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風の民、羊の民
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モフモフ
最終発言2017/08/11 08:38:33 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/08/11 03:31:22
オープニング
● 放牧をします。
今年の夏はひどくあつかった。太陽から送られた熱波のせいで局地的に気温が急上昇したらしい。
その弊害は日本各地に出ていた。
「あーーーー、私のヒツジ牧場が!!」
日本国内某所、平地が広がるその一帯で、羊が500頭程度放牧されていたそうな。
その施設の職員が熱中症でバタバタと倒れた等報告が入った時には時すでに遅く、リカバリーができなくなっていた。
その牧場の持ち主は遙華。
遙華は自分の管理する牧場からのSOSを聞いて、リンカーを、派遣することに決めた。
「だって、共鳴してれば熱中症にならないし、熱中症になっても共鳴すればとりあえず、医務室まで移動できるし。タフっていいわよね」
まぁ、そんなこと言っている遙華は今回のお手伝いに参加しないようなのだが。
「みんな、お願い、一泊二日でいいから、羊さんたちの面倒を見て。動物って一日目をはなすだけでいろいろ影響出ちゃうし、羊さんたちも熱中症で倒れるかもしれないし」
羊さんで溢れる田舎街でのアルバイト。交通費も出るし、バイト代もはずむという。
旅行のついでと思うと割といい旅行になるのではないか。
● 状況を詳しく説明しよう。
皆さんはとある牧場で羊を管理するために雇われました。
一日目の十時から仕事を開始して。
二日目の十八時でお仕事終了です。
この二日で皆さんにしてほしいことをまとめます。
1 羊さんの放牧。
羊さんは広大な草原の草を自分で食べます。一応放牧エリアは木のさくで囲われていますが、羊さんが悪戯しないように管理してください。
2 赤ちゃん羊の世話
赤ちゃん羊が二十頭ほど別棟に管理されています。ミルク等与えてください。
3 医務室の管理。
この前人がばたばた倒れた時に、衣料品やら別途やらがめちゃくちゃに荒らされてしまったので、その片付けや衣料品の整理、足りないものを補充したり、してください。
4 出荷前作業
近日出荷するための羊さんを別館に分けておかなければいけません。
四十頭の羊を移動させる必要がありますが。
ここの羊は若干変なので、死期を悟って皆さんに頭突きとか、してくるかもしれません。
・もしできるなら。
もし下記の仕事ができるならバイト代が上乗せされます。それほど多くは出せませんが、チャレンジするだけでも楽しいと思うのでお勧めです。
1 毛刈り
あまりに暑すぎてさすがのヒツジさん達も辛そうです。
なのでモフモフしている奴の毛を片っ端からかってあげてください。
2 栄養剤投与
注射器を使って弱っている羊さんに栄養剤を与えてください。注射器と言っても針があるタイプではなく、口に噛ませて、トリガを引くと喉の奥に薬液を噴出するタイプのものです。
・そして夜
夜は皆さんをねぎらうために、皆さんの食べたいもの、飲みたいものがずらっと並べられています。
炭焼きセットがあるのでバーベキューとかどうでしょうか。
ただ、火をつける人がいないので皆さんでアウトドアする必要はあります。
花火とか
・野犬?対策
最近別の農場の羊が野犬? にやられたという情報があったので、何か対策を立ててみてください。
● メェ
君たちは遙華に誘われるままに現地に赴いた。
空港で降りて、チャーターしたバスで二時間。山を登ったり下ったりしていると。あたりに一切の文明がないど田舎に君たちはたどり着いた。
隣の家? 数キロ先である。
コンビニ? 夜の九時でしまる。
ご飯どころも、スーパーも隣町まで行かないとない。
都会で生き続けている人間がいたなら。もはやここは外国。
そう思ってしまうかもしれない。
そしてその認識は正しい。
メェ。
そんな田舎の光景に圧倒、茫然としていた君たちの周りに羊さんが集まってきた。羊さんは好奇心旺盛である。
そして風を感じる君たちへ羊がすり寄ってきた。
ここで出荷されているのはラム肉。
子供のヒツジの肉の事である。
大人の羊肉はマトン。
マトンは癖が強いためあまり好まれず、生産されていないらしい。
メェ。
君は鼻を摺り寄せる羊の頭を撫でた。
少しべたっとしたが、ふわふわとした感触が掌に広がって。とても暖かかった。
そんな羊さんたちとのんびり一泊二日。
夏休み気分で楽しんでみるのはいかがでしょうか。
解説
目標 一泊二日で牧場の管理をする。
今回皆さんはのどかな放牧場でながーく過ごしていただきます。
今回は主に羊の管理なので暇な時間の方が多いと思います、本とかみんなで遊べるものとかあるといいかもですね。
ちなみに、赤ちゃん羊ですが。なぜ隔離されているかというと出荷のためです。
生後四か月程度で出荷されるベビーラムはラム肉より臭みがなく高級なのです。
ただ、その事実を伝えるのは残酷かも、と伏せられています。
この事実を知っているかどうかはみなさんのPcの関係性にまかせます。
リプレイ
プロローグ
「おうおう!羊さんがいっぱいじゃのう!」
(人も……いっぱいいる…………!!)
