本部

恐るべきGの館

落花生

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
寸志
相談期間
5日
完成日
2018/02/06 23:01

掲示板

オープニング

●Gの屋敷
 静かな屋敷のなかをアルメイヤとエステルは歩いていた。
 仕事ではない。
 訓練だ。
 この屋敷に放たれた小さなロボットを全て破壊するのが今回の訓練目標であった。
『この屋敷は訓練用にH.O.P.Eが買い取ったものだったな』
 広い屋敷にはそれぞれの部屋に家具がきちんとそろえられていて、明日にも引っ越してこれそうな塩梅であった。だが、それは同時にロボットに隠れる隙間を与えており、探し出すのが厄介だ。
「アルメイヤ……見て」
 エステルは、屈んで何かを捕まえた。
「すごい。……はじめて、自分で捕まえられた。カブトムシの雌」
 エステルは、両手で自分の捕まえた虫を自慢げにアルメイヤに見せた。
 だが、アルメイヤは悲鳴を上げた。
 エステルが捕まえた――それはカブトムシの雌ではなくて、Gな虫のロボットだった。

●開発部のちょっと前の話し
 例のGな虫のロボットを開発した技術者は、ネタに困っていた。従魔との模擬戦闘に耐えられるロボットを作って欲しいと依頼されたが、どんな形のものにすればよいのか迷っていたのである。
 H.O.P.Eには小さなものを作って欲しいといわれた、だが小さくて恐ろしい敵とはなんだろうか。技術者は迷った。迷ったので、技術者は一般的に恐ろしいといわれるものを作り出した。
 それは、ゴキブリだった。
 こうして、H.O.P.Eの館にゴキブリ型のロボットが放たれることになったのである。

●Gの屋敷の外
 H.O.P.E職員は困っていた。
 訓練目的に屋敷を買い取り、壊れにくく改造したのはいいが――なかに放たれた擬似的な敵がゴキブリである。しかも、屋敷のなかからは聞いたことのないような悲鳴が飛び交っているという始末だ。
「これ、駆除の業者を後で呼んだほうが良くない?」
 職員の一人が、恐る恐る呟いた。
 たぶん、彼女は中に入りたくなかったのだろう。
「いや、もうすぐ新しい犠牲者じゃなくて挑戦者が屋敷に挑戦する予定だから・・・・・・彼らがダメだったら業者を呼ぼう」

解説

目標 Gな虫ロボットをすべて撃破(捕獲でも可)

屋敷(昼間)……斜陽な洋館。H.O.P.Eが買い取り、訓練用に改造している。中は広く、それぞれの部屋には一般的な家具も備え付けられている。しかし、あまり強力な武器や技は家具や家が壊れてしまうので控えてほしいと職員より説明あり。
玄関――広い玄関。すっきりしていて、一見何もいないように見えるが靴箱を開けるとGが大量に出てくる。
食堂―― 一番広い部屋であり、戦闘に適している。テーブルとイス程度の家具しかなくGが隠れるところが少ない。
ベットルーム――ベットや机、本棚がならんでいる。それぞれの家具の隙間にGが入り込んでいる。
シャワールーム――何もいないように見えるが、脱衣所の洗濯機の後ろにGがいる。
図書室――山のように本があるが、本棚も多いためにGが隠れる場所が多い。
キッチン――冷蔵庫と食器棚の隙間にGが潜伏している。

G(小)……正式名称:ゴキブリ型ロボット。多数出現し、屋敷のさまざまな隙間に忍び込む。攻撃力はなく、一発でも攻撃があたれば壊れてしまう。素早さは、本物のゴキブリ程度。発見されたり、攻撃されると逃げ回る習性がある。飛ぶことも可能だが、屋外へは出て行こうとしない。

G(大)……隠れることのない場所に多数のゴキブリが集まると合体する。正式名称:ゴキブリ型ロボット(大)人間と変わらない大きさの巨大ゴキブリとなり、相手の嫌悪感を誘う。攻撃手段はないが、この姿になると屋外に飛んで逃げようとする。防御力がとても高い。

