本部

【森蝕】連動シナリオ

【森蝕】秘境の花嫁

落花生

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/09/21 11:00

掲示板

オープニング

●依頼
「正義さん。ギアナの依頼がありますけど、どうしますか?」
 H.O.P.E職員の言葉に、正義は顔をしかめる。
「ギアナは、最近きな臭くなっとるところやな」
『小鳥たちも詳しくは知らないですぅ』
 H.O.P.E職員の話によると、アマゾンの深くにはH.O.P.Eの協力を拒んでいる村があるらしい。今回はそこの村まで行き、とある女性の無事を確認する依頼である。
「ん? 協力を拒んどるのに、どうしてそんな依頼がくるんや」
「この依頼は女性が通っている大学の教授からのものです」
 ギアナの医療大学に通う、アマゾン出身の女性がいたらしい。少しばかり里帰りしていたはずの女性は、予定の日になっても大学には帰ってこない。電話も通じない場所にある村だから、個人では安否確認ができずに困っているという話であった。
「里心ついて学校を辞めるにしても連絡一つもないのはおかしいし、何かしらの事故に巻き込まれたのではないかと教授はご心配しているようで……」
「分かったで。その依頼に僕も参加するで」
 
●辺境の花嫁
 アマゾンの奥地には、今は自然と共に生きる村がある。昔と比べ多少近代化したとはいえ、人々の心には自然への畏怖が根強く残っていた。
「どうしよう……」
 村に伝わる花嫁衣裳を身にまとった女性――リュシは、困惑しながらも実家にこもっていた。女性が村に帰った日に、彼女の村は巷ではウールヴへジンと呼ばれるものたちに襲われた。ウールヴへジンは遭難者である、と最初は村人の誰もが思った。彼らはボロボロになった衣類をまとっており、稀に村に訪れる遭難者とそっくりだったのだ。
 ただの遭難者であったのならば、リュシも救いの手を差し伸べたであろう。だが、彼らの顔は蛇やトカゲといった爬虫類のものとよく似ていた。よく見ると手足も鱗で覆われていて、人間的な部分はごくわずかであったと思う。
 村は、彼らに蹂躙された。
 村長は、ウールヴへジンの出現は神を怒りではないかと言った。
 この村の守り神は蛇であり、昔話では村の女性を娶ったという伝説もある。神の妻になった女性は村のシャーマン的な役割を果たしたというが、今ではもう廃れた文化であった。だが、村長は「文化が廃れた」ことが神の怒りに触れたのだと信じた。
 そして、最後に神の花嫁を出した家系であるリュシが――ウールヴへジンの花嫁になることに決定した。彼女は「非科学的だ!」と村人に反論したが、おびえきった村人は藁にも縋りたい気持ちだったらしくリュシの訴えは却下された。
 明日、日が昇ったらリュシは森深くに入る。そこには、村人さえ滅多に足を向けない神域が――洞窟がある。
「リュシ、すまない。ちょっと来てくれ。遭難者が見つかったんだ」
 遭難者という言葉にウールヴへジンを想像したリュシであったが、どうやら本物の遭難者らしい。命に別状はないが、念のためということで医者の卵にリュシにお呼びがかかったらしい。
「大丈夫ですか」
 医者として、今は自分の置かれた状況を忘れてリュシは村にやっとの思いでたどり着いた遭難者たちを診察した。彼らの顔はごく普通の人間のものであり、爬虫類のようには見えなかった。
「私たちは、こういうものだ」
 リュシだけに見えるように、遭難者の一人が名刺を見せる。
 そこにはH.O.P.Eエージェントと書かれていた。
 リュシは、その名刺に救いを見た。
 村を襲ったウールヴへジンたちは、村人たちが束になっても適わない強敵ある。そして、リュシを娶っても大人しくはならないであろう。今村に必要なのは、ウールヴへジンに勝てるだけの戦力なのだ。
「しばらくはこの村にいて欲しいのですが、この村では明日から珍しいお祭りが開催されます。危険を伴うから、一般人の参加は医者としてはあまり進められません」
 リュシは「気がついて!」と願った。

 ――明日は儀式があること。
 ――その儀式にウールヴへジンの出現の可能性があること。

 それらをリンカーたちが察してくれることを願ったのだ。
「僕らは大学の院生で、このあたりの風俗を研究してるもんや。危険は承知の上やから、珍しい儀式はぜひ見せてもらいものやな」
 リンカーの一人がそういった。
 どうやら、伝わったらしい。
「村長に、これからも祭りを続ける気ならば記録を残すべきだと説得します。だから、お願い」
 リュシは、誰にも聞こえないように声を潜めた。
「私たちを助けて」

