本部

広告塔の少女~煌びやかにメリークリー~

鳴海

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
4日
完成日
2017/12/24 09:59

掲示板

オープニング

● 今回のお客は一味違う?

 高額所得者とはなぜあれほどまでにパーティーが好きなのだろう。
 グロリア社お抱えのリムジンに乗りながら、着飾った遙華は窓の向こうにため息をつく。
 この忙しい季節だというのに、何かにつけてパーティー、パーティー。あまり人前に出ることが得意でない遙華は連日開催される社交界に頭を痛くしていた。
 このままぶっちしてやろうか、そう肘まで覆う手袋の裾を弄びながら思う。
 けれど、すぐに自分の理性的な部分がこう反論するのだった。
『みんなが押し上げてくれたこの地位を、むざむざ捨てることはない』
 わかっている、そう自分に苦笑いを返して遙華は再び窓の外を眺めた。
 これだけ寒いのに雪も降らない。
 いっそ雪が降ったなら、タイヤが悪かったせいにして一時間程度遅れていくこともできただろうに。
 そう遙華は何度目か分からないため息をついた。
 そんな様子を黙って見守っていたロクト。
「遙華……」
 ヒッと肩を揺らす遙華。胸の内が聞かれていなければいいと思いながら振り返る。
 するとロクトも重た~いため息をつく。
「どうしたの? ロクト美人が台無しよ」
 遙華は告げてロクトを上から下まで眺める。
 それほど露出しているわけではないのにスタイルがいいからか扇情的で、紫と黒をあしらった薄手のドレスは似合っていた。
 見様によっては上品にも下品にも見えるのはその雰囲気を狙って出しているとのこと。
 色気は武器だそうだ。遙華は一生理解したくないなと思う。
「おじい様からの無茶ぶりよ」
 おじい様、それは遙華の祖父であり、現グロリア社社長。
 グロリア社内でも重役中の重役であり。
 最近急上昇している日本グロリア社の売り上げ、知名度。もろもろ全ての恩恵を遺憾なく振りかざすそのお人。
 ちなみに遙華が広告塔の少女なぞやらされているのは、ひとえに『おじいさま』の力添えと、お言葉あってこその事だ。
「全て皮肉だけどね」
「おじい様が各界の重鎮を招いたクリスマスパーティーで余興をせよとの仰せよ」
 遙華は驚いた。去年までおじい様に溺愛されている遙華ですら入り込めなかった世界の最高権力者が集まるパーティー。
 今年ようやく招待されたかと思えば、まさかそんな大役を言いつけられることになろうとは。
「なんでも日本の文化を知りたいらしいの、受けてくれる? 準備の時間が二週間しかないのだけど」
 かなりの無茶ぶりである。スケジュール調整。ステージに向けての練習。演出の合わせ、音響機器の選定、その他もろもろ全ての校訂をたったの二週間で終わらせろとは事実上無理であるが。
 遙華は断る気はないようだった。
「グロリア社、日本支部の傘下から抜けるにはまだまだ時間がいるわ。ここはおじい様のご機嫌取りをしておいた方がいいかと思うの」
 ロクトは告げる。その言葉に遙華は同意する。
「ええ、そうね。そうさせてもらおうかしら。私の手腕を見せつけるいい機会でもあるし」
 そう遙華は不敵に微笑んだ。
「堂々としてきたわね」
 ロクトの言葉に遙華は首を振る。
「ちがうのよ、私は私の素敵な友人を見せびらかしたいだけなのよ」
 そして自分も皆のステージが見たいのだ
「今年ラストのイベントは上流階級相手のコンサート。動員数は見劣りするかもしれないけど、チャンスは今までの比じゃないわ。頑張りましょう」
 告げると遙華は前を向いてパーティー会場への到着を待った。
 今回のパーティーは適当に話を合わせながら、ライブの構想を練ろう。
 そう考える遙華を乗せて。黒の高級車は冬の冷えた空気を切り裂き、先へと進む。


● クリスマスライブをしよう。

 今回の観客動員数は150名、
 舞台はもともとオペラで使用していた超設備を貸してもらえることになったのでこれは詳しく後述する。
 観客の人数は普段よりかなり少ないが、グロリア社幹部。一枚十億の値がつく油絵の画家。H.O.P.E.のお偉いさん。各企業の社長たち、ハリウッドの監督。映画賞の男優賞を総なめにした演者。一日に億単位で稼ぐトレーダー。怪しい情報屋。様々な人間が現れる。
 ここで名前を売ることができればかなり大きなチャンスとなるだろう。
 ここで皆さんには余興として、パフォーマンスを行っていただきたい。
 余興の演目は皆さんにまかせるが例を挙げるなら。

