本部

花のお祭り~展示準備~

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
寸志
相談期間
5日
完成日
2017/11/04 18:56

掲示板

オープニング

●花のお祭りその後
「ねぇ、そういえばさ」
 竜見玉兎(az0044)の第二英雄であるレン(az0044hero002)がぽつりと呟いた。
 あえて狙ったのかは分からないが、第一英雄の姿は不在である。
「私が来る前に、お祭りの企画があったんだって?」
 言われて玉兎は思い出す。お祭り。そういえば。
「花の……」
 フラワーカーペット。たくさんの花を集めてカーペット状に敷き詰める祭典。
 しかしそもそもの図案が決まらないから、エージェント達に決めてほしいという依頼が出たことがあった。
「そうそう、フラワーカーペット。そのお祭りってどうなったんだろうね?」
 確かに、あれから話を聞かない。
 花を集めるのに時間が掛かっているのかもしれないし……他にも色々なことがあって、すっかり頭から抜け落ちていた。
「それじゃあ聞きに行ってみようか」
 え、と言う頃には既に遅く。
 玉兎の手をしっかりと掴み、保護者兼お目付け役兼第一英雄の青年がいないのをいいことに――第二英雄は部屋を飛び出していた。

●花のお祭り途中経過
「現在、花の調整段階に入っているそうです」
 オペレーターはやってきた竜見玉兎、レンの両名にそう答えた後で、「ただ……」と続ける。
「ただ?」
「出来ればもう一工夫欲しい、とのことでして」
 というのも。
 フラワーカーペットに参加する者だけが楽しめるようなお祭りではなく、ただふらっと見に来ても楽しめるような催しが一つや二つあった方がいいのでは、と提案が出たそうだ。
 そして今回はその提案に内容がくっついてきている。
「……写真?」
 エージェント達に写真を撮ってもらい、それを会場の一部に貼りだそうという催しらしい。
「なるほどねぇ、そしてテーマは『日常』と」
 手間がかからず、誰にでも可能。
 そしてこれは、表に出ない理由だが。
「エージェントも普通の人……泣きもすれば笑いもする存在だと、親しみを持ってもらえるのではないか、と」
 白刃、東嵐、神月、卓戯、絶零、屍国――森蝕。
 多くの戦いを終えて、未だに続く戦いに身を投じて。
 たくさんの人が救われたが、同時にたくさんの人が命を落とした。
 『なぜ助けられなかったのか』『なぜ助けてくれなかったのか』、そんな声がエージェントに向けられることも少なくはない。
 だからこそ。
「……がんばる、です」
 違いなど無いと、伝えるために。伝えられるように。
 普通の写真を、たくさん撮ろう。

解説

●目的
 エージェント達の『日常』を激写し提出。
 ※一般人も見るものなので公序良俗に反するものは掲載不可。
 
●場所
 自由

●登場
・竜見玉兎
 まだまだ駆け出しの能力者。
 今回は第一英雄がいない為いろいろな所にお出かけ予定。
・レン
 玉兎の第二英雄。好奇心旺盛で外見に似合わず行動的。
 危ないところには行かせられないが基本的に玉兎の好きにさせるつもり。

●写真
 枚数は多くて1人5枚まで。能力者・英雄別で5枚ずつ。合わせて10枚は不可。
 (例:能力者3枚・英雄7枚など偏るのは×)
 カメラは個人所有のものを使ってもいいし、持っていなければ本部から貸出&取説が渡される。
 ※貸出の場合はデジカメ。
 印刷も本部が行うが、個人で印刷をして提出も可能。
 ただし加工は厳禁。『日常』そのままのものでなければ受付されない。

●その他
 不明点があれば竜見玉兎もしくはレンが解答致します。

リプレイ

●いつもの日常を
「さて何を撮ろうか?」
 デジカメを借り、皆月 若葉(aa0778)はピピ・ストレッロ(aa0778hero002)に問いかける。
 ピピは赤い瞳をきらきらさせながら、
『みんなの笑顔とりたい!』
「いいね。いい写真が撮れるように頑張ろう」
『おー!』
 ぐっと拳をあげて、また後で、気を付けてと言って二人は別方向へと分かれる。

