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最終発言2018/02/11 11:25:38 -
闇フォンデュパーティ~準備中~
最終発言2018/02/12 01:55:59
オープニング
「上手く作れないですぅ!」
小鳥は悲鳴を上げた。
バレンタインのために手作りチョコレート作りに励んでいたのだが、どうも上手くいかない。チョコレートケーキは上手く膨らまないし、チョコクッキーは焦げるし、溶かして固まらせるだけのチョコも不恰好になってしまう。
「せっかく、お世話になった人に手作りのチョコをプレゼントする予定だったのに。このままじゃ、間に合わないですぅ」
そんな時、小鳥の目に留まったのは土鍋であった。冬に大活躍する調理道具を見た小鳥は、にやりと笑った。
「そうですぅ! ちまちまチョコレートを作るなんて、効率が悪かったのですぅ!! 時代は、フォンデュですぅ」
意気込む小鳥の後姿を見ながら、正義は首を傾げていた。
フォンデュとはなんや、と。
●
「フォンデュは、溶かしたチーズのなかに野菜やパンや肉をいれて味付けして食べるもんなんやな。なんや、串カツのソースみたいやな」
正義は、食べ物の雑誌を見てフォンデュのことを勉強をしていた。
とろけたチーズに色々なものをつけて食べるのは物珍しいし、おいしそうだ。
手作りチョコレートに失敗した小鳥が提案したのは、闇フォンデュパーティーだった。
真っ暗にした部屋に、串刺しにした食材を持ち寄って食べるというパーティー内容である。ルールは闇鍋だが、知らない単語が混ざるだけでちょっとわくわくしてしまう。
「チーズやけど、野菜は多めに持っていって……ちょっといいソーセージも買ってもっていくのはどうやろ。あ、飲み物はビール――いや、せっかくのチーズやし、ワインで」
ワクワクしながら、正義は買い物に向った。
正義は、根本的に勘違いをしていた。
小鳥が企画したのは、チョコフォンデュパーティーだったのだ。
解説
以下、小鳥の書いた紹介状
闇フォンデュパーティーへ、ようこそですぅ。
・食材や飲み物を各自持ってくる、持ち寄りパーティーですぅ。場所は、夜のH.O.P.E.の会議室を借りているですぅ。パーティー会場は最初から薄暗くなっているから、足元に気をつけて欲しいですぅ。
・材料は自由ですが、食べ物は一口サイズに切って串に刺して持ってきて欲しいですう。小鳥は、パンとジュースを用意しておくですぅ。フォンデュの鍋の準備は小鳥がやっておくですぅ。
・基本ルールは闇鍋ですぅ。一度手につけたら、絶対に食べないとだめですぅ。
以下、PL情報
正義……チーズフォンデュだと勘違いし、茹でたブロッコリーやソーセージ、ワインを準備している。自分の間違いに食べるまで気がつかない。
リプレイ
「闇チョコフォンデュパーティだって。楽しみだね♪」
ニコニコしながらアンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)は自分が持ってきた食材をテーブルに置く。一口サイズに刺して、串に付けられた菓子にチョコレートを浸して食べるのが今から楽しみでならない。しかも今回は、食べて楽しいオタノシミを用意したのだ。
「みんながお腹いっぱい食べられるように準備したんだよ。足りなくなったら、すぐに出すから言ってね」
鞠丘 麻陽(aa0307)も大量の食材をテーブルに並べていった。暗がりでも取りやすいように、と気を配りながら。鏡宮 愛姫(aa0307hero001)は自分の持ってきた材料をテーブルに置きつつ、胃薬も準備していた。
『意外とチョコって、胃がもたれるんですよね』
愛姫なりの気遣いであった。
「闇チョコレートフォンデュっていうけど。これって、チョコが闇だと漏れなく大惨事だよね」
こわいなー、と呟きながら行雲 天音(aa2311)は遠くから鍋の臭いをかぐ。臭いは甘くて、一応普通のチョコの匂いがする。少なくとも、鍋の中身が最初から不味いということはなさそうだ。
