本部

鬼入り村

落花生

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~10人
英雄
8人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/02/27 18:15

掲示板

オープニング

「鬼入り村に鬼が出たんです」
 真剣な声色で、青年はH.O.P.E.の受付に相談にきた。
「鬼入り村ですか……?」
 聞いたことない村の名前だった。
 少なくともこの近くには、そんな名前の村はない。
「正式には、この名前じゃないんです。ほら、節分ってあるじゃないですか。この村は昔から、各村を追い出された鬼を匿っていたっていう伝説があって――今では工場誘致とかにも成功したごく普通のありふれた田舎なんです」
 それでも村の年寄りは村のことを時より、こう呼ぶのだ。
 鬼入り村、と。

●伝説
 昔、昔。
 節分の次の日に、布を被った娘が一人暮らしの男のもとに尋ねてきた。男は娘はきっと節分の日に追い出された鬼に違いないと思って、家には上げなかった。それでも凍える夜を外で過ごすのはあまりに不憫に思い、男は娘に納屋を貸してやった。
 翌日、男が娘の様子を見に行くと――娘はいなくなっていた。代わりにあったのは、男が見たこともないような米俵の山や綺麗な布や珊瑚といった宝物だった。
 その話は、あっと言う間に村と村の間を駆け巡った。
 そして、別の村でこと。
 節分の翌日に、別の村で一人暮らしの男のもとに布を被った娘が尋ねてきた。男は「娘に納屋を貸した男」の話を知っていたので、喜んで自分の家の一番居心地の良い場所を娘に譲った。
 男は夜中に目を覚ますと、いつの間にか休んでいた娘が近くにおり、頭にかぶっていた布をとっていた。娘の頭には尖った角が生えていた。
 娘はこの世のものとは思えないような恐ろしい形相で「よくも去年は追い出してくれたな」と言って男に襲い掛かった。
 かくして、鬼の娘をけっして家にあげなかった賢い男がいた村のことを「鬼入り村」といつしか人々は呼ぶようになった。

●現実
「すみません。車が故障してしまって」
 女が、戸を叩いた。
 深夜の十二時である。若者の殆どは起きているだろうが、それでも深夜と呼ぶには十分な時間であった。そのうえ、この村には街灯も遊べる店も少ない。若者も夜十二時には、家にいるのが村の普通であった。
「どうか、一晩泊めて頂けないでしょうか?」
 車が故障したという言い分のわりには、女の恰好は古めかしい着物姿であった。車を運転してきた、という話が信じられない。そして、雪避けの代わりなのか、女は頭から布を被っていた。
「男の一人暮らしだから」
 そう断ろうとしたが、女は身を乗り出す。
「お願いします。どうか……哀れと思って」
 外の気温は二月にしては低く、車が故障したという女を放り出すにはあまりに無情であった。なにより、車の修理会社への連絡も求めずに家に止めてくれと迫る様子は情報と一致していた。

●裏の真相
 鬼入り村、そう呼ばれていた村で最近起こっている事件。それは、独身の男性の元に女が尋ねてくるというものである。女が尋ねる家の男は――皆行方不明となっている。直前に不審な女が尋ねてきたという情報も、消えた男の友人が、失踪者の「変な女が来た」とメールをもらっていたことから発覚したことだった。その後連絡が取れないことから、このメールは失踪前に送られてきたものだと思われる。消えた独身男性が皆一つの会社に勤めていたこともあり、このメールがなければ企業側に追求の目が向けられていたことであろう。
 H.O.P.E.はこれを愚神が関っている事件と判断し、リンカーを派遣した。だが、手元にあった情報は独身の男のもとに女が現れるという怪談じみた話だけ。
 H.O.P.E.は村の数少ない独身男性に、避難をしてもらった。そして、単身者用アパートにリンカー達を設置したのである。幸いにして村には、単身者用のアパートは一軒しか立っていなかった。そして、このアパートは村が誘致している工場の事実上の独身寮と化している。
 リンカーたちはそれぞれの作戦を胸に、女が正体を表す瞬間を待っていた。

