本部
学生たちと、そうだチョコになろう
掲示板
-
【相談】豆まきしましょ!
最終発言2018/02/04 09:31:46 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2018/02/04 22:56:01
オープニング
●バレンタインはもうすぐそこ
紫峰翁大學公認ヒーロー組織、アシストシーン(A.S.)のリーダーである灰墨こころは大変困っていた。
事の始まりは去年、A.S.と非公認ヒーロー同好会C.E.R.合同で浜辺に戦闘訓練に行ったことから始まる。ちなみに、活動の一環の戦闘訓練であって、けっして海に遊びに行ったわけではない。
とにかく、その日、こころはC.E.R.のリーダー、アーサーと彼の英雄クレイと共についうっかりドロップゾーンへと落ちてしまった。そして、結構危険だった気がするなんやかんやがあって、駆け付けてくれたH.O.P.E.のエージェントたちに助けられ、最後は彼らと一緒に軽食を食べて和気藹々と解散した。
──帰ってから凄く怒られたけど! 特に全然関係ないクソ兄貴から嫌味嫌味嫌味のトリプルサンドだったけど! あの時飲んだボルシチとかと食べたウツボやおでんとか、色々美味しかったなあ……じゃなくて!
こころは大変困っていた。それは、あれ以降──。
「あ、こころ先輩!」
ニコニコ笑顔の後輩が近づいて来る。
「もうすぐバレンタインですね! 良かったら私とチョコを買いに行きませんか?」
「は? バレンタイン? その前に節分でしょ? 豆まきでしょ? 豆詰め込んだ銃器でデストロイじゃないの?」
不機嫌さを押し殺し(たつもりで)、こころは後輩に言った。
「バレンタインに縁遠いわたしより、他の友達を誘ったら」
すると、我慢できなくなったらしい彼女はついに破顔した。
「えー? だって、先輩、今年はアーサー先輩にチョコあげるんでしょー?」
「あげないって言ってるでしょーーーーがッ!?」
こころの剣幕に、ニヤニヤ笑いの後輩はそのまま廊下の向こうへ逃げて行った。
──……氏ねばいいのに。
もちろん、本当の死を願っているわけではない。これは最近、彼女が脳内でお気に入りにしている十年以上前にネットで特に流行ったスラングである。相手に対してではなく、現在の諸々の状況に対しての苦しい思いを簡潔に表現した言葉であり、実際に口に出すと社会的に自分が死ぬ諸刃の剣である。ちなみに、十年以上前のネットスラング、として紹介すると実際にメンタルが死にそうになる人もいるので取り扱い注意だ。
閑話休題。
バレンタインが近づくにつれてこういうからかいが特に増えてきた。
それに伴い、こころのストレスは許容範囲をはるかに越えてギシギシ言っている。
その上、なまじっかアーサーがイギリス人の金髪碧眼なもんだから、彼の(外見に)恋する乙女たちからネチネチチクチクと嫌味を言われている。
「灰墨」
「はッ!?」
身長百五十九センチがコンクリート製の柱をガンガンと叩いていると、頭上から今一番聞きたくない声が降って来た。
アーサーである。
「お前、そんなに背が高くないじゃん! イギリス人の平均くらいじゃん! バッカじゃないの!?」
「は!?」
顔を真っ赤に赤らめたこころは、アーサーの顎に不条理パンチをくらわせて廊下を走り去った。
「……なんだ、まだ治ってないのか」
赤くなった顎をさすりながら、アーサーは隣のクレイを見る。
クレイは頬を赤らめながら憮然としている。
「ああいうこころさんも可愛いが、釈然としない」
「釈然としないのは俺だ」
