本部

【森蝕】連動シナリオ

【森蝕】深き緑にて彷徨う

ガンマ

形態
イベント
難易度
やや易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
25人 / 1~25人
英雄
25人 / 0~25人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2017/08/27 22:09

掲示板

オープニング


 エージェント達は呆然とした。
 発端はH.O.P.E.に届けられた謎の電子メッセージ。暗号で構成されたそれを解析した結果、いくつかの画像、過去の事件の報告書、そして電子メッセージの送り主……エネミーからの声明である事が明らかになった。
『もうすぐギアナ支部から応援要請メールが届きますよ』
『だって、彼らのそういった連絡を止めてたのは私ですから』
『「今、我々は【絶零】や【屍国】で忙しいから応援なんて出せません」……と、代わりにお返事しておきました』
 そして入れ替わるように届いた、ギアナ支部からの協力要請。
 エネミーの言葉が正しいとすれば、【絶零】と名付けられたロシアでの一連の事件……その頃からギアナ支部は何らかの危機に見舞われており、H.O.P.E.に救援信号を出し続けていた事になる。そしてその叫びは届く事なく、エネミーの手によりことごとく握り潰されていたのだ。
 すぐさま返信を行ったが、ギアナ支部からの応答はなし。まさか今の要請は最期の力を振り絞って……嫌な想像が頭を過ぎる。
 H.O.P.E.は動ける人員を掻き集め、すぐさまギアナ支部へと送った。もし危険が迫るような事態であったら引き返すように言い含めて。
 そしてギアナ支部に到着したエージェント達は、目の前の光景に呆然とする事になる。




「まず信じて欲しいのが、我々は君達に不信の目を向けてはいないと言うことだ」

 迎えたエージェント達に対し、ギアナ支部の者――寝不足のクマがありありと見て取れる――はまずそう言った。
「だからどうか、謝らないで欲しい。ヴィランの策略と見抜けなかったこちらにも非はあるのだから。……とまあ、今は責任問題を追及するよりも、解決すべきことが目前にある」
 その為に君達に集まってもらったんだ。そう言って、彼はテキパキと資料を配り始める。
「君達に当たって貰いたい作戦は大きく分けて二つだ。
 一つは、出撃中のエージェントの保護および救出。彼らは疲労困憊の状態で森に出て、従魔と戦い続けてくれている。彼らを無事に支部まで連れ帰って欲しい」
 言いつつ、彼は通信機と森の地図も貸し出してくれる。「他に必要なものがあれば貸し出すからね」と付け加えてくれた。
「救出対象は三つの小隊だ。二つは通信が繋がっているのだが……もう一つが音信不通状態でね……。おそらく遭難した可能性がある。どうか彼らを助けてやって欲しい」
 その声には心配と、仲間の危機に駆けつけることもままならない自身達への不甲斐なさが滲んでいた。職員は溜息を噛み殺すと、説明を続ける。
「さて、もう一つの任務は、森の調査と哨戒だ。この通り人手不足で、見回りもままならない状態でね……。森に異変がないか調べてきて欲しい。
 いずれの任務も、従魔と遭遇する危険性がある。くれぐれも気をつけて欲しい」
 そう言って、彼は一同をぐるりと見渡した。

「それじゃあ……よろしく頼んだよ、皆!」

解説

●目標
 ギアナ支部エージェントの保護・救出
 周辺調査、哨戒

●状況
 南米のジャングル。天気は晴れ。作戦時間は日中。
 PCは以下の二つのタグから自分が当たる作戦を選び、プレイングの一番最初にタグを明記すること。

【救助】
 出撃中のギアナ支部エージェントの元へ駆けつけ、彼等の保護および救助を行う。
 治療したり、励ましたりと、心身ともにケアしつつ無事に支部へ連れ帰らなければならない。もちろん、従魔を退けながら。
 救助対象は三つの小隊。

【哨戒】
 森の中をパトロール。
 調査メインか、従魔を倒すことをメインにするかは自由に決めてよい。
※以下PL情報
 調査の達成度によって判明する情報が増える。
達成Lv1:
 獣の暴れた痕跡が森中に散見できる。
 痕跡から、ただの獣ではなく従魔のものだと分かる。
達成Lv2:
 誰もいない、小さな集落を発見できる。
 死体や血痕は見られないが……。
達成Lv3:
 ???との遭遇。戦闘は発生しない。

 行動によってはこれ以外の情報が出現する可能性も。
※PL情報以上


●登場
ギアナ支部エージェント
小隊A
 通信機は生きているので連絡は取り合える。
 四名。従魔との度重なる交戦でとにかく疲労困憊している。
 負傷者多数。特に一名が重傷であり、仲間に支えられて何とか歩行している状態。

小隊B
 通信機は生きているので連絡は取り合える。
 五名。従魔の群と絶賛戦闘中。疲労困憊集中力限界負傷者多数につき、ほぼ敗走中。

小隊C
 通信機を従魔に破壊されて音信不通状態。
 四名。軽~中傷程度。迷ってしまい、肉体的というより精神的に限界が近い。
 一名が体調を酷く崩している。

※どの班を探すかプレイングに明記すること。

従魔
 現れる従魔はいずれも階級が低く、PCにとっては脅威にならないだろう。
 ガチガチの戦闘作戦プレイングは不要です。ほぼフレーバーで倒せます。

リプレイ

●我々は真相を確かめるべく南米アマゾンへ飛んだ

 鬱蒼――そんな言葉はこの光景の為にあるのだろう。

『凄く……疲れてましたね』
 さく、さく。機械の足が生い茂る緑を踏みしめる。三ッ也 槻右(aa1163)と共鳴中の隠鬼 千(aa1163hero002)が、ライヴス内で口を開いた。H.O.P.E.ギアナ支部。今そこでは、掃除や介抱が現在進行形で行われているのだろう。
「疲労困憊のまま森に……何でそんな状況になったのかな?」
 職員達の疲れきった顔を思い出しつつ、皆月 若葉(aa0778)が言葉を口にする。
『支部の状況を見れば危機的状況なのは一目瞭然だが……』
 答えたのは若葉と共鳴中のラドシアス(aa0778hero001)だ。
 二人はその原因を確かめるべく、出発前に支部にてある程度の確認を行っていた。ギアナ支部はもともと、大量の人材がいる場所、とはあまり言えない。それに戦闘職というよりは技術屋の集まりだった。
『そこに重なった従魔対応……』
「誰かが意図的に従魔を発生させた……? エネミー、というかマガツヒ絡みなら、意図的に動物を従魔化し暴走させたとか」
 地図と睨めっこしながら推理を口にする若葉。そんな仲間を横目に見、レーダーユニット「モスケール」を背負い直した槻右は油断なく周囲を見渡していた。
「正しい現状の報告こそ、僕達にできる支援だと思う」
『冷静に正しい報告、きっとそうすれば、これからが動けると思います』
 槻右と千の言葉。真実は、この深い緑の中にあるのだろうか……。
『……こんな所に来る羽目になるとは……』
 若葉、槻右と行動を共にしている弥刀 一二三(aa1048)、と共鳴中のキリル ブラックモア(aa1048hero001)は茹だるような湿度に顔をしかめている様子だった。
「人が音信不通状態なんでっせ? 放っとかれんどすやろ」
 答えるのは一二三だ。事前に支部へ連絡を行った者と共有した情報によると、ここ数日連絡がつかない集落があるとのことである。どうも気がかりだ。が。キリルは『貴様が終わらせ……』と早くもやる気が尽きかけている。一二三は溜息を吐くと、
「倒した従魔の数だけチョコ……」
『ガンガン倒すぞ! フミ、モタモタするな!』
 食い気味の返答。まあ、なんにしてもやる気を出してくれたのなら一二三的には万々歳だ。

 モスケールを背負った槻右を真ん中に、若葉と一二三が左右に展開。
 上空写真や地図、オートマッピングシート、カメラでの撮影、他の仲間達との通信。三人小隊は互いに死角を補いつつ、用心深く・かつ効率的に森を進む。

