本部

広告塔の少女~騙り落ちた愛の月~

鳴海

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
4日
完成日
2017/11/19 18:29

掲示板

オープニング

● 聖夜に向けて。
 りんりんりん、しゃんしゃんしゃん。
 町中が様変わりを始める。無機質な灰色コンクリートジャングルであった中心街に、色とりどりの電飾や、赤や緑の装飾が加えられる日が近い。
 十一月。あの日を一か月後に控えた街並みは、まるで季節に追いつこうとしているかのごとく変容を続ける。
 そんな中、焦って変わっていこうとするのは街だけではなく人もである。
 日本人にとって、クリスマスが一人というのは恐怖感があるのだろうか。この時期から出会いをテーマとした催しが町中で目立つようになる。
 愛する人と共に過ごす日。その目的と手段が逆転し。本当に大切なものが見えなくなる。
 そんな愚かな人間たちをじっと見つめる二つの双眸があった。
 肩をむき出しにした刺激的な衣服、背中に翼。その手には弓、右手に矢。
 天使と見まごうほどに可憐な女性だったが彼女は愚神だ。
 愚神アルテミス。彼女は人間たちの偽りの愛に、自分が定めた真実の愛を上書きせんと矢を放つ。
「さぁ! 人を愛することを知りなさい」
 つがい、放たれた矢は無数に夜を覆う。
 星のように煌く矢じりは弧を描いて百発百中の実力を持って、街の人々に突き刺さる。
「あ」
「ああ!」
 世界に歓喜が満ち溢れる。
 それは、きっと本当の愛を知った喜び。
「さぁ。踊り狂いなさい。あなた達の愛を、私に見せて」 
 次の瞬間町は阿鼻叫喚の渦に包まれた。
 愛を街中で叫び出す男性。
 突如道端ですれ違った女性に告白する女子。
 学生服を着た男性同士でキスをする場面も見受けられた。
 車道を走る猫を庇い、車にひかれた人物もいる。
 赤いサイレンが、町中で瞬いた。
 救急隊員は愛を口走りながら心配停止した男性の心臓を叩き続け。
 少女は野良犬を抱きしめて離さない。
「愛とは献身。アイとは感情。Iとは求めるもの、ああ素晴らしい、世界は愛に満ちているわ」
 アルテミスにとって愛とは常に与得たいと思う、願い、祈り。
 だからアルテミスは人間たちに与えることを強要した。愛を。感情を、叩きつけるように擦り付けるように。
「愚神、アルテミス。厄介ね」
 そんな愚神対応に駆りだされたリンカーたち、プリセンサーの予測がありながら一歩で遅れてしまった。
 その一段の中に遙華がいた。
「手が足りないからって私を駆りだすのはちょっとどうかと思うのだけど。まあいいわ」
 そう遙華はその手の苦無を構える。
 刃をぎらつかせて敵を見すえた。
「私に攻撃を当てられると思わないことね」
 その時である。
 矢が、遙華の足に突き刺さった。
 視界外からの突如の攻撃。
 なぜ。そう思った矢先、削れたコンクリートを見て察した、この矢は跳弾するのだ。
 倒れ伏す遙華。矢は溶けるように消え遙華の体内に吸収される。
 次いで起き上がった時、遙華の瞳はいつもと違っていた。
 トロンと潤んで柔らかい笑みをあなたに向けている。
「すき」
 その時、普段の彼女が一切口にしないような単語が聞えた。
「あなたのことが好きなの。たいせつ」
 遙華は立ち上がるとあなたに密着するほど近づいた。 
「けど、アルテミスも大切、こうげきするなんてかわいそうよ。みんなで仲良くしましょう、愛し合いましょう」
 次いで視界の端から閃く苦無。
「アルテミスは言っているわ、全員が全員のために愛を叫ぶせかいなら、己を犠牲にする世界なら、きっとそれは素晴らしい世界」
 遙華は狂ったように叫ぶ、その背後にぼんやりと見える時計台の天辺には膨大な霊力が揺れて見えた。
「さぁ、愛を語り合いましょう、あなたはどんな形で私を愛してくれるの?」
 戦いが始まる。


