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WD~英雄ハンティング~
掲示板
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相談卓
最終発言2017/12/26 17:02:30 -
NPC質問卓
最終発言2017/12/24 23:23:26 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/12/26 14:01:53
オープニング
● H.O.P.E.は常に戦力を不足させている。
これは慢性的というか、定期連絡というか。ほぼほぼいつもの事であるが。
H.O.P.E.掲示板に張り出されているその掲示物を見て春香は興味を持つ。
「英雄のスカウトか~」
でも、いつもみたいに、日本国内の比較的落ち着いた英雄のところに行ってH.O.P.E.に力を貸してくれないか頼むだけでしょ?
そう春香は他の掲示物に目を通そうとした、その時である。
「ん? いつもと切り口が違うね」
その掲示物に顔を寄せてじっくり眺める春香。
よくよく読んでみれば、その紙にはこう書かれていた。
『急募 リンカーの皆様。これは危険のない任務です。
世界各地に続々と出現する英雄たち。そのスカウトに向かっていただく依頼です。
旅費はこちらが支給します、交通の手配もします。
英雄たちはこちらに召喚されたばかりで、この世界や皆さんに不安や敵意をみせることでしょう。
ですが、その英雄の心を解きほぐし、契約の足掛かりとしていただけた暁には、皆さんに謝礼金をお支払いしております』
冒頭以上。今回は興味と思いつき、好奇心で世界各地を飛び回りながら、英雄を何人スカウトできたかをみる。そんなお話。
● 金が出るぞ!
今回皆さんには英雄を説得していただく旅へと出ていただくことになりますが。
この依頼。報酬が少なめに設定されています。
それは、皆さんの働きに応じて報酬金が上がるためです。
契約できた英雄の数、飲まなかった要求の数。によって大きく変動します。
期間は一週間。これを越えると、英雄たちは霊力不足で消えてしまう危険性があります。
例外もあります。
今回皆さんが英雄を説得すると、すぐさまその英雄に合う能力者があてがわれるので心配はいりません。
英雄にはそれぞれ項目が設定されています、それらを説明していきます。
名前: これはその英雄の呼称です。
場所: 出現場所です、ここまで跳んでもらいます
クラス: 英雄のクラスです。
性格: 端的にあらわされる本人の性格です、説得方法に影響します。
H.O.P.E.所属の懸念点: H.O.P.E.に所属するにあたっての問題点です、英雄から視点の懸念点。H.O.P.E.視点からの懸念点すべてが混ざって表示されています。
要求: 英雄からH.O.P.E.の要求ですが、必ずしも飲む必要はありません。要求を呑まず説得できる場合もあり、その場合報酬金が上がります。
● 英雄一覧
今回の英雄は全員で五人。七人全員をスカウトする必要はありませんが、沢山スカウトするとH.O.P.E.が喜びます。
1
名前:ハーシェマカーン
場所:エジプト
クラス:カオティックブレイド
性格:尊大。大仰。
H.O.P.E.所属の懸念点:特になし
要求:余を崇める人員
身長三メートルの砂漠の王を名乗る英雄です。
彼は元の世界でもエジプトと同じような気候の場所にすんでいたらしく、多くの民を収めていたそうです。
彼自身は頭に血が上りやすく、力自慢なのですが、周りの臣下が優秀だったので国として成り立っていたと本人談。
尊大な態度をとるが、意外と謙虚で判断力に優れる。正しいことを見極める目を持ち、真摯に話せばわかってくれるだろう。
2
名前:水の巫女
場所:ヴェネツィア