『とーま、足元に気を付けるにゃ。沙羅様は化け猫だから暗い場所でもバッチリなのにゃ!』
そういうわりに、さっき躓いていた白雪 沙羅(aa3525hero001)はバックから食材を取り出した。その様子を猫井 透真(aa3525)は、ため息混じりに見守っていた。
「……それにしても、まさか闇チョコフォンデュとは……! 沙羅がやけに張り切ってるからイヤな予感はしたんだよ。騙された……! 夜城さん、天音ちゃん、生き残ろう……!!」
透真は皆と食事をするとしか聞いておらず、てっきり懇親会のようなものかと思っていた。だが、蓋を開けてみれば闇鍋もどきである。救いと言えば、知り合いがちらほらと参加していることだろうか。女子高生の天音は口ではチョコを恐れつつも、ちゃくちゃくと準備を進めている。生来の面倒見の良さが感じられる光景であった。
『……えっ……フォンデュってチョコレートなの……? ぼ、ぼ、ぼく……あの……チーズの方かと思って』
甘い香りに、顔を真っ青にしたエクトル(aa4625hero001)は震えていた。てっきりチーズフォンデュだと思っていた彼は、チーズに合う具材を持ってきてしまったのだ。「自分がもってきたカラアゲはせめて避けておいてください」と言おうとしたエクトルの口を夜城 黒塚(aa4625)は塞いだ。
「中身は……言わねェ方が流儀に合ってっかね」
小鳥は、黒塚に向って親指を立てる。
黒塚も頷いた。
さっき初めて挨拶したばかりだというのに、この二人は妙に気が合うらしい。あるいは、黒塚が小鳥にあわせてくれているのか。
「割とチョコフォンデュだと思わずに具を用意した奴もいるのな……まぁ、何事も経験だ、経験」
ぞんざいな黒塚の言葉に、エクトルはしゅんとする。
「当たっちゃったらごめんね……僕も頑張って責任持って食べるからねえぇ……」
どうか、甘いお肉が食べられる物体でありますように。
エクトルは小さな手を合わせて、お祈りしていた。
「……そうか。どおりでチーズフォンデュにしては、甘い匂いが漂ってると思った」
自分の持ってきた食材を隠そうとしたのは、御神 恭也(aa0127)であった。彼が持ち込んだのはふかしたジャガイモに牡蠣、それと沢庵だ。意外と酒に合うのだと人に聞き、大人もいるだろうからと持って持ち込んだのだが――よく考えなくてもチョコ相手ではあうわけのない材料だった。
『せっかく、持ち込んだ材料を隠すのはナシですよ』
恭也の後ろで、不破 雫(aa0127hero002)が、ふふふと不気味に笑っている。
『闇鍋系統の料理ですか。これは驚かし甲斐がありますね』
そういう雫も、鍋はチーズだと思ってしょっぱい系にあう具材しか持ってきていない。しかも、彼女は何を思ってどこで調達したのか全く分からないユムシという材料を持参していた。一応、食用できる海洋生物である。ものすごく大胆に見た目を説明するのならば、肌色のナマコと言ったところだろうか。
『闇鍋系で、真面目な食材なんて面白く無いですからね』
たのしみ、たのしみ、と他の面々に習って雫は食材の準備をしていた。
『チーズフォンデュって甘い香りがするんだね、ハチミツとかいれてるのかな?』
餅 望月(aa0843)は、無邪気に首を傾げている百薬(aa0843hero001)に「さっきのやり取りで気がついてくれ」と思った。彼女もチョコとチーズを勘違いしてきた人間である。しかも、彼女達が用意してきたのは恭也が用意してきたものよりも破壊力があった。
持ってきたのは、カラアゲに卵焼き。かまぼこ、餃子である。チョイスは殆どが百薬であり、彼女は『でもワタシは天使だから食べられない物は持って行かないのよ』といって得意げにリクエストした。ちなみに、かまぼこについては「大陸の方では旧正月とかあるしOKかな」と思っていれ、『じゃあ本場の餃子も入れる?』と百薬が餃子の用意をしたのである。
『クックックッ、闇のパーティの始まりだよ、これよりこの地は、バトル会場と化すよ』
