本部

【森蝕】連動シナリオ

【森蝕】群れを穿つ鋒矢

茶茸

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/11/28 15:25

掲示板

オープニング


「やられましたね」
 インカ支部襲撃の報を受けて緊急招集された面々の前で、タオ・リーツェンは糸目を薄っすらと開いている。
 眼窩にはめ込まれた義眼の赤光が漏れる様は、いつも飄々としている彼の内心を表しているようだった。
「状況は良くありません。アマゾン上空に現れた幽霊船に加え、地上では従魔の群れが確認されています」
 ラグナロク対策のためにアマゾン各地に散っていたエージェント達から従魔の発見報告の他、交戦中や撤退中、襲撃を受けた原住民の保護を行っていると言う報告も次々に届いている。
 またアマゾンの各地で異常現象が起きていると言う報告もあった。
 それがインカ支部への救援をより遅らせる事になっている。
「インカ支部のライヴスバリアも何時までもつか分かりません。危険を冒してでもインカ支部までのルートをこじ開けます」
 このブリーフィングに参加したエージェントの役目はインカ支部への救援を妨害する壁―――従魔の群れに大穴を開け、ルートをこじ開ける事だ。
「こちらのルートでは皆さんが第一陣です。故に敵は多数」
 地図上にあるインカ支部周辺は敵の赤い光点がびっしりと広がっている。
 そこにペンタブで書き込みながらタオは説明を続けた。
「皆さんが開いたルートはインカ支部への増援や支援物資を届けるために使われます。少しでも早く、少しでも多くの人員と物資を送る事はインカ支部の明暗を分ける事になるでしょう」
 インカ支部への救援物資を運ぶにしても押し寄せる従魔と戦いながらでは損害も少なくない。
 到着したはいいが受けた損害の方が大きかったと言う有様では意味がないのだ。
「一つ、良いと言えなくもないような何とも微妙な情報があります」
 タオが示した突入地点では異常現象が起きている。
 先にインカ支部の救援に向かおうとしたリンカー達の報告によると、その地域てはライヴスが活性化しておりライヴスを使用した攻撃やAGWの威力が増すと言うのだ。
「彼等から気になる報告も受けています。こちらのAGWの威力が上がった様に、敵側が持っていた武器の威力も増加されているようなのです。おそらくアルター社から技術盗用した武器、『RGW』を持っています」
 先に交戦したエージェント達は数の不利もあって撤退を余儀なくされた。
 死者こそ出なかったが半数以上が重傷を負い現在治療中だ。
「彼等が身を削り持ち帰ってくれた情報のお陰で、こちらは十分な準備ができます。従魔の群れを蹴散らし、インカ支部への救援ルートを確保して下さい」

解説

●目的
・従魔の撃破

●状況
・アマゾンの密林内部/天候晴れ(特定地域は不明)
 特定地域に投入すると同時に周囲の空間が七つの色が蠢く奇妙なものに変化。その状態で戦闘を行うとライヴスを介したあらゆるスキルや武器の効果が増加する

●NPC
 タオ・リーツェン(az0092)/ケッツァー・カヴァーリ(az0092hero001)
 アイアンパンク/カオティックブレイド/生命適性
・使用スキル
 ストームエッジ、インタラプトシールド、ウェポンレイン
 PCからの指示がなければ攻撃やアイテムを使った回復行動を行う
 戦闘不能者が出た場合は安全圏まで運搬するため一時的に戦線離脱する

●敵
『ヴァルキュリア』×2
 デクリオ級/中型
 この群れを率いる司令塔。倒せば配下の従魔が『翻弄(回復不可)』状態になる
 盾と弓のRGWを装備しており、常に攻撃とカバーリングを分担している
 群れの最後尾に配置。常に空中にいるため射程10m以下の攻撃が当たらない
 魔法能力が高く広範囲に渡るバフ能力を持つ
・「鼓舞」:(味方全体)
 周囲の味方を鼓舞。味方全体の攻撃力を上昇させる
・「光の矢」:(射程100m)
 ライヴスで形成した矢を射出。単体に魔法ダメージ

