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彼岸花の庵に集まる
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依頼前の挨拶スレッド
最終発言2015/10/13 17:00:15 -
【相談】庵を守ろう
最終発言2015/10/16 02:18:17
オープニング
●紅い絨毯が広がる
「今年もよぉ咲いたのぉ……」
袈裟を身に纏った壮年の男性が、縁側から庭を見下ろした。
男性の眼下には、まるで境界線でもあるかのように規則的な綺麗な円を描いて咲く赤いヒガンバナが広がっている。
「そうか、もうそんな季節になるのか」
自身の顎を人差し指と親指で撫でながら、男性は再び呟いた。
声はどこまでも柔らかなものだったが、その表情はかなり険しいものである。
男性の視線の先に広がるヒガンバナの絨毯をよく観察してみると、真ん中にポツリと小さな建物が建っているのが分かる。
百葉箱のような大きさのその建物は、まるで何か大切な何かをしまっておく庵のようだった。
男性の視線がその庵のような建物まで伸びるのを感じてか、微かに建物の扉が震えたような気がする。
「さてさて、こんな事をしとる暇は無いわい。早いとこ依頼を出さんにゃあ……」
庵の扉が動いた事に気付いたのか気付いていないのか、男性は急に態度を変えて建物の奥の方へと足早に消えていった。
●この季節一番の山場
急ぎ足で廊下を駆けていく男性を見かけ、青年はああ、またこの季節がやってきたんだな、と実感した。
「お急ぎですか、住職」
何も知らない新人の少年とも言えるような年若い青年が廊下を行く男性に声を掛けた。
声を掛けられた男性は、声を掛けたその青年の顔をチラリと見ただけで足早に奥の部屋へと行ってしまった。
訳が分からず、年若い青年は近くにいた青年に助けを求める様に視線を投げかけた。
「今年もあの季節が来たんじゃのぉ……」
「え? ……あの、なんの事ですか?」
「口で説明するのはたいぎいのぉ。……ま、今夜が明日の夜になったらわかるじゃろうて。わしは準備があるけぇの」
「は、はぁ……?」
それだけ言っていなくなってしまった青年に、年若い青年は納得のいかないまま意味もない言葉を吐き捨てるだけしか出来ないのであった。
「あの……、どうして住職はあんなに急いでいらっしゃるのですか?」
年若い青年は、こらえきれずに近くにいた先輩にあたる僧侶を捕まえて質問を投げかけた。
「住職は特別な力を持ち合わせているのです。それ故、魑魅魍魎に襲われてしまうのですよ」
「え……、それだったら、この季節だけHOPEに保護を申し出ればよろしいのでは?」
僧侶は意味深な笑みを浮かべながら、疑問を浮かべる年若い青年を見遣る。
「住職が庵に断固としてこもる理由? それは……、亡くなった奥さんの命日ですから、ね」
●毎年恒例の……
「ああ、わしじゃ。悪いんじゃが、いつものを頼めるか?」
電話口で何やら口早に話す住職の姿を見たのは、昼過ぎだった。
「そうじゃ。また今年もあの庵におるわしに群がる輩がおってのぉ。わしらじゃなんも出来ん。お前さんらの力を貸してほしいんじゃが、ええか?」
電話線を意味もなく指に巻き付けながら、住職は相手の対応をじっと聞いている。
「……ああ、そうか。お前さんは新人か。じゃあ説明がいるわな。依頼の内容は……、まぁ簡単に言えば討伐じゃの。月夜に群がる魑魅魍魎を退けて欲しい、ってところか」
住職は電話口で険しい表情を浮かべた。
解説
夜明けまでお寺の庵に納められた僧侶に従魔が触れる前に群がってくる従魔達(ミーレス級~デクリオ級)を討伐してください。
●住職の能力
一般的な成人男性に比べると豊富なライヴスを有している特異な体質ですが、その性質に波のようなものがあり、理由は分かりませんが毎年庵の周りにヒガンバナが咲くこの季節になるとライヴスの量が最高潮になります。
