本部

夏祭りの未来

月夜見カエデ

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/08/14 02:06

掲示板

オープニング

 夏の風物詩――夏祭り。
 今年も夏がやって来た。いよいよ明日は夏祭りだ。
 鏡花ははやる胸のうちを抑えてベッドに入った。
 浴衣を新調し、下駄も新しいものを買った。友達に髪飾りを選んでもらい、祖母に浴衣の着方も教わった。
 鏡花がここまで念入りに準備しているのは、明日の夏祭りにデートの約束をしたからだ。
 相手は同じ高校に通う同級生――啓吾。気は弱いが、勇気を出して夏祭りに誘ってくれた。鏡花も彼に気がないわけではなかった。
「ねぇ、鏡花、本当に夏祭りに行くの? やめておいた方がいいってば。明日はろくな目に遭わないわよ」
 英雄のルシールの忠告に、鏡花は溜め息を返した。
「ルシール、いい加減にして。明日はデートなんだから早く寝させてよ」
「デートが楽しみなのはわかっているけど、明日の夏祭りではちょっとした騒動が起こるわ。鏡花には巻き込まれてほしくないのよ。せっかくのデートが台無しになっても知らないわよ?」
 ルシールの忠告もあながち馬鹿にはできなかった。何故なら、彼女には未来予知の能力がある……かもしれないからだ。
 どこまでの未来を予知できるのか、その信憑性はどれくらいなのか。鏡花にはもちろん、ルシール本人にもよくわからなかった。
 鏡花はこの未来予知をほとんど信用していなかったが、ルシールは確信めいたものを感じていた。鏡花に迫る危険を察知した時、その未来予知は大抵当たるからだ。
「……心配してくれるのは嬉しいけどさ、今さらデートを断るわけにもいかないじゃない。啓吾くんがせっかく誘ってくれたんだよ? 私だって行きたいもの」
「強情ねぇ。どうなっても知らないんだから」
「平気よ、私だってこれでも能力者なんだから。あっ、ルシールは絶対ついてこないでよ?」
「ええっ、なんでよ!?」
「やっぱりついてくるつもりだったんだね……だって、ルシールがいたらデートの邪魔になるじゃない」
「冷たいわね。私は鏡花のことを思って――」
「お休みー、ルシール」
「…………」

「――というわけで、エージェントの手をお借りしたいんです」
 ルシールが訪れたのはH.O.P.E.東京海上支部。
 未来を変えるにはルシール一人ではあまりにも力不足だった。そこで、エージェントたちがいるH.O.P.E.を頼ったというわけだ。
「今年の夏祭りは本当にろくなことが起きません。狐型の従魔が大量に湧いて屋台の食べ物を根こそぎ持っていったり、酔っ払ったヴィランが暴れ出したり、花火が暴発して火事になったり。私の言うことが信じられないかもしれませんが、何か起こってからでは遅いと思うんです。鏡花だけでなく他の方にも被害が及びますし」
 もしルシールの未来予知が本当なら、大惨事は避けられない。いずれにせよ、H.O.P.E.としても大惨事を未然に防ぐ義務がある。
「あっ、鏡花からはついてこないでと念を押されましたが、私も夏祭り会場には行きます。さすがに鏡花にばれたら後で怒られるので隠れて見守りますが……どうかよろしくお願いします」

解説

夏祭りで起こる予定のトラブルを防ぐことが目的。
夏祭り会場は神社。夏祭りの規模はそこそこ大きく、客も多い。
夏祭りの序盤、屋台の方には狐型の従魔が大量に現れる。山の方から下りてくるため、屋台の方に行かせないようにすると騒ぎを抑えられる。
神社の境内には酒を飲んでいるヴィランがいる。そのヴィランは酒癖が悪く、夏祭りの中盤で酔いが回って暴れ出す。
夏祭りが終盤に差しかかると、花火が打ち上げられる。本殿の方から打ち上げられる予定だが、ルシールいわく暴発する可能性があるのだという。

リプレイ

 まだ明るい夕方。
 普段、閑静なはずの神社が熱気に包まれてきた。涼しい夕風は神社を埋め尽くさんばかりの客の体温によってかき消されつつあった。
 赤城 龍哉(aa0090)とヴァルトラウテ(aa0090hero001)は、山の方から狐型の従魔が下りてくるという予言に従って待機していた。
「祭りに託けて人を襲おうとはふてぇ連中だな」
「それにしても、立て続けに異なる案件が重なるあたり、まるで厄日ですわね」
「まあ、酔っ払いと花火の事故は狙ってやってるわけじゃないだろうが……」
 ともあれ、一般人に著しく迷惑だ。早々に片付けないとな。
 現状、まだ何も起こっていない以上、ルシールの未来予知を信じるしかない。仲間と連携してトラブルを食い止めなければならない。
 既に夏祭りの会場内で酒飲みが常時酒を調達できる場所は確認済みだ。あらかじめ花火の打ち上げ場所への最短移動経路も把握している。
 忙しい夏祭りになりそうだった。