解説

・村人の保護

村……アマゾンの奥地にある村。ある程度近代化はしているが、電話は通じず外部との連絡手段がほぼない。住民は五十人ほど。現在は大破した家も多い。H.O.P.Eには懐疑的だが、その他の人間には素朴で親切な人柄を見せる。

リュシ……医者の卵であり、村の言い伝えには懐疑的。そのため村人の言うことよりも、H.O.P.Eの言葉を信じ行動する。

正義……リンカーたちに同行しており、戦闘が始まるまでは大学院生の振りをしている。指示があれば、支持を優先する。

洞窟(昼)……村の守り神が住むとされる場所。村から一時間ほど歩いた場所にある。儀式の際には、村人総出で洞窟に向かう。洞窟の天井は高いが奥は深くなく、最奥には石で出来た蛇の像がある。
(PL情報――儀式の際に花嫁は一人で洞窟に入る。村人の注目は洞窟へと向いている隙に、従魔は後ろから襲い掛かってくる。洞窟のなかに、敵はいない)

周囲の森……村から洞窟にかけての森。高温多湿で、普通に歩いていても体力を消耗する。また木々が多く、視界はあまりきかない。

ウールヴへジン……爬虫類のような顔をした、人型の従魔。村を襲っており、二十匹出現する。人間並みの視力と他の生物の熱を感知する器官を持ち合わせており、気配を遮断する技の影響を受けにくい。手には吸盤がついており木に素早く登り、木から木へと飛び移って移動することも可能。毒矢と毒を塗ったナイフを持っており、毒が体内に入ると徐々に体力を奪われる。同じ成分が血液や唾液のなかに含まれている。残り五体まで減ると、アマゾンの奥地へと逃げようとする。
鋼鉄の鱗――攻撃を無効化できる。ただし、一回攻撃を受けると部分の鱗がはげる。
擬態――周囲の風景に擬態する技。見つけるのは、困難。
尻尾切り――弱っている固体がナイフで突撃し、注意を引いている間に他の個体が弓矢で攻撃する。
結婚の儀――村人を食べることで、攻撃力を上げる。

リプレイ

●花嫁との邂逅
『……菓子もない、村人は嫌悪丸出し、熱くて息苦しい、何故こんな仕事を……!』
「まあ、こういう昔話風を体験するんも一興ちゃいまっか?」
 憤りに震えるキリル ブラックモア(aa1048hero001)を、弥刀 一二三(aa1048)がなだめる。
 こんなアマゾンの奥地では、キリルの好む菓子のあてがない。帰るとでも言い出しかねない様子のキリルに、弥刀は慌てて親友から貰った本を懐から出した。
「……人に見つからんように、でっせ?」
 メンサ・セクンダの1ページから、ぽんとひとかけらのチョコが飛び出す。
『あるならさっさと出せ!』
 先ほどまでの不機嫌はどこへやら。やる気を出したキリルと弥刀は、見事に共鳴を果たしたのだった。

『素戔嗚尊としては蛇に捧げられそうな美女は放っておけないわね?』
 マイヤ サーア(aa1445hero001)は、幻想蝶の中からそっと迫間に話しかけた。
「確かによく似た状況ではあるな……それじゃ、いつも通り力を借りるぞ奇稲田姫」
 迫間 央(aa1445)は天叢雲剣を確かめ、来るべき戦いに備えた。

「花嫁さん……綺麗ですねぇ。えと、近くに行っても良いのでしょうか?」
 レオンハルト(aa0405hero001)と共鳴した卸 蘿蔔(aa0405)が、そっとリュシの手を握る。
「大丈夫ですよ……リュシさんのことも、勿論他の村の方も、私たちが必ず守りますから」
 握り返すリュシの手は震えている。
「おい、また遭難者だ、リュシ」
 遭難者という言葉に、村人がざわついた。おそらくはイメージプロジェクターで姿を変えた弥刀だろう。
 怯えている者、早口に祈りの言葉を唱える者。ただよそ者がやってきただけにしては、やはり反応は妙だった。

 去り行くリュシが何か言ったのを察知し、ユフォアリーヤ(aa0452hero001)の狼耳がピコピコと動いた。距離はあったが、鋭い感覚がそのかすかな声を捉えていた。
「なんて言ってた?」
『……ん、私たちを助けて……って』
「なら、出来る限りの事はしてやらんとな」
 麻生 遊夜(aa0452)が望むのは、いつもできうる限りのハッピーエンドだ。

