本部

【時計祭】テアトル オブ ファクト~開演

形態
イベントショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/08/08 20:45

掲示板

オープニング

●ティックトック・フェスティバル
 ロンドン支部長キュリス・F・アルトリルゼイン(az0056)は頭を悩ませていた。
 世界蝕のもたらした技術革新によって通称『ビッグ・ベン』の改修工事はもうすぐ終わる。
 けれども、昨年末の愚神との戦いの直後に警戒態勢の上で改修工事に入った為、ビッグベンには陰気な噂が流れていた。
 いわく、ビックベン周囲にはハロウィンの亡霊が彷徨う──といったような。
「これではいけませんね」
 七組のエージェントたちがロンドン支部に集められたのは数日後のことだった。


「あたしたちエージェントで作る、学校の文化祭のようなものだと思う」
 戸惑いながら、ミュシャ・ラインハルトは依頼内容を伝えた。
「文化祭、やる。やりたい」
「なかなか粋なことをするじゃないか」
「うんうん。スッゴク楽しそう!」
 弩 静華と布屋 秀仁、米屋 葵のポジティブな反応にエルナーが笑った。
「できそうかな?」
「勿論。文化祭だなんて何年振りかしら。今回くらいは童心に戻って楽しんでも悪くないわよねー」
「そうだね。だけど年相応って言葉もしっかり覚えておかないとね?」
 乗り気の坂山 純子だったが、ノボルの一言に言葉を詰まらせた。
「文化祭、ね。やっぱり、するなら喫茶店かな?」
「なら、和風にしようよ。徹底的にね」
 圓 冥人へ真神 壱夜が提案する。
「和服とか割烹着、素敵ですわね」
「母は、割烹着を着たいのよ」
 ティリア・マーティスとアラル・ファタ・モルガナのやり取りに、トリス・ファタ・モルガナが静かに首を横に振った。
「いいえ、ティリアには着物を着てもらいますよ」
 秀仁も同じく何か思いついたようだった。
「器具なんかは家のものを持ってきて、カップとかドリンクは自腹で買うか……」
 一方、ハロウィンから続いた事件を思い出した呉 亮次はしみじみと呟いた。
「あん時は新人中の新人で、しかも二回ほど死にかけたっけな」
「みんなが暗い気持ちになってるなら、また歌の力を借りるのはどうかな?」
 赤須 まことの期待に満ちた視線を受けて、椿康広とティアラ・プリンシパルが顔を見合わせた。
「季節外れの仮装ライブなんてどうっすか」
「ハロウィンの悪い思い出を、楽しい記憶に変えられればいいわね」
 ティアラの言葉にエルナーは軽く手を叩く。
「決行決定ってことかな。なら、僕たち以外にも参加してくれるエージェントを募らないとね」



●ミュシャの憂鬱
 「エリザベス・タワー」──通称「ビッグ・ベン」を見上げる公園、ビクトリア・タワー・ガーデンズ・サウス。そこが今回のイベントの開催場所だ。
 その公園の芝生の上、手渡された紙束を前にミュシャは頭を抱えていた。
 それは、年末にビッグ・ベンで行われた戦いの顛末をざっくりとまろやかにオブラートに包んで劇として上演しろという企画書であった。
「劇」
 何故、一番合わない役回りが、何故、ここへ回って来たのか。
「やるのは僕らだけじゃないし、とりあえず、参加者を募る前に大まかな流れを確認しようか」
 そう言って、エルナーが彼女の前に置かれたファイルをめくった。


●脚本

エージェント 人数・性格は現場にお任せします
ボス愚神   名前等含めお任せ、ファニーガイの名称使用可能
配下愚神   人数・性格含め(以下略)


〇ビッグ・ベン上空・文字盤の前(深夜)
  新年が差し迫った夜、ビッグ・ベンを中心にドロップゾーンが広がる最中
  戦いが行われるのはドロップゾーンの屋根部分、透明な床の上
  時計の文字盤の前にボス愚神、そこまでの道のりに他の愚神たちが立ちはだかる

  エージェント、空に光走る、ジェットパックを背負って戦地へ降下
  エージェントとボス愚神、離れた位置で叫び合う

ボス愚神「(台詞概要:よくも今まで邪魔をしてくれたな、だが、今度こそは我ら愚神の存在と引き換えにロンドン中のすべてのライヴスを搾り取ってやる)」
エージェントA「(台詞概要:H.O.P.E.のエージェントを舐めるな!)」


