本部

【森蝕】連動シナリオ

【森蝕】襲撃者の名は『フレイヤ』

岩岡志摩

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/09/18 15:13

掲示板

オープニング

●再開
 援軍と十分な休息を得たH.O.P.E.ギアナ支部は、活動を再開しアマゾンの密林地域の本格的な調査に乗り出そうとしていた。
 だがアマゾンには、伝承と共に生きる先住民族達も少なくない。
 というのも、元々リンカーという存在に対して不信感を示す者もいたのだが、ヴィラン組織『ラグナロク』との衝突事件が先住民族達の不信感を増大させるきっかけとなってしまった経緯がある。
 彼らの反発もあり、アマゾンには未だにH.O.P.E.が立ち入れない「聖域」も数多くある。
 しかし異変の原因を突き止めるためには、アマゾン全域を調査しなければならず、そのためエージェントたちはギアナ支部職員と共に手分けして地域住民の説得に向かっていた。

●襲来
 この日も、H.O.P.E.ギアナ支部職員に復帰したポルタ クエント(az0060)は、H.O.P.E.への不信感を隠そうとしない集落の説得に向かっていた。
 調査への協力をお願いする事はもちろんのことだが、最近応援に来てくれたエージェントが明らかにした『無人となった集落』の問題もある。
 調査でそれを明らかにしたエージェント達や報告を受けたギアナ支部は、集落の人々を拉致し無人化したのは『ラグナロク』の仕業と見なしていた――これはポルタもそうだと思っている――が、これから赴く集落もラグナロクに狙われない保証はない。
 最悪の話として、調査協力が無理でも何かあればすぐにギアナ支部へ救援要請をしてくれる態勢づくりは必要だった。
 住民達と接触を続けても、実りのない問答に終わってしまう今の状況をポルタはどうにかしたかったが、眼前に現れた光景がポルタの思考を中断させる。
「……集落が、燃えている?」
 慌ててポルタやギアナ支部の要請に応じたエージェント達は炎上する集落へと駆けだした。

●邂逅
 燃える家の上で。広場で。作業小屋で。集落の長の家で。
 村人達と、襲撃者達だろう、異様な気配を漂わせボロボロの服を纏う存在たち――従魔達がこれでもかとばかりに走り回っている。
 荷物を積んだ荷車が所狭しと駆け回り、その上で小さな子供たちが泣き叫ぶ中、村人たちに追いついた従魔達が、村人たちを抱え込んでは他の従魔達の用意した大きな檻の中へと放り込んでいく。
 そんな従魔達の中に、見慣れない人影があった。
 暴力が荒れ狂い、更地と化した場所に、細身の少女らしき影が従魔達と共に佇んでいる。
 黒色に『ある組織』を示すエンブレムの意匠を刻んだ装束と、人形のように整った顔の半分を毛皮のベールで覆う、その人影は眼前の光景を許容している。眼前の光景を押し付けている。
 この集落の破壊を。
 この集落に住む人々への苦痛を。
 ――つまりは、この暴力を。
「ようこそエインヘリャル。私の名はラグナロクの『フレイヤ』。一応ご同行は願うけど、拒むなら後悔してもらう」
 迫るエージェント達に向け、淡々と『ラグナロクのフレイヤ』と名乗った少女はそう宣告した。

●ラグナロク
 過去の報告書によると南米アマゾン奥地を拠点に活動していたヴィランズだった。
 ラグナロクの掲げるものは一種の終末思想である。
 彼らは、人間による世界の支配を悪しきものとして断罪する。異次元の接触はこの世界に終末の日が訪れた証であると定義し、能力者となって異世界とひとつとなり、古き神々の世界、すなわち旧き人類が支配する世界と戦う時が来たのだと説く。
 異世界との親和性を持たない人々は動物以下であるとする考えまであり、能力者至上主義からくる選民思想と自然優越主義、テロリズムが同居した危険な集団である。
 現在の規模や拠点など、この組織の詳細は不明。

解説

●目標
 集落の人々を救出
 従魔達を撃破し被害拡大を防ぐ

●登場
 フレイヤ
 ラグナロク幹部。従魔達を率いて集落の人々を襲撃し、誘拐しようとする。能力不明。現在下記檻の位置にいる。
 PL情報:一定時間後不利と判断次第退却。