● 愚神『アルテミス』のレポート
 愚神アルテミスは恋のエネルギー(謎)を奪って自身を強化する愚神です。
 個体としては全く強くない。長射程が特徴の愚神です。アルテミスの通常攻撃の射程は30SQ程度です。
 ちなみに、もともとジャックポットだったのか、トリオを使用してきます。
 弓に刃がついているので近接戦闘も行えますが、近接戦闘能力は著しく低いです。依頼を何度もこなしているリンカー相手であれば、一対一でも防戦に徹するのが精いっぱいでしょう。

解説

目標 アルテミスの撃破

 今回は弓を操る愚神、アルテミスとの戦闘です。

● 遙華について。
 遙華は現在洗脳能力でPCたちに対して行動妨害を行います。
 厄介ですが、ひっぱたいて元に戻すか、説得するか、面白いのでほっとくかは皆さんにまかせます。
 特に言及がない場合は愚神の盾として機能することになると思うのでよろしくお願いします。

● 戦場
 そこはとある県庁所在地。町のシンボルである電波塔の天辺に陣取って、アルテミスは町中の人に矢を放っています。アルテミスは基本この電波塔の天辺にいて。電波塔の高さは300M程度です。
 がんばって上ろうとしても打ち落とされることでしょう。
 電波塔付近は商店街で、電波塔のまん前を四車線道路がとおっています。
 ショッピング施設であるビルが多く立ち並び、道路以外見晴らしは悪いです。
 ただ、塔の周辺は公園になっているので狙撃され放題です。
 対策を考えましょう。

リプレイ

プロローグ

「まったく、人騒がせな愚神が出てきたもんだね」
 『小詩 いのり(aa1420)』は双眼鏡の向こうに小さく映る愚神を眺め、そう呟いた。金属フレームから冷えが伝わるごとに、冬なのだと実感する。
「もうすぐクリスマスなんだから、気持ちよく迎えられるようにきちっとお仕事しないとね、澄香!」
 そう隣でキーボードを叩く相棒に、体重を預けるいのり。
 だがそんな可愛らしい仕草にも『蔵李・澄香(aa0010)』は反応しない。
「うん」
 そう生返事を返しながら『クラリス・ミカ(aa0010hero001)』と共に、ギリギリまで情報の精査に努めている。
 いのりはPC画面を覗き込む。そこには電波塔周辺の防犯カメラが時系列順に並べられ同時に映し出されていた。
「うわー、アルテミス、エレベーターで塔を上ってるよ」
 どうやら自由自在な飛行能力はないらしい。もしかすると浮くくらいはできるかもしれないが。
 それを証明するようにアルテミスは自分の足で電波塔を上っていた。
「作戦開始前に一息入れて見てはいかがですかな」
『セバス=チャン(aa1420hero001)』がそうコーヒーを差し出した。
「そうだねぇ。でもそれは私達よりも」
 この子たちに言うべきでは? そう澄香は首をかしげた。
「ははは」
『アイリス(aa0124hero001)』はいつものように笑っている、『イリス・レイバルド(aa0124)』もいつものように。
「そこは不可侵の領域だ……土足で踏み込んだことを後悔させてやる」
 殺気をほとばしらせていた。
「イリスはそのあたりだと特に容赦がないね」
「……それがなくても、広範囲の洗脳は被害がひどいからね」
 そう、愛。イリスが『そこ』と示した言葉、愛。
 それを侵す愚神が今回の愚神らしい。
「随分と、押しつけがましい愛だなぁ。」
 思わず『九字原 昂(aa0919)』はそうため息をついてしまう。『ベルフ(aa0919hero001)』がセバスからコーヒーを受け取りながらつぶやいた。
「そうやって与えることを強要している時点で、愛なんてものとは程遠いだろうな」
「まぁ、偉そうに言えるほど、僕も理解しているわけじゃないけどね」
 そうだ、愛についてよっぽど理解しているのは女性なのかもしれない。
 これでも立派なレディーである『紫 征四郎(aa0076)』は憤る。
「愛は強制的に繋がれるものでは無いはずです」
「つまり。余計な節介と言うことであるぞ、天使殿」
『ユエリャン・李(aa0076hero002)』が頷き『木霊・C・リュカ(aa0068)』は賛同する。
「博愛は薄愛、慈愛は辞愛って言うじゃない。まだまだ若いね、月の女神様!」
「狙い、良し。障害物、無し。撃つぞ」
『オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)』の言葉で装備の点検が済んだことがわかる、作戦開始時刻となった、リンカーたちは腰を上げる。
 作戦は下記の通り。
 搖動舞台と実働部隊にわかれ、陽動に応じ、実働部隊は潜行して塔を登る。
 通信機は常に使用し離れる仲間と距離や状況など共有し合う。
 位置どりはくっつき過ぎずフォローできる距離くらいにとどめる。
 征四郎が口にする作戦に対してオリヴィエが頷きを返していった。
「せーちゃん、もし俺が洗脳されたらどうするんだっけ?」
「頬を叩きます!」
 征四郎が素振りした。
 まぁ、その直後遙華が打たれることになり足並みが崩れることに…………なってしまうのだが。
「撮影しておくと今後交渉に使えるのでは無いかね?」
「目を覚ますのです! こんなことをやっている場合では、無いのですよ!」
 カメラを構えるユエリャンにも征四郎にも対応できず虚ろな視線をさらす少女。
 状況がいよいよややこしくなってきたのである。