・歌や踊り
・模擬戦闘
・演劇

 等々、見ごたえのあるものを所望する。

 さらにはパーティーでの出席も許されている。あまりお行儀の悪い行動は怒られるが。食事も飲み物も取り放題なので、適度に緊張をほぐしてほしい。

 
● ステージの大きさ。

 高級ホテルの特大ステージを利用可能である。
 このステージは観客席を中心に舞台が回転する。
 よって舞台は円状で奥行き10M、外周150M程度の円形である。
 この回転装置は好きに使って演出していただいて構わない。
 さらに舞台上には床に穴が開いていてすぐに退場できるようになっていたり。
 様々な機構が追加で設置できるようになっている。
 演出で突然現れたい。突然消えたい。ライトエフェクトに凝りたい。
 ドライアイスの煙で幻想的な演出をしたいなどあれば遠慮なく申し出てほしい。
 今回のライブは資金力の桁が違うのである。
 
 ただ、ライブ会場と食事会場は別なので。演目が始まるごとに人が行き来することだけ注意である。

 楽器も様々に準備できるので要求していただければと思う。


解説

目標 パーティーライブを楽しむ
 皆さんにやってほしいことを要点としてまとめると下記になる。

・ お偉いさんたちをライブでもてなす
・ クリスマスパーティーをちょっと優雅な感じに過ごす


 なので皆さんの役回りをわけると下記のようになる。
・ ライブ要員、アーティスト
・ お偉いさんの接待要員(セクハラ注意)
・ 遙華やアーティストの護衛


 ただし上記はあくまでも例なので、それ以外にやりたいことがあればやっていただいて構わない。

 OPで大仰なことを言っているが、皆さんには普段と客層が少し違うパーティーだと思ってほしい。
 なので、ライブ以外にもパーティー会場での交流などのシーンを作っていただいても構わない。
 特に久しぶりにECCOと合えるようなので。遙華も楽しみにしているようだ。
 ECCOと話をすると。年始からはじまるPV撮影。
 ECCO主催の日本アーティスト世界ツアー。
 プライベートのお誘いなど、いろいろ話してくれるかもしれない。
 

リプレイ

プロローグ
「お歴々を招いてのパーティーかぁ。ボクらリンカーアイドルや、いつもお世話になってる遙華の名前を売るチャンスだね」
 そう『小詩 いのり(aa1420)』が告げると、遙華は苦笑いを浮かべる。
「ええ、そうなのだけど、な…………なんだか緊張しちゃって」
 ここはパーティー会場がある施設の化粧室、と言っても遙華が私的に用意した客室で中のいい人間とたむろしているだけなのであるが。
 それは遙華の心理状態にとても良い影響を与えた。
「頑張ろうね、澄香、すずちゃん」
「あ、はい~」
 メイク中の『卸 蘿蔔(aa0405)』である。マスカラをぬっているので返事がおざなりになってしまった。
 ちなみにメイクを担当しているのは『レオンハルト(aa0405hero001)』。
「もちろんモノプロの宣伝も忘れてないよ」
 ばっちり準備を整えた『蔵李・澄香(aa0010)』がでーんと構えて告げる。
 その恰好は清楚な和服衣装と相まって少しおかしかったが。
 確かになるほど、黙って立っていればパーティー会場に咲く一輪の桜である。
 桃色の着物は彼女に似合っていたし、青緑を基調とした和服に身を包むいのりと並ぶと絵になる。
 そんな二人を横目で眺めながら『セバス=チャン(aa1420hero001)』は新しく刷った名刺を『クラリス・ミカ(aa0010hero001)』に差し出した。
 HP整備にあたって移転したので書き込みが必要であったのだ。
 活動実績や社会貢献、メンバーのリンカー、アイドルの力量を客観的にアピール。ルネシリーズの概要も物語仕立てで掲載。
 準備は万端である。
「よいですか? 澄香ちゃん、慎ましく、いつものように大食いではだめですよ」
「大丈夫、教えられたとおりにすればいいんでしょう?」
 クラリスの難関マナー講座も潜り抜けた二人である。
 意気込みは十分。
 そんな中、パーティー会場の扉が開け放たれる時間が来た。
 遠隔カメラで会場の様子を眺める一同。
「……聞いてはいたが錚々たる顔ぶれだな」
「……ん、スポンサー……出来る?」
 そう『麻生 遊夜(aa0452)』と『ユフォアリーヤ(aa0452hero001)』は顔を見合わせた。
 本日の役割はSP。よって黒づくめのサングラス、いかつい雰囲気である。
「任せたわよ」
 遙華が告げると二人は頷いた。
「ま、俺達の任せときな」
「……ん、頑張るから……ね?」
 そうユフォアリーヤに頭を撫でられて、緊張がほどけていく思いの遙華であった。

