本部

学生たちと海底窟探検!

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/09/11 20:52

掲示板

オープニング

●学生たちの夏休み
「アシスト・シーン、オフェンシブ!」
 ラッシュガードパーカーを羽織った灰墨こころ(az0086)が号令を発すると、アシスト・シーン(A.S.)のリンカーたちが一斉に攻撃を仕掛ける。
「C.E.R.、距離を取れ!」
 共鳴したアーサー・エイドリアン(az0089)の指示でC.E.R.のリンカーたちは散開し岩陰に身を隠す。
「OK、岩ごと吹き飛ば──」
「待て待て」
 片手を上げて制止するアーサー。新作マシンに手を掛けたこころがきょとんとする。
「公共の場で破壊活動はまずい」
「──はっ、わたしとしたことが危うく道を誤るところだった」
「いつも誤ってるだろ……」
「……C.E.R.は帰りは徒歩で帰りたいみたいね」
「えっ!?」
 こころの言葉に思わず岩陰から顔を出したC.E.R.リンカーに容赦なく水鉄砲が放たれた。
「くっ、これが権力……」
 アーサーはため息をつく。
「そんなことばかりやってると、もう協力しないからな」
「両方に利のある提案しかしてないつもりだけど、まあいいわ。一旦休憩にしましょう」
 様々な形の水鉄砲を抱えた紫峰翁大學の学生リンカーたちが、銘銘自由に砂浜に転がる。
 紫峰翁大學の学生リンカーA.S.とC.E.R.は『共同実戦訓練』の名のもとに南の海へ遊びに来ていた。
 ちなみに、さっきまで遊んでいたのは様々な武器を模して造った特製水鉄砲である。A.S.のメンバーがほぼ趣味で作ったそれを使うためにC.E.R.を誘ってわざわざやって来たのだ。
「やっぱり海はいいなー」
「プールだと遠慮なく駆けまわれないからなー」
 今年はやたらと寒かったり雨が続いたような日が多かった気がしたが、この日は運良く快晴だった。
 さらに、ここは特別に借りたプライベートビーチで他に人影もない。
 思いっきり暴れることが出来る。前述の水鉄砲の威力も並みの強さではないのだ。
「こころさん! さっきぶつかった水は大丈夫ですか?」
 アーサーとの共鳴を解いたクレイ・グレイブ(az0089hero001)がこころの下へタオルの入ったビニールバッグを持ってきた。
「ありがとう! クレイくん!」
 そう言ってバッグを受け取ったこころはラッシュガードの襟を軽くめくる。
「──痣、出来てるけど、大丈夫。あーあ、わたしがリンカーだったらぜんっぜん平気だったのに」
 独白のような呟きに、クレイは心配そうにこころを見上げる。
「こころさんは後方で指示していていいと思いますよ」
「でも、もっとしっかり見たいんだよね。ちゃんとした武器を作るために」
「武器?」
「あー、ううん、なんでもない。それより、進級だわ」
 こころの言葉にA.S.の一部のリンカーがむせる。
「さっ、それよりも、次の対戦い──」
 こころが海岸の岩の上に立ったその時だった──。
「っうきゃわ!?」
 足を滑らせたこころは悲鳴を上げて後頭部から岩陰へと転がり落ちた。
「こころさん!」
 叫んだクレイが岩陰を覗くと、そこにはキラキラとした丸い水晶がびっしりと並んだ穴が口を空けていた。
「アーサー!」



●洞窟型ドロップゾーン
「……いったたた……」
 数センチの海水が溜まった柔らかな砂の上でこころは身を起こした。
 水晶に足を取られて後頭部から穴に落ちた彼女だったが、幸い、穴は緩く傾斜していた上に少量の海水が流れていた。そのため、こころは背中を少し打った後はそのままウォータースライダーのように下まで滑り落ちていたのだ。
「……あ、きれい」」
 人ひとり分の滑り台のような穴は全て磨かれたつるつるの水晶などの結晶や鉱石が隙間なく並んでおり、それが地上の太陽の光を反射してキラキラと輝いていた。
「このおかげでここはこんなに明る──!?」
 ばっしゃん。
 突然、穴から一人の青年が飛び込んで来た。彼が勢いよく砂地に着地すると海水が飛沫を上げる。
「こころさん!」
 それは、外見こそアーサーだったが。
「……あ、クレイくんの方?」
「ええ、そうです」
 こころを抱きしめようとして、彼女に両手を前に突き出した拒絶ポーズを取られたクレイが動きを止める。
「大丈夫ですか、こころさん!」
「……なるほど、これって結構ダメな状況なんだって理解したわ」
 見上げた入口は遠く、見るからに滑りそうだ。
「クレイくんはドレッドノートだから空とか飛べたり壁走ったりできないよね?」
「残念ですが……」
 こころはクレイから渡されたままのビニールバッグを開くとA.S.スマートデバイスを取り出した。
「充電もGPSも心もとないけど、なんとか周辺地図はダウンロードできそう。
 ……んー、先に出口ありそうだし、クレイくん、先進みましょ」
「はい、こころさん!」
「……その姿でクレイくんの口調だと……いや、なんでもないわ」
「……? 何があるかわかりませんから、共鳴は解きません」
 珍しく厳しいクレイの言葉にこくんと頷くこころ。
 ──わたしがリンカーだったら、クレイくんに気遣わせなくてよかったのかしら。
 しかし、彼女は自分を卑下するつもりも、リンカーである学友たちを妬むつもりはなかった。
「まあ、いいわ。できることをしましょ」