●従魔の目的
従魔を少しでも遠ざけるため、庵で一人祈祷を上げる住職に宿ったライヴスを奪って自己を強化しようとしています。
満月が近い今が群がる従魔達のピークです。
●従魔の強さ
住職が放つライヴスを吸い取っているため、従魔が庵に近づけば近づくほど相手の強さが強くなっていきます。
●従魔の襲撃頻度
襲撃には波があり、1時間毎に20体程の従魔が押し寄せてきます。
午前2時~午前4時まで、合計3回襲撃があります。
しかし、朝になるにつれて群がる相手はだんだん弱体化していきます。その一方で、すでに僧侶の居る庵に触れた従魔は夜明けまでに得たライヴスで力を強化することができます。
●立地
今回の討伐域は寺の裏庭になります。
したがって、すぐ近くに数人の一般人が生活をしている本堂があります。
従魔達は庵めがけて襲い掛かってくるので、本堂へ行く事はありませんが広範囲の攻撃などをすると本堂へ被害が及ぶ危険があります。本堂へ被害を及ぼさない様に十分注意してください。
●立地(図解)
□□□木木木□
木池□□□□□
池池□□□□木
木□□□□□木
木□□庵□□木
□□□□□□□
□□□□□□□
リプレイ
●午前0時の邂逅
「よぉ来たのぉ。わしが此処の寺の住職じゃ」
ほけほけと好々爺然とした初老の男性が、能力者とその英雄たちの前でほのぼのと笑った。
「いち、にの、さんまの、しいたけ。でっこん、ぼっこん……」
何やら意味深長な言葉を呟きながら、住職は能力者たち一人ひとりの顔を見て回った。
「ねぇねぇ住職、それなんの呪文!?」
餅 望月(aa0843)が住職の呟いた言葉を拾ってすかさず疑問を表した。
興味津々な様子の望月の隣で、百薬(aa0843hero001)も興味ありげな顔で住職を見遣る。
「んん、ただの数え歌じゃ。この辺の古い地の者はこうして数を数える」
幼い外見の2人に注目され、住職はどこか嬉しそうに答えた。
「さてさて、6人も居れば十分じゃろうて。今回の依頼の詳しい内容はもう本部から聞いとんじゃろ?」
住職がちょうど目の前に座っていた中城 凱(aa0406)に視線を投げかける。
「はい。依頼の内容は、庵にいらっしゃる住職目掛けて襲い掛かってくる従魔達の討伐、でよろしいのですよね?」
凱がはきはきと答える。
凱の隣では、礼野 智美(aa0406hero001)が凱と住職の会話を耳に入れながら、HOPE本部より借りてきた複数のランタンの数を数えている。
並べられたランタンの近くに、暗視スコープが所在なさげに並んでいるのも確認できた。
「そうじゃのぉ、大まかに言ったらそうじゃ。……その様子じゃあ、襲い掛かってくる周期のようなものも耳に入っとるのか?」
「午前2時~午前4時まで、合計3回襲撃があるんやろ? ちゃんと聞いとるで!」
凱に代わって、凱の隣に座っているゼロ=フォンブラッド(aa0084)が独特の大阪弁で返事をした。∞(aa0084hero001)はと言うと、その紅く光る瞳のみが本堂を照らす人工的な蛍光灯の明かりの下照らし出されている。
「おし。そんだけ分かっとるんなら平気じゃの。……それじゃあ、時間までここでゆっくりしとってくれたらええ。わしは一足先に庵に籠っとるけん」
何か不都合があれば近くの僧侶に聞くように言ってから、住職は1人庵へと足を向けた。
「住職さん……、1人で大丈夫なのでしょうか……?」
暗闇に消えていった住職の背中を見送りながら、卸 蘿蔔(aa0405)がレオンハルト(aa0405hero001)へと不安そうに言った。
「うぅん……、この時間はまだ襲撃予定時間じゃないし、それに、近くに従魔の気配もないし。……だよね?」
「ああ」
不安げに言葉を紡いだハーメル(aa0958)の後から、墓守(aa0958hero001)が力強く同意した。
