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フィルム10枚
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最終発言2017/08/20 11:54:02
オープニング
●とある休日
「シフタや、シフタ」
『なんでありますかー』
アーヴィン (az0034)がシフタ (az0034hero001)を呼んだ。一体なんだろうかと扇風機の前から避けてみる。
シフタがアーヴィンから手渡されたのは、旧式のカメラだった。
『? んんん?』
「H.O.P.E.の調査ということでな、こいつを埋めておくれ」
『ほーん。調査、調査ですね! わかりました。何を撮ればいいでありますか?』
「なんでも」
『ええっ』
そう言われても。
「なんでも、気の向くままに撮ってくれとのことじゃよ。好きなものを撮ればよかろう」
アーヴィンは笑った。シフタはどうしたらいいのか、ひっくり返したり、カメラを持て余しながら考えていた。
「あ、期間は1週間じゃ。よろしく頼むぞ」
「え、ええー」
●動向調査
H.O.P.E.では『能力者、英雄の興味・動向調査』との名目で、今では珍しい、フィルム10枚入りの使い捨てカメラを配っていた。あなたたちも、カメラを手渡されたエージェントたちだ。
期間は一週間。
何を映しても良い。ミッションは、10枚のフィルムを使い切ることだ。
解説
●目標
10枚のフィルムを使い切る。
追って現像されるので、任意の写真を任意の枚数、H.O.P.E.に提出する。
●ルール
・期間は一週間。
・10枚の写真が撮れる使い捨てカメラが手渡される。
・能力者、英雄のどちらもカメラを持っていても良いし、二人で一つでも良い。
・撮り直し不可。
・公序風俗に違反しなければOK。
・写真は現像し、配られるが、自前で現像しても良い。
●カメラ
旧式の使い捨てカメラ。撮り直しができないのが特徴。
リプレイ
●ある日の小旅行
「フィルムのカメラなんて初めて見たよ」
届いたカメラを、アンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)とマルコ・マカーリオ(aa0121hero001)は興味深げに眺めまわす。
フィルムは10枚。さて、何を撮ろう。
「うーん、思いつかないよ」
悩むアンジェリカに、マルコは言った。
「俺に考えがある」
気が付けば、アンジェリカとマルコは電車に揺られて移動している。
(マルコさん、行動早いなあ)
しばらく景色を眺めていると、目的地への到着をアナウンスが告げた。
「着いたか」
やってきたのは近鉄奈良駅だ。駅前にある銅像を見たマルコは、近くの人と何か話し込む。それから、一枚ぱしゃりと写真を撮った。アンジェリカはしげしげと銅像を眺める。
「これは誰?」
「行基という昔の偉いお坊さんだ」
「へえ」
改めて銅像を見るとどことなく優し気な表情をしているような気がする。
元の世界で聖職者だったマルコ。同じ聖職者として、なにか通じるものを感じるのかもしれない。
(マルコさんはどちらかと言えば性職者な気がするけど)
女性に声をかけることも珍しくないマルコである。アンジェリカは口には出さないでおいた。
「よし、それじゃあ本命に行くか」
マルコの目的は東大寺の大仏だった。
東大寺大仏殿の本尊は、10mをはるかに越す巨大な大仏だ。アンジェリカはもちろん、マルコからもはるか見上げる格好になる。
(日本の信仰の対象かあ……)
マルコはカメラを構えて、大仏を一枚撮影する。
「それにしても大きいなぁ」
近くの柱の穴は、大仏の鼻の穴と同じ大きさだという。大人には難しいが、アンジェリカなら楽にくぐりぬけることができる。
アンジェリカが穴をくぐって出てくると、カメラを構えたマルコがいた。
「あ!」
ぱしゃり。
「柱の穴をくぐり抜けると「無病息災」のご利益があるそうだ」
よかったな、とマルコは笑った。