●到着したエージェント
 砂浜に駆け付けたエージェントたちはオペレーターと学生リンカーたちの会話を待つ。
『……という訳で、先程討伐した愚神が住処にしていたドロップゾーンがこの下にあるのです』
 スマートフォン越しに学生リンカーたちに事情を説明したオペレーターに、A.S.の学生リンカーが答えた。
「実は、その穴に落ちたこころさんとアーサーとクレイなんですが、この辺の海底地形図を調べたら洞窟が海側に続いて出口がありそうだからとすでにそちらへ向かっていて……その、さっき、巨大な生き物の気配がするから隠れていると連絡が……」
 アーサーは水遊び用の軽装で、一般人のこころを連れて戦うつもりはないと言う。しかし、退却するには気配と近過ぎるらしい。
『後を追いかけるしかないようね……』
 オペレーターはため息をつくとエージェントたちに頼んだ。
『申し訳ありません。依頼はドロップゾーン周辺の人払いと調査でしたが、落ちてしまった学生たちの救出とドロップゾーン内に居る残党の退治に切り替えます』
 学生リンカーたちが不安そうにエージェントを見た。

解説

●目的:こころとアーサー&クレイたちを連れて海底窟から脱出する


●NPCについて
全身ずぶ濡れ、こころはバッグの中に乾いたパーカー所持
アーサーペアは共鳴済(クレイ主体、外見はアーサー)
それぞれスマートデバイスで各自連絡が取れるが連絡方法はメール機能のみ(アドレスは依頼直前に通知)
こころはリンカーでは無い為注意が必要、出口付近にいる

●灰墨こころ
持ち物:ラッシュガードパーカー、【水着】タンキニ、紫峰翁大學・学生証、A.S.スマートデバイス、携帯音楽プレーヤー、浮き輪、【限定】時計祭メモリアルバッジ、ねこみみパーカー
※眼鏡(度入り)は着けているが普段着けているメガネ型端末(度入り)ではない。

●アーサー&クレイ
持ち物:ラッシュガードパーカー×2、【水着】サーフパンツ×2、スマートフォン、紫峰翁大學・学生証、C.E.R.特別スマートデバイス、スポーツ用腕時計、インスタントカメラ、【限定】時計祭ピックストラップ、双剣『カジキ/マグロ』、オケアニス、アスピス、ワークキャップ、スニーカー

以下、PL情報
●海底窟(ドロップゾーン)
入口:波打ち際の岩場の中に開いた垂直の穴、磨かれた結晶や鉱石がぎっしりと並びつるつる滑って容易く登れない
ステージ(以下S)1:入口から落ちた薄暗い空間。天井には宝石輝石が磨かれた状態で埋め込まれ、穴から差し込む僅かな光源でキラキラ光るとても寒い
S2:薄暗く狭くつるつると磨かれた横幅2m程の道。すぐ側に流れの早い川有り。落ちないよう注意
S3:一段下がって大きな岩で上部が塞がれている道。少し潜ると今まで通りと同じ道に出る
S4:細長い通路の先、出口の前に従魔マレイ
出口:海上から5m下の洞窟、浮上が必要、海上は迎えの船有り