第一章 会食

 開会のあいさつもそこそこに、遙華は早速本日の催しのラインナップを披露していった。
 皆この日のために集められた新規精鋭である。
 完成されたトップアーティストとはまた違う魅力をお楽しみください。
 そう案内されて最初に壇上に登ったのは金糸の姉妹『イリス・レイバルド(aa0124)』と『アイリス(aa0124hero001)』。
 クリスマスという季節を飾るにもっともふさわしい二人と言えよう。
「まぁ、妖精だしね」
「お姉ちゃん、なんだかいつもと視線の種類が違うよ」
「いつも通り愚神だと思いたまえ」
「…………それは、笑えない状況になっちゃう」
 遙華によるタイトルコール『白雪の音~snow~』は金属質なさざめき。アイリスの羽音から始まった。
 まるで冬の訪れのように。
 白紙の地図に足跡を刻むように。
 真っ白なキャンパスに絵の具を塗るように。
 冬の朝、初めてその冷たさに触れた少女の喜びのように。
 沸き立つ感情を。沸き立つ感動を、音で表現した一曲である。
 物事を始める興奮と好奇心を象徴しているとアイリスは語った。
 白雪のお淑やかそうなイメージからあえて外した賑やかで元気の出る歌。
 パフォーマンスも進化を遂げている、特殊な技術で床にライブスをはり、その上をスケートのようにしなやかに滑らかに移動する二人。
 その奇跡には金色の光が舞う。
 そして中央で二人は大きく飛んだ。客席上空でぶつかるように共鳴。
 そのまま羽を利用して滑空したイリスは再び舞台へ戻る。
 また光の中で分離。大きく両手を伸ばすイリスを捕まえて、土台となって一緒に走った。
 耳に反響するフレーズ。癖の強さを盛り込みつつ。
 それでいて歌う時には技術のいらない誰でも歌える癖のなさの両立を図っている。
 『ふと口ずさみたくなる』を目指した歌だという。
――希望の音……原点回帰で考えるが、希望とは何だと思う?
 そう共鳴中にアイリスは問いかけた。
「むずかしい事はわからないけど……元気が出ることじゃない?」
 そう間奏中にイリスは答えた。
 そんな最高のパフォーマンスを背景に交流会は盛り上がりを見せる。
「何かアタシ達、ものすごい場所に来ちゃったんじゃない?」
 『ルナ(aa3447hero001)』がそうあたりに視線を巡らせる。『世良 杏奈(aa3447)』がそんなルナを抱きかかえて告げた。
「場違い感が半端なくあるけど……。せっかく遥華ちゃんにお呼ばれしたんだし、盛り上げられる様に頑張りましょ」
 実際、客の人数はそこまで多くない、けれど、テレビで見たことがあるような顔ぶれも沢山いて。お腹が痛くなり始める蘿蔔。
(あわわわわ……お、お客さんがやばい。今更ですがグロリア社ってやっぱりすごい会社なんですね)
 そう銃士隊風の衣装、そのマントを翻し、蘿蔔。いや魔銃少女レモンはパーティー会場中心へと躍り出る。
(というか大丈夫ですかレオン、失礼とかしないでくださいね!?)
「するわけないだろう、蘿蔔じゃないんだから……」
 そう涼しげなレオンハルト。
(そうですね……レオの方が、私よりも歌もトークも上手だし、立ち振る舞いも綺麗だし……ううぅ)
 実際、すでに五人ほどの人間と言葉を交わしているが、どんな質問や言葉にもそつなく対応するレオンハルト。
「褒められてる気がしないんだが」
 そう苦笑いをかみ殺して和服の老人と握手を交わす。
 そんな中、グラスを空にして突っ立っている遙華を二人は発見した。
「遙華……調子はどうですか? 困ったことがあったら遠慮なく頼ってくださいね」
「ありがとう、蘿蔔……? あ……」
「飲物を持ってきましょう、少し休んでいてください」
 そう遙華のグラスを受け取るレオンハルトである。
 そんなパーティー会場も最初の内は職種や見知ったもの達で固まるというもの。
「ECCO様、ようこそいらっしゃいました。ごゆっくりお楽しみくださいませ」
 『九重 陸(aa0422)』はそうECCOの隣をやんわり歩いて、ドリンクコーナーまで案内する。