ドロップゾーンに一緒に落ちて以来、こころはアーサーを見ると反射的に赤面するようになってしまったのだ。ちなみに、双方、恋愛感情は特にない。
付け加えるのなら、件の事件でアーサーと共鳴して主人格を担い、こころをサポートし続けたクレイに対してこころは特に赤面することもなく通常営業だ。ちなみに、クレイはこころに想いを寄せているが過去現在ずっと『いい人』で『お友達』である。
●だから(?)、豆まきをしよう
「そんなこんなで、例によってエージェントの皆さんを巻き込んでゲームをしようと思いました。思いっきりぶん殴ればすっきりしてこの謎症状も静まると思うし」
びっくりするほど堂々とこころは言い放った。恥じらいは無い。
「今日はみんなで豆まきをしましょう──ただし、ペナルティつきです」
手にしたリモコンをピッと押すと、三体の鬼のお面を着けたロボットが出て来た。なんだかこう──カクカクしている。
そう……まるで二十五年前のゲームのポリゴン。
「カクカクくん、カクカクさん、カクカクお父さんです。ライヴスを通した攻撃のみ通るコーティングがしてあるので、一応今日一日くらいは共鳴しない限り壊れません。
そして、リンカーを呼んでおいてなんだと思われるでしょうが、共鳴禁止です。
壊さないでください、これは豆まきなので。とにかくひたすら日ごろの鬱憤を叫びながら豆をぶつけてください。あと──」
ささっとA.S.の白衣を着たリンカーたちがこころの隣に立つ。
「この鬼たちは反撃するので、ある程度ダメージを喰らったら負け判定でこれを装着してもらいます。3Dプリンタで作った皆さんのポリゴンテクスチャーです。これはチョコレートで出来ているので、相棒か仲間に全部食べてもらわないと外しちゃ駄目です」
そんなわけで豆まき開始です、とこころは言い、枡を掴んだ。
「鬼は―外、福は―うち……あとバレンタインなんぞ消し飛べーっ!」
ばちこーん!
豆が当たった瞬間、ロボットたちの目に光が灯ってゆっくりと起動した。
解説
●目的:鬼に豆をぶつける、チョコレートポリゴンになる、楽しむ
NPCと交流大歓迎ですが、あまりからかうとこころから豆をぶつけられるかもしれません
●場所:外は寒いので普通の体育館
●ルール
共鳴禁止で壊れないロボット相手にひたすら攻撃する
一時間程度で終了
●ペナルティ
敵からかする以上のダメージを受けた場合、
板チョコで作られたポリゴンのテクスチャーをA.S.の生徒たちによって瞬時に張りつけられるので甘んじてうけること
個人個人の姿にカスタマイズされた茶色のポリゴン姿になる
敏捷が大幅に下がる
誰かに食べて貰わないと脱出できない
チョコはパリッと薄く味は美味
●敵
最初期のポリゴンのようにカクカクした外見をしているロボット、動きはスムーズ
AGW製でライヴスを通した攻撃しか効かないようコーティングされている
共鳴していない能力者や英雄が壊すことは出来ない
むしろ、壊さない
・カクカクくん:学ラン番長姿の八極拳っぽい技を使う鬼
・カクカクさん:ジークンドーっぽい技を使う金髪ツインテールの白人女性型の鬼。ハートのミニスカートドレス型アーマー装着
・カクカクお父さん:お酒とおつまみを愛するおじいちゃん姿で蟷螂拳っぽい技を使う鬼
●メンバー
A.S.&C.E.R.のリンカー含めたメンバーと普通の学生がエージェント以外に(こころ、アーサー組含め)30名程度
●武器
豆用エアガン、金棒、野球バット、デッキブラシ、巨大ブロック(くっつく)、勇者の剣と盾っぽいもの、スライム(ねばつく玩具)、それから福豆と落花生と枡
●休憩所
珈琲、お茶、水、胃薬を飲むスペースがある
リプレイ
●節分vs.バレンタイン!