墓守の顔を覆うその仮面のせいで彼女の表情は分からないが、言葉に込められた力強さから彼女が自信ありげな事は明らかだった。
元来の臆病な性格ゆえのハーメルと慣れない場所のせいで少し臆病になっている蘿蔔の心配を晴らすには、墓守の言葉は十分な効力を発揮した。
日本人離れしたその容姿からは考えられないが、列記とした日本人である彼女――蝶埜 月世(aa1384)は、本堂の扉の向こうからかすかに見える彼岸花の赤を見てため息を吐いた。
一方で、アイザック メイフィールド(aa1384hero001)はその彼岸花の真ん中に立つ庵へと消えていった住職の目的を思い浮かべながら、どこか懐かしい気分に陥っていた。
「妻を偲んでの黙祷か……祈りは魂へなのか記憶へなのか学生とよく議論したな」
「両方で良いじゃない」
アイザックの呟きをしっかりと聞き取っていた月世が、アイザックに向かって舌を出しながら言った。
僧侶が持ってきたお茶のおかわりとお茶菓子を堪能しつつ、一行はその時が来るのを本堂にて待機しておくしかないのであった。
●襲撃に備えて
「あ、そういえば……。今更なんですけど、ちょっと確認してもいいですか?」
襲撃予定の午前2時を目前にして、一行は本堂を離れ庵の近くまで移動を始めていた。
「はい、なんでしょうか?」
蘿蔔が、前を行く僧侶に声を掛けた。
「あの……、庵の屋根の上に登らせていただけないかなぁ……、と思いまして……」
申し訳なさそうに視線を地面へと向けた蘿蔔の背後で、レオンハルトが緊張した面持ちで僧侶を見つめた。
今回の作戦の要になるであろう、庵の屋根の上からの敵の監視をする為とはいえ、流石に断られるか、最悪の場合相手が激昂した時に備えているのだ。
「任務のためとはいえ無礼なお願いで……。本当に申し訳ございません」
言葉を続けた蘿蔔の目の前で、僧侶は少々面食らった顔をして固まった。
「上る、のは構いませんけど……、あの、瓦とかで滑って落ちない様に重々気を付けてくださいね?」
「はい……、……はい? っあ! それは大丈夫です!」
僧侶の言った言葉を自分の中でかみ砕いて解釈し、そしてワンテンポ遅れて蘿蔔は元気よく返事をした。
「庵の屋根に上っても大丈夫、ということですか?」
浮かれている蘿蔔を横目で見ながら、レオンハルトが念押しするように年若い僧侶に確認の為にもう一度問う。
「はい、構いません。毎年、あの庵はどこかしら破壊されていますので、今更屋根に上って頂いたところで問題はありませんよ」
「ありがとうございます」
あっけらかんとして答えた僧侶に、レオンハルトは折り目正しく礼を返した。
蘿蔔とレオンハルトが僧侶と話をしている間に、他の一行は着々と準備を進めていた。
「ランタンの数、ちょっと足りない、か?」
庵を照らすように並べられたランタンの調子を確認している智美に向かって、凱は辺りを見渡しながら言う。
「まあ、念のため暗視スコープだってあるだろ。お前の視界は保障されてるからな。もしもランタンを盛大に誰かが蹴とばしたらお前が起こしに行けばいいだろ」
「おいおい……、戦闘しながら環境整備なんて聞いてないぞ」
がっくりと肩を落とす凱に、智美は悪戯っぽい笑みでもって返すのだった。
かすかに庵の中から念仏が聞こえてくるのを背後にしながら、望月は場当たりをしていた。
「できれば飛び道具が欲しいところだけど」
自身の後ろにいる百薬の方を振り返った望月は、百薬が手に持っている黒い物体に、素っ頓狂な声を上げた。
「ス……スナイパーライフル!? ど、どっから出したの?」
「フフフ、今宵のワタシは死神なのよ」
ワタシの背後に立たないでね、と天使の容姿をしながら悪魔の様な事を言ってのけた百薬に、望月あんぐりと口を開いた。
一方その頃、月世とハーメル、そしてゼロは従魔の襲撃に備えて罠を仕掛けていた。
「防衛戦か……あんま向いてへんねんけどなぁ」
