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【相談卓】夢の入り口
最終発言2018/04/03 11:07:00 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2018/04/03 23:14:48
オープニング
この【AP】シナリオは「IFシナリオ」です。
IF世界を舞台としており、リンクブレイブの世界観とは関係ありません。
シナリオの内容は世界観に一切影響を与えませんのでご注意ください。
●えにしの妖精
妖精リンクはか細い体にシルクハットをかぶり、燕尾服を身に着けた小さな妖精。
短い金の髪に淡いブルーの瞳。
羽根は無いけど、自由に空を飛び回る。
それどころか、時間や距離さえも、リンクをとらえることはできない。
リンクは久しぶりに自分の図書館へと帰って来た。
そこはすべての壁が天井までぎっしりと本で満たされていた。
けれども、リンクが歩けば、すぐに本を仕舞う棚が現れる。
それはどこまでも果てのない、読むものの居ないリンクの「図書館」。
本はすべてリンクが描いた彼の見た記憶を書き留めた物語。
妖精リンクは「縁(えにし)の妖精」。
彼はどこからかまっしろな本を掴みだすと、表紙にすらすらと書きつけた。
──tie the knotのその前に。
今日、彼は彼が見て来た「結婚」に関する物語を書くつもりなのだ。
いや、それは正確ではない。
正しくは、彼は「結婚のその前夜」に起こったことを書き留めようと思い至ったのだ。
楽しそうに、リンクは彼にしか読めない文字を丁寧に書き始めた。
●来客
その時、リンクの図書館に不思議なことが起こった。
それはリンク自身も忘れるくらい長い時間の中で初めてのことだった。
館内のあちこちに置かれた大きくふわふわのソファーの上へ、彼が今書き始めた物語の登場人物たちが、ひとり、またひとりと現れたのだ。
彼らは自分たちの状況に驚いただろう。
見知らぬ世界の見知らぬ図書館のソファーの上に召喚されて。
さらにその眼前には彼らがそれぞれ経験した「結婚前夜」の思い出が、物語の様にうつくしく描き出されている。
残念ながら、彼らには自分たち以外の人々の思い出を見ることは出来ない。
けれども、リンクが夢中で本を書いている間、召喚された人々は自分たちの思い出の世界にじっと見入った。
解説
●主題:それぞれのそれぞれの形の結婚の前日を描く「物語」
この物語は人々の縁(えにし)を見守る妖精リンクの記録の再生で
リンクが見て来た「結婚」の「前日」の物語をメインにプレイングをお願い致します
結婚する本人以外にも、ブライズメイドやグルームズマン、
友人・親・子・恋敵としてのエピソードでもOKです
「結婚」は各自好きな段階を結婚と決めてください
※結婚は「結婚式を挙げた/入籍した/知人にオープンにした/契約した」日など、自由ですが念の為明記お願いします
・「物語」はリンクの目で見たものなのでリンクの主観・記憶違い・美化があります!