(生贄……ね。まぁ何処にでもある、といえばあるけどね)
 レオンハルトの巡らせた考えの先を、卸が引き取る。
「とはいえ今回は愚神が相手ですし、いえ……そうじゃなくても誰一人犠牲にしてはダメです。そんなことはさせません」
 卸の瞳が、去っていくリュシの背中を見つめていた。その目は、レオンハルトとの共鳴により金に染まっている。

●閉ざされた村
「すみません、お話をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
 九字原 昂(aa0919)は、村人たちに聞き込みを開始していた。素朴で気立てのよさそうな村人も、信仰や儀式については沈黙しがちである。
『難航しそうだな。だが……』
 ベルフ(aa0919hero001)はちらりと村人たちを見た。とはいえ、突破口がないわけでもなさそうだ。物珍しそうによそ者を眺める若者や、なにか言いたそうな女たちがこちらを見ていた。

「ちょっと話を聞いてもいいかな?」
 大学院生を装う麻生がスケッチの手を止め、畑仕事へと行く村人を呼んだ。はた目からは無造作に声をかけたように思われるが、仲間たちとのやり取りの様子を見、言い伝えに懐疑的な村人を慎重に選んでのことだった。
「ふむ、今回の儀式は伝説になぞらえての事と」
『……ん、廃れた文化……神の怒り?』
 ユフォアリーヤが首をかしげる。
「村長の言うことが本当なら、廃れてすぐに騒動が起きるのでは?」
『……今までなかったのは、不思議』
「むしろ神域だからとお供えや清掃をせず、祈りを捧げていない方が怒りに触れているのでは?」
「ううん……」
 否定しようと口を開いた村人は、考えあぐねた。
 麻生の言葉はあくまで冷静で、怒り出そうにも事実を言い当てている、そんな気がしてならなかった。
「おい、何を話してた?」
 そうこうしていると、別の村人が話に割り込んできた。一瞬は険悪な空気が流れるが、ふと、空気が和らいだ。
 『支配者の言葉』。自身に好感を与える魔術の一種。村人には分からなくとも、エージェントたちにはそれがわかった。
「神様について聞いてたんだよ」
 村人たちが祀る素朴な像を指さすアリス(aa1651)。驚いたことに、アリスの背から、まるでそっくりなAlice(aa1651hero001)が顔をのぞかせた。
『ねえ、これはなに?』
 大学教授の娘だという彼女たちは、熱心に村人たちの説明を聞いている……ように見えた。
「そのお話、もっと聞かせてくれる?」

(神様への感謝、か……)
 メリッサ インガルズ(aa1049hero001)は、村の女性たちの家事を手伝いながら、この村について考えていた。
 儀式のための衣装に針を通す。心の込められた、生贄の花嫁のための衣装。人生の一度きりの晴れ舞台のための婚礼衣装であり、それは死に装束も意味する。
 外の世界をほとんど知らないという村人たちは、日々の間隙に、純真に祈りをささげているように思われる。
 と、そこへ、アリスたちがやってくる。
「電話が通じないとなると、何かあった時……そうだな、例えば、愚神とか出てきたらHOPEに連絡つけるの大変そうだね」
「必要ないだろう、我々には神がいる」
 アリスとAliceは目を見かわした。その真意に気が付く村人はいない。
 彼女たちにとっては、村民の信仰や因習などどうでも良い。保護しろというオーダーならその様に動くだけ。それ以上でも以下でもない。
(ただまぁ……HOPEに非協力的なのは、後々面倒事が起きた時に無駄に手間がかかるかな)
 何でもないことのように、そっと切り出す。
「……ちなみに、ここら辺って他に集落、あるの?」

「すみません、少々お伺いしたいことがありまして……」
 迫間が村人を呼び止めた。
 その隙を縫って、九字原と弥刀がリュシに儀式の詳細を尋ねる。村を襲った化け物。ウールヴへジン。リュシは言葉少なに、化け物のことを話し始める。
 化け物はあっという間に、村を蹂躙したこと。村人たちは、もはや対抗する手段を持たないこと。
「私、私……どうしたらいいか」
「安心してください」
 戻ってきた迫間の言葉に、リュシは頷いた。迫間はカメラを切り、仲間たちにさりげなく合図をした。
「手当は済んだか?」
 一見何事もない日常であるかのように、時は過ぎていく。

●復興
 ここで手伝いをして、メリッサは感じたことがある。
 村人が口々に言う、『神』。存在の有無は判らぬが、居ても不思議は無いと思う。それは特定の神ではなく、人の生死・自然との関わりのこと。
 八百万どんな物にも宿る思いがあり互いに生かされている。
 それを尊び感謝し生きる気持ちが大事であり、それを神と称す。その意味では、文化が廃れてはいない、と思う。
(だから)
 メリッサは思う。人に犠牲を強いる存在は神で有り得ないのだと。
 ちょうど、窓の外を見ると、家の修理をしていた荒木 拓海(aa1049)が、材木を持ち上げ息をついたところだった。
 ひょっとすると、彼も同じように感じているのかもしれない。