 皆月が向かったのは春から通っている大学だ。
 友人と挨拶を交わし、説明をしてからカメラを預ける。
 自然体の写真を求められているわけだから、撮ってもらった方が日常が伝わるだろうと思っての事だ。
 友人も心得ていたようで、記念すべき一枚目は講義中に皆月が居眠りしている写真となった(仕事からのレポート作成で寝不足だったらしい)。
 講義が終わり、空いた時間には友人に手伝ってもらってのプチ勉強会。
「うーん? えーと、ここが……?」
 苦手科目を前に悪戦苦闘中な様子を、ぱちり。
 こっそり撮影していた友人も合わせての大勉強会を終えた後は、学生お楽しみゲームセンターへ!
「何からやる?」
 馴染みのゲームセンター『Lin CLASS』で店長代理に挨拶を済ませ、選んだのは対戦型の格闘ゲームだ。
「負けた方がジュース奢りな!」
「なんだよそれ!?」
 挑まれた勝負に笑いながら承諾し。
 かくして始められた対戦は――KO負け。皆月の惨敗。勝ち誇りガッツポーズを決める容赦ない友人、一方皆月は筐体に突っ伏して項垂れモードだ。
 そして容赦ない友人二人目はぐったりした皆月をカメラに収める。
 が、今度は撮っていたのが皆月にバレてしまい、急遽カメラの中身検分である。
「どれ……って、ロクなのないじゃん! ワザとだろっ!? 」
 居眠りに勉強中に敗北中。敢えての写真チョイスに突っ込みを入れながら笑いあう。

 ピピも友達と一緒に遊びながら写真を撮っていた。
『これでね、皆の写真を撮るんだよ』
 言いながら押してしまったシャッターボタン。興味津々でレンズを覗き込む友達と自分の顔が写っていて、これはこれで楽しそうな日常写真だ。
 それからそれから。
『ワカバ、みーつけた!』
 ゲームセンターに寄って、皆月が友達と笑い合っている様子を撮って。
 友達と散策している時に見かけた玉兎たちを撮って。
 玉兎たちを撮った時に見かけた望月と百薬のツーショットを撮って。
『しあわせな笑顔が一番だよね♪』
 どの写真も楽しそうで、ピピも思わず笑顔になってしまう。
 その後も街を走り回ってから公園で遊んでいれば、いつの間にか夕暮れだ。
「ピピー!」
 聞き慣れた声に振り返れば、そこにはカメラを手に持った皆月や友達のお母さん、お父さんがいた。
「いい写真とれた?」
『うん! いっぱい笑顔みつけたよ♪』
 そろそろ帰ろうかという皆月の声に頷くピピ。けれど、帰る前に。
 最後の一枚は友達皆とピースをした写真を撮って。
『またねー!』
 元気よく手を振って分かれる。友達のお母さんやお父さんには、皆月がこっそりピピの写真を撮った時に事情を説明済みだ。後で焼き増しして、なんて頼まれていたりもする。懐っこいピピは保護者さんの間でも人気者だったりするのだ。
 そうして二人仲良く家に帰ってくれば、扉を開けた途端に香ってくる匂い。
『カレーだ!』
 今日の夕食はピピの大好きなカレーライスだ。
 わーい!とはしゃぎながらピピがお手伝いをするのを見守りつつ、最後の写真を撮るためにカメラを取り出す。
 ピピの様子に嬉しそうな父と母、静かに見守る英雄。
 極々普通の幸せいっぱい食卓風景を、ぱちり。
 大切な日常を詰め込んだカメラをまずは端に置いて、皆月は家族団らんに声を弾ませるのだった。