●従魔マレイ
デクリオ級従魔
そう強くは無いが、縦3m巨大なウツボそっくりで全長はわからない。素早く、尖った牙の並ぶ大きな口が特徴

リプレイ


●出発
 鴬華・エリスヴェータ(aa4920)は思わず呟いた。
「夏休み中の訓練のつもりが、とんだ災難に見舞われたものねェ。予め、地理について伝えれば良かったものを」
『すみません。後手後手に回ってしまい』
 スマートフォンの向こうで縮こまるオペレーター。
 鴬華たちは素晴らしい肢体をより美しく見せるために大胆にカットされたモノキニを着ていた。英雄のアイオール・ハーシェヴェルト(aa4920hero001)が困ったように海と洞窟を見比べる。
「この格好も悪くはないですが、生憎と満喫出来る状況では無いですわね~……」
 紫苑(aa4199hero001)は琥珀のような瞳を細めた。
「プライベートビーチで訓練という名の合宿? 穴に落ちてピンチの女の子を救うために、自ら危地に向かった男の子。
 いいなあ青春、楽しそうで」
「…………」
 バルタサール・デル・レイ(aa4199)はため息をついた。彼は『せっかくの夏だし、海が見たいな』という紫苑の気まぐれで、この依頼へ付き合わされたのだ。
 一方、ユエリャン・李(aa0076hero002)と並んで顔見知りの学生リンカーたちと話していた紫 征四郎(aa0076)は顔を青くした。
「大ピンチなのです! 絶対に助けに行かないと……!」
「ふむ。状況が状況故、不安であるな」
 だが、彼らとは反対に木霊・C・リュカ(aa0068)は明るい声をあげた。
「やぁ、やぁ、いいじゃない。海底二万里、ノーチラス号はどこかな」
 焦る学生たちをオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)はバッサリと宥めた。
「そう深刻そうな顔をするな。知ってのとおりあんたらのリーダー達は、そう柔じゃない」
「そうそう、リーダーが二人も揃っているんだしね」
 騒めきが収まるとリュカは学生たちに付近のダイビンショップについて尋ねる。
「知ってると思うけど、AGW系装備はこころちゃんは使えないんだよね。念には念を入れてね」
 学生たちと一緒に落ち着きを取り戻す征四郎。
 だが、リュカの台詞で逆に心を高ぶらせた少女もいた。
「海底洞窟の探検なんて、わくわくします。人魚の血がさわぎますね!」
 くりっとした黒い瞳を輝かせているのは禮(aa2518hero001)だ。
「そんなこと言ってる場合じゃないけど、確かにわくわくするね、浪漫がある」
 海神 藍(aa2518)は禮の言葉を受け止めて答えつつ、こころの兄である灰墨信義へメールを送った。
『こころさんがドロップゾーンに落ちたらしい。救出に向かう。メリオンテの恩、少し返させてもらおう。』
 妙に秘密主義らしい彼への電話は以前の依頼の後すぐに通じなくなったが、メールは送信できた。
「兄さん、灰墨さんは気にしなくていいって言ってましたけど?」
「私がそうしたいからするだけさ。恩は売るものではなく感じるもの、そして返すものだろう?」

