本部

命諦めることなかれ

鳴海

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/12/13 12:07

掲示板

オープニング

● 鼓動の止まる音。

 その戦場は苛烈を極める。
 湧き出すワニのような半人の従魔たち、中央に鎮座するのは卵の生み手。
 B級ホラー映画も顔負けの惨状。この状況を切り抜けんと走るのは七人のリンカーだった。
「あとすこしだ! みんな走れ!」
 もともとは十人だったその一団。
 回復アイテムも使いつくし、スキルも残数僅か。 
 傷ついた仲間に肩を貸す余裕もない。だから傷つき歩けなくなったものは置いていくしかなかった。
 背後で悲鳴が聞こえる。断末魔の悲鳴が。
「ごめん、みんな、ごめん!」
 そんな切羽詰まった戦場でまた一つ『トリナ・レティレスト』の目の前で命が散る。
 トリナが見あげた巨体はいつも頼もしく彼女を守ってくれた盾役の背中、だがその背中を突き破って、無数の矛先が覗き。従魔たちがギギギと笑ってる。
「逃げろ、トリナ」
 そう口ずさんで崩れ落ちた体。
 トリナは彼を難攻不落と称したことがある。それは絶対の信頼と、好意と。そして感謝を束ねて送った言葉だが。
 大前提として死なないでほしいという気持ちがあった。
 もしそんな場面に直面しても、自分が助ける、そんな思いもあったのだ。けれど。
「ああああああああ!」
 トリナは傷ついた仲間の手を引いて走った。
 六人になってしまった団体。
 その誰もが顔見知りで、この任務を成功させようと数時間前に誓った仲間たち。
 その仲間たちが一人、また一人と、おちていく。
 沈んでいく、物言わぬ屍となっていく。消えていく。もう会えなくなっていく。
 少し前まで、笑い合っていた仲間たちだったのに。
「くそおおおおお!」
 トリナは思う。自分が弱いからこんなことになってしまったのか。
 自分が間違ってしまったからみんな死んでしまったのか。
 だとすればどうすればよかった。自分は何をすればよかった。
 分からない、分からない。
 どうすればこの悲しみから逃れられたか。逃れられるのかわからない。
 気が狂いそうな悲しみと。全てをなげうって突撃せよと命じる怒りの感情が、トリナを確実に蝕んでいく。
 トリナは涙を振り払って先を目指す、あと少し、あと少しで生きて帰れる。
 生きて戻ることができる。
 そう、この多数の仲間を生贄に生き延びた、罪深い命が。
「痛いよ、トリナ」
 そんなトリナに戸惑ったように言葉を向けたのが、彼女の妹『セレナ・レティレスト』
 彼女は繋がれた手の痛みに耐えかねて口を開いたのだ。
 振り返るトリナ。それが間違えだとも知らずに。
「我慢して」
 そう告げた矢先。地面からあの従魔が飛び出してきた。その牙は鋭く、信じられないほど大きく広がると次の瞬間。セレナを両端から包みこむように閉じられそして。
 トリナの引く手が軽くなった。
 ぶらりとトリナの左手にぶら下がる、セレナの右腕。
 ばきばきぐちゃぐちゃと、咀嚼される音を聞いた。
 そう、セレナが咀嚼され、飲み込まれることを。
「おまえ!」
 次の瞬間トリナの理性が爆ぜた、その懐の刃を抜く。そしてそれを振り下ろす瞬間。地面から何本も触手のようなものが伸びてきてトリナの体をからめ捕った。
 腕が止まる。
 従魔が笑う。
「くそ……結局」
 トリナは瞳を閉じる。
 にちゃりと生臭い音と匂いを感じる。血なまぐさい、それはセレナの香りなのだろう。
「ああ、見つけた。そうか、最初からこうすべきだったんだ」
 セレナはずっと自分に問いかけ続けていた。自分がどうすればいいのか。
 自分がどうすればよかったのか。
 正解を、トリナはこの短い時間で正解を見つけ出した。
「今行くよ、みんな」
 バクリと冗談のような音が響いて。そしてトリナの上半身が、従魔の口の中に消えた。
 
 それがプリセンサーの予知した未来。
 その後の展開は皆が察しているように続く。瓦解した正体はそのままかみ砕かれて誰も、誰も生存ができなかった。
 今回皆さんには大急ぎで現場に向かい、このリンカーたちを助けてもらいたい。
 おそらくはメンバーが三人死んだところまでには間に合うはずだ。
 どうか彼らを守ってやってほしい。