第一章 至り及ぶ愛の咎


――……愛?…………あれが?
「あの惨状が、ね」
 『麻生 遊夜(aa0452)』は『ユフォアリーヤ(aa0452hero001)』の隣に立つ。対してユフォアリーヤは愛を口ずさむ遙華の前で膝をついた。
「すき、私ユフォアリーヤがすき」
 そう手を伸ばす遙華それに対してユフォアリーヤは首を振った。
――……その世界は、誰も愛してない……よ?
「そんなことないわ、私ユフォアリーヤも遊夜も大好き、愚神も好き。」
――……全員を愛してる、と言う事は……全員が同じように、平等……つまり、誰にもでも……無関心と、同じ。
 ユフォアリーヤは遙華の手を取った。
――……無関心な相手にすら、己を犠牲にする……つまり、自分すら愛せてない。
 愛してると口々に叫び、身もだえからみあう人々を見てつぶやく。
――……そんな世界は、素晴らしくも……なんともない、ただの自己満足。
 そしてユフォアリーヤは遙華を引き寄せて抱き留める。
――……ハルカも、分かってるでしょう?
 そうユフォアリーヤは言葉を締めくくった。この眼前に広がる愛叫ぶ異常な世界それに対して。
 ユフォアリーヤは憤りを感じるようだ。
「さて、どんな結果になるのやら。出来れば説得で元に戻らんことを……みかんが、みかんがくるぞ!」
 そう震える遊夜の背後でぎらつく双眸。
 そんな一行を置いて、搖動舞台は素早く町中に展開していった。
『雪室 チルル(aa5177)』は街角に身をかわしながら、愛を叫び抱き着いてくる男性をひらりとかわす。
「なんかわけわかんないことしてる人ばっかりね! 愛ばっかり叫んでる!」
 足元に縋り付いてくる男性をとりあえず蹴りはがすと『スネグラチカ(aa5177hero001)』は苦笑い交じりに告げた。
 そんな状況をビルの上から見下ろしているのが『水瀬 雨月(aa0801)』だ。『アムブロシア(aa0801hero001)』とはすでに共鳴済みである。
「レポートを見る限り通常攻撃の射程は電波塔の上から地上を狙い撃てるほどは無いから、エネルギーを奪う矢がメインなのかしら」
 そう一人ごちて愚神を睨む雨月。
 そんな彼女は身を隠すことなく悠々と建物を飛び移って愚神に近づく。
 矢が放たれたが当たるような距離ではない、牽制球だと思ってやり過ごす雨月。
「私は目立って相手の注意を引きつけようかしらね。何人か掻い潜れれば何とかなりそうだし」
 そうビルの上から走っているリンカーたちの動きを把握した。先行するのは昂。
 その支援にと、放たれた矢をわざと魔術で叩き落として見せる。
「塔の足元まで直通の地下道とかあれば面倒も無いのだけど」
 それが無いことは澄香の報告で解っていた。
「ヘリから飛び降りるとか、天翔機使うとか出来れば別のアプローチも出来たのだけど…………ほら、塔を登るの面倒だし」
 それは遙華が洗脳された時点でご破産である、遙華が目覚めれば何とかなるかもしれないが。
「塔をへし折る…………は発想からして過激すぎるから止めましょう、ええ」
 そう独り言を交えながら攻撃を撃ち落としていく雨月、もうそろそろ彼女の射程距離に入らなければならない。
「ここからが本番! 何とかしないといけないのよね。さてどうしたものか?」
 チルルは看板の影に隠れてアルテミスを見やる。
――定石通りに行くなら電波塔に登っていく役と、狙撃役に別れて行動かな。
 頷くチルル。
「そうなるわね。基本方針としては公園までは電波塔の死角から接近していって、公園まで着いたら狙撃役が塔の下付近から狙撃で注意を引く、その間に登る役が相手の場所まで一気に登って相手をぶん殴っておしまい!って感じかな」
 その耳元のインカムが震えた。全員が想定しうる最上の位置をとれたらしい。
――シンプルだけど狙撃役の弾数はそんなに多くないだろうし、なるべく急いで登らないといけない感じだね。 
 スネグラチカの意見は正しい、矢は銃弾とは違うのだ。
「で、あたい達は遠距離手段がない。どういう事かわかるね?」
――持っててもあんたの場合そもそも当たんないでしょ? 登る役ね!
