本部

満天の海月

影絵 企我

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/12/14 11:12

掲示板

オープニング

●星空を飛ぶ
 雲一つない夜の空。畑ばかりが広がり街灯も殆ど無いこの町では、夜空に浮かぶ天の河がくっきりと見える。ろくな観光資源もないこの町では、そんな澄んだ空こそが唯一の売りであった。12月の上旬にはふたご座流星群が訪れる。それを眺めるために、遠くからカップルその他もちょこちょこ訪れる。過疎の二文字が重くのしかかるこの町が唯一活気を呈する一時だ。
 町役場の人々はそんな夜空のスペクタクルに合わせて一つイベントでも打ち出そうとしていたのだが、突然とある問題が起きた。何の因果か、というかやっぱり愚神従魔の類の因果なのだが、とある海の厄介者が星海にまでその住処を広げてきたのである。

「クラゲだ!」
 一人の男が役場に飛び込むなり叫ぶ。それを聞いた同僚たちは揃って首を傾げた。何故ならここは海無し県の一つ、長野。クラゲなんぞがいるわけないのである。
「馬鹿言うな。クラゲなんかがここにいるわけないだろ」
「いいから来いっ! 大変な事になってる!」
 男のただ事でない声色を聞いて、仲間達も不承不承といった面持ちで手招きに従う。外に出た仲間達も星空を見上げると、全員があんぐりと口を開ける羽目になった。
「クラゲだ……」

 満天の夜空に巨大なクラゲが何匹も浮いている。無数の触手を揺らめかせ、空を塞がんばかりの勢いでふわふわふわふわしている。その光景はある意味幻想的でさえあった。しかし。
「……ぼんやり眺めてる場合じゃねえ。このまま居座られたらたまったもんじゃねえぞ!」

●駆除命令
「という事で、クラゲを狩れという事になりました。その形状から、元々は日本海を回遊していたエチゼンクラゲであったと思われます。最近が出現のピークのようなので、その一部が従魔に取りつかれてこんな事になったのでしょう」
 君達に向かってオペレーターが淡々と説明する。
「ただ、駆除に当たっては少し難しい点があります。それはこのクラゲが200~300メートル上空に浮かんでいるという事です。一部のAGWならば届きますが、この程度の駆除依頼はもっと軽やかにこなしたいところです……という事で、こちらからは二種類の作戦を提示させていただきます」
 オペレーターは突然一丁の白い銃を取り出した。銃身が刀のSW、スカバードによく似ている。
「これは今年の初めに仁科恭佳が開発したスカバードレールガンを改良したものです。有効射程は1000メートルに落ちていますが、その分使用する実弾の廉価化が為されており、貴重な霊石を乱用せずとも、ミーレス級程度なら多少の傷を与えられるようになっています。エチゼンクラゲは傘が傷つけられると浮力を失い沈むため、これに高高度のクラゲを撃ち落とし、他の皆さんで総叩きにするというのが一つの作戦です」
 次にオペレーターはVTOLの模型を取り出す。
「もう一つはH.O.P.E.所有のVTOLでクラゲの更に上空まで飛び出し、そのまま落下傘降下で叩くというものです。まあパラシュートを開かなくとも皆さんなら死なないので、いっそノーパラシュートスカイダイビングのスリルを味わうのもいいかもしれないですね」

「まあ、そんなところです。あ、言っておきますがエチゼンクラゲは美味しくないですよ。そこのところはちゃんと考えてくださいね」

解説

メイン スカイジェリーを撃破する
サブ1 スカイダイビングを満喫する
サブ2 スカバードレールガン改を使ってみる

BOSS
デクリオ級従魔スカイジェリーキング
すごくでかいクラゲ。邪魔。
・ステータス
 生命力だけ高め。あと飛んでる。傘の広さは直径10m。
・スキル
 特になし。

ENEMY
ミーレス級従魔スカイジェリー×20
エチゼンクラゲ型の従魔。邪魔。
・ステータス
 生命力だけ高め。あと飛んでる。傘の広さは直径5m。
・スキル
 特になし。