 ヴァルキュリア×4
 一見すると修道女のような姿に翼を生やしたような外観の従魔。略称『乙女』。身長1.7m。翼で飛行し浮遊するので地上の影響を受けない。フレイヤの援護を優先的に行う。

 ウールヴヘジン×8
 動物と人間を掛け合わせたような姿の従魔。略称『獣』。身長2m。剣と射程30sqの突撃銃を使いわけ攻撃。うち4体が下記檻の位置で捕らえた住民達を収容した檻を守っている。

 村人達
 ラグナロクとの衝突事件の影響でリンカーに不信感を抱き、H.O.P.E.の調査を拒否する集落の住民達。複数名が従魔達に捕まり、下記の檻に閉じ込められている。
 
 状況
 『フレイヤ』達の襲撃を受けた集落。戦場想定区域は、従魔達の襲撃で更地化した集落の中央広場跡。広さはおよそ縦横各50sqほど。周囲には密林が広がり、集落内の一部住居が炎上中。捕まらずに済んだ住民達の避難誘導と、火事の消火活動はポルタや随行したギアナ支部職員が率先して行う。『あなたたち』は集落のどの方面からも進入可能。無線貸与済み。
 
 以下広場簡略図

 □□□□□
 □□檻□□
 □□□□□
 □□□□□
 □□□□□

 □:更地。1つ当たり10×10sq
 檻:捕まった人々が収容された檻。

リプレイ

●救出開始
 いまだ集落を焼く火の勢いは衰えず、巻き上がる黒煙に陽光が遮られる中、捕まった集落の人々を救うべく8組のエージェント達が駆けていく。
 その中で月夜(aa3591hero001)と共鳴した沖 一真(aa3591)が、マナチェイサーを駆使して戦場を索敵する。
 一真のマナチェーサーによると、檻周囲にウールヴヘジン4体が配され、その前方向にフレイヤと名乗る存在が立ち、フレイヤの周囲をヴァルキュリア4体が守り、フレイヤの前にウールヴヘジン4体がいた。
(敵はヴィラン組織『ラグナロク』。なぜ村人をさらうのか。それは何かを生み出す実験なのか、それとも彼らの言う世界の『救済』とやらか)
 一真の内心には複数の疑問が生じていたが、内にいる月夜より、ラグナロクの思想を否定する意志が伝わってくる。
(……私は、この世界を『救済してやる』なんて烏滸がましい事は思わない)
 ――ただ一真と一緒に居られればそれでいい。
 そんな月夜の意志に頷くと、一真は今は村人の救出が先と意識を切り替え、索敵結果をライヴス通信機「遠雷」や無線を介し仲間達へ伝達する。
「敵の数だが、フレイヤを含め今見えている13体以外はいないようだ」
 エージェント達の作戦では、2手に分かれ、まず敵の正面から正面班が敵の注意をひきつける。
 その間に死角班と呼ばれる別の班が、周囲の密林や障害物に身を潜めながら村人達が捕まっている檻へと接近し、救出する運びになっている。
 このうち藤咲 仁菜(aa3237)と共鳴し主導権を得たリオン クロフォード(aa3237hero001)は、フレイヤとの対決を担うつもりだった。
「こんにちはフレイヤ。俺はリオン。同行願うなら、力ずくでやってみな?」
(来ないなら、こっちから行くよ!)
 内にいる仁菜の意志とともに、リオンは地を蹴った。
 リオンはそのまま全力移動でフレイヤのもとへ突進する。
 天城 初春(aa5268)と天野 桜(aa5268hero001)は、事前に調べ上げたラグナロクの所業と眼前の光景に不快感を抱かずにはいられなかった。
「なんとも胸糞悪い奴らじゃな。悪趣味にも程がある」
「だよな。なんであいつらこんなことできるんだか」
