本部

【森蝕】連動シナリオ

【森蝕】深き森の中で従魔達を倒す依頼

岩岡志摩

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/08/31 11:18

掲示板

オープニング


 エージェント達は呆然とした。
 発端はH.O.P.E.に届けられた謎の電子メッセージ。暗号で構成されたそれを解析した結果、いくつかの画像、過去の事件の報告書、そして電子メッセージの送り主……エネミーからの声明である事が明らかになった。
『もうすぐギアナ支部から応援要請メールが届きますよ』
『だって、彼らのそういった連絡を止めてたのは私ですから』
『「今、我々は【絶零】や【屍国】で忙しいから応援なんて出せません」……と、代わりにお返事しておきました』
 そして入れ替わるように届いた、ギアナ支部からの協力要請。
 エネミーの言葉が正しいとすれば、【絶零】と名付けられたロシアでの一連の事件……その頃からギアナ支部は何らかの危機に見舞われており、H.O.P.E.に救援信号を出し続けていた事になる。そしてその叫びは届く事なく、エネミーの手によりことごとく握り潰されていたのだ。
 すぐさま返信を行ったが、ギアナ支部からの応答はなし。まさか今の要請は最期の力を振り絞って……嫌な想像が頭を過ぎる。
 H.O.P.E.は動ける人員を掻き集め、すぐさまギアナ支部へと送った。もし危険が迫るような事態であったら引き返すように言い含めて。
 そしてギアナ支部に到着したエージェント達は、目の前の光景に呆然とする事になる。

●ひたすら従魔達を倒す依頼
 この依頼を斡旋するポルタ クエント(az0060)は、それまで世界を飛び回っていたが、最近任務を終えH.O.P.E.ギアナ支部に帰還した経緯があったので、昏倒し昇天5秒前な他の職員達とくらべ、まだ余力はあった。
 ポルタの操作でスクリーンにジャングルの地図が映し出され、一部の区域に絞られる。
「今回皆さんにお願いしたいのは、別個に出た依頼における別働隊として、この区域に現れる従魔達を一定の間、撃退する事です」
 今回別働隊が必要になった依頼というのは、外部に出たまま連絡が取れなくなったギアナ支部エージェント達の救助や保護、調査と哨戒を行うもので、そちらには既に募集に応じたエージェント達が現地に向かっている。
 その依頼と前後して複数の従魔達がギアナ支部エージェント達救助依頼を実施する区域の近くで活動しているという情報が入り、ギアナ支部では職員達が現在疲労困憊で自前での別働隊は出せない状況のため、今回ポルタが緊急に依頼を斡旋した次第だ。
「エージェント救助依頼が達成されたとの確認がとれ次第、皆様に作戦終了と皆様の退却開始の連絡をいたします」
 敵の殲滅ではなく撃退に留めているのは、敵従魔が人型で複数存在するということ以外の詳細や数が不明であるからだ。
 ポルタは『あなたたち』を見渡した後、頭を下げる。
「情報も人手も心もとない状況で申し訳ありませんが、どうかよろしくお願いします」

解説

●目標
 ギアナ支部エージェント達を救助する依頼が完了するまでの間、指定区域に現れる従魔達を撃退する

●登場
 従魔
 出現する従魔達は人型で推測ミーレス級以下。恐らくPC達にとって従魔単体は脅威ではない。
 PL情報:武器を持たず素手で攻撃する。数が多い。

●状況
 南米のジャングルの1区画。範囲は判定上無限。天候は晴れ。作戦時間は日中。無線貸与済み。
 以下簡易図。従魔達は『あなたたち』から見て前方からやってくる。