FIELD
日中、快晴、平地。特筆すべき問題無し。

ITEM
スカバードレールガン改
 恭佳が趣味で着々と改良を進めていた銃。超小型AGWを実弾として用いる事で、現時点で最高の射程を実現している。ただし、AGWはライヴスの保持を最優先にしたシステムが組まれているため、まだまだ強敵との対決には向かない。
種別銃
コスト20/0
ステータス補正無し
射程20~500
[使用者の命中/2以上離れた位置に存在する敵を狙う場合、命中を1/4として計算する。この武器で与えられる最大のダメージは5。]

TIPS
エチゼンクラゲは美味しくない。繰り返すがエチゼンクラゲは美味しくない。

リプレイ

●第一降下
「クラゲって聞いた時は海かと思ったけど、空だもんなぁ……」
 砌 宵理(aa5518)は前髪を軽く掻き上げて空を見上げる。だだっ広い空の中で、何故だかクラゲ達は寄り添うようにして浮かんでいる。彼の手にした幻想蝶がうっすらと輝き、センノサンオウ(aa5518hero001)は中性的な声色で宵理に語り掛ける。
『正しく海月の骨といったところでしょうか?/此方の世界も中々に興味深いところで、ええ』
「人畜無害そうだけど、あんなに高いところにいるのは困るな」
『あれでは攻撃が届きませんからね。/なるほど、確かに空から討つ必要がありそうです』
 宵理は頷くと、幻想蝶をそっと握りしめる。瞬間、その身は鎧に包まれた。
「じゃあ行くか。飛べる回数も限られてるし、どう戦うかは考えとかねえと」
 魔導書をぱらぱらとめくりながら、宵理は空を見上げる。最初のダイブで落とせる限り落とした方がいいのか、地上の被害も考えて無理しない方がいいのか。
『兄貴だけにはさせないよ! スカイダイビングなんてやった事ないから、あたしにもさせろ!』
「俺だってやったことねえよ!」
 考えていると、どこかから呑気な口喧嘩が聞こえてくる。確かに鬼気迫る場面でもない。宵理は肩を竦めると、飛行機に向かって歩き出した。
「ま、気楽にやればいいか」

『ふむ、空飛ぶ海月……字面だけは綺麗なのですけど』
「(ロロー)」
『ええ。壮観ではあるのですけど』
 辺是 落児(aa0281)の呟きに頷きながら、構築の魔女(aa0281hero001)は白い機械銃を構える。下で自らを狩る準備が着々と進められても、クラゲは我関せずと空を漂っていた。マガジンを装填し、スコープを覗き込み、クラゲに狙いを定める。
『通常のエチゼンクラゲでも200kgにはなるらしいですし、注意しておきましょう』
 引き金を絞った瞬間、銃身にライヴスが充填される。弾丸は音もなく滑り出し、空に浮かぶクラゲの傘を割いた。後を追うように飛んだ二発の弾丸も、クラゲの体幹や触手に突き刺さる。クラゲは泣きもしない。呻きもしない。ただそこに漂い続けていた。
『なるほど、聞いていたよりも癖がなくて撃つ分には楽ですね……』
 銃を下ろすと、魔女は使用感のメモを取り始める。反動も無ければ発射音も無い。狙撃銃には誂え向きの性質であることを彼女は既に見抜いていた。
『……まあ、コストをかけて怒られるのがどこでも同じなのはあれですが……』
 同時に、一発2000Gは下らないであろうことにも。魔女は溜め息をつくと、銃をノエル メタボリック(aa0584hero001)へと手渡す。豚鼻に分厚い瓶底眼鏡のブリッジを乗せて、ノエルは笑う。
『ぶぅひゃっひゃっ、すまんの。使わせてもらうぞえ』
 言うと、銀色のグロスを艶々させたノエルが銃身に刻まれた型番をじっと見つめる。分厚い老眼鏡を掛けていても見難いらしい。近づけたり離したりしている。
『わらわが老眼鏡を掛けるようになるとはの』
「あねひゃ……姉者がつぶらな瞳になったのは良かったぞよ」
 入れ歯を嵌め直しながらヴァイオレット メタボリック(aa0584)も笑う。老人化して数か月、すっかり老眼鏡と総入れ歯が様になってしまった。
「では姉者、行くとしようぞ」
 二人は踵を返すと、杖を突きながらのそのそ歩いてVTOLの方へと向かう。
『あの方達は……昔からあのようでしたっけ』
「(ロ……)」
 地面にメルカバを設置しながら、魔女はただただ首を傾げるのだった。