アルメイヤ――Gが苦手で、玄関で叫んでいる。基本的に役に立たない。

エステル――Gをカブトムシの雌だと思って、素手で捕獲している。放っておくと、たくさんGを捕まえてしまう。

リプレイ

「ぎゃぁぁぁ!!」
 ごく普通の一軒屋からは、この世のものとは思えない悲鳴が響いていた。それを聞いていた職員は、なぜか両手を合わせている。
『……む、悲鳴?』
「なんだ、そんなに難しいのか?」
 ぴこぴこと耳を動かすユフォアリーヤ(aa0452hero001)の隣で、麻生 遊夜(aa0452)はうなっていた。
「索敵と的当ての良い訓練になると思ったが、気を抜かない方が良さそうだ」
 なんでも家の中には、技術者が熱心に作った敵ロボがいるらしい。遊夜は、一体どんなロボがいるのかと緊張感を高ぶらせる。
『……ん、んー? ……何か、違う気が……』
 もしもロボが手ごわいのならば、もう少し緊張感のある短い悲鳴が聞こえるような気がするのだが、この悲鳴は長い。随分と余裕があるので、ホラー映画を見ているような悲鳴だなとユフォアリーヤは感じ取っていた。
「訓練って聞いたけど、よっぽど過酷な訓練内容のようだね」
 アリス(aa1651)は悲鳴を聞きながら、顔をしかめていた。敵に見せかけた小型のロボットを全て破壊する、というのが訓練内容だ。それ以外の情報は秘匿されており、いつもの仕事に近い訓練でもあった。
『普通だったら、こんな悲鳴は上げないよね』
 Alice(aa1651hero001)も油断はできない、と頷く。
「ふうん。ロボットを捕まえる訓練の依頼ねぇ」
 それにしては人手が多いな、とクロエ・ミュライユ(aa5394)は呟いた。
『いっぱいいるから、人手が欲しいんだって。H.O.P.E.で募集してたの!!』
 エウカリス・ミュライユ(aa5394hero001)は元気いっぱいに答えた。訓練ならば危険もないし、と思って募集要項をろくに見なかったことは黙っていたが。
「早い話がロボットをなんとかすれば良いんでしょ? 簡単じゃん。基本方針としては全員複数のエリアに分かれてロボ退治。一匹だって、逃がさないんだから」
 雪室 チルル(aa5177)は両手に拳を握って「がんばるぞー」と決意を新たにしていた。
『そうだね。ロボ程度なら、この人数で楽勝だね。』
「あたいにかかれば、どんな虫でもラクショーよ!」
『それは良いけど、家具とかを壊さないようにね』
 スネグラチカ(aa5177hero001)は面子を見ながら、呟く。このメンバーであったのならば、ロボの取逃がしよりも家具破壊のほうが確立が高いような気がしたのだ。
「そこらへんは、皆も力加減してくれるって。なんたって、訓練だし」
 それに本物の愚神になれていたらロボなんて怖くない、とチルルは言い切った。
「わたしたち……が先に行こう」
 染井 桜花(aa0386)は、ドアノブに手をかける。
『みんなは……私たちの後ろに。何かあったら……サポートを』
 ファルファース(aa0386hero001)は後ろにいる仲間と頷きあい、恐怖の館のドアは開かれた。

●Gの恐怖の始まり
「ぎゃあぁぁぁぁ!!」
 叫んでいるのは、アルメイヤだった。
「でも、何もいないね」
『幻術系のワザにでもかかっているのかな?』
 アリスとAliceは、そろって首を傾げる。
「皆さん……あの、こんにちは」
 奥のほうからエステルがやってくる。ロボの脅威など感じていないかのように、その足取りは普通そのものだった。
『まさか、彼女が敵のロボってことは……さすがにないわよね』
 考えすぎか、とシェオルドレッド(aa5194hero001)は苦笑いする。
「ここ……すごいんです。図鑑でしか見たことないような、カブトムシの雌がいっぱいいて……今、雄を探しているんですけど……見つからなくて」
 エステルは、言いながらもきょろきょろとあたりを見渡している。どうやら、彼女はカブトムシの雄を捕まえたくてしょうがないらしい。だが、その言葉に違和感を覚えるものがいた。
「カブトムシって……今は冬だろ? いるもんなのかな」
 真夏の虫のような気がするぞ、と鴉守 暁(aa0306)は首を傾げた。
『フユは、土のなかで卵デスネー』
 キャス・ライジングサン(aa0306hero001)も暁と同意見のようであった。
「でも……いるんです。ほら」
 エステルは、小さな手を開いた。
 その掌にいたのは――黒く輝く肉体を持ったGであった。そのGはブーンと飛び上がり、床に着地した。そして、見ているだけで寒気がするような走り方で隙間に向って猛スピードで走っていく。
「うわー。カブトムシの雌がいっぱい。かわいいですね」
 白金 茶々子(aa5194)はにこにこしながら呟くが、その言葉に大人たちは絶句した。
 