そうかかかっと笑うのは『ランページ クラッチマン(aa5374hero001)』その隣で『ミュート ステイラン(aa5374)』広大な自然ではなく周囲を取り巻くリンカーたちを眺めて震えていた。
ミュートにとって今回が初の依頼、正直まだ組織のことも把握しきれていない、なので自分達の今後の居場所がどんな所でどんな人達の組織なのか、依頼を通して知って行きたい、そんな思いがあった。
であれば今回の依頼は適切と言えるだろう。H.O.P.E.を代表するリンカーが何にもそろっている。『御神 恭也(aa0127)』もその一人。
「此処まで周囲に何もないのは凄いな……まぁ、良い骨休みになりそうだ」
「うん、色々と物が揃う都会よりもこんな自然豊かな所の方がボクは好みだな~」
『伊邪那美(aa0127hero001)』は大草原と羊の鳴き声をバックに背伸びする。するとそんな彼女に興味を引かれたのか、群の中から何頭かこちらに歩み寄ってくる。
「師匠! なまヒツジだぜ……!」
そう羊を指さすのが『命荷(aa5364hero001)』
「家で見慣れてるだろうに」
やれやれと首を振るのは師匠と飛ばれた『ソピア=アイオン(aa5364)』
「魔術用の骨だろ。あれに肉がついてふかふかになっただけで見違えるもんだなー」
今回の命荷の目的としては、心身ともに陽に当たりたがらないソピアを引っ張り出して気分転換をさせたいというものがある。
ただ、自分が楽しみたいという思いも強い。なので最初からテンション高めである。
「バイト代も出るし畜産の勉強になる、悪くない」
「……ん、お世話は大変……頑張る」
そう『麻生 遊夜(aa0452)』と『ユフォアリーヤ(aa0452hero001)』いつものように仲睦まじく並んで羊を眺めている。
ユフォアリーヤは自ら歩み寄る、羊をモフモフすると手をなめられる。
そんな羊たちの群にダイブしていく『S(aa4364hero002)』モフモフできるのが嬉しいらしい。羊たちは少し警戒していてた。
そんな様子がおかしくてユフォアリーヤは小さく笑う。
「何時かデカい土地買って移るのも良さそうだ」
「……ん、こういう生活も……ロマン」
子供達と放牧したり毛刈りしたり羊以外を扱ったり、夢が広がるな。
「その為にも……今日は羊飼いと行きますか」
「……ん、ボクは牧羊犬?」
「お、犬扱いで良いのか?」
そう遊夜は告げながらタオルでべちゃべちゃになったユフォアリーヤを拭いてあげる。
「……わん!」
「……やれやれ、可愛い可愛い」
そう頭をワシャワシャと撫でる遊夜。
「……やーん」
尻尾が嬉しそうに揺れた。
それを興味深げに眺めているのは『依雅 志錬(aa4364)』である。
尻尾と一緒に体揺れている。それをがしっとSが掴んで止めた。
「センセ。今日はよろしくおねがいします」
「よろしくお願いします!!」
そう志錬が遊夜に言うと、遊夜はうんうんと頷いて。
「そういや、依雅さんは羊毛狩りの経験は?」
遊夜がバリカンを取り出してそう問いかける。
「ナイフでなら。―こんな、ベンリなモノ なかったから……」
志錬はバリカンを受け取ってそれをじっと眺めた。
「初めてですっ」
対してSは大きく手を挙げた。
「なので、ひとつご教授をばっ!」
「田舎生活は耐えられるか?」
「「坑道で生き埋めよりはマシ」」
何があったのだろうか。志錬は淡々としているのだが、Sは肩を落として一気にテンションを落した。
「そ、そうか……あとは、世話をした羊も出荷されるんだぞ、大丈夫か?」
その事実を知っても眉ひとつ動かなさい志錬。
「そ、か」
彼女にとって、生きることとは食すこと、殺すことというのは当然なのかもしれない、ただ目に見えて気力をなえさせたのはS。