 辺是 落児(aa0281)が持った学生たちのタブレットを覗き込む構築の魔女(aa0281hero001)。そこにはこころからのメールが表示されている。
「もう少し情報が欲しいですよね」
「目印となる物やこれまで通った道なども確認したいですよね。それから、こころさんの様子も」
 キース=ロロッカ(aa3593)が補足する。多くのドロップゾーンでは一般人は自由を奪われたり意識を失うことが多いのだ。
 征四郎とユエリャンも提案する。
「ハイズミへ、今いる場所からあまり離れない方が良いと伝えて欲しいのです」
「ただ、落ち着いたら周辺の様子をまとめて連絡してくれると助かる。出来たらで良い。何かいる可能性はあるので、深追いはするな、と」
 三人がこころへのメールを推敲していると見守っていたバルタサールが声をかける。
「向こうは市販のスマートフォンだ。充電もそうあるわけじゃないようだし、手短に纏めて質問した方がいい」
「確かにそうですね。メールの着信音や光などで従魔を刺激する可能性も考えられますし、回数も減らすべきでしょう」
 構築の魔女の声と共にタブレットから軽やかな音が流れた。
「さっきのメールの返事が来たようです。こころさんの意識はあるようです。でも──」
 うーんと唸るキース。彼の隣で匂坂 紙姫(aa3593hero001)も顔を曇らせた。
「とりあえず、急ごっか!」
 キースはいつもの装備とホットコーヒーの入った水筒を携えると海辺へ向かう。
 後を追う紙姫が首を傾げ、茶色の髪が跳ねた。
「あれあれ、キース君水着着ないの?」
 紙姫の視線の先には水着姿の鴬華たちがいる。
「冗談じゃない。絶対に着ません! このまま行きますよ」
 青白い肌を気にしているキースは断固として水着拒否の構え。
「は~い……せっかくの海なのに……あ」
 紙姫の視線を察知したファリン(aa3137)は首を横に振る。
「わたくし、水着は、その……持ってきておりません。夫になる方以外には肌を見せたくありませんの」
 えーっと残念そうな顔をする紙姫。
 ヤン・シーズィ(aa3137hero001)は、紙姫と話しながらちらりとキースを見たファリンに気付いた。
 ──出し惜しみしても、機を逃すだけなのではないのかな。
 ファリンの『お兄様』は彼女の感情を興味深く見守る。
「うむむ。せっかくの海なのになあ」
 結局、エージェントたちは鴬華たち以外はしっかりといつも通りの服装で、事ファリンに関しては。
『彼らに何かあれば、つまらぬからな。行こう』
 急かすヤンに頷くファリン。
 洞窟用のランタンを用意し、海底地形図をダウンロードしたスマートフォンをしっかり握る寸胴の着ぐるみペンギンがそこには居た。「スペシャルズ・ペンギンドライヴ」はエージェント用に開発された戦闘用ペンギンの着ぐるみである。魔法攻撃に高い耐性を持ち、ライヴスによって中は非常に暖かい。優秀ではあるが水着回に露出ゼロの構えの装備である。
「海、なのになあ」
 残念ながら、紙姫の呟きは潮風に吹き飛ばされた。
「こころ様の消耗が気がかりですわ」
「潮の満ち干きも予測されます、手早く済ませましょう」
 アイオールと話しながらペンギン──もとい、ファリンは穴の中へ腹這いで飛び込む。素晴らしいスピードで滑走する着ぐるみペンギン。
 そして、エージェントたちは水晶のウォータースライダーを滑り降りた。
 小さな悲鳴が次々と上がり、洞窟へと滑り落ちていく。
『海底洞窟探検も面白そうだよね。仕事後は海で遊びたいな』
 紫苑の言葉にバルタサールは軽く額を押さえた。