〇同・ドロップゾーンステージ上(深夜)
  着地したエージェントたちとボス愚神以外の敵が戦う


〇同・文字盤の前(深夜・日付変更、新年に変わる)
  ボス愚神の下へたどり着いたエージェント
  決戦ののち
  エージェント、勝利
  ボス愚神、倒れる

N「(台詞概要:これでビッグ・ベンに、ロンドンに平和が戻ったのだ!)」


※ご注意
オーパーツ「ヴィクトリア」に関しては一般への情報公開が行われていない秘匿事項の為、触れないでください。
ビッグ・ベンの戦いは終結、不安や悪い噂を払拭するような形で締めてください。
台詞の追加・改変は現場判断で自由にお願い致します。
配役について、エージェント役は本人役でも別人設定でも構いませんが、本人以外が実際の事件に参加したエージェントを直接名乗ることはおやめください(名誉棄損等で訴えられる恐れがあるため)。
ただし、当劇に俳優として参加した仲間になり切ることは双方の同意があれば問題ありません。
また、あくまでも「ドキュメンタリー演劇」として、ある種のリアルさを出して……



●困惑
「これを……書いたのは……誰だ……」
 スッと表情を消したミュシャを慌てたエルナーが宥める。
「ある程度自由にできるってことでいいんじゃないかな。実際の戦いに寄せてもいいし」
「……劇なら、共鳴しなくてもいいですしね」
 そっとミュシャが目を反らした。
「あたしは愚神側をサポートします。エルナーはエージェント側をお願いします」
「……わかった」
 最近、ミュシャとのすれ違いを感じているエルナーだったが、彼女の提案に頷いた。



●開演前
 ティックトック・フェスティバル当日は快晴だった。
 テムズ川沿いのビクトリア・タワー・ガーデンズ・サウスにはたくさんの人々が遊びに来ていた。混雑というほどではないが人の流れが途切れることは無く、夏休みに入った学生、親子、そしてカップルといった広い層の人々の姿が見てとれた。
「お化けはだいじょうぶなの?」
「ははは、ポスターを見ただろう?」
 父親のジーンズを掴んで不安そうに周囲を見回す少年に、父親は公園内に貼られた『お化け』たちの噂を否定するポスターを指した。
「ん……でも」
 心細げな少年の前をドリンクや軽食を抱えた子どもたちが甲高い声をあげて通り過ぎて行った。明るい音楽と甘い香り気付いて、彼の沈んだ心もゆっくりと沸き立った。
「お父さん……」
「いいよ、何か買っておいで」
「うん!」

 H.O.P.E.ロンドン支部による事前の広報活動の成果か、ビッグ・ベンに関する噂についてはだいぶ払拭されているようで、公園内では穏やかな表情でイベントを楽しむ人々の姿が見られた。
 しかし、この不名誉な噂の影はまだ残っている。愚神の残した影を払うのが今回の仕事なのだ。
 決意を胸に会場のあちこちで、エージェントたちは汗水たらして働くのであった。

解説


●目的:劇を成功させよう!
ビッグ・ベンの悪い噂を払拭しロンドン市民に安心を与える

劇は依頼『【仮装騒】ファニーガイと時を奪う時計台』を元にしているという触れ込み
実際はわかりやすくするために大分脚色してあり前述リプレイに沿わなくてOK
※台詞の記載をお願いします
※オーパーツ『ヴィクトリア』には触れない
※ナレーション、裏方等はH.O.P.E.職員


●時間:14時開演
開演前はステージを幕で覆いリハーサルを行う(リプレイではほとんど触れない)


●エージェントについて
能力者・英雄ともに俳優として参加(共鳴状態も可)
愚神・エージェント役に別れてください(人数に偏りがあってもOK)
・なりきり
当依頼に参加したPC同士が役柄を交換することができます
その場合は双方のプレイングに「●●さん役、同意」等、一言添えるようにしてください
許可する場合、相談卓などでよく確認してください
能力者と誓約英雄間での役柄交代の場合は同意の記述は要りません
当依頼に不参加のPCになりきることはNG
ファニーガイのなりきりOK


