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広告塔の少女~海の家のカンタレラ~
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最終発言2017/08/06 01:48:49
オープニング
● 出張BARカンタレラ
海の季節ですね。昼間の浜辺には夏の魔物にやられた老若男女が溢れかえっています。
笑い声、舞い散る水しぶき。涼やかな風景を眺めながら、カンタレラのオーナーである。ロクトはチェアーに座ってそれを眺めておりました。
水着です。豊満な体を惜しげもなくさらしたビキニでございます。
そんな彼女はマティーニ片手に座り直すと一つため息をつくのでした。
「ああ。休日最高」
「違うでしょ!」
そんなロクトの頭をひっぱたく遙華である。
遙華は水色の水着にパレオ。ふちが幅広い麦わら帽子という出で立ちだったが片手にトレイを乗せている。その上には焼きそば、スイカ。
海の家定番のラインナップである。
「休憩時間でもないのに何くつろいでるのよ!」
「あら、私オーナーだし。いいんじゃないかしら?」
「よくない! みんな忙しく飛び回ってるのに!」
遙華はあたりを見渡す。
大きなコテージを借り切って五十人以上が座れるようにテーブルとパラソルを配置した海岸の休憩場。
出張版BARカンタレラをやりたいと言い出した本人が遊んでいては、この夏のため特別に働きに来てくれている従業員たちに申し訳がつかない。
「ロクト働いてよ」
「うーん、あと少し」
「ロクトの自慢のお酒を海に捨てるわよ」
「捨てるくらいなら私が飲むから持ってきて」
「グロリア社の看板を背負ってるくせにいいの?」
「今日はオフだもの」
「オフじゃないでしょ!」
もはや遙華が何を言っても、梃子でもっても動かない構えのロクトに。
遙華はしぶしぶ引き上げてきた。
● どうしたら働くのでしょう
フライパンを勢いよく持ち上げると胸も揺れる。
遙華は最初そんなあられもない姿で店先に立つなんて断固として反対だったのだが。忙しさのうちにその羞恥心は引っ込んでしまった。
今では立派な海の家クルーである。
そんな遙華が皆に行った。
「ロクトを働かせたいの」
何せ日中は百人単位で人が入る、大盛況のカンタレラだ。
人手は多い方がいい。
「むしろ私も休みたい!」
それが本音か。しらーっとした空気が場を満たす。
そんな皆さんに咳払いをして遙華は再度告げた。
「とにかく。目標二百人って集客目標を達成するためには一人でも手が欲しいの。御願い。ロクトを説得してきて」
こうして炎天下でお休みをかけた、ロクトと皆さんの熱いバトルが始まる。
● ゲームをしましょう
今回はロクトと、労働をかけて争うことになります。
ロクトを負かすことができれば、ロクトは海の家で働くことになり、皆さんは今までロクトが座っていたお休みチェアーを借り受けることができるでしょう。
ゲームのラインナップとしては下記の通り。
・ハイ&ロー
ロクトが引いたトランプが、自分の手元にあるトランプの数字より上か下かを当てる単純なゲームです。
・アイシングブラッド
複数名で心拍測定器を装着してゲームスタートです。一人一人出番が回ってくるのですが、手番の人から見て左の人に、何か一言言ってあげてください。
一巡して、最低心拍数と最大心拍数の差が一番大きかった人が負けで罰ゲームです。
体に触れるとルール違反となります。このゲーム割と戦略性があって面白いです。
・禁止法
参加者を募ります。できれば四人以上が望ましいです。
参加者は一人一人。禁止ワードを決めておきます、その禁止ワードを口から出した人が負けで、罰ゲームになります。
ちなみに、普通に罰ゲームをかけて遊ぶこともできます。
その場合は、店から。
未成年酔った感じになれる、ホロヨイゼリーと。
飲みすぎたら大変、スピリタスカプセルを配布してくれます。
解説
目標 海の家を繁盛させる。
今回、遙華はロクトを働かせたいようですが。趣旨はちょっと違います。
一日で二百人のお客さんを捌ければ問題ないのであり。
その集客のための看板娘としてロクトはとても大いに役に立つのです。
そのために別の策があればロクトは不要ということになります。
なので、皆さんは何を目指すかを先に決めてプレイイングを書くといいかと思います。