「遙華様のご友人のエージェントが、ただいまライブ会場にて一芸を披露しております。よろしかったらご覧になってくださいね。わたくしたちも、後ほど一曲披露させていただきますので」
 そう告げたのは『オペラ(aa0422hero001)』だ。
「私にはそれほど気を遣わなくていいですよ、知らない中ではないですし」
 そうECCOは告げる。確かに仕事で同じ席に着くことは何度かあった。
「今日の演奏、楽しみにしていますね」
 そうECCOが告げると本日の演目を担当する陸の周りには音楽家の皆さんが集まっていた。
「彼の演奏は何度か聞いたことがあるけれど、とても深みのある音を出すのよ」
 そうECCOがいつもと違う口調で陸を紹介する。
が反応に困っている陸の後ろで佇んでいる。
「いえ、僕はまだまだです。僕はステージで一度も自信を持てる演奏をしていないので」
 そうドリンクで口を湿らせると陸は入り口に視線を向ける、すると一人困った様子で当たりを見回している女性がいた。
 その女性を陸は知っている。
「ああ、あの絵を描かれた画家とこうしてお目にかかれるなんて! 感激です…。私も、しがないながらも芸術家として、深く感銘を受けております。あの、もしよろしかったら、握手なんかを……い、いえ、失礼しました。どうかお忘れください」
 そんな煌びやかな空気の中に紛れて、何かほの暗い。というか。少年少女たちでつるんでいる時には感じない空気があり。
 それに対して蘿蔔は警戒心を示していた。
 まさか武器を抜く人間はいないと思うが。
 とりあえず全員の人となりを把握するためにレオンハルトが動く。
 そうしているうちに、蘿蔔は理解した。彼らはビジネスチャンスを狙っているのだ。
(パトロンを得るチャンス……ですねぇ)
 あとは、その体。
 先ほどから視界の端に映る男性がいて、その男性が一気に距離を詰めてきた。
 その手が腰に回ろうとする。
 その手にレオンハルトはわざと手を合わせ「あら」なんて偶然を装ったふりをしてなんでもない会話を転がす。
(あの、私の体なんですけど……)
 言われるまでもなく触らせるつもりはない。そうレオンハルトは無言でその意志を示した。
(まぁ、自分としても気持ち悪いしね)
 そんな風に会場を警戒していると、見知った顔が固まるエリアに出た。
 たとえば『天城 稜(aa0314)』と『リリア フォーゲル(aa0314hero001)』。
 たとえば『アル(aa1730)』。
 『雅・マルシア・丹菊(aa1730hero001)』はいつものカメラ役か、別の思惑か近くにはいなかった。
「あら、二人とも、久しぶりね」
 そうECCOが二人に微笑みかけると。アルが告げた。
「今日は聞いてほしい曲があるんだ」
「昔共演させてもらったhackのお礼で」
 そう稜が告げると手渡したのは歌詞カード。
「曲名は、実は確定してなくて。……つけてくれたら嬉しいな」
 そんな二人に柔らかく笑みを向ける。ECCO。
「楽しみやわぁ。ひょっとして、次の曲なん?」
 嬉しみのあまり普段の口調に戻るECCO。曲が終わったことに関して問いかける。
「えっと、次はたしか……」
 そうアルが広げたパンフレットを三人で覗き込むのだった。
 ちなみに、舞台から遠くに降りたはずのイリスは机の下で丸くなっている。
「何でこんなことに?」
「何時も通りの遙華さんの招集じゃないか。何かおかしな事でもあるかい?」
 アイリスが隣で体育座りしてドリンクをぐいぐい飲んでいる。彼女の翼と同じ色のシャンパンだ。
「いつもどおりというのがまずおかしいんじゃないかな?」
「受け入れたまえよ、トップアイドル」
「お手伝い!」
 いつもより過剰に怯えている気がするイリス。
「やはり、場の空気かい?」
「なんというか、目線が……さわやかな笑顔の裏にねっとりとした視線を隠しているような?」
 イリスはそう答えた。
「まぁ、大成した人物というのは腹に秘密の10や100くらいは抱えているものだよ」
 そうあっけらかんとアイリスは答える、机の下からボーイを呼びとめ別の飲物を口にした。
「なんでこんな場所にいるの?」
「遙華さんに呼ばれたからだよ。何時も通りじゃないか」
 そして話はループする。