解説

・工場に鬼を入れずに討伐

・独身者用のアパート……三階建ての小さなアパート。しかない、1LDKの戦いづらい狭い構造。鬼の女を招きいれる部屋は、三階の真ん中にある。

・アパート周辺……空き地。街灯は少なく、視界がとても悪い。近くに民家はない。しかし、近くに工場があり、そこで取り扱っている薬品が流出する可能性があるため、万が一にも愚神は工場に入れないで欲しいと要請がある。

・愚神……頭に角が生えており、それを見られると襲ってくる。一度戦闘にはいると身長などはそのままだが、鋭い牙や爪を生やし鬼の姿へと変貌する。武器は短い日本刀だが、ほとんど使わない。鬼状態になると素早さと腕力が上昇するが用心深く、一度も攻撃を受けると部屋の外へ逃げる。追い詰められると工場へと向かおうとする。
米俵――大量の米俵に似たものを召喚し、相手にむかって投げつける。なお、米俵の中身は従魔である。
鬼の布――鬼が身にまとう、角隠しの布。戦闘になるとストールのように長く伸び、高い防御力を発揮する。
鬼の酒――強い酒気を発する酒を周囲に振りまき、その酒気によって相手の集中力や腕力を低下させる。本物の酒ではなく、ライブスを含ませた液体であるため強い弱いに関わらず発動する。
鬼の体液――強い毒性を孕んだ、鬼の体液。その返り血を浴びただけで、火傷を負ったような状態になる。

米俵の鬼――米俵のなかに入っている子供のサイズの小鬼。五匹出現。愚神の鬼より攻撃力が劣る。武器は自分の身長ほどもある、長い日本刀。
鬼さんこちら――童謡を聴いた敵の狙いを自分に向けさせ続ける。効果は歌った小鬼が、倒れるまで継続される。
かくれんぼ――ライブスの気配を一瞬のみ断ち切り、自分の姿を消す。
鬼ごっこ――小鬼の数が残り二体になったときに発動。二体の鬼が合わさって大人になり、愚神の鬼と同じ技を使えるようになる。小鬼の技は使えなくなるが、能力は小鬼時のまま。