「失礼ね! あたいだって銃を持てば百発百中なんだから!」
――で、実際の所どうするの?
 だがいまいちのぼるタイミングを失ってしまったチルル。そんなチルルへスネグラチカが問いかけた。
「基本に忠実に囮役が上手く注意を引いている間に登り、こっちに注意が向いているなら別の空いてに注意が向くまで盾を構えて矢を凌いで、注意が他に向いた所で急いで登る感じね」
「登る際は足場が狭いだろうし、適宜平らな所と登る所を確認しながら愚神まで向かうよ」
――で、接近後はどうするつもり?
「ロケットアンカーで弓を持っている手を捕まえてみるつもりよ。
 弓って両手でなきゃ使えないでしょ? つまり片手だけでも捕まえちゃえば、
 後は弓を振り回すだけしかできないだろうし」
 直後チルルは走り出す。それに昂が合わせた。
「高いところで楽しそうにしている中、申し訳ありませんが……」
――お愉しみの時間は終わりだ。
 目立つチルルに対して昂は闇にまぎれる黒の外套。である。
 アルテミスは案の定昂に気がついてもいない。
 このまま基本方針どおり、敵の迎撃を掻い潜って塔を登り、接近戦を試みるつもりだ。
 先ずは塔に組みつきそこから超常を目指す。塔の天辺から地上方向へ移動させられないか試みるのがこうの役目。
 ちなみに内部は封鎖されていた。と言ってもエレベーターやエスカレーター、隔週警報が生きている状態でそれを利用すると、接近がばれると澄香の情報にあったの、外側から上らないといけないことは薄々わかっていたのだが。
「数百メーターを階段も無しで、鉄骨伝いですか」
 昂は慎重に、かつ素早く塔を上っていく、敵から視線が通らないポイントを素早く見極め、飛び、とりつき、懸垂の要領で体を持ち上げたり、勢いを利用して別の鉄骨に飛び移って見せる。
 敵の注意が囮に向いているかは常にチェックする。注意がそれたなら、敵の注意が味方に向くまで待機した。
 敵が周囲を警戒する素振りを見せるなら、塔の鉄骨に身を隠してやり過ごす。
 それと同時に接近するのは征四郎。
 鉄骨を駆け上がり、手を伸ばして片手だけでぶら下がる。体を持ち上げる勢いで飛んでさらに別の鉄骨に取りついた。
 もちろんこれだけしてばれないのはユエリャン直伝気配遮断術のおかげである。
「リュカ! こっちばれそうです」
 征四郎がそう告げたならリュカが銃を構える。
「月の女神の愛の矢より、熱ーい弾丸なんて洒落てていいじゃない!」
 放った弾丸は必中の一撃。アルテミスは肩口に弾丸を受けるが体制を崩しただけでまた元の姿勢に戻る。
 そのままリュカは悠々と塔へと歩み寄った、あえて射線の通る公園を横切って。
 その様子を見て征四郎は変装を解く。
 白地の布を張ったスカーレットレインを開き。イメージプロジェクターで背景と同化していたのだ。
 そのまま征四郎は地不知を使用、一気に鉄骨を駆け上がる。
「そこまでです!」
 背後から飛びかかる征四郎。
 傘を開いて射撃を逸らしつつ、回し蹴りでアルテミスの体制を崩した。
 それに便乗してリュカが弾丸をみまう。アルテミスの矢は明後日の方向に放たれた。
 アルテミスは天辺の死守を諦め別の鉄骨に乗り移ることで落下を避けたが、高度の優位が奪われてしまった。
 そこへロケットアンカー砲が飛ぶ。それはアルテミスの体に絡みつき自由を奪った。女郎蜘蛛での拘束である。
「好きな人に好きと言って貰えるのは、とてもとても嬉しいことでしょう」
 征四郎は真っ向からアルテミスを見すえそう告げる。
「……でも、それでも。それはこんな力で行ってはいけないことです」
「なぜ? 愛してると言って、愛してると帰ってくる、それは素敵なことではないの?」
「空っぽの言葉は……」
 征四郎は改めて傘を構える、仕込み中によって武装化されたそれのマズルが鈍く光った。
「ただむなしいだけですよ」
 直後真横からアルテミスの矢が征四郎を襲う。矢を跳ねさせせて死角から当てたのだ。
 跳弾のせいで威力は落ちていたが侮っていい相手ではないらしい。そう征四郎は気を引き締め直す。
 