 あれはカブトムシではない。
 飲食店では名前を言うことすらNGのアイツでは――

 そうこうしているうちに、うっかり靴箱を開けてしまった者がいた。無造作に開けてしまった靴箱の奥には、がさごそとうごめく大量のGの姿があった。虫が苦手ではない人間ですら生理的な嫌悪を催すような光景に、靴箱を開けてしまったクロエとエウカリスは悲鳴を上げる。
「ロボットって……ロボットってこれかああああああっっっっ!!」
 よく見ても、よく見なくても、本物と違いが分からないデザインと機動性。「なんでソコにこだわったんだよ」としか思えないほどに、走り方すら本物のGそっくり。クロエは現代の技術力を恨んだ。
『ひにゃあああああああっ!! いやっ、いやあああああっっ!!』
 頭では、ロボだと分かっているのに、口はわけのわからない悲鳴しか発しない。エウカリスは、完全にパニックになっていた。そんなエウカリスをクロエは叱りつける。
「アンタ、またろくに内容見ずに依頼受けてきたでしょおおおっっ!!!!」
 なんでGなのー!! とクロエは涙目であった。
『ごめんなさいいいいぃぃぃぃ!!!!』
 二人が悲鳴の不協和音を奏でながら逃げていくなかで、茶々子は目を輝かせながらGを掌に乗せる。
『それが……なんなのかを分かっているの?』
 シェオルドレッドは茶々子から距離をとり、壁に引っ付いていた。普段なら絶対に取らない行動だが、今は茶々子の無垢さが恐ろしい。茶々子は、笑顔で虫を拾い集めていた。
「カブトムシの雌ですよね? ほら、もうこんなに捕まえました!」
 褒めて、とばかりに茶々子は両手いっぱいのGをシェオルドレッドに差し出した。手にしているものがGでなかったら、微笑ましい光景である。
「無理なの!! ――本当にごめんなさい、無理なの!!」
 シェオルドレッドは悲鳴を上げながら、走り出す。おいていかれた茶々子は、首を傾げるばかりである。
「ぎゃ――! カブトムシじゃなくてGとか聞いてない!」
 シェオルドレッドとほぼ同時に、雨宮 葵(aa4783)の叫び声が響いた。
 涙を流しながら、我武者羅に彼女も走っていく。事前に家の間取りは頭にいれていたはずだが、あの様子ではすっかり抜け落ちていることだろう。
『……ん。まず、落ち着こう』
 声色こそ落ち着いているが、燐(aa4783hero001)も顔面蒼白であった。苦手なものをいきなり見せられたのだから、仕方あるまい。
「この状況で落ち着いていられる!?」
 絶対に無理、もう家に帰る!! と葵は大混乱を起こしながらも息を切らさずに走っていた。
『あれはロボット。あくまでもロボット。汚くないし恐ろしいところなんてない』
 まるで催眠術でもかけるように、燐は淡々と話しかけた。
『ロボットは、怖くない。ロボットは、怖くない。だから、Gも怖くない』
「そうだ、あれはロボット!」
 葵の目に、輝きが戻った。
 自分は何を恐れていたのだろうか。あれは自然に発生したGではなく、人の手によって生み出されたロボット。自然の英知には敵わない、所詮は人工物。そして、なにより本物のGではない。葵は、足を止める。
「まったく、私は何を恐れていたのかな。こんなの今までの敵と比べたら、なんでもないよね」
『……そうね』
 だが、二人とも振り返ることはできない。
 互いに、お先にどうぞと譲り合いながら思う。
 ――今この時、リンカーと英雄の心は真に一つになった。
「無理、逃げよう」
 葵たちは、逃走した。
「『無理」』
 それが、彼女達が出した決断だった。