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 ↓:従魔
 □:森

リプレイ

●迎撃準備
 密林を駆け抜ける風は、不穏の匂いを孕んでいた。
 昼間でも見通しの悪い密林の向こうから何かが伝い来るのか、鋼野 明斗(aa0553)はため息をつき、予めコンビニで購入していたミネラルウォーターで喉を湿らせた。
「……確かに、緑が多い場所がいいな、とは言ったが……これは違うだろ……」
 すぐ近くにいるがいつ従魔が現れるか分からぬ中、ラジオ体操中のドロシー ジャスティス(aa0553hero001)や周囲を見渡し、再度ため息をついた。
 ジャングル特有の空気の壁を押すような高い湿気が、明斗達に影響を及ぼすものではないが、明斗にとってここは自然が豊かすぎた。
 そんな明斗に向け、準備運動を終えたドロシーが満面の笑顔でスケッチブックに何かを描いて掲げる。
 ドロシーのスケッチブックには『自然沢山 正義完遂!』という文字が描かれていた。
 ――秋斗の希望に添えて、自分も正義のために戦える。
 そう言わんばかりのドロシーの笑顔に、付き合いのいい明斗は『……わかった。やるよ』と面倒なそぶりを見せつつも同意し、ドロシーと共鳴する。
「依頼自体はシンプルですねー。ただ従魔を倒せば良いだけですか」
「情報が少ないから何が待ってるか分からないよ」
 ノア ノット ハウンド(aa5198hero001)が軽めの口調でそう呟く中、紀伊 龍華(aa5198)は現れるのが人型の従魔という情報から、龍華は【屍国】の事例もあったので、いやな予感を振り払えなかった。
「……覚悟はしておこう」
 決意――。
 立ち向かわねば、自分達がやられる。
 恐怖――。
 何かの命を奪うことになるかもしれない。仲間の足手まといになるかもしれない。
 覚悟――。
 今後何が待ち受けていようとも、喜んで泥を浴び、なした結果を背負おう。
 そう決めて、龍華は静かに自分を見守っていたノアと共鳴する。
 同じような懸念は一ノ瀬 春翔(aa3715)も抱いており、傍らにいるエディス・ホワイトクイーン(aa3715hero002)に向け、疑念を呈する。
「未確認ながら、連絡がつかない集落があるらしい、とギアナ支部は言っていたよな。そして今回対峙する従魔というのが人型だって話だ」
 現在その集落には先に出発した調査依頼に参加したエージェント達が向かい、調査するという事だ。
「それが、どうしたの?」
「関連がありそうな話だと思わねえか」
 そう言った春翔だったが、調査に出発したエージェント達からの情報は未だ支部に届いておらず、確証のない今は推測に留まる。
「でも……」
「ああ。情報が少なすぎる。ま、頭の片隅にでも突っ込んでおこうぜ」
 何か言いたげなエディスを制し、春翔はエディスと共鳴する。
 一方でアリス(aa1651)とAlice(aa1651hero001)は、対峙するのが何であれ、その方針を統一していた。
「エネミーが関わっているとはいえ、ここら辺にラグナロクもいると思ってたんだけど……人型の従魔、ね」
 アリスは今までに本部に届いたメッセージから、ラグナロクの関与も疑っていた。
「従魔の正体がなんであるかは私達には関係ない。今、従魔として敵対するなら灰燼に帰すだけ」
 Aliceの方針は揺るがず、アリスも『目標はオーダークリア。あとは情報の収集ね』と返し、アリスとAliceは共鳴する。
「……絶零作戦から、つかの間の休息でしたね」
「ヴィランのラグナロクにマガツヒか……。どちらも放置はできんな」