●とある晴れた日に
『普段通りしておく方が良いんだよな?』
「逆にどうしていいか、わかりませんね……」
 依頼の内容を聞き終えたガルー・A・A(aa0076hero001)と紫 征四郎(aa0076)、そして。
「撮られるのは慣れてるけど、撮ったことは無いなぁ」
『たまには良い、だろ』
 木霊・C・リュカ(aa0068)とオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)の二組は一緒に行動するつもりでいた。
 薬局は今日はお休み。木霊家に行っての撮影である。

 征四郎は愛用のデジカメを持参し、ガルーは征四郎のデジカメを借りる形で。
 木霊はデジカメとスマートフォンの二刀(?)流、オリヴィエは家にあったポラロイドカメラを使っての撮影となった。
 といっても木霊は古書店を営んでいる為、お客さんがやってくる。
 馴染みの客が多い店だが新規のお客さんがやってくることもあるわけで。
「いらっしゃいませ。初めての方ですか?」
 日の光が絞られた優しい世界。その中で柔らかく微笑む木霊の笑顔は、とても。
(リュカは店番の時、すごく楽しそうな顔してる、です)
 木霊の仕事姿をそっとカメラに収め、征四郎は次々写真を撮っていく。見上げるような構図になりがちだが、撮り慣れている少女にとってデジカメは手に馴染んだものだ。
 何枚も撮った中から五枚を選ぼうと決めて、思うままにシャッターを切る。
 そして少女が撮影をしていない時、デジカメはガルーの手の中だ。
『……征四郎からカメラ借りたはいいが、どれを押せば撮影になるんだ?』
 デジカメ初挑戦である。
 なお、撮影時以外は奥で居眠りしていたりする。そんな彼に悪戯が仕掛けられるのはもう少し先の話。

 お客さんが一段落して撮影再開。
 デジカメとスマホを駆使する木霊の初ショットは何だかぶれていて、三人のうちの誰なのか定かではない。
 むむ、と唸りつつも次の写真だ。
「せーちゃん、こっち向いて~!」
 征四郎がカメラ目線を外し、頑張って自然を装っている姿を撮影――否、録画していた。
 動画を後で写真として抜き出すつもりのようだが、征四郎の頬が赤く染まっている。カメラの方を気にしそうになるのを時折木霊が声を掛ける事で逸らしているようだ。
「つ、つかれたのです……」
 それではお返しに。
「リュカ、はいチーズなのです!」
 掛け声に思わずピースを決める木霊。どことなくきりっどやっとした顔付き。
『おい、あんまりポーズし無い方が良いんじゃないか……?』
 撮影会にガルーがぽつりと呟くが、さて。

「ありがとうございました」
 木霊の姿をオリヴィエが撮影していると、視線に気づいた木霊がふふりと笑う。
「お兄さんに見惚れてた?」
 冗談混じりの言葉にオリヴィエは淡々とそうだなと返す。
『いつもそうして真面目にしてれば、三十路の風格もでてくる』
 ひどいっ!と大袈裟に泣き真似をする木霊からは視線を逸らし、一旦カメラを置いて店の掃除を始める。
 棚を拭く為に本を取り出し、別の場所に置いて、拭いて、また戻して。
 丁寧に行われるそれを撮影し、征四郎はふと気付いた。
「そういえば、オリヴィエはまた背が高くなった気がするのです」
 前はもっと背伸びをしなければ上まで届かなかったような気がする。男女で成長の差があるとしても、ぐぬぬっとなってしまう。
 兄のように、思っているからこそ。
「何か手伝うことはありますか?」
 尋ねて、今度は二人で掃除を進めていく。
 そんな様子を何とはなしに聞きながら、ガルーは店の奥で横になり目を閉じた。

