本部

老人よ、元気であれ!

落花生

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
5人 / 4~10人
英雄
5人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/08/31 22:06

掲示板

オープニング

●元気すぎる老人問題
「少々やっかいなことになりました」
 H.O.P.Eの職員は、会議室に入るなり重いため息をついた。集められたリンカーたちは、その様子に何事かとざわめく。
「とりあえず、皆さんこのCMを見てください」
 職員は設置してあったテレビで、とあるCMを流した。そこから流れるのは、今時では珍しくない老人ホームのCMであった。やたらと美しい庭と白い建物。笑顔の老人と若いスタッフの姿が代わる代わる流れていく。まったく持って、普通のCMである。
「この老人ホーム希望園ですが……ここに住んでいるご老人に占拠されました」
 集められたリンカーは、そろって首をかしげる。
 意味がよくわからなかったのだ。
「ここからは私たちが」
 と老人ホームのスタッフが説明を始める。
 希望園には、九十歳の老いたリンカーが入所していた。キダという最近まで現役だったという色々な意味で恐ろしい老人だが、ぎっくり腰で倒れてからすっかり弱ってしまい認知症が進行。ついには、老人ホームに入所という流れとなった。
 入所当時は問題のなかったキダであるが、徐々に愚神の妄想にうなされるようになった。老人ホームのスタッフによれば、認知症の老人が妄想を抱くことは珍しくはないらしい。
「キダさんは、スタッフを愚神の手下だと思い込み追い出す始末で……」
 つまり、スタッフでは手がつけられないらしい。
「共鳴状態じゃないなら、少し手ごわい爺さんなんだろ。楽勝じゃないか」
 説明を聞いていたリンカーの言葉に、スタッフは大変すまなそうな顔をした。
「キダさんは共鳴されています。さらに、同じ状態の方がホームには後三人いらっしゃるんです」
 キダは、すでに入所していた元仲間の紹介もあって希望園に入所したらしかった。そこからは似たような経緯で彼らの仲間も入所し――刺激の少ない生活でついには英雄たちまでボケたらしい。
「英雄はご家族さん同然ですから、面会を希望されたら断れないんです!」
 スタッフは泣きそうになっていた。
 仕事柄、大変な老人の世話に慣れている。だが、戦闘を行う老人は面倒を見切れないという嘆きであった。H.O.P.E職員は、こほんと席をして場を仕切りなおした。
「つまり、今回は共鳴している老人と英雄を引き離して保護するのが一番の目的となる」

●手ごわい元リンカーたち
 キダの体は、軽かった。
 共鳴し、若いころに戻っていたのだ。なにやら思考はぼやけているように思えるが、きっとそれは朝だから。次第に目覚めて、しゃんとすることだろう。
 キダはここを守っている。どうして守っているのかは思い出せないが、なかには老人がたくさんいるので、きっとH.O.P.Eからの依頼なのだろう。
 ここには、キダを合わせれば四人のリンカーがいた。
 彼らはキダと共に、時代のごくごく最初のほうでリンカーとなった。まだ、社会に英雄も契約者も馴染んでいなかったころからの同士たちだ。彼らと共に、何十という愚神や従魔たちと戦った。時にはヴィランとも戦った。
「まだまだ止めることはできない」
 キダは、小さく呟く。
 
 社会のため人のために、悪と戦っている。
 キダと仲間たちは、そのような妄想のなかにいた。

解説

・老人たちの保護

希望園(昼)……定員三十名の小さな老人ホーム。アットホームな雰囲気。家具で出入り口を固めるためのバリケードを作られている。リンカー以外の老人は二十六人で、全員がゆっくりとなら歩行可能。だが、放っておくとどこかへ行ってしまう。
・入り口……バリケードで封鎖された出入り口。見張りのリンカーが一人おり、時折居眠りをしている。大きな音をたてると起きる。
・ホール……簡単な運動ができる場所。障害物などは一切ない。リンカーの一人が常に見張っている。
・談話室……ソファが置かれた広い部屋。他の部屋より障害物が多いために動きづらい。キダを含めたリンカー二人がいる。
・各居室……一番奥にあり、三十室ある。老人たちがいる。
・庭……様々な花が植えられた美しい庭。それなりに広く、老人が全員が集まることも可能。