 村の家屋はとても自然災害とは思えない壊れ方をしている。だが、村人もその理由には沈黙するばかりだ。
「やれやれ、能力者と言えど人々に根付いた迷信には勝てんな。ならばアレが本当に神かどうか、この手で試してみるか?」
 愚神や従魔が伝承を隠れ蓑にしているだけで、黛 香月(aa0790)にとっては不快の極みだ。さらに村人がそれを本気で信仰してしまっているのだからなおさら質が悪い。
 信仰に基づいた村人の誤解を解くには、目の前で現実を見せてやる他ないだろう。つかの間の休息のさなかに激しい戦いの予感を感じ取り、清姫(aa0790hero002)は目を細めた。

「やっぱりよくある生贄とシャーマン信仰が合わさったものだな。シンプルが故に信じやすいがその分根強いか」
 リィェン・ユー(aa0208)は仲間からの報告を受け、大破した家のがれきを取り除きながら、まだ見ぬ相手の戦力を推し量る。
「しかしこれだけ世界が発展しても、まだまだこういった部族が残ってるんだな」
『外界からの干渉を極力避けることで昔のままの生き方を続けてこられたのじゃろうな。あとは、この自然が彼らを支えてくれていたんじゃな』
 巨木と豊かな自然、見知らぬ植物の数々。ここにはないものも多いが、あるものも多い。
 傍らでまだ使えそうな板材をより分けていたイン・シェン(aa0208hero001)は、一枚のがれきをリィェンへと手渡した。
 差し出された板には、明らかに武器で壊されたような跡。戦いの気配にインの声が少しばかり弾んでいるのは気のせいではないだろう。
「愚神たちのせいでこの自然を荒らさなきゃならない事態になりそうってのは申し訳ないな」
『じゃったら、なおのこと気合を入れて早々に事態を抑えるしかないのじゃ』
「……ふぇにや、これは……」
『ん、分かっている』
 御剣 華鈴(aa5018)とフェニヤ(aa5018hero001)は、村を歩いているうちに、木の幹に突き刺さって折れた矢じりをみつけた。何か塗られているようだ。
『小細工か』

●決戦の前
(ここやな……)
 ライヴスゴーグルを装着した弥刀は、迷彩服を纏って洞窟を調査していた。道中、化け物のものらしき足跡がいくつか見つかったが、どれも洞窟へは入っていないようだ。
(敵は複数、どうしても集団戦になるなら、避難経路は必須……)
 がさり、何かが動いた。弥刀は下手に動かない。相手も動かなかった。
 迷彩が功を奏したのだろう。
 すぐに緊張が解けた。
 通信機で、九字原が経路の安全を伝える。
(とっととおさらばしましょ)
 決戦は、明日。焦ることはない。

「儀式は明日の夕方から夜半過ぎにかけて……洞窟で行われる、ということですね」
 夜半時。
 エージェントたちはそれとなく集まり、九字原が情報を取りまとめていた。
「昨今の従魔には、らぐなろっくや禍の犠牲者達の成れの果てが多いと噂であるが……」
 ウールヴへジンの情報に、御剣はわずか目を伏せる。
『……だからどうした? 従魔に情けは無用。斬れ』
 フェニヤの言葉が凛として響く。
「ふぇにや、私へ心配は無用。彼の者達に現世の未練あらば、我らの刃で断ち切るのみ」

 ラグナロク。
 立ち込める不穏な気配。この事件にはまだ裏がある、そんな気がしてならなかった。
(村人に聞いた話、近くにもまた集落がある……けれど、現状は把握していない)
 アリスは考えを巡らせる。
『神々の終末の再現を、偽りの神が狙うのか。ふん、奴らが最終戦争を担えるような器か見物だな』
「……お嬢様はらぐなろっくに並々ならぬ嫌悪を抱いておられる。お嬢様の敵は、私にとっても敵である」
 御剣は武器を握りしめる。
「儀式は明日ですが、警戒を怠らないに越したことはありませんね」

●運命の日
 花嫁の婚礼衣装を着たリュシは美しかった。
 悲壮な決心をした彼女。しかし目の奥の希望はまだ失われてはいない。
「長く廃れていたということは、その分道中の安全性が低下している可能性があるし、なにより彼女がちゃんと洞窟に入ったかを見たほうが安心できるんじゃないか?」
「無論、我々とてそのつもりだ」
 リィェンの言葉に、村人の長は頷いた。