リプレイ

 昔、昔、この村には女に化けた鬼と賢い男がいましたとさ。


「はくしゅん!」
 屋外での潜伏中に、東江 刀護(aa3503)は大きなくしゃみをした。その音を聞いた双樹 辰美(aa3503hero001)は音で愚神に気づかれるかもしれないと思ったが、人間がいてくしゃみの一つもしないほうが不自然かと思い直した。
「村の伝説に基づいた鬼の愚神か。面白い。相手に不足はない……が、さ、寒い……!」
 分厚いコートに手袋やマフラーといった防寒着に身を包んでも、刀護はがたがたと身を振るわせる。よく耳を凝らせば「ヒーターが欲しい。ホッカイロをもってくればよかった」といった独り言が聞こえた。
『それにしても、行方不明になった男性達は、村の伝説を知らなかったのでしょうか?』
「知っていたとしても、迷信だと信じなかっただろう」
 がたがたと震えながらも、刀護は「普通は信じない」という。古い村とはいえ、襲われているのは若い世代。しかも、独身寮に住んでいるということは村の出身者ではないのだろう。もしかしたら、昔話があることさえ知らなかったかもしれない。
「困った女を助けることは良いことだと思うが、助けた代償が大きすぎる。放っておけば、数少ない独身男性がいなくなってしまう。……アパートに鬼の女が近づく前にケリをつけたいものだ」
 はぁ、と白い息で手を温めながら刀護は呟く。
『女性が苦手でも、愚神は別なんですね』
 寒さを気にしない辰美は、自分の相棒を見ながらそう呟いた。いつもならば年頃の女性限定のおもしろいリアクション――もとい成人男性にしてはウブな反応が見られるというのにそれもなかった。
『深夜に独身男性の部屋に行くなんて、はしたないよ』
 百薬(aa0843hero001)は、そう呟いた。その言葉に、相棒である餅 望月(aa0843)は若干驚いていた。
「百薬って、そんなちゃんとした倫理観あったんだ? そんな問題じゃないみたいだよ、やっぱり愚神のサガなのかな」
 普通に考えればそうなのだろうが、昔話を聞いた耳で今回の愚神の話を聞くとどうしても裏があるように思ってしまう。それも愚神の作戦だったりして、と望月は思った。
「人払いは大丈夫ね? 人違いだけは避けないとね」
 望月の言葉に、百薬は完璧と胸を張る。
 だが、言っておくが百薬が行なった仕事ではない。それを知っている望月は、ため息をついた。
「……何で、同じ会社の男なんどすやろか?」
 弥刀 一二三(aa1048)は、考える。
「このあたりに大きな会社と工場は一つしかない。……独身寮なんてものがあるのもここだけだ」
 鯨間 睦(aa0290)の言葉を引き継ぐかのように、蒲牢(aa0290hero001)は続ける。
『家族と一緒に暮らしている人間より、男の一人暮らしのほうが襲いやすいと愚神も考えたのかもねぇ。独身寮なら、住んでいる人間は独身ってわかりきっているし。それにしても、夜這いなんて積極的な愚神ねぇ。もっとも? 相手が女に見えるってだけで油断する男も愚者には違いないけどねぇ?』
 艶やかに蒲牢は微笑む。
『それにしたって、鬼が来るというのに何故工場は薬品をそのままにしているのか。しかも何故わざわざ入れるなと指定するのだ?』
 キリル ブラックモア(aa1048hero001)は、工場のほうをいぶかしんでいるようであった。
「何や訳があんのやろか?」
 一二三も工場に疑いの目を向ける。
 キリルは、疑いの色をさらに強くする。
『……まさか、実験で鬼にされた、とかではないだろうな……?』
 さすがにそこまでのことはないだろうが、疑いは持っておくのがいいだろうとキリルは判断した。
「あっははー、まさか現代で鬼と戦うなんてね。私なんかじゃ到底勝ち目もありゃしないよねー。逃げ惑う一般市民と一緒に握りつぶされて自主規制付けられちゃうのがオチだよねー。あはは」
 白月 アリア(aa5419)はからからと笑いながら、周囲にいる人間にポットに入れていた紅茶を配る。ちなみに、それに真っ先に飛びついたのは刀護であった。
『随分と……明るいものだな』
 ロク(aa5419hero002)の言葉に、アリアは頷く。
「なんていったって、鬼ですからね。現実感が薄くて、いっそ面白いですよ」
 そういうものなのか、とロクは思う。
「あははは、そろそろ鬼の時間ですかね」
 マリアは、ロクのほうを振り向く。
「さぁ、共鳴をしましょう」
 狙撃のために睦と共鳴した蒲牢が、ささやく。
『さぁて、鬼だけじゃなくて蛇まで出なきゃいいんだけど』
 村の伝説のように鬼に食われるのだけは簡便だ。
 と蒲牢は笑っているようだった。