●Gの説得
「……確かに下手な怪物よりも恐怖感を与える姿だが、止める者はいなかったのか? それにしても、短時間でこうも仲間がバラバラになるとはな」
 御神 恭也(aa0127)はため息をついた。人並みにゴキブリが苦手な恭也は、走って逃げていった仲間達の気持ちも分からなくもない。だが、序盤でここまでバラバラになってしまうのは不安でもあった。
『流石に私もゴキブリは少し苦手ですね』
 不破 雫(aa0127hero002)は、比較的落ち着いていた。悲鳴をあげて逃げ回らないし、Gを集めてもいない。集め出したら、恭也は無言で逃げるだろう。そんなことを考えていたせいなのか、Gは恭也に向って飛んでくる。「うおっ!」と声を上げ、恭也は思わず後方に飛びのいた。
『意外ですね。キョウが声を上げて大きく避けるなんて』
 珍しいものを見た、とばかりに雫は目を丸くして驚いていた。
「いや、流石に顔に向かって飛んで来られたら焦ると思うんだが……それよりも、雫はゴキブリが苦手だと言っていなかったか?」
『ええ、あの姿に愛らしさではなく嫌悪感を感じて苦手ですよ。だから、捕獲せずに叩き潰しているんじゃないですか』
 バキ、と雫の足元ではロボが壊れる音がしていた。
「ゴ、ゴキブリ駆除ですか……!? わ、私は訓練としか聞いていないのですが……」
 月鏡 由利菜(aa0873)は、珍しくおろおろしていた。Gは苦手だが、まじめに訓練はしなければならないという葛藤に苦しんでいるらしい。
『メカとは言え……ユリナにブラッタの駆除は荷が重そうだなぁ。女の子らしい反応ではあるけど』
 ウィリディス(aa0873hero002)は、しょうがないと腹をくくる。
『ユリナ、今回はあたしに共鳴の主導権を握らせて! あたしは虫の駆除は問題ないから』
 このまま放っておいたら、きっと由利菜も悲鳴を上げて逃げ回る羽目になるだろう。ウィリディスは、それが心配だった。
「だ、大丈夫よ……リディス。今更依頼を断るわけにも行かないし、私はプロのエージェントとして…」
『ダメダメ! こんなんで、またユリナにPTSDの発作を再発されたらみんな困るし! つべこべ言わず任せて!』
 どんとこいよ、とウィリディスは自分の胸を叩く。
 これで――残る問題は悲鳴を上げ続けるアルメイヤだけだった。
「見慣れない、知らない人にとっては、ただの虫だが不快害虫……生理的に嫌う人が多いのは事実だからなぁ。このままにして置いたらアルメイヤさんが発狂してしまう」
 どうしたものか、と遊夜は腕を組む。
 アルメイヤはエステルの側を根性で離れないようにしているが、Gが怖くて悲鳴を上げ続けている。そこまで怖いなら、いっそ逃げてくれと思わなくもない光景だった。
『殺虫剤は効きませんしね』
「ロボだからな」
 雫は、残念という顔をする。
『ソウイエバ、G見るの久しぶりデスネー』
「ちゃんと掃除してれば出てこないしなー」
『ネー』
 暁とキャスの会話に、由利菜はバイト先でのことを思い出した。
「ベルカナでも、ゴキブリを店内に入れないため衛生管理は徹底していますね……」
 暁とキャスの本番は、ここからである。無垢なお子様達にGとは何であるかを説き伏せなければならなかったからだ。エステルと茶々子は、とても楽しそうに両手いっぱいにGを捕まえていた。
「Gをエステルは見たことないんだろうなー。暑いところや寒いところには寄り付かないから」