構築の魔女(aa0281hero001)は率直な感想を漏らした。
「……まだ、治ってなかったんですか」
「余計なこと言わないっ」
涙目で豆まき用エアガンを掴むこころ。
「やあ、いいね。新鮮な甘い青春の匂いだ」
木霊・C・リュカ(aa0068)はニコニコと微笑んだ。
「三十路には、縁遠い匂いかも、な」
ジト目でリュカを見上げるオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)。
「今年初タンレンですね! がんばりますよ!」
「共鳴できぬとなると、我輩が動くのも得策ではなかろうなぁ」
紫 征四郎(aa0076)が両手の拳をぐっと握れば、その横でユエリャン・李(aa0076hero002)は唇に指を当てて小さく唸る。
「チョコレートが食べ放題なんて……凄すぎだよ」
「また、伊邪那美のダイエットが始まるんだろうな……」
感極まって言葉を詰まらせる伊邪那美(aa0127hero001)の様子に御神 恭也(aa0127)は諦観の構え。
『ソーマ、ソーマ、学校だよ!!!』
「そうだな。はしゃぐのもいいが、まずは挨拶をするべきだろう」
『!(*'д'*)ハッ』
顔文字の書かれたプラカード状の看板をぶんぶん振り回す紙袋を被った少年、カルディア・W・トゥーナ(aa4241)に冷静に諭すソーマ・W・ギースベルト(aa4241hero001)。
『ご招待、ありがとうございます! とっても嬉しいです』
「あ、こちらこそありがとう! ゆっくりしていってね!!!」
節分鬼ロボットに追いかけられながらこころが答えた。返答を受けてソーマはカルディアの腕を引いて退避させる。カツンカツンと流れ豆が看板に当たって転がった。
『節分とバレンタインが一緒に来たみたいだね』
「良かったな」
鬼たちをいなしながら呆れるリーヴスラシル(aa0873hero001)と、戸惑う月鏡 由利菜(aa0873)。
「……これが模擬戦用の装備か。フロッティでは流石に装甲を貫通しかねんからな。しかし……其方のストレス発散の余興にわざわざ呼び出されたのか、私達は」
「ふ、普通にティーパーティーでいいと思うのですが……」
「いつもすみません、年中行事だと思ってご参加ください」
デッキブラシで床を掃くアーサーの顔は言葉とは裏腹に楽しそうだ。
「英雄枠で呼ばれたのは私だったが……このルールだったら、ゲーム好きなリディスの方が喜びそうだぞ」
カカカン! 学生たちから迷わず託された勇者の剣と盾っぽいものを持ったリーヴスラシルは、弾いた福豆を鬼に当てながらぼやく。
「まあ、呼ばれたからには楽しむとするか」
──室内の様子を見渡してからオリヴィエは再びリュカを見上げた。
「……甘いか?」
「さて、お兄さんは参観と」
●あくまで豆まき
「鬼は外、福は内……!」
「……あまり気を入れていないな、ユリナ」
「だって、私はあの鬼型ロボへ、特に恨みがあるわけではありませんし……。私の場合、日頃の恨みというより、許せないことを目の当たりにして瞬間的に激昂することの方が多いですから……」
いつもの姫騎士っぷりはどこへやら、枡を手にぱらぱらと豆を投げる由利菜。
「……だが、打撃や投擲の練習には丁度いい──オニは外ッ」
ヒュンッ!
