本部

七柱の神に感謝を

霜村 雪菜

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~7人
英雄
6人 / 0~7人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/10/23 19:45

掲示板

オープニング

 実りの秋である。
 野菜、果物などが収穫の時期を迎え、それらを使った食のイベントがあちこちで開催される。様々な食材と料理を楽しめるグルメフェスティバルのようなものから、使用する食材にしばりを設けてのちょっと変わった催しなど。
 H.O.P.E.支部からも参加することになった町内のグルメイベントは、食材を「米」に限定してのものである。
 米は日本を初めとするアジア諸国で主食となっているが、普通に炊飯器などで炊く以外にも工夫次第で大きく化ける。また、餅米、うるち米などの種類によって調理や加工法も変わってくる、奥深い食材なのだ。
 今回のイベントでは、「米をメインにした料理」ということなので、例えば餅にしてもよし、米飯としてのおいしさを極めるもよし、はたまた米粉という形での調理も可。もちろんカレーライスのような、「米プラス何か」という形の料理でもよし。米が使われていて料理のメインであれば、あとは自由な発想で作ってほしいという主旨だ。料理の数は、二品までである。
 米粒一つに、七柱の神が宿るという。それだけ米というものは重要で、日々の暮らしに欠かせないということだろう。豊穣に感謝する気持ちで、米を素晴らしい逸品へと仕上げてほしい! そして、それを美味しくいただくことこそ今回の任務である!

解説

●目的
 「米」を使ったグルメイベントに参加します。品数は二品まで。

●ルール
 「米をメインにした料理」ということなので、例えば餅にしてもよし、米飯としてのおいしさを極めるもよし、はたまた米粉という形での調理も可。もちろんカレーライスのような、「米プラス何か」という形の料理でもよし。米が使われていて料理のメインであれば、あとは自由な発想で作ってほしいという主旨です。

