本部

墓荒らしダメ、絶対

昇竜

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
5人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/10/23 11:41

掲示板

オープニング

ミイラ取りがミイラになるという諺の語源は有名である。しかし、よもや自分たちが身をもってその教訓を世に示すことになろうとは、彼らは考えもしなかっただろう。
アジア某国で冒険家と称し、遺跡発掘を生業としている二人組の男がいた。
彼らは賢明な調査の末、ついに新たな遺跡を発見するに至った。そこでその状況をインターネットの動画投稿サイトに生放送しながら、長い眠りから目覚めた遺跡を探検することにしたのである。

「これは13世紀頃の遺跡に違いない……!」
「ついに見つけましたね隊長!」
「やったな隊員! 画面の前の諸君、我々はこれから内部を調査する! 二人では心細いので、コメントを絶やさないように視聴を続けてくれたまえ!」

隊長は手にした携帯電話に向かってそう言うと、早速地中に埋もれていた遺跡の中へ入って行った。遺跡内は暗く、歩いた通路に松明を灯して探索を進めていく。蛇と格闘したり大量の壺を見つけたりなんだかんだあって、二人は遺跡の最深部にある大部屋へやってきた。

「これはすごい宝箱ですね!」

部屋に松明を灯すと、部屋の中央にミニチュア土蔵のような立派な箱が鎮座しているのを見つけた。
隊員は宝箱に目を輝かせたが、隊長の判断で環境保持の観点から探索を切り上げることとした。宝箱の回収は後日ということになる。
隊長は遺跡を後にするべく、部屋の隅に置いていたリュックサックを背負った。

「しかし素晴らしい発見だ、宝箱にはクメール王朝の財宝が入っているだろう! 楽しみだな隊員! ……隊員?」

自分のすぐ背後を歩いていたはずの隊員から返答がなくなったので、隊長はくるりと背後を振り返った。

「ひっ……ひいいいい!」

そこにはなんと、動くガイコツが棍棒を振り上げる姿があった!
隊長の持っていた携帯電話は地面に落ちたが、幸いにもカメラは殴られて気絶した隊長をガイコツが持ち上げ、隊員を抱えた別なガイコツと共に運び去る様子を捉えていた。
この生放送を見ていた一般人からの通報で、H.O.P.Eは事件の発生を知ることになったのである。

「えーおそらく、この遺跡は約50年前に水害で埋没した集団墓地ですね。動画を確認したところ被害者の男性2名の怪我は軽く、最深部の大部屋に閉じ込められており、上位従魔に献上するつもりと思われます」

エージェントたちは、そんな彼らの救出を依頼される。
地下墓地でガイコツを倒し、うっかり墓を荒らしてしまった冒険家を助けてほしい。

解説

達成条件
デクリオ級従魔を倒して冒険家を救出してください。

敵概要
・ミーレス級従魔『スケルトン』
4体出現する動くガイコツです。痛覚がなく怯み・回避しません。生命力の最も低いPCを狙います。
1体が交代で墓地内を巡回しており、他の3体は『大部屋』でくつろいでいます。巡回係が戻ってこない場合、3体とも巡回をはじめます。
近接武器(棍棒や剣)です。
・デクリオ級従魔『スケルトンジェネラル』
1体出現するスケルトンの親玉です。痛覚がなく怯み・回避しません。生命力の最も低いPCを狙います。
PCが『大部屋』に入室してから一定時間後に出現し、奇襲攻撃を試みます。
弓を使います。

状況
・時間は事件発覚から数十分後(昼間)です。
・墓地内は松明があり戦闘に支障はありません。通路は大人2人が余裕を持ってすれ違える程度の広さで、さほど入り組んでおらず最深部『大部屋』には比較的簡単に到達できます。
・『大部屋』は墓石が並ぶ広い空間で、冒険家2人は中央付近に倒れていますが拘束はされておらず、揺り起こせばすぐ動けるようになります。

リプレイ

●ユーチ○ーブへの期待

 動画投稿サイトというのは見る者を選ばない。骸 麟(aa1166)と宍影(aa1166hero001)は突然再生数の跳ね上がった話題の生放送を目ざとくチェックしていた。