続いて、アンジェリカとマルコは奈良公園へとやってきた。境内につくやいなや、アンジェリカとマルコに鹿たちがよってくる。
「わ、可愛い♪」
鹿はなにかねだるように袖を引っ張る。
「なんだろう?」
「鹿せんべいだな」
鹿にやるものらしい。
アンジェリカがせんべいを購入するやいなや、鹿たちはこぞってアンジェリカのもとへやってきた。ねだるように頭を押し付ける。
「わっ、わ」
ぱしゃり。
鹿せんべいをあげてる所を一枚、マルコが写真に収めた。
「この鹿、神鹿っていうんだね」
どうやら、この鹿たちは神使というものらしい。せんべいを売っているおばさん曰く、最近増えすぎて害も出てるので捕獲してるとのこと。
神聖な役割を担った鹿も、増えすぎると捕獲せざるを得ないのだろうか。
「難しいね」
「難しいな」
ひととおり見回った二人は、今度は大阪へと移動する。
電車で移動する途中、生駒山が見えた。晴れ渡った空。かつての大規模作戦の事を思い出し、アンジェリカはしばし感慨にふけっていた。
かつて、あの山は戦場だった。
この世界は幾度となく危機に陥り、エージェントたちの活躍がそれを救ってきた。
大阪に着いた。
道頓堀をぶらぶら歩くと、動く蟹の看板が目に入る。
「あ、あれ面白い♪」
器用に足を動かして、客を招いているようでもある。
商売柄だろうか。このあたりには派手な看板がたくさんある。中でもアンジェリカが目にとめたのは、ぷくっと頬を膨らませる魚の看板だった。
「あれはふぐだな」
「ふぐかあ。……どんな味なのかな?」
「わかったわかった」
アンジェリカがマルコをチラチラ見ると、苦笑したマルコがフグをおごってくれることとなった。
食事のメニューは、ふぐ刺と煮こごり、さらにから揚げ。一品ごとに姿を変えたフグが目の前に現れる。
「……!」
道頓堀で食べたフグは、とろけるようなおいしさだった。
次の行き先は京都だ。二人は、そのまま梅田まで歩いていく。
「なんだろうこれ?」
アンジェリカは、大阪駅で面白い顔の土産物を発見した。
「ビ、リケン。ビリケンって言うの?」
「幸運の神の像だよ」
売店の男が答えた。
「幸運の神か……」
これも信仰の対象と聞いて、マルコは一つ購入する。写真を一。どことなくビリケンに似た顔の店員が、のっかってピースをしていた。
「それにしても面白い顔だね」
京都の町屋の風景を一枚撮る。建物が縦に長い。
イタリア・クレモナ出身のアンジェリカには、日本的な風景は新鮮に映る。
「おお、あれは!」
着物を着た女性を見、マルコが目を輝かせる。
「あれが京都の舞妓か!」
感激しながら、神に仕えるものの義務とばかりに声をかける。愛を広めるのは神の思し召しの一環とはいうが、果たして本当だろうか。
アンジェリカはいまいち信用していない。
彼女たちは神の教えに耳を傾けるのもやぶさかではないようだったが、残念ながらどうも急いでるようだった。
それでは一枚とカメラを構えて、風景に入るよう撮影をする。
「良い思い出だな……」
最後の一枚。
いったい何を取ろうかと考えてみるが、もうフィルムの枚数がなかった。
「てあれ? 終わり? 後一枚ある筈なのに」
「はずみで押したのかな?」
マルコはどことなく含みのある笑い方をしていたが、このときのアンジェリカは気に留めていなかった。
「うーん、そうなのかな?」
「よし、京都観光を楽しむぞ」
後日。アンジェリカはHOPEから送られてきた写真を見て声をあげた。
「ああっ! こんな写真!」
マルコは笑いをこらえている。
ふぐの看板を見て、アンジェリカが頬をぷくっと膨らませた場面だ。マルコがこっそり撮っていたらしい。
「もう、こんなの撮って許さないよ!」
「よく撮れてるよ」
●我が家の日常
「ふむ、動向調査……ね」
『……ん、興味……興味』
ユフォアリーヤ(aa0452hero001)は、麻生 遊夜(aa0452)を見ながらクスクスと笑った。もう撮るものは決まっている。
二人は、孤児院での子供達と過ごす日常を記録することにした。