第二章 堕ちた瞳

 時は少し遡る。
「それはそうと遙華さん……ひさびさに現場に出たのに」
――むしろ久々に現場に出たからだろう。
 イリスとアイリスはその惨状を見つめていた。とろけた瞳の遙華がユフォアリーヤにうずまって、気持ちよさそうにしている。
「かわいそうだけどおいていくしかないよね」
――刺さった矢が溶けて消えたところを見ると、抜いたり折ったりで正気に戻るタイプではないね。正確な方法がわからない以上はさっさと原因の方を排除したほうが早いかな。
 アイリスの見立ては間違いではなく、何か特殊な対処法が必要になるだろう。
 だが、今のところ誰も良いアイディアを出せないようだ。
 そんなえらいことになってしまった遙華を、アワアワしながら眺めているのが『黒金 蛍丸(aa2951)』である。青少年には少し過激な絵面だが、止めにいくと巻き込まれそうなので『詩乃(aa2951hero001)』が牽制していた。
「洗脳かあ…………こう言うとなんだけど、アルマギのせいで洗脳慣れしてるんだよね」
 いのりが告げる。
「それはあの子も同じはずなんだけどね」
 苦笑いを浮かべた澄香。
「そうだいい方法があるよ」
 そういのりが手を叩いて澄香に向き直ると二人は、遙華救出大作戦を開始する。
「遊夜ぁ」
 そんな最中、ユフォアリーヤに包まれながら遙華が遊夜に手を伸ばした。
「あなたは私を愛してくれてる?」
「ん? ああ」
 その時ユフォアリーヤのみみがぴこーんっと動いた。
「どれくらい?」
 そう遙華はふらりと立ち上がり遊夜へと足を踏み出した。
「それはもう、娘のように愛してるさ……俺の事はどう思ってるんだ?」
 そう遊夜は遙華の顎をクイッと持ち上げて、瞳の中を覗いた。
「ちょっと気になってたんだ……っと、ちと悪ノリしすぎたかね」
 そう遊夜は素早く首を左にずらすと、元々首があった場所へユフォアリーヤがかみついた。
 がちんっと口が閉じる音を耳元で聞く。
 遊夜の額から冷や汗が流れた。
「は……遙華さん! そう言うのはまだ行けないと思います」
 そこで名乗りを上げたのが蛍丸。
「どうして?」
「あいあいあいあいあ、愛してるとか、そう言う触りたいとか、あのもっとお互いちゃんと信頼してる人と、やるべきで! その……」
 蛍丸は勇気をもって一歩歩み出す。
 当然リンカーとして遙華が愚神の影響を受けたままなら対処が難しく、遙華をなんとかしないと愚神への対応が困難であろうと判断した経緯もある。
 ただ、それ以外にもこのままの彼女をほおっておいたなら彼女があとで恥ずかしい思いをするだろうな。というのもあった。
「蛍丸は、私に愛されて嬉しくないの?」
「そ、それは。嬉しくないはずはないです、けど……」
 蛍丸は心を決めて遙華を見すえる。
「僕は、いつもの遙華さんが好きですから!」
 その時遙華の動きが一瞬止まった。同時に甘く切ないメロディーが蛍丸の背後から聞こえる。
「遙華さんの気持ちは嬉しいです、そして僕はあの時言えなかったこと、ずっと言いたかったことを今言います、それであなたが目覚めてくれたならいいと思うんです。好きになってくれて、ありがとうございます」
 その時何かが遙華の中で崩れた。
「あ、あわ、ああああああ」
 遙華は膝をつく、その顔面にはおびただしいほどの冷や汗が浮かんでいる。
 切ないメロディーは盛り上がりをみせ、Aメロからさびへとつながった。
「あああああ!」
 曲名は『sin(サイン)』ECCOの新曲である。この場面で流れるからには当然、失恋ソングである。
「あああ、な、なんでこんな歌が」
「あ、きいてるね」
 いのりが演奏を止めて遙華の隣に座りこむ。
 遙華が見ればいつの間にか電子ピアノが用意されていた。いのりと澄香がグロリア社の人と相談して持ってこさせた代物である。
「やっぱり、この筋の曲がよさそうだね、いのり。楽譜いけそう?」
「うーん、生演奏じゃなくていいんじゃないかな」
「霊力が通ってないとダメそうじゃない?」
「うーん、そうだね、あと十分頂戴、いったんためしに引いてみるよ」
 そう指の体操を終えたいのりは再び鍵盤に指を走らせる。
 そのあいだに澄香は遙華を断たせると肩を叩いて言った。
「正気に戻った? 逃げ遅れた人がいたらよろしくね」
――それにしても早めに目覚められて幸運でしたね。
 クラリスが告げる。
 そして澄香はあわてて自前のみかんキャノンを幻想蝶に収納するのであった。
「遙華さん、遙華さん」
「なにかしら?」
「ボクがいっても説得力はないかもですけど……自己犠牲はやめたほうがいいですよ?」
「え、ああ、そ、そうね」
「どんな形でもかかわれば繋がりが生まれます。その繋がりが傷つけば悲しいんです」
「その通りだとおもうわ」
「誰かに大事に思われる気がないのに、誰かが大事だとかは無責任です」
「はい……」
「愛や絆はもっと言葉で言い表せないものです。大事な気持ちを誰かを傷つける免罪符にしないでくださいね」
 幼女に説教される少女遙華。というかもうそろそろ大人と呼ばれてもおかしくない年になる。
 そんな遙華を優しく諭してあげるイリス。彼女はきっと将来大物になるだろう。
「……なにより、そんな特別な気持ちを、言葉を、……女の子が安売りしちゃだめなんですよ?」
 そう微笑むイリスは、澄香がキューンっとなってしまうほどに可愛らしい笑みを浮かべていたそうな。