『ウールヴヘジン』(猿とジャガー)×5
 デクリオ級/中型
 見た目は二足歩行の獣に近いが「コロ……シテ」「ォト、サン……カ……サン」と言う声が聞こえたらしい
・「噛み付く」:(近接単体)
 鋭い牙で食い千切る。傷口からの出血で『減退』効果 
・「投擲」:(射程10m)
 周辺の石や木、または敵味方を掴んで投げ飛ばす

『マビングアリ』×10
 ミーレス級/中型
 体毛が全て抜け落ちた灰緑色の人間に近い姿をしており非常に不気味
 悲鳴のような声を上げる
・「掴みかかり」:(近接単体)
 対象に掴みかかり稀に『拘束』効果
・「噛み付き」:(近接単体)
 対象に噛みつき稀に出血による『減退』効果

リプレイ

●引絞

 見よ歪なる救済を掲げる狂信者の成れ果てを。

『ルート上に敵。数はこちらより多い。どうする?』
 鬱蒼と茂る緑、草葉を掻き分け進軍する従魔群――共鳴中のストゥルトゥス(aa1428hero001)が、ライヴス内よりニウェウス・アーラ(aa1428)に問うた。白い少女は凛と前を向いたまま、確かな意志のもとキッパリと応える。
「最初から、最大火力行使。出だしで、可能な限り、数を減らす……!」
『シンプルイズベスト、だがソレがいい。よし、行こうか!』
 敵の総数はあちらが上。だが、エージェントの士気は高い。
「壁をこじ開けるっていいね! 燃える!」
『ん。目の前の敵を、全て蹴散らす……。分かりやすい』
 共鳴を果たした雨宮 葵(aa4783)と燐(aa4783hero001)は気合十分、妖刀「華樂紅」を手に不敵に笑う。
 臆する者は一人とていない――ハーメル(aa0958)は共鳴中の姿の象徴である仮面の奥で深呼吸を一つ。頼もしき仲間達を見渡して、冷魔「フロストウルフ」をその手に握る。彼のライヴス内では墓守(aa0958hero001)が、静かな眼差しでハーメルを見守っていた。
「ヴぁ、……ヴぁるきゅあ……ヴぁるきゅりあの討伐……でありますか」
 敵の名前を言いにくそうに、唇を尖らせたのは三木 弥生(aa4687)だ。
『弥生には、もう少し……なんというか、知識というか……教養を身につけて欲しいものだね』
『……ショウライ ガ、シンパイ……ダナ……』
 途端に溜息を吐いたのは、共鳴姿のオーラとして表出した両面宿儺 スクナ/クシナ(aa4687hero002)――前者が久科で、後者のカタカタと絡繰り人形の挙動で声を発したのが須久那である。
「よく分かりませぬが相手は従魔! 私が退治いたしてみせます御屋形様!」
 が、弥生は前向きそのものだ。御屋形様、と振り返った先には、月夜(aa3591hero001)と共鳴し狩衣姿の沖 一真(aa3591)がいる。一真は「頑張ろうな」と相棒に笑みを返すも、すぐに表情を引き締めて戦場を見やった。七色がサイケデリックに蠢く空間――曰く、異常現象。ライヴスを介したあらゆる武器や術が強化されるという。
「ライヴスが活性化しているのか、嫌な予感がするぜ」
『力が増す……元の世界でのことを思い出しそう』
 懸念点は戦場だけではない。なんでもラグナロクの兵隊共はRGWなる奇妙な武器を用いるという。が――それはアウグストゥス(aa0790hero001)と共鳴した黛 香月(aa0790)にとって「どうでもいい」ことである。
「たとえRGWなどという小細工を使おうと、奴らは滅びの運命から逃れることはできぬ」
 敵が何者であれ、愚神は問答無用で滅する。緋色の瞳に宿した信念に曇りなし。兵器の性能だけが戦力ではないことを――嫌と言うほど思い知らせてやろうじゃないか。