・それぞれのエピソードの季節や状況は限定しません
最後にPCたちはリンクの目から見た自分たちの物語を見ています(他PCの物語は自分が登場しなければ見れない)
エピソードを全部見た時、ずっと見守っていたリンクへ感想など語りかけをしてあげると喜びます
最後は貴方達は不思議な夢を見たと目覚めます
●妖精リンク
性別の無いえにしの妖精で普段は人に見えない存在
色々な人々の縁交わる様々な一日を見ている(見ているだけ)
「えにしの本」を作って自分の見て来た内容をそこに綴っている
ただし、えにしの本はリンクにしか触れない本で書かれている文字もリンクしか理解できない文字である
●ご注意
・PCにとってのNG行為がありましたら明記をお願い致します
・文字数・他の事情でマスタリングが入る可能性があります
・パートナー同士ではなく、他PCとの結婚もOKですが相手と打ち合わせた上で双方プレイングに一言お願いします
・結婚当時のエピソードはNGです(明日はこうだね、こうしたいねはOK)
・参加PC以外のPC名はリプレイに記載されません
・今回、設定上の家族(登録PC以外)の名前を口にするのはOKですが、できれば続柄の呼び方や愛称程度だと嬉しいです
リプレイ
●夢魔の夢
「ね、一羽ちゃん。明日だね、ケッコンするの。どういうドレス着ようかなー」
唐突なルナ(aa3515hero001)の言葉に天野 一羽(aa3515)はむせった。
「ええっ!? い、いや、結婚式じゃなくてね……」
確かに明日は式場へ行く。
けれども、それはリンカーを対象にした婚礼衣装のモデル依頼なのである。
しかし、それを理解しているはずのルナは。
「どういうドレス着ようかなー」
すっかり花嫁気分でカタログをめくっている。
「うう、ルナってば、完全にその気になってる……」
一抹の不安を覚えながらも、同時に一羽も彼女のドレス姿には興味があるし、楽しみにしている。
元々、私服でもルナはとても魅力的で美しい。
──ウェディングドレスかぁ。ルナ、似合うんだろうなー。うう、ルナが写真撮るだけなのに、すっごい緊張してきた。
「写真、たくさん撮るね」
「たくさん撮ってもらわなきゃね」
一羽が言うとルナが頷く。
「ん?」
「ふふー」
食い違いに気付かない一羽を愛おしそうに見るルナ。
一羽は依頼がただのモデルで、ルナだけがドレスを着るものだと思っている。
だが、実は明日の依頼はただのブライダルショーではない。確かに撮影はあるがほぼ本物の挙式そのものの流れの中で行われるのだ。
── 一羽ちゃんもタキシード着てもらわなきゃね。ナイショだけど。
カタログを抱えて一羽の隣に座るルナ。
「明日の依頼、こっそりガチで将来を誓っちゃって、本当に結婚しちゃうカップルもいるんだよ」
夢魔であるルナは結婚のことがよくわかっていない。ドレスを着てらぶらぶすれば概ね認められるものだと思っている。
なので、明日の依頼は彼女にとってプレ結婚式であった。
「結婚、って言われてもなぁ」
ルナが指差すカタログの結婚式のワンシーンを見ながら、考える一羽。
──どんな感じなんだろ。……いつかはするのかな?? ……って!!
突然、脳裏にルナの顔が浮かんでしまい、みるみる顔が赤くなる。
確かに彼女のことは憎からず想ってはいるし、綺麗で可愛いと思っているがまだ恋人と言う訳ではない。
──まだ、って! いや……。
はっと気づき、一羽の顔はさらに赤らむ。
『人間』とは違う生を生きて来たリライヴァーとの結婚、というのは、正直、想像がつかない。
しかも、一羽はまだ十六歳だ。
一方、ルナはと言えば、夢魔として生きて来た生の中で純愛の経験は無く、それゆえに恋の知識も歪だ。
ただ、初めて好きになった一羽と誓約とは違う縁を結びたいと思っている。
その時、ルナは一羽の顔が赤いことに気付いた。