   *   *

「愛…………ね。そもそも愛って何なのかしらね」
 戦闘は中盤。自分も出るかと屋根から飛び降りるべく下を確認している雨月。
「アルスマギカだったり今回の事といい、そういうハプニングに遭遇する事に事欠かないわねこの子」
 噂をすればかげ、そんな雨月へと遙華が駆け寄った。
 それに振り返る雨月だったが、いまいち洗脳中なのか分からない。
「雨月!」
 そう走り寄る遙華の手を取って抱き寄せると、雨月は耳にふっと息を吹きかけた。
「ひゃあああああ」
 飛び上がる遙華。
「あら、遙華、もしかして正気?」
「ええ、おかげで元に戻ったわ、だからそのAGW私に向けるのやめてくれる?」
 最悪支配者の言葉でも、と思っていたが。正気に戻ってしまったのなら仕方ない。
 大人しく雨月は引き下がることにした。
「…………というより、ロクトはどうしたのよ」
「面白そうだから、だまってたって……」
 雨月はその答えにため息をついて敵へと向き直る。


第三章 謳え彼方への愛。

 イリスは状況を確認すると公園を最大速度で突っ切った。
 全身全武装更には結界すら光り輝くイリスは300mの高さからでも十分目立つ。その彼女の接近に対処せざるおえないアルテミス。
 黄金の輝きと冷たい殺気を放ち、うち放たれた矢を剣や盾で粉砕しながらアルテミスへと確実に距離を詰めていく。
 澄香が到着する頃にはすでに征四郎がアルテミスと刃を交えていた。
 と言ってもアルテミスも愚神である、一人のリンカーに縫いとめられることも無く、隙を見てはこちらに矢を放ってくる。
 その矢に澄香は射抜かれてしまった。
「わーなにこの気持ち」
――大根ですか。ほら、あの子に叫ぶと思って。
 と言いつつ実は、胸に隠したアルスマギカに突き刺さっているので、矢の影響は受けないのだが。
「アルテミス様!! 女神様! 愛しております!!」
 急に迫真の演技になる澄香。
「今お傍に参ります!」
 そんな澄香を監視カメラごしに眺めながらいのりは冷たい表情をさらしていた。
「うーん…………フリでもボク以外の相手に愛を叫ぶ澄香は見たくないなあ」
 口調こそいつもの優しい彼女のものであるが、だめだ。決定的に表情が死んでいる。
 その影響には演奏にも表れる。
 鍵盤をたたく指先一つ一つに悲しみが乗った。
 そんななかリンカーたちは全員電波塔までたどり着くことに成功する。
 天辺を見あげる澄香。彼女は即座に箒を取り出してマジックブルームを使用。
 追い風を背に、逆光に視界を遮られない位置取りで、全力移動での飛行、急加速。
 空駆ける軌跡にハートのエフェクトを大量にのせ、愛を叫び。
「アルテミスさまぁ!」
 そのままアルテミスの右側面へと躍り出た。
「いま、たどり着きました」
 直後鳴り響くのはいのりの声。電波塔に備え付けられたスピーカーや、町中のスピーカー、全てからいのりの、感情ダダ漏れの歌声が町中に響く。
「澄香に愛を語って貰えるなんてなんてうらやまげふんげふん!」
 そう町中にいのりの愛がこだまする。それと同時に洗脳が次々と解除されていった。
「あなた! 私の愛を受けていませんね」
 とっさに弓で殴り掛かるアルテミスだったが澄香はそれを空中に逃れた。
「私の心だけでなく、体まで撃ち落とすのですね! 素敵!」
「くうううう」
 あまりの邪魔くささにアルテミスは歯噛みする。