 耳障りな羽音が聞こえた。
 ヴァルキュリアが壊れたテープレコーダーのように救済を謳う。
 遭遇までのカウントダウンが始まる――いざ、尋常に。



●鏑矢

『OK、見えたぞ』

 神アイテムことイメージプロジェクターによって、共鳴中の阪須賀 槇(aa4862)と阪須賀 誄(aa4862hero001)は迷彩カラーを纏っている。緑に紛れ、レティクルの視線の先、遠方に見えた従魔。膝射で構えたフリーガーファウストG3を向ける。
「よ、よぉおし兄者頑張っちゃうお! ……姫乃ちゃんはどうかお?」
 木彫りのお守りがストラップに付けられた通信機で、槇は彩咲 姫乃(aa0941)と連絡を行う。
「初撃ぷっぱはお約束よな。こっちもバッチリだ!」
 メルト(aa0941hero001)と共鳴し、その身に紅蓮の炎のオーラを纏う少女が快活に答える。姫乃の細腕には、その身長とあまり差異がない大きさを誇る多連装ロケット砲が担がれていた。
「OK!」
 槇が引き金に指をかけた。姫乃もまた、角度の調整を済ませる。
 そして。

「先手必勝だお!」
「撃ぇーーーッ!」

 斉射開始。
 それは従魔の反応速度を超えた奇襲。
 まず着弾した姫乃の砲撃がド派手に爆炎を上げ、槇が放った三連射が次々に地面を揺るがした。ウールヴヘジンが、マビングアリが、木っ端のように吹き飛ばされる。もうもうと立ち上る土煙が、従魔達を狼狽えさせる。
『さー奇襲はタイムイズマネー!』
「おっけー。続けて撃つ……!」
 息を吐く間もなく、ニウェウスが魔力を練り上げ始めた。その手にはストゥルトゥスがルーン魔術を記載した終焉之書絶零断章――魔法陣より絶対零度のレーザーが放たれる。同時にニウェウスが腰に装着したコンテナが開き、射出されるリフレクターが凍れる光線を乱反射させて従魔共を射抜いてゆく。

 異常現象の効果によって威力を増した攻撃。
 しかし、一方的に嬲られる従魔共ではない。

「ラグナロクニヒカリアレ!」
 片方のヴァルキュリアが仲間達を鼓舞し、もう片方が攻勢を仕掛けてきたエージェントを見つけ、光の矢を発射した。狙いは姫乃だ。
「っと!」
 だが姫乃はこれを紙一重で回避。燃える戦意を瞳に、上等だと言わんばかりにキッと見据えた。
「面妖な術を……! されど、臆する私達ではありません!」
 弥生は先陣を切って疾駆しつつ、指先から伸びる赤糸を操る。繋がっている英雄の幽体のような腕が、コンポジットボウ「サイン・ハン」を引き絞り、反撃のように矢を放った。我を狙えと言わんばかり。その一撃はヴァルキュリアの盾に阻まれるが、害意に満ちた眼差しが確かに弥生を睨み付けた。

 砲撃の残滓、硝煙のにおいはアマゾンの生温かい風に流されていく――。

 ウールヴヘジンとマビングアリの、ケダモノめいて獰猛な咆哮が空気を破るように響く。
 いっそうの葉擦れの音。従魔共が牙を剥き、獣のような敏捷さで、エージェント達に襲いかかってくる!

「数を揃えたところで――」
 花散る黒羽織と、刃のような銀の髪をなびかせて。香月は足に絡む藪を踏み潰しつつ、従魔共を見澄ました。その手に構えるのは二メートルを超える大剣、屠剣「神斬」。ぐ、とその腕に力を込めた。アウグストゥスと共鳴したことで得た、文字通り人外の『怪なる力』を。
「――雑兵は雑兵。所詮はケダモノ」
 轟、と嵐のごとく振るう屠剣。左右から香月に噛みつかんとしていた従魔共が容易く深く切り裂かれ、七色の世界に赤を添える。