「先日は恵方巻きにチョコ入れたり妙なことやっちゃったし、今回は普通のチーズフォンデュちょっと和風なくらいで穏便にやるつもりだったのに」
すでに穏便に終わる気配は、なくなってしまっている。
それぞれの食材は串に刺され、準備は整えられた。
コップには、それぞれの飲み物が注がれる。
『パーティーの後はちゃんと歯を磨くんやで』
何故か、パーティーは八十島 文菜(aa0121hero002)の説教から始まったのであった。
●
『チョコフォンデュですか。懐かしいですね』
そう呟きながら構築の魔女(aa0281hero001)は、目の前にあった串を手に取った。おそらくは、自分が用意したものである。二種類の果物を串にさしてあるそれを「ちゃっぽん」とチョコに浸す。くまなくチョコレートに包まれたたソレを口に運ぶと予想通り、イチゴの味がした。どうや、用意したなかでも一番オーソドックスなイチゴとバナナの串を引いたようだ。
『意外と、ドキドキしますね。幸先はいいですが、できれば平穏に終わりたいものです。……まずは美味しいです』
もう一つ、口に運んでみる。
今度はバタークッキーであった。ほろほろと崩れる食感だがチョコがかかった部分だけしっとりとして、まるでできたてのお菓子のようであった。
「贅沢感ありますね。それに、お茶にもよく合う」
舞台は闇鍋だが、口の中だけはお茶会のようは華やかさである。
ふふふ、と構築の魔女は人知れず微笑む。
隣を見ると、特に問題なく辺是 落児(aa0281)も食べ物を口に運んでいた。ぽりぽり、と噛み砕く音がするので、恐らくは乾物系のお菓子にあたったのだろう。
「ローーロ」
「ふむ、大丈夫ですか。まあ、米菓にチョコというのは、市販されていますしね」
どうやら落児は、柿の形をかたどった米菓にあたったらしい。
その後も落児は、特にチョコと組み合わせても問題ないお菓子ばかりに当たっていた。
「んーでもあまり驚きのないラインナップだったかな」
用意したらしい天音は、若干残念そうな表情であった。
『幾つか予想が付かない味になりそうなものが入っていましたが』
蒼(aa2311hero001)は、用意した食材を思い出していたようであった。そんな彼女が齧るのは卵焼きである。異色の取り合わせではあるが、甘すぎる卵焼きと思えば食べられないこともない。それに焼き菓子などには、高確率で卵も入っているものだ。卵焼きだという違和感を捨てれば、食べられる味であった。
「や、闇鍋チョコフォンデュですか……!? それより、私に作り方を任せてくれれば……」
妙に重い串を引いてしまった月鏡 由利菜(aa0873)は震えていた。この重さはパンやケーキ系ではない。
『ユリナ、いつも普通に作るだけじゃ飽きちゃうじゃん? ここは闇鍋のハオスを楽しもうよ』
一方でウィリディス(aa0873hero002)は、気楽だった。彼女が持ってきたのは、グミとガムである。しかも、それは海外製の「世界一不味い」とよく言われる製品であった。双方共にゴムのような味がすることで有名である。ここまで不味い菓子を持ってきたウィリディスは、自分以上酷いものをもってくる人間はいないだろうと考えていたのである。
ぱく、とウィリディスは自分が引いた串を食べた。
『なにこれ、すっごい生臭い!』
ウィリディスは、叫んだ。
恐らくは沙羅が用意したものだと思いながら、透真は自分の相棒は何を用意したのか尋ねてみた。
『茹でささみと茹でカツオにゃ! おやつに最適にゃ!』
生臭い言ってから茹でカツオかな、と透真は遠い目をした。ウィリディスは目を白黒させながら、紅茶を飲んでいる。
『ほ、ほわっ!! 予想通り以上のハオス過ぎる味っ!!』
タイヤの噛み応えは予想できても、茹でたカツオの臭いは想像できなかったらしい。
「……だ、だから私に任せて欲しいと言ったのに……!!」
だが、もう逃げるわけにはいかない。
由利菜は、目を瞑って自分の選んだ串を口にはこぶ。
「あら……」
ハムカツだった。さくっとした衣に「外れを引いた」と思ったが、意外と悪くない。ハムのしょっぱさとチョコの甘さが絶妙だ。普通にソースで食べるより、高級感があるほどだった。