 昼寝を決めた英雄を写す征四郎と微笑みあい、ささやかな悪戯を施してまた笑い合ってから、木霊は外に出る。
 視線を少しだけ横に向ければ、台風で花を落としてしまった金木犀。それを竹箒で掃こうとしているオリヴィエに、オヴィンニク。
「うん、うん、何だか懐かしいね」
 ぱしゃりとオレンジの足元を切り取れば、どうやら悪戯に気付いたらしいガルーの声がする。
 さぁ、シャッターチャンスだ!
『あ、なんて所撮ってやがるんだお前ら……!』
 ガルーの額にはでかでかと「肉」の文字。水性ではあるが、写真を撮ったのも合わせて征四郎もしっかり怒られた。
 幸い怒りを逃れたオリヴィエはというと、掃き掃除を終えてオヴィンニク撮影の真っ最中。
 縁側で大あくびしている黒猫を撫で、喧騒を聞き流していると入口から何やら声がした。「おーい」とか「大丈夫かねー」とか。
 首を傾げるオリヴィエと声に気付いた木霊が出てきたのはほぼ同時。居たのは様子を見に集まった近所のご老人たち。
「何々じっちゃん皆で集まっちゃって」
「いやぁ、喧嘩のような声が聞こえたもんだからねぇ」
 口々に言い合う声に言葉が詰まる。心配してもらえたのは嬉しい事で、さてこの事態どうしたものか――そうだ。
 ぽん、と手を叩き、「皆で写真を撮ろう」と提案してみる。
 だってこれも、木霊が大切にしている日常の一つなのだから。
「はい、詰めて詰めて。遺影で出せる位の笑顔見せてね!」
 そんな冗談を言って笑わせながらオリヴィエにも手伝ってもらって、ぱしゃり。
 集合写真を撮り終えた頃には夕暮れ時、お腹も空いてくる頃だ。
 ほくほく顔のアイドルライブ帰り英雄とノーメイクな英雄も交えてご飯にしようと決めて、早めの店じまいである。

 夕食を作るのはガルー、お手伝いが征四郎だ。
 二人並ぶ後ろ姿を写し取って、オリヴィエはポラロイドカメラから視線を上げた。
(……ああ、何だ。征四郎も、身長伸びてるんだな)
 以前よりも身長の差が縮まっているような気がする、と。――気づいてしまうのはそれだけ見ているからなのか。
「オリヴィエ?」
 瞬きした時には征四郎がすぐ傍に居て、何でもないと首を振る。
 しかし誤魔化されてくれない少女は本当ですかと食い下がってくるから、何か気を逸らせる事は無いかと話題を探すオリヴィエ。
 そしてそんな少年を、ガルーがぱしゃりと撮影する。
(……ああ)
 言われて、意識して、確かにと納得する。
(征四郎も大きくはなってるはずだが、リーヴィのが成長が早い)
 随分と大人になったように見える。獣のような面影は薄まって、その分。
(……綺麗になった、か)
 ぽつんと浮かんだ言葉を自身の中でそのまま形にしてしまって、ガルーは軽く首を振った。
 「料理料理」と口に出し、綺麗の二文字を振り払って夕食作りに戻る。
 できたー?と味見をしに来た木霊の写真を撮りつつ一口分を掬って渡し、出来上がった料理とビールも用意して。
 早めの晩酌を始めた大人たちに呆れてオリヴィエが一枚、乾杯している様子を征四郎が一枚写真に残し、食事は和やかに進む。
 夕食を食べ終えてうとうとし始めた征四郎をガルーが撮って、今にも眠りそうな少女を寝かせてやってからまた晩酌に戻っていく。
 オリヴィエが部屋から出ていくのは、何も言わずに見なかった振りをして。

 縁側に出た少年はそっと息を吐く。まだ冬本番ではないから白くない。
「…………」
 今日撮ったたくさんの写真。木霊、征四郎、それから第二英雄たちのちょっとだらしない姿。
 そして。
 まだ木霊と征四郎に悪戯をされる前の、ガルーが寛いでいる写真。
 ……提出枚数は五枚だったから、最後の写真は自分だけのアルバムの中にしまい込んで。
 盛り上がる大人たちの声に目を細め、オリヴィエは温かな日常へと戻っていく。