「夜の闇は得意分野や。しくじるなよ我が相棒」
拗ねた様に溢したゼロの肩の上を、闇に溶け込んだ∞の手が軽く跳ねた。
「ゼロさんの活躍を期待してますよ。僕も頑張りますけどね!」
足元に鳴子の仕掛けを施しながら、ハーメルがゼロを奮い立たせる為に声を上げる。
着々と仕掛けが整っていくのを見ながら、月世はHOPEの資料室から持ってきた過去の襲撃パターンに目を通す。
「警備課での勤務を思い出すわ……。知恵熱大丈夫かしら」
「知恵熱とはなんだ? 月世、調子が悪いなら休むべきだ。仕事前の大事な身体だからな」
アイザックの言葉に都合のいい脳内フィルターを掛けて変換した月世が、資料から顔を上げてアイザックを見遣る。
「……月世を深夜に直してもう一度……!」
「やはり熱か」
どこか必死さを感じさせる月世の様子に、アイザックは冷静だった。
●午前2時の来訪
生暖かい空気を孕んだ風が、庵の周りに咲いた彼岸花の花弁を揺らした。
「……そろそろだね」
静まり返った空気の中、望月が好戦的な笑みを浮かべながら言った。
年若い僧侶はとうの昔に本堂へと向かわせ、残るは6人の能力者と6人の英雄たち、そして庵にこもる住職だけになった。
グルルルル……、とどこからともなく聞こえてきた従魔の唸り声に、望月は百薬とアイコンタクトを交わした。
「いっくよぉ……! リンク、ドライブッ!」
望月が言い終わるか終わらないかのタイミングで、望月にとっての1匹目と2匹目が同時に目の前に躍り出る。
目前に迫った獣型の従魔に向かって、百薬とリンクドライブをした望月はグリムリーパーを振り上げる。
「はいはい、本日の餅つき会場はこちらでーすっと!」
まるで餅を搗く様に上段から振り下ろされたグリムリーパーの下、2匹の従魔はあっけなくその命を絶たれたのだった。
従魔の息が完全に途絶えた事を確認し、望月はグリムリーパーからスナイパーライフルへと獲物を持ち変える。そして、仕掛けた罠の方へと照準を合わせた。
「さてさて……、餅つきは始まったばっかり、でしょ?」
ガサガサと叢を揺らす従魔に銃口を向けながら、望月は狙いを定めた。
所変わって、庵の北側を警戒するリンクドライブを人知れず済ませたハーメルは、現在8匹の従魔に囲まれた。
幸いにもどれもミーレス級の従魔ではあったのだが、いかんせん1人で捌くには数が多すぎる。
ハーメルはひとまず襲い掛かってきた従魔の足元を崩すことを目的としながら、自慢の機動力を駆使して相手の懐に飛び込んだ。
『ハーメル、大丈夫か?』
脳内に響く墓守の声を聴きながら、従魔の鉤爪に引っかかれた左手を振る。
「僕は平気! ……うーん、僕一人に8匹相手なんて、ちょっとずるくないかな? 従魔さん?」
武器を握る右手に力を込めながら、向かってくる8匹の従魔の脚にダメージを与える事には成功した事を確認する。
(ちょっと……、序盤で怪我するのは頂けないなぁ……)
足止めに成功した事に小さな達成感を覚えつつ、怪我を負った左手を改めて観察する。傷はあまり深くないようだ。
傷ついた足を引き摺りながらハーメルとの距離を詰めてくる8匹の従魔達に、ハーメルはシルフィードをかまえる。
(一先ず此処を乗り越えないと、ね)
近寄って来た従魔に向かって駆け寄り、1匹目の首を掻き斬る。
次いで、シルフィードを切り返して、2匹目の息の根を奪う。
血に濡れたシルフィードの血糊を振り払いながら、3匹目に襲い掛かる。
3匹目を袈裟切りしたところで、いつの間にか4匹目がハーメルの背後に回っていた事に気付き、ハーメルは慌てて身を伏せて4匹目の攻撃を避けて背後に向かってシルフィードを薙ぐ。
4匹目が背後で倒れた音を聞き届け、ふと視線を前へと向ける。4匹目を避けた視線の先には、5匹目の鉤爪が目の前に迫る。――この従魔は、先ほどハーメルの左手に傷をつけた従魔と同じだった。
(しまった……!)