「ほおお、カウンターが10万超えたぞ……ネット配信って凄いね」
「こう云うサイトですと月に十万以上稼ぐ事が有るでござる」
「ええええ? 本当に? ……このサイトみたいに活動をネットに配信したら?」
「うーん、それで人気が出れば良いでござるが、そう言ったサイトは極一部でござる。HOPEの目を盗んでするにはリスクが高いでござるよ」
「そこを何とか! 宍影守護先達様! 今月障子替えて出費が……」
「いや、頼まれてどうこう」
『…ひいいい!』
「ん?」
「お?」

 動画の中で冒険家二人はどう見ても従魔な骸骨たちに襲われ、拉致されていった。いかにも再生数の稼げそうなネタを思いつき、骸と宍影は顔を見合わせた。早速準備に取り掛からねば……

●地下墓地の謎

「遺跡だの動く骸骨だの……映画かこれは。」
「これって、てれびに居たジョーンズさんが見つけた所みたいな物なんだよね」

 依頼を受けて動画を確認したツラナミ(aa1426)と伊邪那美(aa0127hero001)は、活動的な考古学者が活躍するアドベンチャー映画を彷彿とさせた。一方、御神 恭也(aa0127)とその友人虎噛 千颯(aa0123)は宝箱の存在に興味を禁じ得ないようだ。

「此処が埋没した集団墓地なら画面に現れた宝箱はなんだったんだ?」
「恭也ちゃんも気になる? 王家の財宝って響きいいよね~」
「千颯……馬鹿な事考えてないよな?」
「……え? まっさかー」

 白虎丸(aa0123hero001)にジト目で見られ、虎噛は軽い口調で言って目を逸らした。その視線の先では、彼の友人木霊・C・リュカ(aa0068)が戦地へ赴くにしては明るい笑顔でオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)に語りかけていた。

「あはは、不謹慎だけど何だか少しわくわくするねっ」
「……そうか?」
「リュカちゃん、今日はよろよろー♪ 頑張って助けようね~! 俺ちゃんパワーないから守ってね~?」
「いえーいちーちゃんよろしくー! こちらこそ耐久ないし回復お願いねっ」

 オリヴィエは木霊と話す虎噛の英雄・白虎丸の逞しい姿をしみじみ見て本当にパワー無いのか……? と訝しげな表情をしつつも、依頼の発端となった動画から地理を読み取って木霊に詳細に伝えた。もう間もなく現場に到着するが、スマートフォンの読み込みはサクサクだ。動画配信もできたようだし、このぶんなら事前に交換した連絡先も用途が見込めるだろう。
 後ろの方を歩く赤城 龍哉(aa0090)はそれらを眺めつつ、冒険家二人が襲われた経緯を考察してヴァルトラウテ(aa0090hero001)に意見した。

「まぁ遺跡発掘と言えばちょっと頭良さそうな雰囲気あるが、入られる側からすれば墓場泥棒と変わらんってとこか」
「それを言うなら死者の躯を弄ぶ従魔の罪も相当に重いですわ」
「……そりゃまぁ、そうか」

 こと救命に関して情熱的な自身の英雄の言葉に、赤城は敬服と少々の呆然を感じて苦笑を漏らす。
 彼らより少し離れて歩くのは骸と宍影であるが、ヒソヒソ話で忙しく仲間の話をちゃんと聞いていないようだ。骸は怪しい細工が施された工事用ヘルメットをかぶっており、宍影と二人で携帯を覗き込んでいる。

「リュカ」
「うん」

 現場に到着すると、オリヴィエは木霊から白杖を預かった。彼はアルビノに伴う視覚障害があり、ここまでは自分が手を引いたが、戦場では新たな目が必要だ。二人が意識を重ね、ライヴスが二人を包む。光の風が吹き過ぎると、木霊はオリヴィエと同じ髪色、肌の色を得た姿で現れ出る。金木犀を思わせる金眼が、遺跡の入り口をしっかりと見据えた。
 突入の準備は整った。一行は足早に内部へ進んでいく。骸は最後の仕上げにコソコソSNSへ『告知』を書き込み、投稿中の生放送を『公開』に設定した。
 内部では、侵入者を警戒しているであろう従魔に注意し誰もが足音を殺す。ライフルを携えた木霊が先頭を歩き、曲がり角ではミラーを利用して行く先を確認しながら慎重に進んだ。ツラナミは後方を歩きつつ、分かれ道の壁に白いチョークで目印を付けていく。動画検証によればさほど入り組んだ遺跡ではないが、念のためだ。