――ほら、愛してくれてますよ? なのにその顔はなんですか。
 次いで澄香がアルテミスの懐に飛び込む、直後高速詠唱にて幻想蝶内のロケットアンカーを瞬時に装備し放つ。
「愛しております!…………ま、私にとって月の女神は、貴女ではないけどね」
 本省あらわしたり、にっこり笑う澄香のスマイルにアルテミスはしてやられたと思ったことだろう。 
 次いで放たれたブルームフレア。
「愛ゆえに刺されて死ぬ人もいるんだ。何事も理性あってこそさ」
 爆発と同時に、澄香のアンカーそしてハングドマンの繊維が絡みつき、アルテミスの体を柱に縫いとめた。
 縫止である。
 そのアルテミスを射抜く弾丸。遊夜による援護射撃。かれは公園傍のビル屋上にアンカーや吸盤を使ってこっそり登り潜伏、そしてこちらを狙っていたのだ。
「そこは俺達の射程内だ……新しいAMRの威力、見せてやろう」
――……何処にいても、当ててあげる。
 その動きにリュカも合わせて射撃を、ここぞとばかりにダメージを重ねた。
「愛してくれるんだろう? さぁ、俺に会いに来てくれよ」
 そうこれ見よがしに手招きする遊夜、だがアルテミスは征四郎と、昂によって完全に動きを封じられる、機動力にまかせて大きく動けば澄香が後ろから爆撃するだろう。
「リュカ!」
 再度、相棒の名前を叫ぶ征四郎。それだけでリュカが欲しているサポートがわかった。
 昂の拘束を逃れたアルテミスは空中に躍り出て矢をつがえる。一瞬の浮遊。高所という優位を捨てる代わりの奇襲。
 それに征四郎は見事に対応した。
 鉄の柱を駆け上がり、事情からダイブするように斬りかかる征四郎。
――弓矢の跳弾とはなかなか慣れぬな。大した腕である。
 振るった一撃にてアルテミスは大きく弾き飛ばされた。空中に投げ出され落ちていく。
「逃しはしません! お覚悟を!」
 それを征四郎は追った。
 リュカはその動きに合わせ電波塔足元までかける。 
 その地点では蛍丸と雨月が待機している。
 蛍丸が弓を構え落下してくるアルテミスを射抜くと、雨月が追うように断章から凍気を放った。
 そのアルテミスに向かって金色の翼が飛びかかる。
「ようやく会えたなクズ野郎」
 引き絞る体。その翼に全霊力を纏い。そして刃として放つ。
 煌翼刃・天翔華。黄金四翼を光刃に変えた比翼連理の剣で羽ばたき打つ。
「お前が振りまいたのは愛とかそんな高尚なものじゃない」
 アルテミスの凍りついた翼、そして四肢が打ち砕かれあたりに吹き飛んだ。
「強制的に感情を増幅されただけだ……そこに絆はない!」
――では可愛い妹の願いと世の道理を正す為に死んでくれ。
 翼が広がり歌を放つ。その歌は戦場を淡い輝きで包み。そして。
 チルルのウルスラグナがアルテミスを切り伏せた。
「やっぱり、あたいはさいきょーね」
 リュカはそんな地面を這うアルテミスに歩み寄る。
「君はまだ知らないし、もう知ることは無いんだ、アルテミス」
 そして悲しげに語りかける、重厚は彼女を向いていた。
「博愛が自分一人に向けられた時の愛の重さを、深さを、その喜びを
 君は、誰にとっても『その他大勢の中の一人』に過ぎない、愛されなかった!
 残念、とても残念だ」
――月はもう沈む時間だ。
 オリヴィエがそう唱えた瞬間、乾いた空に銃声がこだまする。アルテミスの額に穴が開いて、そして、アルテミスと呼ばれた愚神は霊力の塊となって周囲に散った。