「外国では、肉料理にジャムをつけることもありますもんね」
そういえば、と由利菜は思い出す。
日本では馴染みがない味だが「外国の料理」と思えば、驚愕するような味ではない。
「よかった。由利菜さんは、大丈夫な人だったんだね」
ハムカツを用意した麻陽は、ニコニコ笑っている。
肉系の具材は、食べる人を選ぶと聞いていたので心配していたが由利菜の口には合ったらしい。
そんな麻陽は、常にもぐもぐと口を動かしていた。よく食べる彼女の周囲からは、具材がどんどんと消えている。だが、麻陽はアクションをおこさない。
『味はどうなんですか?』
愛姫の疑問に、麻陽は「おいしいよ」と答える。
「なんだか、あたしの周りに果物とかパンとかケーキとかがいっぱいあったみたいなんだよ。そんなに、おかしいなって味には出会ってない」
麻陽の言葉に、全員が戦慄した。
おそらく、それぞれは「無難なもの」と「実験的なもの」を用意したことだろう。だが、ちょっとした偶然で麻陽の側に「無難なもの」が多く集まってしまっていたようだ。そして、そのほとんどが食べられている。すなわち、残っているものの殆どが実験的なものである可能性があった。
『そうなんですか。美味しく食べられて、なによりですよね』
愛姫は嬉しそうだが、他の面々には「このミッションの危険度があがった」という報告に他ならなかった。麻陽の近くにいる愛姫もあまり可笑しな具材は引いていないらしく、嬉しそうに串を食べている。
「どんな物でもチョコがかかってれば食べられる筈。それがチョコ好きの矜持」
アンジェリカは、真剣な声色で串を引く。
そして、チョコをたっぷりつけてから口に運んだ。どうやら、チョコの甘さで全ての味を誤魔化す作戦らしい。だが、最初こそ笑顔だった彼女の顔が曇った。
「……ところで、文菜さんは何の食材を持ってきたの?」
アンジェリカは串の位置的に、彼女が持ってきた具材を引いたと考えたらしい。
『それを言うたら闇鍋にならしませんやろ。でも、まぁ食べたんだったら』
文菜は、『たこ焼き』と答えた。
アンジェリカは、妙に納得する。ああ、この妙にグニュグニュとした噛み心地はタコだったのかと。幸いにしてソースはかかっていなかったが、ものすごい違和感である。
『では、うちも』
あーん、と文菜は串を口に運ぶ。
イタリアの辛口ワインで口で潤した大人は『できれば、甘いのが引ければ幸せおすね』と思った。だが、口に含んだものは予想外の味だった。
『なんや、これ。甘くて、すっぱい?』
文菜は首を傾げる。一口目はチョコ味なのに、齧ってみるとすっぱい。お菓子というわけではないのだが、それに近い感覚でもある。とりあえず、ワインには合わない味だ。どちらかというと、日本茶に合いそうな味である。
『……梅干かと思われます』
蒼は、天音が高級な梅干を買うところを見ていた。
「うーん。お菓子っぽくなるのか。たしかに、梅味のお菓子なんて珍しくないものね」
少し残念と呟いて、天音も串を引く。
「本当は、食べられるかんぴょう草鞋を入れたかったのだけども」
『鍋用ですね、サイズ的に無理かと』
一口で食べることを前提としたフォンデュには不向きな食材だ。
それにチョコをつけたかんぴょうも御免である、と蒼は思った。
「チョコをたっぷりつけてっと。よし、いただきまーす」
天音は、ぽいっと串を口の中にいれる。
そして、彼女の時間は止まった。
「くっ、あ、駄目ね、これ。というか……なに、これ。ニンニク臭い!」
お茶をぐっと飲み干した天音は、目を白黒させていた。
望月は、目をそらす。たぶん、天音が食べたのは本格餃子である。ニンニクたっぷりでチーズに合いそう、と思ったのだが。やはり、チョコではダメだったらしい。
『単体で食べるべきものでしたね』
蒼は、無表情に一口で食べるには大きすぎる具材を口に運んでいた。
「ちなみに、それはなに?」
『マグロの目玉でしょうか? そして、こちらのグニグニとした食感は蜂の子と思われます』