「……私達、いろんな理由で命をもらってるんですね」
草原にへなへなと座り込み、ズーンと静まるSである。
そんなSの肩を笑って叩いて遊夜は先陣きって納屋へと向かう。
そんなリンカーの最後尾に『三閃 影志(aa4964)』と『マギア(aa4964hero001)』はついて歩く、ただ。
「めんどくせえ、俺は寝てるぜ」
そう影志はつぶやくとマギアと共鳴。姿を消した。
「―だ、そうで。今回は常時共鳴のまま、私だけ行動することになるわ」
マギアはそうため息をついて、一行を追いかける。
第一章 羊の民
最近野犬が出て困っている。
飼育委員さんからそんな言葉を受けたリンカーたちは早速策回りを確認することにした。
「野犬? つってたからここと、ここ……高さは、この辺かね?」
「……ん、飛び込んだり……潜り込むなら、この辺」
そう先んじて鳴子を仕掛けて回る麻生夫妻。
そんな遊夜たちの逆サイドを『赤城 龍哉(aa0090)』と恭也が並んで歩く。ちなみに『ヴァルトラウテ(aa0090hero001)』は木材を探してあたりを見渡している。
「とりあえず柵の補強だろうな」
そうハンマー片手に脆くなっている場所を突貫工事。ただ、牧場は広大で咲く全体を……と思うと、途端に虚無感が押し寄せてくる。
「ここの森は樹を切っても良いのかね?」
「念のため確認した方が良いと思いますわ」
ちなみに切っても使いきれないので、ダメとのことだった。
「まぁ、こんな物か……」
恭也も釘を打ち終えると立ち上がり、牧場の真ん中を眺める。
「本当なら絞めて吊るして置く方が効果的だが、血の匂いで他の獣を呼び寄せる可能性がある以上は妥協するか」
怖いことを唐突に口にする恭也。その言葉に驚き、マギアは木材を取り落す。
「ああ、持ってきてくれたのか、すまない」
そう恭也が木材をひろい集めると、今度は鳴子の設置にうつる。
「ねぇ、本当に野犬だと思う?」
マギアは問いかける。
「ん?」
「野犬か、愚神・従魔かで対応は全然違うけれど……」
「それは今夜の張り込み次第じゃないか?」
龍哉が告げた。その言葉にマギアは頷いて、そのあたりは任せようと思う。
後は外的用の電線を引いて。修繕を手伝うマギア。
そんな作業班の耳に、羊と戯れる少女たちの笑い声が聞えてきた。
観れば『ウィリディス(aa0873hero002)』が羊にじゃれ付かれ仰向けになっている。
うん、やっぱり狭い小屋の中にいるより、元気に駆け回る方が楽しいよね! 水もたっぷり飲んで」
そうおでこを摺り寄せてくる羊。それをうらやましそうに見つめる『睦月(aa5195)』
「触っても大丈夫だよ」
ウィリディスが告げると、おずおずと睦月が手を触れる。ふわふわしてとても気持ちよかった。
「肉とか卵とかお乳とかの質って、生育環境や餌が大きく影響するんだよ。できるだけ積極的に運動させて、餌も自然の良質な牧草とかにしないとね」
「羊みたいに、モフモフしているものが好きなんだよね」
「羊? 羊は、肉、うまい。それだけ」
『テク(aa5195hero001)』が雰囲気ぶち壊しなことを言い始めたので、睦月はテクと共鳴することにした。
表情が大変穏やかではないことに鳴るが、まぁ一般人の目はないだろうし問題ないだろう。
熱中症対策に帽子をかぶり、ウィリディスから受け取った水筒を引っ提げて全体を見渡せる位置につく。
「う~ん、羊をモフモフしているだけで、僕は幸せだよ……」
風を気持ちよさそうに受けて睦月は告げる。
そんな視線の向こうで、羊が柵に体当たりしていた。背中がかゆいのか、その向こうにいきたいのか。
そんな羊をあわてて捕まえる命荷である。