● 調査団壊滅
 今回、広がり続ける自然環境変動の調査に向かったリンカーたちが、愚神と出会い戦闘。
 その救援に向かっていただくというシチュエーションである。
 戦闘地域は渓谷、谷と谷の隙間。そこでは水が流れていた形跡があるのだが今は流れが止まってしまっている。
 それなりに広く、戦闘に支障が出るわけではないが、足元の土は柔らかく滑りやすい。
 




解説

目標 愚神の撃破
   余裕があればリンカーの保護。

愚神 プランター
 
 巨大な女性の見た目を持つ愚神。体長は五メートルで腰から足元にかけて地面と接続するように茎が伸びている。その茎から伸びたラッパのような器官から卵を次々産み落とすのが、この愚神の特徴である。

 ケントゥリオ級愚神プランターは、従魔精製能力にすべてをささげた愚神である。
 防御力以外に突出した能力が存在せず。体力に至っては前哨戦で半分になっている。
 彼女を倒すことは簡単だろう。
 ただ、厄介なのは生み出される従魔である。従魔については後述するので見てほしい。
 唯一の攻撃手段は自分が産んだ卵を投げつけることである。そこそこ痛い。
 ただ、ある程度防御力を整えているキャラクターなら、卵の中味をかぶる程度で済むだろう。

● 従魔について。
 従魔については三種類の従魔が、ラウンドの最後に五体生成される。
 そのどれもが、何かに特化しており見た目によって特化した能力が違ってくる。

 ワニ型
 上半身が鰐の従魔、腕には槍を装備しており。その物理攻撃力は脅威。
 なぜか地面を掘って地中から奇襲してくる性質を持つ。常に数の確認は必須。

 魚型
 いわゆる半漁人。杖を握っており、射程50SQ程度の魔法弾を放ってくる、命中力がきわめて高く、威力も極めて高い。

 ウナギ型。
 唯一人形をしていない。地中を泳ぎ、地面から飛び出して攻撃してくる。
 移動力に特化しており。この従魔に攻撃を受けると体に絡みつかれる。
 その場合、両防御力がわずかに低下。移動力、イニシアチブが大低下するので注意。 

リプレイ

プロローグ

「ん、プリセンサーに拾って貰えたのは、運が良かったね」
 『エミル・ハイドレンジア(aa0425)』は揺れる護送車の中でそうひとりごちた。
 もともと車で通れそうにない山道を無理やりに走っているせいか、トンデモなく揺れがひどい。
 小柄なエミルが座席から跳ねると、その体が吹き飛ばないように『ギール・ガングリフ(aa0425hero001)』は肩に手を置く。
「だが未来が変わるかどうかは、我々の行動に掛かっている。気を引き締めることだ」
 そう答えるギールの表情は重たい。
「ん、命は大事。投げ捨てダメ絶対……」
 そう噛みしめるように告げたエミル、その言葉は自然と社内に沁み渡る。
 全員が同じ思いだからだ。
 『彩咲 姫乃(aa0941)』は『メルト(aa0941hero001)』にクッキーを与え終ると思案する。
 プリセンサーが予知した未来だと。現在の時刻、移動時間を加味してもほぼ確定で三人が救えない。
(俺がいくら速さ自慢だって言っても時間の流れをさかのぼるとか、そんな事はできない)
 目の前の結果は、どんなに早く到着しても覆らないのだ。
(だけど残った七人は違う。早く到着すれば速く行動すれば。それだけ生存の可能性も上がる)
 姫乃は思う、死なせない。自分の前で悲劇は起こさせない。
(なら。できることはひとつ……)
 その磨きぬいた速度で、戦場をかけることのみ。
 なぜならその小柄な体で誰かの盾になることはできないと知っていたから。
 姫乃は盾持ち連中を見やる。
「けどよ、護るってのは盾になることだけじゃねぇ」
 だれもかれもを守りたいなら、この場の全ての死因を最速で焼却処分してやればいい、ただそれだけと結論づける。
「死なせたくない」
 『魂置 薙(aa1688)』がそう告げ、窓の向こうを見た。
「生きてるなら、諦めさせない」
 その言葉に『エル・ル・アヴィシニア(aa1688hero001)』は頷いた。
「索敵を買って出るとは珍しいな」
「自分でもそう思う。でも、守りたいから」
 薙は繰り返し祈りをささげる。
 どうか、間に合って。残酷な神はそれを聞き入れてくれるだろうか。
 そんな護送車の助席には『名無騎(aa5428)』と『名無姫(aa5428hero001)』が詰め込まれている。
「おいィ! もっと飛ばせませんかねぇ!?」
 そうせっついたのは名無騎。
「ナナキ! 焦ってもこれ以上の速度は出ないぞ!」
「時は待たない! 1分の遅刻で人は電車に乗り遅れるんですわ、お!?」
「ったくお前は言い回しが……だが分かった! 《我が剣に誓う》!」
「Hai! 《我が盾に誓う》まうす!」
 そう告げた名無騎の口がブレーキの衝撃で勝手に閉じる。舌をかみきらん勢いでかんだ名無騎は素早く護送車から出て地面を転がった。
 その様子を『火蛾魅 塵(aa5095)』は一瞥すると、全てが愉快そうに笑みを浮かべる。
「さーて、今日も連中をブッ殺しに行きますかね~トオイよぉ」
 僅かに俯く『人造天使壱拾壱号(aa5095hero001)』その表情から塵は何かを感じ取った。
「あー? …………プハハ! まさかテメー人が死んで悲しいとか思ってんのかァ?」
「人間、死ぬ時ぁ死ぬんだよ、早いか遅いかだけだろォ~?」
「………………」
「ま、金になるしィ? 愚神の邪魔すンの楽しいから、助けますかねぇ~」
 全員が気合を入れて体力の限り山道を疾走する。今回に限っては体力を温存するという選択肢は存在しないのだ。