「あ、一羽ちゃんもドキドキしてるの??」
嬉しく思い、同時に胸をときめかせて、ルナはそっと一羽へ顔を寄せた。
「……えっ? ちょ、ちょっと……!?」
甘い息のかかる距離でルナは一羽へ囁いた。
「……私もだよ。早くその時になって欲しいけど、なって欲しくないっていうか。
でも、まだ本番じゃないから……」
ルナの柔らかな唇がそっと一羽の頬に押し付けられた。
「ん……」
「……!?!?」
「大好き♪」
真っ赤に顔を染め言葉を失う一羽にルナはぎゅっと抱き付いた。
●姫君と騎士
飾られたウェディングドレスの前で月鏡 由利菜(aa0873)は自分の背を抱くリーヴスラシル(aa0873hero001)の腕にそっと自分の両手を添えた。
ついに明日、由利菜はこの騎士と式を挙げる。
理想とする男性との恋への憧れと、胸に抱えてしまった想いの矛盾が由利菜をずっと苦しめていた。そして、彼女自身の恋愛への臆病さと意地っ張りな性格のために、その苦悩を相談することもできず、唯々悩み続けた日々。
それらを思い出して、由利菜はようやく得た恋人のぬくもりの中に身を寄せた。
「ユリナ、どうした?」
今は彼女の想いも、その果ての決意も知っているリーヴスラシルが案じる様に由利菜を支える。
由利菜は慌てて大丈夫だと首を振って、彼女を見上げた。
「ラシルのことは大好き。でも……勢いだけで恋人とか結婚とか決めてしまったら、後悔すると思ったから……」
「……それが普通だろう。異性との結婚でさえも、男女は葛藤するものだ。……ましてやそれが同性ならなおのこと。性別の違いを簡単に割り切れ、と言う方が酷だ」
胸の中の大切な主君に、確かめる様にリーヴスラシルはもう一度尋ねた。
「……私は、ユリナが私を妻に選ぶことを嫌がってはいない。だが……本当に私でよかったのか、ユリナ。同性との結婚は、ユリナの子供が望めないことを意味する。主にとって、それは決して軽んじていいことではないぞ」
「分かっているわ……。でも、私にとって一番の選択肢はやっぱりこれだと思う」
由利菜を抱きしめるリーヴスラシルにも葛藤はあった。
ふたりの誓約は、他のリンカーたちとは少し異なっており、そのために由利菜は長く家族や友人と縁を切らざるを得なかった。無論、誓約はその時の由利菜のためであったが、リーヴスラシルはそれにずっと負い目を感じていた。
「私は契約した時から、主と共に歩むことを決めていた。流石に恋愛関係になるとまでは思っていなかったが……」
生真面目な彼女の言葉に由利菜は軽く睨んで見せる。
「私にはラシルと結婚しながら、子供の為に男性の伴侶も選べるほど器用な立ち回りなんてできない……。それにラシルがもし他の男の人と付き合ったら、嫉妬しそうだもの……」
由利菜の意外な告白にリーヴスラシルは目を丸くした。
「……主は私が異性の恋人を選ぼうとしたら、干渉する気だったのか……」
しかし、その独占欲でさえ心地よく、罪悪感を感じながら騎士は主に告白した。
「……ユリナのご両親から、私は契約によって実の娘を奪った。更に、ユリナとの結婚を受け入れることで、世継ぎが生まれる道も閉ざした……。……私は、愚神より愚かな悪魔だな……」
月鏡の姫君を奪った騎士はその手に力を込めた。
「だが……私はこの幸せを手放したくない。ユリナ……私は『二度と主を離さない』。覚悟はいいな?」
騎士の主は、その腕の中で幸せそうに微笑んだ。
「ええ。愛しているわ、ラシル……」
ふたりは胸に抱いた真っ直ぐな愛をしっかりと確かめ合った。
●魔女の結婚
手触りの良いカードを開いて、構築の魔女(aa0281hero001)は笑みを零した。
「『運命』殿と『蜃気楼』殿もついに結婚ですか……。まぁ、ずっとドタバタしていましたし、やっと腰が落ちつけられる感じでしょうかね」
届いたのは魔術師の同胞であるふたりの結婚式の招待状だった。