冷静な蒼の言葉に、天音は悲鳴を上げる。
「私たち近くに、恐るべきゲテモノが……」
『駄目な物はとことん合いませんね。その割には異な物と合うとか……蜂の子は意外といけますね』
蒼は、無感情に食べ続けている。
「うー、餃子を持ってきちゃった手前。ちょっと罪悪感があるな。チーズだったら、合うはずだったんだけども」
望月は、うなりながらも串を引く。
餃子は避けたい、できれば蜂の子も避けたい。
無難なもの、無難なもの、と願いながら彼女は串を引いた。
「む……これは」
一口食べても、チョコ味しかしない。
口の奥で、ほのかに別の臭いもするのだが基本はチョコである。
「外れ……ではないんだろうけど。なんだろう」
よく噛んで、ようやく望月は食材に気がついた。
「キノコだ! へー、味がチョコに負けちゃうんだ」
エクトルは、頭を抱えた。
おそらく望月が食べたのは、彼が持ち込んだエリンギだと思われる。
『甘い物って幸せだよね』
あまーい、と百薬は幸せをかみ締めていた。彼女が食べたのは、リンゴのコンポートだ。
『次は、どうかな? コレもあまーい』
どうやら無難なフルーツにあたったらしい。
餃子を持ち込んだのに、闇鍋の神様は百薬に味方をしたらしい。
「さて、次は俺達だな」
黒塚は、適当に串を引く。
だが、串の感触からしておかしい。どうやら、誰かが棒状の菓子をそのまま並べたらしい。これは外れではないな、と黒塚は内心ニヤリとした。
チョコをたっぷり絡めて、頂く。
思ったとおり、プレーンな焼き菓子にチョコが絡まり王道の美味しさになった。
今日は、どうやらくじ運がいいらしい。
もう一本と思って黒塚は、手を伸ばす。そして、チョコをたっぷりと絡ませて口に運んだ。
ぐにゃり、と妙な食感がした。
味はチョコであるが、どことなく生臭い。海産物だとは思うのだが、今まで食べたことない食感である。しいてみれば、薄切りにした貝に近いような食感だ。口直しに、別の串を引く。ぐにゃり、また同じ食感である。
「なんなんだ、これは……貝か?」
黒塚は、首を傾げる。
得体に知れない食材の大群が、自分の席の近くにあるのは結構恐ろしい。
『他の人が貝類を持ち込んでいなければ、ユムシですね』
雫は、にっこりと微笑んでいた。
「え……虫ですか」
由利菜の手が止まる。すでに蜂の子が乱入しているパーティーであるが、新たなる昆虫の登場は止めていただきたいと彼女は切に願った。
「韓国や中国では、炒め物で食べたりする海産物ですね。無脊椎動物っていうものらしくて、見た目はナマコっぽいです。今回は内臓を洗って、一口サイズにしたものをご用意しました」
恭也は、人知れず黒塚がユムシのことを検索しないようにと願った。今は暗がりだからよく見えないだろうが、恭也は雫がユムシを調理している場面を見てしまった。
なんともいえない、グロさだったのだ。
『あの。言い訳ではありませんが、チーズフォンデュなら食べられると思ってたんですよ。まさか、チョコレートフォンデュだったとは知らなかったので……一応は食材ですし、頑張って食べて下さいね』
雫は弁明するが、恭也は思う。
チーズフォンデュであっても、ユムシは罰ゲームに相当するだろう。たとえ味が美味しくとも、世の中にはどうしても嫌悪してしまう形があるのである。ユムシは、その嫌悪すべき形をしている。
『雫さんも仲間だった……しんとーめっきゃくすれば、甘いお肉も美味しくなるよ!』
エクトルは、泣きそうになりながらも串を食べえていた。
さっきから、肉系の具材ばかり当たっているらしい。
『うっう、これ僕の唐揚……でも食べ物は無駄にしちゃいけないもん……』
でも、なんで僕のほうにばっかり、とエクトルは呟く。彼は知らなかったが、百薬たちもカラアゲを持ち込んでいた。そして、さりげなく彼の席付近に設置していたのだ。おかげで、エクトルはカラアゲ包囲網に取り囲まれていたのである。
『カラアゲばっかり……僕、こんなに持ってきたっけ?』
「自分で持ってきたんだから、我慢して食えよ」
俺もユムシを食った、と黒塚は告げる。
