本部

残響の村

鳴海

形態
ショートEX
難易度
普通
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/09/01 15:02

掲示板

オープニング

●夏も終わるそのころに。

 飲まれるような蝉しぐれ。これはヒグラシの鳴き声だろうか。
 360度前面から聞こえる大合唱。それだけは昔と何も変わらない。
 神社の境内に少女はいた、黒髪を揺らして、サンダルを足の指先で弄びながら帽子をずらして空を見る。
 さらに強く響く蝉しぐれ。
 人の声はない。けれど、少女の耳の奥には、あの時の声がこびりついている。
 だから聞こえる。笑い声。あの時一緒にいた仲間たちとの思い出。
 自分はここで何をやっているのだろうか。
 自分はここになぜいられなかったのだろうか。
 思い出の中の彼が囁く。一緒に遊ぼうと。
 思いでの中の彼女が囁く、ずっと一緒だよねと。
 けれど。
 そんなものは幻、吹いたら消えてしまう幻想で。
 その声達は、そのまぶたの裏に張り付いた思い出たちは。
 少女が頭を振ると一切何も聞えなくなった。
 蝉の鳴き声が聞こえる。
 それだけが昔と変わらない。
 変わってしまった少女を責めるように……少女の耳にその音色が重たく響いた。
「アネット……」
 少女は立ち上がる、まだ夜は遠い。
 夜がくれば自分は戻らなければならない。
 少女は髪をかき上げる。豊かな黒髪が揺れた。

● 思い出に沈んでしまった町。
 ここ十波町は愚神に滅ぼされ撃ち捨てられた町である。
 三十年前程度の技術で作られた街は、全体的に郷愁感を感じさせる。
 見たこともないのに、くすんだ窓ガラスの向こうにうつる居間や、街角で揺れるコンビニの旗。土まみれの端の手すりに、見上げると続く階段。
 全てが見たことのある気がする。
 いや、違うか。
 皆さんの中にはそれを本当に見たことがある人達も混ざっているだろう。
 それはたびたび、まどろみという愚神が作り出してきた町そのもの。
 そして、そこはまどろみの本拠地だ。
「町の中心に大きな霊力の反応があるわ」
 インカム越しにそう告げたのは遙華。
 この街全体が、ドロップゾーン化しているので状況を把握するために、今日はサポートとしてモニターの向こうに待機してくれているのだ。
 そんな遙華が示すには、この町の四つのポイントに霊力が集約されているらしい。
「それこそ膨大な、トリブヌス級とは言えないけど、ケントュリオ級ならもう一体暗い作れそうな霊力量よ」
 それら全てはリンカーを夢に誘い奪い去ったもの。
「夢の中での疲弊は単純に霊力を奪われていたせいということね。まどろみは賢いわ。一般人百人を襲うより、リンカー十人を襲った方が確実に霊力を得られるもの」
 霊力のたまるポイントとは『学校』『商店街の駄菓子屋』『神社』そして『民家』
「民家の表札には円町とかかっていたわね」
 おそらくはその霊力貯蔵ポイントから、霊力を抜いてさえしまえばこのドロップゾーンは消滅するのだろう。
 だが不可思議なことがまだ二つのこっている。
 とっくに敵の腹の中だというのにまどろみが姿を見せないこと。
 もう一つが、リンカー全員がたびたび、黒髪の少女を目撃していること。
「小夜子、なのかしら」
 この人が住まわない町で、姿を見せる少女。それは亡霊か、あるいは……。
「さぁ、最後の謎解きと、まどろみ退治、頑張りましょう」
 遙華はそう告げると、モニター観測に戻る。


● 十波町 
 十波町は実在しました。今回皆さんはその十波町で調査、およびまどろみ退治を行っていただきます。
 スポットとしては、学校や神社。商店街、港町。と言った物も健在です。
 霊力がたまっている四つのポイントはそれぞれ、二キロ以上離れているので瞬時にその場に駈けつけるのが難しいということだけ注意してください。
 
 
● 敵対勢力について


愚神『まどろみ』
 銀色のローブに、本と杖を持った長身の人物。
 その力は攻撃面より、精神へ干渉する力が強く、またドロップゾーンの操作も得意です。
 度重なるリンカーへの襲撃によって力を蓄え、ある程度戦えるようになりましたがまだまだの様子。
 ソフィスビショップとカオティックブレイドが合わさったような魔法攻撃を放ってくるばかりか、いくつかのスキルを持ちます。
 スキルをいくつか持つので説明します。

《ウィスパーボイス》
 スキル攻撃を使用した際に、そのスキルを一定確立で失敗させます。
 声を媒体にしたスキルのようです。

《浸蝕霊核》
 自身の核となる部分を闇に侵して自身の戦闘能力をあげます。
 スキルを一つ封印し、理性を弱めるという代償があります。

《幻影分身》
 独立した分身を作成します。自身のHPを分け与えて作成し、それがなくなると消えます。
 ステータスは本体より少し劣化する程度です。

《銀夢腕》
 本を介して心に手を突っ込み、自身を味方と認識させます。
 その結果まどろみの指示に従い誰かを攻撃することになりかねないので注意。
 特殊抵抗が高ければ効果を跳ねのけられるようです。

《姿見の呪鏡》
 誰かの姿を投影した鏡を設置します。これに攻撃すると、鏡は砕け。何割かのダメージが鏡にうつされた誰かに向かいます。



『円町 小夜子』
 十三歳の少女、この町のガキ大将的存在。
 黒髪に白い肌、一見病弱そうに見えますが意外と暴力的です。
 白いワンピースは泥だらけで、明るく笑う少女ですが、今回出会う彼女は険しい表情をしており、話し方も大人びています。
 彼女はいったい何なのでしょうか。

愚神『メタモルフォーゼ』
 神社の社の中に住んでいる謎の存在です。人間たちを陰で飲み込み、この町から命を消した張本人のようです。
 等級としてはデクリオ級です。姿は黒い大きなワニのよう、体のサイズを自在に変えられるようで。
 噛みつくと言った物理攻撃よりも、その陰に触れさせ霊力やその存在を消滅させる戦法を好むようです。
 つまり、接触系攻撃はダメージを受けるので注意。
 神社の霊力の柱が消える。もしくはまどろみ、小夜子が神社に向かうと召喚されるようです。






 

解説

目標 この町にたまった霊力すべてを吸い上げる。
 今回シナリオはやること盛りだくさんです。
 そして今回の解説はPL情報です。

 大きく分けて三つ。
1 戦闘
2 円町小夜子の発見
3 霊力を吸収すること。

 戦闘は言わずもがな、こちらを妨害してくるケントュリオ級愚神まどろみと戦います。
 彼は戦闘は得意ではないので、体力を削ることよりも夢に捉えて足止めすることをメインに動くでしょう。
 二つ目、三つ目の目標がめんどくさいです。
 先ず、小夜子の発見。彼女を放っておいてもいいのですが、PCからするとまったくもって何をしたいのか不明です。実際のところは自身で霊力を吸い上げて力を得ようとしています。
 まどろみとの戦闘の合間をついて、霊力を吸い上げようとして来るので注意です
 次に霊力を吸収すること。
 これは霊力の吹き溜まり(光が吹きあげてる場所)に立つだけですが。
 ここに立った人は、まどろみの記憶や思いにさらされます。
 