「……ラシル、先生のお仕事で何か不満があったり、無理難題を申しつけられたことは……」
乗り気でなかったはずの英雄が的確に手早く効果的に鬼へ豆まき(?)する様を見て、由利菜の中に心配が芽生えた。
「……勿論、なくはないがな。かつての国で仕えていた騎士団では、より厳しい環境下であったことは想像に難くない」
「そう、ですか……」
点滴石を穿つ。
カクカクさんが遂に吹き飛ばされたのを見て、由利菜は気合いさえあれば豆すら武器になるのだと学んだ。
「ふむ、ちょっと楽しくなって来たであるぞ」
防壁を築くユエリャン。銃眼付きのそれは早くもブロック製とは思えない出来と規模になっていた。
「特攻あるのみです!」
勇者の盾とエアガンを両手に勇ましく走り回る征四郎。小柄な体格を生かして足長のカクカクさんの足下を潜り抜け、縦横無尽に体育館を走り回る。
それに呼応するように防壁の裏から黙々とヘッドショットを狙うオリヴィエ。
ふたりはユエリャンの防壁を起点に敵を撃って撃ってうちまくる。
「オリヴィエ、オニ同士の連携を防ぐのです!」
「わかった」
子供たちからの攻撃に対抗すべくカクカクお父さんは飲酒モーションを取った。
「アガガガ!」
その瞬間、殺気を滾らせたオリヴィエのエアガンが鬼の頭部を連打する。流石、熟練のジャックポット、酒瓶を割り、全弾激しく頭部に命中した。(注:これは豆まきです)
「さすがです!」
目を輝かせる征四郎へオリヴィエはグッと頷いて見せた。……飲酒するロボットの姿に、相棒と嵩む酒代が脳内にフラッシュバックしたことは伏せておく。
ベコン!
よろめく鬼の脳天にトドメとばかりに金棒の一撃が沈んだ。
『なに、これ(「・ω・)「』
目を明滅させるロボットを、手持ちの看板で指すカルディア。
「……なんだろうな」
ソーマも従来の習慣とだいぶ違うこのゲームに詳しいわけではない。詳しいわけではないが。
「趣旨は基本、豆まきだぞ」
周囲の仲間たちは(形だけでも)福豆なり落花生なりを鬼にぶつけていた。
目を輝かせる(顔文字)カルディアはエアガンに福豆を詰めた。
『(「・ω・)「 よし、勝てる気がする』
「……そうか」
『たまには乗ってくれてのいいんだよ?』
しかし、やられっぱなしの鬼ではない。グワッと起き上がるとカルディアへ猿猴歩で距離を詰める。
「おい……待て!」
カルディアが迷わず背後に逃げ込んで来た為に身動きが取れなくなったソーマ。そこへ鬼からの連続チョップが入る。
「ソーマさん、アウト―!」
デ、デーン! と音が鳴り、目出し帽を被った学生たちがテキパキとソーマにテクスチャーチョコを貼る。
「だ、だいじょうぶですか!? お手伝いします! ──ユエも!」
「本当になるんだ……」
征四郎や伊邪那美たちが体育館のあちこちからソーマに駆け寄る。仲間の窮地を助けるために……。
「はっ、おいしいチョコ……!」
『美味しい!』
「ボクはチョコを食べられて、みんなは身軽になる! 正に両者両得だね」
仲間を助けるために……遠慮なくポリゴンを引っぺがして食べ始めるカルディアとふたりの少女。
「うむ、どことなく似て上手くできているな」
「まあ、確かに美味いな」
ユエリャンと恭也も付き合いで装甲を剥いで口にしたが、甘いものの苦手なユエリャンは途端に顔を顰めた。
「ええい、ビターのチョコなら相手してやる」
「……」
身動きできない自分を囲んで自分を模ったチョコによるおやつタイムが始まるという非常にフクザツな状況に無言にならざるを得ないソーマ。
『次はこれ投げよう!』
ソーマが黙った隙にカルディアが豆ではない何かを取り出した。
それを見た伊邪那美の目が光ったことには誰も気づかなかった。
「妨害もあり、相手が壊れる事が無いとは良い修練になるな」
エアガンと徒手空拳を使い分け、完全に鍛錬として鬼との戦闘に取り組む恭也。そんな彼が目をとめたのは番長姿のカクカクくん相手に両手にエアガンを抱え対峙する構築の魔女だ。
「さて、一時間の耐久戦……ですね」