●ゆるゆると
『やっほー、お祭りだよ』
 いつもと変わらないゆるっとした感じで会場にやってきた百薬(aa0843hero001)と。
「うん、いい匂いのするお祭りは良いね」
 百薬に同意しつつ、同じくやってきた餅 望月(aa0843)。
 会場内、まだまだ準備中で僅かに香っているのは花の香りなのだが。
『たこ焼き、やきそば、りんご飴、みーんな大好きだよ』
「いや、そのいい匂いじゃないよ」
 早速の二人である。さしずめ百薬がボケで望月がツッコミだろうか。
 と、話しつつもスタッフから説明を受けた二人。
「写真撮るのね」
 ふむふむと頷いて手持ちのスマートフォンで適当に撮ってみる望月。百薬もスマートフォンを借りつつ、ぱしゃぱしゃと撮っている。
『なんとか映えするのでいこうね』
 今色んな意味で話題のアレである。
 しかし、奇をてらった物を求められているわけではない、日常なのだからそれなりに。
 試しに自撮りしてみるが……テスト用だ、ぶれているのもしょうがない。
 カメラワークが得意とは言えない望月だが、まずは会場の外へと繰り出すことにした。

 外へ出たものの、やることはいつもと変わりない。
 せっかくなのだし外食をと百薬と二人で向かったのはファミレスだ。
 スペシャルごはんと称してオムライスを写真に収める百薬、とその様子を写真に収める望月。
 料理はその後美味しくいただいて、昼食を済ませた後は街をぶらぶら歩いてみる。
『あ、玉兎ちゃん』
「ピピくんもいるね」
 ちょうどピピが玉兎を撮影している所に遭遇したので、そっと回り込んで振り向きざまの玉兎を撮った後に四人で記念撮影だ。
 写真を使ってもいいかきちんと聞いてくるピピにもちろんOKと答え、また別の道へ。
 三階建てのアパート『なんだか与沙荘』まで戻って二人でのピース写真を撮影。
「家バレは、まあ大丈夫か」
『どこにでもあるアパートだしね』
 ここまで古い建物はなかなか無いだろうが……看板は入らないようにしているし大丈夫だろう。きっと。
 アパートの周りを掃除していたらすっかり日が暮れてしまっていた。
「ごはんにしよっか」
 そう言って望月が作るのは百薬曰くいつものごはん。
 ご飯に味噌汁に焼き魚をぱしゃっと撮って、手伝え!と顔に書いてありそうな望月もぱしゃっと撮って、いただきます。

●思い出を重ねて
 リリィ(aa4924)とカノン(aa4924hero001)は一足先に現像された写真を眺めていた。
 一枚目はリリィがお気に入りの抱き枕を抱えて眠っているもの。幸せそうな表情の口元、僅かによだれが――。
「わわっ!」
 ばっと慌てて写真を隠してしまうが、この場にいるのは写真を撮った張本人の英雄のみ。
 恥ずかしい所を見せてしまったとおろおろするリリィを見て、カノンは微笑む。
『ふふ……幸せそうな良い表情じゃない?』
 真っ赤になったままのリリィを宥めつつ、二枚目の写真へ。こちらはリリィが大きなグランドピアノを演奏している場面だ。
 真剣な面持ちでピアノに向き合っている姿はエージェントとはまた別のもの。
『リリィの……もう一つの顔、ね』
「本来なら、毎日こうしていただけですのに」
 今はカノンが隣に居て、写真を見つめて微笑みあっている。
「……何だか【今】が不思議ですの」
 穏やかな声音のまま、ぺらりと次の写真を見て――リリィは俊敏な動きで写真を隠してしまう。
 三枚目に写っていたのはリリィがクレープを食べている姿。どこかの街中だろうか、中身がはみ出さないように一生懸命食べているのが伝わってくるが……口元には既に生クリームである。
「……っ! リリィったら……はしたない姿を!!」
 耳までぴんと立てて恥ずかしがるリリィ。しかし一枚目と同じく、撮影者はやはりカノンである。
『あら、リリィが美味しそうに幸せに食べている様子や感情……此方まで伝わってくる様よ?』
 真っ赤になっていたリリィはカノンの言葉で沈黙してしまう。
 しかし飾らないその姿もまた、「日常」の一つ。二人で積み上げてきた大切なものだ。
 そして四枚目。
 写っているのはリリィが白百合の花と向き合っている場面。
『まるで百合とお話しているみたい、ね』
 カノンが言う通り、リリィは白百合に何か語り掛けているようにも見える。
 さすがに何を話しているのか、写真からは分からないが……。
「……カノンねーさま、凄いですの。この時、リリィは白百合にお話してましたのよ」
 目をぱちぱちと瞬かせ、少女は思い返すように微笑む。
「いつも美しく、綺麗で気高くて……素敵ですわ、って……」
 話すたび、嬉しそうに獣の耳が揺れる。リリィが好む白百合と同じく、気高く気品ある猫の耳だ。
 花を見つめてうっとりとしながら最後の写真を捲れば、目を引くのは料理が大量に盛られた皿。
 リリィとカノンで料理バイキングに行った時の写真のようだが……リリィの前の皿だけ料理てんこ盛りである。食べきれるか不安になるほどだ。
『美味しかったわね、このお店のお料理』
「……で、でも。リリィ……何だか欲張り過ぎた、でしょうか……」
 写真の中の少女も自分の皿とカノンの皿を見比べて焦りながら照れているが、カノンにしてみればそんな様子も可愛らしい。
 それにリリィはこの量をしっかりと完食しているのだ。
 改めてみると恥ずかしいと写真をしまっているが、料理を無駄にしているわけではないのだし。
 どんな姿も大切な、少女の日常なのだ。

