本部

【森蝕】連動シナリオ

【森蝕】愚者の黄金

電気石八生

形態
ショートEX
難易度
難しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
15人 / 10~15人
英雄
15人 / 0~15人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2017/11/23 20:42

掲示板

オープニング

●割り勘
『こちら礼元堂。羽つきの狼がちらちら飛んでるみたいだから注意して』
 オペレーションルームで数十のレーダーの映像とプリセンサーからの“お告げ”を捌きながら、礼元堂深澪(az0016)はアマゾンを進むエージェントへ通信を飛ばす。
 エージェントたちは今、森林内でマスドライバーの設置作業を急いでいた。
 先の戦いで制空権を得たその後に、飛行能力を備えた人狼群の襲来が告げられたのだ。
 パナマ地峡を抜けた人狼の数、258。内、プリセンサーが人力でカウントした飛行狼の数は80。それらのすべてはケントゥリオ級であることが確認されている。
 インカ支部防衛のため、上空でこれを叩く。
 そのために、マスドライバーでライヴスジェットパックを背負ったエージェントを打ち上げようというわけだ。
 しかし、森林内には残る178の人狼が潜んでいる。それらはミーレスおよびデクリオ級であるようだが、上空の精鋭を行かせるためにマスドライバーを狙ってくるだろう。
 さらに。
『民間の地質学者団5人が人狼群に拉致されてるからね……対策本部は前にノリリスクの発電所でネウロイがやった自爆攻撃に使うつもりなんじゃないかって言ってる』
 人化した人狼に爆弾を持たせ、人だと思わせておいて自爆させるという元トリブヌス級愚神ヴルダラク・ネウロイの策。ここに人間を混ぜ込まれれば、どれほどの混乱を引き起こされるものか。
『打ち上げ、人数分で塩ちゃんこ鍋と飲み放題コース予約してあるから。ひとり頭の割り勘増やしちゃダメだよ』
 誰かが死ねばひとりあたりが支払う値段も上がることになる。だから、死ぬな。
 エージェントたちはその顔としぐさとに、それぞれの覚悟と決意を閃かせた。

●愚者の黄金
 アンデスを縁取り、ペルー北部に位置するリオ・アビセオ国立公園の際となるマラニョン川。
 愚神ウルカグアリーは川縁に伏せて命令を待つ白狼の群れに金眼を向け、うなずいた。
「仕込んだ石は思惑どおりに芽吹いた」
 白狼の体のところどころから金色の立方体が生えだしていた。ウルカグアリーのしとやかな黄金と比べればずいぶんと安っぽい金である。
「愚者の黄金ですか。僕にこれほどふさわしい“アバタ”はありませんね」
 白狼と同じ金の体を持つ小柄な人狼が口の端を吊り上げた。
 黄鉄鉱――硫黄と鉄からなる鉱石で、川辺の石によく含まれている卑金属だ。しかし見た目が金色であるがゆえに黄金と見間違える者も多く、「愚者の黄金」の異名を与えられることとなった。
 自然に立方体を形成する性質から観賞用として取引もされるが、衝撃を与えれば容易く火花を吐く危険物でもある。
「己を愚かと語る者は愚かではおれぬものよ」
 ウルカグアリーの言を、ぱぢん。人狼の体表にはしる細い電流が遮った。
「上官の受け売りですけどね、考えるのは偉い人の仕事ですよ。僕はそれを達成するために死ぬだけです。何度でも」
 人狼群はシベリアの凍雪に散った。そのはずだった。
 しかし、死した魂は少女の妄執に縛りつけられてこの世に留められ、さらにはウルカグアリーによって石の体を与えられることとなった。不死ゆえの不滅ならぬ、既死ゆえに滅することを封じられた兵として。
「愚かであらんがため愚かを騙る。汝(なれ)らが姫に倣うか」
「パヴリヴィチは姫でも、狼ですらありません」
 人狼は苛立った言葉を吐き捨て、狼どもに声ならぬ声を飛ばした。
「でも、愚者になりたがってるあいつのことは僕がいちばんわかるから。せいぜい質のいい兵隊を演じて、愚者の黄金を全うしますよ」
 生前はニキータ軍曹と呼ばれていた人狼は178の白狼を共連れ、森林の内へ駆け込んでいく。
 その背を見送ったウルカグアリーはなにを語ることなく、黄金のアバタに宿っていた意識を切り離した。

●白き狼
『ニキータが動いた』
 森の一角にある高台より流れ出るヴルダラク・ネウロイのアルト。
 英雄たる妻の魂を喰らい、自らの存在をその内にねじ込むことで英雄となった元愚神の声に応えたのは、彼の“娘”にして契約主たるアルビノの少女――リュミドラ・ネウローエヴナ・パヴリヴィチである。
「いつでも、行けます」
 彼女の額に粘つく汗が浮かび、じりじりと流れ落ちてはまた玉となって額へ貼りつく。
『まだだ。女神が戻られるを待て。自分たちだけでは“翼”を支えられん』
 背から伸び出す黄金の翼。電流を帯びたライヴスによって一種のイオンクラフトとして機能するこの翼は、ウルカグアリーの制御なくして機動させることは不可能だ。
 ネウロイの言葉にリュミドラは小さくうなずき、ライヴス式アンチマテリアルライフル“ラスコヴィーチェ”を支えに立つ。
 そこへ。
『急くな。揺らげば均衡を失うぞ』
 金翼に雷光閃き、リュミドラの萎えかけた脚を宙へと吊り上げる。
『ネウロイとの約があり、妾の願いがある。ゆえに妾は汝を守ろう』
 翼という“アバタ”に宿ったウルカグアリーがささやいた。
『汝の全うする末路こそが対価。其のために生き、征き、逝け』
 電流に乗り、ウルカグアリーの思いがリュミドラの内を駆け抜けていった。――残され続けてきたがゆえの深い孤独と、心重ねた者たちを逝かせてしまったがゆえの鈍い悔いとが。
 その心に報いるため、せめて死すまでは示そう。白狼を騙るアヒルの無様な生き様を。そうだ、たとえその無様を躙られ、嗤われるのだとしても、愚直に貫く。
『地上本隊はニキータに従って進軍。空襲部隊は我らに続け』
 ネウロイの指示を受け、アルミの羽を持つ狼どもが青空へと飛んだリュミドラへ続く。
『インカ支部とやらを落とす。貴様の一射で戦場を貫いてみせろ、娘よ』

●語り部あるいは騙り部
 樹海を切り拓いて造ったヘリポートの中央部。
 十数体のヴァルキュリアに守られたバルドルが口の端を吊り上げた。
 彼の眼前には10のウールヴヘジンが跪かされており、なにを語ることもなく、ただ待ち受けている。
「刃を」
 ヴァルキュリアから渡された剣を鞘から抜き放ち、バルドルがウールヴヘジンどもへと向かった。
「これで、10」
 自ら斬り殺したウールヴヘジンどものただ中へ剣を放り捨て、バルドルは振り向いた。
「輿の準備はできているか? 登場はできうる限り華やかに演出したい。諸君も入念に身を飾り立てておきたまえ。なぜなら諸君は使者となるのだからね。僕と共に真なる世界へ踏み出すエインヘリャルへの言祝と、焼き払われる旧き世界への呪詛を携えて飛ぶ、ね」

解説

●依頼
・人狼群と20ラウンド戦い抜いてください。

●人狼「地上本隊」
・体に黄鉄を生やしたミーレス・デクリオ級従魔。
・人、人狼、狼の3形態でマスドライバー破壊を目ざします。
・武装は銃器と手榴弾および格闘武器。
・その中に5人の調査団員が紛れています。
・戦闘ではあらゆる状況が想定されるため、ルールも状況に準じます。

●ニキータ
・黄鉄の体を持つ人狼です(ケントゥリオ級愚神相当)。
・左右の人差し指、中指から計4本の爆導索を伸ばし、格闘術と共に使用。

●人狼「空襲部隊」
・アルミの羽を持つ狼(ケントゥリオ級従魔)
・噛みつきや引っ掻きの他、アルミ弾による遠距離攻撃(射程50)を行います。
・中にエース級の強力な狼が数体います。
・羽を破損させれば一撃で墜とすことも可能。

●リュミドラ
・飛行していますが、射撃時はその場に停止します(格闘戦時は別)。
・ジャックポットの全スキルを1~3組み合わせて使用。
・生命力と回避値は低く、防御力が高いです。
・空中、地上問わず攻撃します。

●状況等
・上空対応班【空】と地上対応班【地】にタグ分けし、それぞれの敵へ当たってください。
・【空】はライヴスジェットパックを背負ってマスドライバーで上空へ打ち上げられて3ラウンド戦った後、「地上へ落ち、新しいパックを背負って打ち上げられる(1ラウンド消費)」を繰り返します。
・【地】は密林の中からあらゆる手を尽くして襲い来るニキータと人狼本隊から、最低17ラウンドの間マスドライバーを死守してください。
・必要と判断したことはなにをしていただいてもかまいませんが、大規模な環境破壊は避けてください。

●備考
・連携が不可欠です。個人行動派の方を含め、かならず相談してプレに盛り込んでください(今回はためらわず失敗/大失敗を出します)。
・質問卓を活用してください。
・今回バルドルとの戦闘はありません。