ただ、命荷では軽いらしく羊に吹っ飛ばされ、その様子を見てソピアはクスリと笑った。
そんなソピアは日傘をくるりと回すと、風通しのいい丘の上に座り込む。
しばらーくは命荷の奮闘を見守っていたのだが、羊に弄ばれる命荷を見かねて歩み寄った。
「羊が! 全然策の周りから動いてくれなくて」
「何、羊が動かない? こいつらは群れで動く習性がある、一匹を動かそうとするより集団で動かしたまえ」
そう告げるとソピアは小さい羊を持ち上げて、悠々と歩き去る。
めぇめぇなく、子羊を心配して他の羊も牧場中心へと移動を始めた。
「誘導も同じさ。しかしまぁ少数なら運んだ方が早いな」
そう子羊を放るソピア。
「ああ。そんな乱暴に……」
「もう出荷作業の時間だろう? 運ぶ手間を省いてあげたんだよ」
何のことだろう、そう命荷が思っていると、軽快な音を鳴らして小道を大きなトラックが走ってくる。牧場の入り口で停車したそれは、どうやら羊を乗せていくトラックのようだ。
「ほれほれ、あっちに美味い草があるぞー」
そのトラックめがけ、遊夜が羊を先導してやってくる、杖を振りかざしているあたり何ともファンタジーな光景である。
「……あ、そっち行っちゃダメ……あっち、だよ?」
そう草原を走り回るユフォアリーヤ。何気に足がめちゃくちゃ速い。
「……気に入ったのかね、あれ」
そう猛スピードで駆けていく背中を眺めながら、遊夜はトラックへ羊を誘導していく。
ただ、トラックをみて不穏な空気を放ち始める羊たち。抗議の声を頭突きとしてあらわす。
「よしよし、まぁ落ち着け」
龍哉は共鳴しているので、ダメージはない、淡々と羊たちをなだめてトラックの中へ流し込んでいく。
「……すまんな、さぁこっちだ」
同じくすねあたりをガシガシ突かれながらトラック内へ誘導する。
「割と力が強いな」
恭也もまた出荷作業を手伝っていた。
逃げる羊を柵の角に追い込み、足首と後ろ足の付け根を掴み取らえる。
そして、捕らえた後は顎を持ち次々とトラックの中へ入れて行った。
「流石に動物的本能で死期が迫っている事に気が付いているんだな」
暴れる羊に割と苦戦する恭也、だがそれよりも問題は、追い込みの人手が足りないことにある。
「こら~」
なので伊邪那美に羊の追い立てをお願いしたのだが。
「そっち行っちゃダメだって!」
まぁ、うまく行っていないようだったが
そんな伊邪那美の姿を恭也はじっと眺めている。
「どうかしたの?」
「いや……何でもない」
「……ボクの事を牧羊犬みたいだって思ったでしょう」
「そんな事は無い」
「がるるる~。嘘だったら噛みつくからね」
それが犬っぽいと、その場にいる男たちは全員思った。
「みんな御苦労様! 飲み物持ってきたぞ!」
そう命荷は冷たい飲み物を配っていく、作業がひと段落して汗をかいた体に心地よく染み渡った。
「働く人間の体調管理も整ってこそだしな! こういう世話は慣れてんだ」
主に師匠のおかげで、そうぼそりとつぶやいた命荷、だがそのセリフは聞こえていたらしい。ずんずんと歩み寄るソピア、
「いや、それにしても師匠のやる気がないのは済まないな、働けばブルドーザーみたいな女なんだぜ。まぁ、本人が聞いたら殴られるんだが……おや?誰か来たようd」
命荷の背後に暗い影が落ちる。
第二章 屋内作業
牧場は基本的に放牧のスペースとドーム状にテントを張った屋内スペースに別れる、その中ではまだ外に出すには危ないサイズの赤ちゃん羊などが保護されている。
「可愛らしいですわね」
そんな赤ちゃん羊たちに丁寧にミルクを与えていくヴァルトラウテ。
元来子供好きな彼女だが、動物の赤ちゃんもその対象に入るらしい。
そんなヴァルトラウテの見よう見まねで『ルーシャン(aa0784)』はミルクの瓶を手に取った。