●輝く海底洞窟
 派手な水飛沫を上げて、次々砂地に着地するエージェントたち。
「薄暗いな。ウェポンライトを持ってきて正解だった」
 周囲が明るく照らされ、共鳴して女性へと変じた藍の姿が浮かび上がる。
『きれいな洞窟ですね……』
 思わず感嘆の吐息を漏らす禮。
「そうだね、これは水晶……?」
 ウェポンライトの光を弾いて壁に埋め込まれた結晶や鉱石が眩しく輝く。まるで豪奢な宝石箱に紛れ込んでしまったかのようだ。
「素晴らしいね! こんな美しい景色を見ることが出来るなんて。余裕は無いのかもしれないけど」
 目を輝かせて、輝く洞窟内の美しい景色をスマートフォンのカメラに写真を収める、共鳴したリュカ。
「ふむ、普通の洞窟ならゆっくり眺めるのもよかったのかもしれませんね」
 感心したような構築の魔女の横で落児も周囲を見渡す。
「なんだか不思議な場所、ですね」
「気になるではあるが、今はこころ達と合流を急ぐ」
 ユエリャンが警告に我に返る征四郎。
「これは……霊石でしょうか」
 壁に埋まった輝石を調べていたキースが頭を捻ると、ファリンも彼に倣って観察する。
「霊石、もあるように見えますわね。この石たちは元々ここにあるものではなくてドロップゾーンの副産物だとは思いますが」
「少し持って行きましょうか」
 藍は洞窟の気温に気付いて顔を顰める。
 ──ここは寒い。リンカーでないこころさんには少々つらい環境だろう。
「もっと見物していきたいところだけど、今はこころさんの救助を急ごう」
『早めに保護したいですね……』
 禮も藍の抱いた懸念に気付く。
 入り口を見上げるユエリャン。陽光を弾いて光るトンネルと切り取られた空が見える。
「これは、帰りは使えなさそうな道であるな……」
 トンネルに一本のロープが揺れる。構築の魔女が念のために入り口へザイルを打ち込み、ロープを結んで垂らしたのだが、この狭いスライダーをこころを連れて登るのはだいぶ骨が折れるだろう。
 もちろん、それはロープを垂らした本人もわかっているようだった。
「岩陰にデバイスの明りやライブスの反応がないか注意しましょう」
 構築の魔女は慎重に先を調べる。
 征四郎も共鳴するとノクトビジョンでまだ光が照らしていない暗い道の先を探る。
「光源は──ウェポンライトをお持ちなのは木霊さん、海神さん、ファリンさんはサバイバルランプ。ガンライトは私とロロッカさん、レイさん。エリスヴェータさんはフリーオロッドですね」
 光源の位置を考慮に入れた隊列を提案する構築の魔女。
「敵はいないようだね。光を弾くのはあの石が──あっ!」
 レーダーユニット「モスケール」を着けて索敵するリュカだったが、濡れた床面に脚を取られて転びかける。それを慌てて支える構築の魔女。
「滑るので足下に気を付けてくださいね」
「走るのは難しそうです」
 キースは全力移動を諦めてガンライトで進行方向を照らす。
 代表してこころたちと連絡を取っていたファリンが届いたメールを読んで眉を顰めた。
「待機とこころ様の護衛をお願い致しましたが……」
「迷う時間が惜しいな。痕跡を辿ってみよう」
 分かれ道の前で《マナチェイサー》を使う藍。ライヴスの残滓が感じられる方を禮が示す。
『クレイさんのライヴスはこっちですね、急ぎましょう』
「便利だな」
 分岐に印を付けるバルタサール。
「一刻を争う状況のようだけど、ミイラ取りがミイラになんて洒落にならないもの。焦らずに行くしかないわね」
 鴬華もシーフツールを用意する。
 ふと、征四郎が足を止めた。
「水音……川でしょうか?」
 洞窟は更に狭くなっている。征四郎が《鷹の目》で呼び出した渡り鳥が先行し、その進行方向をウェポンライトで照らす。
「ああ、川がありますね。薄暗くて道も細いので注意が必要です」
 鷹の目の視界は鳥目ではないが人と同じ程度しかない。見えないなりにも川の流れが速いのは解った。
「床面に傷をつけて凹凸を作るのもありでしょうか? ……傷つけばですが」
 壁にアンカーを打ちロープを張ると、構築の魔女はロケットアンカー砲を打ち出した。手ごたえを感じて更にそれにロープを結ぶ。
「こちらもなんとか固定できるわね」
「よろしくお願いしますね」
 鴬華が構築の魔女の張ったロープをシーフツールの楔で固定していく。
 今まではどこからか入った陽光を弾いてまだ少し明るかったのだろう。分かれ道を進むと闇が濃さを増した。
 川の水は海水らしいがあまり磯の香りはしなかった。ただ、激しい水音が闇の中で反響する。
「いよいよ冒険って感じでわくわくするね」
 そう言って踏み出したリュカの足が滑った。
「危ない!」
「リュカ!」
 征四郎の悲鳴、鴬華のロケットアンカー砲がリュカを捕らえる。
「こっちも滑るようだから気を付けないといけないみたいです」
 ALブーツ「レイジャル」を履いて水上を歩いていたキースがリュカを抱き留める。彼のガンライトの明りを眩しそうに見上げながらリュカは礼を述べた。
 予期せぬことだったが、ファリンの心が思わず乱れた。
 ──キース様、わたくしには触れてくださらないのですよね。他の方には気軽にお触りになりますのに。滑るからと、手を繋ぎたいと言ってみましょうか……。
 いじらしく煩悶する乙女に共鳴状態のヤンは無情にも言い放った。
『残念だが、あちらは川の上のようだぞ』
 リュカを下ろしてそのままALブーツで先に進むキース。その後姿を切なく見送るファリン。
 ただし、ずっとペンギンの着ぐるみ姿である。