 具体的には、この町を救えなかった記憶。そしてまどろみが小夜子を失ってしまった時の記憶です。
 これを皆さんの英雄と能力者の関係に置き換えた幻覚を見せます。
 つまり、皆さんにとっての大切な物が救えず、目の前で壊されていき。なおかつ、能力者と英雄が離れ離れになる。
 そんな映像がみせられます。
 この演出をした時に何の抵抗もなければその場で気絶しますので。
 衝撃的な映像を受けても、気を失わないように、自分に活をいれるか、強い感情、意思を持って耐えるようなプレイイングをお願いします。
 さらに今回この霊力を通じてまどろみの記憶にアクセスすることができます、知りたい情報を強く念じてみてください、きっと答えが出るはずです。
 

リプレイ

第一章 
「蘿蔔よ行ってこい、背中はまかせよ」
 そう尊大に告げたのは『ナラカ(aa0098hero001)』彼女は普段見ない学校が珍しいらしく周囲をきょろきょろ眺めていた。
「はい、行ってきます」
 輝く光の渦を眼前に『卸 蘿蔔(aa0405)』はそう答えて微笑む。
「何が起こるか分かりませんからね」
 そう蘿蔔が幻想蝶から取り出したのは自分で縫ったお守りだろうか、それをカゲリに押し付けて蘿蔔は踵を返す。
――やれやれ……まぁ、何かあった時はよろしく頼むよ。
『レオンハルト(aa0405hero001)』と共鳴、そして意志を瞳に宿して一歩前に出る、下から体を巻き上げるような衝撃、体に何かが流れ込んでくる。
「ケントゥリオ級を作れる霊力ね…………というか作るつもりだったりして」
 蘿蔔はその流れに逆らわないように受け入れ、そして静かに目をあける。
――まどろみは小夜子を愚神にしようとしているんじゃない?
 その言葉に蘿蔔は何も答えない。
 考えてはいたのだ、ケントゥリオ級となった小夜子と共鳴することによりトリブヌス級へ。能力者と英雄…………親和性も高い。
「けれど、それなら少し変だと思います」
 一連の事件、何かいびつさを感じるのは蘿蔔の気のせいだろうか。
――ただ思惑通りに行かせるわけにはいかない、元は俺達の霊力だし。
「ええ、吸い取っちゃいましょう」
 小夜子を手に入れさせるわけにはいかない。だってそれをしてももう何も意味はないから。
 悲しみと苦痛を悲しみと苦痛で塗りつぶしても、ただただ辛いだけだ。
 痛んだという歴史が残るだけだ。
 蘿蔔は思う、救えるなんて大それたことは考えない。ただただ止めなくては。
 それは…………リンカーとして。そして…………。
 そんな彼女の後姿を『八朔 カゲリ(aa0098)』は見守る。
「覚者は何もいわんのだな」
「痛いものすべてから守ってやることが愛情じゃないだろ?」
 その言葉にナラカは笑う。
「にしても、覚者が蘿蔔を番にするとはのう……身を張るのもそれ故かね?」
「それを抜きにしても、元より出来る限りの力は貸そうと考えてはいたさ」
 その言葉に満足したのかナラカは姿を消す、カゲリの中に。
――総ては試練。なればこそ、いざ超えてみせるが良い。蘿蔔よ。
 直後光が教室の中に舞い散った。そして殺意が膨れ上がる。
 カゲリは両手を黒板の方向に伸ばした。すると。
「カゲリさん!!」
 蘿蔔が振り返る、だがカゲリは何も言わない。背中で語る。
 蘿蔔は思い出した。あの背中をずっと見続けてきた。
 彼が倒れたことはない。
 だから自分は、やるべきことを成そう。
――小夜子、まどろみ、お前たちがたどる結末にも興味がある。
 屋根をぶち抜いて放たれる魔力弾をカゲリは、一刀、左手に召喚した刃で切り伏せ。
 二刀、すくい上げるように召喚した刃で切り伏せた。
 そして、三撃目は交差させた刃で受け止め、切り飛ばす。
 そして空に佇むまどろみを睨んだ。
 ケントュリオ級と一騎打ちである。
 だが次の瞬間、蘿蔔の視界には何も映らなくなった。
 次いで感じたのは恐怖。一人ぼっちで泣いている、そんな鳴き声。
 その誰かは暗い穴の中で一人……誰にも知られず泣いている。
 英雄が居ない孤独と無力感。
 それを蘿蔔は知っていた。自分もそうだった。
 全てを失った、世界を失った。けれど。
 鮮烈に思い出されたのは、彼女が壇上で歌って踊る姿。
 チームを引っ張るその姿。
 あれがきっと彼女の求めた強さなのだろう。
 アイドルグループ、幻想歌劇団リーダー・アネット。
 彼女がかつて円町 小夜子と呼ばれ一度すべてを失って、そしてあの場所に立っていたのならそれは、彼女が生きることを諦めていなかったという証拠。
「…………それでも、アネットさんは諦めなかった。今までずっと」
 小夜子を救いたい、水の都で聞いたあれはきっとアネットの願い。
 手を伸ばす蘿蔔、そして蘿蔔はそこにいた。彼女の後ろに。
 泣きじゃくる少女。
――小夜子。
 レオンハルトが声をかけた。自分を真夏に引っ張りまわした少女。
 あの時は彼女がこんなに泣きじゃくっているところなんて、想像もでいなかった。
 幻影が見える。
 幼いレオンハルトが、小夜子に手を差し伸べるところ。
 そしてその手を取るところ。
 そして、砕け散る幻影、流れ込む負の感情。
 目の前で消えていく友達たち。幼い姿、それは明らかに小夜子の友達だったが。
 蘿蔔のイメージとも深く重なった。
 闇に沈む銀色の髪。血を吐いて蹲る桃色の紙の少女。
 血でぬれたメガネを蘿蔔は抱きしめている。
 そんな状況でも蘿蔔は涙を流しながら顔をあげた。
「これがあなたの見せているものかはわかりません。けど。あなただけでアネットさんを、小夜子さんを救えるんですか」
 蘿蔔は闇の中に向けて叫ぶ。
「あなたが望んだ、小夜子さんを救うための道なんですか、答えてください! まどろみ!」
「お前に何がわかる!!」
 鋭く叫んだのは現実世界のまどろみ。
 彼は杖から銀色の塊を生成、蘿蔔に叩きつけるが、カゲリが全てを切り落とす。
――おお、覚者よ、普段より動きがよいではないか。
「だまれ」
 そう短く告げるとカゲリは刃を十字に構えた。多少攻撃を捨ててでも蘿蔔を守りきる。
 それは愛ゆえに、ではなくこの程度の敵ならば蘿蔔が戻った時点でこちらのペースに持ち込めるだろうという分析故だ。
「お前にも教えてやろう、大切な物が奪われる悲しみを」
 次いでまどろみは魔法弾を三発放つ、それは軌道を変え、右左。そして上空から蘿蔔へ。
 ここでカゲリが動く、何度も体に刻んできた守るための動きそれに任せて体を滑り込ませようとしたが、まどろみの声に幻覚を見てその足を止める。
 それでも無理やり体をねじって両方から迫る魔法弾に刃を投げつけ。
 上空から迫る魔法弾には体を差し出す。
 呻き地に落ちるカゲリ。だがそれでも彼は立ち上る。
「それはすでに知っている、忘れたのか」
 自分の悪夢を再現した癖に。そうカゲリは言外に語る。
 自分の一番思い出したくない記憶を再生しておいて、何を言うのだろう、この愚神は。
 そう疑問を口にして立ち上がるカゲリ。
「もう二度と。あんな思いをしないために力を手に入れた」
 告げると、蘿蔔がカゲリの横に並び立つ。愛銃の銃口は下に。しかし視線を向けるのと同時にスコープでまどろみを捉える。
「優しい夢。最初に見せてくれましたよね。あれには感謝してるんです」
 蘿蔔は思う、たとえ夢の中でも彼女にもう一度会えたこと、伝えられなかった言葉を伝えられたこと。
 悲しみは今も消えないけど、それでもあれは必要なプロセスだった、今はそう思えるから。
「あなたの本質はあそこにあったんじゃないですか? 一緒に考えましょう。私も救いたいから…………小夜子さんを。諦めたくない、だから」
 蘿蔔は知っている…………事態はそう簡単ではないこと、でも、立ち向かう前から諦めていたら何もできない。
 だから、二人は武器を構える。
「ここでいったん倒れてもらいます、まどろみ」
 廃校舎に鉄を打ち鳴らす轟音が響き渡る。