(よし……僕もやるぞっ……!)
 ハーメルは精神を集中させる。孤立しないように。フォローし合えるように。敵に掴まらないように。警戒しつつも冷静に。その正面にジャガーのような姿のウールヴヘジンが迫る。と――従魔が獣の身体能力で一気に樹上へと跳んだ。葉の中に隠れた次の瞬間、唸り声と共に従魔が上から急襲をしかけてくる。
「っ!」
 すぐさまハーメルは跳び退いたものの、掠った爪がその肌を裂いた。仮面の下でハーメルは眉根を寄せる。が、その姿勢は既に反撃に出んとしていた。
「……行けッ!」
 かざす掌。放たれるのは冷気の狼。牙を剥く魔力の獣が、ウールヴヘジンに食らいつく。
 一真はそのウールヴヘジンを、そして周囲の従魔も狙い、魔力を練り上げていた。

「百鬼を退け凶災を祓う! 急如律令!!」

 印を結べば、清浄なる白き霊気が蝶の形となって一斉に飛び立った。幻想的なる幻影の羽ばたきは、その美しさとは対照的に熾烈なる術。強烈な虚脱感に従魔共が膝を突く。
「まずは、敵前線の流れを、崩さないと」
『そんな時には幻影蝶ーってな。はいどうぞぉ!』
 奇しくも同刻、別の従魔達に向けて、ニウェウスも魔力を青き蝶へと転じさせていた。
 ソフィスビショップ達による連携した幻影蝶に、従魔共は大きく突撃の勢いを削がれる。それはエージェント達にとっては大きなアドバンテージとなった。

 つまり――敵陣へ深く切り込む足がかりとなる。

「突撃突撃ぃー!」
『……全部蹴散らす』
 葵は機動力を活かして森の中を軽快に突き進んでいた。共鳴によって得た翼は飛行はできないけれど、その姿はまるで空を自由に飛ぶ鳥。動き回るのは得意だ。
『OK、電撃戦開始』
「ヘッドをショットするのはFPSの基本だお!」
 その後方、槇が葵の道を護るように援護射撃を放つ。仲間達の活躍によって、葵の進撃が従魔共に阻まれることはない。

 そして。

『……射程内』
「互いにカバーリングできる距離にいるなんて、狙いやすくて好都合!」
 後方上空のヴァルキュリアをその目に収め、葵は武器を換装する――翼のように展開されるのはマルチプル・ロケット・ランチャー、その名もカチューシャMRL。
「ぶっ飛べーーーっ!!」
 裂帛の気合と共に、一六連装のロケットが轟音と共に連続で射出される。二体のヴァルキュリアが咄嗟に盾を構えるが、その姿は爆音と爆炎と爆煙とに包まれた。
「ぎッ――」
 牙を剥き出し、ヴァルキュリアがその翼をはためかせて視界を塞ぐ爆煙を振り払った。
 その、眼前である。
 紫電迸る金槌が、迫っていたのは――。

 鈍い音を立て、頭部に直撃した一撃にヴァルキュリアが大きく仰け反った。

「バフ持ちで司令官だと? だったら最初に落とすしかねえよなあ!」
 手元に戻って来たミョルニルをキャッチし、ニッと口角を吊ったのは姫乃。シャドウルーカーだけが隠密ができるわけではない――彼女はその反応速度と攻撃予測の直感力を以て、敵陣を飛び越え、掻い潜り、荒業めいた技術で文字通り敵陣の最深部まで突っ走ってきたのだ。
「敵は最奥、――つまり挟み撃ちの形になったな!」
 見やる先、ヴァルキュリアは顔中から大量に血を流しながら、しかし墜落せずに持ち堪えたようだ。戦乙女共が反撃に出んとする、が、
『射線ゲット、今だ兄者』
「OK!」
 それよりも早く飛んできた弾丸が片翼を穿つ。
『OK、対ボス《攻略開始》だ兄者』
「対ボスはゲームの醍醐味だお!」
 槇によるシャープポジショニングだ。こだわり抜いた阪須賀兄弟謹製の改造自動小銃の銃口から硝煙が立ち上る。
 姿勢を崩されつつも、ヴァルキュリアは光の矢を形成している――周囲の従魔共も、ヴァルキュリアを守るように動き始めた。なるほど、突撃馬鹿の脳死司令官ではないらしい。ヴァルキュリアの支持下にあるということは、他の従魔共をおびき寄せたり引き離したりすることは難しそうだ。
 最中、一体のウールヴヘジンが、千切れたマビングアリの腕を拾い上げた。それをエージェントへ投擲する、が、葵が咄嗟に割って入ってはそれを躊躇なく受け止める。血に濡れた獣毛はベチャリとして生理的な嫌悪感を催す感触だった。それでも、少女の表情は揺るがない。

