本部

その選択を信じるな

落花生

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/01/15 11:11

掲示板

オープニング

●人知れず戦う者
「また、先を越されたか……」
 従魔が出た現場にかけつけた男は、ため息をついた。H.O.P.Eより指定された場所には、戦った跡はあったが従魔の姿はなかった。男より遅れて現場に入った仲間たちも、その光景を見た。だが、男の仲間たちはその光景にまったく違う解釈をした。
「おまえ、一人で敵を倒したのかよ。すっごいな!!」
 違う、と男は言った。
 けれども、周囲はその否定を謙遜としか取らなかった。

●幼馴染の再会
 同じようなことが、何度も、何度も、続いた。男が現場に駆けつけるたびに、戦闘は終わっていた。そして、周囲の人々はそれらを男の功績とした。だが、男は――コータは受け入れられなかった。自分より先に、従魔を倒す存在。その手柄を自分のものにしてしまっている状況が。
 そして、ある日。
 とうとう、コータは従魔を自分の代わりに倒してまわっているリンカーを捕まえた。
「おまえ……サヨなのか?」
 コータは目を丸くした。
 捕まえたリンカーであるサヨは、コータの幼馴染である。幼い頃のサヨは体が弱くて、よくコータが遊びに連れて行ってやっていた。大人になってからは会うことさえも稀であったが、それでもサヨには幼い頃の面影あった。
「おまえが、ずっと従魔を倒していたのか?」
「……そうよ」
「どうしてだっ!」
 コータは、サヨに詰め寄った。
「あなたの役に立ちたかったの」
 サヨは答えた。
「私は、あなたよりも強い。だから、あなたの役に立ちたかったの」
 夢見るように、サヨは語る。
 サヨは語らなかった。
 彼女が誰よりも強くなっていられるのは、共鳴している間だけ。英雄との共鳴を解けば、元の病弱なサヨに戻る。
 彼女は、H.O.P.Eの職員であった。ある日、英雄と契約して、力を得た。サヨは従魔や愚神の出現を誰よりも早く知れる職と英雄の力で、かねてからの夢を実現させることにした。

 コータを自分だけのヒーローではなくて、みんなのヒーローにすること。

 それが、サヨの行動理由であった。
「今度、邪魔をしたら切るぞ」
 コータは、そう言った。

●すれ違う幼馴染
 幼い頃、コータはサヨと欲遊んだ。病弱なサヨは、コータにとっては妹分であった。けれども、あのころでさえサヨが強かったら?彼女は守られるフリをして、弱い自分をあざ笑っていたのだろうか。
 そう考えながら、コータは現場へと急ぐ。今日は従魔の討伐ではなく、愚神の討伐である。いつもよりも大変な仕事になると思いながら駆けつけたコータが見たものは、愚神に一人で立ち向かうサヨの姿であった。
 一人で、愚神に立ち向かうことなど無理なのだ。
 それでも、彼女が立ち向かうのは――……幼い頃の恩返しがしたいからだった。体が弱く友達の一人もできなかったサヨをいつも気にかけてくれた幼馴染。男友達と遊びたいだろうに、いつもサヨと遊んでくれた男の子。幼い自分を哀れんでくれた幼馴染。
 サヨは、その恩返しがしたかった。
「君が、従魔を一人で倒しているって言う女の子だね」
 愚神の男は、にやりと笑った。
 そして、愚神はサヨの唇を奪った。
 驚きで見開くサヨの瞳は徐々陰り、何も写さなくなった。

●ついた嘘
 応援のリンカーたちが、現場に駆けつける。冬休みで人のいない学校の校庭には、愚神の男と見たことのないリンカーの女性がいた。おそらくはH.O.P.E所属のリンカーではないだろう。
「あのリンカーは……助けられそうか?」
 応援のリンカーの一人が、コータに尋ねる。
 コータはわずかに迷いながら、首を振った。
「きっと、手遅れだ」