「しかし、VTOLなんて代物よく保有していたな。あまり需要が無い機体だと思うが」
『……ねぇ、ぶいとーる、ってなに?』
 VTOLのエンジン音を聞きながら、御神 恭也(aa0127)は小声で呟く。機械に弱い伊邪那美(aa0127hero001)は、ちんぷんかんぷんで首を傾げてしまう。
「簡単に言えば、垂直離着陸が出来る飛行機だな。ヘリよりも速いが、コストが嵩むから一長一短だな」
『二回しか上に上がれないのって、燃費も悪いから?』
「実はヘリより燃費は良いらしいが……まあ、ただの害獣駆除に燃料満載で臨む事はしないという事だろう。燃料そのものも重石になるからな」
『ふーん……でさ、すかいだいびんぐって……』
 二人が話している間にも高度は増していく。やがて、外部を映すモニターからクラゲの威容が見えるようになってきた。
『おおー! クラゲが目の前だぞ! こうしてみるとやっぱりデッカイなアニキ!』
 エリック(aa3803hero002)はクラゲの姿をじっと見つめ、目を丸くしていた。小さい個体もアドバルーン以上のサイズがある。世良 霧人(aa3803)にとっても壮観だった。
「まあ、確かに。けど、コレ従魔だから倒さなきゃいけないからね?」
『わかってるよぉ』
 エリックは口を尖らせる。そんな二人をちらりと見遣ると、大河千乃(aa5467)はほうっと溜め息をつく。
「H.O.P.E.に入ると、害が無い従魔でも倒さないといけないんだね」
『愚神に操られて、明日には危険な存在に変化するかもしれないからなぁ。あのクラゲだって、明日には火星人になって襲い掛かってくるかも』
 大河右京(aa5467hero001)は肩を竦める。素直な千乃は右京の言葉に目を見張った。
「あ、そうか……お兄ちゃん、凄いね。私、考え付きもしなかった」
『……ま。まあ、な』
 右京は相好を崩す。千乃に凄いと言われて嬉しくならないわけがなかった。
「あ、あと、スカイダイビングって、やった事ないけど、大丈夫かな……」
『ああ。この程度なら平気らしいぞ』
 張り切って右京は胸を張るのだった。
「エチゼンクラゲって、どデカい上に上手く加工しねぇと食えねぇんだよな。食った事ねぇけど」
 鐘田 将太郎(aa5148)はそんな事を言いつつ、ちらりと嬢(aa5148hero001)に眼を向ける。嬢ははっとなると、慌てて両手を振る。
『あたしに調理しろって言わないでくれよ? さすがに、あんなプニプニというか、でろでろしたの捌けそうもないよ』
「そりゃ生なら無理だろ。塩に晒して水分抜いたりするんだよ。あーあ。どうすれば食えるか考えてたら、腹減ってきたな、何か」
『ええ……美味いかなああんなの……』

「そろそろ所定の高度に到達します。背後のハッチを開くので空挺降下の準備をしてください」
 操縦士の通信が機内に流れる。パラシュートがしっかり取り付けられている事を確かめると、エージェント達はぞろぞろ列を為す。ハッチが徐々に開き、薄暗い機体の中に光が差し込んだ。
「クラゲの上ってぷにぷにしてるのかな?」
『滑りにくいことを祈るよ』
 黒のセーラー服、ではなく今回はスカイダイビングのスーツを着込んだ美少女となった琥烏堂 為久(aa5425hero001)は、中にいる琥烏堂 晴久(aa5425)と共にハッチから身を乗り出して下の海月を覗き込む。ほとんどくっつき合うようにして漂うクラゲ達。跳んで渡る事も不可能ではなさそうだ。
『じゃあ……行こうか』
 為久は全身からふっと力を抜くと、倒れ込むように空へと飛び出した。