 と、そんな時だ。

「グ、ゥ、う」
 ウールヴヘジンの口元が、奇妙に震える。
「ォト、サン……カ……サン」
 蠢くように紡いだそれは、確かに――人間の言葉で。
 立て続けにそれは、こんなことを口にしたのだ。

「コ ロ シ テ」

 ざわり。
 一真のライヴスの奥で、月夜が身じろぎをした。
『……赦さない』
「月夜!?」
『赦さない。人を道具のように――!』
 湧き上がる激情が一真を押し退ける。途端に一真の無垢の白髪が、星なき夜の黒髪に染まった。
「な、なぁ弟者……ひょっとして、コイツ等……!」
 一方で、藪の中を姿勢低く移動しながら――槇の顔から血の気が失せていく。
『……OK、兄者』
 ライヴス内で誄が、いつもの声で兄を呼んだ。「お?」と槇が返事をすれば、弟はやはり、いつのも声でこう言ったのだ。
『――ちょっと寝ててくれ』
 言下。赤い炎のオーラの色が、緑色に反転する。誄が、槇の精神を強制的に眠らせたのだ。
 兄は馬鹿だ。ポンコツだ。……普通の人間だ。心優しい人間だ。だからこそ、弟は兄を守りたい。この姿は、そんな誄の意志の顕現。
『OK。殲滅と行こうか』
 誄が銃を構える。
 その眼差しの先では、一真――否、今は月夜と称するべきだろう。彼女が錫杖「金剛夜叉明王」を手に。
『嘆きの声を静寂に……死の眠りに安らぎがあらんことを』
 暗い夜のごとく冷徹に。錫杖を差し向ければ、放たれる霊力の炎が、ヴァルキュリアを守らんとする従魔共に襲いかかる。

「助けるにはもう倒すしかない! 分かってるでしょ!」

 炎が炸裂する爆風に髪を翻し、葵は仲間達に渇を入れんと声を張った。明らかに一同へ走った動揺。それを打ち破るかのように。
「あれがたとえ、かつて人であったとしても。……私達がやるしかないんだよ!」
 そんな葵の言葉。
 ニウェウスは一つ頷いて見せる。
「貴方達が、本当に、元人間だったとしても――」
『今のボク達に、そこから救う術はない』
「できることは、たった一つ。もう、覚悟は……決めてきた」
『楽にしてあげるよ。できる限り、一瞬で!』
 振るう指先。刻むのは太陽と勝利、シゲルのルーン。太陽に奔るプロミネンスのごとく、灼熱の炎の力を戦場に顕現させる。一つでも多くの敵を、撃滅する。徹底的に。
 そうだ、やるしかない――ハーメルは湧き上がる感情に仮面を被せる。
(もし誰かに謝罪が必要なら、いつかする。必ずする。……だから、今は!)
 その手にライヴスの針を作り出し、手近な個体に撃ち放つ。少しでも従魔共の足止めを、仲間の援護を。
「救う手段がないのなら、かける慈悲などない」
 ウールヴヘジンの呟きを聴こうと、香月の刃に迷いも曇りもカケラもなかった。踏み込み、斬り、裂き、薙ぎ払う。電光石火の速さを以て。粛々と敵を討ち続けるその様はまるで天災のそれである。
 罪を恐れず、罰を厭わず、たとえ悲劇が待ち受けようと悔いはなし。――アウグストゥスは、そう掲げる残酷にして高潔なる主に迷いなくかしずき、その身の全てを捧げるのだ。
「討つべき相手に、変わりはありませぬ!」
 弥生の意志も揺るがない。ヴァルキュリアを見据えて矢を番えつつ、戦場を駆ける。
『カラクリ キジョウユミ……トイッタトコカ、ウチソンジルナヨ』
『あぁ、そうだな。両面宿儺の名に懸けて……ってね』
 須久那と久科が声を揃える。放たれる矢は真っ直ぐに、まるで弥生の想いを示すかのような軌道を描いて飛んでいく。研ぎ澄ませた心を乗せた矢は必中、死角を的確に貫き穿つ。
「一刻も早く……、彼奴らを斃し切り御屋形様の元へ!」