 初春と桜は、H.O.P.E.に非協力的なこの集落から妨害を受ける可能性も危惧していたが、今は村人たちの救助を優先すべく意識を切り替え共鳴する。
「非協力的だからといって、助けぬというのは外道の所業でござる」
 初春は洋弓「アウクシリウ厶」+1を顕現し、従魔達を牽制すべく動く。
 蛇塚 悠理(aa1708)と蛇塚 連理(aa1708hero001)も同様の見解を持っていた。
「選民思想? 反吐が出るね」
「捕まった村人達、早く助けねーと……。どうなるか分からないしな」
 悠理と連理も敵と正面から戦い、村人の救出を援護するつもりだが、村人の救出に向かう死角班に属する水落 葵(aa1538)とウェルラス(aa1538hero001)に向け、密かにエールを送る。
「じゃぁ、葵。よろしくね」
「……気を付けてな」
 そして遠ざかる葵からの密かな合図を受け、悠理と連理は共鳴する。
 その葵はウェルラスと共鳴後、体の前後に動画用ハンディカメラを装着した後、敵と捕まった村人達がいる広場に向け、身を潜めつつ忍び寄っていく。
(村人たちの救出が最優先だが、できれば、だな)
 葵は捕まった村人たちの救出を最優先としながらも、今回の戦闘及び『フレイヤ』に関するデータの収集も目指していた。
 鋼野 明斗(aa0553)はこの集落に来る前に、ドロシー ジャスティス(aa0553hero001)と間で、ドロシーより掲示されたスケッチブックを介し『ジジむさ』『はいはい、やるよ』という2人独自のやりとりの後共鳴していたが、今は村人達を救うべく、広場周囲にある密林の中を進んでいく。
 明斗は正面班の仲間達と敵従魔達が交戦をはじめても、すぐには飛び出さず檻の周囲から敵の警戒が薄くなる瞬間を狙い、一気に救助に動くつもりだった。
「誘拐ってことは、まだ助けられるってことですよね。絶対助けるです」
「ええ。フォールクヴァングかどこかに連れ去られる前に取り返してしまいましょう」
 想詞 結(aa1461)とサラ・テュール(aa1461hero002)はフレイヤと名乗った存在の勧誘を聞き、密かにそう言い交しながら、捕まった村人達のもとへ身を潜めて接近していた。
 サラが口にしたフォールクヴァングというのは、この世界での神話に登場するフレイヤが住む宮殿の名で、死んだ戦士(エインヘリャル)が運ばれてくる場所でもあり、サラは神の名を名乗るフレイヤを警戒していた。
 フレイヤを警戒していたのは、死角班として潜伏しつつもその勧誘を耳にした稍乃 チカ(aa0046hero001)や、チカと共鳴した邦衛 八宏(aa0046)も同じだった。
(エインへ……何だって?)
「……あの申し出は拒否です。……あの者達には即刻ここから退去してもらいましょう」
 内よりチカがフレイヤの口にした内容を訝しむ中、八宏は冷静にフレイヤの勧誘を一蹴した。
 その一方で八宏は事前にポルタ クエント(az0060)らギアナ支部職員へ『重体者が続出した場合、救出できた村人達を含め、全員集落から撤退するため』の支援要請を行っていた。
 その結果『即時は不可能。撤退支援は今回限り』の条件付きだが、撤退する事態が生じた時、ギアナ支部職員の援護を受ける約束をとりつけている。
 八宏の依頼していた撤退支援は、発動すれば襲撃された集落を放棄する危険性も孕んでいたが、八宏はその危険性を承知の上で、人命が少しでも救えるよう打てる手は講じていた。
 こうして8組のエージェント達と『ラグナロク』は激突する。