 儀式の場所へ向かうまで、村人たちは無言だった。参加は一向にかまわない、とのことであったが、エージェントたちを警戒してもいるのか、さりげなく村人たちで囲もうとしている。
「けがをしたくなければ、余計なことは考えないことだ。まあ、妙な真似をしないのであれば、我々は友人として歓迎するよ」
(愚かな)
 清姫は思った。
 どちらがどちらに守られることになるか、村人たちは思い知ることになるだろう。

(……これだけ人が居れば来るだろうね。リュシが心配なのは分かるが儀式ばかり気にして警戒を怠らないように)
 卸は村人たちの包囲に逆らわず、いつでも村人をかばえるような位置取りをとった。荒木とメリッサは粛々と一行の列の後ろを歩く。
 ジャングルの道は深い。
「お嬢ちゃん方、つらくはないか?」
「平気だよ」
 アリスと共鳴したAlice。村人は目がくらんだ、そんな気がした。陽炎のように姿を歪ませ、一つとなったアリスたち。
 果たしてどちらのアリスなのか、村人に判断する術はなかった。
(避難完了するまで、エージェントって感付かれない方がいいんでしょう?)
 アリスは服の下で「雷神ノ書」をくゆる。

『……ん』
「気配なし、か」
 村人たちに気が付かれないよう、麻生は一行からやや離れたところで、モスケールで周囲を警戒していた。
 そのさらに後ろを九字原が追う。

●洞窟があなたたちを迎え入れる
 祈りの言葉とともに、リュシがゆっくりと洞窟へと立ち入ってゆく。
「この役、一般へ扮する貴方に向くと思いました故」
 御剣の言葉に良田が頷き、その後を追う。
 迫間も頷き、潜伏して花嫁の護衛にあたる。

 花嫁が暗闇に消えていった。足音が遠ざかった、その時。

「来るぞ!」
 いち早く麻生が警告する。
 鬨の声が上がると同時に、矢の雨が降り注ぐ。

 ウールヴへジンが狙うは、村人たちの最後尾。身をかがめた男めがけてウールヴへジンのナイフが振るわれる。
 ガキン。
 鋭い音が鳴った。しとめた、と思ったウールヴヘジンは、自分の右手の先がないのに気が付いた。攻撃力を極限まで高めた屠剣「神斬」が、野蛮なナイフをへし折ったのだ。
(かかった……)
 共鳴したリィェンは、全身に全身に銀色の陽炎を纏う。縦長の瞳孔、黄金色の瞳が、爬虫類じみた化け物を睨む。
(向こうが捕食者という思考ならば、これだけの集団を正直には狙いはしないだろう。襲うなら背後から、しかも孤立した個体からだろう)
 リィェンはウールヴヘジンの先を読んでいたのだ。
 恐慌する村人たちに、リィェンは叫ぶ。
「花嫁を捧げようとする君らを狙うこいつらは断じて君らが信じる神ではない!! それにこのタイミングで襲ってくるということは君らの神域である洞窟は安全ということだ……早くそこに入るんだ」
「神域に入れとおっしゃるのですか!?」
「うわあああ!」
 パニックに陥った村人の一人が、見当違いの方向に逃げ出そうとする。
「行かせません!」
 卸の手が、村人を引き留めた。
 無数の矢。その一本が、禁軍装甲をかいくぐり、卸の左手に突き刺さる。じわり、わずかなしびれが伝わる。
「大丈夫ですよ……ここは通しませんから」
 卸は動かなかった。その場から、一歩たりとも。
『リュシとやら、とっくに従魔に食われてなければいいがな』
「……ふぇにや、救出任務でそのような発言は慎まれよ」
『後ろだ』
 ベルフの助言に従って、九字原が村人とウールヴヘジンの間に割り込む。九字原のターゲットドロウが、ウールヴヘジンのナイフを引き付ける。
「やめろ、やめろ、神に逆らうのか!」
「自分の命がどうなろうと構わぬ」
 黛は一歩踏み出し、村人の前を行く。ウールヴヘジンが、一歩下がった。並々ならぬ気迫を見せ、黛のオーラが黒くゆらいだ。
「人間ごときに斬られて血が出たり苦しむようならそれは神ではない」
 信仰に基づいた村人の誤解を解くには、目の前で現実を見せてやる他ない。
『従魔が行儀良く我らを待つ保証はない。……御託を言わず走れ!』
 九字原の繚乱により、村人に追いすがる一体を捉えるように影が舞った。黛が、有無を言わさず斬り捨てる。
 一部の村人は避難したが、村人たちにはまだ迷いがあった。
 リュシは震えていた。震えが止まらなかった。大丈夫、というように迫間が背を押した。
 応えるように戦線に躍り出たのは弥刀だった。
「お前は……遭難者では……」
「こんな異物と混同するとは信仰が足らん」
 神像を具現化したかのような、その姿。白い鱗を持った、神々しい蛇の姿。
「村人たちよ、今一度思いだせ……我らが主との違いを見るが良い!」
 麻生が飛び出す。はだけた服から、蛇の鱗を思わせるような模様が浮かび上がる。
「おおお……」
 村人たちが平伏する。
 リュシは一つだけ息を吸うと、大声をあげた。
「皆さん! お告げがありました……! 「神と神を僭称する者」が、神の怒りをかっているのです……!」
 殲滅せよ。
 ウールヴヘジンは、抗議するように声をあげる。意味するところは、互いに同じなのだろう。
「わ、我々はどうすれば……」
「祈れ、貴様らにできることはそれのみ」
 村人に食らいつかんとするウールヴヘジンに、荒木がストレートブロウを放つ。
「手出しは、させない」
 荒木は、自ら使いとは言わなかった。血が滴り落ちる。
「洞窟内で全員間違いを認め神像に祈れ!」
 神の使いをまねた麻生の言葉に、村人たちが動き始めた。
 御剣が矢を叩き落とした。
「偽りか、真実か……生きて見極められよ。落命すればそれまでである」
 村人たちが、一人また一人と洞窟へとなだれ込んでいく。それを後目に、御剣はなおも激しくぶつかり合う戦いの気配を感じ、位置取りを変えた。
『……村人共は無防備に過ぎる。この先は袋小路、獲物の退路を断ち襲うは狩りの常套手段ぞ』
「承知。我らも従魔が背後より割り込まないよう、村人達の後を追う」
 御剣の振るうエクリクシスの爆風がきらめく。
 一撃を食らったはずのウールヴヘジンは、その場にいなかった。