第二章、小夜子
『海神 藍(aa2518)』は表札を眺める、なるほど、夢に出てきた小夜子の家とそっくりである。
 そのいえは住宅地の一角にひっそりとそびえていた、たどり着けたのは思いのほか夢の記憶が残っていたからであり、藍と『禮(aa2518hero001)』は記憶を照らし合わせながらそこにたどり着いた。
 和製の民家。間違いない。小夜子の家だ。
 禮はおもむろにインターホンを押すだが音はならない。当然だろう。電気自体通っていないのだろうし。
「円町……小夜子さんのお家でしょうか?」
 禮が遠くに投げるように言葉をかける。そして引き戸に手を置き、横にひいた。美里はそんな禮の後ろで共鳴、警戒して武器を構える。
「小夜子、遊びに来たよ。……なんてね」
 藍は靴も脱がずに上り込む、そんな兄の後ろをちょこちょこついていく禮。そしてその二人を『沢木美里(aa5126)』は制した。
「あ、待ってください、危険です」
 その言葉に禮は振り返り、そして衝撃的な言葉を告げた。
「たぶんここ、人がいます」
 禮と藍は廊下の真ん中で動きを止める。その瞬間真横のふすまががらりとあいて禮の言葉を証明するように、人影が躍り出る。
 それは幼い少女の姿をしていた。
「小夜子……」
 藍は呻くように告げる。
 間違いない、夢の中で出会ったあの……腕白少女。円町 小夜子だった。
「あら、人の家に土足で上がるなんて、無礼ね」
 だが口調はあの小夜子と似ても似つかなかった。
 禮と藍は顔を見合わせ玄関にいったん戻る。靴を脱いで今に通してもらった。
 チーンとりんを叩く。『楪 アルト(aa4349)』を覗いて全員が畳と座布団の上に座っている。
「ごめんなさい、二十年も来られなかった。お父さん、お母さん。みんな」
 そう小夜子は黙とうをささげる、何でも彼女はこの町に着くなり真っ先に家を掃除したらしい、目に付くところだけだったらしいが。
「井戸水が生きててよかったわ」 
 そう告げて小夜子は全員に向き直る、その光景をアルトは異常ととらえた。
「って、なにのんきにしてんだよ! お前らは!」
 怒り心頭のアルトである。両手に危ない武器を携えて今にもこの家を木端微塵にしそうな形相で叫ぶ。
「こいつ重要参考人だろうが!」
「けれど話はできるようだよ」
 藍が言う。
「まどろみの味方かもしれねぇ」
「敵かもしれませんよ、その場合信じがたいことですが」
 禮が落ち着いた表情で告げた。
「あなたにはひどいことをしたみたいね、ごめんなさい」
 小夜子がそう頭をさげる、するとアルトはそっぽを向きながら座った。
「くっそ、釈然としねぇまどろみ……あんにゃろーには色々見たくもねぇもんばっか見せやがった……今度こそぶっ潰してやるからな!」
 そうぶつぶつ言いながら。
 やっと一行が落ち着くと、ふすまを開けて美里が登場した。彼女は通信機をしまい込むと、学校班がまどろみと戦っていること、小夜子を発見したことを告げたことを報告する。
 その流れで美里が話の口火を切った。
「あなたはなんなんですか? 何が目的なんですか?」
――邪魔なら殺しましょう。
「そんな簡単に人の命奪ったりしないから!」
 『浅野大希(aa5126hero001)』の物騒な発言をなだめ美里は改めて問いかける。
「とりあえず、あなたが何か……何を考えてるとか教えてくれませんか?」
「そうね、私は。まどろみと一つになるためにここに来たわ」
 アルトが立ち上がり銃口を向ける、それを藍が押しとどめた。
「彼は愚神だが……」
「知ってる、けれど私が一体化することでまだ制御できる可能性がある」
「愚神は討伐。そうだろ?」
 アルトが告げる。
「邪英よ、まだ戻れる」
 違う、そう征四郎は思った。あれはまごう事なき愚神だ。
 もはや救いようはない。ただその一言がどうしても言えなかった。
 藍は彼女の言葉を受けて考える。状況が何を指し示すのか考える。
(しかし、前提として、この世界の主はまどろみだ……)
 滅びた街、邪英アネット、その誓約者、死んだはずの小夜子。
 それは一体何を指し示す?
(学校は確かボロボロだった…この世界が夢だとすればつまり、滅びの印象が焼き付いている)
 まどろみも学校に現れた、あそこで何かあった可能性は高い。
(あそこで小夜子は死んだのだろうか?)
 藍は考える。そんな物思いにふける藍へ小夜子は言葉をかけた。
「まどろみは本来。夢を渡り歩く英雄だった。怖い夢から怖いものをおいだす。そうやってみんなを幸せにする。そんな英雄だった」
 その性質を利用されたのだと語った。
「だれに?」
 藍は問いかける、その直後、奥のふすまが突然開いて銀色の光が舞い散る。
 柱だ、光の柱、膨大な霊力を噴出する柱。それがまるでリンカーたちを誘っているように見えた。
「私に聞くよりあそこに入った方が良いかもね」
(小夜子は最期に何を望んだのか。そして今ここにいる小夜子は何なのか)
 藍は思った、あの光の先に答えがあるのではないかと。藍は禮と共鳴して柱の前に立つ、すると美里が声をかけてきた。
「あ、まってください」
 そう美里が藍を止めると美里はその体に霊力を纏わせる、持続回復のスキルをかけた。
「これで少しはましになるといいんですけど」
「ああ、ありがとう」
 そしてユピテルに持ち替えて小夜子を見た。
 疑ってはいないが、信用する気もない。そう言うスタンスだ。居間にバチバチと雷鳴が響く。
 その雷鳴を子守唄に藍は意識を失った。
 次いで落されたのは水の中。
 その水はあなたからすべてを奪う毒、親しい人達がとけて、まるで。
 うたかたの夢のごとく、消えていく。
「禮……そうか」
 藍は手を伸ばす。
 禮がいた、丸くなって小さくなってただただ消えゆくのを待つばかり。
「君も居なくなるのか、だとしても」
 だとしても、その願いを忘れはしない。
「週一でお茶会が楽しめる程度の平穏を、身の回りの小さな幸せを守ること」