『ううう……あれ、ポテトチップスだあー♪ あまじょっぱいの美味しい!』
偶然引いたあたりに、エクトルは笑顔になる。
そして、次に引いた串で絶望した。
『また……カラアゲ』
「がんばれ。きっと次は、カラアゲ以外にもめぐり合えるから!!」
透真は応援しながらも、串を手に取った。
普通に美味しいケーキだった。
だが、周囲が阿鼻叫喚のなかで自分だけまともなものに当たったとは言いづらい。沙羅でさえ「牡蠣だにゃー。うーん、チョコとは全く合わないのにゃ」といいながら、外れを引いているというのに。
透真は、もう一度串を引く。
美味しいケーキである。
『にゃー。これ、沢庵なのにゃー。せめてフルーツにあたりたいにゃー』
沙羅の言い分を聞きながら、透真は冷や汗をかいていた。カラアゲばかり引いていたエクトルを励ました手前、自分ばかりまともなものを引いているのは気が引ける。
「外れますように……外れますように」
周囲とは間逆の願い事をして、透真は串を口に運ぶ。普段質素な生活を送っている透真にとっては、今回はご馳走を食べられる滅多にないチャンスである。だが、それでも――皆が酷いものを引いているなかで、一人だけ無事なのは気がひける。
透真は、串を引く。
ケーキだった。
甘い餡がはいったケーキはチョコがかかると甘すぎるが、外れとはいえない。透真が落胆したとき、口の中で痛いほどの辛さが襲ってきた。思わず透真は、ガッツポーズする。
「これは、辛い!」
「あ、パインケーキの外れだね」
どうやらアンジェリカの持ってきたものを透真はずっと引いていたらしい。
「ロシアンパインケーキ。パイン餡が入った台湾のお菓子らしいけど、一つだけ激辛餡が入ってるんだって」
『叫ぶほど、辛いものなんどすえ?』
文菜の言葉に、アンジェリカは「うーん」とうなった。
「子供には辛いけど、大人はどうなんだろうね」
とりあえず、外れをひいたはずの透真は妙に幸せそうであった。
一方で、恭也は頭を悩ませていた。
口の中にある、異物についてである。
いくら噛んでも食材の味がしないのだ。不味い、うまい、ではなくて体が飲み込むことを拒否しているのである。
「……最低限でも食材にするべきだろ」
力なく呟くが、おそらく口の中にはいっているものは食材ではあるはずだ。だって、口のなかでちょっとずつ解けている。感触が、グミに近い。だが、味が問題なのだ。
『ふふ、やっぱり闇鍋系の真骨頂は不味い物ですよね』
恭也の顔をみた雫は、嬉しそうに呟いた。
「口のなかにある食材が、どうやっても飲み込めん。タイヤのゴムのような味がする」
真剣に、恭也は言う。
口のなかで解けるから、食材ではあるのだ。
だが、体が飲み込むことを拒否する。
『まさか、食材以外を持ち寄るとは想定外でしたね』
「いや、おそらく食材ではあるんだ。だが、味がタイヤのゴムなんだ」
雫は、首を傾げた。
『タイヤのゴムを食べたことがあるんですか?』
「……食べたら、こんな味だという感じなんだ」
どうにも上手く説明が出来ない、というかコレは本当に食材だったのだろうかと恭也は首を傾げる。ようやく、口の中からタイヤ味のものが消えた。口直しに、別の具材を口の中に放り込む。
また、タイヤ味だった。
「俺は、タイヤに呪われているのかもしれない……」
『人間って、追い詰められると面白いことを言い出すんですね』
げっそりしている恭也に、思わず雫は苦笑いした。
由利菜は、こっそりウィリディスの肩を叩く。彼女は、ウィリディスは世界的に有名な不味い菓子を持ち込んでいたことを知っていた。ちなみに、それらはタイヤのゴム味と称されている。
『な、何かユリナの眼がものすごく怖いんだけど……』
「今日、とあるお菓子を持ち込んでいましたよね。有名な――とても有名な菓子を」
由利菜の追及に、ウィリディスは口笛を吹いた。
『いや~、闇鍋って聞いたからつい悲劇の閉幕女王のライヴスが疼いちゃって……味だけで選んだわけじゃないよ? 北欧じゃ普通に食されるお菓子だし、リコリスは人体にいい栄養も満点なんだから』