第一章 従魔戦線

 見下ろす戦場は悲惨だった。阿鼻叫喚の地獄絵図。
 これでは単なる虐殺だったが、愚神にそれを止める理由はない。
 ただただ、現象として人間を殺し尽くす従魔たち。その刃がトリナに突き立てられようとしたとき。
 そのワニ型従魔の横っ面にアンカー砲が突き刺さった。
 直情方向から降下してきたのはエミル。
 エミルは泥を周囲に跳ね飛ばしながらもトリナの前に盾として現れ。
 そして命刈り取る刃として周囲に斬撃を放つ。
「ん、捉えたよ……。吹き飛べ有象無象」
 その一閃は協力無比。調査団に群がる従魔すべてを吹き飛ばす。
 その爆発にも似た暴力が過ぎ去り、空中に舞い散る泥が全て落ちきると、そこには救援として到着したリンカーたちがいた。
「間に合いましたか!?」
 『禮(aa2518hero001)』がそう問いかける。その言葉に『海神 藍(aa2518)』は人数をかぞえて、ああ。とだけ告げた。
「想定通りだが。……3人足りないか」
「あなた達は?」
 震える声のトリナ、そのトリナを一別して藍は告げた。
「……その手を離すな、絶対に」
 その行為だけで救われる魂があることを藍は知っている。
「ん、なんとか、最悪の状況までには、間に合ったみたいだ、ね…………」
――だが完全に間に合った訳では無いようだな。
 エミルとギールは周囲で威嚇の声を鳴らす従魔たちを無視して、その手のありったけのアイテムを調査団メンバーに託した。
「そんな、これはあなたの命を守る……」
 そう遠慮しようとする調査団の手に欠片やお守りを握らせて、強引に閉じさせた。
「ん、はいこれ。渡すようにって預かり物……。無駄にならなくて良かった良かった……」
――消耗しているのだろう? 無理はしないことだ。
 涙を流しながら調査団はそれを受け取る。
 たすかる、助かるんだ。そんな希望に満ちた声がリンカーたちの背後から聞こえてきた。
 だが、そうはさせないと従魔たちが動く。
 『炉威(aa0996)』はそんな従魔たちを打ち抜きながら周囲の状況を確認していた。
「プリセンサーの予知した未来、か……運命とかそういうモノかねぇ」
 炉威は跳ねる泥を避けつつ『エレナ(aa0996hero002)』に問いかける。
――わたくしが炉威様と出会い、共に在るのはまさに運命ですわ。
「宿命論者とは意外だね」
――うふふ。運命も偶然も、奇跡すら、炉威様とわたくしが共に在る事実は変わりはしませんわ。
「……運命や未来は変わると思うかね?」
――うふふ、さあ、如何でしょう。
 その運命という言葉に『雪室 チルル(aa5177)』は反応する。
「運命は決まってるんじゃない! 決めるものよ!」
 その言葉に『スネグラチカ(aa5177hero001)』は驚きを返した。
――いきなりカッコいいこと言い出した! 明日は土砂降りかな?
「とにかく! さっさとアイツをやっつけて全員生きて帰るのよ!」
――数だけは多いね。モタモタしてると大変なことになりそう。
 そうチルルはウルスラグナを構える。
 殿は炉威が務めるようだ、調査員たちの動きを気にしながら徐々に後退する。
「こういうのは、最初に大本を叩いておかないとね」
 同時に動いたのは『九字原 昂(aa0919)』。
 昂は従魔たちを無視して壁伝いに走りすり抜けると真っ直ぐ愚神まで走る。
――時間経過で不利になるのは俺達だ。会敵直後に仕留められれば理想的だな。