 そうして森の中を歩いていると、彼らは奇妙な点を幾つか発見する。
「なんやろこれ、獣の暴れた痕跡……?」
 一二三は木や地面に刻まれた爪痕のようなモノに目を凝らす。「こっちにも」と若葉と槻右も見つけたようだ。一二三はすぐにライヴスゴーグルでそれらの痕跡を確認してみた。
「微量やけど……ライヴスの痕がある」
 一二三は眉根を寄せる。大きさから言っても愚神か従魔……このライヴス量なら従魔が妥当か。そう仲間に伝えつつ、スマートホンで痕跡の撮影を。
「ライヴスの痕跡は辿れそう?」
 若葉の問いに、一二三は首を横に振った。追跡するには微弱である。住処などの特定は難しそうだ。
『他にも痕跡があるかもしれん。探してみよう』
 ラドシアスが言う。
 と――そんな時だった。

「五時方向、動きが変……気をつけて」

 槻右のモスケールに反応があった。数は二。……従魔だ。
『後の褒美の為……いや! 行方知れずの者達を襲わぬよう、一気に殲滅するぞ!』
「やりすぎっとサンプルが採れん……ちょい手加減頼むな」
 小隊の反応は早かった。一二三がザミェルザーチダガーを構え、
「接近させない……!」
『射抜くぞ』
 若葉が九陽神弓を引き絞る。
 ライブスの衝撃波が、神速の二射が放たれたのは直後。茂る葉を貫き飛んでいった一撃は、遠方の従魔を確実に捉えた。――ドサリ、倒れ伏す音。
「お見事です」
 目標の無力化を確認。槻右は打ち漏らし用と構えていた武器を下ろして二人を労い、仲間と共に従魔の姿の確認へ。

 倒れていたのは、獣のような人型の従魔。若葉の弱点看破によって心臓を射抜かれている。大凡基本的な生物構造をしている、と判断してよいだろう。

 その後も、一同は幾度か同じような従魔と遭遇した。
 そこから分かったことは、従魔共に統率性などは特になく、決まったルートを動いたり、特定の場所を護ったり……ということも見られない、ということだった。強いて印象を言葉にするのならば『森に放たれた獣の状態』……とでも言おうか。
 特性としても、一般的な従魔だ。特殊な能力や、ズバ抜けた能力などは有していない。雑兵とでも呼べばいいか。

『この森……何かあるの? ……こんなに従魔がいて森の中に留まってる』
 いくら人手不足でなかなか従魔掃討に手が回らなかった状況、とはいえ。千が違和感を口にする。共鳴状態の槻右が腰に取り付けたカメラは、彼等が見たものを鮮明に記録し続けている。
 今まさに撮影されているのは、撃破した従魔の体表を薄く削って生体サンプルとしてライヴス・コールドボックスに収めている一二三の姿だ。
「……、」
 最中に一二三が露骨に眉根を寄せた。
「どうしたの?」
 覗き込む若葉が問う。
「布の切れ端が、従魔の体に付着しとる……」
 彼の言う通りだ。ボロボロの布が、汚れた毛皮の隙間に。わずかなのと損傷が酷いのとで、その布が何かまでは断定できない。だが、何かの手がかりかもしれない。コールドボックスに収める。
「さて。虱潰しに探してこか。まだまだ、気になるとこはようさんあるよって……」
 例えば洞穴。例えば木の上。例えば水中。人が潜伏できそうな場所……。一二三は立ち上がる。気がかりなのは、音信不通状態の住民のことだ。
「生きたまま誘拐とかか? そんな面倒するやろか?」
『生贄、とかか?』
「生贄……誰に?」
『う~ん、愚神?』
「だとするなら、背後の愚神は……?」
 見やる森。湿った風が、薄暗い森をザワつかせてゆく――。


『極寒のロシア、屍はびこる四国に続くは、木々生い茂るジャングルじゃとはのぅ』
「まぁ、敵が何かしら裏で動くにゃちょうどいい場所を選んでると言われれば、納得できる選択だとは思うが」
 ライヴス内のイン・シェン(aa0208hero001)の言葉に、共鳴姿のリィェン・ユー(aa0208)が答える。彼は近くの倒木に腰かけ、一息をついていた。その近くには切り捨てられた従魔達が転がっている。いずれも、超攻勢改造された屠剣「神斬」によって斬られたものだ。
『それに加えて今回は完全にだし抜けれておるからのぅ。エネミーとかいったか、なかなかのやり手じゃ』
 支給された水分を飲むリィェンに、インが言葉を続ける。ぷは、と飲み終えた彼は水筒をしまいつつ、英雄の言葉に答えた。
「目を通した資料だけでも……厄介そうな敵なのは違いないな」
 エネミー。凶悪犯罪者集団マガツヒの上位構成員。それが絡んでいる事件なのだ。笑って人を殺すような下衆共なのだ。生温いものではないだろう。
『今はやるべきことをやっておかねば、こちらの陣営の関係の亀裂が大きくなるばかりで損ばかりじゃ』
「わかってるって、迅速にやることやるさ」
 さて。一休みも済めばリィェンは立ち上がる。剣の代わりに手にしたのは支給された地図だ。通信機からは仲間達の連絡が間断なく響き、次々と情報が更新されていく。
 エージェント達の連携は非常に綿密で、無駄がない。
「――了解。それじゃそこの従魔は俺に任せてくれ」
 リィェンの役割は遊撃だ。深い森の中を、彼は歩き始める。高温多湿。草木がどこまでも青々と生い茂る視界。蚊が顔の周りを飛び回る。
『ロシアの極寒が恋しくなってくるのぅ』
 冗句めいてインが笑う。全くだ、とリィェンもそれに緩く口角をつった。
 そうして歩いてほどなく。仲間との連携で回り込んだ、従魔の死角――息を潜める。足音を殺す。狩人のように。
 ケダモノのような従魔が異変に振り返った時には、もう遅い。

「――しかし。これだけ仕組まれてるとなると、誰ぞが俺らの動きを見に来てる可能性は高いか?」
『じゃな、かかった獲物の様子を見に来ない策士は普通いないじゃろう』
 従魔を切り捨て、再び森の中を歩き始めつつ。二人は油断なく森の中を見澄ました。


 深い森は、ただただ一同を包み込んでいる。


(ギアナ支部からの応援要請を阻んでいたのは、時間稼ぎのため……?)
 バルタサール・デル・レイ(aa4199)は紫苑(aa4199hero001)と共鳴した姿で、湿った土の上を歩いていた。
『ラグナロクが関与してるなら、“異端襲来”の時みたいに集落の人を従魔に変えたり、リンカーがいれば愚神に変えようとしているとか?』
(声明を寄越したのは、ラグナロクが目的を達したから……?)
 ライヴス内での紫苑の言葉を聞きつつ、バルタサールは森を見渡す。散見される従魔の痕跡。先程「従魔に謎の布の切れ端が」……という情報があったが、
『その布が、衣服だとしたら……今の僕の推理に割と辻褄が、合っちゃうんだよねぇ』
「従魔に取り憑かれた人間が着ていたもの、ということか」
『断定はできないけどね? ひょっとしたら従魔に襲われた人間の遺品がくっついてたって可能性もあるし』
 なんにしても、更なる情報が必要だ。
 オートマッピングシート、ライヴスゴーグル、モスケール、ノクトビジョン・ヴィゲン――使えるものは全て使い、バルタサールは進んでゆく。通信機からの仲間の声にも耳を傾ける。
(拠点があるとするならば……)
『例えば従魔の数が多い場所、例えば罠がしかけられてる場所……守りを固めるのは当たり前だよね。兵がいるなら、地面が踏み固められてたりして』
 紫苑の言葉に、バルタサールは地面にも注目している。時折、従魔と思しき足跡を見つけることができる。が、罠や踏み固められた場所、樹木が薙ぎ倒された場所、従魔が特に多い場所、というのは見当たらない。
『うーん。……もっと遠くに拠点がある、とか?』
「今回の二五人でアマゾン全域の調査は流石に無理だろうしな。二五人の中には、ギアナのエージェントの救出班もいることだし」
 ギアナ職員が復活すれば、調査も捗るのだろうが。一つ、息を吐く。「ちょっと休憩したら?」と紫苑の言葉に、バルタサールは支給された水筒を取り出した。
『ヤドリギ……旧き世界……稲妻が聖なる樹を解放。赤き地平線を。母が胎を痛めて子を成すが如く』
 水を飲む相棒の傍ら、ライヴス内で英雄は独り言つ。
『何か特殊な……いわれのある樹があるとか』
「特に職員からそんな話は聞かなかったな」
『じゃあ……人やリンカーに寄生する、とか? ヤドリギらしくさ』
「……どうだろうな」


