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広告塔の少女~今年よさようならEX~
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依頼前の挨拶スレッド
最終発言2018/01/02 08:57:12
オープニング
●ネタラシヌワヨEX
ドカーン。
嘘みたいなそんなオノマトペが冬の空に響き渡る。
大気震わす衝撃と熱波は一瞬木々の針葉を揺らすが、そのつかの間の温かさも冬の寒さにのまれて消える。
代わりに残されたのはリンカーたち。
爆発には共鳴で対応し、何とか事なきを得たのだが。冬の大地で散り散りにあちらこちらにばらまかれてしまった。
ああ、何という事だろう。今日は正月だというのに、家族に姿を見せることもできず、こんなところで寒さに震えることになろうとは。
そんな中。正月のトラブル常連の遙華は。君の頬を叩いて言うことだろう。
「ネタラシヌワヨ」
彼女は正月とはこう言うものだとでも言いたげに意気揚々と木々の隙間を縫って進んでいく。
「ある程度開けたところに行きたいわね」
告げると遙華は雪原と呼ぶにふさわしいスポットを発見する。
雪は降っていない。雲もない、夜空には人灯りが無いため眩く星が輝いている。
空気が澄んでいるからだろうか。
いつもより綺麗に見える。
そのときである、遙華はバックパックから小さなスフィアを取り出した。
それに霊力を通わせると宙に浮き。
そして周囲を霊力の波動で包んだ。
「これは愚神のドロップゾーンを参考に、霊力で周囲を覆う技術の新しいもの……。まぁイメージプロジェクターなんかと原理は変わらないのだけど」
告げると気温がぐっと上がった気がした、そして風を遮断し、穏やかな気候を作り出す。
「これで共鳴を解いても凍えることはないわ。私がお正月付近トラブルに見舞われるのは周知している通りだから救助もすぐ来るだろうし、しばらく空でも見ながら待っていましょう。少しの休憩時間よ」
こんな便利アイテムを用意できるくらいなら飛行機が爆発しないように手を回せたのではないか。そう思ってしまう一行であった。
● 冬の夜空と、僕らの未来。
通信が近くのH.O.P.E.支部とつながった。三時間程度で救助が来ることになったが、除夜の鐘は鳴り始めているらしい、無線の向こうからはごーんごんと鐘をつく音が聞えた。
しかし、あわててもこの山中から抜け出せるわけではない。
のんびりと暇をつぶすしかないのだ。
「私、そう言えば今年こうやってのんびりする事。ほとんどなかったわ」
遙華は語りだす。星を見ながらするべきことは一つだとでもいいたげに。
「ねぇ、せっかくだからお話ししましょう。前の事とかこれからの事とか」
遙華は皆の一年を聞きたがった。今年何があったのか。
「また新年を迎えられるなんて感慨深いわね。来年が来ないと思っていたわけじゃないけど、今年も沢山、いろんなことがあったしね」
遙華は告げる。
「みんなは来年何がしたいか決まってる? ちなみに私達二人とも来年の抱負を達成できなかったわ」
遙華の来年の抱負は『エリザを起動させる』であり。
ロクトの来年の抱負は『翼を実用化する』であった。
「同じ目標を来年も掲げるというのはいい案だと思うのだけど。でもそれも面白味が無いわね。何かアイディアはないものかしら」
遙華は雪に木の棒で何らかの文字を書きながらそう告げる。
「あ、でもエリザは半分起動してるのよ。まるで本人が目覚めるのを拒否しているみたいに、うんともすんとも言わないけど」
そう、取り留めもない話が夜に響いて、時はしんっと流れゆく。
● 話の他にも
ただお話をするには三時間は少し長いでしょう。
なので。せっかくの雪。これを使って遊んでみるのも良いかと思います。