 同じ理由で、チルルもゴキブリの実物を見たことはない。ただ知識として「ゴキブリは嫌な虫」と知っているだけである。ちなみに、チルルはスネグラチカと共に対ゴキブリ用の罠を製作中である。
「トリモチのくっついたシートよ。これで各エリアの通路にセットすることで、万が一虫が他のエリアに逃げていったとしても、こいつでサクッと動きを止めることが出来るって寸法よ!」
 きっとネズミも取れるわ、とチルルは大意張りである。
『おお、チルルらしからぬアイデア。今日は雨かな?』
「今日のあたいは頭脳派なのよ。これで特許だってとっちゃうわ」
 えっへんとチルルは胸を張るが、それはだいぶ昔に商品化されている。
「エステル、茶々子。残念ながら、それはカブトムシじゃないんだなー」
 暁は子供達を呼び集めて、Gについての説明をする。
「暗くて汚くてほどよい温度で狭い場所を住処として、新鮮な野菜から埃まで何でも食べる食いしん坊で、逃げ足が速い。たまに飛ぶ。身体が脂ぎってる。攻撃能力はないねー」
 こんなもんかなー、と暁は思い悩む。
「見るだけで人間を不快にさせる虫、というのが世間の評価だわ」
『定期的に掃除するダケデ出てこなくなるネー』
「まあ人間の生活圏を好む種がいるってだけだけどね。本来は森に棲んで死体とかを食べてくれる掃除屋だし」
 暁とキャスの説明に、エステルと茶々子は震えていた。
「森の掃除屋さんなのに、嫌われ者なんて可愛そうです……カブトムシ」
 茶々子は、どうやらGのほうに同情してしまったらしい。というか、カブトムシの誤解が解けていない。
 子供の感性は、自由だ。
 故に、時より明後日の方向に向くことがある。今が、そのときであった。
「エステルさん、仲間をいっぱいつかまえてあげましょう」
「……うん」
 茶々子とエステルは、手と手を取り合って部屋の奥へと進んでしまった。Gが結んだ友情である。美しい――のかもしれない。手にしているものが、Gではなければ。
「……今度…・・・実家の山に招待する。……本物のカブトムシとか……取れる」
 桜花は、子供達の背中を見守りながら思わずポツリと呟いてしまった。本当ならば、今すぐにでも彼女達を山に招待してやりたいが、時間がないし地理的にも難しい。
『……どうやら、彼女たちをあきらめさせるより……普通にロボを退治したほうがいいようですね』
 ファルファースの言葉に、全員が頷いた。逃げていった仲間は――まぁ、ロボに攻撃力がないから大丈夫だろうと思うことにした。
『…そういえば……それ……大丈夫なんですか?』
 桜花は、さっきからGに対して悲鳴一つあげていない。殆どの妙齢の女性たちが阿鼻叫喚の地獄絵図のような光景になっているのに意外である、とファルファースは思った。
「……? ……別に平気だが……ファルは?」
『……私も平気です……ですが姫様……良く触れますね』
 ファルファースの言葉に、暁は苦笑いした。
 さすがに触ろうと思えないらしい。
「……ロボだから……それに……私の祖母……素手で『本物を』始末してる……こんな感じに」
 ぷち、と桜花はロボを潰した。
 虫特有の体液はなく、精密な機械がバラバラになっただけであった。無駄に手の込んだ作りのロボットのようで「だからなんで、この技術でGを作る」と数名の者が天を仰いだ。
「取りあえず玄関付近を一掃しておこう、流石に不憫だ」
 悲鳴を上げ続けるアルメイヤに同情した遊夜の一言で、まずは玄関のゴキブリ退治が開始された。