リプレイ

●米祭
 日本を始め、多くのアジア諸国で主食とされる米。一粒につき七柱の神様が宿るといわれ、古来から大切に食されてきた。
 今日は、そんな米の恵みに全力で感謝しつつ、米の可能性をさらに広げるための米イベントである。
 麻端 和頼(aa3646)は、みんなと揃えた作務衣風の衣装に身を包み、がすがすと米を研いでいるところである。
「……七海の作った米料理、か……」
「食べられるとイイネ♪」
 呟きを華留 希(aa3646hero001)に聞き留められて、若干気まずくなる。顔には出ないが。ちなみに五十嵐 七海(aa3694)というのは、和頼の恋人である。今日のイベントにも参加しているが、ジェフ 立川(aa3694hero001)と一緒に違う作業場だ。
「……お前……ちゃんとイベント熟せよ……?」
 微妙になった空気をごまかすため真面目なことをいうと、希は心外だというように頷いて見せる。
「モチロン! アタシ作るカラ和頼は雑用でイイヨ♪」
「へ?!」
 何だか信じられない発言を聞いた気がする。和頼は日頃の行いから考えて希が真面目に料理するわけがないと高をくくり、準備を進めていった。米は鍋で炊き、他に食用の糠を分けてもらっている。
 七海達の作業場とかなり遠くに離れてしまったので、ちょっぴり不満な和頼である。ついつい目が彼女を追ってしまう。
「ちゃんと依頼熟さないト、呆れられちゃうヨ!」
 珍しく希にまともなことを言われて説教されてしまう始末である。ぐうの音も出ず
作業に掛かろうと持ってきた筈の材料を探すが、見つからない。目を離したのはほんの数分なのに、どこへ行ってしまったのか。
「……何で、材料が入ってねえんだよ……」
「だカラ! 料理は任せてっテバ!」
「ほ、本気で言ってたのか?!」
 希が作った所を見た事がなく、驚きが隠せない和頼。が、彼の不安を余所に手際よく調理する希。少し安心するが、その材料には見覚えがあった。もちろん、さっきまで和頼が仕込んでいたものであった。
「おまっ!」
「ダイジョブ♪ 和頼は手伝いシテ!」
 思いの外手際がいい希の調理に割って入ることもできず、和頼は渋々力仕事や手伝いに専念することにする。
 金が稼げない新米時よく作ったおこげ餡掛け丼だと、手順からわかった。炒め人参ともやしにトロミ付け、作っておいたオコゲを割り入れ飯に掛ける。型の周りに米をはり、焼きながら醤油を塗る。その型に飯、餡、飯……と重ね、軽く押して型から出し醤油を塗り、切るとトロっと餡の中華ご飯層が現れる。見るからに美味しそうだ。立ち上る湯気の温かさと美味しそうな匂いに、何人かのお客さんが振り返る。
 もう一品は乾煎り米糠を冷まし蜂蜜と練りゴマを混ぜ、棒状にして冷やした米糠の黄粉棒だ。
「さ、味見ターイム! あ~ん♪」
「い”?!」
 無理矢理口に黄粉棒を押し込まれる和頼。が、美味い事に驚いてもぐもぐと咀嚼する。
「……へえ、美味えな……」
「デショ? はい、あ~ん!」
 希が優しいので薄ら寒い和頼であった。
 順調に料理ははけていき、手が空いたので休憩がてら他のみんなの料理も食べて回ることにする。まず目に入ったのは、唐揚げ丼だ。
「……お! 唐揚げ丼、すげえ好みだ! ……誰のだ?」
「人イッパイでレシピ聞けないネ」
 ともかく、温かいうちにいただくことにする。薄味に仕上た生姜の炊き込みご飯に、ふっくらした美味しそうな唐揚げがどっさり載っている。甘辛ダレで絡めたのを乗せ刻みネギで仕上げた、シンプルながらもがっつりボリュームのある一品である。
 塩麹みりん生姜で下味を付けた鶏肉を、片栗粉と小麦粉を混ぜたものをまぶして揚げたものなのだが、作ったのは実は七海だったりする。
「パエリヤ、オムライス、炊き込みご飯、お団子……男の人は……何が好きかな?」
「男は一般的にガッツリした物を好むぞ。……本人に何か好きか聞いたらどうだ?」
「えっえっ……」
 という、ジェフとの間の微笑ましいやりとりを経て考案されたメニューだ。当人は今作業場で、接客をしつつおこげスープを作っている。鉄板にご飯を薄く延ばしカリッと焼き目をつけて、一口大に切り分ける。それを、季節の野菜が沢山のコンソメスープに浮かべ出すのだ。
 がっつり肉を食べたあとのあっさりスープは、口当たりも胃にも優しい。一緒に食べれば栄養バランスもばっちりだ。
 手際よく作業は進むが、気に成るのはやはり和頼。希と和気藹々(七海にはそう見える)が羨ましく、アーンとやっているのを見て「私も……」と暇を見つけ隣に行くが……希に「あーん味見して♪」とされて戻って来る始末。
 ちなみに、とても美味しかった。あと、和頼が感想をいうヒマも脇見をする余裕もないくらい一心不乱に、唐揚げ丼とおこげスープを食べていてくれるのは嬉しかった。
「時間が無いぞ、集中しろ」
 ジェフにクシャっと髪を撫でられ、調理と接客に意識を戻す七海。楽しいグルメイベントではあるが、これは依頼だ。すべきことはしなければ。
 忙しくなれば自然と集中できるようになる。七海は、ジェフと一緒にせっせと仕事をこなしていった。
「いらっしゃいませ、食べて行ってね♪」