――いつも笑い合えるような日々を。

「……たとえ、そう。 そこに私たちが居なくても」
 藍は皆底にたどり着いた。まるで鉛のようにのしかかる水。その中でも堂々と立ってみせる。光降り注ぐ上空を仰ぎ観る。
 
 藍は奥歯を噛みしめて地面を蹴った。気絶してやる暇はない。

 藍は泳いでいく、その光の袂まで。命が尽きるまで目指し続けよう。たとえ最後の一人になっても、この戦いで自身が死ぬのだとしても抗おう。
 かつて人魚の英雄がそうしたように。
「……甘く見るなと言った筈だぞ!」
 いつの間にか藍には尻尾が生えていた。魚の尾ひれ、藍はいつの間にか人魚だった。彼女と同じ黒い鱗を見に纏っている。
 その手にはトリアイナ『黒鱗』
 まだ負けられない、自分はリンカーなのだから。
 そんな、突然苦しみ始めた藍の元に集まる仲間たち。
「まずいわね」
 その藍へ小夜子が近寄ろうとする、そんな彼女に美里は刃を突きつけてとめた。
「信用のならない人を近づけられません」
「霊力量が多すぎる、二人がパンクしてしまうわ。だからもう一人」
 その時美里は小夜子の表情を見て、そして腕に込めた力を弱める。
 小夜子の肩を叩いてアルトが後ろから悠々と柱に向けて歩いて行った。
「アタシにも、霊力をよこしな」
「信用してくれるの?」
 アルトへ問いかける小夜子。
「てめぇが何してーがあたしにとっちゃ関係ねぇ……あぁ、例え死んでるやつだろーと、生き別れだのなんだろーとな。けどな。そんなに泣かれちゃな」
 小夜子は驚いて目元をぬぐう。本当だ、涙が流れていた。
「今度はそんなつまんねーもん持ってきやがったって言うのか……だったらぁああ、全部全部こっちから願い下げってもんだろおおおぉぉぉぉぉ!!!
 そう告げて霊力の奔流を浴びるアルト、だが小夜子は彼女を送りこんだことを公開することになった。
 何処からともなく飛び出すガトリング砲を二丁。それを両手にアルトが装備し、苦痛に耐えるために乱射し始めた。
「ちょっとおおおおおおお!」
 老朽化激しい家屋はそこで倒壊。
 同時に銀色の光も消えた。打って変って静まり返る十波町。
 廃墟と化した家屋の真ん中藍は目を覚ます。
「小夜子……」
 目覚めて見れば小夜子が藍を庇っていた。小夜子は藍を守るために瓦礫をその背で受けていた。傷一つない。
 やっぱり彼女には傷一つできないのだ。
――小夜子さん。浮かない顔ですね。何してるんですか?
 禮が優しい声で問いかける、すると小夜子はあの日の笑顔で微笑んだ。
「……もういいのか? 幸福だった頃が永遠に続く、そんな世界は」
 その言葉に驚き、小夜子は目を見開く。
「何のこと、私は」
――よく、頑張りましたね
 そして藍の差し出した手を取って頬に押し当てた。
「うん、私、頑張った。でも私やめる。ずるしてまでこの世界にいることは、もう」
 泣きじゃくる少女含めて回復を、美里は状況を報告し、そしていったん駄菓子屋に向かう。


第三章 

 涼やかな音色は風鈴の音。 
 『木霊・C・リュカ(aa0068)』は最初驚いた。
 あの幼い日。夢の中で見たこの町の駄菓子屋にも風鈴がかかっていて。
 その風鈴と、柄も形も同じだったから。
 ただ今リュカの目の前にぶら下がっている風鈴はほこりまみれで汚れにまみれていて。
 二十年、という時間がどれだけの影響を及ぼすのか伝えてきた。
 だが夏の暑さはあの時と変わらない。
 リュカは一人、駄菓子屋隣のベンチに座って遠くを眺める『オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)』にクーラーボックスから飲物を取って手渡してもらい、唇でアイスの棒を弄びながら誰にでもなく、告げた。
「暑い昼下がりに微睡んで見たような夢の残滓で、心地よさに起きられない子がいる……まどろみを起こしに行ってあげたいねぇ」
 そして立ち上がって背後を振り返る、駄菓子屋店内は光に満ち溢れていて、そこには『魂置 薙(aa1688)』が祈るように佇んでいて。
「君はどう? 小夜子」
 そう切なげにつぶやいたリュカの言葉が風鈴の音に掻き消え空に昇る。
 そして薙も同じ光景を見ていた。
 揺れる風鈴、柱の軋む駄菓子屋。
 けれどそれはおそらく二十年前の光景。
 目の前を少女たちが駆け抜けていく。
 あれが小夜子だろうか。子供たちの中心にいて。笑顔を振りまいていて。
 だがこの記憶にどんな意味があろうと。薙のやることは変わらないのだ。
「神を一体作れそうな霊力量、なんて、どうしたっていいものじゃない。それが愚神の目的を叶える手段なら、潰すだけ」
 噛みしめるように告げた薙。
 拳を握りしめて駄菓子屋を出る。すると吹きつけたのは不穏な風。
 闇が迫る、神社からまるで滝のようになだれ落ちる。それは滑り落ちた勢いそのままに当たりの建物を飲み込むと、まるで咀嚼するように律動して。
 そして遅れて悲鳴が聞こえる。
 その時突然自分の手が取られた。
 その手を取ったのは小夜子。
「なにしてるの? 早く逃げないと」
 そして小夜子の隣を走るのは銀色の髪を持つ少年。いや少女だろうか。中性的で容姿と声では判別がつかない。
 そんな銀色の子供は小夜子に告げる。
「逃げてどうするの?」
「みんなを逃がした後に、私達で戦うの」
「無茶だよそんなの」
「だったら、アネットはそこにいて。私一人でも」
 そう小夜子は薙を避難所に送り届けると、一人闇に向かって駆け出して行った。
「まって」
 なぎは思わず少女の背中に指を伸ばす。
 イラついたように走り出すアネット。
「まって!!」
 薙は一際強く叫んだ。
 その時視界がノイズィに歪む。
 世界が反転する。
 おちる、体が堕ちる。
「待って……」
 その中で無力にもつぶやいたのは薙。
 だって薙は知ってるから。
 薙は見た。黒い塊、あれが愚神メタモルフォーゼなのだろう。
 だとしたら、神社の山のてっぺんに見えた。あの虹色の人影はなんだろう。
 脅威を感じた。今の自分では到底太刀打ちできない。そんな脅威。
 次の瞬間、薙が我に返ると見えたのは床に転がる小夜子だった。
 腕と足が消失しているが血は出てない。
 その瞳からは闘志は消えていなかったが、それが逆に災いした。
 闇が流れていく。避難所だ。
 悲鳴が聞こえた。
 だけどそれもやがて消えてなくなる。
 その光景に薙は膝を折る、あの中に自分の家族がいたような気がして。
 それが今目の前で消えた気がして。小夜子は思わず蹲ったのだ。
 小夜子は涙を浮かべて叫んだ。
「なんで、なんで約束を破ったの!」
 湧き上がるのは怒り。
 薙の胸にも、小夜子の胸にも。
「……絶対に、許さない」
 薙は告げる。
「アネット、答えて! 誓約を、なんで……」
「何を失っても、愚神を殺すまで、僕はこの斧を振り続ける」
 その時、薙の目の前に『エル・ル・アヴィシニア(aa1688hero001)』が現れた、いつの間にか現れ、薙が手に握っていた斧。それを一緒に握り、エルはこう告げる。
「私との約束は忘れていまいな?」
 エルとの誓約は『生きること』
 失うことに堪えられず、愚神を殺す為なら死んでも構わないと思ってしまう薙の、唯一の生への楔。
「わかってる、我を失ったりしない」
 そう噛みしめるように告げた薙は目の前の愚神を払うようにではなく、空間を切り裂くように力を籠めて。その斧を振るった。
 光が消えてなくなる、薙はよろめきながらも一歩踏み出す、そこはあの駄菓子屋の店内だった。
 無事に帰ってこれたのだ。
――それで、何を見た?
 エルが問いかける、その言葉に薙はこう答えた。
「たぶん、この絵を描いた愚神がいる、メタモルフォーゼは差し向けられたんだ」
 店内から漏れ出すその言葉をじっと聞いていたリュカ、次いでリュカはオリヴィエと共鳴。
 そして立ち上がって、リュカが告げた。
「小夜子ーいるんだろーー出てこいよ暴力女ーーーぶすーーー!!」
 あいたかった、この物語がどう転ぶかはわからない、けれどきっとここからは最後まで走り抜けなければならないのだろう。
 だとしたら彼女と話せるのはこれで最後。
 だからリュカは同じ言葉を再度、口にした。
「小夜子ーいるんだろーー出てこいよ暴力女ーーーぶすーーー!!」
「ぶすじゃないわよ!」
 そんな声がリュカの背後から聞こえてきた時。リュカは微笑んだ。
 あの時の声、あの時の小夜子が振り返ればそこにいる。
 なぜだろう、たった一日遊んだだけの彼女なのに。あのとき楽しかった気持ちが焼き付いて、フラッシュバックする。
 リュカは振り返った。今だけは体の主導権を自分に回してもらって。
 小夜子は小さかった。あの夏の日では自分と背丈も変わらなかったはずなのに。
 年月が残酷に思えた。ならせめてあの人同じように、あの日の延長戦であるようにふるまいたい、そうリュカは思う。
「小夜子……」
 さらに藍たちも合流する。だが雰囲気を察して二人の間に入ろうとしなかった。
「遅かったな、また忘れられたのかと思った」
「そんなホイホイ忘れたりしないってば」
「この前のかくれんぼ置いてきぼりにされた、藍と禮の前で言えるのかよ」
 振り返る小夜子。藍の顔を見て悪戯っぽく笑った。
「今後、ないようににするから、ごめーん」
「悪いと思ってるならよし。そうだ、今日はさ……いろいろ持ってきたんだよ」
 そうクーラーボックスをあけるリュカ。
「今日なら俺の奢りだぞ、有り難く思え 」
 そしてアイスやら飲み物やらをその場にいる全員に手渡していくリュカ。
「リュカのくせに気が利くじゃない」 
 そう小夜子はリュカの隣に座って満足そうにアイスを食べる。
 そうしていれば小夜子は単なる少女だ。だけど、単なる少女でかたずけられないことは皆がしっている。
 彼女の存在が何なのか、まどろみの思惑とは別に動いているのか、確認しなくてはならない。
「やりにくそうね」
 そう告げると小夜子は椅子から飛び降りて、リュカにアイスの棒を差し出した。
「当たったから上げる」
 確かに、小夜子が差し出した木の棒にはあたり、と書かれていたが、それは先ほどまで小夜子の口の中に入っていた物である。
「汚い! いらねーよ、そんなもん」
「いいから、私からあげられるせめてもの感謝がこれなのよ」
 そう告げると小夜子はリュカを立たせて、全員を眺め見て。
 そして告げる。
「大きくなったのね」
 次の瞬間風が吹いた。その風に全員が目を追おうと次に小夜子を見た時には彼女の背丈が伸びている。
 見たことがある者もいるだろう、アイドル歌手として名前をはせるアネット。
 それがそこにいた。
「まどろみの目的について話すわ。そして、この町での真実。これからあなた達がしなければならないことについて」
 ついてきて、そうアネットは告げると全員を神社へ導き歩き出す。


