到着していた。
「腕輪を譲渡させるな」
 恭也の忠告に、あいとリリーはぽかんとしていた。
『状況はよく分からないけど、腕輪を渡したらダメなんだよね』
「Death? あいとお友達になれないDeathか?」
 あいは子供を指差して、リリーに訪ねる。こんなところで戦っている子供など、愚神や従魔に違いないのにとリリーはため息をついた。
『残念だけど、お友達にはなれないわ。あいつも愚神みたいだし……そもそもそんな友好的には見えないでしょ? ……あいちゃんには分かんないか』
 ため息交じりのリリーの言葉を聞きながら、愛は斧を握りなおす。
「なら、わたさないDeeeath。あっちも、斧。あいも斧、同じなのDeeeeeath!! でもあいのほーが強いのDeath!!」
 あいの斧が、マサカリ女の背中を切る。
 だが、女は足を止めずに自分の腕輪を子供に向って投げた。
「これが、母の力。私は、ようやく大人になれる」
 その腕輪を受け取った子供の姿が、歪んだ。
 子供の姿だった彼女の背丈が一気に伸びて、マサカリ女に似た美女へと変身する。
「そして、これは母から継承した力」
 美女の宣言と共に、空中に巨大なマサカリが現れた。
「男女のライブスを譲渡されて大人になるなんて……なんだか神話の登場人物みたいだね」
『そうだね』
 アリスとAliceは拒絶の風で、巨大なマサカリを避けようとしていた。
『大技がくるようだぞ』
 墓場鳥の言葉に、ナイチンゲールは盾をとる。
「六花、私の後ろにいてよね」
 ナイチンゲールの盾に庇われる六花は、わずかに戸惑った。
「それじゃあ、ナイチンゲールさんが……」
『六花、大きな攻撃がくるの。だから、それが終わったら私たちが凍らせましょうね』
 ただ守られるだけではなく、カウンターを叩き込むためだ。アルヴィナの言葉に、六花は頷く。
「あの子とお友達になれないのは哀しいけど……ナイチンゲールさんが傷つくほうがもっと嫌なの!」
 普段は大人しい六花の思いに、ナイチンゲールの胸は熱くなる。この可愛い妹分に傷一つつけてやるものかと、彼女は盾を握り締める。
『落ちてくるぞ!』
「耐えきれるよ。だって、私の後ろには六花がいるんだから!!」
 巨大なマサカリと盾が触れ合う金属音。
 ナイチンゲールの細腕にかかる、巨大マサカリの重さの付加。
 その全てを彼女は墓場鳥と共に乗り切る。
 後ろにいる六花に怪我をさせたくはない、という思い一つで。
 巨大なマサカリが消えた瞬間、六花は幻影蝶を美女に向って解き放つ。
『チャンスだね。畳みかけよう』
「そうだね。三人もいると厄介だね」
 Aliceとアリスは頷きあい、六花のあとに続いて美女を攻撃する。
「――少し消耗してしまったわ」
 美女が、ぼそりと呟く。
 そして、雹に向ってにやりと美しい顔を歪ませて笑った。
「ねぇ、あなた思ったことはない? 幸福の象徴ってなんだろうって」
「あ? そんなもの考えたことあるわけねーじゃんか」
 感情を滲ませない雹の切り替えしに、美女は益々恵美を深める。
「幸せの象徴はね――子供が健やかにあることよ。たとえ、親を食べてしまってもね」
 美女の肉体に、マサカリ女とマサカリ男の肉体が吸収される。どうやら、アレで体力の回復を図っているようである。その光景を見たリリーは「げっ」と嫌悪感を露にする。共食いのように見えたのだ。
「……お腹すいたDeath。帰りに美味しいもの食べてくDeath♪」
『どうしてアレを見て、お腹がすくのよ!』
 能天気にもほどがあるあいに、思わずリリーは突っ込んでしまった。だが、内心は別なことが気にかかっていた。
『……あの二人に共通する腕輪、それに子供……、……ま、あたし達には関係ないか』
 あいほどではないが、少しは気楽に行こうとリリーは考える。
「子供が親を取り込むのが、幸福の象徴か……」
 遊夜が何か思うことがあるかのように、ぼそりと呟いた。
 ユフォアリーヤは、そんな彼に首を振る。
『……ん、違う。親と共にあるのが、幸福の象徴』
 自分たちはそれを守るためにいるのではないか、とユフォアリーヤは言葉なく遊夜に伝える。
「ともかく、これで倒す敵は一体に減ったな」
『考えようによっては、得をしたのかもね』
 油断は出来ないが、と伊邪那美と話しつつ恭也は攻撃の構えを取る。
『あの女の人も、恭也のライブスを女だと思って吸うかも。おーい、おーい。こっちのライブスあーまいぞ。そっちのライブスにーがいぞ』
 敵は蛍か、と思わず恭也は突っ込んだ。
「今更ながら、俺が女装させられる意味はあったのか?」
『多分……あったんじゃないかな~~。男しかいない場面が華やかになったし』
 あまりにも苦しい言い訳が、脳内に響いてくる。
 戦闘中でありながら、恭也は若干疲れてきた。
「まさかとは思うが……お前の楽しみでやらせたんじゃないだろうな」