1 ロクトに協力してもらうために、ロクトを説得する、もしくは罰ゲームで従える。
2 集客のための企画を考えてロクト抜きでもなんとかなるようにする。
料理、催し物。接客術、様々な技術を駆使して二百人人をいれてしまえば早めに営業を終えてみんなで遊ぶこともできますし。
ただただ、料理と配膳を頑張るだけではなく、チャレンジしてみるといいと思います。
ちなみに、売り上げが多ければボーナスももらえるので期待しておいてください。
リプレイ
プロローグ
「夏だ! 海だ! 稼ぐぞー!」
稼ぐとは当然酒代の事である。
『木霊・C・リュカ(aa0068)』海の家の木陰で腕を突き出す彼はいい年にもなって潮風に興奮していた。
その隣に立つのは『ガルー・A・A(aa0076hero001)』アロハシャツにサーフパンツ。サングラスの淵はとがり、真夏の太陽のようにぎらつく視線を隠している。
男たちは燃えていた、遊びに全力、夏を楽しむ気満々である。
そんな大人二人の姿を茫然と眺める少女に『オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)』は告げる。
「ああいう大人になるなよ」
砂の城固めつつ言うオリヴィエを振り返った『紫 征四郎(aa0076)』は長い髪をまとめており、ワンピースタイプの水着に、猫耳のパーカーという出で立ちだ。
本日四人は、海の家のすぐそばに砂遊び場を設置、砂遊び大会を開催する。
「メインターゲットは家族づれ。普段子供がいて忙しい親御さんに、ゆっくり楽しんで貰う感じです」
征四郎も割と乗り気で、ぐっと拳に力を入れて見せる。
「お前さんに言われると若干違和感があるが、やる気だな。征四郎」
ガルーはサングラスをずらして、ニヤッと笑った。
「売上貢献がんばるのです。征四郎達の出張BARカンタレラが、一番になるのです!」
「あー……」
そう。日のもとにあまり出たくないリュカのかわりに看板片手に走り出す。
子供に声をかけるが、もちろん童心に帰りたい大人たちの参加もOK。
そしてそんなけなげな姿は渚のお姉さんがたにうけて、あっという間に囲まれていた。
「ちゃんと見ておきますから、お母様はゆっくり寛いで来てくださいね」
そう、子連れの奥様方に声をかけるのはガルー。
「海の家限定のノンアルコールカクテルもありますよ」
皆、目にハートマークをうかべて、子供を預けカンタレラへと詰め込まれていく。
「商品はカンタレラ無料券なのです」
海の家カンタレラは今日も好調な滑り出し。
それを遠目で眺めていたのは『橘 由香里(aa1855)』と遙華。
これからもっと客が来るだろう、それを捌かねばならない二人の小脇を『飯綱比売命(aa1855hero001)』が悠々と通り過ぎる。
「あ、飯綱……」
声をかけようとした遙華を由香里は静止する。
「無駄よ」
「よう分かっておるではないか」
そうにやりと笑って振り返りサングラスをずらして舌を出して見せる。
「わらわもここでばかんすを楽しんでおるゆえ、頑張るがよい」
そうロクトの隣に設置された椅子に腰かけ。テーブルに置かれた冷やしきつねうどんに口をつける。
「貴女はそういう奴よね! いつか泣かすわよ!?」
こうして波乱に満ちたひと夏のバイト劇が幕を上げるのだった。
第一章
「「いらっしゃいませ」」
海の家カンタレラ。広々とした室内は日差しを通さず涼しい、海で少し遊んだ休憩にはもってこいである。
さらに『イリス・レイバルド(aa0124)』と『アイリス(aa0124hero001)』金糸の姉妹が接客してくれるとあれば、評判はうなぎのぼりである。
「ところで、ボクは何をやればいいんだろ?」
「イリスは文字が読めないからねぇ。料理もできないし、配膳かな?」
「わかったよ」
そうどれだけ料理を積んでも微塵も揺らがないバランス感覚でスイスイと料理を運んでいくイリス。小柄な体と反射神経から決して接触事故は起こさない。
何とも頼りになるオチビさんである。
「文字が読めないとはいえ口頭で指示を出せば十分動けるからね」
アイリスはその羽で速度を調整しながら滑空したり風に乗ったりしながらご飯を届けている。
それを見て『斉加 理夢琉(aa0783)』も拳を握りしめる。
「よし、やるぞ!」
「張り切りすぎてたおれるなよ?」
『アリュー(aa0783hero001)』はそう理夢琉にタオルを投げかける。それを顔からはぎ取ってさらに理夢琉は腕を突き上げた。