 頑張った甲斐あって、どちらの料理も好評を博した。客の波を見て、仲間のブースを手伝ったり味見させて貰ったりと行き来してみる。
「チャーハン出来たぞ、食いにこぉーい!」
 鉄鍋を豪快に振り回して呼び込みをしているのは、ランページ クラッチマン(aa5374hero001)。男性の揃い衣装でしっかりした作務衣を着ているのだが、料理が中華にもかかわらずなぜか見た目がうどん屋さんっぽい。
「お、いい食いっぷりじゃあ! リクエストとかあれば聞くぞ!」
 ノリのいいランページのテンションと美味しい匂いで、お客さんが続々やってくる。
「パラっとして美味しい! ……楽しそうで素敵な相棒さんだね」
「うひゃう!? あ……え、と……!」
 七海に話しかけられて、かなり緊張するミュート ステイラン(aa5374)。だが、相棒の料理を褒められたのは嬉しかったようだ。だんだん落ち着きを取り戻す。
「は、はい、ランページお料理得意なんです、この前もかに玉作ってくれて……」
「そうなんですね! いいなぁ」
 女の子同士ということもあり、チャーハンを食べながら会話が弾む。火力を生かしたぱらっぱらのチャーハンだ。カニがなくなったらしく、途中から別な材料で作り始めたようで、そっちも食べたかったがお腹がいっぱいになってしまって残念だった。
「あの……ありがとうございマシタ……」
 はにかんだような笑顔のミュートの見送りを受けて、七海は次の料理へ向かう。
 大河千乃(aa5467)の料理は、なんとお米デザートだった。ご飯を洗いヌメリを取り水切りし、鍋にご飯、牛乳、砂糖、バニラエッセンスを入れ中火で煮込む。煮立ったら弱火で焦げないよう混ぜながら煮詰める。
「簡単だけど、ここが一番大変……」
 大河右京(aa5467hero001)に説明しながら、千乃は真剣に鍋とにらめっこしていた。
 その間に、冷やす準備や洗い物を手際よく片付ける右京。
「早いね……」
 感心する千乃。片付けながら調理するのが実は難しい。
 後は普通のアイスと同じ手順だ。
「何か一工夫欲しくないか?」
 右京は黒砂糖と黒酢を煮詰め、シロップにしアクセントをつける。味に変化が出ることで、食べている間飽きが来ないし、味覚が麻痺することもない。
「暖かい部屋で食べるアイスも美味しいよね。寒くなったらお母さんのお鍋が食べたくなったな……」
「お母さんが恋しくなったかな?」
「……ご飯だけねっ」
 北国の民にとって、がんがん暖房を入れた部屋で半袖になってアイスを食べるのは至福の儀式である。同じく、暑い暑いといいながら猛吹雪の音をBGMに鍋を食べたりするのも至高である。そんなわけで、彼らの二品目は郷愁を誘うきりたんぽ鍋だ。
 まず、美味しくご飯を炊く。これが一番大事だ。それをすり鉢で潰し、千乃は母と作った事を思い出しながら串に伸ばしていく。
「一つ出来た♪」
 右京は三本目を作成している。
「表面が綺麗で形も……」
「まな板で転がすと良いよ」
 きりたんぽは、綺麗に作るためには年季とコツがいる。右京の手際に感心しつつ、無事にきりたんぽができあがる。最後は、焼きだ。焦げ目で可愛い模様やメッセージを付けて完成する。
 大きな土鍋に鶏出汁と醤油を入れ、ささがきゴボウで臭み取りと味にアクセントをつける。鶏肉、長ネギ、舞茸、白滝を入れ最後にきりたんぽを入れ一煮立ちさせてできあがりだ。お椀に盛る際に焦げ目が見えるようにする気配りも忘れない。
 熱いのは熱く、冷たいのは冷たく食べれるように提供する。ほっこり温かくどこか懐かしいきりたんぽ鍋と、新食感と新しい味わいのお米アイス。
「お米でアイスになるんだ。沢山食べれちゃう」
 七海もご満悦だ。
 幸せに満たされた気持ちで、七海は和頼と希の料理へ向かったのだが……。
「希のおこげの方がパリパリしてるよ……」
 同じおこげ料理のため、つい比べてしまう。餡掛けは餡掛け、スープはスープでそれぞれよさが違うのに。
 何よりも、和頼が他の人の食べると気になり仕方ない。
「美味しそうに食べてる……他の人のを。おこげスープは余り好きじゃなかったのかな……」
 心の中だけで呟いていたのだが、ぽんと軽く頭を叩かれた。
「七海……表情に漏れてるぞ」
 いつの間にか、そばにジェフが来ていた。口数少ないが、どれも感心した顔で美味しそうに食べている。
 七海は、しょんぼりと黄粉棒を齧った。香ばしくてとても美味しい。
「あ、あの……」
 声をかけられて振り向くと、ミュートが立っていた。
「い、一緒にお手伝いしていいでしゅか!? お、お願いします!」
 かなり緊張した様子で、声も上ずっている。作業場からは、調理しつつもランページの心配そうな顔が見えた。
 七海は、笑みを浮かべた。
「もちろん! ありがとう!」
 ミュートが、安心したように身体から力を抜く。首の辺りの触手が、気のせいか嬉しそうな動きをしているように見えた。
「じゃ……じゃあ、頑張ってくるね……!」
 ランページに手を振って、ミュートは七海達と一緒に彼女達の作業場へ入る。まだ若干緊張するのか、ひたすら深呼吸していた。
 七海とジェフはそんなミュートを気遣いつつ、三人で料理を再開した。