元リンカー(老人)……共鳴しているため肉体的には二十代だが、元の肉体は八十歳以上。身体機能は若いが、侵入してくる者を愚神や愚神の手下と思い込んでいる。記憶力はしっかりしており、老人たちや自分たちの仲間の顔は忘れない。武器は、全員が木刀。一定のダメージ量になるとキダのところへと退却しようとする。
昔とった杵柄――木刀に一時的にライブスをまとわせ、真剣並みの切れ味を再現する。同時に、攻撃力をあげる。
昨日の夕飯――自分受けているダメージ量や疲労を忘れてすぐに立ち上がる。繰り返すと、死亡する可能性がある。
老骨――刀を一度構えなおし、相手に強烈な一撃を浴びせる。刀には毒の効果が追加で付与され、杵柄との併用も可能。

キダ……老人リンカーのリーダー格。言動はかくしゃくとしているが、現実の認識はしていない。以下、キダのみ使用の技。
気合の一撃――仲間全体に対して一回のみ使用。体力の三分の一を回復させる。
気合の攻防――隠し持っていた箸にライブスをまとわせて、手裏剣のように投げる。命中率はあまりよくない。

リプレイ

『ヴィオ、立ち振る舞いから雰囲気までおばあ様らしくなりましたわね』
 可愛らしい外見の老人ホームの前に立ったノエル メタボリック(aa0584hero001)は、妹の立ち振る舞いに感心したように呟いた。
「らしくだなんて……わたくし、正真正銘のおばあ様ですのよ」
 銀縁メガネをかけなおすヴァイオレット メタボリック(aa0584)は杖こそ使っていないが、まるで童話に出てきそうな穏やかな老婆になりきっている。
「それにしても、今回の事件は大変胸が痛みますわ」
 かつては敵と戦った者たちが穏やかに余生を過ごすはずの場所が、今は立てこもり事件の現場となってしまっている。その原因、場所を含めて、ヴァイオレットは黙ってはいられなかった。
「いずれわたくしも仲間入りするかもしれませんが……。嫌な前例を作りたくありませんわ」
 今はまだ数が少ないからこそ注目されていない事件だが、近いうちに似たような事件が起きて社会問題化するかもしれない。そう思うとヴァイオレットの心は痛んだ。
「いやー、他人事じゃないね!」
 モーリス チェスターフィールド(aa5159)は気楽に笑うが、二十五歳以上はおっさんだと思っている若いルカ ロッシ(aa5159hero001)としては笑えない問題である。
『英雄もボケるんだな。まあ、俺はだいぶ先だろうけど』
 まだ少年のルカは、一瞬だけ遠い目をした。自分のパートナーのほうが、自分より早く引退することになるだろう。そう思うと、このような場所は感慨深いというか――なんというか。そんなルカの心情を知ってか知らずモーリスは、ぽんとルカの肩を叩いた。
「介護は頼んだよ」
『……リンカー高齢化対策は、ちゃと考えた方がいいな』
 そうしないと今度は、モーリスが今回の敵側にいる可能性があった。
「頭はボケていても、身体能力と戦闘経験は健在か……手強い相手になりそうだ」
 手鏡を使って内部の様子を探る御神 恭也(aa0127)の隣で、伊邪那美(aa0127hero001)は複雑そうな表情をしていた。
『え、英雄でもボケるんだ……知らなかったよ』
『酷いよね。こんな天使のような愚神がいるわけないのに』
 百薬(aa0843hero001)の言葉に、餅 望月(aa0843)は苦笑いした。
「それを認識するのは難しいかも。……相手は、リンカーの先輩だし。怪我をさせるのは、避けたいところだね」
 その言葉に、月鏡 由利菜(aa0873)はうなずいた。「できることなら、穏便にすませたいのですが……」と呟くが、そんな彼女にリーヴスラシル(aa0873hero001)は不満げだった。
『ギアナ支部から帰還した直後なのに、すぐ新しい依頼への参加要請か…』
「ごめんなさい、ラシル。老人ホームからの依頼、断れなくて……」
『……休みたい時は断れ、ユリナ。しかし受けた以上、途中で投げ出すわけにはいくまい』
 「まー、まー」と由利菜とリーヴスラシルの間に入ったのは、望月であった。
「早く始めて、早く終わらせよう! 中にいるご老人たちの体力も心配だからね」
 百薬と共鳴した望月は、窓から煙が入るようにセーフティーガスを発動させた。