 激戦、ヴァルキュリアめがけ降り注ぐ攻勢。
 重なる攻撃に、遂に戦乙女の翼がひしゃげる。天を支配していたそれらが、地に堕ちる!

「有象無象をなぎ払う!」
 さあここからはドレッドノートの本領発揮だ。姫乃はその細腕からは想像もつかぬ膂力を以て、勢いよくミョルニルをぶん回した。周囲の雑兵諸共ヴァルキュリアを殴り付ける。
 効率的に立ち回るエージェント達の攻撃に、従魔は一体また一体とその数を減らしていた。対するエージェント側の損害は軽微である。多少のかすり傷こそあれど、まだまだ戦闘続行可能だ。
 状況は優勢。誄が「虎の子」として用意していたフラッシュバンを使用するまでもないようだ。
『OK、火力こそ正義ってな』
 後は火力を以て詰め切るのみ。誄はどこまでも冷静に銃を構え、絶好のタイミング――すなわち相手の意識が自分から逸れた瞬間を待ち、引き金を粛々と引く。緑に紛れる狩人のごとく。的確に状況を見極めるその弾丸は圧倒的なまでに精確無比、戯曲にある魔弾のごとく外れなし。
「後衛が頼もしいと、こっちも安心して攻撃でき――らァッ!」
 焔の戦気を轟々と。姫乃は雷鳴の大槌を構え、振るう。ヴァルキュリアの盾に得物が真っ向からぶつかった。ハデな音。押し返されて少女が数歩後ずさる。立て続けに戦乙女より矢を放たれるが、姫乃はそれを頭を傾け容易く回避してみせた。
「ははっ 遅い遅い!」
 そして、押しやられた分を助走に、地を踏みしめては飛び出して。
「一つ! 二つ!」
 防御されようが、それを上回る打撃をブチかませばいい。疾風怒濤の連撃。ガン、ガン、と重い一撃にヴァルキュリアは押しやられ――姫乃はその間隙を見逃さない。

「三つッ――焔の如く焼き払う!」

 脳天へ、大上段に振り下ろす。
 地響きと共に、雷槌は一体の戦乙女を粉砕した。
「残るは……あと、少しっ……!」
 ここが正念場だ。ハーメルは気を引き締めて投擲用ナイフのシャープエッジをその手に構える。仲間達へ食らい付かんとする、残った従魔へ軽やかに投擲を。
「御屋形様っ」
 同刻、弥生は月夜の傍へ駆け戻っていた。残った従魔共に敬愛する者を傷付けさせぬよう、飛盾「陰陽玉」を展開する。
「――不敬ですよっ!」
 凛と言い放っては、群がる従魔へ陰陽玉を叩き付ける。
 硬い一撃に膝を突いたウールヴヘジン。月夜はその目を射抜くように見据え――支配者の言葉を以て質問を一つ投げかけた。
『お前は人間か?』
 その言葉に、ウールヴヘジンがぶるりと身震いする。しかし……答えはなかった。もともと会話機能がないのが従魔だ。ヴァルキュリアは喋っているようで、記録されたプログラムを延々と繰り返しているだけに過ぎない。となると、ウールヴヘジンもそうなのだろうか。己の意志を以て会話しているのではない、ということ……?