第四章 


「さて、待ちましょうか。まどろみが来るのを」
 木漏れ日が鮮やかな赤と白を照らしだす『橘 由香里(aa1855)』は静かに目を閉じ自然と一体になるイメージを抱く。
 由香里は居間巫女装束を着て神社で静かに瞑想していた。
 その周囲を『飯綱比売命(aa1855hero001)』が庭掃除している。
 そんな飯綱比売命も由香里に一つ呆れたような視線を向けても異は唱えない。
 二十年間ほったらかしにされた神社、その木の葉を一か所に集めて、季節がもう少し先なら芋でも焼けたのにな。なんて思ってる。
 そんな穏やかな空気が落ち着かないのか『イリス・レイバルド(aa0124)』はパタパタと歩き回っていた。
 霊力吸収のタイミングは神社が最後の取り決めなので味方合流まで神社で警戒待機を強いられている。
 そう、警戒待機だ。何せ社の奥には何かよくないものを感じる。
「まためんどくさい敵が増えたよ……」
 イリスがつぶやくと『アイリス(aa0124hero001)』が答えた。
――まどろみの原点を考えると敵対していてもおかしくない気はするのだがね。
 アイリスは思う。メタモルフォーゼとまどろみのタッグは実現させたくない。
 アイリスは最初小夜子はまどろみの無意識の心残りが出て来た物程度に考えていた。
 だが違うかもしれない。別の可能性もあるかもと考え始め、出た結論をひっくり返してまた理論を構築し直した。
「いや、遅いんだけどね」
――まどろみ嫌いから全力で奴の幻術の類は拒否してたからねぇ。
 だがそのおかげでまどろみの干渉に対して抵抗できたともいえる。
「ボクはこの件に偏見が強いから見極めはお姉ちゃんにまかせるよ」
――うん、任されておこうか。
 もしもの時を想定して論理を組み立てる、時間はたっぷりある、今は考えることくらいしかできないのだから。それでいい。
 その時である、イリスのインカムが震えた。
 ここ以外全ての地区で霊力の柱。それの消失を確認したらしい。
 手はず通り『紫 征四郎(aa0076)』が光の柱に入る。
――随分回り道をさせられた。どう考えてもロクなもんじゃねぇが、俺様達はこの町のことを知らなければならない。そうだな、征四郎。
「はい。私は足を止めません。力、返していただきます!」
 胸に手を当て二人の絆を強く意識する。誓約を繰り返し口にして。
 そして、あの日の夏へまた帰る。
 二人は神社にいた。それは夜。眼下に広がる町には灯りが一切灯っていなかった。 
 目の前には小夜子がいた。小夜子は社の前で力なく座り込んでいた。
――小夜子、お前一人ぼっちなのか?
 征四郎の中に流れ込んでくる記憶、蘇る記憶。
 違う、あれは小夜子ではない。
 まどろみが自身の力を改変して姿を小夜子に似せたのだ。
 小夜子を逃がすために自信を囮にした。
 その姿に自分の姿が重なる。取り残された心細さ。
 けれど。征四郎はクローフィナイフを手のこうにあてる、氷が這うような冷たい感覚の後にジンジンと浸みるような痛み、あふれ出る血。
「この後の結末。しってます」
 征四郎は力なくつぶやく。
 綿密に計画されていない囮作戦など、失敗するものだ。
 そう、例えば自分の時など。
 まどろみの前に転がされる死体。少女の綺麗な髪は泥にまみれ、その瞳はもう未来を映すことはない。
――小夜子……。
「ああああああああ!」
 征四郎はその瞳にあの時の光景を移す、誰もいないこの町は、誰もいないあの場所と一緒だ、自分を一人置いて誰もかれもいなくなってしまった。
 生きていたなら文句の一つも言えたかもしれないけれどあの日が全ての終わりになってしまった。
 一緒だ。全て一緒。まどろみと自分は一緒なのだ。一緒。
 一緒。だから、一緒にいてほしい。
 誰かに、一緒に。
 征四郎は顔をあげた。
 背景が全て白に染め上げられた世界で、目の前に『ガルー・A・A(aa0076hero001)』がいた。
 あの時と同じ構図で、あの時と同じような視線を征四郎に向けている。
「わかっていますよ、ガルー」
 その視線だけで征四郎はすべてを理解する。
「たとえ1人になっても、足は止めない」
 この約束がある限り。
「私達は必ず繋がっているのだから」
 一人であっても一人じゃない、だったら立ち上がれる、立ち向かえる。
 一人の寂しさを知るからこそ、それを埋めあうことができる。
「そして、今度こそ。見たもの全部、憶えて帰るのです……っ」
 征四郎はその手の刃に手をかける。
「小夜子やアネットが見てきた地獄。絶対に、逃げたりなんかするものですか!」
 その刃を振り下ろすと白い空間にひびが入って。そして。
 見えた、小夜子を床に転がした男。その男がまどろみを霊力の糸で縛り上げ上を向かせる。
 「あれが、元凶ですね」
  まどろみの悲鳴が空に伸び、その開いた口から何者かがまどろみの中に滑り込んだ。
 ほくそ笑む小夜子の死体を連れてきた男、その男の背中には虹色の羽が見えた。
 それと同時に、現実世界にも変化があった。
 石畳を上る音が響く。
 姿を現したのは銀色のローブの男。まどろみ。
「来ると思ってた」
 由香里は噛みしめるようにつげると、歩き出す、途中で飯綱比売命と共鳴。
 まどろみの前に立つ。
「てっきり君も過去に手を伸ばすものと思ってた」
 まどろみがゆったりした口調で告げる。
「私じゃ耐えられないこと、わかってるから。それにあなたの過去に手をつっこまなくても、なんとなくわかるわ。あなたのこと」
 由香里の言葉にまどろみは声のトーンを少し落とす。
「わかる? 一体何が」
「まどろみ。私は、前からその在り様を不思議に思っていた。この愚神は他人を幻影に誘って霊力を吸い取るのではなく、喪いたくない光景を維持するために霊力を欲しているのではないかと」
 ばらまかれた魔術弾を全てイリスがはじく。展開される鏡、それは周囲をグルグル回り、まどろみと由香里を交互に移す。
「目覚めてしまうと悲惨な現実を受け入れなければいけないから、幻と現実の狭間でまどろんでいたいのではないか、と」
「違う」
「違わない、だってあなたは自分の同類ばかり夢の中に押し込んでいる」
「同類だと」
「現実から目を背けたい人。でも夢の中で生きることにも耐えられない人、眠っているのも罪悪感で、けど目覚めたら辛い思いしかしなくて、考えてでもどこにも行き場がなくなって」
「それはお前たちだけだ、私はどうするべきか知っている、現実を生きている。夢を操るのは弱いお前たちから力を奪うために最適だっただけで」
「違うわね。あなたはこの町が滅び去った現実を受け入れたくないだけよ! そして夢の中で完結することも選べない弱い人」
「私は目的一歩手前まで来ている、夢の現実。ここにかつてを蘇らせるのだ。メタモルフォーゼが取り込んだ町中の人間と、膨大な霊力。この町自体を愚神として、永遠の夢の中で生きる、そのために」
「小夜子がいないのに?」
 由香里の言葉にまどろみは動きを止めた。
「あなたから逃げ回ってるらしいじゃない。小夜子、それは閉じた世界、夢の世界をよしとしていないからじゃない?」
「小夜子が私を否定する?」
「叱りにくるわ。当然でしょ、大切な人が間違ってしまったなら、それを正しにくる」
――それが、相棒というものじゃ。
 飯綱比売命がそう頷いた。
「私も、貴方に心を預けた時、蛍丸が来てくれなかったら貴方と同じ存在になっていたかもしれない」
 その時まどろみがローブを広げた、それは翼のように広がってその内側に十の魔力弾を作成する。
「でも、だからこそわかる。貴方が心の隙間を埋めたがっているだけのなら、それは間違いよ! 小夜子の事なんか微塵も考えてない。痛いからそれをどうにかしたいだけなのよ」
「違う、あいつは願った、この町の再生を、あの子は望んだ、夢の続きを」
 放たれた魔力弾。それらすべてを、イリスが切り捨て盾ではじく。
 翼の妖精郷ジャンヌ。
 光の奏結界エイジス。
 鎧の結界ティタン。
 三重結界が無数の悪意を由香里にとどけさせはしない。
「なぜお前たちは、そんな残酷なことを言える。あの子は幼くして死んだ。
 世界の美しさも楽しさも残酷さもまだ知らない年だった。
 あの子の目の前には明るい未来があったはずで、それを奪ったものがいて。だから取り戻してやりたいと思うのは普通の事だろう!」
「その思いは、私は否定しないわ、けれど手段がまちがってる、だってそんなことをしても小夜子はあなたの用意した永遠の中で生きることしかできないのよ」
 由香里は真っ直ぐまどろみを見据える。
 その視線を閉ざすため、一際強い魔力弾を放った。
 それをイリスは難なく盾ではじく。 
「小夜子とアネットの、誓約は何ですか?」
 ふらふらと光の柱から躍り出る征四郎。
――小夜子は今、どこにいる? ここにいる彼女がそうなのか?
 ガルーが征四郎に代わって問いかける。
 だがそんなガルーの問いかけに答えたのは、まどろみではなかった。
 足音が聞える、石畳を踏みしめる軽快な足音。
「私はここにいるわよ」
 ガルーの問いかけに答えたのは小夜子だった。
「もうすべてを終わりにしましょう、アネット。私の嘘も、あなたの嘘も。全部、これ以上は続けていられないわ」
「小夜子」
 まどろみはうわ言のように告げる。
「にげろ」
 突如社から解放される闇。その闇は牙をむいて小夜子の首を食いちぎろうと襲いかかる。
 襲いくるメタモルフォーゼ。だが。
 その咢はイリスによって阻まれた。
 そのメタモルフォーゼを由香里は真っ直ぐ見据える。その指で束ねるのは浄化の雷撃。その光は全ての影を焼き切るのには十分で。
「今ここで全ての邪悪を払います」
 放たれた矢はその闇の主を半壊させた。
 そしてトドメとばかりに卒塔婆が投げつけられる、それがメタモルフォーゼを射抜きその場にひれ伏させた。
「あなたの計画、そしてそれを食う形で誰かの計画が動いてる。でなければ二重結界を維持できない。私はその影を討ちに来た」
 雷上動を握る由香里へと再び浴びせられる銀色の光。
 だがそれもイリスが叩き落とした。
「そろそろ目覚めの刻よ。まどろみ。現実は苦しいけれど、それでも前に進まないと……喪った過去は報われないの!」