●ミュシャ&エルナー
基本的に裏方
色々あったらしく少しギクシャクしていますが劇に支障を来すほどではなく、日常的な会話もコミュニケーションも出来ています
配役希望があれば「ミュシャは愚神、エルナーはエージェント側」ならばOK
細かな指示がある場合は可能かどうか質問卓で質問をお願いします


●その他
終演後、お客として軽くお祭りを楽しむ描写はOK

●エージェント出店一覧
ライブ・11:00~(高庭ぺん銀MS)赤須&呉,椿&ティアラ
喫茶店(渡橋邸MS)布屋&米屋
茶屋・男装女装(紅玉MS)圓&弩,ティリア&トリス
占い兼相談屋(玲瓏MS)坂山&ノボル
劇・14:00~(当シナリオ)ミュシャ&エルナー
広場中央の休憩スペースを大きくぐるりと囲んだ形で出店、エージェント以外の出店有
ライブと劇のステージは別になります

リプレイ


●上演準備
 紫 征四郎(aa0076)はくす玉を作る手を止めて、英雄のユエリャン・李(aa0076hero002)と公園のすぐ側に建つビッグ・ベンを見上げた。
「なんだか久しぶりの時計塔、ですね」
「ああ。ここで演劇とは、不思議なものであるな」
 一緒にくす玉や紙吹雪を用意していた木霊・C・リュカ(aa0068)と凛道(aa0068hero002)も感慨深げだ。
 時計塔の修繕はすでに終わっていて、久しぶりに見る足場も覆いもない時計塔は新鮮に見えた。
「これで全部なんだぜー!」
 虎噛 千颯(aa0123)と白虎丸(aa0123hero001)が他のスタッフと混じって運んできた段ボールを下ろす。蓋を開いて構築の魔女(aa0281hero001)が観客へ配る紙製のサングラスや耳栓を取り出した。実害のあるスキルは使わないが、光や音の演出の影響を考慮して構築の魔女と千颯が手配したものだ。
「意外としっかり出来ているようですね」
 一通り中身を確認すると、構築の魔女は調整していたイメージプロジェクターを作動させた。舞台の背景の淡く輝くリアルな時計塔の映像だ。操作すると、輝きがより強まり時計の鐘が鳴る。
「当日も鳴っていましたし、流れとして悪くないと思うのですが」
 オーパーツが眠っていた文字盤を目立たせないよう配慮した演出だ。
「改めて見てみると本格的だよね」
 エルナーが感心する。
 背景の前、広いステージの中央には舞台の半分程の盆と呼ばれるターンテーブル式の回転舞台が設置されている。ほとんどわからないが、頭上には張り巡らせたワイヤーもあるはずだ。
「みんなの楽しい思い出になるように、出来る事は全力で行うんだぜー!」
 ワクワクとした表情でそう言う千颯。
「ええ! 皆さんに来て頂けて良かったです」
 客席用のシートを広げていたミュシャが明るい笑顔を浮かべ、エルナーが目を丸くした。
「あ、ミュシャちゃん、シートの間はもう少し空けてなー!」
「はい!」
 設営を終えて軽い休憩を挟んだ後、今度はリハーサルと最終的な衣装合わせだ。
 楽屋代わりのテント内に役名が書かれた紙が貼り出された。




H.O.P.E.エージェント……
 紫 征四郎&ユエリャン・李
 黒金 蛍丸&詩乃
 虎噛 千颯&白虎丸
 エルナー・ノヴァ
 構築の魔女

英雄の少女……詩乃

愚神ファニーガイ……木霊・C・リュカ&凛道
愚神ござる……白虎丸(二役)