「とにかく、暑さに負けないでガンバロー!」
「……接客は今までの経験を生かせばなんとか」
テンションひくめなアリュー。ちなみにアリューは髪は襟足で一つに縛り黒のサーフパンツと花柄アロハと涼しげな恰好。
対して理夢琉は高い位置のポニーテル、水着は胸にリボンのついたワンピースと気合の入った出で立ちである。
さらにそれにうさ耳のカチューシャ、オーガンジーで作ったまあるい尻尾付きのパレオで飾っている、ココは何の店だと声をあげたくなるが、もはやカンタレラなんでもありである。
許された。
「いくつか作ったから、隙を見て皆さんに被せていきますね」
そんな暴挙もロクトによって許されている。可愛いとは正義なのだ。
そして、理夢琉はポニーテルを揺らしながらカウンターに戻ると、その向こうの地獄を知ることになる
たとえば姫乃『彩咲 姫乃(aa0941)』メルトの食事を用意しているうちにすっかり磨きぬかれた料理技術。正直接客方面はやりたくないと思っているので厨房の仕事を必死にこなす。
「ボーナスは欲しいもの、手は抜かないわよ」
そんな目に炎を宿す姫乃であったが、そんな姫乃に対して理夢琉は他人行儀である。
「ねぇ? アリュー、あの人誰だっけ?」
「……たしか『七咲彩乃』だったか……」
そう、姫乃は姫菜でもなく彩乃。姫乃七変化の術(共鳴して髪を伸ばしたりメイクしたりして)の用いて生まれ変わった綾乃は普段の姫乃よりおしとやかで女の子らしいのだ。
しかも清楚な白ワンピースの水着着用。挑発は紙になびき、黒のカラコンで瞳の色まで返る徹底ぶり。
なぜこんなことをしたのか。正直ロクトにもよくわからなかったが。本人が彩乃としてバイトに参加したいというのだから、許した。
当然面白そうだからである。
(何より作業に没頭していないと目のやり場に困るし)
そう沸きかける雑念を振り払って姫乃もとい、彩乃はフライパンを振るう、焼きそば一丁が出来上がる。
「すごいですね彩乃……さん? 作り置きの分も作るなんて」
「ああ、これはレオンハルトさんの指示で」
そういいながら皿を出すと理夢琉がそれにトッピングを施す。
焼きそばの上にハムでハートの型抜きのせて、マヨやケチャップで名前やセリフをかいたり、そのけなげに元気に働く姿は会場の癒しとなりつつあった。
「あ、オムライス追加だって、彩乃さんお願いできますか? ってもうある……」
大量に作り置きされた焼きそばの山からすくってさらにもりつける理夢琉。そんな理夢琉に困ったような笑みを向けて彩乃が告げる。
「いや、作るのが大事なのよ? 音と匂いで食欲刺激して呼び込まないと。閑古鳥鳴かして穴場気取ったところで売り上げは増えないんだし」
「なるほどですね!」
彩乃の正体にまったく気が付かない理夢琉。それどころか同い年くらいなのに尊敬の眼差しを向けて目の前の女性を仰ぎ見る。
「すごいなぁ~、私もがんばらないと!」
(あまったとしてもメルトに食べさせればいいし。人間って誰かが豪快に食べてるのを見たらお腹すくものだしね。――まさに一石二鳥)
心の声もしおらしくなっている姫乃。当然だろう。日常生活では女性として振る舞う方が多いのだ。なので誰にもばれない。
「あ……七咲さん、焼きそば容器に移してもらってもいいかな?」
厨房担当でずっと一緒にいる『レオンハルト(aa0405hero001)』ですら気が付かない。
昼時などピークタイムには人気商品を持ち帰り用に作り数を稼ぐ。
「旅館の飯とはまた違う大変さだね……あっちも大量だけどほとんど同じだからなぁ」
そう鉢巻きにTシャツの男レオンハルト。オーダーミスもなく、淡々と料理を作り続ける。そんな彼が中華鍋を一まわしすると、完成したチャーハンを皿の上に盛り付け、カウンターで待っている。
『蔵李・澄香(aa0010)』と『クラリス・ミカ(aa0010hero001)』へ手渡した。
「はい、お待ち、大丈夫? 手は足りてる?」
レオンハルトが問いかける澄香は頷き、クラリスはそれを食べ始める。
「大人数のお客様には慣れっこさ」
「忘れておりましたが、旅館の次期女将ですからね」
「忘れるな」
抗議表明として澄香はクラリスのレンゲにかぶりついた。その背後を猛スピードでエンジェルスビットが通過していく。
そのビット部分に、魔導書やら羽やらを括り付け、海の家全体を冷やしているのである。