第五章 

 征四郎が回復の光を周囲に放つと戦いが始まった。
 先制攻撃とばかりにまどろみへ集中攻撃を浴びせるリンカーたち。
 その背後で、もう動けないと思われたメタモルフォーゼがその身を震わせた。
 首だけが伸び、イリスへ。
 そして、その動きに呼応するように土煙の向こうででまどろみの霊力が膨れ上がった。
 銀色をくすませたまどろみが十体。
 その十体のまどろみが全員一斉に魔力弾を放つ。
 その攻撃を受け斬るために、征四郎とイリスが前に出た。
 放たれる光線、眩い輝きの向こうに二人が消える。
 これで動けまい。そうほくそ笑むまどろみだったが。
「遅くなってすみません皆さん」
 蘿蔔の声が聞えた。
 そしてカゲリが一足のうちに十段以上社への階段を飛び越えて。
 そしてまどろみ一体の背後を取った。
 カゲリの奇襲である。
 一体を空に撃ちあげると、社の上に陣取った蘿蔔がそのまどろみを狙い撃つ。
 もう地面に足をつけさせない。
 衝撃が上に逃げるように弾丸を計算して叩き込む、カゲリはいったん地面におり力をためて斬撃を上空へと放った。
「小夜子さんを…………どうやって救うのですか? 本当にこれで救えるのですか?」
 蘿蔔が問いかける。
 まどろみは一瞬小夜子を見るが、リュカの背後に隠される。
「救いだ、彼女が得るはずだった人生を、再現する」
「彼女はすでに自分の人生を生きています。あなたがやっていることはそれを壊すことでもあるんですよ」
「夢はとても優しい、けれど私たちは否定されてもいいから大切な物が生きているこの世界を選んだんだ。」
 藍は告げるとまどろみの放った魔術を相殺すると懐へ。黒鱗の石突をぶち当てると、刃を回転させた斬撃。
 同じ魔法使いタイプなら、藍は相当に有利である。間合いを選べない魔術師に対して、相手の苦手な間合いを強要できるのだから。
――まどろみ、いや、アネットですか。
 その刃を腕で止めたまどろみへ禮がつげる。
「このあいだのあれは梓さんを小夜子の代わりにしようとしてたのかい?」
「その通りだな」
「何かに抗うために?」
「今度こそ守るために」
「あの神社に閉じ込めて居るのは、その支配者かい?」
「支配者、何の事だ?」
 藍の放つサンダーランスの一部を反射するも、その奔流にまどろみは飲まれて消えた。
 藍は槍を支えに立ち上がる、視線をあげればイリスがまどろみに対して上から切りかかっているところだった。
「煌翼刃・茨散華!!」
 棘の様な刃を生やしチェーンソーの様に回転させて切断する大技。それで由香里に迫るまどろみを切り払い由香里の後ろに立つ。
 由香里は再度弓を構えると、その狙いを、しぶとく生き残こるメタモルフォーゼに向けた。
「もう、消えなさい」 
 再度放たれたイカヅチの矢。着弾すれば上空に吹き上げる雷撃の嵐。
 今度こそメタモルフォーゼは焼失した。
 次いでまどろみに矢を放つ瞬間、目の前に滑り込んできた鏡。
 それをイリスは盾で殴り下した。
――なに、心配ない。リフレックスと同じ様な呪いだよ。
 呪詛によってダメージが返ってくるが、それを片目つぶって耐え。目の前のまどろみを冷たい視線で見上げる。
 次いで胸に嫌な感触。
「そういうのがムカつくって言ってんだろうがッ!!」
 渾身の一括、全霊力を持ってまどろみの干渉を拒絶するイリス。
 それができるのは単純に、愚神へ向けられた嫌悪感故だろう。
――心の領域に踏み込む手段はさらにきらいだからね。
 アイリスがくすくすと笑った。
 そして驚くまどろみに最接近。
「煌翼刃・瞬華絶刀、殺メ咲キ」
 その背の翼を刃に変えての五つの斬撃を生みだし切り倒す。
 そんなイリスは不穏な空気を感じて身をかがめた。
「伏せろおまえら!」
 告げたのはアルト。展開されたのは爆雷、そしてカチューシャ。
 アルトは今日も平常運転で、地形すら変えかねない破壊力を行使していく。
「フルサービスだ!!」
 戦場は大混乱である。
 そんなアルトの心をかどわかそうと。本に腕を突っ込もうとしたまどろみがいた。
 だがそれも御見通し、その本も腕も吹き飛ばすべく。LpC PSRM-01を撃ち放つ。
 別の対象にもう一発。
「君は、何をしようとしているの?」
 薙はまどろみの攻撃を避けようと鳥居を背に立ち回る。
 薙はまどろみを憎み切れずにいた。
 彼はもともと英雄、だとしたら。まだ。
 そんな幻想が浮かんでは消えていく。
 だが彼の目的は愚神そのもの。この町を残すために愚神化?
 そんなことをすればその幻想を維持するための膨大な霊力を、どうあがいても人から回収するしかなくなるじゃないか。
「あなたの夢を守るために、みんなの夢を壊すんですか?」
 そう薙は必死に訴えかけた。英雄の心が残っているなら、自分が聞くことで報告書に記録を残せる。そうすることで英雄としての心を少しは守ることができるんじゃないか。
 だがそんな薙に言葉をかけたのは小夜子。
「愚神はもう、人の心を持たないわ」
 小夜子は続けて告げる。
「愚神はずっと苦しみ続ける、満たされることのない欲望を抱えて苦しみ続ける、だからもう。終わらせてあげて」 
 薙は頷いて前に出た。
――アネットがもし小夜子を助けようする。
 征四郎はまどろみに肉薄、ガルーは淡々と沿う言葉をかける。
――…………その気持ちは、わからなくはないが』
「それは、この状況を看過していい理由にはなりません」
 征四郎が振り下ろした刃を間一髪でよけるまどろみ。しかしそのローブが引っかかりちぎれた。
 まどろみの顔が露わになる。 
 まどろみに表情はなかった。まるでモザイクがかかったように。霞んで判然としない。
 それがまどろみの罪の代償。
 多数の夢を偽った。人の心を偽った代償。
 その顔に驚く征四郎へ、まどろみはゼロ距離からの魔法弾を放とうとする。
 だがそれを許すリュカ……いや、オリヴィエではない。
 手を打ち抜いた。ひしゃげる骨と。飛び散る血液。
 オリヴィエはかける言葉はないようだった。