リプレイ

●胸中
「敵、接近中。このままならあと60秒で“見える”よ!」
 インカ支部を守るために布陣したエージェントたち。そこへ迫る人狼群の反応をレーダーユニット「モスケール」で確認したニウェウス・アーラ(aa1428)が一同へ告げた。
「この46メートルがオレたちの命運を決めるんだな」
 つぶやいた荒木 拓海(aa1049)に、内よりメリッサ インガルズ(aa1049hero001)が応える。
『うん。最後まで立っているのがわたしたちか人狼か』
 空より飛来する羽根つき狼と、それを指揮するリュミドラ・ネウローエヴナ・パヴリヴィチを迎撃すべく設置された、エージェント打ち上げ用のマスドライバー。拓海は仲間と協力し、その周辺46メートルの密林を切り拓き、視界と戦場とを確保したのだ。
「空からはよく見えるんだろうな。……見せつけてやるさ。俺たちの必死ってのを」
 マスドライバーの周囲に切り出した木材でコの字型の柵を設置していたニノマエ(aa4381)が、青い空を三白眼で流し見、吐き捨てた。
『心を揺らすな。今はまだ、吼えるときではない』
 ニノマエを内から制したミツルギ サヤ(aa4381hero001)は言葉を切り、自らに定めた吼えるときを待つ。
『この46メートルは範囲攻撃の“面”を確保するためのものであります。そしてこの罠は篩』
 形状を変え、格子の隙間の幅を変えた3段構えの柵を見やり、地上迎撃班のまとめ役を担う美空(aa4136)が内で言った。
『マスドライバーと言えば『あわわ』であります。美空は『うぐぅ』となって楓お姉さまのため、これを死守する構えでありますよ』
 ところどころで口を挟むのは、美空と共鳴した英雄ひばり(aa4136hero001)。
『美空さんは……いろいろうかつですぅ!』
 ぺちりとツッコんだひばりに美空は。
『これが若さであります』
 そんなやりとりに気づくことなく、すべての準備を終えたことを確かめたニウェウスの内でストゥルトゥス(aa1428hero001)がぽつり。
『これ守り抜いた上でさ』
 ニウェウスが強くうなずき。
「全員が生き残ったら」
『割り勘ではなくぅ』
 ふたりで声をそろえて。
「『深澪に奢りを要求しよう!」』

「さて、敵をどれだけ凌げるかな」
 作業中の仲間たちをカバーしていた青き重装――モード・タイタンを身にまとった加賀谷 亮馬(aa0026)が、内のEbony Knight(aa0026hero001)に語りかけた。
『失敗はゆるされんぞ。連携を密にして防衛に当たれ』
 Ebonyの固い声音にうなずき、亮馬は背後に据えられたマスドライバーを意識する。
「おうさ。ゆらだって体張ってんだ。俺も負けてられないからな」

『空も地上も、どっちも動きやすくできるように。がんばろ、ママ』
 亮馬の未来の娘だという英雄、加賀谷 ひかる(aa0651hero002)に応えたのは、亮馬の妻にしてひかるの未来の母であり、契約主の加賀谷 ゆら(aa0651)だ。
『迎撃とは言っても、どこまで必要で、どこまでできるのかわからないわね。まあ、やってみないことには始まらないから、全力を尽くすのみだわ』
 彼女らは対空と対地のどちらもを兼ねる遊撃担当。難しい役どころを買って出ていたが。
「対空担当、マスドライバーへ。敵が来る」
 その不安も葛藤も見せることなく、ニウェウスからの指示を対空担当班へ送る。

『空を自由に飛びたいですわね』
 ヴァルトラウテ(aa0090hero001)の言葉に、ライヴス・ジェットパックを装着した赤城 龍哉(aa0090)が苦笑して応えた。
「そんな便利道具があれば話は早いんだがな……与えられた30秒を活用するしかねぇさ」
 ヴァルトラウテの声をキャッチしたかのように、対空担当班の最後尾へついていたギシャ(aa3141)が内で歌声を響かせる。
『そーらをじゆうにーとっ』
『そこまでにしておけ。俺は青い狸ではないし、空を飛びたければ自分で進化しろ』
 にべもなくギシャの声を断ち切るどらごん(aa3141hero001)。
 ギシャは消せぬ笑顔を傾げて。
『合いの手が欲しかったー』
『それも自分で入れておけ』

 月鏡 由利菜(aa0873)は奥歯に乗せた失意を噛み締める。
 現状に流されるまま他の愚神と手を組み、あまつさえ尖兵として攻め寄せる。それが狼の矜持――鋼の意志だというのか。
『言い訳か答か、彼らに語らせるよりあるまい』
 リーヴスラシル(aa0873hero001)が静かに声音を紡ぎ。
 由利菜は表情を引き締めた。

『今日で終わらせる。そのつもりで飛ぶ。それでいいんだね?』
 氷室 詩乃(aa3403hero001)の問いに、柳生 楓(aa3403)はひとつうなずいた。
「はい。今日で終わらせます。決着を……つけます」
 それを見やる八朔 カゲリ(aa0098)の内、ナラカ(aa0098hero001)が声を発した。
『愚直だな。あの小娘と楓は実に似ている』
 ナラカの言葉に含められた怒りと失意、そしてそれを凌駕する悲哀を感じながら、カゲリは沈黙を貫く。
 言葉をどれほど積んだところで結末は変えられない。悲劇か喜劇か、どちらの筋書きを踏むかすら選ぶことはできないのだ。

 打ち上げ準備が整いゆく中、月影 飛翔(aa0224)は内のルビナス フローリア(aa0224hero001)と言葉をかわす。
「降下は経験済みだが、打ち上げは初めてだな」
『空中では地上ほどうまく動けませんから注意を。それと、パックを破壊されればそのまま墜ちて時間を浪費する……それだけはお忘れにならないよう』
 班を3つに分けてローテーションを組み、空を常にエージェントで塞ぎ続ける。それが最大30秒しか空を飛ぶことのできない対空担当班の打ち出した作戦だった。
 問題はひとつの班が下に降りている都合上、空にある他班の負担がそれだけ増えるということだが……それでもやり抜くよりない。

「過ぎるコンパクトさに無理矢理なハイパワー。わらわが改造したらあと1000メートルは射程を伸ばしてやるぞ? 支援用迫撃砲とかの」
 マスドライバーを前に声を弾ませるカグヤ・アトラクア(aa0535)。
『レール短すぎで使えないから』
 その内から眠たげな声でクー・ナンナ(aa0535hero001)がツッコんだ。
「わかっておるわ。お友だちに逢えるのが楽しみでテンション上がっておるだけじゃ」
『ストーカー? カグヤが逮捕されたらボク、お家で待ってるね?』
「その必要はない! 法と鉄格子の抜けかたはあれこれ知っておるゆえの!」

「人狼群、一気に来るよ!」
 ニウェウスの合図と共に、対空担当班が空へ打ち上げられていく。もっとも、端からはでたらめに投げ散らされているようにしか見えなかったが。
「みんな飛べ! あの子に思いを伝えきってこい!!」
 拓海の声音が楓の視線と交錯した。
「いってきます」
 かくて楓は、そしてリュミドラと因縁を結びしエージェントたちは、白狼姫へと向かい行く。
「……討ち漏らしたツケがここで降りかかるか。このいたちごっこ、いつまで続くのやら」
 対空担当班を見送ることなく、ダグラス=R=ハワード(aa0757)は皮肉な笑みを閃かせた。
「守勢に回るのは好かんが、つまらん失敗を晒すわけにもいくまい。せいぜい対する敵が腑抜けでないことを祈ろう」
 対して。彼の内に在る英雄、紅焔寺 静希(aa0757hero001)は。
『はい』
 表情の宿らぬ面を深く垂れるばかりであった。
「私たちも」
 ダグラスに続き、零月 蕾菜(aa0058)が踏み出した。
 その内で十三月 風架(aa0058hero001)は厳しい顔のただ中、緑眼に決意の炎を灯す。
『マスドライバーが壊されればあの空は奪われる』
「させません。絶対に!」

●卑怯
「やっと戦えるな、ライヴスリンカー」
 密林の切れ目に姿を現わした小柄な人狼――ニキータが、黄鉄の体毛を逆立てて言い放つ。
「小うるさい。が、奥で震えて縮こまる腑抜けでなくなによりだ」
 ダグラスがRPG-49VL「ヴァンピール」のトリガーを無造作に引き、擲弾を叩き込んだ。
「焦るなよ。すぐに始まるさ。すぐにね」
 易々とバックステップで回避したニキータが嗤うと。
 密林からあふれ出す、人間、人間、人間。ぼろきれをまとっただけの彼らは引き攣った顔を仰向け、対地担当班がしつらえた一の柵へ押し寄せる。
「人!? ちがう、人狼――」
 絡み合い、もつれ合ったライヴス反応を読み取りきれず、ニウェウスが高い声を弾けさせた瞬間。
 柵にその身を打ちつけた人間、その肩口から突き出した黄鉄に火花がはしり、起爆。まわりの者たちを巻き込んで大爆発を引き起こした。
「おまえらが小細工なんかするから、これで人質がひとり死んだ。……ああ、言い忘れてたけどね。人質には全員、プラスチック爆弾を食わせてあるんだ。もちろん狼にもね」
 吹き飛んだ一の柵の向こうから届くニキータの声。
 マスドライバーの前に築かれた三の柵の守備につき、対地担当を指揮する美空は額に浮いた粘つく汗をぬぐう。
「人狼さん、はじめから戦う気なんかなかったンゴね。人質ニキをエサにして、こっちの動き制限しといてボカン」
『卑怯すぎますぅ……!』
 ひばりの震える声音にうなずき、美空は森の際から次々と現われる人化人狼をにらみつけた。
 人質は言い含められているのだろう。マスドライバーにたどりつけば生かして帰してやると。人狼がそんな約束を守るはずはないのに……。
『美空たちが甘かったのであります。でも、だからって辛くなったら負けですよ。甘々、貫くのであります!』
 押し詰まる沈黙の中、亮馬が踏み出した。
「まずは足止めする!」
 肩にかついでいたエクリクシスを立て、二の柵へ向かってきた人化人狼ないし人質を肩で突き飛ばし、その脚を大剣の腹で薙ぎ払う。
『歩かせなければ人狼も人も関係あるまい』
 Ebonyの言葉を聞きながら、亮馬は黄に輝くモニターアイを巡らせた。
 人狼は黄鉄の性質を利用し、体外からの刺激を火花に換えて体内の爆薬へ点火するらしい。おそらくは人質にも同様の処置が施されているのだろう。ならば。
「あとは見えてる金属に触らなきゃいいってことだ」
 激しく動き回るターゲットの一点から攻撃を外す。それはある意味で狙い澄ますより難しいだろうが。
『それでもやりとげるだけだ』