●救出
 急速に間合を詰めてくるリオンの姿を見咎めたフレイヤが片手を上げると、フレイヤの前方にいたウールヴヘジン3体がリオンの方向へ進出し、リオンに向けられた突撃銃が一斉に火を噴いた。
 3挺の突撃銃から撃ちだされた鋭い火線が地面にミシン目を刻み、リオンの体に殺到する。
「攻撃は全て剣で抑える」
(他の仲間を狙う余裕はあげない!)
 リオンと内にいる仁菜の意志が重なり、リオンの体に弾着の火花が散るが、リオンの掲げた【SW(剣)】聖鞘「キングスシース」に納められた星剣「コルレオニス」+1によってほぼ無傷でウールヴヘジン達の銃撃を弾き飛ばし、リオンの疾駆は止まらない。
 リオンと割り込んできた別のウールヴヘジンが交錯した瞬間、星の輝きの軌跡が陽光を弾き、リオンの星剣「コルレオニス」がすれ違いざまウールヴヘジンの胴を薙ぎ、浅くないダメージを負わせる。
(皆を助けるために、フレイヤは絶対檻から引き離すの!)
 仁菜の意志は揺るがない。
(程よく集まったんじゃねーか?)
「じゃあ、こいつらを引きつけるとするよ」
 連理の指摘を受けた悠理が、リオンの突進に引き寄せられる形で術の範囲内に集まったウールヴヘジン達に向け、守るべき誓いを発動し、それまでリオンを銃撃していたウールヴヘジン達のうち2体を自分のもとへ誘き寄せる。
 悠理は自分の守るべき誓いによって生じた敵の間隙をリオンが突破し、フレイヤのもとへ向かうのを確認した後、ライヴス通信機を介し一真に引き寄せた敵への範囲攻撃を依頼する。
「敵の引き寄せに成功したよ。後はよろしくね、一真さん」
『了解だ、悠理。いま片付ける』
 ライヴス通信機「遠雷」を介して連絡を受けた一真が、短く悠理に応答すると幻影蝶を発動する。
 一真の周囲からライヴスの蝶の群れが顕現し、悠理の引き寄せたウールヴヘジン2体に絡みつくと、その身に宿る強度や意識ごと生命力を強奪し、1体の身を粉砕して塵に変え、残る1体もその身を急速に朽ちさせていく。
(一真。思ったよりも敵はしぶといのかな? 多分ここにいる従魔達、全部デクリオ級相当だよ)
 内にいる月夜より、敵の強さに対する懸念が伝えられたが、一真は幻影蝶を受けたウールヴヘジン達が瀕死の状態である事を見抜き、クールに応じる。
「問題ない。1体ずつ確実に撃破していけばいいだけだ」
 ライヴス通信機「遠雷」を介し、仲間達へ敵ウールヴヘジンのおよその強さを伝達され、初春が動く。
 それまで初春は檻周囲にいるウールヴヘジン達へ洋弓「アウクシリウ厶」による牽制射撃を行っていたが、今は瀕死のウールヴヘジンに向け弓弦を引き絞る。
(敵の数を減らすのも村人達の救出に繋がるんだぜ)
「そのようでござるな。今は拙者のできる事をこなしていくでござる」
 内からの桜の助言に初春はそう応じると、弓弦を鳴らして矢状ライヴスを飛ばし、閃き飛んだ初春の矢状ライヴスは弱体化したウールヴヘジンの胸を貫き、その身を塵と化し消していく。
 こうして正面班のリオン、一真、悠理、初春がウールヴヘジン達の注意をひきつける中、死角班の葵、八宏、明斗、結達も檻周囲への集結を終える。
 悠理が守るべき誓いを発動したことを確認した葵が、まず動く。