さらに皆さんの中には食料やそれを調理するための器具を持っている人もいるかもしれません。
体を温める食事などあれば穏やかなひと時に磨きがかかる事でしょう。
解説
目標 みんなで今年を振り返る。
来年の抱負を設定する
●会話フック
皆さんが会話に困らないように会話フックを作りました。
これについて話題を膨らませるようにするといいでしょう。
今年に関する話題はこちら。
「今年一番印象に残った事件は?」
「今年一番の失敗と言えば?」
「今年の抱負ってなんだった? 達成できた?」
「弐月くらいに温泉旅行を企画したらくる? (遙華さんが単純にききたいだけです)」
「私のイメージ(ロクトが遙華さんをいじって遊びたいだけです)」
来年に関する話題はこちら。
「来年の抱負 仕事編」
「来年の抱負 私生活編」
「来年の抱負 恋愛編」
リプレイ
プロローグ
「滑り込みですが、今年も参加することになりました」
――皆の者、よろしくな。
『月鏡 由利菜(aa0873)』と『リーヴスラシル(aa0873hero001)』がそう挨拶をすると、柔らかな風と共に粉雪が舞った。いたって真面目な二人の表情に、思わず遙華は苦笑いを浮かべる。
「参加って…………。私が遭難することが毎年恒例のような、イベントのような…………言いぐさって、その……どうなの?」
そう悲しそうな遙華である。そんな遙華を後ろからふわっと包むのが『ユフォアリーヤ(aa0452hero001)』である。
「またこの季節が来たって感じだな……なんかこう、しっくり来る」
そう『麻生 遊夜(aa0452)』が遙華の喉に手を当てて、ゴロゴロさせた。
「……ん、これがオヤクソク……ネタラシヌワヨ、EX!」
ユフォアリーヤはそんな遙華をすくい上げて高い高いしたまま、くるくると回る。
「ああ、もう、本当に、御払いにでも行こうかしら」
遠心力で涙が舞う、そんな遙華を一瞥すると『構築の魔女(aa0281hero001)』は手元の本のページをめくる。
「まぁまぁ、次善策が万端というのもある意味素晴らしいのでしょうから、すばらしいですよ……ね?」
「そこで不安にならないでよ~」
「どんなに手を回しても、どんなに技術が進んでも……何をやってもこうなる、そんな気がするがなぁ」
遊夜は考え込む動作のまま周囲を眺める。
「そんなぁ」
「毎年巻き込まれるのはある意味壮絶な気もするわね……、御払いでどうにかなることを祈っているわ」
そう告げる構築の魔女の隣に、周囲の索敵が終わったのか『辺是 落児(aa0281)』が座りこんだ。
「しかしまたガキ共と過ごせなかったな……わかってるかのようにそれぞれ楽しんでるみたいだが」
そう遊夜が告げると、ユフォアリーヤが悲しい顔をして遊夜の肩に額を当てる。
「……ん、ボク達も……子供達も、学習した」
「……お年玉増額しておくか。それにしても、ふと思えば感慨深いが……あっという間だったな、という思いもある」
「……ん、時間が経つのは……早い、子供達の成長も」
そう、遠い場所にある我が家を思いユフォアリーヤ視線を地平線に投げる、そんな彼女の鼻腔が爽やかな香りに刺激され、その匂いのもとを視線で追うと。
『ヴァルトラウテ(aa0090hero001)』がティーカップを差し出した。
『赤城 龍哉(aa0090)』はクッキーを皿に並べ終えると雪を削りだして作り出したテーブルに乗せた。
「さぁ、冷めない内にどうぞ」
深夜のお茶会が始まる。
本編 雪の最中
「それにしても……」
少女の声が一つ深夜に木霊し、その息使いも深く聞こえる。そんな月の夜。
「遙華といると話題に事欠かないわね」
『水瀬 雨月(aa0801)』はそう告げる。
豊かな香り、星明りを雪景色が反射して思いのほか明るい。幻想的な静寂に包まれたこの場で雨月は穏やかに紅茶を一口、口に含んだ。