●〆も米
「米料理か。いいね、こういうのは好みだぜ」
「では楽しみにさせて貰いますわ」
「お前は何を言ってるんだ。手伝わざる者喰うべからずだぞ」
 というわけで、デニム地作務衣の赤城 龍哉(aa0090)の隣で、動きやすいようアレンジした茶摘み衣装のヴァルトラウテ(aa0090hero001)もちゃんと手伝っている。
「一品目は焼きおにぎりだ」
 米はしっかり定石を守って、味を最大限引き出せるように研ぐ。最初は糠落とし。米に水を吸わせないよう迅速に。その後は旨味まで削り落とさないよう加減を見ながら洗う。
 なんと羽釜があったので、ありがたく使わせてもらう。どうして一時のイベントにかまどまであるのかは謎だったが。羽釜で炊くと、時間が経過してもご飯のおいしさが損なわれないのだ。「始めちょろちょろ、中ぱっぱ」という言葉の通りに、最初は一気に火力を上げ、吹きこぼれ始めたら薪を少なくして調整する。釜がふつふついっても蓋を取らないというのが「赤子が泣いても蓋取るな」ということである。最後にもう一度強い火力で炊いて、少し待ってから蓋を開けて完成だ。
 炊き上がったら全体に蒸気が行きわたるよう混ぜて蒸らす。米粒を潰さないよう包み込むように握り、七輪と炭火を使ってじっくり焼き上げる。この時使うのは上質な醤油と、ネギ味噌の二種類。調理の手間暇、素材の良さで勝負の焼きおにぎりが完成した。
 これだけでも十分美味しい。だが、どんな人のニーズにも応えられるようにするのと、味の変化を提供するのも料理人だ。
「そのまま食べても良いけどな」
 椀におにぎりを入れ、白出汁を湯で割ったものを注ぎ、三つ葉を飾って食べられるお茶漬け風のものも用意する。たくさん他の料理を食べたあとにやってくるお客さんには、この方がさらさらと食べられて喜ばれる。〆の一品だ。焼きおにぎりの味付けを濃いめにしてあるので、白出汁は薄味に調整する。
「二品目は汁粉で行くか」
 時間の関係上、もち米を炊くのと小豆を煮るのはヴァルにアシストさせて、おにぎりの米炊きと同時進行させる。そして臼で杵つきだ。小豆の味付けは甘さ控え目に、塩を加える事で甘みを引き立てる。盛り付けは小さめの椀に、一口サイズの餅を二~三個で。お汁粉をメインで食べようという人はあまりいないので、デザートにも食べられるくらいの分量にした。
「焼いた醤油の香りは食欲をそそりますわね」
 ヴァルも手伝いの合間にしっかり食べている。
「お汁粉も食べやすいですわ」
「まぁ、手伝いの分は食べて良し」
 他のみんなも食べに来て、満足しているようだ。
「美味しいネ!」
「これだと他の食べた後でもいけるな」
 希と和頼は焼きおにぎり二種類とお汁粉をしっかり食べている。七海とジェフも食べに来て美味しいと言っていたが、なぜか七海はその間にも複雑そうな顔で和頼の方をちらちら見ていた。
 千乃と右京は、お米アイスを差し入れがてら来てくれた。レシピを訊かれたので教えながら会話も弾み、「このアイスは口溶けが遅いからゆっくり味わえるの」と解説付きで、珍しいアイスを堪能させてもらう。
「米粉のパンケーキあたりに挑戦しても良かったが、まぁ概ね和風に合わせた感じだし、こんなとこかね」
「皆さん、良い仕上がりでしたわ」
 ランページから分けてもらったチャーハンを食べながら、龍哉もヴァルも心地よい満足感と気持ちのいい疲労感に浸っていた。今回はメインディッシュを作らなかったのだが、他のメニューとうまく調整できたようで何よりだった。
 チャーハンを一生懸命運んできてくれたミュートには、帰りがけに焼きおにぎりとお汁粉を持たせたのだが、あちらも美味しく食べてくれているだろうか。
 構築の魔女(aa0281hero001)と辺是 落児(aa0281)は、焼いていないおにぎりと米粉のワッフルを作っている。