第二章 聖夜のステージ

 一般ピーポー『柳生 鉄治(aa5176)』はその光景に戸惑いしかない。
「くそっ、こんなとこ、来たことねえぞ。VIPだらけじゃねえか。」
 其れとは対照的に落ち着いている、むしろ水を得た魚のように輝きを増している女性は『マリアンヌ(aa5176hero002)』。
「鉄治。なにをきょろきょろしているの」
「礼服なんか着たことねえしよ……」
 そう服の裾を持ち上げる、マリアンヌにひん剥かれて着せられた一品だったが、いったいいくらするのだろうか、この衣装。
「だから私が見立ててあげたんじゃない。五体投地して感謝なさい」
「……いくらしたんだ、これ?」
 疑問を口に出してしまった鉄治。
「あら、聞きたいの??」
「……やだ。」
「そもそも、衣装なら、他に言うことがあるんじゃないの?」
 そう腰に手を当てて前かがみになるマリアンヌ。
 その光景から鉄治は視線を逸らした。何で夜の服はこう露出が多いのだろうか。
 しかも生地が頼りない。
「あ……いや……」
 顔が真っ赤になる鉄治である。がそれがマリアンヌにとって面白くない。
 マリアンヌは自分は称賛されるのが当然だと思っているためである。
 そんなマリアンヌだったが、そのいぶかしげな表情のままにステージに視線を移す。
 その先の演奏家たちを眺めて驚くべき一言を告げた。
「…………なってないわね。ショパンはもっと上手かったわ」
「…………さりげなくすげえこと言ったな、今」
 その驚きのあまりずんずんとステージに近づくマリアンヌを鉄治は止められない。
「いいわ、本物をみせてあげる。あなた」
 そうピアニストを指さして手招きするマリアンヌ。
「弾かせてあげるわ。楽譜が欲しければ15分待ちなさい。書いてあげるから」
 その十五分の間に人だかりがステージの前にできるのだが、マリアンヌは全く気にしない。
 ロクトはその光景を楽しそうに見守っていた。
「いくわよ、オペラ『マノン』第三幕、『私が女王様のように歩けば』」
(まんまじゃねえか)
 その思いを胸に隠し鉄治は黙ってマリアンヌを見あげた。
「群衆に着飾った姿を褒め称えられて有頂天になる主人公・マノンの曲よ。芽生えて開花していく魔性、感じたことのない悦びを覚えるマノンの姿。とくと味わいなさい」
 歌声は会場を震わせる。
「…………マジかよ、空気が震えてやがる」
「ドレスを着ててちょうど良かったわ」
 そうにやりと笑うマリアンヌ。
 彼女の演奏が終わると、陸とオペラが壇上に上がった。
 陸がヴァイオリンを演奏しそしてオペラが歌うのだ」
「四国での戦いはまだ記憶に新しいが、それでもこうしてクリスマスを祝う事が出来ています。災難に見舞われても滅びずに立ち上がるのが日本の文化の強さ。
それを伝えたくて歌を作りました」
 そして弦に指をかけると引く動作直前で一瞬動きを止める陸。
「曲名はまだ考えいません」
 そしてその弦の人引きで会場を飲んだ。
 続いて響くオペラの歌声が、場にたまっていた空気を浄化していく。