 後を追うように空へと飛び込んだ恭也は、身を縮めて空気抵抗を殺しぐんぐんと加速していく。弾丸のような速さで近づいてくるクラゲに、伊邪那美は恭也の中で色を失う。
『まって、まって! 速い、速い――』
「心配するな」
 次の瞬間にはパラシュートが開き、殺人的な落下速度を無理矢理鎮める。そのまま隅の方に浮かぶクラゲに降り立つと、パラシュートを切り離して恭也は幻想蝶からライフルを取り出す。
『すかいだいびんぐって、飛び降り自殺の事なの?』
 伊邪那美は息を荒げながら尋ねる。常にぶよぶよと揺れ動き、ともすれば落ちそうになる足場でどうにかバランスを整え、恭也は傍にいたクラゲの傘に大穴をぶち空ける。
「まぁ、本来はここまで命の危険を感じんと思うがな。もう一度チャンスはあるようだし、試させてもらうか?」
『少し考えさせて欲しいかな……』

「早くこっち来い、嬢!」
『風で上手く近づけないよ!』
 何だかんだで早々にパラシュートを開いてしまった将太郎と嬢の二人は、空中で四苦八苦していた。このままでは共鳴が出来ない。このままでは只の観光客になってしまう。二人は手足をじたばたさせ、必死に近づいていく。
 ふと風が吹いた。巻き込まれた二人は、今度は一気に近づいていく。
「うわ待て! マズい!」
『ぶつかる!』
 二人のパラシュートが絡まり、二人は空中で衝突する。しかしその瞬間、幻想蝶が輝き二人は共鳴を遂げた。軍服白衣姿に変わった将太郎は、再び速度を上げて一匹のクラゲに突っ込む。
「うぶっ! ……な、何とか降りられたな……」
『(一瞬どうなる事かと思ったよ……)』
「俺もだ……まあ辿り着いたならよしだ。強敵に挑む前に、このクラゲ相手に肩慣らししておかないとな」
 将太郎は幻想蝶から杖を取り出すと、全身のライヴスを高めて先端を突き出す。銀色の光が宿り、目にも止まらぬ速さで撃ち出された。弾丸は傘を貫通して穴を開ける。何事も無く漂うクラゲだったが、やがてその高度は徐々に落ちていく。

 空中でパラシュートを切り離し、為久は中央の殊更に巨大なクラゲの傘に舞い降りる。見渡すと、雄大な日本アルプスに囲われた街が一望できる。まるで摩天楼の上に立っているかのようだ。晴久は半ばうっとりして為久に囁く。
「兄様……二人きりだね」
 為久は一瞬黙り込み、周囲を見渡す。仲間達も続々と空挺降下し、思い思いにクラゲを攻撃している。

「頼めるか? セン」
『承りました。/展開、許諾致します』
 センは答えると、宵理の開いた魔導書にライヴスを流し込む。その瞬間、文字の一つ一つから水が溢れ出し、鋭い一本の槍を形作る。
『傘が破れれば、海底に沈む……でしたね。/海の者は水底へ、/お帰りなさい、可愛い子』
 センが謡うように語り掛けた瞬間、槍は鋭く伸びてクラゲを裂く。クラゲはバランスを崩しつつも、まだぷかぷかと浮き続けていた。
「うーん……やっぱり一撃ってわけにはいかねえか……」

 宵理の様子を一通り眺めた為久は、肩を竦めた。
『そうでもないよ?』
 兄様兄様と日々兄の事だけを見て過ごしている晴久。事あるごとに何かにつけ甘えようとしてくるのを、付かず離れず適度にあしらうのが為久の日課になりつつあった。
 為久はクラゲの上で飛び跳ね、踏みつける力を多少強めたりしてみる。それだけでもクラゲの傘はくたくたに傷つき表面が破れそうになった。
『図体は大きくても、あんまり丈夫じゃないんだねぇ』
「(……兄様、ちょっと楽しそう)」
 為久と共にクラゲの感触を確かめながら、晴久は心の奥でぽつりと呟くのだった。