「あらゆるものを受け入れる」ことを信条と掲げた孤児院。麻生にとっての家族が暮らす、何よりも守るべき大切なもの。
孤児院の裏庭には、みんなで作物を作っている。
夏の大収穫。一生懸命の世話に応えるように、スイカは大きく実っていた。
「おお、デカいスイカだな!」
スイカを持ち上げ、土にまみれて喜ぶ子供たちの笑顔。最高のタイミングを狙って、激写。
スイカの大きさにおもわず子供がよろける。子供がスイカを離すまいと支え、麻生が子供を支えた。
セーフ。
(あ、良い顔)
ぱしゃり。リーヤが横から激写する。
「夏もそろそろ終わりか……よし、海に行くか」
子供たちから歓声が上がる。
「おお、可愛い可愛い」
麻生は波打ち際を背景に、リーヤの艶姿や女児達の姿を激写する。おませさんな女子は、思い思いにかわいらしいポーズをとってくれる。
波がかかった。遊ぼう、と男児達が遊夜にまとわりつく。
「よし、遊ぶか」
『……ん、ユーヤも……カッコイイ? よ』
クスクス笑いながら、リーヤは今度は遊夜と男児たちの写真を撮った。
「うし、こっちは焼けたぞ」
浜辺でのバーベキュー。
遊夜の一声に、子供たちがわっと歓声を上げ、どこにそんな元気が残っていたのかという勢いで群がってくる。
焼けたバーベキューを配る遊夜をリーヤがぱしゃりと撮影する。
あらかた配り終えると、リーヤが遊夜をくいくいと引っ張った。
『……ん、日焼け止め……塗って?』
色っぽいお誘いだ。その姿を、思わずパシャリ。
こうやって、夏の思い出が増えていく。
孤児院の中庭にある、日曜大工でコツコツ建設した演劇場では、劇の練習が行われていた。子供たちを交えた特撮劇は、ボランティアや別の養護施設に派遣される際に披露するものだ。
リンカー役の子供がびしり、と悪者に銃を向ける。正義の味方の武器が銃なのは二人の影響だろうか。
「む、シャッターチャンス!」
一番の決め台詞のシーンで、遊夜はすかさずシャッターを押す。
『……ん、可愛い可愛い』
リーヤはヒロイン役を中心に、子供たちが多い場面を撮影する。手作りの衣装。どれもよく似合っている。
写真もなかなか充実してきたものだ。
中庭で飼ってる犬たちと戯れてる子供達を見つけ、リーヤはさっそくカメラを構える。
『……ん、楽しそうだねぇ……』
クスクスと笑い、撮れたかな、とカメラを確かめていると。
『……わぁ!?』
大型のワンコがリーヤを襲撃する。はちきれんばかりにしっぽが揺れている。子供たちが笑う。
「おお、楽しそうだなー」
遊夜はすかさず顔を嘗め回されつつも笑っているリーヤを激写する。良い表情だった。
夕飯時になると、小気味良いトントンという音が響く。食事も自分たちが作るのだ。今日はリーヤが子供たちに包丁の扱いを教えているようだ。
『……ん、そう……指に気を付けて』
はい、と返事をし、真剣に料理をする子供たち。
「そろそろ鍋が煮えるぞー」
と言いつつ、遊夜はリーヤ達を撮影する。幸せな光景だ。
食事の支度が済むと、いただきます、と元気のよい声が響く。
「うむ、今日も美味いな!」
今日の料理はカレーライスだ。じっくりと煮込まれた野菜の中には、子供たちが切った不揃いな具材が見え隠れしている。
『……ん、良い出来』
リーヤは満足げに頷き、カレーをもぐもぐとほおばる遊夜と子供達をカメラで激写する。
一週間、最後の一日。
フィルムの残りも少なくなってきた。
皆のお昼寝姿、28人分。7枚程に分けてパシャパシャと撮影していく。
「うむ、充実した日々だったな」
『……ん、良い夏休み』
子供達を眺めつつそのまま……、眠りに落ちる。
子供たちがそっと起き上がった。しー、と、示し合わせたようにそろそろ歩く。カメラを持ち上げて、二人のもとへ。
ぱしゃり。
最後の一枚は子供達による幸せそうに寄り添う二人の寝姿だ。
「ん、悪くないな」
『……ん、保存保存』
報告書をまとめる傍ら、リーヤはいそいそと写真を保存する。最後の、思いがけない一枚。遊夜を呼ぶ。
思わず顔がほころんだ。
全て提出する予定だ。
焼き増し分はアルバムへ収めた。