「未来予知……ということは、星詠みの類いでござるか?」
「え? 白虎ちゃん、いつの時代の人?」
 白虎丸(aa0123hero001)が呟いた星詠みのことはさておき、虎噛 千颯(aa0123)は山から夏祭りの会場へと続く道に立ちはだかっていた。
「未来予知かー……とりま警戒してれば結果はわかるよな!」
「せっかくの祭りが台無しにならないように頑張るでござる!」
 ルシールいわく狐型の従魔は屋台の食べ物を根こそぎ持っていくということだった。千颯は未来予知を聞いてから、近くの豆腐屋で油揚げを大量に購入しておいた。大量の従魔を油揚げで釣り、まとめて一気に片付けようという寸法だ。
「これがただの狐だったら保護するんだけどな……」
「従魔である以上倒すしかないでござるよ」
 規模の大きな祭りだ。従魔が一匹でも屋台に向かったら騒ぎになることは間違いない。花火が暴発すればなおさらだ。
 千颯と白虎丸はトラブルを未然に防ぐべく身構えた。

 夏祭りの準備段階から屋台の配置や通路の周辺状況を確認していたのは、御神 恭也(aa0127)と伊邪那美(aa0127hero001)。一応、狐型の従魔が現れそうな場所にも見当をつけておいた。
「予知が間違いであればいいんだがな」
「早くお仕事を終わらせて遊びたいね」
「もう少し、詳細がわかれば対応もしやすいんだがな」
「ボクとしては、対応策も予知してくれてるとよかったんだけどな~」
 参道の両端に立ち並ぶ屋台が賑やかになってきて、恭也は屋台から食べ物を調達した。伊邪那美は食べ物に物欲しげな視線を注いでいた。
「……食べないの?」
「狐たちを引き込むための餌だからな」
「もったいないなぁ……」
 ルシールの未来予知が本当に起こるかどうかはわからないが、警戒しておくに越したことはない。
 屋台から甘い匂いや香ばしい匂いが漂い、山がざわめきつつあった。

 夏祭りの会場である神社に到着し、蝶埜 月世(aa1384)は感嘆の声を上げた。
「へぇ……かなり大きな規模のお祭りなのね」
 アイザック メイフィールド(aa1384hero001)は頷き、これから起こるであろうことに思いを馳せていた。
「ああ、ここに予言通りの事態が起きたら大きな被害が出ることになるな。気を抜けないぞ」
「祭りの最初から最後までしっかりトラブルが続くっていうのがイヤらしいわよね……安心してビールも飲めないわ」
「…………」
 ビールという言葉にアイザックの目付きが鋭くなったが、月世は気付かぬふりをした。
 屋台には多種多様な食べ物が陳列されている。その他にも射的や金魚すくいがあり、どの屋台も騒がしいほどの盛り上がりを見せている。
 屋台で何か食べ物でも買おうかと思っていると、山の方からがさがさと何やら大量の生き物がうごめく気配がした。屋台の食べ物を狙う狐型の従魔たちが動き出したようだ。
 月世とアイザックは山の方へと向かっていった。

「祭りって何? 楽しい?」
「屋台とか花火とかあるぞ」
「ほんと!? じゃあ、狐をすぐに倒して屋台で食べよ!!」
「依頼はそれだけじゃないからな」
「わかってる! ……何食べようかなぁ!」
 イズミ・ラーミア(aa3053)は屋台の食べ物を前にしてきらきら目を輝かせていた。そんな彼を横目に、アンリ・ボナパルト(aa3053hero001)は嗜虐的な思惑を密かに抱いていた。
 どれくらいの数の従魔が現れるのかわからないためひとまず山の下で待ち伏せしつつ、イズミはそわそわしていた。
 屋台がある参道の方から少し離れているにもかかわらず、食欲をそそる匂いがここまで漂ってくる。腹の虫が鳴って仕方ない。
 食べ物のことに気を取られていると、怒涛のごとく大量の従魔が下りてきた。その勢いはまるで湧き水のようで留まるところを知らなかった。
 イズミは意気込み、武器を構えた。
「全部ササッと倒して屋台で食べる!」
「ミスったら何も買わないからな」
「!?」