『……蒸し暑い』
「熱帯雨林だしな」
 オートマッピングシートを手に、ライヴス内のウェルラス(aa1538hero001)の声に共鳴中の水落 葵(aa1538)が答えた。
 調査は順調。連携もそつなく。蒸し暑くて快適とは呼べないことを除けば、悪い意味で不測の事態というものは起きていない。
『カメラの調子は?』
「今のとこ、問題なし」
 ウェルラスの言葉に答えた通り、ベルトに取り付けたハンディカメラは自分の後方を撮影できるように後ろを向いている。
『今回は後ろ?』
「そ、後ろ」
 カメラは異常なし。機器不調は起きておらず、また他のエージェントからそういった報告も上がっていない。「なんだか嫌ぁな従魔を思い出すんだよな……」と懸念から、ギアナ支部にて別任務にあたっている従妹へ連絡を試みたが、それも普通に繋がった。
「支部内外での情報や連絡断絶は……ない、のかな。今のところは」
 呟きつつ、グリムリーパーをひゅんと振るう。葵の目の前の、彼の拳程度の太さの木が傾き倒れる。
『環境破壊……』
「小さい木を選んでるから……」
 英雄のお小言を聞き流しつつ、まあ任務の為だからしょうがない。切断面にクレヨンで書くのは、「ギアナ支部」「歩いてきた」「次目標地」「北」の各方向を示す矢印だ。
『富士の樹海だとコンパスが狂うとかいう都市伝説があるけど』
「アマゾンになくってよかった」
 北の方角を確認したコンパスをしまい、手元のメモに各矢印と伐採した木の年輪図を書き込む。書き換え対策と確認を兼ねてだ。続いて地図に地点をチェックし、通信機でその旨を仲間と共有する。
「そういやコッチの支部長サン見てないな」
『言われてみれば……』
「あとで支部の人達に聞いてみるか」
 言いつつ。葵は死神の大鎌を握り直し、振り被る。見やる視線の先には、ケダモノのような従魔。
「討伐したら撮影と……」
『データベース照会』
「ん」
 一閃。


「うーん、獣系の従魔は昔から森で良く見かける……のか」
 送られてきた情報を脳内で今一度確認しつつ、東海林聖(aa0203)は首を傾げる。
『……まあ。アマゾンは動物の宝庫、だし……妥当っちゃ、妥当……』
 答えたのは、聖と共鳴中のLe..(aa0203hero001)だ。
 謎が広がるアマゾンの森。聖はガシガシっと頭を掻いてから、どこまでも広がる緑を見やった。
「しっかし茂りに茂ってるなぁ……現地支部の人でも迷ってるとか聞いたし……」
『……死角が多い環境だし……常に油断はできない、ね……』
 迷わないように最低限の工夫はした。さて。
「後は『カン』で突っ切るか。っし、行くぜルゥ!」
(……こういう場所でのヒジリーのカンは……まぁ利くのかな……)
 そんなことを思いつつ。二人は森の中を進むのだ。
 目印にはチョークを使い、GPSよりは己の勘を信じ、マッピングツールを駆使し、仲間との連絡を密に取り合い、慎重に、しかし大胆に、そして効率よく。

 ざざざ――葉擦れの音。

『……暑い……お腹空く……』
 ルゥがライヴス内で溜息を吐いた。
「暑くなくてもお前はいっつもハラペコだろ……」
 聖いわく、ルゥの空腹発言は一日五回はザラだ。そんなやりとりをしつつも、聖は高機動力を活かして森を行く。
 そんな時だ。
『……ヒジリー』
「分かってら」
 視線の先、藪の彼方にケダモノのような従魔。聖は獅子を抱いた大剣を構える。そこからは刹那の出来事――見えぬほどの速さの奇襲、擦れ違い様に一刀両断。
「従魔自体は全然強くないのな」
『……皆の情報によると、命令に基づいて動いてる、って訳でもないみたいだし……』
「うーん……」
 聖は従魔のものと思しき痕跡を地図に書きとめていたが、それにも規則性は感じられない。アタリを付ける、というのは難しそうだ。
『……今は、命令を受けていないだけ、かも、しれない……』
「普通、兵力を野放しにするか?」
『……その兵力が、失敗作、とか、下っ端の下っ端、どうでもいい存在、とか……?』
「あ~……」
『……まあ、ルゥの、想像だけど……』
「じゃあ、撹乱目的……?」
『……さあ、ね……』

 ――生温い風が吹く。



●救助作戦A

 ばらばらばらばら。

 アマゾンの森の上に響くのは、ヘリコプターのプロペラ音。
「ガルシアー……みんなと一緒に行動しなくていいの?」
「……流石にロシア育ちの我々が下手に動けばかえって足手まといですし、レティも溶けてしまいますよ。それに一人くらいこういう仕事をする者がいたっていいハズでしょう……」
 Летти-Ветер(aa4706hero001)の問いに答えたのは、ヘリの中から森へ双眼鏡を向けているГарсия-К-Вампир(aa4706)。
 二人は今、ギアナ支部のヘリに乗せて貰っている。希望者が多数いれば無理だったろうが、幸いガルシア組だけだったので、ヘロヘロながらもパイロットが「任せておけ!」と特別に買って出てくれたのだ。
 ガルシアは相変わらず、双眼鏡を覗いたままだ。時折それを離しては、支給された地図に諸々の書き込みを行っていく。に、しても暑い。ロシアっ子と雪娘には、アマゾンの高温多湿は地獄である。ガルシアは冷却スプレーやフードなどで対策をしているが、それでも汗は流れてくる。「ふう」と、既にたっぷり汗を含んでいるタオルで顔と首を拭った。
「レティがガルシアの汗をふこうか? メス! 汗! みたいな?」
「手術か何かですか」
 淡々と答えつつ、ガルシアはテキパキと上空からの視線を活かした仲間達のナビを行う。通信機からの連絡は絶えない。
「二時の方向、五十メートル先に従魔が一体――」
 そんな彼女の様子を、ヘリのパイロットがチラと見やった。
「いやぁ、ほんと、ありがたいですよ。……すいませんね、うちらの不始末で」
「いいえ」
 水分を一口、手は休めずガルシアは答える。
「今批難すべきはヴィランでしょう。ここで我々が不信の目を向け合うことこそ、彼等の思惑通りでしょうから」
 それに、とガルシアもまたパイロットへ寸の間の目線を。
「こちらこそ、お疲れでしょうにヘリまで出して頂いてありがとうございます」
「いいってことよ! あとでお茶でもしてくれたらオツリが来らぁ」
「それでは後ほどハーブティーを。心が落ち着く作用がございますから」
「最高だな!」


 ざざざ――ざざざ――


 森を進む音。それから、通信機の音。
「早くギアナ支部の皆を助けなきゃ!」
「ハーメルさん、木陰さん、行きましょう!」
 勇ましい声と共に、
ウィリディス(aa0873hero002)と月鏡 由利菜(aa0873)は共鳴を果たす。
「もちろんです、全力を尽くします」
 頷くハーメル(aa0958)もまた、墓守(aa0958hero001)と共鳴を。誰かを護る為にエージェントとなった青年は、此度の任務に強い意志を抱いていた。
「見つけて、無事に支部へ送らないと、な……」
『ああ。俺達も迷わないよう慎重に』
 共鳴を済ませ由利菜へ頷いた木陰 黎夜(aa0061)に、ライヴス内でアーテル・V・ノクス(aa0061hero001)が言う。