機動力を生かし緩急をつけた激しく途切れない攻撃は相手との間合いを常に意識。その上で関節等を狙って敵の体勢を崩そうとする熟練のジャックポットの戦い方だ。
「俺も本気を出すか」
共鳴していないとはいえ、歴戦のエージェントの言葉に裏方の学生たちに緊張が走る。
「八極拳は間合いの差で対応しましょう……足止めが難しそうですが」
ガチの模擬戦勢である構築の魔女が戦況を見る。
──体育館隅に追い詰められることだけは防がないといけませんね。あとは、相手がゲームを元にしたような動きをする可能性も考えなければ。
彼女の懸念通り、鬼たちは格闘ゲームを元にした戦い方をプログラムされていた。
「こちらから打撃戦をしない分、少しは相手の戦略も狭まればいいのですけど……特に蟷螂拳は相性が悪い気がしますし、気を抜かないように──えっ!?」
突然、ぬめりとした何かに足を取られ構築の魔女は転倒した。
バランスを崩し射撃を止めた彼女へカクカクくんの震脚からの貼山靠が決まる。
「今のは一体──いえ、それより、どうやってこんな型を取ったのかは気になりますけど。
……まぁ、食べてもらうような相手もいませんし……このまま頑張りましょう」
手際よくテクスチャーチョコを貼りつけられた彼女は再び銃を……。
なんということだろう、ポリゴン化された四角い指ではエアガンの引き金を引けない!
「……ええと」
「救助する」
そんな構築の魔女の腕を掴んだのはオリヴィエだ。
彼は返事を待たずにポリゴン構築の魔女をずるずると要塞である防壁へ引っ張っていく。
「ありがとうございます……ところで、どこへ?」
「俺は甘いものが得意じゃないから──得意な奴の所へ、連れて行く」
そう言った少年は次の瞬間弾き飛ばされた。
「オリヴィエ、気を付けるのだ!」
飛び出したのは防壁づくりに専念していたはずのユエリャンだ。いや、作っているうちに楽しくなってオーバーオールの配管工兄弟でも来るのかという罠満載のアトラクションの着工が始まっていたのだが。
閑話休題。
オリヴィエを庇ったユエリャンはカクカクお父さんの発勁によって宙を舞う。
「ユエ──征四郎を呼んでくる」
かの英雄の美意識では、三角の板チョコの集合体で作られるポリゴンはある意味実用的であると認めつつも、無論、認められない部分も大いにあったようで早急に対処が必要だった。
続々と、しかも急速にチョコポリゴンの被害者が増えていた。
由利菜も急に悲鳴を上げて立ち止まる。ワンフレームの隙を見逃さないカクカクさんからのサマーソルトキックにより由利菜さんアウト判定。
「……い、板チョコの張り付け……? それはセクハラではないのですか?」
「ルールはルールだ、ユリナ」
他のケースより明らかに数の多いチョコ装着係の学生に怯える由利菜、リーヴスラシルの眉尻と剣先が微妙に跳ねあがる。
「……だが、生徒達、どさくさに紛れてユリナの身体を触るのは許さんぞ」
「えーあ、いや、勿論ですとも!」
不純な学生たちが回収され、残った女子がメイドよろしく恭しい手際で由利菜にチョコは装着された。
困ったように両頬に手を当てるポリゴン。
「お手伝いするよ?」
振り返ると、銀髪の少女がにっこりと微笑んでいた。
巻き込まれる形で参加した辺是 落児(aa0281)はエアガンを持ちながらもできるだけ戦闘は避けて静観していた。
しかし、鬼たちは見逃さない。
というか、予想外のスライムを踏みつけてしまった落児からすっぽ抜けた銃身が鬼をぶったたいてしまった。
「ロロー…
さっさと諦めモードに入った落児は、諦めて……あろうことかそのまま歩き出した。
本来なら無理であるが、そのとき、ふしぎな事が起こった。
脚部のチョコが欠け落ちて歩行が可能になったのである。
──ぶっちゃけ、連続のチョコポリゴン化への対応が間に合わなくなった学生たちの不手際(てぬき)の結果であった。
無論、接着が甘かったのは、足元だけではなかった。
歩くたびに欠けるテクスチャ。
顔面からポリゴン欠けするチョコ。
「ローロ……」
それは、ちょっとしたホラーであった。
「十年位早い!」
ドカーン!