ついでに一緒に遙華も海の家内を駆けずりまわっているのである。
「遙華、そのパフェ八番テーブル」
「はいはい」
「返事は一回」
おかみモードでの澄香に怒られる遙華。
「……はい」
「あら、遙華大変そうね」
そんな遙華の目の前に現れたのは『水瀬 雨月(aa0801)』で、その姿を見た遙華は思わず吹き出しそうになってそれをこらえた。
雨月はペンギンだのだ。
何を言っているかは分からないだろうが。デフォルメされた可愛いペンギンに雨月は包まれていたのだ。
まぁ要は着ぐるみなのだが。真顔系女子が、着ぐるみをかぶっているというだけでも面白いのだ。遙華はお腹を押さえて笑う。
「脱水症状とか大丈夫?」
「共鳴状態なら大丈夫だと思うわ。宇宙空間に放り出されても平気な位だし」
そんな遙華へ背後から歩み寄る理夢琉。その頭に宇佐耳カチューシャを突き刺した。
「なにするのよ!」
そう驚き振り返ったところを理夢琉と、澄香と『卸 蘿蔔(aa0405)』で激写する。
「遥華さんウサミミとふわふわシッポパレオです! ふり向いて笑って」
「って、いつの間に私のパレオにも細工を!」
そんな遙華の隣に立って肩を組む澄香。
カメラに向かってピースサインを送る。
「あ。遙華、これ動画だから」
「早く言ってよ!」
余所行きの顔をしたまま固まる遙華と、そのほっぺたを指でつつく澄香であった。
そしてウサ耳を取り外し、茫然とたたずむ遙華。そんな真っ白になっている澄香に蘿蔔が問いかける。
「とはいえ水着はさすがに恥ずかしいですね………遙華、私変じゃないですか?」
「挙動がちょっと……」
「レオンには聞いてませんからっ」
「ふふふ、二人は仲がいいわね」
そう予想外のショックを受けている遙華のとなりで、真っ赤になっている遙華の写真をネットに拡散している澄香。
「私も店員として働くから、遊びに来てね! アイス作って待ってるよ!」
「なにやってるのよぅ」
そんな騒ぎを聞きつけたのか、ロクトが姿を現した。からのグラスを引っ提げて堂々たる降臨である。
「あ、澄香さんよかったら飲物頼んでいい?」
「あ、はーい」
そうロクトの背中を追う澄香、カウンターでシェイカーをふるクラリスの元に案内する。
「そうだ、ロクトさん」
「なにかしら?」
「ロクトさん、疲れてそうですもんね、休んでてもいいと思いますよ」
「ん?」
振り返るロクト、髪が柔らかく揺れた。
「や、嫌々ながら接客しても良いことないですしね」
「ええ、充電終わったら手伝ってくださいませ」
「あら、優しいのね。じゃあ。お言葉に甘えるわ」
そう澄香、クラリスから与えられたプレッシャーにも余裕を見せるロクトである。
第二章
ロクトが砂浜を歩いていく。そんなロクトを追って金糸の姉妹が海の家から躍り出た。
「お休みなら無理に働かせなくてもいいんじゃ?」
当然目的はロクトの説得である。
「そのあたりの内部事情は知らないからね。単に遙華さんが働かせたいだけかもしれないのだし」
「そういう気安さって、あるかもだけどー」
「まぁ、運搬だけなら簡単だよ。運搬だけならね。……その後戦力になるかは保証しないが」
そんなお話を聞きつけてロクトが振りかえる。
「あら、アイリスさん、イリスさん、どうしたの。休憩?」
そう告げて座ったチェアーの足を掴んで、アイリスはロクトをひょいっと持ち上げた。
飯綱比売命はそれを見て飲物のストローをぽとりと落した。
「お姉ちゃんならチェアーごと持っていけるしね」
それを平然と眺めているイリス。
「店先に置いておけば、客寄せパンダ位にはなるんじゃないかい」
「私をパンダにするつもり? 客層が悪くなりそうね」
そのままチェアーにしがみつき、海の家の入口まで運搬されるロクト。
それを見ていた飯綱比売命が目を輝かせて、自分もやってくれとねだっていた。
運搬される飯綱比売命、それどころか人が集まってきてしまったので、ファンサービスとして、チェアーごと空に放り投げてみるというパフォーマンスを行う飯綱比売命。
悲鳴が、響き渡る。
そんな光景を尻目に、レオンハルトがロクトの隣に腰掛けた。
「早速だけど、頼みたい仕事がありまして」
そして耳元でぼそぼそと何事かを告げる。
その光景をあざとく発見した蘿蔔も息をひそめて二人の方へ歩み寄る。
するとなんと、蘿蔔の目の前で抜かれたのはカード。
二人は一枚ずつカードを手に持って、見つめ合ってる。
これから一体何が始まるのだろうか!