ヴィラン フォークスオルタ……橘 由香里&飯綱比売命
配下ファニー……辺是 落児
配下ファニー……ミュシャ・ラインハルト




 構築の魔女は目の前の緋色のローブと、今日改めて書き足された文字を交互に見た。役名の脇に『緋色の似合う情熱的な美女でお願いします』と添え書きがある。
「……えぇと、これが世間のイメージというわけではないですよね?」
 確かにその衣装は似合うだろうし、彼女は赤き魔術師の二つ名も持つが。
 戸惑う相棒の後ろで、衣装のスーツを着込んだ辺是 落児(aa0281)は無言でガイ・フォークスの仮面を被った。
 更衣室を区切るカーテンを開けて橘 由香里(aa1855)が現れた。
「フォークスオルタって感じね」
 ガイ・フォークスの仮面を手にした由香里は漆黒の闇のようなドレスに身を包み、同じく真黒のコートを羽織っていた。
 それを見た由香里の英雄、飯綱比売命(aa1855hero001)が指摘する。
「ガイ・フォークスは男なんじゃが」
「性別反転はよくあること。気にしてはいけないって日本でカスタマイズされた偉人たちも言ってる」
「おかしいのう……。そもそも、お主、劇の前提になる依頼受けていなかっ」
「飛び入り参加! 初期に設定したけどなんやかんやで精神的に安定しちゃって使い途がなくなった高飛車設定を活かすには演劇しかないのよ!」
「こやつぶっちゃけおった! メタいのう!?」
「盛り上がればいいじゃない」
 飯綱とじゃれあう恋人の姿を笑顔で見守る黒金 蛍丸(aa2951)。
「蛍丸様……」
「わっ、詩乃!?」
「由香里様から愚神役をしてみたいということでお誘いを受けましたが、『久しぶりの由香里さんの一面が見れて新鮮な気持ちで嬉しいです』と顔に書いてあります」
「えっ、ええっ!?」
「どう……かしら?」
「……えっと、その……とても素敵、です」
 由香里がドレス姿でくるりと回ると蛍丸は顔を赤らめた。
 一方、蛍丸と詩乃(aa2951hero001)はというと『ごくごく平凡で気弱なエージェントの少年と彼を支える英雄の少女』という役どころなので普段とほぼ変わらない服装だ。姿見の中で自分と並ぶ由香里を見て蛍丸は自身の服装を少し残念に思った。


 共鳴し十七歳の姿に成長した征四郎は仕込み銃の付いた傘型のAGW、スカーレットレインの模造品を使って鏡の前で殺陣の練習をしていた。
「練習した剣舞の形が、少し役に立ちます」
『折角の劇なのだから、そのままで演じるのも一興かと思ったが』
「紫家は剣術以外で目立つことを良しとはしないのです」
 ひょいと鏡の中の征四郎の隣に仮面を被ったスーツ姿の男が並ぶ。
「問題を見つけた。仮面被っちゃうとせっかくのお兄さんのイケ面が隠れちゃわない?」
 ガイ・フォークスの仮面を外すと、共鳴したリュカの柔らかな笑顔が現れた。
『敵であればイケメンであれ仮面であれ全員爆破される流れなので変わりないかと……』
 凛道の身も蓋もないツッコミを笑って流す。
「ハロウィンの亡霊の噂があったみたいだからね、子供たちが怖がらないように、黒猫「オヴィンニク」とジャック・オ・ランタンを使う予定だよ」
 彼が持つのは征四郎と違って本物のAGWだが、「当たらなければ良かろうもんなのだ!」と本人が豪語する通り、リュカなら問題無く操れるだろう。
 エージェント役のメンバーが準備のためにテントを出て行くと、リュカは最後にもう一度仮面を被って鏡を覗き込んだ。
「──いずれまた、とは言ったけど。まさかこんな形で再会するとは思わないじゃない、ねぇ?」
 一方、エージェント役の蛍丸はワイヤーを留めたその建物の上で苦笑した。
「近くの建物……ですね」
 修繕したビッグ・ベンと繋がるウェストミンスター宮殿の一角であった。
「道路も河にも遮られない公園に近い建物があるって言ったよね?」
 エルナーが笑うと、ビッグ・ベンが十五分おきのチャイムで十四時を告げた。
「着地地点は空けてもらってるけどスピードの出し過ぎには注意な! アクションは派手にやってやろうぜ!」
 共鳴状態の仮装をした千颯が合図を出すと、ワイヤーに身体を繋いだ構築の魔女が深紅のローブを翻した。
「さぁ、楽しんでいきましょうか」





●『Retake clock tower』第一幕
 イルミネーションで華やかに彩られた年末の倫敦。
 ビッグ・ベンの上空ではゆっくりと闇が広がりつつあった。
 倫敦を飲み込もうとするその闇の正体、それは愚神ファニーガイとその仲間たち──。