「救出のタイミングは、待つのではなく作るものだ」
 葵はそう言いながらも、救出の際の安全確保や危険排除も兼ね、現在檻周囲に残るウールヴヘジン達に向け、守るべき誓いを発動する。
 葵のライヴスがウールヴヘジン達に絡みつくと、ウールヴヘジン4体のうち2体が、檻の周囲より葵に向けて引き寄せられていく。
 葵を追うウールヴヘジン達の突撃銃が吼えたけり、葵の体に弾着の火花を散らし、葵に無視できないダメージを蓄積させていくが、葵は動画用ハンディカメラを庇いながら、ウールヴヘジン達を引き寄せ続ける。
「半分は誘引できたぞ。こちらは引き受けるから、その間に村人達を救助するんだ」
 葵からの無線連絡を受けた結、八宏、明斗は檻の周囲に残る2体のウールヴヘジンに様々な方角から奇襲をかける。
(まずは安全確保が第一よね)
「下手に戦闘を長引かせるわけにはいかないです。短期決戦でいくです」
 内からのサラの助言に結はそう頷くと、自分に背を向けているウールヴヘジンに肉薄し、炎剣「スヴァローグ」+1を翻して疾風怒濤を発動する。
 結の炎剣「スヴァローグ」が灼熱の炎を纏って3度繰り出され、ウールヴヘジンの体を3度断ち切った。
 結の疾風怒濤を受けたウールヴヘジンが塵を噴いて倒れ、消える中、八宏のZOMBIE-XX-チェーンソー+1が機動音の咆哮をあげ、もう一体のウールヴヘジンに襲いかかる。
(感謝はされねぇだろうが、こいつらがクソみたいな結末を迎えるのは阻止したいとこだな)
「……全員の生還と、敵戦力の撃破を……目指します」
 チカの意志に支えられた八宏は、無口の特徴を残しつつもそう呟き、檻周囲に残るウールヴヘジンの背後に回りこだ後、ZOMBIE-XX-チェーンソーの高速回転する刃を、ウールヴヘジンの背に食い込ませた。
 高速回転するZOMBIE-XX-チェーンソーの刃に体を削られ、ウールヴヘジンが悲鳴を上げる中、明斗は長巻野太刀「極光」真打を顕現し、八宏の援護に駆けつける。
「これを倒せば、当面村人達の安全は確保できますね」
 そう言いながらも明斗は長巻野太刀「極光」真打を、八宏が解体中のウールヴヘジンへ疾風の速度で繰り出した。
 八宏のZOMBIE-XX-チェーンソーがウールヴヘジンの体を横に切断し終えたのとほぼ同時に、明斗の長巻野太刀「極光」真打はウールヴヘジンの首を断ち切った。
 3つに分断されたウールヴヘジンが塵と化し、消えたところで明斗、結が引き続き周囲を警戒し、八宏が檻の解体にとりかかる。
 八宏の振るうZOMBIE-XX-チェーンソーの刃に、檻は簡単に切断され、中にいた村人達は自由になる。
「言いたいことはあるかもしれないですが、今はここから逃げるのが先です」
 当初結は助けた村人達の反応によって行動を変えるつもりだったが、状況が想定よりも芳しくないため方針を改め、解放された村人達が何かを言いだす前に結はそう畳み掛け反論を封じた。
 結が『避難場所はこちらです』と周囲を警戒しながら村人達を誘導していく中、八宏は村人達と結を庇い、明斗はライヴス通信機と無線で正面班の仲間に短く『救出、完了しました』と伝達する。
 明斗からの連絡を受けた正面班のリオン、一真、悠理、初春は、フレイヤ達への攻勢を強めていく。