結婚祝いを考えていると、同じく式に呼ばれているであろう上司の姿が目に入った。
「ラプラスさんは準備整いましたか? ……いえ、その様子だと全くできてないですね」
机に積んだ研究に半ば埋もれていた同胞は苦笑した。
「いやぁ、ごめん。……ついね」
「私自身も研究にかまけるずぼらと思っていますけど……ほら、『転変』殿に怒られる前に何とかしますよ」
構築の魔女へ、ラプラスは軽く手を合わせた。
「ほんっと、ごめん。いろいろ悪いわね」
……そんな会話の中で構築の魔女は感慨深いものを感じる。
「まぁ、こういう会話が落ち着いて出来るだけでもいいものですよ」
「そうねぇ」
ラプラスは抱えていた本を閉じてしみじみと言った。
「世界の命運をかけて戦ったのが夢みたいだわ」
これからは、こういうことが日常になるのだろうか。
──確かに、日常になるのかとは思ったけれども。
新たに届いたカードを前に構築の魔女は思わず唸った。
「『深淵』殿と『終焉』殿の結婚式ですか……招待状がきたのも驚きなのですけど」
カードの差出人の名前を何度も読み返して、構築の魔女はもう一度、うーんと唸った。
それは、敵対し、何度も矛を交えた魔術師からの招待状だった。
しかも、また、結婚式の。
「ご祝儀はいいとして、それ以外はどうするべきなのでしょうね……これ?」
頭を捻ってみたが何も思いつかない。
仕方なく、彼女はまた上司である同胞の下へと向かった。
封筒から出したカードを見せると、ラプラスもまた苦笑いを浮かべた。
「ラプラスさんのところにも招待状きました?」
『きちゃってるわよ……。どうせ、忍あたりが気を利かせたんでしょうけど」
そういう気の遣い方は要らなかった。
「平和的な悩みかも知れませんけど、なかなかにどうしようもないですよね」
「まぁ、行かないわけにはいかないんだけどね」
「といっても、黒のお膝元に私達を呼びつけますかね、普通」
「あいつにとっちゃ、ニナが一番なんだから、こういうことになんのよ」
訳知り顔のラプラス。
構築の魔女は何度目かわからないため息をついた。
「……はぁ、向こうで問題が起きないように出来る限り手回ししておきますか」
「じゃ、そっちはお願いするわね。あたしは東京支部の魔術師に釘だけは差しとくわ」
東京支部最高責任者である赤の魔女ウィザーズインク。
その捉えどころの無い姿を思い出してラプラスもまたため息をついた。
●ふたつの太陽
ぽつんと建った東屋へふたりはなんとなく立ち寄った。
さっと埃を払って腰を下ろすと、不知火あけび(aa4519hero001)は思わず東屋を囲う網代垣に寄りかかった。
日暮仙寿(aa4519)もさすがに両手を後ろについて天を仰ぐ。
仙寿二十二歳、あけび二十三歳。
英雄としてこの世界に訪れたあけびは誓約を交わした仙寿と縁を結び、明日、彼の元へと嫁ぐ。
しかし、それは容易なことではなかった。
表向きは名だたる家々の剣術指南役を務め、裏では暗殺任務を遂行する日暮一族、その次期当主である仙寿。
後ろ盾も無い、しかもリライヴァーであるあけびとの結婚がただ何事もなく進むはずがない。
そもそも日暮邸の使用人からして、そのうち数名は暗殺技術を極め選ばれた仙寿の許嫁候補である。
ふたりには様々な難問が降りかかり、それらが解決したのはたった数日前。
最後には一族に認められるためにあけびは今なお結婚に異を唱える元許嫁候補たちと戦い、そして勝利したのだった。
「ほんと、大変だった……でも」
あけびは視線を落とした。
元々、彼女自身も忍一族の跡取りであった。そのための力は身につけている。それに現世界に来てからも仙寿と共に戦場に身を置いている。……それらの日々に育んだ想いも負けないと自負している。
だけど。
『若様と縁を結ぶのが貴女で良かった』
激戦の果てに、許嫁候補の一人であった人はあけびを抱きしめてふたりを祝福した。以来、あけびを守り手伝い、数日で彼女の大切な友人の一人となった。