クラス:ソフィスビショップ
性格:物静か、臆病
H.O.P.E.所属の懸念点: 顔を見られる危険性が上がるため所属できない
要求: 特になし(H.O.P.E.契約に乗り気ではない)
水路を渡る船、その船頭として立つ女性です。シルエットや声から若い女性であることがわかるのだが、すっぽりとフードつきのローブで全身を覆っているためはっきりと確認できない。
彼女はこのまま水の都で一生を終えることを望んでいる。
全ては自分の犯した罪、かつての世界を洪水で包んでしまって罪ゆえに。
3
名前:カラマーゾフ(仮名)
場所:ロシア
クラス:ジャックポット
性格:穏やか 思慮深い
H.O.P.E.所属の懸念点: 不明点が多すぎる(こちらを欺いているのではないか)
要求:寝床と食事
白い髪を短くまとめた好青年。
名前すら思い出せない英雄。わかるのは一緒に召喚された銃が愛銃であることと。自分は殺害に特化した英雄であること。
彼は時折鋭い殺気を放つことがある。
そのほかはおだやかな青年である。
彼に愚神特有の人類への攻撃衝動があるかどうか、確認してみる必要があるだろう。
4
名前:テンシア
場所:南アメリカ某草原
クラス:ドレッドノート
性格:大胆。凶暴
H.O.P.E.所属の懸念点: 御しきれる能力者がいるのかどうか
要求:更なる戦い
大地に感謝し、精霊の声を受け生きてきた種族だという。
彼女はぼさぼさの髪と引き締まった肉体を持ち、身に着けている衣服は最低限度局部を覆うものだけである。
彼女は戦いの中で成長しやがて神に至るという信仰を持っている、そのため、彼女をH.O.P.E.に引き入れるためには戦って勝つ必要があるだろう。
5
名前:夜迷い
場所:日本
クラス:シャドウルーカー
性格:冷徹 陰気
H.O.P.E.所属の懸念点: ブラック企業では? という疑い。
要求: 完全週休二日
目元にクマをうかべたサラリーマン風の男。
この世界に召喚され労働から解放されたと町を徘徊して過ごす。
ただしお金を持っていないので今はホームレスみたいになっている。
H.O.P.E.に追われると逃げる。またブラック企業で働かせられるかもと思っているためである。
彼の世界のサラリーマンは体術が必修科目だったらしくそれなりに戦闘ができる。捕獲は骨が折れるだろう。
解説
目標 英雄の説得
今回は交渉戦が必要です、それぞれ要求の異なる英雄とうまく対話し、英雄をこちら側に引き入れてください。
彼らですが、性格やパーソナルデータによって、人数や人種。話し方によって嫌悪感を受ける可能性があります。
また外見や立ち振る舞い、社会的地位などで好印象を受ける可能性があります。
普通の人間と一緒ですね。
好印象を与えておくと当然交渉が楽になりますし。
悪い印象を与えておくと、交渉が不利になります。
そのあたりも皆さんで相談されるとよいでしょう。
MSとしては、二人は説得可能かなと想定しています。
それではよろしくお願いします。
リプレイ
プロローグ
リンカーたちは国際空港に集まっている。一度ロビーにて集まり手はずを確認していたが、手に握るチケットの行先はばらばらである。
「じゃー、それぞれ頑張っていこー」
そう春香が拳を突き上げると『月鏡 由利菜(aa0873)』がそれに頷いた。
「三船さん……私は、救える英雄の命を散らしたくありません」
「ユリナの決意は固い……ミフネ殿、その役担わせてくれないか」
その役とは英雄の説得のこと。『リーヴスラシル(aa0873hero001)』や由利菜はこの世界に迷い込んできた英雄に対して特別な思いがあるらしい。
「うん。遠慮なくお願いするね。じゃあ、みんな出発だよ」
そしてそれぞれ異国へと旅立った。
第一章 戦姫と軍人
ロシアの大地を久しぶりに踏みしめた『辺是 落児(aa0281)』。
