本部

広告塔の少女~ラブソングを教えて~

鳴海

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
5人 / 4~12人
英雄
5人 / 0~12人
報酬
寸志
相談期間
4日
完成日
2018/02/24 13:10

掲示板

オープニング

●  その男。恋を知らず。

 ジャーンっとかき鳴らすギターサウンドと共に舞台上の筒から火の柱が立ち昇る。
 不意打ちにて炙られ、共鳴できなかった君たちはその熱量を間近で感じるだろう。
 その炎の向こうから『赤原 光夜』が飛び出してきた。マントを焦がしながら。
「うおっあつ!」
 皆さんが集められたのは小さなライブハウス。
 百人も入るのだろうか。地下に造られたその箱は赤原がデビュー直後からよく使い、無理もかなり聞いてくれる箱だという。
 そこで赤原は一酸化炭素中毒も気にせず、轟々と火を焚いている。
「今日はお前らにきいてほしい曲がある」
 そう告げると、赤原のギターをかき鳴らす手がまるでそよ風のように優しくなった。
 音もギャンギャンしたものから、ポロンポロンしたものに変わる。
 引いているのは落ち着いたメロディー、バラード? というには少し甘い。
 謳って聞かせるタイプの歌。であるが。
 歌詞はないようだ。
 全部ららららである。
 ら~と赤原はひとしきり歌いきると。
 全員を見すえて頭を下げる。
「ラブソングの仕事を受けちまったが! ご覧の通りだ! 歌詞が無い」
 そして赤原は同時にこんなことを口にする。
「そして俺は恋愛をしたことが無い。たすけてくれ!」
 幼い頃より、ロボットだ、カードゲームだと走り回ってきた彼は、女性と接点があったとしても、自分の情熱が先決だったのである。
「だから、手っ取り早くお前らの恋愛譚。もしくはよ想像でいいんだ! この愛で餓えたこいつらの心を満たせるようなハートフルな歌を一緒に考えてくれ!」
 何ならラブソング提供でも可だと言っていた。
 赤原の課題曲さえできてしまえば、あとは他の曲も詰め込み放題なので、リンカー達が曲を提供してくれる分には大歓迎らしい。
「二曲分! 二曲分のエピソードをたのむ。あとは俺の方でやっとくからよ」
 そう告げると赤原は火炎放射器の電源を切って。机を引っ張りだし全員の前へと並べた。
 これからみんなの恋愛話を聞く会が始まる。

● 教えてほしいのは甘酸っぱいエピソード。
 
 ではこれから具体的に何をしていただくか、それをお話しします。
 それはのろけ話です。
 恋人がいるリンカーたちの恋愛体験を聴きたいのです。
 シチュエーションとしては。
1 付き合う前のデート。
2 付き合った後のいちゃいちゃ
 などが聞きたいようです。エピソードは具体的であれば具体的であるほどいいでしょう。
 そのほかにもねつ造で構わないので、若者受けするようなエピソード。歌詞。単語。を募集しています。


解説

目標 二曲ラブソングを完成させる。

 今回はみんなで曲を作ろうの回ですが。実はあったいちゃいちゃエピソードをお披露目する場所としても使えます。
 皆さんの妄想をこの度事実にしていただければと思います。
 また、皆さんは赤原の依頼と関係なくラブソングを作り上げて歌ってもいいです。
 その場合。今回タイアップする企業のお披露目会で謳う機会が与えられます。
 CDにも入るので、この機会にぜひ一曲作ってみてください。
 オーダーは、甘々なもの。女の子目線。純愛。悲恋はNG。です。