●G退治
『この仕事が終わったら、本部にライヴスバットの交換を申請しましょう。あと、ゴキブリを踏んだ靴は棄てるんで、その代金も申請しないといけませんね』
 ベットルームで家具を持ち上げる恭也の手元を見て、雫は嫌悪感を露にしていた。狭い隙間がなくなって逃げてくるGを見続けるのは、結構な苦痛である。
「此奴は本物じゃなくロボットだぞ? 潰した所で変な体液は出なかったが」
『気分の問題です』
 感情を殺して、バットや足でGを踏み潰す。
 響くのは金属が壊れる音だが、視界に入ってくるのはGだ。しかも、素早いからちゃんと見ないと攻撃は当たらない。
『これは、もう射撃の訓練ではなくて精神の修業ですよね』
 自分の嫌悪感に蓋をして戦う、そうでもしないとおかしくなりそうだと雫は言った。
「剣でサクッとやっていく感じだと思ったけど、むしろ盾による殴打で直接引っ叩いた方が早いね」
 チルルも盾でもって、率先してG潰しを行なっていた。
『狭いところについては、剣で追い込んでいく形になるかな。さすがにロケットランチャーとかを使うわけにも行かないだろうし』
 地味な作業ね、とスネグラチカは若干つまらなそうだ。
『……む、台所の敵…・・・おかーさんは、逃さない!』
 雫のバットから逃れたGに向って、ユフォアリーヤは必殺の武器を振り上げる。その名は、丸めたチラシ。キラーンと目を光らせて、ユフォアリーヤはGを叩き潰す。その手腕は初心者ではなかった。明らかに玄人であり、業の者の腕前である。
 ユフォアリーヤは小さく『……すべてのおかーさんの敵……ここで叩き潰す』と呟いていた。そして、彼女は雫にティッシュを渡す。
『……ん、汚い所から出てきて……残飯漁ったり、食べ物齧る……病原体の塊、触っちゃダメ。踏み潰しても、靴の裏が汚れる』
 その光景を見ていた遊夜は苦笑した。
「まぁ今回のこれはロボットだから大丈夫だが衛生害虫だ。普段見かけた場合は、足でも触れない方が良いぞ。その靴で歩いたら、周りが汚れてしまうからな」
 ぞくり、と遊夜と恭也は背後に寒気を感じる。
「ソコだ!!」
 遊夜は振り向きざまに、背後にうごめくGを狙撃する。
「隠れる場所が多すぎる、ちょっとした物陰にどれだけいるかわからん。見慣れていても急に出て来られると驚くんだよな」
「ああ、思ったより重労働だな」
 遊夜の言葉に、恭也はため息をついた。家具を持ち上げすぎて、若干疲れたのかもしれない。
「だが、適度な緊張感、程良い訓練になるのが皮肉と言うかなんというか……」
『……ん、スリルはある』
 ユフォアリーヤはくすくすと笑っていたが、遊夜はがっくりと肩を落とす。G退治で磨いた銃の腕前なんて、嬉しくはない。
『そういえば今回の虫ってGって言うみたいだね。あたしは見たことないけど、チルルはどう?』
 テラテラと脂ぎっている羽根がふしぎー、とスネグラチカはつぶっやく。
「あたいも見たことないわね。だってあたいの住んでる所は雪国だから、そもそも寒い所だと虫なんて殆どいないし」
 漫画とかアニメでは見るけどそれぐらいかな、とチルルは答えた。
『でも、何か気持ち悪いらしいよ? 見たことないけど』
「ふーん。まあ叩き潰しちゃえば一緒じゃない?」
 雪国コンビは笑いあいながらG撲滅に勤しんでいた。知らないって幸せだ、とアリスは二人を見て思った。可愛らしい外見のアリスとAliceだが、Gに対して悲鳴を上げるほどの恐怖心は持たない。
 ただ思うのは――
『触りたいとは思わないな』
 Aliceの言葉に、まったくだとアリスは頷く。テラテラしている体の油分が手につくと考えただけで、身震いがする。
「H.O.P.E.の開発部は『小さくて恐ろしい敵』で、何故これに行きついてしまったんだろうか……」
 アリスは、一瞬だけ遠い目をした。
 それとも上層部の注文が適当すぎたのがいけないんだろうか。
 答えは、誰にも分からない。
「それにしても隙間に入り込んだり、素早く走ったり、無駄に高性能だよね」
『……ねぇ、アリス。これって、クリスマスに子供用の玩具として売り出されたりはしないよね』
「――やめて」
 Aliceの言葉に、アリスは首を振る。もしも、子供達が茶々子たちのように嬉々としてGロボットを買い求めたりしたりしたら、その年のクリスマスは恐怖の聖夜として語り継がれるだろう。
「たしかに、サイズとか性能とかは流行の玩具っぽいけれど。そんなもの売らないで欲しいよ」
 それして、売れないで欲しい。
 アリスたちが順調にGを退治しているなかで、思わぬ弊害にウィリディスは苦しんでいた。
『くっ、ユリナの破壊の力って凄まじくて制御が大変だよ……! でもお屋敷での物品損壊はNGって言われてるし……』
「ご、ごめんね……私、ゴキブリを見て普段より精神的な危機を感じて攻撃的になっているかも知れないわ……」
 Gが怖くて損壊しましたなんて始末書はかっこ悪いよ、とウィリディスは悲鳴を上げた。
「ほらっ、こっち来るのっ!! ていうか、アンタがH.O.P.E.で取ってきた依頼でしょ!!」
 クロエは、自分の英雄の頭をがっちり掴んでいた。
 逃走した二人であったが、無事にというか運よくベットルームで他の面々と合流できたのであった。クロエもだいぶ落ち着き、持ち前の「お姉さん」らしさを取り戻しつつある。
『いやっ、やだぁ!! 帰るぅ!! お姉ちゃん離してぇ!!』
 そして、エウカリスもいつもどおりだった。
 いつもどおりの駄々っ子だった。その姿に、クロエは切れた。いや、切れたのではない。最初から、切れていたのである。具体的にいうのならば、最初にGを見た瞬間から。
『ひっ!?』
「逃げられないように共鳴したるわ」
 乱暴に共鳴したエウカリスは、半泣きになりながらも弓を構える。
 『やだっ、こないで、来ないでっ!!』
 うわーん、と泣きながらエウカリスは攻撃を開始する。
 