『次、来るわよ!』
 メリッサの警告に「わかってるさ!」、応えた拓海が腰だめに構えたガトリング砲から数千の弾をばらまき、迫る人狼どもの足元を塞いだ。
「オレは忘れない、オレがここにいる理由! ひとりでもたくさんの誰かを、全力で守る!!」
 その言葉は、守り切れなかった悔いと責をすべて負い、なお誰かへ手を伸べる決意。
『ええ!』
 メリッサは短く応え、拓海の意志に自らのライヴスを併せ、高く燃え立たせた。

『正道じゃありえないし趣味も悪いけど、効果的だね』
 ニウェウスの内、ストゥルトゥスが乾いた唇を舌先で湿した。
 破れかぶれならばまだやりようはあるが、敵は明確な意図をもってこの自爆攻撃を選び、実行している。しかも数の優位を取った上でだ。
「ん」
 ニウェウスは息を絞り、鼓動を鎮めて目をこらした。ここでレーダー役の自分たちが平静を崩され、“目”を曇らされれば、それこそ一気に押し込まれてしまう。
「冷静に、俯瞰的に戦場を把握する」
 どこから来るか知れぬ人狼すべての動きを把握し、さらには紛れ込まされた人質を正確に探り当てる……刃持たず、弾放たぬ死闘へ、彼女はためらうことなくその身を飛び込ませていく。
 その共連れたるストゥルトゥスは沸き上がる万感を押し殺し、その緑眼をすがめた。
『どこから来ても捕捉してヤンヨ――!』

 けたたましいZOMBIE-XX-チェーンソーの駆動音を撒き散らし、ダグラスが進む。
 回転刃を避けて走り抜けようとした者の足首を蹴り払い、腰を落として脚の付け根を踏み抜いた。自重を降ろすのではなく、落とすことで生じる“重さ”を利した勁力の発動――沈墜勁による一打である。
 そして刃ならぬ本体で別のひとりの腹を突き上げ、浮いた顎に発勁。
「出てきた端から隠れんぼか?」
「すぐに行くさ。でもいいのか? 僕が出て行っても」
 森から忍びだしたニキータの声に応えず、ダグラスは嘲笑を吐き捨てた。
 柵を構築する手助けはした。人質を救う手も尽くそう。しかし。
 彼は死闘を愉しむためにこそここへ来たのだから。
「御託はいらん。あがけ。もがけ。存分に喰らわせろ」

 人狼群を食い止めるべく防衛戦を開始した仲間たちの後方、蕾菜は空き地へ姿を現わした人狼群の数をカウントする。
「もう少し……でも」
 唇を噛み、踏み出そうとした蕾菜を風架が制した。
『機会は1回だけ。しっかり見定めないといけませんよ』
「わかってます。わかってますけど」
 愚神と従魔のみを討つ幻影蝶を乱戦の最中へ叩き込む。それは蕾菜と風架が用意した奥の手だ。一度きりしか使えない代わり、成功させられればなによりも大きな成果をもたらすはず。
 それをわかっていながら、蕾菜は急かずにいられない。もう戦いを後ろから見ていたくない。仲間を、守りたい。突き上げる思いが彼女の足を踏み出させてしまう。
『今は敵の足を鈍らせましょう』
 マスドライバーへ迫る者たちの足へ重圧空間を食いつかせ、蕾菜は奥歯を強く噛み締めた。
「ニウェウスさん、美空さん。幻影蝶を撃ち込むタイミング取り、お願いします!」

『蕾菜が幻影蝶しかけられるタイミング作りたいの。まだ森にいる狼、追い立てられないかな?』
 ニウェウスからの通信を聞いたニノマエは、身を隠していた樹上で通信機のマイクを小さく叩いた。了承のサインだ。
『とはいえ闇雲を追い立てれば対処しきれなくなるぞ』
 サヤの懸念にニノマエが内で応えた。
『いや、ばらばらに走らせなきゃ勝機はある。決めるぜ』
 初手で駆け出した人狼群はいわば見せ駒だ。あれでエージェント側は防戦に回らざるをえなくなった。
 最悪なのはここから機を窺われ、小出しに奇襲をかけ続けられること。それを防ぐには、逆にこちらの奇襲で敵の出動の自由を潰すよりない。
 ニノマエがあえて防衛線に加わらず、敵が進み来る森に潜んだのは自らを奇貨とするためだ。その賭けの結果が、早くも問われることとなった。
『表が出るか裏が出るか、そいつを試す権利はないからな。表を出すぜ、ミツルギ』
 肚を据えたニノマエが跳び降りた。そして未だ森に在る人狼群の後方へ転がりこむ。
『我が同胞よ――来たれ!』
 回転を重ねるニノマエの内より、サヤがこの世界ならぬどこかにたゆたう無数の刃を呼び出して。
 狼どもの背後に刃の雨を叩き込んだ。
「後ろは押さえた!! 殲滅する!!」
 ニノマエのブラフに背を押されるがごとく、人家人狼の中から誰かが走り出す。それを覆い隠すように、残りの者たちも一斉に。

●弾矢
「対地担当班、交戦開始! 人狼群の主戦術はやはり自爆攻撃だ!」
 対地担当班の通信と視認によって情報整理に務めていたゆらが、対空担当班のエージェントたちに鋭く告げた。
『ママ、下のほうやばそうだよ! 戻る!?』
 声をあげるひかるを内で制し、ゆらは編隊を組んで攻め寄せる“羽根つき”へ視線を据えた。
『まだだめ! 上の状況、下に伝えなきゃ』
 そのためにもまずは一手を交えなければ。ゆらはホバリングで体勢を整え、和弓「賀正」を引き絞り、射た。
 初日の光を思わせる峻厳たるきらめきを散らして飛ぶ矢。
 しかし。先陣を担っていた狼はこれを悠然とかわし、「グオウ!」。他の狼を促して速度を上げた。
『手強い狼がいるようですわね』
 息をつくヴァルトラウテに不敵な笑みを返した龍哉は、彼女のサポートを受けて九陽神弓を射放した。
「エース級ってやつか。だが、あいつらを越えなきゃリュミドラに逢えねぇ。約束したからな、ケリをつけに行くってよ!」
 編隊の一匹の胴を削った矢を追うようにジェットを噴かし、その身をまっすぐに狼群へと向かわせる。
「龍哉さん! 接敵までは私の影に!」
 ルーンとディガンマとを重ね刻んだ“光翼の盾”で龍哉を守り、その身を空へすべり込ませる由利菜。
 由利菜は狼群を越え、最後尾を飛ぶリュミドラを見据えた。
『ユリナ、この戦で先陣を務める意味を確かめよ』
 リーヴスラシルの声が、狭窄しかけていた由利菜の視界を解いた。
 あの父娘に突きつけなければならない思いがある。しかし、それに囚われてしまえば同じ轍を踏むことになろう。
「この盾に誓って、守り抜きます――!」

 由利菜の後方にある楓はリンクコントロールを発動させ、リンクレートを押し上げた。
『楓。ボクたちはこの厳しい戦いの中で我儘を押し通す。責任を放棄した責任、果たさなきゃいけないんだよ』
 詩乃に言われるまでもない。敵を討つ刃を取らず、この盾にすべてを預けて我を通そうというのだ。
 せめてやり遂げなければならない。どのような末路を辿るのだとしても。