解説

・愚神および従魔の討伐。

小学校の校庭(昼)――冬休みのために誰もいない。校庭の端にはブランコや鉄棒などの遊具があるが、校庭の中央にはなにもない。

愚神(ジェントルマン)……スーツを着た初老の紳士愚神。レイピアを武器としている。普段は一本しか使わないが、防御や追い詰められた際には二刀流になる。
マイ・レディ――女性の唇を奪うことによって、相手を操る。一定のダメージを与える事で、相手は正気に戻る。
ティータイム――操った女性のライブスを吸収し、自分の素早さを上げる。
お先にどうぞ――相手にあえて先に攻撃させ、隙をつくカウンター技。
紳士のたしなみ――レイピアを振りおろし、衝撃派を発生させる。二本所持している時の方が、一本のときよりも威力がある。
紳士の余裕――レイピアを交差させ、防御の体制をとる。

従魔(リトルレディ)……ドレスで着飾った、少女の形をした人形たち。五体出現する。あまり素早くはないが力が強く、防御力が高い。

サヨ……H.O.P.E職員だがエージェント登録をしていない女性リンカー。愚神に操られている。現時点ではいつから愚神に操られていたのか不明である。日本刀を操っており、粗削りながらも力強い技を使う。
・無垢な鎧――自身の防御力を上げる技。受けるダメージ量を減らすことができる。
・恋を秘める思い出――季節外れの桜吹雪を発生させ、相手の視界を奪う技。効果時間が短い。
・憧憬の刃――刃に炎のライブスをまとわせて、相手を一刀両断する。攻撃力は高いが、隙は大きい。