あの時、彼女が零した涙をあけびだけが知っている。
「仙寿は素敵なひとだからね」
「……、いきなり何を」
跳ね起きる仙寿にあけびは笑顔を向けて誤魔化した。
「ここまで漕ぎ着けるのが大変だった……」
あけびの笑顔を眺め、仙寿の脳裏に現当主である父親への説得の日々が過る。
「名家だしね……結婚式も盛大になるんだよね。招待客リストが厚い!」
そうとは知らず、名簿の山やぎっしりと並んだ席次表を思い出して震えるあけび。
仙寿は小さく笑った。
これから先もこうやって二人で並んでいられるのなら、彼がしてきた事などそう大変なことではなかったと思えた。
「お師匠様と姫叔父も呼びたかったなー……」
「世界が違うからな」
リライヴァーである彼女にはこの世界に家族が居ない。
──そうか。俺があけびの唯一の家族になるんだ。
あけびの漏らした呟きで仙寿はそれに気付き、そっと彼女の掌に優しく自分のそれを重ねた。
不器用な優しさに気付いたあけびが応えるように指を絡める。真新しい指輪が少し痛い。
「仙寿はお師匠様に似てきたね」
師匠は彼女の初恋の相手だ。あけびは昔から仙寿が彼に、特に彼らが共鳴した姿は師匠によく似ていると言う。
「……嬉しいのか?」
「恋人の成長がね。……ヤキモチ?」
「妬いた」
風が吹いた。
力の入った仙寿の指が痛くて、それから、普段からは考えられないその言動にあけびの顔は真っ赤になっていた。
黙り込んだあけびの顔を覗き込んで、仙寿は赤面した彼女に気付く。
戸惑う彼を見つめてあけびはぼんやりと思った。
生意気不愛想な仙寿。
初めて会った時と、一見まるで何も変わらないよう。
しかし、言葉を交わせばあの頃との違いは明白だ。あの頃よりもずっと穏やかで、何よりあけびに甘い。
──最初は辛く当たられているようで怖かった。でも、それが今は懐かしい。
あの頃を含めて、愛おしいと思える日が来るなんて思わなかった。
魂を結ぶ誓約を、いつの間にか落ちてしまった陽の光に、この夜にもう一度交わそう。
どちらともなく両手を絡めて額を合わせた。
かつて交わした誓約は『強さを目指し続ける』。そして、重ねてふたりが決めた誓いは『誰かを救う刃であれ』。
「更に誓っちゃうんだね。もう離れられないよ?」
「元々離れるつもりは無いから問題無い」
朝日が夕日を引き上げるなら、夕日は朝日を支え助け上げる。常にもう一つの光を追って負って追って、共に支え助け合いながら昼と夜とを巡り続ける。
自分達も、そうであるようにと願い、そして、生涯を共にすることをふたりは誓った。
共に並び立つ、現世で見つけた半身へ。
●フレンズ
その日、紫峰翁大學の体育館は学生たちに貸し切られた。
「ちょっと、バチェロレッテ・パーティーとバチェラー・パーティーは男女別じゃないの?」
灰墨こころは両手を腰に当て、自分たちを連れて来た友人たちを見回した。
「当日じゃなくて前夜。独りの最後の日、……だ。二次会三次会がベターじゃないか、って? 後を二人きりにしてやるのも、粋じゃないかと」
少し背の伸びたオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)が言うと、てんでバラバラなクラッカーが鳴り友人たちはそれぞれ大声で祝いの言葉を述べた。
賑やかに飾り付けられた体育館には、今まで一緒に馬鹿をやって来たA.S.やC.E.R.の面々とエージェントたちが揃ってすでに騒がしい。
「ふふ、ついに結婚なのですね。なんだかすてき、ですね。
こころのこと、絶対幸せにしてあげてくださいね。勿論クレイ自身もですが!」
そう言って花束を渡したのは紫 征四郎(aa0076)だ。
「飾りつけとか、結構頑張ったんですよ! いっぱいいっぱいお祝いしないと、ですね」