そう思い始めた矢先。レオンハルトがローっと言った。
単なるハイ&ローだった。
そしてロクトは負けてた。惨敗である。
「今日は本当に調子狂うわ……」
そう告げて、ロクトは身を乗り出して見せた。顔をレオンハルトに近づけて妖艶に笑って見せる。
「ふふふ、じゃあ、お願い一つだけ聞いてあげる」
そんな光景をレオンハルトは真顔で見送って告げる。御願いを。
「蘿蔔のことなのですが」
「え? 蘿蔔さん?」
「……先日のリハーサルの記憶、アルスマギカで消してもらえないでしょうか?ほら……あれどっきりだから忘れた方が都合がいいし」
「普通に聞こえてるんですけど!? アルスマギカになんて負けませんから!」
そう蘿蔔がお盆でレオンハルトの頭を殴った。
「あの、前から思っていたのだけど、そう都合よく記憶なんて消せないからね? 遙華はちょっと頭のつくりがあれだから、消せるだけで」
「何を話してるの! あと消えてない。普通にのこってるから!」
そう遙華の叫び声が海の家の中から聞こえた。
「げ!」
そんな遙華の声を塗りつぶすくらいに大げさな声が、すぐそばから聞こえる。
その場にいる全員が一斉にそちらを見た。
そこに佇んでいたのは『柳生 鉄治(aa5176)』そして黒のホルターネック。有名なブランドロゴがアクセントになっている。上品な水着を見に纏った『ブリタニア(aa5176hero001)』が立っている。
しばし、時が止まった。
頭でその状況を理解するために、二人の脳がいっぱいいっぱいになったのだ。
滝のように汗を流し始める鉄治、それを横目で見て、再びロクトを見るブリタニア。
ロクトはブリタニアに向けて手を振ってる。ああ、もうだめだ。
そんな言葉が鉄治の頭の中で反響する。
「……鉄治。やっぱりあなた、彼女の行くところに」
「……たまたまだ、マジでたまたまだ」
戸惑いで歪んだ声に説得力はなく、むすっと機嫌悪げにブリタニアはそっぽを向いた。
そのままブリタニアはロクトのチェアに腰掛け、二人で話をしてしまう。
その光景がまた目の毒で鉄治だけではなく道行く人も視線を逸らした。
「あら、どうしたの? 鉄治さん。固まってしまって、海の家に用があるんじゃないの?」
にやっと笑ってロクトはカードを差し出す。
「それとも、用があるのは私?」
「いや、何の事だかわからない……」
そう目を泳がせる鉄治、その視線の向こうに少女を捉えた。
遙華である。ただ鉄治は遙華が分からぬ。ロクトのそばをちょろちょろしていた少女程度の認識である。
そんなメガネの少女が何かを言ってる。だが、残念なことに遙華の口ぱくだけで何を言いたいか理解することは難しい。
そんな首をひねる鉄治にロクトが告げた。
「ハイ&ローなんていかが? 私が買ったら誤解を解いてあげてもいいわよ」
そうカードを一枚抜いて、それで口元を隠すロクト。
そのむかし、アイシングブラッドというゲームで負かされたことを思いだし、鉄治は震えあがるが。そんな鉄治を見かねたブリタニアが立ち上がり、アドバイスしてくれる。
「鉄治の札が7以下の時は大きい、それ以外の時は小さい」
そのアドバイスを胸に刻み勝利を誓う鉄治である。
「それだけで十分。余計なことを考えず、機械的に行くのが一番いいでしょう」
「お、おう……」
そうトランプを受け取ろうと手を伸ばすと視界に入る、ロクトの胸。
とても大きいそれが、ロクトが体勢を変える度に形を変えて、とてもやわらかそ……
「さっさとカードを受け取りなさい」
ブリタニアの冷えた声に背筋を凍らせて鉄治はカードを引いた。その数字はなんと。七である。
ベストオブ中間数字。鉄治は再度汗を流し始める。
「さぁ、どっち?」
ブリタニアの視線が痛い。突き刺さる。
だが黙っているわけにはいかない。だから鉄治は、どうにでもなれと。ハイと告げた。
「正解……」
そう微笑むロクト、すると彼女は立ち上がり、ひとつ背伸びをすると、麦わら帽子をブリタニアに被せた。
「私はお暇するわ。二人の時間を楽しんで」
その言葉に唖然とロクトを見送る鉄治だったが、ブリタニアのなんとなく嬉しそうな顔を見ると、口を開いた。
「よくわからんが、これでめでたしめでたしなのか?」