『ベルフ(aa0919hero001)』が告げた声にあわせて地面からウナギ型従魔がつきだしてきた。それを昂は首を振って回避した。
「じゃあみんな! 手はず通りお願いね」
 そうチルルが告げるとリンカーたちは各々与えられた役職に従い散開。
 基本方針としては前衛と後衛に別れての迎撃戦闘だった。
 前衛盾役が従魔を抑えている間に後衛が従魔と愚神を狙っていく役だ。
「みんなの道を切り開くよ」
 チルルはその刃で従魔を切り倒しじりじりと前進していく。
――チルルおそい! モタモタしていると従魔の数がとんでもない事になるよ。
 スネグラチカが告げると、チルルは焦れたようにうーっと声を上げる。
――とはいえこっちのリソースも有限だし、なるべくならリソースが無くなる前に倒したいところだね。
 スネグラチカの言葉にチルルは頷いた。
「あと、救助対象が今回いるから後衛が助けに入って逃がす感じになるわね。
 もちろん動けるなら自力で戦域離脱してもらえると助かるけど、無理そうなら後衛が手を貸すしか無いかな」
 そんなチルルの横っ面に魔法弾が飛ばされる。
 それを防いだのは『東江 刀護(aa3503)』であった。刀護はすでに『双樹 辰美(aa3503hero001)』と共鳴済みである。
「愚神撃破、従魔対応が最優先だろうが、俺は調査団リンカーの保護を優先する」
 その言葉にチルルは頷いた。
「辰美がどうしてでも保護したい、と言うのでな」
 そうにやりと笑みを作って見せる刀護。その言葉に辰美は当然じゃと言葉を返した。
「調査団の護衛は俺がやる。愚神と従魔の対応を頼んだぜ!」
――誰一人として死なせはしません。ブレイブナイトの誇りにかけて!
 その行動をサポートするためにチルルはさらに前へ出る。
「あたいは前衛として行動するよ。毎ターンやってくる従魔と愚神の攻撃を一身に引き受けて、後衛に攻撃を通さないようにするのが主な役目ね」
 その言葉を証明するようにチルルはワニ型従魔の突撃を回避。がら空きとなった後頭部にチルルはライブスリッパーを乗せた一撃をみまう。
 だが愚神までたどり着くには敵の数がまだまだ多い。
「しつこーい!」
 そんなチルルの叫びは従魔たちの気を引くこととなる。
 一斉にチルルに向いた視線をいいことに、足元にロケット砲を撃って突撃してくる従魔たちを転ばせた。
――防御面は後衛に攻撃が飛びそうであればハイカバーリングで抑える感じで。
「わかってるよ!」
 そう逃げながら立ち回るチルルである。
――攻撃力の高い相手だらけだから、なるべく攻撃される前に倒したいところだけど、保険はかけておくに越したことはないよね。
「そうね。あとは従魔の中に潜伏とか出来る奴もいるから」
 そう注意を促すチルル。
「潜伏から後衛奇襲とか本当に洒落にならないわ。」
「まぁ、そこは善処するという事で」
 そんなチルルの言葉に一言塵は答え、その背中を抜き去った、ついでにあくびを一つ。
「さーて、俺ちゃんどのみち、トロいしよォ……」
 肩を回しながら吸い終わった煙草を水の中に捨てる。
 戦場をその濁った瞳で見据えながら、自分が動くタイミングを見すえている。
「遊ばせて貰うぜ? クク……精々頑張んな、旦那方に御嬢さん方よぉ?」
 告げる塵へと群がるウナギ。
 地面から飛び出すその動きは俊敏であったが、一手遅かった。塵は昂が受けた地面からの奇襲を見ている、であれば地面ごと吹き飛ばせば奇襲を防げると知っているのだ。