『戦力が足りぬ。りんくれえとを上げている暇がない』
 飛来する無数のアルミ弾を旋回して回避したカゲリの内でナラカが肩をすくめてみせた。
「まずは敵の数を減らす。その後のことはその後考える」
 炎弓「チャンドラダヌス」――浄化の王たるナラカに銘づけられた“神焔之弓”が金焔の矢を放つ。
 これを受けた狼はわずかに体勢を崩すが、当たりが浅い。羽をまっすぐに広げ、反撃の弾を装填した。
「やらせるかよ」
 フリーガーファウストG3のロケット弾が射撃体勢に入った狼を撃ち据え、射撃を合わせようとしていた狼を巻き込んで轟と爆炎をあげた。
「サポートする」
 横合からカゲリへ目線を飛ばしたのは、彼とペアを組む飛翔だ。
「すまない」
 短く礼を述べる間に次の矢をつがえるカゲリ。
 ドッグファイトに移行するまで、推定であと20秒。“滅刃”の異名を持つ双炎剣「アンドレイアー」を抜くにはまだ早い。
「……全員が空にいる10秒でどれだけ撃ち落とせるか、だな」
 炎を割って飛び出してきた狼を見据え、飛翔は口の端を吊り上げた。
 一撃や二撃を加えたくらいで落とせる相手ではない。そのことを今、自らの手で証明してしまった。
『本当の戦いは距離が詰まった後に始まるでしょう。敵を墜とすよりも私たちが墜とされないことを優先してください』
 ここから対空担当班は順に地上へ降り、バックパックの交換を行うことになる。
 最初に降りる龍哉・由利菜・楓――最大数であるAチームが失われる10秒はひとつの試練となるだろう。

「2枚の盾が損なわれる間は、わらわがこの魅惑の肢体を張って持ちこたえようぞ」
 カゲリ・飛翔のBチームの背後を固めていたCチームのひとり、カグヤが展開したカチューシャMRLが16連ロケット弾を吐き出し、狼群の編隊へと襲いかかる。
『体張るんじゃなかったのー?』
「発射する瞬間、ぐいと張っておったろうが」
 クーのツッコミをかるくいなしつつカチューシャをパージしたカグヤは高度を取り戻し、幻想蝶へ封じた玻璃「ニーエ・シュトゥルナ」へ手をかざした。
 と。その肢体に次々食らいつくアルミ弾。
「豆鉄砲と思いきや痛いではないか!」
「敵はケントゥリオ級だしねー」
 カグヤの後ろからひょいと顔を出したのは、Cチームの片割れであるギシャ。その体にはカグヤ同様、カチューシャMRLが展開していて。
『ギシャ、間を空けるな』
「らじゃー」
 どらごんに応えておいて、ギシャはカグヤの体へこすらせるように16連ロケット弾を撃ち放した。
「熱いしうるさいわ!」
 思わず声を上げるカグヤだが。
 範囲攻撃を重ねられ、羽を損なった狼が数匹墜ちていく。
「こうかはばつぐんだー」
 そしてハウンドドッグに換装したギシャが、カグヤを盾に次の狼へ狙いをつけたその瞬間。
 カグヤの体が跳ねた。
「カグヤシールドがんばれ?」
「シールドは余計じゃ。あとがんばれと言われてがんばれるのは原子力ロボだけじゃ」
 ギシャに言い返したカグヤはリュミドラの12・7mm弾に抉られた肩を固く縛って止血。回復スキルを使わないのは仲間を優先するためだ。
「弔い合戦でこないだの借りも返すよ。狼さんに借り物の羽はにあわないしねー」
 ギシャにどらごんは内からかぶりを振り。
『おまえが言ったんだぞ、敵はケントゥリオ級だと。幸い弱点はわかっているんだ。確実に撃ち、戦果をあげる』

●遮二無二
 ニノマエの奇襲で潜んでいた人化人狼が森より駆け出した瞬間。
 ニウェウスの装着したモスケール、そのモニターに幾十もの新たな光が点った。
『来たヨー!』
 ストゥルトゥスへうなずき、ニウェウスはもつれ合うライヴスの輝きを視た。
 人形態の人狼はライヴスが薄い。それゆえに奴らが動揺し、人化を揺らがせればライヴス量が跳ね上がる。
 人間の微細なライヴスは容易く紛れ、消失する。
 目に焼きつけたコンマ1秒前の人間と人狼のポジションを脳裏で再生、次のコンマ1秒で更新――処理能力の限界はすでに超えていた。脆弱な毛細血管がライヴス圧で弾け、視界を赤く染める。それでもニウェウスは計算を止めない。
「2・6,5・1、6・8……」
「お兄様、そこから右斜め前にぐーってプレッシャーかけるンゴ! 荒木さんは左からぎゃぎゃって回り込むんやで! ハワードさんは適当、ニノマエさんの行動は秘密ンゴね」
 座標を告げたニウェウスに指示を重ねるのは、対地担当班の指揮と共にマスドライバーの最終防衛ラインたる三の柵とレーダー役のニウェウスの護衛を担う美空だ。
『狼さんの先陣、足止まってますぅ!』
 目深にかぶったピッケルハウベの前立をきりりと引き締め、ひばりが告げた。
『今のうちでありますよ』
 美空は内で応えた直後、肉声に切り替えて。
「零月さん準備いいンゴ!? お兄様、抑えよろしくニキー!!」

『場を制して機を招き寄せるぞ、亮馬』
「ああ!」
 Ebonyに応えた亮馬が人狼群のただ中へと突っ込んだ。
「来い!」
 最小の挙動で重心を安定させ、自らの重量を据えることで狼どもを制する障害物となる。
「はい!」
 蕾菜が前へ出た。
 仲間は誰もが必死だ。だから。
 命を賭けて空へ向かった者たちに、そして名も知らぬ誰かを守ろうと命を賭ける者たちに、応えたい。
 人化を解いた数匹の人狼が蕾菜へ迫る。知能の程は知れないが、不穏な空気を察したのだろう。彼女に爪牙を突き立てた。人の身に鳥獣を映す共鳴体から、鮮血があふれ出す。
『蕾菜、今だ』
 いつもと変わらぬ風架の声。激痛に滲む意識に先を示す、標。
 果たして。
 狼どもの鼻先をかすめて蝶が飛ぶ。1、2、3,456789――蝶を騙るライヴスの渦にまかれた狼どもが狼狽し、激しく身悶える。
 そのただ中から身を離し、蕾菜は小さく息をついた。
 修めた護身術を使わなかったのは、乱戦に持ち込んでより多くを巻き込むがためだ。そしてそれはまさに、最大効率で成った。
「8・4、7・1、15・17!」
 ついに見つけるべきものを見つけたニウェウスが指示。
「おおおおお!!」
 亮馬が人狼の波を割って数十の内からただひとりを引き抜いて投げ飛ばした。
『7・1、確保』
 Ebonyの報告が各員の通信機を巡る中、これまで森林からの寄せ手を牽制していた拓海は別方向へ駆け込んでいる。
「15・17、任せろ!」
 ぽかりと口を開け、足を迷わせていた男に「もう大丈夫ですよ」、そう言い聞かせて促し、まわりの人化人狼から引き離した。
『このまま護衛して一度隔離――』
 衝撃。とっさに男をかばった拓海の体が宙へ飛び、地に落ちてバウンド、二転し、三転して、ようやく止まる。
 腕の中の男の無事を確認した拓海が顔を上げて。
「……なんだ!?」
『人狼が爆発したのよ!』

「っ!!」
 四方から押し寄せる爆炎と爆風にもまれ、亮馬が押し詰めた息を噴いた。
 しかしなお、不動。残された人質を抱え込み、守り抜く。
「1を為すのに100を捧げる。戦略的にはありえない。でも戦術的には、ありだ」
 両手の人差し指と中指から伸ばした爆導索をひらめかせ、ニキータが嗤った。
「……1を守るのに100と対する。俺的にはありなんだよ」
 割れた装甲をそのままに返す亮馬をニキータが蹴りつけた。
「訊いてやるよ。どうして“あり”なんだ?」
 人質を後ろへ押しやり、取り戻したエクリクシスの腹でこれを受け止めた亮馬の内より、Ebonyが語る。
『力なき人々の絶望を覆す希望たれ……それが装甲騎士たる我らの意志』
 ニキータはまた嗤い、今度こそ亮馬を蹴り飛ばした。
「比べ合おうか! 愚かしく任務遂行に突き進む兵士の忠義と!」
 と。ニキータが跳び退いた。
「御託はいらんと言ったはずだ」
 引き戻した飛盾「陰陽玉」の奥よりすがめた視線を投げ、ダグラスが短く息を吐く。それは嘲りであり、同時に息吹きでもあった。体内から息を抜ききり、鮮度の高い空気を取り込むがための呼吸法。
「語りたければその手で語ってみせろ、雑魚」
 ダグラスの意図的な棒立ちは、いつでも体を“落とす”ための構えだ。
 黄鉄の体毛を逆立てたニキータがステップを刻み、両腕を畳んだクラウチングスタイルでダグラスへ迫る。

「下手に逃がしても結局爆弾にされるだけか」
 亮馬の押し出した人質を確保したニノマエが、迫る人化人狼群へ三白眼をはしらせた。
『人質も狼も、ひとからげに止めッちまえばいいんだろ?』
 ニノマエを押し退けて共鳴体の主導を取ったサヤが伝法に言い放ち。
「お方々――チョイと一曲唸らせてもらうよ!」
 通信機に告げたサヤは三味線「葬々」を構え、撥で三本の糸を弾いた。
 しなりの強い鼈甲の撥が、夜闇へ沈む海に立つさざ波のように、大波のように、音色を重ねて空気を揺らす。刃と化した振動が、その音の届く内にある人狼を斬りつけ、線香花火さながらの血華をしぶかせた。
 人を恐慌に陥れ、愚神や従魔をのみ斬る「葬々」の一曲である。
「アタシの十八番、ちったァ染みたかい?」
 理由は不明だが、三味を構えるとサヤは普段の固さを失って江戸娘と化す。
 ニノマエはため息を飲み下し、内から注意を促した。
『ノってるとこあれだけどよ、いつまでも抑えとけねぇぞ』
「合点承知の助!」
「援護します! その間に!」
 こちらは合点したか知れないが、蕾菜のブルームフレアが人狼と知れた者たちを焼き焦がした。