・コータ……サヨを「助けられない」と証言するリンカー。戦闘の腕は並みより上程度であり、指示通りに動く。しかし、サヨに関しては正しい判断ができないでいる。

リプレイ

 冬休みの校舎の真ん中で、女性達と紳士がいた。その女性の一人――サヨに対して、コータは静かにこういった。
「きっと、もう手遅れだ」

●その言葉は真実なのか?
「ん? つまりはどういう事だ?」
 火乃元 篝(aa0437)は首を傾げた。コータの一言が、篝には上手く理解できないようであった。
『つまりは、あの子はもう手遅れってことなの』
 ヤス・オーダー・鳥羽(aa0437hero002)は、自分の主がどのような選択をするのか少しばかり楽しみにしていた。だが、主である篝は、少しも揺らいだ様子はなかった。良くも悪くも、今日も真っ直ぐと立っている。
「見たことのない顔だな……未所属のリンカーか。一応H.O.P.Eに確認して貰うか」
『少しでも情報が欲しいですからね』
 月影 飛翔(aa0224)とルビナス フローリア(aa0224hero001)は、リンカーと思われる女性の写真をとってH.O.P.Eへと送った。彼女の素性は、すぐに割れた。彼女はH.O.P.Eの職員であった。だが、リンカーとして登録はやはりされていなかったということだ。彼女の名前は、サヨというらしい。
「助けられないと仮定できたことは、あの子と戦闘した。あるいは、戦闘を見たんだな」
 思考する炉威(aa0996)に、エレナ(aa0996hero002)はむっとした表情を見せた。その顔からは、嫉妬という強い感情がうかがえる。
『炉威様は、あの女のことが気になるんですの? わたくし以外の女のことを考える炉威様を見ただけで、わたくしは嫉妬でどうにかなってしまいそうですわ』
「うん。でも、これは仕事だから」
 穏便にいこうね、と炉威は苦笑いする。
「その様子だとあの女性を知っているのか?」
 飛翔はコータに尋ねるが、コータは固まるばかりであった。
 その様子を見ていた晴海 嘉久也(aa0780)は、コータ以外の仲間を一度集めた。
「彼女が陥っている状態がただの『洗脳』なら、救出できる可能性はあります。ただ、コータさんの発言は当人の混乱もありますし、彼以外に今回の経緯やサヨさんの状況が分かってない以上は必要以上に当てにするのは危険でしょう」
『つまり、コータさんは当てにしないということでしょうか?』
 エスティア ヘレスティス(aa0780hero001)の言葉に、嘉久也は首を振る。唯一の目撃者の話を頭から否定するのは危険だ。だからといって、すべてを信じることも危険だ。
「いいえ、必要以上には当てにしないということです」
 ナラカ(aa0098hero001)は、嘉久也の言葉を聞きながら笑んだ。「もう、手遅れだ」と戸惑いながら口にしたときの表情。そのときの表情で、ナラカは大体のことを察していた。自分が信じる信じないよりも、彼がなぜ手遅れだと口にしたのかが意味あることだと考えたからである。
『男子にも女子にも、必要なのは試練であるか……』
 この戦いの果てに、一組の男女はどのような決別をたどるのか。それとも、ナラカの考えとはまったく違う方向に歩むのか。
『互いに何を思っていたか、何を知るべきで何を求めるべきか。今こそ向き合い答えを示す時だ。さて、同じ女子連れとしてどう思う?』
 からかうようにナラカは、八朔 カゲリ(aa0098)のほうを見た。
 幼馴染と同じようにカゲリには、揺らいだ様子はない。
「決断とは重い……悪とは弱さから生ずる一切のものだ。峻烈極める彼の在り方に、共感はない」
 カゲリも、うすうすコータの事情を察したようすである。それであっても、彼は英雄と同じくコータを止めようとはしなかった。
「知っている範囲で良いので、敵の情報を教えてください」
 だが、カゲリの恋人である卸 蘿蔔(aa0405)は彼と反対の行動をとった。サヨを助けるために、コータに詰め寄ったのである。
「彼女の事は救いたいと思うんです」
 蘿蔔の言葉は、力強かった。
『女性が捕らわれているようだが……話を聞いた限りだと――』
 レオンハルト(aa0405hero001)は、そう呟きながら蘿蔔と共鳴する。攻撃してくるサヨから、仲間達を引き離すためであった。
『当たったら痛そうだが……その分動作が大きいな』
 レオンハルトは、彼女の攻撃を見つめながら呟く。
「できるかぎり、時間を稼ぎましょう!」
 蘿蔔の様子を見ていた篝は、口笛を吹いた。蘿蔔の行動原理は、ほぼ純粋な善意からだ。善意で戦える人間は稀だ。
「いい奴だな。カゲリめ、羨ましいぞオノレー!」
『幼馴染の幸せを妬むなんて心が狭いのね』
「羨ましいものは、羨ましいんだ!!」
 鳥羽を怒鳴りつつ、篝は共鳴する。彼女は従魔であるリトルレディを視界におさめていたが、言葉はコータに向って放たれていた。
「コータよ、お前はあの女を救えないと言ったな。諦めるのか? さて、今の私にはどっちでもよいな! 叩き潰すか!」
 シオン(aa4757)は、その言葉にぴくりと反応した。
『コータの言葉が、偽りだといいですわね』
 ファビュラス(aa4757hero001)は、シオンの顔を見た。ファビュラスには、シオンの考えていることが手に取るように分かった。
「もしも、彼女が手遅れならば――そのときに必要なことを考えていただけだよ」
『あまり、思いつめないで。あたしがいることも、思い出して欲しいですわ』
 もしものときは、罪は二人の手で。
 ファビュラスは、そう言った。
 コータの体が、びくりと飛び跳ねたような気がした。