●苦戦
 囚われていた村人達が無事救出された後も、戦いは続いている。
 それまで守るべき誓いによって4体のウールヴヘジン達を引き寄せていた葵と悠理、そしてターゲットドロウも駆使して味方や退避する村人達を庇っていた八宏が、ウールヴヘジン達の銃撃を浴び負傷した。
 一真と初春が援護する中、リオンのケアレイ、明斗のリジェネーションが葵と悠理、八宏を治療し、生命力を回復させる。
 そして葵と悠理の守るべき誓いの効果が切れた頃、フレイヤが残るウールヴヘジン達に指示を出して自分の周囲を固めようとしていた。
 この段階において、リオンが再びフレイヤとの交戦を試み、一真、結がそれを援護。
 ある程度生命力を回復させた悠理、葵、八宏もフレイヤ戦へと合流し、明斗、初春がその動きを援護するため、周囲の従魔達と交戦するという構図となっていた。
「よう、ラグナロクの『フレイヤ』。村人を拉致してどういうつもりなのか、聞いても構わないかな?」
 そうフレイヤに問いかけながら一真は返事を待たず、リオン達の状況を確認する。
 今のところ、リオンが危機的状況でない事がわかった一真は、残るウールヴヘジン達に向けブルームフレアを発動する。
 突如吹き上がった一真のブルームフレアの業火に2体のウールヴヘジンが包まれ、一真の攻撃に耐えきれずウールヴヘジン2体の身は焼かれて塵と化す。
「俺達を戦士(エインヘリャル)と称するなら、戦士の決闘には応じるのが筋だよな?」
(来ないなら、こっちから行くよ!)
 仁菜の意志とリオンの破魔弓「焔摩」(+2) が絡み合い、弓弦を鳴らして放たれたリオンの矢状ライヴスがフレイヤに飛翔するが、フレイヤをヴァルキュリアの1体が庇い、リオンの矢状ライヴスと激突する。
 リオンの破魔弓「焔摩」による射撃はヴァルキュリアの防御を打ち崩せず、リオンの攻撃は不発に終わるも、リオンと仁菜は問いを重ねる。
(ねぇフレイヤ何であなたは戦うの?)
「ラグナロクの命令に従うだけのお人形かな?」
 フレイヤは答えない。
(悠理。奴に聞くのは構わねーが、優先順位は忘れるな)
 内より連理からの忠告を受け、悠理はいつでもライヴスショットが放てる態勢のまま、フレイヤに問う。
「選民思想があるみたいだけど、君たち曰く動物以下の人々を連れ去ってどうするつもり? もしかして実験でもして無理やり動物以上に引き上げようとしているのかな? 例えば……人と愚神を混ぜてくっつける……とかね?」
 悠理の問いに、葵も『なぁ、聞きたいことがあるんだが』と参戦する。
 ――何故、こちらの世界の神の名を騙るんだ?
 これは葵ではなく、共鳴中は黙っているウェルラスからの問いだった。
 葵はフレイヤが答える前に自分の言葉を続ける。
「ん? だって騙りだろうがよ。お前の騙ってる神はこの世界の存在だ。お前は俺らも含めて異世界の存在と共鳴して力を得ただけに過ぎないだろ?」
 ――なあ、偽者女。
 そう挑発しながらも、葵は自分の体にとりつけた動画用ハンディカメラをフレイヤの顔を撮影できる位置に調整する事は忘れない。
(あちこちで暴れまわっているようだが、なんで村人達を殺さずに拉致なんて手間をかける? 本命の行動は別にあるってか?)
 チカから伝わってきた疑問をそのまま八宏はフレイヤに伝え、自分の確固たる意志もフレイヤに告げる。
「……ただ、ここに生きる人々の生活を、人命を奪うのであれば……やるべき事は1つ。貴女達が何者であろうと……殺します」
 当初は従魔達を倒す合間にフレイヤに尋ねる予定だった八宏やチカも、従魔達がデクリオ級以上であり、ターゲットドロウを行い敵の攻撃を引きつけた時のダメージが深刻だったことから、敵が片手間で倒せる相手ではないと思い直し、敵の退却時に攻撃を行うと方針を切り替えていた。
(戦乙女の長はいかなる策をお持ちかしら?)
「諦めて帰るだと、私としては嬉しいです」
 サラと結はそう言いながら一気呵成を発動し、ライヴスを集中させる事で重量と衝撃力を増した炎剣「スヴァローグ」が、先にリオンの斬撃を受けていたウールヴヘジンに襲いかかる。
 結の一気呵成の一撃を受けたウールヴヘジンが転倒すると、結より追撃の一撃が放たれる。
 結の炎剣「スヴァローグ」に喉を貫かれたウールヴヘジンは貫かれた個所から塵を噴いて消える中、ようやくフレイヤが口にした言葉は素気ないものだった。
「……答える義務でもあるの? 挑発ならご勝手に」
 その間にも明斗と初春が協力して、最後のウールヴヘジンと渡り合っていた。
 ウールヴヘジンの繰り出す剣を明斗が長巻野太刀「極光」真打を振るって防ぎ、初春の紅炎+1が紅色の軌跡を空間に残して煌めくごとに、ウールヴヘジンの体にダメージを蓄積させていたが、終わりが近いと見た明斗が攻勢に転じる。
「これを倒せば、残る敵も退却に移るはずです」
 そう呟いた明斗の長巻野太刀「極光」真打が極光の弧を描いてウールヴヘジンに斬り下ろされ、反対側からも初春の紅炎が紅光の閃光と化し、駆け抜ける。
「これで終わりでござる!」
 そう叫んだ初春と明斗、左右からの斬撃を浴びたウールヴヘジンが、斬られた個所から塵を噴いて倒れ消えゆく中、フレイヤは身を翻し、エージェント達に背を向ける。
 それをフレイヤの退却とみた悠理が、フレイヤに向けライヴスショットを放ち、八宏もハウンドドッグ(+2)をフレイヤに向けると、引き金を引く。
 悠理のライヴスショットと、八宏のハウンドドッグから静かに放たれた弾丸状ライヴスが、フレイヤに吸い込まれる寸前、周囲のヴァルキュリア達がフレイヤを庇い、フレイヤ達はライヴスの爆発に包まれる。
 やがてライヴスの爆風が霧散した後、悠理のライヴスショットと八宏のハウンドドッグによる狙撃からフレイヤを庇い、多少ダメージを受けたヴァルキュリア達と無傷のフレイヤが村から密林へと遠ざかる姿が垣間見えた。
「1つだけ聞きたい! おぬしらいったい何が目的じゃ! 何がしたいのじゃ!」
 初春からの問いに、フレイヤは一瞬だけ振り返ると、何かを呟いた後ヴァルキュリア達と共に密林の奥へと消えていく。
 ――救済。
 初春からの問いに、フレイヤはそう答えていた。