「こっちも休んでられないな!」
 跳ね起きた拓海が未だ居所の知れない人質ひとりを探して戦場を駆ける。
 拓海はずきりと痛む目をすがめ、奥歯を噛み締めた。
 乱戦を映すライヴスゴーグルは人狼の放つライヴスの光に埋め尽くされ、拓海とメリッサの目を針のごとくに刺す。部分的にしか視認していない自分たちでこれなら、ニウェウスとストゥルトゥスはどれほどの責め苦を受けている?
『……こんなことでへこたれてる暇はないわよ』
「ああ。俺は――俺たちは、あきらめない!」
 メリッサに拓海が強く返したとき、通信機からニウェウスの声が飛び出した。
『Aチーム、指定した座標に着地よろしくっ! 近くにいる人はカバーして!』

●嵐前
「っと!」
 ニウェウスの誘導で地に降り立った龍哉が、ジェットパックを振り捨てて駆け出した。
『Bチーム月影だ! 狼とドッグファイトに入る』
 飛翔からの通信に「10秒で戻る!!」、叫び返して速やかにマスドライバーへ。
 あえて柵の一方を開けた作戦はうまく機能したようだ。
 Aチームより5秒早く降り立ち、再打ち上げにかかる対空担当班の護衛を担ったゆらが美空へ問う。
「――敵の中にエース級がいる。そちらを潰すまで、地上の防衛を任せられるか!?」
「こっちは一の柵が破壊、二の柵で持ちこたえてるンゴ。でもまだ想定内やで。残りの人質ひとり助けて殲滅戦に移るンゴよ!」
 その間にAチームがマスドライバーに到達した。
『バックパックの準備できてるよ! サービスできるの、最初だけになっちゃうかもだけど』
 申し訳なさげに言うひかるへ由利菜が笑みかけ。
「ありがとうございます」
『その心が私たちの支えとなる。感謝を』
 リーヴスラシルもまたやわらかな言葉を添えた。
 一方、固い表情を空から逸らした楓は唇を噛み、ゆらから渡されたバックパックを背負った。
「ゆら姉さん、すみません」
 青ざめた覚悟を映すその顔に、ゆらはかけるべき言葉を見つけられず、黙する。
「……強引にでも詰めてかねぇと、またリュミドラを見逃しちまう」
 レールに取り付いた龍哉が楓に言葉をかけた。
『一気に突き抜けますわよ。このチームは皆、あの親子と因縁があるようですし』
 かろやかな声音でヴァルトラウテが言い残し、龍哉は再び空へ戻っていった。
「なにかを思い定めているようなカゲリさんも心配ですが……」
『今は敵だけを見据えて飛ぼう』
 続く由利菜がリーヴズラシルと心を合わせ、空へ。
『楓』
 詩乃の声に小さくうなずき、楓もまた空へ飛んだ。
 東京海上支部が誇るトップリンカーふたりの背を追っていく――経験も能力も大きく劣る自分が、その矛と盾とを頼みにリュミドラへ向かおうとしている。
 揺らいじゃいけない。この心だけはまっすぐに。
 自らに言い聞かせ、楓は体を締めつけるGを振り切った。

「5機編隊――ずいぶんと豪華な布陣じゃないか」
 飛翔が吊り上げた口の端をブレイブザンバーの影に隠した瞬間。その腹に1、2、3。アルミ弾が弾けた。この程度で、ルビナスの得物を再現したこの刃は損なわれたりしない。
 敵はエース級を先頭にV字陣形を組んでいる。エース級が他の狼の飛行を助け、その分弾幕を密にする策であるようだ。
「ちっ!」
『先の10秒でかなりの攻撃を受けました。結局のところ、エース級を墜とせなければ意味がないということになりますね』
 ルビナスが告げる。そして。
『時間にすればわずか9秒になりますが、耐えていただけますか?』
 ルビナスの整えられた声音に含められた意図を飛翔は悟る。メイドが主人にお願いするには少々、高難度過ぎることも。しかし。
「あっという間だ」
 さらに不敵な笑みを重ね、飛翔は次の編隊との交錯を待ち受ける。勝負は次の次。Bチームが下へ降りるその瞬間だ。
『ふむ。その決意、我らが支えようか』
 語るはナラカに任せ、カゲリは左右の腰から下げたレーギャルン、その内に収められた“滅刃”へと手をかけた。
『来ます』
 ルビナスの声を合図に、飛翔とカゲリは共に防御姿勢。弾と爪牙に肉を削られながらもこれをやり過ごす。
 かくて、8秒。先陣を切って第3のエース級が飛来する。
 その距離が14メートルを切ったそのとき、カゲリが“滅刃”を抜き打った。
 レーギャルンから噴きあげた衝撃波が刃を包む黒焔を飲み、焔波となって狼の鼻先へ叩きつけられた。
 ギ! 眼を焦され、速度を落としたエース級の羽に、飛翔の放ったロケットアンカーがからみつく。
「このまま下に落ちる。悪いがサポートよろしくな」
 ワイヤーを巻き取り、逃げようともがく狼の羽を抱え込んだ飛翔が落下。
 その狼へ、地上にあるゆらが和弓の狙いを合わせ。
「まっすぐ墜ちるだけの標的なら」
『はずしてらんないよね!』
 ひかるの声音と共に飛ばした光矢で、狼の羽を正確に射貫いた。
 ウルカグアリーに植えられたアルミとの親和性を失った狼は大きく息を吐き出し、絶命した。
「赤城たちが戻ってくる。俺たちも降りるぞ」
 カゲリの言葉にうなずいたナラカは近づきつつあるリュミドラへ目線をやり。
『奥に控えるつもりはないか。思うよりも早く計ることになろうよ』
 誰に見せることもなくほろり、笑んだ。

「最初の範囲攻撃の集中でエース級とやらは3匹墜としておるゆえ、これで4匹。編隊の数からして最大で12匹」
 カグヤのつぶやきに、その脚の後ろへ潜むギシャの内よりどらごんが継ぎ足した。
『今まで墜とした奴も含めて、騙りもいるだろう。概ね5、6匹といったところだろうさ』
 うなずいたカグヤは、Bチームを越えてきた狼群へ「ニーエ・シュトゥルナ」の玻璃を撃ち込んだ。玻璃は互いにハウリングしながら展開し、光の雨となって狼どもへと突き立つ。
『これ、エース級じゃないよね』
 あっさりとバランスを崩した先頭の狼を見やり、クーがため息をついた。
「じゃー減らしちゃうかー」
 いそいそと攻撃にかかるギシャ。カグヤを盾に目一杯狼どもを引き寄せ、2メートルの距離から先頭の狼の鼻面に風穴を通した。
 そして墜ちる狼を見送ったギシャがふと顔を上げ、前方を透かし見る。“ラスコヴィーチェ”を携え、編隊に再結集を促すリュミドラを。
「あの子、どうしたら満足してくれるんだろーね?」
『どうかな。あいつはおまえのように――』
 単純ではないからな。言いかけた言葉を飲み下し、どらごんは深いため息をついた。
 ギシャの消せぬ笑みに潜められた過去が、今このとき狼たらんと願うリュミドラのように明快ではないと知ればこそ。
『――難しくはないからな』

●鬼悦
「二の柵を盾にするンゴ! 自爆ニキ注意やで!」
 美空が指示を飛ばした直後、二の柵へ体を打ちつけた人化人狼の黄鉄に火花がはしり、爆発。
 美空は口を開けて衝撃をやり過ごし、ニウェウスを返り見た。
「人質さん、見つかったンゴ?」
「まだ!」
 反応が減った分、“見る”ことに対する負担も減っている。なのに、更地にも森の中にも、たったひとりの存在を見いだすことができずにいた。
『こっちもまだだ! もう少し奥まで行ってみる!』
『人狼はこっちで抑える! 迷子案内は任せた!』
 拓海と亮馬からの通信。声は力を失っていなかったが、その体はニキータの猛攻と間断なく襲い来る自爆攻撃とに命を削られ、ぼろぼろのはずだ。
『みなさんのこと、回復に……』
 おずおずと切り出すひばり。
 わかっている。数にまかせて攻め寄せる人狼群は、たったひとりの人質をもってこちらの総攻撃を封じ、各個撃破に甘んじさせているのだ。すでにいつ戦線が断ち切られてもおかしくはない状況である。
『……黄鉄は別名“愚者の黄金”』
 ストゥルトゥスが静かに述べる。
『最初に自爆させられた人質の数、誰がカウントした?』
 美空は目をしばたたかせ。
「人狼ニキ――対地担当班に通達ンゴ! 人質さんはこの戦域にはもういないンゴよ!」
 通信機へ叫び、自らは透明棺桶型盾たるあなたの美しさは変わらないをひっかぶった美空が最終防衛線の防備に向かった。
 そしてニウェウスもまた、終焉之書絶零断章を紐解いて続く。
 左右の腰部に装着されたコンテナが開いて3枚ずつ、長六角形のリフレクターを射出し、展開させる。
「人狼、ウソついたんだね」
 悔いてうずくまったりしない。感情を押し殺すことには慣れているから。
 だからストゥルトゥスはなにを訊くこともなく、うなずいた。
『うん。最初に爆発させられた人質はひとりじゃなくてふたりだった。最初だからこそごまかせた。でも』