―― 一人で食べるケーキはいらない
   一人で飾るツリーはいらない
   窓の外には荒れ果てた街
   きっとみんな同じ一人ぼっち

   こんな夜でもあなたがいれば
   暖かいクリスマスなのにな

   今度こそ、今度こそ、大切な人たちと
   テーブル囲んで笑い合いたい
   最高の冬の日に

 今この一瞬だけは、全員の意識が統一された。誰も話している者などいない。彼女に視線が注がれている。

―― あなたと食べたケーキの味も
   あなたと見てたツリーの色も
   私は今も覚えています
   もう二度とあなたに会えなくても

   失ったもの数えていても
   同じだけ時間は過ぎてゆく

   今度こそ、今度こそ、幸せになれたなら
   私はまたここで祝いたい
   最高の冬の日を

 謳い終えた余韻を残しオペラと陸が退場する。
 その最中も、人が続々とステージ前に集まってくる。
 そんな中バトンタッチされるのがアイドル組。
(あわわわわわ、すごい注目度です)
 頭の中でうるさく騒ぐ蘿蔔を放っておいて、レオンハルトはピアノの前に立つ。
「一曲、とても伝えたい曲があります」
 レオンハルトは告げると、その曲をインストュルメンタルで悲しげに引く。
 曲名はカナタ。
「遥か彼方に去ってしまった、友人の背中を思った曲です。皆さんにもこんな人もいたのだと。皆さんに知ってほしい」
 そして一際強く鍵盤をたたくと、カナタの別パートも乗る。
 その曲に合わせていのりと澄香が厳かに登場する、彼女らはシスター服で祈りをささげるように目を閉じて謳う。その曲はこの季節よく耳にする曲。クリスマスキャロルへと繋いだ。
 その讃美歌に三人は声を重ねる。 モスケールのエフェクト機能により、客席に幻影の雪を降らせながら、天に伸ばすように。
 三パートからなるその歌は荘厳で聖なる夜にふさわしい清廉な空気を生み出していく。
 ただ、澄香がパッと目を開くと悪戯っぽく笑って。
「アイドルっぽく行こう」
 そう告げた。次の瞬間転調。
 するといのりも澄香も手拍子を重ねて笑い合いながらポップ調に同じ曲を謳う。
 レオンハルトもいたずらに鍵盤を撫で。
 温まった場の空気に合わせいのりと澄香は手を振って自己紹介した。
 イメージプロジェクターの効果によって溶けるように二人の衣装はアイドル衣装へと転じていく。
「今日皆さんにきいていただくのは、僕らが希望と呼ぶ曲」
「そのクリスマスアレンジになります」
 ルネという少女の名前を出して、彼女の事を紹介し。自分たちの活動についても軽く説明した。
 詳しく聞きたければおそらく、セバスや自分たちに声をかけるだろう。
 その程度の情報量をもたらしたところで『聖夜の音~La Pucelle~』を謳う。
 周囲にエンジェルスビットが舞い散り。澄香はいつもの魔法少女姿で周囲に雪や鐘や星をばらまく。
 マジックブルームで宙に浮き、祈りの周りをくるりと回るとBフレアで満月など、リンカーアイドルの特徴を存分にアピールします。
「これにて演目は終了です。もっと見たい方は僕らの活動を追ってくれると嬉しいな」
「来月にはライブも企画しています。詳しく知りたい方はHPをチェックしてください!」
 そして一際大きい輝きと共にフロアは赤と緑の輝きに包まれ、音が静まっていく。
 会場は拍手で埋め尽くされた。


三章 ホットワインをご所望か

 次の演目は打って変って音楽性のないものだった。
 むしろものものしい雰囲気すら漂っている。
 黒づくめの遊夜。そして魔法少女ルナティックローズを名乗る幼女が壇上に上がったのだ。これはなんだとざわめいても仕方ない。
「一丁魅せるとしようか!」
「……ん、派手に行く」
 その言葉を合図に遊夜は共鳴、そして銃声を鳴り響かせた。
 舞台上に生成される障害物。
 飛びずさるように距離をとるルナ。
 周囲に浮かべた魔術弾を遊夜に浴びせると爆炎が彼を包む。
 しかしその爆炎の向こうから的確にアンカー砲を射出。天井の骨組みに絡めて上空を取り、ガトリングにてバレットレインを。
 その攻撃を走って回避。障害物の影に隠れてやり過ごそうとする。
「好き勝手やってくれちゃって」 
 そう魔力を充てんすると、ルナは躍り出てそれを放つ、すると跳弾した弾丸がその魔術弾に殺到してバラバラに砕いてしまった。
 あわてて障害物に隠れるルナ。
 素早く遊夜は障害物の影に滑り込んだ。
 ガトリングを投げ捨てて、代わりに握る44マグナムの弾丸が空気を叩く。
 瞬間に三発放たれた弾丸は幼女を吹き飛ばすのに十分な威力であった。
 その吹き飛ぶ体をアンカー砲で絡め捕り拘束。
「チェックメイトだ」
 銃身に込められる膨大な霊力。
 その霊力を圧縮し放つと大爆発を引き起こした。
 爆煙があたりに立ち込める。
 倒した、そう言わんばかりに武器をしまい込む遊夜。しかし次の瞬間目を見開くことになる。
「な?」
 そこには箒に乗るルナが佇んでいた。
 あの一撃では倒れなかったのだ。
 魔術を警戒して距離をとるルナ。しかしルナはその箒から飛び降りて飛び蹴りをかました。
「な」
 次いで吹き飛ぶ遊夜にサンダーランスを放つ。
 それが直撃して遊夜は舞台裏に吹き飛ばされていった。
「うむ、中々迫真の演技だったんじゃなかろうか」
 体の痛みに耐えて起き上がる遊夜。そんな遊夜の頭を自分の膝の上に持ってきて満足そうに笑うユフォアリーヤである。
「……ん、頑張った!」
 舞台上でお辞儀をしているルナと杏奈。
 拍手喝采の出し物となった。
 