「ふわふわもこもこ羊さんのお世話ができるなんて、楽しみなの……! 熱中症で倒れちゃった職員さんの分も、しっかりお仕事がんばる」
そう拳を握るルーシャンを穏やかに見守るのは『アルセイド(aa0784hero001)』
「ルゥ様、このように」
そうアルセイドが羊を抱きかかえルーシャンに手渡す、するとルーシャンは優しく羊を持ち上げて哺乳瓶を加えさせる。
「あ、のんだの!」
嬉しそうに声を上げるルーシャン。そんな姿を見てアルセイドはよかったですねと微笑んだ。
そして二人は穏やかな時間を過ごす、別の羊にミルクをあげたなら別の羊。もっとミルクが欲しいとねだる羊をなだめながらも一頭一頭丁寧に世話をしていく。
その中でもルーシャンは体の小さい子にも忘れずミルクを与える。
隅っこで丸まっていた小さな羊。
その羊を優しく抱え上げて中央まで運んだ。
「ここの羊さんは、みんな毛を刈って毛糸とかにするのかな?」
「どちらかというと、羊肉のようですが……」
そうルーシャンの質問に答えるアルセイド。だがそれはルーシャンには聞こえなかったようだ。
「いっぱいミルクとごはん食べて、おっきくなって、ふわふわ気持ちいい毛皮になるといいね……」
いつその事実を知ることになるのだろう。そんな不安を胸にしまいアルセイドは仕事をこなす。
* *
「あ、あの、おじゃま、します」
台車を押して医務室前までたどり着いたミュート。するとその部屋の中では『月鏡 由利菜(aa0873)』そしてマギアはお片づけをしていた。
直前のてんてこ舞いが伝わってくるほどに荒れ果てた医務室。空になった薬剤だな。まるで夜盗にでも入られたようである。
「人はともかく、羊の医療についてはあまり詳しくないのですけれど……」
(……御片づけしてる。綺麗な人だな、優しいひとだと……いいな)
そうミュートが由香里の顔を見ていると、由香里はその視線に気が付き小さく微笑みを向けた。
「そんなところにいないで入るといいですよ」
そんな医務室をきちんと整理するのが彼女たちの役目だった。
「リストを参考に断捨離して、必要なものを整頓しましょう」
「お薬持ってきましたわ」
そんな医務室の扉を押し開いて、ヴァルトラウテとルーシャンが入室する、アルセイドは医療具を床に置きあたりを見渡した。
「シーツを洗ったり、いらないものを片付けたりから始めないといけませんわね」
「ええ、それにしてもどこから手をつければいいか」
ため息をつく由利菜とヴァルトラウテ。
その隣でアルセイドは慣れた手つきでシーツを引っぺがしていく。
そしてそれを洗濯機に放りこんで、衣料品を整理。
ついでに買っておいた麦茶や経口補水液は別にまとめて置いておく。あとで命荷が持って行ってくれる手はずになっていた。
「西大寺さん、あの、物資がぜんぜん足りないのですが」
ちなみに、ヴァルトラウテはこの惨状を遙華に訴えていた。
明日には追加の物資が届くらしい。
「うん、万が一の拠点代わりになりそうね」
そうある程度片付いてきた医務室を眺めてマギアは告げた。
だとしたら、物資の補充が遅れるのは少々まずいのではないか。
「なんなら買い出しに行ってくるけど?」
そうマギアはデスクの上に転がっていた軽トラの鍵を手に取る。これだけリンカーがいるのだ、誰か運転できる人がいるだろう。遊夜とか。
「あなたもいく?」
そうマギアが声をかけたのはミュート。小さな足台に乗って、棚の中に薬品を入れている最中に声をかけられたものだからあわててしまい。
「ひゃひぃ!? あ……う……わたっ……!」
ふらつくミュート、その体を抑え、マギアは告げた。
「一緒にいく?」
「あ、わたしですか?」
(頑張れ……頑張れミューちゃん……!!)