●永遠の美しさ
「アナログならではの良さ、美しさ……」
『あたし達がその瞬間を切り取れるなら、素敵、ですわね』
シオン(aa4757)とファビュラス(aa4757hero001)は、一つのカメラを手に取った。
「そうだね。どんな美しさがファインダー越しに見れるだろうか」
『ふふっ、シオンったら嬉しそうですわね!』
ファビュラスは美しく白薔薇のような笑みをこぼした。
『あたしも負けない位に楽しみましょう』
一枚目。
コンビナートが立ち並ぶ工業地帯の海。カラーセロハンを通して、古びた風景が浮かび上がる。どこか寂寥感を覚える海は、今は凪いでいるように思われた。
二枚目。
何処かへ走り去ろうとする子供の背中を、追いかけるように写し取る。子供はどこに向かうのだろうか。なぜ、彼は急いでいるのだろうか。
フィルムには写っていない。それゆえに想像力を掻き立てる。
三枚目の写真は、美声で多くを魅了し、音楽的な才能に恵まれたシオンだからこそ思いついた構図だろうか。
無人のステージに置かれたグランドピアノ。ほの暗いホールの中、ピアノが光を浴びて浮かび上がる。
演奏者の不在が思わせぶりだ。
続いての一枚は今までとは大きく様相を変える。
伸びをする猫。ファビュラスの猫、ソマリだ。レッドの毛並みを持つチョコレートブラウンの毛並みを波打たせ、、日向でゆっくりと毛づくろいをしている。何か物音に気が付いたのだろうか、ピン、とひげを張り立ち上がる。
いたずらそうに輝く表情を、写真はしっかりととらえていた。
五枚目の写真は、深い赤の表紙が印象的な1冊の本。燃えるような赤が、ライティングによって浮かび上がっている。
幻想的な写真だ。
六枚目の写真は何処の国のモノか分からない様々なお土産類を映していた。ラフに写された写真の中には、小さな貝殻や砂、アンティークの小物がこまごまと映っている。
ごちゃごちゃとした印象を際立てるように、あえてラフに撮られた写真だ。今までの写真と見比べてみれば気が付くことだろう。
シオンとファビュラスの写真は、次々と表情を変えていく。
『なんだか、ほっとしますわね』
ファビュラスは珈琲を注ぎ、テーブルの上に置いた。湯気の立つ白いカップに入った珈琲は、白いティーカップと深い黒のコントラストを演出している。
レンズが曇らないように気を付けながら、シオンが一枚撮った。
『こういったものは、たまにはいいかもしれませんわ』
八枚目。
無造作に見えるように配置された、数本の口紅。これもまた、赤が目を引く一枚だった。まるで化粧品の広告写真のように目を引く、鮮やかなメッセージ。だが、その意図を語る文章はない。
九枚目。
次の写真は、白薔薇にピントを合わせた薔薇園の中の一角だ。遠くに立つファビュラスが、振り返りほほ笑んだところをシオンが撮影した。
薔薇の鮮やかさと、落ち着いた白色がそれぞれを際立たせる。
そして、十枚目。
深くしわが刻みこまれた老婆の手の甲。移り変わる美。セピア色をしていた。
出来上がった写真は、どれも美しかった。人の想像力を掻き立てるような、見ていて吸い込まれるような魅力がある。意味を考えずにはいられない。
「何れもそれぞれに美しさを持っている」
シオンはぱらりと一枚をめくる。
「それを……その一瞬を……永遠に閉じ込める、か」
『永遠、に?』
「そう……永遠に、だね」
口に出した永遠という言葉には、どこか嘘らしい響きが付きまとっていた。
「けれど本当は……」
シオンは銀色の目を伏せる。
「永遠という鳥籠に閉じ込めた時点でその美しさは……本来持つソレとは違うモノとなってしまうのかもしれない、ね」
『違うモノ……』
ファビュラスは写真に目を落とした。色あせることのない写真。
閉じ込められた風景。ファインダー越しに、切り取られた光景。
『……でもそれは。一瞬を永遠としたソレは……』
一枚を持ち上げて、日に透かして見る。それぞれの写真のコントラストが対照的だ。
『また違った輝きを放ち始めるのでしょう』
●残るもの、残すもの