リプレイ

プロローグ
 カッチコッチ。時計の音が時間を刻む。
 そんながらんどうの会議室、スターは不在。かわりに協力を仰がれたリンカーたちが集められていた。
 仕事開始前の十五分。社会人としての自覚ばっちりである。
 そんな五組のリンカーたちが沈黙しているのは何も仲が悪いわけでなく、この事件の行く末を見届けようと思っている。
「ん~」
 ほっぺを膨らませて無言で抗議の視線を向ける『柳生 楓(aa3403)』。その視線の先には『氷室 詩乃(aa3403hero001)』。 
 事の発端はほんの五分前。詩乃に連れられて登場した楓は暗い表情をしていたのだが。ここで初めて任務の内容を聞かされ。
 帰る!
 となり。
 なだめられつつ。現在に至る。
「楓の惚気話を色々聞きたいなー」
 ただ、張本人の詩乃は悪びれず飄々としていた。
「詩乃…………絶対に許しませんからね…………」
「まぁまぁ、頭抱えたくなる気持ちはわかる」
 そう告げたのは『麻生 遊夜(aa0452)』。隣には『ユフォアリーヤ(aa0452hero001)』が普段の二割増しでラブラブオーラを醸し出している。任務の内容がないようだからだろうか。
「俺も正直帰りたいが、悪いことばかりでもないと思うぞ」
「たとえば?」
 納得のいかない楓はほっぺを膨らませたままつっけんどんに、遊夜に言葉を返す。
「相方が嬉しいんじゃねぇかな」
 その言葉にユフォアリーヤのラブラブオーラがさらに増した。
「何故そんな仕事を受けてしまったのか……」
「……ん、恋愛……幾らでも聞いて」
 そんな会話の合間を縫って『セレナ・ヴァルア(aa5224)』は相棒に問いかけた。
「……そう言えば、こーたは居ないの……? 彼女」
『今は居ないな』
 そう答えたのは『葵杉 昴汰(aa5224hero001)』。そんな昴汰は扉の向こうに気配を感じて振り返る。するとギターを装備した大男赤原が登場した。
「おう、そろってるな、今日はありがとな」
 そう赤原は手を振って手近な椅子を引き寄せる。。
「今日は作詞作曲の補助ですか」
 『九重 陸(aa0422)』がヴァイオリンをとりだして赤原に向き直る。『オペラ(aa0422hero001)』は隣でお人形のように佇んでいた。
「ヴァイオリンと育った俺からしたら、いっそ歌詞なんて無くたっていいんじゃないか、と思うんすけど……最近の若いモンは、歌詞がないと聴きませんからね」
「まあまあ。エリックだって『最近の若いモン』じゃないですか」
「しかし話を聞くだけで曲が創れるのか、やはり俺にはこっちの才能はないんだな……」 そうしみじみと告げるのは遊夜。
「……ん、ユーヤは……表に抽出するのが、苦手だもの……ね?」
 うんうんと頷くのはユフォアリーヤ。
「詩や作文やら論文とかはどうしてもな……事務的な報告書やらなら慣れてるんだが」
「まぁよ、人には向き不向きがあるからなぁ、世の中できるやつがやればいいんじゃねぇか?」
「そうさな…………ま、俺が創るわけじゃねぇんだしその辺は任せるよ」
 そう遊夜は赤原に告げる。
「俺も絶賛苦手を押し付けられてまいっちまってるからな」
「なるほど。ハートフルな恋愛譚か……」
「専門がちげぇ」
 そう落ち込む赤原の肩を叩く『雅・マルシア・丹菊(aa1730hero001)』。となりで『アル(aa1730)』はうんうんと頷いている。
「楽しんでねぇか?」
「楽しみだよ、みんなの話」
 そう告げると、楓をみてユフォアリーヤへと向き直った。
「……ん、ボクの今までの……頑張り物語」
 そう気合を入れるユフォアリーヤ。
「…………俺らは結構特殊な部類だと思うんで参考になるかわからんのだがな」
 それでいい、そう赤原は頷いて、ギターを置くとペンをとる。
 お仕事開始である。