「今年の年末は生傷が絶えない日々だったわね……いえ、懐かしむどころか現在進行形なのだけども」
ただし、雨月の表情は暗い。というより青い。
それもそのはず某テレサ・バートレットの料理によって。その体は毒されボロボロだ。
しかも。その前にもバルドルに内臓をメチャクチャにやられている。
「ああ、雨月……テレサがごめんなさい。ああ本当に。なんてことを」
「寝たら死ぬ? 寝なくても死にそうなくらいヒドイわよ?」
「ああ、雨月が珍しく皮肉を言ってる。本当に調子が悪いのね」
「まあ、あまり動かずにじっとしていれば傷は問題ないと思うけどね。食べ物もあまり刺激の強い物は遠慮したいけど、紅茶はとてもうれしいわ」
そうカップの中味を飲み干して雨月は溜息をつく。
「本当に色々とあったわね。特に最近……」
雨月のカップにヴァルトラウテが紅茶を注ぎ足す。小さく雨月はありがとうと告げて、言葉を続けた。
「主に戦いだったけど、料理で重体になると思ってなかったわ。以前、遥華とお出かけした時にどこから出てきたのかペリカンの大群が出て来たでしょう?」
「あったわね、チーズケーキを買いに行ったときだったかしら?」
あれが何だったのか、遙華はよくわかってない。ひょっとしたら夢だったのかもとも思っている。
「あの時に食べさせたものが某氏監修の品だったから、それなりに強烈なのかしらと思っていたら想像を何段階か超えていたわね」
「よく戻って来れたわね」
「…………遙華はちゃんと料理は作れるようになってね? 簡単なのでいいから」
それはぬかりないと胸を張る遙華。とある夫妻のおうちで料理特訓をしたこともあるくらいである。
「蘿蔔も今度一緒にお料理しましょう」
そう告げると隣に座っていた『卸 蘿蔔(aa0405)』が、ひゃいっと答えた。
「手料理作ったら喜ぶかな? って考えてた?」
「え? 何のことですか?」
「ほら、あの人に」
「え?」
「ん?」
急に話を振った自分が悪かったと反省した遙華。
改めて蘿蔔に話題を提供する。
「今年いろいろあったわね、ってはなし」
『レオンハルト(aa0405hero001)』がクスリと笑う、それをいぶかしむ蘿蔔であった。
「あー。そうですね…………色々ありますね。アルスマギカや…………ディスペア、まどろみ…………。
まぁ、どれも思い出として語るにはまだ早いですね。やる事は山積みです。でも来年の今頃は…………落ち着いていると良いなって、思います」
「今年もいろいろありすぎて、私達がどうなっているのかも想像できないわよね……。そもそも生きているのかも」
そんな遙華の発言に対して龍哉が遙華の額にチョップをかます。
「こら、あんまり年明け前に不吉なことを言うもんじゃないぞ」
「そうね、ごめんなさい」
「そして俺たちの印象に残った事件と言えばあれだ」
龍哉はしたり顔で腕を組む。するとヴァルトラウテが言葉を継いだ。
「まだ解決していない案件は概ねそうですわね」
ヴァルトラウテが視線を上に上げながら頬に手を当てる。
「主にはドミネーター連中と、死神案件だが」
「宇宙にまで出掛けて行ったのも印象深いと言えばそうですわ」
「…………翼の防護があっても実質生身で大気圏突入とか洒落にならなかったなぁ」
「でも楽しかったでしょ?」
「途中で翼がアラートを鳴らし始めた時は冷や汗をかいたぞ」
「あれは、ちょっとした私の計測ミスね、ごめんなさい」
「それは、割と重大なのでは」
ヴァルトラウテの顔からさっと血の気が引いた。
「遙華はあいからわずどじっこですね」
蘿蔔が遙華のほっぺたをつつく。すると遙華はメガネを直しながら問いかけた。
「あなただって、どじっこでしょう? 今年一番の失敗は?」
「これと言って大きな失敗はないと思うかな」
「自覚がないとしたら恐ろしいな」