「全く、厄介な者達に嗅ぎつけられてしまいましたね。ええ、ええ、しかし邪魔はさせませんとも。今夜こそ、我ら愚神の全てをかけ、ロンドンを我らに相応しい世界に変えてみせましょう……!」
 文字盤の前で独白するファニーガイ。広がっていくドロップゾーンのあちこちで彼の眷属たちが跪く。
「そこまでよ! ファニーガイ!」
 凛とした女性の声が響く。
 夜空を仰ぐ異形たちの目に小さな星の輝きが映る。
 ──否。
 ライヴスの燐光がジェットパックを背負った人影へと変わる。
 H.O.P.E.ロンドン支部のワープゲートから転送されたエージェントたちだ。
 構築の魔女はウェストミンスター宮殿上空に広がるドロップゾーンの上へ滑り込むと、文字盤の前のファニーガイへと銃口を向けた。
 不安定なワープゲートから吐き出されたせいで、着地地点は目的の愚神から遠く離れていたが──射程内なら問題はない。
「ドロップゾーン構築のためとはいえ高所に登ったのは失策ね、遮るものがないのなら外しないわ!」
 砲台と呼ばれた魔女が奏でる開戦の号砲。
 煌めく糸のように光の射線が構築の魔女と愚神を結ぶ。
 しかし、その射線を遮るように飛び出す人影。
「──ロロ」
 ガイ・フォークスの仮面を被ったファニーの一人がその身を投げ出したのだ。
 ズドン!
 強力な一撃に耐え切ることができなかったファニーは大きく中空を舞い、そのままぼんやりと輝く時計塔に滲むように消えて行った。
「ロンドンの街の灯り達。そのひとつひとつで、皆は今日も生きてるのです。だから……絶対に、阻止しなければ。エージェントの底力、思い知るのです!」
 ジェットパックを切ってふわりと着地した征四郎がスカーレットレインの先端をファニーガイへと向けた。
「バックアップは任せてくれ」
「んじゃま! ロンドン救いますか!」
 隊長のエルナーに続いて、得物の槍をぶん回した千颯がダンッと着地する。
 そんなエージェントたちとファニーガイの間に新たな敵が現れた。
 上空を吹く風に暗夜のドレスとコート、碧の髪を靡かせた女性。愚神ファニーガイに従うヴィランズ『ファニー』、それを束ねるヴィラン、フォークスオルタ。
「暑苦しい」
 放り出されたガイ・フォークスの仮面が床で回転する。現れる深い碧の瞳は意思の力に溢れ、上品な顔立ちは育ちの良さが見て取れた。
「ふっ! 有象無象がのこのこと! だが、今年が終ると共に町も貴様らも終るのよ!」
 高笑いをするフォークスオルタ。
 覚悟を決めて前へ踏み出した蛍丸、頷くリライヴァーの詩乃。
 ライヴスの蝶がぶわりと舞うと、そこには鋭い表情を浮かべた白髪の青年が立っていた。紅い左眼が闇に光る。
「そんなことは絶対にさせない」
 靜かに光るドロップゾーンが戦場を照らし出す。



●舞台裏
「辺是殿!」
「だ、大丈夫ですか!?」
 舞台袖へ撤退して来た落児に白虎丸とミュシャが慌てて駆け寄る。ワイヤーアクションで弾き飛ばされた直後にイメージプロジェクターの映像とすり替わり舞台袖へ引っ込む予定だったのだが、ワイヤーの滑りが良かったのか、彼は多少宙を舞った。
「あっ、由香里さんたちのシーンです!」
「ぼんを回すでござる!」
 裏方役に回った落児もイメージプロジェクターの操作を始める。



●第ニ幕
「何の妨害も無しに先に進めると思って貰っては困るわ。貴方達はここで倫敦が劫火に包まれるのを指を咥えて見ているのよ!」
「皆さん、彼女は僕に任せて先に進んでください!」
 フォークスオルタは眉を顰めたが、即座に繰り出された蛍丸の「鬼哭」の一撃を長剣「セイリオス」で受け止めるので精一杯だった。
「すみません、頼みます!」
 征四郎を始めとしたエージェントたちは二人の横をすり抜ける。
 ドロップゾーンが完成すればロンドン中のライヴスが奪い取られてしまう。時間が無いのだ。
 押し戻された鬼哭を構え直し、蛍丸は叫ぶ。
「フォークスオルタ、こんなことはやめるんです!」
「何を甘い事を!」
 剣戟を交わしながらフォークスオルタは薄く笑った。
「寝言は寝て言いなさい? ああ、もうじき永遠に眠っていられるようになるけどね!」