 月鏡 由利菜(aa0873)とリーヴスラシル(aa0873hero001)は、これまでにギアナ支部絡みで名前の挙がっているヴィラン組織の関与を疑い、この依頼に参加していた。
「ええ。選民思想に無差別破壊主義など、受け入れられません」
「だが今はその情報も不足している。この戦いで手がかりとなるものを見つけ出すとしよう」
 リーヴスラシルの宣言に由利菜は頷き、両者はリーヴスラシルの世界の作法に則る形で共鳴する。
 そんな中、天城 稜(aa0314)の意を受けたリリア フォーゲル(aa0314hero001)は、稜がギアナ支部より暫時借用したウェアラブルカメラを仲間達に配布して回っていた。
「今回敵の情報を集める必要がありますので、ご協力をお願いします」
 なお稜は借用時に『今回のみの特例。必ず返却。いかなる理由であれ破損した場合は弁償』という内容の誓約書をかわしており、責任重大であったが、今はカメラの配布をリリアに任せ、戦闘に巻き込まれないと思われる木々の幹に持参したスマートフォンを括り付けていた。
「こうしておけば、戦場全体の様子も撮影できます」
 稜は今回戦闘の他にあらゆる角度から従魔達の情報を集めようとしており、準備と配布を終えた稜とリリアは共鳴する。
「ウェアラブルカメラを借りる事ができて良かったよ。戦闘中の様子を録画することができれば、支部に戻ったあと相手がどんな奴か解析する事に役立ちそうだし」
 スネグラチカ(aa5177hero001)が稜から借りたウェアラブルカメラを雪室 チルル(aa5177)に取り付けながら、そう言ったのを、チルルは賞賛する。
「それは言いやり方ね! さすがあたいの誓約した英雄よ!」
「ちょっと、真顔でそんなこと言われると照れるよ……」
 チルルの賞賛に照れながらもスネグラチカはチルルと戦闘方針を確認する。
「基本的に敵は深追いせずに、味方の作戦が完了するまで戦線を維持する形になるかな」
「多数で攻めてくる可能性を考慮すると、退却用に範囲攻撃は残しておいたほうがいいんじゃかな」
「わかった。その手段は一部温存しておくね!」
 元気よくチルルはスネグラチカからの助言に応じ、共鳴する。
「敵の目的が何かはまだ掴めない段階での迎撃作戦ですか」
 今までに判明している情報を確認した晴海 嘉久也(aa0780)は、今回の任務内容をそう評しつつも、エスティア ヘレスティス(aa0780hero001)と手分けして今回の敵従魔迎撃における陣形について、仲間達に説明していた。
 基本陣形は、前衛と後衛役がそれぞれ前後の列となって並ぶ横陣。
 前衛の列が壁となって敵を防ぎ、後衛が支援。側面には中衛もこなせるメンバーが時々配置、という基本的なものだ。
 陣形を組む話は明斗、チルルが賛意を示し、龍華は指示には従う姿勢、他の仲間達も基本的にはその陣形をとるとの回答が嘉久也に寄せられ、エージェント達は嘉久也の提唱する横陣を構築していく。
「陣形がシンプルだったので、皆さんも受け入れやすかったようですね。頑張りましょう」
「まあ、わたしも前衛ですがね。冷静に動かないと立場を危うくしかねませんからね……頑張ります」
 エスティアの言葉に嘉久也はそう応じ、共鳴する。
 やがて木々の向こうから、どこか輪郭がいびつな人型の怪物――従魔達が現れ、正面からは踏みにじった植物の飛沫をあげ、密林の上からは足場となる木々の枝から枝を飛び伝い、攻め寄せてくる。
 いずれの従魔達も、顔や身体のいたる部分を何かの悪意が、様々な獣の各部品とつけ替えたような姿をしていた。