●気になる人
(これはナツさんの「日常」を見られるチャンスかも)
 借りたカメラを握り締め、英雄である七津(aa0057hero002)をそっと見つめる九十九 サヤ(aa0057)。
 ミステリアスな英雄の「日常」はとても気になるところだ。普段何をやっているのか、聞き出そうとしてもはぐらかされてしまうのだし。
(「日常」ね……)
 能力者が考える一方で、七津もどうしたものかしらと考え事だ。
 サヤは七津の日常を知りたいと考えているようだが、七津に言わせれば「男はミステリアスじゃないとねーっ」である。
「あの、ナツさん」
 悩んだ結果、彼女の提案は七津も好きなケーキ屋に行ってみようというもの。
 そこでならいつもと違う七津の表情が引き出せるかもと考えたのかもしれない。
 が、しかし。
「そうそう。ケーキ屋新作出てたわよ」
「えっ」
 なんていったって季節物に強いケーキ屋だ。時期としてはハロウィンだし、ハロウィンが終わればクリスマスがやってくる。
 というわけで、サヤと七津が訪れたケーキ屋も新作がずらりと並んでいたのである。
「うーん……」
 カメラは英雄に預け、真剣にケーキを悩むサヤ。いくらでも食べられるわけではないのだからしっかりと選ばねば、カロリーが。女子の永遠の悩みである。
 そんな様子を七津はぱちりとカメラに収めた。
 これはこれで、いつもの「日常」。
「美味しいです」
 頬に手を当てて幸せそうな姿も同じくぱちりと写し、七津もケーキを堪能し……た頃にはカメラはサヤの手元に戻っていた。
 自分から誘ったものの、撮られていたのは自分のみ。彼の「日常」は少しも見えてこない。……どうしようか。
 会場――参加者全員で記念撮影をする場所に向かって歩きながら、考える。
 そうして眉を寄せ、考え事をするサヤを見て七津は気づかれないように微笑んだ。
「サヤちゃん、少し寄り道してもいいかしら」
 寄り道と示された公園にちょっとだけ首を傾げてから、サヤはこくりと頷く。
 もしかしたら、ここに彼の日常があるのかもしれない。