●道半ば
 こうしてエージェント達の奮闘もあり、ラグナロクのフレイヤ達は襲撃した村より退却し、村は脅威から解放された。
 敵殲滅には至らなかったが、今回ウールヴヘジンもヴァルキュリアも戦闘の結果デクリオ級相当と見なされ、それを率いていたフレイヤも恐らくケントゥリオ級相当という厳しい状況の中、村人達への被害も出さずに全員救助できたことが評価に繋がった。
「……あっついな」
 共鳴を解いた明斗は、事前にコンビニで購入したミネラルウォーターを口にして、一息つく。
 共鳴中は骨身にしみる猛暑も影響しなかったが、今は焼けつくような日差しが服を通し、明斗の身を焦がしつつあった。
 その横でドロシーはスケッチブックに何かを描くと、笑顔と共に明斗に掲げて見せた。
『祝福救出成功 継続正義遂行』
「……またやれと。……まぁ、機会があれば」
 ドロシーなりのねぎらいとエールを送られた明斗は、おざなりにそう応えるが、付き合いの良い明斗がドロシーの笑顔と『激励』を無碍にすることはなかった。
 一方フレイヤが去った方角を見つめていた初春は、悲しげな表情のまま心情を吐露する。
「愚か者どもが。我らはただの人間に過ぎぬのじゃ。何故少し力を得た程度で他の人達を見下すことができるのじゃ」
 共鳴できるか否かは個人の努力でどうにかなるものではない。
 ただ『運良く少しばかり常人を超える力を得た』者が特権者意識を振りかざし、その機会がなかった人間達を虐げることが、初春には容認できなかった。
「さて、フレイヤを名乗るなら、賢明な判断が期待できるかと思っていたけど……」
 そう言いかけたサラが、その後の言葉を言いよどむ。
「一応、話は通じるみたいです。しかしこちらの知りたいことを話すのは難しそうです」
 結は今回エージェント達から様々な質問がフレイヤに向けられたが、挑発にも動じず素気ない態度に終始したフレイヤの対応を見て、フレイヤはほぼ無反応であり、必要な情報は得にくいだろうと判断していた。
 既に集落を焼いていた火は消し止められ、集落の人達は安堵の表情を取り戻している。
 そんな村人達へ、ポルタ達ギアナ支部職員達からの治療と、戦場から『あるもの』を回収し終えた悠理が声をかける。
「俺たちはご覧の通り、『敵と戦える力を持つ異物』かもしれないけど……。使い方によっては貴方達を守る剣にだってなれるよ」
 ――だからどうか、少しくらいは信用してもらえないかな。
 悠理の言葉に集落の人達は首肯も賛意も示さなかったが、拒絶する空気も見られなかった。
 集落の人達との交流はこれからだが、H.O.P.E.が集落の人達の信用を得られるようになるにはそう遠い日でもないだろう。
「今はあいつらの終末を防げたことで良しとするか」
「……撤退支援要請……やらずに済んで……よかったです」
 チカが今回の戦いで引き寄せた結果に一応の納得を見せる中、八宏は最後の手段を行わずに済んだことに安堵していた。
「……結局、『フレイヤ』に関する情報はあまり見つからなかったよね」
 月夜は、今回一真が得ようとしたフレイヤの特性が不明のまま終わった事にため息をつく。
 ――フレイヤはどんな攻撃を見せるのか。攻撃に対し防御するのか、回避をするのか。その特殊能力は。
 今回フレイヤはただヴァルキュリアに自分を守らせるだけで攻撃も防御もしなかったことから、いずれも不明。
「奴がラグナロクである限り、また現れる筈だ。探る機会は今後もある」
 一真はラグナロクの蠢動がこれで終わるわけがないと見抜き、フレイヤの各能力もいずれ明らかになると予測していた。
 集落の復旧をギアナ支部職員に任せ、ギアナ支部に帰還したエージェント達は、今回の戦闘で得た様々な情報や物証となるものを提出し、解析を依頼していく。
「今まで動物以下とみなしていた普通の人達を、なんでいまさら攫おうとするんだろう?」
 それはリオンだけでなく、一真や悠理たち他のエージェント達も抱えた疑問だったが、フレイヤはついに答えることはなかった。 