 ルシールの未来予知は大きくわけて三つ。狐型の従魔の大量発生、酔っ払いヴィランの暴走、花火の暴発。
 蝶埜 歴史(aa5258)はこれからどうするべきか思案していた。
「うーん、この予言が本当だとすると最初の狐事件以外は事前に対応すれば防げそうだよな」
 しかし、血濡姫(aa5258hero001)は釈然としない表情をしていた。
「それは無理ではないかの? そもそも予言というからにはそれが起こるからなされるわけであろう? ということは、何をしようとその状況にはなってしまうと妾は思うぞえ?」
「……やるだけやりましょう」
 とりあえず、歴史と血濡姫は酒癖の悪いヴィランに対処すべく境内を歩き回った。

 夏祭りが盛り上がり出して早々、ルシールの未来予知通り狐型の従魔が大量に湧いた。
 龍哉はブレイジングソウルで従魔を片っ端から撃ち、押し寄せてくる黄色い波を荒立てていた。
 弾丸から逃れて近付いてきた従魔たちは怒涛乱舞でまとめて斬り払う。が、倒しても倒してもきりがない。
「まったく、次から次へと。どこから湧いて出たんだ、これ」
「簡単に抜けさせはしませんわ」
 大量の油揚げを持った千颯と屋台の食べ物を持った恭也に群がる従魔たち。屋台の方に向かわせないようにするにはちょうどいいが、いかんせん数が多すぎる。無限に湧いていると言っても過言ではないくらいだ。怒涛乱舞でもなかなか滅し切れない。
 イズミも武器とスキルを最大限に活用して全力で戦っていたが、従魔の勢いが衰えることはなかった。ミスったら何も買わないというアンリの言葉に焦ってもなお敵わなかった。
 このままでは屋台の方に従魔が向かってしまうのも時間の問題だ。
 メーレーブロウで従魔たちを乱戦に持ち込みながら、月世はこの大量の従魔たちの中に首領格がいるのではないかと疑っていた。
 もし首領格が存在するのなら。首領格を倒せばきっとこの従魔たちの勢いも止まるはずだ。
 月世は黄色い波をかきわけて首領格らしき従魔を見つけ出した。明らかに他の従魔とは毛色が違ったため、案外すぐにわかった。
 他のエージェントの攻撃で従魔たちが薙ぎ払われたところにオーガドライブ。首領格の従魔は意外にもあっけなく倒された。
 首領格が倒されると、従魔たちの勢いはたちまち弱まっていった。
 しばらく戦闘を続けていると、あれだけ大量にいた従魔たちは一匹残らず殲滅された。
 従魔たちは片付いたが、ほっと一息吐いている暇はない。少なからず、まだ酒癖の悪いヴィランの暴走と花火の暴発が残っている。
 エージェントたちは次のトラブルを回避するため休みなく働いた。

 夏祭りが中盤に差しかかり、屋台の食べ物や飲み物が客に行き渡った。そろそろ酒癖の悪いヴィランに酔いが回る頃合いだろう。
 境内を見回すと、既に何人か酔っ払っている客が座り込んだり談笑したりしていた。龍哉はその中でも大声で騒いでいる一人に目をつけた。
 ヴィランが空になったビールの缶を放り投げ、龍哉はそれを顔面の手前で受け止めた。
「おっと、ちょいと飲みすぎじゃねぇか? 酒は飲んでも呑まれるな。祭りの場でそいつは無粋ってもんだぜ」
 ヴィランは視点の定まらない目で龍哉を睨みつけた。
「あ? 関係ねぇだろ。だったらてめぇが力づくで止めてみやがれ!」
 殴りかかるヴィラン。が、古流武術の師範代である龍哉に挑むのは無謀というものだ。そこいらのヴィランが体術で敵うはずもなく。
「なっ!?」
 次の瞬間、ヴィランは軽々と張り倒されていた。ついでに幻想蝶も没収されていたが、ヴィランは地面に倒れていることに戸惑うばかりでそのことには気付いていなかった。
 ヴィランが隙だらけの間に、龍哉は素早く野戦用ザイルで身体をぐるぐる巻きにしていった。ヴィランは暴れて逃れようとしたが、むしろ野戦用ザイルが絡まって身動きできなくなった。
 必死の抵抗も虚しく、ヴィランは眠りに落ちた。
 龍哉は両手をぱんぱんと払い、踵を返した。
「おし、これでここは片付いたか」
「皆様、お騒がせして申しわけありません」
 ヴァルトラウテが頭を下げると、周囲から歓声と拍手が起こった。どうやらこのちょっとした騒ぎは、龍哉の鮮やかな体術によって夏祭りの余興になったようだった。