 アパートの一室に、高野信実(aa4655)はいた。本当は室内に仲間もいるのだが、男の一人暮らしを演じるために隠れてもらっている。
「人の善意に付け込むなんて、許せません!」
 不気味な夜であったが、自分を奮い立たせるために信実は拳を握る。
『信実クンの言う通りだわ。……でも、裏切りは女のアクセサリーとも言うわよね。いい男をだますためのネックレスぐらいは許してほしいわ』
 ロゼ=ベルトラン(aa4655hero001)はわざとらしいほどの艶やかな笑みを浮かべるが、信実はため息をついた。まだ純朴な少年でしかない信実は「そんな物騒な飾りは仕舞ってほしいっす……」としか思えないのだ。
「……こ、こういう依頼もあるかもしれないから、私は胸が小さい方がよかったのに……」
 部屋の隅っこで、月鏡 由利菜(aa0873)は悔しそうに唇を噛んでいた。少年の姿に返送しているのだが、自分の胸部がどうしても気にかかるのらしい。客観的に見れば、変装中の由利菜はぺったんこなのだが本人には思うところがあるようだ。
「ユリナ。幾ら共鳴やプロジェクターでも、そう簡単にあるものをないことにはできんぞ……」
 リーヴスラシル(aa0873hero001)の言葉に、由利菜は顔を伏せる。どうやら、敗北感を感じているらしい。
「男装をしていても、女の子の話は華やかだ」
 身を隠していても、穏やかに天海 雨月(aa1738)は笑う。
『いや女鬼は怖えぞ? そも本当に女かも分かんねェ奴結構いるしな。あー怖ェあー怖ェ!』
 艶朱(aa1738hero002)は、わざとらしいほどに恐怖を言い表す。おどけたような口ぶりだが、その口調のなかには本当の恐れがあることを天海 雨月(aa1738)は見逃さなかった。
 ――昔何かあったのかな。
 そう思ったが、今は追及を控える。作戦前であるし、他人がいては話しづらいこともあるだろう。
「……そういえば……行方不明になった人達って何処に行ったんだろ? 骨ごと食われるなりしたか、何処かに纏めて隠されているのか。艶朱、聞いておいてくれる?」
 雨月の言葉に、由利菜は気を引き締める。
 自分達がこれから相手にするのは、予想以上に凶暴な相手かもしれないと思ったからである。流れる緊張する空気を振り払うかのように、艶朱は豪快に笑った。
『やー節分だからかねェ? 兄弟に会える事多くて嬉しいわ! まァひと悶着起きてンだけどよ!』
 とんとん、とドアが叩かれる。
 その音で、全員が口をつぐんだ。
 鬼だ、と理解したからである。
「すみません。車が故障してしまって、部屋に止めてはいただけないでしょうか?」
 信実が開けたドアの向こう側にいたのは、美しい女である。
 信実は「男の一人暮らしだから……」と断った。
「お願いします。外は寒くて、一晩外で過ごしたらきっと死んでしまいますわ」
 か弱い外見の女性に「自分一人だ」と言うことに、信実は罪悪感を覚える。何も知らなければ信実は、きっと彼女を家に上げていただろう。
『ほーら、嘘をついている女は魅力的でしょう』
 勝ち誇ったようにロゼが、ささやいたような気がした。
「……女の人の魅力は、嘘じゃないと思うんだよ」
 そして、美しさでもないと思う。
『だったら、女の魅力ってなにかしら』
 空想のなかのロゼが、にやにやと笑っているのが分かる。
 残念ながら信実は、女性の魅力を語れるだけの言葉を持たない。
「あの……」
 信実の目に、鬼の女の顔が映りこむ。ロゼのことを思い出して一瞬気がそれていたが、今は愚神の対応中であった。
「すみません。ちょっと今まで睡眠学習用のCDを聞いていたから、ぼうっとしてて……家にはごめんなさい。あげることが出来ません」
「そうですか……」
 女が、悲しげに目を伏せる。
 信実は、罪悪感に襲われる。
「あの、ちょっとだけ。ちょっとだけ、あったまりませんか……」
 信実の言葉は、半分だけは本心だった。
 寒い夜の中で、女性を見捨てたくないと思ったのだ。
「ありがとう」
 女は微笑んだ。
 そして、心なかで彼女に謝罪する。
 ――ごめんなさい。
「ロゼさん、今っす!」
 信実の声に、部屋に隠れていた全員が立ち上がる。そして、ロゼは素早く信実の側に駆け寄った。
『お嬢さん、男の子の部屋で何するつもりだったの?』
 色づいた唇で、ロゼは微笑む。
 由利菜は、剣を持ったままで素早く女に近づく。
「其の欲望は蜃気楼の如く散るが定め……悔い改めよ! ミラージュ・ファイル!」
 由利菜のライヴスリッパーが、女の布によって阻まれる。
『先手必勝としたかったが、失敗したか』
「このままでは、逃げられます!」
 由利菜は剣を持ち、ドアから外に出て行く鬼の女を追う。
「この部屋はちょっと狭すぎる。外に逃げたのは、都合がいいかも」
 雨月と共鳴した艶朱は、凶暴な笑みを浮かべる。
『ぶっ壊したら、さすがに部屋の本来の持ち主に悪いもんなァ』
「そうだね」と雨月は答える。
 通信機から、 睦の声が響いた。
「閃光弾を使う。目を閉じろ。3、2、1……」
 当たり周辺に光が煌いた。
 それは視界を奪うと同時に、戦闘の合図となった。