「ふむ、料理ですか……なぜか、懐かしい……そんな気持ちになるのはなんででしょう? ……?? 彼女の料理こそ本当の魔法かもしれませんね? ……でしたか? まぁ、顔も思い出せないのですけどね……?」
 朧気な白昼の夢にも似た追憶は、米と一緒に研いでしまう。今は何よりも料理を作ることを優先だ。
「まずお米といえばこれですよね、えぇ」
 落児にも手伝わせつつ、土釜でご飯を炊く。熱がじんわりと伝わるので、ご飯がふっくら美味しく炊きあがるのだ。冷めにくいので土釜に入れたまま保存できるし、追い炊き効果でおこげもできる。水は軟水のミネラルウォータを使用する。
「研ぎは三回程度で……浸水は四十五分前後で大丈夫でしょうか?」
 乱暴に研いだら米のうまみを損なうし、水加減は炊きあがったときの硬さなどに影響する。おいしいご飯を炊くには、どこにも妥協していいところはないのだ。
「まずは中火で……沸騰してから弱火ですね。……ここまでくればあと十五分程度でしょうか?」
 具はお米を炊き始める前に準備を整えておいた。炊きあがったお米が冷めないうちに素早く仕上げる。
「さぁ、美味しいうちに手早く仕上げてしまいましょう!」
 まずは、藻塩のおにぎり。具はなくシンプルに藻塩で握りお米の味を楽しむ。好みで上から振りかけられるように黒ゴマと白ごまを添える。シンプルな味付けは、素材のうまみを引き立てる。美味しく炊き上げたご飯だからこそできる勝負の一品。
 次に、定番の梅。握った後に中央を凹ませ、種入りの梅干しを埋めるように入れ軽く炙った海苔を巻いて完成。梅の酸味は食欲を増進させる上、疲労回復にも役立つ。香りの良さもいい。
 そして、これも定番の鮭。塩鮭に軽くお酒を振り熱を加えて魚臭さを消し、ほぐし身にしご飯で包むように握り完成だ。鮭のうまみ、ほどよい塩味、温かいご飯の甘味。まさに最強の三位一体。
 〆におにぎりを、とやってくるお客さんは、もう一つ美味しそうな品を発見することになる。
「ふむ……米粉ですか。こういう新しいものにも挑戦してこそですよね」
 米粉は、生のお米をすり鉢と擂り粉木で丁寧に磨り潰す。
「お米の風味まで飛んでしまわないように注意しつつですね」
 ほぐした卵に、砂糖、塩、牛乳、ヨーグルトを加えよくかき混ぜ、そこに米粉とベーキングパウダーを混ぜ合わせ均等になったものを加えさらにかき混ぜる。
「……あとは、最後にバターを加えて生地は完成ですね」
 かりかりしているのにもちっとしていて、美味しそうに焼き上がっていく。
「グルテンがないおかげで、だまになったり粘りが出たりする心配がないのはとても良いですね」
 しっとりしていて香ばしさや歯ごたえがあり、小麦粉で作るより味わいが軽めになるのも米粉人気の理由だ。
 一口サイズの型に流し込み、小型で可愛いワッフルを焼き上げていく。トッピングは苺やブルーベリーのジャムや練乳や蜂蜜などを、来場者の好みで取っていってもらうようにした。
「チョコレートなど他のトッピングもありますが……よければ一個そのままで食べていただけると、違いが分かって楽しいかもしれませんので、ぜひ」
 せっせとお手伝いする落児の隣で、人当たりよく接客する構築の魔女であった。小さいサイズのワッフルは、お腹がいっぱいでもちょっと食べるのにちょうどいい。特に女性に人気のようだった。
「甘いモノは別腹!」
「……よく入るな」
 希はいったいどれだけ食べてきたのだろうか。それでもおにぎり三種、ワッフルをトッピングたっぷりでにこにこしながら口に運んでいる。和頼は突っ込みを入れつつ、自分でも同じ量をしっかり食べていた。
 楽しいイベントは、そろそろ終わりを迎えようとしている。