第一章 集いし恋愛勇者たち

 トップバッターはセレナである。
 セレナは恋人を思い出してうんうんうなり始める。
 先ずは付き合っていない頃の話からしてくれるらしい。
「良く会ったのは……何処でしょうか……余り覚えがないけれど」
「意外と印象薄いな、アイツ……」
 そう昴汰は溜息をついた。
「……余り覚えもない気もしますが……ああ、彼のライヴには良く行った……かもしれません……」
「お! アーティストなんだな今度紹介してくれ」
 赤原の言葉にセレナは本人に確認してからと言い含めて話を戻す。
「その後はライヴの打ち上げに一緒に参加して、一緒に帰って……でしょうか」
「……ああ、それでライヴに行った日は帰りが遅かったのか」
「そう。家に寄らせて貰って、紅茶を淹れてくれて、一日の終了」
「……彼の紅茶は、一級品だから」
 そう頷く昴汰。今になって二人のなれ初めが明かされるのは彼にとっても面白いみたいだ。
「……食べ物に釣られたのか……」
「そうとも言えるけど……彼の愛猫の存在も大きい」
 そうセレナはその時とった猫の写真を見せてくれた。
「で? そこから付き合うまでは長かったのか?」
 赤原の質問に対してセレナは首をかしげる。
「よく覚えてない」
 その後の話を催促されてセレナは語りだす。
「付き合う前とあまり変わらない気がする……」
「……そう言えば、どっちが惚れたんだ……?」
 赤原の走らせるペンの音が止まった。
「私」
「……お前でも興味のある事も無い訳じゃ無いんだな……食べ物と猫以外で」
 昴汰は驚きまじりの笑みで問いかけた。
「……意外と興味は広い方……こーたは何か無いの? 今までの事とか」
「……印象が薄すぎて覚えも薄い」
 やれやれと首を振るセレナ。
「……こーたと付き合う事自体変わった人だけれど……印象薄いと言うか覚えてないのが正しい気もする」
「……印象に残ってると言われてもね……ただ誰か居るな。っていう感じだったな……」
「そう言うモノなのかも知れない……気がする」
「今は彼が居て当たり前だけど……」
「それ以前には、誰も居ないのか?」
「ええ。それこそ、気にもならない薄い記憶の彼方……だし……紅茶も淹れて貰った事も無い」
「……結局食べ物か……」
「……飲み物」
「色気も食い気も三大欲求だしな」
 そう雑な纏め方をすると、ペンをこめかみに押し当ててうんうん唸る。
 ページの端々に音符やリズム。詩を書きくわえていく。
「……私達……と言うか、私の話はこんな所だけれど……」
 するとセレナがそう告げた。
「引っ掛るワードとか無さそうだな……」
「…………いっそ相手が人でなくても、音楽を擬人化とかする感じで音楽への愛を歌っても良いと思う……」
「……それも面白いかもな…………歌が出来たら聴きたい気もするな……」
「そうね」
「音に命を捧げる気ではいるが。それが一般人にとっての愛だの恋にはならねぇだろうよ」
 その言葉にアルの目が光った気がして赤原は思わずそちらに視線を向ける。するとアルが穏やかに手を振った。
「おおう、で。麻生さん。あんたらはどういうなれ初めなんだ?」
「なれ初めというと……昔話からせにゃならんな」
 遊夜が難しい顔をして告げる。
「……ん、そもそもユーヤ、出会った時の記憶ない」
「ほう、そいつは……。じゃあ付き合う前から話を聴かせてくれ」
 その赤原の言葉に、遊夜はしばらく考えるとぽつらぽつらと話しだす。
「付き合う前と言うと……そうだな、当時の俺から見たら『記憶失ったと思った時から傍にいた存在』だったわけだ」
「……ボクからしても、出会ったばかり……だったけど、色々あったから……ね」
 遠い目をするユフォアリーヤ。
「慕ってくれてるのは分かっていたが、それは俺じゃない俺に向けられた感情だったからな」
 遊夜は誠実で有ろうとしたのだろう。その意識もあって、歳の差だったり、立場だったり、いろいろ気にして、ユフォアリーヤに諦めさせるようにしていた。
「……ん、ふふ……その程度で、ボクは諦めなかったの……記憶失くなっても、ユーヤはユーヤだったから」
 そう照れ笑いを浮かべるユフォアリーヤ。
「なんでまぁ、付き合う前のデートとなるとリーヤに押しに押されて流される感じに仕方なくって感覚ではあったな」
「……ん、退いたら……そのまま離れて、行きそうだったから……だから、喰らい付いたの……ユーヤが、諦めるまで」
 ニコニコと、とてもいい笑顔で佇んではいるが、赤原はこの少女を怖いと思った。
 なんという執念と、メンタルのタフさだろうか。
「…………もう本当に、離れなかったからな……というか今でも離れないしな、もう慣れたが」
「で、紆余曲折あって、現在にいたると」