 相当なダメージを与えた。だが、ウールヴヘジンは倒れない。神の加護のなせる業か……いや、トリックはあった。
『央、追っていた敵が見えなくなったり、何もない処から攻撃を受けたり……』
 あらぬ方向からの攻撃を、迫間はすんでのところでかわした。経験を積んだエージェントのみがなしうる動き。
「そういう事なら、此方も……!」
 マイヤの言葉に反応し、迫間はジェミニストライクを放つ。自身と、己の残像が、敵の不意を衝く。
 鱗が一枚、剥がれ落ちた。
 構わず包囲を抜けると、弥刀のもとに寄り集まった敵を狙う。
 影がはじけとぶ。薔薇の花弁のように、鮮やかに。
(チャンス!)
 弥刀が笑い、了承の意を示す。鱗の剥がれた一体に、ライヴスショットを顔面に叩き込む。

「そこか!」
 荒木が攻撃を防ぎ、Wアクス・ハンドガンを振るう。銃声とともに、斧が草を刈り取っていった。何かをはじいた手ごたえ。
 敵は見えないが、血しぶきが舞った。
「神はこのような事を望まれて無い」
(まずは、敵を減らすこと……)
 敵の位置さえわかれば、そう難しいことではない。
 卸がブルズアイで追い打ちをかける。ぎえ、と悲鳴が上がり、一体が倒れた。続けざまにもう一体を狙う。鱗が剥がれ落ちたところをかばっている。ならば。
 狙うは、目。
 卸の攻撃にのけぞったウールヴヘジンに、荒木が魔剣「ダーインスレイヴ」を力任せに思い切り振るう。

(……アレを中に通す訳にはいかないからね)
 洞窟の前には、アリスが立ちふさがっていた。くるり、振り返って距離を運ぶ。
 アリスは冷静に相手の出方をうかがう。
 知能レベル。連携を取るだけの知能はある様には見える。人語は解しているのか、一見、人のような性質が見え隠れする。
 否、そう見えるだけ。
 村民の避難を確認すると、アリスは極獄宝典『アルスマギカ・リ・チューン』を取り出した。髪も瞳も炎の様に、血のような紅の少女が燃え盛る炎を操る。
「……獣は嫌いだよ」