日本の冬と違って、寒さが厳しい。息を吸うと喉まで凍り付いてしまいそうだ。
そんな落児を気遣って『構築の魔女(aa0281hero001)』は共鳴を促した。
二人は一体となって改めて雪原を見渡す。その奥に森が見えた。
「軍人やそれに類した存在なんでしょうね。報告書を読む限りでは。彼はあの森にいるのでしょうか」
落児はその言葉に頷くと、構築の魔女は森へと足を踏み入れた。
「まぁ、話してみれば分かるでしょう」
軍人とは平和的でない方法でもっとも平和を切望する存在だ。だがそれは構築の魔女も同じである。
だから、分かり合える……とまでいかないものの、対話にはなると思っていた。
なので、初撃で放たれた弾丸を顔面に受けても、構築の魔女は動揺しなかった。
「……っ。共鳴していないのでダメージは少ないと思っていましたが、痛いものは痛いのですね」
雪をかき分け進む音が聞こえる。
その足音と、スナイパーである経験を加味して彼の動きを推測する。
「無理もありませんね、不安なんでしょう」
構築の魔女はゆったり起き上がりながらふらりと構えた。当然武器は持っていない。
攻撃される危険性を考慮していたのに武装も施さなかったのにはわけがある。
彼に対して誠意をみせたかったのだ。敵ではないと示したかった。
その第一条件として武器を捨てることは必須だ。
想定外なのは、彼の持つ武装の射程。
なかなかいいものを持っている。そう構築の魔女は彼の愛銃をあとで見せてもらおうと思った。
「知りたいことに答えられるかは分かりませんが、招かれた先達としてお話できることはあります」
そう森の中に声を響かせるように言葉を投げる。
「今、あなたは消滅の危機に瀕しています」
それは契約していない英雄は全員その状況に陥るはずだった。
「力がどんどん失われていることに気が付いているでしょう?」
契約し、霊力の供給が無ければ、力は衰えやがて消滅してしまうのは、英雄にとって本能レベルで刻まれている危機感である。
「私達ならあなたを保護することができます。このまま消えるのは嫌でしょう?」
「なにものだ」
森から響くように声が聞えた。それに構築の魔女は答える。
「H.O.P.E.です、そしてあなたと同じ、異世界から招かれたものです」
その言葉にカラマーゾフは驚き姿を見せた。
「お前も、私だけではないのか。帰る方法は?」
「わかりません、見つかっていないのです」
その言葉にカラマーゾフは明らかな落胆を浮かべて見せた。
「こちらの世界で生きてみませんか?」
「なに?」
カラマーゾフはいぶかしむ。
構築の魔女は自己紹介を含めて、この世界の内情を説明した。
H.O.P.E.が希望を正義を願う組織であること。
所属の選択が正しいかは不明。
「そんなわけで、この世界を見てみませんか? いろいろなサポートも受けられますよ」
そう構築の魔女は血に塗れた表情で微笑んで見せる。
するとカラマーゾフはバックパックから治療具を取り出した。
「いきなり撃ってすまなかった。罪滅ぼしもかねて、いったん話だけでも聞きに行こう。私は貴方を信用する」
「それはよかった」
告げると構築の魔女は手を差し出す。握手という文化は彼の世界にもあったようで、それにカラマーゾフは応じた。
「とはいえ、すべてを話せているわけではないのでそれはご寛恕願えればなと」
一人目の英雄勧誘完了である。
* *
次に契約が済んだのは、南アメリカに出没した英雄。テンシアである。
彼女は強さを求めていた。強さを打倒する事。また強くなること。
それに対しては適任があてがわれることになる。
『赤城 龍哉(aa0090)』である。
彼は『ヴァルトラウテ(aa0090hero001)』と共鳴。英雄との一騎打ちに興じた。
テンシアの武器は鍛え抜かれた肉体。
二人は泥と草にまみれて激しく殴り合っていた。
「いい筋肉だ! 殴られ慣れているしなやかな筋肉だ。相当な修羅場をくぐっているな」