●ホール
 入り口で見張りをしていたリンカーは居眠りをしていたので、セーフティーガスを吸っていただきさらに深く眠っていただいた。百薬も『起きないでね、おじいちゃん』と祈っていたが、アレだけ深く眠っていたらしばらくは大丈夫だろう。
「止まれ、ホールにも一人いるな」
 先頭を歩いていた恭也は足を止める。木刀を持っていることからして、ホールにいるのはリンカーに間違いない。共鳴の影響か、若返ってはいたが。
「むやみに、戦いたくはないですわね」
『たしかに、わたくしたちと戦って怪我をしたという流れは……あまり好ましくないですわね』
 ヴァイオレットとノエルの言葉に、伊邪那美もうなずく。
『もし、骨折とかさせたら寝たっきりになって余計にボケが進行するかも……』
 恭也もその言葉には思うことがあったらしく、不意打ちでの攻撃は止めることにした。代わりに自分たちはH.O.P.Eから派遣されたエージェントだと正体を証し「愚神がやってくるから一般人の避難を手伝ってくれ」と依頼する作戦へと変更した。
『大丈夫なの? おじいちゃん達ってボケてるなら理解出来ないんじゃないかな?』
「相手は現状認識が曖昧になっているだけで、目的意識等は確りしているようだから上手く乗ってくれるとは思う」
 そうでなければ、バリケードなど作らないであろう。入り口を封鎖していたあれは、明らかに外からの攻撃に耐え備えるものである。
「わたくしたちは、その作戦に賛成ですわ」
 ヴァイオレットたちの承諾も得たので、恭也は作戦の決行を決意した。まるで外から走ってきたかのように小走りになり、ホールで見張りをしていた老リンカーの元へと向かう。
「大変だ。近隣で愚神が現れた。ここの老人たちを安全な場所に避難させる。手伝ってくれ!」
 だが、老リンカーは恭也に木刀を向けた。
「おまえが、愚神だろう!!」
 振り下ろされる木刀に、恭也は一撃粉砕を使用する。だが、木刀は砕けず、恭也は老人から距離をとった。
『あちゃー。思ったとおりだよ』
「どうやら、仲間たち以外は全員敵だと思っているようだな」
 伊邪那美は、恭也に「戦えそう?」とたずねる。
 恭也は「無論だ」と小さく答えた。
『老いてなお……戦いの勘は忘れていなおのですわね』
 ノエルの言葉に、ヴァイオレットは悲しげな顔をする。
「あの方が若かりしころは、きっと危険ながら充実感のある日々を過ごされたのでしょう。……ですが、ここはもう余生を静かに過ごす場所。休んでいい場所なのですわ」
 ヴァイオレットは竹やりをもって、老リンカーと対峙する。
 できるだけ、怪我を負わせぬように注意しながらの戦いであった。
「レジェンドエージェントを切り捨てるようなことは、したくありませんわ。諸先輩方に敬意を払うべきですもの」
『でも――強いですわ』
 ノエルの言うとおり、長年戦い続けてきた老リンカーの力は想像を超えていた。苦戦するヴァイオレットの手助けをするように、恭也は一気呵成を使用する。木刀を落としてくれたらと良かったのだが、どうやらそこまで甘い相手でもないらしい。
「やれやれ、これでボケが無かったら未だに現役でも通じただろうな」
『でもさぁ、傍から見たら老人に暴力を働く若者だよね……』
「言うな」と伊邪那美に命じた恭也の顔は、苦虫をかみ殺したかのようなものだった。