 ただ、大切な人を失わないために、絶対同じ存在にならないために引き金を引く。
 さらに後ずさるまどろみ。
――君の物語は間違ってない。
 リュカは告げる、スコープ越しにまどろみの横顔を捉える。
「間違っていたのは愚神だ」
 まどろみの抱く感情は何一つ間違ってない。
 誰かを守ることを願い、失った痛みを思い。犯した罪を清算したいと願う。
 でも、まどろみが間違っていなかったとしたらいったい、何が間違っていたのだろう。
「違う、小夜子をみんなを守れなかった。僕が悪いんだ」
 まどろみは自分の事を僕と言った。
「僕しかやれなかったのに、僕しか守れなかったのに。僕は」
――それでも君は頑張ったよ、それは誇っていい。大切な人のために頑張ったんだよね。
「ああ、僕は頑張ったんだ。だけど」
 また失敗してしまった。
 その言葉はまどろみの口からこぼれることはなかった。打ち抜かれる横顔、消える幻影。
 征四郎は刃を構えて振り返る。
 最後のまどろみがそこに横たわっていた。
 全身に黒い蔦のようなものが張り付いている。幻影の使い過ぎでもう体力がないのだろう。
 だからだろうか、まどろみの体が縮み始めた。
 やがて少しの時間の後。そこにいたのは幼き日のまどろみ、いやアネットだった。
 ローブを脱いで子供の姿に戻った彼へ歩み寄ろうとする小夜子。
 彼女も幼いころの姿に戻っている。
 だがその動きを蘿蔔が制する。
「ごめん、小夜子。僕はまた君を笑顔にすることができなかった」
「いいのよ、だって私たちの現実はもう終わっていたんだから」
 まどろみは小夜子の言葉など聞こえていないように、言葉を紡ぐ。彼の目はもう光を失っていた。耳にももう言葉が届いていないのかもしれない。
「どうやったら小夜子があの日に戻れるか、必死に考えたんだ」
「いい、アネット。どんな行いも結果も全部が明日につながっていく。私達が消えたことも無駄じゃないのよ」
「世界自体を作ろうとした、君が笑える世界を、明日を作ろうとした」
「私たちにたとえ明日が無くても、誰かに明日があるのなら、私はそれで満足よ」
 そう小夜子は蘿蔔を見て、全員を見た。
 小夜子は蘿蔔に小さく、意地悪ばかりしてごめんねと、そう告げた。
「そう思えたのはみんなのおかげ」
「僕は君を幸せにできなかった」
「私はだって満足してるから」
「僕の手を引いてくれた君を、いつか僕が手を引いて走りたかった」
「やっぱり寂しがりやなあなたを、一人置き去りにしないですんで」
「ねぇ、小夜子、いま君はどこにいるの?」
「わたしは、ここにいるよ。長い年月をかけてあいに来たんだよ。あなたの手を握って立ち止まるために。そうできることに満足してる」
 その時、まどろみが目を見開いた。
 小夜子を見つめて体を起こそうとする。
「小夜子」
「一緒に消えよう。夢は冷めたら消えるものだよ」
 そう小夜子が身を乗り出して手を差し出す。 
 その手をまどろみが握ろうと手を伸ばした。
 その瞬間である。なぜだろう、まどろみが最初に手を下ろしてしまう。
 その目は潤んでいたが、悲しみや感動の涙に彩られているわけではない。
 その瞳の色。全員が知っているだろう、試しに名づけるなら絶望。
 まどろみはその時絶望していた。
 そしてまどろみは茫然と項垂れ、告げる。
「なぜだ、小夜子、なんで愚神になってしまったんだ」
「え? 私が愚神」
 その時だ、神社の社奥の方。メタモルフォーゼが出てきた場所から、水晶色の何かが飛び出してきた。
 それはするりとまどろみに歩み寄ると。
 その腕が、まどろみの心臓をえぐり出した。
 真っ赤に染まる腕、その腕を伝い堕ちる血。
 赤と水色のコントラストが美しく、脈打つ心臓はまごうことなき愚神まどろみの心臓。
「その力、私がいただきますね」
 蘿蔔が銃を構えた。トリガーを引く、しかし弾丸は腕ではなく、胸や胴体に突き刺さり、その心臓を食らうことを止められなかった。
「それから手を離してください! ルネ!」
「やめてえええええええ!」
 小夜子が力の限り叫んだ。
 心臓を飲み下したのは愚神ルネ・クイーン。
 なぜ彼女がここにいるのだろう、衝撃で蘿蔔は思考が回らない、何一つ考えられない。
 その時だった。暗闇が増す、世界が闇に包まれる。ドロップゾーンが展開されつつある。
「まったく、本来の計画だったら、私がトリブヌス級になる手はずだったのに……」
 征四郎が刃を振るう。オリヴィエがその動きを補助するために弾丸をみまう、しかし。銃弾は空中で止まって、刃はルネに突き刺さったまま抜けなくなった。
「メタモルフォーゼ、まどろみ、私、そして愚神アネット。この四体を霊力のラインで結んで全ての霊力を束ねる、私が夢の力を持った状態でトリブヌス級になる。そんなシナリオだったのに」
――小夜子が愚神?
 ガルーが茫然と問いかける。
「これが、他者の心を蹂躙する力、夢……ああ、なんて甘美」
 ルネは恍惚の表情で膨大な霊力をその身に取り込んでいる。
「全て囮だったというの? 私たちは全部」
「私の糧となるために、自我を残され。いえ、エミュレートですかね。されて野に放たれた愚神たちは、その出自故に干渉し合い集まる。そこにてを加えて私の糧にというのは、主が描いた設計図ですがね」
 まどろみの夢も。アネットの歌も。全ては成長させた挙句蹂躙し刈り取るためのものでしかなかった、そうルネは告げた。
 あらかじめ無下にすると決定していたと、今、ルネは言ったのだ。
「ルネ! あなたは!!」
「うるさいです、ちょっと黙っててください」
 そう告げ放たれた魔力弾。それを弾いたのは春香のピアノ線。
「みんな、突然現れてごめん、一回撤退するよ。増援と物資を用意してあるから」
 それに首を振る小夜子。だが春香は小夜子には行っていない。
「みんな、いったん引いて。ケントュリオ級がケントュリオ級を取り込んだ。どうなるか分からないよ、いったん立て直して、状況の説明もするから」
 そう春香は先導して走り始める。
「小夜子も早く」
 そう藍が振り返った時には。もう彼女はいなかった。