●紳士への鬱憤
「乙女の唇を合意も無しに奪って紳士面かよ。愚紳士……いや痴漢だな」
 藍那 明斗(aa4534)は、愚神を向ってそう吐き捨てた。
「まず常識的に考えて、知らない女の子にいきなりキスとか紳士でも許されない。鉄板舐めてろ。俺なんてひどいと口説いただけで殴られるのに」
 同感とばかりに逢見仙也(aa4472)は、頷いた。だが、それを聞いていたディオハルク(aa4472hero001)は白い目で仙也を見ていた。
『それは、口説きつつ手を出そうとするお前が悪いから仕方ない。しかも、お前は学習しないだろ。同じ失敗を二度も三度も繰返して』
「いつか俺の口説きかたが好みって、女の子と出会えるかもしれないだろ!!」
 仙也は、力説する。
 ディオハルクは「こいつは一生モテないだろうな」とため息をついた。
『たしかに、女の子の唇を奪うだなんてサイテーだ。ボコボコにしてやろうよと言いたいところだけど、サヨっていうリンカーの女の人と挟まれないように気をつけて』
 クロセル(aa4534hero001)の助言に、明斗はもちろんと答える。
「どちらにせよ。従魔が邪魔だ。先に、片付ける」
 明斗は、従魔の真ん中に躍り出る。
 ドレスで着飾った少女の人形はあまり素早くは動かないが、攻撃があまり聞いているようには見えなかった。少し時間がかかりそうだ、と明斗は考える。
「援護するよ」
 ぱちん、とアリス(aa1651)は指を鳴らす。この音に意味はあまりない。ただ仲間と従魔の意識を自分に向けたかっただけだ。これから、二人で全てのものを焼き尽くす。
「……燃えろ」
 ブレームフレアの炎が燃え上がり、Alice(aa1651hero001)は目を細める。
『愚神のマイ・レディ、あれは強制操作なんだろうか?』
 Aliceの疑問に、アリスは「さぁ?」と答えた。
「いずれにせよ、操られたら面倒だよね。愚神とは極力距離を取りたいな」
 関心薄く答えるアリスに、Aliceは尋ねてみる。
『もしも、唇を奪われたらどうする?』
「まぁ、特に思う事はないよ。口を拭うくらいはするかもしれないけど。わたしたちにそんなことをされたら、愚神のほうがショックをうけるかもね」
 アリスの言葉に、Aliceは『だったら、面白いかもね』と答える。
『あの女のことは、どう思う?』
 ディオハルクは、仙也に尋ねる。
 サヨの荒削りの技は、誰かに師事したものではないであろう。それでも戦えているのは操られているからか、英雄の器量なのか。どちらにせよ強いことには変わりないが、とディオハルクは思考する。そして、だからこそ気にかかる。
「くどいても落ちないタイプだと思うぞ」
 仙也の言葉に、 ディオハルクは一瞬本気であきれた。
 仙也は「冗談だ」と口にした。
「助けられるかどうかは分からない」
「あきらめたら、ダメだ」
 明斗は、強くそう言った。
「俺は昔、好きな女が愚神のせいで命を落とした。戦う力がなかったとはいえ、今も後悔してる……」
 だから、あきらめたくはないと明斗は強く念じた。
 瞬きするだけで、あのときの後悔が明斗を襲う。今ならば彼女だって助けられたのに、とどうしても考えてしまうのだ。
『そうだね。『敵』に容赦も情けもいらないけれど、助かる望みがある限りはそれを諦めない!』
 クロセルは、明斗を鼓舞するように叫んだ。