「付き合ってからもその辺は大して変わってないかね?」
「……ん、基本は……でも受け入れてくれて、色々考えてくれるようになった」
「それは?」
 赤原が首をひねる。
「ああ、隠す必要もなくなったんでな。リーヤの喜ぶことをしてやりたいと思って、それを思う存分できてるだけだよ」
「旅行とか温泉とか、肉とか肉とか肉とか」
「……ハグとかキスとか、してくれるようになったし……あとは……やーん」
 そう、お腹を撫でながら顔を赤らめるユフォアリーヤ。それと一緒に顔を赤らめる赤原。
「次だ。そうだな、女子高生にピュアな話をしてもらうとしよう」
 そう声をかけられたのが楓。
 それに賛成の意を表するのがアル。
「僕もきいてみたいな! お付き合いってどんな感じなの?」
「女子高生だからってピュアな話とは限らないんじゃない?」
 そう詩乃が笑うと赤原の顔がますます赤くなる。
「え……っと。話せないこともありますけど」
「もちろんだ、話して楽しいことだけ聴かせてくれ」
 まだ不服そうにしている楓にそう赤原が微笑みかけると楓はポツラポツラと話し始める。
「はじめてはですね。あるイベントで詩乃が持ってきたんです」
「あ~、あれか、確かにそうかもね、あれが初めてだ」
 詩乃が手を叩くと赤原はいぶかしむ。
「あれって。なんだ?」
「写真ですね」
 楓は語る。第一印象は優しい人だと思った。
 知っていくうちに年上ながらも初々しく、よく顔を赤らめたりする彼を見て面白い人だなと思ってた。
 からかっている間に、だんだんと彼の事を考えるようになり、離れていても考えるようになり、任務やテレビの話題。彼に振ったらどのような返事が返ってくるだろうか。
 そんなことを考えるようになっていた。
「それからも何回か会う機会がありまして。会えば会うほどなんというか、会いたくなって」
 決定的になったのは初めて彼と夏祭りに行った日だという。
「誘われたことが何より嬉しくてめいいっぱいおめかしをして」
 そして、その夏祭りで楽しい時間を過ごして、お揃いのブレスレットを貰ったのだという、楓はそのブレスレットをなでた。
「それが嬉しくて、隣にいるのを認められた気がして、私は。気が付いたら自分から。その……」
 自分から頬にキスをしていたという。
 その時初めて楓はそれを自覚した。胸にあふれるおもい、彼だけしか考えられない。
 もう自分は彼のことが大好きなんだと知った。
 その日からずっと交際を続けている。
「大好きなんです、彼のことは」
 そう晴れやかな顔で語る少女に赤原は不思議な思いが芽生えるのを感じた。
「すごく幸せそうな表情」
 そうアルが斜め下のアングルにより、指で四角い枠を作って見せると、楓はバタバタと立ち上がった。
 気が付けば顔が真っ赤、誰の目も見れないほどに恥ずかしい。
「わた。私はいったい……」
「ふへへゴチソウサマデース」
 そう楓と一緒になって顔を赤らめるアル。
 アルは自分の頬を両手で押さえると首をプルプル振った。
「いやぁ若いって良いよねぇ……」
「あなた何才?」
 雅がそう告げると、楓の脳の許容量が超えた音がした。
 ポンッと限界を超えた楓は、その体をずるずると椅子にもたれさせる。
「あー、もうダメみたいだね。ここからは僕が語り手を変わるよ」 
 詩乃がそう赤原の前に移動した。
「ん? 嬢ちゃんの話の続きか?」
「いや、僕自身の話」
 そう詩乃は楓の顔をノートで仰ぎながら語り始める。
 その瞳が少し冷えた気がして赤原は身を乗り出す。
「僕にも好きかもしれない相手がいるんだ」
 きゃーっとアルが小さく歓声を上げた。
「その子が幸せそうなのを見るだけで嬉しいし悲しそうにしてるのを見るだけで辛くなる」
「まるで、見てるだけみてぇな言いぐさなぁおい」
「実際そうだからね」
「具体的に好きになったエピソードとか」
 アルが先を急かした。
「んー、ないかなぁ。気が付いたらそうなってたんだぁ」
 そうやって苦笑いする詩乃はさみしげだった。
「告白しないの?」
 アルが問いかける。
「まだその時じゃないんだ」
 そう務めて明るく言う詩乃。
 ただ、告白する気は元から無い。詩乃は自分の中でそう叫んだ。
 詩乃は知っているのだ。その子のことを幸せに出来るのは自分ではない。自分では幸せに出来ないと思っている。
 だから、詩乃は何も言わない。
「叶わない恋だけどボクはそれを悲しく思わない。だってあの子が幸せならボクはそれでいいから」
 告げると赤原へ詩乃は一枚の紙を差し出す。
 そして立ち上がると部屋の入口へと歩み寄る。
「ちょっとトイレに」
 その背中を見送って赤原は紙の表返す。
 そこには歌詞の断片がつづられていた。