『良い景色じゃ』
 パラシュートを広げてなお、かなりの速度で降下していくノエル。目を血走らせ、興奮したように周囲を見渡している。ヴァイオレットもまた楽しんではいたものの、声色は普段よりも落ち着き払っていた。
「しかしクラゲか。老化させる装置を思い出していい思いはできぬな」
『仕事ぢゃからな。仕方あるまい』
 ノエルはクラゲには着地せず、レールガンを構えてクラゲに狙いを定める。撃鉄を起こすと、仲間達の乗っていないクラゲを狙って引き金を引く。音も無く飛んだ弾丸は、鋭くクラゲの傘を裂く。
『ブレは無しか。威力はやはり気になるかのう』
 そういいながら銃の使用感を確かめているノエルの上空で、エリックは燕尾服を着た黒猫のぬいぐるみをクラゲへと突き出していた。黒猫は腕をちょこまか動かして小さなナイフを投げつける。
『なぁ、こいつらフワフワしてるだけで何もしてこねーぞ? クラゲって毒針付いた腕で獲物を捕まえるんじゃないのか?』
「捕まえるっていうか、引っ掛かるっていうか……」
 霧人が曖昧に応えると、何を思ったかエリックはパラシュートを器用に操作してクラゲへと突っ込んだ。
『とりゃー! 行くぜー!』
「ええーっ!?」
 クラゲの触手に巻き込まれる。そして襲い掛かるびりびりと神経へ訴えかける痛み。エリックはライヴスの針を作ってクラゲの動きを止め、どうにかこうにか抜け出す。
『あ、やば、やばい。痺れちまってる……』
「そりゃそうだよ……」

『このままだと風に煽られて民家の方に落ちてしまうかもしれません。指定したところを狙って、落下方向をずらしましょう』
『落ち着いて撃てばよい。AGWの手入れをしておるなら、黙って狙えばしっかり当たるものぢゃ』
「……は、はい。頑張ります」
 通信機で魔女とノエルの助言を受けながら、千乃は狙撃銃のスコープを覗き込んで狙いを定めた。パラシュートが風に吹かれ、中々タイミングが合わない。右京はそんな彼女の姿勢をそっと制御する。
『俺も手を貸してやるから、自信を持って』
「うん。ありがとう」
 千乃は引き金を引いた。一発の弾丸が放たれ、クラゲの傘が弾ける。攻撃を受け続けたクラゲは、浮力を失いするすると落ちていく。
「や、やれた、のかな……?」
『ええ。良く出来ていますよ』
 風を切って一発の砲弾が飛び、高度を落としていたクラゲの身に直撃する。ど真ん中に大穴を空けられたクラゲは一気に萎み、ただのエチゼンクラゲに戻って畑の上に墜落した。千乃が振り返ると、メルカバを構えた魔女が手を振っていた。千乃は目を丸くすると、大河に尋ねる。
「格好、いい……私達も、あんな風に武器を使えるように、なるのかな……?」
『なれるさ。……武器なんて取らない方が、本当は良いけど、な』

●第二降下
 思い思いにクラゲを撃ち、降下してきたエージェント。しかしそれでもクラゲはあと半分ほど残っていた。という事でエージェント達は再び空へと舞い上がるのだった。

『こちらの準備は万全です。そちらのタイミングで落としていってくださいね』
 唯一クラゲの上に居残っていた為久は、ウォーターベッドよりもぼよぼよしているクラゲの上に寝そべり対物ライフルを構える。銃座が上手く嵌まらず苦戦したが、どうにか引き金を引いて周囲のクラゲにダメージを蓄積していく。
『うーん。こうも足場が柔らかいと、狙いを付けるのも大変になるな……』
「でも兄様はちゃんと狙えてるよ?」
『この程度なら何とでもなるさ』
 褒められて悪い気はしないが、為久は一応晴久の言葉を受け流しておくのだった。