出会った時より大きく成長した彼女を眩しそうに見て、こころとクレイは恥ずかしそうに顔を見合わせた。
「ありがとう、結婚って言っても形式的なものだけどね!」
「ああ、勿論だ。礼を言う」
こころは友人のアーサーの英雄クレイと、明日、縁を結ぶ。彼女はまだ卒業を控えた身なので入籍だけの学生結婚となるが。
「喜ばしいけどこの心の中に込み上げるどす黒い感情……これが……殺意……?」
「木霊先輩!?」
木霊・C・リュカ(aa0068)の反応に、彼を先輩と呼ぶクレイは焦りを隠せない。
「嫉妬という名の殺意じゃないか?」
「三十も過ぎて行き遅れると稀にああなる。歳をとるとは恐ろしいことよな……」
そんなリュカを斬り捨てるオリヴィエ、苦笑を浮かべるユエリャン・李(aa0076hero002)。
「三十なんてまだまだじゃないですか、先輩」
あたふたとよくわからないフォローをするクレイと冷ややかに見守るこころ。
それはそうと、とユエリャンが抱えていた包みをこころたちへ差し出した。
「うちの犬も来たがっていたようだが、都合がつかんでな。おめでとう。末永く幸せにな」
「っ、ありがとうございます……」
ユエリャンの心のこもった祝辞に照れるこころ。
「四十路で行き遅れてると逆にああやって達観するものかもしれないね」
先を越されたことを愚痴ってクレイに絡んでいたリュカがぼやくと、ユエリャンは絶対零度の視線を返す。
「ここまで醜い争いも、今どき珍しい、ぞ」
軽く額を押さえるオリヴィエ。
そこへひょいと顔を出したアーサーがこころの手から包みを奪った。
「やっぱり食べ物だと思った! 頂きます!
ユエリャンさんちのつまみのおごりだぞー、リュカ先輩も飲みましょう!」
「アーサー、行儀悪いぞ」
「いーよ、ユエちゃんと折半で飲み代の半分くらいは出したげるよ。前祝いね!」
「なに、折半とか聞いておらん! なんで我輩がそこまでせねばならんのだ!」
クレイのアーサーへの苦情はリュカに反応した学生たちの歓声に掻き消された。無論、ユエリャンの抗議も。
むくれたクレイの頭を木霊先輩はわしわしと荒く撫でた。
「ちゃんと幸せになりなね」
「先輩……」
「よーし、今日は『特別版』お兄さんの部屋を開催するよー!」
酒を片手に独身学生と新郎に腕を掴んでもらって、ナゼか用意されていた花瓶のオプション付きソファーへ向かうリュカ。
「アーサーちゃんは置いてかれて寂しくない?」
「全然。何故か日本だとモテるからなあ」
ふふーふと悪戯っぽくマイク代わりのスプーンを向けたリュカへしらっと答えたアーサーは袋叩きにあった。
周囲の雰囲気に飲まれて若干妙な高揚感を感じながら、リュカや学生たちの悲鳴や怒号や祝砲を聞くオリヴィエ。
会場の様子を楽しそうに眺めるユエリャン。
「エージェントでヒーローの嫁とかなかなか気苦労も多そうであるしな。何かあったら相談しに来いよ。話くらいなら聞く」
二人と同じテーブルで征四郎や女性陣と和やかに話していたこころははにかんだ。
「ありがとうございます! でも、嫁じゃなくてヒーローになるのも諦めてないわ!」
オリヴィエは彼らと騒いだ日々を思い出して目を細めた。
──……初めて会った時と、何も変わってないように見えるのにな。
それが随分昔に思える。
「……こころは、俺が知る限り、征四郎にも負けないくらい強いから心配ない、絶対、幸せになれる」
「征四郎ちゃんと? それは光栄すぎるわね!」
楽しく話を聞いていた征四郎も、なんとなく場の雰囲気に飲まれていたのだろうか。ふわふわとした感覚でぼんやり考えていた。
──好きな人に好きになって貰えるのは、なんて幸せなことなのだろう。どうかどうか、温かい家庭を作ってほしい。
「お互いがそこにいるだけで、満たされてしまうような──」
ぽつり、思考が口から転がり出た。
「あれ、酔っっちゃった?」
「だいじょうぶ、です」