―― 貴方のことを思うだけで胸が締め付けられる
   そして理解した
   ああ、これが恋なんだなって

「嬢ちゃん……。俺にはまだその痛みはわからねぇが。戦ってんだなぁってことはわかるぜ。ナイスガッツ」
 そう拳を握る赤原にアルがため息交じりにこう告げた。
「何だかもったいないなぁ……」
「お? なんだなんだ?」
「依頼した人は、なぜ熱血曲の達人なキミにわざわざこの仕事をお願いしたと思う?」
 アルは机をバンッと叩いて言い放つ。
「『無難に万人受けするラブソング』じゃなくて『赤原光夜のラブソング』が聴きたいんだよ!」
 びしりと指を刺され全ての核心を突かれた赤原、しかし彼には反論する言葉すらない。
 顔を手で覆って小さくなってしまう。
「だってよ、そもそも『赤原のラブソング』すらよくわかんねえんだもんよ」
「そこでみんなに話を聴こうとしたのはいいと思う、でもボクは光夜さんの愛の歌もききたい」
「俺の愛……けどよ、俺には愛なんて」
「大丈夫。僕はもうみつけてるよ、赤原さんの愛。それを確かなものにするためにも、今までの話を踏まえて、曲作りのお手伝いをさせてほしいな」
 そうアルは言うと。赤原は目を見開いた。
「本当か、へへへ。ありがとよ。てっきり嫌われてるかと思ってたぜ」
 そう鼻をこするとアルにまずノートをみせる。
「なるほど、話は分かったよ。じゃあこんなのどうかな」
 そう告げると雅がマイクを握った。
「ラブソング。『愛するもの』に向けた歌」
 そしてアルをちらりと眺めると、その小さな体に大きなアコースティックギターを抱えて、器用にぽろんっと引いて見せた。
 それが音程確認代わりなのだろう。チューニングすることなく引き始め、雅は謳いだす。

―― 人肌恋しい冬の朝 
   いつもあなたを思い出す
   太陽の香りの暖かな腕に抱き締められると
   なんだか心もぽかぽかします
   もう少しこのままで
   私はまた夢の中

 いつの間にか復帰していた楓やユフォアリーヤが、その甘いフレーズと雅の声。そしてメロディーに意識を全て持って行かれる。
 ああ、なんて大人な、しかし爽やかな曲なんだろう。
 そう皆が思った矢先。

―― ……大好きなんだよねぇ。
   おふとん。

 楓がおでこからテーブルに突っ込んでいた。
 タイミングよく戻ってきた詩乃には笑われ。
 赤原は苦笑いを浮かべている。
―― 結婚したい
 ぽろろんっとギターをかき鳴らすアル。
「いや、それはもういいんだよ」
 そう赤原が小さく突っ込みをいれた。それに対して雅が真面目な面持ちで告げる。
「光夜君騙されそうになったでしょ? 二度寝讃歌も主語伏せたら甘い愛の歌」
「器用だなあんた。さすが芸能界で生き残っただけの事はある」
 なぜか雅に対しては素直な赤原である。
「『人』じゃなくても大丈夫なの、というわけで。貴方の愛するものは何? ……やっぱり音楽かしら」
「あー、音楽へは愛っつうか、たましいっつうか」
「質問3つさせて!」
 アルがその時手を挙げた。
「これ答えると1番が完成するよ」
「ほう、頼もしいじゃねえか」
 居住まいを正す赤原。
「この世からあなた(音楽)が消えてしまったら?」
「ボクは生きていけるのかなぁ……光夜さんはどう?」
 雅が問いかけると、お手本でアルが答えていくスタイルらしい。テンポよく赤原は答えていく。
「あん? 黄泉の扉ぶち破ってでも取り返してやるよ。俺の魂を俺から奪おうなんざ、いい度胸じゃねぇか」
「光夜さんの知らないあなた(音楽)を知った時はどう思う?」
「ボクならきっと嬉しくてたまらなくなる」
「気が合ったじゃねぇか。俺もだ」
「もっともっと知りたくなる。一緒にやってみたいコトも増えるよね」
 そう、テンションをあげるアルと気持ちが一緒だったらしい。二人はハイタッチしていた。
「あなた(音楽)がいたから出来たことは?」
「きっとこの景色を望める場所には来られなかった。これからも共にありたい」
「俺自身は何も変わらなかったろうさ。けどよ。お前らと仲良くなれたのは音楽のおかげだ、それだは今はっきり言えるぜ」