●庭へ
「ご無事ですか?」
 望月は、居室を回って老人たちを無事を確認していた。ヴァイオレットから、老人たちに対して気をつけることは一通り聞いている。仲間たちが老リンカーを相手にしているうちに、自分たちが彼らを安全な庭まで連れ出さなければ。
「安全なところに避難してください。賢いご先輩は状況を理解されていると思いますので、後は若い者に任せて、ひとまず庭に集まってもらえれば大丈夫です」
 望月の言葉に、老人たちの反応は薄かった。
『もしかして、聞こえてないのかな?』
「耳が遠いのかも」
 望月は大きく息を吸って、今度は大声で説明する。
「安全なところに避難してください!賢いご先輩は状況を理解されていると思いますので、後は若い者に任せて、ひとまず庭に集まってもらえれば大丈夫です!!」
「暑いのは、いやじゃの~~」
 のんびりとした老人の言葉に、望月は脱力しそうになった。
「お嬢ちゃん、誰の孫? 飴ちゃんをあげるよ」
「キヨエさん、キヨエさん。息子さんがようやく、嫁さんを連れてきたよ」
「ご飯は、まだかのう」
 老人たちは、マイペースに様々なことを口にする。
 望月は、自由な老人たちを前にして作戦を考え直さなければとため息をついた。
『みんな、ボケてるのかな?』
「うーん、そうではない人もいるみたいなんですけど……」
 望月の言葉を理解した老人もおり、彼らはゆっくりと庭に向かって避難を始めようとしていた。だが、一部のご老人かたはとてもマイペースだ。おそらく、本当に愚神がやってきても今と同じことをしているであろう。
『ここは、奥の手を使うしかないよね?』
「しかたないですね……」
 望月は、おばあさんを持ち上げる。
 こうやって、一人ずつ庭に出していくのが一番早いであろう。
「きゃっ。おじいさんったら……」
 抱きかかえた老婆は、恥らって頬を染めた。さっきまでボケていたのに、いきなり乙女に若返らないでほしい。
「おお、ありがたい。とうとう、ワシも天寿を全うする日がきたのか……」
 抱きかかえた老人は、望月を天国からの使者だと思い込んで波阿弥陀仏を唱えていた。宗教からして色々と間違っている。
『面白い人たちでいっぱいだね』
「思ったより、大変です……って、おじいさん! そっちは危ないから、駄目ですよ」
 老人の一人が、勝手にホールのほうへと向かおうとする。
 だが、そちらは交戦中のはずだ。
「なにか、音が聞こえてのう。孫がきているのかもしれん」
「おじいちゃん……お孫さんは庭にいますからね」
 笑顔で望月は、老人を庭まで誘導していた。