『これで思いっきり戦える! 人狼は簡単に爆発するんだから』
 メリッサへ拓海が応えた。
「それだけ簡単に倒せるってことだ!」
 ガトリング砲が濁った咆吼をあげる。大口径弾が空気を裂いて飛び、人化人狼の体に埋められた黄鉄を肉ごと砕いて爆発させた。それでも、拓海はトリガーを引き絞る指を戻さない。
「うおおおおおおおおお!!」
 ベルト状の弾倉がすさまじい勢いで砲身へ飲み込まれていく。狼を砕き、砕き、砕き、そして5匹めを爆散させた。
 しかし、その間に人狼形態へ変じた他の狼どもが拓海へ殺到。さらには後方からアサルト弾を撃ち込んできた。
 拓海にのしかかった人狼2匹が、その射撃で起爆。
 至近距離から叩き込まれた衝撃が拓海の内臓をかきまわし、その体を最短距離で地へと叩きつけたが、しかし。
「こんなっ、ところでっ!」
『倒れてなんか――られない!!』
 ガギリと噛み合わせた歯の奥から絞り出し、拓海は一気に立ち上がった。
 喉の奥で不快げに唸った人狼どもが、今度こそ拓海を喰らい尽くさんと踏み出すが。
「やらせるかよ!」
 横合から噴き抜けた刃の奔流に貫かれ、刻まれ、さらには仲間の発した爆炎で誘爆し、欠片すら残すことかなわずに散った。
「悪い。合流が遅れた」
 グォウ! 爆煙を盾に忍び寄った人狼が、拓海へ向かおうとしたニノマエの首筋に食らいつき――吹っ飛んだ。眉間に拓海のWアクス・ハンドガンの一射を受けて。
「遅刻はお互いさまさ」
 共に満身創痍であった。
 そして共に、一本気である。
『これで半数は減らした。残りはわずか半数だ』
 サヤのセリフに、メリッサはため息まじりにうそぶいた。
『できるだけ距離とって……って、この面子に言ってもムダっぽいけど』
 拓海とニノマエの返事は賢者の欠片を噛み砕く乾いた音、ただそれだけだった。

「もう少しの我慢ですから」
 三の柵の後方に隔離された人質に声をかけ、蕾菜が戦場へ駆け戻る。
 人質に埋め込まれた黄鉄は今、ニウェウスの凍気魔法でコーティングされ、外部刺激による起爆を抑えられていた。
 蕾菜は決意を固めて進む、進む、進む。
『人狼はこれで力押しに出るしかなくなりましたね』
 風架がライヴスを燃え立たせる。その吹かしの炎は魔法へと転換され、蕾菜のために改造を重ねられた魔術型パイルバンカーの装甲を青く包み込んだ。
「私たちの役割は変わりません。範囲攻撃で少しでも多くの人狼を減らします!」
 撃ち出された杭が人狼のただ中に突き立ち、業火となって燃え上がる。次々に起爆し、芥と成り果てる。
 その向こうから反撃の銃弾が蕾菜へ降りそそぎ、その小柄な体を押し戻そうとするが、かまわない。

「もう俺たちを抑えておけなくなったみたいだぜ!?」
 ニキータの回し蹴りを肩でブロックした亮馬が回転斬りを振り込んだ。
「範囲攻撃が得意みたいだな。おかげでずいぶん減らされたよ。でもさ」
 自らの体に食い込んだ重い刃をつかんで固定、ニキータが口の端を吊り上げる。
「それってあと何回できるわけ? あと、解放されたのはおまえらだけじゃない」
 更地に展開した人化狼群が狼へと変じていく。もう人のふりをする必要はない。全力で、マスドライバーを目ざすことができるのだ。
『亮馬、二の柵はもう機能しておらぬ。このままでは』
 三の柵を爆破され、マスドライバーをも失うこととなる。
 今マスドライバー防衛に戻ったところで、ニキータ自身がマスドライバーへ至れば敗北は確定だ。
 ――ニキータの腹に押し当てられた飛盾がぶるりと震え、痺れたように力を失くしたその手から亮馬のエクリクシスを解放した。
「行け。サポートがこちらに向かっているようだし、俺よりもおまえのほうが固い。いざとなれば最後の盾にもなるだろう」
「ああ」
 傷ついた体を巡らせて亮馬が離脱した。
 ニキータは追わない。追わずにダグラスの打ち手をつかみ、ふわりとまたぎ越える――直前、膝をダグラスの肘へ打ちつけ、へし折った。
「曲芸で欺いて折るか。悪くない」
 みじり。ダグラスが無造作に肘の向きを正し。
『ダグラス様、ケアレイを』
 静希がその傷を癒やした。
 ダグラスは応えず、元に戻されたばかりの右肘でニキータの前蹴りを打ち落とし、さらに踏み込んで背を黄鉄の胸へ押しつけ、すりおろすように沈墜勁。
 より広い面で勁を押し込まれた黄鉄の体が浮き上がり、ニキータは「がっ」、息を吐き出すが。
 彼の指から伸びた爆導索がそこにいた人狼を引き寄せ、自分ごとダグラスに縛りつけた。
「僕は兵士だ。勝つためならなんでもするんだよ」
 果たして狼が起爆し、ダグラスは爆炎のすべてをその身に受ける。
『リジェレネーションを発動します』
 膝を落としたダグラスの内より、ささやくように漏れ出す静希の声音。
「……実にいい。喰いでがある。邪魔が入るのは惜しいな」
 ダグラスが顔を上げた。
 鮮血と金臭い狂気に彩られた修羅の笑みを。

●黄金
 地の戦いが転機を迎える中、空の戦いもまた転機を迎えている。
 それをもたらした者は、狼群の長たるリュミドラだ。
『第一、第四、左右から挟撃しろ。第三の生き残りは第七と合流、編隊を立て直し次第支援に回れ』
 羽つき狼の直接指揮をネウロイに任せ、リュミドラは“ラスコヴィーチェ”の引き金を引き絞った。
「!」
 狼の牽制で飛翔の防御が遅れた。
「カバーする!」
 飛翔へ飛びついたゆらの背の直前に12・7mm弾が染み出し、爆ぜた。
 とっさに主導をとったひかるが、弾け飛んだ共鳴体をひねって鋭い歯を見せて襲い来る狼と向き合った。その鼻先へ黒猫「オヴィンニク」を投げつけ、弾く。
 そこへ飛び込んで狼を斬り飛ばしたカゲリがゆらへ。
「Aチームと交代して地上に戻るぞ」
『でも――!』
「このままじゃ墜ちるだけだよ、ママ。それにマスドライバーも、ついでに加賀谷家の未来も危ないし」
 狼たちの一部はすでにこの空域を抜け、インカ支部へと向かっている。しかし、狼だけならば大きな脅威とはなるまい。
 そのためにも人型を捨てた狼にマスドライバーを破壊され、リュミドラを行かせることだけは避けなければならないのだ。
『わかったよ、ひかるん。でも、このまま終わらせたりしないから――!』

『こちらばかりがローテーションを強いられるのは辛いところだな』
「カグヤシールドがもっとすごかったらねー」
 のんびりとどらごんに返したギシャは女郎蜘蛛で宙に巣を張り、突撃してくる狼を絡め取った。
「いってくるね」
 ジェットを噴かして糸の先端をたぐり、蜘蛛のごとくに巣へ捕らえられた狼へ迫る。
「ここからだったら外さない」
 先ほどまでの甘さは欠片もない、乾いたセリフ。
 その余韻はハウンドドッグの銃声でかき消されて。狼の羽を撃ち抜いたギシャは宙へ身を投げて二回転。カグヤの脚につかまって元のポジションへ戻った。
『んー、ボクもギシャみたいに楽々生きたかった』
 カグヤに防御を押しつけ、のびのび戦果を上げるギシャをうらやましげに見るクー。それを無視してカグヤは息を吹いた。
 仲間の盾となり、回復に務めてきたカグヤだ。充分な戦果と言えたが……彼女にしかできぬ仕事がある。
 数十メートル先に停止したリュミドラの“翼”へ声音を張り上げた。
「ごきげんようディアフレンドーっ!!」
 カグヤの通信機にノイズがはしり、ウルカグアリーの声が流れ出す。
『赤衣か。息災でなによりよ』
「今回は翼型とな。それがありなら次はぜひ、素材そのままで巨大ロボ型を頼むのじゃ」
『地を行くにも空を行くにも金ではな。妾のアバタは石の有り様を映すものなれば』
「念のために聞いておいてよかったわ。名残惜しいが、取り込んで折るゆえまたの」
 通信回線を全解放し、カグヤが告げた。
「対空担当班各員! 翼型アバタのウルカグアリーは黄金! やわらかいゆえ殴れば曲がるし折れるぞ! ……激しく感電するやもしれんがの。だってあれの動力、どう見ても電気じゃろ?」