レオンハルトが紅茶を飲みながらさらっと告げる。
「えっ、何がです!? えっ、えっ…………何の話?」
「そう言えば今年の抱負はどうだった? 達成できた?」
遙華がそう問いかけると、優雅に紅茶を楽しんでいた由利菜が髪をかき上げて、ゆったりと口を開く。
「『学業とバイトをしながらエージェント業を続けたい……』。私はそう言っていましたね」
憂いを含んだ瞳がティーカップの中に映って見える。それに対してリーヴスラシルが言葉を添えた。
「『ユリナが将来の夢の勉強に集中しやすい環境を作ることと、リディスをテール・プロミーズ学園に入学させること』。……後者は達成した」
そして一息おいてリーヴスラシルは何かを考えるように口元に手を当てる。
「前者は、涼風邸への入居やメイド達の雇用によって居住環境及び物資や調達費等の環境は大幅に改善した。ただ……まだ課題はある」
「ただ?」
由利菜はそう問いかけた。真面目な話だろう。全員がリーヴスラシルの言葉に耳を傾ける。
「……どうも私は、ユリナに私の世界の国王陛下や王女殿下を重ね、同じ一城の主であることを求めてしまう。……幸せの形など、人それぞれだというのは理解しているのだが……」
「王女様……」
「英雄達がこの一年で、どれだけ前世界の記憶を思い出すことが出来たのか。それが私には気になることだな」
「一部の特殊な任務、愚神と戦った英雄以外はそれほど戻ってなさそうね」
遙華が告げる。
「断片的、かつ真実とも断定は出来ないという前提で話すぞ。王女殿下は…幼い頃から病気がちで、王宮から出ることが少なかった。だが気は非常に強く、公の場では決して弱みを見せようとしなかった」
「……性格を聞くと、昔の私みたいですね」
きくと由利菜は一呼吸おいてリーヴスラシルに向けられていた視線を全員に向ける。
「……学園生活もいつまでも続けられるわけではありません。将来の仕事を決める……来年はそれが目標ですね」
「ユリナは将来の選択肢には恵まれている方だ。その気になればH.O.P.E.の専属エージェントや、ベルカナの正社員にもなれよう」
「ラシルは、何か抱負は?」
「過去にユリナが会った人々に二度と会ってはならないという誓約術……その範囲を狭め、ユリナが大切な人々と再び会えるようにすることだ」
「誓約術は契約の根幹に関わる故、呪縛を完全に撤廃することは不可能だが……限定的な範囲の撤廃なら道筋が見えてきた。私の記憶が戻ってきたのも大きい」
そう意思表示がひと段落したのだろう、二人は同じタイミングでカップに口をつけた。
「それで、龍哉はなにかないのですか?」
ヴァルトラウテが問いかける。
「年の目標か。俺の場合、基本そうそう叶わないもんだからなぁ」
「副次的な目標でも立ててみれば良いのですわ」
「副次的……って言ってもな。もともと果てなんて、内容なもんだからなぁ」
龍哉は思う。武術家として、或いは戦士として高みを目指すという行為には実質終わりが無いと。
「それは現・宗家の爺様にさんざん言われて来た事だ。実際の話、自分より強い奴はまだまだ沢山居る。
だから強さの指標、超えるべき目標としては目安にはなるが、そこに達すれば終わりじゃない」
「果てのない旅ね」
遙華が告げると龍哉は苦笑いを浮かべた。
「そうだな、敵に勝ち、己に克つ。か……とは言え、そろそろ師範として認めさせたいってのはあるな」
皆立派な目標を立てて、これからの未来に歩いて行こうとしている。
だが……とレオンハルトは、隣でクッキーに夢中になっている小動物を見下ろした。
両手でクッキーを掴んでさくさくやってる、蘿蔔はとても幸せそうで逆に不安になってくるのだ。
「蘿蔔、あのさ……。今年の目標って……」
「今年の目標…………なんだっけ?」
首をひねる蘿蔔。
「いや忘れんなよ。たしか――」