●談話室
 談話室には、リーダー格のキダと思われるリンカーともう一人のリンカーがいた。
『……モーリス殿、前衛は私たちが』
 リーヴスラシルは由利菜と共鳴し、戦闘準備を整える。かつての猛者に若い力を見せて安心させてやりたい、とリーヴスラシルは騎士としてそう考えていた。
『じーさんが、じーさんと戦って大丈夫かよ』
 双方共に骨折とかやったら笑えねーぜ、とルカは言う。
「せっかくの機会だ。胸を借りようじゃないか」
 モーリスは居室へ続く道を塞ぎつつも、ワールドクリエイターを構える。
「やっとここまできたか。愚神」
 キダと思われるリンカーが口を開いた。
「……私達はH.O.P.Eのリンカーです。ヴィランや愚神ではありません」
 できれば戦いたくない、と由利菜は思った。
 彼らは引退した自分たちの先輩で、しかも悪事や思想ゆえに敵対しているわけではない。単なる思い違いで、敵となっているにすぎない。だが、リンカーたちは木刀をおろすことはなかった。
「私達の言葉に耳を傾けて頂けず、刃を向けるというのであれば……その刃を折ります。お許し下さい」
 由利菜は、イリヤ・メックを握る。
『ユリナ、相手は老いた人間だ。無理をしすぎれば命にも関わりかねない。抗戦能力だけ奪い取れ!』
 はい、と返事をした由利菜は一歩を踏み出す。怪我をさせないために、由利菜はキダの木刀を狙った。
「甘いわ!!」
 鋭い一撃が、由利菜の頬をかすめる。
 その切れ味に、由利菜は驚いた。
「木刀のはずなのに、真剣並みの切れ味です」
『どうやら切れ味を再現する技らしいな。……やれやれ。はしゃぎすぎだぞ、ご老体!』
 老骨による破壊力のある一撃を、由利菜は盾によって防いだ。
 モーリスは、ワールドクリエイターを発動させる。
「あんた方、なんでここにいるかも忘れたのか?」
 モーリスは、ソファーの背に身を隠しながらも攻撃を放つ。前衛で戦う由利菜のサポートをするための攻撃であった。
「愚神を倒し、人々を守るためだ!」
 モーリスの言葉に、キダが叫ぶ。
 彼は自身の世界の中にいた。その世界の中では、彼は未だに現役で、仲間と共に強大な敵と戦っていた。それはモーリスの日常であり、そしていつかは手放さなければならないものでもある。
 老いとは平等に訪れる。
 共に戦う由利菜も、いつかは引退する。
 モーリスとキダは、それが若者よりは早いだけの話だ。
「ここにいたか……」
 もう一人のリンカーが、ソファーを乗り越えてモーリスの前に現れる。モーリスはその攻撃を、自身の盾で防いだ。
『逃げねえの?』
 逃げて仲間を呼ぶという選択肢もある、とルカは言う。
「こんな目をした人達の前で逃げられるか。ボケたとはいえ流石は歴戦のリンカー、いい目をしている」
 逃げてはならない。
 彼らは、未来の自分の姿かもしれない。
「しっかりしてくれよ、大先輩!」
 老いの現実、その戦い方を自分に見せて欲しい。
 いつかは必ず、それは自分のも迫り来るのだから。
「あなたも私の両親と同じく、熟練のリンカーでしょう。ですが……!」
『キダ殿。新世代リンカーの成長、その身で感じよ!』
 若い由利菜とリーヴスラシルが、キダの肉体に攻撃を叩き込む。
 決まった、とモーリスは思った。
 だが、キダは倒れない。
 傷やダメージが回復したようには見えないのに、と由利菜は思った。
「まさか……忘れてしまったのでしょうか?」
 由利菜の推測どおり、キダは昨日の夕食を発動させ受けたダメージを文字通りに忘れたのである。
『乱発されれば、キダ殿の体が持たないぞ!』
「あなた方はリンカーとしてもう十分働きました。静かに余生を過ごしていいでしょう……!」
 それでも、何故戦うのかと由利菜は尋ねた。
「敵が眼前にいるからだ」
 キダは答える。
 彼はまだH.O.P.Eのエージェントが少なかったころ、時代の最初のほうでリンカーとなった。仲間は少なく、法は整備されてなく、敵の情報は少なかった。それでも戦い続けられたのは、自分たちしかいないという自負があったからだ。自分たちは力を持ったリンカーであり、同時にエージェントとして仲間になった若者たちの人生の先輩だった。
 だから、自分たちがまずは戦わなければならない。
 ――若者は、自分たちの屍を見て学べ。
「キダ様ですわね」
 駆けつけたヴァイオレットは、静かに老いたリンカーに話しかけた。
「なにか、ご不満でもあったのですか?」
「不満はない。だた、敵がいる。戦う理由はそれだけだ」
 キダの言葉に、ヴァイオレットは目を伏せる。
 彼女は訳あって、老いを選択した。老いた、のではなく、そうなるように選択したのである。だが、本物の老いを目の前にしたとき、彼女の一瞬だけ気持ちが揺らいだ。
「罪深いことをしたのかもしれませんわ」
『今は懺悔よりも、どうやってご老人を止めるかですわ』
 ノエルの言葉通りであると、ヴァイオレットは思考を切り替える。
 そして、竹槍をキダへと向けた。
「キダさん!」
 ヴァイオレットに注意が向いていたキダは、振り返る。
 そこには、由利菜がいた。
『生涯現役と言えば聞こえはいいが、貴方方の今の認識能力でそれに拘れば周囲に多大な迷惑をかけるのは目に見えている! 我が主のような、第一線で活躍する新世代のリンカーも増えつつある。若者達に後を託されよ!』
 由利菜の攻撃を受けたキダは、一瞬だけ幻を見た。
 その幻のなかには、戦闘のなかで死んでいった仲間たちがいた。自分よりも老いた者はほとんどおらず、皆後ろを振り向かずに前だけを見ていた。
「俺もここまでか……」
 キダは気絶し、意識を手放した。