 編隊を立て直した狼の一群が、降下するBチームの頭上を抜けてカグヤへ躍りかかった。
「はっ!」
 下から伸び出したロケットアンカーがカグヤの体を下にずらし、狼の攻撃をかわさせた。
 直後、銀甲冑をまとった龍哉が砲弾さながらの勢いで上空へと突き抜け、落ち行く狼の背を踏んで前へ跳んだ。
『目標まであと――いえ、もうすぐ逢えますわね』
 ヴァルトラウテの言葉どおり、黄金の翼を拡げたリュミドラが接近しつつあった。
「狼群が引き返してくる前に、行きます!」
 由利菜が後方から龍哉の脚をつかみ、反動をつけて前へ出た。
 その機を狙い澄ましたかのように、空中で停止したリュミドラがシャープエッジとブルズアイを乗せた三連撃を撃ち放す。
 対して円を描く由利菜の盾。12・7mm弾がその表面をかすめ、舞い散る光羽と共に空の果てへと消えていった。
『ふん』
 黄金の翼からほとばしる雷がリュミドラを護る盾を成した。
 しかし由利菜は迷うことなく盾を突き出し、電流の壁へと叩きつけた。その体を包む光鎧が割れ、彼女の血肉が灼かれて沸き立つが。
 由利菜の“盾”なるを貫く意志が、じりじりと雷を押し退けていく。
「あなたはなぜリュミドラさんを守るのですか?」
『規約を越えし願いあればこそ』
 由利菜の美しい面を燃やす激情がふと解けた。
「誰かを救わずにいられない、されど誰かのライヴスを喰らわずにもいられない。ウルカグアリー、あなたは何者なのですか?」
『さて……愚者の黄金とはよう言うたものだが』
 ウルカグアリーは言葉を切った。由利菜がこじ開けた穴をくぐった龍哉、そして楓がついにたどりついたがゆえに。
「来たぜ、ネウロイ! リュミドラ!」
 龍哉のブレイブザンバーが袈裟斬りに振り下ろされ。
 リュミドラがライフルのストックで弾きつつ、龍哉の腰を蹴りつけて回転。突きつけた銃口から12・7mm弾を零距離射撃。
「!?」
 心臓を捕らえたはずの弾が撃ち抜いたのは、龍哉の左胸だ。
『かわせないことは初めから折り込み済みですわ!』
 ヴァルトラウテの言葉が、その場で鋭い横回転を為した龍哉の剣閃、その軌跡の尾となった。
 龍哉の回し蹴りがリュミドラの腕を打ち据えて構えを崩し、さらに遠心力を利して彼を回転させる。貫かれ、折れ砕けた肋骨がこすれあって濁ったドラムロールを鳴らすが、龍哉はそれを物ともせず。
「凱謳!」
 Yes,master.Force-converter ignition.
 柄に搭載されたサポートAI“凱謳”がディスクユニットを起動、刀身を金色に輝かせた。
 まさに波濤がごとき脛斬りがリュミドラの脚を刈り、昇龍がごとき斬り上げがリュミドラの腹から胸を裂いた。そして。
「赤城波濤流、無名(むみょう)三段」
 高くかざした大剣を、今度こそ袈裟斬りに落とした。
『……これですら、いなしますのね』
 ヴァルトラウテに応えたのはネウロイだ。
『傷つく覚悟を決めているのは貴様らだけではない』
 リュミドラが顔を上げた。深手を負い、それでもその瞳に光を宿して、まっすぐに。
「あたしは戦う。最期まで――!」
『愚昧ゆえの迷妄に耽り、愚直を気取る無様。想いを枷に己を縛り、死者を縛る無様。背負う覚悟もなく報いる、贖う、応えるとわめきちらす無様』
 戦場へ帰還したBチーム、その先を飛ぶカゲリの内より語るナラカの声音がリュミドラを押し止めた。
『ほおぷだから殺さぬと? 楓が生かしたいと願わばこそ救うと? ……唯一無二の生を鎮むべき死にて犯し、愚弄せし犬どもよ。今こそ我が裁定を下そう』
 カゲリの右手に握り込まれたライヴス結晶が割り砕かれた。
 このリンクバーストは空を裁定の場と為すために。
 この裁定は世界に死者を還すという禁を犯した者たちへ、正邪と是非とを問うために。
『我が試練、越えられなば死ね』
 神威の金焔噴き、カゲリがここに燼滅の王たる姿を顕現させる。
「カゲリさん……!」
『楓、ボクたちも。終わるために、始めるんだ』
 詩乃の言葉を受けた楓が、手の内にあるレーヴァテイン“断罪之焔”の柄を強く握り締めた。

 飛翔は息をつき、ブレイブザンバーを八双に構える。
 リュミドラは他の面々に任せた。彼がすべきは戻ってきつつある狼どもの邪魔を阻むこと。
『飛翔様、私からひとつだけお願いしたいことがあります』
 ルビナスが内で一礼し、言葉を発した。
「なんだ?」
『戦果を』
 距離の利を捨て、最大火力で敵を討つ。飛翔の行動はある意味で賭けだった。
 しかし、それをなにも言わずに了承し、さらに背まで押してくれる。
 その心に返すべきは戦果。狼どもの鼻先へ飛び込んだ飛翔の怒濤乱舞が、五度の一閃を重ね、狼どもの羽を斬り飛ばした。

●到来
『みんな口開けといて! いっくよーっ!』
 ストゥルトゥスのかけ声と共に、ニウェウスが魔法陣より凍れる蝶を飛ばした。
 舞い飛ぶ蝶は6枚のリフレクターを蹴って拡散、狼どもを取り巻いてBSを擦り込み、あるいは爆散させていく。
「1・3、抜けられるよ!」
「お任せネキー!」
 ニウェウスの警告を受けた美空が、引っかぶった透明棺桶の銃眼からLSR-M110の銃口を突き出し、フルオートで指定座標を薙ぎ払った。
 狼が唐突に爆発し、その爆煙を割って新たな狼が最終防衛線へ迫る。
 狼の追突で棺桶が転がった。狼どもがさらけ出されたちんまい体に牙を、爪を突き立てるが、しかし。
 美空は無視して、横を抜けようとした狼を撃つ。
「ンゴ!!」
 至近距離の爆散に覆い被さった狼どももろとも吹っ飛ばされ、地に転がった。
『美空さぁん』
 目にこぼれ落ちてきた血を涙で押し流し、視界を確保。美空は引き金を引き続ける。
 心体のコントロールは得意だ。置き忘れてきた過去のどこかで、そのような訓練をしてきたのだろう。……どうでもいいことだ。今、守りたいものがある。大事なことはそれだけなのだから。
 美空はひばりに、仲間に告げた。
「ここが踏ん張りどころやで! 全員、適当によろしくンゴ!!」

『適当。この場合は適切に当たれ、ですね』
 風架のやわらかく、それでいていつになく鋭い声音が蕾菜に力を与えた。
「私たちの全部を尽くして全力で、適当に!」

「3人じゃ僕は止められないよ」
 黄鉄の牙を剥き、ニキータが左フックを放つ。
 ダグラスは腰を落として腕を固め、ブロック。そのまま踏み込んで飛盾をまとわせた肘をニキータへ叩きつける。
 次いで盾を残して体を引き、距離を作って拳で打ち。重心を前へ預けて掌打を重ねた。
「俺ひとり殺せん犬が吠えるな」
 しかし。すでにニキータは三の柵から10メートルにまで迫っていた。このまま押し込まれ続ければマスドライバーを失う。
「これでどうだ!」
 ダグラスの連撃にも揺らがぬニキータへ、拓海がデストロイヤーを打ちつける。ガギン! 重い金属が叩き合う鈍い音が響き、ニキータがわずかに後退した。
『ぜんぜん足りてない――っ!?』
 メリッサの声をたぐるように伸びてきた爆導索。この4本にまかれれば、残された命を一発で吹き飛ばされる。
「俺のほうが死に近いからな」
 割って入ったニノマエが不敵に笑み、爆導索を絡め取った両腕をそのままに、ニキータへ駆けた。
『死出の一曲を唸りそこなったことだけが心残りだが』
「途中でいくらでも聞いてやるさ」
 サヤに応えたニノマエがニキータへしがみつく。
「自爆でもする気かい? 僕にそれをさせる気はないけど」
 ニノマエの首筋に食らいつくニキータ。顔を振り、肉を、骨を裂き、砕く。
「……ダグラス、さん!」
 ニノマエがダグラスを呼ぶ。
 ダグラスは応えずにただ踏み出し、ニキータの鼻を飛盾ごしの発勁で打った。
 果たしてニキータから火花が散り。
 爆導索に引火し、爆ぜた。
「ちっ!」
 砕けた鼻面を仰がせ、倒れ込むニキータ。
 崩れ落ちるニノマエにかまわず、ダグラスが強く震脚。
「柄でもないが、その覚悟に応えよう」
 ニノマエが拓海ではなくダグラスを呼んだのは、自分ごと打たせるためだ。
 自分には応えられなかった。だが。
『せめてここから応える……!』
 メリッサと共に歯を食いしばり、拓海は深手を負ったニキータへ駆ける。