「トレジャーハンティングと言うよりもスニーキングミッションだな」
「泥棒さんって事?」
「何方も似た様な物だ」

 特に注意深く歩いていた御神は、カタカナに弱い英雄に適当な返事をしてから呆れたように振り返った。骸が壺のようなものを蹴り壊し、カシャンと大きな音が出たのだ。落ち着きなくキョロキョロして注意散漫だったのだろう。他の面子が隠密に徹しているというのになんとも呑気なものである。

「うわ! なに? ……骨壷??」
「麟殿、なんてことを! 不味いでござるよ……骸除霊術エンガチョ!」
「え?! そ、そうだ! エンガチョ!」
「静かに!」

 その時、御神がぴたりと歩みを止めた。注意され骸と宍影も呪文を唱えるのをやめる。御神は背後から近づく気配に気が付いたのだ。耳をすませば、確かに木管を打ち鳴らすようなカラコロとした音が聞こえた。動画を繰り返し確認していた木霊は、それが従魔の人骨のような身体が擦れあう際の音だと気付く。そこで御神が奇襲を提案したので、一行は一本先の曲がり角に隠れて一斉に襲い掛かることにした。しばし待ち伏せていると、動画に登場した従魔が姿を現す。肉がこそげ落ち、骨だけの身体に簡素な武装、しゃれこうべにぽっかり空洞の眼窩しか備えていないがその足取りはしっかりしている。赤城はヴァルトラウテに素朴な疑問を訴えた。伊邪那美は伊邪那美で不死の怪物に見覚えがあるようだ。

「筋肉ないのにちゃんと関節動かせるってのは、良く見ると奇妙なもんだな」
「ファンタジーというのは得てしてそういうものですわ」
「またざっくり大雑把に括ったな、おい」
「恭也、あれって黄泉醜女の親戚か何かなのかな?」
「……」

 齢10にも満たない少女が、一体どこで神産みの知識を身に付けてくるのだろう。御神はこういう時、伊邪那美は本当に神様なのかもしれないと思うのだ。しかし、今は任務に集中せねばならない。彼が両手にライヴスを込めると、剣身の広い巨大な剣が姿を現した。伊邪那美と精神を同調すると、伊邪那美はライヴスとなって御神を取り巻く。何も知らない従魔が角を曲がった瞬間、御神の一撃が無防備な従魔を反対の壁まで吹き飛ばした。
 普通の生き物なら気絶必至のところを、痛覚も死への恐怖もない彼らはすぐに起き上がってくる。だがそこへ大鎌を手にした虎噛が斬りかかった。同時に白虎丸と共鳴し、光の中から駆け出してきた虎噛は武芸者風の衣装を纏い虎のような耳と尻尾が生え、白銀の瞳はタイガー・アイを思わせる金色に変化している。

「せっかちだなーもうちょっと寝ていなよ! カルシウム足りてないんじゃないの?」

 虎噛が鎌を振り下ろすとバキィ! と塗り壁を砕くような音がした。従魔は虎噛の攻撃に対応するので精いっぱいで、体勢を立て直すことができない。勝機と見たツラナミは幻想蝶より魔法の本を呼び出した。重厚な書物は術者の呼びかけに応えて一人でにページを開き、ライヴスから光の札を作り出す。それはツラナミが攻撃の意思を持つ対象へ凄まじい速さで飛び去り、従魔の左腕を破壊した。

「……こんだけ殴るのが得意な奴がいるなら、後ろにいても問題無いだろ。しかし本を開けばこの通りか。便利な道具もあったもんだ」

 従魔は叫びのつもりか奥歯を咬み合わせてガチガチと鳴らしたが、片腕を失ったことを意にも介さず残った腕で投擲攻撃を試みた。古めかしい短剣の切っ先を向けられたのは骸であった。麟殿! 叫んだ宍影が骸に乗り移り、紙一重でそれを回避する。しかし従魔は目前の虎噛には興味も無さそうに骸ばかりを目の仇にしてガチガチと喚いた。

「何でオレばっかり狙われるんだ?!」
『……まさか、ファラオの呪いでは?』
「え? 何それ?」
『王家の墓を暴いた探検家が次々謎の死を遂げる怪事件が昔あり申してな……いや、まさか?』