 その後、葵の動画用ハンディカメラに撮影・記録された映像と音声がギアナ支部に提出され、葵の要請でフレイヤとフレイの照合を進めたところ、一つの結果が得られる。
 それは葵が予測していた通り、今回の『フレイヤ』と先のラグナロクの『フレイ』は一致する部分が多く、かなり近い肉親関係にあり、各データを見る限りでは、フレイヤはフレイより2~3年程度年下の『妹』の可能性が高いと思われる、とのことだった。
 そして悠理が提出したのは、撃破されたウールヴヘジンが消滅後残したと思われる体の一部と、所持していた突撃銃らしき欠片だった。
 突撃銃の欠片についてはギアナ支部より『酷く損傷していて今すぐ情報を得ることは難しい。時間はかかるかもしれないが、なんとか解析を進めてみる』との回答があった。
 そしてウールヴヘジンの体の一部から、かつて人型従魔達が大量発生した時に、明斗や他のエージェント回収できた検体の解析結果に近いものが発見されていた。
「今回回収できた体の一部には、ナンバリングが施されていました。以前出た従魔達の身に刻まれていた何かも同じだとみていいでしょう」
 明斗がギアナ支部より得た解析結果を仲間達に伝達する。
 このとき仁菜は、『一般人を集め、殺し合いをさせ何かの基準と技術で従魔に変えているのでは』と推測していたが、ギアナ支部は『推測の域はまだ超えないが』と前置きし、仁菜の言うような実験が行われていた可能性もありうる、との見解を示していた。
 推測が多い中、ウェルラスは1つ確かなことを口にする。
「いずれにしましても、人間の体にナンバーを刻むなんて真似は、まともな実験ならやらないですよね」
 ――ラグナロクは実験のために人間を犠牲にして、従魔を作り出している可能性がある。
 それを裏付けられるかどうかは、ラグナロクの全容がより判明し、さらなる手がかりや情報を集める必要があった。
 密林の闇はいまだ深い。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 常夜より徒人を希う
    邦衛 八宏aa0046
    人間|28才|男性|命中
  • 不夜の旅路の同伴者
    稍乃 チカaa0046hero001
    英雄|17才|男性|シャド
  • 沈着の判断者
    鋼野 明斗aa0553
    人間|19才|男性|防御
  • 見えた希望を守りし者
    ドロシー ジャスティスaa0553hero001
    英雄|7才|女性|バト
  • ひとひらの想い
    想詞 結aa1461
    人間|15才|女性|攻撃
  • 払暁に希望を掴む
    サラ・テュールaa1461hero002
    英雄|16才|女性|ドレ
  • 実験と禁忌と 
    水落 葵aa1538
    人間|27才|男性|命中
  • シャドウラン
    ウェルラスaa1538hero001
    英雄|12才|男性|ブレ
  • 聖夜の女装男子
    蛇塚 悠理aa1708
    人間|26才|男性|攻撃
  • 聖夜の女装男子
    蛇塚 連理aa1708hero001
    英雄|18才|男性|ブレ
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237
    獣人|14才|女性|生命
  • 守護する“盾”
    リオン クロフォードaa3237hero001
    英雄|14才|男性|バト
  • 御屋形様
    沖 一真aa3591
    人間|17才|男性|命中
  • 凪に映る光
    月夜aa3591hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 鎮魂の巫女
    天城 初春aa5268
    獣人|6才|女性|回避
  • 笛舞の白武士っ娘
    天野 桜aa5268hero001
    英雄|12才|女性|ドレ
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