(まぁあまりに日常を出さなかったら撮影できないし)
 依頼の為でもあるし、ちょっとだけ。
「こっちよ」
 いつものベンチに七津が向かうと、数匹の猫が姿を現した。
 そんな猫の中に一匹だけ。
 じゃれることもせず、餌をせびるように鳴く事も無く。ただじっとこちらを窺う猫がいる。
「彼、目つき悪いでしょ」
 言って七津はベンチに腰を下ろした。すると目つきの鋭い老猫も応じるように反対側へと座る。
「警戒心が強いから触ろうとしちゃダメよ」
 サヤちゃんみたいに当たり前の様に愛された子じゃないから、と言ってしまった後で、言い方が悪かったと訂正を少し。
「たまにこのベンチに座ってると反対側に座るのよ」
 近づいたり餌をやろうとすれば毛を逆立てて拒絶するけれど、こうして座っていれば抗議も無く時間が過ぎていく。
 これが七津の「日常」。
「悪い感じに言っているけど、ナツさん穏やかな顔してるし」
 嫌いではないんでしょう?と続けるサヤの声に七津は老猫を見て微笑みを浮かべる。そんな瞬間をぱちり。
「そうね……嫌いじゃないわ。なんだか似たもの同士で」
 似ているのがどういう部分なのか、サヤが尋ねる前に会場へ向かおうと七津が促して話を終わらせてしまう。
(今はまだ、欺され続けてくれればいい)
 冷たい本性など知らないまま。

●快晴の日に記念写真を!
 望月の提案で参加者たちは会場に集まっていた。
 提案というのはみんなで集まった写真を撮ろうというもので、この写真の為に望月は最後の一枚を残してある。
「こういうのも日常だよ、みんなとかわらず楽しいところは楽しみたいあたし達を残しておこう」
 場所は会場の中で一番綺麗な場所。
 今はまだ下書き状態の、けれど図案がはっきりと見える場所を背景に、全員が写れるようちょっと上から撮るアングルで。
 それぞれの位置を決める途中で百薬がフライング撮影をした後、タイマーをセットして準備は完了。
「せーの」
 はいチーズ!

 記念写真を見て、七津は心の内でそっと苦笑する。
(あーあーサヤちゃん緊張で笑顔で引きつってる)
 隣に写る少女はぎこちなく、撮影している時もどぎまぎしながら「は、はいチーズっ」と言っていたし。
 無理に笑おうとしているからなのだろうと思うから、七津はカメラを取り出す。
 最後の一枚は、みんなと話して笑っているサヤの姿をぱちり。
(うん、こっちの方が良い笑顔してるわ)

 わいわいと賑やかな参加者たち。
(こういうのもまた楽しい、ですね)
 ふふっと微笑んで、征四郎は友人の皆月の元へ。
「展示が楽しみですね」
「うん、皆はどんな写真を撮ったのかな?」
『どんなのかな? 完成たのしみ、だね!』
 笑い合う三人の姿。
『みんなの私生活も覗かせてもらっちゃおうかな』
 現像された写真を捲っている百薬に、「なんだか怪しい言い方だね」と言いつつも同じく写真を捲る。
「カメラって上手い人は上手いよね、センスかな」
「皆さまのお写真、素敵ですわ!」
『それぞれの日常……人に因って人の数だけの日常……何だか面白いわね』
 望月たちと同様に写真を見つめるリリィとカノン。
 焼き増しされた写真を見て笑う木霊にガルー、仏頂面になるオリヴィエに。
 ん?と笑いかけてくるレン、目を逸らすもう一人の英雄を撮って玉兎はようやくカメラから顔を上げた。
「タツミは、上手く撮れましたか?」
 微笑みながら尋ねてくれる征四郎に、こくこく何度も頷いて。
「たくさん、撮れたの」
 数えきれない大切が詰め込まれた写真たち。
 展示されるお祭りは――まだ少しだけ先のこと。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • いつも笑って
    九十九 サヤaa0057
    人間|17才|女性|防御
  • ミステリアスの中に一滴
    七津aa0057hero002
    英雄|23才|男性|ブレ
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 大切がいっぱい
    ピピ・ストレッロaa0778hero002
    英雄|10才|?|バト
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • Lily
    リリィaa4924
    獣人|11才|女性|攻撃
  • Rose
    カノンaa4924hero001
    英雄|21才|女性|カオ
前に戻る
ページトップへ戻る