 一同は、ギアナ支部エージェントの小隊Aの元への急行を開始した。
 幸い小隊Aとは連絡が付く。合流は難しくはないだろう。「無理はしないでくれ」と言われたが、「それはこちらの台詞です!」と由利菜がピシャリと言い放った。尤もな意見に、苦笑が返って来る。
 笑みをこぼせるだけの気力はまだあるようだ。そのことにハーメルは、共鳴したことで身に着けられた仮面――素性を隠す墓守が普段着けているものだ――の奥で安堵の吐息。そのライヴス内では無口だけれど、彼の安堵に墓守も共感してくれているようだ。
 最中、黎夜はオートマッピングシートを確認しつつ、時折ナイフで木に目印をつけてゆく。ミイラ取りがミイラになるわけにはいかない。

 さて。

 一同が森を駆けて間もなく――じきに小隊Aと合流できるだろう地点にて。
 胡乱な気配。真っ先に気づいたのは、戦屍の腕輪で周囲を警戒していた黎夜だ。由利菜のモスケールにも反応がある。ケダモノのような姿の従魔が三体。
 エージェント達は刹那に目配せをし合った。
 従魔は強力な固体ではないという。ならば一人一体ずつ、一同は緑が茂る地を蹴った。

 真っ先に動いたのはハーメル。迅速救出の為の機動力と攻撃力を両立させた戦術。まだ敵はこちらに気付いていない。ならばここは、足止めよりも撃破を優先に。
『――……』
「任せて」
 ライヴス内での墓守の呟きに頷いてみせ、墓守は薄氷之太刀「雪華」真打を構えた。彼のライヴスに呼応し、刀身に雪結晶の紋様が浮かび上がる――速度は緩めない。死角よりの奇襲。従魔がハーメルに気付いた時、その首は既に切り裂かれた後だった。
「我が槍に宿るは雷神の怒り!」
 聖女の美しさと凛々しさと。由利菜もまた、雷神槍「ユピテル」を構えて迅雷の如く一直線。全てを焼き焦がす金色の一突はまるで神罰、たちまちに従魔を灰燼に帰す。
「木陰黎夜。アーテル・ウェスペル・ノクスと共に、お前を討ち落とす」
 黎夜は黒の猟兵と名付けられた魔道書を手に、もう片方の掌をかざす。放たれた漆黒の霧は刃となり、最後の従魔が攻撃態勢に入る前にその体を切り刻んだ。

 その直後だった。
 ざざ、とすぐ近くの茂みが揺れて――小隊Aの面々が姿を現したのは。

「ほ、本当に来てくれた……!」「増援だ!」「俺達、助かるぞ!」
 一同の顔には安堵と希望。支えられている重傷者も、包帯まみれの顔で笑んでみせた。
 よかった――と思いつつも、黎夜はエージェント登録証を取り出して彼らに提示する。本物の仲間であることを証明する為に。
「エージェント……貴方達を迎えに来た……。状況は、どんな感じ……?」
「見ての通りです。スキルも医療道具も全て尽きてしまって……」
 言葉通りだった。満身創痍という言葉が擬人化したような。
「ご無事でよかった……さ、皆様こちらへ」
 槍からピキュールダーツに持ち替えた由利菜が一同へ優しく微笑む。そして、高らかに言い放った。

『降り注げ生命の雨! アクア・ヴィテ!』

 掲げる掌、降り注ぐのは優しい優しい光の雨。皆の傷を癒していくケアレイン。
 さあ、バトルメディックの本領発揮だ。医療キットに賢者の欠片も用意しつつ、
「吹け、癒しの風! セラピア!」――特に傷の深い者にはケアレイを。
『病、浄化せん! レフェクティオ!』――体の異常を訴える者にはクリアレイを。
「お疲れ様……よく、頑張ってくれたね……」
 同時進行、黎夜は優しく一同に声をかけつつ、事前に用意してきたゼリー飲料と水分、塩分タブレットをハーメルと手分けして配っていく。由利菜もまた、ロイヤルレッドや贅沢ピュアチョコレートを用意していた。

 一同のテキパキとしたケアにより、小隊Aの顔色はグッと良くなった。今は補給した水分や塩分がしっかり吸収されるまで、由利菜が用意したキャンプ用テントにて一休みしている。
 その間、黎夜はマナチェイサーも発動して周囲の警戒に当たっていた。仲間達に小隊Aと合流したことは既に連絡済である。ハーメルも、黎夜の死角を補うように森の中への警戒を張り巡らせていた。何かがあれば、持てる手段全てを用いて仲間を守る心算である。

「何から何まで……申し訳ない。そちらも大忙しでしょうに」
 テントの中では、小隊の介抱を行っている由利菜に対して小隊の者が頭を下げていた。「いいえ」と由利菜は微笑んで首を振る。「困った時はお互い様ですから」と言葉を続けた。
「今はしっかり休んでて……」
 言葉を続けたのは、チラと振り返った黎夜だ。
「うちらが見張ってるから……。貴方達を、無事支部に……そう言われたのと、うちがそうしたいから……だから、貴方達を無事支部に送り届ける……」
 その言葉に。感極まって、言葉をかけた隊員は涙を流して「ありがとう」を繰り返した。
「……、」
 なんだかちょっとむず痒いような。つまりは照れ臭いのだ。ライヴス内でアーテルが、そんな相棒の様子を見てクスリと微笑むのであった。
「その……、な、泣かないで……?」
 とりあえず、ハンカチを渡しておく。

「そうだ……この後のことなのですが」
 と、ハーメルが皆を見やる。由利菜もそれを聞きたかった。ギアナ支部の環境は『あんなこと』になっているが、その衛生状況でも帰還するか否か。一応、現状のようにテントはあるが――それに対し、ギアナのエージェントは「それでも仲間の顔が見たい」と答えた。
『支部がどれだけ綺麗になってるかは……別件の対策班の支部環境改善に期待しよ?』
 と、苦笑したのはウィリディスであった。

 三人の尽力もあり、小隊Aについては帰還も容易に済むだろう。強い策敵能力と、仲間を必ず助けるという意志によって被害も起こらず、彼等の帰還は果たされる。

「マガツヒ、ヴィランのラグナロク……! 必ず壊滅させます!」
 謎を孕む森を、由利菜は鋭く見すえる。
『ほわっ、ユリナが燃えてる!』
「方や無差別破壊、方や大切な第一英雄との誓約術と同じ名を騙る破滅の導き手……どちらも許せない存在ですから」



●森を行く
『迷ったらでてこれなさそう、だな』
「やだぁ、ぞっとしない」
 オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)と木霊・C・リュカ(aa0068)のライヴス内でのやりとり。共鳴を果たした金木犀色の双眸。手には狙撃銃。銃口からは硝煙。彼方には眉間を撃たれ倒れこんだ従魔。
「嫌な風、です」
 森を吹く生温く湿った風は、まるでケモノに舐められるかのよう。柳眉を寄せたのはユエリャン・李(aa0076hero002)と共鳴中の紫 征四郎(aa0076)、汗ばむ顔や首にへばりつく赤髪をかき上げる。月光の太刀を鞘に収めた。

 オリヴィエと征四郎はバディを組んで森を進んでいた。
 他の仲間達と密に連絡を取り合い、地図やモスケール、スマホのカメラなどのツールも用いて効率よく。

 さて……そのようにしつつ、従魔との戦闘、観察に努めていたのだが。
『索敵型、戦闘型、防御型などの傾向で目的が読める。特殊な機構があれば尚更だ……が』
 ライヴス内でユエリャンは思案の様子だった。仲間からの連絡にもあったように、特に従魔に特化した能力は見受けられない。言うなれば雑兵。特殊な行動やパターン、配置の規則性や統率制、リーダーらしき存在などもなし……。
 今は命令を受けていないだけなのか、それとも敢えての行動で撹乱を狙っているのか。推測は出るが、それを証拠付けるものはない。