   *    *

 一通りの出し物を観終わったあとは口も良く滑ると言うもの。
 会場も先ほどより騒がしくなりつつある中。
 澄香は和服に戻り。みかんキャノンの砲弾をライヴスフードとして提供していた。
 中には霊力が通った食べ物を食べたことのない物が大勢いて、物珍しさからも好評であった。
 そんな澄香やいのりたちを尻目に、クラリスとセバスは黒いドレス、スーツに身を包み。今見たパフォーマンスの感想を聞いて回っている。
「リンカーアイドルはまだ新しいジャンルです、それがどれほどの市場に影響を与えているのかをお聞きしたいです」
 色々な業界でリンカーアイドルはどのように捉えられているのか、リンカーは個人で出来ることが多い分、既得権益との対立を懸念の情報収集である。
 同じように雅も売り込み走っていた。
 アイドルと言っても自前で曲を用意している彼女たちはできることが幅広い、特に音楽関係の人間には興味を持たれた。
 そんな雅がふと、ステージの方に耳を傾けるとざわめきが響いてくる。
「始まったのね」
 本日最後のイベント。
 アルと稜のユニット『アンサング』によるパフォーマンスである。
 二人は舞台両側から夢に足をとられるように躍り出る。
 この時なぜか二人ともみにすかサンタ服である、なぜか稜も。
「違和感ないわね」
 雅が驚きの声を漏らす。そんな二人がこれから謳う曲名は『carol of the bells』。
 二人の声が深く響き、部屋の中央で交わり反響する。
 そのアカペラにリリアのヴァイオリンが優しく乗った。
 ピアノ伴奏、音に厚みが出てくる。それにつれて稜とアルの声も複数重なった。
 多重録音による二人だけの合唱。最終的には十数人分のパートを二人で歌い分けた。
 拍手が会場を埋め尽くす中二人はステージ中央に躍り出た。
 二人はマイクを持つと会場が静かになるまで押し黙る。
 そして機を見て二人はECCOへと向き直る。
「これまで僕たちは沢山の作品に参加させていただきました」
 稜が告げると背後のモニターに映し出されたのは、泥だらけになった稜の顔。それはPVで演じた時の一コマ。
「僕達にこんな大役を任せてくれたECCOさん、そして機会を作ってくれた遙華さんに、僕たちはすごく感謝してるんだ」
 そうアルは満面の笑みで告げた。
「あの時演じた『僕』と『私』の物語。あの時はいろんな葛藤や思いを抱いたまま演じて、結果それがいい方向に働いたと思ってるけど。だからこそ、僕達はあの物語の続きを見たかった」 
 背後で映し出されていたHACKのPVそれが高速で巻き戻され、収束し、新たな物語となって甦る。
「聞いてください、これが僕たちの物語の答えです」
 打ち鳴らされるような軽快な音楽、まるで冒険の始まりのような曲調と同時に二人の姿は光に包まれる。
 その光が煌きながら解けると、アルは戦乙女のような鎧姿。稜は学生服の日共鳴姿に変身した。
 二人は背を預合い別々の方向を向く。

―― もう一度、あの混濁に繋がろう 枯らした涙を取り戻す為に
   「僕」は“正しさ”を無くしても ひたすら此処まで生き抜いて来たんだ
   進もう、終わらせる為に 「僕」自身を取り戻す為に
   悲しみで「君」の言葉から目を背けて 此処までやって来た
   痛みを踏み台にして 今まで戦って来たのだから
 
 これは私を求め続けた物語。
 クリスタルに封じられた少女『私』アル演じるその乙女は決して表情をみせない。その乙女は誰かであり、決して個人ではないからだ。


―― Praying for stardust.(「君」の命の輝きに祈りを) 今は、ただ力を揮おう!

   Praying for stardust.(輝く“星”達に祈りを) 今は、ただ力を信じて!