崩れた体勢から5匹目の攻撃をよける事は不可能に近い。咄嗟に目をつむったハーメルの瞼の向こうで、鋭く風を切る音が響いた。
一向にやってこない痛みに目を開けると、5匹目がゆっくりと地面に倒れているところだった。
(た、助かった……?)
「ハーメルさん……、前!」
倒れる5匹目を見るハーメルの背後から、声が響いた。
その声に一気に意識を取り戻し、ハーメルは慌てて目の前の6匹目の胴をシルフィードでもって一刀両断する。
と、同時に頭上から降って来た弓矢が7匹目の脳天を突き刺して息の根を止めた。
ハーメルは最後の1匹である8匹目を切り伏せ、そして背後の庵の屋根を見上げた。
「ありがとう、蘿蔔さん!」
「い、いいえ……! ハーメルさんが無事なら、それで……」
庵の屋根の上で、長大なグレートボウを持った蘿蔔が安心した様子でハーメルを見下ろした。
●小休止:1
「結局、ハーメルさんの所に8匹、凱さんの所に2匹、ゼロさんの所に3匹、んでもって私の所に4匹、かぁ」
救急箱を持ってきたゼロから手当てを受けながら、望月が指折り数えながら言った。
「合計17、ね。初めの襲撃にしては意外と来た方なんじゃないのかしら?」
月世が襲撃データをまとめながら、片手間にPCのアクセサリの電卓を叩いた。
「ハーメル君の所に沢山の従魔が来るのは予想通りでしたけど……。まさか大半がそっちに行くなんて」
「まぁ、その大群出来てこれだけの怪我で済んだのは蘿蔔さんのお蔭ですよ」
蘿蔔の手によって左手に応急処置として包帯を巻かれながら、凱の言葉に対してハーメルは笑った。
蘿蔔からの援護射撃は、ハーメルにとっても心強いものだった。
「あ、ありがとうございます……! でも……、飛行する従魔に私もダメージを貰っちゃったんですけどね」
「でも、その従魔に集中してたおかげでハーメル君のピンチに気付けたんでしょ!」
望月がまるで自分の事のように身を乗り出して蘿蔔の言葉を続けた。
「あらあら、仲がいいのは良い事だけどそろそろ次のお客さんが来る頃よ?」
「しんどいわぁ。……ま、でも気張りましょうかね!」
月世の呼びかけに、ゼロは救急箱の蓋を締めながら気合を入れた。
●午前3時の使者
からからから、と鳴子の音が辺りを包む。
ゼロは自分に迫ってきている従魔の数を把握するために目を閉じた。
(3……、いや、6? ……おっと、もう1匹、か)
手に持ったシルフィードを振り下ろし、ゼロは目を開ける。
段々迫ってくる鳴子の音にゼロは各個撃破する事を早々に取りやめる。
(さてさて、序盤から奥の手かいな。敵さんもいけずやなぁ……)
なんとも軽いノリで目の前に飛びかかる敵に向かってジェミニストライクをかます。
複数の敵を巻き込んで一気に足止めする事に成功した従魔をシルフィードでもって一網打尽に持っていく。
ゼロとリンクドライブしている∞は、周りの様子に気を配っている。その間にゼロは自分に向かってくる敵を倒していくのだ。
(5、……んでもって、6! で、7!)