「完全に連絡を遮断できる相手がこの状況で放置するって誘ってるでしょ」
 別の地点。志賀谷 京子(aa0150)も現状に眉根を寄せていた。
『わたしたちの行動は観察されていると思ったほうがいいかと』
「何にしろ、情報が要るな……」
 ライヴス内のアリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)の言葉に、京子は頷きを返した。水源を辿り、歩き続ける。途中で野営の痕跡を見つければ、小隊のものだろうと判断し仲間への報告も忘れない。
「特に地形変化は……今のとこ見られない、か」
 地図などのツールと周囲の風景を参照しつつ、京子は詳細な調査よりは速度を重視し、調査範囲を広げんと歩き続ける。

 従魔の配置が、敢えての行動で撹乱を狙っているのか、という説がもし真実ならば。
 監視されている可能性も、無きにしも非ず。

「……」
 京子は周囲に警戒を張り巡らせる。ややあって、にわかに全力で走り始めた。息が切れるまで走り――豹のような身軽さで樹上に跳び上がっては葉の中に身を隠す。
 鳥の声、風の音……息を潜め、見渡す周囲。
『釣れるでしょうか』
「ワザと出てきてくれるとかに期待してるけど、さて」

 ……、――……。

「……出てこないね」
 京子は怪訝な様子である。
『可能性一、』
 そんな相棒に、アリッサが口を開く。
『そもそも監視の必要がない』
「これだけ大掛かりな挑発をしておいて? まさか」
『可能性二。近くにいる必要がない、つまりもっと遠くからの一望』
「そんなことって可能……?」
『高位の愚神なら、あるいは』
「高位の……、」
『例えばトリブヌス級』
 最近の報告書で、トリブヌス級愚神グリムローゼが観測されている。が。彼女にそんな強力なサーチ能力はあっただろうか?
 と、そんな時だ。通信機から連絡が入る――

 無人の集落の発見。

 京子の表情に露骨に不快が表れた。
「まさか、人体実験――」
『……だとしたら、輸送手段は?』
「開けた場所を探してみよう」
 言うが早いか、木から飛び降り京子は再び森を行く。
 しかし車両などの痕跡は見当たらなかった。となれば、可能性としては……、
「大量の人員に運ばせた――とか、かもね」


「送られて来たデータにあった愚神の一人が、別地域の集落を襲い、リンカーを拐おうとした記録があったな」
 此処も同じような目的で襲われた可能性があるかもしれん。そう続けたのは薫 秦乎(aa4612)だ。
 それに通信機越しに返答したのは墓場鳥(aa4840hero001)と共鳴中のナイチンゲール(aa4840)だ。
「まだ冬だったかな。ドイツで仕事があったんだ。そこにあいつ――フレイがいた」
 正に彼女はあの現場にいたのだ。異端襲来、その任務について、ナイチンゲールは仲間達に仔細を話した。

「ラグナロクについて知っているのか?」
 話し終えたナイチンゲールの傍ら、尋ねたのは不知火あけび(aa4519hero001)と共鳴中の日暮仙寿(aa4519)だ。「それだけだよ」とナイチンゲールは首を振る。
「でも……止めるって決めたから」
 拳を握りしめ、強く見澄ました眼差し――その先には集落がある。墓場のように静まり返った、小さな小さな村が。
『エネミーみたいな敵、私の世界にもいたよ。報告書で読んだだけだけど……ノリは悪役のたしなみとか言いそう』
 仙寿が本格的に任務に参加するようになったのは四国の事件から。友人が気にしていたから手伝いに来たのだが……、事態は思った以上に深刻らしい。あけびの不快感の滲んだ声に、仙寿は呼吸を一つ分開けて。
「意味や目的はあるだろう。H.O.P.E.の連絡を止めるぐらいだからな」

 仲間と連絡を取り合い、道具を駆使し、鷹の目も用いて、ナイチンゲールと仙寿は森を進み続けていた。その果てに見つけた惨状。嫌な予感しか、流れない。

『誰かいませんか!?』
 ライヴスの鷹で集落を確認しつつ、あけびは声を張る。彼女の声は、虚しく響いただけだった。
 ナイチンゲールは気分が悪くなるほどの動悸を感じつつも家の中を調査する。鼻を突く臭い。飛び交う蝿。そこには腐った食べ物。どこもかしこももぬけの殻。死体や血痕などは見られないが、所々に……森の中でも見つけた従魔の痕跡。
「っ……! ッ……!」
 嫌な予感は膨れてゆく。

 村に残る従魔の痕跡。
 しかし森の従魔達はバラバラに行動し、統率制もない。
 死体はない。拉致された? あの従魔に人間を拉致する知能もないはず。

(まさか、)

 空っぽの集落――
 幾つかの報告書――
 人為的な従魔――
 ドイツの一件――
 ラグナロクの思想とやり口――

(まさか……!)


 ――誰かに統率された従魔によって、拉致事件が起きた?――


「……大丈夫か?」
 声をかけられ、ナイチンゲールは弾かれたように振り返る。心配そうな仙寿がいた。「顔色が悪いぞ」との言葉に、「大丈夫」と繕ってみせる。
「仙寿の方は、何か見つけた?」
「そうだな……。まず、食事の腐敗具合から言って住民が消えたのは数日前だ」
「……、住民と連絡がつかなくなったのは」
「数日前、ってギアナの職員が言っていたな。……そして、ラグナロク関連の依頼で、集落の住人が全員従魔に変えられる予知があったよ、な」
 言い難そうに、仙寿は一瞬、視線を惑わせた。

 まさか、今戦っている従魔は。

「ラグ ナ、ロクッ……!」
 ナイチンゲールの心にこみ上げるのは怒りだった。嫌になるほど、その推理を否定できる材料がなかった。
「胸糞悪いことしてくれるな」
 仙寿が所持しているライヴス・コールドボックスには、調査中に遭遇し撃破した従魔の体表サンプルが収められている。自分があの従魔にしたことは、人間を殺して皮を剥いだということなのでは。
『……ライヴスを吸われ尽くされた人間は、もう助からない』
 あけびがそっと言う。仙寿の行いは殺人などではないのだと。けれど『まだあの従魔が元現地住民と決まったわけでもないし』とだけは言えなかった。垣間見えた現実が、あまりにも生々しくて。
「今は、真実を追うしかない か」
 仙寿は深い溜息を吐いた。
『犠牲者がいるのなら……真実を突き止めることこそ、弔いだと――私は思うよ』
「……ああ。……そうだな」
 空っぽの村へ、銀の髪を翻して振り返る。



●救助作戦B
「――行こう」
『ええ。必ず皆さんを守りましょう』
 言葉と、そして決意と共に。大門寺 杏奈(aa4314)はレミ=ウィンズ(aa4314hero002)と共鳴を果たす。同時に藤咲 仁菜(aa3237)とリオン クロフォード(aa3237hero001)、氷鏡 六花(aa4969)とアルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)も英雄とリンクする。

 彼女達はギアナエージェントの小隊Bの救助に向かう班である。
 一際、急がねばならなかった。彼らは既に従魔と交戦中だという。

「遅くなってごめん! すぐに向かうから、あとちょっとだけ頑張って!」
 仁菜――今はリオンが主導権ゆえ、リオンと呼ぶべきか――が通信機で声を張る。返ってきた声は「待ってるぞ!」と、息を切らしているものの――確かな希望を信じる声音だった。
 そう、エージェント達は仲間の希望そのものなのだ。それを、絶望になんか変えさせやしない。
「……ん。皆で、帰るの……!」
 氷蒼の羽衣を翻し、六花のオーロラの眼差しには強い意志。彼らにも家族がいる。……そして、家族が二度と帰ってこない哀しさを苦しさを、六花は誰よりも知っている。

 地図を、そして通信を頼りに、一同は駆ける。仲間達を、救う為に。
 かくして、まもなくの展開だ。

「……!」
 ピク、とリオンのウサギ耳に音が届く。他の面子にも聞こえた。――戦闘の音。草葉が揺れて擦れる音。ケダモノの唸り声。武器が振るわれる音。
「もう大丈夫よ、六花たちが来たわっ」
 藪の向こうにいるのだろう仲間に、六花が大きく声を張った。できるだけ元気いっぱいに。仲間達が安心できるように。
「おい、聞こえたか?」「幻聴じゃないよな……!」「助けが来てくれたっ!」
 希望の声。「俺達はここだ!」と返事が来る。
「今――行くっ!」
 リオンは強く地を蹴って、最後の藪を突っ切って。杏奈と六花もそれに続いた。
 視線が合った。小隊Bだ! 顔にありありと疲労が浮かんでいるけれど、現れた救援に彼らはワァッと声を上げた。