征四郎の紙コップをのぞきこむこころ。オレンジジュースを見せて征四郎が照れ笑いを浮かべる。
「みんな嬉しそうです。リュカも、楽しそうでした。結婚って、良いものなのですね」
オリヴィエにそっと囁く征四郎だったが、あることに気付いて顔を曇らせる。
「はっ。でも、もしも、オリヴィエが結婚したら、ちょっとこう、なんていうか、征四郎とは離れてしまうのですかね……」
それは少し複雑だ。
だが、オリヴィエは珍しく苦笑を浮かべた。
「……お前が、あの三十路をもらってくれれば、そんなに離れることもないさ」
オリヴィエの視線を追って、気付いて、征四郎はぼんっと顔を赤らめた。
ソファーから身を乗り出してバチェラー代表としてクレイを質問攻めにするリュカ。
「信義ちゃんの反応どうだった? プロポーズの言葉は? ぶっちゃけどこまでいっ……」
「セクハラ反対っっ」
サッと席を立つと超反応でいつぞやの氷結マシーン『アイスさむさむくん』を打ち込むこころ。
「あー、先にそろそろ木霊を止めてくるべきか」
仕方ない、とユエリャンがため息をついた。
「あれっ、ユエリャンさん……これ……」
清算済みになっている酒代の領収証に気付くアーサー。
「まあ、楽しい時間は何より価値のあるものだからな」
人差し指を軽く唇に当てて笑うと、彼は席を立つ。度を越し始めた友人をやんわりと諫めるために。
●終幕
そうして、来客たちは物語から目を覚ました。
「とても素敵なお話でした。本当でないのが、残念なくらいです」
征四郎は夢の欠片を思い出しながら自分の感じた想いを伝えた。
「『怖い』の先の物語だから、こんなにも優しくて明るくて、幸せなら、それを越えていく価値は、きっとあるのです。
また続きを、みせてくださいね」
征四郎の隣でリュカもまたふんわりとリンクを見た。
「楽しかったよ、ストーリーテラー」
頬杖をついて笑う。
それは彼好みの物語。
「こんな未来が来ればいい」
──晴れた夜の星空みたいに、優しい祈りのようだった。
「続きが読みたいな。だから、また来るね」
離れたソファーに辺是 落児(aa0281)の姿が見える。
彼もまた何かを見たのだろうか。
そして、構築の魔女もリンクを見て小さく笑った。
「あぁ、貴方が……なるほど。えぇ、ありがとう。懐かしくて助かったわ。私自身は起きたら忘れてしまうのかもしれないけれど……。もしも貴方がいつまでも覚えていてくれるというのなら感謝を」
小さく首を傾げた妖精を見ながら、彼女は物語をもう一度思い返していた。
──我が身、我が未来は、愛しき世界とともに。
赤面した一羽にルナが嬉しそうにぎゅっと抱き着く。
そのままふかふかのソファーに沈み込む。
ルナの嬉しそうな顔を見ると、一羽は恥ずかしさなんてどうでもいいような気がした。
「……うん、ありがと」
「……は、恥ずかしいからそれ以上言わないで!!」
ソファーに座り込んだ由利菜は赤面して叫び、すぐに慌てて口を押えた。
幸い、あの物語は由利菜以外には見えていなかったようだ。
鼓動の高鳴りに戸惑いながら彼女は考える。
──私は……現実でも、あの夢の中と同じ道を選ぶのかしら……? それとも……。
「何だよ、これ!?」
「え? えええええ!?」
我に返ったあけびと仙寿は大混乱に陥った。
しかも、隣のパートナーが同じ物語を見たことに気付くと共に顔を赤らめ、しばし言葉を失った。
たぶん、目覚めたら記憶は無いだろうが……。
そう思った仙寿は、あけびに聞こえないほどの小さな声で呟いた。
「……まぁ、悪くは無かった」
初めての観客で演者たちへ。
妖精リンクは嬉しそうに笑うと、彼らに向けて小さな終演の挨拶。
ありがとう、そして、また。
結果
シナリオ成功度 | 大成功 |
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