「引っかかったな。挟み撃ちだ」
 ロゼと共鳴した信実は、愚神に向って武器を向ける。ここまでは、打ち合わせ通りである。
「おお。怖い、怖い。女の細腕には、この人数は多すぎるわね」
 女の周辺に、突如として何かが現れる。
 それは近代ではあまり見られなくなった、米俵であった。
「あははは、視界を奪って総攻撃のつもりだったけど――上手くはいかないものですね」
 アリアは、米俵に向って照準を合わせる。愚神が召還した米俵である。中身が普通のわけがないのだ。
『……何が入っている?』
「あはは、もし米俵の中に子供なんか入っていたら大変だろうねー。無事では済まないだろうね。きっとこんな事信用問題に繋がると思うなー……まぁ、【普通の】子供が入っていたとしたらだけどねー」
 ロクの言葉に、何かを予想したようにマリアは答える。
 そして、彼女の弾丸が米俵を打ち抜いた。
「ああ、やっぱりですね」
 米俵から出てきたのは、子鬼であった。
『予測していたか……』
「なにかはあると思っていましたよ」
 ロクの疑問にマリアは、微笑んで答えた。
「米俵には鬼ではなく、米が入っているものだろう」
 刀護も米俵に攻撃すると、そこからも鬼が現れる。
『米と言うのは、昔は給金の代わりにもなったらしいですが……こんなものでお給料を払われたら嫌ですよね』
 辰美の言葉に、刀護が一瞬だけ笑った。
 たしかに、鬼入りの米俵が給料など嫌過ぎる。
「なら、現代の労働者を代表して、文句をつけてやるかっ!」
 刀護は黒旋風鉄牛で、攻撃を鬼に叩きつける。
「工場には近づけさせるな。工場にある薬品が流出したら、村の被害が拡大してしまう」
『なんの薬品を扱っているかはわかりませんが、ここで工場を潰したら村の経済活動にも大きなダメージを負わせてしまいます。……ここは、都会とは違う。村が経済的な損実を取り戻すのはかなり難しいでしょう』
 辰美の言葉は正しい。
 この村の唯一の産業は工場であり、村の経済は工場に依存している。故に、万が一でも工場が壊されたりしたら、村が工場の誘致のためにおこなってきた苦労が水の泡になる。
『餃子のにおいでも、でばれなかったね』
 百薬は嬉しそうに微笑んだ。
 相棒の気の抜けた言葉に、望月は苦笑いする。
「そんな強烈な匂いのする餃子は食べてないよ」
 もし、そんなもので作戦が失敗したとしたら末代までの恥である。
 鬼の一匹が姿を消す。
 どうやら、相手は自分の気配を殺す技を持っているらしい。
『そんなこともあろうかと……ちゃんと持ってきたんだよ』
「マットサイエンティストみたいな台詞だね」
 まぁ、いいけどと望月はライヴスゴーグルを装着する。自らの目には、ライトアイを使用するのもわすれない。
「この二つが、ここまで役に立つことはあまりないので全開で働いてもらいましょう」
 思ったとおり、鬼が気配を消せるのは一瞬だけである。
 攻撃の瞬間には、姿もライブスも現れる。
「って、どうしてあたしのところに来るのかな!!」
『はっ、まさか餃子のにおいにつられて……』
 百薬が、しまったという顔をする。
 しかし、餃子の匂いは関係ないだろうと望月は考えながら鬼を振り払った。
『餃子が欲しかったら最初からそういえば良かったのに』
「みんながみんな百薬みたいにはうまく行かないものよ。あと、餃子は関係ないって」
 鬼を振り払った望月は、仲間達の様子を確認する。
 そして、子鬼の姿も確認するとなにやら童謡のようなものを歌っている個体がいた。
 ――鬼さんこちら、手の鳴るほうへ。
 ――鬼さんこちら、手の鳴るほうへ。
「なんだ、この歌は……」
 睦は、目を細める。
 風にのって聞こえてきた歌が、睦の狙いをそらさせる。
『どうやら、自分に目標を変えさせる技みたいね。ほら、他の人間達も見事に引っかかっているみたい』
 蒲牢が笑う先には、仲間達が一匹の鬼に対して攻撃を集中してしまっている光景があった。狙われた子鬼は攻撃を避け、別の鬼達が仲間達を攻撃している。
「なかなか強力のようだ。他の鬼を倒そうと思っても、手が言うことをきかない」
『なら、言うことなんて聞かせなきゃいいでしょ?』
 蒲牢の言いたいことはわかった。
『ここまで呼ばれちゃいってあげるしかないわねぇ。でもむっちゃんに遊びなんて無いから……簡単に死なないでねぇ?』
 蒲牢の声を聞きながら、睦は構えた。
 狙いなど、つける必要も無かった。
 次の瞬間には、鬼を撃ち抜く。
「あははは、狙撃の方はいいお仕事をしてくださったみたいですね」
 守りに徹していたアリアの言葉に、ロクは頷く。
『自分に狙いを向けさせるだけみたいなので、マインドコントロールの心配はなかったのですが……意外と厄介でしたね』
 辰美は、ふぅと息をはいた。
「百薬、気のせいかな? あの子鬼合体してない」
 残り二匹――だが、子鬼の数は一匹。
『あれは、合体じゃないよ。だって、ロボにならないもの』
 何処かずれている百薬の言葉に、望月はため息をついた。