「助っ人登場! 全員で帰るぞ!」

 着地から姿勢を伸ばす流れで、リオンは空に掌を掲げた。どんな状況でも守ることを諦めない――仁菜とリオンの誓約を表すかのように、仲間の傷を癒してゆく優しい雨が、ギアナ支部エージェントに降り注ぐ。
「翼よ、誇り高き加護の力を!」
 次いで、羽ばたくような音と共に白く翻ったのは杏奈の救国の聖旗「ジャンヌ」――それは天使の翼の形となって、彼女の背から大きく伸びる。その神々しい輝きは、杏奈とレミの「護る」という意志の煌き。「全員生きて帰るんだ」と、どこまでも貴く優しい少女の決意。
「私が守るわ! かかってきなさい」
 構える盾の名は、闇を阻せる金色の壁。瞳に宿す想いの名は守るべき誓い。
 従魔の敵意が杏奈へと向けられる。
「……力を貸して」
『ええ、もちろん。雪も氷も、六花の味方よ』
 立花と溶け合うアルヴィナが微笑んだ。
『大丈夫、六花は私が守るわ。そして、貴方が守りたいものも――』
 冬の少女が掌を向ければ、ヒュウと吹き抜ける女神の吐息。分厚い装甲すらも凍らせてしまう、氷雪を司る神の神罰。暑い南米の密林に訪れる極寒の冬。吹き荒れる雪風は従魔の群のど真ん中から、万物に等しく訪れる冬の如く襲い掛かる。
 対照的に、赤く揺らいだ炎――それはリオンが振るう薙刀「焔」の刃が生み出す炎の幻影。確実に従魔を仕留めてゆく。
 六花、杏奈、リオンは、何度も共に戦ってきた仲間だ。息はピッタリ、その連携に隙はない。
「超火力魔法の六花に、超防御要塞の杏奈がいるんだから大丈夫! 大船に乗ったつもりでまかせといてー!」
 見た目は可憐な乙女なれど、その実力はH.O.P.E.指折り。隊員を励ますようにリオンは快活に声をかける。瞬く間に従魔を倒してゆく乙女達の怒涛の活躍に、ギアナエージェントは圧倒されていた。
「私も力を貸すわ。――レミ、準備はいい?」
『いつでも構いませんわ』
 従魔の爪を軽々と盾で受け止め、押し返し、杏奈は構える。レイディアントシェル展開、盾に集う光が稲妻のように迸り、爆ぜる音を奏でる。

「さあ……光輝の一撃を受けなさい!」

 刹那である。放たれた光は雷のように激しく瞬き、意志を持つかのように従魔へと襲いかかった。浄化の一撃は、直撃した従魔を跡形も残らず消し飛ばす。
「残りは、任せて!」
 白雪の髪を翻し。残った従魔は六花が請け負った。踊るように腕を振るえば、空に燃えるオーロラのようなライヴスの光が戦場に瞬く。触れたものを絶対零度の焔で凍らせる、氷炎。

 的確な防御、そして魔法による広範囲・高火力攻撃。
 かくして、あっという間に決着は付いたのである。

「さて、と」
 治療術を全て隊員につぎ込んだリオンは、ふぅと息を吐いた。水筒に入れたスポーツドリンクとゼリー飲料を一同から渡され、小隊の者は先程よりも目に見えて元気を取り戻している。
「うんうん、顔色も良くなってきたな。一安心一安心!」
 よかった、とリオンは何度も頷いた。一刻も早い帰還が目標だけれど、ひとまずは小休憩を挟んでからだ。
「私達が必ず守るわ。だから今は安心して、体を休めて」
 守護天使然と立ち、杏奈は一同へ優しく微笑みかける。彼女の翼と盾が放つ輝きは、まるで迷い人を導く篝火のようで――その頼もしさに、どれほどギアナエージェントは安心したことだろう。
「カキ氷もあるからね。……暑かったり、痛いところがあれば、遠慮せずに言ってね?」
 冷やしたタオルを隊員に配りつつ、六花は一人ひとりの体調を気遣ってゆく。幸い、リオンの献身的な治癒術によって危険な状態の者はいない。
「ありがとう」
 疲労が浮かんでいる、それでも心からの感謝の微笑みが、六花に、杏奈に、そしてリオンに向けられる。口々に、繰り返される言葉――ありがとう、本当にありがとう。中には涙ぐむ者までいる。
「……ん、」
 ちょっと照れ臭くなってきて、はにかむ六花。
『こういう時は、“どういたしまして”って微笑めばいいのよ』
 ライヴス内でアルヴィナがクスリと笑んだ。ので、六花は一呼吸の後に隊員達へ「どういたしまして!」と微笑みを。杏奈もまた、同じようにニコリと笑んだ。
 リオンはそれらを微笑ましげに眺め――さて。
「そろそろ、のんびりでもいいからギアナ支部に戻ろうか。……皆が待ってる! 帰るまでが任務! だろ?」
 その言葉に、ギアナ支部の一同が「おおっ!」と気力十分に拳を掲げた。



●更に森を行く
 オリヴィエと征四郎は、ナイチンゲール・仙寿が訪れたのとはまた別の集落に到着していた。無人の情景……調査によって判明したのは、ナイチンゲールと仙寿達が調べたことと同一。
「攻撃を受けたなら、血痕くらいは残りそうです」
『住民が従魔の素材にされた可能性もある。それに、何かがあった形跡が小さいほど、相手は知能が高い敵だということだ』
 征四郎はユエリャンと共に状況を予測する。『目的は実験か?』と呟いた英雄の言葉に、征四郎は表情を曇らせた。
「……酷い、です」
『全くであるな』
 英雄はライヴス内で溜息を吐いた。
『どうにも、兵器への矜持が我輩とは合わぬ輩らしい』

(周辺で暴れる従魔自体が元は住人から作成されている――残さず食べられた――どこかに連れて行かれた――……、)
 オリヴィエも推理を重ねる。それから征四郎へ声をかけた。一つ、試してみたいことがある。

 それは、イメージプロジェクターとわずかなオリヴィエ自身の血を用いての、「重傷で倒れているフリ」。
 もしも従魔が拉致を行ったのだとしたら、どこへ連れて行くのか。それを確かめる為だ。もちろん、深追いになる前に離脱する作戦は整えてある。
 征四郎はほど近い草陰に潜伏し、仲間を見守っている。デスマークなどの準備は万端だ。
 さあ、どうなるか。

 ――……、

「……うーん」
 征四郎は首を傾げる。待てども待てども、従魔が現れる気配はない。
「空振りか」
 オリヴィエは眉根を寄せて起き上がり、土を払った。
『命令されていないから行動していない、という可能性もあるが』
 ユエリャンが考察を述べる。考え込む一同。
「やっぱり、作戦を立てて、集落を襲撃していたのでしょうか……」
「従魔が自ら作戦を考える、っていうのはありえないだろうな。森で遭遇した従魔の知能は高いとは言えなかった」
 征四郎の言葉にオリヴィエが答える。「となると」と彼はあごをさすった。
「やはり……組織的な犯行。人か、愚神か……」
 期待通りの展開にはならなかったが、それでも無意味だったわけではない。
『愚神……エネミーからのメッセージに、フレイという愚神がいたが』
「エネミーの関連事件には、トリブヌス級愚神のグリムローゼもいたですよ」
 ユエリャンの言葉に征四郎が。
「その報告書で、グリムローゼは愚神商人と関わりがあるとも記載があったな」
 征四郎の言葉にオリヴィエが、言葉を紡ぐ。
「エネミー、フレイ、ラグナロク、グリムローゼ、愚神商人、……う~~ん……」
 征四郎は一生懸命頭を捻る。真実の欠片が散りばめられているような。けれどそれはまだ繋がらず――今はまだ真相は遠く。
「うっ、頭から煙が出そうです」
『推理は百並べても真実にはならん。ゆえに探そう、一つでも多くの事実を』
 頭を抱えた相棒に、ユエリャンが言う。「そうだな」とオリヴィエも頷いた。
「まだ……この森には、きっと何かあるはずだ」
 そう言って、調査を再開してまもなくであった。
 一同が、奇妙な模様の描かれた布の切れ端を見つけたのは――。