感情が無いはずのカクカクくんの反射的な靠撃によってチョコ落児は敢え無く吹っ飛ばされた。
飛び散るチョコ片。
モロに食らってしまいチョコまみれになったカクカクさんをデッキブラシでごしごしと掃除する由利菜。
「ベルカナでもお掃除は良くやりますので……きゃっ」
しかし、感謝感激のあまり激しくハグしようとしたカクカクさん。それを盾でどつくとリーヴスラシルは由利菜の手を引いてため息をついた。
「油断し過ぎだ」
背の高いソーマの陰から鬼に向かってスライムを投擲していたカルディアだったが違和感に気付く。
『スライム多い?』
体育館の床のあちこちにはもうスライム溜まりと呼べる危険地帯がいくつも出来ている。
「他の仲間も使っているからだろう」
『うーん?』
『あっ! あっちもこっちもポリゴン発見! 助けに行こう!』
ため息をついたソーマ。走り出したカルディアははっとして踵を返すと彼の前で両手を広げる。
『ソーマはあんまり食べたらダメだよ(乂`ェ´*)』
「なんでだ?」
『それは内緒だけど、ダメなものはダメー(乂`ェ´*) 代わりに僕が頑張るよ( *゚ェ゚)9゙』
「そうか」
──甘いもの大好きだし、僕が積極的に食べるよ。ソーマは腹八分かな。だって、家に帰ってもチョコ待ってるし。
紙袋の下でカルディアはチョコレートを用意して待っているであろう彼女を思って優しく微笑んだ。
「これこそ感謝と美味しいの摂理、すばらしいよ」
悪戯な笑みを浮かべて、どさくさに紛れてスライムを『味方に』投げていた伊邪那美はほくそ笑む。
その襟首が両眼を光らせた相棒によってむんずと掴み上げられるまであと数秒。
●お兄さんの部屋
青い顔をした恭也は休憩所へ転がり込んだ。
「……正直、此処から抜け出したい。匂いだけでやられそうだ」
いくら美味なチョコでも彼の胃は限界だった。ばりばりとチョコを食べている相棒の姿を見るだけでもう気持ち悪い。
だが、やらかした伊邪那美のフォローも兼ねて恭也は頑張った。とっても。
それでも、人間の胃には限界があった。
そこで、彼は苦渋の決断としてあの小悪魔を放流し、一旦休憩を取りにここへ退避したのだ。
「伊邪那美はなぜ平気なんだ」
苦悩しながら、胃の中身が逆流しないようにソファへ身を沈ませる恭也。
先客であった落児は恭也に気を遣って麦茶を二人分のカップへ注いだ。
「若いっていいね、楽しそうだ。落児さんは参加しなくていいの?」
ひょいと顔を出すリュカ。
その誘いに、ふる、と首を横に動かす落児。
「そっかあ。でも、居るだけでも楽しいしね」
「むしろ、俺は早く帰りたい……」
頭を抱える恭也の傍から、ふたりはそっと皿に乗った落児の顔型のチョコを端に寄せた。
そこへ疲れ果てた学生たちが水分を求めて大量になだれ込んで来た。
「やぁ、お兄さんの部屋にようこそ!」
豪華な花を挿した花瓶をバックに、ソファに座って学生たちを出迎えるリュカ。
そのシチュエーションに彼らの脳内で某テーマ曲が流れた。
「やべえ、ルールル♪ されるぞ」
「ふんふん、成程。つまり君は今年こそお母さん以外からのチョコも手に入れたいわけだね……」
楽しげな悲鳴をBGMに、剥ぎ取ったポリゴンをお茶うけに男子生徒たちのお悩み相談を受けるリュカは深く頷く。
「簡単さ、……アピール不足だよ。バレンタインまで『ギブミーチョコ』って書いた張り紙を身につけておけばいい」
彼らは電撃に撃たれたような顔をした。
「イケメンに言われると工学部男子っぽさしか感じない案なのにいける気がした!」