「まぁ、でも目標を立てようが立てまいが私のやる事は変わらないですから! 目の前の事に全力で!! …………なので多分達成できてると思います」
「それを、人は行き当たりばったりって言うんだぞ」
ため息をついたレオンハルト、このまま話題をぶった切るのも悪いので自分の抱負を口にする。
「プロダクションの仕事をもう少し効率よくできるようになりたいな」
「パソコン使えるようになりなよ。めっちゃ便利だよ?」
「つ、使えないわけでは、ない…………し」
そうそっぽを向くレオンハルト。
「OSやソフトが悪いのかも。見繕ってあげましょうか? レオンハルト」
遙華がそう告げた。
「いや、とりあえず今あるので頑張る」
「あ! 思い出しました」
そう蘿蔔が声を上げる。
「抱負のこと?」
「それを一つ思い出しました」
「沢山あったのね」
告げると蘿蔔は少し顔を赤らめて咳払い。そして告げる。
「今年は友達いっぱい作りたいなぁ、5人くらいさ」
「いやもっと頑張ろうよ」
肩を落とすレオンハルト。
「じゃぁ恋人を5人…………レオに作らせる」
額を抑えるレオンハルト。
「ああ、やっぱ頑張らなくていい」
そんな苦労人の様子に場から笑いの声が漏れた。
そんな一行が気になったのか、雪で遊んでいた大人たちがその輪に加わる。
「あら、構築の魔女。雪遊びは満足した?」
「ええ、普段は周囲の目もあるので機会がありませんが、せっかくなので」
そう構築の魔女が示す先を見ると。雪だるまと、雪灯籠で飾られた道の先に雪うさぎが沢山跳ねまわっている。
雪まつり会場顔負けの作り物である。
「ここに訪れることはもうないでしょうし、記念を残しておこうと思いまして」
「半端じゃないわね」
誰もしもが歓声の声を上げる。
「こういう時は英雄であることがとても便利ですよね」
しかしまだ完成ではないらしく、皆の反応を楽しむと再び雪遊びに戻って行った。
「救助部隊が驚くような作品に仕上げて見せましょう」
その隣には大きなかまくらが立っている。気が付けばそのかまくら内部からいい匂いが漂ってくるではないか。
ユフォアリーヤが顔を出すと全員を手招きする。
「……ん、頑張って作った!」
その鎌倉の中には重箱がでーんと広げてあって、食べきれないほどの御馳走がキラキラと輝き帯びて皆を待っていた。
「ミカンもあるぞ、ロクトさんにはこれな」
そう遊夜がかまくらに帰ってくる、二人で話していたのだろうか。ロクトがその後ろに続いていてお猪口を持っていた。
他にも酒を嗜める物を集めて徳利を傾ける遊夜。
「さすがね!」
遙華が褒めると、遊夜は不敵な笑みをうかべて鍋を構えた。
「チャルケセットで肉鍋でも作ろうか?」
「……ん、お肉!」
真っ先に反応するユフォアリーヤである。
「そう言えば、今年の抱負と来年の抱負の話をしていたのよ」
皆で食卓を囲みながらその話を振ると、構築の魔女や落児も戻ってきて箸をとる。
「抱負に関しちゃ俺達も達成できなかったな……」
そう遊夜が告げた。
「……ん、結婚も……赤ちゃんも、出来たんだけど……ね」
耳を垂れさせながらもユフォアリーヤがお腹をさする。
「新しい家族も出来るし早い所報告したかったんだがなぁ」
「それはエリザに?」
遙華がユフォアリーヤのお腹に手を当てて告げる。雨月には「まだ、うごかないわよ」なんて呆れられている。
「なるほど、だいぶお寝坊さんなのかしらね」
構築の魔女が首をひねった。
「この間は寝ぼけたまま色々と手伝ってくれたみたいだし……のんびり待ちましょう」
「半分は起動、本人が拒否……わからん、詳細は帰ってからだな」
「意外とあっさりしているのね、二人とも」
遙華がそう問いかけると構築の魔女が答えた。
「ん? あぁ、少し寂しいけど起きたら忙しくなるでしょうからね?」
「そうだなぁ、家族にもまた会わせたいしなぁ」