 三の柵の近くに残した樹上に立ち、地を来たる狼どもへ矢を降らせるゆら。
『ママ、来てる!』
 ひかるの言葉尻を引きちぎるがごとく、狼が樹の根元をこすって駆け抜けた。
「行かせるか!」
 放たれた光矢が狼の眉間を貫き、その頭を地へ縫いつけたが。
 黄鉄をこすられた狼はそのまま爆発し、樹をへし折った。
 バランスを崩してゆらが墜ちる。装備したジェットパックはすでに機能を止めていた。
「っ!」
 それでもなんとか体勢を立て直して着地したその場には、狼どもが待ち受けていた。
 生臭い牙がゆらをの脚をくわえて引きずり倒し、新たな牙が次々にその体へ突き立てられ、振り回す。
『ママ――』
『――うん。足止めできてるなら、それでいい!』
 血と泥にまみれたゆらがアスカロンを突き上げ、狼の一匹を貫いた。爆発に備え、深手を負った体に気力を張り詰めるが。
 狼どもを吹き飛ばし、飛び込んできた青き装甲が彼女の体をカバーした。
「家族のピンチに駆けつける。それが、大黒柱の務め……だぜ」
 跳びかかってきた狼を斬り下ろし、斬り上げ、突き飛ばして爆散させた亮馬がゆらをかばって立ち上がり、そして。
『すまぬが、後は、頼む』
 Ebonyのひと言を残し、動きを止めた。
『パパ……!』
 ゆらは傷ついた体を引き起こし、今なお立ちはだかる亮馬の前に立った。
 夫の覚悟に応える。そして、家族の危機はなんとしてでも乗り越える。
『亮ちゃんたちといっしょに帰るよ、ひかるん!』

 リンクバーストしたカゲリが“滅刃”を舞わせた。一閃するたび金焔が散り、リュミドラを守るウルカグアリーの黄金が損なわれていく。
『ジェットパック、もう動いてないよね』
 クーの疑問にカグヤが答えた。
「我が友の電界に囚わせておるのじゃ。墜ちぬために。……しかしリンクレートを上げる暇はなかった。尽きたときが最後じゃ」

『鳥。せめて己の本性を晒して後、裁きを語れ』
 カゲリの連撃の中、ウルカグアリーが斬り飛ばされたはずの金を数十の杭に変え、彼の体へ突き立てた。
『止められぬよ、石塊』
 刃を金焔で滾らせてナラカが言い。
「止まらないさ、リュミドラ」
 燃え立つ切っ先でリュミドラを縫い止めたカゲリが言った。
 しかし。
「これで、止まった」
 血肉を焦されながら刃をつかみ止めたリュミドラが嗤い。
『いつかの世で再びまみえようぞ、鳥』
 ウルカグアリーが雷を杭へと叩き込んだ。
 カゲリの命が吹き飛ばされ、わずかな命を取り戻してはかき消され……
「カゲリさん!!」
 由利菜がとっさにクロスリンクを飛ばし、カゲリの命を繋いだ瞬間。
 カゲリの体が爆ぜ、ずるりと墜ちた。
『ユリナ、カゲリ殿の命は繋いだ! 追撃を抑えるぞ!』
 リーヴスラシルが鋭い声音を飛ばし、由利菜は“ラスコヴィーチェ”を構えたリュミドラへ向かう。
「この……馬鹿女っ! 養父失格っ!!」
 ヴァニル騎士戦技刺突の型をなぞるコンビネーションが、ウルカグアリーの守りを突き崩し、リュミドラを貫く。
「やりなおす機会はあった! 楓さんのようにあたたかな手を伸べる者もいた! なのにリュミドラさん、あなたは矜持に甘え、流され、同胞と魂をすり減らす道へ堕ちた!!」
『私はユリナを光の道へ導くが使命。ネウロイ、同じく主を導く者として、その主を矜持に呪縛し、闇へ墜としたおまえをゆるさぬ!』
 崩されるまま押し込まれるリュミドラの内よりネウロイが返した。
『選べる道などないのだよ。この身を堕としたその日から』
 12・7mm弾が由利菜を吹き飛ばし、その反動でリュミドラもまた体勢を大きく崩す。
『龍哉』
「ああ」
 龍哉とヴァルトラウテは戦いの中、五感を澄ませてこの機を待ち受けていた。
 空を断つがごとき面打ちがリュミドラの眉間を割り、泳いだ体を薙ぎ払った。
 そして。
「リュミドラさん!!」
“断罪之焔”を携えて、楓がリュミドラの懐へ飛び込んだ。
「待ちきれずに殺しに来たのか……?」
 皮肉な笑みを閃かせたリュミドラの銃口をかわさず、楓が剣を振りかざす。
「偽善かもしれない、思い上がりかもしれない、それでも――あなたをあたたかな光で包みたい。いつかあなたが救われるときがくる、そう信じているから」
 この戦いでは徹底的にリュミドラの脚を狙い続けてきた。ウルカグアリーの守りが届きづらいこともあったが、それ以上に、「次」を考えてきたから。
「あなたを死なせたくない! ちがう、ちがうちがう! 私は! あなたを死なせない! 死なせるものかぁーっ!!」
 いつのころからだろう。彼女が聖女と呼ばれるようになったのは。
 その聖性をかなぐり捨てて、楓は今叫んでいた。
「あの人が託してくれたこの技で、あなたを愚神の翼から離す!! 千照流……蛟鎚(ミズチ)!!」
 12・7mm弾が楓の胸に潜り込む。彼女の命を巻き取って突き抜け、青きバトルドレスが噴き出した鮮紅に染め上げる。
 しかし。楓はその衝撃すらも剣速に変え、ウルカグアリーたる翼を断ち斬った。
『くっ』
 片翼を大きく損ない、リュミドラがきりもみながら墜ちていく。
 楓は瀕死の手を伸べ、その体を抱き込んで共に。
「何度でも伝えます……私は、あなたと共に、生きたい」
 リュミドラは霞む眼を楓に向け、ふと笑んだ。
「いい敵と巡り会えた。この思い出があれば、あたしは戦い抜ける」
 リュミドラが傷ついた脚で楓を蹴り放した。
「ここで死ぬのもいいかと思ってたけどね。おまえの意地と比べ合うのも悪くない。あたしの意地を」

「パヴリヴィチ――ちっ!」
 ダグラスと拓海を相手取っていたニキータが空を仰ぎ、唐突に崩れ落ちた。
 宿っていた魂が抜けたのだ。
「抜け殻を残して逃げおおせるとは、無粋だな」
 膝をつき、大きく息を吐くダグラス。
「でも、なにがあったんだ?」
 同じく荒い息をつく拓海が空を見るが、答はどこにも見つけられなかった。

 通信を通してそれを知ったギシャが小首を傾げた。
「狼さんは不思議だね?」
『リュミドラとなんらかの関係があるのだろうが……』
 どらごんは唸り、これまでの戦いに答を求めて思考する。
『アバタ愚神はリュミドラのライヴス、つまりは生体エネルギーによって存在しているのかもしれん。だとすれば、奴らがリュミドラの内へ還れば失われていた命がリュミドラに戻る』
「戻れないようにして狼さんたち殺しちゃえば、リュミドラもさくって殺せるかな?」
『あるいは、な』

 人狼群はそれでも戦いを止めず、エージェントたちへ襲いかかる。
 4組が戦闘不能となったエージェント側も、気力を振り絞って防戦にあたり、そして100秒を積み重ねた、そのとき。
「エインヘリャルたるを拒み、世界とともに滅びるを選んだエージェント! 諸君の必死、心ゆくまで楽しませてもらったよ。しかしそこまでにしておきたまえ。ここで死を迎えるのも忙しない話だ。僕は慈悲をもって諸君に時間を与えよう。わずかな生を惜しみ、嘆くに足るだけのね」
 戦場に、酷薄を映した幼い声音が響き渡った。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 不撓不屈
    ニノマエaa4381

重体一覧

  • きみのとなり・
    加賀谷 亮馬aa0026
  • 不撓不屈・
    ニノマエaa4381

参加者

  • きみのとなり
    加賀谷 亮馬aa0026
    機械|24才|男性|命中
  • 守護の決意
    Ebony Knightaa0026hero001
    英雄|8才|?|ドレ
  • ひとひらの想い
    零月 蕾菜aa0058
    人間|18才|女性|防御
  • 堕落せし者
    十三月 風架aa0058hero001
    英雄|19才|?|ソフィ
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 『星』を追う者
    月影 飛翔aa0224
    人間|20才|男性|攻撃
  • 『星』を追う者
    ルビナス フローリアaa0224hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • おうちかえる
    クー・ナンナaa0535hero001
    英雄|12才|男性|バト
  • 乱狼
    加賀谷 ゆらaa0651
    人間|24才|女性|命中
  • 悪夢の先にある光
    加賀谷 ひかるaa0651hero002
    英雄|17才|女性|ドレ
  • 我王
    ダグラス=R=ハワードaa0757
    人間|28才|男性|攻撃
  • 雪の闇と戦った者
    紅焔寺 静希aa0757hero001
    英雄|19才|女性|バト
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • カフカスの『知』
    ニウェウス・アーラaa1428
    人間|16才|女性|攻撃
  • ストゥえもん
    ストゥルトゥスaa1428hero001
    英雄|20才|女性|ソフィ
  • ぴゅあパール
    ギシャaa3141
    獣人|10才|女性|命中
  • えんだーグリーン
    どらごんaa3141hero001
    英雄|40才|?|シャド
  • これからも、ずっと
    柳生 楓aa3403
    機械|20才|女性|生命
  • これからも、ずっと
    氷室 詩乃aa3403hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 譲れぬ意志
    美空aa4136
    人間|10才|女性|防御
  • 反抗する音色
    ひばりaa4136hero001
    英雄|10才|女性|バト
  • 不撓不屈
    ニノマエaa4381
    機械|20才|男性|攻撃
  • 砂の明星
    ミツルギ サヤaa4381hero001
    英雄|20才|女性|カオ
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