 月明かりの下で、女が笑う。
 その頭にあるのは、鬼の角。
「何で鬼になってもうたんや?」
 女の愚神の姿が、あまりにも昔話の鬼と似ていたせいか、一二三はそう尋ねてしまった。物語から鬼が抜け出してくることなんてありえないが、女の風情はそう思わせる哀しさがあったのだ。
『男が裏切ったか?』
 キリルもそう尋ねてしまう。
 男に裏切られた女は鬼になる。よくある昔話だが、同時に哀しい話だ。彼女がその話の主人公であるのならば、救いたいとキリルは思った。
『だとすれば、哀しい。美しいかもしれないが、哀しい物語はたくさんだ』
 キリルたちの攻撃を、鬼は被っていた布ではじき返す。防御力の高い布に、一二三は顔をゆがめる。
『兄弟……や、嬢ちゃん……んん?』
 その間に入るように艶朱は現れた。
 だが、自身の言葉に納得していないかのように顔をしかめている。見かねた雨月が「姫?」と助け舟を出すと『それだ!』と子供のように顔を輝かせた。そして、次の瞬間には「にやり」と男臭く笑う。
『どうした姫さん、言いてェ事あンなら言ってみな!』
 叫びながら艶朱は、女に尋ねる。
 だが、女は何もこたえない。
「でも伝説……? の鬼とは違う鬼なんじゃない?」
『言われてみりゃあそうだな……! まァ、何でも良いやな!』
 雨月の言葉に、艶朱ははっとする。
 だが、それでも攻めの姿勢は変わらない。
 艶朱の腕に、女の血が降りかかる。真っ赤な血に、肉の焦げるような音。毒性を孕んだ女の体液を浴びながらも艶朱は笑っていた。
『鬼の布とやら、いっそ俺の腕にでも巻いちまえば逃げらんねェな、お互いに? つーか角ォ隠すのは何でなンだろうな。一々隠してンなよ、別嬪さんが勿体無ェ』
『逢引のお誘いの最中に申し訳ないが、私も手助けしよう』
 リーヴスラシルと由利菜が、鬼と艶朱の間に入る。
「神技を受けよ! ディバイン・キャリバー!」
 それとほぼ同時に鬼の酒が発動する。
 その酒気にリーヴスラシルは、顔をゆがめる。
『集中力の低下か……やっかいだな』
「もう一度、今度は当てます」
 由利菜は呼吸を整える。
 たとえ、酒で集中力を乱されていたとしても今まで積んできた自分の鍛錬は裏切らない。そう信じて、一撃を放つ。
「当たった!」
『だが、浅い!』
 鬼の布で防がれたせいで、必殺の一撃とはならなかった由利菜の攻撃。けれども、鬼の視線は由利菜に注がれていた。
『私のことを忘れているだろう』
 キリルは、女の背後に回りこむ。
 そして、ロケットアンカー砲で女の動きを拘束した。
『教えてくれ。お前は、なぜ鬼の姿をしているんだ』
 キリルは、知りたかった。
 女が鬼になった物語を――真実を。
「私が美しい女の姿をしているのは、男が引っかかりやすいからよ。そして、鬼の姿をしているのは……私もこの村の物語を気に入ったから。払われるだけの鬼ではなくて、恨みを晴らす鬼の物語を気に入ったら、この姿をしているの」
