本部

マンションの百物語

落花生

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
4人 / 4~10人
英雄
4人 / 0~10人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2017/07/18 14:10

掲示板

オープニング

『マンションの調査?』
 H.O.P.Eの職員から聞いた話に、アルメイヤは首をかしげる。
「そうです。調査です」
 地方への任務にリンカーを送り込むとき、ホテルが借りられない場合がある。そんなときのためにH.O.P.Eが借り上げているマンションの部屋に――出るのだという。
「幽霊がですか?」
 エステルは戸惑うように、アルメイヤを伺い見る。
『信じられないな。そんな非科学的なことの調査を依頼するのか?』
「たんに一晩泊まって、なんにもないですよと証明するだけでいいんですよ。この部屋、泊まる人全員が幽霊が出って騒ぎ立てるもんだから、誰も泊まりたがらなくなっちゃんたんですよね。……まぁ、お泊り会だと思ってください」

●夏の風物詩
 とある地方都市の古びたマンション。
 バブル期に建てられたそれは巨大な佇まいではあるが――住民はほとんどいなかった。
『バブルが崩れたら人口も都市に流出して、こういうところに住む人もいなくなったらしいな』 
 アルメイヤが電気をつけると大人数で使うことが想定されたせいか、思ったより広い部屋を現れた。布団もあるし、ガスも通っている。一晩泊まるぐらいならば、不便はないであろう。
「幽霊……いるんでしょうか?」
『いるわけがないそんなもの』
 アルメイヤは、窓の外を覗き込む。
 外では大雨が降っており、雷が落ちそうな気配がしていた。
『この部屋に泊まると必ず雨が降る……――雨が降れば、子どもの幽霊がでるか。ばかばかしいな』
「なら、試してみますか? 日本には古来から、魔を呼び出す儀式があるそうです。百物語という……」
 やってみますか、とエステルは尋ねた。

●百物語
 電気を消したマンションの部屋で、蝋燭が炊かれる。
「これは、昔――祖父が深夜に帰ってこられた時の話です。私が寝ているような時間に祖父が帰ってくることは、よくあったことでした。でも……その日は目がさえてしまって、普段はしないのですが深夜に帰ってきた祖父を出迎えようとしました。でも、祖父はご友人らしき方を連れていました。大人の話の邪魔になるだろうと思って…部屋に戻りました。でも……あとで使用人に聞いたら、祖父は一人で帰ってこられていたそうです。あれは……私の見間違いだったのでしょうか?」
 ふぅ、とアルメイヤは蝋燭に息を吹きかける。
 蝋燭が一本消えて、部屋はより一層薄暗くなった。
『やはり、火を使っているのに暗いのは危ないな。電気はつけるか』
 アルメイヤは、部屋の電気をつけようとする。
 だが、スイッチを押しても電機はつかない。
『これは、どうなっているんだ?』

●とある大学生の会話
「そういえばさ。あのマンションの部屋の後片付けってどうしたんだよ? ほら、無人なのに何故か鍵がかかってなかった部屋」
「荷物もほとんどなかったもんなー、あの部屋。あれ、片付けっておまえじゃなかったっけ?」
「いや……おまえだろ」
「ちょっとまて、じゃあこの間のまんまなんじゃないのか? 肝試しの仕掛け」

解説

マンション(夜)
ごく普通のファミリー型のマンションだが、大学生に無断で肝試しに使われており、その仕掛けがまだ生きている。百物語はリビングで行われており、台所やトイレ、ふろ場と言った場所からは離れている。

・停電――特定の回数電気をつけたり消したりすると電気がつかなくなる仕掛け。十二時間たてば復旧する。なお、すべての仕掛けは停電中のみ発動する。
・トイレ――上からコンニャクが降ってくる。
・風呂場――脱衣所にある鏡を覗き込むと、髪の長い女性が見える仕掛け。
・廊下――歩いていると、他人の足音が聞こえてくる。小さな音のために、大人数で歩いている時には気づかない。
・冷蔵庫――気味の悪い人形が入っている。その人形を手に取ると、自動的に台所エアコンがONになり、寒気を感じる。

アルメイヤ……あまり怖がったりしない合理主義者。お泊り会と聞いたので、お酒とポテチを持って参加している。

エステル……妙に肝が据わっているせいで、ドッキリ系ではあまり驚かない。お泊り会と聞いたので紅茶とクッキーを持参している。

リプレイ

 夏の夜に、雨が降る。
 曇り空では、ごろごろという音が響き雷が落ちる気配を醸し出していた。
 ここはとある地方都市のマンションの一室。
 ――このマンションには、幽霊がでるらしい。
「嫌な天気です……」
 エステルは、ぼそりと呟いた。