エピローグ

 戦闘終了後、マジックブルームが切れた澄香は鉄骨を這うように降りてきたらしい。
「疲れた」
 かじかんだ手を合わせて息を吹きかける。
「ところで澄香ちゃんにとって月の女神は。まさかわたくし…………」
「いや、無いから」
 そんな澄香へいのりが紙コップを差し出した。魔法瓶の中にコーヒーを入れてきたらしい。
 それを注ぎながらいのりは告げる。
「ころで澄香、あんなのを愛してるなんて嘘だよね? ちょっとでもホントに洗脳されてたんなら……」
「洗脳なんてされてないよ! 本当だよ!」
 背筋が寒くなる澄香であった。
 その隣では、自分が愚神に操られていた時の映像をみせられて震える遙華。
 どれだけ時がたとうともこの二人はおそらく、このポジションを卒業できないんだなぁと皆に感じされる光景だ。
 そんな遙華に蛍丸が歩み寄る。
「あの、遙華さん。あの時ドタバタしていたので、うまく伝わらなかったかもしれないんですが……好きになってくれたことが嬉しかったことは本当です」
 その言葉に遙華は笑みを返す。
「ええ、私も最初に好きになったのがあなたでよかったと思うわ。でももう昔の事だから」
「僕にとって遙華さんも大切な人です……だから、いつでも頼ってくださいね」
「それは私のセリフよ。あなたも無理しないでね。春香から聞いてるわ。いろいろ大変な目にあってるらしいじゃない」
 そう二人は談笑しながら迎えの車を待つ。
 ここで雪でも降ればロマンチックなのだろうが、まだそんな季節ではなく。
 ただの日常の一コマになってしまった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452

  • 九字原 昂aa0919
  • トップアイドル!
    小詩 いのりaa1420

重体一覧

参加者

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
    人間|17才|女性|生命
  • 希望の音~ルネ~
    クラリス・ミカaa0010hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 全てを最期まで見つめる銀
    ユエリャン・李aa0076hero002
    英雄|28才|?|シャド
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 語り得ぬ闇の使い手
    水瀬 雨月aa0801
    人間|18才|女性|生命
  • 難局を覆す者
    アムブロシアaa0801hero001
    英雄|34才|?|ソフィ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • トップアイドル!
    小詩 いのりaa1420
    機械|20才|女性|攻撃
  • モノプロ代表取締役
    セバス=チャンaa1420hero001
    英雄|55才|男性|バト
  • 愛しながら
    宮ヶ匁 蛍丸aa2951
    人間|17才|男性|命中
  • 愛されながら
    詩乃aa2951hero001
    英雄|13才|女性|バト
  • さいきょーガール
    雪室 チルルaa5177
    人間|12才|女性|攻撃
  • 冬になれ!
    スネグラチカaa5177hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
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