そんなミュートの様子を窓際に潜んで確認しているランページであった。
第三章 夜
その夜、羊を羊舎にしまってから行われたのはバーベキューパーティーである。
「ラム肉のソース焼きです。全粒粉のパンに野菜炒めやデザートのパイナップルも用意しました」
由利菜がそうテーブルに皿を運ぶと感嘆の声が漏れる。
「これ、月鏡さんが考えたんですか?」
そう目を輝かせて問いかけるミュート。
「いえ、実はリディスの案なんです」
その言葉にウィリディスが振り返る。
「栄養調節は任せて!……あたしは料理苦手だからユリナ頼りだけど」
「おっしゃ完成! どんどん持ってけぇ!」
その時ランページの声が高らかに夜に響いた。それを見てミュートは由利菜に告げる。
「あ、あにょ……い、一緒に食べてもいいでしゅか!? チャーハンとか!」
そう差し出されたチャーハンを口に運んで、美味しいとつぶやく由利菜。
「は、はい、ランページのご飯美味しいんです、オムライスもトロトロで……」
「お、良い食いっぷりじゃのう!リクエストとかあれば聞くぞ!」
ミュートが自然に話せているという光景が嬉しく、テンションが上がるランページ。
そんな一行にアルセイドがラムネの瓶をさしだした。
その隣ではルーシャンももぐもぐとお肉を食べている。
「本日はありがとうございました。ルゥ様も良い体験ができました」
「そう、肉! これが、食べた、かった、のだ」
その背後でテクが貪るようにラム肉を食べている。
「羊。うまい」
「羊?」
睦月が首をひねった。
「ああ、ラムは羊のお肉なんですよ」
由利菜が告げる。するとウィリディスが注釈を加えた。
「羊の油は体につきにくいし、ダイエット効果もあるし、とっても健康的なんだよ……ってどうしたの?」
箸を手に取ったままプルプル震えているルーシャンと睦月である。
「そそそそ、それは、僕達がお世話した羊たちって」
「やがてこうして、食卓に並ぶことになるけど」
そうはっきり告げられてしまえばもう逃げ場はない。複雑な思いを胸に抱えてフリーズする睦月。
「これが結果か……」
遊夜はスペアリブを噛みちぎりながらそう告げた。
「……うぅ、ヒツジ……でも美味しい」
尻尾を元気なく垂れさせながらユフォアリーヤもスペアリブをかじる。
一転して暗ーい雰囲気に包まれるBBQ会場
そんな中でも黙々と伊邪那美は肉を口に運んでいく。
「余りショックを受けないんだな」
恭也が問いかけた。
「うん? 別に菜食主義じゃないからね。普段食べてるお肉の元が何かを知ってるんだもん 可愛がるのと美味しく頂くのは別でしょ」
そういうものか、と恭也も肉を口に運んでみせる。
「でも、生まれた時から世話をしていた子を食べろと言われるとちょっとキツイかな」
「そう言った感覚を聞くと伊邪那美が日本の神を名乗るのに納得するな」
そんな中である、アルセイドはふと気が付いた。姿を消したルーシャン、彼女はどこにいるのだろう。
アルセイドが姿を探してみれば、羊舎の中にいた子羊を抱きしめて泣いている。
「私たちは、命を分けてもらって生きているということです。だから命は尊いんです。わかりますね」
その言葉に涙を流しながら頷くルーシャンであった。
「それにしても、お嬢は結構手広くやってるな」
そんな中龍哉は肉をぐわっと頬張ると飲み下して牧場を眺める。
「ある程度人に任せるとしても、資金力がなければ出来ない事ですわね」
ヴァルトラウテも感心したようにそう言った。
「その内ここも体験放牧で人集めるようになるのかもな」