 なんにせよ。
 仮に人間だったとしても。
 救うことはもう、できない。

『……そう』
 月夜が呟いた。刹那である。月夜へ食らいかかろうとしたそのウールヴヘジンは、横合いから一閃に迸った稲妻――ニウェウスによるサンダーランスに貫かれ、跡形もなく消し飛んだ。 
「……」
 先ほどの、支配者の言葉の一連のやり取りを聴いていたニウェウスは唇を引き結ぶ。ウールヴヘジンが口にした人間のような言葉。あれは『生前』の感情が従魔の口を反射のように動かしたのか。あるいはこちらの士気を削ぐためにラグナロクが仕組んだのか。
『どちらにせよ最悪だ。ああ、全く以てナンセンス極まりないよ』
 ストゥルトゥスもライヴスの奥にて顔をしかめる。

「こんな雑魚で私達を阻めると思ってんの?」
『……ん。止まらないよ』
 けれども、葵をはじめエージェント達は攻勢の手を緩めない。香月もしかりだ。噛みついてきた従魔を容赦なく蹴り飛ばし、徹底的に得物を叩き下ろす。肉塊となったそれには目もくれず、香月は一気呵成にヴァルキュリアへと挑みかかる。
 放たれる光の矢――葵は軽やかに身を翻しては、カウンターの刃を振るう。真っ直ぐに前を見据える瞳は揺るがない、動じない。どんな壁だってぶち壊して飛び越えてみせる。そんな意志がそこにある。
「アたらシきぜがい……エインヘリャルとともに……」
 戦乙女が狂った言葉を吐き続ける。葵は柳眉を吊り上げた。
「エインヘリャル? 死せる戦士なんかごめんだよ! 皆で生きていたいから、ここにいたいから、自由に生きて笑ってたいから戦うんだ! ラグナロクの定めた檻の中で生きる気なんかない!」
 堂々と言い放つ。歪なる救済を真っ向から否定する。握り締める刃に、自らの決意を込めた。英雄も葵の言葉を肯定し、迸るライヴスのエネルギーとして少女の体に力を注ぎこむ。
『……空は返してもらうね』
「鳥が空をとられてちゃかっこ悪いからね!」
 牙剥く戦乙女へ、小鳥の少女は挑みかかる。

「私達の前に立ち塞がって……ぶっ潰される覚悟はできてるかッ!!」

 大空を舞う鳥のように、自由に素早く。
 疾風の三閃が――最後の従魔の断末魔すら、断ち切った。



●次の戦へ
「皆様、お疲れ様です」
 ハーメルは深呼吸の後に仲間達へと振り返った。葵が大きく息を吐き、彼方の藪で誄が銃を下ろす。

 作戦は終了。H.O.P.E.側の勝利だ。
 従魔の唸り声や呻き声が消え果てる――周囲の森は、色彩を除けば平穏を取り戻していた。
 とはいえ、完全な平和などではないことは分かっている。ラグナロクとの激戦はまだ、続いている。

 未だ緊張を孕んだ一帯。香月は長く息を吐くと、地面に転がっていたヴァルキュリアのRGWを拾い上げた。
「言ったはずだ、貴様らがRGWを使ったところで我々には絶対に勝てんとな」
 盾と弓をそれぞれ二つずつ。ざっと見た限りではAGWとなんら外見的な差異や特徴はないようだ。
「誰がそんなものを作ったかは知らんが、こいつは没収させてもらう。我らの技術も日進月歩だ。奴らに技術を奪われたところで、巻き返すのは容易い」
 この武器の解析などはギアナ支部の面々が行ってくれることだろう。何か手がかりが掴めればいいのだが。
 さて。仲間達へと振り返る――。