 走るエルナーが突然腹部を抑えて転がる。
 闇からぬっと現れる白い影、愚神ござるだ。
「お前たちはここで倒されるでござる」
「……た──死ね!」
 襲いかかるポニーテールのファニーの攻撃を蝶のようにふわりと避ける征四郎。食いつくようなファニーの連撃も舞う様に受け流し、それは傍目には美しい剣舞のようだった。
「ほい! 回復は任せてな!」
 エルナーへ手当する千颯に暴風のような長槍の一撃が迫る。咄嗟にくるりと回した千颯のそれとぶつかり火花を散らす槍と槍。
「……おう、槍なら俺ちゃんも負けてないんだぜ!」
 体格の良い二人の戦士が槍を打ち合って大立ち回りを行う。それに入れ替わるように征四郎たちの剣舞。
「駄目だ、時間が無い!」
 征四郎と入れ替わるようにファニーの剣を受けるエルナー。察した征四郎は更に先へと走る。
 同時にござるの槍の柄を跳ね上げ、鋭い一撃を胸倉へ埋め込む千颯。
「や……やられた……でござる……」
 倒れる巨躯を後ろに飛んで避けると、そこにエルナーの剣から逃れたファニーが滑り込んで来た。千颯の顎先を狙って放たれる刃。
「──くっ」
 闇に深紅の衣が広がった。
 二人の間に飛び込んだ構築の魔女の緋色のローブに赤黒い染みが広がる。
 動揺するファニーの顔面に37mmAGC「メルカバ」の銃口がセットされる。
「走るのは柄じゃないの、構わず行きなさい!! あと、早く戻ってこないと置いて帰るわよ」
「すまない」
「っ、任せたぜ!」
 千颯とエルナーは振り返らず敵将目指して走り出す。
 砲弾が破裂し轟音が鳴り響く。



●舞台裏
「お帰りー」
 ジャック・オ・ランタンの火球で演出を担当していたリュカがにこにこと出迎える。
「お、行ってくるんだぜ」
 舞台袖に飛び込んだ千颯が白虎丸と共鳴してまた舞台に駆け出す。
「す、すみません! 噛みました!」
「大丈夫ですよ。それより、ドロップゾーンに見立てた千颯さんの《ライヴスフィールド》が来ますよ!」
 落児の下へ手伝いに行こうとした構築の魔女は足を止めて、不安そうに舞台を眺めるミュシャに声をかける。
「こっちの手伝いもお願いできますか? 体を動かせば意外に思考も動いて、過度の緊張や不安も薄れるものですよ」
 はっと顔を上げるミュシャに微笑みを向ける。
「ほら、客席も盛り上がってますし、頑張りましょう」
「……そう、ですね!」
 暗い顔で舞台上の相棒を見ていたミュシャはくしゃっと笑って構築の魔女の後を追いかけた。



●終幕
 振り下ろされた鬼哭が止まった。
「……敵であっても分かり合えないでしょうか」
「くどい! 我らが憎悪の前に友誼などと……!」
 剣を失って膝を突いたフォークスオルタがその迷いを嘲笑う。
 けれども、乱れた髪の下から蛍丸を見上げる顔はまっすぐで美しく、邪心のものには見えなかった。
 蛍丸は槍を引いた。
「街の人は僕が命を賭けて守ります」
「こんな屈辱……私を見逃したら後悔するわよ? 覚えておく事ね!」
「ええ、忘れません。あなたがまた同じことを繰り返すのなら、何度でも何時だって相手になります」
 フォークスオルタは傷口を抑え仮面を踏みつぶし闇に消えた。