●二人の真実
 桜吹雪が校庭に舞う。
 その光景を見ながら、ナラカは呟く。
『喪う間際、或いは喪わねば解らぬと言うなら是非もない――我が手を以て示してやろうか』
 もうすぐ、決着がつく。ナラカには、そんな予感がしていた。
「そんなに、簡単に決着はつかないだろう」
 カゲリは、呟く。
 桜吹雪に視界を奪われた蘿蔔は、「くっ……」と悔しげに呟いた。
「視界が悪くて、狙いが定まらないです」
『なら、一度は距離をとるべきだ』
 レオンハルトの言葉通り、蘿蔔はサヨから距離をとる。
『敵のおおよその位置は予測できるだろう。焦らずに、狙うんだ』
 レオンハルトの敵という言葉に、蘿蔔は胸の痛みを感じる。
「サヨさん……」
 蘿蔔は、未だにサヨを敵とは見られない。
『集中するんだ。いまここで、君が倒れるわけにはいかない』
 レオンハルトの言葉のとおりだ。情は行動の源にもなるが、情に流されすぎれば判断を見誤る。武器の威力も落ちる。
『どんな結末になろうとも……救おうとしたことには意義がある』
「……迷っているわけではないです。だから……あの、大丈夫です」
 蘿蔔は武器を握りなおす。
 呼吸を整える。
「コータ、本当に彼女は助けられないんだな」 
 炉威は、コータに最後に尋ねた。
 その隣でシオンとファビュラスは、武器を構える。
 苦しみさえも与えずに、シオンたちはサヨを殺すつもりであった。
「汝」
 嘉久也は、コータに向って叫ぶ。
 彼は、今一人で愚神を足止めしていた。ほとんど時間稼ぎのようなことしかできないが、それでも彼は叫ぶ。
「汝は、彼女を助けられないと判断した。それは、何故だ!」
 叫ぶ嘉久也の問いかけに、コータは答えることが出来なかった。ただ震える両手を見つめていて、その場に固まってしまっている。
『どうしたんでしょうか?』
 エスティアと違い、嘉久也には察しがついてしまった。
 そして、その話を聞いていた炉威も察しがついた。
「きっと彼女は助けられるんだな」
『どうして、そう思うんですの?』
「彼が後悔しているから」
 エレナの問いかけに、炉威はそう答えた。
 男の反応を見て、答えを出したことにエレナの機嫌が若干直る。もしも、女の顔でも見て答えを決めた日には、エレナは嫉妬の炎で焼かれていたことであろう。
『そうであるなら、お手伝いしますわ』
 エレナたちの言葉を聞いた、シオンはわずかに肩の力を抜いた。ファビュラスは、その様子を見てひっそりと微笑む。
『女の子を殺すのは、後味が悪いですものね』
「死体の数は、少ないほうがいいだろう。それだけの話だ」
 だが、シオンたちの話はカゲリたちには聞こえなかった。
「女を手遅れだと諦め見捨てる事を選んだのは、おまえだ」
 カゲリは、サヨを攻撃する。
 サヨは必死にカゲリの攻撃に食らいつくが、それでもカゲリのほうが上手だ。彼女は追い詰められて、とうとうカゲリの一撃が彼女を追い詰めるまでとなった。
『さあ、聞かせてくれ。汝等の答えを――』
 ナラカは、コータを見つめていた。
 彼は、カゲリに攻撃されるサヨを見つめていた。
「カゲリさん!」
 蘿蔔は、とがめるようにカゲリの名前を呼んだ。
『落ち着くんだ。死んでない』
 レオンハルトの声に、蘿蔔ははっとした。
「コータ、サヨはお前が『手遅れ』だと思い込んでいるだけだった。いや、そうであって欲しい、だな」
 飛翔は、コータを見た。
「サヨは……昔のサヨじゃなかった。強くなってた。俺を裏から笑うぐらいに、強くなっていた!」
 ルビナスもそういうわけなのか、と納得がいった。
 サヨとコータは知り合いだ。
 そして、サヨはコータが許せないことをしてしまった。
「俺の手柄は、全部あいつの手柄だった。なんなんだよ、あいつは。なんで、俺をヒーローになんてしようとするんだよ」
「それがお前の答えだったのか」
 カゲリは、コータの叫びを聞いた。
 弱者の叫びであった。
「自分は彼女の事を全部知っているとでも言うつもりか? そうであるなら、確かに『お前には』愚神は倒すことはできないな。従魔の相手でもしていてくれ」
 ルビナス、と飛翔は呼びかける。
 そして、倒れたサヨのほうを見た。どうやら、カゲリの攻撃によって愚神の支配下から抜け出したようであった。
「これから2人でちゃんと話し合うんだな。互いに気持ちや行動を押し付けるのではなく」
『擦違いで今回の事は起こりましたが、今は二人ともここに居るのですから』
 飛翔とルビナスは、愚神と戦っていた嘉久也の助けに入る。
 飛翔は、嘉久也と愚神の間にワイヤーを伸ばした。
「速くなっても、ここまで近づけばあまり意味はないだろ」
 一度愚神と距離をとった嘉久也は、一息ついた。
「やはり、一人では足止めが精一杯だったか」
『できれば連続攻撃で倒してしまいたかったんですが、さすがに一人だと難しかったですね』