切り伏せる敵の数を数えるうち、ゼロは自身の守護する方角に敵が集まっている事を確信する。
どうやら先ほどの襲撃はハーメルが守っている北の方角に敵が集まっていたようだった。つまり、相手は方角を変えながら一点集中でこちらを突破しようとしているらしい。
(ぎょうさん来るのは構へんけど……。こんだけ一気に来るのは、手間やなぁ)
次々にやってくる従魔の強さはあまり強くない。
この調子だと、警戒しているデクリオ級の従魔もゼロの下にやってくる可能性も否めないので、ゼロは体力温存のためにあまり動かずに敵を切り伏せる事にした。
「∞! 俺の死角は頼んだでぇ!」
『ああ、任せとけ』
頼もしい相棒の返答に、ゼロは口角を少し釣り上げて襲い来る従魔達を切るのだった。
場所は変わって、月世の守る方角である。
彼女の居る場所からはゼロの勇士がばっちり確認できる。
「ゼロ君の所に今度は集まってるみたいねぇ。っと、これで8匹目? ゼロ君、やるわねぇ」
のんびりと庵の影からゼロの戦績を記録する月世の背後に、忍び寄る1匹の従魔の影。
従魔は音もなく月世の背後にとびかかり、そして――、その息の根を止めた。
視線は完璧にゼロの方を向いていたが、彼女は迫る従魔の気配にいち早く気づき、シルフィードでもって従魔の息の根を止めた。
「背後からこっそりなんて、紳士のすることじゃないわよ?」
振り返った月世の視線の先の先、少し遠くで、凱が従魔を切り伏せるのを確認した。
「えーっと、これで10? 今回でデクリオ級が来るなら、ゼロ君の所、よね?」
そう言って、月世はゼロの方へと再び視線を向けるのだった。
●小休止:2
疲労が見え始めた面々を目の当たりにしながら、月世は襲撃データを更新する。
気付いた者は傷の軽いものから手当てを受け、手の空いた者は次の襲撃に備えて集中力を高めている。
(今までのデータから言って、デクリオ級が来るのは次の襲撃ね)
ミーレス級の従魔のみが襲来して居た事に焦りを感じているのは、何も月世だけではなかった。
最後に襲い来るであろうデクリオ級の従魔が、1匹だけとも限らないのだ。
徐々に重苦しくなってきた気配に、月世は慌ててPCを閉じた。
他の面々も、自身の武器を強く握って立ち上がる。
「……おっしゃ、最後の山場やで! ここが踏ん張りどころやな!」
空元気ともとれるゼロの掛け声に、一同は力強く頷いて持ち場へと向かった。
●最後にして最強の来客
凱は焦っていた。
最後の襲撃では自分の守る方角に従魔が押し寄せてきたのだ。
(この調子でデクリオ級が来たら……、とても手が回らない……!)
襲撃が始まって10分弱。凱の下に集ってきた従魔の数はそろそろ15を超えようとしていた。
(一度の襲撃は大体20の従魔が襲ってくる……、という事はもうそろそろ終わりの筈、なんだけど……)
凱の頭上を飛来する従魔へと、凱はクロスボウでもって迎撃する。
どさり、と重たい音を立てて飛んでいた従魔が地に落ちた。
と、その時だった。
きゃぁぁぁ、と甲高い声が凱の耳に届いた。
「あの声は……、望月さん?」
それまでにぎやかだった凱の周りが嘘のように静かになった。
「まさか、彼女の所にデクリオ級が!?」
凱は慌てて望月の守る方角へと足を進めた。
望月は、ちらほら現れる従魔をスナイパーライフルでもって迎撃して居たら、目の前にいきなり大きな従魔の姿が現れた。
思わず上げてしまった悲鳴に、望月は慌ててスナイパーライフルからグリムリーパーへと持ち変える。
「ちょ、待って待って! 流石にいきなり来るのは反則でしょぉ!?」
従魔相手に愚痴をこぼしながら、望月は後ずさる。
望月の目の前に現れたデクリオ級の従魔は、望月との間合いを開けまいと彼女へと迫ってくる。
「じゅ、従魔に言い寄られてもうれしくないからー!! さすがにそこは人型でお願いします!」
混乱して自分が何を口走っているのかもう訳も分かっていない望月だったが、従魔との距離は何とか確保する事に成功した。
やっと愛鎌であるグリムリーパーを触れる間合いが取れた事にかろうじて気付いた望月は、何も考えずに大鎌を振り下ろす。
「はい、よっこいしょーっ!」
振り下ろしたグリムリーパーを器用によけながら、デクリオ級はなおも望月へと迫ってくる。
「あんたと良い仲になろうなんて思っちゃ無いってばー!!」