『ほれ。そちも試してみよ』
 ノエルからの通信が聞こえる。パラシュートで降下していた将太郎は、機械銃をクラゲに向けてさっと構えた。
「さってとー、じゃあ空を泳ぐクラゲをこいつで撃つとするか」
 弾倉の銃弾を全て吐き出す勢いで次々に引き金を引く。一発ごとのチャージに時間はかかるが、マッハを簡単に越える弾は狙いを逃さない。案外行儀の良い銃に、将太郎は満足げに頷く。
「意外に使い勝手がいいな。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる、だな。いやあ、クラゲ退治と聞いた時はどんなもんかと思ったけど、スカイダイビングも出来て、ちょっとした鴨撃ちも出来るとは、中々楽しいねぇ」
『(兄貴ばっかり楽しんでずるい! あたしにもやらせろよ!)』
「やらせろって言われてもな」
『(ぐぬぬ……)』
 ご満悦の将太郎の裏で、嬢は不平不満を訴え続けていた。

「本当にもう一度飛ばなくて良かったのか?」
 落ちてくるクラゲに対物ライフルを撃ち込みながら、恭也は伊邪那美に尋ねる。伊邪那美はいかにも具合悪そうに応えた。
『(うん……何だか、気持ち悪くなったよ……やるのはまた今度にする)』
 恭也と共に伊邪那美は空を見つめる。
『(というか、絶対冗談だったと思うんだけど、本当にやるんだね)』

『いっけえええッ!』
 昔のロボットのように、エリックは籠手を嵌めた両腕を伸ばして巨大クラゲに突っ込んでいく。ライヴスを蓄えた籠手は空を切り裂き、エリックの落下速をさらに上げていく。やがてその姿は二つにぶれ、クラゲに真っ直ぐ突き刺さった。そのままエリックは貫通し、畑の土に突っ込んでいく。
『オレの魂、霧人と共にありぃいい!』
「(何言ってんの!?)」

『(ゆ、勇気あるな、千乃……)』
「お兄ちゃんと一緒だから。一緒じゃなきゃ出来ない事もしてみたくて……!」
 盾を構えて身を縮め、千乃もまた一直線に巨大クラゲへ降っていく。盾の先端から突き出た刃が、ライヴスを受けて強靭さを増した。
「え、えーいっ!」
 初々しい気合と共に、千乃はクラゲの傘に突き刺さった。ぶよぶよとした肉が破れ、さらさらの体液が飛び出す。バランスを崩したクラゲは、浮力を失い一気に高度を下げていく。傘の上に伏せていた為久は、銃を幻想蝶に納めて素早く立ち上がった。
『そろそろ止めを刺さないとならないようだね』
「兄様との時間も終わっちゃうんだね……ざんねん」
 晴久は寂しそうに呟く。為久はくすりと笑うと、巻物から墨の刃を取り出す。
『永遠じゃないから、時間は価値があるんだよ』
 為久は傘の上でトランポリンのように跳ね、高度を取り直す。そのまま反転すると、刀を構えて頭から真っ逆さまに降っていく。くるりと身を捻ると、セーラー服の裾やプリーツスカートのひだからカラスアゲハが次々に飛び出しクラゲを包み込んでいく。

『さて、良いものを使わせて頂いたお礼になれば良いのですが……!』
 魔女は群れから離れて落ちようとしているクラゲに照準を合わせる。神経を研ぎ澄ませ、砲弾にライヴスを籠める。一拍の後、轟音と共に砲台が火を噴く。光を曳いて飛んだ砲弾は、クラゲの体幹に直撃した。クラゲは弾けて消滅する。遠目にそれを確かめた魔女は、素早くその手にカメラを持つ。
『後の戦いは皆さんにお任せして、事後策を打つとしましょう……』

「倒されて、俺の胃袋ん中に行けー!」
 将太郎は銃を再び杖に持ち替え、最後となった銀の弾丸を巨大クラゲに向かって放つ。触腕が一房千切れ、畑に墜落する。それを横目に、宵理は水の槍を振り回した。
「セン、頼んだ!」
『承知しております』
 ライヴスを込められた槍の穂先は鋼のように閃く。思い切り身を逸らすと、クラゲに向かって擲った。槍は体幹に突き刺さり、クラゲの身は更に捩れた。
『ぶぅひゃっひゃっ。止めは若い衆に任せるとしようかのう』
 ノエルはそんな事を言いながらも、魔導銃でクラゲの神経節を的確に打ち抜く。