●攻防
「囲まれた!」
『しっかり!』
 荒木は構えなおし、疾風怒濤で攻勢に転じた。その隙をめがけて攻撃してきた一体を、リィェンのネビロスの操糸がからめとる。
 通さない。
 エージェントたちは、すぐに体制を立て直す。
 数体のウールヴヘジンが、洞窟めがけて突撃をしかけてきた。尻尾切り。リィェンは「神斬」を構える。??捨て身には、捨て身を以て。
 怒涛乱舞に舞う斬撃が、再びウールヴヘジンを切り裂いた。
 鋼鉄の鱗。鱗が剥がれ落ちたものは絶命した。ぎらりと輝く一枚が、攻撃を弾き飛ばす。尻尾切り。弱ったウールヴヘジンが、雄たけびを上げて捨て身の攻勢を見せようとした。
「へぇ……じゃあ、これなら?」
 アリスの、Aliceのブルームフレアが、容赦なくウールヴヘジンを焼き尽くす。

「だいたい読めたかな」
 ウールヴヘジンに向かって、麻生が絵具を投げつけ銃でぶち抜いた。降り注ぐ絵具に、3体の姿があらわとなる。
『そこか……!』
 御剣が、果敢に従魔の集団に飛び入った。メーレブロウで嫌が応にも乱戦に引きずり込む。鱗を失った数体が悲鳴を上げた。
『纏めて斬り捨ててやる! ライオット・トラッシュ!』
「騒乱の塵となれ! ……ふぇにや、次は五行の呼吸を合わせよ」
 鱗が攻撃を弾いた。それでもフェニヤは笑っていた。
『一度しか攻撃を弾けぬか! 魔界に挑む騎士の鎧のようだなぁ!』
 攻撃に次ぐ攻撃。怒涛乱舞が、とどめを刺した。
『我の記憶に焼き付く狼皮被りの戦士達、その程度ではなかったわ!』
 フェニヤは吠える。

 迫間は自身も身を潜め、仲間を狙うウールヴヘジンを天叢雲剣で斬り捨てる。大蛇の尾から出てきたという逸話を持つ神剣の名に恥じず、鋭く鱗を両断する。
 尻尾きりで突撃を見せるウールヴヘジンを、卸がトリオの三連撃で抑える。
 突如として、一体のウールヴヘジンの姿が消えた。卸は冷静に影を見る。焦げ付くような夕日、小さくなる影……。
 上だ。
 卸の一射がウールヴヘジンを打ち抜き、黛がすれ違いざまに切り伏せた。

 森林を駆け抜ける黛は、かすかな木々の揺れからウールヴヘジンの位置を見切った。17式20ミリ自動小銃で狙い定める。足場の不安定な狙撃。しかし、エクストラバラージにより展開された武器が、多量の銃弾の雨を降らせる。
 一撃。当たれば十分だ。
 飛び散る血液を目印に、接近して武器を持ちかえる。
 目標は殲滅。カオティックソウルによりはねあげられた攻撃力。相手がナイフを振るうのを構わず、ロストモーメントを放つ。
『ぐ、ギギ……』
「迷信を隠れ蓑にしようと無駄だ。愚神という偽りの神の眷属たる貴様らごときが人間様の上に立とうなど笑止千万。せいぜい私が私であるための生贄になるがいい!」
『蛇の従魔なら我が相手じゃ。井の中の蛙とはまさに奴らのことよのう。災厄の化身を名乗るに相応しいのはどちらか、我が手で試してやろうぞ』
 ロストモーメント。
 差し違えるかのように突き出されたナイフ。
 どす黒い炎のオーラ。土煙が収まる。立っていたのは、黛だった。

 「静狼」による銃撃。ウールヴヘジンは弓矢をつがえたが、そこに麻生はいなかった。テレポートショット。
 葉の擦れる音で、ようやく位置を察知する。
 避けた、と思った。だが、狙いすましたかのように銃弾が鱗のない体をぶち抜いた。一体が崩れ落ちる。
 仲間の仇を撃たんと、もう一体がナイフを振り上げた。
 ウールヴヘジンが麻生を見つけた。だが、そこはまさに射程圏内。
「ヘパイストス」の砲弾が、餓狼の咆哮のように降り注ぐ。鱗がはがれていく。

『そろそろ反撃だな』
「ええ」
 九字原は向きを変え、敵の後ろから遊撃を行っていた。

●敗走
 攻撃の手が、緩んだ。
「何か妙やな……まさか……逃亡本能あるんか……?」
 弥刀の読み通り、戦意を失ったウールヴヘジンは散り散りにジャングルへと逃走を図ろうとする。
 荒木が吹き鳴らす天使のラッパの音が、ウールヴヘジンを追いかける。一体が姿勢を崩す。
「逃がすか!」
 リィェンの斬撃が、一体の動きを止める。卸が足を狙って魔銃を振りぬく。すかさず、弥刀が回り込んだ。
「せいっ!」
「逃がしませんよ」
 九字原の女郎蜘蛛が、逃げ延びたウールヴヘジンを絡めとる。
 黛の一撃が、文字通りウールヴヘジンを両断した。
『逃がすものか!』
 フェニヤの剣が、ウールヴヘジンを戦場へと引きずり込む。