●開戦
 最初の攻撃は、従魔達の数の多さに舌打ちした春翔からだった。
「チッ……多いな」
(行こうか、おにぃちゃん)
「ああ」
 内にいるエディスの呼びかけに応じると、春翔は『白薔薇の槍(クイーンズランス)』の呼称がある自身のSVL-16+3を構え、その照準が先頭の従魔の頭を捉える。
 春翔とエディスが心中で必中とみなす像と、照準に映る従魔の頭が重なった時、SVL-16+3の引き金が引かれ、発射焔がほとばしる。
 春翔より放たれた銃弾状ライヴスが、先頭を走る従魔の頭に直撃し、頭を吹き飛ばされた従魔は塵を噴いて消える中、近くにいた稜とその内にいたリリアは敵の数の多さに辟易していた。
「うわぁ……何あの数……」
(流石に、数が多いですね)
「でも、情報は集めないとね……。取り敢えず……遠距離から始めていこう」
(まずは敵従魔の防御力から確認しましょう)
 内にいるリリアとそんなやり取りをかわしながらも、稜はそう言って《白鷺》/《烏羽》+3を顕現し、《白鷺》を上から来る従魔に向け投擲した。
 宙を稜の《白鷺》の光が駆け上がり、その秋霜の穂先が身体ごと稜に向け落下していた従魔の腹を貫いた。
 腹に大穴を開けた従魔が塵をあげて大地に叩きつけられて消える中、稜の手に先程投擲した《白鷺》が帰還する。
(物理防御はほぼ皆無のようですね)
「次は魔法防御の確認……と」
 多数の従魔が殺到する中、リリアと稜は冷静に武器をイジェクション・ガン+3に切り替え、敵にダメージを及ぼすライヴスを含む劇薬入りの薬剤弾を構築し、次の従魔にイジェクション・ガンの筒先を向け、発砲する。
(ユリナ。敵の群れを後方へ通すな)
「陽動法陣、展開! 防衛ラインを押し上げます!」
 内にいるリーヴスラシルの助言に従った由利菜は、仲間達が多方面から攻撃できる様立ち位置を調整した上で守るべき誓いを発動し、周囲や前方から来る従魔達の敵意を絡め取り、自分へと向けさせる。
 由利菜の守るべき誓いによって、従魔達は爪を振りたて由利菜に襲いかかるが、いずれの攻撃も由利菜を護るリーヴスラシルの加護を突破できず、かえって由利菜によって従魔達の突進が力づくで押しとどめられた。
 由利菜の守るべき誓いの効果範囲にいなかった従魔達は迂回を試みるが、その先ではユートピアシールドを構えた龍華が立ち塞がり、後方で明斗の構えるアーバレスト「ハストゥル」が待ち構えていた。
(覚悟はいいですかー?)
「……ええ。ここで食い止める」
 内からのノアの声に、龍華は頷いてそう応じ、決死の表情でユートピアシールドを押しだし従魔達を押し返すと、ライヴスショットを発動する。
 押しとどめられた従魔達の中に、龍華のライヴスショットの爆発が炸裂した。
 爆発音が巻き起こり、龍華のライヴスの爆風に従魔達が吹き飛ばされる中に、弓弦が矢を放つ響きが混じり、明斗の構えるアーバレスト「ハストゥル」が爆発を免れた従魔の1体を射抜いて塵と化す。
「後方にいる味方のもとには行かせません」
 明斗は正確無比な矢状ライヴスを射てよこし、従魔達を次々に射倒すことで前方の龍華や後衛の仲間達を援護する。
 その間にアリスが従魔達の群れに向け、サンダーランスを発動した。
(情報収集も並行して行わないとね)
「今のところ、従魔達は統率されてはいないみたいね。指揮官も見当たらない」
 アリスとAliceが把握できる情報をそれぞれ確認する間にも、アリスの前方に稲光が編み上げられ、雷電の槍を構築すると、アリスのサンダーランスが灼熱の軌跡を走らせ、射線上にいた従魔群を貫通した。
 アリスのサンダーランスに貫かれた従魔達は、悲鳴を上げる間もなく砕け散り、塵を撒いて消えていく。
 アリスがこじ開けた空隙を埋めようと従魔達は動くが、そこへ嘉久也が追撃を重ねる。
(これだけの従魔をどのように用意したんでしょうか)
「どうもこれらの従魔達は捨て駒っぽいですね」
 携帯品よりカチューシャMRLを取り出した嘉久也は、周囲で従魔達を撃破し続ける仲間達の奮闘ぶりを確認すると、内にいるエスティアに自分なりの分析結果を伝え、カチューシャMRLを従魔達に向ける。
(そうだとしますと、これだけの数の敵をどうします?)
「まあ……相手が何であれ、戦闘不能にすることが第一なので、やる事は変わりません」
 敵の数の多さと、恐らくその背後にいるであろう黒幕の悪意を警戒しつつも、嘉久也はそうエスティアに応じ、カチューシャMRLの引き金を引く。
 その直後、嘉久也が火焔となった。
 そう思わせるほどの炎の尾を曳いた多数のロケット弾状ライヴスが、嘉久也から一斉に放たれる。
 苛烈な発射音に続いて、大気を裂く飛翔音を撒き散らし、無数の嘉久也のロケット弾状ライヴスが従魔達のただ中に落下し、凄まじい爆発音が轟いた。
 従魔達の密集していた一帯が弾着の爆発に包まれ、直撃や衝撃波を受けた従魔達が粉砕され、塵と化し消えていく。
 嘉久也のカチューシャMRLの砲撃に鼓舞されるように、チルルもRPG-49VL「ヴァンピール」を従魔達に構える。
「この状況はどちらかと言えば陽動って感じが強いわね」
(しかし戦場の広さが少し厄介な気もするね。油断しないようにしないと)
「このあたいを誰だと思っているの? さいきょーの雪室 チルル様よ!」
(いや、それは知ってるって)
 内にいるスネグラチカとそんなやりとりをしながらも、チルルのRPG-49VL「ヴァンピール」が咆哮する。
 発射焔があがり、チルルのロケット弾状ライヴスが密林の中を閃き飛んで、チルルの砲撃にさらされた従魔達の中に、着弾の爆発が吹き上がる。
 着弾した周囲にチルルのロケット弾状ライヴスに込められた破壊力がぶちまけられ、衝撃波に寸断された従魔の体が木々の破片もろとも吹き飛ばされ、塵と化し消えていく。
 エージェント達は数の暴力を振りかざす従魔達を釘付けにし、押し返していた。