 塵は一歩踏み出してゴーストウィンドウで周囲の従魔を薙ぎ払う、そのまま愚神を見すえてにやりと微笑んだ。
「オンナの形たぁ良い趣味だねぇ? 良い声で喘いでくれよなァ~……《亡者嘆叫》ォお!」
 次いで放たれた魔法弾。それを顔面に受けた塵は血をしたたらせながら微笑んだ。
「増えて来たぜぇ~? 気ぃつけねーと俺らがここで死ぬかもなァ……《魂毒焔》ッ!」
 魔術による一撃を魚人に見舞う。同時に地面も攻撃し、泥をはね上げた。
 本来であれば泥に潜れば地表は見えない。
「だったらよ。音だろ?」
 次いで塵は地面に手を突っ込む。
 そして素手でウナギ型従魔を引きずり出した。
 じっくり炙るように魔術で殺す。
「おい! ぼさっとしてんじゃねぇぞ」
 そう声がきこえて振り返ると、姫乃がいわばを跳躍しながらフリーガーを放ってきた。
 その弾頭は塵をすり抜けて周囲の従魔に命中。
 炎が苦手なのか、甲高い悲鳴を敵は上げた。
「お、ナーイス、お嬢ちゃんよ」
「俺は気が立ってんだ! 次は巻き込まねぇ保証がねぇぞ!」
 次いで姫乃は戦場の真ん中に降り立つと、ワニ従魔の膝をける。もつれて仲間に突っ込んだ従魔の胸へとミサイルをプレゼントした。
「散開する時間? ――あると思うのか?」
 直後大爆発。一撃離脱。
 岩肌に張り付くように高所をとると。
 砲台としてミサイルをばらまきながら走った。
 高所から高所へ移動しながら爆撃で敵の妨害をしプランターのもとへ近づく。
 そのサポートによって昂がいち早く愚神の元へと到達した。
 そのまま姫乃の攻撃対象はプランターへ。
 目もくらむような爆撃がプランターを襲った。
「生んだ直後の卵ごと爆撃してやれば一石二鳥かもな」
 その言葉の通り、今解き放たれようとしていた卵が熱によって融解。ぐにゃりと形を変えてそこらへんに転がった。
 その姫乃を脅威だと見たウナギ型従魔が、距離があることも構わずに姫乃へと襲いくる。
 その従魔をフリーガーで叩き落とすと場所を移すためにいったん下へと降りた。
 それを狙って、ワニ型従魔が突進してきた。
 その刃は自分に向けられている。何の防御もしなければ致命傷となる一撃だろう。
 怖い、確かに怖い。けれど。と姫乃は思う。
 姫乃はトリナを一瞥した。
 彼女は死の恐怖から解放されようとしている。同時に訪れたのは現実という恐怖。
 これ以上の仲間の死が彼女に耐えられるだろうか。
「許さねぇ」
 信頼していた盾役が目の前で殺される瞬間。
 手を繋いでいたはずの妹が殺された絶望。
 単純だからそんなものは見たくないと姫乃は思える。全力を出せる。
 単純だから報告を聞いただけしか知らない人間に牙を向いた敵に全力で怒る。
「こんなこと、俺の目の黒いうちは許さねぇ!」
 ワニ型従魔の槍を腕で受ける、舞う鮮血。かわりに召喚したミョルニルの刃を腹部に押し当てる。
 そして放たれたイカヅチは唸りをあげて従魔を焼き滅ぼした。
「大丈夫か! 彩咲さん!」
 そう救援に向かったのは藍。
――ワニにウナギに魚人ですか……水中じゃなくて助かりました。
 次いで放たれたブルームフレアが、姫乃に群がろうとする従魔を吹き飛ばす。
 倒れ込んだ姫乃に手を貸して、藍は再びあたりを見渡す。
「なぜ水棲の従魔ばかりなんだ……? 気になるね」
 その視線の先にはリンカーたちに攻撃され悲鳴を上げる愚神がいた。