「暑いねー。停電でエアコンも止まっちゃったし、窓を開けるよ」
 餅 望月(aa0843)は、リビングの窓を開けるために立ち上がる。
 マンションに集まった面々は、明かりのつかなくなった部屋でも特に慌てることはなかった。携帯や蝋燭といった光源はあったし、愚神や従魔の類であろうとも排除できるという自信があったせいである。
「エステルちゃんとアルメイヤちゃんは暑さには強そうだよね」
「日本の熱さは……ちょっと苦手です。湿気が多くて」
 エステルは、申し訳なさそうに呟く。
 望月は、うんうんと頷いた。
「湿気があるときついっていうもんねー」
『ワタシは暑いのはダメー』
「え、それはそれで意外」
 強そうなイメージだったのに、と望月は目を丸くする。
『それより、開けっ放しは不用心じゃない?』
 百薬(aa0843hero001)は少しばかり心配そうであった。全員がリンカーと英雄とはいえ、女子も多いからなのだろう。
「雨降ってるから大丈夫でしょ。蒸さなきゃいいんだけど。それに、悪いやつが出てきたら誰かが共鳴してぶっ飛ばせば何とかなるよ」
 余裕だよ、と望月は笑う。
『あと、蝋燭にも気をつけないとですね』
 躓いて火事など起こさないように、と構築の魔女(aa0281hero001)は注意を促す。今回はマンションには怪奇現象は怒らないと証明するための仕事であり――単なる息抜きのお泊り会でもあるのだ。安全に楽しく過ごしたいものである。
『本当に幽霊がいるのなら研究とかしてみたいものですが。……まぁ、私達のような存在自体がある意味幽霊のようなものな気もしますが』
「……□□」
 構築の魔女の言葉に、同意するかのように辺是 落児(aa0281)は頷く。
「暗くなったせいで、せっかくのサンドイッチに手がのばしづらいね」
『暗いのは怖くないけど、見えないのは不便ね』
 アリス(aa1651)とAlice(aa1651hero001)は、せっかく優雅なお茶会をしようと思ったのにと頬を膨らませている。もっとも、その紅茶を用意したのは構築の魔女であった。
「暗いなかで飲む酒も乙なもんだぞ。気温もいい感じに上がってるし、冷えたビールにはもってこいだ」
 ぷしゅ、とガラナ=スネイク(aa3292)はビールのプルタブを空ける。ごくごく、と流し込む冷えた炭酸が今は心地よい。
『ただのお泊り会なんだし、気楽な依頼よね! うん、幽霊何ているわけないし! いるわけないし!!』
 そんなガラナの隣で、拳を握りながらリヴァイアサン(aa3292hero001)は呟いた。残念ながら彼女の震える体を見て、平気そうだと判断する人間はいなかったが。
「怖いなら素直にそう言えよ」
『別にそういう訳じゃないわよ!? あー! 楽しみねホント! うん!』
「……分かり易過ぎだっつーの」
 しかたなねーな、とガラナは缶に残ったビールを一気飲みした。
 ふぅ、と一息ついてから次のビールへと手を伸ばす。
「残念ながら、わたしたちは怖い話を持参してこなかったんだよね。だから、大人しくさせてもらうよ」
『わたしも残念ながら怖い話は知らないのよね』
 アリスとAliceは「さぁ、お先にどうぞ」と言わんばかりに、他者に怖い話を進めた。
「じゃあ、俺から話させてもらうか」
 ガラナは、火のついている蝋燭を一つ持ち上げる。
「知り合いの学生の話だが――そいつは美術室の掃除当番でとっとと終わらせようとしてた。そん時に絵が一つ大事そうに飾られてたんだとよ。そいつは、女の肖像画だったが不気味な大きな瞳で「こっちをみている気がする」とか言ってたな」
 望月は話を聞きながら、音楽室に飾ってあるベートベンの絵を思い出していた。なんとなくだが、学校に飾ってある絵はそれぐらいしか想像できない。
「知り合いはビビってすぐ掃除を終わらせ帰ったんらしいが……次の日学校は例の美術室の絵がねぇって騒いでやがった。最後に絵を見たのはそいつだったらしく、疑われたって訳でもねぇが教師に最後の絵の様子を話しを事になったんだと」
 警察は呼ばれなかったのね、とアリスは尋ねた。
 ガラナは頷く。
「まぁ、絵は高いもんじゃねぇらしいが、先公の知人の画家が寝てる自分の娘を描いたもんらしい。画家も娘も死んだっつー話だが、絵は結局見つからなかったし、泥棒入った形跡もねぇんだとよ。ちなみに、絵はまだ見つかってない」
 ふぅ、とガラナは蝋燭を吹き消した。
『……? それただの不思議な話じゃない?』
 絵がいつの間にか紛失した、いわばそれだけの話である。怖い話を想像していただけにリヴァイアサンは拍子抜けしたとばかりにため息をついた。
「……寝顔描いたんだぞ。開いた瞳が見える筈ねぇだろうが」
 なのに知り合いは、大きな瞳に見られているようで気味が悪いと言った。
 話の意味を理解したリヴァイアサンの顔が青ざめる。