●多すぎる敵
 昼ごろに始まった交戦は、いまだ続いている。
 8組のエージェント達はおよそ2列の横陣を構築して遠距離攻撃を放ち、あるいは近接戦に持ち込んで頑強に立ち塞がっている。
 しかし従魔勢の勢いは衰えない。いくら倒されても新手の従魔達が森の奥より次々と現れては、由利菜の守るべき誓の効果がある空間に入ると、由利菜めがけて突進する。
「虚空の彼方へ還れ! セラフィック・ディバイダー!」
 そんな従魔達の対し、由利菜は既にリンクコントロールでレートを向上させた状態から、一閃を発動する。
 由利菜が改造し、金の鎖と赤味を帯びた【SW(剣)】レーギャルンより『ナンナ』の銘を冠するイリヤ・メック+2の剣身が鞘走り、飛燕の如く旋回して剣閃の弧を描く。
 由利菜の『ナンナ』は射程範囲にいた従魔達の腕を立て続けに斬り飛ばし、従魔達の切断面から由利菜のライヴスが浄化の光となって噴き上がり、そのまま従魔達は塵となって消え、由利菜の周囲が一掃された。
(ユリナ。数こそ多いが敵が弱すぎる。他の行動を引きずり出す前に、倒せるほど弱いとはな)
「これでは捕獲支援のために脚を斬り飛ばしても、そのまま倒してしまいそうですね。この従魔達は、『紛い物』にも関わりのある存在なのでしょうか?」
 リーヴスラシルは敵の脆弱さにそれ以上の解析を断念し、由利菜は攻撃による捕獲支援は威力が高すぎるとみなし、諦めた。
(捨て駒というところか。マガツヒにとってもやりそうなことだ)
「ラグナロクは私とラシルの誓約術と同じ名を騙るなど、不快極まります」
 由利菜はラグナロクを『その名を名乗る資格なき紛い物』と嫌悪し、リーヴスラシルは今回の従魔達にマガツヒの悪辣さが重なり、嫌悪していた。
(次は敵の突進を阻害。数が多いほど滞るはず)
「問題は拘束前に撃破されて消える事だけど……」
 Aliceからの指摘にアリスはそう呟くと、一番手前にいる従魔の脚に向け、呪符「氷牢」を顕現してライヴスを放つ。
 アリスから放たれた呪符「氷牢」のライヴスは宙空で氷の杭状ライヴスに変じて従魔の脚を貫き、従魔は貫かれた脚から塵を噴いて消えていく。
(アリス。攻撃を受けた時点で撃破されてしまうから、拘束は無理みたいね)
「懸念していた問題が発生。敵が弱すぎるようね」
 内からのAliceの指摘にそう応じ、アリスは拘束による遅延を断念してゴーストウィンドによる駆逐に移行する。
 アリスのゴーストウィンドが従魔達を抱擁し、その身を朽ちさせる中、嘉久也は武器をグランブレード「NAGATO」+2へと切り替え、近接戦に移行していた。
(範囲攻撃による引き寄せも、効果があったようですね)
「あとはNAGATOで切り結ぶという感じですね」
 内からのエスティアの声に嘉久也はそう応じ、従魔達を十分引きつけた上で怒涛乱舞を発動した。
 嘉久也のグランブレード「NAGATO」の光芒が5条の奔流を宙空に描いた瞬間、前方と上から嘉久也に殺到していた5体の従魔は、まとめて斬り飛ばされて吹き飛び、塵と化し消えていく。
(やっぱり一方的に遠距離から攻撃、という展開にはならなかったね)
「だとしても、あたいは近距離戦も得意なさいきょーだから問題ないよ!」
 内にいるスネグラチカから冷静に状況を分析する声が届いたが、チルルは臆することなくそう言ってウルスラグナを抜き放ち、従魔達に真正面から挑む。