第二章 水母

 愚神はほぼ自衛能力を持たないという、そのため薙は従魔をなぎ倒すだけで愚神に接近することができた。
――止まるのじゃ!
 モスケールを確認していたエルの声で急ブレーキ。足を止めると、前方の地面からワニ型従魔が出現する。
 そのワニをウコンバサラの柄で巻き上げて進路をあけるとロケットアンカー砲を発射。
 足場の悪い泥と、水の中で愚神から引き離されないように体を固定する。
「お前達には奪わせない」
 愚神への憎しみを込めて刃を翻した。愚神の柔らかい肌を切り裂くと、緑色の液体が噴出する。
 これ以上被害を広げないために、いち早く愚神を倒してしまう必要があった。
 その眼前で昂が愚神へと躍りかかった。目的としては従魔を足止めしている間に愚神を撃破するため。
 護衛の人数も心もとない、それほど長い時間は持ちこたえられないだろう。
 であれば自分が率先して愚神を削る必要がある。
 離脱まで戦線が持てばいいが。
 そう昂の額を冷や汗が伝う。
 次いで背後から襲いくる魔法弾を、愚神を駆け上がることで回避。
 飛びながら体を回転させ、振り返った背後に魚人がいた。
 その魚人はすぐさま塵の魔術によって吹き飛ばされたが。昂はそのままの勢いでいったん離脱。
 攪乱のために戦場を走る。
 その様子を一別し、刀護は迫りくるウナギの頭を切り飛ばした。
「俺の事は気にするな! 走れ!」
 刀護の怒号が小気味よく戦場にこだまする。
 彼は逃げ惑う調査団の周りを飛び回り、誰一人として欠けないように守護していた。
――あなたただけで守れるのですか?
 辰美がそう問いかける、その言葉に刀護はにやりと笑い、頬つたう血をぬぐい、そして高らかに言い放つ。
「ひとりで護衛できるのか、だと? 俺だってリンカーだ。何が何でも守り通してみせるぜ」
 その剣圧でワニ型従魔を押し返して刀護は告げる。
「モタモタしていると戦況が不利になる。早く各自の持ち場につけ!」
 愚神を押し切れるだけの火力がまだ集中していない。
 口にはしないが刀護もだんだん厳しくなってきた。
 その刀護の視界の端で、一人よろめいて倒れる調査員がいた。
 彼は血を失いふらつく足取りでここまで頑張っていたのだ。
「しっかりしろ」
 そんな彼に肩を貸して立たせる刀護。その口から血が漏れた。
「そんな……」
 息をのむ調査員。
 見れば刀護の背中にはざっくりと槍が突き刺さっている。下卑た笑いを従魔が浮かべる。
「気にするな」
 刀護は鬼の形相で振り返ると、やられた分のダメージも込めて、一撃のもとに従魔を葬り去る。
「動ける者は、動けない者の手助けをしてくれ。離脱までの間、自分がお前達を守る」
 そのまま刀護は振り返って雪崩くる従魔を見すえた。
「ここは何人たりとも通さない」
 そう貫く意思が従魔に伝わったのか、従魔全員の意識が刀護に持って行かれた。
 多数の魔術弾が飛ぶ。
 浴びるようにそれを受ける刀護、だが彼は膝をつかない。
「あなたが死んでしまう!」
 調査員が叫んだ、だが、刀護はここで諦めることをしない。
「生きることを絶対に諦めるな! お前達を守ると言っただろう!」
――あなた達は絶対に死なせはしません。生きる希望を捨てないでください!
「その通りだっ!」
 そう刀護を庇うために盾となったのは名無騎。敵の陽動を買って出ていたが数がかなり減ったので、護衛に回ってきたのだ。
「タゲ取ります! こっちは任せておもえらは自分の仕事をすろ!」
 そう刀護とは逆に前に出る名無騎。
「前方ワニ2魚2うな1! 下へ1潜った注意すろ!」
 そう敵の攻撃をばかすか受けながらも態勢を立て直す暇を刀護に与える。
 次いで放たれた魚人からの一声放射。名無騎は何も考えず壁となる。
「カバー入りまうす! おもえらトーゴさんと離脱すろ!」
――……きた、盾きた、メイン盾きた……これで勝つる!
 そんな名無騎の活躍に人造天使壱拾壱号が声をあげた。
「…………オメーほんと好きだなあの騎士よォ」
 塵は後ろ髪をかきつつも名無騎へと視線を送る。
「しかしもかかしも無いんですわ! 生きてりゃ何とかなるって名台詞を知らないのかよ!?」
 名無騎が告げると名無姫が返す。
――ナナキの言う通りだ、それともお前たちは……彼らを犬死ににさせる気か!
 次いで名無騎は守るべき誓い発動、挑発も混ぜつつ意識を集中させる。
 構えた刃の切っ先を魚人に向けて告げた。
「…………オィい、ブサイク」
 魚人が首をひねる。
「心の醜さが容姿に表れていてもうダメ、中途半端に人の形をしてコンプレクスが見え見えですよ?」