●七柱の神に感謝を
 無事にイベントは終了し、お客さんが帰ったあとは後片付けだ。
「初めて会う人達だったけど楽しいな」
 千乃は、初めてのことで緊張したことも多かったが、振り返ってみても楽しい一日だったと思う。
「今日の事は電話で報告するんだろう?」
 右京が訊くが、千乃はうーんと唸る。そして、
「……声を聞いたら泣きそうだから、しない」
 笑み毀れるのを隠すため、右京は下を向かなければならなかった。
「料理とみんなで写した写メを送るのは?」
 提案してみると、千乃はぱっと明るい表情になる。
「うんっ」
 親元を離れ暮らし始め一ヶ月。慣れたようで慣れておらず、話すと泣きそうだから、もう少し……頑張ろう。そう心に決める千乃であった。
 ほとんどがH.O.P.E.の備品だったため、片付けは思ったより早く終わる。お疲れ様と声をかけ合い、三々五々帰路についた。
「どれも美味しかったね……私達のはどうだったかな?」
 七海は、並んで歩く和頼にぼそりと訊いてみる。唐揚げ丼とおこげのスープだったのだが、と。
「! あれ……七海が作ったのか!」
 とても好みの味だったので、おかわりまでした和頼である。希がそう伝えると、七海はほっと笑みを浮かべた。
「良かった。今度は和頼の好きなのに挑戦するよ」
 七海は、そっと和頼に寄り添う。照れくさくて顔を上げられない。だから、気づかなかった。和頼の耳が真っ赤になっていたことに。
「あれも又食いてえな……肉巻き握りとかも……食いてえな」
 二人の影が、ぴたりと密着する。少しも離れる様子はない。
 希はジェフに親指を立てウインクした。ジェフは、それにアイコンタクトで応える。
 お腹もいっぱい。心もいっぱい。お米に宿る七柱の神の恩恵を心身で味わえた一日であった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 希望の守り人
    大河千乃aa5467

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 絆を胸に
    麻端 和頼aa3646
    獣人|25才|男性|攻撃
  • 絆を胸に
    華留 希aa3646hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 絆を胸に
    五十嵐 七海aa3694
    獣人|18才|女性|命中
  • 絆を胸に
    ジェフ 立川aa3694hero001
    英雄|27才|男性|ジャ
  • 暗夜退ける退魔師
    ミュート ステイランaa5374
    獣人|13才|女性|防御
  • 倫敦監獄囚徒・六参九号
    ランページ クラッチマンaa5374hero001
    英雄|25才|男性|ブレ
  • 希望の守り人
    大河千乃aa5467
    機械|16才|女性|攻撃
  • 絶望を越えた絆
    大河右京aa5467hero001
    英雄|20才|男性|ブレ
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