 少し呼吸を整えたら再び参戦する、と嘉久也はエスティアに答える。
『どうしました? 紳士たる者、いかなる時も余裕と優雅でなければいけませんよ? このようなことで取り乱すとは、やはりあなたはエセ紳士でしたね』
 愚神を睨みつけながらも口を開くルビナスの様子に、飛翔は苦笑した。英雄の態度に、彼女がどのように思っているから手に取るように分かったからだ。
「もう挑発じゃないな。あの態度には相当イラついてたようだ」
『女の子の唇を奪おうとする敵には当然ですよね』
 エスティアも頬を膨らませていた。
「汝も、そんなことを気にする性質だったか」
 嘉久也の言葉に、『当然です』とエスティアは答えた。
『女の子の唇は、大切なものなんです』
「ん? こういうのはノーカンというらしいではないか!!」
 篝はロストモーメントを使用し、愚神との戦いに参戦する。少女らしくない豪快さに、鳥羽はあきれてしまった。
『……少しは気にしなさいな』
 年頃なのに、と鳥羽はため息をついた。
「不快だよ。女の子の全員が、唇が弱点だと思われていることが」
 アリスは、コータのほうを見た。
「何度か親しい人が操られていた人に、『大事な人を殺していいか?』って聞いた事がある。君は、何も答えられなかった。でも、後悔はしていた。後悔するようなことは、しないほうがいいよ」
 いつか取り返しのつかない失敗をするよ、とアリスはコータに言う。
 今日は、後一歩のところで踏みとどまることができた。だが、次もこうだとは限らない。そして、次は自分達がいるともかぎらない。
『不機嫌だね、アリス』
「愚神の攻撃が、気に入らないだけだよ。それより、私たちの炎で全部燃やしてしまおうよ。気に入らないものは、全部」
 ブルームフレアの炎は、燃え上がる。
 ドレスを身にまとった従魔も燃える。
「本当に、気に入らないものがぜんぶ燃えればいいのに」
 ぼそり、とアリスは呟いた。
「へい、ドスケベ変態紳士。可愛い女の子たちは引っ込んだから、野郎とで悪いが踊ってくれや」
 明斗が、愚神の前に飛び出る。
 軽薄な口調とは反対に明斗の声には、わずかな苛立ちがあった。
『コータ君のことを軽蔑しているのかな?』
 クロセルの言葉に、明斗は無言で頷く。
「ヤル気があるんなら、見直してた」
『相手を認めた上で支える事が大事だよ。守る力があるなら尚更ね。今回はサヨちゃんのほうに力があった。コータ君には、チャンスはあったかもしれないけれど』
 クロセルは、呟く。
『チャンスがあれば強くなれる。そして、チャンスはいつでもやってくる』
「クロセルはコータが変わると思っているんだな」
『ミント君も変わった。もう君は、好きな女の子を守れなかった君じゃない。あの二人はせめて解りあえたら……な』
 明斗は、息を整える。
 クロセルの言葉は正しい。人は変わるものだし、そのチャンスがどこでやってくるかは分からないものだ。コータが変わるチャンスは、ここではなかったのだろう。
『サヨの行動は、要は自分の立場と情報を私事で悪用した様な物だろう?』
 ディオハルクの言葉を聞きながら、仙也はエリアルレイブで愚神の防御を崩した。
 ――リンカーが愛の為なら全て許されるなら、他の人にしわ寄るだろう。
 そう思いながら、仙也は武器を握って口を開く。
 その言葉は、サヨに向けられていた。
「ヒーローなんてやりたい奴がやるものだろ? 助けられなけりゃ憎まれ、相手は強力で、期待に応える様周りは無言の圧力。しかも、この場合自分の行動に関係無く重荷が増えると来たもんだ」
 サヨの目はさえている。
 きっと仙也の言葉は届く。
「別に自分が満足なら良いって言うなら良いけどね? 」
「違うの」
 サヨは、小さく呟いた。
「コータは小さいころ、私を守ってくれた。ヒーローだったの……彼だけが、私と遊んでくれた。一人ぼっちだった私を彼だけが、助けてくれた」
 だから、皆に知って欲しかった。
 彼こそが、ヒーローなんだと。
 サヨは、そう語る。
 「サヨさん。二人がお互いをちゃんと見れれば……きっと良い答えがでますよ」
 蘿蔔は、サヨに微笑みかけた。
 サヨは、コータに恋している。だからこそ、その恋心が暴走してしまっているのだ。
『わたくしは、サヨの気持ちが分かりますわ。恋こそ全て、愛こそ世界の基本。好きな相手は、自分の全てですもの』
「エレナと気が合うなんて……」
 炉威は、サヨから視線を外した。
 なんとなく嫌な気配がしたからであろう。
「私を忘れてはいないかね!」
 愚神は、二本のレイピアを振り上げる。
 その愚神に狙いを定めていたのは、シオンであった。
「これからは、二人の男女の話し合いの時間だ。悪いが老害は消えてくれ」
『あたしたちは、花が咲くところを見るのですわ』
 赤いバラのように美しく、かぐわしい芳香を放つ恋。
 その光景をただ見たい。
 ファビュラスは、ただそう思った。