「雑魚どもも汚いなさすが汚い、オカンがブスだと大変ですね?」

「……顔は生き方の鑑! よって俺の方が強いのは確定的に明らか! かかって来い!」 
 たぶん言葉は伝わっていないのだが、なんだか分からないが名無騎は生かしておけないと思ったらしい。魚人はひたすらに名無騎へと魔法弾を放つ。
「……騎士の誓いは絶対なんですわ? お?」
 名無騎の顔面に魔法弾がぶつかり仰向けに転んだ名無騎。
「この程度痛くも痒くも無いんですがねぇ!?」
 立ち上がる名無騎。
 そんな彼の時間稼ぎもあって。愚神の包囲網は完成した。このまま火力で押し切るつもりだった。
「そこですか」
 昂は従魔の刃をかいくぐり愚神に再接近。その卵を産みだす帰還の一つを見定めてすれ違いざまに切り裂いた。
 ウヴィーツァによる刃射出機能は。周囲の従魔が反応する隙すら許さずに愚神の生みだした卵を破壊した。
「情報通りならこのまま守っていても押し負けるか」
 藍がマジックブルームを使用して飛翔。上空から愚神へとありったけの火力を注ぐ。
「数はそれだけで脅威です。はやく元を断たないと」
「何となく嫌な予感もするが先に仕留めるべきだね。けどその前に」
 最終局面が近い、なにか奥の手を切られる前にと藍は消火器を使用。撤退する味方と魚人の間に煙幕を張り、戦場を白い闇で閉ざした。
「時間稼ぎくらいにはなってくれよ……どうか」
 そのまま藍はありったけの火力を前方に集中。放った魔法弾が愚神に突き刺さり内臓をえぐった。
――植物型の愚神ですか……付近の自然環境変動になにか関係が?
 禮が告げる。
「水を吸い上げてライヴスに変換している、とか?」
 告げると藍は急降下。頭からかぶさるようなダイブである。
――あらゆる生き物において、上は死角です。
「そして雷光は空より来るもの、か……雷槍よ、無明の夜を裂け」
 放たれた雷鳴は背骨を走るように頭から地面まで一直線に貫く。
 敵が怯んだ。その隙を塵は見逃さない。
 愚神を幻影蝶が包む。
「クク……《怨念》…………確かに聴いたゼ?」
 その翼に人面を持つ、燃え墜ちる蛾たちは死をまきちらし、そして愚神の中へ入っていく。
「纏めて食い散らかしな…………《死面灰燼蛾》ァァああ!!」
 同時に昂は愚神の目元まで駆け上がって切り付けた。視界と感覚を潰された愚神はわめき散らす。
 姫乃がその攻撃に続いた。
「焔の如く、焼き尽くす!」
 ミョルニルのイカヅチが泥水の表面をなめる。
「炎と雷が合わさり最速に見えるってな!」
 その一撃は愚神の中枢へと突き刺さった。
「ん、後はワタシ達にお任せ……。つまり美味しいところだけ、うまうま。うまうま……」
 告げるとエミルが真っ向から愚神へと斬りかかった。
「ん、大きければ良いって訳じゃない……。何事も程度が大事……。覚えておくように……」
 大ぶりの三連撃はダメージのみを重視した渾身の連撃。
 それによって愚神はまるで切り開かれるように内臓をさらし、断末魔の悲鳴を上げた。
「ん……。まだ終わらない、わかってる」
 振り向きざまに、母を殺された痛みか。狂ったワニが突進してきた。
 それに対して刃を突きつけるエミル。
「ん、これでトドメ……」
 刃を引き抜く要領で斬撃、エミルはその従魔を切り飛ばした。
――魚人の術師ですか。黒鱗の人魚がお相手します。
 掃討戦はおてのものである。禮が告げると、藍が敵を吹き飛ばす。 
 あとは数を減らすだけである。
 薙ぎが藍に続いて電光石火の一撃をワニ型従魔へみまう。
「1体倒した」
――残り4体 。
 その四体も劣勢を悟り防戦に入ってる。
 だがそれを姫乃は逃したりしない。
 面倒な魚人型従魔の頭上から雲のように襲い掛かると、ハングドマンでがんじがらめにした。
 キリキリと軋むワイヤー。そのままワイヤーを引くと、従魔が一体細切れになる。
 あとは掃討戦、ここまでの戦いをしのぎ切ったリンカーはそつなく、その役目を終える。