 チルルは一陣の雪風と化して従魔に迫り、交錯した一瞬、チルルのウルスラグナが翻って宙空を裂き、従魔の首を刎ねていた。
 頭を失った従魔は塵を噴いて消え、チルルは次の従魔へ肉薄しウルスラグナを振るう横で、龍華も乱戦をこなす。
(ここまできますと防御だけでは難しいですねー。どうします?)
「……大丈夫だよ。踏み越える覚悟があればいいんだよね?」
 内にいるノアの問いに龍華はそう応じ、メギンギョルズ(+1)を拳に顕現する。
 迫りくる従魔の振り落とした爪をはね返した龍華の拳が唸りをあげ、従魔の顔の真ん中に、メギンギョルズを纏う拳が炎を巻くような勢いで激突した。
 肉がひしゃげ、骨が砕ける異音が響き、塵を噴いて従魔の体が宙を舞う。地面に叩きつけられた従魔が消滅する中、龍華は眼をそらさず次の従魔と対決する。
 その間にも明斗は、負傷した仲間がいればケアレイで治癒の光を飛ばし、治療に回っていたが、これまでに判明した仲間の負傷は余裕でカバーできる内容であり、敵の数は多いものの脅威となる個体はいないと判断できたため、今は自身も従魔との乱戦に加わっている。
「……本当に多いですね。緑以上に、従魔が。まあ倒しますけど」
 何かを振り払うような口調と共に、明斗の長巻野太刀「極光」真打は唸りをあげて旋回し、降り払われた刀身が明斗と切り結ぶ従魔の体を叩き斬る。
 明斗に両断された従魔が塵をあげて消滅する近くで、稜はイジェクションガンの薬剤弾の中身を調節しながら、従魔退治を続けていた。
(イジェクションガンの薬剤弾の効果はどれも同じ結果でしたね)
「一撃で消えてしまいましたから、どれが効果があるかわかりませんでしたけどね」
 リリアと稜は、敵がいずれも1撃で倒れるほど弱すぎたのでそれ以上の検証を止め、バニッシュメントを発動する。
 鋭いライヴスの光が稜より放たれると、射程範囲にいた従魔を直撃し、従魔は光を浴びて塵と化し消えていく中、術の反応が稜のもとへ届き、稜はライヴス通信機「遠雷」を介し仲間達に結果を伝達する。
「バニッシュメントによる識別では、敵は従魔です。愚神、邪英ではありません」
ライヴス通信機「雫」で仲間達との情報共有を心がけていた春翔は、伝達される敵の数の多さに戦闘方針を切り替える。
「裏にいる何か、が見えりゃ儲けモンだったがな……」
 現在までに春翔の他にも多くのエージェント達が戦闘の合間を縫いながらも従魔達の行動パターンやその戦法など様々な情報を得ようと戦い方を工夫していた。
 その結果、特に指揮系統も思考パターンも戦術もなく、ただ『ライヴスのある相手を襲え』という指示が与えられ放置された可能性が高いとの見解で、春翔と仲間達の分析は一致した。
 そこまでわかったところで、春翔は『ローズ・ペダル』の名を冠し、深紅のティアドロップ型へと改造した飛盾「陰陽玉」に武器を切り替え、ウェポンズレインを発動する。
 春翔の頭上に顕現した無数の『ローズ・ペダル』は、春翔の周囲にいた従魔達へと一斉に降り注ぎ、押しつぶしていく。
(降れ降れ花弁……抉って削って壊しちゃえ)
「撃退ってことを忘れんなよ。後ろの味方に当たらないようにな」
(わかってるよ。丁寧に、だね)
 内にいるエディスとそう言い交しながら、春翔はウェポンズレインの発動に味方を巻き込まぬよう、立ち位置を調整して敵を削り続けた。