 ビッグ・ベンの文字盤を背にファニーガイは高笑いを上げた。
「わからない。どうしてあなたのような人が、こんな!」
 征四郎の叫び。
 けれども──愚神には届かない、それには彼女の言葉を受け入れる心が無い。
 すっとエージェントを指すファニーガイ。脚と尾に炎を灯した黒猫が襲い掛かる。
「くっ!」
 黒猫を避けると火球が、そしてあちこちから火柱が上がる。
「残念ながら時間です──今、倫敦は我らの手に」
 同時に、”その場”すべての人間が気だるさを覚えた。力を奪われたエージェントたちがその場に崩れ落ちる。
 膝を突き、拳を叩き付けるエルナーの前に千颯が槍で身体を支えながら前へ進み出る。
「舐めんなよ! 俺たちはお前になんか絶対に負けない!」
 そして、あろうことか、彼は”客席”へ呼びかけた。
「みんなの力を貸してくれ! みんなの願いが……応援が……俺たちの力になるんだ!」
 この瞬間、第四の壁は崩れた。
 固唾を飲んで見守っていた観客達は劇中へと引きずり込まれた。
「が、がんばれー」
 必死に上げた少年の声を皮切りに、客席のあちこちからエージェントたちを応援する声が上がる。
 客席へと腕を伸ばした千颯を中心に《クリーンエリア》の清らかなライヴスが先程の倦怠感を吹き飛ばす。
 立ち上がった征四郎がファニーガイの胸元へ飛び込み、零距離で彼を見上げた。
「──いずれ、また」
 ──ダン!
 仕込み銃が吐き出した弾丸が愚神の身体を貫く音。
 ──リュカは仮面の下で、”ファニーガイ”の表情を真似て口の端を吊り上げた。
「ああ、何という、何という、後少しだったのに……いえ、楽しい祭りでしたとも。
 けれども、亡霊は光ある場所にいられない。
 それでは皆さん、”さようなら”。
 もう、お会いすることは、無いのでしょうが──……」
 新年を告げる『ウェストミンスターの鐘』と共に劇場の上空で《フラッシュバン》の眩い光が輝いた。
 舞台上では炎の柱が上がり、それに紛れてリュカは舞台袖に下がり《ウェポンズデコイ》で呼び出した彼の傀儡が代わりに消滅を演じる。
「次に会うときは、もっと別の形で、きっと!」
 征四郎の叫びで幕が下り、イメージプロジェクターがビッグ・ベンと今年のLondon New Year's Eve fireworksの映像をステージ一杯に映し出す。
 舞台袖で花火を眺めるリュカへ、共鳴世界から凛道が尋ねた。
『マスター、声でも聞こえますか』
「いいや、残念ながら聞こえないよ。花火の音が大きくてね」
『それは何より。行きましょう、せっかくですし、お祭りにも参加したいです』
「せーちゃんの出番とカーテンコールがあるから、それからね」


 花火が終わった会場に共鳴を解いた征四郎の声が響く。
『──再び平和は訪れて、ファニーガイは悪さを働かなくなりました。ビックベンで大事な人と花火を見ると、物語を描き足りないハロウィンのゴーストがあなたのお願い事をひとつ、叶えてくれるかもしれません』
 幕の内側で台本を読み終えた征四郎。そのマイクを横からひょいとユエリャンが取り上げた。
『……あったものを無かった事にはできぬであろう。蓋をするより、ロマンチックな噂へ変えてやる方が建設的だと思うのだ』
 ──ロンドンとは、元よりそういった土壌では無かったか。
 幕の向こうでは大きな拍手喝采、歓呼の声が聞こえて来た。
 カーテンコールの幕が上がると再び共鳴した征四郎が《鷹の目》で呼び出した鷹に小さなくす玉を放らせる。
 スカーレットレインを構えると放り出されたくす玉を次々に狙い撃ち、会場に小さな花火を散らす。
 あの日の花火を、ロンドンを取り戻したことを表現した演出である。
『あの日見た花火は、綺麗だったであるからな』
「また見られると良いですね」
 役を脱いだ出演者たちが次々と現われ、全員がステージを下りて客席のシートの前へと並んだ。
 そして、手を結び一斉に礼をすると再び拍手と歓声に応えるのであった。