「そうみたいですね」
「それにしても、わけのわからん気疲れが……。どれ、休むか」
そうロクトがあけたチェアーに手をかけた瞬間、代わりに寝転んだのはブリタニアである。
「……おーい」
「疲れました。鉄治、何か持ってきてください」
「……マジ??」
「当然です」
そうブリタニアは悪戯っぽく笑う。
「あ、ロクトさん、戻ってきたんですね!」
海の家にロクトが戻ると真っ先に声をかけてきたのは理夢琉である。
「もういいんですか?」
「え? そうね、二人の邪魔をするのも悪いし。これ以上小言を言われてもたまらないから」
そうロクトはクラリスを見つけてウインクを投げる。
「戻ってきてくれるって信じてました!」
理夢琉がロクトの手を取った。その手を頭に伸ばして理夢琉の頭を撫でるロクト。
「ロクトのフォローが無くても遥華だけで全てを回せるか試しているのかと、はなしていたんだが」
アリューがロクトに問いかける。
「そんなことはないわ、私が休みたかっただけよ」
そう手を振ってカウンターを覗き込むロクト。
そんな彼女に聞こえないように理夢琉はアリューに告げた。
「単純に体動かしてれば余計な事考えないでいられるってロクトさんなりのリフレッシュ方法なのかも」
「それリフレッシュと言わないと思うぞ」
そう告げたアリューは理夢琉の瞳の中に、暗い影を見つける。
「遺跡で見つかったルネ、ディスペア関連、春香さんの事や武器の開発etc。自分よりまわりの人達を気遣って無茶しちゃう優しい人だから……」
そう不安げにつぶやく少女の頭をアリューは撫でるのだった。
* *
海の家となり、砂場会場。そこはすでに人であふれている。
「おこづかい稼ぎも兼ねつつ?」
「保護者としてきた」
リュカがお客を誘導し、オリヴィエがスコップ等、道具を手渡していく。
そんな砂場は子供相手の商売のため管理も一苦労であった。
「あ! だめでーす、そっちはだめでーす」
そうラインを超えようとする幼子たちを抱きかかえて、目の届く場所に戻す征四郎。
おかげで彼女は終止、幼子に絡みつかれていた。
「ふふーふ、豪華賞品! がある訳では無いけど、どうぞ楽しんでいってほしいな」
そうリュカはパラソルの元に新しいお客、家族を案内する。すると征四郎が飛んできて、子供たちを案内するというスタイルだった。
「はぁい、いらっしゃい♪ ゆっくり休んで行って下さいねっ」
最初にオリヴィエが作り上げたお城が見事に中心にそびえたち。それをお手本としてちびっこたちが砂のお城を建造する、何とも微笑ましい光景が広がっている。
「成程、いい出来だ」
オリヴィエはそんな子供たちを回り、アドバイスを重ねる。
彼のいいところは、引っ張られたりじゃれつかれても平静で対応できることだろう。
子供たちに特に気に入られていた。
「危ないから、カラーコーンの外側には、出ちゃ、だめだぞ」
「って! いいてるそばから。こらー」
オリヴィエの隣を走り抜けていく征四郎。その目の前に水着のお姉さんが現れる。
「うわ! ごめんなさい」
かろうじてブレーキを踏んで威力を最小限に、その柔らかいお腹に頭から突っ込んだ征四郎。
「わわわ。大繁盛ですね」
その声に反応して見上げてみると、蘿蔔が心配そうな顔で征四郎を覗き込んでいた。
「あ、すずしろです! あのテーブルの人が飲物をほしいと」
「あ! はい、すぐにいきます」
二人は離れるとそれぞれ別の方向に走り去る。
そして征四郎は子供を、オリヴィエは水バケツを抱えて会場にもどり。二人は視線を合わせた。アイコンタクト伝わる感情。
思いのほか重労働である。
そんな言葉を胸にしまって二人は、また働きだそうと顔を上げる、すると目の前にアイスが差し出された。
「じゃん! アイスですよ」
蘿蔔が手に握っていたのはチョコレート味のアイス。一部の間では泥味と呼ばれているが。味は確かである。
そんな夏には嬉しいアイスを征四郎とオリヴィエに差し出す蘿蔔。
オリヴィエがちらっとパラソルの方を見ると、ガルーもリュカもアイスを食べてる。
だったらいいか。そう口をつけた。
「甘いもの食べてちょっと休憩しましょ?」
「そうだな、見ておいてやるよ。行ってこい」