●判明
 やがて8組のエージェント達のもとに、ポルタ クエント(az0060)から『調査依頼完了』の通信が届く。
「ようやくオーダークリアね」
(あとは退却に邪魔な敵を排除するだけよね)
 アリスとAliceはそう呟き、温存していたブルームフレアを従魔達の密集地帯へと発動する。
 アリスより放たれたブルームフレアが灼熱の乱舞と化し、追いすがる従魔達を包み込むと、絡め取られた従魔達は業火に焼かれ、塵と化して消えていく。
「退却時の殿(しんがり)はあたいにお任せ、だよ!」
 チルルが他のエージェント達と従魔達の間に割り込むと、従魔達に向けライヴスショットを発動する。
 チルルのライヴスショットは炸裂した地点周囲にライヴスの衝撃波をぶちまけ、その周囲にいた従魔達を衝撃波で跳ね飛ばし、味方が退く猶予を作り出す。
「あとは従魔の検体確保ですね」
「……お手伝いします」
 稜の活動に龍華が目上に対する口調で控えめに協力を申し出て、2人は動き出す。
 まず稜は当初ロケットアンカー砲によって拘束し、龍華はライヴスリッパーで従魔の意識を刈り取る。
 ロケットアンカー砲による拘束も、ライヴスリッパーによる気絶も効果が永続的に続くものではないので、龍華はさらにメギンギョルズにライヴスを通し、自分の手ではなく従魔に巻きつけ拘束を試みる間に、稜がインジェクションガンの薬剤弾を撃ち、無力化及び捕獲を試みた。
 稜がイジェクションガンで作成する劇薬はダメージを及ぼす効果はあっても無力化できるものではなく、イジェクションガンを撃たれた従魔達はいずれも塵と化して消え、捕獲は失敗に終わる。
 ただポルタからの連絡があった後、由利菜や明斗が戦場に従魔達の残したモノがないか探り続けた結果、由利菜は従魔達が身に着けていたと思しき布の切れ端を確保し、明斗は消えたと思われていた従魔の体の一部を発見・確保していたので、従魔の検体入手自体は成功した。
 その後従魔達の追撃を振り切り、ギアナ支部へと帰還したエージェント達は、まず布切れの正体を判明させる。
「これをご覧ください」
 由利菜が自分の確保した布切れを仲間達に見せる。
 その布切れには、エネミーからの謎のメッセージに添付されていた画像であり、北欧でフレイを始めとした人物が身に纏っていた衣服に描かれていたエンブレムとして、見覚えのある模様が描かれていた。
「……やっぱり、ラグナロクがこの一件に関わっているのかな?」
「否定できる材料がない。そう考えるのが自然だ」
 龍華がおずおずと問うと、リーヴスラシルが『詳しい解析結果を待つ必要があるが』と前置きした上で、そう応えた。
 一方アリスと明斗は、回収できた従魔のサンプルに、不審な箇所を発見した。
「……これは何だろうね?」
「これは傷痕……? いや、数字でしょうか……?」
 アリスと明斗はサンプルにある何かの正体を解きたかったが、現状では答えは出ず、明斗は今回の戦闘で得られた情報をまとめた報告書も添えてサンプルを支部に提出し、詳しい解析を依頼する。
「……何にしても、解析結果待ちだね」
「釈然としないね」
 アリスにそう言われながらも、Aliceはいまだ謎が多い現状をそう評した。
 そして稜とリリアも借用したウェアラブルカメラを全て返却し、稜がスマートフォンで録画した分も含め、支部に情報解析を依頼していたが、今回稜が撮影できた映像によって従魔の特徴を捉えた多数の画像データが得られた。
 また今回の戦場で従魔達が暴れまわったことによる痕跡と、既に帰還した調査依頼のエージェント達が森の各所や無人となった集落で発見した、獣の暴れた痕跡とデータが一致した。
「無人になった集落にも今回の従魔が暴れたのと同じ痕跡があったみたいだな。そうなれば集落の人達がいなくなったことに、今回戦った従魔達が関わってる可能性は高そうだ」
 春翔は今回照合できたデータからそう割り出し、さらに思考を発展させていく。
「以前、北欧でラグナロクが関係した事件では、プリセンサーがラグナロクはさらった人間達を従魔化して投入するという予知を見たようですね。今回がそうだということでしょうか?」
 春翔の思考を先取りする形で、嘉久也は従魔達の背後にいるであろうラグナロクがこの区域で行っていることを推測し、言葉にする。
「……恐らくそうなるでしょう」
 ――いやなもんだな……そういうことに慣れるってのは……。
 明斗が今後も続くであろう暗い未来を予測してそう呟き、内心ため息をつく横で、ドロシーがスケッチブックに『努力 正義遂行継続!』と描き、明斗に向け掲げていた。
 こうして一つの戦いが終了したが、密林が抱える謎が明らかとなるには、今しばらくの猶予が必要だった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 惑いの蒼
    天城 稜aa0314
  • 沈着の判断者
    鋼野 明斗aa0553
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873