「(そろそろ地面が近いよ)」
『ああ。わかっているよ』
 為久は刀を構えると、くるりと宙返りして刀を振り下ろす。刃は無数の墨文字へと変わり、クラゲの全身を引き裂いた。巨大なその身はついにバラバラになる。砕けた肉片は光を放ち、寄り集まってただのエチゼンクラゲへと戻る。
『これで……終わりかな』
 畑の畦道へ軽やかに降り立つ。為久が周囲を見渡すと、畑に大なり小なり穴を開けつつ、クラゲ達が埋まっている。民家に被害は出ていない。

「初めての従魔退治だったが……まあ何とかやれたな」
「はい……お疲れさまでした」
 将太郎と千乃は顔を見合わせる。
「あとは、このクラゲさん達の後片付けですね」

●村おこしの為に
『ヴァよ、湯をかけるぞよ。ヒートショックは、勘弁じゃからの』
 戦いの後、一足先に仲間と別れたヴァイオレットとノエルは町の隅にある温泉を訪れていた。年寄り同士、うっかりは無いように気を遣いながらだったが。
「あぁ何とも、天に召されそうな温かい湯ぢゃ……」
 ヴァイオレットは天井を見上げて嘆息する。ノエルは静かに背中を流しながら、ヴァイオレットに尋ねる。
『このまま湯治場めぐりでもせぬか? 車いす生活は辞められぬが、腰痛を治したいのぢゃ』
「良いのぉ、この国でも、他の国でもいいぞよ……」
 真の姉妹となった二人は、老婆としてのささやかな幸せに思いを馳せるのであった。


 一方、恭也と伊邪那美はクラゲの突っ込まれたアクリルの水槽を見つめていた。
『前に中華でクラゲを食べさせてくれたけど、これじゃ駄目なの?』
「種類が違うからな……聞きかじった程度だが食用に余り向かないらしい」
『じゃあ棄てるしか無いのか……勿体ない気がするね』
 伊邪那美はクラゲの傘をちょんちょんとつつく。
「まぁ、ウマヅラハギとかいう魚の釣り餌には向いているらしいから、少し貰って帰りにでも――」

「なあこのクラゲ、どっかで加工できないかねぇ」
 そんな恭也達のやり取りをよそに、着流しの上から白衣を羽織った将太郎が役場の男に尋ねる。飽くなき食への探求心が彼の胃袋を疼かせていた。
「そ、そうですね。……塩とミョウバンで水抜きして乾燥したものが食用になっているとか……一応漬物工場があるので材料はあると思いますが……少し時間は掛かりそうです。それでもいいですか?」
 エージェント達は顔を見合わせる。妙な沈黙。思わず伊邪那美は周囲に尋ねていた。
『え? 食べるの?』
「食べるかどうかは、ともかく……折角の不思議な出来事ですし、生かしてみたいですよね」
 千乃は微笑む。戦いながら、千乃は思いを巡らせていた。この出来事を町興しの役に立てられないか、と。

――数日後――

「えーっと、アイスクリームはもうあるみたいなので……ゼリーにしてみたんですが……」
 千乃は青色に着色されたゼリーを右京達に差し出した。その中には塩抜きして球状に加工されたクラゲの肉が混ざっている。右京は迷わず口にし、そして深々と頷いた。
『美味しい。そうだな……ナタデココみたいな触感だ。これはいけるぞ』
 妹大好きお兄ちゃんはとりあえずべた褒めする。しかし、その横でエリックは首を傾げていた。
『うーん……ナタデココでいいかも? もう少し個性が欲しいけど、元々の材料がただただ固いだけなんだよなぁ……』
「ですね。……難しいなぁ」
 千乃も頷くしかなかった。霧人もそんな千乃の様子に苦笑していたが、やがて微笑みながらゼリーを目の高さまで持ち上げて見つめる。
「でも、見た目は凄く綺麗だね。層状に少しずつ固めているんでしょ、これ」
「はい。星空がキレイな町だというので、少し意識してみたんです」
「味はともかく、これを見たら欲しいと思うかも」