だが、精神には悪いだろう。
三回目のタイヤ味を引き当てた恭也の表情は、まるで死刑囚のようであった。
「小鳥さん……!! 思いつきで闇鍋なんてやるものではありません!! そもそもこうなった原因は、小鳥さんが上手くチョコを作れなかったことですよね!? 私が小鳥さんが美味しいチョコを作れるように特訓して差し上げます!!」
いきなり話しかけられた小鳥は、驚いていた。
ちなみに彼女が食べているのは、マグロの目玉である。
「リディスも思いつきで、あんなお菓子なんて入れて!! 罰としてあなたも特訓です!!」
『ほわっ!? あたしまで巻き添え~~~っ!?』
特訓はいやぁと叫んでいると、いつのまにかチョコを溶かした土鍋は消えていた。
『肝心のチョコが少なくなってきたので、ちょっと継ぎ足してきましたよ』
そういって土鍋を抱えて現れたのは構築の魔女であった。今まで甘い香りしかしなかった土鍋からは、なにやらおかしな臭いがただよっている。
『具材ではなくチョコを闇使用にしてみるのも面白そうですので……』
落児は、そっと立ち上がろうとした。
別に逃げたかったわけではない。ちょっと手洗いに行って、そのまま引きこもっていたかっただけなのだ。だが、構築の魔女の魔女は彼を逃がさない。
『ちょっと、改良を加えただけですよ。入れたものもスープカレーチョコレート、ハバネロチョコレート、カカオ99%チョコレートぐらいですし』
ぐらい、ではない。
他の面子は、ごくりと唾を飲み込んだ。今まではゲテモノ食材にだけ気をつけていればよかった。だが、ついにはチョコまで闇を孕んでしまったようである。
落児はあきらめて、串を引いた。
かまぼこだった。
普段は余り意識しないが、かまぼこは魚のすり身から出来ている。チョコに入れるととても生臭かった。
「……ロロ」
『味の感想からだと想像しかできませんが……なるほど、私は引かないことを願っておきましょう』
いや、具材のこともあるが鍋のチョコも大変なことになっている。
『それにしても、結構持ち込んだと思ったのですが食材が足りなくなってきていますね』
構築の魔女は、困ったように呟いた。
だが、他の面々は大喜びであった。
食材がなくなってしまえば、この地獄は終わるのだから――
「あっ、ごめんね。あたしが、きっと食べ過ぎちゃったんだよね」
『でも、安心してくださいね』
麻陽と愛姫は笑顔で、次々と食材を取り出す。
その量は大量で、全員が唖然としていた。
「まだ、沢山あるんだよ。カステラとかバームクーヘンとか、焼き餅なんて珍しいかも」
次々と出てくる食材たち。
食材は普通なのだが、それを浸すべき鍋のほうがもう普通ではなくなってしまっている。おそらくは、どれをつけても地雷と化すであろう。
『美味しくいただけるものばかりですね』
構築の魔女の言葉は、具材だけ見れば正しい。
本当に具材だけを見れば、正しいのだが。
「シフォンもコンポートも多めに作って来たから、夜城さんも天音ちゃんも持って帰って食べてね。……大丈夫。俺、こういうの慣れてるから……」
どこかあきらめた顔で、透真は友人だけでも逃がそうとした。その顔には苦労人の気苦労が見え隠れして、誰も逃げることができなくなった。おそらく、ここで誰かが逃げても透真だけは最後まで付き合うだろう。ちなみに沙羅は『外れしかない闇鍋なんて、嫌だにゃー』と言って逃げようとしているが、透真を捕まえられていた。
彼らだけを被害者にしてはいけない。
全員の気持ちが一つになって――チョコフォンデュ二回戦が始まった。
今度は具材ではなくて、チョコが闇の百パーセントが地獄の戦いであった。
「あれ、私の予想って当たってない?」
天音の言葉を誰も聞いていなかった。
なぜならば、これから彼らはチョコの地獄へと足を突っ込むのだから。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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