エピローグ

 戦闘終了後、禮は散った3人のリンカーに鎮魂歌をささげていた。
 涙ぐむ調査員たち。
 藍はトリナさんに自分を重ね。トリナさんに語り掛ける。
「生きなさい。今日散ったものの為に。その死を無為にしない為にも」
「けど!」
 トリナは言葉を切った、藍の瞳に深い悲しみを見つけたから。
 この人もきっと……。
「あなたは生かされた。いつか、あなたもあなたの答えを見つけられるだろう。だから、その手に残るものをけして忘れないで」
 涙ぐむトリナ。そんな彼女はずっと藍の手を握っていた。
「手に何も残らなかった私と違って、あなたは妹をその手で救ったのだから」
 その言葉にぽつりと、塵は含みを持たせて言葉を投げる。
「ハッハ、ウケるぜ、アイツ等無駄死にだな」
 そう嘲笑う狂人は、理性のある瞳を全員に向ける。
「あ? だってテメーらもう無理っしょ? 戦えんの?」
 その言葉に誰も答えは返せない。
「クク…………じゃあさ、俺みてーになれば楽になれるぜ?」
「あなたみたいって?」
 トリナは問いを投げた。その言葉に塵はくるっと回って見せる。
 道化という意味か、狂人という意味か。
 どちらにせよ。
「私は、あなたみたいに、他人の死を置き去りにする人間にならない」
 トリナは力強く言って見せた。
 その言葉に塵は笑うと、煙草を捨てて背を向ける。
「違うなら、証明してみな」
 そう一歩踏み出す塵。だがその背を名無騎が止めた。
「おい、お前」
「なんだ? てめぇ」
 その塵へ煙草の吸殻を二つ。突きつける名無騎。
「環境破壊、だめ。絶対」
 その言葉に塵は無言で吸殻を受け取るのだった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 死を否定する者
    エミル・ハイドレンジアaa0425
  • 共に歩みだす
    魂置 薙aa1688
  • その背に【暁】を刻みて
    東江 刀護aa3503
  • 守りの盾
    名無騎aa5428

重体一覧

参加者

  • 死を否定する者
    エミル・ハイドレンジアaa0425
    人間|10才|女性|攻撃
  • 殿軍の雄
    ギール・ガングリフaa0425hero001
    英雄|48才|男性|ドレ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • 朝日の少女
    彩咲 姫乃aa0941
    人間|12才|女性|回避
  • 胃袋は宇宙
    メルトaa0941hero001
    英雄|8才|?|ドレ
  • 解れた絆を断ち切る者
    炉威aa0996
    人間|18才|男性|攻撃
  • 白く染まる世界の中に
    エレナaa0996hero002
    英雄|11才|女性|ジャ
  • 共に歩みだす
    魂置 薙aa1688
    機械|18才|男性|生命
  • 温もりはそばに
    エル・ル・アヴィシニアaa1688hero001
    英雄|25才|女性|ドレ
  • マーメイドナイト
    海神 藍aa2518
    人間|22才|男性|防御
  • 白い渚のローレライ
    aa2518hero001
    英雄|11才|女性|ソフィ
  • その背に【暁】を刻みて
    東江 刀護aa3503
    機械|29才|男性|攻撃
  • 優しい剣士
    双樹 辰美aa3503hero001
    英雄|17才|女性|ブレ
  • 悪性敵性者
    火蛾魅 塵aa5095
    人間|22才|男性|命中
  • 怨嗟連ねる失楽天使
    人造天使壱拾壱号aa5095hero001
    英雄|11才|?|ソフィ
  • さいきょーガール
    雪室 チルルaa5177
    人間|12才|女性|攻撃
  • 冬になれ!
    スネグラチカaa5177hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 守りの盾
    名無騎aa5428
    機械|24才|男性|防御
  • 我が剣に誓う
    名無姫aa5428hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
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