テンシアは心底楽しそうに告げる。最初の内は龍哉の姿を見るなりゴキブリでも見るような表情で言葉を交わすのも嫌がったのに。
今や人形を与えられた少女のように表情がキラキラ輝いている。
「そりゃどうも」
右でのジャブを三度。牽制に間合いを取る。
リーチは龍哉の方が上である。適切な距離をとればテンシアは攻撃ができない。
だが、テンシアは龍哉をたった一つの技能に置いて上回っている、それは俊敏さである。
テンシアは拳にうたれることも構わず、逆にその衝撃を利用して体を回転、飛びかかるように左の拳を龍哉に叩きつける。
「女だからと手加減をしない点も評価できる!」
そんな彼女を見て龍哉はため息交じりに告げた。
「果てのない目標へ歩き続けられる奴でないと確かに一緒にいるのは大変そうだな」
――鏡を見てるようですものね。
告げるヴァルトラウテ。
「俺もお前もな!」
テンシアが体勢を崩したのを見て、龍哉は一気呵成に責め立てる。
吹き飛ばされる体をかかとでこらえテンシアは龍哉を見る。すると龍哉は空中にいた。飛びかかるように重たい拳を打ち下ろす。
その拳をテンシアはガード、地面に足がめり込むもそれを防ぎきる。
だが。
「これでどうだ」
右、左、それからの回し蹴り。旋風のように連打される打撃にテンシアのガードは突き崩され体が吹き飛んだ。
背後の岩を砕きながら叩きつけられ。濛々とたちこめる砂煙の向こうから。
テンシアの、降参という声が聞えた。
そんなテンシアへ共鳴を解いた二人が手を差し伸べた。
「今はまだ足りなくとも、一緒に高みを目指して行ける奴がきっと居る」
「H.O.P.E.へようこそ。歓迎致しますわ」
第二章 水の守り神
町の中を血管のように張り巡らされている水路。
その水路には多数の小舟が並ぶ。
この町ではいまだに船が一般的な交通手段として利用されているのだ。
そんな水路の船着き場に、場にそぐわない、スーツを着込んだ男が立っている。
そんな男の前に船を止める女性がいた。その表情はローブで隠されていて読み取れないが、がたいのいい男に怯みもせず一つ。
「どうぞ」
と現地の言葉で声をかけた。
『火蛾魅 塵(aa5095)』はそれに現地の言葉で返す。
「あと四名ほどよろしいですか?」
それに頷く水の巫女。
由利菜や龍哉が乗り込むと船が揺れるため、『人造天使壱拾壱号(aa5095hero001)』が船のヘリにしがみついた。
「どちらまで」
その言葉に塵はこう、返す。
「街並みが見たいんです。おすすめの場所を回っていただけますか?」
頷き船を出す巫女。だがその後ろ姿は張り詰めている。
「……火蛾魅と申します。単刀直入に……H.O.P.E.への勧誘に来ました」
そう塵が単刀直入に切り出した。
今回のミッションに関しては塵に策があるらしい。
だから龍哉も由利菜もそれを見守っていた。
内心ハラハラであったが、彼の改めた姿を見たときは驚いて圧倒されてしまった。
「それでも、彼女に変化があった場合は」
ヴァルトラウテが龍哉に耳打ちする。
「ああ、わかってる」
「その話は以前、お断りしました」
涼やかな声だった。
「分かってます、何でも……《罪》の為に、此処で朽ちる事を望んでいると」
英雄は振り返る。沈みゆく太陽を背に。その姿は儚げで寂しげだった。
「僭越ながら……私は数多くの人を。異形と化した家族をも屠ってきました、似た身の上の者です」
ピクリと巫女の眉根が動く、同時に、龍哉も由利菜も身構えた。
「……あなたの言われる過去が真実かを知る術は、私達にはありません。私は、あなたの過去を問い詰めることは致しません」
そう由利菜は釘を刺す。
「ただ……魂に刻まれた記憶は、自分を確立する上で必要なものであるとも理解しています」
「魂に刻まれた記憶……ですか」
巫女は視線を伏せた。そんな巫女にリーヴスラシルが言葉をかけた。