 そして蘇るあのフレーズ。

―― 貴方のことを思うだけで胸が締め付けられる

「そ、そうか! これが恋! そして愛!」
 その時はじかれたように赤原はペンをノートに走らせる。
「…………光夜さんなら純愛系の歌詞になりそうかな。2番以降は、キミが本物の恋愛をした時に追加するのも良いよね」
 そうにやにや笑うアルに、赤原はペンを突きつけた。
「へ、ずいぶん楽しそうじゃねぇか」
「まぁね。ふふふ。赤原さんもやっと愛を知ったかぁ」 
 そのしたり顔がなんだか恥ずかしくて赤原はアルに食って掛かってしまう。
「てめ! お前こそまともな恋愛したことねぇんじゃねぇか? なぁ、姐さん」
 そう雅に視線を向ける赤原。半テンポ遅れて雅が自分を指さして首をかしげた。
「え? 私?」
「こいつ恋愛したことあんのか?」
「私の知る限りなかったと思うけど?」
「はーん」
 勝ち誇った表情を見せる赤原。
 それにちょっとだけイラッとするアル。
「まぁ、僕がどうのこうのっていうのは関係なくて、赤原さんがどれだけ人を好きになれるかだし?」
「というか、本当に人を好きになったことないの?」
「ある! が俺はみんな好きだからな、それに優劣はねぇ」
 ため息をつくアルと雅。
「じゃあ、恋愛についてもう少し詳しく語ってもらおう。じゃあ。最後の人よろしくお願いします」
 そう頭を下げるアルに困ったような表情を向ける陸。
「そう言う感じで話を振られると困るんだけど……」
 陸はいったん深呼吸。
 この前のデートについてオペラと一緒に思い出しながら話し始めた。
「一緒に同じ絵を見たり、同じ音楽を聴いたり。素晴らしい時間でした」
 オペラは胸の前で指を組んでそう謳う。
「隣にいても顔が見えないものですから、どんな事考えてるんだろうなーとか、気に入ったのかなーとか、想像したりしながら。それでね、それでね、横からそっと手を伸ばして、エリックの手を握るんです。そしたらエリックったら、顔は前を向いたままなのですけど、耳まで真っ赤になって」
「うわああああ! 言うなあああああ!」
 手をばたつかせて声を遮る陸。
「うふふふ。エリックったら、そんなに照れなくてもよろしいのに……でも、こういうお付き合いって、あまり他には見かけませんね。この世界の若いカップルにとって、絵画や演劇は退屈なのでしょうか?」
「……まあ、歌詞に使うんなら、もっと違った恋愛模様の方が良いのかも知んないっすね。やれ前世や運命がどうとか、やれ会いたいとか……恋愛のステレオタイプに則った、ありふれた歌詞の方が、支持されやすいしよく売れますから」
「プロとしてやっていく以上は音楽も商品ですから、自分の好みだけで作るわけにもいかない……難しいところです。ですが、お付き合いの形、憧れる恋愛の形は人それぞれですから。わたくしたちの歌も、どこかには需要がありますよ。きっと」
「ん、まあ……そうっすね」
「普通の、といえば、おうちデートも楽しいですよ! 時々、エリックが作ってくれた曲を、一番最初にわたくしに聴かせてくれるのです。わたくしも一緒に演奏して……。わたくしとエリックと、音楽だけが存在する時間……お互いの音色と心が共鳴する、ふたりの秘密の演奏会……」
 そううっとりと思い出に浸るオペラを眺めて苦笑いを浮かべる陸。
「……あのー、何かもう居たたまれなくなってきたので、飲みモン買ってきますね」
 そう陸は席を立ったが。その後もオペラはいろいろと話を続けている。
 ちなみに完成した歌はPVをつけてもらうそうで。その依頼交渉をされて今日は解散になった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 無名の脚本家
    九重 陸aa0422
  • 銀光水晶の歌姫
    アルaa1730

重体一覧

参加者

  • 無名の脚本家
    九重 陸aa0422
    機械|15才|男性|回避
  • 穏やかな日の小夜曲
    オペラaa0422hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 銀光水晶の歌姫
    アルaa1730
    機械|13才|女性|命中
  • プロカメラマン
    雅・マルシア・丹菊aa1730hero001
    英雄|28才|?|シャド
  • これからも、ずっと
    柳生 楓aa3403
    機械|20才|女性|生命
  • これからも、ずっと
    氷室 詩乃aa3403hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • エージェント
    セレナ・ヴァルアaa5224
    人間|18才|女性|攻撃
  • エージェント
    葵杉 昴汰aa5224hero001
    英雄|24才|男性|シャド
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