 湿った風が吹く。
 誰もいない集落を、無感情に吹き抜けてゆく……。

「……、」
 雪道 イザード(aa1641hero001)と共鳴中の不知火 轍(aa1641)は、ペンを器用にクルクル回しながら地図と睨めっこをしていた。現在値は高い木の上、周囲を見渡しつつ。
 彼の視線の先の地図にはビッシリとメモが書き込まれている。通信機からは常に仲間の声が、新しい情報を届けてくれている。情報が一つ届くたび、轍の地図の書き込みが増える。

 ライヴスゴーグルなどでも調査したが、付近に敵拠点らしきものはなし。尤もアマゾン全土の調査は今回の人数では不可能なので、遠方にある可能性があるが。
 スマートホンや通信機などの電子機器に異常はなし。
 従魔に特定のパターンや命令系統、奇妙な動きなどは見られない。

「……うん。……お疲れ様」
 今の連絡は小隊Aの救助班からだ。無事に合流し、治療も滞りなく行えているとのこと。そのことに安堵しつつも、轍は思考を続けている。
 と、直後だ。征四郎とオリヴィエ班から「奇妙な模様の描かれた布の切れ端を見つけた」と連絡が入る。その写真も届いた。
「……これは」
 見覚えがあった。エネミーからの謎のメッセージに添付されていた画像。フレイを始めとした人物が身に纏っていた衣服……そこに描かれていたエンブレムだ。
「……やっぱり、ラグナロクの仕業、か……」
『そうじゃないと考える方が難しいですね、現状ですと』
 答えたのはライヴス内のイザードだ。他の仲間達へも情報を共有しつつ、轍は眉根を寄せる。
「……集落は何らかの実験場?」
『そうであるならば、実行者がいるはず……』
「……集落の見える範囲には、変なものはなかった」
『この森全てを調べるならば、ギアナ支部の皆様の協力も必須でしょうね』
「……宣戦布告は成された、のに、監視者などは、現れて、ない……」
『監視する必要がないのか、もっと遠方から監視しているのか……』
「……実験、か」
 轍は眉間を揉む。なんにしても連絡体制の見直しは必須だろう。それから必要なのは――
「……アッチィ」
『帰ったらお風呂にしましょう』
 汗を流す為のシャワーとか。


「暑いですぞー……こんなとこに、ほんとに人間が住んだりするのですかな?」
「……人間じゃねぇやつの匂いはするがな、警戒しろ」
 ベネトナシュ(aa4612hero001)がこぼした言葉に、水を飲んだ秦乎が低い声で答える。水分は支給されたものと自前で用意したものとで豊富に揃えている。ひとまず、熱中症でダウンすることはないだろう。
「遠路はるばるこんなところまで出向いたゆえに、手ぶらでは帰れませんなぁ」
「人の支部の管轄地を“こんなところ”とか言うなよてめえは……」
「おっと失礼、私は叛逆の騎士ですゆえに」
「理由になってねぇし」
 舌打ち一つ。さてと。ベネトナシュがうるさいのと何が起こるのか分からないのと。二人は休憩もそこそこに、再び共鳴を果たす。

 深い森の中を、金の髪と赤い外套を翻し、流麗な騎士が歩く――ある種の不釣合い、あるいはまるで御伽噺のような光景。
 手にしたベグラーベンハルバードでツタを払い枝を切り、時には従魔を切り伏せて、騎士の進軍は続く。

(……、奇妙だな)
 手持ちの情報は既に仲間と共有されている通り。気にかけていた事項、従魔の特定の動きがない。手持ちの地図も参照にしつつ、秦乎は眉を潜める。
「従魔は意図的に配置はされていない……か? 拠点やそういったものの目撃情報もなし……集落には村人の足跡などもなかった……従魔の暴れた痕跡はあったが、追跡までは叶わず……」
 やはり、今はまだ全てを知ることはできないか。ギアナ支部の者達の協力も必要だ。となれば、彼等が回復するのを待たねばなるまい。
「……、」
 真実が見え隠れしているような、手が届きそうで届かないような。けれど今は、待つしかないか。分かってはいるが、
「もどかしいな」
 深い溜息。遠くで鳥が鳴いている……。


 一方。ナイチンゲールは仙寿と共に集落の調査を続けていた。
 それは、そんな時であった。

 ガサリ。

 ふと、葉擦れの音。誰かの気配。
 ナイチンゲールは――反射的に飛び出していた。仲間が来たのなら連絡が来るはず。だがそんな連絡は来ていない。
 かくして。
 そこにいたのは。

 ケモノのような姿をした、人型の少女。
 ワイルドブラッド? にしては、獣の割合が……高すぎる。
 しかし今までの従魔とは違う。明らかに、雰囲気が違う。

「集落の人達に何をしたの? 答えなさい!」
 異質な存在。ナイチンゲールは声を張り――
『待てグィネヴィア』
 英雄の制止も聞かずに、火纏の刃で斬りかかった。

(もし想像通りなんだとしたら……許さない!)

 が。
 獣人はギョッとした顔をして――瞬間。彼女とナイチンゲールの間に、薄い土の壁が出来て。
「っ!?」
 それはナイチンゲールの剣に容易く切り捨てられる。
 崩れる土の壁の向こう。謎の獣人はいなくなっていた。逃げたのだろう、が。
「今のは、一体……あれは、何者……!?」



●救助作戦C
「んじゃま、迷子の子猫ちゃん達を探しに行きますか!」
『犬のお巡りさん改め虎のお巡りさんでござるな』
 颯爽と、虎噛 千颯(aa0123)は駆け出しながら白虎丸(aa0123hero001)と溶け合うように共鳴を。長い白虎の尻尾をなびかせ、森の彼方を見澄ました。
「一に救助、二に救助、三、四に警戒っとの」
『請け負った!』
 並走するのは、天野 桜(aa5268hero001)と共鳴した天城 初春(aa5268)だ。極東と獣人の趣のある千颯と桜が共に駆ける姿は、ある種の幻想的な雰囲気がある。
「さぁ、探求と究明を始めましょう。……尤も、此度は物理的な意味での探求ですが」
 辺是 落児(aa0281)と共鳴した構築の魔女(aa0281hero001)も、薄笑みを浮かべてそれに続く。
 更に、それに随伴する者がいた。ラストシルバーバタリオン(aa4829hero002)と共鳴したソーニャ・デグチャレフ(aa4829)である。
「状況を開始する! ラストシルバーバタリオン、出撃だ!」
 重い駆動音を奏で、いざ未知の森へ。

 一同は、音信不通状態となっているギアナ支部エージェントの小隊Cを捜索する任務に当たっていた。
 急がねばならない。しかしもちろん、考えなしに走り出した訳でもない。

 小隊Cの活動予定だったエリア、連絡が途絶えた地点及び時間、地図上の地形を参照し、彼等がいるだろう大凡のエリアを円状に算出。幾つかの目星をつける。
 体力も限界に近い彼らはどこかに潜伏している可能性が高い。となれば……身を隠せそうな場所にいるだろう。その予測から割り出したのはとある洞穴だ。

「急ぐが焦るな、確実に痕跡を拾ってゆくぞ」
 班の面々、そして他のエージェントとも通信機は繋がっている。ソーニャは駆けながらも森を見渡して小隊Cの痕跡を探す。
「無事だと良いんじゃが……」
 初春は赤い目を細めた。音信不通なだけに、彼等がどうなっているか知る術がない。最悪の場合もあり得るのだ。
『きっと大丈夫さ、いい方向に考えようぜ!』
 ライヴス内で桜が励ますように言う。「うむ」と初春は頷いた。間に合って欲しいと切に願うばかりである。
 千颯、ソーニャ、構築の魔女は協力してモスケールを起動し、捜索と警戒に努める。暗い藪の中も、構築の魔女が銃に取り付けたガンライトで照らして確認を行っていた。
「十時の方向に従魔と思しき反応が……一体だけなのですが、近くの方にお願いできますか?」
 通信機で仲間達と密にやり取りをしつつ、構築の魔女は足を止めない。
「部隊が四人なら、四人でまとまっているライヴス反応がターゲットのはずだ」
「だな。しっかりチェックしとかないと……」
 ソーニャに答えつつ、千颯は弾む息を大きく呼吸し整えて。
「間に合ってくれよな~……!」
 天に祈り、深い緑を見澄ました。