「正直、エージェントってなんでもアリなのね」
その話題に乗ったのがマギア。
「よくある広告だとかじゃ、対愚神・従魔・ヴィランズ云々で『戦う組織』っていう印象が強かったから、こういうのって意外な感じもするわ」
「そうか? そうでもないぞ。歌ってるやつもいれば、実験体感覚で呼ばれることもある。いろいろだな」
龍哉はそう今までの依頼を思い出しながらそう告げた。
「……ほんとうに、喫茶店でバイトだとか海の家でクラゲ駆除とか。ある意味どこまでやってるのって気分になるけど……」
「どこまででも、ですわね」
ヴァルトラウテがその言葉に苦笑いを返す。
* *
お腹も膨らんだことなのでお仕事を再開することにした。
目標は野犬退治。
むしろこちらが本業とばかりにリンカーたちは夜の牧場に出た。
「センセー、配置についた……よ?」
そうインカム越しに志錬は告げる。SVL-16にオプティカルサイトを装着。夜の緑に紛れる迷彩と蛇の本能に身をゆだねじっと敵を待つ。
「いつでもヤれる……」
その言葉を受けて遊夜は首をひねった。
「仕留めて良いんだっけか?」
「……ん、とりあえず……脚狙い」
その時だった、森がざわついた。遊夜と志錬のスコープがそちらに向けられる。 次の瞬間、森から一斉に飛び出してきたのは狼の群。
いや、あれは違う……。
「従魔じゃねぇか!」
遊夜はあわてて木の上から飛び降りた。
身を隠している場合ではない。だが冷静に、心は冷たく、照準を合わせトリガをひく。
志錬と連携。野犬たちの足を止めるべく弾丸をばらまく。
「まさか、こんなところで出会うなんて」
由利菜が外套を脱ぎ捨てて、野犬の群の前に躍り出る。
「……荒ぶる心を休めよ。一時の夢に身を委ねよ」
――荒事は手加減が難しそうだし、セットしてきて正解だったよ。
だがそのガスで眠ったのは群のリーダーを覗いた野犬たち。
一際体の大きいリーダー格の野犬はそのまま柵へ突っ込んだ。
軋む音、そして電気が流れるバチバチという音。
補強のおかげで一撃にて破られることはなかった。
その野犬を蹴り飛ばして大剣を向けるのはソピア。
「野犬は遊びで獲物を殺す事も多い。一度痛い目を見れば寄りつかなくなるだろうが……」
――猟銃が無くても師匠は撲殺できそうで怖い。
だが、形勢の不利を悟った野犬の従魔はすぐさま起き上がると、矢のように平原をかけ。森の中に戻っていく。
「俺でも捕えられなかった……だと?」
その速さは異常で、志錬どころか歴戦のハンターである遊夜ですらその体に弾丸を撃ち込めなかった。
不穏な空気が森に流れる。
この任務が終わったならすぐにH.O.P.E.に出動要請をかけなければならないだろう。
第四章 翌朝
夜にあったことは、あくまでも夜の出来事である。報告はした。これ以上気をもんでいても仕方がない。
そうリンカーたちは気を取り直し、朝食を取り意気揚々と牧場に出た。
「羊飼いと羊……私のようなキリスト教徒には馴染み深いですね」
そう由利菜が朝の風の中祈りをささげていると。
「私達もまた、迷える子羊……」
めぇと羊が寄ってくる。
なつかれているのだろうか。むしろウィリディスから逃げてきたようにも見える。
ウィリディスは羊を捕まえると片っ端から羊に薬を与えようとしている。
「この栄養剤、抗生物質が過剰に入ってたりしない?」
「獣医さんの処方したものらしいから大丈夫だと思いますよ?」
「抗生物質が溜まった羊はますます弱って、食材としての質も下がっちゃう。こう見えてもあたし、栄養管理にはシビアだからね」