エピローグ

「一緒で助かりました……ナラカさんも、本当にありがとうございます」
 十波町から外れた森の中に仮設キャンプが設立されていた。そこには増援として雇われたリンカーもおり、事態が深刻であることをうかがわせる。
 カゲリの消耗はさすがというか、軽微で蘿蔔は胸をなでおろしたが。
 状況が急展開すぎてついていけない。
「みんな。ごめんね、でももうひと踏ん張り、力を貸してもらえないかな」
 そう春香は全員につげた。そして山の上を覆いつつある黒い何か。
 あれはドロップゾーンだろう。 
 あれが張られ斬る前に決着をつける必要がありそうだ。
「まどろみの力をガデンツァが持つなんて考えたくもないよ。ここでどうにかしないとだめだ。だから、ルネクイーンはここで倒す」

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • 苦労人
    レオンハルトaa0405hero001
    英雄|22才|男性|ジャ
  • 共に歩みだす
    魂置 薙aa1688
    機械|18才|男性|生命
  • 温もりはそばに
    エル・ル・アヴィシニアaa1688hero001
    英雄|25才|女性|ドレ
  • 終極に挑む
    橘 由香里aa1855
    人間|18才|女性|攻撃
  • 狐は見守る、その行く先を
    飯綱比売命aa1855hero001
    英雄|27才|女性|バト
  • マーメイドナイト
    海神 藍aa2518
    人間|22才|男性|防御
  • 白い渚のローレライ
    aa2518hero001
    英雄|11才|女性|ソフィ
  • 残照と安らぎの鎮魂歌
    楪 アルトaa4349
    機械|18才|女性|命中
  • 反抗する音色
    ‐FORTISSIMODE-aa4349hero001
    英雄|99才|?|カオ
  • オーバーテンション
    沢木美里aa5126
    人間|17才|女性|生命
  • 一つの漂着点を見た者
    浅野大希aa5126hero001
    英雄|17才|女性|バト
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