そうガルーがゆったりとした足取りで三人に歩み寄った。
「いいんですか?」
「いいに決まってる。じゃあ頼んだぞ、泣かすなよ」
そう征四郎の手を取ってオリヴィエは海の家を目指した。
だが残念なことにオリヴィエも征四郎もろくな休憩を取ることができなかった。
原因は砂場から聞こえる鋭い鳴き声。ガルーが(特に何もしてないのに)怖いと泣き叫ばれ、お城作成どころの騒ぎではない少年少女が多発したためである。
「あー、大丈夫ですよ、本当は優しいんですよ」
そうなだめる征四郎。
「……本当はってなんだ」
ちょっと傷ついたガルーであった。
第三章
雨月は唐突に顔をあげた、熱さが引いてきたと思ったら空の色が変わり始めた。
白い光から赤い光へ、太陽が沈む。
そんな海を見て、雨月は看板を下ろした。
海を見ながら佇む美少女(ペンギン)絵になるようで、すごく奇妙。
そんな雨月の目の前で、海の家の中に入りきらなくなったお手伝いさんたちが積極的に水着の老若男女に声をかけている。
「こちらの店でどうかゆっくりしていきませんか? 水着の似合うお嬢さんにはサービスをしておきましょう」
甘いマスクでささやくガルー。ロマンチックな空気に浸っていた女性客二人は顔を赤らめてガルーの手を取った。
そんなガルーが店の奥に消えるとの入れ替わりで遙華が出てくる。
労いの言葉でもかけようかと雨月が歩み寄ると、遙華はそそくさと海の家の裏手に消えた。
気になって雨月はその背を追う、すると、由香里が海を見ながら佇んでいて、その隣に遙華が腰を下ろしている。
「今日は手伝ってくれてありがとう、久しぶりに一緒にお仕事できてうれしかったわ」
そう告げると、由香里も遙華の隣に腰を下ろした。
「私も楽しかった。けど今日は話したいこともあって」
なんとなく察した顔で遙華は由香里に言葉を返す。
「どんな話?」
「蛍丸君からの相談で、その……『私と付き合ってから遥華と気まずいので間を取り持ってくれ』って」
その言葉を聞いて遙華は思わず肩を落とした。
「あの人、そんなこと頼んだの? たまに残酷なくらいに鈍感よね」
「ええ。本当に……」
由香里はそうため息をついた。引き受けてしまう自分も自分だと自覚しているからである。
「お互いに大変ね」
「本当に」
由香里は砂を握ったり風に流したりしながら言葉を続ける。
「だいたい、振った相手と以前のままお友達でいましょうって都合のいい主張だと思うんですけど!」
「ふふふ、そうね。彼女の気持ちも考えないと」
そう言って遙華は笑う。
「まあいいわ。そういう所もひっくるめて好きになった訳だし」
好きになっただけじゃない。
いろんな困難を二人で潜り抜けてきた。自身のなさ、相手と釣り合うかどうかにずっと悩まされてきた。
夢に囚われた。彼がきてくれた時本当にうれしかった。
沢山の時間を重ねた。
お互いにまだ未熟で不器用だけど。ぶつかりながらも、一緒に進んでいけたらいい。
そんな風に、時間を重ねていけたらいい。
そう、今では思える。
「彼、恋愛に関しては相手の心とか理解できない鈍感なんだけど、それでも誰かの為に立ちたいって感情は本物だから。そこは認めてあげて欲しいの」
「わかってるわ、でも私は蛍丸の事も好きだけど、あなたの事も好きなのよ」
「え?」
「も、もちろん友達として」
プルプルと首を振る遙華。そしてひとつ咳払いをして語り出す。
「もう、恋愛感情が無いのは本当なの。もうさすがに諦めたわ、それよりもっとやりたいことがあるの」
遙華は告げる、夢を語るように遠くを見つめながら。
「もっとみんなの役に立ちたい。ガデンツァ関係もそうだし、アイドルのみんなに対しても。私は今やれることが沢山あって、やりたいこともたくさんあって、それ以外の事を考えてる余裕は本当にない」
「じゃあ、蛍丸君はお仕事にまけたのね」
「そうなるのかしら?」
その時である。海の家の前の広場から音楽が流れてきた。
「今日最後のイベントね、いかないと」
そう走り出す二人、そんな二人と遭遇する雨月。
「あら、雨月も休憩?」
遙華は問いかける。
「ええ、そんなところ」
そんな雨月の手を取って遙華は走った。