 彼らは気がつき始めていた。
 取り逃したわずかなGがどこかへ向かっているのを。

●Gの悲劇
「虫は得意じゃないけどカブトムシならいけるよねー……って思ってたんだよ」
 可愛い女の子の頼みは断れないし、葵は食堂で膝を抱えていた。逃げ回りながら偶然たどり着いてしまった場所だが、ここならば見晴らしが良くてGが隠れるような隙間もない。
『ごめんなさい。まさか、私も集め出すとは思わなくて……』
 茶々子から逃げてきたシェオルドレッドも葵たちと共に、膝を抱えていた。Gの魔力に当てられたせいか、その美貌にも若干の曇りがある。
「もうこの家ごと燃やすしかないと思わない!? いいよね? 多数決取ったらオッケーでるよね?」
 このままガソリンを買って来ようよ、と放火魔のようなことを葵は言い出した。その目は本気である。止めなければ、きっと近くのガソリンスタンドまで走るであろう。
『……家を壊すのは、やめてって注意……あったよね』
 燐の言葉に、葵の目は死んだ。
 燐も、葵の気持ちが分からないわけではない。敵は駆除しなければならない、と思う。そのためには自ら戦ってきたが、Gはダメだ。あれはもう敵とかそういうレベルじゃなくて、幽霊とか災害とかそういうものだ。腕力では、どうにもならない部類の敵だ。
「ん……なんか不穏な空気を感じる」
 葵は、震えた。
 Gの気配を感じ取ったのである。
『まさか……あの子たちなの?』
 シェオルドレッドが、恐怖に震えた。Gを恐れずに、拾い集める少女達。その恐怖の存在が、ゆっくりと食堂のドアを開ける。
「雨宮おねえちゃん!」
 ドアを開けた茶々子は、ぱっと顔を明るくした。
「エステルさんと一緒に、いっぱいカブトムシを捕まえたんです。ほら」
 ――がさがさ、ごそごそ。
 大量のGたちが、茶々子とエステルたちが開けたドアから入り込む。
 次の瞬間に響いたのは、悲鳴であった。

●巨大Gと少女
「なんて……気持ちが悪いんだろう」
 悲鳴がした方向に走ったアリスは、開口一番にそのような感想を漏らした。大量のGが寄り集まり、変形し、人と同じほどのサイズまでに成長している。
「燃やそう。あれは、絶対に逃がしやいけない類の怪物だよ」
『OK、アリス』
 Aliceも頷く。
「……ダメです」
 エステルと茶々子が、巨大なGの前に立った。
「このカブトムシの雌は、お友達なんです。私たちがいっぱい集めたら、こんなに大きくなったんです」
 茶々子の発言に、シェオルドレッドは頭を抱えた。保護者として何とかしなければと思うが、巨大なGは直視したくないらしい。
『エステルちゃん、茶々子ちゃん……それ、スカラバエウスじゃ……カブトムシじゃないから! ブラッタだから! ゴキブリが、人を欺く為に擬態しているだけだから!』
 ウィリディスの言葉に、ほぼ全員が首を傾げた。
 自分の言葉に気がついたウィリディスが「うっかりしてた」と恥じ入る。
『あたし、ラテン語やギリシャ語がたまに無意識に出ちゃうんだよねー』
 失敗失敗と笑い飛ばすが、状況は笑えない。
 合体したG――それを守る無垢な少女達。
 葵は、勇気を振り絞る。それは敵なのだ、と教えるために茶々子とGに近づく。だが、巨大なGを目の前にして、葵の顔面は蒼白であった。脳内では「コレを考えたヤツをコロス。コレを考えたヤツをコロス」と呪文を唱え続けている。
 そして、茶々この目の前に来たとき、心の限界は訪れた。葵は、ただ立っているだけ。恐怖心から、何も喋れなくなってしまったのだ。
 見かねた燐が、葵の後ろから助け舟を出す。けっして、前に出ようとしないのは葵を盾代わりにしているからではない。
『ん。茶々子ちゃん、エステルちゃん、捕まえたのは凄いけど……。それ、今回の討伐対象だから……駆除しないと、駄目なの……』
 茶々子とエステルは、拾い集めて大きくなったGへと驚愕の視線を送る。おかしいとは思っていたのだ。カブトムシの雌はたぶん、拾い集めても合体して大きくはならないだろう。彼らはGだった。故に合体し、巨大化したのだ。
「さよなら――……」
 茶々子は、集めたGたちに別れを告げる。
 なんだか、妙な雰囲気が流れた。
「……自分でも意外なんだが、あの大きさになったら単なる敵にしか見えなくなったな」
 気分を帰るためか、コホンと恭也は咳払いする。
『奇遇ですね。私もですよ 何となくですが、TVに出てくる怪人みたいな印象ですね』
「なるほど、だから嫌悪感が薄れたのか」
 言われてみると日曜の朝にやっているテレビ番組は、ちょうどこんな感じである。
「……ふむ……丁度いい」
 桜花は、巨大化したGに向って頷いた。
『……はい……大きくなった分……当てやすいですね』
 小さいときはやっかいでしたから、とファルファースは苦笑いした。
「まだ、こんな隠し玉があったか……」
『……追いつめられての、合体はフラグ……逃がさない、よ』
 遊夜とユフォアリーヤも攻撃を開始する。今日はGに振り回された一日だった。故に、今日一日の鬱憤をたたきつけるような攻撃が始まる。
『親友の心の安穏を乱す害虫は……死ねえぇぇぇぇぇっっ!! ルベル・クリス!!』
 ウィリディスの掛け声と業に、Gは退治されたのだった。