 鬼は、キリルを見て微笑む。
 ぞっとするほど美しい微笑みに、キリルの手が一瞬だけためらいを見せた。
「あなたも、村の伝説は気に入った?」
 女は微笑みながら、キリルの頬に爪を伸ばす。正気に返ったキリルは、それをバックステップで回避した。
「大丈夫かいな? うちが変わるか?」
 一二三の申し出に、キリルは首を振る。
 女の言うとおりだ。
 村の昔話に心を引かれて、女の哀しい美しさに心が引かれた。キリルは男ではないが、女まで惑わす魔性の美に無意識に心を許してしまっていたようだ。
『次は、こうはならない』
「しっかし……鬼になる女の話は物悲しいんが多いどすな」
 一二三の言葉に、キリルは目を伏せる。
 だが、次の瞬間には感傷的な感情はすでに無かった。
『菓子が無いと特にな』
「それはあ……!?」
 キリルの突然の変わり身に一二三は驚くが、彼女がいつもの調子を取り戻したのだと理解する。だからもう、彼女は鬼の物語にも美にも惑わされない。
『田舎に上手いケーキ屋がないのは残念だが、餡子系や餅系の菓子はこういう場所のほうが上手いと相場が決まっている。さっさと鬼退治をして、茶と菓子の時間だな』
 どこか嬉しそうに語るキリルに、一二三は恨めしそうに「太るで……」と呟いた。
『ここまで、運動すればノーカウントだろう』
 そうだろう、と由利菜は水を向けられる。
 一瞬と惑った由利菜であったが、鼓舞のための言葉とわかって頷いた。
「そうですね。この戦いが終われば、楽しいお茶会です。もちろん、ラシルも一緒ですよ」
 やれやれ、と突然決まった茶会にリーヴスラシルは肩をすくめて見せた。
『夜間の菓子の飲食は感心しないが……たまにはこんなこともいいだろう』
 哀しい昔話を振り払うように。
 女の哀愁を振り払うかのように。
 楽しい話をしよう。
「なによ、私を無視して」
 女が日本刀を握った。
 その手を、強く握ったのは艶朱であった。
「ああやって、なにかで誤魔化さないとあんたの美しさにみんなもってかれちまうんだよ。安心しなァ、姫さん。あんたの美しさは、俺が覚えていてやるからよォ」
 艶朱は、強く、強く、女の手を握った。
 まるで、女の鬼の美貌を永遠に目に焼き映しているかのような情熱であった。
「私が、愚神だ」
『そうだよなァ。でも、俺の目には姫さんは一人の別嬪の鬼に見えたんだぜェ」
 ぱん、と銃声が響く。
 女は最後に艶朱の手を振り払い、自分を撃ったリンカーを目に映した。
 そこにいたのは、睦であった。
『あら、見つかっちゃった? 流石鬼。探すのも上手ねぇ?』
 蒲牢の悪戯っ子のような言葉を聞きながら、睦は凝り固まった肩を揉み解す。すでに愚神の消滅は確認した――そして銃口の先で消え去った鬼の女の姿は、昔話のように美しく哀しく見えたのだった。