 脳内会話を繰り広げる骸と宍影をよそに、木霊は虎噛が押さえ付けている従魔に狙いを定め、グローブをした手指が引き金を引く。放たれた弾丸が従魔の頭蓋骨を粉砕すると、統率を失った肉体はガラガラと崩れ落ちた。離れた位置から状況を観察していたツラナミは、従魔がやたら一人を集中的に狙うことに気付き、それを赤城に忠告した。

「奴さんはどうも女子供に興味があるようだな。俺たちには目もくれず、骸やあんたの英雄に興味津々だったぜ」
「ほんとか? そういや、動画でもへなちょこ隊員の方が先に襲われてたな。なるほどそういう奴から先に狙ってくるのか。だとしたら骸嬢、俺と囮役を……って聞いてねぇな」

 今回はある程度敵の情報があるおかげで動向が読めるのは有り難い。赤城は骸と分担して囮役を担当することを思いついたが、骸の方は相も変わらず話を聞いていないようだ……。

「いや、待て! 狙われるのオレだけ? ……やっぱりファラオの呪い?!」
『シャレにならんでござるよ……!』
「に……逃げよう!!」
「あっ骸ちゃん! そっちは……」

 木霊が声をあげたがパニック状態の骸には聞き入れられず、彼女はそのまま最終目的地である大部屋に突入してしまう。急いで後を追うエージェントたち。最良の条件で突入するため位置関係確認用の手鏡を持ち込んでいた御神は『どうしてこうなった……』と人知れず頭を抱え、最後に駆け出したのだった。

●大部屋

 突然絶叫するジャージ女性が走り込んで来て、一番驚いたのは骸骨たちの方であった。寛ぎきっていた従魔は慌てて手に手に武器を取って骸を迎え討つ! ……つもりが、骸は叫びながら従魔の横を通り抜けて部屋中を逃げ回り始めた。彼女は完全にパニクっている。3体の骸骨は呆然とそれを眺めていたが、次の瞬間1体が背後からものすごい衝撃を食らって床を吹き飛んだ。鬨の声をあげて大部屋に吶喊してきた虎噛の一撃である。

「わー骸骨だー! 今更だけど!」
『千颯、今はそれどころでは無く救助を……』
「はいな。俺ちゃん守るよ~」

 虎噛は部屋の中央で倒れている二人の冒険家と、それに駆け寄るツラナミを確認してから吹き飛ばした従魔を追って地を蹴った。
 ようやく平静を取り戻した従魔たちは骸を追って走り出したのだが、彼らは木霊からの援護射撃を受けることになった。放たれた2発の弾丸がそれぞれの従魔を貫く。木霊は素早くボルトを引き、次弾を装填……空薬莢が床にカランと音をさせるより早く、木霊はスコープで目標を追っていた。

「本当は静かに入りたかったけど……」

 しかし、思いがけず奇襲は成功した。墓標を盾に姿勢を低く保つ木霊を発見できなかったのか、従魔たちは再び骸を追い始めた。骸の逃げ足は速く、しばらく放っておいても大丈夫だろう。木霊は虎噛が狙う従魔を片付けるべく、そちらに標準を定めた。虎噛が大鎌を振りかざすタイミングに合わせ、従魔の脚部を狙い撃つ。ライヴスの弾丸は見事脛骨を撃ち抜き、バランスを崩した従魔は虎噛の鎌を頭部にめり込ませる! 操り糸が切れたように骸骨はカラカラと崩れ落ち、第二の生命に幕を下ろした。

「骨さんこちら、だ。おらぁっ!」

 骸を追う従魔の1体に襲い掛かったのは、共鳴状態の赤城であった。横から強烈なパンチを叩き込まれ、骸骨は床を吹き飛んだ! 赤城は身を翻し、従魔が引き付けられるのを待つ。痛みを知らない従魔はすぐさま体勢を整え、棍棒を手に奥歯を鳴らして襲い掛かってきた。赤城はこれを見きってかわし、右肋骨に強烈なボディブローをお見舞いする! インパクトで拳を返し衝撃を捻じ込むとゴキャと骨が砕けたが、従魔は怯まずそのまま踏み込み、棍棒を左へ振り切った! 赤城は上体を逸らして回避を試みたが間に合わず、脳味噌を揺さぶる衝撃に襲われる。彼は一旦従魔から距離を置き、裂けた口内から流れた血を床へ吐き出した。黒髪に浮かび上がるひと房の銀髪を赤色が濡らし、赤城は額を伝う血液が目に入らぬよう碧眼を伏せる。