 境内の酔っ払いヴィランは一人ではなかった。
 英雄らしき人物と一緒になって飲んだくれそうな勢いのヴィランが酒とつまみをいっぱいに広げていた。これは遅かれ早かれ酔っ払うこと間違いなしだろう。
 歴史は英雄っぽい方の横を通りすぎ様に足を踏んだ。明らかに痛がったため、こちらが英雄で合っているだろう。
 共鳴されたら厄介だ。ひとまず二人を引き離す必要がある。
 歴史と血濡姫は頷き合い、事前に立てておいた手はずを確認した。
 英雄は足を踏まれていら立っているようだったが、突然ウワバミ対決を始めた血濡姫に呆気に取られた。そこにもっといい酒があるところを知っていると誘われ、英雄は言われるがままに指差された方向へと走っていった。
 ちなみに、英雄は人気のないところで月世の電光石火によってあえなく眠ることになった。
 英雄がいなくなり、血濡姫は酒の山の上にさらに買ってきた酒を追加した。
「ふふ、どうじゃ、妾と真の酒王の座を賭けて勝負といこうではないか?」
「ふん、子供じゃ勝負にならな――」
 ヴィランの言葉を遮るように缶ビールを一瞬で飲み干してみせた血濡姫。ヴィランは不敵に笑った。
「面白れぇ! やってやろうじゃねぇか!」
 血濡姫の容姿は一見すると完全に少女なので、歴史は周囲の目を気にして念のため「この人は英雄で実際は成人です」と書かれたプラカードを掲げておいた。
 血濡姫とヴィランの白熱した戦いはちょっとした見世物になり、トラブルどころかまたしても夏祭りの余興となった。
 結局、この勝負は血濡姫の圧勝だった。ヴィランは酔い潰れていびきをかきながら爆睡してしまった。

 狐型の従魔を討伐し、恭也と伊邪那美は酔っ払いヴィランの捜索に移っていた。
「狐の発生が確かになった以上は、ヴィランの件も起きる可能性は高いか」
「う~ん、酔っ払って暴れるなら場所は焼き鳥屋さんかな?」
「まだ騒ぎになっていないなら、昼に調べた酒を出す屋台付近から見回って行くか」
 境内は他のエージェントたちに任せることにし、念には念を入れて屋台の周囲にも警戒網を張っておく。
「んー! おいひぃ」
「おい、下向いてないでもう少し周り見ろよ。酔っ払い探せ」
 屋台で食べ物を買ってもらったイズミ。アンリは屋台巡りをしながら酒を売っている場所や酔っ払いをマークしていた。
 すると、焼き鳥屋の近くから大声が聞こえた。酔っ払ったヴィランのようだった。
 ろれつが回っておらず何を言っているのかよくわからないが、周囲に迷惑がかかっていることは言うまでもない。
 ヴィランを見つけるなり、イズミは幻想蝶でライヴスを奪う。狼狽している隙に、恭也が疾風怒濤と一気呵成で攻める。
 被害が出る前にヴィランは鎮圧された。
 二つ目のトラブルも無事解決されたが、まだあと一つトラブルが残っている。この夏祭り最大の被害をもたらしかねない花火の暴発だ。
 エージェントたちは花火の打ち上げ準備に取りかかっている本殿へと赴いた。