そう遊夜がしみじみつぶやいた。そんな遊夜を見て構築の魔女は微笑んだ。
「ほら、過保護なお兄さんたちもいますし」
「にしても、目覚めを拒否か……今起きると何かまずい事でもあるのかね。お嬢、何か心当たりは?」
そう龍哉が問いかけると、遙華は考え込む。
「目標とするのが良いかは判りませんが、エリザさんに体をプレゼントしてあげるというのはどうですの」
ヴァルトラウテが告げると、構築の魔女が頷いた。
「いいですね。新しい体を新調すると、試したくて目覚めるかもしれませんよ」
「……ん、じゃあお洋服も新しいのを」
そう女性陣でエリザボディーについて盛り上がり始める。
すると龍哉が手を叩いてこう告げた。
「いや待て、エリザが目覚めを拒むのはガデンツァ絡みが原因じゃねぇか?」
「確かに、ガデンツァは彼女を狙っているわね。もしかしたら怯えているのかも」
「この世界に出てくることにですか?」
ヴァルトラウテが問いかけ、それに頷く遙華。
「じゃあ、俺達で倒して、安心させてやらないとな」
遊夜が告げる、その表情は優しさで溢れていた。
「エリザ起動は恒久的な目標にするとして……抱負か。そうだな、狙撃の腕をもっと上げる事……かね?」
「……ん、まだ当てれない……敵がいる、味方がいる」
そう微笑むユフォアリーヤは若干怖かった。
「しかし、頭打ち感は否めないんだよな」
「あとは装備の問題かしら?」
「……ん、グロリア社の……ブレイクスルーに、期待……ハルカ達、頑張って?」
そう遙華を膝の上に上げるユフォアリーヤである。最近抵抗しなくなったあたり、借りてきた猫みたいになってるなぁと、雨月は思った。
「構築の魔女は?」
「ん~、明確には掲げていませんでしたが……世界を見ることでしょうか?」
そうかまぼこを食べ終えて構築の魔女は告げる。
「とはいえ、H.O.P.E.からの依頼をこなしつつ多くのことに関わったぐらいになりましたけども……それなりには悪くなかったような気がしますね」
「来年の抱負は?」
「うーん、そうですね。まず前提として。気になることといえば愚神の王とか我々と愚神の違いとかでしょうか?」
「愚神の違い?」
ロクトがそう改めて問いかける。
「親しくしてる人は向こうの世界にお邪魔するのを目標にとも言っていましたね。私は研究者よりの思考ですけど……知らないままというのは何だか悔しいですから。それに、愚神商人等の高位の愚神に一泡吹かせてみたい気持ちもありますし」
その言葉に考え込んでしまうロクト。
「遙華さんやロクトさんは別の抱負なにか思い浮かびました?」
そう構築の魔女が代わりに問いかける。
「そうね、抱負ではないけど。温泉旅行を企画しているわ」
「温泉か。他の依頼に被ってなければ、だな」
「私は是非参加したいですわ」
龍哉たちの声に次いで遙華は雨月の顔を覗き込む。
「旅行? ご相伴に預かれるならご一緒しようかしらね。タイミングが合えばだけど」
「2月の温泉か、雪が見れる露天があると良いな」
そう、遊夜が強く反応した。
「……ん、山奥の……秘湯とか、面白いかも」
蘿蔔も手をつきあげた。レオンハルトにお箸を振り回すのはいけないと怒られていたが。
「良いですね。仕事がなかったら行きたいです。この前の訓練も温泉でしたが遙華も来たら良いのになーって思ってたのですよ」
「たまにはゆっくりするのも良いだろうしね」
「ふふふ、楽しみね。みんなで遊びに行くのは久しぶり」
そんな遙華を眺めて一つ、雨月は思うことがあった。
「遙華も結構変わったわね、昔は作戦の指示をミスして泣いていたこともあったのに」
思わず飲物を吹きだす遙華。笑いをこらえてお腹に手を当てるロクト。
「え? 何があったんですか?」
蘿蔔が雨月に問いかけた。
「実はね……」