「その記憶を過去の事実として受け入れ、罪と感じているのなら……死んで償うとは逃避ではないか」
「……あなたがこの世界に英雄として現れた意味……よく考えてみて下さい。生きて償う機会を与えられた……そう考えられませんか」
「意味は、私では判断がつきません、けれど。きっと私はもう余計なことはしない方がいいのです」
そう怯える巫女に、その心をいたわるように塵が優しく言葉をかけた。
「……話だけでも、聞かせて頂けませんか?」
「そうですね、では、話せばあなた達は引くかもしれません、それにかけましょう」
巫女は語る。自分が巫女であるにも関わらず、海神に身をささげた存在であるにも関わらず、男性と恋に落ちてしまったこと。
そしてそのことを知った紙が洪水を起こしたこと。
「……それは本当に《贖罪》と言えるのですか?」
塵はそう言葉をかける。
「あなたに何がわかるのです? 取り繕っても腐臭が漂う。殺しなれたあなたに。」
「確かに私は悪党です。ですが……真に罪を償うならば、死なせた方の分まで《行動》すべきだと、こんな私でも思います」
「それは……あなたがやってしまった後悔を知らないから言えるのです」
そう巫女が告げると塵は一つ微笑んで、そして顔全体を手で覆った。
そのまま頭まで持っていくと髪型をぐちゃぐちゃにくずし、そして煙草を吸い始めた。
「フー……ヤメだヤメ! 無駄だ、帰るぜ」
告げると塵は船のヘリに手をかけて巫女を一瞥。
「諦めていただけたんですね?」
「ちげぇよ? 《誘った所で使えねぇ》って意味だぜ?」
そう他のリンカーに言い放つ塵。
「何のこたぁねぇ。このアマ《罪》から逃げてんよ」
巫女はフードの向こうで目を見開いた。
「じゃあ《贖罪》って何だよ?」
「罪が注がれるその日まで耐えることです。」
「罪と罰? ソイツぁ誰が決める? テメェか? 違ぇだろ」
巫女は目を見開く。言葉を返せない。
「テメェは自分で罪と罰を決めて逃げてんのさ。ご丁寧に同じ世界の奴が居てもバレねぇ様に身まで包んでヨォ?」
「本当は怖ェんだろ? 殺した連中のコト、想像すンのがヨ?」
「ってこった。こンなアマ、誘ったって周りを死なせるだけだぜ」
その言葉に怒りをにじませる巫女。
そんな彼女のフォローに回ったのは龍哉だった。
「ごめんな、こんな奴を連れてきちまって。こいつの言葉が本当ってわけじゃない」
龍哉は逆に腰を据えて街並みをみわたした。
「洪水の件は、確かにそれで困った連中もいるのだろうが、それで滅んだ訳ではないだろう」
「実際のイタリア・ヴェネツィアには、“アックア・アルタ”と呼ばれる事件があったようです。あの事例を鑑みるに、人間はそこまで簡単には滅びませんわ」
戦乙女であるヴァルトラウテが言うと説得力があるな、なんて思いながら龍哉は言葉を続ける。
「罪の意識があるというなら、逆にH.O.P.E.での活動をもって罪滅ぼしとしてみてはどうかだ?」
「今、私達は力を欲しています。今までの戦いも、これからの戦いも、もっと手があれば救えた。そんな事件が沢山置きました」
「人間が嫌いでないなら力を貸して貰えると有り難いな」
「このまま何もしなければ、いつ愚神や従魔があなたのいる水の都を襲わないとも限りませんし」
「私は、望まれているでしょうか。私は戦っていいんでしょうか」
そう言って、船の上に座り込んでしまった水を司る巫女。
そんな彼女に手を差し伸べたのは塵。
「ちげーだろ。《俺ら》はよ?」
巫女は顔をあげた。
「考えンだよ。殺しちまった奴等が、俺らに何を望むのかをよ。んで、戦って責められて傷付くんだよ。連中が出来ねぇ分、何十年もよ。その先に《答え》ってヤツがあンじゃねーのか」
そして塵は背後を見る。そこには水の中を覗く人造天使壱拾壱号を眺める。
「…………俺ぁコイツと、H.O.P.E.で血を流すぜ。そうすりゃ《計算式》は見付かると思うんだよ」