「こういうのもあるんだね! 撮り直しができないなら大切に撮らなきゃ……!」
御代 つくし(aa0657)は届いたカメラを開封しながら、何を撮ろうか考える。
カスカ(aa0657hero002)は二人で一つのカメラであることにほっとする。自分では、10枚も何を撮るか決めるのは難しかったろう。
【何を……映してもいい……】
写真は苦手だ。けれど……。
(苦手、だけど……でも、嫌なもの……じゃなかったり、したりする……から)
「はい!」
振り向きざまに、御代はカメラを構える。
「カスカー! 笑って笑って!」
【ぇ……ぁ】
ぱしゃり。困り顔の笑顔が一枚。
【変だったりなんだり……して……】
「良い顔だよ」
【あのぅ……ボクも……】
つくしも慌てて笑いかける。
ぱしゃり。お互いが一枚目だった。
「やっぱり、大切な場所は撮っておかなきゃ!」
二人は所属する部隊の部屋へと向かう。ちょうど荷物を取りに部隊員がやってきたところで、一枚を撮影する。
カスカは道端で見つけた花を撮影しがてら、友達の写真を撮りに行く。
帰り道、ちょうど子供たちを連れた麻生を見かけた。
「麻生さんたちも撮影ですか? 一枚撮らせてくださいっ!」
麻生が笑って、リーヤに身を寄せる。ふ、と表情がほどけ、そっと遊夜に腕を絡める。
二人の世界だ。
(わあ、仲が良いなあ)
しばらく歩くと、アーヴィンとシフタがやってきたので、つくしがそれを撮影した。アーヴィンは笑いながら敬礼をした。
パートナーたりえる第一英雄を一枚、カメラに収める。
「いつかが来ても、写真なら消えないから」
【あのぅ、カメラ……借りたいなあって……】
「はい!」
カスカの目に入ったのは、イヴィア(aa3984hero001)だ。
気づかれないように、カメラを構える。
出来れば、こちらを向いている表情がいい。そう思ったけれど、そこまでは望まないようにと無意識にストップをかける。
慌てて引っ込む。二人に気が付いたつくしが手を振った。
「私たちにも撮らせてくださいっ!」
声に気が付いて、イヴィアと無音 冬(aa3984)が振り返る。カスカは慌ててカメラで顔を隠した。
●笑顔を
『お前はどうしてそんなに笑顔が好きなんだ……』
「……元気にしてもらえるから」
無音は、笑顔というものに憧れがある。
(僕が好きなHOPEを……笑顔を撮りたい……)
イヴィアは自分が良いと思った瞬間や物を撮るつもりだった。カメラの操作は教わったので、使い方はバッチリだ。
イヴィアはカメラを覗いて、あたりを見回した。と、そこへ、つくしとカスカがやってくる。
ふと、本当の笑顔を撮りたいと思った。
「つくしちゃん……笑って……」
つくしは咄嗟に笑顔を作る。無意識の笑顔。心の底から笑っているわけではない笑顔。
「ありがとう……ちゃんと撮れたよ」
シャッターは押したふりだった。
(僕の知ってる本当の笑顔じゃないから……)
それじゃあ、と、こんどはつくしがカメラを構える。撮れた、とはしゃぐふたりを、イヴィアがそっと撮影した。
後ほど、つくしたちはイヴィアから写真を撮影している自分たちの写真を受け取ることになる。
『お前達の一番良かった瞬間だ☆』
という言葉とともに。
二人は、ゆっくりと写真を集めていく。
『普段の食事も大事だしな☆』
何気ない普段の食卓も、
『今日という空は今日しか見られないからな☆』
空の色も、イヴィアにとっては大切なものなのだろう。
「イヴィア……自分が求める一枚って……なかなか撮れない気がする……」
『そうだな…俺もこればっかりは難しいと思うぜ』
「……本当に?」
無音には、イヴィアはすぐにシャッターを切っている気がする。交代で撮影をしているが、番が回ってくるのが早い。
笑顔を求めて、無音はカメラを構えた。
初めての友達。
兄弟の笑顔。
明るい友達の笑顔。
優しい人たちの笑顔。
笑顔を集める無音を、イヴィアがこっそり撮影した。
(いつかお前が笑うのを楽しみにしてる)
「この花は?」
『ネモフィラっていうらしいな』