 事前にしっかりと立てた作戦、そして他の仲間からも得られる痕跡の情報、それらを参照し、時には従魔を退け、一同は走り続けて――果たして。

「ここで間違いないなさそうですね」
 辿り着いたのは、藪に埋もれた小さな洞穴。足跡が四人分――構築の魔女は同じ班の面々に振り返る。頷きを返した初春が、一歩前に出た。
「ギアナ支部のエージェントよ! こちらはH.O.P.E.東京海上支部のエージェントじゃ! 安心するが良い、おぬしらを助けに来たぞ!」
 そう、呼びかける。
 すると。
「と、東京海上支部の……?」
 おそるおそるといった様子で、洞穴から顔を覗かせたのは、やつれきった顔をしたギアナ支部のエージェント達だった。
「助けに来たんだぜ! もう大丈夫だからな!」
『安心するでござるよ。無事基地まで送り届けるでござる』
 良かった――心から安堵しつつ、千颯は快活に笑んでみせた。
 そんなエージェントの言葉に……ギアナ支部のエージェント達は、「助かった……!」と泣き崩れたのだった。


 キャンプテントの設営。水筒に入れた水分に、温かいスープに、半固形の栄養補助食品。賢者の欠片と、それから――
「さー、痛いの痛いの飛んでいけ、ってな!」
 千颯が癒しの雨を降り注がせる。持てる医療術を全て使う。
「ゆっくり飲むんじゃぞ、ゆっくり」
 体調を酷く崩している者については、構築の魔女が手渡したブランケットに包まれて、今は初春がスープを飲ませてやっている。「熱すぎないようにフーフーしてあげるのじゃ」と少女は献身的だ。
 一方、比較的元気な隊員は、ソーニャと情報交換をした後に、地図を共に見て撤退ルートについて話し込んでいる。これは「仕事を与えることで意欲を持たせる」というソーニャの思惑だ。
(増援の到着、休息と温かい食事……士気についてはもう心配ないな)
 話を聴くに、小隊Cはほぼ士気崩壊状態だったとのことだ。ソーニャが周囲を見渡せば、構築の魔女から手渡された通信機でギアナ支部の者と話している隊員が、「必ず帰ります」と涙ながらに伝えていた。

 さあ、休息も取れば、あとは支部に帰るだけ。
 ソーニャ、千颯が具合の悪い者を背負い、帰路を辿り始める。
「気をしっかりもて、基地までもうすぐである。家に帰るまでが任務であるぞ」
 呼びかけつつ、一歩一歩を着実に。ソーニャの言葉にウンウンと千颯が頷く。
「よく頑張ったんだぜ。俺ちゃん達がいるから安心してな!」
『傷が痛む者は癒すでござるから遠慮せずに言うでござる』
 力強く語り掛ける千颯は飛盾「陰陽玉」を展開し、防御面もバッチリだ。同時に、「必ず守る」という視覚的な安心感も皆に与える。
「ええ」
 構築の魔女も、ギアナ支部エージェントへと微笑みかける。
「皆さんのことは必ず守りますので、ゆっくりと着実に帰りましょう」
「本当に、なんとお礼を申し上げたらいいか」
 ギアナ支部エージェントの一人が口を開く。汗と土と血で汚れきった体――それでも、構築の魔女はひとつも厭うことなく、その背を掌で優しく撫でた。目が合えばニコリと笑んで見せる。百の言葉よりも伝わる思い。エージェントは目元を潤ませた。
「あんまり泣いては、水分不足になるぞえ」
 初春がカラカラ笑い、元気付ける。そして仲間と共に歩き出すのだ。
「……、」
 最中。初春はフッと表情を鋭く。ギアナ支部の者から見えない位置で、自らの拳をグッと握りしめていた。

「エネミーとやらめ……この代償は必ず払わせてくれるわ!」

 呟いた言葉には、心底からの怒りが滲んでいた。



●作戦終了
 かくして、エージェント達の任務は完了する。
 小隊については三つ全ての生還が叶った。
 調査についても、映像記録や地図への書き込み、従魔のサンプルも含め、調べられた全ての情報がH.O.P.E.へと提出される。
 任務は成功と言っていいだろう。

 が――垣間見えたのは不穏な気配。

 森はまだ、深い謎をその奥深くに隠している。
 それが解明されるのは、そう遠くない未来だろう――誰もが、奇妙に確信していた。



『了』

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 薄明を共に歩いて
    アーテル・V・ノクスaa0061hero001
    英雄|23才|男性|ソフィ
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 全てを最期まで見つめる銀
    ユエリャン・李aa0076hero002
    英雄|28才|?|シャド
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • Run&斬
    東海林聖aa0203
    人間|19才|男性|攻撃
  • The Hunger
    Le..aa0203hero001
    英雄|23才|女性|ドレ
  • 義の拳客
    リィェン・ユーaa0208
    人間|22才|男性|攻撃
  • 義の拳姫
    イン・シェンaa0208hero001
    英雄|26才|女性|ドレ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 温もりはそばに
    ラドシアス・ル・アヴィシニアaa0778hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 花の守護者
    ウィリディスaa0873hero002
    英雄|18才|女性|バト
  • 神月の智将
    ハーメルaa0958
    人間|16才|男性|防御
  • 一人の為の英雄
    墓守aa0958hero001
    英雄|19才|女性|シャド
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃
  • この称号は旅に出ました
    キリル ブラックモアaa1048hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 拓海の嫁///
    三ッ也 槻右aa1163
    機械|22才|男性|回避
  • 分かち合う幸せ
    隠鬼 千aa1163hero002
    英雄|15才|女性|カオ
  • 実験と禁忌と 
    水落 葵aa1538
    人間|27才|男性|命中
  • シャドウラン
    ウェルラスaa1538hero001
    英雄|12才|男性|ブレ
  • その血は酒で出来ている
    不知火 轍aa1641
    人間|21才|男性|生命
  • Survivor
    雪道 イザードaa1641hero001
    英雄|26才|男性|シャド
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237
    獣人|14才|女性|生命
  • 守護する“盾”
    リオン クロフォードaa3237hero001
    英雄|14才|男性|バト
  • Trifolium
    バルタサール・デル・レイaa4199
    人間|48才|男性|攻撃
  • Aster
    紫苑aa4199hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • 暗闇引き裂く閃光
    大門寺 杏奈aa4314
    機械|18才|女性|防御
  • 闇を裂く光輝
    レミ=ウィンズaa4314hero002
    英雄|16才|女性|ブレ
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • 気高き叛逆
    薫 秦乎aa4612
    獣人|42才|男性|攻撃
  • 気高き叛逆
    ベネトナシュaa4612hero001
    英雄|17才|男性|ドレ
  • 守りもてなすのもメイド
    Гарсия-К-Вампирaa4706
    獣人|19才|女性|回避
  • 抱擁する北風
    Летти-Ветерaa4706hero001
    英雄|6才|女性|カオ
  • 我らが守るべき誓い
    ソーニャ・デグチャレフaa4829
    獣人|13才|女性|攻撃
  • 我らが守るべき誓い
    ラストシルバーバタリオンaa4829hero002
    英雄|27才|?|ブレ
  • 明日に希望を
    ナイチンゲールaa4840
    機械|20才|女性|攻撃
  • 【能】となる者
    墓場鳥aa4840hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • シベリアの女神
    アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 鎮魂の巫女
    天城 初春aa5268
    獣人|6才|女性|回避
  • 笛舞の白武士っ娘
    天野 桜aa5268hero001
    英雄|12才|女性|ドレ
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