「…………」
「……姿を隠して何も行動しねぇ奴に。《答え》なんざ永久に出ねぇよ。もう誘わねぇ、あばよ」
そう船から飛び出そうとする塵の裾を引っ張って龍哉と、由利菜が引き止める。
「待ってください」
「途中で投げ出すなよ!」
そんな様子を見て、水の巫女は小さな笑い声をあげた。
まぁ、その笑い声が穏やかではなかったのだが。
「言っていることはよくわかりました。それが贖罪になるのか、私が罪を重ねないかわかりません。だから、その後はH.O.P.E.で見極めようと思います」
その言葉に龍哉と由利菜は瞳を輝かせた。
だが水の巫女はまだ異様な雰囲気を醸し出している。
「ええ、それに私負けっぱなしって趣味じゃないので。なので、その青年がどんな末路をたどるか見届ける意味も込めてどうこうしようと思います」
その言葉に塵はにやりと笑う。
「……やっぱ、口説くなら女だな」
「…………口説く? 」
相棒が首をかしげる。
「ッハ! 間に受けんなよ。計算だぜ?」
第三章 光の者と暗き者
エジプトの日差しは日本の冬からすると温度差で風邪をひきそうなくらいに暑かった。そのピラミッドに突然居を構えてしまった英霊に『雪ノ下・正太郎(aa0297)』と構築の魔女は会いに行く。
王の間に通されると二人は平伏する。
「この度はお目通りの機会をいただきありがとうございます、雪ノ下と申します」
「構築の魔女と申します。H.O.P.E.の名代としてお話にまいりました」
「よい、表をあげよ」
そう、尊大に告げるとハーシェマカーンと名乗る英雄は足を組み替えた。
「麗しい見目と透き通るような声。王自らお会いいただけるとは恐悦でございます。臣下の礼をとらないことにはご寛恕願います」
さっそく構築の魔女は自分たちが赴いた目的、そしてこの世界について説明を始めた。
科学や霊力と言った技術がこの世界の主力となり、おそらく世界は、ハーシェマカーンの思うものとは様相が異なっていると。構築の魔女は告げる。
「愚神や従魔と呼ばれる敵対存在もおります」
「ほう、愚神。それを倒すために我が呼ばれたとな」
「こちらに呼ばれた時点で記憶も欠損するようですが……」
「うむ、記憶を取り戻すために情報は欲しいと思っていたところだ。我としては興味もわいた。H.O.P.E.に協力することもやぶさかではない」
「王のお望みの人材をご用意させていただく用意はございますが、その中でも選りすぐりの者をお引き合わせさせていただくべくお話を伺いたく存じます」
正太郎はそう告げる。
すると王は、自身に礼を尽くす者、逆らわないものと答えた。
「では王はどのような崇敬をお望みでしょうか? 私は王に、王を真に崇敬する者と巡りあっていただきたいと思っております」
「うむ。お前は我に対し忠実であるな、気分がよい」
「しかし王」
その言葉に意を唱えたのは構築の魔女。
「礼は強要するものでもされるものでもないと思うのでどうでしょう?」
「ふむ、確かに、強いるのは王の器ではないな。わが煌きによって魅せることとしよう」
告げるとハーシェマカーンは重たい腰を上げる。
「では早速、そのヘリとやらに案内せい」
大仰な英雄が一人、H.O.P.E.に増えたのだった。
* *
日本の夜の街を徘徊する男、夜迷いの目の前に小柄な英雄が現れた。
それの名前は人造天使壱拾壱号である。
その小さな手には手紙が握られており、そこには『強制は一切しない、命掛けの事をイヤイヤされてもむしろ邪魔。話だけ聞いてみろ』そう書かれていた。
夜迷いは近場のカフェに視線を移すとそこに、由利菜や『世良 霧人(aa3803)』がおり、手を振っている。
店内に入り夜迷いは『エリック(aa3803hero002)』に示されるまま席に座った。
すると霧人が語りかける。
「あのー、他の世界から来た方ですか?」