「これか」
 バルタサールが進路を遮ってせり出した巨大な岩を叩く。
 僅かな隙間から向こうに道が続いているのが見える。川の流れも緩やかだった。
「まだ敵は居ないようだけど」
 モスケールを使って確認しながら、少し困ったようなリュカ。
「なら、仕方ないな」
「きゃっ!?」
 突然、脱ぎだしたバルタサールに征四郎とファリンが思わず慌てたが、彼は下に履いていたサーフパンツ姿に変わっただけだった。幻想蝶へ装備を仕舞う彼を見て、鴬華とアイオールも共鳴を解いて水着姿へとなった。
「寒いわ。こういう時、英雄は便利なのね」
「さっと泳いでしまいましょう?」
 海水の中に滑り込む三人。
 いつの間にかミズクラゲの水着を纏った構築の魔女が後に続く。幾重にも重なった海月の膜のようなそれが水中に入ると放射状に広がる。見えそうで見えない。
『に、兄さん』
 禮に藍は頷いた。
「流れもそう早くないし、このままさっと潜り抜けてしまおう。黒き人魚のエンブレムを持つ者として」
 しかし、城のような非常に重い鎧、カステールメイルだけは一旦仕舞った。流石に人魚でも溺れてしまう可能性がある。
 水の中は非常に穏やかで、むしろ、水上より温かい気さえした。海藻をかき分け、色とりどりの小さな魚たちを追いかけるようにして、短い潜水を楽しむ。
 ニクスアイトリアゴーグルで視界を確保した構築の魔女が先に潜った仲間たちの浮上地点を見極めて、後ろに続く仲間たちへと合図する。ざばりと上がった彼女はタオルケットで水滴を拭うと素早く着替えた。
「辺りの雰囲気をみると……そろそろクレイさん達が近いでしょうか?」
 まだ狭い洞窟が続く。構築の魔女は戦闘に際しての隊列の変更を提案した。
「ここが、先ほど連絡があった場所の近くだと思うんですけどね……?」
 通常装備へと付け替え、自身の冷えた身体を温めるために珈琲で暖を摂りながらキースが周囲を観察する。ごつごつした岩が見えるばかりで人影はわからない。
『お二人さん、早く見つけないと……』
「ここは寒いですし、低体温も心配です。少し危険ですが……カメラでフラッシュを焚いてもらうのはどうでしょうか」
 紙姫の不安を察してキースが提案した。
「そうですね、光るもので合図があれば。音でもいいですがこの距離なら何か居てもすぐに対応できます」
 征四郎がそう言うと、ファリンがクレイたちへメールを送る。
「ウツボとは穴に棲むものですわよね? この先にあるのは、頭でしょうか、お尻でしょうか」
『尻なら先手を打てるのだがな』
 返事を待つ間、呟いたファリンの言葉。それに応えたヤンの声が聞こえたわけではないのだろうが、征四郎と共鳴していたユエリャンがああそう言えばと一人納得した。
「どうしたのです?」
 その時、冷えた身体をサバイバルブランケットを羽織って温めていたバルタサールが少し先を指差す。
 光が小さく点滅している。
 駆け付けるリュカ。
「こころちゃん無事!? 年頃の男女二人が遭難なんてお兄さん心ぱ……」
「煩いのがすまない、大丈夫か」
 戦闘の気配を感じて、リュカの主導権がオリヴィエへと移った。
 パーカーを羽織ったこころを抱きしめていたアーサーが顔を上げる。
「こころさんが」
 動揺した声はクレイのものだ。
 バルタサールが水筒の水を紫色の唇から流し込むと、咳込むこころ。
「さむくて……」
「あなたがこころさんですね、お兄さんが心配してましたよ?」
 目を開けたこころへ藍がチョコレートを渡す。キースも彼女へ温かい珈琲を勧める。
「あ──ありがとう」
 彼女の頬に血色が戻ったことを確認した征四郎は安堵した。
「無事で何よりです」
「これを着なさい」
 鴬華が防寒具一式を取り出して手早く彼女の身体を温める。
「甘いものも少し食べてくださいね」
「禮、話は後だ……あれを仕留めないと」
 固い藍の声に禮はすぐに彼と共鳴する。
 洞窟の奥から凄いスピードで水を弾く音が聞こえた。