「水着になったほうがいんじゃない?」
「個人的にこっちの方が面白そうだったから」
実際、SNS等では雨月はかなり話題になっていた。
「水着なら他に可愛い子達が沢山いるでしょうし、それに面白さならくr……いえ止めておきましょう」
その言葉に遙華は首をひねるばかりである。
「それにこれから私もいろいろやるし」
そんな面白少女三人衆が海の家に戻ってみると、アイリスとイリスが人の輪の中心にいた。
「さて、落ちついたので私も軽く演奏に入るよ」
アイリスは揚々と告げる。
「なんで?」
驚きの声を上げるイリス。
「バルムンク親衛隊も歌う準備は万全だ」
「やる気に満ち溢れている!?」
「ご褒美に今度のメンテで奮発すると約束したからね」
「ありがと~」
「だいすき~」
ちなみに、今のセリフ二つはバルムンク達のセリフである。
「…それってボクは?」
「もちろん歌うとも」
「なにゆえ!?」
「ハーメルンの笛吹き作戦」
「何時かやった記憶があるなー」
「気の利いたトークよりも直球の辻ライブ……まぁ、この方が私たちらしいファンサービスだろうさ。ついでに拠点にご案内だ」
「で、何を歌うの?」
「虹の音(MEMORIA arrangement)」
直後曲が変わる、アイリスの羽が震え、音楽が鳴り出した。
その曲の後ろで、雨月は水の上を疾走するALブーツで水しぶきを上げ、煌く光を纏わせて、まぁ、ペンギン姿なので美しいとかそう言うのには程遠いのだが。
「アイス販売してますよ。期間限定のフレーバーが沢山ありますよ」
そんな中、クーラーボックス片手に人垣内を渡り歩く澄香。
そんな澄香の元へ、見知らぬ少女二人が歩み寄ってきた。
「ファンなんです!」
「今度のライブいきます! 頑張ってください!」
「アイス、なにがあるんですか?」
「よくぞ聞いてくれました!」
そう高らかに告げると澄香はクーラーボックスを押し開く。
「バニラやチョコレートのマーブル『モノクロ』
栄養ドリンク味の『グロリア』
ソーダ味に弾けるキャンディ入りの『ルネ』
蜂蜜レモンに味の『フェアリー』
ホワイトサワー味の『プレア』」
アイドルや企業をモチーフとしたアイスが続々と登場する。目にも鮮やかでとてもうれしい。
「すみちゃん私にもお手伝いさせてくださーい。出来るから、ちゃんと。教えて……もらえば。教えてください」
そうぬるりと登場した蘿蔔。
「教えるも何も、配ってお金もらうだけだよ」
そう澄香は蘿蔔にアイスを手渡すと、蘿蔔がそのアイスにトッピングを振りまく。ちなみに売れたのはグロリアとフェアリーである、黄色ベースなので黒のチョコチップなどどっさり振りまいていく。
仕上げにハート型に焼いたクラッカーをザクリとさすと出来上がり。
「あはは、だれだろうこのメガネの人」
ちなみにクラッカーにはモチーフになった人の似顔絵が焼きつけてある。
残念ながら遙華が誰だか理解されなかったようだ。
少女二人はお礼を言うと夕陽を背に笑いながら走り去った。
「可愛くできた……と、思うのですけどどうでしょう? 頑張ったのですよ? 特に遙華のがね……眼鏡が地味に大変で」
「遙華への愛はいいと思うけど、本番は別の顔にした方がいいかもね」
澄香が冷静に告げた矢先である。突如観客の中から歓声が上がった。
なんと姫……もとい彩乃がたまに乗りながら焼きそばを焼き始めたのだ。
右手でバーナーを持ち、フライパンに当て、フライパンを手首で返しながら野菜を炒める。
さらにはターナーをジャグリング。
「リンカーになってから、――よっと。こういうので失敗するイメージってなくなったのよね」
ちなみにそれが最後の焼きそばだったらしく。それを獲得した男性は大喜びしていた。
これにて海の家の商品は完売。
遅れて登場したアイスでさえ飛ぶように売れて、冷蔵庫も冷凍庫も空っぽ。
普段より三時間早く店じまいである。
「今日はありがとう」
全員を集めると遙華がそう頭を下げた。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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