「骨相手だと人体急所の類は全く意味ねぇなぁ」
『シンプルに砕けば良いのですわ』
「……最後はやっぱ頭蓋骨砕きか?」

 赤城は己の心中から聞こえるヴァルトラウテの情け容赦ない囁きに再度拳を固めた。あとでボーンキラーとか呼ばれそうだな……などと思案しつつ、再び襲い来る従魔の攻撃を軽くいなすと、今度は側頭部を狙って右ストレートをぶっ放す! ドゴォと鈍重な衝撃と共に従魔の頭骨は粉砕し、その手足は音をあげて崩れ落ちた。
 一方、突入と同時に要救助者の元へ走ったツラナミはその場に陣取って魔法書による遠隔攻撃で味方を援護していたが、冒険家たちを起こすことはなかった。目を覚ましても面倒が増えるだけだと思ったのだ。だが周囲への警戒は怠っていなかった。依頼説明によれば従魔たちを支配する上位の存在がどこかに潜んでいるはずなのだ。しかし、ボスより先に現れたのは従魔に追い立てられた骸であった。

「どいてくれええ! 呪いがうつるぞおお!」
「麟殿ーッそれでは地面しか映せて無いでござる!」
「逆逆逆…そんな事してられるか!」

 しかしそれでも骸は自身の配信を続けるためヘルメットを後ろ向きにかぶり直す。そう、彼女はこれにカメラを取り付けて密かに動画を撮影していたのだ。なんという根性……なんという執念! ついに追い付かれそうになった骸は従魔を振り返り、ライヴスの針で従魔を床に縫い留めてまた走り出した。この機を逃さなかったのが御神である。

「人骨を模している以上は、何処が要になる骨は見当が付く」

 御神は骸の技で中足骨を固定された従魔の腰椎めがけて大剣を薙ぎ払った。人体で最も比重の大きな部位を賄う腰椎は、上半身と下半身を繋ぐ重要な骨である。これを砕かれた従魔はものの見事に上下に分断した。それでも痛覚を忘れた従魔の半身はそれぞれに動き、上半身だけの骸骨が無様にも地を這うように動き出す。御神は大剣を振りかざし、力いっぱい振り下ろした。派手な音をさせて頭蓋骨は粉微塵に粉砕する。同時に、御神は自身の背後で呪縛から逃れようとしていた下半身がカラカラと崩れ落ちる音を聞いた。
 これとほぼ同時に、ツラナミは視界の端に奇妙な光の反射を捉えた。常に部屋の全景を見る位置に付けていた木霊も、これを察知する。

「出たぞ! 親玉のお出ましだ!」

 ツラナミが叫ぶと同時に、新たな従魔が引き絞った矢を手放した。空気を切り裂き、矢の切っ先が赤城を襲う!

「多少の無茶はご愛嬌ってな!」

 そこへ木霊から増援を聞いた虎噛が飛び出して来て、赤城の盾となった。矢は肩に突き刺さり、虎噛の表情が僅かに苦痛に歪んだ。しかしすぐにいつも通りの明るい笑顔を取り戻し、彼は冒険家らの前に立ちはだかって得意げに言い放つ。

「悪いけど……こっから先は」
『通行止めだ!』
「白虎ちゃん……それ俺ちゃんのセリフ……」

 脳内で英雄に台詞を先取りされ、決め台詞はイマイチ決まらなかった。が、骸骨の親玉の奇襲攻撃も失敗に終わった。姿を現したのは下位従魔より一回り大きく、豪奢な装備に身を包んだ『スケルトンジェネラル』である。ジェネラルは悔しそうに奥歯を打ち鳴らし、再び矢摺藤に矢を当て擦った。放たれた矢が負傷した赤城を狙う。

「はいはい、華麗に俺ちゃん庇っちゃうよー」
『もう少し落ち着けないのか……』
「さっすがちーちゃん、頼りになるー!」

 赤城に治療を施しながらジェネラルの矢を小手で弾き返す虎噛に、木霊はVサインを送る。この間は彼にジェネラルを狙い撃つ十分な時間を与えた。木霊が人格をオリヴィエに引き渡すと途端に表情は冷静となり、手際よくライフルの銃口がジェネラルに向けられる。