●従魔マレイ
 激しい水音が大きくなり、暗闇が迫って来た──いや。
 黒い闇にぬっと二つの巨大な魚眼が浮かんだ。
 警戒していたバルタサールが《フラッシュバン》を放った。閃光から目を背けたエージェントたちは直後に距離を取る。
 視力を奪われたマレイの白く内側に折れた牙が並んだ口が迫る。
「くっ」
 動きの遅いこころたちを庇ったファリンを僅かに牙が掠った。
「大物だね、これは槍も大きくしないと、かな」
 青い穂を持つ槍「黒鱗」でその攻撃をいなして回避する藍。大きく後ろへ跳びながら《銀の魔弾》をその口へと撃ち込む。
『”おさかなも突ける優れもの”でウツボが突けぬ道理はありません!』
 ガンライトの光が従魔マレイの目を焼いた。
「これで従魔が音かボクにおびき寄せられれば僥倖なんですが……!」
 キースの思惑通り、彼を追うマレイ。キースはHephaistosの銘の入った天弓に矢を番え、威嚇射撃を行う。
 その隙にオリヴィエが学生たちを少しでも奥へと逃がす。彼らを護衛しながらファリンが《エマージェンシーケア》でこころの体力を回復する。
「あとの保護や移動はクレイさんに依頼すれば大丈夫でしょう」
「戦うのは、征四郎のやるべきことですから!」
 ガンライトでしっかりとマレイを照らした構築の魔女は眼孔を狙う。強力な一撃は狙い過たず片目を抉った。
 ノクトビジョンでマレイの全身を捕らえつつ、《潜伏》を使った征四郎は暴れるマレイの後ろ側に回る。
 ──不意打ちを狙って、なるべく大きなダメージを。
『ウツボの急所は肛門らしいが』
「そう言われるとちょっと狙いにくいのですが!!!」
 スカーレットレインの隠された銃口から火花が吹く。
 キリオススーツに着替えた鴬華がすっと背筋を伸ばして呪符「氷牢」を掲げた。
「相手の土俵に上がる馬鹿はおるまい」
『焦らず、急がず、ゆっくりと……ウフフ』
 砕ける符。中空に現れた氷の杭が次々にマレイへと突き刺さる。
 声無き従魔の悲鳴が洞窟内の空気を震わせた。
 後退しつつ、鴬華は《高速詠唱》へと移る。
 エージェントたちの攻撃で両眼を潰されたマレイは滅茶苦茶に噛みつきと岩肌にぶつかり洞窟を震撼させながらの体当たりを繰り返した。
 影渡りで避けた征四郎だったが、狭いここでは征四郎も他のエージェントたちも巨大なマレイの身体を全ては避けきれない。だが、それはマレイも同じであった。
 《弱点看破》を使ったバルタサールが短く叫ぶ。
「コイツの弱点は尻と口内だ!」
 鴬華が《ゴーストウィンド》を放った。
 外骨格式パワードユニット「阿修羅」を装着したオリヴィエ。
「行ってくる」
 射線が通るように突き出た岩に飛び上がる。しかし、LSR-M110から弾丸はふっと消えた。
 直後にマレイが壁へとガツンとその身体を打ち付け暴れた。《テレポートショット》だ。
「また、明りの方向から来ます……気を付けてください!」
 《ダンシングバレット》で敵を翻弄した構築の魔女が警告を発する。
『……其れは暗き嵐を穿つ一条のひかり。……いけます!』
 禮の声に藍の視線が光の中のマレイを射貫く。
 エージェントたちが道の両端に避けた。
 同時に《サンダーランス》が洞窟内を直進する。雷を束ねた雷槍が従魔の口からうねる体内を貫いた。



●夏の名残、浜辺にて
 こころが落ち着くのを待って彼らは更に先へと進んだ。
 洞窟の果てでは大きな魚が泳ぐ大きな水たまりがあった。
「ここから外へ出れそうですね。海上まで五メートルはありそうですわ」
 海底地形図を眺めて水深を測るファリン。海上で待つ船にはすでに連絡を取っている。
「俺は泳げない」
 共鳴を解いたオリヴィエがポツリと言った。
「お兄さんも! ま、是非もないよね!」
「泳ぐのなら、任せてください!」
 胸を張る征四郎を見て軽く頷くキース。
「ふたりは征四郎に任せますね。こころさんは」
「少しならこれで持ちますわ」
 キースの視線を受けて、ファリンは用意した穴を塞いだパンプキンヘッドと首回り用のタオルケット、それから浮き輪を取り出す。
「迎えの船にシュノーケルマスクやベスト、足ヒレを積んでもらって、エージェントが取りに行けば……」
「簡易潜水器具なら借りて来たよ」
 バルタサールとリュカが話していると、紫苑が割って入って提案する。
「クレイが、こころを抱えて浮上するのがいいんじゃないかな? こころが嫌じゃなければ。知れないエージェントに抱えられるよりマシだと思うし。僕たちは他に危ないのが隠れて居ないか見張ってるから、安心して?」
「え!?」
「わたくしも付き添いますわ」
 ファリンがそっと申し出ると、「そ、それなら」とこころは頷いた。
「そろそろ、行くわよ」
「迎えも来ているでしょうしね~」
 共鳴を解いて水着姿になった鴬華とアイオールが水へ飛び込む。
 浮き輪を一旦幻想蝶に仕舞ったファリンはクレイと共にこころの腕を掴むと、彼らはざぶんと心地よい海水へと飛び込んだ。
 鼻先を驚いた魚が逃げて行った。