「次は、私の番か……あまりそういうのは得意ではないのだが、怖くなくても許してもらいたい」
 聞き覚えのない男の声が、響く。
 全員が、その声の発信源に注目した。
 かの人は、落児。
 普段から、まったく喋らずにいるため彼の声を聞くのは初めてのことであった。
『ワタシ、声を初めて聴いたかも』
 びっくりした、と百薬は目を丸くしていた。
『皆さん、七夕に何を願いましたか?』
 いつの間にか、構築の魔女は蝋燭を手に取っていた。
『私の世界でも、たぶんあったと思うのですよね。星に……手の届かないものに思いをこめるのは誰もがやることなのでしょうね。ロマンがあって、すてきなお祭りですよね。近くの神社でも短冊を書いて竹につるそうっていうイベントがありまして、そこに私も参加しました』
 小さな神社でイベントといっても私と数人ぐらいしか集まりませんでした。しかも、参加者は全員女性ばかり。けれども、そこで願ったら何でも叶うような気がして――私は落児の言葉を願いました。
『後から知ったのですが、そこの神社には伝説があったんです。足の不自由な恋人の治癒を願った女の伝説が。恋人の足は治癒しましたが、女は――亡くなったそうです。ただの伝説と言えばそうなのですが、私の身にこれから何が起こるのか少し楽しみでもあります』
 ふぅ、と構築の魔女は蝋燭を吹き消す。
 にっこりとほほ笑む構築の魔女に、落児は非難の目を向ける。
 ちなみに、彼は一言も喋っていない。先ほどの声は、知り合いに頼んで録音させてもらった音声データだ。ちなみに、近所の近くで七夕祭りに参加もしていない。
 つまり、今の話は構築の魔女の作り話なのである。
「だ……大丈夫ですか?」
 エステルが心配そうに尋ねると、構築の魔女は唇に指を当ててウィンクした。
「こわい話、んー、怖いというか上手くないんだよね」
 チョコレートをぽりぽり齧りながら、望月は悩んでしまう。
『ワタシの天使力が全ての恐怖を愛に変えるからだよ』
 えっへん、と百薬は胸をはった。
「いや、愚神に操られた人とかの方が変だし恐かったからだね」
 冷静に考えるとホラーとかサスペンス映画的なことが多いよねー、と望月はサンドイッチにも手を伸ばす。もぐもぐ、ごっくん。
『空飛ぶお肉とか食べちゃったしねー』
「うーん、コメディもけっこうやってるか。……そういわれるとお腹が空くような、とりあえず冷蔵庫が止まってぬるくなると美味しくなくなるものだけ食べちゃっおうか」
 水羊羹を冷やしていたのを忘れていたよ、と望月は立ち上がる。
『手作りですか? 私は料理をすると実験しているように見えると称されたりするのですけど』
 料理上手な方がうらやましいです、と構築の魔女は呟く。
「水羊羹なんて手間がかかりそうなもの作れないですよ。コンビニスイーツです」
『美味しいよね。コンビニスイーツ』
 百薬は、うきうきしながら望月の後ろをついて行く。
 その時――『キャァァァァ!』という悲鳴が響いた。
 ドタドタと騒がしい足音を立てながら、リヴァイアサンがリビングに駆け込んでくる。
『何かべちょって! べちょって降って来たー!? トイレに幽霊がでたー!!』
 パニックを起こすリヴァイアサンとは裏腹に、ガラナは一人静かに晩酌を続けていた。実は未成年が多いせいで一緒に飲んでくれるような人間がなく、ちょっとさびしかったりする。
「怖い訳じゃねぇとか言ってたよな? お前」
『だってぇ……幽霊って……殴っても解決しないじゃないのよぉ……!』
 涙目で訴えるリヴァイアサンだが、言っていることは全く可愛くない。
「愚神の仕業かな」
『そうかもしれないね。見に行こうよ』
 アリスとAliceは立ち上がり、幽霊が出たと言うトイレに向かる。リヴァイアサンはガラナを盾にして「わたしはむりぃ! もう、今日は一人で寝られないぃ!!」と騒いでいた。
「確実に一人になったところを狙ってくる愚神かもしれないね」
『そうなったら、ちょっと厄介ね』
 狭くて暗い場所で、確実に戦力を削ぎにくる敵。
 それを想像したアリスは、スマホを光源にしつつ恐る恐るトイレのドアを開ける。
「分かってるよね、Alice?」
『もちろんだよ、アリス。敵がいたら、すぐに共鳴ね』
 ぎぎぎっ、と音をたててドアが開かれる。
 アリスは一歩飛びのいて、スマホでトイレを照らす。
『……』
「……」
 そして、真顔になった。
 トイレの個室につりさげられているのは、コンニャクである。古典的であり、オーソドックスであり、実際にやられるとけっこう驚く――吊り下げられたコンニャクが首筋にヒヤリ現象だ。
「……ああ……」
『そういう……』
 誰かの悪戯なのが明白に分かる光景に、Aliceとアリスはため息をつく。このアパートは幽霊が出ると有名らしいが、この分では他の現象も悪戯で説明がついてしまうかもしれない。
「他の部屋も見てみようか」
『そうだね……念の為ってこともあるし』