 逃れおおせたのは、たった1体。ジャングルを疾走するウールヴヘジン。突如として意表を突く角度から現れた銃撃に、勢いをつけて倒れた。
『……見えないのは、貴方達だけじゃない……よ?』
 クスクスと蠱惑的に笑うユフォアリーヤ。
「俺達の眼から逃れられると思うなよー?」
 にやりと笑って、銃口を向ける。
 銃声がジャングルに響き渡る。

●祭りの後
 嵐が去ったような静けさがあった。けがをしたものはいるものの、村人は無事全員が無事だ。
「お待ちください!」
 神の使いに追いすがる。
「そも、創造物に代償を求めん。今回のみ救う」
 弥刀は、そのままその場を去り、共鳴を解いた。
『これだけ働いたんだ。チョコ以外寄越せ!』
「あ、こら、せっかくかっこよく……聞こえますて……」
 キリルの駄々に弥刀はため息をついた。

 不思議なことに、神の使いとして戦った何人かは、あの出来事を覚えていないと言い張った。彼らはケガをしていて、とうてい覚えてないとは思えないにも関わらず。
「愚神や従魔がその土地の信仰や風習に準じた姿をとる事は珍しくない。あれは信仰に取って代わろうとする者であり、貴方方の神とは何の関係もない。それを恐れる事、神の花嫁を立てて現実から目を逸らす事こそ、神への背信ではないかと、私は思いますが……」
 迫間の言葉が、村人たちに染み渡るように響いた。
「そうか……そうだな。花嫁などというものは、求められていなかったのかもしれない」
「でも洞窟の中には何もいなくてよかった……」
 卸は、そっと言い足す。
「もしかしたら、神様が助けてくれたのかもしれませんね」
「リュシ……お前はお告げを聞いたという。花嫁とはいかないが、これからも導いてくれないか」
 リュシはゆっくりと首を横に振った。
「リュシを心配して戻りを待っている人がいる。今は、彼女を帰してあげて下さい」
 迫間は優しく言った。
「わかった。……悪かったな、リュシ」
 リュシは初めて泣いていることに気が付いた。

「ほんとうに……ありがとう」
 旅立つエージェントたちに、リュシは礼を言った。
『……我は戦を味わう為に来た。お前を救う為ではない』
「すまぬ、ふぇにやを悪く思わないで欲しい」
「私が言えるのは、お礼だけよ」
『これからどうするの?』
 リュシの表情には戸惑いがあった。
「わからない……」
 メリッサは優しくリュシの肩に触れた。
『一人の祈りでなく互い守り合う関係を継続して貰いたい、と思うの』
 人を守る医師と言う道へ進む事が最終的に村を守り神を守る事になる。
『シャーマンとしてではなく貴方なりの方法で皆を守ってあげて』
「自由に、村に拘らず多くの人を守る為、でも良いんじゃないかな」
 メリッサと荒木の言葉に、リュシは頷いた。
「私、やっぱり。医者になりたい。この村が好きだから……この村のためになることがしたいの。この村を、好きでいさせてくれて、ありがとう」

●報告
 後日。アリスと弥刀がウールヴヘジンから採取した血液の一部、人に近い組成の細胞が発見された。これが長く続く戦いの序章であると、エージェントたちは知ることになるだろう。

担当:布川

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445

重体一覧

参加者

  • 義の拳客
    リィェン・ユーaa0208
    人間|22才|男性|攻撃
  • 義の拳姫
    イン・シェンaa0208hero001
    英雄|26才|女性|ドレ
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • 苦労人
    レオンハルトaa0405hero001
    英雄|22才|男性|ジャ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 絶望へ運ぶ一撃
    黛 香月aa0790
    機械|25才|女性|攻撃
  • 反抗する音色
    清姫aa0790hero002
    英雄|24才|女性|カオ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃
  • この称号は旅に出ました
    キリル ブラックモアaa1048hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 紅の炎
    アリスaa1651
    人間|14才|女性|攻撃
  • 双極『黒紅』
    Aliceaa1651hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • 我ら闇濃き刻を越え
    御剣 華鈴aa5018
    人間|18才|女性|命中
  • 東雲の中に戦友と立つ
    フェニヤaa5018hero001
    英雄|22才|女性|ドレ
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