イヴィアは淀みなく答えた。調べたのだろうか。黒みがかった、青色の小さな花。イヴィアがどことなくカスカに似ていると思って撮ったものだ。
……実は、イヴィアはカスカが写真を撮るのにも気が付いていたのだが、あえて知らぬふりを通した。
フィルムは一枚余った。つくしの分が撮れなかった。
(写真……全部使い切らないと……どうしようかな)
「お、余ったのか」
イヴィアが気が付き、二人で写真を撮った。つくしを入れたらどうか。提案したが、首を横に振る。
「今は……ダメ」
『……。じゃ、二人で撮るか☆』
なんとなく察しは付いていた。ちょうどセレナ・ヴァルア(aa5224)たちを見かけ、撮影してもらった。
●みんなの写真
「被写体は如何するの?」
『それを俺に聞くのか』
セレナの問いに、葵杉 昴汰(aa5224hero001)は淡々と答えた。彼はあらゆる事に執着せず、好き嫌いも存在しない。
「ええ。聞いても無駄だけど」
セレナもそう返されるのはわかっていた。
『まあ、そこらを歩いていたら見つかるかもな』
「じゃあ、ここはノープランで」
『そうだな』
『興味か。有る様な無い様な感じだな』
「……他の人たちは何を撮るのかすこし、興味ある」
『ああ……それなら他の参加者の撮影風景を撮るのはどうだ?』
それは考えもしなかった。
葵杉の言葉に、セレナは顔をあげた。
「……こーたなのに良い事、言うわね」
『まあね……』
ちょうどよく、カメラを持ってうろうろとする仲間が見えた。
『取り合えずは見失わん様にしないとな』
出来るだけ自然体が撮りたい。目立たないように隠れつつ、つくしが写真を撮っているところを、さらに撮影。シャッターチャンスは、撮影時と、撮ったときのリアクション。
相手が何かを撮っているときか、撮った後のリアクションがシャッターチャンス。
「……よく考えたら勝手に撮っていいの?」
『事後報告すればまあ、良いんじゃないのか?』
「そうね」
『そうだ』
「どうして、それを撮ろうと思ったんですか?」
【ぇ、ぇと……】
そこには、ちょうど写真を撮っていた御代たちと無音たちがいた。カスカはちょうど、空を撮影していた。
「残しておきたいなあと思ったからです」
つくしは、写真は『そのモノ』が消えた時に残る物だと思っている。人でも物でも時間でも。だから大切に撮りたい。……ちゃんと前を向いていられるように。
(今この時をいつか忘れてしまっても、写真があれば思い出せるかもしれないから)
「笑顔は……元気をもらえるから」
無音は答える。
「そうなんですね……ありがとう」
旅行から帰って来たと思われるアンジェリカたちを見かけた。マルコは気が付くと笑ってきちんと構えた。
聞いてみれば、理由は様々だった。自分たちにとって大切なものを写す者もいれば、思い出の記念のようなもの、はたまた、美しいもののコレクションであったり。
『絵は写真のようなモノだが、やはり違うな……』
葵杉はフィルムの残りを確かめながら言った。
「写真に興味出たの?」
『……知らん』
出くわした参加者は5名。フィルムは5枚残った。
「……余ったわね」
『…余ったな』
「……あ……」
セレナは物音に振り返った。
『如何した?』
「猫、居る……」
そこにいたのは、のんびりと塀の上で昼寝をする三毛猫だった。
『……なら猫でも撮るか?』
「……本日二度目の良い事発言ね……」
セレナと葵杉は、別々の猫の写真を撮る。そして、そのうちの一枚はファビュラスの猫だ。偶然に猫好きであると知り、親近感を覚える。
提出するために写真を眺め、セレナはじっと考えた。
「……この写真……出来上がったら持ち帰りできるのかな」
『頼めば良いんじゃないか?』
「そうね……他の人たちの写真も焼き増しして貰って、それぞれに渡そうかな……」
『そうだな』
喜んでもらえるだろうか。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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