そんなウィリディスの羊とのふれあいは続く。
他のメンバーは日差しにやられてしまいそうな羊の毛刈りを行っていた。
「毛を刈る為に手を中に入れたけど……うん、刈ってあげないと熱中症で倒れちゃうね」
ずっぽりと両腕を羊の毛の中に突っ込んだ伊邪那美は真顔で恭也にそう告げた。
「この暑さだ、これだけもこもこだとな」
そう遊夜はメガネを押し上げて不敵に笑う。
「……ん、スッキリ……しよう、ね?」
震えるバリカンを手に持ってユフォアリーヤがくすくす笑った。
家でバリカンの素振りするくらいリーヤは気合入れてきた模様。
「ダーッハッハッハ! 丸刈りじゃあ!」
意気揚々と羊の毛を刈っていくランページ、そんなランページと共鳴、体を預けたミュートは昨日の半生を胸に沈み込んでいた。
(ほとんど……お話できなかった)
「お? お前さん剛毛じゃのう、なら秘密兵器じゃあ!」
そう告げてランページは巨大な鋏を取り出す。
「えっ、ら、ランページ!?」
羊さんが危ない、そうミュートはあわてて主導権を取り返した。
そんな調子でぶいーんと毛をかってしまって。
弱っている羊がいる場合は栄養剤を与えていく。
「さぁ、元気が出るオクスリだぞー」
なぜか悪人顔で羊たちを引き倒す遊夜
「……ん、ユーヤも……楽しそうだねぇ」
「…………よし、完成だ」
その隣で龍哉が鋏をほろい、立ち上がる。今まで羊に鋏を通していたのだが、見た感じ、鋏を通す前と毛のボリュームが変わってない。
「見た目元のままのようですが」
ヴァルトラウテが尋ねる。
「そう思うだろ。ではお披露目と行こうか」
そう羊の毛をつまんで上に持ち上げるとなんと。
するりと毛が解け、一枚の布のように持ちあがった。そして羊は涼しそう。
「いい腕前ですね」
そう微笑むヴァルトラウテの背後を。志錬が走っていく。いや違うか。主導権はSが握っているようで、羊を追いかけまわしている。
「うわああああん、まってええええ」
一頭ごとに羊の感触を楽しみながら毛を刈っていたのだが、元が蛇で拘束上手な依雅はともかく、Sはド素人のため羊を逃がしてしまったのだ。
「にゃ~~~~~、もふもふーっ」
――ソル、羊 びっくりさせない。
「ぁ、ゴメンナサイ……つい」
そんなSにお手本を見せる志錬。
そんな羊狩りをしている間にだんだんと時間が立って、あっという間に帰りの時間がやってきてしまった。
エピローグ。
「我侭に付き合ってくれてありがとうな、師匠」
そう荷物をまとめプラプラと歩いている命荷、その隣でソピアは告げる。
「全くだ。しかし君にはいい勉強になっただろう。家でヘマをしたら出荷してやるからね、ヴィール」
「ははっ、心得た」
「……あの牧場の子羊達の肉がいずれ私達の食卓に並ぶと思うと、私だって辛いですよ?」
そう由利菜は肩を落として告げる。
「ですが……この世界に生まれた生命は、他の命を頂かないと生きていけません。それが自然の摂理なのです」
「あたしも……形は違ってもユリナからライヴスって命を貰ってることには変わりない」
「……でも、あたしは愚神みたいにユリナを食い尽くしたりはしない。ユリナはずっと一緒の親友だからね!」
そう手を取ってウィリディスは微笑む。
ひと夏の思い出作りはそれぞれうまく行ったようだった。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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