●きっと彼らは
 サヨは、自分を助けてくれたリンカーたちから話を聞いて呆然としていた。彼女の行いは、コータに拒絶された。自分はただ、自分のヒーローを皆に知って欲しかっただけなのに。
「ありのまま、それがお前たちだ」
 カゲリは、そう答える。
 ヒーローはどこにもいない。そう思っているものは、所詮は恋や愛情が見せる幻だ。本物のコータはそんなに立派なものではなかったし、サヨもか弱く病弱なままではなかった。たがいに、幻だけを見て本物を見ようとはしなかった。
「もう、これ以上は俺が首を突っ込む必要もないだろう」
『たしかに、そうだな。他人の恋路よりも、自分の恋路を見極めるほうが難しいものだ』
 ナラカの言葉の向こう側には、蘿蔔がいた。彼女の複雑そうな顔がこれ以上続けば、レオンハルトが何かしらの言葉を送るであろう。だが、それをずっと見守り続けるのは恋人としては正しくはない。
『せいぜい、馬に蹴られぬようにな』
「それは、人の恋路を邪魔したときだ」
 それこそ今のナラカのような、と言いかけてカゲリは口をつぐんだ。
『あの二人……手遅れではないといいですね』
 ルビナスの言葉に、飛翔は首をかしげる。
「誰も犠牲にはなっていないだろう」
『いいえ、あの二人の関係性がです』
 ルビナスの言葉に、エレナは笑みを浮かべる。
『大丈夫ですよ。恋も愛も、この世で最も強い感情ですわ。わたくしと炉威様も保障しますわ』
「俺を巻き込まないでくれ。他人の色恋沙汰のごたごたはたくさんだ」
 自分のも、と言いかけて炉威は止めた。エレナは炉威の腕にしだれかかっていて、幸せそうに笑っている。それを邪魔したいと思ったわけではなく、今日はこれ以上の厄介ごとはこりごりだと炉威は考えたのである。
 エレナの言葉に、篝は「そういうものなのか?」と鳥羽に尋ねた。
『それこそ、幼馴染に聞いてみるべきだと思うのよね。青春の真っ最中なんだし』
「それはいい! カゲリたちの馴れ初めを聞きだしてやろう!!」
 篝は元気いっぱいな様子で、幼馴染のほうに駆け出した。そういえばさっき馬に蹴られてなんとやら、という言葉が聞こえたような気がしたが鳥羽は何にも言わなかった。馬に蹴られるのは篝だけでいい。
「……あとのことは、二人次第ですね」
 嘉久也は、サヨとコータの様子を遠巻きに見ていた。自分達が手を出せるところの仕事は終わって、あとは二人が答えをだすのみとなった。
『大丈夫ですよ。二人には、話す時間ができたんですから』
 エスティアは、うふふと笑った。
 彼女には、二人は大丈夫だという確信があるように思われた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 『星』を追う者
    月影 飛翔aa0224
    人間|20才|男性|攻撃
  • 『星』を追う者
    ルビナス フローリアaa0224hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • 苦労人
    レオンハルトaa0405hero001
    英雄|22才|男性|ジャ
  • 最脅の囮
    火乃元 篝aa0437
    人間|19才|女性|攻撃
  • エージェント
    ヤス・オーダー・鳥羽aa0437hero002
    英雄|24才|女性|カオ
  • リベレーター
    晴海 嘉久也aa0780
    機械|25才|男性|命中
  • リベレーター
    エスティア ヘレスティスaa0780hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 解れた絆を断ち切る者
    炉威aa0996
    人間|18才|男性|攻撃
  • 白く染まる世界の中に
    エレナaa0996hero002
    英雄|11才|女性|ジャ
  • 紅の炎
    アリスaa1651
    人間|14才|女性|攻撃
  • 双極『黒紅』
    Aliceaa1651hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • 悪食?
    逢見仙也aa4472
    人間|18才|男性|攻撃
  • 死の意味を問う者
    ディオハルクaa4472hero001
    英雄|18才|男性|カオ
  • 飛込みイベントプランナー
    藍那 明斗aa4534
    人間|26才|男性|命中
  • アホ毛も武器
    クロセルaa4534hero001
    英雄|16才|?|カオ
  • 藤色の騎士
    シオンaa4757
    人間|24才|男性|攻撃
  • 翡翠の姫
    ファビュラスaa4757hero001
    英雄|22才|女性|ジャ
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