●Gは蘇らない
「……ひどい目に遭ったわ」
『うう……』
 げっそりとやつれたクロエの隣で、エウカリスはべそをかいていた。そんな英雄をクロエは叱りつける。
「なんであんなの作ったし。ていうか、森って虫だらけなのに、なんでアレなのよ、アンタは」
『ぐすっ……だってぇ……』
 怖いんだからしかたないよ、と子供のようなことをいってエウカリスは泣き出した。
 シェオルドレッドも今日だけでストレスでやせ細った気分になっていた。茶々子は未だにGとの別れを惜しんでいたが、保護者として今日の惨劇は申し訳なかったのだ。
 アルメイヤも抜けた魂がまだ戻ってきておらず、由利菜の介抱を受けている。
「アルメイヤさんの気持ちは分かりますよ……。私だって、リディスが表に出てくれなかったらどうなっていたか……」
 由利菜はそういって励ますが十中八九アルメイヤの耳には入っていないであろう。
 そんなGに疲れた人々のなかで、比較的元気な人間たちがいた。
「……悪くはないが……動きにバリエーション……あると良い」
『……後は体液とかもあると……もっと本物に近づきますね』
 桜花とファルファースはそんな話で盛り上がり、「じゃあ、嘆願書でも書こう」と暁とキャスが紙とペンを持ち出した。チルルがとスネグラチカが「できれば、雪国対応バージョンも」と謎の注文をつける。ほぼ全員が、目の色を変えて彼らを止めたのは言うまでもない。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 久遠ヶ原学園の英雄
    不破 雫aa0127hero002
    英雄|13才|女性|シャド
  • ようへいだもの
    鴉守 暁aa0306
    人間|14才|女性|命中
  • 無音の撹乱者
    キャス・ライジングサンaa0306hero001
    英雄|20才|女性|ジャ
  • ー桜乃戦姫ー
    染井 桜花aa0386
    人間|15才|女性|攻撃
  • エージェント
    ファルファースaa0386hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 花の守護者
    ウィリディスaa0873hero002
    英雄|18才|女性|バト
  • 紅の炎
    アリスaa1651
    人間|14才|女性|攻撃
  • 双極『黒紅』
    Aliceaa1651hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • 心に翼宿し
    雨宮 葵aa4783
    獣人|16才|女性|攻撃
  • 広い空へと羽ばたいて
    aa4783hero001
    英雄|16才|女性|ドレ
  • さいきょーガール
    雪室 チルルaa5177
    人間|12才|女性|攻撃
  • 冬になれ!
    スネグラチカaa5177hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 希望の守り人
    白金 茶々子aa5194
    人間|8才|女性|生命
  • エージェント
    シェオルドレッドaa5194hero001
    英雄|26才|女性|ソフィ
  • 世話焼きお姉ちゃん
    クロエ・ミュライユaa5394
    人間|18才|女性|命中
  • でっかい小さい子
    エウカリス・ミュライユaa5394hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
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