「グルルル……」
うわーん、と泣き声を漏らしつつも望月は近寄ってくるデクリオ級を追い払うためにがむしゃらにグリムリーパーを振る。
目の前で振られる大鎌に細かい傷をつけられる事に怯んだのか、デクリオ級は踏鞴を踏んで進行を止めた。
前進を止めたデクリオ級の背後から、見慣れた赤い髪の毛の人物が躍り出た。月世だ。
「望月ちゃんっ!」
「つ、月世さぁん……!」
泣きの入った望月の声に、月世は安堵した。どうやら気絶するほどの攻撃は受けていないらしい。
望月の無事を確認した月世により、月世のアクティブスキルであるへヴィアタックが炸裂する。
月世の攻撃をもろに受けたデクリオ級は、標的を望月から月世へと変更した。
「望月ちゃん、今よ!何か飛び道具でもってデクリオ級の頭を狙って!」
「ふぁ、ふぁいっ!」
デクリオ級の注意を引き付ける月世が、望月に指示を飛ばす。
望月は混乱しながらも、グリムリーパーからスナイパーライフルへと武器を取り替え、そしてデクリオ級の脳天めがけて狙いを定めた。
ぱぁん、と銃声が響き、デクリオ級の動きが停止した。
●後片付けは迅速に
白み始めた空を背景に、デクリオ級はその巨体を地面に横たえた。
「おわ……った、の……?」
「……どうやら、その様ね」
思わず溢した望月の言葉を、近くにいた月世が拾って返事を返した。
今まで感じていた重苦しい気配が消えうせ、空気はこの季節特有のどこか冷たさを感じさせる静かなものに戻っている。
「望月さん! 月世さん!」
庵の屋根の上から、蘿蔔が2人に声を掛けた。
蘿蔔を見上げた2人は、蘿蔔のその姿に思わず肩に入っていた力を抜いた。望月はそれに加えて完全に脱力したように地面に座り込んでしまった。
「望月さん、みなさん!」
庵の北方向を守護していたハーメルもいつの間にか駆け寄ってきていて、この襲撃が終わったことを2人は完全に理解した。
と、唐突に固く閉ざされていた庵の扉が開いた。
扉の向こうから顔を出した住職に、その場にいた一同は安堵のため息を吐いた。
「おお……、今年も無事に終わった、か」
住職の安堵した声に、いつの間にか集っていた能力者達は次々とリンクドライブを解いていく。
「あーつっかれた! さっさと帰っていっぱいやって寝るかぁ」
ゼロの空気を一変するような言葉に、一同はゼロへと注目する。
「はっはっは! そうじゃのぉ、わしも一杯ひっかけるとするかのぉ」
住職からのまさかの飲酒発言に、望月は思わずぽかん、と口をあけてあっけにとられる。
「この寺のええもんって何かある? もしくは秘伝のお宝の地図とか伝説とか教えてくれへん? 歴史ある感じやしなんかええ話あるやろー?」
ゼロが気安く住職の肩と組みながら、極めて明るくそう発言する。
「ゼロさん……、あの、おそうじ、しませんか?」
蘿蔔が、おどおどしながら少し荒れてしまった庵の周りを指さしながら言った。
「えぇ……、掃除ぃ? ……まぁ、お宝話は掃除が終わってからでええかぁ……」
掃除を報酬にしたろ、と何やら商魂たくましいゼロの声は聞かなかったことにして、一同は本堂から掃除道具を貸してもらって辺りの掃き掃除を軽くすることにした。
庵の一角を掃いている蘿蔔が、ふと手を止めてレオンハルトを振り返る。
「……今さらですけど花、綺麗ですね。レオンは彼岸花の花言葉……知ってます? 思うはあなた一人、だそうですよ。素敵……ですよね」
風に揺れる彼岸花に視線をよこしながら、レオンハルトは手を止めた。
「そう思うならずっと想ってもらえるよう努力しようぜ相棒……。お前は家事ができないどころか妙に散らかすし無駄遣いと文句も多い。そのくせ感謝も労いの言葉もなくて」
「…ご、ごめ…なさい」
レオンハルトの鋭い指摘に、蘿蔔はたじたじになりながら箒を動かす手を再開した。
そんな2人の後ろ、誰にも気づかれない庵の陰に黒い影がひとつ。
「ったく、うちの相棒は英雄使いが荒いこって。……ま、おもろそうやからええんやけどな。契約通りこの世界の知識いろいろ吸収させてもらおか」
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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