『うーん……一応刺身っぽくはしてみたけどさ……何て言うんだろ……?』
「まあ悪かないと思うぜ。辛い日本酒には良く合いそうだ」
 将太郎の感想を聞いた嬢は、包丁を拭きながら不満げに肩を竦める。その隣では、おろしショウガをのせた刺身を晴久も食べていた。
「うん。……ショウガの味がよくわかる。……ショウガの味しかわかんないや」
『ちょっと、あたしのせいじゃないぞ』
 嬢は口を尖らせた。そんな様子を横目に、宵理は溜め息をついた。
「ああ、結局食うにはイマイチって事なんすね……」
『大味とは、/よく言ったもののようですね』
 目の前のスープを見つめる宵理に、幻想蝶の中からセンが囁きかける。全く食べられたものではないというのが少し困る。思い切ってスープを飲んでみたが、クラゲの肉がやたらと固いだけで普通に飲めてしまう。
「うむむ……リアクションに困る……」
『でもスープは美味しいね』
「クラゲで出汁を取ったわけでもないだろうしな」
 その隣で伊邪那美と恭也は淡々とスープを飲み続けていた。標高の高いこの町は冷える。千乃が丹念に作ったコンソメスープは二人の身に染みるのだった。

『一応、私達の方で今回の戦いを録画してみたのですが、よろしければPRなどに使ってみませんか?』
 魔女が説明する横で、落児が町役場の人にメモリースティックを手渡す。職員は何度も頭を下げながら、それを丁寧に受け取った。
「ありがとうございます。まさか町興しのアイディア出しにも協力してくれるとは思いませんでしたよ。冬の夜空は綺麗だから、何かあったら是非この町に来てもらえますか?」
『そうですね。そろそろ流星群も近いようですし――』

「おい見ろよ! まただ!」

 魔女の答えを遮って、職員が外から息せき切って駆け込んでくる。エージェント達は顔を見合わせると、急いで建物の外へと飛び出した。
『おやおや……クラゲ達はこの空が気に入ってしまったのかな?』
 為久は心なしか楽しそうに呟く。その上空には、ちらほらと新しいクラゲ達が浮かんでいた。エリックは目を輝かせると、霧人に向き直る。
『よし! H.O.P.E.に報告だ! また飛ぼうぜ!』
「ええー? もういいよ。高度1500メートルからの高飛び込みはもう勘弁して……」
「ロローロ……」
『ええ。この調子ですと、空に降るのは流星群ではなくて、私達エージェントになってしまいそうですね……』
 落児と魔女はぽつりと呟いた。

 星の宙を往くクラゲ達。日本海での大量発生が収まるまで、駆け出し達の持ち回りで駆除する事になった。動画を見た人々は、星空ゼリーにも釣られてしばらく駆除という名の大道芸を見物しに来たようである。

 おしまい

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
  • 希望の守り人
    大河千乃aa5467

重体一覧

参加者

  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • LinkBrave
    ヴァイオレット メタボリックaa0584
    機械|65才|女性|命中
  • 鏡の司祭
    ノエル メタボリックaa0584hero001
    英雄|52才|女性|バト
  • 心優しき教師
    世良 霧人aa3803
    人間|30才|男性|防御
  • フリーフォール
    エリックaa3803hero002
    英雄|17才|男性|シャド
  • 臨床心理士
    鐘田 将太郎aa5148
    人間|28才|男性|生命
  • 苦難に寄り添い差し出す手
    aa5148hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 奪還屋
    琥烏堂 晴久aa5425
    人間|15才|?|命中
  • 思いは一つ
    琥烏堂 為久aa5425hero001
    英雄|18才|男性|ソフィ
  • 希望の守り人
    大河千乃aa5467
    機械|16才|女性|攻撃
  • 絶望を越えた絆
    大河右京aa5467hero001
    英雄|20才|男性|ブレ
  • 発意の人
    砌 宵理aa5518
    人間|18才|男性|防御
  • エージェント
    センノサンオウaa5518hero001
    英雄|18才|?|バト
前に戻る
ページトップへ戻る