「うわぁぁ! 急にエアコンが付いてびっくりした」
 望月の悲鳴を聞きつけて、面々は台所に集まっていた。冷蔵庫から水羊羹を出そうとしたら、突然冷気にさらされて思わず望月は大きな声をあげてしまったのである。
「□□……」
 落児は、エアコンのリモコンを手に取る。
『自動で付くように設定されているようですね。ちょっとした悪戯というところかしら?』
 構築の魔女は、ふむふむとリモコンを検分する。
 大して難しいことではないですよ、と言うので誰にでもできる悪戯なのであろう。
『えっ。でも、どうしてブレーカーが落ちてるのにエアコンの電気はつくの?』
 ガラナの腕を握りつぶさんとばかりにぎゅっと掴んでいたリヴァイアサンは、震えながら尋ねる。
「それは、あたしも可笑しいと思ったよ」
『普通なら、ブレーカーが落ちたならエアコンも止まるもの』
 望月と百薬は、互いに頷きあった。
 リヴァイアサンは「やっぱり幽霊が……」と真っ青になる。ちなみに、ガラナは手持ちのツマミに飽きてきたので台所を漁りたそうにしていた。サンドイッチもチョコレートもつまんでいたのだが、甘いのと軽食ではビールには合わない。もうちょっと、しょっぱいものが欲しい。「煎餅とかあればいいんだけどな」とつぶやき怪奇現象の解明には、付き合わない気で満々だった。
「いいえ、これは悪戯だよ」
『ええ、……この家にはブレーカーが二つあったの』
 調査を終えた、Aliceとアリスが台所に現れる。
「片方のブレーカーには何か仕掛けがしてあって戻らなくなっていたけど、もう片方のブレーカーには何もされてなかった。だから電機は消えたままなのに、エアコンはついたんだよ」
 アリスの話を聞いた構築の魔女は『なるほど……』と呟く。
『一般家庭では珍しいですね。会社などになると複数のブレーカーがあるのは、そうでもないのですが』
「――□□」
『なるほど、そこらへんの事情を含めて家賃が安上がりになりH.O.P.Eが借りるに至ったという可能性も十分にありますね』
 仕掛けが分かれば、怖いものはない。
 アリスの話では、他にも色々あったらしいが暗がりのなかでの解体は難しいためにあきらめたらしい。
「朝になったら、仕掛けを外そうか……ふわぁ」
 眠くなってきたのか、アリスは欠伸を噛み殺す。
 今日はもう、紅茶を飲んで眠りたい気分であった。
『もう、寝るのか。なら、ドアのカギは閉まらないからガムテープでもはるか』
 アルメイヤの一言に、一同は首をかしげる。
『気が付かなかったのか? あのドアは鍵がかからないんだぞ』
 その一言に、一同はぞっとする。
「……この物件不用心すぎるよ」
 望月の言葉に、全員が頷いたのであった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 紅の炎
    アリスaa1651
    人間|14才|女性|攻撃
  • 双極『黒紅』
    Aliceaa1651hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • 海上戦士
    ガラナ=スネイクaa3292
    機械|25才|男性|攻撃
  • 荒波少女
    リヴァイアサンaa3292hero001
    英雄|17才|女性|ドレ
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