「オレ達な、H.O.P.E.ってとこでエージェントやってんだけど、英雄になってくれる人をスカウトしに来たんだぜ!」
「ああ、おそらくそれで間違いないと思うんだが。それで君たちはいったい何の話があって」
夜迷いが戸惑いの声を上げる目の前で霧人は共鳴。自分の身元を証明すると共にデスマークによって位置がわかるようにした。
「戦いか、僕には少し難しい気がする。怖いし、何よりブラックそうだ。寝る間も無い気がする」
彼はどうやら自分の命の危険よりも、馬車馬のごとく働かされることに嫌気を覚えているらしい。
「僕は中学の教師との兼業でやってるんです。エージェント業一本って人もいますけど、学生や他の仕事と両立してやってる人もたくさんいますよ!」
「大変な時は休んで良いんだぜ?それで体とか心とか壊しちゃったら元も子も無いんだし。というか、オレ自体そんなに依頼には行って無いしな。真面目な戦いの時はもう一人の方が行ってくれるし」
「まあ、どれくらい依頼を受けるかは契約した人と要相談ですね」
なるほど。と夜迷いは頷いた。
それに由利菜は注釈として自分の体験談も付け加える。
「HOPEのエージェント業は、専属ではなく他のお仕事との兼業の方も多いのです。私もそうですね」
「ユリナは学業とファミレスのバイトをしながら、私は教鞭を執りながらな。私の仕事は週休2日制完備だ」
「大変ではありますけれどね。学園生活と一緒にできるのは『今』だけですから」
「それはお金になるのかな?」
「まぁ、そこそこですね」
そう霧人は苦笑いを浮かべる。
「英雄は能力者と誓約というものを結ぶと聞いた。それは絶対守られると思っていいのかな」
「そうですね、破ってもいいことはないですから」
霧人が告げると、夜迷いは週休二日を希望した。
「もちろん完全週休二日だ」
それを聞くとエリックがこける。
「……誓約、そんなんで良いのか? もうちょっと何かねえの?」
「参考までに君たちは?」
「今一緒に居るエリックが、”この世界の絵を描く”事。もう一人の第一英雄が”僕に仕えさせて下さい”って頼まれたんだ。元の世界で執事さんだったらしくてね」
「なるほど……」
「経済的に余裕のある人なら、その内容でも大丈夫だと思いますよ」
「ただ、自らが望む誓約内容を、H.O.P.E.や能力者側にしっかり伝える必要はあるな」
リーヴスラシルがそう告げる。
――私はこの世界に呼び出された時、愚神に襲われ瀕死のユリナを救う為、契約を結んだ。だが……私が覚えていた誓約術は、ユリナの過去の人間関係を全て断ち切るものだった。
「英雄と契約したくて、身勝手に振る舞った結果でした。H.O.P.E.の救いの手も信じられず……ラシルを憎んだこともありました」
由利菜は紅茶のカップをゆっくり置くと夜回りを見つめる。
「それでも……H.O.P.E.は私への支援を止めなかった。そしてラシルは、私をずっと守り、ここまで導いてくれました」
「ユリナと契約したからこそ、今の私がある。……あなたも、支え合える能力者がいれば光が見えるはずです」
「最後にひとつ。絆とは……育てるものだ」
告げるとリーヴスラシルは手を差し出す。
「H.O.P.E.へようこそ」
その手を夜迷いはとる。
「寝床と金は必要だからね、正直困っていた」
そんな夜迷いに一枚、エリックは絵を差し出した。さらさらと鉛筆だけで書いたものだったが、クマを持って笑顔を浮かべた夜迷いの表情は穏やかそうだ
「オレ、こんな風に笑ってる夜迷いさんが見たいな」
「いつか誓約を果たせたなら、君たちに会いに行こう」
そう疲れた笑みを、夜迷いは浮かべるのだった。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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