最初で出会った任務の失敗で突然泣きだし、それをなだめるために抱きしめたのが最初の出会いと、雨月は蘿蔔に告げた。
「ひねくれてそうで割と素直なのよね、心根は優しい子とおもうし」
「お嬢のイメージと言うと」
龍哉の言葉をヴァルトラウテが継いだ。
「色々な発想を現実の物とする才能は大したものだと思いますわ」
「その代わり暴走案件が多い気もするな」
「あうあう」
何も言い返せない遙華である。
「だが、時に身を削ってでも頑張ってる姿を見てるからな。そういうの俺は好きだぜ」
「もう少しだけ慎重さを心掛けるだけでも…………いえ何でもありませんわ」
しどろもどろになっている遙華を眺めて雨月は思った。
「私は割とドライな時もあるからそう見えるのかもしれないけど。別に私の前だと猫被っているとかでも無いだろうし。やっぱり素直なのかしらね」
「雨月~」
言葉が口に出ていた。どう反応したらいいか分からず、遙華はとりあえず蘿蔔に助けを求めるが。
蘿蔔は話を続けてほしそうである。
「あとはそうね…………こうすると大人しくなる所かしら」
そう雨月が遙華を抱きしめると、もがくことも無くスッと落ち着いた。
「これは、その、誰でもじゃないわ」
遙華が懸命に反論するが、目がとろけているので説得力零である。
「雨月とは波長が合うのよ。こう、なんていうか、わかるでしょ?」
「いや、まったくわからない」
レオンハルトが言うと、ロクトがこらえきれなくなって笑いだし、かまくらの中は笑い声に包まれた。
その声のせいでヘリの接近に気が付かなかったのだが。
ヘリの隊員たちは年が明けるまで、そう思って上空で待機してくれていた。
エピローグ
『アムブロシア(aa0801hero001)』が縄梯子を確認すると、全員がそれを上り始める。
場所が場所なので着陸は不可能という判断だった。
そんなヘリの浮かぶ夜空を見上げながら構築の魔女が最後に告げる。
一年で思い出に残った出来事だ。
「一番というと違うのかもしれませんが……この状況だとやはり露西亜での一幕ですね」
あたりを見渡して、懐かしげに眉を細める。
「ほんとあの時は寒かったですが、風景・情景・経験……忘れられないものばかりです。ところで、遙華さんたちが一番心に残っていることって何ですか?」
「私は……」
そんな遙華に雨月と蘿蔔がのしかかってきて雪上に倒れる。
「遙華、暇なら明日初詣に行きましょう」
雨月が告げた。
「ええ、私は大丈夫、蘿蔔は?」
「えっと、私は……」
もじもじと何かを言いたそうにする蘿蔔。それを察して雨月は梯子を上っていく。
「遙華と仲良くなれたのもちょうど一昨年の大晦日でしたよね…………」
「ええ、あのかまくらの年越しね。懐かしいわ」
「あの時と比べると、とても頼もしくなりましたよね。今日も色々と助かりましたし」
「蘿蔔はやんちゃになった気がするわ。親しみやすくて好きよ」
そう笑いあう少女が二人。ただ、蘿蔔は少し悲しげな表情を見せて遙華の袖を引いた。
「良い事なのに、頼られることも減っちゃうのかな…………なんて、ちょっと寂しかったりもするのです」
「そうなの? 変わっていくことが寂しい? でもそれは私もよ」
告げると、遙華は月に向かって拳を振り上げた。
「わたしだって! 蘿蔔がもう遊んでくれないかもって、悩んだりしたけど、でも、蘿蔔も同じようなことを思ってるなら。なんだか、それもまた嬉しいの。それって変かしら?」
その言葉に蘿蔔は微笑んで遙華の手を取った。
「変なこと言ってごめんね…………今年もよろしくです!」
「ええ、明けましておめでとう、今年もまたよろしくね」
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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