重体一覧

参加者

  • 惑いの蒼
    天城 稜aa0314
    人間|20才|男性|防御
  • 癒やしの翠
    リリア フォーゲルaa0314hero001
    英雄|20才|女性|バト
  • 沈着の判断者
    鋼野 明斗aa0553
    人間|19才|男性|防御
  • 見えた希望を守りし者
    ドロシー ジャスティスaa0553hero001
    英雄|7才|女性|バト
  • リベレーター
    晴海 嘉久也aa0780
    機械|25才|男性|命中
  • リベレーター
    エスティア ヘレスティスaa0780hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • 紅の炎
    アリスaa1651
    人間|14才|女性|攻撃
  • 双極『黒紅』
    Aliceaa1651hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • 生命の意味を知る者
    一ノ瀬 春翔aa3715
    人間|25才|男性|攻撃
  • 希望の意義を守る者
    エディス・ホワイトクイーンaa3715hero002
    英雄|25才|女性|カオ
  • さいきょーガール
    雪室 チルルaa5177
    人間|12才|女性|攻撃
  • 冬になれ!
    スネグラチカaa5177hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 閉じたゆりかごの破壊者
    紀伊 龍華aa5198
    人間|20才|男性|防御
  • 一つの漂着点を見た者
    ノア ノット ハウンドaa5198hero001
    英雄|15才|女性|ブレ
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