 伊邪那美の鼻歌が聞こえてきた。
 誤魔化すのすら面倒くさがっているようである。
「剣を使う男の人は、消えちゃったのかな?」
 せっかく勝負できそうだったのに、と木枯丸はしょんぼりする。よっぽど剣豪との戦いを楽しみにしていたのであろう。
『おんしはブレないのう。あの美女も刀のワザを使うようじゃが』
 菜葱の言葉通り、美女は空中に無数の日本刀を召還していた。その光景に、木枯丸の瞳が煌く。
『本当だ! あ、すきる対決したいの~~? 同時にすきる使用したら、辺り一面刀で埋め尽くされるねぇ~~』
 たいへんだ、と言いつつも楽しみながら木枯丸は攻撃を待っていた。
 刀の雨が、それぞれに降り注ぐ。
 各自それを防御しながら、反撃の機械を伺っていた。最初に動いたのは、木枯丸である。地面に突き刺さった剣に飛び移り、美女に向っていく。
「こっちもうぇぽんずれいんだよ」
「では、こちらは母から継承した力を」
 大量の武器と大きなマサカリが空中に出現する。
 刃物と刃物。
 それらは空中でもぶつかり合い、されどマサカリはその巨大さゆえにいくら武器が空中で当たってびくともしなかった。木枯丸の攻撃にびくともせず、マサカリは地面に突き刺さる。命中率が悪いせいで、犠牲者こそ出なかったが巨大なマサカリはリンカーたちに圧倒的な攻撃力を見せ付けた。
「くっ……」
 だが、木枯丸の攻撃も美女に届いていた。
「親から受け継いだもんなんかクソじゃねーか。俺様がそれを証明してやる」
 フリーガーファウストが美女に命中し、雹の笑い声が響いた。
「やっぱり、仕事だと一騎打ちは難しいのかな?」
 木枯丸は、つまらなさそうに頬を膨らませた。
『すねるでない。敵の撃破が最優先じゃ』
 そんな木枯丸に言葉をかけつつ菜葱は、敵の様子をみやる。さすがにもう回復はされないだろうが、それも油断はできない。
「子供が……親を吸収」
 六花は、わずかに震えていた。親を失った六花にとって、子供が親を食らうような光景はショックが大きかったのだろう。
『六花……ここで立ち止まってはいけないわよ』
 震える六花をアルヴィナが諭す。
『あなたが生きていれば、あなたの両親にとっては何物にも変えがたい幸福となるの。あなた自身が、その幸福を奪ってはいけないわよね』
 ここで止まってはいけない。
 六花は、震えを押し殺して前を向く。
 大好きなナイチンゲールと大好きな遊夜たちが、戦っていた。両親をなくしてから、六花のために心を砕いてくれた人たち。その人たちのためにも、六花はここで震えるだけの子供ではいられない。
 六花は、もう一度断章を使用する。
『分かっているな?』
 墓場鳥の言葉に、ナイチンゲールは頷く
 背中に感じる冷気は、守りたい少女が自分を応援している証拠。
「私も、この一撃に全てをかけるよ!」
 ライヴスブローを美女に叩き込み、ナイチンゲールは戦う。
「……それじゃあ、」
『終わらせようか』
 そろそろ、勝敗が決まる。
 それを目指して自分たちも攻撃の手を緩めない、という決意をアリスとAliceは二人で行なう。足元を狙った攻撃で、アリスたちは美女の反撃をできるかぎり防いでいった。
「私は、負けない! 父と母、その力を継承し――親を食べた私が……負けるはずないんだ!!」
 美女は、叫ぶ。
 その先には、遊夜がいた。
 愚神に親子関係があるかなんて分からない。自分たちの心を乱すためだけの作戦であったのかもしれない。それでも、親を食らうことになった可愛そうな子供に遊夜は静かに告げた。武器を握る、狙いをつける。
 ただ、それだけの慣れた行為。
 敵に止めを刺すだけの行為なのに、今日は嫌に自分の心が冷えたように遊夜には感じられた。せめて、苦しまないように。愚神の白い眉間に、遊夜は弾丸を撃ち込む。美女の肉体は大きく傾き、その細い手首から両親から受け継いだ腕輪がするりと抜ける。ばたり、と彼女の肉体が地面に伏して消える間際――彼女の肉体は元の幼い子供のものへと戻っていた。
「おやすみなさい、良い旅を……」
 願うのならば、次に生まれ変わったとき――優しい両親とずっと一緒にいられますように。甘すぎる言葉を戦闘直後に吐けるほど、遊夜は強くはなかった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 冷血なる破綻者
    氷斬 雹aa0842
    機械|19才|男性|命中



  • 紅の炎
    アリスaa1651
    人間|14才|女性|攻撃
  • 双極『黒紅』
    Aliceaa1651hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
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