「うんうん、お兄さんは君たちの味方だよ」
スッキリした顔で休憩所を出る男子を見送るリュカ。
「……バレンタインの相談もいいのか」
「勿論、バレンタインのお悩みとかでも受け付けるよ! 面白いから!」
やや不穏な本音も聞こえたが、背に腹は代えられない。様子を伺っていたクレイがゲスト席に着いた。
「ふんふん、日本以外では男から女の子に贈るのが普通なんだしさ~。もし困惑されたらアーサー君に教わったって言えば! 解決! まずは意識して貰わないとねぇ」
相変わらずの押せ押せ作戦を勧めるリュカ。
そこへぴょこっと看板を抱えたカルディアが顔を出す。
『もっと聞かせて!』
──ソーマとあの子ってば、のんびりだからさ。僕が何とかしてあげなくちゃでしょ。勉強しなきゃ。
「カル」
『わーい、ありがとー』
ソーマが手渡すカップに喜んで口を付けたカルディアだったがすぐに紙袋がぐしゃっとなる。口の中が甘いせいか凄く苦く感じたのだ。
「すまん、それは俺のだ」
『もう、ソーマのバカo(*`ω´*)o』
「こっちだ」
再び差し出されたカップ。
カルディアが恐る恐る口を付けると、なんと上品な溶けたチョコレートの甘さが口の中に広がった。チョコレートソースの代わりに薄いチョコを溶かしたようだ。
キラキラした顔文字の看板を掲げ、同じテーブルの皆にも勧めるカルディア。
リュカも気に入ったようで、オリヴィエと共に追加の珈琲を取りにテーブルから離れた。
「……まあ、私はお二人の思うようにされれば良いと思いますよ?」
気を遣ってクレイへ語りかける由利菜、リーヴスラシルも隣で小さく頷く。
──もし、ココロ殿とアーサー殿が付き合うことがあれば……祝いに行くか。
もっとも、彼女はそのようなことを考えていたのだが。
二人は「クレイがアーサーの応援をして悩んでいる」と勘違いしていたのだが、幸い、それは本人には伝わっていなかった。
「えっと、あの、聞きたいことが、ひとつあるのですが!」
そんな中、思い切ったように征四郎がクレイに切り出した。以前より彼らの様子で事情を察していたこの少女は気になっていたことがあったのだ。
「クレイにとって、恋は、苦しくないですか? 想いを伝えようとは思わない、のですか?」
──これが本当に恋心なのか、伝えてしまえばどうなるのか、彼女にはまだわからない。そして、動くことによって今の関係が崩れるのも恐ろしかった。
征四郎は恋愛話が気になるお年頃でもあったが、そしてまた彼女自身も悩んでいることでもあった。。
クレイも少女に純粋な瞳で問われれば邪険にはできない。他の視線はもちろん気にはなったが口を開いた。
「わからない。嬉しいこともあるし苦しいこともある。俺にもよくわからない。これが、怖いという感情なんだろうか」
答えを聞いた征四郎は無意識に指先を固く握り合わせた。
「お代わり、ちょっと多めだよ♪」
珈琲の入ったポットを手にリュカとオリヴィエがテーブルに戻って来てその話は自然と終わりになった。
「そういえば、もうすぐバレンタインだけど由利菜ちゃんとラシルちゃんはチョコレート作るのかな」
リュカの問いに由利菜が指を折る。
「今年もベルカナでのバレンタイン限定メニュー作りがありますね。それに、涼風邸のメイド達へもチョコレートケーキを用意するつもりです」
「ユリナの作るチョコレートは絶品だ」
我がことのように語るリーヴスラシルだったが、リュカが話の矛先を向けると歯切れが悪くなった。
「私は、特別な状況でない限り菓子類は作らないな……」
彼女が作るのはどんな状況でお菓子なのだろう。話題は尽きない。