●High five!
 最後の観客が去った後、スタッフ全員が揃って手を打ち合わせた。
「みんなのお陰なんだぜ! ありがとう!」
 千颯の言葉に全員が頷き、エルナーもにこやかに労う。
「任務完了、あとは皆も楽しまないとね」
 共鳴を解いた飯綱が自分の相棒とその恋人に零す。
「由香里がはっちゃけてるとぎゃぐ担当のわらわの立場がないのじゃが?」
「……? あれ……由香里様、もしかして少し酔ってますか?」
 詩乃の指摘に由香里は初めて身体が少し熱いことに気付いた。
「うむ、休憩時間に寄ったきぼうさ茶屋の抹茶おれ、あれはやはり酒じゃったか。まあ、あれくらいなら気にすることもあるまい」
「ちょっと……あ、急に」
「大丈夫ですか?」
 支えてくれる蛍丸の腕にしがみ付き、すぐに由香里は顔を上げた。
「大丈夫よ。それより、お祭りに行きましょう」
 ──楽しみにしていたんだから。
 劇場を出ようとした時、由香里は遠巻きにミュシャを見ているエルナーの姿に気付いた。由香里は彼らとはH.O.P.E.のイベントで顔見知りだったが。
「ギクシャクしてないで折角のお祭りなんだから一緒に楽しめば?」
「えっ?」
 振り返ったエルナーに答えず、そのままその場を後にする由香里。だが、隣の蛍丸が優しい瞳で自分を見ていることに気付いた……そこで、彼女は彼を引っ張るようにグイグイと歩いた。
「さっきはお疲れ様です。お二人ともよければご一緒にどうですか?」
 構築の魔女に声に声をかけられて、無言で並んでいたミュシャとエルナーが顔を上げた。
「辺りを軽く見てから劇の打ち上げでも」
「ええ、エルナーも!」
 思わず相棒の手を引いてしまい、固まったミュシャだったがその手をエルナーが軽く握ったのに安堵の息を漏らす。
「千颯さんたちもどうですか? 喫茶店 ヒーローだとケーキの持ち帰りもあるそうですよ」
「そうだね、由香里さんたちもデートの邪魔にならないようだったら誘ってみようか」
 エルナーの言葉に皆内心「お邪魔になるだろうなあ」とは思った。
 少し汚れた仮面を頭に着けてリュカは買い出しを兼ねて外に出る。
「おっと、すみません」
 ぶつかったスーツ姿の男の声にリュカは言葉を失う。
「失礼しました──マスター?」
 リュカの視力では男の顔ははっきりとわからなかったが、代わりに謝った凛道の反応からして”違う”のだろう。
「すみません、急いでいたもので」
 男はリュカの仮面で劇の役者だと気付いたのだろう。
「ああ、あなたは……劇、とても素晴らしかったですよ──いずれ、また」
「……ええ。さようなら」
 ぎゅっとリュカの手が握られた。征四郎がはしゃいだ声で語り掛ける。
「あちらに占い屋もあるんですよ」
「──へえ、お兄さん、何を占ってもらおうかな?」



 打ち上げに顔を出した後、デートを再開した由香里と蛍丸。
 詩乃と飯綱は演劇の感想やフェスティバルの出し物についての話に花を咲かせていたので置いて、ふたりで仮装ライブへ訪れていた。
 この歌が終わったらフェスティバルもそろそろ終わり。全員で歌うラストソング中で蛍丸の肩に由香里から遠慮がちに頭が寄せられた。
 慌てる蛍丸だったが、見れば当の由香里はぐっすりと寝入っていた。
「一生懸命に演じてましたから……」
 由香里の顔にかかった髪を優しく払う蛍丸。すると靜かに寝息を立てる無防備な唇が露になって鼓動が早まる。
「あ、あの……!」
 感動した隣の観客たちがわっとステージへ駆ける。由香里を護ろうと抱きしめた蛍丸だったが、そのまま密着した状態で芝生に転がってしまう。
「ちょ……」
 しかし、腕の中で安心したように眠る由香里を見て蛍丸は少し笑って小さく息を吐くと、こつんと由香里の額に自分のそれを当てた。
「──由香里さん、お疲れ様、です」
「……ん、蛍……丸……」
「は、はい! ちゃんとお家に送ります!」
 しかし、恋人の返答はすぐに安らかな寝息へと戻った。


結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 断罪者
    凛道aa0068hero002
    英雄|23才|男性|カオ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 全てを最期まで見つめる銀
    ユエリャン・李aa0076hero002
    英雄|28才|?|シャド
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 終極に挑む
    橘 由香里aa1855
    人間|18才|女性|攻撃
  • 狐は見守る、その行く先を
    飯綱比売命aa1855hero001
    英雄|27才|女性|バト
  • 愛しながら
    宮ヶ匁 蛍丸aa2951
    人間|17才|男性|命中
  • 愛されながら
    詩乃aa2951hero001
    英雄|13才|女性|バト
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