「……後少し耐えて。すぐ終わらせる」

 装填された弾丸にライヴスを集積すると、銃身が鈍く輝く。引き金を引いた瞬間、飛び出した銃弾はジェネラルの左上腕骨を貫き裂き、その腕と共に弓矢を取り落としてガシャ! と床に散らばった。
 この隙を突いて、御神が従魔の前へ躍り出る。ライヴスを込めた大剣を振りかざすと、御神の黒髪がぶわ……と浮き上がった。武器を失った従魔は残された拳を握りしめたが、それが胴に入るよりも早く御神の薙ぎ払いが腰椎に炸裂する! ジェネラルの上半身はガシャアア! と勢いづいて散乱したが、まだ生きている。しかし首から下を粉々にされ、ガチガチと顎を打ち鳴らすばかりだ。

「判ってて撃たせるほどのんびりしてないぜ」

 ジェネラルの目前に立ったのは回復した赤城であった。彼は両の拳を握り、凄まじい力でその頭骨を打ち砕いた。

●撃破後

「ううー気になるよねあの宝箱……いやでもな、流石に罰当たりかな……んー」
「……」

 戦闘後、共鳴を解除したエージェントたち。何人かは動画にも登場した宝箱に興味を持っているようだ。木霊もその一人である。オリヴィエは盲目の相棒をしばし置いて、宝箱の方へ向かった。優しく触れて脆いものでないことを確認してから、静かに祈りを捧げ、そっとその箱を開けた。

「すまん。……何も持ち出さない、少しだけ見せてもらう」

 見えない木霊に代わり、オリヴィエはそれを一目見ておこうと思ったのだ。今度は、暴かれない様土に直接埋めてもらうと良い。そんな願いを胸に、オリヴィエは箱の蓋を再び閉じた。

「軽い脳震盪ですわね」

 一方、ヴァルトラウテは探検家たちの怪我の様子を確認していた。一見すると軽度だが、頭の怪我は怖い。安静を保つため、特にふらついている隊員の方は御神に背負ってもらうことになった。赤城は宝箱の方を見て、多少興味が有りそうに呟く。ヴァルトラウテはその様子に訝しげだ。

「遺跡の宝物ねぇ」
「ダメですわよ」
「何も言ってねぇだろ!」

 御神が隊員を背負って立ち上がり姿の見えない英雄を探すと、伊邪那美は宝箱の傍にいた。御神が近付くと、彼女は目をきらきらさせて振り返った。

「きっとこの中にはジョーンズさんが探してたせーはいか、しヴぁ・りんがむが入っているに違いないよ」
「それらが何か知っているのか?」
「知らないよ? でも、きっと凄い物だと思うんだ」

 ……やはり、伊邪那美はただの小さな女の子だ。神様であるはずがない。御神が踵を返し出口へ歩き始めると、後ろから英雄が追いかけてくる気配を感じた。そして幼い少女の声でこう言ったのだ。

「ここから外に出るまで、ボクを見ちゃ駄目だよ。もし振り返ったら一日に千人の命を奪わないといけなくなっちゃうからね」

 御神は思わず振り返りそうになったが、背中の重量に押し留められた。……今振り返っていたら、どうなっていたのだろうか? 歩みを止めた御神を追い越し、伊邪那美は少し彼の表情を見やって『冗談だよ』といたずらっぽく言うのだった。
 帰路に着く一行だったが、白虎丸は虎噛の挙動が不審であることに気付いていた。虎噛のズボンや羽織のポケットが異様に膨らんでいるし、いやに上機嫌だ。白虎丸がカマをかけると、虎噛は呆気なくボロを出した。

「千颯……何を隠している?」
「……え? いや……これは後世に残す為の歴史的……」
「ほぅ? お前がそんな大層な思想の持ち主だとは知らなかったぞ?」
「……白虎ちゃん怖いです……」
「この愚か者! 今すぐ元に戻して来い!」
「……はい……」

 スゴスゴと来た道を戻る虎噛とすれ違いながら、宍影は誰へともなく呟いた。

「いや~、結局あれは何だったのでござるかなあ?」
「……」

 骸はそれすらも聞こえていない様子で、携帯に釘付けになっている。彼女の投稿した生放送は、一体どれだけの反響を得たのだろうか……。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
  • 太公望
    御神 恭也aa0127

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 捕獲せし者
    骸 麟aa1166
    人間|19才|女性|回避
  • 迷名マスター
    宍影aa1166hero001
    英雄|40才|男性|シャド
  • エージェント
    ツラナミaa1426
    機械|47才|男性|攻撃



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