ゲームの終了を知らせる空砲が鳴った。
銃眼からこころと並んで射撃しながら武器話をしていたオリヴィエは立ち上がって驚く。
「こころ、縮んだか」
以前は身長差があった大学生のこころと、今のオリヴィエがほぼ変わらない。
「成長したのはオリヴィエくんだよ!」
実感のわかない顔のオリヴィエに笑い……そこへ、構築の魔女がやって来た。
「さて、お付き合いしたわけですし、効果も確認しないとですね?」
こころはそんなにこやかな彼女を不思議そうに見上げる。
「あぁ、せっかくですから自分のポリゴンチョコをもっていくとかもいいかもしれませんよ?」
ポン、と手を打つとこころは同じく体育館で豆まきを楽しんでいたアーサーの方を睨んだ。
「すごい、すっかり治ったわ! ありがとう!!」
意味なくアーサーへ落花生を投擲し、嬉しそうに構築の魔女の両手を固く握るこころ。
そんなこころへ、オリヴィエが尋ねる。
「好意に限らず……感謝とか、そういう気持ちを、バレンタインはチョコに乗っけて渡しやすい。海の時のお礼、しっかり、二人に渡す良い機会じゃないか?」
オリヴィエも、クレイのこころへの思いはリュカの部屋で散々聞いていた。
「うっ。そう言えばすっかり忘れてたわ……でも、それを言うなら、あなたたちにもよね?」
乱れた髪を軽く手ぐしで直すと、こころは改めた。
「その節はお世話になりました。いつも、遊んでくれてありがとう、ね!」
●終了
「ありがとうございました!」
男子学生から熱い信頼の眼差しを向けられるリュカ。
「お兄さんみたいなイケメンが俺たちの気持ちをわかってくれるなんて。学生時代には誰でもそういう時期はあるんですね! 希望が持てました」
しかし、感激する彼らにリュカはケロッと答えた。
「いや、俺は貰えなかったことはないよ? いやぁ、ほら。お兄さん見目が良いじゃない……?」
カッコイイポーズを取って見せる悪気無いイケメンに、男子たちの表情が消えた。
鬼たちが再び起動したことに気付いたリュカは咄嗟にオリヴィエの腕を掴んだ。
休憩所の隅の体重計から飛び退って伊邪那美が悲鳴を上げた。
「この体重計こわれてる!」
「うん? 俺も量ったが壊れていないと思うが」
「そんな事ない! でなければ、ボクの体重が(自主規制)キロも増える筈がないもん!」
「……あれだけチョコレートを食えば体重も増えるだろ。考えなしに見境なく食ってたんだ」
「……」
「はぁ……安心しろ今晩からお前の分だけはダイエット食の予定だ」
顔面蒼白の伊邪那美は恭也の言葉など聞こえないようにフラフラとその場に膝をついた。
「胸やけがする」
相互理解の果てに戻って来たお兄さんの横で胸元を押さえるオリヴィエ。急な運動は彼の胃の中のチョコを攻撃的にさせたらしかった。
「それはいかんな、何か胃を休めるようなものは」
思案するユエリャンへこころが元気よく提案した。
「部室おいでよ! 実験中のハーブティがあるわ」
部室と聞いてカルディアは顔を輝かせた。
「ん? 興味あるの?」
手渡された大学案内のパンフレットを所在無げにめくるソーマ。
「実験中とは」
微妙な表情を浮かべるリーヴスラシルと首を傾げる由利菜。
「そういえば残ったチョコを貰ったのです!」
「ボクも!」
「購買のチョコもあるよ!」
「……」
そうして、豆まき参加者たちはちょっと調子の悪くなった鬼ロボットを連れて部室へと歩き出した。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
---|