「無事に終わって良かったわね」
 リアデッキで髪の水滴を払う鴬華。
 その艶やかな姿に目を奪われたアーサーを押しのけ、共鳴を解いたクレイがこころへ駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
「うん……」
 防寒具に包まってだいぶ回復したこころだが元気なく頷く。
「自分がリンカーであれば、もっと楽に潜り抜けられたのではないかと君は思っているかもしれないが」
 不意に頭上から芝居がかった口調で語り掛けたのは共鳴を解いたユエリャンだ。振り仰ぐと彼はヒールのせいでいつもより更に背が高く見えた。
「──適材適所なのだ。そしてそれは、それでいい」
 いつもの尊大な口ぶりではあったがそれが優しくこころの耳に響いたのは、彼女が抱いたものがユエリャンも良く知っている感情だったからかもしれない。
 現世界に現れる前、彼が居たのは戦争の最中だったと記憶している。そこで、外に出ることもままならず力になれなかった彼は武器を作ることに従事した。
「どの世界においても。無力を知る者こそ、最強の武器を作るであろうよ」
 キースがこころの隣にしゃがみこんだ。
「洞窟の中で拾ったんですけどね。これ、AGWに活用できそうですか?」
 彼女が武器を作ることを彼らは学生たちから聞いて知っている。彼は洞窟で得た輝石を渡した。珍しいそれにこころは目を輝かす。
「すごい! そうね、これなら……」
 様子を見ていたリュカが、船べりに寄りかかりながら悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
「そうだ、無事戻れたし、お兄さんが何か奢ってあげる。今回は大変だったろうしね」
 アーサーが軽く手を合わせた。
 そして、まだだいぶ離れていたはずの砂浜でわっと学生リンカーたちが沸き立つ。
「神様!!」
「お腹ぺっこぺこでした!」
「え、えええ? 待って、せめて金額上限は決めて欲しいな!」
「あっちに海の家とコンビニが」
 こころも両手を合わせてにっと笑った。
「ごちになります! リュカ先輩!」
 ファリンが船に積んだウツボの切り身に目を落とす。
「海の家があるなら調理をお願いできますわ。和風にタタキでしょうか」
「油追湯か? 汁蒸油追でも良いのではないかな」
 中華風の澄まし汁に野菜とウツボ、もしくは蒸籠蒸しを思い浮かべるヤン。


 船が停泊すると、アーサーはクレイを引っ張って走って行った。買い出しに向かうためである。
 こころはと言うと船の上で冷えた身体を温めて休んでいた。
「どうぞ」
 構築の魔女がH.O.P.E.ボルシチを渡すとこころは礼を言った。スープの温かさが身体に染みる。
「そうだ、心配してるだろうな」
 藍はスマートフォンを取り出すと信義へこころへの救出が無事成功したことを伝えるメールを送った。
 即座に返信が届く。
『すまない。愚妹が迷惑をかけた』
 短いながらも珍しい信義からの返信に藍は目を丸くし、禮と顔を見合わせた。
「こころさん、家族は大切にね」
 妹のような存在を知る藍が微笑んでそう言うと、こころはきょとんとした。
「くそ兄貴のこと?」
 彼が兄の知人だと思い出して慌てて口を押さえるこころ。
 浜辺で大皿を持ったファリンが船上へ声をかけた。
「ウツボの準備ができましたわ」
「食べるんだ」
 顔を強張らせたこころへファリンがにっこりと笑った。
「美肌効果に超期待! ですわ」
 飲み物とおでんやウツボ料理などが並んだ簡易テーブル。
 紙皿を持つ鴬華やユエリャン、紫苑の整った肌に気付いた女子学生たちは船上のこころを引きずり下ろした。
「──ロ」
「行きましょうか」
「そうですね!」
 くすくすと笑う構築の魔女に誘われて、禮や藍たちも砂浜へと向かう。

 夏の終わりの海での一日はこうして賑やかに幕を閉じた。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 全てを最期まで見つめる銀
    ユエリャン・李aa0076hero002
    英雄|28才|?|シャド
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • マーメイドナイト
    海神 藍aa2518
    人間|22才|男性|防御
  • 白い渚のローレライ
    aa2518hero001
    英雄|11才|女性|ソフィ
  • 危急存亡を断つ女神
    ファリンaa3137
    獣人|18才|女性|回避
  • 君がそう望むなら
    ヤン・シーズィaa3137hero001
    英雄|25才|男性|バト
  • 天秤を司る者
    キース=ロロッカaa3593
    人間|21才|男性|回避
  • ありのままで
    匂坂 紙姫aa3593hero001
    英雄|13才|女性|ジャ
  • Trifolium
    バルタサール・デル・レイaa4199
    人間|48才|男性|攻撃
  • Aster
    紫苑aa4199hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • 平伏せ、女王の足元に
    鴬華・エリスヴェータaa4920
    人間|26才|女性|命中
  • 真っ黒なドS
    アイオール・ハーシェヴェルトaa4920hero001
    英雄|27才|女性|ソフィ
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