 拳を突き出して二人は高らかにうたう、抵抗を。

―― Praying for stardust.(果て無き星空に祈りを) “過ち”を繰り返さない様に!

   Praying for stardust.(ただ只管に願うんだ) どうか、あの時へと戻らせて…………
 
 二人は謳う。あの物語の続きを。

―― 「私」は“自分”さえ捨てて戻れない所へ来たから
   進もう、終わらせる為に 「君」自身を取り戻す為に
   終わったら、ゆっくり休んで 「君」が涙を流せるように
 
 走り出した情景があった、傷だらけで、感情をなくして、それでも誰かを探し求める少年がいた。
 その彼に『私』の声は届かない。
 そっと『私』は『君』の肩を抱く。傷つき疲れ果てた彼に安らぎを与えるように。

―― 「私」は“自分”さえなくして生きてしまったから
   疲れたなら眠って 「君」が「君」でいられるように「私」はずっと傍にいるから

 その時、クラッカーが爆ぜた。
 金色の紙ふぶきが舞う。空には光、全てのモニターに光が灯る。
 流麗な魂を具現化した様な光が会場を包み込み。
 二人の声が叩きつけるように物語の是非を問う。

―― Shine it all around.(夜明けはやってくるから) そうしたら未来へ進もう

   Shine it all around.(世界はいつだって綺麗なのだから) 「君」が「君」である為に

 その物語の結末を。

――  Shine it all around.(世界を輝かせて) 「君」は弱さ認められる強い人だから

  決して悲劇ではないと。 

―― Shine it all around.(世界は輝き始めるから) ホラ笑って? 「君」なら出来るよ

 その光景に思わずECCOは微笑んだ。何より楽しそうに謳う二人に笑みを浮かべた。
「音楽ってやっぱり最高ね。まさか後輩から教え直してもらうことになるなんて」
 誰かの中に残った希望が、誰かの歌でまた、誰かに繋がる。
 実際、あの曲を書いたECCOの胸に、彼女たちの叫びが伝わってきた。


エピローグ

「曲題は『終わりを超える物語』でどう?」
 稜とアルがお色直しを終えて会場に戻ってくるなりECCOは二人にそう告げた。
 歌のタイトルである。
 そして今の歌にインスピレーションを受けて、PVにしてほしい曲が生まれたとECCOは二人に話を持ちかけた。
 そんな仕事熱心なアイドルたちとは対照的に遊夜とユフォアリーヤは休憩時間である。
「……ん、これも美味しい」
 ケーキを頬張るユフォアリーヤである。
「良い食材使ってるな」
 そんなユフォアリーヤの口元を拭いて。肉料理を差し出す遊夜。
 警備を変わっている杏奈たちもその料理には大喜びだった。
「……本当にとんでもない所に来ちゃったわね。テレビで見た事のある人達ばっかりよ。」
「杏奈、ちょっとお話してみたりとかしないの?」
「いや流石に、そんな度胸は無いわよ」
 ただ、ECCOとは顔見知りなので、話しに行く杏奈であった。



結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010

重体一覧

参加者

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
    人間|17才|女性|生命
  • 希望の音~ルネ~
    クラリス・ミカaa0010hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 惑いの蒼
    天城 稜aa0314
    人間|20才|男性|防御
  • 癒やしの翠
    リリア フォーゲルaa0314hero001
    英雄|20才|女性|バト
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • 苦労人
    レオンハルトaa0405hero001
    英雄|22才|男性|ジャ
  • 無名の脚本家
    九重 陸aa0422
    機械|15才|男性|回避
  • 穏やかな日の小夜曲
    オペラaa0422hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • トップアイドル!
    小詩 いのりaa1420
    機械|20才|女性|攻撃
  • モノプロ代表取締役
    セバス=チャンaa1420hero001
    英雄|55才|男性|バト
  • 銀光水晶の歌姫
    アルaa1730
    機械|13才|女性|命中
  • プロカメラマン
    雅・マルシア・丹菊aa1730hero001
    英雄|28才|?|シャド
  • 世を超える絆
    世良 杏奈aa3447
    人間|27才|女性|生命
  • 魔法少女L・ローズ
    ルナaa3447hero001
    英雄|7才|女性|ソフィ
  • 惚れた弱み
    柳生 鉄治aa5176
    機械|20才|男性|命中
  • 輝ける女帝
    マリアンヌaa5176hero002
    英雄|27才|女性|カオ
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