●庭にて
『本当に大変だった……』
 もらったらしい飴でほっぺたを膨らませながら百薬は、ため息をついた。
『おばあちゃんたち、隙あらばワタシの口に飴を入れるんだよ!』
「孫だと思われてたのかな?」
 望月は微笑むが、その顔には疲労が色濃く表現されている。一般の老人たちを庭に逃がしたのはいいが、その後が大変だったのだ。目を離すとどこかへ行くし、孫扱いして離してくれないし……。
『ワタシは天使なんだよ』
「存分に拝まれていたしね」
 老人たちの中には百薬を見て「ありがたや、ありがたや」といって拝む者たちもいた。どこかへ行く心配もなくてそれは良いのだが、唱える祈りの宗派はやはり間違っていたが。
『このあと、おじいちゃん達をどうするんだろうね』
 伊邪那美は「そういえば」と口を開く。
「再び、老人ホームに入れれば同じ事を起すだろうが、英雄と引き剥がすのは気が引けるしなぁ」
 リンカーならではの問題だな、と恭也も頭を悩ませる。
『う~ん、ボケた原因って暇だからだよね。だったら、何かお仕事を上げたら良いんじゃない?』
「引退をした意味が無くなるが、ボケが進んでまた騒動を起こされるのも困るしな……。ふむ・・・彼らには新人リンカーの教導役が良いかも知れんな。適度な緊張感が出るからボケ防止になるかもな」
 会話を聞いていた望月は、遠い目をして「ちょっと無理かも……」と呟いた。老人ホームのボランティア活動のようなことしていた望月は、老人のボケるという現実をまざまざと見せ付けられていた。
『リンカーが高齢になれば、英雄の新しい引受人も探さねばならなくなるな』
 リーヴスラシルの言葉に、由利菜は目を丸くする。
「ほ、法律が整備されたら英雄も相続対象に……?」
 犬猫ではないんだからと思いつつ、犬猫さえ相続対象になるということは……と考えると由利菜の頭が段々と痛くなってきた。その話をこっそり聞いていたルカは、『俺、他人事じゃねーじゃん!』と一人で冷や汗をかいていたが。
「そっちは、危ないですわ」
『ヴィオ』
 どこかへ行こうとした老人を止めようと、ヴァイオレットとノエルがどしんと転倒した。二人の巨体が地面に横たわり、そこから一ミリも動かない。
「天罰なのですわ。老いを知ろうとしたわたくしの……」
 悲しげにヴァイオレットは呟くが、意訳すると【ぎっくり腰になったので救急車を呼んで欲しい】である。
「いっそ、ここに住んじゃう? 入園のパンプレットもらえないかな」
『ここはやめてあげろ。これ以上の老人リンカーは、スタッフの心労がやばい』
 まったく冗談には聞こえないモーリスも言葉に、ルカは大いにあわてたのであった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • LinkBrave
    ヴァイオレット メタボリックaa0584
    機械|65才|女性|命中
  • 鏡の司祭
    ノエル メタボリックaa0584hero001
    英雄|52才|女性|バト
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • 柔軟な戦術
    モーリス チェスターフィールドaa5159
    獣人|65才|男性|命中
  • 無傷の狙撃手
    ルカ ロッシaa5159hero001
    英雄|17才|男性|ジャ
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