 未来予知された最後のトラブル――花火の暴発。これには人為的なミス、妨害、自然現象によって暴発が引き起こされる可能性がある。
 エージェントたちは気象情報や導線の長さや火薬の量などを入念にチェックし、本番で起こるであろう暴発をなんとか食い止めようとしていた。
 歴史は花火師に質問を繰り返していたが、当然ながら押し問答になってしまった。
「すごーく気を悪くしておるように見えるぞ?」
「必要ならしょうがないでしょ?」
「……うう、妾はこの雰囲気は苦手じゃ」
 やれることはやった。確認したところ、花火の方に異常はなさそうだった。強風が吹いているわけでもなく、特にこれといった問題はなかった。
 本殿の周囲に警戒し、万が一花火が暴発した時のためにスリや痴漢などの犯罪者にも注意を払う。花火が客に誤射された場合にも備えて身構える。
 いよいよ打ち上げのカウントダウンが始まった。
「三、二、一……」
 カウントがゼロになり、ついに花火が打ち上げられた。
 しかし、空高く上っても花が咲くことはなかった。そればかりか、花火玉は勢いよく落下し、客の方に迫っていった。
 龍哉は花火の落下地点まで走り、ブレイブザンバーの刀身の腹で花火を受け止めた。そして、そのままストレートブロウで上空へと再び打ち上げた。
「たーまやー、ってなぁ!」
 今度こそ夜空に美しい花が咲き誇り、客から歓声が上がった。
 ところが、二発目の花火は不発で打ち上がらなかった。そこで、千颯はライヴスバットを思い切り振りかぶった。
「おりゃぁー! 飛んでけ! 場外ホームラン!!」
「場外に飛ばしたら危険でござるよ。ここは真上に上げるでござる!」
「雰囲気の話でしょ!! わかってますよ!」
 ライブスバットの芯が花火玉をしっかりと捉え、闇色のキャンバスは絵の具をぶちまけたかのように派手に彩られた。
 三発目以降の花火は問題なく打ち上げられた。どうやら最後のトラブルも無事防ぐことができたようだった。

 幸か不幸か、ルシールが未来予知していたトラブルは見事に全て的中したが、エージェントたちの活躍によって大惨事になることはなかった。
 花火が打ち上げられた後もしばらく夏祭りのほとぼりが冷めることはなかった。依頼を解決したエージェントたちも夏祭りの喧騒に乗っかり、食べ物を買ったり射的や金魚すくいで遊んだりしていた。
「無事終わったみたいでよかったな」
「でも、これでは予知が本当であったかどうかは俺たちしか知らないでござるよ?」
「予知なんてのはそんなものさ。当たれば非難を受け、外れれば嘘つき呼ばわりさ。ま、今回みたいに未然に防げたなら儲けもんだって思っておかないとなんだぜ」
「うむ……だが、それではルシール殿があまりにも……」
「おっと、それ以上は言わぬが花ってやつだぜ。それに、そんなに捨てたもんじゃないと思うぜ? 彼女の相方もな」
 ルシールの気持ちを慮って釈然としない白虎丸だったが、千颯はそれほど気がかりではないようだった。
 ルシールの気持ちが鏡花に伝わらずとも――たとえ鏡花が夏祭りの災難を知らずとも、ルシールが彼女を守ったことに変わりはない。
 ルシールは木陰でほっと胸を撫で下ろし、満面の笑みを浮かべながらデートを楽しむ鏡花を見やった。
「はぁ、疲れた……鏡花ったら、夏祭り中に何があったかも知らないで呑気なんだから……まあ、楽しそうだからいっか」
 嬉しいような、寂しいような――複雑な気持ちのまま、ルシールは苦笑混じりの微笑みを浮かべて神社を後にした。

「ただいまー」
 ルシールが家に到着してから少し経ち、鏡花が帰ってきた。
 当のルシールはぐったりとベッドの上にうつぶせになっていた。鏡花を待っているうちに眠ってしまったようだ。
「お帰り……デートはどうだった?」
「最高に楽しかったわ。残念ながらルシールの未来予知は外れたみたいだね。結局、何も起こらなかったじゃない」
「…………」
 ルシールは頬を引きつらせたが、鏡花から「はい」と何やら差し出されて目を点にした。
「何、これ?」
「林檎飴よ。お土産。いい子にしてたみたいだから」
「……私、そんなに子供じゃないわ」
「ふふっ、そうね、どちらかといえばお節介なお母さんかしら」
 お母さん、と言われて悪い気はしなかった。むしろ、しっくりきた。
 今日は心配で気が気でなかったわ……まあ、これもいい思い出ね。トラブルは起きかけたけど、実際は何もなかったわけだし。来年は鏡花と一緒に行きたいな。
 ルシールにとって、そして、鏡花にとっても、今年の夏祭りは忘れられない思い出となった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 正体不明の仮面ダンサー
    蝶埜 月世aa1384
    人間|28才|女性|攻撃
  • 王の導を追いし者
    アイザック メイフィールドaa1384hero001
    英雄|34才|男性|ドレ
  • ひとひらの想い
    イズミ・ラーミアaa3053
    人間|14才|男性|回避
  • エージェント
    アンリ・ボナパルトaa3053hero001
    英雄|18才|男性|ソフィ
  • エージェント
    蝶埜 歴史aa5258
    機械|27才|男性|攻撃
  • エージェント
    血濡姫aa5258hero001
    英雄|13才|女性|カオ
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