「御屋形様、お怪我はございませんか?」
 弥生が心配そうな声と共に月夜を見上げた。まもなく、彼女は共鳴の主体を一真へと受け渡す。
『一真、弥生ちゃん……驚かせてごめんなさい』
 申し訳なさそうに、ライヴス内で月夜が言った。
「気にするなって、あいつらを造り出した奴らが許せないのは俺も一緒だ」
 一真はそう答える。ウールヴヘジンの言葉を、しかと思い返しながら。
「どっかの漫画の二巻で読んだなー……勘のいいガキは嫌いってか?」
 姫乃が思うところも同じだ。不機嫌そうに顔をしかめ、腕を組む。あの奇妙な茶会にて、ラグナロク盟主バルドルはウールヴヘジンをゴミのように処分していた――そんな報告を思い出していた。それと同時に湧き上がるのは、強い強い憤りだ。
「マジで材料が俺の考え通りってんなら、――嫌いじゃすまねえぞクソが!」
 唸るように言い放つ。
(材料、……)
 一真は思案気な表情を浮かべた。
 おそらく、誰もがこう想像しているだろう。

 ――ラグナロクによって攫われた「異世界との繋がりを持たない人間」が、無理矢理に従魔と融合させられたのではないか?

「ならば……どこかに実験施設が……?」
 インカ支部の襲撃や、統率の取れた動き。ラグナロクは組織なのだ。どこかに必ず、拠点があるはず。
(しかしながら……怪しげな建物の報告などはまだ上がっていない……)
 巧妙に隠されているのだろうか。アマゾンの森は広く深く、まだ全域の完全調査には至ってはいない。
(今回のライヴスの活性化についてもそうだ……活性化そのものは自然発生かもしれないが……)
 ラグナロクがなんらかの実験データを得るために、あるいは何かしらの変化を見たいがために従魔を放った?
「……」
 ぐっと眉間にシワを寄せる。謎は深まるばかりだ。「御屋形様、シワになってしまいますよ!」と弥生に言われて、一真は「ああ、ごめん」と苦笑を返すのだった。

『胸糞悪いな、ホント』
 今回の戦いの感想を、ストゥルトゥスが溜息のようにこぼした。「ん」と共鳴姿のニウェウスが小さく頷き、魔導書を抱きしめる。
「でも……これで、第一歩は、刻めた」
『だね。まずは、救援が可能となったことを良しとしよう』

 さて、まもなくして通信機からタオ・リーツェンの言葉が聞こえてくる。増援の心配や伏兵などの存在はないようだ。安全な退路を確保してくれたとのことである。

 ラグナロクとの戦いはまだ終わっていない。
 放たれた希望の一矢は――邪悪の心臓を穿つことはできるのだろうか。
 答えは未だ、深い森の奥底……。



『了』

(担当:ガンマ)

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 絶望へ運ぶ一撃
    黛 香月aa0790
    機械|25才|女性|攻撃
  • 偽りの救済を阻む者
    アウグストゥスaa0790hero001
    英雄|25才|女性|ドレ
  • 朝日の少女
    彩咲 姫乃aa0941
    人間|12才|女性|回避
  • 胃袋は宇宙
    メルトaa0941hero001
    英雄|8才|?|ドレ
  • 神月の智将
    ハーメルaa0958
    人間|16才|男性|防御
  • 一人の為の英雄
    墓守aa0958hero001
    英雄|19才|女性|シャド
  • カフカスの『知』
    ニウェウス・アーラaa1428
    人間|16才|女性|攻撃
  • ストゥえもん
    ストゥルトゥスaa1428hero001
    英雄|20才|女性|ソフィ
  • 御屋形様
    沖 一真aa3591
    人間|17才|男性|命中
  • 凪に映る光
    月夜aa3591hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 護りの巫女
    三木 弥生aa4687
    人間|16才|女性|生命
  • 愚神の監視者
    両面宿儺 スクナ/クシナaa4687hero002
    英雄|36才|?|ジャ
  • 心に翼宿し
    雨宮 葵aa4783
    獣人|16才|女性|攻撃
  • 広い空へと羽ばたいて
    aa4783hero001
    英雄|16才|女性|ドレ
  • その背に【暁】を刻みて
    阪須賀 槇aa4862
    獣人|21才|男性|命中
  • その背に【暁】を刻みて
    阪須賀 誄aa4862hero001
    英雄|19才|男性|ジャ
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