 女の子たちが集まり、アリアの紅茶を飲みながら和菓子に舌鼓を打っている。
「意外と、紅茶に和菓子ってあうんですね」
 と由利菜を筆頭に殆どのものが目を丸くしていた。
「やっぱり、女の子に嘘のアクセサリーなんていらないよね」
 彼女達は、そこにいるだけで煌いている。
 嘘なんて濁ったアクセサリーはいらないし、それに注目する男も不誠実であると信実は思った。
『まだまだ、大人の女の魅力は早いか。まぁ、十四歳ならそれぐらいが健全ってものよね』
 どこか達観したような表情でロゼは笑う。
 その話を聞きながら、艶朱は一人笑んでいた。
『嘘をまとった女もいいが、全部を出し切った裸の女も乙なもんだぜェ』
 艶朱の一言に信実は真っ赤になったが、雨月だけは知っていた。
 愚神の女を別嬪と言った言葉にうそ偽りはないとうことを――。
「艶朱は本性を隠していない彼女に、騙されたかったんじゃないのかな?」
 雨月の言葉に、信実は目を白黒させる。
 子供の彼には分からなかったらしいが、ロゼは「あら?」と口元に手をあててどこか嬉しそうであった。
『いい男って、青い鳥と一緒ね。近くにいても、分からないってところが』
 ロゼの言葉に信実は益々首を傾げ、和菓子を食べるために場を離れるロゼの背中をただ追うだけであった。そんな幼い背中を見ながら艶朱は呟く。
『時には、女の嘘に騙されてやるのも男の甲斐性ってやつだぜェ』

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • エージェント
    鯨間 睦aa0290
    人間|20才|男性|命中
  • エージェント
    蒲牢aa0290hero001
    英雄|26才|?|ジャ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃
  • この称号は旅に出ました
    キリル ブラックモアaa1048hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 綿菓子系男子
    天海 雨月aa1738
    人間|23才|男性|生命
  • 口説き鬼
    艶朱aa1738hero002
    英雄|30才|男性|ドレ
  • その背に【暁】を刻みて
    東江 刀護aa3503
    機械|29才|男性|攻撃
  • 優しい剣士
    双樹 辰美aa3503hero001
    英雄|17才|女性|ブレ
  • 特開部名誉職員
    高野信実aa4655
    人間|14才|男性|攻撃
  • 親切な先輩
    ロゼ=ベルトランaa4655hero001
    英雄|28才|女性|バト
  • エージェント
    白月 アリアaa5419
    人間|18才|女性|攻撃
  • エージェント
    ロクaa5419hero002
    英雄|18才|女性|カオ
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